(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-21
(45)【発行日】2025-03-31
(54)【発明の名称】加工装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/22 20060101AFI20250324BHJP
B24B 49/12 20060101ALI20250324BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20250324BHJP
B24B 27/00 20060101ALI20250324BHJP
B25J 13/08 20060101ALI20250324BHJP
B25J 9/22 20060101ALI20250324BHJP
【FI】
B23Q17/22 D
B24B49/12
B24B49/10
B24B27/00 A
B25J13/08 Z
B25J9/22 Z
(21)【出願番号】P 2022036345
(22)【出願日】2022-03-09
【審査請求日】2024-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】長友 優志
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-335857(JP,A)
【文献】特開2003-173992(JP,A)
【文献】実開平05-078463(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q17/00-23/00
B24B 3/00- 3/60
B24B27/00
B24B41/00-51/00
B23B21/00-39/06
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに接触して前記ワークの加工を行う工具と、
前記工具の形状を検出する形状センサと、
制御装置と、
前記工具及び前記ワークの少なくとも一方を支持し、前記工具に前記ワークを接触させた状態で、前記制御装置からの指令に応じて前記工具に対する前記ワークの相対的な位置及び姿勢を変化させる移動機構と
、
前記工具の形状と、前記工具に対する前記ワークの相対的な位置及び姿勢の履歴との関係を記憶した加工データベースと
を備え、
前記制御装置は、
前記形状センサで検出された前記工具の形状及び前記加工データベースに基づいて、前記工具に対する前記ワークの相対的な位置及び姿勢の1つの履歴を抽出し、
抽出した履歴に基づいて、前記工具に対する前記ワークの相対的な位置及び姿勢を変化させて前記ワークの加工を行う加工装置。
【請求項2】
さらに、前記工具に対して前記ワークを押し付ける力を測定する力覚センサを、さらに備えており、
前記加工データベースは、さらに、前記工具の形状と前記ワークを前記工具に押し付ける押し付け力との関係を記憶しており、
前記制御装置は、前記形状センサにより検出された前記工具の形状
及び前記加工データベースに基づいて、前記押し付け力の1つの履歴を抽出し、抽出した履歴に基づいて、前記力覚センサから取得した前記押し付け力を変化させて前記ワークの加工を行う請求項
1に記載の加工装置。
【請求項3】
前記工具は、外周面を前記ワークに接触させて加工を行う回転体であり、
前記形状センサは、前記工具の外周面の形状を検出する請求項
1または2に記載の加工装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記ワークの表面のうち前記工具の外周面に接触する領域を、前記工具の回転中心軸に対して外周面が傾斜する方向と同じ方向に傾斜させて加工を行う請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具をワークに接触させて加工を行う加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットを用いた加工、例えば研削、研磨等の自動化において、常に一定の作業精度を保つことが求められる。例えば、下記の特許文献1に、ワークのバリ取り作業を行うロボットが開示されている。このバリ取り作業を行うロボットは、バリの状態によらず加工精度を一定に保つために、ワークごとにバリの形状を取得し、バリの形状に応じてロボットの教示プログラムの修正を自動的に行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたロボットは、ワークの形状に対してロバストなシステムになっているが、工具の状態変化には対応していない。例えば、工具をワークに接触させて研磨等の加工を行う場合、工具の形状が使用時間に応じて変化する場合がある。工具の形状の変化は、加工品質の低下の要因になり得る。工具の形状が変化しても、初期の加工品質を維持して加工を行うことが望まれている。
【0005】
また、特許文献1に開示されたロボットにおいては、モデルベースでロボットの動作教示を行う必要があり、加えてモデル化誤差に対する試行錯誤的な調整作業(キャリブレーション)が必要である。多品種製品を扱う現場においては、加工対象物の品種が変わった場合、作業者の迅速な対応が求められる。現場の作業者のみで対応可能な加工装置が望まれている。
【0006】
本発明の目的は、工具の形状が変化しても、所望の加工品質を維持することが可能な加工装置を提供することである。本発明の他の目的は、工具の形状が変化したときの加工品質の低下を抑制するために、加工対象のワークの品種が変わった場合でも現場の作業者のみで対応可能な加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によると、
ワークに接触して前記ワークの加工を行う工具と、
前記工具の形状を検出する形状センサと、
制御装置と、
前記工具及び前記ワークの少なくとも一方を支持し、前記工具に前記ワークを接触させた状態で、前記制御装置からの指令に応じて前記工具に対する前記ワークの相対的な位置及び姿勢を変化させる移動機構と、
前記工具の形状と、前記工具に対する前記ワークの相対的な位置及び姿勢の履歴との関係を記憶した加工データベースと
を備え、
前記制御装置は、
前記形状センサで検出された前記工具の形状及び前記加工データベースに基づいて、前記工具に対する前記ワークの相対的な位置及び姿勢の1つの履歴を抽出し、
抽出した履歴に基づいて、前記工具に対する前記ワークの相対的な位置及び姿勢を変化させて前記ワークの加工を行う加工装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
工具の形状の変化に応じて、工具に対するワークの位置及び姿勢を変化させて加工を行うため、工具の形状が変化しても適切な加工を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施例による加工装置の概略図である。
【
図2】
図2Aは、作業者がワークを把持して加工を行っているときの工具、ワーク、及び作業者の手の斜視図であり、
図2Bは、工具の形状が変化した状態で加工を行っているときの工具、ワーク、及び作業者の手の斜視図である。
【
図3】
図3は、ダイレクトティーチングを行う手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、工具の形状が未使用時から変化していない場合のダイレクトティーチング実行中の加工装置の模式図である。
【
図5】
図5は、工具の形状が変化した場合のダイレクトティーチング実行中の加工装置の模式図である。
【
図6】
図6は、加工データベースの構造を示す図表である。
【
図7】
図7は、本実施例による加工装置が実際に加工を行う手順を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、他の実施例による加工装置の概略図である。
【
図9】
図9は、
図8に示した実施例においてダイレクトティーチングを行う手順を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、
図8に示した実施例により加工装置を用いたダイレクトティーチング実行中の加工装置の模式図である。
【
図11】
図11は、
図8に示した実施例で使用される加工データベースの構造を示す図表である。
【
図12】
図12は、さらに他の実施例による加工装置を用いて加工を行う際の工具及びワークの斜視図である。
【
図13】
図13は、加工中の工具とワークとの位置関係を示す断面図である。
【
図14】
図14は、加工中の工具とワークとの位置関係を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1~
図7を参照して、一実施例による加工装置について説明する。
図1は、本実施例による加工装置の概略図である。本実施例による加工装置は、例えばバフ研磨装置であり、ワーク50をバフと呼ばれる工具10に接触させて加工を行う。
【0012】
工具10は円柱状の形状を有する回転体であり、回転中心軸11を介してモータ12に支持されている。ワーク50は、移動機構20に保持されており、移動機構20を動作させることにより、工具10に対するワーク50の相対的な位置及び姿勢を変化させることができる。移動機構20は、ベース21に支持された多関節ロボットアーム(例えば6軸ロボットアーム)、及び多関節ロボットアームの先端に取り付けられた保持部22を含む。保持部22にワーク50が保持されて固定される。保持部22には、機械式チャック、磁石式チャック、真空チャック等の種々のチャック機構を用いることができる。
【0013】
制御装置40が、加工データベース41を用いて移動機構20を制御することにより、ワーク50の加工を行う。例えば、工具10を回転させながら、ワーク50を工具10の外周面10Sに接触させ、工具10に対するワーク50の位置及び姿勢を時間経過とともに変化させることにより、ワーク50の研磨を行う。
【0014】
さらに、作業者が保持部22を把持してワーク50の位置及び姿勢を変化させながら加工を行うことにより、ダイレクトティーチングを行うことができる。ダイレクトティーチング中は、制御装置40が移動機構20から各関節の回転角情報を読み取り、読み取った情報を加工データベース41に格納する。
【0015】
形状センサ30が、工具10の形状を検出する。形状センサ30として、例えば二次元または三次元Lidar、非接触レーザ変位計、工具外形を取得可能なカメラ等を用いることができる。形状センサ30は、例えば、工具10の外周面10Sの形状を検出する。工具10の外周面10Sの形状は、例えば、回転中心軸方向に関する外周面10Sの半径の変化により表される。
【0016】
次に、
図2A及び
図2Bを参照して、作業者がワーク50を把持して加工を行う従来の方法について説明する。
図2Aは、作業者がワーク50を把持して加工を行っているときの工具10、ワーク50、及び作業者の手の斜視図である。
【0017】
図2Aに示すように、作業者はワーク50を把持して、ワーク50を工具10の外周面10Sに接触させた状態で、ワーク50を移動させることにより、バフ研磨を行う。未使用の工具10の外周面10Sは、回転中心軸に平行な円筒状である。作業者は、ワーク50の被加工面が適切な姿勢で工具10に接触するようにワーク50を把持し、加工を行う。複数のワーク50を研磨すると、工具10自体が削られて、その形状が変化する。
【0018】
図2Bは、工具10の形状が変化した状態で加工を行っているときの工具10、ワーク50、及び作業者の手の斜視図である。例えば、工具10の外周面10Sが円錐台の側面のように、回転中心軸に対して傾斜する。すなわち、回転中心軸方向に関して外周面10Sの半径が変化する。作業者は、工具10の外周面10Sの形状の変化に合わせてワーク50を回転中心軸に対して傾斜させて外周面10Sに接触させ、加工を行う。
【0019】
図2A及び
図2Bに示したように、作業者が加工を行うときには、工具10の形状の変化に応じて、工具10に対するワーク50の位置及び姿勢の履歴を異ならせることにより、適切な加工を行う。以下に説明する実施例では、工具10の形状の変化に応じて、制御装置40が、工具10に対するワーク50の位置及び姿勢の履歴を自動的に異ならせて加工を行う。
【0020】
図3~
図5を参照して、ダイレクトティーチングを行う手順について説明する。
図3は、ダイレクトティーチングを行う手順を示すフローチャートである。
図4及び
図5は、ダイレクトティーチング実行中の加工装置の模式図である。
図4は、工具10の形状が未使用時から変化していない場合を示しており、
図5は、複数枚のワークの加工を行って工具10の形状が変化した場合を示している。
【0021】
まず、ワーク50を移動機構20の保持部22に保持させて固定する(ステップSA1)。次に、形状センサ30が工具10の現時点の形状を検出する(ステップSA2)。形状センサ30の検出結果に基づいて、制御装置40が工具10の形状を特定する情報(形状情報T
1)を生成する。加工データベース41の1つのレコード41A(
図4)に示すように、工具10の形状情報T
1は、例えば、工具10のx方向の所定の複数の位置のそれぞれについて測定された外周面10Sの半径r
1、r
2、r
3・・・で構成される。
【0022】
次に、工具10を回転させながら、作業者が保持部22を把持してワーク50の位置及び姿勢を調整しながら、ワーク50の加工(例えば、バフ研磨)を行う。制御装置40は、加工中のワーク50の位置及び姿勢を示す情報(位置姿勢情報W1)をある時間刻み幅で取得し、記録する(ステップSA3)。例えば、加工データベース41の1つのレコード41Aに示すように、ワークの位置姿勢情報W1の履歴は、ある時間刻み幅で取得されたワーク50の複数の位置姿勢情報W1(tj)(j=0、1、2、・・・)を含む。ワーク50の位置姿勢情報W1は、例えば、移動機構20を構成する多関節ロボットアームの各関節の回転角度を含む。
【0023】
1つのワーク50の加工が終了すると、工具10の形状を特定する形状情報T1と、ワーク50の位置姿勢情報W1の履歴W1(tj)とを関連付けて加工データベース41に格納する(ステップSA4)。ワーク50の位置姿勢情報W1の履歴W1(tj)は、移動機構20の移動の態様を規定する教示データとして用いられる。工具10が継続使用可能である場合は、ステップSA1からステップSA4までの手順を繰り返す(ステップSA5)。
【0024】
図5に示すように、少なくとも1つのワーク50を加工すると、工具10の形状が変化する。このため、ステップSA2で検出される工具10の形状情報T
2は、
図4に示した未使用の工具10の形状情報T
1とは異なる。工具10の形状が異なると、作業者は、工具10の形状の変化に合わせてワーク50の位置及び姿勢を調整する。このため、ステップSA3で記録されるワーク50の位置姿勢情報W
2の履歴W
2(t
j)は、
図4に示した未使用の工具10を用いて加工するときに記録されたワーク50の位置姿勢情報W
1の履歴W
1(t
j)とは異なる。ステップSA4では、
図5に示した状態の工具10を使用したときに得られる工具10の形状情報T
2と、ワーク50の位置姿勢情報W
2の履歴W
2(t
j)とを関連付けて、加工データベース41に格納する。
【0025】
ステップSA5において、工具10の形状の変化が大きくなって継続使用できないと判断された場合には、現在の工具10を用いた加工を終了する。
【0026】
図6は、加工データベース41の構造を示す図表である。加工データベース41に、工具10の形状情報T
i(i=0、1、2、・・・)と、ワーク50の位置姿勢情報W
iの履歴W
i(t
j)(j=0、1、2、3・・・)とが関連付けられて格納されている。加工データベース41から、工具10の現在の形状に基づいて、ワーク50の最適な位置姿勢情報の履歴W
i(t
j)を見つけ出すことができる。
【0027】
図7は、本実施例による加工装置が実際に加工を行う手順を示すフローチャートである。まず、制御装置40(
図1)が移動機構20を制御することにより、移動機構20の保持部22でワーク50を保持する(ステップSB1)。形状センサ30(
図1)により工具10の形状を検出する(ステップSB2)。制御装置40は、現在の工具10の形状に最も近い形状情報T
iを持つレコードを、加工データベース41(
図6)から検索し、現在の工具10の形状に最も近い形状情報T
iに関連付けられたワーク50の位置姿勢情報の履歴W
i(t
j)を抽出する(ステップSB3)。抽出された位置姿勢情報の履歴W
i(t
j)は、現在の形状の工具10を用いて加工を行うときの最適な位置姿勢情報の履歴と考えることができる。
【0028】
制御装置40は、抽出された位置姿勢情報の履歴Wi(tj)に基づいて移動機構20を制御し、ワーク50の加工を行う(ステップSB4)。すなわち、抽出された位置姿勢情報の履歴Wi(tj)を教示データとして用いて移動機構20の制御を行う。全てのワーク50の加工が終了するまで、ステップSB1からステップSB4までの手順を繰り返す(ステップSB5)。
【0029】
次に、上記実施例の優れた効果について説明する。
上記実施例では、ワーク50の加工を行う直前に、現時点の工具10の形状を検出し、工具10の現時点の形状に応じて、最も適したワーク50の位置姿勢情報の履歴Wi(tj)に基づいてワーク50の位置及び姿勢が調整される。このため、工具10の形状が変化しても、適切にワーク50の加工を行うことができる。
【0030】
また、上記実施例では、
図3に示したダイレクトティーチング手法を用いて、移動機構20の移動の態様を規定する教示データを生成し、加工データベースに格納している。このため、現場の作業者のみで、加工データベースを構築することが可能である。また、ワーク50の品種が変更になった場合でも、変更後のワーク50を用いてダイレクトティーチングを行うことにより、ワーク50の品種の変更に迅速に対応することができる。
【0031】
次に、上記実施例の変形例について説明する。
上記実施例では、回転する工具10の位置を固定し、ワーク50を移動機構20で移動させているが、その反対に、ワーク50を静止させ、工具10を回転させながら、工具10の位置及び姿勢を変化させて加工を行ってもよい。すなわち、工具10及びワーク50の少なくとも一方を他方に対して移動させればよい。
【0032】
上記実施例では、移動機構20(
図1)として多関節ロボットアームを用いているが、その他の移動機構を用いてもよい。また、工具10として回転体を用いているが、その他の工具を用いてもよい。例えば、ワーク50に接触した接触面を往復移動させる工具、接触面を微小振動させる工具等を用いてもよい。
【0033】
上記実施例では、ダイレクトティーチングにより移動機構20の教示データを生成しているが、その他の機械学習の手法によって教示データを生成してもよい。
【0034】
上記実施例では、機械学習を用いて構築した加工データベース41(
図6)を用いて移動機構20を制御しているが、その他の手法を用いて移動機構20を制御してもよい。例えば、工具10の形状を検出した結果に基づいて、工具10の外周面10Sが回転中心軸に対して傾斜する角度及び方向を算出し、外周面10Sの傾斜に応じて、ワーク50の位置及び姿勢を調整するようにしてもよい。例えば、ワーク50の表面のうち工具10の外周面10Sに接触する領域を、工具10の回転中心軸に対して外周面が10S傾斜する方向と同じ方向に傾斜させて加工を行うようにしてもよい。
【0035】
次に、
図8~
図11を参照して他の実施例による加工装置について説明する。以下、
図1~
図7を参照して説明した実施例による加工装置と共通の構成については説明を省略する。
図1~
図7を参照して説明した実施例のように、バフ研磨を行う場合の工具10は、ワーク50に押し付けられることによって変形し、変形量と押し付け力とが相関関係を持っている。
図8~
図10に示した実施例では、工具10が硬く、工具10にワーク50を押し付けても工具10がほとんど変形しない。この場合、加工中の工具10とワーク50との相対位置のみを制御するのでは不十分であり、工具10に対するワーク50の押し付け力も制御しなければならない。
【0036】
図8は、本実施例による加工装置の概略図である。本実施例による加工装置は、
図1~
図7を参照して説明した実施例による加工装置の構成要素に加えて、さらに力覚センサ35を備えている。力覚センサ35は、移動機構20の保持部22とワーク50との間に配置されており、ワーク50を工具10に押し付ける力を検出する。力覚センサ35で検出された検出値が、制御装置40に入力される。
【0037】
図9は、ダイレクトティーチングを行う手順を示すフローチャートである。
図10は、ダイレクトティーチング実行中の加工装置の模式図である。まず、ワーク50を、力覚センサ35を介して保持部22に保持する(ステップSA1a)。形状センサ30で工具10の形状を検出する手順(ステップSA2)は、
図3に示した実施例のステップSA2と同一である。
【0038】
作業者が1つのワーク50を加工している期間、ワーク50の位置姿勢情報の履歴W
i(t
j)に加えて、作業者がワーク50を工具10に押し付けている力の大きさを示す情報(押し付け力情報F
i)の履歴F
i(t
j)(
図10)を記録する(ステップSA3a)。押し付け力情報F
iは、ワーク50の位置姿勢情報W
iの取得に同期して取得する。押し付け力の大きさは、力覚センサ35によって測定される。1つのワーク50の加工が終了すると、制御装置40は、工具10の形状情報T
1と、ワーク50の位置姿勢情報の履歴W
i(t
j)及び押し付け力情報の履歴F
i(t
j)とを関連付けて、加工データベース41に格納する(ステップSA4a)。
【0039】
図11は、本実施例で使用される加工データベース41の構造を示す図表である。ある時刻t
jにおけるワーク50の位置姿勢情報W
iと押し付け力情報F
iとが組になって記憶されている。工具10の形状情報T
iに関連付けて、ワーク50の位置姿勢情報W
iと押し付け力情報F
iとの組の履歴(W
i(t
j),F
i(t
j))が記憶されている。
【0040】
自動加工を行うときには、制御装置40は、現時点の工具10の形状に応じて抽出したワーク50の位置姿勢情報Wiと押し付け力情報Fiとの組の履歴(Wi(tj),Fi(tj))に基づいて、移動機構20を制御する。例えば、ワーク50の位置姿勢情報Wiに基づいて移動機構20を制御すると、ワーク50が工具10に接触する状態が得られるが、ワーク50を工具10に押し付ける力はほぼ0である。この状態から、移動機構20の各関節にトルクを発生させることにより、ワーク50を工具10に押し付ける。各関節に発生させるトルクの大きさは、自動加工中に力覚センサ35から取得した押し付け力の大きさが、工具10の形状に応じて抽出された押し付け力の履歴Fi(tj)から得られる現時点の大きさに一致するように、各関節のトルクを制御するとよい。
【0041】
次に、本実施例の優れた効果について説明する。
本実施例では、工具10が加工中にほとんど変形しない場合でも、ワーク50を工具10に対して最適な力で押し付けて加工を行うことができる。
【0042】
次に、本実施例の変形例について説明する。
本実施例(
図8)では、力覚センサ35を保持部22とワーク50との間に配置しているが、力覚センサ35を工具10側に配置してもよい。例えば、ワーク50を工具10に押し付けると、工具10が押し付け力に応じて僅かに変位し、ワーク50に対して反力が作用する構成を採用してもよい。このとき、力覚センサ35として、工具10の微小な変位量から押し当て力を計測するものを用いるとよい。
【0043】
次に、
図12~
図14を参照して、さらに他の実施例について説明する。
図12は、本実施例による加工装置を用いて加工を行う際の工具10及びワーク50の斜視図である。
図1~
図11を参照して説明した実施例では、ワーク50の被加工面がほぼ平坦な例を示したが、本実施例では、バフ研磨を行う加工装置を用いて研磨するワーク50の被加工面が凹面である。被加工面は、工具10の幅程度の範囲でも無視できない程度の曲率半径を有している。
【0044】
図13及び
図14は、加工中の工具10とワーク50との位置関係を示す断面図である。
図13に示すように、工具10の外周面10Sが回転中心軸に対して平行な円筒形状でる場合、被研磨面の法線方向を、工具10の外周面10Sに対して垂直にして研磨を行うと、外周面10Sの両側の縁が被研磨面に強く押し付けられ、中央部分が被研磨面に接触しないか、または押し付け力が相対的に弱くなる。被研磨面に対して均一な研磨を行うためには、
図13に示すように工具10の角部(外周面10Sの縁)を被研磨面に接触させることが好ましい。工具10の角部を被研磨面に接触させて加工を行うと、工具10の摩耗に偏りが生じる。
【0045】
図14に示すように、工具10の角が摩耗して斜めになると、摩耗後の工具10の角部が被研磨面に接触する状態で研磨することが好ましい。このように、ワーク50の被研磨面が凹面である場合、工具10の摩耗に偏りが生じやすい。なお、被研磨面が単純な凹面ではなく、より複雑な形状である場合も、適切な加工を行うために工具10の角部を使用することによって工具10の形状が変化する場合がある。このため、工具10の形状の変化に応じて、ワーク50の姿勢を調整しながら加工を行うことが好ましい。
【0046】
図1~
図11を参照して説明した実施例による加工装置を用いると、工具10の形状の変化に応じて、ワーク50の姿勢を異ならせて加工を行うことが可能であるため、被研磨面が凹面や、その他の複雑な形状である場合にも、工具10の形状の変化に応じて適切な加工を行うことが可能である。
【0047】
また、
図1~
図11を参照して説明した実施例では、工具10の形状が、円柱状から円錐台状に変化する例を示しているが、その他の形状に変化する場合もあり得る。例えば、工具10の形状が円柱状から、そろばんの玉のような形状に変化する場合もあり得る。この場合にも、
図1~
図11を参照して説明した実施例による加工装置を適用することが有効である。
【0048】
上述の各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0049】
10 工具
10S 工具の外周面
11 回転中心軸
12 モータ
20 移動機構(多関節ロボットアーム)
21 ベース
22 ワーク保持部
30 形状センサ
35 力覚センサ
40 制御装置
41 加工データベース
41A、41B 加工データベースの1のレコード
50 ワーク