(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-21
(45)【発行日】2025-03-31
(54)【発明の名称】アスファルト組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 95/00 20060101AFI20250324BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20250324BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20250324BHJP
C08G 63/89 20060101ALI20250324BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20250324BHJP
C08J 11/24 20060101ALI20250324BHJP
E01C 7/26 20060101ALI20250324BHJP
【FI】
C08L95/00
C08L67/02
C08K3/00
C08G63/89
C08J3/20 Z CFD
C08J11/24 ZAB
E01C7/26
(21)【出願番号】P 2021035332
(22)【出願日】2021-03-05
【審査請求日】2023-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2020039313
(32)【優先日】2020-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福利 憲廣
(72)【発明者】
【氏名】垣内 宏樹
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/100058(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/017334(WO,A1)
【文献】特開2006-096799(JP,A)
【文献】国際公開第2009/004745(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/077748(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/033682(WO,A1)
【文献】特開2004-163808(JP,A)
【文献】特開2020-200459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,C08G,C08J,E01C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスファルト及びポリエステルを含有するアスファルト組成物であって、
前記ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート、アルコール及びカルボン酸化合物の重縮合物であり、
前記ポリエステルの原料におけるポリエチレンテレフタレートの存在量は、ポリエチレンテレフタレート、アルコール及びカルボン酸化合物の合計量100質量%中、5質量%以上80質量%以下であり、
前記ポリエチレンテレフタレートの(DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値が5J/g以上30J/g以下であり、かつ、前記ポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV)が0.6以上1.05以下であり、
アスファルト組成物におけるポリエステルの含有量が、アスファルト100質量部に対して、0.5質量部以上50質量部以下である、アスファルト組成物。
【請求項2】
前記ポリエステル中の、ゲル浸透クロマトグラフィー法により測定される分子量分布における分子量500以下の成分の含有量が、7.0質量%以下である、請求項1に記載のアスファルト組成物。
【請求項3】
前記ポリエステル中のアルコール成分が、脂肪族ジオールである、請求項1又は2に記載のアスファルト組成物。
【請求項4】
前記ポリエステルの数平均分子量(Mn)が、1600以上5000以下である、請求項1~3のいずれか1つに記載のアスファルト組成物。
【請求項5】
前記ポリエステルの酸価が、2mgKOH/g以上40mgKOH/g以下である、請求項1~4のいずれか1つに記載のアスファルト組成物。
【請求項6】
熱可塑性エラストマーを更に含有する、請求項1~5のいずれか1つに記載のアスファルト組成物。
【請求項7】
前記ポリエチレンテレフタレートが、回収されたポリエチレンテレフタレートである、請求項1~6のいずれか1つに記載のアスファルト組成物。
【請求項8】
工程1:(DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値が5J/g以上30J/g以下であり、かつ、固有粘度(IV)が0.6以上1.05以下であるポリエチレンテレフタレートを、アルコール及びカルボン酸化合物の存在下、180℃以上235℃以下の条件下で4時間以上、エステル交換させてポリエステルを得る工程、並びに
工程2:アスファルトと、工程1で得られたポリエステルとを混合する工程
を含
み、
前記ポリエステルの原料におけるポリエチレンテレフタレートの存在量は、ポリエチレンテレフタレート、アルコール及びカルボン酸化合物の合計量100質量%中、5質量%以上80質量%以下であり、
アスファルト組成物におけるポリエステルの含有量が、アスファルト100質量部に対して、0.5質量部以上50質量部以下である、アスファルト組成物の製造方法。
【請求項9】
前記ポリエチレンテレフタレートが、回収されたポリエチレンテレフタレートである、請求項8に記載のアスファルト組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1つに記載のアスファルト組成物と、骨材と、を含むアスファルト混合物。
【請求項11】
工程1:(DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値が5J/g以上30J/g以下であり、かつ、固有粘度(IV)が0.6以上1.05以下であるポリエチレンテレフタレートを、アルコール及びカルボン酸化合物の存在下、180℃以上235℃以下の条件下で4時間以上、エステル交換させてポリエステルを得る工程、並びに
工程2:加熱した骨材と、アスファルトと、工程1で得られたポリエステルとを混合する工程
を含
み、
前記ポリエステルの原料におけるポリエチレンテレフタレートの存在量は、ポリエチレンテレフタレート、アルコール及びカルボン酸化合物の合計量100質量%中、5質量%以上80質量%以下であり、
アスファルト組成物におけるポリエステルの含有量が、アスファルト100質量部に対して、0.5質量部以上50質量部以下である、アスファルト混合物の製造方法。
【請求項12】
前記工程2における前記混合する工程において、
(i)加熱した骨材に、アスファルトを添加及び混合した後、ポリエステルを添加及び混合する、
(ii)加熱した骨材に、アスファルト及びポリエステルを同時に添加及び混合する、又は
(iii)加熱した骨材に、事前に加熱混合したアスファルトとポリエステルとの混合物を添加及び混合する、
請求項11に記載のアスファルト混合物の製造方法。
【請求項13】
前記ポリエチレンテレフタレートが、回収されたポリエチレンテレフタレートである、請求項11又は12に記載のアスファルト混合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト組成物、アスファルト混合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車道や駐車場、貨物ヤード、歩道等の舗装には、敷設が比較的容易であり、舗装作業開始から交通開始までの時間が短くてすむことから、アスファルト組成物を用いるアスファルト舗装が行われている。このアスファルト舗装は、骨材をアスファルトで結合したアスファルト混合物によって路面が形成されているので、舗装道路は良好な硬度や耐久性を有している。
【0003】
例えば特許文献1では、廃PETをできるだけ低コストで大量に処理でき、かつ所望の特性を備えた高価な舗装材用プラスチック組成物を提供することを目的として、廃PETと、1種又は2種以上の多価アルコール及び/又は糖類とを触媒の存在下でエステル交換させて舗装材用プラスチック組成物を得る舗装材用プラスチック組成物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アスファルト舗装面は、長期使用によって劣化して轍やひび割れが入るため、舗装の補修を行う必要が生じる。さらには、路面が削れて摩耗アスファルト粉が発生し、マイクロプラスチックが発生する。
本発明は、マイクロプラスチックの発生量を低減できるアスファルト組成物、アスファルト混合物及びその製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の〔1〕~〔5〕に関する。
〔1〕 アスファルト及びポリエステルを含有するアスファルト組成物であって、
前記ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート、アルコール及びカルボン酸化合物の重縮合物であり、
前記ポリエチレンテレフタレートの(DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値が5J/g以上30J/g以下であり、かつ、前記ポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV)が0.6以上1.05以下である、アスファルト組成物。
〔2〕 工程1:(DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値が5J/g以上30J/g以下であり、かつ、固有粘度(IV)が0.6以上1.05以下であるポリエチレンテレフタレートを、アルコール及びカルボン酸化合物の存在下、180℃以上235℃以下の条件下で4時間以上、エステル交換させてポリエステルを得る工程、並びに
工程2:アスファルトと、工程1で得られたポリエステルとを混合する工程
を含む、アスファルト組成物の製造方法。
〔3〕 上記〔1〕に記載のアスファルト組成物と、骨材と、を含むアスファルト混合物。
〔4〕 工程1:(DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値が5J/g以上30J/g以下であり、かつ、固有粘度(IV)が0.6以上1.05以下であるポリエチレンテレフタレートを、アルコール及びカルボン酸化合物の存在下、180℃以上235℃以下の条件下で4時間以上、エステル交換させてポリエステルを得る工程、並びに
工程2:加熱した骨材と、アスファルトと、工程1で得られたポリエステルとを混合する工程
を含む、アスファルト混合物の製造方法。
〔5〕 (DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値が5J/g以上30J/g以下であり、かつ、固有粘度(IV)が0.6以上1.05以下であるポリエチレンテレフタレートを、アルコール及びカルボン酸化合物の存在下、180℃以上235℃以下の条件下で4時間以上、エステル交換させる、ポリエステルの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、マイクロプラスチックの発生量を低減できるアスファルト組成物、アスファルト混合物及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[アスファルト組成物]
本発明のアスファルト組成物(以下、単に「アスファルト組成物」ともいう)は、アスファルト及びポリエステルを含有する。
そして、ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート、アルコール及びカルボン酸化合物の重縮合物であり、前記ポリエチレンテレフタレートの(DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値が5J/g以上30J/g以下であり、かつ、前記ポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV)が0.6以上1.05以下である。
以上によれば、マイクロプラスチックの発生量を低減できるアスファルト組成物が得られる。更にこの技術を応用して、アスファルト混合物、及びアスファルト混合物の製造方法を提供することができる。
【0009】
本発明の効果が得られる理由は定かではないが、以下のように考えられる。
ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」ともいう)を加工せずにそのままアスファルト中に添加すると、PETの融点が260℃と比較的高いため、PETが原粒径のまま塊として舗装中に存在し、アスファルトによる骨材間接着力の向上には至らない。
これに対し、本発明に用いられるポリエステルは、PET、アルコール及びカルボン酸化合物の重縮合物であり、PETをアルコール成分及びカルボン酸成分とともに重縮合することでエステル交換反応が起こり、PETの構成単位がアルコール成分由来の構成単位及びカルボン酸成分由来の構成単位中に取り込まれたポリエステルである。そして、PETの(DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値が5J/g以上30J/g以下であり、かつ、PETの固有粘度(IV)が0.6以上1.05以下である。所定の熱量を有するPETの場合、エステル交換反応時、PETの溶融しやすさによりエステル交換反応が促進され、均一にPETがポリエステル中に導入される。さらに、IVが0.6以上1.05以下のPETであることで、エステル交換反応時にPETユニットを保持したままポリエステル中に組み込まれる。その結果、ブロック共重合体に類似した状態が形成され、高い極性が均一に保持される。
アスファルトは、親水性で骨材吸着性があるアスファルテン成分と、疎水性で骨材吸着性がないマルテン成分を含有している。本発明に用いられるポリエステルにおいて均一導入された高極性のPET部位は、マルテン成分と効果的に相互作用して複合体を形成し、この複合体が骨材間接着をより強固にすることでマイクロプラスチックの発生量を低減できると考えられる。ここで、本発明者らが見出した知見によれば、PETの熱量が5J/g以上であれば、PETの非晶部位が適量でありエステル交換反応時にPETがモノマー単位まで解重合されることが抑制されるため、マルテンと相互作用するPET部位が適量導入され、複合体を形成しやすい。PETの熱量が30J/g以下であれば、PETの結晶部位が適量であり、PET部位が均一に導入され、複合体を形成しやすい。PETのIVが0.6以上であれば、エステル交換反応時にPETがモノマー単位まで解重合されることが抑制されるため、マルテンと相互作用する部位が適量導入され、複合体を形成しやすい。PETのIVが1.05以下であれば、PET部位が均一に導入され、複合体を形成しやすい。
【0010】
本明細書における各種用語の定義等を以下に示す。
「バインダ混合物」とは、アスファルトと熱可塑性エラストマーとを含む混合物を意味し、例えば、後述の熱可塑性エラストマーで改質されたアスファルト(以下、「改質アスファルト」ともいう)を含む概念である。
ポリエステル中、「アルコール成分由来の構成単位」とは、アルコール成分の水酸基から水素原子を除いた構造を意味し、「カルボン酸成分由来の構成単位」とは、カルボン酸成分のカルボキシル基から水酸基を除いた構造を意味する。
「カルボン酸化合物」とは、そのカルボン酸のみならず、反応中に分解して酸を生成する無水物、及びカルボン酸のアルキルエステル(例えば、アルキル基の炭素数1以上3以下)も含む概念である。カルボン酸化合物がカルボン酸のアルキルエステルである場合、カルボン酸化合物の炭素数には、エステルのアルコール残基であるアルキル基の炭素数を算入しない。
【0011】
〔アスファルト〕
本発明のアスファルト組成物は、アスファルトを含有する。
アスファルトとしては、種々のアスファルトが使用できる。例えば舗装用石油アスファルトであるストレートアスファルトの他、改質アスファルトが挙げられる。改質アスファルトとしては、ブローンアスファルト;熱可塑性エラストマー、熱可塑性樹脂等の高分子材料で改質したアスファルト等が挙げられる。ストレートアスファルトとは、原油を常圧蒸留装置、減圧蒸留装置等で処理して得られる残留瀝青物質を意味する。また、ブローンアスファルトとは、ストレートアスファルトと重質油との混合物を加熱し、その後空気を吹き込んで酸化させることによって得られるアスファルトを意味する。マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から改質アスファルトが好ましい。
本明細書において、「アスファルト」とは、ドイツ工業規格DIN EN 12597に定義されるビチューメンを包含する。「アスファルト」と「ビチューメン」は交換可能に用いられるものとする。
【0012】
〔熱可塑性エラストマー〕
アスファルト組成物は、マイクロプラスチック量の低減の観点から、熱可塑性エラストマーを含有することが好ましい。アスファルト及び熱可塑性エラストマーは、これらの混合物であるバインダ混合物として使用されることが好ましい。バインダ混合物としては、熱可塑性エラストマーで改質されたストレートアスファルト(改質アスファルト)等が挙げられる。
【0013】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン/ブタジエンブロック共重合体(以下、単に「SB」ともいう)、スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体(以下、単に「SBS」ともいう)、スチレン/ブタジエンランダム共重合体(以下、単に「SBR」ともいう)、スチレン/イソプレンブロック共重合体(以下、単に「SI」ともいう)、スチレン/イソプレン/スチレンブロック共重合体(以下、単に「SIS」ともいう)、スチレン/イソプレンランダム共重合体(以下、単に「SIR」ともいう)、エチレン/酢酸ビニル共重合体、及びエチレン/アクリル酸エステル共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
エチレン/アクリル酸エステル共重合体の市販品としては、例えば、「Elvaroy」(デュポン社製)が挙げられる。
【0014】
これらの熱可塑性エラストマーの中でも、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、スチレン/ブタジエンブロック共重合体、スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体、スチレン/ブタジエンランダム共重合体、スチレン/イソプレンブロック共重合体、スチレン/イソプレン/スチレンブロック共重合体、及びスチレン/イソプレンランダム共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、スチレン/ブタジエンランダム共重合体及びスチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0015】
アスファルト組成物中の熱可塑性エラストマーの含有量は、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、アスファルト組成物100質量%中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、より更に好ましくは2質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは5質量%以下である。
【0016】
アスファルト組成物において、熱可塑性エラストマーの含有量は、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、アスファルト100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上、より更に好ましくは2質量部以上であり、そして、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは10質量部以下、より更に好ましくは5質量部以下である。
【0017】
アスファルト組成物中のアスファルトの含有量は、マイクロプラスチック量の低減の観点とアスファルト性能を発揮する観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは75質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上であり、そして、マイクロプラスチック量の低減の観点から、好ましくは98質量%以下、より好ましくは97質量%以下、更に好ましくは96質量%以下である。
【0018】
〔ポリエステル〕
本発明のアスファルト組成物は、ポリエステルを含有する。ポリエステルは、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、ポリエチレンテレフタレート、アルコール及びカルボン酸化合物の重縮合物である。そして、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、ポリエチレンテレフタレートの(DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値は5J/g以上30J/g以下であり、かつ、ポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV)は0.6以上1.05以下である。
【0019】
<アルコール成分>
アルコール成分としては、脂肪族ジオール、芳香族ジオール、3価以上の多価アルコールが挙げられる。これらのアルコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
脂肪族ジオールとしては、好ましくは炭素数2以上12以下の直鎖又は分岐の脂肪族ジオールであり、より好ましくは炭素数2以上4以下の直鎖又は分岐の脂肪族ジオールである。脂肪族ジオールの具体例としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-ブテンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオールが挙げられる。
【0021】
芳香族ジオールとしては、例えば、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物としては、下記式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物が挙げられる。
【化1】
〔式中、OR
1及びR
1Oはアルキレンオキシドであり、R
1は炭素数2又は3のアルキレン基、x及びyはアルキレンオキシドの平均付加モル数を示す正の数を示し、xとyの和は好ましくは1以上、より好ましくは1.5以上であり、そして、好ましくは16以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは4以下である。〕
【0022】
式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物としては、例えば、ビスフェノールA〔2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン〕のプロピレンオキシド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物が挙げられる。これらのビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
3価以上の多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトールが挙げられる。
【0024】
アルコール成分としては、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、脂肪族ジオールが好ましい。脂肪族ジオールの含有量は、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、ポリエステルのアルコール成分100モル%中、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上であり、そして、100モル%以下である。
【0025】
<カルボン酸成分>
カルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸化合物、芳香族ジカルボン酸化合物、3価以上6価以下の多価カルボン酸化合物が挙げられる。これらのカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
脂肪族ジカルボン酸の主鎖の炭素数は、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、そして、好ましくは10以下、より好ましくは8以下である。
脂肪族ジカルボン酸化合物としては、例えば、フマル酸、マレイン酸、シュウ酸、マロン酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、炭素数1以上20以下のアルキル基若しくは炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸、又は、これらの無水物、これらのアルキルエステル(例えば、アルキル基の炭素数1以上3以下)が挙げられる。置換されたコハク酸としては、例えば、ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、オクテニルコハク酸が挙げられる。以上の脂肪族ジカルボン酸化合物の中でも、フマル酸、マレイン酸及びアジピン酸からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、アジピン酸がより好ましい。
【0027】
芳香族ジカルボン酸化合物としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、又は、これらの無水物、これらのアルキルエステル(例えば、アルキル基の炭素数1以上3以下)が挙げられる。以上の芳香族ジカルボン酸化合物の中でも、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、イソフタル酸及びテレフタル酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
【0028】
3価以上6価以下の多価カルボン酸は、好ましくは3価カルボン酸である。3価以上6価以下の多価カルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸、又はこれらの酸無水物等が挙げられる。なお、多価カルボン酸を含む場合、物性調整の観点から、アルコール成分には1価のアルコールが適宜含有されていてもよく、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が適宜含有されていてもよい。
【0029】
カルボン酸成分が脂肪族ジカルボン酸化合物を含む場合、カルボン酸成分中における脂肪族ジカルボン酸化合物の含有量は、ポリエステルの可撓性を上げてマイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、カルボン酸成分100モル%中、好ましくは1モル%以上、より好ましくは5モル%以上、更に好ましくは10モル%以上であり、そして、好ましくは40モル%以下、より好ましくは30モル%以下である。
【0030】
芳香族ジカルボン酸化合物の含有量は、アスファルトへの溶融分散性を高め、かつマイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、カルボン酸成分100モル%中、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上であり、そして、好ましくは100モル%以下、より好ましくは99モル%以下、更に好ましくは95モル%以下、より更に好ましくは90モル%以下である。
【0031】
<アルコール成分由来の構成単位に対するカルボン酸成分由来の構成単位のモル比>
アルコール成分由来の構成単位に対するカルボン酸成分由来の構成単位のモル比〔カルボン酸成分/アルコール成分〕は、酸価の調整の観点及びマイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上、更に好ましくは0.9以上であり、そして、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.3以下、更に好ましくは1.1以下である。
【0032】
<ポリエチレンテレフタレート由来の構成単位>
本発明に用いられるポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート由来のエチレングリコール及びテレフタル酸からなる構成単位を含む。ポリエチレンテレフタレートは、エチレングリコール及びテレフタル酸からなる構成単位の他にブタンジオールやイソフタル酸等の成分を少量含有してもよい。ポリエチレンテレフタレートは、回収されたポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。
【0033】
近年、廃プラスチックが環境に与える影響が問題となっており、廃プラスチックのリサイクルが検討されている。本発明では、ポリエチレンテレフタレートはボトルやフィルム等の製品として汎用されていることから、それらの製品として製造され、その後廃棄されたものを回収したポリエチレンテレフタレート(以下「回収PET」ともいう)が、環境問題及び価格の面から好ましく用いられる。なお、回収品は、ある程度の純度を有しているものであれば、その種類等は特に限定されない。不純物として、ポリエチレンやポリプロピレンのようなプラスチックを少量含んでいてもよい。例えば、廃パウチ容器を回収PETとして利用することもできる。回収PETがポリエチレン及び/又はポリプロピレンを含む場合、ポリエチレン及びポリプロピレンの合計含有量は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。下限は特に限定されないが、例えば0.1質量%以上であってもよく、0.05質量%以上であってもよい。
【0034】
なお、回収品の使用に際しては、取り扱いや分散及び分解等の容易性のため、フレーク状に粉砕されたもの、ペレット等が好適に用いられる。本発明に用いられる回収品の具体的な大きさとしては、反応効率の観点から、4~15mm2程度が好ましく、厚みは3mm以下程度が好ましい。
【0035】
PETの固有粘度(IV)は、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、0.6以上であり、そして、1.05以下であり、好ましくは1.04以下、より好ましくは1.03以下である。PETの固有粘度が0.6以上1.05以下であると、マイクロプラスチックの発生量を充分に低減することができる。
固有粘度(IV)は、実施例に記載の方法により測定される。PETの固有粘度(IV)は、例えば、0.7以上、0.80以上、0.90以上であってもよい。
【0036】
PETの(DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値は、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、5J/g以上であり、好ましくは10J/g以上、より好ましくは12J/g以上であり、そして、30J/g以下であり、好ましくは29J/g以下である。当該値は、例えば、5.0J/g以上、10.0J/g以上又は12.0J/g以上であり、そして、30.0J/g以下、29.5J/g以下、又は29.0J/g以下であってもよい。
PETのDSC測定による吸熱量及び発熱量は、実施例に記載の方法により測定される。
【0037】
本発明に用いられるポリエステルは、実質的にその特性を損なわない程度に変性されたポリエステルであってもよい。変性されたポリエステルは、具体的には、特開平11-133668号公報、特開平10-239903号公報、特開平8-20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステルが挙げられる。好ましい変性されたポリエステルは、ポリエステルをポリイソシアネート化合物でウレタン伸長したウレタン変性ポリエステルが挙げられる。
【0038】
<ポリエステルの物性>
ポリエステルの軟化点は、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、好ましくは90℃以上、より好ましくは95℃以上、更に好ましくは98℃以上であり、そして、好ましくは140℃以下、より好ましくは130℃以下、更に好ましくは125℃以下、より更に好ましくは120℃以下、より更に好ましくは115℃以下である。
【0039】
ポリエステルの酸価は、骨材への吸着を促進し、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、好ましくは2mgKOH/g以上、より好ましくは5mgKOH/g以上、更に好ましくは10mgKOH/g以上であり、そして、舗装面の耐水性を高める観点から、好ましくは40mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下、更に好ましくは20mgKOH/g以下である。
【0040】
ポリエステルの水酸基価は、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、好ましくは1mgKOH/g以上、より好ましくは5mgKOH/g以上、更に好ましくは10mgKOH/g以上、より更に好ましくは15mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは70mgKOH/g以下、より好ましくは50mgKOH/g以下、更に好ましくは30mgKOH/g以下、より更に好ましくは26mgKOH/g以下である。
【0041】
ポリエステルのガラス転移点は、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、更に好ましくは50℃以上であり、そして、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは65℃以下である。
【0042】
ポリエステルの数平均分子量(Mn)は、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、好ましくは1600以上、より好ましくは2000以上、更に好ましくは2500以上であり、そして、好ましくは5000以下、より好ましくは4500以下、更に好ましくは4000以下である。
【0043】
ポリエステルの重量平均分子量(Mw)は、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、好ましくは5000以上、より好ましくは6000以上、更に好ましくは7000以上であり、そして、好ましくは30000以下、より好ましくは20000以下、更に好ましくは15000以下である。
【0044】
ポリエステル中の、ゲル浸透クロマトグラフィー法により測定される分子量分布における分子量500以下の成分の含有量は、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、好ましくは7.0質量%以下、より好ましくは5.5質量%以下、更に好ましくは5.0質量%以下である。下限値は特に限定されないが、例えば2.0質量%であってもよい。
【0045】
軟化点、酸価、水酸基価、ガラス転移点、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及びポリエステル中の分子量500以下の成分の含有量は、実施例に記載の方法により測定することができる。なお、軟化点、酸価、水酸基価、ガラス転移点、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及びポリエステル中の分子量500以下の成分の含有量は、原料モノマー組成、分子量、触媒量又は反応条件により調整することができる。
【0046】
<ポリエステルの製造方法>
ポリエステルの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、アルコール成分及びカルボン酸成分を重縮合することにより製造することができる。重縮合反応の温度は、特に限定されるものではないが、反応性の観点とモノマー分解温度の観点から、好ましくは180℃以上180℃以上235℃以下℃以下である。重縮合反応の温度として、180℃以上210℃以下も好ましい。
【0047】
ポリエステルの製造方法としては、(DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値が5J/g以上30J/g以下であり、かつ、固有粘度(IV)が0.6以上1.05以下であるポリエチレンテレフタレートを、アルコール及びカルボン酸化合物の存在下、180℃以上235℃以下の条件下で4時間以上、エステル交換させる方法が好ましい。エステル交換させる温度として、180℃以上210℃以下も好ましい。
【0048】
原料におけるポリエチレンテレフタレートの存在量は、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、ポリエチレンテレフタレート、アルコール成分及びカルボン酸成分の合計量100質量%中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
【0049】
アルコール成分とカルボン酸成分との重縮合反応の際にポリエチレンテレフタレートを添加することで、エステル交換反応が起こり、ポリエチレンテレフタレートの構成単位がアルコール成分由来の構成単位及びカルボン酸成分由来の構成単位中に取り込まれたポリエステルを得ることができる。
ポリエチレンテレフタレートは、重縮合反応開始時から存在させていても、重縮合反応途中で反応系に添加してもよい。ポリエチレンテレフタレートの添加時期は、マイクロプラスチック量の低減の観点から、アルコール成分とカルボン酸成分との反応率が10%以下の段階が好ましく、5%以下の段階がより好ましい。なお、反応率とは、生成反応水量(モル)/理論生成水量(モル)×100の値をいう。
【0050】
重縮合反応には、反応性とコストの観点から、ジ(2-エチルヘキサン酸)錫(II)等のSn-C結合を有していない錫(II)化合物をエステル化触媒として使用できる。エステル化触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分とポリエチレンテレフタレートの合計量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、そして、好ましくは3.0質量部以下、より好ましくは1.5質量部以下である。
重縮合反応には、反応性とコストの観点から、触媒に加えて、没食子酸等のピロガロール化合物をエステル化助触媒として使用できる。エステル化助触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分とポリエチレンテレフタレートの総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上、更に好ましくは0.01質量部以上、そして、好ましくは0.50質量部以下、より好ましくは0.20質量部以下、更に好ましくは0.10質量部以下である。
【0051】
<ポリエステルの含有量>
本発明のアスファルト組成物において、ポリエステルの含有量は、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、アスファルト100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは3質量部以上、より更に好ましくは5質量部以上であり、そして、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは20質量部以下、より更に好ましくは10質量部以下である。
【0052】
[アスファルト組成物の製造方法]
本発明のアスファルト組成物を製造する方法は、アスファルトと、上記のポリエステルとを混合する工程を有することが好ましい。
【0053】
アスファルト組成物は、アスファルトを加熱溶融し、ポリエステルを添加し、通常用いられている混合機にて、各成分が均一に分散するまで撹拌混合することにより得られる。通常用いられている混合機としては、ホモミキサー、ディゾルバー、パドルミキサー、リボンミキサー、スクリューミキサー、プラネタリーミキサー、真空逆流ミキサー、ロールミル、二軸押出機等が挙げられる。
【0054】
アスファルトとポリエステルとの混合温度は、アスファルト中にポリエステルを均一に分散させ、マイクロプラスチック量の低減の観点及び保存安定性の観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは130℃以上、更に好ましくは160℃以上、より更に好ましくは170℃以上であり、そして、好ましくは230℃以下、より好ましくは210℃以下、更に好ましくは200℃以下、より更に好ましくは190℃以下である。
【0055】
また、アスファルトとポリエステルとの混合時間は、効率的にアスファルト中にポリエステルを均一に分散させる観点から、好ましくは0.1時間以上、より好ましくは0.5時間以上、更に好ましくは1.0時間以上、より更に好ましくは1.5時間以上であり、そして、好ましくは10時間以下、より好ましくは7時間以下、更に好ましくは5時間以下、より更に好ましくは3時間以下である。
【0056】
アスファルト組成物の製造方法の好ましい態様は、(DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値が5J/g以上30J/g以下であり、かつ、固有粘度(IV)が0.6以上1.05以下であるポリエチレンテレフタレートを、アルコール及びカルボン酸化合物の存在下、180℃以上235℃以下の条件下で4時間以上、エステル交換させてポリエステルを得る工程(工程1)、並びにアスファルトと、前述のポリエステル(工程1で得られたポリエステル)とを混合する工程(工程2)を含む。エステル交換させる温度として、180℃以上210℃以下も好ましい。
【0057】
上記ポリエチレンテレフタレートは、好ましくは回収されたポリエチレンテレフタレートである。この場合、アスファルト組成物の製造方法は、好ましくは、(DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値が5J/g以上30J/g以下であり、かつ、固有粘度(IV)が0.6以上1.05以下であるポリエチレンテレフタレートを製品から回収する工程(工程1a)、前述のポリエチレンテレフタレート(工程1aで得られたポリエチレンテレフタレート)を、アルコール及びカルボン酸化合物の存在下、180℃以上235℃以下の条件下で4時間以上、エステル交換させてポリエステルを得る工程(工程2a)、並びにアスファルトと、前述のポリエステル(工程2aで得られたポリエステル)とを混合する工程(工程3a)を含む。エステル交換させる温度として、180℃以上210℃以下も好ましい。
【0058】
〔分散剤〕
アスファルト組成物は、分散剤を含んでいてもよい。
分散剤は、アスファルトに溶解するものであり、且つポリエステルとの親和性があるものが好ましい。
分散剤としては、例えば、高分子分散剤、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルカノールアミン等の界面活性剤等を挙げることができる。
高分子分散剤としては、例えば、ポリアミドアミンとその塩、ポリカルボン酸とその塩、高分子量不飽和酸エステル、変性ポリウレタン、変性ポリエステル、変性ポリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル系共重合体、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物等が挙げられる。これらの分散剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
分散剤は、高温保管安定性を向上させる観点から、好ましくは高分子分散剤である。なお、本発明における「高分子分散剤」とは、重量平均分子量が1,000以上の分散剤を意味する。ポリマー種にもよるが、重量平均分子量としては、好ましくは2,000以上、より好ましくは4,000以上であり、そして、好ましくは80,000以下、より好ましくは40,000以下である。
【0059】
分散剤は、好ましくは塩基性官能基を有する。塩基性官能基とは、共役酸のpKaが-3以上となるような基を意味する。塩基性官能基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、4級アンモニウム基が挙げられる。
分散剤の塩基価は、高温保管安定性の観点から、好ましくは10mgKOH/g以上、より好ましくは20mgKOH/g以上、更に好ましくは30mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは150mgKOH/g以下、より好ましくは120mgKOH/g以下、更に好ましくは100mgKOH/g以下である。塩基価の測定方法は、JIS K7237:1995に規定の方法により測定する。
【0060】
市販の分散剤としては、例えば、「ディスパー」シリーズの「byk-101」、「byk-130」、「byk-161」、「byk-162」、「byk-170」、「byk-2020」、「byk-2164」、「byk-LPN21324」(以上、ビックケミー(BYK)社製);「ソルスパース」シリーズの「9000」、「11200」、「13240」、「13650」、「13940」、「17000」、「18000」、「24000」、「28000」、「32000」、「38500」、「71000」(以上、ルブリゾール社製);「アジスパー」シリーズの「PB821」、「PB822」、「PB880」、「PB881」(以上、味の素ファインテクノ株式会社製);「エフカ」シリーズの「46」、「47」、「48」、「49」、「4010」、「4047」、「4050」、「4165」、「5010」(以上、BASF社製);「フローレンTG-710」(共栄社化学株式会社製);「TAMN-15」(日光ケミカルズ株式会社製)が挙げられる。
【0061】
分散剤の含有量は、高温保管安定性の観点から、ポリエステル100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは4質量部以上であり、そして、好ましくは80質量部以下、より好ましくは60質量部以下、更に好ましくは40質量部以下、より更に好ましくは30質量部以下、より更に好ましくは20質量部以下である。
【0062】
[アスファルト混合物]
本発明のアスファルト組成物は、バインダ組成物であり、該アスファルト組成物に、骨材を添加して、アスファルト混合物とした後に、舗装に使用される。すなわち、本発明のアスファルト組成物は、舗装用として好適であり、特に道路舗装用として好適である。
本発明のアスファルト混合物は、前述のアスファルト組成物、及び骨材を含有する。つまり、アスファルト混合物は、アスファルト、ポリエステル及び骨材を含有し、好ましくはアスファルト、熱可塑性エラストマー、ポリエステル及び骨材を含有する。
【0063】
アスファルト混合物中のアスファルト組成物の含有量は、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、アスファルト混合物100質量%中、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは4質量%以上であり、そして、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは8質量%以下である。
【0064】
〔骨材〕
骨材としては、例えば、砕石、玉石、砂利、砂、再生骨材、セラミックス等を任意に選択して用いることができる。また、骨材としては、粒径2.36mm以上の粗骨材、粒径2.36mm未満の細骨材のいずれも使用することができる。
粗骨材としては、例えば、粒径範囲2.36mm以上4.75mm以下の砕石、粒径範囲4.75mm以上12.5mm以下の砕石、粒径範囲12.5mm以上19mm以下の砕石、粒径範囲19mm以上31.5mm以下の砕石が挙げられる。
細骨材は、好ましくは粒径0.075mm以上2.36mm未満の細骨材である。細骨材としては、例えば、川砂、丘砂、山砂、海砂、砕砂、細砂、スクリーニングス、砕石ダスト、シリカサンド、人工砂、ガラスカレット、鋳物砂、再生骨材破砕砂が挙げられる。
上記の粒径はJIS A5001:1995に規定される値である。
これらの中でも、粗骨材と細骨材との組合せが好ましい。
【0065】
なお、細骨材には、粒径0.075mm未満のフィラー(例えば、砂)が含まれていてもよい。フィラーとしては、砂、フライアッシュ、炭酸カルシウム、消石灰等が挙げられる。このうち、乾燥強度向上の観点から、炭酸カルシウムが好ましい。
【0066】
フィラーの平均粒径は、乾燥強度向上の観点から、好ましくは0.001mm以上であり、そして、好ましくは0.05mm以下、より好ましくは0.03mm以下、更に好ましくは0.02mm以下である。フィラーの平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定することができる。ここで、平均粒径とは、体積累積50%の平均粒径を意味する。
【0067】
〔フィラー平均粒径の測定方法〕
フィラーの平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置「LA-950」(株式会社堀場製作所製)を用い、以下に示す条件で測定した値である。
・測定方法:フロー法
・分散媒:エタノール
・試料調製:2mg/100mL
・分散方法:撹拌、内蔵超音波1分
【0068】
粗骨材と細骨材との質量比率は、マイクロプラスチック量の低減の観点から、好ましくは10/90以上、より好ましくは20/80以上、更に好ましくは30/70以上であり、そして、好ましくは90/10以下、より好ましくは80/20以下、更に好ましくは70/30以下である。
【0069】
骨材の含有量は、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、アスファルト組成物100質量部に対して、好ましくは1,000質量部以上、より好ましくは1,200質量部以上、更に好ましくは1,400質量部以上であり、そして、好ましくは3,000質量部以下、より好ましくは2,500質量部以下、更に好ましくは2,000質量部以下である。
【0070】
アスファルト混合物における好適な配合例は、以下のとおりである。
(1)一例のアスファルト混合物は、例えば、30容量%以上45容量%未満の粗骨材と、30容量%以上50容量%以下の細骨材と、5容量%以上10容量%以下のアスファルト組成物とを含む(細粒度アスファルト)。
(2)一例のアスファルト混合物は、例えば、45容量%以上70容量%未満の粗骨材と、20容量%以45容量%以下の細骨材と、3容量%以上10容量%以下のアスファルト組成物とを含む(密粒度アスファルト)。
(3)一例のアスファルト混合物は、例えば、70容量%以上80容量%以下の粗骨材と、10容量%以上20容量%以下の細骨材と、3容量%以上10容量%以下のアスファルト組成物とを含む(ポーラスアスファルト)。
【0071】
アスファルト混合物には、更に必要に応じて、その他の成分を配合してもよい。
なお、従来の骨材とアスファルトを含むアスファルト混合物におけるアスファルトの配合割合については、通常、社団法人日本道路協会発行の「舗装設計施工指針」に記載されている「アスファルト組成物の配合設計」から求められる最適アスファルト量に準じて用いられている。
本発明においては、上記の最適アスファルト量が、アスファルト、熱可塑性エラストマー及びポリエステルの合計量に相当する。したがって、通常、前記最適アスファルト量を、アスファルト、熱可塑性エラストマー及びポリエステルの合計配合量とすることが好ましい。
ただし、「舗装設計施工指針」に記載の方法に限定する必要はなく、他の方法によって決定してもよい。
【0072】
[アスファルト混合物の製造方法]
本発明のアスファルト混合物の製造方法は、(DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値が5J/g以上30J/g以下であり、かつ、固有粘度(IV)が0.6以上1.05以下であるポリエチレンテレフタレートを、アルコール及びカルボン酸化合物の存在下、180℃以上235℃以下の条件下で4時間以上、エステル交換させてポリエステルを得る工程(工程1)、並びに加熱した骨材と、アスファルトと、前述のポリエステル(工程1で得られたポリエステル)とを混合する工程(工程2)を含み、好ましくは加熱した骨材と、アスファルトと、熱可塑性エラストマーと、前述のポリエステルとを混合する工程を含む。
【0073】
本発明のアスファルト混合物の製造方法において、ポリエチレンテレフタレートは好ましくは回収されたポリエチレンテレフタレートである。この場合、アスファルト混合物の製造方法は、(DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値が5J/g以上30J/g以下であり、かつ、固有粘度(IV)が0.6以上1.05以下であるポリエチレンテレフタレートを製品から回収する工程(工程1a)、工程2a:前述のポリエチレンテレフタレート(工程1aで得られたポリエチレンテレフタレート)を、アルコール及びカルボン酸化合物の存在下、180℃以上235℃以下の条件下で4時間以上、エステル交換させてポリエステルを得る工程(工程2a)、並びにアスファルトと、前述のポリエステル(工程2aで得られたポリエステル)とを混合する工程(工程3a)を含む。
【0074】
アスファルト混合物の具体的な製造方法としては、従来のプラントミックス方式、プレミックス方式等といわれるアスファルト混合物の製造方法が挙げられる。いずれも加熱した骨材にアスファルト(及び必要に応じて熱可塑性エラストマー)及びポリエステルを添加する方法である。添加方法は、例えば、アスファルト(及び必要に応じて熱可塑性エラストマー)及びポリエステルを予め溶解させたプレミックス方式、又はアスファルトに熱可塑性エラストマーを溶解させた改質アスファルトを添加し、その後にポリエステルを投入するプラントミックス法が挙げられる。これらの中でも、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、プレミックス方式が好ましい。
より具体的には、アスファルト混合物の製造方法は、当該混合する工程において、好ましくは、
(i)加熱した骨材に、アスファルト(及び必要に応じて熱可塑性エラストマー)を添加及び混合した後、ポリエステルを添加及び混合する、
(ii)加熱した骨材に、アスファルト(及び必要に応じて熱可塑性エラストマー)及びポリエステルを同時に添加及び混合する、又は
(iii)加熱した骨材に、事前に加熱混合したアスファルト(及び必要に応じて熱可塑性エラストマー)とポリエステルとの混合物を添加及び混合する。
これらの中でも、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、(iii)の方法が好ましい。
【0075】
(iii)の方法におけるアスファルトとポリエステルとを事前に混合するときの混合温度は、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、ポリエステルの軟化点よりも高い温度が好ましく、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上、更に好ましくは170℃以上、より更に好ましくは180℃以上であり、そして、アスファルトの熱劣化を防止する観点から、好ましくは230℃以下、より好ましくは210℃以下、更に好ましくは200℃以下である。混合時間は、例えば、10分以上、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上である。時間の上限は、特に限定されないが、例えば約5時間程度である。
【0076】
(i)~(iii)の方法における加熱した骨材の温度は、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、ポリエステルの軟化点よりも高い温度が好ましく、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上、更に好ましくは170℃以上、より更に好ましくは180℃以上であり、アスファルトの熱劣化を防止する観点から、好ましくは230℃以下、より好ましくは210℃以下、更に好ましくは200℃以下である。
【0077】
混合する工程において、マイクロプラスチックの発生量を低減する観点から、混合温度は、ポリエステルの軟化点よりも高い温度が好ましく、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上、更に好ましくは170℃以上、より更に好ましくは180℃以上であり、アスファルトの熱劣化を防止する観点から、好ましくは230℃以下、より好ましくは210℃以下、更に好ましくは200℃以下である。混合する工程における混合時間は、例えば、30秒以上、好ましくは1分以上、より好ましくは2分以上、更に好ましくは5分以上であり、時間の上限は、特に限定されないが、例えば約30分程度である。
【0078】
アスファルト混合物の製造方法は、マイクロプラスチック量の低減の観点から、混合する工程後、得られた混合物をポリエステルの軟化点よりも高い温度以上で保持する工程を有することが好ましい。
保持する工程においては、混合物を更に混合してもよいが、前述の温度以上を保持していればよい。
保持する工程において、混合温度は、ポリエステルの軟化点よりも高い温度が好ましく、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上、更に好ましくは170℃以上、より更に好ましくは180℃以上であり、そして、アスファルト組成物の熱劣化を防止する観点から、好ましくは230℃以下、より好ましくは210℃以下、更に好ましくは200℃以下である。保持する工程における保持時間は、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上、更に好ましくは1.5時間以上であり、そして、時間の上限は、特に限定されないが、例えば5時間程度である。
【0079】
[道路舗装方法]
本発明のアスファルト混合物は、道路舗装用として好適であり、上述したように、アスファルト組成物に骨材を添加したアスファルト混合物が、道路舗装に使用される。
道路舗装方法は、好ましくは、前述のアスファルト混合物を道路に施工し、アスファルト舗装材層を形成する工程を有する。具体的には、道路舗装方法は、アスファルトと、前述のポリエステルと、骨材とを混合する、アスファルト混合物を得る工程(工程1)、及び前記工程1で得られたアスファルト混合物を道路に施工してアスファルト舗装材層を形成する工程(工程2)を含む。アスファルト舗装材層は、基層又は表層であることが好ましい。
【0080】
アスファルト混合物は、公知の施工機械編成で、同様の方法によって締固め施工すればよい。加熱アスファルト混合物として使用する場合の締固め温度は、マイクロプラスチック量の低減の観点から、ポリエステルの軟化点よりも高い温度が好ましく、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、更に好ましくは130℃以上であり、そして、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。
【0081】
本発明は、更に、以下の<1>~<8>を開示する
<1> アスファルト及びポリエステルを含有するアスファルト組成物であって、
前記ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート、アルコール及びカルボン酸化合物の重縮合物であり、
前記ポリエチレンテレフタレートの(DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値が5J/g以上30J/g以下であり、かつ、前記ポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV)が0.6以上1.05以下である、アスファルト組成物。
<2> 前記ポリエチレンテレフタレートの(DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値が10J/g以上30J/g以下であり、かつ、前記ポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV)が0.6以上1.05以下である、上記<1>に記載のアスファルト組成物。
<3> 前記ポリエチレンテレフタレートの(DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値が12J/g以上30J/g以下であり、かつ、前記ポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV)が0.6以上1.05以下である、上記<1>に記載のアスファルト組成物。
<4> 前記ポリエチレンテレフタレートの(DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値が5J/g以上30J/g以下であり、かつ、前記ポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV)が0.6以上1.05以下であり、かつ、前記ポリエステルの数平均分子量(Mn)が1600以上5000以下である、上記<1>に記載のアスファルト組成物。
<5> 前記ポリエチレンテレフタレートの(DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値が5J/g以上30J/g以下であり、かつ、前記ポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV)が0.6以上1.05以下であり、かつ、前記ポリエステルの数平均分子量(Mn)が2000以上5000以下である、上記<1>に記載のアスファルト組成物。
<6> 前記ポリエチレンテレフタレートの(DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値が5J/g以上30J/g以下であり、かつ、前記ポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV)が0.6以上1.05以下であり、かつ、前記ポリエステルの数平均分子量(Mn)が1600以上4000以下である、上記<1>に記載のアスファルト組成物。
<7> 前記ポリエチレンテレフタレートの(DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値が10J/g以上30J/g以下であり、かつ、前記ポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV)が0.6以上1.05以下であり、かつ、前記ポリエステルの数平均分子量(Mn)が2000以上5000以下である、上記<1>に記載のアスファルト組成物。
<8> 前記ポリエチレンテレフタレートの(DSC測定による吸熱量)-(DSC測定による発熱量)の値が10J/g以上30J/g以下であり、かつ、前記ポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV)が0.6以上1.05以下であり、かつ、前記ポリエステルの数平均分子量(Mn)が2000以上4000以下である、上記<1>に記載のアスファルト組成物。
【実施例】
【0082】
樹脂等の各物性値については次の方法により測定、評価した。
[測定方法]
〔PETの固有粘度(IV)〕
PETの固有粘度(IV)は、フェノール/テトラクロロエタン(質量比)が60/40の混合溶媒に0.4g/dLの濃度にて溶解し、ウベローデ型粘度計にて測定を行い、下記式に従って算出することで求めた。
【数1】
〔式中、kはハギンズの定数であり、Cは試料溶液の濃度(g/dL)であり、η=(t1/t0)-1であり、t0は溶媒のみの落下秒数であり、t1は試料溶液の落下秒数である。kは0.33とする。〕
【0083】
〔PETのDSC測定による吸熱量及び発熱量〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー エイ インスツルメント ジャパン株式会社製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、300℃まで昇温速度10℃/分で昇温した。吸熱の最大ピーク温度を含む吸熱挙動部分にベースラインを引き、その面積を吸熱量とした。発熱の最大ピーク温度を含む発熱挙動部分にベースラインを引き、その面積を発熱量とした。
【0084】
〔ポリエステルの酸価及び水酸基価〕
ポリエステルの酸価及び水酸基価は、JIS K0070:1992の方法に基づき測定した。ただし、測定溶媒のみJIS K0070:1992に規定のエタノールとエーテルとの混合溶媒から、アセトンとトルエンとの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更した。
【0085】
〔ポリエステルの軟化点及びガラス転移点〕
(1)軟化点
フローテスター「CFT-500D」(株式会社島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出した。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とした。
(2)ガラス転移点
示差走査熱量計「Q-100」(ティー エイ インスツルメント ジャパン株式会社製)を用いて、試料0.01~0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した。次に昇温速度10℃/分で150℃まで昇温しながら測定した。吸熱の最大ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移点とした。
【0086】
〔樹脂の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)〕
以下の方法により、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により数平均分子量及び重量平均分子量を求めた。
(1)試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mLになるように、試料をテトラヒドロフランに、40℃で溶解させた。次いで、この溶液を孔径0.20μmのPTFEタイプメンブレンフィルター「DISMIC-25JP」(東洋濾紙株式会社製)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とした。
(2)分子量測定
下記の測定装置と分析カラムを用い、溶離液としてテトラヒドロフランを、毎分1mLの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させた。そこに試料溶液100μLを注入して測定を行う。試料の分子量は、あらかじめ作成した検量線に基づき算出した。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー株式会社製のA-500(5.0×102)、A-1000(1.01×103)、A-2500(2.63×103)、A-5000(5.97×103)、F-1(1.02×104)、F-2(1.81×104)、F-4(3.97×104)、F-10(9.64×104)、F-20(1.90×105)、F-40(4.27×105)、F-80(7.06×105)、F-128(1.09×106))を標準試料として作成したものを用いた。括弧内は分子量を示す。
測定装置:「HLC-8220GPC」(東ソー株式会社製)
分析カラム:「TSKgel GMHXL」+「TSKgel G3000HXL」(東ソー株式会社製)
【0087】
〔ポリエステル中の分子量500以下の成分の含有量〕
以下の方法により、GPC法によりポリエステル中の分子量が500以下の成分の割合(質量%)を求めた。
(1)試料溶液の調製及び測定は、前記ポリエステルの数平均分子量及び重量平均分子量の測定と同様の方法で行った。
(2)算出方法
前記方法によって得られたチャートのピークを、前記標準物質から作成した検量線による換算分子量500である保持時間において、直線により切断し、その分子量の小さい側のピークの面積を全体のピークの面積で除した値を分子量が500以下の成分の割合(質量%)として算出した。
【0088】
[PET]
(PET-1)
PET-1としては、特開2004-163808号公報に記載のPET-cを使用し、溶融混練せず、そのままポリエステル合成に使用した。
【0089】
(PET-2)
PET-1 100質量部を混練部分の全長1560mm、スクリュー径42mm、バレル内径43mmの同方向回転二軸押出し機を用い、ロール回転速度200r/min、ロール内の加熱温度280℃で溶融混練してPET-1の溶融混練物を得た。PET-1の供給速度は10kg/h、平均滞留時間は約18秒であった。
得られた溶融混練物を水温20℃の冷却ローラーを使用しながら冷却し、粗粉砕してPET-2を得た。
【0090】
(PET-2A)
PET-2の調製と同様にしてPET-1の溶融混練物を得た。
得られた溶融混練物を水温5℃の冷却ローラーを使用しながら即座に冷却し、粗粉砕してPET-2Aを得た。
【0091】
(PET-2B)
PET-2の調製と同様にしてPET-1の溶融混練物を得た。
得られた溶融混練物を水温35℃のローラーを使用しながら冷却し、粗粉砕してPET-2Bを得た。
【0092】
(PET-3)
PET-3としては、「RAMAPET N2G」(Indorama Ventures社製)を使用し、溶融混練せず、そのままポリエステル合成に使用した。
【0093】
(PET-4)
PET-2の調製において、PET-1をPET-3に代えたこと以外は同様にして、PET-3の溶融混練物を得た。
得られた溶融混練物を水温5℃の冷却ローラーを使用しながら即座に冷却し、粗粉砕してPET-4を得た。
【0094】
(PET-5)
PET-2の調製において、PET-1を「TRN-MTJ」(帝人株式会社製)に代えたこと以外は同様にして、溶融混練物を得た。
得られた溶融混練物を水温5℃の冷却ローラーを使用しながら即座に冷却し、粗粉砕してPET-5を得た。
【0095】
(PET-6)
PET-6としては、「SA-1206」(ユニチカ株式会社製)を用いた。
【0096】
(PET-7)
PET-2の調製において、PET-1をPET-6に代えたこと以外は同様にして、溶融混練物を得た。
得られた溶融混練物を水温20℃の冷却ローラーを使用しながら冷却し、粗粉砕してPET-7を得た。
【0097】
(PET-8)
PET-8としては、「Recycle Pellet Polyester Chip white」(Polindo UTAMA社製)をを使用し、溶融混練せず、そのままポリエステル合成に使用した。
【0098】
【0099】
製造例1~10
(ポリエステル(A1)~(A10)及び(A12))
表2及び3に示すアジピン酸以外の原料を、窒素導入管、100℃の熱水を通した分留管を装備した脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下にてジ(2-エチルヘキサン酸)錫(II)20g、及び没食子酸2gを添加し、180℃まで昇温した。180℃で1時間保温した後に180℃から210℃まで10℃/時間で昇温し、その後210℃で7時間縮重合反応させ、さらに210℃、8.0kPaにて1時間反応を行った。次にアジピン酸を添加し、210℃、10kPaにて表2及び3に示す軟化点に達するまで反応を行って、非晶質ポリエステル(A1)~(A10)及び(A12)を得た。
【0100】
製造例11
(ポリエステル(A11))
表3に示すアジピン酸以外の原料を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてジ(2-エチルヘキサン酸)錫(II)20g、及び没食子酸2gを添加し、マントルヒーター中で235℃まで昇温を行い235℃到達後7時間保持した後8.0kPaにて1時間減圧反応を行った。その後、180℃まで冷却後、アジピン酸を投入し、210℃まで2時間かけて昇温後210℃で1時間保持し、減圧反応を行いながら、表3に示す軟化点に達するまで反応を行い、ポリエステル(A11)を得た。
【0101】
【0102】
【0103】
製造例12
(ポリエステル(B1))
表4に示すアジピン酸以外のポリエステル系樹脂の原料を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、160℃まで昇温した。その後、アクリル酸(両反応性モノマー)、ビニル系樹脂の原料モノマー及び重合開始剤の混合物を滴下ロートにより1時間かけて滴下した。滴下後、160℃に保持したまま、1時間付加重合反応を熟成させた後、200℃まで上昇させ、2-エチルヘキサン酸錫(II)20g及び没食子酸2gを入れた後、230℃で6時間縮重合反応させ、さらに230℃、8.0kPaにて1時間反応を行った。210℃まで冷却した後、アジピン酸を投入し、210℃、10kPaにて表4に示す軟化点に達するまで反応を行って、ポリエステル(B1)を得た。
【0104】
【0105】
実施例1
バインダ混合物として、180℃に加熱した改質II型アスファルト(東亜道路工業株式会社製)2200gを3Lのステンレス容器に入れて100rpmで撹拌し、ポリエステル(A1)110g(アスファルト100質量部に対して5質量部)を徐々に添加し、300rpmにて2時間撹拌し、アスファルト組成物(AS-1)を作製した。
【0106】
次に180℃に加熱した骨材(骨材の組成は以下を参照)11kgをアスファルト用混合機に入れ、180℃にて60秒間混合した。
次いで前記アスファルト組成物(AS-1)635gを加え、アスファルト用混合機にて2分間混合した。得られたアスファルト混合物を180℃で2時間保管後、300×300×50mmの型枠に充填し、ローラーコンパクター(株式会社岩田工業所製)を用い、温度150℃、荷重0.44kPaにて25回転圧処理を行い、供試体としてアスファルト混合物(M-1)を作成した。
【0107】
<骨材の組成>
6号砕石 50.9質量部
砕砂1 10.4質量部
砕砂2 22.1質量部
細砂 10.4質量部
石粉 6.2質量部
通過質量%:
ふるい目 15 mm: 100 質量%
ふるい目 10 mm: 85.6質量%
ふるい目 5 mm: 49.7質量%
ふるい目 2.5 mm: 44.6質量%
ふるい目 1.2 mm: 31.6質量%
ふるい目 0.6 mm: 21.3質量%
ふるい目 0.3 mm: 12.7質量%
ふるい目 0.15mm: 7.1質量%
【0108】
実施例2~7、12及び13
実施例1において、ポリエステル(A1)をポリエステル(A2)~(A6)、(A11)、(B1)又は(A12)にそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト組成物(AS-2)~(AS-7)、(AS-12)及び(AS-13)を作製した。
実施例1において、アスファルト組成物(AS-1)635gをアスファルト組成物(AS-2)~(AS-7)、(AS-12)又は(AS-13)635gにそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、供試体としてアスファルト混合物(M-2)~(M-7)、(M-12)及び(M-13)を得た。
【0109】
実施例8
実施例1において、ポリエステル(A1)の添加量を550g(アスファルト100質量部に対して25質量部)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト組成物(AS-8)を得た。
実施例1において、アスファルト組成物(AS-1)635gをアスファルト組成物(AS-8)756gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、供試体としてアスファルト混合物(M-8)を得た。
【0110】
実施例9
実施例1において、アスファルトをストレートアスファルト(東亜道路工業株式会社製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト組成物(AS-9)を得た。
実施例1において、アスファルト組成物(AS-1)635gをアスファルト組成物(AS-9)635gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、供試体としてアスファルト混合物(M-9)を得た。
【0111】
実施例10
実施例1において、アスファルトを改質アスファルト「PG76-22」(米国テキサス州、Ergon社製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト組成物(AS-10)を得た。
実施例1において、アスファルト組成物(AS-1)635gをアスファルト組成物(AS-10)635gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、供試体としてアスファルト混合物(M-10)を得た。
【0112】
実施例11
実施例1において、アスファルトを改質アスファルト(メキシコ FESPA社製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト組成物(AS-11)を得た。
実施例1において、アスファルト組成物(AS-1)635gをアスファルト組成物(AS-11)635gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、供試体としてアスファルト混合物(M-11)を得た。
【0113】
比較例1
実施例1において、ポリエステル(A1)を添加せず、改質II型アスファルトをそのまま使用した。
実施例1において、アスファルト組成物(AS-1)635gを改質II型アスファルト605gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、供試体としてアスファルト混合物(M-A)を得た。
【0114】
比較例2~5
実施例1において、ポリエステル(A1)をポリエステル(A7)~(A10)にそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト組成物(AS-a1)~(AS-a4)を作製した。
実施例1において、アスファルト組成物(AS-1)635gをアスファルト組成物(AS-a1)~(AS-a4)635gにそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、供試体としてアスファルト混合物(M-a1)~(M-a4)を得た。
【0115】
比較例6
実施例1において、ポリエステル(A1)をPET-1に変更したこと以外は実施例1と同様にして、アスファルト組成物(AS-a5)を作製した。
実施例1において、アスファルト組成物(AS-1)635gをアスファルト組成物(AS-a5)635gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、供試体としてアスファルト混合物(M-a5)を得た。
【0116】
[評価]
<マイクロプラスチック量の測定>
60℃恒温室にて60℃に設定した温水に前記供試体を浸漬し、ホイールトラッキング試験機(株式会社岩田工業所製)を用いて、荷重150kg、接地圧0.9MPa、水温60℃、速度15回/分の条件で、試験を実施し1200回(80分間)後に停止した。水槽内を脱水し乾燥させた後に、堆積した摩耗粉を回収し秤量して、これを「マイクロプラスチック発生量」とした。なお、得られた値は0.3m2あたりの発生量であり、これを1m2あたりに換算した。
【0117】
【0118】
ポリエチレンテレフタレートをそのまま配合した比較例6は、マイクロプラスチックの発生量を充分に低減できない。特定のポリエチレンテレフタレートに由来する構成単位を含まない比較例2~5は、マイクロプラスチックの発生量を充分に低減できない。
これに対し、本発明によれば、特定のポリエチレンテレフタレートに由来する構成単位を含む特定のポリエステルを含有するアスファルト組成物が、マイクロプラスチックの発生量を顕著に低減できることがわかる。