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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-21
(45)【発行日】2025-03-31
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20250324BHJP
   G01N 27/26 20060101ALI20250324BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/26 371A
G01N27/26 371B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021204745
(22)【出願日】2021-12-17
(65)【公開番号】P2023090025
(43)【公開日】2023-06-29
【審査請求日】2024-07-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後呂 洋平
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
(72)【発明者】
【氏名】中島 章裕
(72)【発明者】
【氏名】平川 敏弘
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-165966(JP,A)
【文献】特開2019-002700(JP,A)
【文献】特開平10-318979(JP,A)
【文献】特開2019-020327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサであって、
酸素イオン伝導性の固体電解質層を含み、前記被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部が内部に設けられた素子本体と、
前記被測定ガス流通部に配設された内側電極と、前記被測定ガスと接触するように前記素子本体の外側に配設された外側電極と、を有し、前記内側電極の周囲の酸素濃度を調整するポンプセルと、
前記ポンプセルに第1周波数の電圧を印加して第1インピーダンスを測定する第1測定と、前記ポンプセルに前記第1周波数よりも大きい第2周波数の電圧を印加して第2インピーダンスを測定する第2測定と、を行うインピーダンス測定部と、
前記第1インピーダンスと前記第2インピーダンスとに基づいて前記ポンプセルの反応抵抗と相関のある反応抵抗指標を算出する演算部と、
を備えたガスセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサであって、
前記ポンプセルに制御電圧を印加して該ポンプセルを制御する通常時ポンプ制御処理を行う制御部、
を備え、
前記制御部は、前記第1測定及び前記第2測定の実行中は前記通常時ポンプ制御処理中と比べて前記制御電圧を小さくする、
ガスセンサ。
【請求項3】
前記第1周波数は、500Hz以下であり、
前記第2周波数は、1000Hz以上である、
請求項1又は2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記演算部は、前記算出した前記反応抵抗指標を、前記反応抵抗指標の初期値を基準として正規化することで、前記ポンプセルの劣化割合を算出する、
請求項1~3のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のガスセンサであって、
前記被測定ガス中の前記特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガスと接触するように前記素子本体の内部に配設された基準電極と、
前記基準電極と前記内側電極との間の電圧が目標値になるように前記外側電極と前記内側電極との間に印加される制御電圧をフィードバック制御して、前記内側電極の周囲の酸素濃度を調整する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記反応抵抗指標に基づいて、前記フィードバック制御の制御パラメータを補正する、
ガスセンサ。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載のガスセンサであって、
前記内側電極は、前記被測定ガス流通部のうちの測定室に設けられた測定電極であり、
前記ポンプセルは、前記測定電極の周囲から前記特定ガスに由来する酸素を汲み出す測定用ポンプセルであり、
前記被測定ガス中の特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガスと接触するように前記素子本体の内部に配設された基準電極と、
前記基準電極と前記測定電極との間の電圧が目標値になるように前記外側電極と前記測定電極との間に印加される制御電圧をフィードバック制御する測定用ポンプ制御処理を行う制御部と、
前記測定用ポンプ制御処理によって前記測定用ポンプセルに流れる測定用ポンプ電流に基づいて前記被測定ガス中の前記特定ガス濃度を検出する特定ガス濃度検出部と、
を備え、
前記特定ガス濃度検出部は、前記反応抵抗指標に基づいて、前記特定ガス濃度を補正する、
ガスセンサ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のガスセンサであって、
前記素子本体を加熱するヒータと、
前記ヒータの温度が目標温度になるように前記ヒータに通電して前記ヒータを発熱させるヒータ制御処理を行うヒータ制御部と、
を備え、
前記ヒータ制御部は、前記反応抵抗指標に基づいて、前記目標温度を補正する、
ガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの特定ガス濃度を検出するガスセンサが知られている。例えば、特許文献1のガスセンサは、酸素イオン伝導性の固体電解質層を有する素子本体と、素子本体に設けられたポンプセルと、を備えている。ポンプセルは、素子本体の内部に配設された内側電極と、素子本体の外側に配設された外側電極と、これらの電極の間の固体電解質層と、を含んで構成される。また、ガスセンサにおいて、素子のインピーダンスを測定することが知られている。例えば、特許文献2に記載のガスセンサでは、センサの印加電圧を一時的に正方向及び負方向に変化させたときの電圧変化量と電流変化量とから固体電解質層の内部抵抗(素子インピーダンス)を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-165815号公報
【文献】特許第3704880号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ポンプセルの劣化(特に、ポンプセルが有する電極の劣化)の状態を把握するため、ポンプセルの反応抵抗を測定したい場合があった。しかし、例えば特許文献2では、固体電解質層の抵抗の測定について記載されており、一方でポンプセルの反応抵抗を測定することは記載されていない。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、ポンプセルの劣化状態を測定することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のガスセンサは、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するガスセンサであって、
酸素イオン伝導性の固体電解質層を含み、前記被測定ガスを導入して流通させる被測定ガス流通部が内部に設けられた素子本体と、
前記被測定ガス流通部に配設された内側電極と、前記被測定ガスと接触するように前記素子本体の外側に配設された外側電極と、を有し、前記内側電極の周囲の酸素濃度を調整するポンプセルと、
前記ポンプセルに第1周波数の電圧を印加して第1インピーダンスを測定する第1測定と、前記ポンプセルに前記第1周波数よりも大きい第2周波数の電圧を印加して第2インピーダンスを測定する第2測定と、を行うインピーダンス測定部と、
前記第1インピーダンスと前記第2インピーダンスとに基づいて前記ポンプセルの反応抵抗と相関のある反応抵抗指標を算出する演算部と、
を備えたものである。
【0008】
このガスセンサでは、インピーダンス制御部が、ポンプセルに第1周波数の電圧を印加して第1インピーダンスを測定する第1測定と、ポンプセルに第1周波数よりも大きい第2周波数の電圧を印加して第2インピーダンスを測定する第2測定と、を行う。そして、演算部が、第1インピーダンスと第2インピーダンスとに基づいてポンプセルの反応抵抗と相関のある反応抵抗指標を算出する。ここで、インピーダンス測定によって測定される第1,第2インピーダンスには、反応抵抗とは異なる抵抗、具体的には印加された電圧によって流れる電流の経路の抵抗が含まれてしまう。しかし、低い周波数の電圧を印加して測定された第1インピーダンスには、高い周波数の電圧を印加して測定された第2インピーダンスと比べてポンプセルの反応抵抗が現れやすい。そのため、第1インピーダンスと第2インピーダンスとに基づいて、ポンプセルの反応抵抗と相関のある反応抵抗指標を算出することができる。そして、ポンプセルが劣化して反応抵抗が変化すると、この反応抵抗指標も変化するから、反応抵抗指標はポンプセルの劣化状態を表す。したがって、このガスセンサでは、ポンプセルの劣化状態を測定できる。ここで、第1測定及び第2測定でポンプセルに電圧を印加する際には、ポンプセルの内側電極と外側電極との間に電圧を印加する。ポンプセルの反応抵抗とは、より具体的にはポンプセルが有する内側電極及び外側電極の反応抵抗である。また、ポンプセルの劣化状態とは、より具体的にはポンプセルが有する内側電極及び外側電極の劣化状態である。
【0009】
この場合において、前記反応抵抗指標は、前記第1インピーダンスと前記第2インピーダンスとの相違に関する値としてもよい。例えば、反応抵抗指標は、前記第1インピーダンスと前記第2インピーダンスとの差又は比としてもよい。
【0010】
本発明のガスセンサは、前記ポンプセルに制御電圧を印加して該ポンプセルを制御する通常時ポンプ制御処理を行う制御部、を備え、前記制御部は、前記第1測定及び前記第2測定の実行中は前記通常時ポンプ制御処理中と比べて前記制御電圧を小さくしてもよい。こうすれば、ポンプセルに印加される制御電圧が第1測定及び第2測定に与える影響を小さくできるため、ポンプセルの劣化状態の測定をより精度良く行うことができる。
【0011】
本発明のガスセンサにおいて、前記第1周波数は、500Hz以下であり、前記第2周波数は、1000Hz以上であってもよい。第1周波数を500Hz以下とすることで、第1インピーダンスにはポンプセルの反応抵抗がより表れやすくなる。また、第2周波数を1000Hz以上とすることで、第2インピーダンスにはポンプセルの反応抵抗がより現れにくくなる。したがって、このような第1周波数及び第2周波数を用いることで、より精度良くポンプセルの劣化状態を測定できる。
【0012】
本発明のガスセンサにおいて、前記演算部は、前記算出した前記反応抵抗指標を、前記反応抵抗指標の初期値を基準として正規化することで、前記ポンプセルの劣化割合を算出してもよい。こうすれば、ポンプセルの初期状態からの劣化の進行の程度を劣化割合として測定できる。
【0013】
本発明のガスセンサは、前記被測定ガス中の前記特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガスと接触するように前記素子本体の内部に配設された基準電極と、前記基準電極と前記内側電極との間の電圧が目標値になるように前記外側電極と前記内側電極との間に印加される制御電圧をフィードバック制御して、前記内側電極の周囲の酸素濃度を調整する制御部と、を備え、前記制御部は、前記反応抵抗指標に基づいて、前記フィードバック制御の制御パラメータを補正してもよい。ここで、ポンプセルが劣化して反応抵抗が変化すると、ポンプセルのポンピング能力も変化する。このガスセンサでは、ポンプセルの反応抵抗に応じて制御パラメータを補正するから、ポンプセルの劣化状態に応じてポンプセルを適切に制御できる。
【0014】
本発明のガスセンサにおいて、前記内側電極は、前記被測定ガス流通部のうちの測定室に設けられた測定電極であり、前記ポンプセルは、前記測定電極の周囲から前記特定ガスに由来する酸素を汲み出す測定用ポンプセルであり、前記被測定ガス中の特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガスと接触するように前記素子本体の内部に配設された基準電極と、前記基準電極と前記測定電極との間の電圧が目標値になるように前記外側電極と前記測定電極との間に印加される制御電圧をフィードバック制御する測定用ポンプ制御処理を行う制御部と、前記測定用ポンプ制御処理によって前記測定用ポンプセルに流れる測定用ポンプ電流に基づいて前記被測定ガス中の前記特定ガス濃度を検出する特定ガス濃度検出部と、を備え、前記特定ガス濃度検出部は、前記反応抵抗指標に基づいて、前記特定ガス濃度を補正してもよい。ここで、測定用ポンプセル(特に測定電極及び外側電極)が劣化して反応抵抗が変化すると、測定用ポンプセルのポンピング能力が変化する。そのため、反応抵抗の変化の前後で、被測定ガス中のNOx濃度が同じであっても測定用ポンプ電流が変化してしまう場合がある。これに対して、このガスセンサでは、測定用ポンプセルの反応抵抗に応じて特定ガス濃度を補正するから、測定用ポンプセルの劣化による特定ガス濃度の検出精度の低下を抑制できる。
【0015】
本発明のガスセンサは、前記素子本体を加熱するヒータと、前記ヒータの温度が目標温度になるように前記ヒータに通電して前記ヒータを発熱させるヒータ制御処理を行うヒータ制御部と、を備え、前記ヒータ制御部は、前記反応抵抗指標に基づいて、前記目標温度を補正してもよい。ここで、ヒータの温度が高いほど、ポンプセルの反応抵抗は低くなる傾向にある。そのため、反応抵抗指標に基づいてヒータの目標温度を補正することで、ポンプセルの劣化による反応抵抗の変化を補うことができるから、ポンプセルの劣化による悪影響を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ガスセンサ100の断面模式図。
図2】制御装置90と各セル及びヒータ72との電気的な接続関係を示すブロック図。
図3】主ポンプセル21に印加するパルス電圧の一例を示すグラフ。
図4】主ポンプセル21に印加したパルス電圧の周波数とインピーダンス|Z|との関係を示すグラフ。
図5】制御ルーチンの一例を示すフローチャート。
図6】変形例のセンサ素子201の断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態であるガスセンサ100の構成の一例を概略的に示した断面模式図である。図2は、制御装置90と各セル及びヒータ72との電気的な接続関係を示すブロック図である。このガスセンサ100は、例えばディーゼルエンジンなどの内燃機関の排ガス管などの配管に取り付けられている。ガスセンサ100は、内燃機関の排ガスを被測定ガスとして、被測定ガス中のNOxなどの特定ガスの濃度を検出する。ガスセンサ100は、長尺な直方体形状をしたセンサ素子101と、センサ素子101の一部を含んで構成される各セル21,41,50,80~83と、センサ素子101の内部に設けられたヒータ部70と、ガスセンサ100全体を制御する制御装置90と、を備えている。
【0018】
センサ素子101は、それぞれがジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された積層体を有する素子である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0019】
センサ素子101の先端部側(図1の左端部側)であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40と、第4拡散律速部60と、第3内部空所61とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
【0020】
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40と、第3内部空所61とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
【0021】
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。また、第4拡散律速部60は、第2固体電解質層6の下面との隙間として形成された1本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から第3内部空所61に至る部位を被測定ガス流通部とも称する。
【0022】
また、被測定ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43には、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。
【0023】
大気導入層48は、多孔質セラミックスからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空間43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0024】
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる大気導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内,第2内部空所40内,及び第3内部空所61内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。基準電極42は、多孔質サーメット電極(例えば、PtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。
【0025】
被測定ガス流通部において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの圧力変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの圧力変動はほとんど無視できる程度のものとなる。第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0026】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0027】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部(図示省略)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。
【0028】
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0029】
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
【0030】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
【0031】
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力(電圧V0)を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。さらに、電圧V0が目標値となるように可変電源24の電圧Vp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これによって、第1内部空所20内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
【0032】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0033】
第2内部空所40は、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整を行うための空間として設けられている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0034】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101の外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0035】
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0036】
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
【0037】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
【0038】
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力(電圧V1)に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0039】
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その電圧V0の上述した目標値が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0040】
第4拡散律速部60は、第2内部空所40で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所61に導く部位である。第4拡散律速部60は、第3内部空所61に流入するNOxの量を制限する役割を担う。
【0041】
第3内部空所61は、あらかじめ第2内部空所40において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第4拡散律速部60を通じて導入された被測定ガスに対して、被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の測定は、主として、第3内部空所61において、測定用ポンプセル41の動作により行われる。
【0042】
測定用ポンプセル41は、第3内部空所61内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、第3内部空所61に面する第1固体電解質層4の上面に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。測定電極44は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を、内側ポンプ電極22よりも高めた材料にて構成された多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第3内部空所61内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。
【0043】
具体的には、測定電極44は、触媒活性を有する貴金属であるPt及びRhの少なくともいずれかを含む電極である。測定電極44は、Pt及びRhの少なくともいずれかと、酸素イオン導電性を有する酸化物(ここではZrO2)とを含むサーメットからなる電極とすることが好ましい。また、測定電極44は、多孔質体であることが好ましい。本実施形態では、測定電極44は、Pt及びRhとZrO2との多孔質サーメット電極とした。
【0044】
測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
【0045】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力(電圧V2)に基づいて可変電源46が制御される。
【0046】
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部60を通じて第3内部空所61内の測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N2+O2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された電圧V2が一定(目標値)となるように可変電源46の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0047】
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力(電圧Vref)によりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0048】
このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定用ポンプセル41に与えられる。したがって、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
【0049】
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータコネクタ電極71と、ヒータ72と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74と、圧力放散孔75とを備えている。
【0050】
ヒータコネクタ電極71は、第1基板層1の下面に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータコネクタ電極71を外部電源と接続することによって、外部からヒータ部70へ給電することができるようになっている。
【0051】
ヒータ72は、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ72は、スルーホール73を介してヒータコネクタ電極71と接続されており、該ヒータコネクタ電極71を通してヒータ電源76(図2参照)により給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0052】
また、ヒータ72は、第1内部空所20から第3内部空所61の全域に渡って埋設されており、センサ素子101全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
【0053】
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータ72との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータ72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
【0054】
圧力放散孔75は、第3基板層3及び大気導入層48を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
【0055】
制御装置90は、図2に示すように、上述した可変電源24,46,52と、インピーダンス測定部47と、上述したヒータ電源76と、制御部91と、を備えている。
【0056】
インピーダンス測定部47は、主ポンプセル21に所定の周波数の電圧を印加してインピーダンス測定を行う装置である。インピーダンス測定部47は、例えば図示しない電源と電圧測定部と電流測定部とを備えており、電源から電圧を印加したときに電圧測定部及び電流測定部が測定した電圧及び電流に基づいて、インピーダンスを測定する。インピーダンス測定部47は、主ポンプセル21の内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に電圧を印加してインピーダンス測定を行う。
【0057】
制御部91は、CPU92及び記憶部94などを備えたマイクロプロセッサである。記憶部94は、例えば各種プログラムや各種データを記憶する装置である。制御部91は、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80にて検出される電圧V0、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される電圧V1、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出される電圧V2、センサセル83にて検出される電圧Vref、主ポンプセル21にて検出されるポンプ電流Ip0、補助ポンプセル50にて検出されるポンプ電流Ip1及び測定用ポンプセル41にて検出されるポンプ電流Ip2を入力する。また、制御部91は可変電源24,46,52へ制御信号を出力することで可変電源24,46,52が出力する電圧Vp0,Vp1,Vp2を制御し、これにより、主ポンプセル21,測定用ポンプセル41及び補助ポンプセル50を制御する。制御部91は、インピーダンス測定部47へ制御信号を出力することでインピーダンス測定部47にインピーダンス測定を実行させ、インピーダンス測定部47から測定結果としてのインピーダンスの値を入力する。また、制御部91は、入力したインピーダンスの値に基づいて、後述する反応抵抗指標Rrを算出する。制御部91は、ヒータ電源76に制御信号を出力することでヒータ電源76がヒータ72に供給する電力を制御する。記憶部94には、後述する目標値V0*,V1*,V2*なども記憶されている。制御部91のCPU92は、これらの目標値V0*,V1*,V2*を参照して、各セル21,41,50の制御を行う。
【0058】
制御部91は、第2内部空所40の酸素濃度が目標濃度となるように補助ポンプセル50を制御する補助ポンプ制御処理を行う。具体的には、制御部91は、電圧V1が一定値(目標値V1*と称する)となるように可変電源52の電圧Vp1をフィードバック制御することで、補助ポンプセル50を制御する。目標値V1*は、第2内部空所40の酸素濃度がNOxの測定に実質的に影響がない所定の低濃度となるような値として定められている。
【0059】
制御部91は、補助ポンプ制御処理によって補助ポンプセル50が第2内部空所40の酸素濃度を調整するときに流れるポンプ電流Ip1が目標電流(目標電流Ip1*と称する)になるように主ポンプセル21を制御する主ポンプ制御処理を行う。具体的には、制御部91は、電圧Vp1によって流れるポンプ電流Ip1が一定の目標電流Ip1*となるように、ポンプ電流Ip1に基づいて電圧V0の目標値(目標値V0*と称する)を設定(フィードバック制御)する。そして、制御部91は、電圧V0が目標値V0*となるように(つまり第1内部空所20の酸素濃度が目標濃度となるように)可変電源24の電圧Vp0をフィードバック制御する。この主ポンプ制御処理により、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となる。目標値V0*は、第1内部空所20の酸素濃度が0%よりは高く且つ低酸素濃度となるような値に設定される。また、この主ポンプ制御処理中に流れるポンプ電流Ip0は、ガス導入口10から被測定ガス流通部内に流入する被測定ガス(すなわちセンサ素子101の周囲の被測定ガス)の酸素濃度に応じて変化する。そのため、制御部91は、ポンプ電流Ip0に基づいて被測定ガス中の酸素濃度を検出することもできる。
【0060】
上述した主ポンプ制御処理及び補助ポンプ制御処理をまとめて調整用ポンプ制御処理とも称する。また、第1内部空所20及び第2内部空所40をまとめて酸素濃度調整室とも称する。主ポンプセル21及び補助ポンプセル50をまとめて調整用ポンプセルとも称する。制御部91が調整用ポンプ制御処理を行うことで、調整用ポンプセルが酸素濃度調整室の酸素濃度を調整する。
【0061】
さらに、制御部91は、電圧V2が一定値(目標値)となるように(つまり第3内部空所61内の酸素濃度が所定の低濃度になるように)測定用ポンプセル41を制御する測定用ポンプ制御処理を行う。具体的には、制御部91は、電圧V2が目標値V2*となるように可変電源46の電圧Vp2をフィードバック制御することで、測定用ポンプセル41を制御する。この測定用ポンプ制御処理により、第3内部空所61内から酸素が汲み出される。
【0062】
測定用ポンプ制御処理が行われることで、被測定ガス中のNOxが第3内部空所61で還元されることにより発生した酸素が実質的にゼロとなるように、第3内部空所61内から酸素が汲み出される。そして、制御部91は、特定ガス(ここではNOx)に由来して第3内部空所61で発生する酸素に応じた検出値としてポンプ電流Ip2を取得し、このポンプ電流Ip2に基づいて被測定ガス中のNOx濃度を算出する。
【0063】
記憶部94には、ポンプ電流Ip2とNOx濃度との対応関係として、関係式(例えば一次関数又は二次関数の式)やマップなどが記憶されている。このような関係式又はマップは、予め実験により求めておくことができる。
【0064】
ここで、本発明者らは、主ポンプセル21について、印加する電圧の周波数と印加された電圧に基づいて測定されるインピーダンスとの関係を以下のようにして調べた。具体的には、まず、ヒータ72によりセンサ素子101を使用温度すなわち固体電解質が活性化する温度(ここでは850℃)まで加熱した。この状態で、大気雰囲気中にて、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に図3に示すパルス電圧を印加して、このときの内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の電圧の変化量ΔV及び主ポンプセル21に流れる電流の変化量ΔIを測定した。そして、電圧の変化量ΔVを電流の変化量ΔIで除すことでインピーダンス|Z|[Ω]を算出した(|Z|=ΔV/ΔI)。このようなインピーダンスの算出を、印加するパルス電圧の周波数を異ならせて複数回行った。具体的には、パルス電圧の周波数を100000Hz,10000Hz,1000Hz,100Hz,10Hz,1Hz,及び0.1Hzとして、各々の場合のインピーダンスを算出した。パルス電圧の周波数とインピーダンス|Z|との関係を図4に示す。図4では、7点の測定結果を黒丸で示し、測定結果に基づく近似曲線を実線で示した。図4では横軸を対数軸として示している。パルス電圧の周波数は、印加するパルス電圧のパルス幅をT[sec]としたときに、1/(2×T)[Hz]として算出した。印加するパルス電圧は、本実施形態では図3に示すように矩形波とした。
【0065】
図4から分かるように、印加される電圧の周波数が低くなるほど、測定されるインピーダンス|Z|が大きくなる傾向が確認された。これは、以下の理由によると考えられる。まず、印加された電圧によって流れる電流の経路の抵抗(ここでは電圧を印加した内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間の電流の経路となる固体電解質層の抵抗、すなわち層4~6の抵抗)は、周波数に関わらずインピーダンス|Z|の成分として現れていると考えられる。これに対し、内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23は、例えば反応抵抗と静電容量とが並列に接続された回路として表せることから、印加される電圧の周波数が低いほど反応抵抗がインピーダンス|Z|の成分として現れやすいと考えられる。これらにより、上記の通り周波数が低いほど測定されるインピーダンス|Z|が大きくなっていると考えられる。
【0066】
そこで、本発明者らは、単一の周波数の電圧を印加してインピーダンスを測定するのではなく、互いに周波数の異なる電圧を印加して測定された2つのインピーダンスの値を用いることで、上述した電流の経路の抵抗(ここでは層4~6の抵抗)の影響を小さくして反応抵抗との相関を高めた値を算出することを考えた。具体的には、まず、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に第1周波数の電圧を印加して第1インピーダンスR1を測定する第1測定と、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に第1周波数よりも大きい第2周波数の電圧を印加して第2インピーダンスR2を測定する第2測定と、を行う。こうすれば、第1インピーダンスR1には電流の経路の抵抗に加えて内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の反応抵抗も現れやすいのに対して、第2インピーダンスR2には電流の経路の抵抗が現れる一方で内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の反応抵抗は現れにくい。そのため、内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の反応抵抗が大きいほど、第1インピーダンスR1と第2インピーダンスR2との相違が大きくなる。したがって、第1インピーダンスR1と第2インピーダンスR2に基づいて、主ポンプセル21(特に内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23)の反応抵抗と相関のある反応抵抗指標Rrを算出することができる。反応抵抗指標Rrは、R1とR2との相違が大きいほど大きくなるか又は小さくなるような値であればよい。反応抵抗指標Rrは、例えばR1とR2との差(Rr=R1-R2,又はRr=R2-R1)としてもよいし、比(Rr=R1/R2,又はRr=R2/R1)としてもよい。本実施形態では、反応抵抗指標Rrは、R1とR2との差(Rr=R1-R2)とした。
【0067】
また、主ポンプセル21の反応抵抗は、主ポンプセル21(特に内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23)の劣化状態によっても変化する。具体的には、内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の少なくとも一方が使用により劣化していくと、主ポンプセル21の反応抵抗が増大していく。その結果、パルス電圧の周波数とインピーダンス|Z|との関係が、図4の実線で示した曲線から例えば1点鎖線で示す曲線のように変化する。具体的には、特に周波数が低い領域におけるインピーダンス|Z|の値が劣化前と比べて大きくなる。したがって、反応抵抗指標Rrも主ポンプセル21の劣化前と比べて変化し、例えば本実施形態の場合は内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の少なくとも一方が劣化するほど反応抵抗指標Rrが大きい値になる。このように、主ポンプセル21が劣化して反応抵抗が変化すると、反応抵抗指標Rrも変化するから、反応抵抗指標Rrは主ポンプセル21の劣化状態を表す。したがって、反応抵抗指標Rrを算出することで、主ポンプセル21の劣化状態を測定できる。
【0068】
第1周波数は、内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の反応抵抗が現れやすい周波数として例えば実験により予め定めておくことができる。同様に、第2周波数は、第1測定と比べて内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の反応抵抗が現れにくい周波数として例えば実験により予め定めておくことができる。言い換えると、第1インピーダンスR1と第2インピーダンスR2との相違が比較的大きくなるように、予め第1周波数及び第2周波数を定めておけばよい。センサ素子101の個体差や反応抵抗の測定対象となる電極(ここでは内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23)の大きさなどによっても適切な周波数は異なる場合があるが、例えば、第1周波数は500Hz以下としてもよい。第2周波数は1000Hz以上としてもよい。また、周波数が小さいほど印加する電圧の周期が長くなりインピーダンス測定に要する時間が長くなるため、第1周波数は1Hz以上が好ましい。第2周波数は1MHz以下としてもよいし、100KHz以下としてもよい。
【0069】
上述したインピーダンス測定部47は、このような第1測定及び第2測定を行って第1インピーダンスR1と第2インピーダンスR2とを測定する。本実施形態では、第1周波数は10Hzとし、第2周波数は10000Hzとした。また、制御部91は、インピーダンス測定部47が測定したR1,R2の値に基づいて反応抵抗指標Rrを算出する。本実施形態では、制御部91は上述したようにR1とR2との差を反応抵抗指標Rrとして算出する。図4の例では、主ポンプセル21が劣化していない場合には、10Hzに対応するインピーダンス|Z|(=R1)と10000Hzに対応するインピーダンス|Z|(=R2)との差である値Aが反応抵抗指標Rrの値として算出される。また、主ポンプセル21が劣化して図4の実線で示す関係から一点鎖線で示す関係に変化した場合には、第2インピーダンスR2の値はほとんど変化せず第1インピーダンスR1が値Bだけ大きくなるため、値(A+B)が反応抵抗指標Rrの値として算出される。
【0070】
制御部91は、通常時すなわちNOx濃度を測定する際には上述した主ポンプ制御処理を行うが、インピーダンス測定部47が第1測定及び第2測定を実行している間は、この通常時の主ポンプ制御処理と比べて電圧Vp0が小さくなるように可変電源24を制御することが好ましい。例えば、図4において主ポンプセル21が劣化していない場合に、パルス電圧だけでなく直流電圧である電圧Vp0が印加されていると、パルス電圧の周波数とインピーダンス|Z|との関係が、図4の実線で示した曲線から二点鎖線で示す曲線のように変化する。具体的には、特に周波数が低い領域におけるインピーダンス|Z|の値が、電圧Vp0に起因して大きくなる。これにより、第2インピーダンスR2の値はほとんど変化せず第1インピーダンスR1が値Cだけ大きくなるため、値(A+C)が反応抵抗指標Rrの値として算出される。すなわち、反応抵抗指標Rrに、反応抵抗ではなく電圧Vp0に起因する成分が含まれてしまう。そのため、反応抵抗指標Rrと反応抵抗との相関が低下して主ポンプセル21の劣化状態の測定精度が低下する場合がある。電圧Vp0を通常時と比べて小さくすることで、このようなポンプ電流Vp0が第1測定及び第2測定に与える影響を小さくできる。例えば、制御部91は、第1測定及び第2測定の実行中は電圧Vp0が所定の上限値を超えないように可変電源24を制御してもよい。より具体的には、制御部91は主ポンプ制御処理のフィードバック制御によって決定された電圧Vp0の設定値が上限値を超えている場合は、設定値を上限値に変更してもよい。上限値は、例えば100mVとしてもよいし、0mV超過100mV以下の範囲内の値として予め定められた値としてもよい。また、上限値を0mVとしてもよい。言い換えると、制御部91は、第1測定及び第2測定の実行中は主ポンプ制御処理を停止して電圧Vp0が主ポンプセル21に印加されないようにしてもよい。
【0071】
次に、ガスセンサ100の制御部91がNOx濃度の測定及びインピーダンス測定を行う処理の一例について説明する。図5は、制御部91が実行する制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。制御部91は、このルーチンを例えば記憶部94に記憶している。制御部91は、例えば図示しないエンジンECUから起動指令を入力すると、この制御ルーチンを開始する。
【0072】
制御部91のCPU92は、制御ルーチンが開始されると、まず、ヒータ電源76に制御信号を出力して、ヒータ72の温度が目標温度(例えば850℃など)になるように制御するヒータ制御処理を開始する(ステップS100)。ここで、ヒータ72の温度はヒータ72の抵抗値の一次関数の式で表すことができる。そこで、本実施形態のヒータ制御処理では、CPU92はヒータ72の温度とみなせる値(温度に換算可能な値)としてヒータ72の抵抗値を算出して、算出した抵抗値が目標抵抗値(目標温度に対応する抵抗値)になるようにヒータ電源76をフィードバック制御する。CPU92は、例えばヒータ72の電圧及びヒータ72を流れる電流を取得して、取得した電圧及び電流に基づいてヒータ72の抵抗値を算出することができる。CPU92は、例えば3端子法又は4端子法によりヒータ72の抵抗値を算出してもよい。CPU92は、算出したヒータ72の抵抗値が目標抵抗値になるようにヒータ電源76に制御信号を出力して、ヒータ電源76が供給する電力をフィードバック制御する。ヒータ電源76は、ヒータ72に通電するにあたり、例えばヒータ72に印加する電圧の値を変化させることで、ヒータ72に供給する電力を調整する。
【0073】
続いて、CPU92は、通常時すなわちNOx濃度を測定する際の制御処理である通常時制御処理を開始する(ステップS110)。具体的には、CPU92は、上述した主ポンプ制御処理,補助ポンプ制御処理,測定用ポンプ制御処理を開始する。
【0074】
次に、CPU92は、インピーダンス測定部47による第1測定及び第2測定に適したインピーダンス測定タイミングであるか否かを判定する(ステップS120)。ここで、内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の反応抵抗は、内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の周囲の雰囲気、特に酸素濃度によっても変化する。そのため、主ポンプセル21の劣化状態を測定する時の内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の周囲の酸素濃度は毎回同じであることが好ましい。本実施形態では、インピーダンス測定タイミングは、内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の周囲の被測定ガスが大気雰囲気とみなせるタイミングとした。より具体的には、インピーダンス測定タイミングは、内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の周囲の被測定ガスが内燃機関のフューエルカット時の排ガスであるとみなせるタイミングとした。例えば、CPU92は、制御装置90が図示しないエンジンECUから内燃機関のフューエルカットがなされた旨のフューエルカット実行情報を取得したか否かを例えば所定時間毎に判定し、フューエルカット実行情報を取得したときにフューエルカットが行われたと判定する。そして、CPU92は、フューエルカット実行情報を取得してから所定の遅れ時間が経過したときに、内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の周囲の被測定ガスがフューエルカット時の排ガスとなっておりインピーダンス測定タイミングであると判定する。遅れ時間は、内燃機関からセンサ素子101まで被測定ガスが流れるのに要する時間に基づいて予め定められて記憶部94に記憶されている。
【0075】
ステップS120でインピーダンス測定タイミングであると判定すると、CPU92は、前回のインピーダンス測定の実行から所定時間以上経過したか否かを判定する(ステップS130)。この所定時間は、頻繁にインピーダンス測定を行うことを防止するために設けられる値であり、主ポンプセル21の劣化状態の測定が必要とされる時間間隔として予め実験により定められている。本実施形態では、所定時間は1時間とした。なお、この判定を省略してもよい。ステップS130の判定結果が肯定判定であった場合には、CPU92は、ステップS110で開始し継続して実行している通常時制御処理を一時的に停止する(ステップS140)。これにより、主ポンプ制御処理,補助ポンプ制御処理,及び測定用ポンプ制御処理が停止されて、電圧Vp0,Vp1,Vp2が主ポンプセル21,補助ポンプセル50,及び測定用ポンプセル41に印加されない状態になる。
【0076】
続いて、CPU92は、インピーダンス測定部47に上述した第1測定及び第2測定を実行させて、第1インピーダンスR1及び第2インピーダンスR2を測定する(ステップS150)。第1測定及び第2測定は、いずれが先に実行されてもよい。そして、CPU92は、反応抵抗指標Rr(=R1-R2)を算出して、算出した値を今回の反応抵抗指標Rrとして記憶部94に記憶する(ステップS160)。これにより、主ポンプセル21の劣化状態が測定される。
【0077】
次に、CPU92は、記憶部94から前回の反応抵抗指標Rrを読み出し、今回の反応抵抗指標Rrと前回の反応抵抗指標Rrとが大きく乖離した否か、すなわち主ポンプセル21の劣化が前回から無視できない程度に進行したか否かを判定する(ステップS170)。例えば、CPU92は、今回の反応抵抗指標Rrが前回の反応抵抗指標Rrと比べて10%以上乖離している(ここでは値が大きくなっている)場合に、両者が大きく乖離したと判定する。なお、最初にステップS170を実行したときなど前回の反応抵抗指標Rrが記憶部94に記憶されていない場合は、予め記憶部94に記憶された反応抵抗指標Rrの初期値Rr0を前回の反応抵抗指標Rrとみなすこととする。初期値Rr0は、例えばセンサ素子101の製造時など、主ポンプセル21が劣化していない状態で測定された反応抵抗指標Rrの値である。初期値Rr0は、例えばガスセンサ100の製造時に作業者が予め測定して記憶部94に記憶される。初期値Rr0は、ステップS150の第1測定及び第2測定と同じ条件(周波数,ヒータ72の温度,内側ポンプ電極22及び外側ポンプ電極23の周囲の酸素濃度など)で測定しておく。
【0078】
ステップS170の判定結果が肯定判定だった場合には、CPU92は、今回の反応抵抗指標Rrに基づいて、主ポンプ制御処理の制御パラメータを補正する(ステップS180)。ここで、主ポンプセル21が劣化して反応抵抗が変化すると、主ポンプセル21による酸素のポンピング能力も変化する。より具体的には、主ポンプセル21の反応抵抗が増大すると主ポンプセル21のポンピング能力が低下する。そこで、CPU92は反応抵抗指標Rrに基づいて、低下したポンピング能力を補うように主ポンプ制御処理の制御パラメータを補正する。例えば、CPU92は、まず、今回の反応抵抗指標Rrを初期値Rr0で正規化することで、主ポンプセル21の劣化割合を算出する。例えば今回のRrをRr0で除した値を劣化割合とする。劣化割合は、主ポンプセル21の劣化が進行するほど大きい値となる。そして、CPU92は、主ポンプ制御処理のフィードバック制御(例えば、上述した、電圧V0が目標値V0*となるように行う電圧Vp0のフィードバック制御)の制御パラメータを、劣化割合に基づいて補正する。例えば、CPU92は、主ポンプ制御処理のフィードバック制御の制御パラメータに劣化割合を乗じた値を、補正後の制御パラメータとしてもよい。制御パラメータは、例えばPID制御のP項の定数(比例ゲイン),I項の定数(積分ゲイン),D項の定数(微分ゲイン),又は目標値V0*が挙げられ、CPU92はこれらの制御パラメータのうち1以上について補正を行う。
【0079】
ステップS170で否定判定だった場合、又はステップS180のあと、CPU92は通常時制御処理を再開する(ステップS190)。ステップS180で補正が行われた場合は、通常時制御処理のうちの主ポンプ制御処理は補正後の制御パラメータを用いて実行される。
【0080】
ステップS190を行った後、ステップS120で否定判定であった場合、又はステップS130で否定判定であった場合、CPU92は、NOx濃度を導出する濃度導出タイミングであるか否かを判定する(ステップS200)。CPU92は、例えば所定時間経過毎や、エンジンECUから濃度導出指令を入力したときなどに、濃度導出タイミングであると判定する。ステップS200で濃度導出タイミングであると判定すると、CPU92は、通常時制御処理の実行中のポンプ電流Ip2を取得(測定)し(ステップS210)、取得したポンプ電流Ip2と記憶部94に記憶された対応関係とに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を導出する(ステップS220)。CPU92は、導出したNOx濃度の値をエンジンECUに出力したり、記憶部94に記憶したりする。
【0081】
ステップS220の後、又はステップS00で濃度導出タイミングでなかった場合には、CPU92はS120以降の処理を実行する。以上のようにCPU92が制御ルーチンを実行することで、主ポンプセル21の劣化状態の測定及び測定結果に基づく補正を行いながら、NOx濃度が繰り返し測定される。
【0082】
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の第1基板層1と第2基板層2と第3基板層3と第1固体電解質層4とスペーサ層5と第2固体電解質層6との6つの層がこの順に積層された積層体が本発明の素子本体に相当し、内側ポンプ電極22が内側電極に相当し、外側ポンプ電極23が外側電極に相当し、主ポンプセル21がポンプセルに相当し、インピーダンス測定部47がインピーダンス測定部に相当し、制御部91が演算部に相当する。また、通常時制御処理の一部として行われる主ポンプ制御処理が通常時ポンプ制御処理に相当する。電圧Vp0が制御電圧に相当する。ポンプ電流Ip2が測定用ポンプ電流に相当する。制御部91が制御部及び特定ガス濃度検出部に相当する。
【0083】
以上詳述した本実施形態のガスセンサ100によれば、インピーダンス測定部47が測定した第1インピーダンスR1と第2インピーダンスR2とに基づいて、制御部91が主ポンプセル21の反応抵抗と相関のある反応抵抗指標Rrを算出する。そして、主ポンプセル21が劣化して反応抵抗が変化すると、この反応抵抗指標Rrも変化するから、反応抵抗指標Rrは主ポンプセル21の劣化状態を表す。したがって、このガスセンサ100では、主ポンプセル21の劣化状態を測定できる。
【0084】
また、制御部91は、主ポンプセル21に電圧Vp0を印加して主ポンプセル21を制御する通常時の主ポンプ制御処理(通常時ポンプ制御処理の一例)を行う。そして、制御部91は、インピーダンス測定部47による第1測定及び第2測定の実行中は通常時の主ポンプ制御処理中と比べて電圧Vp0を小さくする。これにより、主ポンプセル21に印加される電圧Vp0が第1測定及び第2測定に与える影響を小さくできるため、主ポンプセル21の劣化状態の測定をより精度良く行うことができる。
【0085】
さらに、第1測定で印加する電圧の第1周波数を500Hz以下とすることで、第1インピーダンスR1には主ポンプセル21の反応抵抗がより表れやすくなる。また、第2測定で印加する電圧の第2周波数を1000Hz以上とすることで、第2インピーダンスR2には主ポンプセル21の反応抵抗がより現れにくくなる。したがって、このような第1周波数及び第2周波数を用いることで、より精度良く主ポンプセル21の劣化状態を測定できる。
【0086】
さらにまた、制御部91は、算出した反応抵抗指標Rrを、反応抵抗指標Rrの初期値Rr0を基準として正規化することで、主ポンプセル21の劣化割合を算出する。これにより、主ポンプセル21の初期状態からの劣化の進行の程度を劣化割合として測定できる。また、このように算出された劣化割合は、反応抵抗指標Rrそのものと比べて、例えばステップS180で行ったような補正を行う際に利用しやすい。
【0087】
そして、制御部91は、反応抵抗指標Rrに基づいて、主ポンプセル21のフィードバック制御の制御パラメータを補正する。これにより、制御部91は主ポンプセル21の反応抵抗に応じて制御パラメータを補正するから、主ポンプセル21の劣化状態に応じて主ポンプセル21を適切に制御できる。
【0088】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0089】
上述した実施形態では、第1測定及び第2測定で印加する電圧は矩形波のパルス電圧としたが、これに限らず周期的な電圧であればよい。例えば三角波や正弦波のパルス電圧を印加してもよい。
【0090】
上述した実施形態では、図5の制御ルーチンのステップS140においてCPU92は通常時制御処理を停止したが、これに限られない。上述したように第1測定及び第2測定の間の電圧Vp0を0mVよりは大きい値とするが通常時と比べて小さくなるようにしてもよい。この場合、補助ポンプ制御処理及び測定用ポンプ制御処理は停止しなくてもよい。また、ステップS140及びステップS190を省略して、第1測定及び第2測定の実行中も通常時制御処理を実行してもよい。この場合、上述した実施形態と比べると反応抵抗指標Rrと反応抵抗との相関は低下するが、反応抵抗指標Rrを測定することはできる。また、この場合は、第1測定及び第2測定の実行中もNOx濃度の導出を行うことができる。
【0091】
上述した実施形態では、制御部91は算出した反応抵抗指標Rrに基づいて主ポンプ制御処理の制御パラメータを補正したが、補正は行わなくてもよい。この場合、制御部91は反応抵抗指標Rrに基づいて主ポンプセル21の劣化状態を診断してもよい。例えば、制御部91は、反応抵抗指標Rrから上述した劣化割合を算出して、劣化割合が所定の閾値を超えていた場合にはエンジンECUにセンサ素子101の異常を報知する信号を出力してもよい。
【0092】
上述した実施形態では、反応抵抗の測定対象は主ポンプセル21であったが、これに限られない。反応抵抗の測定対象は、内側電極と外側電極とを有するポンプセルであればよい。例えば、反応抵抗の測定対象は補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23とを有する補助ポンプセル50としてもよいし、測定電極44と外側ポンプ電極23とを有する測定用ポンプセル41としてもよい。これらを測定対象とする場合でも、上述した実施形態と同様に反応抵抗指標Rrに基づく制御パラメータの補正を行うことができる。例えば、反応抵抗の測定対象が測定用ポンプセル41である場合は、制御部91は反応抵抗指標Rrに基づいて測定用ポンプ制御処理のフィードバック制御の制御パラメータを補正してもよい。補正対象の制御パラメータは、例えばPID制御のP項の定数,I項の定数,D項の定数,又は目標値V2*のうち1以上としてもよい。また、主ポンプセル21,補助ポンプセル50,及び測定用ポンプセル41のうち2以上を反応抵抗の測定対象としてもよい。この場合、各々のポンプセルについて反応抵抗を測定すればよい。また、制御パラメータの補正についても、各々のポンプセルについて行えばよい。主ポンプセル21の反応抵抗の測定時と同様に、補助ポンプセル50の反応抵抗を測定する場合は第1測定及び第2測定の実行中は通常時の補助ポンプ制御処理中と比べて電圧Vp1を小さくすることが好ましく、補助ポンプ制御処理を停止してもよい。測定用ポンプセル41の反応抵抗を測定する場合、第1測定及び第2測定の実行中は通常時の測定用ポンプ制御処理中と比べて電圧Vp2を小さくすることが好ましく、測定用ポンプ制御処理を停止してもよい。
【0093】
測定用ポンプセル41を反応抵抗の測定対象とする場合、制御部91は、測定用ポンプセル41の制御パラメータを補正する代わりに、ポンプ電流Ip2に基づいて導出される特定ガス濃度を反応抵抗指標Rrに基づいて補正してもよい。ここで、測定用ポンプセル41が劣化して反応抵抗が変化すると、測定用ポンプセル41の酸素のポンピング能力が変化する。そのため、反応抵抗の変化の前後で、被測定ガス中のNOx濃度が同じであってもポンプ電流Ip2が変化してしまう場合がある。すなわち、ポンプ電流Ip2とNOx濃度との対応関係が変化してしまう場合がある。これに対して、測定用ポンプセル41の反応抵抗に応じてNOx濃度を補正すれば、測定用ポンプセル41の劣化によるNOx濃度の検出精度の低下を抑制できる。例えば、測定用ポンプセル41が劣化して反応抵抗が増大すると測定用ポンプセル41のポンピング能力が低下するため、NOx濃度が同じであっても測定用ポンプセル41の劣化前と比較してポンプ電流Ip2の値が減少する。そこで、反応抵抗指標Rrが大きいほど、測定されたポンプ電流Ip2の値に基づいて導出されるNOx濃度をより大きな値になるように補正することで、NOx濃度の検出精度の低下を抑制できる。例えば、ポンプ電流Ip2とNOx濃度との対応関係として、二次関数の式(NOx濃度=A×(Ip2)2+B×Ip2+C,A~Cは係数)が記憶されている場合には、反応抵抗指標Rrが大きいほど係数Aをより大きくするように補正してもよい。
【0094】
上述した実施形態において、制御部91が主ポンプセル21反応抵抗指標Rrに基づいてヒータ制御処理の目標温度を補正してもよい。ここで、ヒータ72の温度が高いほど、主ポンプセル21の反応抵抗は低くなる傾向にある。そのため、反応抵抗指標Rrに基づいてヒータ72の目標温度を補正することで、主ポンプセル21の劣化による反応抵抗の変化を補うことができる。例えば、主ポンプセル21の反応抵抗が劣化により増大した分を減少(相殺)させて劣化前の状態(初期状態)に近い反応抵抗になるように、反応抵抗指標Rrに基づいてヒータ72の目標温度を補正してもよい。より具体的には、反応抵抗指標Rrが大きくなるほど、ヒータ72の目標温度を高くなるように補正してもよい。制御部91は、反応抵抗指標Rrから算出した劣化割合を目標温度に乗じた値を、補正後の目標温度としてもよい。なお、上述した実施形態のヒータ制御処理では温度に換算可能な値としてヒータ72の抵抗値を用いるため、制御部91は目標抵抗値を補正することによって目標温度を補正する。このように反応抵抗指標Rrに基づいてヒータ制御処理の目標温度を補正することで、主ポンプセル21の劣化による悪影響を小さくすることができる。なお、主ポンプセル21,補助ポンプセル50,及び測定用ポンプセル41のうち1以上の反応抵抗指標Rrに基づいて目標温度を補正してもよい。例えば、主ポンプセル21,補助ポンプセル50,及び測定用ポンプセル41の各々の劣化割合の最大値又は平均値に基づいて目標温度を補正してもよい。この場合、制御部91がヒータ制御部に相当する。
【0095】
上述した実施形態では、外側ポンプ電極23は、主ポンプセル21の一部でありセンサ素子101の外側の被測定ガスに晒される部分に配設された外側主ポンプ電極と、補助ポンプセル50の一部でありセンサ素子101の外側の被測定ガスに晒される部分に配設された外側補助ポンプ電極と、測定用ポンプセル41の一部でありセンサ素子101の外側の被測定ガスに晒される部分に配設された外側測定電極と、を兼ねていたが、これに限られない。外側主ポンプ電極,外側補助ポンプ電極,及び外側測定電極のうちのいずれか1以上を、外側ポンプ電極23とは別にセンサ素子101の外側に設けてもよい。
【0096】
上述した実施形態では、外側ポンプ電極23はセンサ素子101の外部に露出しているが、これに限らず外側ポンプ電極23は被測定ガスと接触するように素子本体(層1~6)の外側に設けられていればよい。例えば、センサ素子101が素子本体(層1~6)を被覆する多孔質保護層を備えており、外側ポンプ電極23も多孔質保護層に被覆されていてもよい。
【0097】
上述した実施形態では、ガスセンサ100のセンサ素子101は第1内部空所20,第2内部空所40,第3内部空所61を備えるものとしたが、これに限られない。例えば、図6のセンサ素子201のように、第3内部空所61を備えないものとしてもよい。図6に示した変形例のセンサ素子201では、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。また、測定電極44は、第2内部空所40内の第1固体電解質層4の上面に配設されている。測定電極44は、第4拡散律速部45によって被覆されてなる。第4拡散律速部45は、アルミナ(Al23)などのセラミックス多孔体にて構成される膜である。第4拡散律速部45は、上述した実施形態の第4拡散律速部60と同様に、測定電極44に流入するNOxの量を制限する役割を担う。また、第4拡散律速部45は、測定電極44の保護膜としても機能する。補助ポンプ電極51の天井電極部51aは、測定電極44の直上まで形成されている。このような構成のセンサ素子201であっても、上述した実施形態と同様に例えばポンプ電流Ip2に基づいてNOx濃度を検出できる。この場合、測定電極44の周囲が測定室として機能することになる。
【0098】
上述した実施形態では、センサ素子101の素子本体は複数の固体電解質層(層1~6)を有する積層体としたが、これに限られない。センサ素子101の素子本体は、酸素イオン伝導性の固体電解質層を少なくとも1つ含み、且つ被測定ガス流通部が内部に設けられていればよい。例えば、図1において第2固体電解質層6以外の層1~5は固体電解質以外の材質からなる構造層(例えばアルミナからなる層)としてもよい。この場合、センサ素子101が有する各電極は第2固体電解質層6に配設されるようにすればよい。例えば、図1の測定電極44は第2固体電解質層6の下面に配設すればよい。また、基準ガス導入空間43を第1固体電解質層4の代わりにスペーサ層5に設け、大気導入層48を第1固体電解質層4と第3基板層3との間に設ける代わりに第2固体電解質層6とスペーサ層5との間に設け、基準電極42を第3内部空所61よりも後方且つ第2固体電解質層6の下面に設ければよい。
【0099】
上述した実施形態では、制御装置90は、主ポンプ制御処理において、ポンプ電流Ip1が目標電流Ip1*となるようにポンプ電流Ip1に基づいて電圧V0の目標値V0*を設定(フィードバック制御)し、電圧V0が目標値V0*となるように電圧Vp0をフィードバック制御したが、他の制御を行ってもよい。例えば、制御装置90は、主ポンプ制御処理において、ポンプ電流Ip1が目標電流Ip1*となるように、ポンプ電流Ip1に基づいて電圧Vp0をフィードバック制御してもよい。すなわち、制御装置90は、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80からの電圧V0の取得及び目標値V0*の設定を省略して、ポンプ電流Ip1に基づいて直接的に電圧Vp0を制御(ひいてはポンプ電流Ip0を制御)してもよい。
【0100】
上述した実施形態では、ガスセンサ100は特定ガス濃度としてNOx濃度を検出したが、これに限らず他の酸化物濃度を特定ガス濃度としてもよい。特定ガスが酸化物の場合には、上述した実施形態と同様に特定ガスそのものを第3内部空所61で還元したときに酸素が発生するから、CPU92はこの酸素に応じた検出値に基づいて特定ガス濃度を検出できる。また、特定ガスがアンモニアなどの非酸化物であってもよい。特定ガスが非酸化物の場合には、特定ガスが例えば第1内部空所20で酸化物に変換(例えばアンモニアであれば酸化されてNOに変換)されることで、変換後の酸化物が第3内部空所61で還元したときに酸素が発生するから、CPU92はこの酸素に応じた検出値を取得して特定ガス濃度を検出できる。このように、特定ガスが酸化物と非酸化物とのいずれであっても、ガスセンサ100は、特定ガスに由来して第3内部空所61で発生する酸素に基づいて特定ガス濃度を検出できる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの特定ガスの濃度を検出するガスセンサに利用可能である。
【符号の説明】
【0102】
1 第1基板層、2 第2基板層、3 第3基板層、4 第1固体電解質層、5 スペーサ層、6 第2固体電解質層、10 ガス導入口、11 第1拡散律速部、12 緩衝空間、13 第2拡散律速部、20 第1内部空所、21 主ポンプセル、22 内側ポンプ電極、22a 天井電極部、22b 底部電極部、23 外側ポンプ電極、24 可変電源、30 第3拡散律速部、40 第2内部空所、41 測定用ポンプセル、42 基準電極、43 基準ガス導入空間、44 測定電極、45 第4拡散律速部、46 可変電源、47 インピーダンス測定部、48 大気導入層、50 補助ポンプセル、51 補助ポンプ電極、51a 天井電極部、51b 底部電極部、52 可変電源、60 第4拡散律速部、61 第3内部空所、70 ヒータ部、71 ヒータコネクタ電極、72 ヒータ、73 スルーホール、74 ヒータ絶縁層、75 圧力放散孔、76 ヒータ電源、80 主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル、81 補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル、82 測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル、83 センサセル、90 制御装置、91 制御部、92 CPU、94 記憶部、100 ガスセンサ、101,201 センサ素子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6