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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-21
(45)【発行日】2025-03-31
(54)【発明の名称】ミセル複合体及びそれを含む薬物送達体
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/32 20060101AFI20250324BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250324BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250324BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20250324BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20250324BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20250324BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20250324BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20250324BHJP
   A61K 47/58 20170101ALI20250324BHJP
   A61K 47/59 20170101ALI20250324BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20250324BHJP
   A61K 47/61 20170101ALI20250324BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20250324BHJP
【FI】
A61K33/32
A61P35/00
A61P43/00 125
A61P1/04
A61P1/16
A61K9/10
A61K47/69
A61K47/54
A61K47/58
A61K47/59
A61K47/60
A61K47/61
A61K47/64
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2024522005
(86)(22)【出願日】2022-07-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-09
(86)【国際出願番号】 KR2022009876
(87)【国際公開番号】W WO2023287111
(87)【国際公開日】2023-01-19
【審査請求日】2023-12-19
(31)【優先権主張番号】10-2021-0091866
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】523477484
【氏名又は名称】ドクター キュア カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イン キュ パク
(72)【発明者】
【氏名】ヨン ヨン ジョン
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108578364(CN,A)
【文献】Journal of Controlled Release,2013年,Vol.167,p.210-218
【文献】Biomaterials Research,2018年,Vol.22,Article No.22
【文献】Carbon,2018年,Vol.136,p.113-124
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性部位と疎水性部位が活性酸素分解性リンカー(ROS-cleavable linker)で結合された両親媒性分子から形成されたミセル(micelle)と、
前記ミセルのコアに担持され、表面に疎水性置換基が結合して疎水性に改質された酸化マンガン粒子とを含む複合体を含み、
前記両親媒性分子の疎水性部位は、C12~C22の脂肪族炭化水素基を含み、
前記活性酸素分解性リンカーは、チオケタールリンカー(thioketal linker)である、放射線治療増進用組成物。
【請求項2】
前記脂肪族炭化水素基は、C12~C22のアルキル基またはC12~C22のアルケニル基のいずれかである、請求項1に記載の放射線治療増進用組成物。
【請求項3】
前記両親媒性分子の親水性部位は水溶性高分子を含む、請求項1に記載の放射線治療増進用組成物。
【請求項4】
前記水溶性高分子は、ポリエチレングリコール、アクリル酸系重合体、メタクリル酸系重合体、ポリアミドアミン、ポリ(2-ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)系重合体、水溶性ポリペプチド、水溶性多糖体またはポリグリセロールである、請求項3に記載の放射線治療増進用組成物。
【請求項5】
前記疎水性置換基は、置換または非置換のC1~C30のアルキル基、置換または非置換のC3~C30のシクロアルキル基、置換または非置換のC6~C30のアリール基、置換または非置換のC2~C30のヘテロアリール基、ハロゲン基、C1~C30のエステル基またはハロゲン含有基である、請求項1に記載の放射線治療増進用組成物。
【請求項6】
前記疎水性置換基は、置換または非置換のC1~C30のアルキル基である、請求項1に記載の放射線治療増進用組成物。
【請求項7】
前記酸化マンガンは、MnO、Mn、MnO、MnおよびMnのいずれかである、請求項1に記載の放射線治療増進用組成物。
【請求項8】
前記酸化マンガン粒子の粒径は10nm~30nmである、請求項1に記載の放射線治療増進用組成物。
【請求項9】
前記ミセルに担持された薬物をさらに含む、請求項1~8のいずれかに記載の放射線治療増進用組成物。
【請求項10】
親水性部位と疎水性部位が活性酸素分解性リンカー(ROS-cleavable linker)で結合された両親媒性分子から形成されたミセル(micelle)と、
前記ミセルのコアに担持され、表面に疎水性置換基が結合して疎水性に改質された酸化マンガン粒子とを含む複合体を含み、
前記両親媒性分子の疎水性部位は、C12~C22の脂肪族炭化水素基を含み、
前記活性酸素分解性リンカーは、チオケタールリンカー(thioketal linker)である、光力学治療増進用組成物。
【請求項11】
前記脂肪族炭化水素基は、C12~C22のアルキル基またはC12~C22のアルケニル基のいずれかである、請求項10に記載の光力学治療増進用組成物。
【請求項12】
前記両親媒性分子の親水性部位は水溶性高分子を含む、請求項10に記載の光力学治療増進用組成物。
【請求項13】
前記水溶性高分子は、ポリエチレングリコール、アクリル酸系重合体、メタクリル酸系重合体、ポリアミドアミン、ポリ(2-ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)系重合体、水溶性ポリペプチド、水溶性多糖体またはポリグリセロールである、請求項12に記載の 光力学治療増進用組成物。
【請求項14】
前記疎水性置換基は、置換または非置換のC1~C30のアルキル基、置換または非置換のC3~C30のシクロアルキル基、置換または非置換のC6~C30のアリール基、置換または非置換のC2~C30のヘテロアリール基、ハロゲン基、C1~C30のエステル基またはハロゲン含有基である、請求項10に記載の光力学治療増進用組成物。
【請求項15】
前記疎水性置換基は、置換または非置換のC1~C30のアルキル基である、請求項10に記載の光力学治療増進用組成物。
【請求項16】
前記酸化マンガンは、MnO、Mn、MnO、MnおよびMnのいずれかである、請求項10に記載の光力学治療増進用組成物。
【請求項17】
前記酸化マンガン粒子の粒径は10nm~30nmである、請求項10に記載の光力学治療増進用組成物。
【請求項18】
前記ミセルに担持された薬物をさらに含む、請求項10~17のいずれかに記載の光力学治療増進用組成物。
【請求項19】
親水性部位と疎水性部位が活性酸素分解性リンカー(ROS-cleavable linker)で結合された両親媒性分子から形成されたミセル(micelle)と、
前記ミセルのコアに担持され、表面に疎水性置換基が結合して疎水性に改質された酸化マンガン粒子とを含む複合体を含み、
前記両親媒性分子の疎水性部位は、C12~C22の脂肪族炭化水素基を含み、
前記活性酸素分解性リンカーは、チオケタールリンカー(thioketal linker)である、超音波力学治療増進用組成物。
【請求項20】
前記脂肪族炭化水素基は、C12~C22のアルキル基またはC12~C22のアルケニル基のいずれかである、請求項19に記載の超音波力学治療増進用組成物。
【請求項21】
前記両親媒性分子の親水性部位は水溶性高分子を含む、請求項19に記載の超音波力学治療増進用組成物。
【請求項22】
前記水溶性高分子は、ポリエチレングリコール、アクリル酸系重合体、メタクリル酸系重合体、ポリアミドアミン、ポリ(2-ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)系重合体、水溶性ポリペプチド、水溶性多糖体またはポリグリセロールである、請求項21に記載の超音波力学治療増進用組成物。
【請求項23】
前記疎水性置換基は、置換または非置換のC1~C30のアルキル基、置換または非置換のC3~C30のシクロアルキル基、置換または非置換のC6~C30のアリール基、置換または非置換のC2~C30のヘテロアリール基、ハロゲン基、C1~C30のエステル基またはハロゲン含有基である、請求項19に記載の超音波力学治療増進用組成物。
【請求項24】
前記疎水性置換基は、置換または非置換のC1~C30のアルキル基である、請求項19に記載の超音波力学治療増進用組成物。
【請求項25】
前記酸化マンガンは、MnO、Mn、MnO、MnおよびMnのいずれかである、請求項19に記載の超音波力学治療増進用組成物。
【請求項26】
前記酸化マンガン粒子の粒径は10nm~30nmである、請求項19に記載の超音波力学治療増進用組成物。
【請求項27】
前記ミセルに担持された薬物をさらに含む、請求項19~26のいずれかに記載の超音波力学治療増進用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体および薬物送達体に関する。
【0002】
本発明は、放射線治療増進用組成物に関する。
【0003】
本発明は、光力学治療増進用組成物に関する。
【0004】
本発明は、超音波力学治療増進用組成物に関する。
【背景技術】
【0005】
薬物送達システムとは、医薬品の副作用を最小限に抑え、効能及び効果を極大化し、必要な量の薬物、例えば、タンパク質、核酸又はその他の低分子などを効率よく送達する医薬技術を意味する。新薬開発に必要なコストと時間を低減する効果を有する前記技術は、最近になってナノテクノロジーと結合し、医薬系において新たな付加価値を創出する先端技術の一分野として位置づけている。米国と日本などの技術先進国では、去る80年代後半から、製薬会社などの企業を中心に新薬開発とともに薬物送達システムの開発に全力を注いでいる。
【0006】
腫瘍低酸素症(Tumor hypoxia)は、過剰増殖した癌細胞を取り囲む腫瘍血管構造の歪みに起因する、ほとんどの固形腫瘍周囲の生体外酸素ストレスである。研究によると、低酸素(hypoxia)環境は、無血性低酸素固形腫瘍における化学療法薬物の浸透性の低下により、癌細胞に化学療法に対する多剤耐性を付与するだけでなく、癌細胞における多剤耐性P-GP1(permeability glycoproteins)輸送タンパク質の分泌を促進してしまう。さらに、低酸素癌細胞によって枯渇した酸素レベルは、放射線感受性および放射線に基づく治療方法の効果を最大3倍減少させることが判明した。
【0007】
そこで、低酸素部位に効率的に送達され、低酸素環境を効果的に抑制して標的組織の微小環境を変化させて薬物の効果を最大化できる製剤に関する研究が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、表面が疎水性置換基で改質された酸化マンガン粒子がミセルに担持され、生体内で安定性を維持して循環できる複合体を提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、疎水性酸化マンガン粒子が腫瘍部位で活性酸素と反応して酸素発生を誘導し、標的組織の微小環境を変化させ、ミセルに担持された薬物の効果を向上させる薬物送達体を提供することを目的とする。
【0010】
本発明は、放射線治療増進用組成物を提供することを目的とする。
【0011】
本発明は、光力学治療増進用組成物を提供することを目的とする。
【0012】
本発明は、超音波力学治療増進用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
1.表面に疎水性置換基を有する酸化マンガン粒子及びそれを担持したミセル(micelle)を含み、前記ミセルは、親水性部位と疎水性部位が活性酸素分解性リンカー(ROS-cleavable linker)で結合されている、複合体。
【0014】
2.前記項目1において、前記疎水性置換基は、置換または非置換のC1~C30のアルキル基、置換または非置換のC3~C30のシクロアルキル基、置換または非置換のC6~C30のアリール基、置換または非置換のC2~C30のヘテロアリール基、ハロゲン基、C1~C30のエステル基またはハロゲン含有基である、複合体。
【0015】
3.前記項目1において、前記酸化マンガンは、MnO、Mn、MnO、Mn、およびMnのいずれかである、複合体。
【0016】
4.前記項目1において、前記酸化マンガン粒子は、粒径が10~30nmである、複合体。
【0017】
5.前記項目1において、前記リンカーは、チオケタールリンカー(thioketal)、TSPBAリンカー(N1-(4-boronobenzyl)-N3-(4-boronophenyl)-N1,N1,N3,N3-tetramethylpropane-1,3-diaminium)またはAAリンカー(aminoacrylate)である、複合体
6.前記項目1において、前記ミセルの親水性部位は水溶性高分子を含み、疎水性部位は疎水性炭化水素化合物を含み、前記水溶性高分子および疎水性炭化水素化合物はチオケタールリンカーで結合されている、複合体。
【0018】
7.前記項目6において、前記水溶性高分子は、ポリエチレングリコール、アクリル酸系重合体、メタクリル酸系重合体、ポリアミドアミン、ポリ(2-ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)系重合体、水溶性ポリペプチド、水溶性多糖体またはポリグリセロールである、複合体。
【0019】
8.前記項目6において、前記疎水性炭化水素化合物は、ヘキサデシルアミン(hexadecylamine)、ヘプタデシルアミン(heptadecylamine)、ステアラミン(stearamine)、ノナデシルアミン(nonadecylamine)、ドデシルアミン(dodecylamine)、ビス(2-ヒドロキシエチル)ラウリルアミン(N,Nbis(2-hydroxyethyl)laurylamine)、リノール酸(linoleic acid)、リノレン酸(linolenic acid)、パルミチン酸(palmitic acid)、オレイルアミン(oleylamine)、ヘキサデカン酸(hexadecanoic acid)、ステアリン酸(stearic acid)、オレイン酸(oleic acid)、エイコセン酸(eicosencic acid)またはエルカ酸(erucic acid)である、複合体。
【0020】
9.前記項目1において、前記複合体は、前記ミセル100重量部に対して前記酸化マンガン粒子を5~10重量部含む、複合体。
【0021】
10.前記項目1において、前記ミセルは、粒径が150~250nmである、複合体。
【0022】
11.表面に疎水性置換基を有する酸化マンガン粒子および薬物が担持されたミセルを含み、前記ミセルは、親水性部位と疎水性部位が活性酸素分解性リンカー(ROS-cleavable linker)で結合されている、薬物送達体。
【0023】
12.前記項目1~10のいずれかの複合体または前記項目11の薬物送達体を含む、放射線治療増進用組成物。
【0024】
13.前記項目1~10のいずれかの複合体または前記項目11の薬物送達体を含む、光力学治療増進用組成物。
【0025】
14.前記項目1~10のいずれかの複合体または前記項目11の薬物送達体を含む、超音波力学治療増進用組成物。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、疎水性に表面改質された酸化マンガン粒子がミセルに担持された複合体に関するものである。疎水性酸化マンガンをミセルに担持することにより、生体内で安定的に保護され、標的部位への送達が容易である。
【0027】
また、ミセルの親水性部位と疎水性部位が活性酸素分解性リンカー(ROS-cleavable linker)で結合されて腫瘍部位の活性酸素に反応して分解されることにより、効率的に疎水性酸化マンガン粒子を放出することができ、放出された疎水性酸化マンガンが酸素を発生させて標的部位の微小環境を変化させ、ミセルに担持されている薬物の効果を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】疎水性酸化マンガンナノ粒子の製造過程を示す。
図2】製造例2のPTSを製造する反応式を示す。
図3】製造例1のC12アルキル基を有する疎水性酸化マンガンのXPSスペクトル分析結果を示す。
図4】製造例1のC12アルキル基を有する疎水性酸化マンガンのEDS元素分析結果を示す。
図5】製造例1のC12アルキル基を有する疎水性酸化マンガンのTEM分析結果を示す。
図6】実験例2-1で使用する癌細胞の明視野像であり、実験で用いる全ての癌細胞は安定で健康な状態であることを示す。
図7】実験例2-1の疎水性酸化マンガン-ミセル複合体の酸素発生効果をGFP(Green fluorescent protein)画像で確認したものである。
図8】実験例2-2の疎水性酸化マンガン-ミセル複合体の酸素発生効果をFACS(Fluorescence-activated cell sorting)及び蛍光顕微鏡で確認したものである。
図9】実験例3の実験模式図を示す。
図10】実験例3における疎水性酸化マンガン-ミセル複合体の腫瘍体積減少効果および体重変化を示す。
図11】実験例3における疎水性酸化マンガン-ミセル複合体の腫瘍体積減少効果を目視で確認したものである。
図12】実験例3における疎水性酸化マンガン-ミセル複合体の肝細胞癌マウスモデルに対する生存率増加効果を確認したものである。
図13】実験例3における疎水性酸化マンガン-ミセル複合体の肝細胞癌細胞に対する腫瘍壊死効果を確認したものである。
図14】実験例3における疎水性酸化マンガン-ミセル複合体の肝細胞癌細胞に対する細胞死滅効果を確認したものである。
図15】製造例1におけるアルキル基の長さによる疎水性酸化マンガンの製造過程を示す。
図16】製造例1における疎水性酸化マンガンのTEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、表面に疎水性置換基を有する酸化マンガン粒子及びそれを担持したミセル(micelle)を含み、前記ミセルは、親水性部位と疎水性部位が活性酸素分解性リンカー(ROS-cleavable linker)で結合されている複合体を提供する。
【0030】
前記複合体は、親水性部位と疎水性部位が活性酸素分解性リンカー(ROS-cleavable linker)で結合された両親媒性分子から形成されたミセル(micelle)と、前記ミセルのコアに担持され、表面に疎水性置換基が結合されて疎水性で改質された酸化マンガン粒子とを含むことができる。
【0031】
本発明は、表面に疎水性置換基を有する酸化マンガン粒子(以下、「疎水性酸化マンガン」という。)を含む。
【0032】
疎水性酸化マンガン粒子は、酸化マンガンをミセルの疎水性部位に安定して担持するために、酸化マンガンの表面に疎水性置換基が存在するように処理されて疎水性に改質されたものである。
【0033】
前記疎水性置換基は、例えば、置換または非置換のC1~C30のアルキル基、置換または非置換のC3~C30のシクロアルキル基、置換または非置換のC6~C30のアリール基、置換または非置換のC2~C30のヘテロアリール基、ハロゲン基、C1~C30のエステル基またはハロゲン含有基などであってもよく、具体的には、置換または非置換のC1~C30のアルキル基であってもよい。
【0034】
本発明の一実施形態では、酸化マンガンは、例えば、1-ドデカンチオール(1-Dodecanethiol)、1-オクタデカンチオール(1-Octadecanethiol)または1-ヘキサンジオール(1-hexanediol)を処理して表面に疎水性置換基を有するものであってもよい。
【0035】
酸化マンガンは、これらに限定されるものではないが、MnO、Mn、MnO、MnおよびMnのいずれかであってもよく、好ましくはMnであってもよい。
【0036】
本発明の一実施形態では、酸化マンガンは、塩化マンガンをアルカリ性溶液(例えば、NaOH)で還元してMn(OH)を生成し、MnOに分解した後、大気中の酸素によって酸化されて合成されたMnであってもよい。
【0037】
酸化マンガン粒子は、前記のように疎水性置換基で表面改質され、ミセルのコア部に安定して担持することができる。
【0038】
疎水性酸化マンガン粒子は、粒径が10~30nmであってもよい。疎水性酸化マンガン粒子の粒径が前記範囲であると、ミセルの疎水性コアに均一に分布し、安定的に担持され、標的部位における活性酸素との反応性が高くなり、酸素発生を増加させることができる。
【0039】
ミセルは、親水性部位と疎水性部位からなる両親媒性分子から形成される。親水性部位と疎水性部位は、活性酸素分解性リンカー(ROS-cleavable linker)で結合されている。前記リンカーは、親水性部位と疎水性部位を繋ぐ連結基であり、活性酸素に対する感受性が高く、活性酸素と反応してその結合を切断する。
【0040】
リンカーは、例えば、チオケタールリンカー(thioketal)、TSPBAリンカー(N1-(4-boronobenzyl)-N3-(4-boronophenyl)-N1,N1,N3,N3-tetramethylpropane-1,3-diaminium)またはAAリンカー(aminoacrylate)などであってもよいが、これらに限定されない。
【0041】
両親媒性分子の親水性部位は、水溶性高分子を含むことができる。水溶性高分子は、重量平均分子量の範囲が500~10,000g/molであってもよく、好ましくは800~5,000g/molであってもよく、より好ましくは1,000~3,000g/molであってもよい。前記水溶性高分子は、限定されるものではないが、ポリエチレングリコール、アクリル酸系重合体、メタクリル酸系重合体、ポリアミドアミン、ポリ(2-ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)系重合体、水溶性ポリペプチド、水溶性多糖体またはポリグリセロール又はこれらの誘導体などであってもよい。
【0042】
水溶性ポリペプチドは、具体的には、ポリグルタミン酸(polyglutamic acid)、ポリアスパラギン酸(polyaspartic acid)、ポリアスパルトアミド(polyaspartamide)、及びこれらの共重合体から選択できるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
水溶性多糖体は、具体的には、ヒアルロン酸、アルギン酸、デキストラン、ペクチン、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート及びこれらの誘導体から選択できるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
両親媒性分子の疎水性部位は、C12~C22の脂肪族炭化水素基を含むことができる。前記脂肪族炭化水素基は、C12~C22のアルキル基またはC12~C22のアルケニル基であってもよく、具体的にはC12~C22のアルキル基であってもよい。
【0045】
一実施形態では、前記C12~C22のアルキル基はオクタデシル基であってもよい。
【0046】
ミセルは、親水性部位が水溶性高分子からなり、疎水性部位が疎水性炭化水素化合物からなっていてもよい。
【0047】
ミセルは、水溶性高分子および疎水性炭化水素化合物が活性酸素分解性リンカー(ROS-cleavable linker)で結合された両親媒性分子から形成され得る。ミセルは、水溶性高分子および疎水性炭化水素化合物がそれぞれチオケタールリンカー(thioketal linker、TL)と共有結合した両親媒性高分子化合物から製造され得る。具体的には、前記水溶性高分子の一末端および疎水性炭化水素化合物の一末端が、それぞれアミド基でチオケタールリンカーと共有結合して水相で自己集合(Self-assembly)して製造され得る。
【0048】
チオケタールリンカーは、水溶性高分子と疎水性炭化水素化合物を繋ぐ連結基であり、活性酸素に対する感受性が非常に高く、正常な生理的条件下での結合安定性に優れ、ミセルが血液で循環中に疎水性酸化マンガン粒子を早期に放出することを防ぐことができる。
【0049】
疎水性炭化水素化合物は、疎水性の特性を有する炭化水素基を含む化合物である。前記炭化水素基は、炭素数12~22の脂肪族炭化水素基を有してもよく、前記炭化水素基は、脂肪族炭化水素基を有してもよく、具体的には、直鎖型の脂肪族炭化水素基を有してもよい。
【0050】
疎水性炭化水素化合物は、これらに限定されるものではないが、ヘキサデシルアミン(hexadecylamine)、ヘプタデシルアミン(heptadecylamine)、ステアラミン(stearamine)、ノナデシルアミン(nonadecylamine)、ドデシルアミン(dodecylamine)、ビス(2-ヒドロキシエチル)ラウリルアミン(N,Nbis(2-hydroxyethyl)laurylamine)、リノール酸(linoleic acid)、リノレン酸(linolenic acid)、パルミチン酸(palmitic acid)、オレイルアミン(oleylamine)、ヘキサデカン酸(hexadecanoic acid)、ステアリン酸(stearic acid)、オレイン酸(oleic acid)、エイコセン酸(eicosencic acid)またはエルカ酸(erucic acid)などであってもよい。
【0051】
疎水性炭化水素化合物は、重量平均分子量の範囲が100~500g/molであってもよく、好ましくは150~350g/molであってもよく、より好ましくは180~300g/molであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0052】
両親媒性分子の疎水性部位が疎水性炭化水素化合物(例えば、C12~C22の脂肪族炭化水素基)を含む場合、疎水性炭化水素化合物が疎水性コアを形成することにより、ミセルの疎水性コア部がある程度の流動性(fluidity)を有することができる。この流動性は、特に活性酸素に反応して疎水性コアに位置する疎水性酸化マンガンを急速に放出できる点から、疎水性高分子が形成する流動性の低い疎水性コア部に比べて有利な利点を有する。長鎖の脂肪族炭化水素基が疎水性コアを形成することにより、疎水性コアに十分な疎水性を提供し、疎水性酸化マンガンを安定的に担持しながらも、ある程度の流動性を提供することにより、活性酸素に分解性(ROS-labile)を有するチオケタールリンカーが標的組織の周辺の活性酸素に敏感に反応して容易に分解され得る。
【0053】
また、大きな疎水性高分子を用いた場合と比較して、水相で自己集合して形成されたミセルの大きさが相対的に小さくても、脂肪族炭化水素基のある程度の流動性により、疎水性コアに十分な量の疎水性酸化マンガンを安定的に捕集することができる。
【0054】
水溶性高分子と疎水性炭化水素化合物との重量平均分子量の比は、下記式1を満たすことができる。
【0055】
[式1]
0.01<HC/WSP<0.3
(前記式1中、WSPは水溶性高分子の重量平均分子量を意味し、HCは疎水性炭化水素化合物の分子量を意味する。)
前記式1において、HC/WSPの値は0.01~0.3、具体的には0.04~0.25、より具体的には0.08~0.2であってもよい。前記式1を満たす水溶性高分子と疎水性炭化水素化合物から形成されたミセルは、従来のミセルとは異なり、疎水性炭化水素基の分子量が小さく、疎水性物質を含む水相での自己集合性に優れ、速度論的に制御(kinetically controlled)されるよりは熱力学的に制御(thermodynamically controlled)されることにより、再現性に優れているという利点を有する。さらに、生成されるミセルの疎水性領域の分子量が小さく、二次粒子に凝集せず、分散性および安定性にさらに優れており、粒子サイズが小さく、顕著に向上したコロイド安定性を有するため好ましい。
【0056】
本発明の複合体は、前記ミセル100重量部に対して酸化マンガン粒子を5~10重量部含むことができる。疎水性酸化マンガンがミセルに前記範囲内に含まれると、ミセルは疎水性酸化マンガンを安定的に捕集することができ、腫瘍部位で疎水性酸化マンガンを効果的に放出することができる。また、疎水性酸化マンガンが適切な含有量で含まれ、標的部位で放出された疎水性酸化マンガンによる酸素発生量を増加させ、標的部位の微小環境を変化させて薬物の治療効果を向上させることができる。
【0057】
本発明の複合体は、ミセルが150~250nmの直径を有するものであってもよい。ミセルが前記範囲の直径を有することにより、生体内循環が容易であり、活性酸素によるチオケタールリンカーの分解および疎水性酸化マンガンの放出を良好に行うことができる。
【0058】
本発明は、表面に疎水性置換基を有する酸化マンガン粒子および薬物が担持されたミセルを含み、前記ミセルは、親水性部位と疎水性部位が活性酸素分解性リンカー(ROS-cleavable linker)で結合されている薬物送達体を提供する。
【0059】
前記薬物送達体は、親水性部位と疎水性部位が活性酸素分解性リンカー(ROS-cleavable linker)で結合された両親媒性分子から形成されたミセル(micelle)と、前記ミセルのコアに担持され、表面に疎水性置換基が結合して疎水性で改質された酸化マンガン粒子と、前記ミセルに担持された薬物とを含むことができる。
【0060】
親水性部位、疎水性部位、活性酸素分解性リンカー、両親媒性分子、疎水性置換基、疎水性酸化マンガンおよびミセルは前述の通りである。
【0061】
本発明の薬物送達体は、ミセル内に様々な薬物が担持されたものであってもよい。薬物送達体に担持された薬物は、標的部位の低酸素部位で疎水性酸化マンガンと共に放出され、疎水性酸化マンガンによって誘導された酸素発生で変化した組織微小環境により、さらに高い薬効を示すことができる。
【0062】
前記薬物は光増感剤であってもよい。光増感剤として通常使用される物質であれば限定されないが、例えば、ポルフィリン系化合物、クロリン系化合物、バクテリオクロリン系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、および5-アミノレブリンエステル系化合物等からなる群より選択されるいずれか1つまたは2つ以上を含むものであってもよい。
【0063】
また、前記薬物は、例えば、一般的な医薬、薬物、プロドラッグまたはターゲット基、またはターゲット基を含む薬物またはプロドラッグであってもよい。例えば、心血管治療薬、特に降圧剤(例えば、カルシウムチャネル遮断薬またはカルシウム拮抗薬)および抗不整脈剤;うっ血性心不全の医薬;強心剤;血管拡張薬;ACE阻害剤;利尿薬;炭酸脱水酵素阻害剤;強心配糖体;ホスホジエステラーゼ阻害剤;遮断薬;β-遮断薬;ナトリウムチャネル遮断薬;カリウムチャネル遮断薬;β-アドレナリン作動薬;血小板阻害剤;アンギオテンシンII拮抗薬;抗凝固薬;血栓溶解剤;出血の処置薬;貧血の処置薬;トロンビン阻害剤;駆虫剤;抗菌剤;抗炎症剤、特に非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)、より具体的にはCOX-2阻害剤;ステロイド系抗炎症剤;予防的抗炎症剤;抗緑内障剤;マスト細胞安定剤;散瞳薬;呼吸器系に影響を及ぼす薬剤;アレルギー性鼻炎の医薬;αアドレナリン拮抗薬;コルチコステロイド;慢性閉塞性肺疾患の医薬;キサンチン-オキシダーゼ阻害剤;抗関節炎薬剤;痛風の処置薬;オータコイドおよびオータコイド拮抗薬;抗マイコバクテリア剤;抗真菌剤;抗原虫薬;駆虫剤;抗ウイルス剤、特に呼吸器抗ウイルス剤、ヘルペス、サイトメガロウイルス、ヒト免疫不全ウイルスおよび肝炎感染のための抗ウイルス剤;白血病およびカポジ肉腫のための処置薬;疼痛管理剤、特に麻酔薬および鎮痛剤、オピオイド受容体作動薬、オピオイド受容体部分作動薬、オピオイド拮抗薬、オピオイド受容体混合作動薬-拮抗薬を含めたオピオイド類;神経遮断薬;交感神経刺激性の医薬;アドレナリン拮抗薬;神経伝達物質の取込みまたは放出に影響を及ぼす薬物;抗コリン作用医薬;抗痔核の処置薬;放射線または化学療法の作用を防止または処置するための薬剤;脂肪生成薬物;脂肪を低減する処置薬;リパーゼ阻害剤のような抗肥満剤;交感神経刺激剤;プロトンポンプ阻害剤のような胃潰瘍および炎症のための処置薬;プロスタグランジン;VEGF阻害剤;抗脂質異常症剤、特にスタチン;中枢神経系(CNS)に影響を及ぼす薬物、例えば抗精神病薬、抗てんかん薬および抗発作薬(抗けいれん薬)、向精神薬物、刺激薬、抗不安薬および睡眠薬物、抗うつ薬物;抗パーキンソンの医薬;性ホルモンのようなホルモンおよびその断片;成長ホルモン拮抗薬;ゴナドトロピン放出ホルモンおよびその類似体;ステロイドホルモンおよびそれらの拮抗薬;選択的エストロゲンモジュレーター;成長因子;インスリン、インスリンフラグメント、インスリン類似体、グルカゴン様ペプチドおよび低血糖剤のような抗糖尿病の医薬;H1、H2、H3およびH4抗ヒスタミン薬;ペプチド、タンパク質、ポリペプチド、核酸およびオリゴヌクレオチド医薬;天然タンパク質、ポリペプチド、オリゴヌクレオチドおよび核酸などの類似体、フラグメントおよび変異体;片頭痛を処置するために使用される薬剤;喘息の医薬;コリン性拮抗薬;グルココルチコイド;アンドロゲン;抗アンドロゲン;アドレノコルチコイド生合成の阻害剤;ビスホスホネートのような骨粗鬆症の処置薬;抗甲状腺の医薬;サイトカイン拮抗薬;抗がん薬物;抗アルツハイマー薬物;HMGCoAレダクターゼ阻害剤;フィブレート系薬剤;コレステロール吸収阻害剤;HDLコレステロール上昇剤;トリグリセリド低減剤;老化防止または皺取り剤;ホルモン産生のための前駆体分子;コラーゲンおよびエラスチンのようなタンパク質;抗菌剤;抗座瘡剤;抗酸化剤;ヘアトリートメントおよび美白剤;日焼け止め、日焼け防止薬およびフィルター;ヒトアポリポタンパク質の変異体;ホルモン産生のための前駆体分子;タンパク質およびそのペプチド;アミノ酸;ブドウ種子エキスのような植物エキス;DHEA;イソフラボン;ビタミン、フィトステロールおよびイリドイドグリコシドを含めた栄養剤、セスキテルペンラクトン、テルペン、フェノール性グリコシド、トリテルペン、ヒドロキノン誘導体、フェニルアルカノン;レチノール、ならびにレチノイン酸および補酵素Q10を含むレチノイドのような抗酸化剤;オメガ-3-脂肪酸;グルコサミン;核酸、オリゴヌクレオチド、アンチセンス医薬;酵素;補酵素;サイトカイン類似体;サイトカイン作動薬;サイトカイン拮抗薬;免疫グロブリン;抗体;抗体医薬;遺伝子治療薬;リポタンパク質;エリスロポエチン;ワクチン;アレルギー/喘息、関節炎、がん、糖尿病、成長機能障害、心血管疾患、炎症、免疫学的障害、脱毛症、疼痛、眼疾患、てんかん、婦人科障害、CNS疾患、ウイルス感染、細菌感染、寄生虫感染、GI疾患、肥満、および血液疾患のようなヒトおよび動物の疾患の治療または予防のための小分子治療剤などがあるが、これらに限定されない。
【0064】
また、本発明は、前述の複合体または前述の薬物送達体を含む放射線治療増進用組成物を提供する。
【0065】
放射線治療の対象となる疾患は、放射線照射によって治療効果が示されるものであれば制限されないが、例えば癌であってもよい。
【0066】
前記癌は、肝細胞癌、肝転移癌、大腸癌、肺癌、乳癌、胆道癌、胆嚢癌、膵臓癌、子宮頸部癌、食道癌、脳癌、直腸癌、前立腺癌および頭頸部癌からなる群より選択されるいずれかであってもよい。
【0067】
前記組成物は、放射線照射前、放射線照射後、または放射線照射と同時に投与されるものであってもよい。具体的には、前記組成物は放射線照射前に投与されるものであってもよい。
【0068】
本発明の組成物の投与と放射線照射を共に行うと、放射線単独照射に比べて優れた放射線治療効果を示すことができる。
【0069】
前述の複合体は、腫瘍組織の低酸素部位で疎水性酸化マンガンを効果的に放出する。低酸素部位は、各種薬物の浸透が難しく、放射線照射に対して抵抗力を示し、薬物や放射線照射による治療効果を減衰させる主な原因である。
【0070】
本発明の組成物は、腫瘍組織の低酸素部位で疎水性酸化マンガンを効果的に放出することにより、腫瘍組織の低酸素部位の活性酸素が酸素に変換され、放射線治療効果を高めることができる。
【0071】
また、本発明は、前述の複合体または前述の薬物送達体を含む光力学治療増進用組成物を提供する。
【0072】
前記複合体には、光力学治療に使用される薬物をさらに担持することができる。
【0073】
前記薬物は光増感剤であってもよい。光増感剤として通常使用される物質であれば限定されないが、例えば、ポルフィリン系化合物、クロリン系化合物、バクテリオクロリン系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、および5-アミノレブリンエステル系化合物などからなる群より選択されるいずれか1つまたは2つ以上を含むものであってもよい。
【0074】
光力学治療の対象となる疾患は、レーザー照射によって治療効果が示されるものであれば制限されないが、例えば癌であってもよい。
【0075】
前記癌は、肝細胞癌、肝転移癌、大腸癌、肺癌、乳癌、胆道癌、胆嚢癌、膵臓癌、子宮頸部癌、食道癌、脳癌、直腸癌、前立腺癌および頭頸部癌からなる群より選択されるいずれかであってもよい。
【0076】
前記組成物は、レーザー照射前、レーザー照射後、またはレーザー照射と同時に投与されるものであってもよい。具体的には、前記組成物はレーザー照射前に投与されるものであってもよい。
【0077】
本発明の組成物の投与とレーザー照射を共に行うと、レーザー単独照射に比べて優れた光力学治療効果を示すことができる。
【0078】
複合体に担持された光増感剤は、疎水性酸化マンガンと共に標的部位の低酸素部位で放出され得る。放出された疎水性酸化マンガンは標的部位で酸素を発生させて標的部位の微小環境を変化させることができ、光増感剤による治療効果を高めることができる。
【0079】
また、本発明は、前述の複合体または前述の薬物送達体を含む超音波力学治療増進用組成物を提供する。
【0080】
超音波力学治療の対象となる疾患は、超音波処理によって治療効果が示されるものであれば制限されないが、例えば癌であってもよい。
【0081】
前記癌は、肝細胞癌、肝転移癌、乳癌、胆道癌、膵臓癌および前立腺癌からなる群より選択されるいずれかであってもよい。
【0082】
前記組成物は、超音波照射前、超音波照射後、または超音波照射と同時に投与されるものであってもよい。具体的には、前記組成物は超音波照射前に投与されるものであってもよい。
【0083】
本発明の組成物の投与と超音波照射を共に行うと、超音波単独照射に比べて優れた超音波力学治療効果を示すことができる。
【0084】
本発明の組成物は、腫瘍組織の低酸素部位で疎水性酸化マンガンを効果的に放出することにより、腫瘍組織の低酸素部位の活性酸素が酸素に変換され、超音波治療効果を高めることができる。
【0085】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明することとする。
【0086】
製造例1.疎水性酸化マンガンの製造
C6、C12またはC18アルキル基を有する疎水性酸化マンガン粒子を製造するために、下記表1の材料を使用した。アルキル基の長さによる疎水性酸化マンガンの製造過程は、図15に示す通りである。
【0087】
【表1】
【0088】
MnClを完全に溶かし、2mmolのMnClに4mmolのNaOHを加えて強くかき混ぜ、還元してMn(OH)を得て、試料が褐色に変化することを確認した。その後、Mn(OH)はMnOに分解され、MnOは大気中の酸素によってMnに酸化した。前記で得られた4mmolのMnを強く撹拌しながら1-ヘキサンチオール、1-ドデカンチオール、又は1-オクタデカンチオールの1mmolを反応させ、Mnの表面に各C6、C12またはC18アルキル基を有する疎水性酸化マンガン粒子を製造した。形成された沈殿物をエタノールで洗浄(5000rpm、5分、5回)した後、真空乾燥または空気風乾した。乾燥した沈殿物をさらに蒸留水で2回洗浄した後、凍結乾燥して、最終的に疎水性酸化マンガン粒子を得た。
【0089】
製造例2.ミセルの製造
ステップ1:チオケタールリンカー(TL)の製造
49mmolの3-メルカプトプロピオン酸(3-mercaptopropionic acid)を98mmolの無水アセトンに溶解し、23℃で6時間一定に撹拌しながら生成した生成物を結晶化するまで冷却した。結晶化した生成物をろ過し、n-ヘキサン(n-hexane)ですすぎ、冷蒸留水でもう一度すすいだ後、凍結乾燥した。
【0090】
ステップ2:チオケタールリンカーで接合されたポリエチレングリコール(PEG-TL)の合成
前記ステップ1で製造したチオケタールリンカー(TL)の254mgと分子量2kDaのメトキシ-ポリエチレングリコールアミン(PEG-AM)の200mgを10mlのN,N-ジメチルホルムアミド(N,N-Dimethylformamide,DMF)に入れて室温で混合して混合溶液を製造した。その後、製造した混合溶液に、278mgの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide,EDC)および345mgのN-ヒドロキシスクシンイミド(N-hydroxysuccinimide,NHS)を加えた後、16時間撹拌した。撹拌後、混合溶液を蒸留水に対して分子量カットオフ(molecular cut-off,MWCO)が1,000の条件下で透析して反応副生物を除去し、凍結乾燥した。凍結乾燥した粉末を1mlのDMFに再溶解し、冷ジエチルエーテル(Diethyl ether)に5回繰り返し沈殿させた。その後、真空乾燥して、チオケタールリンカーが接合されたポリエチレングリコール(PEG-TL)を製造した。
【0091】
ステップ3:ポリエチレングリコール-TL-ステアラミン(PTS)の製造
前記ステップ2で製造したPEG-TLの100mg、トリエチルアミン(triethylamine,TEA)の80ml、及びステアラミン(stearamine、C18)の80mg を10mlのN,N-ジメチルホルムアミド(N,N-Dimethylformamide,DMF)に添加し、80℃で混合した。完全に混合した混合溶液に、240mgの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide,EDC)および145mgのヒドロキシスクシンイミド(N-hydroxysuccinimide,NHS)を加え、一日間撹拌した。反応後、溶液を蒸留水に対して分子量カットオフ(molecular cut-off,MWCO)が2,000の条件下で2日間透析して精製し、凍結乾燥して、ポリエチレングリコール-TL-ステアラミン(PTS)を製造した(図2)。
【0092】
PTSから製造された高分子ミセルは、CMC(critical micelle concentration)を測定するために、様々な濃度の高分子ミセルを含む水溶液を製造した。蛍光プローブとしては6.0×10-7Mのピレン(pyrene)を使用し、蛍光分析器(Fluorescence spectrophotometer)における励起波長は336nmに設定し、発光波長は360~450nmの範囲で観察した。測定の結果、PTS高分子ミセルのCMCは0.2mg/mLであった。
【0093】
高分子ミセルの形成を確認するために、DO溶媒上でPTSを自己集合した溶媒を製造した後、PTSのDO溶液の1H-NMRを測定した。PTSは、DO溶媒中でステアリック基が疎水性コアを形成することによってDO中で完全に遮断(shielding)され、アルキレン基によるピークであるδ0.83及び1.23でのピークがほとんどなくなっていた。この結果は、PEGが親水性シェルを形成し、ステアリック基が疎水性コアを形成して高分子ミセルを形成したことを示唆している。
【0094】
製造例3.疎水性酸化マンガン-ミセル複合体の製造
製造例1のC12アルキル基を有する疎水性酸化マンガン2mgを500μLのanhydrous DMSOに溶解し、10mgのPTS高分子ミセルを500μLのanhydrous DMSOに溶解し、両溶液を混合して合計1mLの混合溶液とする。20mLの三次蒸留水を50mLチューブに入れた後、Probe sonication下で1mLの混合溶液を1滴ずつ滴下する。このとき、Probe sonicationは、35%アンプリチュード(amplitude)、5秒オン(on)、5秒オフ(off)パルスモードで5分間行った。前記の製造過程を経た溶液は、membrane dialysis(12~14kDa MMCO)を1日間行ってDMSOおよび残りの不純物を除去する。また、定性濾紙(6~10μm)を用いて異常サイズの粒子をもう一度ろ過する。最終的にろ過した粒子を凍結乾燥して、固相の疎水性酸化マンガンが担持されたミセル複合体を得た。
【0095】
製造例2.ミセルの製造
ステップ1:チオケタールリンカー(TL)の製造
49mmolの3-メルカプトプロピオン酸(3-mercaptopropionic acid)を98mmolの無水アセトンに溶解し、23℃で6時間一定に撹拌しながら生成した生成物を結晶化するまで冷却した。結晶化した生成物をろ過し、n-ヘキサン(n-hexane)ですすぎ、冷蒸留水でもう一度すすいだ後、凍結乾燥した。
【0096】
ステップ2:チオケタールリンカーで接合されたポリエチレングリコール(PEG-TL)の合成
前記ステップ1で製造したチオケタールリンカー(TL)の254mgと分子量2kDaのメトキシ-ポリエチレングリコールアミン(PEG-AM)の200mgを10mlのN,N-ジメチルホルムアミド(N,N-Dimethylformamide,DMF)に入れて室温で混合して混合溶液を製造した。その後、製造した混合溶液に、278mgの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide,EDC)および345mgのN-ヒドロキシスクシンイミド(N-hydroxysuccinimide,NHS)を加えた後、16時間撹拌した。撹拌後、混合溶液を蒸留水に対して分子量カットオフ(molecular cut-off,MWCO)が1,000の条件下で透析して反応副生物を除去し、凍結乾燥した。凍結乾燥した粉末を1mlのDMFに再溶解し、冷ジエチルエーテル(Diethyl ether)に5回繰り返し沈殿させた。その後、真空乾燥して、チオケタールリンカーが接合されたポリエチレングリコール(PEG-TL)を製造した。
【0097】
ステップ3:ポリエチレングリコール-TL-ステアラミン(PTS)の製造
前記ステップ2で製造したPEG-TLの100mg、トリエチルアミン(triethylamine,TEA)の80ml、及びステアラミン(stearamine、C18)の80mg を10mlのN,N-ジメチルホルムアミド(N,N-Dimethylformamide,DMF)に添加し、80℃で混合した。完全に混合した混合溶液に、240mgの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide,EDC)および145mgのヒドロキシスクシンイミド(N-hydroxysuccinimide,NHS)を加え、一日間撹拌した。反応後、溶液を蒸留水に対して分子量カットオフ(molecular cut-off,MWCO)が2,000の条件下で2日間透析して精製し、凍結乾燥して、ポリエチレングリコール-TL-ステアラミン(PTS)を製造した(図2)。
【0098】
PTSから製造された高分子ミセルは、CMC(critical micelle concentration)を測定するために、様々な濃度の高分子ミセルを含む水溶液を製造した。蛍光プローブとしては6.0×10-7Mのピレン(pyrene)を使用し、蛍光分析器(Fluorescence spectrophotometer)における励起波長は336nmに設定し、発光波長は360~450nmの範囲で観察した。測定の結果、PTS高分子ミセルのCMCは0.2mg/mLであった。
【0099】
高分子ミセルの形成を確認するために、DO溶媒上でPTSを自己集合した溶媒を製造した後、PTSのDO溶液の1H-NMRを測定した。PTSは、DO溶媒中でステアリック基が疎水性コアを形成することによってDO中で完全に遮断(shielding)され、アルキレン基によるピークであるδ0.83及び1.23でのピークがほとんどなくなっていた。この結果は、PEGが親水性シェルを形成し、ステアリック基が疎水性コアを形成して高分子ミセルを形成したことを示唆している。
【0100】
製造例3.疎水性酸化マンガン-ミセル複合体の製造
製造例1のC12アルキル基を有する疎水性酸化マンガン2mgを500μLのanhydrous DMSOに溶解し、10mgのPTS高分子ミセルを500μLのanhydrous DMSOに溶解し、両溶液を混合して合計1mLの混合溶液とする。20mLの三次蒸留水を50mLチューブに入れた後、Probe sonication下で1mLの混合溶液を1滴ずつ滴下する。このとき、Probe sonicationは、35%アンプリチュード(amplitude)、5秒オン(on)、5秒オフ(off)パルスモードで5分間行った。前記の製造過程を経た溶液は、membrane dialysis(12~14kDa MMCO)を1日間行ってDMSOおよび残りの不純物を除去する。また、定性濾紙(6~10μm)を用いて異常サイズの粒子をもう一度ろ過する。最終的にろ過した粒子を凍結乾燥して、固相の疎水性酸化マンガンが担持されたミセル複合体を得た。
【0101】
実験例1.疎水性酸化マンガンの分析
製造例1の方法で製造された疎水性酸化マンガン粒子のTEM画像を分析した。図16に示すように、アルキル基の長さに関係なく疎水性酸化マンガンナノ粒子が安定して形成されることを確認できる。
【0102】
製造例1の方法で製造されたC12アルキル基を有する疎水性酸化マンガン粒子に対して、XPSスペクトル分析、EDS元素分析、TEM画像分析を行った。
【0103】
XPSスペクトル分析の結果(図3)、Mn 2PのXPSスペクトルは、641.42eVと653.23eVに位置する2つのピークから構成され、これらのピークは、Mn 2P3/2とMn 2P1/2にそれぞれ起因した。これらの両ピークの間のエネルギー差は11.81eVであり、Mnについて報告された文献と一致していない。
【0104】
EDS元素分析の結果(図4)、疎水性酸化マンガンナノ粒子の電子像(Electron image)の位置と検出元素の位置比較により粒子がMnを含有していることを確認し、S元素は疎水性酸化マンガンの表面を覆っているC12-SHに起因したことが分かる。
【0105】
TEM画像分析の結果(図5)、疎水性酸化マンガンナノ粒子の実測サイズは20nm以下であることが観察された。
【0106】
実験例2.疎水性酸化マンガン-ミセル複合体の酸素発生効果
2-1. 肝細胞癌細胞
2-1-1. 実験方法
HepG2腫瘍(肝細胞癌)細胞を1×10細胞/ウェルで24ウェルプレートに接種した後、2日後に実験を行った。低酸素症(Hypoxia)環境の場合には、低酸素チャンバー(インキュベーター)に6時間入れた。染色試薬としては、低酸素センシング蛍光プローブ(Hypoxia Sensing fluorescent probe)であるImage-iT green hypoxia reagentを使用した。
【0107】
2-1-2. 実験結果
実験で使用した癌細胞の明視野(bright field)像撮影の結果(図6)、実験で使用した全ての癌細胞は、低酸素症(Hypoxia)、正常酸素症(Normoxia)の環境とは無関係に安定で健康な状態であることが分かる。
【0108】
GFP(Green fluorescent protein)画像撮影の結果(図7)、正常酸素症(Normoxia)環境の対照群(control)で緑色蛍光(図7の明るい部分)が全く現れていないことから、低酸素環境ではないことが分かる。正常酸素症(Normoxia)環境の場合は、疎水性酸化マンガン-ミセル複合体の処理有無に関係なく緑色蛍光を示さなかった。
【0109】
低酸素(Hypoxia)環境の対照の場合は、非常に強い緑色蛍光を示し(図7)、これは低酸素環境であることを意味する。低酸素(Hypoxia)環境で疎水性酸化マンガン-ミセル複合体(25μg/mL、50μg/mL)を処理した場合、蛍光強度(図7の明るい部分)がますます減少することが確認できる。これは、疎水性酸化マンガン-ミセル複合体が低酸素(Hypoxia)環境で酸素を発生させることにより、低酸素環境を正常酸素環境に変化させたことを示している。
【0110】
2-2. 大腸癌細胞
2-2-1. 実験方法
CT-26腫瘍(大腸癌)細胞を1×10細胞/ウェルで24ウェルプレートに接種した後、2日後に実験を行った。低酸素症(Hypoxia)環境の場合には、低酸素チャンバー(インキュベーター)に6時間入れた。染色試薬としては、低酸素センシング蛍光プローブ(Hypoxia Sensing fluorescent probe)であるImage-iT green hypoxia reagentを使用した。
【0111】
2-2-2. 実験結果
大腸癌細胞における低酸素(Hypoxia)の程度を、低酸素症マーカー(Hypoxia indicator)を用いてFACS(Fluorescence-activated cell sorting)装置により測定した。その結果(図8a)、疎水性酸化マンガン-ミセル複合体の使用量により、低酸素(Hypoxia)の程度が減少することが分かる。同じマーカーを用いて蛍光顕微鏡で撮影した画像(図8b)を見ると、図8aのFACS測定結果と類似した蛍光強度が得られることが分かる。
【0112】
実験例3.疎水性酸化マンガン-ミセル複合体の肝細胞癌に対する抗癌効果
3-1. 実験方法
疎水性酸化マンガン-ミセル複合体の肝細胞癌に対する抗癌効果を確認するために、肝細胞癌(HepG2)動物モデルを使用した。各群は次の通りである。NC(陰性対照群);RO(Radiation Only、放射線治療のみを行った群)5匹;RL(Radiation+Low dosage semple、放射線治療及び低濃度(1mg[Mn]/kg)の疎水性酸化マンガン-ミセル複合体を静脈注射した群)5匹;およびRH(Radiation+High dosage semple、放射線治療及び高濃度(7mg[Mn]/kg)の疎水性酸化マンガン-ミセル複合体を静脈注射した群)5匹。
【0113】
具体的な実験過程は図9に示す通りである。1日目にRO群の4匹に放射線処理を行った。そして、同日、RL群の4匹およびRH群の4匹にそれぞれ1mg[Mn]/kg及び7mg[Mn]/kgの疎水性酸化マンガン-ミセル複合体を静脈注射し、翌日の2日目にRL群の4匹およびRH群の4匹に放射線処理を行った。3日目にRL群の1匹およびRH群の1匹を加え、それぞれ1mg[Mn]/kg及び7mg[Mn]/kgの疎水性酸化マンガン-ミセル複合体を静脈注射し、翌日の4日目にRL群の1匹及びRH群の1匹に放射線処理を行った。4日目にRO群の1匹を追加し、これに対しても放射線処理を行った。
【0114】
3-2. 実験結果
各群で腫瘍体積(tumor volume)、体重(body weight)変化および生存率を確認し、H&E(Hematoxylin and eosin)染色およびDAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole)染色を行った。
【0115】
腫瘍体積は、NC(陰性対照群)と比較して、RO群、RL群、RH群のいずれも腫瘍体積の増加程度が顕著に低かった。特に、RH群では、腫瘍体積の増加程度が最も低く、腫瘍体積減少(tumor volume reduction)が最も良好なことが分かる(図10a)。なお、各群において有意な体重差はなかった(図10b)。図11に示すように、実際の動物写真からもRH群の腫瘍体積が顕著に減少していることを目視で確認できる。
【0116】
生存率確認の結果(図12)、時間が経過するにつれて生存曲線でNC(33±3日)に比べてRO群(75±9日)、RL群(85±7日)、RH群(80±6日)のすべての生存率が高く、特にRL群とRH群が最も長期間生存したことが分かる。
【0117】
H&E染色の結果(図13)、NC群及びRO群に比べてRL群及びRH群では腫瘍壊死(tumor necrosis)の程度が激しいことを確認できる。特に、RH群において腫瘍壊死が最も活発に進行していることを確認できる。
【0118】
DAPI染色の結果(図14)、NC群及びRO群に比べて、RL群及びRH群において緑色(図14、GFP画像の明るい部分)として示される細胞死滅(apoptosis)の程度が激しいことを確認できる。特に、RH群において細胞死滅が最も活発に進行していることを確認できる。
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