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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-21
(45)【発行日】2025-03-31
(54)【発明の名称】半導体加工用粘着シート
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20250324BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20250324BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20250324BHJP
   H01L 21/304 20060101ALN20250324BHJP
【FI】
H01L21/68 N
C09J7/38
C09J201/00
H01L21/304 622L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019225598
(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公開番号】P2021097074
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】河野 広希
(72)【発明者】
【氏名】小坂 尚史
(72)【発明者】
【氏名】亀井 勝利
【審査官】小山 和俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-047312(JP,A)
【文献】特開2002-203821(JP,A)
【文献】特開2008-115273(JP,A)
【文献】特開2005-179496(JP,A)
【文献】特開2012-177084(JP,A)
【文献】特開2011-119427(JP,A)
【文献】特開2005-101628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
C09J 7/38
C09J 201/00
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着面を構成する粘着剤層を含む半導体加工用粘着シートであって、
前記粘着剤層は、ベースポリマーと、該ベースポリマー100重量部に対して0.1重量部以上5重量部以下の界面活性剤と、を含み、
初期通常剥離力Fdが0.10N/20mm以上であり、かつ
150℃で15分間の加熱処理を行った後の通常剥離力Fdが0.005N/20mm以上0.60N/20mm以下であり、
200℃で15分間の加熱処理を行った後の通常剥離力Fd が0.69N/20mm以上3.00N/20mm以下である、半導体加工用粘着シート。
【請求項2】
150℃で15分間の加熱処理を行った後に前記粘着シートの被着体からの剥離前線に水を供給して測定される水剥離力Fwが0.30N/20mm以下である、請求項1に記載の半導体加工用粘着シート。
【請求項3】
200℃で15分間の加熱処理を行った後、前記粘着シートの被着体からの剥離前線に水を供給して測定される水剥離力Fwが2.00N/20mm以下である、請求項1に記載の半導体加工用粘着シート。
【請求項4】
前記粘着剤層を支持する基材を含む、請求項1からのいずれか一項に記載の半導体加工用粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体加工用粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の製造過程において、回路形成された半導体ウエハに研削、切断等の加工を施す工程は、上記半導体ウエハの保護や固定のため、一般に、該半導体ウエハ(被着体)の回路形成面側に粘着シート(半導体加工用粘着シート)が貼り付けられた状態で行われる。例えば、半導体ウエハの裏面を研削(バックグラインド)する際に、半導体ウエハの回路形成面(おもて面)を保護し、また半導体ウエハを保持(固定)するために、バックグラインドテープが用いられている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-212441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バックグラインドテープその他の半導体加工用粘着シートは、その使用目的を果たした後、所望のタイミングで被着体から剥離される。そのため、半導体加工用粘着シートには、加工時における被着体への密着性や接合信頼性と、該被着体から剥離する際の剥離性とを、バランスよく両立させることが求められる。しかし、室温域では上記特性をバランスよく両立する半導体加工用粘着シートであっても、被着体への貼付け後に所定温度以上の高温状態に曝されると剥離力が大きく上昇し、これにより被着体への糊残りや、剥離時の負荷による被着体の損傷を生じる懸念があった。特に近年では、半導体素子の小型化、薄型化、高集積化に伴ってバックグラインド後の半導体ウエハが薄型化する傾向にあり、高温に曝される加工プロセス(高温プロセス)を経た後にも被着体への負荷を抑えて剥離することのできる半導体加工用粘着シートが望まれている。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みて創出されたものであり、高温プロセスを含む使用態様にも適した半導体加工用粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示される半導体加工用粘着シートは、粘着面を構成する粘着剤層を含む。上記半導体加工用粘着シート(以下、単に「粘着シート」と表記することがある。)のいくつかの態様において、該粘着シートは、初期通常剥離力Fdが0.10N/20mm以上であり(以下「条件A」ともいう。)、かつ150℃で15分間の加熱処理を行った後の通常剥離力Fdが1.00N/20mm以下である(以下「条件B」ともいう。)。このように初期通常剥離力Fdの下限および150℃で15分間加熱処理後の通常剥離力Fd(以下「150℃加熱後通常剥離力」ともいう。)の上限が制限された粘着シートは、高温プロセスを含む使用態様においても、加工時における被着体への密着性や接合信頼性と該被着体から剥離する際の剥離性とをバランスよく両立し得る。
【0007】
ここに開示される半導体加工用粘着シートのいくつかの態様において、該粘着シートは、上記条件Aを満たし、かつ150℃で15分間の加熱処理を行った後に上記粘着シートの被着体からの剥離前線に水を供給して測定される水剥離力Fwが0.30N/20mm以下である(以下「条件C」ともいう。)。このように初期通常剥離力Fdの下限および150℃で15分間加熱処理後の水剥離力Fw(以下「150℃加熱後水剥離力」ともいう。)の上限が制限された粘着シートは、高温プロセスを含む使用態様においても、加工時における被着体への密着性や接合信頼性と該被着体から剥離する際の剥離性とをバランスよく両立し得る。上記被着体からの剥離を水剥離法で行うことにより、被着体への負荷をさらに軽減し得る。
【0008】
ここに開示される半導体加工用粘着シートのいくつかの態様において、該粘着シートは
、上記条件Aを満たし、かつ200℃で15分間の加熱処理を行った後の通常剥離力Fdが3.00N/20mm以下である(以下「条件D」ともいう。)。このように初期通常剥離力Fdの下限および200℃で15分間加熱処理後の通常剥離力Fd(以下「200℃加熱後通常剥離力」ともいう。)の上限が制限された粘着シートは、より厳しい条件での高温プロセスを含む使用態様においても、加工時における被着体への密着性や接合信頼性と該被着体から剥離する際の剥離性とをバランスよく両立し得る。
【0009】
ここに開示される半導体加工用粘着シートのいくつかの態様において、該粘着シートは、上記条件Aを満たし、かつ200℃で15分間の加熱処理を行った後、上記粘着シートの被着体からの剥離前線に水を供給して測定される水剥離力Fwが2.00N/20mm以下である(以下「条件E」ともいう。)。このように初期通常剥離力Fdの下限および200℃で15分間加熱処理後の水剥離力Fw(以下「200℃加熱後水剥離力」ともいう。)の上限が制限された粘着シートは、より厳しい条件での高温プロセスを含む使用態様においても、加工時における被着体への密着性や接合信頼性と該被着体から剥離する際の剥離性とをバランスよく両立し得る。上記被着体からの剥離を水剥離法で行うことにより、被着体への負荷をさらに軽減し得る。
【0010】
ここに開示される半導体加工用粘着シートのいくつかの態様において、該粘着シートは、150℃で15分間の加熱処理を行った後の通常剥離力Fd[N/20mm]と、200℃で15分間の加熱処理を行った後の通常剥離力Fd[N/20mm]とから、次式:Fd/Fd;により算出される通常剥離力比が4.0以下である。これにより、粘着シートは、高温プロセスにおいて温度ムラ等の処理ムラが生じても、剥離力への影響を受けにくい。
【0011】
ここに開示される半導体加工用粘着シートのいくつかの態様において、該粘着シートは、150℃で15分間の加熱処理を行った後の通常剥離力Fd[N/20mm]と、200℃で15分間の加熱処理を行った後の通常剥離力Fd[N/20mm]とから、次式:Fd-Fd;により算出される通常剥離力差が1.50N/20mm以下である。これにより、粘着シートは、高温プロセスにおいて温度ムラ等の処理ムラが生じても、剥離力への影響を受けにくい。
【0012】
なお、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれ得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】粘着シートの一構成例を模式的に示す断面図である。
図2】粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
図3】粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
図4】粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
図5】粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
図6】粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、本明細書に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて当業者に理解され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際に提供される製品のサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
【0015】
この明細書において、水等の水性剥離液を利用して被着体から粘着シートを剥離すること(典型的には、被着体からの剥離前線に水性剥離液を供給して剥離すること)を、「水剥離」または「水剥離法」ということがある。
【0016】
この明細書において「アクリル系ポリマー」とは、アクリル系モノマーを50重量%より多く(好ましくは70重量%より多く、例えば90重量%より多く)含むモノマー原料に由来する重合物をいう。上記アクリル系モノマーとは、1分子中に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマーをいう。また、この明細書において「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよびメタクリロイルを包括的に指す意味である。同様に、「(メタ)アクリレート」とはアクリレートおよびメタクリレートを、「(メタ)アクリル」とはアクリルおよびメタクリルを、それぞれ包括的に指す意味である。
【0017】
また、この明細書において「活性エネルギー線」とは、紫外線、可視光線、赤外線のような光や、α線、β線、γ線、電子線、中性子線、X線のような放射線等を包含する概念である。
【0018】
<粘着シートの構成例>
ここに開示される粘着シートは、粘着剤層を備える。この粘着剤層は、典型的には粘着シートの少なくとも一方の表面を構成している。粘着シートは、基材(支持体)の片面または両面に粘着剤層を有する形態の基材付き粘着シートであってもよく、基材を含まない形態の粘着シート(基材レス粘着シート)であってもよい。
ここでいう粘着シートの概念には、粘着テープ、粘着ラベル、粘着フィルム等と称されるものが包含され得る。また、上記粘着剤層は典型的には連続的に形成されるが、かかる形態に限定されるものではなく、例えば点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成された粘着剤層であってもよい。また、本明細書により提供される粘着シートは、ロール状であってもよく、枚葉状であってもよい。あるいは、さらに種々の形状に加工された形態の粘着シートであってもよい。
【0019】
ここに開示される粘着シートは、例えば、図1図6に模式的に示される断面構造を有するものであり得る。このうち図1図2は、片面接着性の基材付き粘着シート(基材付き片面粘着シート)の構成例である。図1に示す粘着シート1は、基材10の一面10A(非剥離性)に粘着剤層21が設けられ、その粘着剤層21の表面(粘着面)21Aが、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー31で保護された構成を有する。図2に示す粘着シート2は、基材10の一面10A(非剥離性)に粘着剤層21が設けられた構成を有する。この粘着シート2では、基材10の他面10Bは剥離面となっており、粘着シート2を巻回すると該他面10Bに粘着剤層21が当接して、該粘着剤層の表面(粘着面)21Aが基材10の他面10Bで保護されるようになっている。
【0020】
図3図4は、両面接着タイプの基材付き粘着シート(基材付き両面粘着シート)の構成例である。図3に示す粘着シート3は、基材10の第一面10Aおよび第二面10B(いずれも非剥離性)に、粘着剤層(第一粘着剤層)21、粘着剤層(第二粘着剤層)22がそれぞれ設けられ、第一粘着剤層21の表面(第一粘着面)および第二粘着剤層22の表面(第二粘着面)が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー31,32によってそれぞれ保護された構成を有している。図4に示す粘着シート4は、基材10の第一面10Aおよび第二面10B(いずれも非剥離性)に、それぞれ第一粘着剤層21,第二粘着剤層22が設けられ、それらのうち第一粘着剤層21の表面(第一粘着面)が、両面が剥離面となっている剥離ライナー31により保護された構成を有している。粘着シート4は、該粘着シート4を巻回して第二粘着剤層22の表面(第二粘着面)を剥離ライナー31の裏面に当接させることにより、第二粘着面もまた剥離ライナー31によって保護された構成とすることができる。
【0021】
図5図6は、基材レスの両面接着性粘着シート(基材レス両面粘着シート)の構成例である。図5に示す粘着シート5は、基材レスの粘着剤層21の一方の表面(第一粘着面)21Aおよび他方の表面(第二粘着面)21Bが、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー31,32によってそれぞれ保護された構成を有する。図6に示す粘着シート6は、粘着剤層21の一方の表面(第一粘着面)21Aが、両面が剥離面となっている剥離ライナー31により保護された構成を有し、これを巻回すると、粘着剤層21の他方の表面(第二粘着面)21Bが剥離ライナー31の背面に当接することにより、他面21Bもまた剥離ライナー31で保護された構成とできるようになっている。
基材レスまたは基材付きの両面粘着シートは、一方の粘着面に非剥離性の基材を貼り合わせることにより、基材付き片面粘着シートとして使用することができる。
【0022】
使用前(被着体への貼付け前)の粘着シートは、例えば図1~6に示すように、粘着面が剥離ライナーで保護された剥離ライナー付き粘着シートの形態であり得る。剥離ライナーとしては、特に限定されず、例えば樹脂フィルムや紙等のライナー基材の表面が剥離処理された剥離ライナーや、フッ素系ポリマー(ポリテトラフルオロエチレン等)やポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)の低接着性材料からなる剥離ライナー等を用いることができる。上記剥離処理には、例えば、シリコーン系、長鎖アルキル系等の剥離処理剤が用いられ得る。いくつかの態様において、剥離処理された樹脂フィルムを剥離ライナーとして好ましく採用し得る。
【0023】
ここに開示される粘着シートが基材付き両面粘着シートまたは基材レス両面粘着シートの形態である場合、第一粘着面を構成する粘着剤(第一粘着剤)と第二粘着面を構成する粘着剤(第二粘着剤)とは、同じ組成であってもよく異なる組成であっていてもよい。第一粘着面と第二粘着面とで組成の異なる基材レス両面粘着シートは、例えば、組成の異なる二以上の粘着剤層が直接(基材を介することなく)積層した多層構造の粘着剤層により実現することができる。
【0024】
<粘着剤層>
ここに開示される粘着シートの粘着面を構成する粘着剤層は、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤(天然ゴム系、合成ゴム系、これらの混合系等)、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエーテル系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、フッ素系粘着剤等の公知の各種粘着剤から選択される1種または2種以上の粘着剤を含んで構成された粘着剤層であり得る。ここで、アクリル系粘着剤とは、アクリル系ポリマーをベースポリマーとする粘着剤をいう。ゴム系粘着剤その他の粘着剤についても同様の意味である。
なお、この明細書において、粘着剤の「ベースポリマー」とは、該粘着剤に含まれるポリマーの主成分をいう。また、この明細書において「主成分」とは、特記しない場合、50重量%を超えて含まれる成分を指す。
【0025】
(アクリル系粘着剤層)
ここに開示される粘着シートのいくつかの態様において、上記粘着剤層は、アクリル系粘着剤を主成分として含むアクリル系粘着剤層であり得る。アクリル系粘着剤層を備えた粘着シートにおいて、半導体加工に適した粘着特性と、水剥離による軽剥離性とを好ましく両立させ得る。
【0026】
アクリル系粘着剤としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレートを含むモノマー原料の重合物であるアクリル系ポリマーを、ベースポリマーとして含有するものが好ましい。上記モノマー原料の構成成分としては、エステル末端に炭素原子数1以上20以下の直鎖または分岐鎖状のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを好ましく使用し得る。以下、炭素原子数がX以上Y以下のアルキル基をエステル末端に有するアルキル(メタ)アクリレートを「CX-Yアルキル(メタ)アクリレート」と表記することがある。半導体加工用途に適した粘着特性が得られやすいことから、C1-20アルキル(メタ)アクリレートとしては、C1-14(例えばC1-12)アルキル(メタ)アクリレートが好ましい。また、C1-20アルキルアクリレートとしては、C1-20(例えばC1-14、典型的にはC1-12)アルキルアクリレートが好ましい。
【0027】
1-20アルキル(メタ)アクリレートの非限定的な具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらアルキル(メタ)アクリレートは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましいアルキル(メタ)アクリレートとして、エチルアクリレート(EA)、n-ブチルアクリレート(BA)、2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)、ラウリルアクリレート(LA)が挙げられる。いくつかの態様において、モノマー原料は、EA、BA、2EHAおよびLAの少なくとも一つを含むことが好ましく、EA、BAおよび2EHAの少なくとも一つを含むことがより好ましく、BAおよび2EHAの少なくとも一つを含むことがさらに好ましい。
【0028】
特性のバランスをとりやすいことから、いくつかの態様において、上記モノマー原料のうちC1-20アルキル(メタ)アクリレートの占める割合は、通常、40重量%以上であることが適当であり、50重量%よりも多いことが好ましく、例えば55重量%以上であってよく、60重量%以上でもよく、65重量%以上でもよく、70重量%以上でもよい。同様の理由から、上記モノマー原料におけるC1-20アルキル(メタ)アクリレートの割合は、通常、99.9重量%以下であることが適当であり、99重量%以下でもよく、98重量%以下でもよい。被着体からの剥離前線に水性剥離液を供給することによる軽剥離化に適した粘着シートを形成しやすくする観点から、いくつかの態様において、上記モノマー原料におけるC1-20アルキル(メタ)アクリレートの割合は、例えば95重量%以下であってよく、85重量%以下でもよく、80重量%未満でもよく、70重量%以下でもよく、65重量%以下でもよい。
【0029】
アクリル系ポリマーの合成に用いられるモノマー原料は、上述のようなアルキル(メタ)アクリレートと共重合性を有する副モノマーをさらに含み得る。副モノマーは、アクリル系ポリマーに架橋点を導入したり、アクリル系ポリマーの凝集力を高めたりするために役立ち得る。
【0030】
副モノマーとしては、例えば以下のような官能基含有モノマーを、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
水酸基含有モノマー:例えば2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(4-ヒドロキシメチルシクロへキシル)メチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;ビニルアルコール、アリルアルコール等の不飽和アルコール類;2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル等のエーテル系化合物。
カルボキシ基含有モノマー:例えば、アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)、クロトン酸、イソクロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸。
酸無水物基含有モノマー:例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸。
窒素原子含有環を有するモノマー:例えばN-ビニル-2-ピロリドン、メチル-N-ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルピラジン、ビニルピリミジン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルピペラジン、N-ビニルピロール、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルオキサゾール、N-ビニルモルホリン、N-ビニル-3-モルホリノン、N-ビニル-2-カプロラクタム、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン、N-ビニルピラゾール、N-ビニルイソオキサゾール、N-ビニルチアゾール、N-ビニルイソチアゾール、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイル-2-ピロリドン、N-(メタ)アクリロイルピペリジン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン等。
アミド基含有モノマー:例えば、(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(n-ブチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(t-ブチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルカルボン酸アミド類;水酸基とアミド基とを有するモノマー、例えば、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(1-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド、N-(4-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド等のN-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;アルコキシ基とアミド基とを有するモノマー、例えば、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド等。
アミノ基含有モノマー:例えばアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート。
スクシンイミド骨格を有するモノマー:例えば、N-(メタ)アクリロイルオキシメチレンスクシンイミド、N-(メタ)アクリロイル-6-オキシヘキサメチレンスクシンイミド、N-(メタ)アクリロイル-8-オキシヘキサメチレンスクシンイミド等。
マレイミド類:例えば、N-シクロヘキシルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-フェニルマレイミド等。
イタコンイミド類:例えば、N-メチルイタコンイミド、N-エチルイタコンイミド、N-ブチルイタコンイミド、N-オクチルイタコンイミド、N-2-エチルへキシルイタコンイミド、N-シクロへキシルイタコンイミド、N-ラウリルイタコンイミド等。
エポキシ基含有モノマー:例えばグリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル。
シアノ基含有モノマー:例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル。
ケト基含有モノマー:例えばジアセトン(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリレート、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、アリルアセトアセテート、ビニルアセトアセテート。
アルコキシシリル基含有モノマー:例えば3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等のアルコキシシリル基含有(メタ)アクリレートや、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のアルコキシシリル基含有ビニル化合物等。
アミノ基含有モノマー:例えばアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート。
エポキシ基を有するモノマー:例えばグリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル。
スルホン酸基またはリン酸基を含有するモノマー:例えば、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸、2-ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート等。
イソシアネート基含有モノマー:例えば2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルイソシアネート、m-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート。
【0031】
上記官能基含有モノマーの量は、所望の凝集力が実現されるように適宜選択すればよく、特に限定されない。通常は、凝集力と他の特性(例えば接着性)とをバランス良く両立させる観点から、官能基含有モノマーの量(2種以上の官能基含有モノマーを用いる場合はそれらの合計量)は、モノマー原料全体の0.1重量%以上とすることが適当であり、好ましくは0.3重量%以上、例えば1重量%以上である。また、官能基含有モノマーの量は、モノマー原料全体の例えば50重量%以下であってよく、40重量%以下でもよい。加熱による剥離力上昇を抑制しやすくする観点から、いくつかの態様において、官能基含有モノマーの量は、モノマー原料全体の30重量%以下でもよく、25重量%以下でもよく、20重量%以下でもよく、10重量%以下でもよく、5重量%以下でもよい。
【0032】
いくつかの態様において、上記モノマー原料は、上記官能基含有モノマーとして、水酸基含有モノマーを含み得る。水酸基含有モノマーを使用する場合における使用量は、特に制限されず、例えば、モノマー原料全体の0.01重量%以上であってよく、0.1重量%以上でもよく、0.5重量%以上でもよく、1重量%以上でもよく、5重量%以上または10重量%以上でもよい。いくつかの態様において、水酸基含有モノマーの使用量は、モノマー原料全体の例えば50重量%以下とすることができ、粘着剤の吸水を抑制する観点から、通常は40重量%以下とすることが適当であり、30重量%以下としてもよく、25重量%以下としてもよく、20重量%以下としてもよい。また、いくつかの態様において、水酸基含有モノマーの使用量は、モノマー原料全体の15重量%以下としてもよく、10重量%以下としてもよく、5重量%以下としてもよい。あるいは、水酸基含有モノマーを使用しなくてもよい。
【0033】
いくつかの態様において、上記モノマー原料は、上記官能基含有モノマーとして、カルボキシ基含有モノマーを含み得る。アクリル系ポリマーの合成に用いられるモノマー原料全体に占めるカルボキシ基含有モノマーの割合は、例えば15重量%以下であってよく、10重量%以下でもよく、半導体加工時における粘着剤層の吸水抑制等の観点から7重量%以下であることが好ましく、5重量%以下でもよく、3重量%以下でもよい。上記モノマー原料は、カルボキシ基含有モノマーを実質的に含有しなくてもよい。ここで、カルボキシ基含有モノマーを実質的に含有しないとは、少なくとも意図的にはカルボキシ基含有モノマーが用いられていないことをいう。
【0034】
いくつかの態様において、上記モノマー原料は、上記官能基含有モノマーとして、窒素原子を有するモノマーを含み得る。窒素原子を有するモノマーの使用により、粘着剤に適度な極性を付与し得る。このことは、水等の水性剥離液の供給による軽剥離化に適した粘着シートの実現に有利となり得る。窒素原子を有するモノマーの一好適例として、窒素原子含有環を有するモノマーが挙げられる。窒素原子含有環を有するモノマーとしては、相溶性等の観点から、N-ビニル-2-ピロリドン等のN-ビニル型化合物(N-ビニル環状アミド等)やN-(メタ)アクリロイルモルホリン等のN-(メタ)アクリロイル型化合物を好ましく採用し得る。
【0035】
窒素原子を有するモノマー(例えば、窒素原子含有環を有するモノマー)を使用する場合における使用量は、特に制限されず、例えばモノマー原料全体の1重量%以上であってよく、2重量%以上でもよく、3重量%以上でもよく、5重量%以上でもよく、7重量%以上でもよい。より高い効果を得る観点から、いくつかの態様において、窒素原子を有するモノマーの使用量は、モノマー原料全体の10重量%以上であってもよく、15重量%以上でもよく、20重量%以上でもよい。また、特性のバランスをとりやすくする観点から、窒素原子を有するモノマーの使用量は、通常、モノマー原料全体の例えば40重量%以下とすることが適当であり、35重量%以下としてもよく、30重量%以下としてもよく、25重量%以下としてもよい。いくつかの態様において、窒素原子を有するモノマーの使用量は、モノマー原料全体の例えば20重量%以下としてもよく、15重量%以下としてもよく、10重量%以下としてもよく、5重量%以下としてもよい。あるいは、窒素原子を有するモノマーを使用しなくてもよい。
【0036】
アクリル系ポリマーの調製に用いられるモノマー原料は、該アクリル系ポリマーの凝集力を高める等の目的で、上述した官能基含有モノマー以外の副モノマー(以下、共重合性モノマーともいう。)を含んでいてもよい。
上記共重合性モノマーの非限定的な具体例としては、以下のものが挙げられる。
アルコキシ基含有モノマー:例えば、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル(アルコキシアルキル(メタ)アクリレート)類;メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等の、アルコキシ(ポリ)アルキレングリコール(メタ)アクリレート類。
ビニルエステル類:例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等。
ビニルエーテル類:例えば、メチルビニルエーテルやエチルビニルエーテル等のビニルアルキルエーテル。
芳香族ビニル化合物:例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等。
オレフィン類:例えば、エチレン、ブタジエン、イソプレン、イソブチレン等。
脂環式炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル:例えば、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート等の脂環式炭化水素基含有(メタ)アクリレート。
芳香環含有(メタ)アクリレート:例えば、フェニル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等のアリールオキシアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のアリールアルキル(メタ)アクリレート。
その他、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等の複素環含有(メタ)アクリレート、塩化ビニルやフッ素原子含有(メタ)アクリレート等のハロゲン原子含有モノマー、シリコーン(メタ)アクリレート等のオルガノシロキサン鎖含有モノマー、テルペン化合物誘導体アルコールから得られる(メタ)アクリル酸エステル等。
このような共重合性モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。かかる他の共重合性モノマーの量は、目的および用途に応じて適宜選択すればよく特に限定されないが、例えば、アクリル系ポリマーの全モノマー原料中の20重量%以下(例えば2~20重量%、典型的には3~10重量%)とすることが好ましい。
【0037】
好ましい一態様において、上記モノマー原料は、ゲル化抑制の観点から、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートおよびアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートの合計割合が20重量%未満に制限されていることが好ましい。上記アルコキシアルキル(メタ)アクリレートおよびアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートの合計割合は、より好ましくは10重量%未満、さらに好ましくは3重量%未満、特に好ましくは1重量%未満であり、一態様では、上記モノマー原料はアルコキシアルキル(メタ)アクリレートおよびアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートを実質的に含まない(含有量0~0.3重量%)。
同様に、一態様において、上記モノマー原料は、アルコキシ基含有モノマーを20重量%未満の割合で含むか、含まないものであり得る。上記モノマー原料に占めるアルコキシ基含有モノマーの量は、好ましくは10重量%未満、より好ましくは3重量%未満、さらに好ましくは1重量%未満であり、特に好ましい一態様では、上記モノマー原料はアルコキシ基含有モノマーを実質的に含まない(含有量0~0.3重量%)。
【0038】
モノマー原料を重合させる方法は特に限定されず、溶液重合法、乳化重合法、塊状重合法、懸濁重合法等の、アクリル系ポリマーの合成手法として知られている各種の重合方法を適宜採用することができる。例えば、溶液重合法を好ましく採用することができる。溶液重合を行う際のモノマー供給方法としては、全モノマー原料を一度に供給する一括仕込み方式、連続供給(滴下)方式、分割供給(滴下)方式等を適宜採用することができる。溶液重合に用いる溶媒(重合溶媒)は、従来公知の有機溶媒から適宜選択することができる。例えば、トルエン等の芳香族化合物類(典型的には芳香族炭化水素類);酢酸エチルや酢酸ブチル等のエステル類;ヘキサンやシクロヘキサン等の脂肪族または脂環式炭化水素類;1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化アルカン類;イソプロピルアルコール等の低級アルコール類(例えば、炭素原子数1~4の一価アルコール類);tert-ブチルメチルエーテル等のエーテル類;メチルエチルケトン等のケトン類;等から選択されるいずれか1種の溶媒、または2種以上の混合溶媒を用いることができる。重合温度は、使用するモノマーおよび溶媒の種類、重合開始剤の種類等に応じて適宜選択することができ、例えば20℃~120℃(典型的には40℃~80℃)程度とすることができる。溶液重合によると、モノマー原料の重合物が重合溶媒に溶解した形態の重合反応液が得られる。粘着剤層の形成に用いられる粘着剤組成物は、上記重合反応液を用いて好ましく製造され得る。
【0039】
重合にあたっては、重合方法や重合態様等に応じて、公知または慣用の熱重合開始剤や光重合開始剤を使用し得る。熱重合開始剤の例としては、アゾ系重合開始剤、過酸化物系開始剤、過酸化物と還元剤との組合せによるレドックス系開始剤、置換エタン系開始剤等を使用することができる。光重合開始剤の例としては、α-ケトール系光開始剤、アセトフェノン系光開始剤、ベンゾインエーテル系光開始剤、ケタール系光開始剤、芳香族スルホニルクロリド系光開始剤、光活性オキシム系光開始剤、ベンゾフェノン系光開始剤、チオキサントン系光開始剤、アシルホスフィノキシド系光開始剤等が挙げられる。重合開始剤は、1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0040】
重合開始剤の使用量は、通常の使用量であればよく、例えば、全モノマー原料100重量部に対して0.005~1重量部(典型的には0.01~1重量部)程度の範囲から選択することができる。
【0041】
上記重合には、必要に応じて、従来公知の各種の連鎖移動剤(分子量調節剤あるいは重合度調節剤としても把握され得る。)を使用することができる。連鎖移動剤としては、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸、α-チオグリセロール等のメルカプタン類を用いることができる。あるいは、硫黄原子を含まない連鎖移動剤(非硫黄系連鎖移動剤)を用いてもよい。非硫黄系連鎖移動剤の具体例としては、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン等のアニリン類;α-ピネン、ターピノーレン等のテルペノイド類;α-メチルスチレン、α―メチルスチレンダイマー等のスチレン類;ジベンジリデンアセトン、シンナミルアルコール、シンナミルアルデヒド等のベンジリデニル基を有する化合物;ヒドロキノン、ナフトヒドロキノン等のヒドロキノン類;ベンゾキノン、ナフトキノン等のキノン類;2,3-ジメチル-2-ブテン、1,5-シクロオクタジエン等のオレフィン類;フェノール、ベンジルアルコール、アリルアルコール等のアルコール類;ジフェニルベンゼン、トリフェニルベンゼン等のベンジル水素類;等が挙げられる。
連鎖移動剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。連鎖移動剤を使用する場合、その使用量は、モノマー原料100重量部に対して、例えば凡そ0.01~1重量部程度とすることができる。ここに開示される技術は、連鎖移動剤を使用しない態様でも好ましく実施され得る。
【0042】
アクリル系ポリマーの分子量は、特に制限されず、要求性能に合わせて適当な範囲に設定され得る。アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、通常は凡そ10×10以上(例えば20×10以上)であり、凝集力と接着力とをバランスよく両立する観点から、30×10超とすることが適当であり、凡そ40×10以上であることが好ましく、凡そ50×10以上でもよく、凡そ55×10以上でもよい。アクリル系ポリマーのMwの上限は特に限定されない。粘着剤組成物の塗工性の観点から、アクリル系ポリマーのMwは、通常は凡そ500×10以下であることが適当であり、例えば凡そ150×10以下であってよく、凡そ75×10以下であってもよい。上記Mwは、粘着剤組成物中、粘着剤層中いずれかにおけるアクリル系ポリマーのMwであり得る。
ここでMwとは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により得られた標準ポリスチレン換算の値をいう。GPC装置としては、例えば機種名「HLC-8320GPC」(カラム:TSKgelGMH-H(S)、東ソー社製)を用いることができる。後述の実施例においても同様である。
【0043】
アクリル系粘着剤層は、必要に応じてアクリル系ポリマー以外のポリマーを、副ポリマーとしてさらに含んでもよい。上記副ポリマーとしては、粘着剤層に含まれ得るポリマーとして例示した各種ポリマーのうちアクリル系ポリマー以外のものが好適例として挙げられる。ここに開示される粘着剤層が、アクリル系ポリマーに加えて副ポリマーを含むアクリル系粘着剤層である場合、該副ポリマーの含有量は、アクリル系ポリマー100重量部に対して100重量部未満とすることが適当であり、50重量部以下が好ましく、30重量部以下がより好ましく、10重量部以下がさらに好ましい。副ポリマーの含有量は、アクリル系ポリマー100重量部に対して5重量部以下であってもよく、1重量部以下であってもよい。ここに開示される技術は、例えば、粘着剤層に含まれるポリマーの99.5~100重量%がアクリル系ポリマーである態様で好ましく実施され得る。
【0044】
(アクリル系以外の粘着剤層)
ここに開示される粘着シートにおいて粘着面を構成する粘着剤層は、アクリル系ポリマー以外のポリマーをベースポリマーとする粘着剤層、すなわちアクリル系以外の粘着剤層であってもよい。アクリル系以外の粘着剤層は、ベースポリマーに加えて、該ベースポリマー以外の副ポリマーを必要に応じてさらに含んでいてもよい。この場合、アクリル系以外の粘着剤層における副ポリマーの含有量は、アクリル系粘着剤層における副ポリマーの含有量として例示した上記の含有量から選択され得る。アクリル系以外の粘着剤層は、副ポリマーとしてアクリル系ポリマーを含む粘着剤層であってもよい。
【0045】
(ガラス転移温度)
粘着面を構成する粘着剤層のベースポリマー(例えば、アクリル系ポリマー)のガラス転移温度(Tg)は、凡そ15℃以下であることが好ましい。いくつかの態様において、上記Tgは、被着体への密着性(例えば、被着体の表面形状への追従性)等の観点から、10℃以下であることが適当であり、0℃以下であることが好ましく、-10℃以下または-20℃以下であってもよく、-30℃以下でもよく、-40℃以下でもよい。また、粘着剤の凝集性や水剥離による軽剥離化容易性の観点から、ベースポリマーのTgは、例えば-75℃以上であってよく、-60℃以上でもよく、-55℃以上でもよい。
【0046】
ここで、本明細書においてポリマーのガラス転移温度(Tg)とは、該ポリマーを構成するモノマー原料の組成に基づいてFoxの式により求められるガラス転移温度をいう。上記Foxの式とは、以下に示すように、共重合体のTgと、該共重合体を構成するモノマーのそれぞれを単独重合したホモポリマーのガラス転移温度Tgiとの関係式である。
1/Tg=Σ(Wi/Tgi)
なお、上記Foxの式において、Tgは共重合体のガラス転移温度(単位:K)、Wiは該共重合体におけるモノマーiの重量分率(重量基準の共重合割合)、Tgiはモノマーiのホモポリマーのガラス転移温度(単位:K)を表す。
【0047】
Tgの算出に使用するホモポリマーのガラス転移温度としては、公知資料に記載の値を用いるものとする。例えば、以下に挙げるモノマーについては、該モノマーのホモポリマーのガラス転移温度として、以下の値を使用する。
2-エチルヘキシルアクリレート -70℃
n-ブチルアクリレート -55℃
イソステアリルアクリレート -18℃
メチルメタクリレート 105℃
メチルアクリレート 8℃
エチルアクリレート -22℃
N-ビニル-2-ピロリドン 54℃
N-アクリロイルモルホリン 145℃
2-ヒドロキシエチルアクリレート -15℃
4-ヒドロキシブチルアクリレート -40℃
アクリル酸 106℃
メタクリル酸 228℃
【0048】
上記で例示した以外のモノマーのホモポリマーのガラス転移温度については、「Polymer Handbook」(第3版、John Wiley & Sons, Inc., 1989)に記載の数値を用いるものとする。本文献に複数種類の値が記載されている場合は、最も高い値を採用する。
【0049】
上記Polymer Handbookにもホモポリマーのガラス転移温度が記載されていないモノマーについては、以下の測定方法により得られる値を用いるものとする(特開2007-51271号公報参照)。具体的には、温度計、攪拌機、窒素導入管および還流冷却管を備えた反応器に、モノマー100重量部、アゾビスイソブチロニトリル0.2重量部および重合溶媒として酢酸エチル200重量部を投入し、窒素ガスを流通させながら1時間攪拌する。このようにして重合系内の酸素を除去した後、63℃に昇温し10時間反応させる。次いで、室温まで冷却し、固形分濃度33重量%のホモポリマー溶液を得る。次いで、このホモポリマー溶液を剥離ライナー上に流延塗布し、乾燥して厚さ約2mmの試験サンプル(シート状のホモポリマー)を作製する。この試験サンプルを直径7.9mmの円盤状に打ち抜き、パラレルプレートで挟み込み、粘弾性試験機(ARES、レオメトリックス社製)を用いて周波数1Hzのせん断歪みを与えながら、温度領域-70~150℃、5℃/分の昇温速度でせん断モードにより粘弾性を測定し、tanδのピークトップ温度をホモポリマーのTgとする。
【0050】
(化合物A)
粘着剤層には、必要に応じて、耐熱性剥離剤を含有させることができる。耐熱性剥離剤としては、界面活性剤およびポリオキシアルキレン骨格を有する化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物Aが用いられる。かかる耐熱性剥離剤を粘着剤層に含有させることにより、高温曝露によって粘着シートの剥離力が上昇する事象を抑制する効果が発揮され得る。例えば、粘着剤層に耐熱性剥離剤を含有させることにより、通常剥離力Fd、Fdおよび水剥離力Fw、Fwの少なくとも一つを低下させ得る。このような効果が得られる理由として、特に限定解釈されるものではないが、一般に高温曝露により被着体と粘着剤層との密着が進んで剥離力が上昇し得るところ、粘着剤層表面に耐熱性剥離剤が存在することで剥離力の上昇が抑制され、上記耐熱性剥離剤として用いられる界面活性剤やポリオキシアルキレン骨格を有する化合物は、いずれも親水性領域を有し、それによって粘着剤層表面に適度に偏在しやすいことから、上記剥離力の上昇が効果的に抑制されるものと考えられる。また、耐熱性剥離剤は、上述のように親水性領域を有し、粘着剤層表面に適度に偏在しやすいことにより、水剥離による軽剥離化を助長する水剥離添加剤としても役立ち得る。
【0051】
界面活性剤およびポリオキシアルキレン骨格を有する化合物としては、公知の界面活性剤、ポリオキシアルキレン骨格を有する化合物の1種または2種以上を特に制限なく用いることができる。化合物Aは、典型的には、遊離の形態で粘着剤層に含まれていることが好ましい。なお、上記界面活性剤のなかには、ポリオキシアルキレン骨格を有する化合物が存在し、逆もまた然りであることは言うまでもない。
【0052】
化合物Aとして用いられ得る界面活性剤としては、公知のノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等を用いることができる。なかでもノニオン性界面活性剤が好ましい。界面活性剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
ノニオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレエート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル;ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート等のソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリイソステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル;ポリオキシエレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー;等が挙げられる。ノニオン性界面活性剤は、プロペニル基、(メタ)アリル基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等のラジカル重合性官能基を有する反応性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル等の、ノニオン性の反応性界面活性剤)であってもよい。これらのノニオン性界面活性剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。化合物Aが粘着剤層表面に適度に偏在することによる効果を好適に発揮し、また粘着シートの性能安定性を高める観点から、上述のようなラジカル重合性官能基を有しない(非反応性の)ノニオン性界面活性剤を好ましく採用し得る。
【0054】
アニオン性界面活性剤の例としては、ノニルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩(例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)等の、アルキルベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸塩(例えばラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム)、オクタデシル硫酸塩等のアルキル硫酸塩;脂肪酸塩;ポリオキシエチレンオクタデシルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム)、ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテル硫酸塩等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩(例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等)、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸塩等の、ポリエーテル硫酸塩;ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル等の、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル;上記ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルのナトリウム塩、カリウム塩等のポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩;ラウリルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸塩(例えば、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸ナトリウム)等の、スルホコハク酸塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩;等が挙げられる。アニオン性界面活性剤が塩を形成している場合、該塩は、例えばナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等の金属塩(好ましくは一価金属の塩)、アンモニウム塩、アミン塩等であり得る。アニオン性界面活性剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。ノニオン性界面活性剤と同様の観点から、非反応性のアニオン性界面活性剤を好ましく採用し得る。
【0055】
カチオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン等のポリエーテルアミンが挙げられる。カチオン性界面活性剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
化合物Aとして用いられ得るポリオキシアルキレン骨格を有する化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)等のポリアルキレングリコール;ポリオキシエチレン単位を含むポリエーテル、ポリオキシプロピレン単位を含むポリエーテル、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とを含む化合物(これら単位の配列は、ランダムであってもよく、ブロック状であってもよい。);これらの誘導体;等を用いることができる。また、上述したノニオン性、アニオン性、カチオン性界面活性剤のうちポリオキシアルキレン骨格を有する化合物を用いることもできる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、ポリオキシエチレン骨格(ポリオキシエチレンセグメントともいう。)を含む化合物を用いることが好ましく、PEGがより好ましい。
【0057】
ポリオキシアルキレン骨格を有する化合物(例えばポリエチレングリコール)の分子量(化学式量)は、特に限定されない。均一混合性の観点から、例えば1000未満であることが適当であり、凡そ600以下(例えば500以下)であることが好ましい。ポリオキシアルキレン骨格を有する化合物(例えばポリエチレングリコール)の分子量の下限は特に限定されず、分子量が凡そ100以上(例えば凡そ200以上、さらには凡そ300以上)のものが好ましく用いられる。
【0058】
化合物Aを含む粘着剤層は、典型的には、該化合物Aを含む粘着剤組成物から形成される。化合物Aを含む粘着剤組成物は、化合物Aを無溶媒の形態で添加するか、または有機溶媒溶液の形態で添加することを含む方法によって好ましく調製することができる。上記無溶媒の形態とは、粘着剤層を形成しない有機溶媒や水によって希釈されていない形態をいい、例えば化合物Aからなる形態であり得る。上記有機溶媒溶液の調製に用いる有機溶媒は、従来公知の有機溶媒から適宜選択することができる。かかる有機溶媒の具体例としては、後述する溶液重合に用いる溶媒と同様のものが挙げられる。好適例として、酢酸エチル、酢酸エチルを含む混合溶媒(酢酸エチルとトルエンとの混合溶媒であり得る。)、トルエン、トルエンを含む混合溶媒が挙げられる。例えば、酢酸エチルまたは酢酸エチルをを主成分とする混合溶媒を好ましく採用し得る。溶剤型または活性エネルギー線硬化型の粘着剤組成物では、該粘着剤組成物への水の持ち込みを防ぐ観点から、いくつかの態様において、実質的に水を含有しない(例えば、化合物A100重量部に対する水の含有量が10重量部未満、5重量部未満または1重量部未満の)有機溶媒溶液の形態で化合物Aを添加することが好ましい。これにより、より均質性の高い粘着剤層が形成され得る。
【0059】
いくつかの態様において、化合物Aとしては、粘着剤組成物に均一性よく配合しやすいことから、ノニオン性化合物が好ましく用いられる。化合物Aが均一性よく配合された粘着剤組成物によると、化合物Aが表面に均一性よく存在する粘着剤層が形成される傾向にある。このことは、粘着シートの被着体からの剥離をより滑らかに進行させて、剥離力の変動(例えば、該変動に伴う振動や衝撃)によって被着体が受ける負荷を軽減する観点から好ましい。
【0060】
化合物AのHLBは、特に限定されない。化合物AのHLBは、例えば1以上または3以上であり得る。化合物AのHLBは、5以上であることが好ましく、6以上でもよく、8以上でもよく、9以上でもよい。これによって水剥離性が好ましく発現する傾向がある。化合物AのHLBは、より好ましくは10以上、さらに好ましくは11以上、さらに好ましくは12以上、特に好ましくは13以上であり、14以上でもよく、15以上でもよく、さらには16以上でもよい。上記範囲のHLBを有する化合物Aによると、水剥離による軽剥離性をより効果的に発現させ得る。上記HLBの上限は20以下であり、例えば18以下であってもよい。いくつかの態様において、例えば相溶性の観点から、化合物AのHLBは、16以下であってもよく、例えば15以下であってもよい。
【0061】
なお、本明細書におけるHLBは、GriffinによるHydrophile-Lipophile Balanceであり、界面活性剤の水や油への親和性の程度を表す値であり、親水性と親油性の比を0~20の間の数値で表したものである。HLBの定義は、W.C.Griffin:J.Soc.Cosmetic Chemists,1,311(1949)や、高橋越民、難波義郎、小池基生、小林正雄共著、「界面活性剤ハンドブック」、第3版、工学図書社出版、昭和47年11月25日、p179~182等に記載されるとおりである。上記HLBを有する化合物Aは、上記参考文献を必要に応じて参酌するなどして当業者の技術常識に基づき、選定することができる。
【0062】
いくつかの対応において、化合物Aとしては、水性剥離液との親和性の観点から、一分子内に2以上の水酸基を有するものが好ましく、一分子内に3以上の水酸基を有するものがより好ましい。一分子内に2または3以上の水酸基を有する化合物Aの例として、ソルビタンモノエステル、ポリオキシアルキレンソルビタンモノエステル、ポリオキシアルキレングリセリルエーテル、ポリオキシアルキレンジグリセリルエーテル、ポリオキシアルキレングリセリルエーテルモノエステル等が挙げられる。化合物Aが一分子内に有する水酸基の数の上限は特に制限されないが、有機溶媒への溶解性や粘着剤組成物の調製容易性の観点から、通常は10以下であることが適当であり、8以下であることが好ましく、6以下でもよく、4以下でもよい。
【0063】
いくつかの対応において、化合物Aとしては、有機溶媒(例えば、酢酸エチル等のエステル類)への溶解性の観点から、脂肪酸エステル構造を有するノニオン性化合物を好ましく選択し得る。脂肪酸エステル構造を有する化合物Aは、粘着剤層内における相溶性の点でも有利となり得る。例えば、アクリル系粘着剤層に含有させる化合物Aとして、脂肪酸エステル構造を有するものを好ましく採用し得る。脂肪酸エステル構造を有するノニオン性化合物の例として、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸モノエステル等が挙げられる。
【0064】
いくつかの態様において、化合物Aとしては、有機溶媒溶液の調製容易性の観点から、固形分100%の形態で常温(ここでは25℃)において液状を呈するものが好ましい。
また、いくつかの態様において、化合物Aとしては、下記試験IIにおいて相分離なく溶解するものが好ましく、下記試験Iにおいて相分離なく溶解するものがより好ましい。なお、下記試験I、IIは、化合物Aを固形分100%の形態で使用し、室温(23~25℃)環境下で行うものとする。
[試験I]
酢酸エチル90gおよび化合物A10gを容量200ミリリットル(mL)の容器に入れ、ガラス棒を用いて1分間攪拌した後に静置し、5分後に目視にて相分離の有無を観察する。
[試験II]
酢酸エチル90gおよび化合物A10gを容量200mLの容器に入れ、ガラス棒を用いて1分間攪拌した後、超音波分散装置を用いて35kHzで10分間処理し、さらにガラス棒を用いて1分間攪拌した後、静置し、5分後に目視にて相分離の有無を観察する。
なお、超音波分散装置としては、AS ONE社製の機種名「ULTRASONIC CLEANER」またはその相当品を用いることができる。
【0065】
化合物Aの使用量は特に限定されず、目的に応じた使用効果(例えば、高温曝露による剥離力の上昇を抑制する効果と、水剥離による軽剥離化を助長する効果との、一方または両方)が適切に発揮されるように設定することができる。いくつかの態様において、化合物Aの使用量は、ベースポリマー100重量部に対して、例えば凡そ5重量部以下であってよく、剥離を意図しない段階での被着体への接合信頼性や耐水信頼性の観点から、凡そ3重量部以下とすることが適当であり、好ましくは2重量部未満、より好ましくは1重量部未満であり、0.8重量部未満でもよく、0.6重量部未満でもよく、0.4重量部未満でもよく、0.2重量部未満でもよく、0.1重量部未満でもよい。HLBの高い(例えば5以上、好ましくは10以上の)化合物Aは、少量添加でも良好な水剥離性を発揮しやすい傾向がある。また、ベースポリマー100重量部に対する化合物Aの量は、例えば0.001重量部以上とすることができ、化合物Aを粘着剤層表面に均一性よく存在させて粘着シートの被着体からの剥離をより滑らかに進行させる観点から、通常は0.01重量部以上とすることが適当であり、好ましくは0.03重量部以上(例えば0.1重量部以上)である。水剥離性を重視する組成では、ベースポリマー100重量部に対する化合物Aの量は0.3重量部以上(例えば0.5重量部以上)であってもよい。
【0066】
(架橋剤)
粘着剤層には、凝集力の調整等を目的として、必要に応じて架橋剤が用いられ得る。架橋剤は、架橋反応後の形態で粘着剤層に含まれていてもよく、架橋反応前の形態で含まれていてもよい。架橋剤の種類は特に制限されず、従来公知の架橋剤のなかから、例えば粘着剤組成物の組成に応じて、該架橋剤が粘着剤層内で適切な架橋機能を発揮するように選択することができる。用いられ得る架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、メラミン系架橋剤、尿素系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、アミン系架橋剤等を例示することができる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。いくつかの好ましい態様では、架橋剤として少なくともイソシアネート系架橋剤を使用する。イソシアネート系架橋剤と他の架橋剤(例えば、エポキシ系架橋剤)とを組み合わせて用いてもよい。
【0067】
イソシアネート系架橋剤としては、2官能以上の多官能イソシアネート化合物を用いることができる。例えば、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、トリス(p-イソシアナトフェニル)チオホスフェート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート;イソホロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;等が挙げられる。市販品としては、トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物(東ソー社製、商品名「コロネートL」)、トリメチロールプロパン/ヘキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(東ソー社製、商品名「コロネートHL」)、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(東ソー社製、商品名「コロネートHX」)等のイソシアネート付加物等を例示することができる。
【0068】
エポキシ系架橋剤としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものを特に制限なく用いることができる。1分子中に3~5個のエポキシ基を有するエポキシ系架橋剤が好ましい。エポキシ系架橋剤の具体例としては、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。エポキシ系架橋剤の市販品としては、三菱ガス化学社製の商品名「TETRAD-X」、「TETRAD-C」、DIC社製の商品名「エピクロンCR-5L」、ナガセケムテックス社製の商品名「デナコールEX-512」、日産化学工業社製の商品名「TEPIC-G」等が挙げられる。
【0069】
オキサゾリン系架橋剤としては、1分子内に1個以上のオキサゾリン基を有するものを特に制限なく使用することができる。
アジリジン系架橋剤の例としては、トリメチロールプロパントリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、トリメチロールプロパントリス[3-(1-(2-メチル)アジリジニルプロピオネート)]等が挙げられる。
カルボジイミド系架橋剤としては、カルボジイミド基を2個以上有する低分子化合物または高分子化合物を用いることができる。
【0070】
金属キレート系架橋剤は、典型的には、多価金属が有機化合物と共有結合または配位結合した構造を有するものであり得る。上記多価金属原子としては、Al、Zr、Co、Cu、Fe、Ni、V、Zn、In、Ca、Mg、Mn、Y、Ce、Ba、Mo、La、Sn、Ti等が挙げられる。なかでも、Al、Zr、Tiが好ましい。また、有機化合物としてはアルキルエステル、アルコール化合物、カルボン酸化合物、エーテル化合物、ケトン化合物等が挙げられる。金属キレート系架橋剤は、典型的には該有機化合物中における酸素原子が上記多価金属に結合(共有結合または配位結合)した構成の化合物であり得る。
【0071】
いくつかの態様において、架橋剤として過酸化物を用いてもよい。過酸化物としては、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-へキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、ジラウロイルパーオキシド、ジ-n-オクタノイルパーオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシイソブチレート、ジベンゾイルパーオキシド等が挙げられる。これらのなかでも、特に架橋反応効率に優れる過酸化物として、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカルボネート、ジラウロイルパーオキシド、ジベンゾイルパーオキシド等が挙げられる。なお、上記重合開始剤として過酸化物を使用した場合には、重合反応に使用されずに残存した過酸化物を架橋反応に使用することも可能である。その場合は過酸化物の残存量を定量して、過酸化物の割合が所定量に満たない場合には、必要に応じて、所定量になるように過酸化物を添加するとよい。過酸化物の定量は、特許4971517号公報に記載の方法により行うことができる。
【0072】
架橋剤の使用量(2以上の架橋剤を用いる場合にはそれらの合計量)は、特に限定されなず、所望の使用効果が得られるように適切に設定し得る。ベースポリマー(例えばアクリル系ポリマー)100重量部に対する架橋剤の使用量は、糊残りの防止や、貼付け後の高温曝露による剥離力の上昇抑制の観点から、通常、凡そ0.01重量部以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ0.1重量部以上、より好ましくは凡そ0.5重量部以上であり、凡そ1.0重量部以上でもよく、凡そ1.5重量部以上でもよく、凡そ2.0重量部以上でもよい。
また、ベースポリマー100重量部に対する架橋剤の使用量は、通常、凡そ15重量部以下とすることが適当であり、半導体加工時における被着体への密着性や接合信頼性等の観点から、好ましくは凡そ12重量部以下、より好ましくは凡そ10重量部以下である。より初期通常剥離力Fdを重視するいくつかの態様において、ベースポリマー100重量部に対する架橋剤の使用量は、例えば7.0重量部未満であってよく、5.0重量部未満でもよく、4.0重量部未満でもよく、3.0重量部未満でもよい。ある程度の量(例えば、ベースポリマー100重量部に対して0.2重量部超)の化合物Aを含む態様では、架橋剤の使用量が多すぎないことは、粘着剤層表面に化合物Aが過度に偏在することによる初期通常剥離力Fdの低下を抑制する観点からも有利となり得る。
【0073】
架橋剤としてイソシアネート系架橋剤を使用する態様では、ベースポリマー100重量部に対するイソシアネート系架橋剤の使用量は、糊残りの防止や、貼付け後の高温曝露による剥離力の上昇抑制の観点から、通常、凡そ0.1重量部以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ0.5重量部以上、より好ましくは凡そ0.7重量部以上であり、凡そ1.0重量部以上でもよく、凡そ1.5重量部以上でもよい。
また、ベースポリマー100重量部に対するイソシアネート系架橋剤の使用量は、通常、凡そ15重量部以下とすることが適当であり、半導体加工時における被着体への密着性や接合信頼性等の観点から、好ましくは凡そ12重量部以下、より好ましくは凡そ10重量部以下であり、7.0重量部未満でもよく、5.0重量部未満でもよく、4.0重量部未満でもよく、3.0重量部未満でもよく、2.5重量部未満でもよい。
【0074】
架橋剤としてエポキシ系架橋剤を使用する態様(イソシアネート系架橋剤とエポキシ系架橋剤とを併用する態様であり得る。)では、ベースポリマー100重量部に対するエポキシ系架橋剤の使用量は、貼付け後の高温曝露による剥離力の上昇抑制の観点から、通常、凡そ0.01重量部以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ0.05重量部以上、より好ましくは凡そ0.1重量部以上であり、凡そ0.3重量部以上でもよく、凡そ0.5重量部以上でもよい。好ましい一態様において、ベースポリマー100重量部に対するエポキシ系架橋剤の使用量は、例えば0.5重量部超であってよく、0.6重量部以上でもよい。
また、ベースポリマー100重量部に対するエポキシ系架橋剤の使用量は、半導体加工時における被着体への密着性や接合信頼性等の観点から、通常、凡そ5重量部以下とすることが適当であり、好ましくは凡そ3重量部以下、より好ましくは凡そ2重量部以下であり、1.5重量部以下でもよく、1.0重量部以下でもよい。
【0075】
イソシアネート系架橋剤とエポキシ系架橋剤とを組み合わせて使用する場合、イソシアネート系架橋剤の使用量WNCOに対するエポキシ系架橋剤の使用量WEPOの比(重量比WEPO:WNCO)は、例えば0.005:1以上2:1以下とすることができ、通常は0.01:1以上1:1以下とすることが適当であり、0.10:1を超えて0.80:1以下とすることが好ましく、0.25:1を超えて0.60:1以下(例えば0.30:1以上0.50:1以下)とすることがより好ましい。
【0076】
架橋反応をより効果的に進行させるために、架橋触媒を用いてもよい。架橋触媒としては、テトラ-n-ブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、ナーセム第二鉄、ブチルスズオキシド、ジオクチルスズジラウレート等の金属系架橋触媒等が例示される。なかでも、ジオクチルスズジラウレート等のスズ系架橋触媒が好ましい。架橋触媒の使用量は特に制限されない。ベースポリマー100重量部に対する架橋触媒の使用量は、例えば凡そ0.0001重量部以上1重量部以下であってよく、0.001重量部以上0.1重量部以下でもよく、0.005重量以上0.5重量部以下でもよい。
【0077】
(その他の任意成分)
粘着剤層には、必要に応じて、粘着付与樹脂(例えば、ロジン系、石油系、テルペン系、フェノール系、ケトン系等の粘着付与樹脂)、粘度調整剤(例えば増粘剤)、レベリング剤、可塑剤、充填剤、顔料や染料等の着色剤、安定剤、防腐剤、酸化防止剤、老化防止剤等の、粘着剤の分野において一般的な各種の添加剤を、その他の任意成分として含ませ得る。このような各種添加剤については、従来公知のものを常法により使用することができ、特に本発明を特徴づけるものではないので、詳細な説明は省略する。
半導体加工時における被着体への密着性と該被着体の除去時の剥離性(例えば、水剥離による剥離性)とをバランスよく両立する観点から、いくつかの態様において、粘着剤層における粘着付与樹脂の含有量は、ベースポリマー100重量部に対して例えば5重量部未満、さらには3重量部未満とすることができ、1重量部未満としてもよく、0.5重量部未満としてもよく、0.1重量部未満としてもよい。粘着付与樹脂を実質的含まない(例えば、ベースポリマー100重量部に対する粘着剤層の含有量が0~0.05重量部の)粘着剤層であってもよい。
【0078】
いくつかの好ましい態様において、上記粘着剤層は、ポリマー(典型的にはベースポリマー)の含有量が、該粘着剤層の全重量の凡そ80重量%以上を占める組成であり得る。これにより、水剥離を適用して剥離力を低下させる効果(軽剥離化効果)が好ましく実現され得る。そのような観点から、上記ポリマーの含有量は、粘着剤層の全重量の凡そ85重量%以上であることが好ましく、凡そ90重量%以上であることがより好ましく、凡そ92重量%以上でもよく、凡そ95重量%以上でもよく、凡そ98重量%以上でもよい。
【0079】
ここに開示される粘着シートの他のいくつかの態様において、該粘着シートは、活性エネルギー線(好ましくは紫外線)硬化性を有する粘着剤層、すなわち活性エネルギー線硬化性粘着剤層により構成された粘着面を有していてもよい。上記活性エネルギー線硬化性粘着剤層は、例えば、側鎖、主鎖および主鎖末端の少なくともいずれかの箇所に硬化性の官能基を有する活性エネルギー線硬化性ポリマー(例えばアクリル系ポリマー)をベースポリマーとして含む粘着剤層であり得る。活性エネルギー線硬化性粘着剤層の他の例として、分子内に硬化性官能基を2以上有するモノマーまたはオリゴマーを含む粘着剤層が挙げられる。粘着剤層を活性エネルギー線硬化性とするために用いられ得る上記ポリマー、モノマーおよびオリゴマーの例としては、炭素-炭素二重結合を有する官能基(例えば(メタ)アクリロイル基、ビニル基等)を側鎖に有するポリマー、多官能(メタ)アクリレート(例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等)、炭素-炭素二重結合を有するイソシアネート系化合物(例えば、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、m-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート等)、ウレタンオリゴマー、ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらに限定されない。活性エネルギー線硬化性粘着剤層には、必要に応じて公知の光開始剤を含有させ得る。
【0080】
ここに開示される粘着シートは、好ましくは、活性エネルギー線硬化性を有しない粘着剤層(非活性エネルギー線硬化性粘着剤層)により構成された粘着面を有する。非活性エネルギー線硬化性粘着剤層により構成された粘着面を有する粘着シートは、活性エネルギー線(紫外線等)の照射に対する性能安定性がよく、活性エネルギー線の照射を伴う半導体加工プロセスを含む使用態様にも好ましく適用することができる。
【0081】
<粘着剤層の形成>
ここに開示される粘着シートの粘着面を構成する粘着剤層は、ベースポリマー(例えば、アクリル系ポリマー)を含み、必要に応じて他の任意成分を含む粘着剤組成物から形成された粘着剤層であり得る。上記粘着剤組成物は、有機溶媒中に粘着剤(粘着成分)を含む形態の溶剤型粘着剤組成物、紫外線や放射線等の活性エネルギー線により硬化して粘着剤を形成するように調製された活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物、粘着剤が水に分散した形態の水分散型粘着剤組成物、加熱溶融状態で塗工され、室温付近まで冷えると粘着剤を形成するホットメルト型粘着剤組成物、等の種々の形態であり得る。なお、上記活性エネルギー硬化型粘着剤組成物は、典型的には、常温(概ね0℃~40℃、例えば25℃程度)で塗工可能な程度の流動性を示し、活性エネルギーの照射により硬化して粘着剤(粘弾性体)を形成する液状組成物である。
いくつかの態様に係る粘着シートは、溶剤型粘着剤組成物または活性エネルギー線硬化型粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤層を有する構成であり得る。粘着剤層が化合物Aを含む態様では、該化合物Aを含む粘着剤組成物の調製容易性等の観点から、溶剤型粘着剤組成物を好ましく採用し得る。
【0082】
ここに開示される粘着シートの粘着剤層は、粘着剤組成物を適当な表面に付与(例えば塗布)した後、硬化処理(乾燥、架橋等)を適宜施すことにより形成され得る。2種以上の硬化処理を行う場合、これらは、同時に、または多段階にわたって行うことができる。二層以上の多層構造の粘着剤層は、あらかじめ形成した粘着剤層を貼り合わせることによって作製することができる。あるいは、あらかじめ形成した第一の粘着剤層の上に粘着剤組成物を塗布し、該粘着剤組成物を硬化させて第二の粘着剤層を形成してもよい。
【0083】
粘着剤組成物の塗布は、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等の慣用のコーターを用いて実施することができる。支持体を有する形態の粘着シートでは、支持体上に粘着剤層を設ける方法として、該支持体に粘着剤組成物を直接付与して粘着剤層を形成する直接法を用いてもよく、剥離面上に形成した粘着剤層を支持体に転写する転写法を用いてもよい。
【0084】
ここに開示される粘着シートにおいて、粘着剤層の厚さは特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。通常は、粘着剤層の厚さは5~200μm程度が適当であり、密着性等の観点から、好ましくは10μm以上、例えば15μm以上程度であり、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは80μm以下程度であり、例えば60μm以下でもよい。加熱による剥離力の上昇を抑制しやすくする観点から、いくつかの態様において、粘着剤層の厚さは、例えば40μm以下であってよく、30μm以下でもよく、25μm以下でもよい。ここに開示される粘着シートが基材の両面に粘着剤層を備える両面粘着シートの場合、各粘着剤層の厚さは同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0085】
<追加の粘着剤層>
ここに開示される粘着シートのいくつかの態様において、該粘着シートは、粘着面を構成する粘着剤層の背面側(粘着面とは反対側)に追加の粘着剤層が積層された構成であってもよい。粘着面を構成する粘着剤層と追加の粘着剤層とは、直接接して積層していることが好ましい。すなわち、粘着面を構成する粘着剤層と追加の粘着剤層との間に、両粘着剤層を完全に隔てるセパレータ層(例えば、ポリエステルフィルム等の樹脂フィルム)が介在していないことが好ましい。追加の粘着剤層は、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤(天然ゴム系、合成ゴム系、これらの混合系等)、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエーテル系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、フッ素系粘着剤等の公知の各種粘着剤から選択される1種または2種以上の粘着剤を含んで構成された粘着剤層であり得る。透明性や耐候性等の観点から、いくつかの態様において、追加の粘着剤層の構成材料としてアクリル系粘着剤を好ましく採用し得る。追加の粘着剤層のその他の事項については、上述した粘着剤層と同様の構成を採用することができ、あるいは公知ないし慣用技術および技術常識に基づき、用途や目的に応じて適当な構成を採用し得るので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0086】
<基材>
片面粘着タイプまたは両面粘着タイプの基材付き粘着シートにおいて、粘着剤層を支持(裏打ち)する基材としては、例えば樹脂フィルム、紙、布、ゴムシート、発泡体シート、金属箔、これらの複合体等の、各種のシート状基材を用いることができる。上記基材は、単層であってもよいし、同種または異種の基材の積層体であってもよい。なお、本明細書において、単層とは、同一の組成からなる層をいい、同一の組成からなる層が複数積層された形態のものを含む。
【0087】
好ましい一態様では、樹脂シートを主構成要素とする基材(樹脂フィルム基材)が用いられ得る。基材を構成する樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ランダム共重合ポリプロピレン、ブロック共重合ポリプロピレン、ホモポリプロレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、アイオノマー、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル(ランダム、交互)共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体等のポリオレフィン樹脂;ポリウレタン;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル;ポリカーボネート;ポリイミド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルイミド;アラミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド;ポリフェニルスルフィド;フッ素樹脂;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;セルロース樹脂;シリコーン樹脂;等が挙げられる。上記樹脂は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて、基材の全体または一部(例えば、二層以上の積層構造の基材におけるいずれかの層)の形成に用いられ得る。
【0088】
基材には、必要に応じて、充填剤(無機充填剤、有機充填剤等)、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、着色剤(顔料、染料等)等の各種添加剤が配合されていてもよい。
【0089】
上記基材は、任意の適切な方法で製造することができる。例えば、カレンダー法、キャスティング法、インフレーション押出し法、Tダイ押出し法等の公知の方法により製造することができる。また、必要に応じて、延伸処理を行って製造してもよい。
【0090】
基材の粘着剤層側表面には、粘着剤層との密着性や粘着剤層の保持性を高める等の目的で、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、サンドマット加工処理、オゾン暴露処理、火炎暴露処理、高圧電撃暴露処理、イオン化放射線処理等の物理的処理;酸処理、アルカリ処理、クロム酸処理等の化学的処理;コーティング剤(下塗り剤)による易接着処理;等の、公知または慣用の表面処理が施されていてもよい。また、帯電防止能の付与等の目的で、金属、合金、これらの酸化物等を含む導電性の蒸着層を基材表面に設けてもよい。
【0091】
いくつかの好ましい態様では、基材の粘着剤層側表面に下塗り層が設けられる。換言すると、基材と粘着剤層との間には下塗り層が配置され得る。下塗り層形成材料としては、特に限定されず、ウレタン(ポリイソシアネート)系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、メラミン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、イソシアヌレート系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂等の1種または2種以上が用いられ得る。樹脂フィルム基材上に下塗り層を介してアクリル系等の粘着剤層を設ける場合は、ポリエステル系やウレタン系、アクリル系の下塗り層が好ましい。PETフィルム等のポリエステル系基材上に下塗り層を介してアクリル系粘着剤層を設ける場合は、ポリエステル系下塗り層が特に好ましい。下塗り層の厚さは特に限定されず、通常、凡そ0.1μm~10μm(例えば0.1μm~3μm、典型的には0.1μm~1μm)の範囲であり得る。下塗り層は、グラビアロールコーター、リバースロールコーター等の公知または慣用のコーターを用いて形成され得る。
【0092】
ここに開示される粘着シートが基材の片面に粘着剤層が設けられた片面接着性の粘着シートの場合、基材の粘着剤層非形成面(背面)には、剥離処理剤(背面処理剤)によって剥離処理が施されていてもよい。背面処理層の形成に用いられ得る背面処理剤としては、特に限定されず、シリコーン系背面処理剤やフッ素系背面処理剤、長鎖アルキル系背面処理剤その他の公知または慣用の処理剤を目的や用途に応じて用いることができる。
【0093】
基材の厚さは特に限定されず、目的に応じて適宜選択できるが、一般的には3μm~800μm程度であり得る。粘着シートの加工性や取扱い性(例えば、被着体への貼付けや剥離の際における作業性)等の観点から、基材の厚さは、5μm以上であることが適当であり、10μm以上であることが適当であり、被着体の保護性を高める観点から20μm以上であることが好ましく、30μm以上でもよく、40μm以上でもよい。より保護性が重視されるいくつかの態様において、基材の厚さは、例えば55μm以上、75μm以上または90μm以上であり得る。また、被着体からの剥離時における該被着体への負荷軽減等の観点から、基材の厚さは、通常、300μmであることが適当であり、200μm以下であることが好ましく、150μm以下でもよく、125μm以下でもよく、80μm以下でもよく、60μm以下でもよい。
【0094】
ここに開示される粘着シート(粘着剤層と基材とを含み得るが、剥離ライナーは含まない。)の総厚は特に限定されず、凡そ10μm~1000μmの範囲とすることが適当である。粘着シートの総厚は、密着性および取扱い性を考慮して、凡そ15μm~300μmの範囲とすることが好ましく、凡そ20μm~300μmの範囲とすることがより好ましく、20μm~200μmの範囲としてもよい。また、被着体の保護性を高める観点から、粘着シートの総厚は凡そ30μm以上であることが有利であり、凡そ40μm以上であることが好ましく、凡そ50μm以上(例えば60μm以上)であることがより好ましい。より保護性が重視されるいくつかの態様において、粘着シートの総厚は、65μm超でもよく、80μm超でもよく、100μm超でもよい。
【0095】
<粘着シート>
(初期通常剥離力Fd
ここに開示される粘着シートは、初期通常剥離力Fdが0.10N/20mm以上であることが好ましい。これにより、粘着シートは半導体加工用粘着シートとして適度な粘着性を示し、加工性の向上に寄与し得る。例えば、ここに開示される粘着シートを、半導体ウエハのバックグライド工程において該半導体ウエハ(被着体)の回路形成面を保護するバックグライドテープとして用いる場合、バックグライド中の該粘着シートの剥がれ、半導体ウエハの欠け等を防止することができる。初期通常剥離力Fdの上限は特に限定されないが、加熱後の剥離力を所定以下に抑制しやすくする観点から、通常は1.00N/20mm未満であることが適当であり、0.60N/20mm以下であることがより好ましく、0.40N/20mm以下でもよく、0.30N/20mm以下でもよい。初期通常剥離力Fdは、上述の方法により、より具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。初期通常剥離力Fdは、ベースポリマーの選択、化合物Aを用いる場合における該化合物Aの種類と量の選択、架橋剤を使用する場合における該架橋剤の種類および量の選択、等により調整することができる。
【0096】
(通常剥離力Fd
ここに開示される粘着シートは、通常剥離力Fd(150℃加熱後通常剥離力)が1.00N/20mm以下であることが好ましい。これにより、被着体への貼付け後に粘着シートが高温に曝されても、その後の剥離時に被着体が受ける負荷の増大を抑制できる。被着体からの剥離を水剥離法で行うことにより、被着体の負荷をさらに軽減し得る。いくつかの態様において、150℃加熱後通常剥離力は、剥離時の被着体への負荷軽減の観点から、0.60N/20mm以下であることがより好ましく、0.40N/20mm以下であることがさらに好ましい。150℃加熱後通常剥離力の下限は特に制限されないが、加工時における被着体への密着性や接合信頼性とのバランスをとる観点から、例えば0.005N/20mm以上であってよく、0.01N/20mm以上でもよく、0.02N/20mm以上でもよい。150℃加熱後通常剥離力は、上述の方法により、より具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。150℃加熱後通常剥離力は、ベースポリマーの選択、化合物Aを用いる場合における該化合物Aの種類と量の選択、架橋剤を使用する場合における該架橋剤の種類および量の選択、等により調整することができる。
【0097】
なお、通常剥離力Fdが上述したいずれかの上限値より高い粘着シートであっても、水剥離により十分な軽剥離化が可能な態様であれば(例えば、水剥離力Fwが0.40N/20mm以下、より好ましくは0.30N/20mm以下であれば)、該粘着シートは、加熱後の剥離を水剥離法により行うことによって被着体への負荷や糊残りの発生を好適に抑制し得る。したがって、かかる態様において粘着シートの通常剥離力Fdは1.00N/20mm超であり得る。この態様における粘着シートの通常剥離力Fdは、特に制限されないが、例えば2.00N/20mm以下または1.00N/20mm以下であり得る。
【0098】
(通常剥離力Fd
ここに開示される粘着シートは、通常剥離力Fd(200℃加熱後通常剥離力)が3.00N/20mm以下であることが好ましい。これにより、より厳しい条件の高温に曝されても、その後の剥離時に被着体が受ける負荷の増大を抑制できる。被着体からの剥離を水剥離法で行うことにより、剥離時の被着体への負荷をさらに軽減し得る。いくつかの態様において、200℃加熱後通常剥離力は、剥離時の被着体への負荷軽減の観点から、2.00N/20mm以下、1.50N/20mm以下、1.20N/20mm以下または1.00N/20mm以下であることがより好ましい。200℃加熱後通常剥離力の下限は特に制限されないが、加工時における被着体への密着性や接合信頼性とのバランスをとる観点から、例えば0.01N/20mm以上であってよく、0.02N/20mm以上でもよく、0.03N/20mm以上でもよい。200℃加熱後通常剥離力は、上述の方法により、より具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。200℃加熱後通常剥離力は、ベースポリマーの選択、化合物Aを用いる場合における該化合物Aの種類と量の選択、架橋剤を使用する場合における該架橋剤の種類および量の選択、等により調整することができる。
【0099】
なお、通常剥離力Fdが上述したいずれかの上限値より高い粘着シートであっても、水剥離により十分な軽剥離化が可能な態様であれば(例えば、水剥離力Fwが2.00N/20mm以下、好ましくは1.00N/20mm以下であれば)、該粘着シートは、加熱後の剥離を水剥離法により行うことによって被着体への負荷や糊残りの発生を好適に抑制し得る。したがって、かかる態様において粘着シートの通常剥離力Fdは3.00N/20mm超であり得る。この態様における粘着シートの通常剥離力Fdは、特に制限されないが、例えば5.00N/20mm以下または4.00N/20mm以下であり得る。
【0100】
(水剥離力Fw
ここに開示される粘着シートは、水剥離力Fw(150℃加熱後水剥離力)が0.30N/20mm以下であることが好ましい。これにより、被着体への貼付け後に粘着シートが高温に曝されても、その後の剥離を水剥離法で行うことにより、被着体への負荷を抑制できる。いくつかの態様において、150℃加熱後水剥離力は、剥離時の被着体への負荷軽減の観点から、0.30N/20mm未満であることがより好ましく、0.25N/20mm以下であることがさらに好ましい。150℃加熱後水剥離力の下限は特に制限されないが、加工時における被着体への密着性や接合信頼性とのバランスをとる観点から、例えば0.01N/20mm以上であってよく、0.05N/20mm以上でもよく、0.01N/20mm以上でもよい。150℃加熱後水剥離力は、上述の方法により、より具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。150℃加熱後水剥離力は、ベースポリマーの選択、化合物Aを用いる場合における該化合物Aの種類と量の選択、架橋剤を使用する場合における該架橋剤の種類および量の選択、等により調整することができる。
【0101】
(水剥離力Fw
ここに開示される粘着シートは、水剥離力Fw(200℃加熱後水剥離力)が2.00N/20mm以下であることが好ましい。これにより、より厳しい条件の高温に曝されても、その後の剥離を水剥離法で行うことにより、被着体への負荷を抑制できる。いくつかの態様において、200℃加熱後水剥離力は、剥離時の被着体への負荷軽減の観点から、1.50N/20mm以下、1.00N/20mm以下、0.80N/20mm以下または0.60N/20mm以下であり得る。200℃加熱後水剥離力の下限は特に制限されないが、加工時における被着体への密着性や接合信頼性とのバランスをとる観点から、例えば0.05N/20mm以上であってよく、0.01N/20mm以上でもよく、0.03N/20mm以上でもよい。200℃加熱後水離力は、上述の方法により、より具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。200℃加熱後水剥離力は、ベースポリマーの選択、化合物Aを用いる場合における該化合物Aの種類と量の選択、架橋剤を使用する場合における該架橋剤の種類および量の選択、等により調整することができる。
【0102】
(通常剥離力比Fd/Fd
ここに開示される粘着シートは、150℃加熱後通常剥離力[N/20mm]に対する200℃加熱後通常剥離力[N/20mm]の比(Fd/Fd)として定義される通常剥離力比が、4.0以下であることが好ましい。これにより、粘着シートは、高温プロセス後の剥離力が、上記高温プロセスにおいて生じ得る温度ムラの影響を受けにくいものとなる。かかる粘着シートは、被着体に貼り付けられた状態で高温プロセスを経た粘着シートを剥離する際に、糊残りの発生リスクを低減することができ、また剥離力の変動によって被着体が受ける負荷を低減することができるので好ましい。上記温度ムラの影響をより低減する観点から、通常剥離力比は、3.5以下であることがより好ましく、3.0以下であることがさらに好ましい。通常剥離力比は、典型的には1.0以上である。
【0103】
(通常剥離力差Fd-Fd
ここに開示される粘着シートは、150℃加熱後通常剥離力[N/20mm]と200℃加熱後通常剥離力[N/20mm]との差(Fd-Fd)として定義される通常剥離力差が1.50N/20mm以下であることが好ましい。これにより、粘着シートは、高温プロセス後の剥離力が、上記高温プロセスにおいて生じ得る温度ムラの影響を受けにくいものとなる。かかる粘着シートは、被着体に貼り付けられた状態で高温プロセスを経た粘着シートを剥離する際に、糊残りの発生リスクを低減することができ、また剥離力の変動によって被着体が受ける負荷を低減することができるので好ましい。上記温度ムラの影響をより低減する観点から、通常剥離力差は、1.20N/20mm以下であることがより好ましく、1.00N/20mm以下でもよく、0.80N/20mm以下でもよく、0.60N/20mm以下でもよい。加熱後通常剥離力差は、通常は0N/20mm以上となるため下限は特に制限されず、0N/20mmに近いほど好ましい。
【0104】
(初期水剥離力Fw
ここに開示される粘着シートは、初期水剥離力Fwが0.10N/20mm未満であることが好ましい。これにより、粘着シートは、例えば高温プロセス(例えば100℃以上、好ましくは60℃以上の高温プロセス)を伴わない半導体加工に用いられる態様において、水剥離法により好適に軽剥離化することができ、剥離時に被着体に与える負荷を軽減し得る。これにより、例えばバックグライドテープとして用いられる粘着シートにおいて、バックグラインドにより薄型化された半導体ウエハに損傷を与えることを回避しつつ、該半導体ウエハから上記粘着シートを効率よく剥離することができる。いくつかの態様において、初期水剥離力Fwは、0.09N/20mm未満であることがより好ましく、0.07N/20mm以下でもよく、0.05N/20mm未満でもよい。初期水剥離力Fwの下限は特に限定されず、上記被着体の負荷軽減の観点からは小さいほど有利である。一方、加工時における被着体への密着性や接合信頼性とのバランスをとる観点から、いくつかの態様において、初期水剥離力Fwは、例えば0.005N/20mm以上であってよく、0.01N/20mm以上でもよく、0.02N/20mm以上でもよく、0.03N/20mm以上でもよい。初期水剥離力Fwは、上述の方法により、より具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。初期水剥離力Fwは、ベースポリマーの選択、化合物Aを用いる場合における該化合物Aの種類と量の選択、架橋剤を使用する場合における該架橋剤の種類および量の選択、等により調整することができる。
【0105】
上述した各通常剥離力および水剥離力の測定に用いる引張試験機としては、島津製作所製の精密万能試験機「オートグラフEZ-S」またはその相当品を用いることができる。測定にあたっては、必要に応じて、測定対象の粘着シートに適切な裏打ち材(例えば、厚さ25μm程度のPETフィルム)を貼り付けて補強することができる。
【0106】
なお、後述する実施例では1枚の試験片毎に通常剥離力の測定と水剥離力の測定とを連続して行ったが、通常剥離力の測定と水剥離力の測定とを異なる試験片により行ってもよい。例えば、連続測定を実施するために十分な長さの試験片を用意することが難しい場合等において、異なる試験片を用いて測定を行う態様を採用することができる。
【0107】
ここに開示される粘着シートのいくつかの好ましい態様において、200℃加熱後通常剥離力Fd[N/20mm]に対する200℃加熱後水剥離力Fw[N/20mm]の低下率は、例えば30%超であり得る。すなわち、下記式により算出される200℃加熱後水剥離力低下率が10%以上であることが好ましい。
200℃加熱後水剥離力低下率=1-(Fw/Fd
200℃加熱後水剥離力低下率の高い粘着シートは、貼付け後の加熱により剥離力が上昇しても、その後に水剥離法で剥離することにより、通常剥離法により剥離する場合に比べて剥離力を大幅に低下させ、剥離時に被着体に与える負荷を効果的に軽減することができる。いくつかの好ましい態様に係る粘着シートにおいて、200℃加熱後水剥離力低下率は、15%以上、25%以上または30%以上であり得る。200℃加熱後水剥離力低下率の上限は、特に制限されないが、通常は100%以下であり、実用上の観点等から例えば95%以下であってもよく、90%以下であってもよい。
【0108】
<用途>
ここに開示される粘着シートは、各種半導体ウエハの加工に用いられ得る。上記半導体ウエハは、例えば、シリコンウエハ、炭化ケイ素(SiC)ウエハ、窒化物半導体ウエハ(窒化ケイ素(SiN)、窒化ガリウム(GaN)等)、ヒ化ガリウムウエハ等の化合物半導体ウエハ、等であり得る。ここに開示される粘着シートは、このような半導体ウエハから半導体素子(例えば、半導体チップ)を製造する過程で、典型的には前工程により回路形成された上記半導体ウエハに貼り合わされる態様で、上記半導体ウエハの加工時に該半導体ウエハを保護および/または固定するための半導体加工用粘着シートとして好ましく用いられ得る。ここに開示される粘着シートを貼り合わせた後、該粘着シートを剥離するまでに半導体ウエハに施され得る加工の例には、バックグラインド加工およびダイシング加工が含まれるが、これらに限定されない。なお、本明細書では、加工対象の半導体ウエハの形状が加工により変化(例えば、バックグラインド加工による全体または一部の薄型化、ダイシング加工による個片等)する場合も、加工後の物品を引き続き半導体ウエハということがある。
【0109】
ここに開示される粘着シートの半導体ウエハへの貼り合わせは、任意の適切な方法により行われ得る。粘着シートを貼り合わせる際の温度は、室温前後(例えば10℃~35℃)であってもよく、室温域より高い温度(例えば35℃超、好ましくは60℃~90℃)であってもよい。室温域より高い温度で粘着シートを貼り合わせることは、粘着シートの半導体ウエハへの密着性向上の観点から有利となり得る。室温域で粘着シートを貼り合わせた後、室温域より高い温度(例えば40℃~90℃、好ましくは40℃~60℃)および大気圧より高い圧力(例えば1.5~10atm、好ましくは3~7atm)を付与する加熱加圧処理を行ってもよい。上記加熱加圧処理を行う時間は特に制限されず、適切な処理効果が得られるように設定することができる。いくつかの態様において、処理効果の安定性と生産性とのバランスを考慮して、上記加熱加圧処理を行う時間を3分~1時間(例えば5分~30分)とすることができる。
【0110】
ここに開示される粘着シートは、上述した条件Aを満たし、かつ条件B~Eの少なくとも一つを満たすことにより、被着体への貼付けから剥離までの間に高温に曝されても、その後に被着体から良好に剥離することができ、例えば糊残りや被着体への負荷を抑制することができる。かかる特長を活かして、ここに開示される粘着シートは、被着体に貼り合わされた後、該被着体から剥離されるまでの間に高温プロセスを経る態様で好ましく用いられ得る。上記高温プロセスの非限定的な例としては、半導体ウエハへのイオン注入工程、レジスト除去のためのアッシング(灰化)工程、レーザアニール等のアニール工程、等が挙げられる。このような高温プロセスは、例えば、バックグラインド工程において用いられる半導体加工用粘着シート(バックグラインドテープ)が貼り付けられた状態で、該バックグラインド加工の前および/または後に行われ得る。したがって、ここに開示される粘着シートは、被着体に貼り合わせる工程から上記被着体から剥離する工程までの間に、バックグラインド工程と、該バックグラインド工程の前および/または後に行われる高温プロセスと、を含む態様で用いられる半導体加工用粘着シートとして好ましく用いられ得る。
【0111】
ここに開示される粘着シートの被着体からの剥離は、通常剥離法(すなわち、水等の水性剥離液を使用しない剥離方法)により行ってもよく、水剥離法により行ってもよい。剥離性向上の観点から、いくつかの態様において、水剥離法を好ましく採用し得る。水剥離法に用いる水性剥離液としては、水または水を主成分とする混合溶媒に、必要に応じて少量の添加剤を含有させたものを用いることができる。上記混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る低級アルコール(例えばエチルアルコール)や低級ケトン(例えばアセトン)等を使用し得る。上記添加剤としては、公知の界面活性剤やpH調整剤等を用いることができる。被着体の汚染を避ける観点から、いくつかの態様において、添加剤を実質的に含有しない水性剥離液を好ましく使用し得る。環境衛生の観点から、水性剥離液として水を用いることが特に好ましい。水としては、特に制限されず、用途に応じて求められる純度や入手容易性等を考慮して、例えば蒸留水、イオン交換水、水道水等を用いることができる。
【0112】
<半導体素子製造方法>
ここに開示される粘着シートを用いる半導体素子製造方法の一実施形態を以下に説明する。この実施形態の半導体素子製造方法は、回路形成面を有する半導体ウエハの該回路形成面側に半導体加工用粘着シートの粘着面を貼り合わせる工程(1)と、上記粘着シートが貼り合わされた上記半導体ウエハに、該粘着シートとは反対側から加工を施す工程(2)と、上記加工後の半導体ウエハから上記粘着シートを剥離する工程(3)と、を含む。
【0113】
上記工程(3)は、加工後の半導体ウエハ(被着体)からの上記粘着シートの剥離前線に水性剥離液を供給して行うことが好ましい。これにより粘着シートを軽剥離化することによって、糊残りを抑制し、また被着体(加工後の半導体ウエハ)の負荷を軽減することができる。いくつかの態様において、上記工程(3)は、後述する粘着シート剥離方法により好ましく実施することができる。
【0114】
好ましくは、上記工程(1)の後、上記工程(3)の前に、上述のような高温プロセスが行われる。上記工程(1)の後、上記工程(3)の前に、活性エネルギー線(例えば紫外線)の照射を伴うプロセスが行われてもよい。上記高温プロセスおよび上記活性エネルギー線照射プロセスは、それぞれ、上記工程(2)において行ってもよく、上記工程(2)の前に行ってもよく、上記工程(2)の後に行ってもよい。
【0115】
いくつかの態様において、上記工程(2)はバックグラインド工程であり得る。この場合、上記粘着シートはバックグラインドテープとして用いられる。バックグラインド工程は、任意の適切な方法により行われ得る。バックグラインド工程は、粘着シートが貼り合わされた半導体ウエハを、該半導体ウエハの厚さが例えば150μm以下、100μm以下、50μm以下または30μm以下となるまで薄型化する工程であり得る。このように薄型化される態様において、工程(3)において粘着シートを水剥離することによる効果が好ましく発揮され得る。なお、バックグラインド工程は、環状凸部の内側が凹部となるように(すなわち、TAIKO(登録商標)ウエハが得られるように)行われてもよい。この場合、薄型化された半導体ウエハの厚さとは、上記凹部の厚さをいう。また、特に限定するものではないが、バックグラインド前の半導体ウエハの厚さは、例えば500μm~1000μm程度であり得る。
【0116】
ここに開示される半導体素子製造方法は、任意の適切な工程をさらに含み得る。そのような任意工程の例には、エッチング工程、フォトリソグラフ工程、イオン注入工程、ダイシング工程、ダイボンディング工程、ワイヤーボンディング工程、パッケージング工程等が含まれるが、これらに限定されない。上記で例示した工程の各々は、上記工程(2)において行われてもよく、上記工程(2)の後、上記工程(3)の前に行われてもよく、上記工程(3)の後に行われてもよい。
【0117】
<粘着シート剥離方法>
この明細書によると、被着体に貼り付けられた粘着シートを該被着体から剥離する粘着シート剥離方法が提供される。その方法は、上記被着体からの上記粘着シートの剥離前線において上記被着体と上記粘着シートとの界面に水性剥離液が存在する状態で、上記剥離前線の移動に追随して上記水性剥離液の上記界面への進入を進行させつつ上記被着体から上記粘着シートを剥離する水剥離工程を含み得る。ここで剥離前線とは、被着体からの粘着シートの剥離を進行させる際に、上記被着体から上記粘着シートの粘着面が離れ始める箇所を指す。上記水剥離工程によると、上記水性剥離液を有効に利用して被着体から粘着シートを剥離することができる。上記剥離方法は、例えば、ここに開示されるいずれかの粘着シートを被着体から剥離する態様で好ましく実施され得る。
【0118】
ここに開示される剥離方法における被着体は、上記で例示した各種の半導体ウエハであり得る。上記半導体ウエハは、回路形成された半導体ウエハであってもよい。ここに開示される剥離方法は、回路形成された半導体ウエハの該回路形成面に貼り付けられた粘着シートを上記回路形成面から剥離する方法として好ましく利用され得る。上記粘着シートを被着体に貼り合わせた後、上記水剥離の開始前に高温プロセスが行われてもよい。
【0119】
上記剥離方法により被着体から剥離される粘着シートとしては、ここに開示されるいずれかの粘着シートを好ましく使用し得る。したがって、上記剥離方法は、ここに開示されるいずれかの粘着シートの剥離方法として好適である。
【0120】
いくつかの態様において、上記剥離方法は、被着体に貼り付けられた粘着シートの外縁の一端において該粘着シートを上記被着体から強制的に持ち上げることにより初期の剥離前線を形成することと、上記剥離前線に水性剥離液を供給することと、上記剥離前線の移動に追随して上記粘着シートと上記被着体との界面への上記水性剥離液の進入を進行させつつ上記記被着体から上記粘着シートを剥離することと、を含む態様で好ましく実施され得る。上記初期の剥離前線の形成は、例えば、粘着シートと被着体との界面にカッターナイフや針等の治具の先端を差し込む、上記粘着シートを鉤や爪等で引掻いて持ち上げる、粘着シートの背面に強粘着性の粘着テープや吸盤等を付着させて該粘着シートの端を持ち上げる、等の態様で行うことができる。このようにして初期の剥離前線を形成したうえで該剥離前線に水性剥離液を供給して水剥離を開始することにより、上記剥離前線への水性剥離液の供給を効率よく行うことができる。また、かかる剥離方法および該剥離方法に用いられる粘着シートにおいて、初期の剥離前線を強制的に形成する操作を行って剥離のきっかけをつくった後における良好な水剥離性と、かかる操作を行わない場合における高い耐水信頼性とを、好適に両立することができる。
【0121】
いくつかの態様において、上記剥離方法は、上記初期の剥離前線に水性剥離液を供給した後(すなわち、水剥離の開始時に水性剥離液を供給した後)、新たな水性剥離液の供給を行うことなく粘着シートの剥離を進行させる態様で好ましく行うことができる。あるいは、水剥離を進行させる途中で、剥離前線の移動に追随して粘着シートと被着体との界面に進入させる水性剥離液が途中で枯渇または不足するようであれば、該水剥離の開始後に断続的または連続的に水性剥離液を追加供給してもよい。例えば、剥離の進行に伴って剥離前線の長さが増す場合(例えば、円盤状の被着体の外縁の一端から該円の径方向に水剥離を進行させる場合)や、被着体表面に水性剥離液が残留しやすい場合等において、水剥離の開始後に水性剥離液を追加供給する態様を好ましく採用し得る。また、水性剥離液を供給する位置は、一か所であってもよく、複数か所であってもよい。水剥離の開始後に水性剥離液を追加供給する場合、水剥離の開始後に水性剥離液を供給する位置の数を増減してもよい。
【0122】
なお、この明細書により開示される事項には、以下のものが含まれる。
〔1〕 粘着面を構成する粘着剤層を含む半導体加工用粘着シートであって、
初期通常剥離力Fdが0.10N/20mm以上であり、かつ
150℃で15分間の加熱処理を行った後の通常剥離力Fdが1.00N/20mm以下である、半導体加工用粘着シート。
〔2〕 粘着面を構成する粘着剤層を含む半導体加工用粘着シートであって、
初期通常剥離力Fdが0.10N/20mm以上であり、かつ
150℃で15分間の加熱処理を行った後に上記粘着シートの被着体からの剥離前線に水を供給して測定される水剥離力Fwが0.30N/20mm以下である、半導体加工用粘着シート。
〔3〕 粘着面を構成する粘着剤層を含む半導体加工用粘着シートであって、
初期通常剥離力Fdが0.10N/20mm以上であり、かつ
200℃で15分間の加熱処理を行った後の通常剥離力Fdが3.00N/20mm以下である、半導体加工用粘着シート。
〔4〕 粘着面を構成する粘着剤層を含む半導体加工用粘着シートであって、
初期通常剥離力Fdが0.10N/20mm以上であり、かつ
200℃で15分間の加熱処理を行った後、上記粘着シートの被着体からの剥離前線に水を供給して測定される水剥離力Fwが2.00N/20mm以下である、半導体加工用粘着シート。
〔5〕 150℃で15分間の加熱処理を行った後の通常剥離力Fd[N/20mm]と、200℃で15分間の加熱処理を行った後の通常剥離力Fd[N/20mm]とから、次式:Fd/Fd;により算出される通常剥離力比が4.0以下である、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の半導体加工用粘着シート。
〔6〕 150℃で15分間の加熱処理を行った後の通常剥離力Fd[N/20mm]と、200℃で15分間の加熱処理を行った後の通常剥離力Fd[N/20mm]とから、次式:Fd-Fd;により算出される通常剥離力差が1.50N/20mm以下である、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の半導体加工用粘着シート。
〔7〕 上記粘着剤層を支持する基材を含む、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の半導体加工用粘着シート。
〔8〕 粘着面を構成する粘着剤層を含む半導体加工用粘着シートであって、下記条件Aを満たし、さらに下記条件B~Eのうち少なくとも一つを満たす、半導体加工用粘着シート。
(条件A)初期通常剥離力Fdが0.10N/20mm以上である。
(条件B)150℃で15分間の加熱処理を行った後の通常剥離力Fdが1.00N/20mm以下である。
(条件C)150℃で15分間の加熱処理を行った後に上記粘着シートの被着体からの剥離前線に水を供給して測定される水剥離力Fwが0.30N/20mm以下である。
(条件D)200℃で15分間の加熱処理を行った後の通常剥離力Fdが3.00N/20mm以下である。
(条件E)200℃で15分間の加熱処理を行った後、上記粘着シートの被着体からの剥離前線に水を供給して測定される水剥離力Fwが2.00N/20mm以下である。
〔9〕 少なくとも上記条件Aおよび上記条件Cを満たす、上記〔8〕に記載の粘着シート。
〔10〕 上記粘着剤層はアクリル系粘着剤層である、上記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の半導体加工用粘着シート。
〔11〕 上記粘着剤層は、耐熱性剥離剤として、界面活性剤およびポリオキシアルキレン骨格を有する化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物Aを含む、上記〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の半導体加工用粘着シート。
〔12〕 上記粘着剤層には架橋剤が用いられている、上記〔1〕~〔11〕のいずれかに記載の半導体加工用粘着シート。
〔13〕 上記架橋剤はイソシアネート系架橋剤を含む、上記〔1〕~〔12〕のいずれかに記載の半導体加工用粘着シート。
〔14〕 上記架橋剤は、イソシアネート系架橋剤およびエポキシ系架橋剤を含む、上記〔1〕~〔12〕のいずれかに記載の半導体加工用粘着シート。
〔15〕 上記〔1〕~〔14〕のいずれかに記載の半導体加工用粘着シートを用いて半導体素子を製造する方法であって、
回路形成面を有する半導体ウエハの該回路形成面側に上記半導体加工用粘着シートの上記粘着面を貼り合わせる工程(1)と、
上記粘着シートが貼り合わされた上記半導体ウエハに、該粘着シートとは反対側から加工を施す工程(2)と、
上記加工後の半導体ウエハから上記粘着シートを剥離する工程(3)と
を含む、半導体素子製造方法。
〔16〕 上記工程(1)の後、上記工程(3)の前に、高温プロセス(例えば100℃以上、好ましくは60℃以上の高温プロセス)を行う高温暴露工程を含む、上記〔15〕に記載の半導体素子製造方法。
〔17〕 上記工程(3)を水剥離法により行う、上記〔15〕または〔16〕に記載の半導体素子製造方法。
【実施例
【0123】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0124】
<評価方法>
1.初期通常剥離力Fdの測定
測定対象の粘着シートを幅20mmの帯状にカットして試験片を調製する。23℃、50%RHの環境下において、被着体としての6インチシリコンウエハ(信越化学社製、6インチN<100>-100)のミラー面に、上記試験片の粘着面をハンドローラーで貼り合わせ、30分間放置して評価用サンプルを作製する。
その後、23℃、50%RHの環境下において、上記評価用サンプルの試験片と被着体との界面にカッターナイフを差し込んで該試験片の長手方向の一端を被着体から剥離させ、JIS Z0237:2009の「10.4.1 方法1:試験板に対する180°引きはがし粘着力」に従い、具体的には、試験温度23℃にて引張試験機(島津製作所製の精密万能試験機「オートグラフEZ-S」)を用いて引張速度300mm/分、剥離角度180度の条件で剥離強度を測定する。剥離強度の測定は、被着体に貼り付けられた試験片の剥離が下から上に進行するように行う。測定は3回行い、それらの平均値を初期通常剥離力Fd[N/20mm]とする。
【0125】
2.初期水剥離力Fwの測定
上記通常剥離力Fdの測定において、試験片を被着体から引き剥がす途中で、該被着体から上記試験片が離れ始める箇所(剥離前線)に20μLの蒸留水を供給し、該蒸留水供給後の剥離強度を測定する。測定は、各剥離強度の測定毎に(すなわち3回)行い、それらの平均値を初期水剥離力Fw[N/20mm]とする。
【0126】
3.加熱後通常剥離力の測定
(150℃加熱後通常剥離力Fd
上記初期通常剥離力Fdの測定と同様にして作製した評価用サンプルを、150℃、15分間の条件で加熱する。加熱後、常温(25℃)環境で30分放冷する。放冷後、上記初期通常剥離力Fdの測定と同様にして剥離強度を測定する。測定は3回行い、それらの平均値を150℃加熱後通常剥離力Fd[N/20mm]とする。
(200℃加熱後通常剥離力Fd
加熱条件を200℃、15分間に変更する他は上記150℃加熱後通常剥離力Fdの測定と同様にして、200℃加熱後通常剥離力Fd[N/20mm]を測定する。
【0127】
4.加熱後水剥離力の測定
(150℃加熱後水剥離力Fw
上記150℃加熱後通常剥離力Fdの測定において、試験片を被着体から引き剥がす途中で、該被着体から上記試験片が離れ始める箇所(剥離前線)に20μLの蒸留水を供給し、該蒸留水供給後の剥離強度を測定する。測定は、各剥離強度の測定毎に(すなわち3回)行い、それらの平均値を150加熱後水剥離力Fw、Fw[N/20mm]とする。
(200℃加熱後水剥離力Fw
加熱条件を200℃、15分間に変更する他は上記150℃加熱後水剥離力Fwの測定と同様にして、200℃加熱後水剥離力Fw[N/20mm]を測定する。
【0128】
<例1>
(粘着剤組成物の調製)
モノマー原料としてのn-ブチルアクリレート(BA)100部およびアクリル酸3部と、重合開始剤としての2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2部と、重合溶媒としてのトルエンとを混合して、モノマー組成物を調製した。
上記モノマー組成物を、1L丸底セパラブルフラスコに、セパラブルカバー、分液ロート、温度計、窒素導入管、リービッヒ冷却器、バキュームシール、攪拌棒、攪拌羽が装備された重合用実験装置に投入し、撹拌しながら、常温で2時間、窒素置換した。その後、窒素気流下で、攪拌しながら、60℃に5時間保持して重合し、ポリマーP1(Mw 約100万)の溶液を得た。上記モノマー原料の組成に基づいてFoxの式から算出されるTgは-52.3℃である。
【0129】
上記ポリマーP1の溶液を室温まで冷却し、該溶液中のポリマーP1の100部あたり、イソシアネート系架橋剤(トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物、東ソー社製、商品名「コロネートL」、固形分濃度75重量%)を固形分基準で2.0部、エポキシ系架橋剤(三菱ガス化学株式会社製、商品名「テトラッドC」)を0.7部加えて混合することにより、粘着剤組成物C1を調製した。
【0130】
(粘着シートの作製および評価)
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの片面がシリコーン処理による剥離面となっている厚さ38μmの剥離フィルム(三菱樹脂社製、MRF38)の上記剥離面に粘着剤組成物C1を塗布し、140℃で2分間乾燥させて、厚さ20μmの粘着剤層を形成した。基材としての易接着処理PETフィルム(厚さ50μm)の易接着面に上記粘着剤層を貼り合わせた後、50℃で2日間のエージングを行って、本例に係る粘着シート(基材付き片面粘着シート)を得た。
得られた粘着シートについて、上述の方法により剥離力を測定し、得られた測定値から通常剥離力比(Fd/Fd)および通常剥離力差(Fd-Fd)を算出した。結果を表1に示した。
【0131】
<例2>
上記ポリマーP1の溶液に、該溶液中のポリマーP1の100部あたり、上述した試験Iにおいて酢酸エチルに相分離なく溶解する化合物Aであるノニオン性界面活性剤A1(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、花王社製のソルビタン脂肪酸エステル、商品名「レオドールTW-L 120」、エチレンオキサイド付加モル数20、HLB16.7)0.1部を、さらに添加した。上記の点以外は粘着剤組成物C1の調製と同様にして、粘着剤組成物C2を調製した。
なお、上記ノニオン性界面活性剤A1は、酢酸エチル溶液の形態で、固形分基準で上記量が添加されるように使用した。粘着剤組成物C3~C5の調製においても同様である。
上記粘着剤組成物C2を用いた他は例1と同様にして、本例に係る粘着シートを得た。
得られた粘着シートについて、例1と同様の評価を行った。結果を表1に示した。
【0132】
<例3~5>
100部のポリマーP1に対するノニオン性界面活性剤A1の添加量を表1に示すように変更した他は粘着剤組成物C2の調製と同様にして、例3~5に係る粘着剤組成物C3~C5を調製した。上記粘着剤組成物C3~C5を用いた他は例1と同様にして、例3~5に係る粘着シートを得た。得られた粘着シートについて、例1と同様の評価を行った。結果を表1に示した。
【0133】
【表1】
【0134】
表1に示されるように、例2~5の粘着シートは、例1の粘着シートに比べて高温暴露後の剥離力が明らかに低く、加工時における被着体への密着性や接合信頼性とのバランスに優れていた。例3~5は特に好適な結果であった。
【0135】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0136】
1,2,3,4,5,6 粘着シート
10 基材
10A 第一面
10B 第二面
21,22 粘着剤層
21A 第一粘着面
21B 第二粘着面
31,32 剥離ライナー

図1
図2
図3
図4
図5
図6