IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機株式会社の特許一覧

特許7654146半導体受光素子、光回線終端装置、多値強度変調送受信装置、デジタルコヒーレント受信装置、光ファイバ無線システム、SPADセンサーシステム、及びライダー装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-21
(45)【発行日】2025-03-31
(54)【発明の名称】半導体受光素子、光回線終端装置、多値強度変調送受信装置、デジタルコヒーレント受信装置、光ファイバ無線システム、SPADセンサーシステム、及びライダー装置
(51)【国際特許分類】
   H10F 30/223 20250101AFI20250324BHJP
   H10F 30/225 20250101ALI20250324BHJP
   G01S 7/4861 20200101ALI20250324BHJP
   H04B 10/2575 20130101ALI20250324BHJP
   H04B 10/272 20130101ALI20250324BHJP
   H04B 10/61 20130101ALI20250324BHJP
【FI】
H10F30/223
H10F30/225
G01S7/4861
H04B10/2575
H04B10/272
H04B10/61
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2024164774
(22)【出願日】2024-09-24
(62)【分割の表示】P 2024522513の分割
【原出願日】2023-12-20
【審査請求日】2024-09-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石村 栄太郎
(72)【発明者】
【氏名】山口 晴央
(72)【発明者】
【氏名】竹村 亮太
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/215902(WO,A1)
【文献】特開2010-147158(JP,A)
【文献】特開2011-258809(JP,A)
【文献】特開2014-135523(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0099813(US,A1)
【文献】国際公開第2022/157888(WO,A1)
【文献】特開2006-237186(JP,A)
【文献】ZHENG, Jiyuan et al.,"Digital Alloy InAlAs Avalanche Photodiodes",JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY,2018年09月01日, VOL. 36, NO. 17,pp.3580-3585
【文献】KATO, Takashi et al.,"Optical properties of (GaAs/InAs)-GaAsySb1-y digital alloy superlattices in the short-wavelength infrared region calculated by an sp3d5s* tight-binding method",Applied Physics A,2023年05月18日,Vol.129, Article Number 429,pp.1-8,<DOI:10.1007/s00339-023-06703-0>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10F 10/00-99/00
Science Direct
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
InP基板と、
前記InP基板上に形成されたn型半導体層と、
前記n型半導体層上に形成されたi型InP電子走行層と、
前記電子走行層上に形成され、キャリア濃度が1×1017cm-3以下であり、InAs層及びGaAs層、InAlAs層及びInGaAs層、または、互いに組成比の異なるInAlGaAs層のいずれかの組み合わせで構成された2種類の半導体層が2原子層から6原子層の周期でそれぞれ交互に積層されたi型デジタルアロイ構造からなる光吸収層と、
を備える半導体受光素子。
【請求項2】
前記光吸収層は、1周期の原子層数が互いに等しいInAs層及びGaAs層が交互に積層されたi型デジタルアロイ構造からなることを特徴とする請求項1に記載の半導体受光素子。
【請求項3】
前記i型InP電子走行層は、キャリア濃度が5×1017cm-3以下であり、層厚が0.1μm以上1.0μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体受光素子。
【請求項4】
前記n型半導体層はn型導電層であり、前記InP基板上に形成された前記n型導電層が部分的に露出した部位にn型電極が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体受光素子。
【請求項5】
前記光吸収層上に、i型またはn型の窓層が形成され、少なくとも前記窓層の内部にp型不純物拡散領域が形成され、前記p型不純物拡散領域の上部にp型電極が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体受光素子。
【請求項6】
前記p型不純物拡散領域の外周部分に前記n型半導体層に達する分離溝が設けられていることを特徴とする請求項5に記載の半導体受光素子。
【請求項7】
前記p型電極と相対する前記InP基板の裏面に、光の入射領域が設けられていることを特徴とする請求項5に記載の半導体受光素子。
【請求項8】
前記光吸収層上にメサ型のp型導電層が形成され、前記p型導電層上にp型電極が形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体受光素子。
【請求項9】
前記メサ型のp型導電層の外周部に、底部が少なくとも前記n型半導体層に達する分離溝が設けられていることを特徴とする請求項8に記載の半導体受光素子。
【請求項10】
InP基板と、
前記InP基板上に形成されたp型半導体層と、
前記p型半導体層上に形成され、キャリア濃度が1×1017cm-3以下であり、InAs層及びGaAs層、InAlAs層及びInGaAs層、または、互いに組成比の異なるInAlGaAs層のいずれかの組み合わせで構成された2種類の半導体層が2原子層から6原子層の周期でそれぞれ交互に積層されたi型デジタルアロイ構造からなる光吸収層と、
前記光吸収層上に形成されたi型InP電子走行層と、
を備える半導体受光素子。
【請求項11】
前記光吸収層は、1周期の原子層数が互いに等しいInAs層及びGaAs層が交互に積層されたi型デジタルアロイ構造からなることを特徴とする請求項10に記載の半導体受光素子。
【請求項12】
前記i型InP電子走行層は、キャリア濃度が5×1017cm-3以下であり、層厚が0.1μm以上1.0μm以下であることを特徴とする請求項10に記載の半導体受光素子。
【請求項13】
前記光吸収層の一部にn型またはp型不純物がドーピングされていることを特徴とする請求項1から3、10から12のいずれか1項に記載の半導体受光素子。
【請求項14】
前記i型InP電子走行層と前記光吸収層の間および前記光吸収層上のいずれか一方または両方にグレーディッド層をさらに備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体受光素子。
【請求項15】
前記グレーディッド層はバンドギャップを連続的に変化させた層であることを特徴とする請求項14に記載の半導体受光素子。
【請求項16】
前記グレーディッド層は組成をステップ状に変化させたことを特徴とする請求項14に記載の半導体受光素子。
【請求項17】
請求項1から3、10から12のいずれか1項に記載の半導体受光素子と、
光信号を前記半導体受光素子に入射する光合分波器と、
前記半導体受光素子から出力された電気信号を増幅する増幅回路と、
前記増幅回路に接続され、増幅された前記電気信号からクロック・データを再生するクロック・データ再生回路と、
前記クロック・データ再生回路に接続され、前記クロック・データの誤りを訂正する前方誤り訂正回路と、
を備える光回線終端装置。
【請求項18】
請求項1から3、10から12のいずれか1項に記載の半導体受光素子と、
光信号を前記半導体受光素子に入射する光合分波器と、
前記半導体受光素子から出力された電気信号を増幅する増幅回路と、
前記増幅回路に接続され、増幅された電気信号をデジタル信号に変換するアナログ/デジタル変換回路と、
前記アナログ/デジタル変換回路に接続され、前記デジタル信号を処理するデジタル信号処理回路と、
前記デジタル信号処理回路に接続され、前記デジタル信号の誤りを訂正する前方誤り訂正回路と、
を備える光回線終端装置。
【請求項19】
多値強度変調された光信号を受光する請求項1から3、10から12のいずれか1項に記載の半導体受光素子と、
前記半導体受光素子から出力された電気信号を増幅する増幅回路と、
前記増幅回路に接続され、増幅された前記電気信号をデジタル信号に変換するアナログ/デジタル変換回路と、
前記アナログ/デジタル変換回路に接続され、前記デジタル信号を処理するデジタル信号処理回路と、
を備える多値強度変調送受信装置。
【請求項20】
アナログ変調された光信号を出射する光源と、
アナログ変調された前記光信号を受光する請求項1から3、10から12のいずれか1項に記載の半導体受光素子と、
前記半導体受光素子から出力されたアナログ電気信号をアンテナに伝送する伝送路と、
前記伝送路に接続され、前記アナログ電気信号を電波信号として放射するアンテナと、
を備える光ファイバ無線システム。
【請求項21】
請求項1から3、10から12のいずれか1項に記載の半導体受光素子と、
強度及び位相が変調された偏波多重光信号の偏波を分離する偏波分離器と、
前記偏波分離器から出力される光信号を分波及び合成する90度ハイブリッド器と、
前記90度ハイブリッド器に接続され、デジタル信号を処理するデジタル信号処理回路と、
を備えるデジタルコヒーレント受信装置。
【請求項22】
請求項1から3、10から12のいずれか1項に記載された半導体受光素子によって構成されたSPADセンサーと、
前記SPADセンサーに、降伏電圧以上に印加した電圧及び降伏電圧未満の電圧を反復して印加するクエンチング回路と、
前記SPADセンサーから出力された電気信号を計測する光電子計測回路と、
を備えるSPADセンサーシステム。
【請求項23】
パルス状の光または周波数変調された光を発する光源と、
前記光源から出射された光が物体に反射して戻ってきた光を受光する請求項1から3、10から12のいずれか1項に記載された半導体受光素子と、
前記半導体受光素子から出力された電気信号を増幅する増幅回路と、
前記増幅回路によって増幅された電気信号に基づき距離を算出する測距回路と、
を備えるライダー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体受光素子、光回線終端装置、多値強度変調送受信装置、デジタルコヒーレント受信装置、光ファイバ無線システム、SPADセンサーシステム、及びライダー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル情報を活用するデジタルトランスフォーメーションの進展とともに、デジタル情報を相互に通信する通信ネットワークとデータの蓄積処理を行うデータセンタの発展が著しい。通信ネットワーク及びデータセンタ内通信には光通信が用いられる。光通信は、近年、高速化及び大容量化が目覚ましい進展を遂げている。光通信の進展の中で、光通信の受信器として、高い受信感度が得られるフォトダイオード(Photodiode:PD)及びアバランシェフォトダイオード(Avalanche Photodiode:APD)が必要とされる。
【0003】
光通信の加入者まで接続するアクセス網では、パッシブ光ネットワーク(Passive Optical Network:PON)が主たる方式として採用されている。PONシステムでは、1~2Gbpsの信号を伝送するG(E)-PONシステムから始まり、今後は10Gbpsの信号を伝送する10G-EPONシステム、XG-PONシステムが増加していくと予想される。
【0004】
さらに、ITU-T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)において、次世代高速PONシステムである50G-PONシステムが検討されており、アクセス網においても今後、50Gbps級の伝送が実用化されていくと期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平3-050875号公報
【文献】特開平1-255282号公報
【文献】特開平6-097483号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Jiyuan Zheng et al.,“Digital Alloy InAlAs Avalanche Photodiodes”,JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY,VOL.36,NO.17,SEPTEMBER 1,pp.3580-3585,2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
(1)PD及びAPDにおける光吸収層に関する課題
高速の光通信に用いられるPD及びAPDは、光吸収層として、光通信波長帯である1.3μm帯と1.55μm帯で吸収係数が高いInGaAsが用いられる。たとえば、1.3μm帯では、10000/cm以上の高い吸収係数が得られる。
【0008】
PD及びAPDの応答帯域を広帯域化するためには、光吸収層を構成するInGaAs層を薄膜化してキャリアの走行時間を短縮する必要がある。しかしながら、光吸収層の層厚を薄膜化すると、受光感度が低下するという問題が発生する。
【0009】
光吸収層の吸収係数をα、光吸収層の層厚をWとすると、量子効率η(=吸収される光子数/入射光子数)は、以下の式(1)で表される。

η=1-exp(-αW) (1)
【0010】
式(1)において、たとえば、α=10000/cm、W=1μmとすると、量子効率ηは63%となる。ちなみに、受光感度S(A/W)は、S=η・λ(nm)/1240で与えられるので、波長1.3μmの光の場合は、受光感度は0.66A/Wとなる。
【0011】
一方、キャリアが光吸収を走行する時間で決定される3dB帯域ftrは、以下の式(2)で表される。

ftr=3.5Vav/(2πW) (2)
【0012】
式(2)において、Vavは電子及び正孔の平均飽和走行速度である。たとえば、光吸収層がInGaAsで構成され、Vav=5.35×106cm/s、W=1μmである場合は、式(2)に代入すると、ftr=29.8GHzとなる。
【0013】
したがって、光吸収層の層厚Wを1μmよりも厚くすると、量子効率ηは63%よりも高くなるが、応答帯域は29.8GHzよりも低下する。このような応答帯域と量子効率のトーレドオフを改善するためには、光吸収層の吸収係数を高める必要がある。
【0014】
(2)APDにおける増倍層に関する課題
PONシステムに用いられる半導体受光素子であるAPDは、素子構造として、光吸収層(InGaAs)、電界緩和層(InPまたはInAlAs)、増倍層(InPまたはInAlAs)の各層により構成されている。増倍層に約800kV/cmの高電界を印加して、光吸収層において発生した電子及び正孔を増倍、つまりイオン化する。電界緩和層は増倍層の高電界が光吸収層に印加されないように電界を弱めるように機能する。ちなみに、電子のイオン化率はαe、正孔のイオン化率はβhと表記される。
【0015】
APDでは、電子及び正孔のイオン化率の比率が大きいほど、増倍時に発生する過剰雑音が小さくなり受信感度が高くなる。さらに、電子及び正孔のイオン化率の比率が大きいほど、増倍層における増倍時間が短くなるため、応答帯域が広帯域となる。
【0016】
電子及び正孔のイオン化率比kは、k=βh/αeで定義される。増倍層に電子が注入される場合は、イオン化率比kが小さくなるほどAPDの性能が向上する。光通信用APDの増倍層には、InAlAsまたはInPといった化合物半導体材料が用いられる。
【0017】
増倍層の構成材料としてInAlAsを選択した場合は、InPよりも電子及び正孔のイオン化率の差が大きくなる。なお、InPでは正孔の方が電子よりもイオン化率は大きく、正孔のイオン化率は電子のイオン化率の約2倍である。一方、増倍層の構成材料としてInAlAsを選択した場合は、電子のイオン化率の方が正孔よりも大きく、電子のイオン化率は正孔のイオン化率の約5倍である。したがって、InAlAsを増倍層とすると受信感度がより高くなるため、APDの増倍層の構成材料としては、InPよりもInAlAsの方が好適である。
【0018】
PONシステムでは、上述のように、半導体受光素子であるAPDに、広い応答帯域と高い受信感度が要求される。しかしながら、APDではPDとは異なり、増倍するのに要する時間、つまり増倍時間が増倍率を高くするのにともない長くなるため、高い増倍率において応答帯域が低下するという問題があった。
【0019】
光通信で用いられるInAlAsを構成材料とする増倍層を有するAPDは、他の半導体材料で構成されるAPDよりも広い応答帯域であるものの、増倍率が6以上では応答帯域は約20GHzにとどまる。つまり、50G-PONシステムに要求される37.5GHz以上の広い応答帯域は、従来のAPDを適用した場合は実現が困難であるという問題がある。
【0020】
上述のように、光通信に用いられる半導体受光素子であるPD及びAPDには、さらなる広い応答帯域での動作が要求される。特開文献1には超格子を用いたAPDが記載されているが、電子走行層ではなく増倍層と電界緩和層への超格子の適用であり、さらに各層の層厚は5~10nmであるため、各層のバンドギャップを反映した量子井戸として作用する。積層された各層の層厚が数nm以上となると、各層のバンドギャップを反映したエネルギーの凹凸ができるためキャリアの走行を阻害し、走行速度が低下してしまうという問題がある。
【0021】
50G-PONシステムでは、半導体発光素子及び半導体受光素子の応答帯域、半導体発光素子の光出力及び半導体受光素子の受信感度が不足している。このため、光回線終端装置(Optical Network Unit:ONU)、つまり加入者側の受信装置には、APDの後段にデジタルシグナルプロセッサ(Digital Signal Processor:DSP)によるデジタル帯域補償回路を設けることが考えられている。
【0022】
また、光回線終端装置(Optical Line Terminal:OLT)、つまり局舎側の受信装置では、半導体受光素子の受信感度不足を補うため、半導体光増幅器(Semiconductor optical amplifier:SOA)が必要であったり、ONUの送信側の電界吸収型変調器集積レーザーダイオード(Electro-absorption Modulated Laser Diode:EML)にSOAを集積し、光出力を増加させたりする必要がある。
【0023】
しかしながら、DSP及びSOAは消費電力が非常に大きく、コストの上昇要因となるため、既存のPONシステムから50G-PONシステムへの置き換えが進展しなくなると危惧されている。
【0024】
次世代高速PONシステム以外の既存のPONシステムにおいても、低コスト化のためにOLTから出力された光信号の分岐数を増加させることが検討されている。しかしながら、この場合も、OLT及びONUの送信側のEMLにSOAを集積し光出力を増加させる必要があり、送信器の消費電力の増大、及びコストの増加が発生するという問題がある。
【0025】
以上のように、半導体受光素子の受信感度及び応答帯域の限界を補うため、高価でかつ消費電力の大きいDSP及びSOAを、ONU及びOLTに組み入れた送受信器の設計がなされているが、消費電力の増大、及びコストの増加が発生するという問題がある。
【0026】
本開示は上記のような問題点を解消するためになされたもので、広い応答帯域で動作し、かつ高い受信感度を有する半導体受光素子を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本開示に係る半導体受光素子は、
InP基板と、
前記InP基板上に形成されたn型半導体層と、
前記n型半導体層上に形成されたi型InP電子走行層と、
前記電子走行層上に形成され、キャリア濃度が1×1017cm-3以下であり、InAs層及びGaAs層、InAlAs層及びInGaAs層、または、互いに組成比の異なるInAlGaAs層のいずれかの組み合わせで構成された2種類の半導体層が2原子層から6原子層の周期でそれぞれ交互に積層されたi型デジタルアロイ構造からなる光吸収層と、を備える。
【0028】
本開示に係る光回線終端装置は、
上述の半導体受光素子と、
光信号を前記半導体受光素子に入射する光合分波器と、
前記半導体受光素子から出力された電気信号を増幅する増幅回路と、
前記増幅回路に接続され、増幅された前記電気信号からクロック・データを再生するクロック・データ再生回路と、
前記クロック・データ再生回路に接続され、前記クロック・データの誤りを訂正する前方誤り訂正回路と、を備える。
【0029】
本開示に係る多値強度変調送受信装置は、
多値に強度変調された光信号を受光する上述の半導体受光素子と、
前記半導体受光素子から出力された電気信号を増幅する増幅回路と、
前記増幅回路に接続され、増幅された前記電気信号をデジタル信号に変換するアナログ/デジタル変換回路と、
前記アナログ/デジタル変換回路に接続され、前記デジタル信号を処理するデジタル信号処理回路と、を備える。
【0030】
本開示に係る光ファイバ無線システムは、
アナログ変調された光信号を出射する光源と、
アナログ変調された前記光信号を受光する上述の半導体受光素子と、
前記半導体受光素子から出力されたアナログ電気信号をアンテナに伝送する伝送路と、
前記伝送路に接続され、前記アナログ電気信号を電波信号として放射するアンテナと、を備える。
【0031】
本開示に係るデジタルコヒーレント受信装置は、
上述の半導体受光素子と、
強度及び位相が変調された偏波多重光信号の偏波を分離する偏波分離器と、
前記偏波分離器から出力される光信号を分波及び合成する90度ハイブリッド器と、
前記90度ハイブリッド器に接続され、デジタル信号を処理するデジタル信号処理回路と、を備える。
【0032】
本開示に係るSPAD(Single Photon Avalanche Diode)センサーシステムは、
上述の半導体受光素子によって構成されたSPADセンサーと、
前記SPADセンサーに、降伏電圧以上に印加した電圧及び降伏電圧未満の電圧を反復して印加するクエンチング回路と、
前記SPADセンサーから出力された電気信号を計測する光電子計測回路と、を備える。
【0033】
本開示に係るライダー装置は、
パルス状に発光する光源と、
前記光源から出射された光が物体に反射して戻ってきた光を受光する上述の半導体受光素子と、
前記半導体受光素子から出力された電気信号を増幅する増幅回路と、
前記増幅回路によって増幅された電気信号に基づき距離を算出する測距回路と、を備える。
【発明の効果】
【0034】
本開示に係る半導体受光素子によれば、少なくとも光吸収層をデジタルアロイ構造で構成したので、広い応答帯域で動作し、かつ高い受信感度を有する半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0035】
本開示に係る光回線終端装置、多値強度変調送受信装置、デジタルコヒーレント受信装置、光ファイバ無線システム、SPADセンサーシステム、及びライダー装置によれば、半導体受光素子として本開示の半導体受光素子を用いたので、優れた性能を有する各装置及び各システムが得られるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】InAs/AlAsデジタルアロイ構造及びInAlAsランダムアロイ構造の光吸収スペクトルをそれぞれ示す図である。
図2】各構成材料の格子定数とInPを基準とした歪量の関係を表す図である。
図3】InAs/GaAsデジタルアロイ構造及びInGaAsランダムアロイ構造の光吸収スペクトル上の効果を見積もった結果を表す図である。
図4】実施の形態1に係る半導体受光素子の一例である表面入射型PDの素子構造を表す断面図である。
図5】実施の形態1に係る半導体受光素子の一例である端面入射型PDの素子構造を表す断面図である。
図6】実施の形態2に係る半導体受光素子の一例である表面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
図7】実施の形態2に係る半導体受光素子の一例である端面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
図8】InAlAs増倍層における電子のデッドスペースの電界依存性を表す図である。
図9図9Aから図9Cは、電子及び正孔のイオン化率を表す図である。
図10】イオン化率比及びトンネル電流の増倍層の層厚依存性を表す図である。
図11図11Aから図11Dは、増倍層及び電界緩和層におけるイオン化率を表す図であり、図11Aはランダムアロイ構造増倍層の場合、図11Bはデジタルアロイ構造増倍層の場合、図11Cは部分的に無秩序化したデジタルアロイ構造増倍層の場合、図11Dは層厚の厚い電界緩和層とデジタルアロイ構造増倍層を組み合わせた場合のイオン化率をそれぞれ表す図である。
図12】実施の形態3に係る半導体受光素子の一例である表面入射型PDの素子構造を表す断面図である。
図13】実施の形態3に係る半導体受光素子の一例である表面入射型PDの素子構造を表す断面図である。
図14】実施の形態4に係る半導体受光素子の一例である表面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
図15】実施の形態4に係る半導体受光素子の一例である表面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
図16】実施の形態5に係る半導体受光素子の一例である表面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
図17】実施の形態6に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
図18】実施の形態7に係る半導体受光素子の一例である表面入射型PDの素子構造を表す断面図である。
図19】実施の形態7に係る半導体受光素子の一例である表面入射型PDの素子構造を表す断面図である。
図20】実施の形態8に係る半導体受光素子の一例である表面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
図21】実施の形態8に係る半導体受光素子の一例である表面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
図22】実施の形態9に係る半導体受光素子の一例である表面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
図23】実施の形態10に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
図24】実施の形態11に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
図25】実施の形態12に係る50G-PONシステムの光回線終端装置(OLT)を表す構成図である。
図26】実施の形態12に係る50G-PONシステムの光回線終端装置(ONU)を表す構成図である。
図27】比較例である50G-PONシステムの光回線終端装置(OLT)を表す構成図である。
図28】実施の形態12に係る50G-PONシステムの光回線終端装置(OLT)の構成を表す図である。
図29】実施の形態12に係る50G-PONシステムの光回線終端装置(ONU)の構成を表す図である。
図30】実施の形態13に係る多値強度変調送受信装置の構成を表す図である。
図31図31A及び図31Bは、実施の形態13に係る多値強度変調送受信装置の受信波形を表す図である。
図32図32A及び図32Bは、高光入力時のPDの動作を説明する図である。
図33】高光入力時のAPDの動作を説明する図である。
図34】増倍層を構成する材料ごとの電子及び正孔の滞留時間を表す図である。
図35】実施の形態14に係る光ファイバ無線システムの構成を表す図である。
図36】比較例である光ファイバ無線システムの構成を表す図である。
図37】実施の形態15に係るデジタルコヒーレント受信装置の構成を表す図である。
図38図38Aは比較例であるデジタルコヒーレント受信装置の波形を表す図であり、図38Bは実施の形態15に係るデジタルコヒーレント受信装置の波形を表す図である。
図39】実施の形態16に係るSAPDセンサーシステムの構成を表す図である。
図40図40Aは比較例であるSAPDセンサーシステムの増倍特性を表す図であり、図40Bは実施の形態16に係るSAPDセンサーシステムの増倍特性を表す図である。
図41】増倍層の構成ごとのクエンチング電界とガイガーモード電界の差を計算した図である。
図42】実施の形態17に係るライダー装置の構成を表す図である。
図43図43Aは比較例であるライダー装置のAPDの受信波形を表す図であり、図43Bは実施の形態17に係るライダー装置のAPDの受信波形を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
実施の形態1.
<実施の形態1に係る半導体受光素子(PD)の特徴>
実施の形態1に係る半導体受光素子の具体的な構造を説明する前に、先ず、実施の形態1に係る半導体受光素子の構造上の特徴であるデジタルアロイ構造光吸収層について、以下に説明する。なお、実施の形態1に係る半導体受光素子はPDであるが、実施の形態2以降に説明する半導体受光素子であるAPDも含めて、両者をまとめて説明する。
【0038】
発明者らは、2原子層のInAs層と2原子層のAlAs層とを繰り返し積層したInAs/AlAsデジタルアロイ構造(原子層超格子とも言われる。ALSL:Atomic Layer Super Lattice、非特許文献1)は、全体としてほぼ同じ組成比であるIn0.52Al0.48Asからなるランダムアロイ構造よりも光吸収層の吸収係数が増加することを発見した。以下、In0.52Al0.48Asを、単にInAlAsと表記する。
【0039】
図1に、InAs/AlAsデジタルアロイ構造及びInAlAsランダムアロイ構造の光吸収スペクトルをそれぞれ示す。InAs/AlAsデジタルアロイ構造はInAlAsランダムアロイ構造に比べて、850nm付近の吸収端において吸収係数の立ち上がりが急峻である。
【0040】
また、InAs/AlAsデジタルアロイ構造は、800nm付近及び650nm付近において吸収係数にピークがあり、吸収係数が1.5倍に高まることが分かった。一方、720nm付近では吸収係数の減少が見られる。これは、全体としてほぼ同じ組成比であってもInAs層/AlAs層の周期性に基づきバンド構造が変化し、光吸収係数の波長依存性にも周期性が生じたと考えられる。
【0041】
このように、ほぼ同じ組成であってもランダムアロイ構造をデジタルアロイ構造とすることによって、吸収係数を高めることが可能であることが分かった。発明者らは、この現象を利用し、光通信用のPDまたはAPDのIn0.53Ga0.47Asランダムアロイ構造光吸収層にも、InAs/GaAsデジタルアロイ構造を適用することを考えた。以下、In0.53Ga0.47Asを、単にInGaAsと表記する。
【0042】
図2は、各構成材料の格子定数とInPを基準とした歪量の関係を表す図である。図2に示すように、InAlAsランダムアロイ構造とInAs/AlAsデジタルアロイ構造の組成比はほぼ同一であるのと同様に、InGaAsランダムアロイ構造はInAs/GaAsデジタルアロイ構造と組成比はほぼ同一である。つまり、InGaAsランダムアロイ構造をInAs/GaAsデジタルアロイ構造とすることで、吸収係数を大きくすることが可能であると考えられる。
【0043】
図3は、InAs/GaAsデジタルアロイ構造及びInGaAsランダムアロイ構造の光吸収スペクトル上の効果を計算によって見積もった結果を示す図である。図3中のA線は、図1中のInAlAsランダムアロイ構造の横軸の波長を、InAlAs(Eg=1.46eV)とInGaAs(Eg=0.76eV)のバンドギャップ比である1.92倍(=1.46/0.76)にしたものである。さらに、図3中のA線の縦軸の値、つまり吸収係数は、波長1.3μmにおいて実測したInGaAsランダムアロイ構造の吸収係数(12716/cm)と、図3中のA線の1.3μmにおける吸収係数の値が一致するように、0.37倍としている。
【0044】
図3中のB線は、A線と同様に、図1中のInAs/GaAsデジタルアロイ構造の横軸の波長を1.92倍とし、縦軸の吸収係数を0.37倍としたものである。図3に示すように、B線はA線に対して、光通信で使われる1.3μm波長と1.55μm波長では吸収係数の増加が期待できる。B線はInAs/GaAsデジタルアロイ構造の吸収スペクトルの予想値を表していると考えると、光吸収層をデジタルアロイ構造とすることで受光感度の向上が見込まれる。
【0045】
図3に示すように、InAs/GaAsデジタルアロイ構造ではInGaAsランダムアロイ構造に対して、1.55μm波長では1.5倍の吸収係数の増加が見込まれる。吸収係数が1.5倍になると、式(1)から、同じ量子効率を得るのに必要な光吸収層の層厚が67%(=1/1.5)に低減されることになる。InAs/GaAsデジタルアロイ構造の光吸収層の層厚が、InGaAsランダムアロイ構造の光吸収層の層厚の67%となる場合、式(2)から、キャリアが光吸収層を走行する時間で決定される3dB帯域ftrは、1.5倍とすることが可能となる。つまり、InGaAsランダムアロイ構造の光吸収層を適用することにより、従来のInGaAsランダムアロイ構造の光吸収層の場合に比べて、3dB帯域ftrが1.5倍に改善される。
【0046】
一方、光吸収層の層厚を1μmに固定する場合は、InAs/GaAsデジタルアロイ構造とInGaAsランダムアロイ構造とは同じftrとなる。しかしながら、InAs/GaAsデジタルアロイ構造とすることで、量子効率はInAs/GaAsデジタルアロイ構造の43%から57%へと向上する。ここで、光吸収層の層厚は1μm、波長1.55μmでのInGaAsランダムアロイ構造の吸収係数は、図3に示される5578/cm、InAs/GaAsデジタルアロイ構造の吸収係数は、同じく図3に示される8530/cmの数値をそれぞれ用いた。
【0047】
以上のように、デジタルアロイ構造を光吸収層に適用することにより、応答帯域の広帯域化、及び高効率化、つまり高受光感度化が実現可能となる。
【0048】
<実施の形態1に係る半導体受光素子(PD)の素子構造>
図4は、実施の形態1に係る半導体受光素子100の一例である表面入射型PDの素子構造を表す断面図である。また、図5は、実施の形態1に係る半導体受光素子100aの一例である端面入射型PDの素子構造を表す断面図である。
【0049】
実施の形態1に係る半導体受光素子100の一例である表面入射型PDは、n型InP基板1と、n型InP基板1上に順次形成された、キャリア濃度が1~5×1018cm-3であり層厚が0.1~1.0μmであるn型InPバッファ層2と、キャリア濃度が5×1017cm-3以下であり層厚が0.1~1.0μmであるi型InP電子走行層3と、キャリア濃度が5×1017cm-3以下であり層厚が5~50nmであるi型InAlGaAsグレーディッド層4と、キャリア濃度が1×1017cm-3以下であり層厚が50~2000nmである、i型InAs層(一例として層厚が2原子層、約0.6nm)とi型GaAs層(一例として層厚が2原子層、約0.6nm)とを交互に複数回積層したデジタルアロイ構造からなる光吸収層(以下、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5と呼ぶ。)と、キャリア濃度が5×1017cm-3以下であり層厚が5~50nmであるi型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6と、キャリア濃度が5×1017cm-3以上であり層厚が0.1~3.0μmであるp型InP窓層7と、p型InGaAsコンタクト層8と、n型InP基板1の裏面側に形成されたn型電極31と、p型InGaAsコンタクト層8上に形成されたp型電極32と、で構成される。
【0050】
p型InP窓層7の代りに、p型InAlAs窓層としても良い。なお、n型InPバッファ層2を、n型半導体層とも呼ぶ。
【0051】
図5に示す実施の形態1に係る半導体受光素子110は、半導体受光素子100と同様の層構成を有するが、さらに、少なくとも入射光90が入射する端面には、Feドープ半絶縁性InP埋込層20が形成されている。
【0052】
n型InPバッファ層2のn型ドーパントとしては、シリコン(Si)が最適である。n型InPバッファ層2からi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5にn型不純物が拡散してデジタルアロイ構造が無秩序化(ディスオーダ)することを避けるためである。ここで、無秩序化とは、デジタルアロイ構造の各層の組成が交じり合い、平均組成のランダムアロイ構造となってしまう現象を指す。
【0053】
i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5は、上述のように、InAs層(層厚が2原子層、約0.6nm)とGaAs層(層厚が2原子層、約0.6nm)の順番で交互に積層した半導体層で構成されることとした。しかしながら、InAs層及びGaAs層の層厚が、それぞれ2原子層以上6原子層以下の範囲であれば良い。6原子層以下としたのは、InAs層とGaAs層の積層構造が量子井戸構造として機能しないことが望ましいからである。つまり、デジタルアロイ構造は、異なる半導体材料でそれぞれ構成された2種類の半導体層を、2原子層から6原子層の周期でそれぞれ交互に積層されている。
【0054】
さらに、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の各層の原子層数は、2原子層以上4原子層以下が好適であり、2原子層が最適である。この理由は、各層の原子層厚が薄いほどデジタルアロイ構造によるイオン化率比kの低減効果が大きくなるためである。また、半導体受光素子としての性能だけでなく、生産性も考慮した場合は分子線エピタキシャル成長法(MBE:Molecular Beam Epitaxy)による結晶成長の際にシャッター切り替え回数が少なくなる4~6原子層の層厚も好適である。以上の各要因を鑑みると、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の各層の原子層数は、2~6原子層周期が好適な範囲であると言える。また、同様に生産性の観点から、光吸収層の全てをInAs/GaAsデジタルアロイ構造としなくとも、光吸収層の一部をInAs/GaAsデジタルアロイ構造とし、残部をInGaAsランダムアロイ構造としても良い。
【0055】
i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の層厚は50~2000nmの範囲内である。例えば、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の層厚を500nmとすると、InAs層(2原子層)/GaAs層(2原子層)の繰り返しは417回となる。
【0056】
n型InPバッファ層2を構成するInPとの親和性を考慮して、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の最初のGaAs層のみ、層厚を3原子層以上に厚くすることが好適である。あるいは、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5を、InAs層、GaAs層の順で交互に形成して積層しても良い。
【0057】
InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層の導電型はi型であり、キャリア濃度は1×1017cm-3以下が一例として挙げられる。しかしながら、InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層の導電型として、キャリア濃度が5×1017cm-3以下であるp型またはn型であっても良い。
【0058】
InAs/GaAsデジタルアロイ構造で構成された光吸収層以外にも、各構成材料の格子定数とInPを基準とした歪量の関係を表す図2に挙げる、InAlAs/InGaAs、InAlxGa(1-x)As(層厚が2~6原子層、Al組成比X)とInAlyGa(1-y)As(層厚が2~6原子層、Al組成比Y)を交互に積層したInAlGaAsデジタルアロイ構造も同様に本開示の光吸収層として適用が可能である。さらに、アンチモン(Sb)を加えた材料系であるInAlAsSbからなるデジタルアロイ構造でも、本開示の半導体受光素子の光吸収層として適用が可能である。
【0059】
i型InAlGaAsグレーディッド層4及びi型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6は、InAlGaAsの組成を変えてバンドギャップを徐々に変化させた層であり、層厚はそれぞれ5~50nmの範囲内である。InAlGaAsの組成はステップ状に変化させても良く、バンドギャップはInP層とInGaAs層の中間的な大きさである。キャリア濃度は5×1017cm-3以下であり、キャリア濃度が低ければp型またはn型でも良い。なお、i型InAlGaAsグレーディッド層4及びi型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6は必ずしも必要ではなく、省略しても良い。
【0060】
図4に示す半導体受光素子100の素子構造の一例では、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5上に、i型で組成の異なる2種類のInAlGaAs層を複数回、交互に積層することにより、i型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6を形成している。
【0061】
<実施の形態1に係る半導体受光素子の製造方法>
実施の形態1に係る半導体受光素子100の一例である表面入射型PDは、n型InP基板1上に有機金属気相成長法(MOVPE:Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)またはMBEなどを用いて実現できる。実施の形態1に係る半導体受光素子100の製造方法を、以下に説明する。
【0062】
MOVPE法またはMBE法を用いて、n型InP基板1上に、キャリア濃度が1~5×1018cm-3であり層厚が0.1~1μmであるn型InPバッファ層2を結晶成長する。
【0063】
n型InPバッファ層2上に、キャリア濃度が5×1017cm-3以下であり層厚が0.1~1μmであるi型InP電子走行層3を結晶成長する。
【0064】
i型InP電子走行層3上に、層厚が5nm以上50nm以下であり、キャリア濃度が5×1017cm-3以下であるi型InAlGaAsグレーディッド層4を結晶成長する。
【0065】
i型InAlGaAsグレーディッド層4上に、キャリア濃度が1×1017cm-3以下であり層厚が50~2000nmである、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5を結晶成長する。つまり、n型InPバッファ層2上からGaAs層(層厚が2原子層、約0.6nm)とInAs層(層厚が2原子層、約0.6nm)の順番で交互に結晶成長することにより、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5を形成する。
【0066】
さらに、キャリア濃度が5×1017cm-3以下であり層厚が5~50nmであるi型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6、キャリア濃度が5×1017cm-3以上であり層厚が0.1~3.0μmであるp型InP窓層7、及びp型InGaAsコンタクト層8を、順次結晶成長する。
【0067】
結晶成長の終了後、p型InGaAsコンタクト層8の表面にp型電極32を、n型InP基板1の裏面にn型電極31をそれぞれ形成する。PDのp型電極32は、金属材料としてTi及びAuが使用されている。なお、PDは逆方向に電圧を印加し、動作電圧は0V~10Vである。
【0068】
図1に示す表面入射型PDの場合は、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5に対して垂直方向から入射光90が入射する。PDの受光部が円形の場合の直径、またはPDの受光部が矩形の場合の長辺の大きさは5μm~1mmの範囲内である。PDの入射面には無反射コーティング(図示せず)を施している。
【0069】
図5に示す端面入射型PDの場合は、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5に対して平行方向から入射光90が入射する。信頼性の観点から、端面部分は、絶縁膜、有機膜、または半導体層で覆う。図5に示す端面入射型PDでは、端面にFeドープ半絶縁性InP埋込層20が形成されている。Feドープ半絶縁性InP埋込層20の層厚は、入射方向に対して100nm~5μmの範囲内である。
【0070】
<実施の形態1に係る半導体受光素子(PD)の作用>
図4及び図5に示した実施の形態1に係る半導体受光素子100の一例であるPDについて説明する。なお、実施の形態2以降のAPDの場合も併せて説明する。
【0071】
図3のA線はInGaAsランダムアロイ構造光吸収層、B線はInAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層をそれぞれ表している。図3によると、1.3μmにおける吸収係数は、A線では12716/cm、B線では16108/cmである。1.55μmにおける吸収係数は、A線では5578/cm、B線では8530/cmである。
【0072】
PD及びAPDの光吸収層としてInAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層を適用すると、25G以上の高速PD及びAPDの場合に、特に改善効果が顕著となる。表面入射型PD及びAPDでは、光吸収層の層厚の最適値は500~1000nmとなる。光吸収層の層厚が500~1000nmの場合の受光感度は、InGaAsランダムアロイ構造光吸収層では1.3μm波長帯では0.49A/W(量子効率47%)~0.75A/W(量子効率72%)である。一方、InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層の場合は、0.58A/W(量子効率55%)~0.84A/W(量子効率80%)となり、顕著な改善効果が見込まれる。
【0073】
さらに、1.55μm波長帯の場合、InGaAsランダムアロイ構造光吸収層では、0.30A/W(量子効率24%)~0.53A/W(量子効率43%)であるのに対して、InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層の場合は、0.43A/W(量子効率35%)~0.72A/W(量子効率57%)となり、1.3μm帯よりもさらに大きな改善効果が見込まれる。
【0074】
25G以上の端面入射型の高速PD及びAPDの場合は、光吸収層の層厚の最適値は200~500nmとなる。端面入射型の高速PD及びAPDの場合は、吸収係数が増加すれば導波路長を短くできるので、pn接合容量を小さくすることが可能となる。たとえば、1.55μm波長帯の場合、吸収係数に関しては、InGaAsランダムアロイ構造光吸収層と比べてInAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層の吸収係数の方が約1.5倍大きいため、導波路長は約1.5分の1の長さで同じ受光感度が得られ、この結果、pn接合容量は約1.5分の1に低減できる。pn接合容量が減少すると、応答帯域の広帯域化が可能となる。
【0075】
以上に説明したように、PD及びAPDの光吸収層としてInAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層を適用することにより、PD及びAPDの高感度化及び応答帯域の広帯域化が可能となる。したがって、25Gbps以上の応答帯域の用途においても十分な受信感度を有するPD及びAPDを得ることが可能である。
【0076】
本開示のInAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層では、InAs層及びGaAs層の各層を2~6原子層(0.6~1.8nm)という極めて薄い層厚で交互に繰り返す積層構造としているため、InAs層とGaAs層との間で量子井戸構造は形成されないので、InAs/GaAsデジタルアロイ構造のバンドギャップ自体はInGaAsとほぼ同等である。
【0077】
たとえば、InAs層の層厚を数nm以上とすると、InAsのバンドギャップ波長に近い波長3μmが吸収端となるため、物性的に異なるものになる。特許文献1では、AlGaAsSbワイドギャップ層(層厚は約0.1μm)と(InAs)m/(GaAs)mよりなる短周期(m=1~2)超格子ナローギャップ層(層厚は約0.1μm)との積層構造を光吸収層とする例が開示されている。しかしながら、光吸収層の積層面の左右方向にp層及びn層が配置され、電子のみが(InAs)m/(GaAs)m層を走行する構造となっていて、増倍層としても機能する。
【0078】
特許文献1のように、光吸収層の積層面の左右方向にp層及びn層を配置する場合は、両者の間隔が広くなるため電界が弱くなり、電子及び正孔が別々の層を走行する仕組みであるため、電界分布が発生し、高光入力時に非線形動作を生じやすいという問題がある。また、光吸収層の積層面の上下方向に電流を流そうとしてもワイドギャップ層に挟まれているため、電流は流れないという問題もある。
【0079】
一方、本開示によるPD及びAPDでは、光吸収層の積層面の上下方向にp層及びn層が配置されているので、InAs/GaAsデジタルアロイ構造中を、電子及び正孔が同一層内をそれぞれ上下逆方向に短い距離で走行する構造となっているため、線形動作が確保できる。
【0080】
特許文献2では、InGaAsとInAlAsの積層構造が示されている。また、InGaAs層が層厚10nmの量子井戸(ウエル)を形成し、熱処理によってディスオーダを生じさせてInGaAsウエルで決定されるバンドギャップ波長を変化させることが記載されている。
【0081】
一方、本開示の半導体受光素子では、InAs層及びGaAs層の各層が2~6原子層の薄膜で構成されているため、InGaAs層としてウエルを形成しない。また、バンドギャップ波長はAl及びGaが同じ割合であるInAlGaAsと同一であるので、熱処理を加えてもバンドギャップ波長は変化しない。
【0082】
特許文献3では、同様にウエルとして機能するInGaAs層の層厚を、5.5nmから8nmに変化させることで、バンドギャップ波長を変化させる例が示されている。一方、本開示の半導体受光素子では、InAs層及びGaAs層の各層が2~6原子層(0.6~1.8nm)の薄膜であるため、InGaAs層としてウエルを形成しないので、バンドギャップ波長は変化しない。
【0083】
光吸収層を構成する層が量子井戸構造を形成すると、量子準位に対応する波長では吸収係数が増加するが、量子準位に対応する波長の前後の波長では吸収係数が著しく低下する。また、量子井戸構造の形成によりバンドギャップ波長も短くなるため、長い波長での吸収係数が低下する。さらに、吸収係数の偏波依存性が発生し、電子及び正孔がウエルから排出されにくくなる。したがって、本開示の半導体受光素子のように、数原子層の層厚に設定して、量子井戸構造を形成しないことが重要である。
【0084】
<実施の形態1の効果>
以上、実施の形態1に係る半導体受光素子によると、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層を設けたので、広い応答帯域で動作し、かつ高い受信感度を有する半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0085】
実施の形態2.
<実施の形態2に係る半導体受光素子(APD)の素子構造>
図6は、実施の形態2に係る半導体受光素子110の一例である表面入射型APDの素子構造を表す断面図である。また、図7は、実施の形態2に係る半導体受光素子110aの一例である端面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【0086】
実施の形態2に係る半導体受光素子110は、n型InP基板1と、n型InP基板1上に順次形成された、キャリア濃度が1~5×1018cm-3であり層厚が0.1~1.0μmであるn型InAlAsバッファ層2aと、キャリア濃度が1×1017cm-3以下であり層厚が50~500nmであるi型InAlAs増倍層13と、キャリア濃度が1×1016~5×1018cm-3であり層厚が10~70nmであるp型InP電界緩和層14と、キャリア濃度が1×1017cm-3以下であり層厚が50~2000nmである、i型InAs層(一例として層厚が2原子層、約0.6nm)とi型GaAs層(一例として層厚が2原子層、約0.6nm)とを交互に複数回積層したi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5と、キャリア濃度が5×1017cm-3以下であり層厚が5~50nmであるi型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6と、キャリア濃度が5×1017cm-3以上であり層厚が0.1~3.0μmであるp型InP窓層7と、p型InGaAsコンタクト層8と、n型InP基板1の裏面側に形成されたn型電極31と、p型InGaAsコンタクト層8上に形成されたp型電極32と、で構成される。
【0087】
p型InP窓層7の代りに、p型InAlAs窓層としても良い。なお、n型InAlAsバッファ層2aを、n型半導体層とも呼ぶ。
【0088】
図7に示す実施の形態2に係る半導体受光素子110aは、半導体受光素子110と同様の層構成を有するが、さらに、少なくとも入射光90が入射する端面には、Feドープ半絶縁性InP埋込層20が形成されている。
【0089】
n型InAlAsバッファ層2aのn型ドーパントとしては、シリコン(Si)が最適である。n型InAlAsバッファ層2aはランダムアロイ構造とデジタルアロイ構造のどちらでも良い。
【0090】
i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5は、上述のように、InAs層(層厚が2原子層、約0.6nm)とGaAs層(層厚が2原子層、約0.6nm)の順番で交互に積層した半導体層で構成されることとした。しかしながら、InAs層及びGaAs層の層厚が、それぞれ2原子層以上6原子層以下の範囲であれば良い。6原子層以下としたのは、InAs層及びGaAs層の積層構造が量子井戸構造として機能しないことが望ましいからである。
【0091】
さらに、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の各層の原子層数は、2原子層以上4原子層以下が好適であり、2原子層が最適である。この理由は、各層の原子層厚が薄いほどデジタルアロイ構造によるイオン化率比kの低減効果が大きくなるためである。また、半導体受光素子としての性能だけでなく、生産性も考慮した場合はMBEによる結晶成長の際にシャッター切り替え回数が少なくなる4~6原子層の層厚も好適である。以上の各要因を鑑みると、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の各層の原子層数は、2~6原子層周期が好適な範囲であると言える。
【0092】
i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の層厚は50nm~2000nmの範囲内である。例えば、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の層厚を500nmとすると、InAs層(2原子層)/GaAs層(2原子層)の繰り返しは417回となる。
【0093】
n型InAlAsバッファ層2aを構成するInAlAsとの親和性を考慮して、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の最初のGaAs層のみ、層厚を3原子層以上に厚くすることが好適である。あるいは、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5を、InAs層、GaAs層の順で交互に形成して積層しても良い。
【0094】
i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の導電型はi型であり、キャリア濃度は1×1017cm-3以下が一例として挙げられる。しかしながら、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の導電型として、キャリア濃度が5×1017cm-3以下であるp型またはn型であっても良い。
【0095】
InAs/GaAsデジタルアロイ構造で構成された光吸収層以外にも、各構成材料の格子定数とInPを基準とした歪量の関係を表す図2に挙げる、InAlAs/InGaAs、InAlxGa(1-x)As(層厚が2~6原子層、Al組成比X)とInAlyGa(1-y)As(層厚が2~6原子層、Al組成比Y)を交互に積層したInAlGaAsデジタルアロイ構造も同様に本開示の光吸収層として適用が可能である。さらに、アンチモン(Sb)を加えた材料系であるInAlAsSbからなるデジタルアロイ構造でも本開示の半導体受光素子の光吸収層として適用が可能である。
【0096】
i型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6は、InAlGaAsの組成を変えてバンドギャップを徐々に変化させた層であり、層厚はそれぞれ5~50nmの範囲内である。InAlGaAsの組成はステップ状に変化させても良く、バンドギャップはInP層とInGaAs層の中間的な大きさである。キャリア濃度は5×1017cm-3以下であり、キャリア濃度が低ければp型またはn型でも良い。なお、i型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6は、必ずしも必要ではなく、省略しても良い。
【0097】
p型InP電界緩和層14とi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5との間に、InAlGaAsまたはInGaAsPなどの中間のバンドギャップを有する層厚が0.1μm以下の層を設けても良い。ヘテロ接合界面での電子及び正孔の蓄積を防止することが可能であるからである。
【0098】
図6に示す半導体受光素子110の素子構造の一例では、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5上に、i型で組成の異なる2種類のInAlGaAs層を複数回、交互に積層することにより、i型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6を形成している。
【0099】
実施の形態2に係る半導体受光素子の一例であるAPDのp型電極32には、Ti及びAuが使用されている。APDは逆方向に電圧を印加し、動作電圧は10V~100Vである。APD動作時のi型InAlAs増倍層13の電界は500kV/cm~900kV/cmである。また、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の電界は300kV/cm以下に設定している。増倍率は3~30で使用するが、ガイガーモードで動作する場合は100以上となる。
【0100】
<実施の形態2に係る半導体受光素子(APD)の作用>
実施の形態2に係る半導体受光素子(APD)への作用について説明する。
実施の形態2に係るAPDは、実施の形態1に係るPDと同様、APDの光吸収層としてInAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層を用いることにより、APDの高感度化及び広帯域化が可能となる。したがって、25Gbps以上の広い応答帯域の用途においても十分な受信感度を有するAPDを得ることが可能である。
【0101】
<実施の形態2の効果>
以上、実施の形態2に係る半導体受光素子によると、InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層を設けたので、広い応答帯域で動作し、かつ高い受信感度を有する半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0102】
実施の形態2の変形例.
<実施の形態2の変形例に係る半導体受光素子(APD)の特徴>
実施の形態2の変形例に係る半導体受光素子の具体的な構造を説明する前に、先ず、実施の形態2の変形例に係る半導体受光素子の構造上の特徴であるデジタルアロイ構造増倍層について、以下に説明する。
【0103】
37.5GHz以上の広帯域のAPDを実現できれば、DSP及びSOAを用いなくても、次世代の高速PONシステムが実現できる。応答帯域の広帯域化が比較的容易なPDの場合、応答帯域は、
(1)RC時定数(Rは素子抵抗、Cは素子容量)
(2)キャリアの走行時間(空乏層内を電子または正孔が走行する時間)
によって制限される。APDではさらに、
(3)増倍時間(増倍層内で電子及び正孔が連鎖的に増倍する時間、増倍率に比例して増加)によっても制限される。
【0104】
PDでは上述の37.5GHzの帯域を実現できるが、APDでは増倍時間が必要なために、増倍率を高くすると所望の帯域実現が困難となる。増倍時間TMは、下記の式(3)~(5)で表される。

増倍時間TM=増倍率M/GB積 (3)

GB積=1/(2πNkτav) (4)

つまり、

増倍時間TM=2πNkMτav (5)

となる。
【0105】
ここで、GB積は増倍率と応答帯域の積、kはイオン化率比、Nはイオン化率比kにゆるやかに依存する係数、τavは電子及び正孔が増倍層を走行する平均時間である。したがって、イオン化率比kを小さくすることにより、増倍時間TMを短縮することが可能である。特に、高速PONシステムを実現するためには、増倍時間TMがゼロに近づくようにすること、つまり、イオン化率比kをゼロに近づける必要がある。
【0106】
イオン化率比kをゼロとするべく、増倍層の材料として種々の化合物半導体が提案されている。また、イオン化率比kを低減するために、組成の異なる半導体層を1~6原子層の周期で交互に繰り返し積層したデジタルアロイ構造が提案されているものの、デジタルアロイ構造においても構造を最適化しない限り、イオン化率比kをゼロとすることは困難であった。なお、デジタルアロイ構造については、非特許文献1に記載されている。
【0107】
そこで、発明者らは、デジタルアロイ構造のイオン化率比kを低減すべく、2原子層のInAs層と2原子層のAlAs層を交互に繰り返し積層した増倍層を用いたデジタルアロイ構造増倍層を有するAPDを作製し、増倍特性を解析した結果、キャリアが増倍層を走行してイオン化するまでの距離が、通常のバルク結晶からなるInAlAs、つまりInAlAsランダムアロイ構造増倍層を有するAPDよりも長いことを発見した。なお、キャリアが増倍層を走行してイオン化するまでの距離は、デッドスペースと呼ばれる。
【0108】
デッドスペースの長さ(以下、デッドスペース長と呼ぶ。)は、電子に比べて正孔の方が長いため、通常のバルク結晶からなるInAlAsランダムアロイ構造の場合は、増倍層の層厚を数10nmのレベルまで薄層化していくと、正孔がイオン化できないためイオン化率比kは低下する。しかしながら、増倍層の層厚を数10nmのレベルまで薄層化した場合に、所望の増倍率を得るためには、増倍層により高い電界を印加する必要があるため、トンネル電流などのリーク電流が増加するという新たな問題が発生する。つまり、トンネル電流が増加すると、APDで発生する雑音が増大してしまう。一方、発明者らの解析では、デジタルアロイ構造では、ランダムアロイ構造に比べて特異にデッドスペースが大きいため、層厚が100nm以上の増倍層であっても、イオン化率比k=0となることを発見した。
【0109】
つまり、APDの増倍層をデジタルアロイ構造で構成することにより、トンネル電流を抑制しつつイオン化率比k=0とすることが可能であることを、発明者らは初めて見出した。具体的には、本開示のデジタルアロイ構造からなる増倍層では、170nm以下の層厚でイオン化率比kが急激に低下し、特に、増倍層の層厚が60以上130nm以下の範囲でデッドスペース効果が劇的に良くなることを見出した。つまり、ランダムアロイ構造からなる増倍層または層厚の厚いデジタルアロイ構造からなる増倍層では実現が不可能であったイオン化率比k=0を、本開示のデジタルアロイ構造からなる増倍層を適用することにより、実現できることを発明者らは実証した。デジタルアロイ構造増倍層を有するAPDの増倍層の薄層化が、従来材料によるAPDの増倍層の薄層化よりもイオン化率比kの低減効果が高いことは、現時点で、いずれの研究機関からも報告されていない。
【0110】
実施の形態2の変形例に係る半導体受光素子の一例である表面入射型APD、及び他の一例である端面入射型APDについて、以下に説明する。
実施の形態2の変形例に係る半導体受光素子は、実施の形態2に係る半導体受光素子のi型InAlAs増倍層13、つまりランダムアロイ構造のi型InAlAs増倍層を、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層に置き換えた点が構造的に異なる。
【0111】
i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の構造の一例として、i型AlAs層(一例として層厚が2原子層、約0.6nm)と、i型InAs層(一例として層厚が2原子層、約0.6nm)とを交互に複数回積層したデジタルアロイ構造が挙げられる。
【0112】
i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層厚は、40nm以上1000nm以下の範囲内である。しかしながら、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層におけるデッドスペース効果を増大させるために、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層厚を、40nm以上170nm以下の範囲としても良い。さらに、半導体受光素子100の作製時の層厚の典型的なばらつきの度合いである20%を考慮すると、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層厚は、50nm以上140nm以下の範囲がより好適である。
【0113】
<実施の形態2の変形例に係る半導体受光素子(APD)の作用>
実施の形態2の変形例に係る半導体受光素子の一例であるAPDの作用について、以下に説明する。
実施の形態2の変形例に係るAPDのように、デジタルアロイ構造増倍層を用いると、デッドスペース効果、つまりイオン化率比kの低減効果が強化されることを、発明者らは見出した。図8は、InAlAs増倍層における電子のデッドスペースの電界依存性を表す図である。発明者らは、デジタルアロイ構造増倍層における電子の増倍特性を解析した結果、図8のグラフに示すように、従来のInAlAsランダムアロイ構造増倍層よりも、本開示のInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の方が、デッドスペースが長くなることを明らかにした。
【0114】
図9Aから図9Cは電子及び正孔のイオン化率をそれぞれ表す図であり、図9Aは電子のイオン化の場合、図9Bは正孔のイオン化の場合、図9Cは増倍層を薄層化した場合のイオン化率をそれぞれ表す図である。従来のInAlAsランダムアロイ構造増倍層では、図8のグラフに示すように、デッドスペース長は約45nmであるため、増倍層の層厚はデッドスペースの約1.5倍(約70nm)まで薄層化する必要がある。しかしながら、増倍層を70nmまで薄層化すると増倍層の電界が高くなり、トンネル電流の急激な増加にともない雑音が増加して、良好な受信感度のAPDを得ることは困難である。
【0115】
一方、実施の形態2の変形例に係るAPDのInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層では、図8のグラフに示すように、印加電界の逆数が1.47×10-6cm/Vである場合は、デッドスペース長は約85nmであるため、増倍層の層厚はデッドスペースの約1.5倍(約130nm)の層厚であってもイオン化率比kをゼロに近づけることが可能であることから、実施の形態2の変形例に係るAPDではトンネル電流の影響は小さい。
【0116】
また、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層では、デッドスペースの印加電界依存性が大きい。たとえば、印加電界の逆数が1.27×10-6cm/Vの場合は、図8のグラフに示すように、デッドスペース長は約50nmであるため、増倍層を75nmまで薄層化する必要がある。つまり、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層厚は、InAlAsランダムアロイ構造増倍層の層厚よりも厚くすることが可能である。
【0117】
図10は、イオン化率比及びトンネル電流の増倍層の層厚依存性を表す図である。発明者らは、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層とInAlAsランダムアロイ構造増倍層を有するAPDをそれぞれ作製してイオン化率比kを測定し、さらに、図10中に記載した文献1及び2の測定結果と合わせて図10中にプロットした。なお、図10中の文献1及び2は、下記のとおりである。
【0118】
(1)文献1
Yuan Yuan,et al “Temperature dependence of the ionization coefficients of InAlAs and AlGaAs digital alloys”pp.794,Vol.6,No.8/August 2018/Photonics Research
(2)文献2
Wenyang Wang,et al “Characteristics of thin InAlAs digital alloy avalanche photodiodes” pp.3841,Vol.46,No.16/15 August 2021/Optics Letters
【0119】
図10に示すように、InAlAsランダムアロイ構造増倍層では、増倍層の層厚を80nm以下にしないとデッドスペースによるイオン化率比kの低減効果が発現しない。一方、増倍層の層厚を80nmよりも薄層化すると、トンネル電流が急激に増加してトンネルブレークダウンが発生してしまう。増倍層の層厚が60nm付近で、イオン化率比kの低減とトンネル電流の制限がかろうじて両立するが、層厚のマージンは数nmほどしかなく、安定してAPDを製造することは極めて困難である。また、イオン化率比kも0.12と大きい。つまり、従来のInAlAsランダムアロイ構造増倍層では、薄層化によるイオン化率比kの低減効果をAPDに適用することは困難である。
【0120】
一方、本開示のInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層では、発明者らが発見したようにデッドスペースが大きいために、図10に示すように、増倍層を薄層化していくと170nmの層厚からイオン化率比kが0.1以下へ低下を始める。ここで、イオン化率比kは増倍雑音の測定値から求められ、増倍率1~10の範囲でのイオン化率比の最小値である。イオン化率比kが同じ場合は、InAlAsランダムアロイ構造増倍層の場合と比べて、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層厚は2倍以上となる。
【0121】
図10のグラフに示すように、pn接合径が20μmのAPDにおいて、トンネル電流が1μAとなる増倍層の層厚として40nmを下限とすると、40nm以上170nm以下の範囲の層厚がInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の場合の最適な範囲となるが、かかる範囲内の層厚は十分に再現性良く作製可能である。
【0122】
デッドスペース効果によりイオン化率比kの低減効果が十分に得られるInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層厚は、印加電界の逆数が1.47×10-6cm/Vである場合、デッドスペース長の約2倍と考えられるため、図10に示すように、デッドスペース長が85nmであることを鑑みると、デッドスペース長の2倍である170nmがInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層厚の上限として好適な値である。
【0123】
また、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層においてイオン化率比kを0.05以下に制御するためには、図8のグラフより、増倍層の層厚は150nm以下が好適である。さらに、トンネル電流が1μA以下で、かつイオン化率比kがほぼゼロを満たすためには、増倍層の層厚として、60nm以上130nm以下の範囲が最適である。APDの作製時のマージンを10nmとする場合は、増倍層の層厚は70nm以上120nm以下の範囲に設定すると好適である。
【0124】
また、デッドスペースの長さとしては、図8より50nm~90nmが好適である。増倍層の層厚に対するデッドスペースの長さの比率は、デッドスペース長の最小値50nmを増倍層の層厚の最大値170nmで割った値、つまり29%以上が好適である。割合が増加するほどイオン化率比kが小さくなるが、100%を超えることはできない。イオン化率比kが100%を超えると増倍が生じなくなるためである。したがって、増倍層の層厚に対するデッドスペースの長さの比率は、29%以上100%未満が原理的に好適である。さらに、今回の試作では増倍層厚が120nmであったので、42%(=50nm/120nm)から75%(=90nm/120nm)が実験的に確かめられた最適範囲である。
【0125】
発明者らは、従来のInAlAsランダムアロイ構造増倍層ではイオン化率比k=0が達成できなかったが、本開示のInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層においてイオン化率比k=0を達成できた理由を考察した。
【0126】
電子のデッドスペース長をDeと、ホールのデッドスペース長をDhとすると、イオン化率比k=0を達成できる条件は、以下の式(6)及び式(7)で表される。なお、式(6)がデッドスペース長の差の条件を表し、式(7)がトンネル電流の条件を表している。

Dhe=Dh―De>0 (6)

Dh>Tmin (7)
【0127】
ここで、Dheはホールと電子のデッドスペース長の差である。Tminは、トンネル電流が雑音に影響しないレベルまで十分に小さくなる増倍層の最小層厚であり、増倍層を厚くしていくほどトンネル電流は低減する。デッドスペース長の差の条件は、図9Cに示すように、増倍層の層厚が正孔のデッドスペース長以下になると、正孔が増倍しなくなりイオン化率比k=0となることから、上述の式(7)のように設定されている。
【0128】
InAlAsランダムアロイ構造増倍層の場合は、図8及び図10から、増倍層を薄層化していくとイオン化率比kが低下し始める値は、Deは約40nm、Dhは約80nmである。pn接合径が直径20μmでありトンネル電流を100nA以下とする場合は最小層厚Tmin=90nmであることから、InAlAsランダムアロイ構造はトンネル電流の条件を満たさないので、イオン化率比k=0を達成することは不可能である。
【0129】
一方、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の場合は、増倍層を薄層化していくとイオン化率比kが低下し始める値は、Deは約80nm、Dhは約170nmであり、pn接合径が直径20μmでトンネル電流を100nA以下とする場合は最小層厚Tmin=90nmであるため、イオン化率比k=0の条件を満たす増倍層の層厚が存在する。なお、最小層厚Tminについては、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層とInAlAsランダムアロイ構造増倍層では、両者のバンドギャップが変わらないため同じ値となる。
【0130】
具体的には、ランダムアロイ構造の場合は、Deは約40nm、Dhは約80nmである。これに対してデジタルアロイ構造の場合は、Deは約80nm、Dhは約170nmであることを発明者らは見出した。
【0131】
InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層では、超格子を構成するInAs(格子定数=0.606nm)とAlAs(格子定数=0.566nm)との間の格子定数の差が6.55%と非常に大きい。このため、作製プロセスの途中で電界緩和層のドーパント、つまり不純物がInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層内に拡散し、増倍層内において無秩序化が発生する可能性がある。
【0132】
図11Aから図11Dは、増倍層及び電界緩和層におけるイオン化率を表す図であり、図11AはInAlAsランダムアロイ構造増倍層の場合、図11BはInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の場合、図11Cは部分的に無秩序化したInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の場合、図11Dは層厚の厚い電界緩和層とInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層を組み合わせた場合のイオン化率をそれぞれ表す図である。図11Aに示すInAlAsランダムアロイ構造増倍層に比べて、図11Bに示すInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層のデッドスペース長は長いが、電界緩和層からのドーパント拡散により、部分的に無秩序化したInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層では、図11Cに示すように、デッドスペース長が短くなってしまう。
【0133】
InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層が無秩序化の影響を避けるためには、電界緩和層の材料及びドーパントの選定とドーピング濃度が重要となる。不純物拡散方程式は、以下の式(8)で表させる。

dN/dt=D(d2N/d2x)-F (8)
【0134】
式(8)において、Nは不純物濃度、tは時間、Dは拡散定数、xは位置、Fは拡散に作用する外的な力である。電界緩和層の材料としては、InP、InAlAsランダムアロイ構造、InAs/AlAsデジタルアロイ構造などが挙げられる。また、電界緩和層のp型ドーパントとしては、Be、Znなどが挙げられる。p型ドーパントを考慮すると、Beドープのp型InP電界緩和層及びInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の組み合わせが好適である。この理由は、Beは拡散定数Dが小さい点に加えて、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層との間にポテンシャル障壁を形成するためである。なお、ポテンシャル障壁は、式(8)のFに相当する。
【0135】
電界緩和層の層厚のばらつきが発生した場合に、電界緩和量、つまり層厚とキャリア濃度の積のばらつきが増大しないように、電界緩和層のキャリア濃度として2×1018cm-3以下が好適である。InAlAsを電界緩和層の構成材料とする場合は、Znドープが最適であり、キャリア濃度としては2×1018cm-3以下が最適である。なお、2×1018cm-3よりも不純物濃度が高くなると不活性の不純物が増加し拡散が発生しやすくなることから、キャリア濃度は5×1018cm-3以下であることが必須となる。
【0136】
電界緩和量ΔEは、以下の式(9)で表される。

ΔE=W・q・N/ε (9)

電界緩和量ΔEが一定である場合は、電界緩和層のキャリア濃度を高くすると、キャリア濃度に反比例して電界緩和層の層厚を薄くする必要がある。ここで、Wは電界緩和層の層厚、qは素電荷、Nは電界緩和層のキャリア濃度、εは誘電率である。
【0137】
電界緩和層のキャリア濃度Nが5×1018cm-3程度になると、電界緩和層の層厚は10nm程度となる。増倍層への不純物拡散によるデッドスペース長の短縮を防止するために、電界緩和層のキャリア濃度は5×1018cm-3以下となるように制御する。また、電界緩和層は10nm以上の層厚が必要である。
【0138】
一方、図11Dに示すように、電界緩和層が電界緩和層のデッドスペース長の1.5倍以上に厚くなると、電界緩和層での増倍が発生する。図6に示すように、ランダムアロイ構造ではデッドスペース長は45nm以下であるため、ランダムアロイ構造電界緩和層の層厚は70nm以下とすることが必要である。一方、InAs/AlAsデジタルアロイ構造ではデッドスペース長は85nm以下であることから、デジタルアロイ電界緩和層の層厚は130nm以下とすることが必要である。
【0139】
なお、図11Aから図11Dに示す各デッドスペース長は、デッドスペース(図11A)<デッドスペース(図11D)<デッドスペース(図11C)<デッドスペース(図11B)、の関係となる。
【0140】
<実施の形態2の変形例に係る半導体受光素子(APD)の効果について>
まず、実施の形態2の変形例に係る半導体受光素子における第1の効果を、以下に定量的に説明する。
従来のAPDの3dB帯域fcは、RC時定数による帯域制限をfrc、キャリアの走行時間で制限される帯域をftr、増倍時間による帯域制限をfmとすると、以下の式(10)で表される。

fc_APD=1/((1/frc)2+(1/ftr)2+(1/fm)2)0.5 (10)
【0141】
一方、実施の形態2の変形例に係るInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層を有するAPDの3dB帯域fcは、イオン化率比kがゼロに近いため、式(3)、式(4)、及び式(5)より、RC時定数、及びキャリアの走行時間でのみ制限されるため、以下の式(11)で表すことが可能である。

fc_APD=1/((1/frc)2+(1/ftr)20.5 (11)

式(11)において、キャリアの走行時間ftrには、光吸収層を走行する時間に、増倍層を走行する時間が加わる。
【0142】
RC時定数は光吸収層の層厚及び増倍層の層厚の合計に反比例する一方、走行時間は正比例するため、式(11)は最大値を有する。すなわち、frc=ftrとなる場合に最大帯域となる。frc=ftrを代入すると、式(11)は、以下の式(12)で表される。

fc=ftr/√2 (12)
【0143】
また、走行時間で決定される3dB帯域ftrは、以下の式(13)で表される。

ftr=3.5Vav/(2πWt) (13)
【0144】
式(13)において、Vavは電子及び正孔の平均飽和走行速度、Wtは光吸収層及び増倍層の層厚の合計である。たとえば、InGaAsの場合、Vavは5.35×106cm/sとなる。また、増倍層の層厚が100nm、光吸収層の層厚が400nmとすると、Wt=500nmとなる。
【0145】
Vav=5.35×106cm/s、及びWt=500nmを式(13)に代入すると、ftr=59.6GHzとなる。さらに、算出されたftrを式(12)に代入すると、実施の形態2の変形例に係るInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層を有するAPDの3dB帯域は42.2GHzとなる。したがって、実施の形態2の変形例に係るInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層を有するAPDは、50G-PONシステムに必要な帯域37.5GHzを満たすことが可能であることが、以上の考察から判明する。なお、以下の装置、システム等の説明においては、本開示に係るInAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層、またはInAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層及びInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層を有するAPDを、本開示のDA-APDと呼ぶ。
【0146】
<実施の形態2の変形例の効果>
以上、実施の形態2の変形例に係る半導体受光素子によると、層厚が予め設定された範囲内に制御されたデジタルアロイ構造増倍層をさらに有しているので、より広い応答帯域で動作し、かつ高い受信感度を有し、信頼性が高い半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0147】
実施の形態3.
図12は、実施の形態3に係る半導体受光素子120の一例である表面入射型PDの素子構造を表す断面図である。また、図13は、実施の形態3に係る半導体受光素子120aの一例である表面入射型PDの素子構造を表す断面図である。
【0148】
<実施の形態3に係る半導体受光素子(PD)の素子構造>
図12に示される実施の形態3に係る半導体受光素子120は、n型InP基板1と、n型InP基板1上に順次形成された、キャリア濃度が1~5×1018cm-3であり層厚が0.1~1.0μmであるn型InPバッファ層2と、キャリア濃度が5×1017cm-3以下であり層厚が0.1~1.0μmであるi型InP電子走行層3と、キャリア濃度が5×1017cm-3以下であり層厚が5~50nmであるi型InAlGaAsグレーディッド層4と、キャリア濃度が1×1017cm-3以下であり層厚が50~2000nmである、i型InAs層(一例として層厚が2原子層、約0.6nm)とi型GaAs層(一例として層厚が2原子層、約0.6nm)とを交互に複数回積層したi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5と、キャリア濃度が5×1017cm-3以下であり層厚が5~50nmであるi型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6と、キャリア濃度が5×1017cm-3以下であり層厚が0.1~3.0μmであるn型InP窓層11と、n型InP窓層11の中に設けられたp型拡散領域15と、p型拡散領域15上に設けられたp型InGaAsコンタクト層8と、n型InP基板1の裏面側に形成されたn型電極31と、p型InGaAsコンタクト層8上に形成されたp型電極32と、で構成される。なお、n型InPバッファ層2は、n型半導体層とも呼ぶ。
【0149】
図13に示される実施の形態3に係る半導体受光素子120aは、基板としてFeドープ半絶縁性InP基板1aを用いる点、n型電極31aがn型InP導電層2bの表面側に形成されている点を除いては、実施の形態3に係る半導体受光素子120と同じ構成を有する。なお、裏面側の電極31bは、電流を流す目的ではないが半導体受光素子をハンダで固定するためには必要である。
【0150】
実施の形態3に係る半導体受光素子120及び120aが実施の形態1に係る半導体受光素子100及び100aと異なる点は、n型InP窓層11を構成するn型InPがアンドープ(i型)または低キャリア濃度である点、及びn型InP窓層11の中にp型拡散領域15を設けている点である。半導体受光素子120及び120aのn型InP窓層11の層厚は0.1μm以上3μm以下であり、キャリア濃度は5×1017cm-3以下である。また、n型InP窓層11は、InPの代りにInAlAs、またはInP及びInAlAsの積層構造を用いても良い。
【0151】
p型拡散領域15は、Znなどのp型ドーパントを固相または気相で部分的に選択拡散して形成されている。p型拡散領域15のキャリア濃度は5×1017cm-3以上である。p型拡散領域15の先端は、n型InP窓層11の途中までの深さ、i型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6に到達する深さ、またはi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5に到達する深さにそれぞれ位置しても良い。なお、図12及び図13に示す素子構造では、p型拡散領域15はi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5に到達する深さを有している。p型拡散領域15上にp型InGaAsコンタクト層8を設けている。
【0152】
Zn拡散をi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の途中、たとえば約0.2μmほど入る深さまで行うことで、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の一部(p型電極側)をp型層化することも可能である。Zn拡散によってp型層化された部分は、InAs/GaAsデジタルアロイ構造が無秩序化され、ランダムアロイ構造となる場合があるが、p型層化された部分は単一走行キャリア(UTC:Uni-Traveling Carrier)構造となるため、応答速度は劣化しない。なぜなら、UTC構造では、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5中のp型化した層(空乏化しないp型InGaAs)での光吸収で発生した電子・正孔対のうち、空乏層(i型のまま残ったInAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層)には高速で移動できる電子のみが供給されるため、PDの高速応答が可能となるためである。つまり、空乏化しないp型光吸収層部分はデジタルアロイ構造でなくてもよく、空乏化するi型光吸収層部分がデジタルアロイ構造であれば、高速応答性は劣化しない。ただし、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5中のp型層の層厚を厚くすると、p型層内で発生した電子が再結合してしまうため効率が低下する。なお、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5中のp型InGaAsの部分は、上述のようにZn拡散によってp型層化するのではなく、エピタキシャル結晶成長時のドーピングによって形成しても良い。
【0153】
図12に示す半導体受光素子120の一例である表面入射型PDでは裏面側にn型電極31を設けている。一方、図13に示す半導体受光素子120aの一例である表面入射型PDでは、裏面側の電極31bに加えて表面側にn型電極31aを設けている。つまり、半導体受光素子120aではFeドープ半絶縁性InP基板1a上にn型InP導電層2bを設けて、結晶成長後、n型InP導電層2bの上側の各半導体層を部分的に除去した後に、n型InP導電層2b上にn型電極31aを形成している。半導体受光素子120aは、Feドープ半絶縁性InP基板1aの代りに、p型InP基板またはn型InP基板を用いても良い。
【0154】
<実施の形態3に係る半導体受光素子(PD)の作用>
図4に示す実施の形態1に係る半導体受光素子100の一例である表面入射型PDのようなメサ型構造では、電界が印加される増倍層の側面部は外部に露出しているため劣化しやすい。特に、InAs/GaAsデジタルアロイ構造を光吸収層とする場合は、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5を構成する各層の歪みが高くなっているため、露出部分から内部側へ向かって転位欠陥及び無秩序化が発生しやすく、この結果、半導体受光素子が劣化するという不具合が発生するおそれがある。
【0155】
この結果、実施の形態1に係る半導体受光素子100及び100aのように、InAs/GaAsデジタルアロイ構造を薄層化した光吸収層の場合は、従来のInGaAsランダムアロイ構造と比較して側面部で発生する暗電流により、半導体受光素子としての寿命が短くなるおそれがある。
【0156】
一方、図12及び図13に示す半導体受光素子120及び120aのようにp型拡散領域15を設ける場合は、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5において電界が印加される部分、つまりp型拡散領域15の直下の部分が結晶層の外部に露出していないため、各層の歪みが高くなっているi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5において、劣化及び無秩序化の発生を防止できる。この結果、光吸収層として、吸収係数を高く保つことが可能となる。
【0157】
<実施の形態3の効果>
以上、実施の形態3に係る半導体受光素子によると、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5内の空乏化しないP型層部分はランダムアロイ構造になるが、上述のUTC効果により応答速度の劣化はない。一方、残りの空乏化するInAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5のi型部分、つまりp型拡散領域15の直下の部分が結晶層の外部に露出していないため無秩序化しないので、高速応答性は劣化しない。したがって、素子構造形成の際にp型拡散領域を形成するためにZn拡散を実施するにも関わらずi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の無秩序化を防止できるので、広い応答帯域で動作し、かつ高い受信感度を有し、信頼性が高い半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0158】
実施の形態4.
図14は、実施の形態4に係る半導体受光素子130の一例である表面入射型APDの素子構造を表す断面図である。また、図15は、実施の形態4に係る半導体受光素子130aの一例である表面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【0159】
<実施の形態4に係る半導体受光素子(APD)の素子構造>
実施の形態4に係る半導体受光素子130は、n型InP基板1と、n型InP基板1上に順次形成された、キャリア濃度が1~5×1018cm-3であり層厚が0.1~1.0μmであるn型InAlAsバッファ層2aと、キャリア濃度が1×1017cm-3以下であり層厚が50~500nmであるi型InAlAs増倍層13と、キャリア濃度が1×1016~5×1018cm-3であり層厚が10~70nmであるp型InP電界緩和層14と、キャリア濃度が1×1017cm-3以下であり層厚が50~2000nmである、i型InAs層(一例として層厚が2原子層、約0.6nm)とi型GaAs層(一例として層厚が2原子層、約0.6nm)とを交互に複数回積層したi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5と、キャリア濃度が5×1017cm-3以下であり層厚が5~50nmであるi型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6と、キャリア濃度が5×1017cm-3以下であり層厚が0.1~3.0μmであるn型InP窓層11と、n型InP窓層11の中に設けられたp型拡散領域15と、p型拡散領域15上に設けられたp型InGaAsコンタクト層8と、n型InP基板1の裏面側に形成されたn型電極31と、p型InGaAsコンタクト層8上に形成されたp型電極32と、で構成される。なお、n型InAlAsバッファ層2aは、n型半導体層とも呼ぶ。
【0160】
図15に示される実施の形態4に係る半導体受光素子130aは、基板としてFeドープ半絶縁性InP基板1aを用いる点、n型電極31aがn型InP導電層2bの表面側に形成されている点を除いては、実施の形態4に係る半導体受光素子130と同じ構成を有する。なお、裏面側の電極31bは、電流を流す目的ではないが半導体受光素子をハンダで固定するためには必要である。
【0161】
実施の形態4に係る半導体受光素子130及び130aと、実施の形態2に係る半導体受光素子110及び110aが異なる点は、n型InP窓層11を構成するn型InPがアンドープ(i型)または低キャリア濃度である点、及びn型InP窓層11の中にp型拡散領域15を設けている点である。半導体受光素子120及び130のn型InP窓層11の層厚は0.1μm以上3μm以下であり、キャリア濃度は5×1017cm-3以下である。また、n型InP窓層11は、InPの代りにInAlAs、またはInP及びInAlAsの積層構造を用いても良い。
【0162】
p型拡散領域15は、Znなどのp型ドーパントを固相または気相で部分的に選択拡散して形成されている。p型拡散領域15のキャリア濃度は5×1017cm-3以上である。p型拡散領域15の先端は、n型InP窓層11の途中までの深さ、i型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6に到達する深さ、またはi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5に到達する深さにそれぞれ位置しても良い。なお、図14及び図15に示す素子構造では、p型拡散領域15はi型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6に到達する深さを有している。p型拡散領域15上にp型InGaAsコンタクト層8を設けている。
【0163】
図14に示す半導体受光素子130の一例である表面入射型APDでは裏面側にn型電極31を設けている。一方、図15に示す半導体受光素子130aの一例である表面入射型APDでは、裏面側の電極31bに加えて表面側にn型電極31aを設けている。つまり、半導体受光素子130aではFeドープ半絶縁性InP基板1a上にn型InP導電層2bを設けて、結晶成長後、n型InP導電層2bの上側の各半導体層を部分的に除去した後に、n型InP導電層2b上にn型電極31aを形成している。半導体受光素子130aでは、Feドープ半絶縁性InP基板1aの代りに、p型InP基板またはn型InP基板を用いても良い。
【0164】
<実施の形態4に係る半導体受光素子(APD)の作用>
図6に示される実施の形態2に係る半導体受光素子110の一例である表面入射型APDのようなメサ型構造では、電界が印加される増倍層の側面部は外部に露出しているため劣化しやすい。特に、InAs/GaAsデジタルアロイ構造を光吸収層とする場合は、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の各層の歪みが高くなっているため、露出部分から内部側へ向かって転位欠陥及び無秩序化が発生しやすく、この結果、半導体受光素子が劣化するという不具合が発生するおそれがある。
【0165】
この結果、実施の形態2に係る半導体受光素子110及び110aのように、InAs/GaAsデジタルアロイ構造を薄層化した光吸収層の場合は、従来のInGaAsランダムアロイ構造と比較して側面部で発生する暗電流により、半導体受光素子としての寿命が短くなるおそれがある。
【0166】
一方、図14及び図15に示す半導体受光素子130及び130aのようにp型拡散領域15を設ける場合は、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5において電界が印加される部分、つまりp型拡散領域15の直下の部分が結晶層の外部に露出していないため、各層の歪みが高くなっているi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5において、劣化及び無秩序化の発生を防止できる。この結果、光吸収層として、吸収係数を高く保つことが可能となる。
【0167】
<実施の形態4の効果>
以上、実施の形態4に係る半導体受光素子によると、素子構造形成の際にp型拡散領域を形成するためにZn拡散を実施するにも関わらず、InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層及びInAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層の無秩序化を防止できるので、広い応答帯域で動作し、かつ高い受信感度を有し、信頼性が高い半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0168】
実施の形態4の変形例.
実施の形態4の変形例に係る半導体受光素子の一例である表面入射型APDについて、以下に説明する。
【0169】
実施の形態4の変形例に係る半導体受光素子は、実施の形態4に係る半導体受光素子130及び130aの一例である表面入射型APDにおけるi型InAlAs増倍層13、つまりランダムアロイ構造のi型InAlAs増倍層を、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層に置き換えた点が構造的に異なる。
【0170】
i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層構成及び層厚に関しては、実施の形態2の変形例に係る半導体受光素子のi型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層構成及び層厚と同様であるので、説明を省略する。
【0171】
<実施の形態4の変形例に係る半導体受光素子(APD)の作用>
実施の形態4の変形例に係る半導体受光素子では、p型拡散領域15を形成する際の拡散工程においてZnを拡散するために高温の熱処理を実施しても、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の無秩序化を防止できるので、たとえば図11Cに示すようにデッドスペース長は短くならずに、図11Bに示すようなデッドスペース長が長い状態を保持することが可能となる。この結果、製造工程においてZn拡散を実施するにも関わらず、イオン化率比kをほぼゼロに保つことが可能となる。
【0172】
<実施の形態4の変形例の効果>
以上、実施の形態4の変形例に係る半導体受光素子によると、層厚が予め設定された範囲内に制御されたデジタルアロイ構造増倍層をさらに有しているので、より広い応答帯域で動作し、かつ高い受信感度を有し、信頼性が高い半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0173】
実施の形態5.
図16は、実施の形態5に係る半導体受光素子140の一例である表面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【0174】
<実施の形態5に係る半導体受光素子(APD)の素子構造>
実施の形態5に係る半導体受光素子140の一例である表面入射型APDは、実施の形態4に係る半導体受光素子130の一例である表面入射型APDの素子構造に、さらに、n型InP窓層11の中に形成したp型拡散領域15の外周部分に沿って分離溝17を設けている点に特徴がある。
【0175】
分離溝17の深さは、2μm以上5μm以下の範囲内が好適である。また、分離溝17の開口幅は、0.5μm以上100μm以下の範囲内が好適である。分離溝17の底部は、少なくともi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5にまで到達している。なお、図16では、分離溝17の底部がn型InAlAsバッファ層2aの途中にまで到達している一例を示している。分離溝17の形成方法としては、ドライエッチング及びウエットエッチングのいずれでも良い。しかしながら、深さ制御に優れたドライエッチングの後に、ドライエッチングによって発生したダメージ層を除去するためにウエットエッチングを追加する方法が好適である。
【0176】
分離溝17の内部及びn型InP窓層11の表面は、SiNまたはSiO2などの酸化膜からなる絶縁膜で構成された表面保護膜18によって保護されている。表面保護膜18は、受光部の無反射コーティングも兼ねている。表面保護膜18の膜厚として、50nm以上5000nm以下の範囲内が好適である。また、表面保護膜18は、ベンゾシクロブテン(Benzocyclobutene:BCB)などの有機膜であっても良い。
【0177】
<実施の形態5に係る半導体受光素子(APD)の作用>
光吸収層をInAs/GaAsデジタルアロイ構造とする場合は、InAs/GaAsデジタルアロイ構造の各層の歪みが高くなっているため、外部から応力が加わるとInAs/GaAsデジタルアロイ構造の無秩序化が発生しやすい。そこで、実施の形態5に係る半導体受光素子140のように、p型拡散領域15の外周部分に沿って分離溝17を設けることで、製造工程の過程でのウエハ全体におよぶ応力が緩和できる。また、個々の半導体受光素子140の状態になっても、分離溝17の存在によって応力が緩和されるため、半導体受光素子140の中央の受光部での応力集中が緩和できる。さらに、分離溝17ではi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5が露出するため、上述の表面保護膜18が分離溝17の表面を覆っていることが望ましい。なお、分離溝17には高電界が印加されないため、劣化の起点とはならない。
【0178】
図16に示される半導体受光素子140のようにp型拡散領域15を設ける場合は、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5において電界が印加される部分、つまりp型拡散領域15の直下の部分が結晶層の外部に露出していないため、各層の歪みが高くなっているi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5において、劣化の発生を防止できるという効果を奏する。
【0179】
さらに、半導体受光素子140の動作時も分離溝17によって応力が緩和されているため、半導体受光素子140を長期間使用しても無秩序化が発生しない。つまり、実施の形態5の半導体受光素子140では、長期間にわたって広帯域で動作し、低雑音を保持することが可能となるという高信頼性を実現できる。
【0180】
<実施の形態5の効果>
以上、実施の形態5に係る半導体受光素子によると、素子構造形成の際にp型拡散領域15を形成するためZn拡散を実施するにも関わらずInAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層の無秩序化を防止でき、さらに分離溝の存在によって応力を緩和できるため、広い応答帯域で動作し、かつ高い受信感度を有し、より信頼性が高い半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0181】
実施の形態5の変形例.
実施の形態5の変形例に係る半導体受光素子の一例である表面入射型APDについて、以下に説明する。
【0182】
実施の形態5の変形例に係る半導体受光素子は、実施の形態5に係る半導体受光素子140の一例である表面入射型APDにおけるi型InAlAs増倍層13、つまりランダムアロイ構造のi型InAlAs増倍層を、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層に置き換えた点が構造的に異なる。
【0183】
i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層構成及び層厚に関しては、実施の形態2の変形例に係る半導体受光素子のi型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層構成及び層厚と同様であるので、説明を省略する。
【0184】
<実施の形態5の変形例に係る半導体受光素子(APD)の作用>
実施の形態5の変形例に係る半導体受光素子では、p型拡散領域15を形成する際の拡散工程においてZnを拡散するために高温の熱処理を実施しても、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の無秩序化を防止できるので、例えば図11Cに示すようにデッドスペース長は短くならずに、図11Bに示すようなデッドスペース長が長い状態を保持することが可能となる。この結果、製造工程においてZn拡散を実施するにも関わらず、イオン化率比kをほぼゼロに保つことが可能となる。
【0185】
<実施の形態5の変形例の効果>
以上、実施の形態5の変形例に係る半導体受光素子によると、層厚が予め設定された範囲内に制御されたデジタルアロイ構造増倍層を有し、素子構造形成の際にp型拡散領域を形成するためのZn拡散を実施するにも関わらず、InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層及びInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の無秩序化を防止でき、さらに分離溝の存在によって応力を緩和できるため、広い応答帯域で動作し、かつ高い受信感度を有し、より信頼性が高い半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0186】
実施の形態6.
図17は、実施の形態6に係る半導体受光素子140aの一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【0187】
<実施の形態6に係る半導体受光素子(APD)の素子構造>
実施の形態5に係る半導体受光素子140の一例である表面入射型APDが表面側から光を受光するのに対して、実施の形態6に係る半導体受光素子140aの一例である裏面入射型APDは、裏面側のn型電極31cの一部を除去して開口部33を設け、開口部33を覆うように形成された無反射コーティング膜35を介してn型InP基板1に光を入射する素子構造を有する点に特徴がある。つまり、p型電極32と相対するn型InP基板1の裏面に、入射光90の入射領域である無反射コーティング膜35に覆われた開口部33が設けられている。また、p型InGaAsコンタクト層8の中央部を部分的に除去し、露出したp型拡散領域15上にSiNまたはSiO2などの酸化膜からなる絶縁膜で構成された表面保護膜18を形成し、さらにp型電極32で覆うことにより、p型電極32からの光の反射率を高めている。
【0188】
また、半導体受光素子140aのような裏面入射型APDの方が、半導体受光素子140のような表面入射型APDよりもp型拡散領域15の面積を小さく形成できるため、p型拡散時に発生する応力をさらに小さくすることが可能となるので、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の無秩序化のさらなる防止が図られる。この結果、素子構造形成の際にZn拡散を実施するにも関わらずi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の無秩序化を防止できる。この結果、光吸収層として、吸収係数を高く保つことが可能となる。さらに、分離溝17によって応力を小さくできるため、信頼性が高く、かつ広い応答帯域で動作し、低雑音特性に優れた半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0189】
<実施の形態6の効果>
以上、実施の形態6に係る半導体受光素子によると、素子構造を裏面入射型APDとしたため、表面入射型APDよりもp型拡散領域の面積を小さく形成でき、分離溝によって応力をさらに緩和できるため、信頼性が高く、かつ広い応答帯域で動作し、低雑音特性に優れた半導体受光素子が得られるという効果を奏する。また、上述したように、p型電極32からの光の反射率を高めているため、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5で吸収されずに透過した光は、p型電極32で反射されて再びi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5へ戻るため、受光感度が高くなる。この結果、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5を薄層化できるため、電子及び正孔の走行時間を短縮できるので、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5と組み合わせることにより、さらなる応答帯域の広帯域化が可能となる半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0190】
実施の形態6の変形例.
実施の形態6の変形例に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDについて、以下に説明する。
【0191】
実施の形態6の変形例に係る半導体受光素子は、実施の形態6に係る半導体受光素子140の一例である裏面入射型APDにおけるi型InAlAs増倍層13、つまりランダムアロイ構造のi型InAlAs増倍層を、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層に置き換えた点が構造的に異なる。
【0192】
i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層構成及び層厚に関しては、実施の形態2の変形例に係る半導体受光素子のi型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層構成及び層厚と同様であるので、説明を省略する。
【0193】
<実施の形態6の変形例に係る半導体受光素子(APD)の作用>
実施の形態6の変形例に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDは、実施の形態5の変形例に係る半導体受光素子と同様、p型拡散領域15を形成する際の拡散工程においてZnを拡散するために高温の熱処理を実施しても、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の無秩序化を防止できるので、たとえば図11Cに示すようにデッドスペース長は短くならずに、図11Bに示すようなデッドスペース長が長い状態を保持することが可能となる。
【0194】
<実施の形態6の変形例の効果>
以上、実施の形態6の変形例に係る半導体受光素子によると、素子構造を裏面入射型APDとしたため表面入射型APDよりもp型拡散領域の面積を小さく形成でき、また、層厚が予め設定された範囲内に制御されたデジタルアロイ構造増倍層を有し、素子構造形成の際にp型拡散領域を形成するためのZn拡散を実施するにも関わらずInAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層及びInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の無秩序化を防止でき、さらに分離溝の存在によって応力を緩和できるため、広い応答帯域で動作し、かつ高い受信感度を有し、より信頼性が高い半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0195】
実施の形態7.
図18は、実施の形態7に係る半導体受光素子150の一例である表面入射型PDの素子構造を表す断面図である。また、図19は、実施の形態7に係る半導体受光素子150aの一例である表面入射型PDの素子構造を表す断面図である。
【0196】
<実施の形態7に係る半導体受光素子(PD)の素子構造>
実施の形態7に係る半導体受光素子150は、n型InP基板1からi型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6までの構成は、実施の形態1に係る半導体受光素子100と同一であるので、説明を省略する。
【0197】
図18に示される実施の形態7に係る半導体受光素子150は、n型InP基板1からi型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6までの構成と、層厚が0.1~3.0μmであるn型InP窓層11と、p型InAlAs導電層25と、p型InGaAsコンタクト層8と、n型InP基板1の裏面側に形成されたn型電極31と、p型InGaAsコンタクト層8上に形成されたp型電極32と、で構成される。
【0198】
図19に示される実施の形態7に係る半導体受光素子150aは、基板としてFeドープ半絶縁性InP基板1aを用いる点、n型電極31aがn型InP導電層2bの表面側に形成されている点を除いては、実施の形態7に係る半導体受光素子150と同じ構成を有する。なお、裏面側の電極31bは、電流を流す目的ではないが半導体受光素子をハンダで固定するためには必要である。
【0199】
実施の形態7に係る半導体受光素子150、150aが実施の形態1に係る半導体受光素子100と異なる点は、半導体受光素子150、150aではn型InP窓層11上に形成されたp型InAlAs導電層25をメサ型に形成し、p型InAlAs導電層25上にp型InGaAsコンタクト層8及びp型電極32を設けた点にある。n型InP窓層11は50nm以上の層厚があれば良いが、キャリアの走行時間を長くしないためには200nm以下の層厚が望ましい。また、n型InP窓層11の導電型は、n型の代りにアンドープでも良い。n型の場合のキャリア濃度は、5.0×1017cm-3以下が望ましい。
【0200】
実施の形態7に係る半導体受光素子150、150aの製造方法として、n型InP窓層11上にp型InAlAs導電層25をMOVPEまたはMBEなどにより結晶成長し、さらに、p型InGaAsコンタクト層8を結晶成長した後に、受光部の部分を残して、p型InAlAs導電層25を除去する点が特徴的である。
【0201】
p型InAlAs導電層25の層厚は、100nm以上3000nm以下が望ましい。p型InAlAs導電層25のキャリア濃度は、素子抵抗を低減するために高キャリア濃度、つまり5.0×1017cm-3以上であることが望ましい。p型InAlAs導電層25は、p型InAlAsの代りに、p型InP、p型InGaAs、p型InGaAsP、またはp型InAlGaAsの積層構造などでも良い。
【0202】
また、図18に示す半導体受光素子150が裏面側にn型電極31が設けられているのに対して、図19に示す半導体受光素子150aでは裏面側の電極31bに加えて表面側にn型電極31aを設けている。つまり、半導体受光素子150aでは、Feドープ半絶縁性InP基板1a上にn型InP導電層2bを設けて、結晶成長後、n型InP導電層2bの上側の各層を部分的に除去した後に、n型InP導電層2b上にn型電極31aを形成している。Feドープ半絶縁性InP基板1aの代りに、p型InP基板、n型InP基板を用いても良い。
【0203】
<実施の形態7に係る半導体受光素子(PD)の作用>
実施の形態7に係る半導体受光素子150、150aの作用について、以下に説明する。
電圧を印加するp型InAlAs導電層25を形成する際は、図12に示す実施の形態3に係る半導体受光素子120に比べて、400℃以上の高温となる熱処理をともなうp型拡散工程を経ないことから、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の無秩序化を防止できる。このため、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5内において、吸収係数を高く保つことが可能となる。一方、実施の形態3と同様に、高電界が印加される受光部直下の光吸収層は素子の側面部から離れているため、半導体受光素子として高い信頼性が得られる。したがって、半導体受光素子の高受光感度と高信頼性の両立が可能となる。すなわち、信頼性に優れた半導体受光素子、つまりPDが得られる。
【0204】
<実施の形態7の効果>
以上、実施の形態7に係る半導体受光素子によると、実施の形態3に係る半導体受光素子と同様、光吸収層は素子の側面部から離れているため、信頼性が高く、かつ広い応答帯域で動作する半導体受光素子が得られる。
【0205】
実施の形態8.
図20は、実施の形態8に係る半導体受光素子160の一例である表面入射型APDの素子構造を表す断面図である。また、図21は、実施の形態8に係る半導体受光素子160aの一例である表面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【0206】
<実施の形態8に係る半導体受光素子(APD)の素子構造>
実施の形態8に係る半導体受光素子160は、n型InP基板1からi型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6までの構成は、実施の形態2に係る半導体受光素子110と同一であるので説明を省略する。
【0207】
図20に示される実施の形態8に係る半導体受光素子160は、n型InP基板1からi型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6までの構成と、層厚が0.1~3.0μmであるn型InP窓層11と、p型InAlAs導電層25と、p型InGaAsコンタクト層8と、n型InP基板1の裏面側に形成されたn型電極31と、p型InGaAsコンタクト層8上に形成されたp型電極32と、で構成される。
【0208】
図21に示される実施の形態8に係る半導体受光素子160aは、基板としてFeドープ半絶縁性InP基板1aを用いる点、n型電極31aがn型InP導電層2bの表面側に形成されている点を除いては、実施の形態8に係る半導体受光素子160と同じ構成を有する。なお、裏面側の電極31bは、電流を流す目的ではないが半導体受光素子をハンダで固定するために必要である。
【0209】
実施の形態8に係る半導体受光素子160、160aが実施の形態2に係る半導体受光素子110と異なる点は、半導体受光素子160、160aではn型InP窓層11上に形成されたp型InAlAs導電層25をメサ型に形成し、p型InAlAs導電層25上にp型InGaAsコンタクト層8及びp型電極32を設けた点にある。n型InP窓層11は50nm以上の層厚があれば良いが、キャリアの走行時間を長くしないためには200nm以下の層厚が望ましい。また、n型InP窓層11の導電型は、n型の代りにアンドープでも良い。n型の場合のキャリア濃度は、5.0×1017cm-3以下が望ましい。
【0210】
実施の形態8に係る半導体受光素子160、160aの製造方法として、n型InP窓層11上にp型InAlAs導電層25をMOVPEまたはMBEなどにより結晶成長し、さらに、p型InGaAsコンタクト層8を結晶成長した後に、受光部の部分を残して、p型InAlAs導電層25を除去する点が特徴的である。
【0211】
p型InAlAs導電層25の層厚は、100nm以上3000nm以下が望ましい。p型InAlAs導電層25のキャリア濃度は、素子抵抗を低減するために高キャリア濃度、つまり5.0×1017cm-3以上であることが望ましい。p型InAlAs導電層25は、p型InAlAsの代りに、p型InP、p型InGaAs、p型InGaAsP、またはp型InAlGaAsの積層構造などでも良い。
【0212】
また、図20に示す半導体受光素子160が裏面側にn型電極31が設けられているのに対して、図21に示す半導体受光素子160aでは裏面側の電極31bに加えて表面側にn型電極31aを設けている。つまり、半導体受光素子160aでは、Feドープ半絶縁性InP基板1a上にn型InP導電層2bを設けて、結晶成長後、n型InP導電層2bの上側の各層を部分的に除去した後に、n型InP導電層2b上にn型電極31aを形成している。Feドープ半絶縁性InP基板1aの代りに、p型InP基板、n型InP基板を用いても良い。
【0213】
<実施の形態8に係る半導体受光素子(APD)の作用>
実施の形態8に係る半導体受光素子160、160aの作用について、以下に説明する。
電圧を印加するp型InAlAs導電層25を形成する際は、図14に示す実施の形態4に係る半導体受光素子130に比べて、400℃以上の高温となる熱処理をともなうp型拡散工程を経ないことから、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の無秩序化を防止できる。このため、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5内において、吸収係数を高く保つことが可能となる。一方、実施の形態4と同様に、高電界が印加される受光部直下の光吸収層は素子の側面部から離れているため、半導体受光素子として高い信頼性が得られる。したがって、高い受光感度と高信頼性の両立が可能となる半導体受光素子、つまりAPDが得られる。
【0214】
<実施の形態8の効果>
以上、実施の形態8に係る半導体受光素子によると、実施の形態4に係る半導体受光素子と同様、光吸収層は素子の側面部から離れているため、広い応答帯域で動作し、かつ高い受信感度を有し、より信頼性が高い半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0215】
実施の形態8の変形例.
実施の形態8の変形例に係る半導体受光素子の一例である表面入射型APDについて、以下に説明する。
【0216】
実施の形態8の変形例に係る半導体受光素子は、実施の形態8に係る半導体受光素子160、160aの一例である表面入射型APDにおけるi型InAlAs増倍層13、つまりランダムアロイ構造のi型InAlAs増倍層を、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層に置き換えた点が構造的に異なる。
【0217】
i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層構成及び層厚に関しては、実施の形態2の変形例に係る半導体受光素子のi型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層構成及び層厚と同様であるので、説明を省略する。
【0218】
<実施の形態8の変形例に係る半導体受光素子(APD)の作用>
実施の形態8の変形例に係る半導体受光素子の一例である表面入射型APDは、実施の形態2の変形例に係る半導体受光素子と同様に、例えば図11Cに示すようにデッドスペース長は短くならずに、図11Bに示すようなデッドスペース長が長い状態を保持することが可能となる。
【0219】
<実施の形態8の変形例の効果>
以上、実施の形態8の変形例に係る半導体受光素子によると、また、層厚が予め設定された範囲内に制御されたデジタルアロイ構造増倍層を有するので、より信頼性が高く、かつ広い応答帯域で動作し、高い受信感度を有する半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0220】
実施の形態9.
図22は、実施の形態9に係る半導体受光素子170の一例である表面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【0221】
<実施の形態9に係る半導体受光素子(APD)の素子構造>
実施の形態9に係る半導体受光素子170の一例である表面入射型APDは、実施の形態8に係る半導体受光素子160の一例である表面入射型APDの素子構造に、さらに、p型InAlAs導電層25の外周部分に沿って分離溝17を設けている点に特徴がある。
【0222】
分離溝17の深さは、2μm以上5μm以下の範囲内が好適である。また、分離溝17の開口幅は、0.5μm以上100μm以下の範囲内が好適である。分離溝17の底部は、少なくともi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5にまで到達している。なお、図22では、分離溝17の底部がn型InAlAsバッファ層2aの途中にまで到達している一例を示している。分離溝17の形成方法としては、ドライエッチング及びウエットエッチングのいずれでも良い。しかしながら、深さ制御に優れたドライエッチングの後に、ドライエッチングによって発生したダメージ層を除去するためにウエットエッチングを追加する方法が好適である。
【0223】
分離溝17の内部及びn型InP窓層11の表面は、SiNまたはSiO2などの酸化膜からなる絶縁膜で構成された表面保護膜18によって保護されている。表面保護膜18は、受光部の無反射コーティングも兼ねている。表面保護膜18の膜厚として、50nm以上5000nm以下の範囲内が好適である。また、表面保護膜18は、BCBなどの有機膜であっても良い。
【0224】
<実施の形態9に係る半導体受光素子(APD)の作用>
InAs/GaAsデジタルアロイ構造を光吸収層とする場合は、InAs/GaAsデジタルアロイ構造の各層の歪みが高くなっているため、外部から応力が加わると無秩序化が発生しやすい。そこで、実施の形態9に係る半導体受光素子170のように、p型InAlAs導電層25の外周に沿って分離溝17を設けることで、製造工程の過程でのウエハ全体におよぶ応力が緩和できる。また、個々の半導体受光素子170の状態になっても、分離溝17の存在によって応力が緩和されるため、半導体受光素子170の中央の受光部での応力集中が緩和できる。この結果、デジタルアロイ構造光吸収層の無秩序化を防止できるので、吸収係数を高く保つことが可能となる。また、分離溝17ではi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5が露出するため、上述の表面保護膜18が分離溝17の表面を覆っていることが望ましい。なお、分離溝17には高電界が印加されないため、劣化の起点とはならない。
【0225】
<実施の形態9の効果>
以上、実施の形態9に係る半導体受光素子によると、分離溝によって製造工程の熱処理などによる応力を緩和できるため、デジタルアロイ構造光吸収層の無秩序化を防止できるので、吸収係数を高く保つことが可能となるとともに、広い応答帯域で動作し、かつ高い受信感度を有し、より信頼性が高い半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0226】
実施の形態9の変形例.
実施の形態9の変形例に係る半導体受光素子の一例である表面入射型APDについて、以下に説明する。
【0227】
実施の形態9の変形例に係る半導体受光素子は、実施の形態9に係る半導体受光素子170の一例である表面入射型APDにおけるi型InAlAs増倍層13、つまりランダムアロイ構造のi型InAlAs増倍層を、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層に置き換えた点が構造的に異なる。
【0228】
i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層構成及び層厚に関しては、実施の形態2の変形例に係る半導体受光素子のi型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層構成及び層厚と同様であるので、説明を省略する。
【0229】
<実施の形態9の変形例に係る半導体受光素子(APD)の作用>
実施の形態9の変形例に係る半導体受光素子では、p型拡散領域15を形成する必要が無い、つまりp型拡散領域15の形成にZn拡散を実施するのに必要な高温の熱処理が無いため、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の無秩序化を防止できるので、例えば図11Cに示すようにデッドスペース長は短くならずに、図11Bに示すようなデッドスペース長が長い状態を保持することが可能となる。この結果、イオン化率比kをほぼゼロに保つことが可能となる。
【0230】
<実施の形態9の変形例の効果>
以上、実施の形態9の変形例に係る半導体受光素子によると、層厚が予め設定された範囲内に制御されたデジタルアロイ構造増倍層を有し、また、高温の熱処理が必要ないのでInAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層及びInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の無秩序化を防止でき、さらに分離溝の存在によって応力を緩和できるため、より信頼性が高く、かつ広い応答帯域で動作し、高い受信感度を有する半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0231】
実施の形態10.
図23は、実施の形態10に係る半導体受光素子170aの一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【0232】
<実施の形態10に係る半導体受光素子(APD)の素子構造>
実施の形態9に係る半導体受光素子170の一例である表面入射型APDが図22に示すように表面側から光を受光するのに対して、実施の形態10に係る半導体受光素子170aの一例である裏面入射型APDは、図23に示すように、裏面側のn型電極31cの一部を除去して開口部33を設け、開口部33を覆うように形成された無反射コーティング膜35を介してn型InP基板1に光を入射する素子構造を有する点に特徴がある。つまり、p型電極32と相対するn型InP基板1の裏面に、入射光90の入射領域である無反射コーティング膜35に覆われた開口部33が設けられている。また、p型InGaAsコンタクト層8の中央部を部分的に除去し、露出したp型InAlAs導電層25上にSiNまたはSiO2などの酸化膜からなる絶縁膜で構成された表面保護膜18を形成し、さらにp型電極32で覆うことにより、p型電極32からの光の反射率を高めている。
【0233】
実施の形態10に係る半導体受光素子170aの一例である裏面入射型APDは、実施の形態9に係る半導体受光素子170と同様、分離溝によって製造工程の熱処理などによる応力を緩和できるため、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の無秩序化を防止できる。
【0234】
また、半導体受光素子170aのような裏面入射型APDの方が表面入射型APDよりもp型InAlAs導電層25の面積を小さく形成できるため、製造工程の熱処理などによる応力をさらに小さくすることが可能となるので、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の無秩序化のさらなる防止が図られる。この結果、素子構造形成の際に熱処理工程を実施するにも関わらずi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の無秩序化を防止できるので、信頼性が高く、かつ広帯域で動作し、低雑音特性に優れた半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0235】
また、上述したように、p型電極32からの光の反射率を高めているため、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5で吸収されずに透過した光は、p型電極32で反射されて再びi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5へ戻ることで、感度が高くなる。この結果、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5を薄層化できるため、電子及び正孔の走行時間を短縮できるので、さらなる応答帯域の広帯域化が可能な半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0236】
さらに、半導体受光素子170aのような裏面入射型APDではメサ型に形成されたp型InAlAs導電層25の面積を表面入射型APDの場合よりも縮小できることから、p型InAlAs導電層25のメサ部分からの応力の影響が小さくなるため、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の無秩序化が発生しない。また、半導体受光素子170aの動作時も応力が緩和されているため、長期間を経てもi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層5の無秩序化が発生しない。この結果、光吸収層として吸収係数を高く保つことが可能となる。つまり、実施の形態10に係る半導体受光素子170aは、長期間にわたって広い応答帯域で動作し、高い受光感度を保持することが可能となる。
【0237】
<実施の形態10の効果>
以上、実施の形態10に係る半導体受光素子によると、p型導電層の面積を小さく形成できるため、熱処理工程で発生する応力をさらに小さくすることが可能となるので、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層の無秩序化のさらなる防止が図られ、分離溝によって応力をさらに小さくできるため、広い応答帯域で動作し、かつ高い受信感度を有し、信頼性が高い半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0238】
実施の形態10の変形例.
実施の形態10の変形例に係る半導体受光素子の一例である表面入射型APDについて、以下に説明する。
【0239】
実施の形態10の変形例に係る半導体受光素子は、実施の形態10に係る半導体受光素子170aの一例である表面入射型APDにおけるi型InAlAs増倍層13、つまりランダムアロイ構造のi型InAlAs増倍層を、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層に置き換えた点が構造的に異なる。
【0240】
i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層構成及び層厚に関しては、実施の形態2の変形例に係る半導体受光素子のi型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層構成及び層厚と同様であるので、説明を省略する。
【0241】
<実施の形態10の変形例に係る半導体受光素子(APD)の作用>
実施の形態10の変形例に係る半導体受光素子では、p型拡散領域15を形成する必要が無い、つまりp型拡散領域15の形成にZn拡散を実施するのに必要な高温の熱処理が無いため、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の無秩序化を防止できるので、例えば図9Cに示すようにデッドスペース長は短くならずに、図9Bに示すようなデッドスペース長が長い状態を保持することが可能となる。この結果、イオン化率比kをほぼゼロに保つことが可能となる。
【0242】
<実施の形態10の変形例の効果>
以上、実施の形態10の変形例に係る半導体受光素子によると、層厚が予め設定された範囲内に制御されたデジタルアロイ構造増倍層を有し、また、高温の熱処理が必要ないのでInAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層及びInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の無秩序化を防止でき、さらに分離溝の存在によって応力を緩和できるため、広い応答帯域で動作し、かつ高い受信感度を有し、より信頼性が高い半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0243】
実施の形態11.
図24は、実施の形態11に係る半導体受光素子180の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【0244】
<実施の形態11に係る半導体受光素子(APD)の素子構造>
実施の形態11に係る半導体受光素子180は、Feドープ半絶縁性InP基板1aと、Feドープ半絶縁性InP基板1a上に順次形成された、キャリア濃度が1~5×1018cm-3であり層厚が0.1~1μmであるp型InAlGaAsコンタクト層40と、キャリア濃度が1~5×1018cm-3であり層厚が0.1~1μmであるp型InP導電層41と、p型または低キャリア濃度(5×1017cm-3以下)のn型またはi型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層42と、キャリア濃度が1×1017cm-3以下であり層厚が50~2000nmである、i型InAs層(一例として層厚が2原子層、約0.6nm)とi型GaAs層(一例として層厚が2原子層、約0.6nm)とを交互に複数回積層したデジタルアロイ構造からなるi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層43と、キャリア濃度が1×1017cm-3~5×1018cm-3であり層厚が10~100nmであるp型InP電界緩和層44と、キャリア濃度が1×1017cm-3以下であり層厚が50~500nmであるi型InAlAs増倍層45と、層厚が10~50nmであるn型InAlAs電界調整層46と、層厚が0.1~2μmであるn型InP窓層47と、キャリア濃度が5×1017~8×1018cm-3であり層厚が0.1~2μmであるn型InAlAs導電層49と、キャリア濃度が5×1017~8×1018cm-3であり層厚が0.1~2μmであるn型InGaAsコンタクト層50と、n型InGaAsコンタクト層50上に形成されたn型電極51と、p型InAlGaAsコンタクト層40上に形成されたp型電極52と、Feドープ半絶縁性InP基板1aの裏面側に形成された金属膜53と、金属膜53の開口部33に設けられた無反射コーティング膜35と、で構成される。
【0245】
なお、p型InAlGaAsコンタクト層40及びp型InP導電層41は、p型半導体層とも呼ぶ。また、n型InGaAsコンタクト層50の中央部を部分的に除去し、露出したn型InAlAs導電層49上にSiNまたはSiO2などの酸化膜からなる絶縁膜で構成された表面保護膜18を形成し、さらにn型電極51で覆うことにより、n型電極51からの光の反射率を高めている。
【0246】
<実施の形態11に係る半導体受光素子(APD)の製造方法>
実施の形態11に係る半導体受光素子180の製造方法を、以下に説明する。
MOVPEまたはMBEを用いて、Feドープ半絶縁性InP基板1a上に、キャリア濃度が1~5×1018cm-3であるp型InAlGaAsコンタクト層40を0.1~1μmの層厚で結晶成長する。ここで、Feドープ半絶縁性InP基板1aの代りに、n型InP基板を用いても良い。また、p型InAlGaAsコンタクト層40は、p型InAlGaAsの代りに、p型InP、p型InGaAsP、またはp型InGaAsでも良い。
【0247】
p型InAlGaAsコンタクト層40上に、キャリア濃度が1~5×1018cm-3であるp型InP導電層41を0.1~1μmの層厚で結晶成長する。ここで、p型InP導電層41は、p型InPの代りに、p型InGaAsPまたはp型InAlGaAsでも良い。
【0248】
次に、p型InP導電層41の上に正孔に対する障壁の小さいi型、n型またはp型のInAlAs層を設けても良い。さらに、p型または低キャリア濃度(5×1017cm-3以下)のn型またはi型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層42を結晶成長した後、i型InGaAs光吸収層43を0.1~2μmの層厚で結晶成長する。また、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層43は、i型の代りに低キャリア濃度(5×1017cm-3以下)のn型またはp型でも良い。ここで、p型InP導電層41とn型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層42のいずれか一方、もしくは両方は必ずしも必要ではない。
【0249】
次に、キャリア濃度が1×1017~5×1018cm-3であるp型InP電界緩和層44を10~100nmの層厚で結晶成長する。p型InP電界緩和層44のp型ドーパントとしてはBe、Zn、Cなどが挙げられる。p型InP電界緩和層44は必ずしもp型InPとする必要がなく、p型InAlAsまたはp型InAs/AlAsデジタルアロイ構造でも良い。
【0250】
また、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層43とp型InP電界緩和層44との間に、InAlGaAsまたはInGaAsPなど、中間のバンドギャップ値となる10~100nmの層厚のInAlGaAs/InAlAsグレーディッド層を設けても良い。
【0251】
p型InP電界緩和層44上に、増倍層として、i型InAlAs増倍層45及びn型InAlAs電界調整層46を結晶成長する。n型InAlAs電界調整層46は、最表面のn型InP窓層47に電界が印加されすぎて暗電流が増加したり、信頼性が低下したりしないようにするために設けられる。n型InAlAs電界調整層46上に、n型InP窓層47を結晶成長する。
【0252】
i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層43は、Feドープ半絶縁性InP基板1a側からInAs層(層厚が2原子層、約0.6nm)とGaAs層(層厚が2原子層、約0.6nm)の順番で交互に積層した半導体層で構成される。i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層43を、GaAs層、InAs層の順で形成しても良い。
【0253】
i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層43の各層の原子層数は、2原子層以上4原子層以下が好適であるが、2原子層が最適である。この理由は、各層の原子層厚が薄いほどデジタルアロイ構造によるイオン化率比kの低減効果が大きくなるためである。
【0254】
i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層43の層厚は50nm~2μmの範囲内である。例えば、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層43の層厚を500nmとすると、InAs層(2原子層)/GaAs層(2原子層)の繰り返しは417回となる。図8は増倍層の場合であり、印加電界の逆数が1.47×10-6cm/Vの時にデッドスペースは80nm程度であるが、PDまたはAPDの光吸収層中の印加電界は一桁小さい。つまり、印加電界の逆数が1.47×10-5cm/V程度と考えると、概ね800nm以下の層厚で顕著にデッドスペース効果が顕在化するため、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層43の層厚として、800nm以下の範囲が最も好適である。また、1600nm以下の層厚であれば、50%以上の層厚である800nmの距離では電子の走行速度が速いため、1600nm以下の層厚の範囲でも大きなデッドスペース効果が得られる。
【0255】
i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層43の導電型としてi型が挙げられ、キャリア濃度として1×1017cm-3以下が挙げられる。しかしながら、キャリア濃度が5×1018cm-3以下であるp型またはn型であっても良い。
【0256】
n型InP窓層47上に、n型導電層としてn型InAlAs導電層49を結晶成長し、n型コンタクト層としてn型InGaAsコンタクト層50を結晶成長する。n型InAlAs導電層49とn型InGaAsコンタクト層50の層厚はそれぞれ0.1~2μm、キャリア濃度はそれぞれ5×1017cm-3~8×1018cm-3である。
【0257】
n型InGaAsコンタクト層50の結晶成長後に、n型InAlAs導電層49及びn型InGaAsコンタクト層50をメサ状にエッチングすることにより、第1メサを形成する。その後、第1メサの外側に第1メサを含むように、p型InAlGaAsコンタクト層40に達するようにエッチングして、第2メサを形成する。第2メサはp型InAlGaAsコンタクト層40に達していなくても、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層43が電気的に分離できれば良い。第1メサと第2メサとの間隔は、1μm以上離れていることが好適である。また、第2メサを先に形成した後に、第1メサを形成しても良い。
【0258】
p型電極52はp型InAlGaAsコンタクト層40上に形成し、n型電極51はn型InGaAsコンタクト層50上に形成する。なお、n型半導体の場合、オーミック抵抗がp型半導体よりも1桁小さいため、バンドギャップの小さいn型InGaAsコンタクト層50を必ずしも用いる必要がなく、n型InP、n型InAlGaAsまたはn型InGsAsPを用いても良い。あるいは、n型InAlAs導電層49に直接コンタクトを取っても良い。
以上の各工程を経て、実施の形態11に係る半導体受光素子180が完成する。
【0259】
<実施の形態11に係る半導体受光素子(APD)の作用及び効果>
実施の形態11に係る半導体受光素子180は、実施の形態10に係る半導体受光素子170aにおいてn型をp型に、p型をn型にそれぞれ導電型を反転させ、上面側の導電型をn型とした点に特徴がある。
【0260】
実施の形態11に係る半導体受光素子180の第1の作用及び効果を、以下に説明する。
エピタキシャル結晶成長中は高温で長時間保持されるため、p型InP電界緩和層44からi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層43へp型ドーパントが拡散すると、無秩序してしまうおそれがある。実施の形態11に係る半導体受光素子180では、実施の形態10に係る半導体受光素子170aと比べて、p型InP電界緩和層44の上側の半導体各層の層厚の合計が約3分の1と薄い。つまり、実施の形態11に係る半導体受光素子180において、p型InP電界緩和層44を結晶成長した後の残余の半導体各層をエピタキシャル結晶成長するために要する結晶成長時間が、実施の形態4に係る半導体受光素子130aと比べて約2分の1と短いため、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層43の無秩序化が発生しにくい。
【0261】
実施の形態11に係る半導体受光素子180の第2の作用及び効果を、以下に説明する。
半導体受光素子の上側の電極、つまり表面側の電極は、図23に示す裏面入射型APDではp型電極32、図24に示す裏面入射型APDではn型電極51である。高速化のためには表面側の電極の電極面積をより縮小して電気容量を低減する必要がある。しかしながら、上側の電極の電極面積を縮小すると、電極と半導体層との間のコンタクト抵抗が上昇するため、RC時定数が増加して応答帯域が狭くなるという問題が発生する。
【0262】
実施の形態11に係る半導体受光素子180では、上側の電極、つまりn型電極51はn型半導体とコンタクトするため、p型電極とp型半導体とのコンタクトに比べてオーミック抵抗が10分の1に低減される。このため、n型電極51の面積を小さくできるので、電極からの応力が減少しi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層43において無秩序化が発生しにくくなるという効果を奏する。なお、上述の説明では、実施の形態11に係る半導体受光素子180の一例としてAPDの場合を説明したが、PDにおいても、例えば実施の形態7に係る半導体受光素子150においてn型をp型に、p型をn型にそれぞれ導電型を反転させた素子構造としても良い。
【0263】
<実施の形態11の効果>
以上、実施の形態11に係る半導体受光素子によると、p型InP電界緩和層を結晶成長した後の残余の半導体各層をエピタキシャル結晶成長するために要する結晶成長時間が、実施の形態10に係る半導体受光素子と比べて約2分の1と短いため、InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層の無秩序化がさらに発生しにくいため、信頼性が高く、かつ広帯域で動作し、低雑音特性に優れた半導体受光素子が得られるという効果を奏する。また、上述したように、n型電極51からの光の反射率を高めているため、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層43で吸収されずに透過した光は、n型電極51で反射されて再びi型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層43へ戻ることで、受光感度が高くなる。この結果、i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層43を薄くできるため、電子及び正孔の走行時間を短縮でき、さらなる応答帯域の広帯域化が可能な半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0264】
実施の形態11の変形例.
実施の形態11の変形例に係る半導体受光素子の一例である表面入射型APD及び裏面入射型APDについて、以下に説明する。
【0265】
実施の形態11の変形例に係る半導体受光素子は、実施の形態11に係る半導体受光素子180の一例である表面入射型APD及び裏面入射型APDにおけるi型InAlAs増倍層45、つまりランダムアロイ構造のi型InAlAs増倍層を、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層に置き換えた点が構造的に異なる。
【0266】
i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層構成及び層厚に関しては、実施の形態2の変形例に係る半導体受光素子のi型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層構成及び層厚と同様であるので、説明を省略する。
【0267】
<実施の形態11の変形例に係る半導体受光素子の作用>
実施の形態11の変形例に係る半導体受光素子(APD)では、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層を結晶成長した後の残余の半導体各層をエピタキシャル結晶成長するために要する結晶成長時間が、実施の形態7に係る半導体受光素子150と比べて約3分の1と短いため、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の無秩序化が発生しにくい。
【0268】
<実施の形態11の変形例の効果>
以上、実施の形態11の変形例に係る半導体受光素子によると、層厚が予め設定された範囲内に制御されたデジタルアロイ構造増倍層を有し、また、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層を結晶成長した後の残余の半導体各層をエピタキシャル結晶成長するために要する結晶成長時間が、導電型が逆の素子構造と比べて短時間で済むため、InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層及びInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の無秩序化を防止できるため、より信頼性が高く、かつ広い応答帯域で動作し、低雑音特性に優れた半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0269】
実施の形態12.
図25は、実施の形態12に係る50G-PONシステムの光回線終端装置(OLT)260を表す構成図である。光回線終端装置260は、FEC261(Forward Error Correction:FEC)と、ドライバーアンプ262と、光源263と、WDM264(Wavelength Division Multiplexing:WDM)と、クロック・データ再生回路であるCDR265(Clock Data Recovery:CDR)と、制限アンプ266と、バーストTIA267と、本開示のDA-APD268と、を備える。なお、本開示のDA-APD268の代りに本開示のDA-PDを適用しても良い。
【0270】
なお、本開示のDA-APDとは、上述の各実施の形態で説明された、光吸収層がInAs/GaAsデジタルアロイ構造であるAPD、または光吸収層がInAs/GaAsデジタルアロイ構造及び増倍層がInAs/AlAsデジタルアロイ構造であるAPDを指す。さらに、本開示のDA-PDとは、上述の各実施の形態で説明された、光吸収層がInAs/GaAsデジタルアロイ構造であるPDを指す。
【0271】
図26は、実施の形態12に係る50G-PONシステムの光回線終端装置(ONU)を表す構成図である。光回線終端装置270は、WDM271と、光源272と、ドライバーアンプ273と、FEC274と、本開示のDA-APD275と、TIA276と、制限アンプ277と、CDR278と、を備える。
【0272】
図27は、比較例である50G-PONシステムの光回線終端装置(OLT)250aを表す構成図である。比較例である光回線終端装置250aは、前方誤り訂正回路であるFEC251(Forward Error Correction:FEC)と、ドライバーアンプ252と、光源253と、光合分波器であるWDM254(Wavelength Division Multiplexing:WDM)と、デジタル信号処理回路であるDSP255と、アナログ/デジタル変換回路であるADC256(Analog-to-Digital Converter:ADC)と、バーストTIA257(Trance Impedance Amplifier)と、従来のAPD258と、を備える。
【0273】
図27に示す比較例である50G-PONシステムの光回線終端装置250aのように、比較例である50G-PONシステムではデジタル帯域補償、つまり、DSP255が必要であった。一方、本開示のDA-APDを用いた50G-PONシステムでは、デジタル帯域補償が不要となる。すなわち、図26に示す実施の形態12に係る50G-PONシステムの光回線終端装置(ONU)のように、本開示のDA-APD、つまり、少なくともInAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層を有するAPDを用いれば、広い応答帯域と高い受信感度が可能となるため、DSP回路の簡略化及び省電力化、SOAの出力パワーの削減が可能となる。
【0274】
PONシステムの多分岐化及びSOAの省略のためには、受信機のSN比を改善し受信感度を高める必要がある。たとえば、現状よりも分岐数を増加するために、光分波器を1段追加すると半分の光量となってしまうため、SN比を最低でも3dB改善する必要がある。APDを用いた受信機のSN比は、以下の式(14)で表される。

SN比=Iph2・M2/(2q(Iph+Id)M2・F・B+4Kb・T・Ft・B/Rt) (14)
【0275】
式(14)において、IphはAPDの光電流、Mは増倍率、qは単位電荷、Idは増倍される暗電流、FはAPDの過剰雑音係数、Bは帯域、Kbはボルツマン定数、Tは絶対温度、Ftは増幅器の雑音指数、Rtは入力抵抗をそれぞれ表す。分母の左項はAPDのショット雑音を表し、分母の右項は増幅器の熱雑音を表す。
【0276】
式(14)を簡略化するために、IdはIphよりも十分に小さく、SN比が最大となる増倍率の場合に、APDのショット雑音の項と増幅器の熱雑音の項が等しいと仮定し、増幅器の熱雑音の項をAPDのショット雑音の項で置き換えると、SN比は以下の式(15)で表わされる。

SN比=Iph/(4q・F・B) (15)
【0277】
また、過剰雑音係数Fは、以下の式(16)で与えられる。

F=M(1-(1-k)・((M-1)2/M2)) (16)
【0278】
従来のInAlAsランダムアロイ構造増倍層の場合は、上述のようにトンネル電流の影響により、デッドスペース効果が発現するまでの薄層化(約70nm)が困難であるため、APDへの適用例は無い。このため、薄層化されていないInAlAs増倍層の場合のイオン化率比kを0.2に設定して、システム設計がなされている。イオン化率比k=0.2で、増倍率が12倍の場合は、過剰雑音係数F=3.9となる。
【0279】
一方、実施の形態12に係る50G-PONシステムでは、InAs/AlAsデジタルアロイ構造を増倍層とするAPD、つまり本開示のDA-APDが半導体受光素子として適用される。本開示のInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の場合は、100nm以上の層厚でもデッドスペース効果が機能するためAPDへの適用が可能であり、この場合、イオン化率比k=0となり、増倍率が12倍の場合は、過剰雑音係数F=1.9となる。したがって、従来のAPDの約半分の過剰雑音となる。この結果、本開示のDA-APDを適用すれば、SN比が3dB向上する。
【0280】
一般に、50G-PONシステムでは、分岐数を増加するために2分波器を1段挿入すると3dB損失が大きくなる。したがって、半導体受光素子として本開示のDA-APDを適用すると、50G-PONシステムに1段多く分波器を挿入することが可能となる。
【0281】
図28は、実施の形態12に係る50G-PONシステムの光回線終端装置(OLT)の構成を表す図である。50G-PONシステムの光回線終端装置260aは、FEC261と、ドライバーアンプ262と、光源263と、WDM264と、DSP265aと、ADC266aと、バーストTIA267と、本開示のDA-APD268と、を備える。なお、本開示のDA-APD268の代りに本開示のDA-PDを適用しても良い。
【0282】
図29は、実施の形態12に係る50G-PONシステムの光回線終端装置(ONU)の構成を表す図である。50G-PONシステムの光回線終端装置260bは、FEC261と、ドライバーアンプ262と、光源263と、WDM264と、DSP265aと、ADC266aと、TIA267aと、本開示のDA-APD268と、を備える。
【0283】
本開示に係る半導体受光素子による効果を、さらに説明する。
本開示のDA-APDのうちInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層を有するAPDは、増倍層の層厚を予め設定された範囲内に制御してイオン化率比kをゼロとすることにより、式(5)の増倍時間がほぼゼロとなる。この結果、増倍率を高くしてもAPDの応答帯域は劣化しない。つまり、本開示のDA-APDでは、従来のPDと同様、RC時定数及びキャリアの走行時間でのみ応答帯域が制限される。したがって、50G-PONシステムで必要となる応答帯域の広帯域化が可能となり、DSPによるデジタル帯域補償が無くとも受信することが可能となる。
【0284】
また、イオン化率比kがゼロに近くなると、受信感度を悪化させる過剰雑音が抑制されるため、SOAによる光信号の増幅が不要となる。さらに、50G-PONシステム以外のPONシステムでも、従来よりも多分岐化が可能となる。その結果、PONシステムの低コスト及び省電力化が実現できる。
【0285】
<実施の形態12の効果>
以上、実施の形態12に係る光回線終端装置によると、半導体受光素子として、本開示のDA-APDまたはDA-PDを用いたので、光信号の伝送距離が増加し、消費電力が低減できる光回線終端装置が得られるという効果を奏する。
【0286】
実施の形態13.
図30は、実施の形態13に係る多値強度変調送受信装置300の構成を表す図である。また、図31A及び図31Bは、実施の形態13に係る多値強度変調送受信装置300の受信波形を示す図である。
【0287】
多値強度変調送受信装置300は、多値の強度変調方式であるPAM(Pulse Amplitude Modulation)方式の多値強度変調送受信装置である。送信部ではDSP301において生成したデジタル信号を、DAC302aにおいてアナログ変換し、ドライバーアンプ303において増幅し、DFBレーザまたはEMLからなる光源304を駆動して、光ファイバケーブル310へ光信号を出射する。
【0288】
一方、受信部では、光ファイバケーブル310から光学系を経て本開示の半導体受光素子であるDA-APD305に入射し、光信号の電流への変換及び増倍を行い、さらに、Linear-TIA306において増幅した後に、ADC302bにおいてデジタル信号に変換して、DSP301により信号処理を行う。なお、本開示のDA-APD305の代りに、本開示のDA-PDを用いても良い。
【0289】
<実施の形態13に係る多値強度変調送受信装置の作用と効果>
PAM方式の多値強度変調送受信装置300では、NRZ(None Return to Zero)、RZ(Return to Zero)などの1と0の2値信号だけでなく、たとえば、PAM4(Pulse Amplitude Modulation-4)では、光の信号強度が異なる4値を受信する必要がある。PAM4の受信波形の一例を、図31Aに示す。PAM4での受信波形の良否の判定には、TDECQ(Transmitter Dispersion and Eye Closure Quaternary)という指標が用いられる。TDECQは、以下の式(17)によって算出される。

TDECQ(dB)=10・log(OMA/(6・Qt・R)) (17)
【0290】
式(17)において、光変調振幅(Optical Modulation Amplitude:OMA)はレベル0からレベル3までの全振幅であり、QtはIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)で規定されたSER(Symbol Error Rate)に依存する値、RはSER値にするのに必要な付加雑音値である。TDECQ(dB)は、たとえば3dB以下と規定されている。TDECQ(dB)を小さくするためには、
(1)各レベルのアイ開口が均一であること
(2)各レベルの雑音が少ないこと
が必要である。
【0291】
光の信号強度が異なる4値からなる各レベルのアイ開口が均一であるためには、半導体受光素子のリニアリティが優れている必要がある。ここで、半導体受光素子のリニアリティが良いとは、光電流Iphが光入力パワーPinに比例して増加することである。つまり、光入力パワーPinが変化しても、Iph/Pinが一定であればリニアリティが良いと言える。
【0292】
また、PAMでは、強度の小さい信号から強度の大きい信号までを受信する必要があるため、ダイナミックレンジが優れている必要がある。つまり、光入力パワーPinが大きくなっても、Iph/Pinの低下量が小さければ、ダイナミックレンジが良いと言える。図31Bの受信波形のように、リニアリティ及びダイナミックレンジが悪化すると、レベル2とレベル3の間に形成されるアイ開口が劣化する。
【0293】
PD及びAPDの場合、リニアリティが劣化する原因として、光入力の増加に伴い光電流が増加すると、増倍層及び光吸収層の中を走行する正孔及び電子が増加して、増倍層及び光吸収層の電界分布が変化することが挙げられる。かかる現象を空間電荷効果と呼ぶ。
【0294】
発明者らはAPDのリニアリティが劣化するモデルを検討した。図32A及び図32Bは、高光入力時のPDの動作を説明する図である。図32Aに示すように、光入力が増大し、光電流が増加すると、あたかも、直列抵抗による電圧降下が発生してpn接合に電圧が印加されなくなるように空間電荷効果が作用する。この電圧降下により増倍率が低下する。これは、図32Bに示すように、発生した電子及び正孔が電界分布に影響するためである。APDのリニアリティを劣化させる直列抵抗Rliは、以下の式(18)のように表される。

Rli=Rsc+Rd+Rlo (18)
【0295】
式(18)において、Rscは空間電荷効果による抵抗、Rdは素子抵抗、Rloは負荷抵抗である。Rd及び負荷抵抗は通常数10Ωであるが、Rscは数100Ω以上になる場合がある。
【0296】
光吸収により発生した電子及び正孔が空乏層内を通過する時間をTdとすると、Rscは、以下の式(19)で表されることを発明者らは見出した。

Rsc=W・Td/(2εS) (19)

式(19)において、Wは空乏層の層厚、εは誘電率、Sはpn接合面積である。
空間電荷効果による抵抗Rscは、電子及び正孔が空乏層内に通過する時間Tdに比例する。したがって、電子及び正孔の走行速度を高めてTdを低減すれば抵抗Rscを減少することが可能である。
【0297】
本開示のInAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層を少なくとも有するPD及びAPDでは、光吸収層の吸収係数が高いため、光吸収層を薄層化することが可能となり、光吸収層の薄層化によって抵抗Rscを低減できる。この結果、アイ開口が均一となるため、TDECQが規定値を満たす。さらに、伝送距離を増加させたり、送信用レーザの駆動電流を低減するといったことが可能となる。
【0298】
本開示のDA-APDの中で、光吸収層及び増倍層の両方がデジタルアロイ構造のAPDを用いた場合について、以下に説明する。
まず、高光入力時におけるAPDの動作の場合を説明する。図33は、高光入力時のAPDの動作を説明する図である。増倍層内において多数の電子及び正孔が発生すると、APDでは増倍層内の電界が変化、つまり、いわゆる空間電荷効果が発生する。この空間電荷効果の発生により、APDの増倍率が低下してリニアリティが劣化する。上述のように、APDのリニアリティの劣化は直列抵抗Rscが原因であるため、電子及び正孔の空乏層内における滞留時間Tdmを低減する必要がある。特に、増倍率が大きくなると、増倍層内における滞留時間Tdmが増加する。Tdmはいわゆる増倍時間と同一であり、以下の式(20)で表される。

滞留時間Tdm=増倍時間=2πNkMτav (20)
【0299】
式(20)において、NはEmmons係数(イオン化率比kに緩やかに依存する。)、Mは増倍率、τavは電子及び正孔が増倍層を走行する平均時間である。滞留時間Tdmから、増倍層をキャリアが横断する片道分の通過時間は除いている。Nは、イオン化率比k=0.5(InP)、0.2(InAlAs)、0.1(Si)、0~0.001(InAs/AlAsデジタルアロイ構造)の場合、それぞれ、0.55、0.83、1.1、2.0となる。
【0300】
図34に、増倍層を構成する材料ごとの電子及び正孔の滞留時間Tdmを示す。InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層では増倍層内における滞留時間Tdmが画期的に減少する。つまり、増倍層内から電子及び正孔が早く排出されるため、増倍層での空間電荷効果が抑制される結果、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層ではリニアリティ及びダイナミックレンジが向上する。
【0301】
この結果、従来のAPDでは図31BのようにPAM4のアイ開口が不均一であったが、本開示のDA-APDでは、図31Aのようにアイ開口が均一となるため、TDECQが規定値を満たすことが可能となる。したがって、本開示のDA-APDを用いると、PAM用の送受信器でもAPDを使うことができるため、光信号の伝送距離が増加したり、送信用レーザの駆動電流を低減することが可能となる。
【0302】
<実施の形態13の効果>
以上、実施の形態13に係る多値強度変調送受信装置によると、半導体受光素子として、本開示のDA-APDまたはDA-PDを用いたので、光信号の伝送距離が増加し、消費電力が低減できる多値強度変調送受信装置が得られるという効果を奏する。
【0303】
実施の形態14.
図35は、実施の形態14に係る光ファイバ無線システム400(Radio on fiber:RoF)の構成を表す模式図である。また、図36は、比較例である光ファイバ無線システム450の構成を表す模式図である。光ファイバ無線システム400は、光源401と、光ファイバケーブルのような伝送路402と、本開示のDA-APD403と、アンテナ404と、を備える。なお、本開示のDA-APD403の代りに、本開示のDA-PDを用いても良い。
【0304】
実施の形態14に係る光ファイバ無線システム400では、アナログの電気振幅信号をLDなどの光源401に入力し、光振幅信号に変換する。変換された光振幅信号は光ファイバケーブル、つまり伝送路402によって伝送される。伝送された光振幅信号を、本開示のDA-APD403を用いて増倍して電気振幅信号に変換する。変換後の電気振幅信号をアンテナ404に伝送して、電波信号として放射する。
【0305】
実施の形態14に係る光ファイバ無線システム400は、電気信号源から距離の離れたアンテナ404に向けて、信号を効率的に供給することが可能である。また、伝送の途中でアナログからデジタルへの変換、またはデジタルからアナログへの変換を行わないため、システム構成が簡単で、かつ消費電力も小さいという特徴がある。
【0306】
<実施の形態14に係る光ファイバ無線システムの作用及び効果>
図36に示す比較例の光ファイバ無線システム450では、光ファイバケーブルによる伝送で信号が減衰してしまうとPD406では増倍できないため、十分な電波信号をアンテナから放射できないという問題があった。
【0307】
また、従来のAPDを用いると、図32A及び図32Bに示されるように、増倍層内の電子及び正孔が増加すると電界分布が変化するため増倍率が飽和し、ダイナミックレンジが確保できなくなってしまう。このため、十分な電気信号の振幅が得られないだけでなく、アナログ信号が歪んでしまうという問題があった。この結果、比較例のような光ファイバ無線システム450への従来のAPDの適用は困難であった。
【0308】
一方、実施の形態14に係る光ファイバ無線システム400で使用される本開示のInAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層を少なくとも有するPDまたはAPDでは、光吸収層の吸収係数が高いため、光吸収層を薄層化することが可能となり、光吸収層の薄層化によって抵抗Rscを低減できる。この結果、広いダイナミックレンジにわたってリニアリティのよい応答が得られ、かつ、大きな電流振幅を得ることが可能となる。このように、本開示のDA-PDまたはDA-APDを用いて、光ファイバ無線システム400を構成したので、光伝送距離を長くしても強い電波信号をリニアリティよく出力することが可能となる。
【0309】
さらに、本開示のInAs/GaAsデジタルアロイ構造からなる光吸収層及びInAs/AlAsデジタルアロイ構造からなる増倍層を有するDA-APD403では、図34に示すように、電子及び正孔の増倍層での滞留時間Tdmが短いために、増倍層内の電界分布の変化が抑制される。この結果、広いダイナミックレンジにわたってリニアリティに優れた応答が得られる。つまり、本開示のDA-APD403で信号を増倍するので元の信号を再現することができ、かつ、大きな電流振幅を得ることが可能となる。
【0310】
本開示のDA-APD403の増倍率として、1.2~10倍の範囲内でも使用可能である。しかしながら、増倍率が大きくなると信号が歪むため、1.2~5倍の範囲内の増倍率で使用することが望ましい。また、増倍量は光ファイバの損失及びAPDの量子効率が100%でなく約80%である点を鑑みると、かかる損失を補うために、2~3倍の増倍率で使用することが最適である。
【0311】
<実施の形態14の効果>
以上、実施の形態14に係る光ファイバ無線システムによると、本開示のDA-APDまたはDA-PDを用いて光ファイバ無線システムを構成したので、光伝送距離を長くしても強い電波信号を出力することが可能な光ファイバ無線システムが得られる効果を奏する。
【0312】
実施の形態15.
図37は、実施の形態15に係るデジタルコヒーレント受信装置500の構成を表す模式図である。実施の形態15に係るデジタルコヒーレント受信装置500は、本開示のDA-APD505aを用いている点に特徴がある。なお、本開示のDA-APD505aの代りに、本開示のDA-PDを用いても良い。
【0313】
デジタルコヒーレント通信では、光ファイバ中を位相及び強度の両方を変調した光信号が偏波多重されて伝送される。デジタルコヒーレント受信装置500では、光ファイバケーブル501から入力された光信号をまず偏波分離器502によって、偏波分離する。偏波分離後、それぞれの偏波信号光を90度ハイブリッド器503a及び90度ハイブリッド器503bにそれぞれ入射する。一方、半導体レーザ504から局発光されたレーザ光は、互いに90度位相をずらした2つの信号に分離する。
【0314】
信号光とレーザ光を合波し、さらに、信号光を直交成分(I、Q)に分離して出力する。90度ハイブリッド器503a、503b内には、本開示のDA-APD505aの2つが直列かつ一対に接続されたバランスド・ディテクタ505が4つ配置されている。各偏波について直交するI成分及びQ成分からなる合計4つの光信号は、4つのバランスド・ディテクタ505にそれぞれ入射する。バランスド・ディテクタ505から出力された電気信号は、DSP506に入力する。実施の形態15に係るデジタルコヒーレント受信装置500は、以上の構成となっている。
【0315】
<実施の形態15に係るデジタルコヒーレント受信装置の作用>
図38Aは比較例であるデジタルコヒーレント受信装置の波形を表す図であり、図38Bは実施の形態15に係るデジタルコヒーレント受信装置の波形を表す図である。
【0316】
従来のバランスド・ディテクタでは、信号光を受光する半導体受光素子としてPDが用いられていた。一方、本開示のDA-APD505aを用いると信号を増倍することが可能であるため、局発光を小さく抑えることが可能となる。また、従来のAPDを用いると、図33に示すように、増倍層内の電子及び正孔が増加すると電界分布が変化するため増倍率が飽和し、ダイナミックレンジが確保できない。このため、十分な電気信号の振幅が得られないだけでなく、アナログ信号が歪んでしまうという問題があった。この結果、図38Aに示すように、比較例では波形A1と波形B1の間隔が狭くなり、コンスタレーション波形の強度信号が歪むため、APDの適用は困難であった。
【0317】
一方、実施の形態15に係るデジタルコヒーレント受信装置500で使用される本開示のInAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層を少なくとも有するPDまたはAPDでは、光吸収層の吸収係数が高いため、光吸収層を薄層化することが可能となり、光吸収層の薄層化によって空間電荷効果による抵抗Rscの影響を受けにくくなるので、広いダイナミックレンジにわたってリニアリティに優れたコンスタレーション波形が得られる。
【0318】
さらに、本開示のInAs/GaAsデジタルアロイ構造からなる光吸収層及びInAs/AlAsデジタルアロイ構造からなる増倍層を有するDA-APD505aでは、図34に示すように、電子及び正孔の増倍層での滞留時間Tdmが短いために、増倍層内の電界分布の変化が抑制される。その結果、図38Bに示すように、本開示のDA-APD505aを用いた場合は、波形Aと波形Bの間隔が広くなり、広いダイナミックレンジにわたってリニアリティに優れたコンスタレーション波形が得られる。つまり、APDで信号を増倍しても元の信号を再現することができ、かつ、大きな電流振幅を得ることが可能である。
【0319】
本開示のDA-APD505aの増倍率は、1.2~10倍の範囲内でも使用可能である。しかしながら、増倍率が大きくなると信号が歪むため、1.2~5倍の範囲内の増倍率で使用することが望ましい。
【0320】
<実施の形態15の効果>
以上、実施の形態15に係るデジタルコヒーレント受信装置によると、光信号を受光する半導体受光素子として本開示のDA-APDまたはDA-PDを適用したので、局発光(レーザ)の駆動電流を小さくすること、つまりデジタルコヒーレント受信装置の消費電力を小さくすることが可能となる効果を奏する。
【0321】
実施の形態16.
図39は、実施の形態16に係るSPADセンサーシステムの構成を表す模式図である。SPADセンサーシステム600は、光電子計測回路601と、本開示のDA-APDからなるSPADセンサー602と、クエンチング回路603と、を備える。
【0322】
SPADは、光子数のカウントだけでなく感度の良好な受光素子として使うことが可能である。しかしながら、後述するA:Quenching電圧から、後述するB:Geiger mode電圧までを絶えず繰り返す必要がある。繰り返し周期はナノsec~マイクロsecオーダーである。A:Quenching電圧とB:Geiger mode電圧の繰り返し周期を短くできれば、SPADの応答速度を高めることが可能である。
【0323】
つまり、本開示のDA-APDをSPADに用いると、応答速度の速い、A:Quenching電圧とB:Geiger mode電圧の切り替えが可能となり、SPADセンサー602の応答帯域を向上することが可能である。
【0324】
さらに、SPADセンサーシステム600に本開示のInAs/GaAsデジタルアロイ構造からなる光吸収層及びInAs/AlAsデジタルアロイ構造からなる増倍層を有するDA-APD505aを用いると、SPADセンサーシステム600に入射した光子(Photon)は、本開示のDA-APDからなるSPADセンサー602が有するInAs/GaAsデジタルアロイ構造からなる光吸収層において吸収されて電子及び正孔の対が発生し、電子は増倍層に流れ込む。増倍層にはアバランシェブレークダウン電界よりも約10%高い電界が印加されている。
【0325】
この状態をガイガーモード(Geiger mode)と呼ぶ。ガイガーモードでは、電子は106倍のレベルに達するほど増倍する。発生した電子は電流として流れ、光電子計測回路601に流れる。あらかじめ、1個の光子により発生する電流が分かっていれば、SPADセンサーシステム600に入射した光子数をカウントすることが可能である。
【0326】
図40Aは比較例であるSAPDセンサーシステムの増倍特性を表す図であり、図40Bは実施の形態16に係るSAPDセンサーシステムの増倍特性を表す図である。アバランシェブレークダウン電界以上の電界を増倍層に印加し続けると過剰電流が流れ出すため、光子を検出後にSPADセンサー602に印加する電圧を速やかに低減して、増倍層の電界を弱める。これを、クエンチング(Quenching)と呼ぶ。つまり、図40A及び図40BのSPADセンサーの増倍特性の比較に示すように、電圧をB:ガイガーモード電圧から、A:クエンチング電圧に下げ連鎖増倍を止め、その後、再び電圧を、A:クエンチング電圧から、B:ガイガーモード電圧に高めて、入射する光子を高感度で受光できる状態とする。
【0327】
電圧を制御するクエンチング回路603には、パッシブ回路とアクティブ回路がある。パッシブ回路では、SPADセンサー602に入射した光子により電流が流れると、SPADセンサー602に直列に接続した抵抗で電圧降下が発生し、SPADセンサー602に印加する電圧が低下することになる。つまり、クエンチング回路603は、SPADセンサー602に、降伏電圧以上に印加した電圧及び降伏電圧未満の電圧を反復して印加するように動作する。
【0328】
<実施の形態16に係るSPADセンサーシステムの作用と効果>
実施の形態16に係るSPADセンサーシステム600は、光子数のカウントだけでなく高感度の半導体受光素子として使うことが可能である。しかしながら、B:ガイガーモード電圧から、A:クエンチング電圧までを絶えず繰り返す必要がある。繰り返し周期はナノ秒からマイクロ秒のオーダーである。A:クエンチング電圧と、B:ガイガーモード電圧の差を小さくできれば、繰り返し周期を短くできるため、SPADセンサーシステム600の応答速度を高めることが可能である。
【0329】
パッシブのクエンチング回路603では、SPADセンサー602に直列に接続した抵抗値を下げることが可能となり、SPADセンサー602の応答速度が速くなる。また、アクティブのクエンチング回路603では、電圧の振幅が小さくなるため、駆動回路の簡略化及び省電力化が可能であり、さらに、応答帯域を広くすることも可能である。
【0330】
本開示のInAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層を少なくとも有するAPDでは、光吸収層の吸収係数が高いため、光吸収層を薄層化することが可能となる。光吸収層の薄層化によって抵抗Rscを低減できるため、ブレークダウン電圧も低減できる。本開示のDA-APDをSPADに用いると、クエンチング電圧とガイガーモード電圧の差、つまり印加電圧差を小さくできるため、応答帯域の向上並びにクエンチング回路の簡略化及び省電力化が可能である。
【0331】
本開示のInAs/AlAsデジタルアロイ構造を増倍層として用いた場合の作用について、以下に説明する。
本開示のInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層では、図9A及び図9Bに示すように、デッドスペース長が長いため低電界では増倍が発生しない。しかしながら、電界を増加させていくとデッドスペース長が短くなるため、急激に増倍率が増えてブレークダウンに至る。InAlAsランダムアロイ構造増倍層のAPD、及び増倍層が厚いInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層を有するAPDでは、暗電流が10μAを超える電圧を降伏電圧とすると、降伏電圧の90%での増倍率が10倍を超える。一方、本開示のInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層では、降伏電圧の90%の電圧での増倍率が10倍以下となる。
【0332】
ブレークダウンに必要な電圧は、光吸収層の層厚、電界緩和層のキャリア濃度などの素子構造に依存するため、ここでは、定量化可能な増倍層の電界で効果を検証する。なお、リーチスルー電圧(~12V)以上では、SPADセンサー602に印加する電圧と増倍層の電界が比例する。
【0333】
図41は、増倍層の構成材料ごとのクエンチング電界とガイガーモード電界の差を計算した図である。本開示のInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層では、各増倍層のクエンチング電界とガイガーモード電界の差が170kV/cmと、特異的に低いことが分かる。本開示のInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層と同様な超格子構造であるが薄層化されていない200nm以上の層厚を有するInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層に対して、電界は120kV/cmも低い。
【0334】
<実施の形態16の効果>
以上、実施の形態16に係るSPADセンサーシステムによると、本開示のDA-APDをSPADセンサーに用いたので、クエンチング電界とガイガーモード電界の差、つまり印加電圧差を小さくできるため、応答帯域の向上、クエンチング回路の簡略化、及び省電力化が可能となるSPADセンサーシステムが得られるという効果を奏する。
【0335】
実施の形態17.
図42は、実施の形態17に係るライダー(Light Detection And Ranging:LiDAR)装置の構成を表す図である。図43Aは比較例であるライダー装置のAPDの受信波形を表す図であり、図43Bは実施の形態19に係るライダー装置700のAPDの受信波形を表す図である。
【0336】
実施の形態17に係るライダー装置700は、光源701と、本開示のDA-APD702と、TIA703と、測距回路704と、を備える。なお、本開示のDA-APD702の代りに、本開示のDA-PDを用いても良い。光源701は、パルス状の光(以下、パルス光と呼ぶ)、または周波数変調された光を発する。
【0337】
実施の形態17に係るライダー装置700では、光源から出射されたパルス光が物体705に当たって半導体受光素子に戻って来るまでの時間を計測することにより、物体705までの距離を算出する。光源701にはLDなどが用いられる。遠方まで測定するためには、LDの光量を増やす必要があるが、LDから出射する光量は目に対する安全上、上限が定められている。このため、半導体受光素子の感度を高める必要がある。そこで、実施の形態17に係るライダー装置700では、半導体受光素子として、本開示のDA-APD702を高増倍で使用する。
【0338】
検出した光パルスは本開示のDA-APD702で増倍されて電流パルスに変換される。その後、TIA703で増幅されて測距回路704に入力され、図43A及び図43Bに示すように、パルス信号の強度が予め設定した識別ラインを超えた時点を到着時間と判定する。測距回路704には、光源701から光パルスを出射したタイミングを信号として入力しており、両者の時間差に光速を乗じて、2で割れば物体705までの距離を算出できる。また、周波数変調した光を出射し、出射波と戻ってくる反射波との周波数差から距離を算出する方式も使用される。
【0339】
<実施の形態17に係るライダー装置の作用と効果>
物体705の反射率は必ずしも高くなく、かつ反射方向は様々であるため、微小光をAPDで検出する必要がある。従来のAPDでは、図43Aに示すように、高増倍になるように電圧を設定して動作させると増倍時間が長くなり、APDから出力される電流パルス幅が広くなる。また、トンネル電流が増加して光パルスの識別が困難になる。出射波と反射波との周波数差から距離を算出する方式でも、周波数の識別が困難になる。
【0340】
一方、実施の形態17に係るライダー装置700で使用される本開示のInAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層を少なくとも有するPD及びAPDでは、従来のAPDでは受光感度が不足する場合であっても、InAs/GaAsデジタルアロイ構造を光吸収層に用いたAPDでは高感度が得られる。この結果、遠方の物体705の測距が可能となるだけでなく、光源701の光出力を小さくできるため省電力化が図られ、しかも、目に対する安全性も高くなる。
【0341】
さらに、本開示のInAs/GaAsデジタルアロイ構造からなる光吸収層及びInAs/AlAsデジタルアロイ構造からなる増倍層を有するDA-APD505aでは、20倍以上の高増倍でも実施の形態1の作用の説明において記載したように、トンネル電流は増加しないため、微弱光を識別することが容易に可能である。また、図34に示すように、増倍層での滞留時間が短いため、図43Bに示すように、ピーク強度が大きい電流パルスが得られるので識別感度が高い。この結果、遠方の物体の測距が可能となるだけでなく、光源の光出力を小さくできるため省電力化が図られ、さらに目に対する安全性も高くなるという効果を奏する。
【0342】
<実施の形態17の効果>
以上、実施の形態17に係るライダー装置によると、物体からの反射光を本開示のDA-APDまたはDA-PDで受光するので、遠方の物体の測距が可能であり、かつ光源の省電力化を図ることができ、さらに目に対する安全性も高いライダー装置が得られるという効果を奏する。
【0343】
本開示は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
【0344】
従って、例示されていない無数の変形例が、本開示の技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0345】
1 n型InP基板、1a Feドープ半絶縁性InP基板、2 n型InPバッファ層、2a n型InAlAsバッファ層、2b n型InP導電層、3 i型InP電子走行層、4 i型InAlGaAsグレーディッド層、5、43 i型InAs/GaAsデジタルアロイ構造光吸収層、6 i型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層、7 p型InP窓層、8 p型InGaAsコンタクト層、11、47 n型InP窓層、13、45 i型InAlAs増倍層、15 p型拡散領域、17 分離溝、18 表面保護膜、20 Feドープ半絶縁性InP埋込層、25 p型InAlAs導電層、31、31a、31c、51 n型電極、31b 裏面側の電極、32、52 p型電極、33 開口部、35 無反射コーティング膜、40 p型InAlGaAsコンタクト層、41 p型InP導電層、42 i型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層、14、44 p型InP電界緩和層、46 n型InAlAs電界調整層、49 n型InAlAs導電層、50 n型InGaAsコンタクト層、53 金属膜、90 入射光、100、100a、110、110a、120、120a、130、130a、140、140a、150、150a、160、160a、170、170a、180 半導体受光素子、250a、260、260a、260b、270 光回線終端装置、251、261、274 FEC、252、262、273、303 ドライバーアンプ、253、263、272、304、401、701 光源、254、264、271 WDM、255、265a、301、506 DSP、256、266a、302b ADC、258 APD、257、267 バーストTIA、265、278 CDR、266、277 制限アンプ、267a、276、703 TIA、268、275、305、403、505a、702 DA-APD、300 多値強度変調送受信装置、302a DAC、310、501 光ファイバケーブル、306 Linear-TIA、400、450 光ファイバ無線システム、402 伝送路、404 アンテナ、406 PD、500 デジタルコヒーレント受信装置、501 光ファイバケーブル、502 偏波分離器、503a、503b 90度ハイブリッド器、504 半導体レーザ、505 バランスド・ディテクタ、600 SPADセンサーシステム、601 光電子計測回路、602 SPADセンサー、603 クエンチング回路、700 ライダー装置、704 測距回路、705 物体
【要約】
【課題】広い応答帯域で動作し、かつ高い受信感度を有する半導体受光素子を得る。
【解決手段】本開示の半導体受光素子100は、InP基板1と、InP基板1上に形成されたn型半導体層2と、n型半導体層2上に形成された電子走行層3と、電子走行層3上に形成され、キャリア濃度が1×1017cm-3以下であり、InAs層及びGaAs層、InAlAs層及びInGaAs層、または、互いに組成比の異なるInAlGaAs層のいずれかの組み合わせで構成された2種類の半導体層が2原子層から6原子層の周期でそれぞれ交互に積層されたi型デジタルアロイ構造からなる光吸収層5と、を備える。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43