IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

7654164セラミックス回路基板およびそれを用いた半導体装置
<>
  • -セラミックス回路基板およびそれを用いた半導体装置 図1
  • -セラミックス回路基板およびそれを用いた半導体装置 図2
  • -セラミックス回路基板およびそれを用いた半導体装置 図3
  • -セラミックス回路基板およびそれを用いた半導体装置 図4
  • -セラミックス回路基板およびそれを用いた半導体装置 図5
  • -セラミックス回路基板およびそれを用いた半導体装置 図6
  • -セラミックス回路基板およびそれを用いた半導体装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-21
(45)【発行日】2025-03-31
(54)【発明の名称】セラミックス回路基板およびそれを用いた半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/13 20060101AFI20250324BHJP
   H05K 3/18 20060101ALI20250324BHJP
   H05K 1/02 20060101ALI20250324BHJP
   H05K 3/28 20060101ALI20250324BHJP
【FI】
H01L23/12 C
H05K3/18 K
H05K1/02 F
H05K3/28 G
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2024524868
(86)(22)【出願日】2023-05-30
(86)【国際出願番号】 JP2023020064
(87)【国際公開番号】W WO2023234286
(87)【国際公開日】2023-12-07
【審査請求日】2024-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2022090095
(32)【優先日】2022-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 亮人
(72)【発明者】
【氏名】岩井 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】金原 恵太
【審査官】清水 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-201076(JP,A)
【文献】国際公開第2021/187201(WO,A1)
【文献】特開2015-002272(JP,A)
【文献】国際公開第2018/012616(WO,A1)
【文献】特開2006-019494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/13
H05K 3/18
H05K 1/02
H05K 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面を有するセラミックス基板と、
前記第1面の複数の第1領域にそれぞれ設けられた複数の金属部と、を備え、
前記第1面は、隣り合う前記第1領域同士の間に位置する第2領域を有し、
前記第2領域における粗さ曲線要素の平均長さRSmは、40μm以上153μm以下であ
前記平均長さRSmは、測定条件を、λsフィルタ:あり、λsカットオフ比:300、カットオフ種別:ガウシアン、カットオフ波長(λc):0.8mmに設定して測定される、セラミックス回路基板。
【請求項2】
前記第2領域における前記平均長さRSmは、100μm以下である、請求項1に記載のセラミックス回路基板。
【請求項3】
前記第2領域における面の粗さ曲線の最大山高さRpは、1.0μm以上である、請求項1ないし請求項2のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板。
【請求項4】
前記第2領域における面の粗さ曲線の最大谷深さRvは、1.0μm以上である、請求項1ないし請求項2のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板。
【請求項5】
前記第1面の表面積に対する1つ以上の前記第2領域の面積の和は、5%以上50%以下の範囲内である、請求項1ないし請求項2のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板。
【請求項6】
前記セラミックス基板は窒化珪素基板である、請求項1ないし請求項2のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板。
【請求項7】
前記複数の金属部のそれぞれは銅部材であり、
複数の前記銅部材は、Agを含まない複数の接合層を介して前記複数の第1領域にそれぞれ接合されている、請求項1ないし請求項2のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板。
【請求項8】
前記第2領域における粗さ曲線の最大山高さRpが1.0μm以上、かつ、前記粗さ曲線の最大谷深さRvが1.0μm以上ある、請求項6に記載のセラミックス回路基板。
【請求項9】
前記第1面の表面積に対する1つ以上の前記第2領域の面積の和は、5%以上50%以下の範囲内である、請求項6に記載のセラミックス回路基板。
【請求項10】
請求項1ないし請求項2のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板と、
前記複数の金属部のいずれかの上に実装された半導体素子と、
を備えた半導体装置。
【請求項11】
前記第2領域を覆うモールド樹脂をさらに備えた、請求項10記載の半導体装置。
【請求項12】
請求項9に記載のセラミックス回路基板と、
前記複数の金属部のいずれかの上に実装された半導体素子と、
を備えた半導体装置。
【請求項13】
前記第2領域を覆うモールド樹脂をさらに備えた、請求項12記載の半導体装置。
【請求項14】
第1面を有するセラミックス基板、及び、前記第1面の複数の第1領域にそれぞれ設けられた複数の金属部を含むセラミックス回路基板と、
前記複数の金属部のいずれかの上に実装された半導体素子と、を備え、
前記第1面は、隣り合う前記第1領域同士の間に位置する第2領域を有し、
前記第2領域における粗さ曲線要素の平均長さRSmは、40μm以上であり、
前記平均長さRSmは、測定条件を、λsフィルタ:あり、λsカットオフ比:300、カットオフ種別:ガウシアン、カットオフ波長(λc):0.8mmに設定して測定され、
前記第2領域を覆うモールド樹脂をさらに備えた、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
後述する実施形態は、概ね、セラミックス回路基板およびそれを用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業機器の高性能化に伴い、それに搭載されるパワーモジュールの高出力化が進んでいる。これに伴い、半導体素子の高出力化が進んでいる。半導体素子の動作保証温度は、125℃~150℃であるが、今後175℃以上に上昇する可能性がある。半導体素子を実装する回路基板としては、セラミックス回路基板が用いられている。セラミックス回路基板は、セラミックス基板と、その上に接合された金属板と、を備える。例えば、特許第6789955号公報(特許文献1)では、金属板端部から接合層がはみ出たはみ出し部を有している。特許文献1では、接合層はみ出し部の硬さやサイズを制御することにより、TCT特性(耐熱サイクル特性)を向上させている。
【0003】
また、半導体素子を保護するために樹脂モールドが施されることがある。モールド樹脂は、半導体素子や配線などを外部応力から保護する役割を有する。モールド樹脂は、湿気などの外気から半導体素子などを保護する役割もある。
【0004】
半導体素子の動作保証温度の上昇に伴い、セラミックス回路基板とモールド樹脂との密着性が問題となっていた。セラミックス回路基板の熱膨張率とモールド樹脂の熱膨張率との差により、モールド樹脂がセラミックス回路基板からはがれると言った問題が生じていた。モールド樹脂がはがれると、半導体素子などの導通不良の原因となっていた。
【0005】
例えば、国際公開第2018/173921号(特許文献2)では、セラミックス回路基板の銅板に凹部を設けている。また、特開2021-68850号公報(特許文献3)には、セラミックス基板に凹部を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6789955号公報
【文献】国際公開第2018/173921号
【文献】特開2021-68850号公報
【文献】国際公開第2019/054294号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2および特許文献3のセラミックス回路基板では、金属板またはセラミックス基板に凹部を設けることにより、モールド樹脂との密着性を向上させている。一方、近年はセラミックス回路基板への半導体素子の実装密度が高くなっている。実装密度を高くするために、金属板表面における半導体素子の実装面積を大きくする方法が挙げられる。金属板表面の実装面積を大きくするために、金属板の平坦面を増やす方法が挙げられる。金属板同士の距離を狭くして金属板の搭載面積を大きくする方法もある。特許文献2のように金属板に凹部を設ける方法では、実装面積を増やすことができない。従来のセラミックス回路基板については、実装面積の確保とモールド樹脂の密着性を両立させることが十分とは言えなかった。
【0008】
実施形態は、このような課題に対応するためのものであり、実装面積の確保とモールド樹脂との密着性を両立させたセラミックス回路基板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態に係るセラミックス回路基板は、セラミックス基板及び複数の金属部を備える。セラミックス基板は、第1面を有する。複数の金属部は、第1面の複数の第1領域にそれぞれ設けられている。第1面は、隣り合う第1領域同士の間に位置する第2領域を有する。第2領域における粗さ曲線要素の平均長さRSmは、40μm以上である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係るセラミックス回路基板の一例を示す平面図。
図2】実施形態に係るセラミックス回路基板の一例を示す側面図。
図3】セラミックス基板の一例を示す平面図。
図4】セラミックス基板の一例を示す側面図。
図5】セラミックス基板の別の一例を示す平面図。
図6】セラミックス基板の別の一例を示す平面図。
図7】実施形態に係る半導体装置の一例を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態に係るセラミックス回路基板は、セラミックス基板及び複数の金属部を備える。セラミックス基板は、第1面を有する。複数の金属部は、第1面の複数の第1領域にそれぞれ設けられている。第1面は、隣り合う第1領域同士の間に位置する第2領域を有する。第2領域における粗さ曲線要素の平均長さRSmは、40μm以上である。
【0012】
図1は、実施形態に係るセラミックス回路基板の一例を示す平面図である。図2は、実施形態に係るセラミックス回路基板の一例を示す側面図である。図1及び図2において、符号1はセラミックス回路基板を示す。符号2はセラミックス基板を示す。符号3は金属部を示す。セラミックス回路基板1では、セラミックス基板2の少なくとも一方の面に、複数の接合層4をそれぞれ介して複数の金属部3が設けられている。
【0013】
図3は、セラミックス基板の一例を示す平面図である。図4は、セラミックス基板の一例を示す側面図である。図3及び図4において、符号2aはセラミックス基板2の第1面(表面)を示す。符号2bはセラミックス基板2の第2面(裏面)を示す。第2面2bは、第1面2aとは反対側に位置する。
【0014】
図3及び図4に示すように、第1面2aは、2つ以上の第1領域r1及び1つ以上の第2領域r2を含む。図3において、第1領域r1は二点鎖線で示されている。第2領域r2は、ドットを付して示されている。また、図3では、第1面2aに接合される金属部3を破線で示している。金属部3は、第1領域r1に接合される。第2領域r2は、第1領域r1同士の間に位置する。第2領域r2の上には、金属部3が設けられていない。第2領域r2はパターン間領域と呼ばれることもある。図示した例では、セラミックス基板2に、3個の金属部3が配置されている。この場合、セラミックス基板2の第1面2aは、3つの第1領域r1と2つの第2領域r2とを含む。
【0015】
より具体的には、第2領域r2は、隣り合う金属部3同士の間の距離が最も短くなる方向において、隣り合う第1領域r1同士の間に位置する領域である。ここでは、セラミックス基板2の厚さ方向に平行な方向を「Z方向」とする。Z方向に垂直であり、相互に直交する二方向を「X方向」及び「Y方向」とする。便宜上、X方向をセラミックス基板2の長辺方向、Y方向を短辺方向とする。図3に示す例では、複数の金属部3は、金属部3a、金属部3b、及び金属部3cを含む。金属部3aと金属部3bとの間の距離d1は、X方向において最短となる。このため、X方向において、金属部3aが接合された第1領域r1と、金属部3bが接合された第1領域r1と、の間に位置する領域が第2領域r2となる。同様に、金属部3bと金属部3cとの間の距離d2は、X方向において最短である。X方向において、金属部3bが接合された第1領域r1と、金属部3cが接合された第1領域r1と、の間の領域が第2領域r2となる。
【0016】
図5及び図6は、セラミックス基板の別の一例を示す平面図である。図5及び図6に示す例では、セラミックス基板2に接合される金属部3のサイズ及び位置が、図1図4に示す例とは異なる。図1図4に示す例では、各金属部3の形状はZ方向から見たときに長方形であり、各金属部3の長手方向が互いに平行である。図5に示す例では、複数の金属部3が、X方向及びY方向に配列されている。図6に示す例では、各金属部3の長手方向が互いに斜めになるように、複数の金属部3が配置されている。
【0017】
図5及び図6に示す配置についても、図3に示す例と同様の方法により、第1面2aにおける第2領域r2が特定される。具体的には、図5に示す例では、金属部3a~3dが設けられている。金属部3aと金属部3bとの間の距離d1、及び金属部3cと金属部3dとの間の距離d2は、X方向において最短となる。X方向において、金属部3aが接合された第1領域r1と金属部3bが接合された第1領域r1との間に位置する領域、及び金属部3cが接合された第1領域r1と金属部3dが接合された第1領域r1との間に位置する領域が、それぞれ第2領域r2となる。また、金属部3aと金属部3cとの間の距離d3、及び金属部3bと金属部3dとの間の距離d4は、Y方向において最短となる。Y方向において、金属部3aが接合された第1領域r1と金属部3cが接合された第1領域r1との間に位置する領域、及び金属部3bが接合された第1領域r1と金属部3dが接合された第1領域r1との間に位置する領域が、それぞれ第2領域r2となる。
【0018】
また、金属部3aと金属部3dとの間の距離d5、及び金属部3bと金属部3cとの間の距離d6は、X方向及びY方向に対して傾斜した方向において最短となる。したがって、当該傾斜方向において、金属部3aが接合された第1領域r1と金属部3dが接合された第1領域r1との間に位置する領域、及び金属部3bが接合された第1領域r1と金属部3cが接合された第1領域r1との間に位置する領域も、それぞれ第2領域r2となりうる。ただし、金属部3同士の間の距離が3mmを超える箇所については、第2領域r2として扱わない。例えば、金属部3同士の間の最短距離が3mm以下の場合であっても、金属部3同士の距離が3mmを超える領域は、第2領域r2に含めない。
【0019】
図6に示す例では、金属部3aと金属部3bとの間の距離d1、及び金属部3bと金属部3cとの間の距離d2は、X方向において最短となる。このため、X方向において、金属部3aが接合された第1領域r1と、金属部3bが接合された第1領域r1と、の間に位置する領域が第2領域r2となる。X方向において、金属部3bが接合された第1領域r1と、金属部3cが接合された第1領域r1と、の間の領域が第2領域r2となる。ただし、金属部3aが接合された第1領域r1の一部と、金属部3bが接合された第1領域r1の一部と、の間の距離は3mmを超えている。このため、金属部3aが接合された第1領域r1の当該一部と、金属部3bが接合された第1領域r1の当該一部と、の間の領域は、第2領域r2に含まれない。
【0020】
また、図1及び図2において、符号4は、第1面2aに設けられた接合層を示す。符号5は、金属部を示す。金属部5は、裏金属部とも呼ばれる。符号6は、第2面2bに設けられた接合層を示す。金属部3は、第1面2aに直接接合されても良いし、図1及び図2に示すように、接合層4を介して第1面2aに接合されても良い。第2面2bには、図2に示すように金属部5が接合されても良い。金属部5は、第2面2bに直接接合されても良いし、図2に示すように接合層6を介して第2面2bに接合されても良い。金属部5は、放熱板として用いられる。金属部5は、図示しないヒートシンクまたは筐体などとの接合に用いられる。実施形態に係るセラミックス回路基板1において、金属部5は回路として用いられても良い。
【0021】
金属部3が接合層4を介して第1面2aに接合される場合、接合層4は、はみだし部4aを含むことが好ましい。はみだし部4aは、接合層4のうち、金属部3の端部からはみだした部分である。接合層4がはみだし部4aを含む場合、第1面2aのうちはみだし部4aと接する領域も第1領域r1に含まれる。第2領域r2は、はみだし部4aを含む接合層4と接する第1領域r1同士の間に位置する。つまり、第2領域r2は、Z方向から見たときに、金属部3及び接合層4(はみだし部4a含む)のいずれとも重ならない領域である。
【0022】
実施形態に係るセラミックス回路基板1は、第1面2aの第2領域r2における粗さ曲線要素の平均長さRSmが40μm以上であることを特徴としている。粗さ曲線要素の平均長さRSmとは、基準長さにおける輪郭曲線要素の長さXsの平均値である。粗さ曲線要素の平均長さRSmはJIS-B-0601(2013)に定められている。JIS-B-0601(2013)に定められているように、粗さ曲線要素の平均長さRSmの測定には、山及び谷と判断される最小高さ及び最小長さの識別が必要である。識別可能な最小高さの標準値は、最大高さ粗さRzの10%とする。識別可能な最小長さの標準値は、基準長さの1%とする。この二つの条件を両方満足するように、山及び谷を決定した上で、輪郭曲線要素の長さXsの平均値を求める。なお、JIS-B-0601はISO4287に対応している。
【0023】
粗さ曲線要素の平均長さRSmが40μm以上であるということは、山と谷の1サイクルが40μm以上であることを示す。第2領域r2におけるRSmが40μm以上であるということは、山と谷の1サイクルが大きいことを示している。これにより、セラミックス回路基板1を樹脂でモールドした際に、セラミックス基板2とモールド樹脂との密着性を向上させることができる。従来のセラミックス基板では、RSmが40μm未満と小さかった。山と谷のサイクルが小さいと、セラミックス基板2とモールド樹脂との間に微視的な隙間が形成される。一般的に、モールド樹脂の熱膨張率は、セラミックス基板2の熱膨張率よりも大きい。半導体素子の熱によってセラミックス基板2及びモールド樹脂の温度が変化すると、熱伝導率の差により、セラミックス基板2とモールド樹脂との間の界面には応力が発生する。セラミックス基板2とモールド樹脂との間に微視的な隙間が存在すると、半導体素子の熱に起因して発生する応力により、モールド樹脂がセラミックス基板2から剥がれ易くなる。
【0024】
また、第2領域r2近傍におけるモールド樹脂は、金属部に実装される半導体素子の熱による影響を受けやすい。一般的に、金属部3の熱伝導率は、セラミックス基板2の熱伝導率よりも高い。半導体素子の熱は、金属部3を通して放出される。はみだし部4aを設けることにより、金属部3a端部に発生する応力は緩和される。その一方で、金属部3に伝わった熱は、金属部3が設けられていない第2領域r2にも伝わる。第2領域r2には金属部3が設けられていないため、第2領域r2に伝わった熱は放出され難い。このため、第2領域r2近傍における温度が上昇し易い。さらに、第2領域r2に接するモールド樹脂には、金属部3の熱膨張に起因する応力も加わる。このため、第2領域r2とモールド樹脂との間では、他の部分に比べて、セラミックス基板2からのモールド樹脂の剥がれがより発生し易い。
【0025】
実施形態によれば、第2領域r2におけるRSmを制御することにより、セラミックス基板2とモールド樹脂との密着性を向上させることができる。セラミックス基板2とモールド樹脂との密着性が向上すると、X-Y面に平行な方向においてモールド樹脂に応力が加わった際に、第2領域r2の表面の山及び谷がモールド樹脂に引っ掛かる。すなわち、モールド樹脂に対してアンカー効果が生じる。これにより、モールド樹脂がセラミックス基板2から剥がれることを抑制できる。実施形態は、特に、金属部3同士の間隔が3mm以下の箇所が存在するセラミックス回路基板に有効である。
【0026】
粗さ曲線要素の平均長さRSmの上限は、特に限定されないが、100μm以下であることが好ましい。RSmが100μmを超えて大きいと、RSmの制御が難しくなる可能性がある。このため、第2領域r2におけるRSmは、40μm以上100μm以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは50μm以上80μm以下の範囲内である。
【0027】
また、第2領域r2における粗さ曲線の最大山高さRpは、1.0μm以上であることが好ましい。第2領域r2における粗さ曲線の最大谷深さRvは、1.0μm以上であることが好ましい。粗さ曲線の最大山高さRpおよび粗さ曲線の最大谷深さRvについても、JIS-B-0601(2013)に定められている。
【0028】
粗さ曲線の最大山高さRpは、粗さ曲線のうち最も大きな山の高さである。Rpを1.0μm以上とすることにより、セラミックス基板2とモールド樹脂との密着性を向上させることができる。Rpが1.0μm未満であると、セラミックス基板2とモールド樹脂との密着性が低下する可能性がある。Rpの上限は、特に限定されないが、3.0μm以下が好ましい。Rpが3.0μmを超えて大きいと、第2領域r2の表面における凹凸の隙間に、モールド樹脂が入り込まない箇所が生じる可能性がある。このため、Rpは1.0μm以上3.0μm以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは1.2μm以上2.0μm以下の範囲内である。
【0029】
粗さ曲線の最大谷深さRvは、粗さ曲線のうち最も大きな谷の深さである。Rvを1.0μm以上とすることにより、セラミックス基板2とモールド樹脂との密着性を向上させることができる。Rvが1.0μm未満であると、セラミックス基板2とモールド樹脂との密着性が低下する可能性がある。Rvの上限は、特に限定されないが、3.0μm以下が好ましい。Rvが3.0μmを超えて大きいと、第2領域r2の表面における凹凸の隙間に、モールド樹脂が入り込まない箇所が生じる可能性がある。このため、Rvは1.0μm以上3.0μm以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは1.2μm以上2.0μm以下の範囲内である。谷が深いと、Rvが大きくなる。
【0030】
前述のRSmを制御した上で、RpまたはRvの1種または2種を制御することにより、セラミックス基板2とモールド樹脂との密着性をさらに向上させることができる。モールド樹脂が、セラミックス基板2からさらに剥がれ難くなる。
【0031】
RSm、Rp、及びRvは、JIS-B-0601(2013)に準じた方法で測定される。測定条件は、測定長さ:4.0mm、測定速度:0.6mm/s、形状除去:最小二乗直線、λsフィルタ:あり、λsカットオフ比:300、カットオフ種別:ガウシアン、カットオフ波長(λc):0.8mmに設定される。一度の測定で測定長さ4.0mmを確保できないときは、複数回に分けても測定が行われても良い。また、第2領域r2における粗さ曲線要素の平均長さRSmの測定方向は、任意である。測定長さ4.0mmが基準長さである。
【0032】
実施形態に係るセラミックス回路基板1では、第2領域r2における粗さ曲線要素の平均長さRSmが制御される。例えば、上記測定条件に準拠したとき、第2領域r2のどの部分を測定したとしても、RSmが40μm以上である。また、第2領域r2のどの部分を測定したとしても、Rpは1.0μm以上であることが好ましい。第2領域r2のどの部分を測定したとしても、Rvは1.0μm以上であることが好ましい。なお、金属部3と接合される第1領域r1には、RSmが40μm未満の箇所が存在していてもよい。
【0033】
また、第1面2aの表面積に対する各第2領域r2の面積の合計は、5%以上50%以下の範囲内であることが好ましい。つまり、5(%)≦[第2領域r2の合計面積/第1面2aの面積]×100≦50(%)であることが好ましい。例えば、長辺50mm×短辺40mmのセラミックス基板であった場合、第1面2aの表面積は、50×40=2000mmである。第1面2aに1つの第2領域r2のみが存在する場合は、その第2領域r2の面積が、上記の「第2領域r2の合計面積」に相当する。第1面2aに複数の第2領域r2が存在する場合は、各第2領域r2の面積の合計が、上記の「第2領域r2の合計面積」に相当する。例えば、図1図4に示す例では、2つの第2領域r2が存在する。2つの第2領域r2の面積の合計が、「第2領域r2の合計面積」である。
【0034】
第2領域r2の合計面積を、第1面2aの表面積の5%以上50%以下の範囲内とすることにより、モールド樹脂の密着性と、半導体素子の実装面積の確保と、の両立を図ることができる。第2領域r2の合計面積が5%未満であると、セラミックス基板2とモールド樹脂との密着性を向上させる効果が不足する可能性がある。第2領域r2の合計面積が50%を超えて大きいと、半導体素子などを実装する面積が不足する可能性がある。このため、第2領域r2の合計面積は、第1面2aの表面積の5%以上50%以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは10%以上40%以下の範囲内である。
【0035】
セラミックス基板2には、様々の基板を適用することができる。セラミックス基板としては、窒化珪素基板、窒化アルミニウム基板、アルミナ基板、ジルコニア基板、アルジル基板が挙げられる。アルジル基板とは、アルミナとジルコニアを混合したセラミックス焼結体である。セラミックス基板の厚さは、0.2mm以上3mm以下であることが好ましい。
【0036】
窒化珪素基板の3点曲げ強度は、600MPa以上であることが好ましい。窒化珪素基板の熱伝導率は、80W/m・K以上であることが好ましい。窒化珪素基板の強度を上げることにより、基板厚さを薄くすることができる。このため、窒化珪素基板の3点曲げ強度は、600MPa以上が好ましく、より好ましくは700MPa以上である。窒化珪素基板を用いることで、基板厚さを2mm以下、さらには0.40mm以下と薄くできる。
【0037】
窒化アルミニウム基板の3点曲げ強度は、300~450MPa程度である。その一方、窒化アルミニウム基板の熱伝導率は、160W/m・K以上である。窒化アルミニウム基板の強度は低いため、基板厚さは0.60mm以上が好ましい。酸化アルミニウム基板の3点曲げ強度は、300~450MPa程度であるが、酸化アルミニウム基板は安価である。アルジル基板の3点曲げ強度は、550MPa程度と高いが、熱伝導率は30~50W/m・K程度である。
【0038】
窒化珪素基板がセラミックス基板2として用いられることが好ましい。窒化珪素基板は高い強度を有するため、モールド樹脂の熱収縮に耐えることができる。また、熱伝導率が80W/m・K以上である窒化珪素基板を用いることにより、放熱性も向上させることができる。また、窒化珪素基板では、アスペクト比が1.5以上の窒化珪素結晶粒子が主体である。細長い窒化珪素結晶粒子が絡み合うことにより、セラミックス基板2の強度を高くすることができる。また、細長い窒化珪素結晶粒子がランダムに配向することにより、RSmを制御し易くなる。
【0039】
金属部3として、金属板、薄膜、メタライズ膜などが挙げられる。薄膜は、スパッタ法又はメッキ法などにより形成された導電性膜を指す。メタライズ膜は、金属粉末ペーストを塗布し、焼成して形成された導電性膜を指す。
【0040】
金属部3は、金属板が加工された部材であることが好ましい。金属板(金属部3)の厚さは0.3mm以上であることが好ましい。金属板を厚くすることにより、放熱性を向上させることができる。通電容量を向上させることもできる。このため、金属板の厚さは0.3mm以上が好ましく、より好ましくは0.6mm以上である。金属板の厚さの上限は特に限定されないが、5mm以下が好ましい。厚さが5mmを超えると、金属部3側面の傾斜形状の制御が困難となる可能性がある。また、放熱性の観点からは、厚さ0.3mm以上の銅板を金属部3に用いることが好ましい。また、金属部3の厚さおよび金属部5の厚さがともに0.3mm以上であることが好ましい。金属板を金属部3に用いることにより、金属部3とモールド樹脂との密着性を向上させた上で、金属部3の通電容量および放熱性を向上させることができる。
【0041】
金属板として、銅板、銅合金板、アルミニウム板、アルミニウム合金板から選ばれる1種以上が挙げられる。金属板としては銅板が好ましい。また、無酸素銅板が好ましい。無酸素銅は、JIS-H-3100に示されるように、銅純度99.96wt%以上である。銅の熱伝導率は約400W/m・Kであり、アルミニウムの熱伝導率は約240W/m・Kである。銅はアルミニウムよりも高い熱伝導率を有する。銅板を金属部3に用いることで、金属部3の放熱性が向上する。また、アルミニウム板は純アルミニウムであることが好ましい。純アルミニウムは、JIS-H-4000に示されている。なお、JIS-H-4000はISO6361に対応している。JIS-H-3100はISO197などに対応している。
【0042】
セラミックス基板2と金属部3は、接合層4を介して接合されていることが好ましい。接合層4は、活性金属接合法を用いて形成される部材であることが好ましい。活性金属接合法とは、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)から選ばれる1種または2種以上の活性金属を用いた接合方法である。銅(Cu)または銀(Ag)を主成分とし、活性金属を含有した活性金属ろう材が用いられる。ここでいう主成分とは、ろう材の金属成分の中で最も多く含有される成分のことである。
【0043】
活性金属ろう材は、Ag(銀)を0質量%以上60質量%以下、Cu(銅)を15質量%以上70質量%以下、Ti(チタン)またはTiH(水素化チタン)を1質量%以上15質量%以下、含有することが好ましい。TiとTiHの両方が用いられる場合は、これらの合計を1質量%以上15質量%以下の範囲内とする。AgとCuが両方用いられる場合は、Agが20質量%以上60質量%以下の範囲内であり、Cuが15質量%以上40質量%以下の範囲内であることが好ましい。必要に応じ、Sn(錫)またはIn(インジウム)の1種または2種が、1質量%以上50質量%以下の範囲内で活性金属ろう材に含有されてもよい。また、必要に応じ、C(炭素)が0.1質量%以上2wt%以下の範囲内で活性金属ろう材に含有されてもよい。
【0044】
活性金属ろう材組成の比率は、混合する原料の合計を100質量%で計算する。例えば、Ag、Cu、Tiの3種で活性金属ろう材が構成される場合、Ag+Cu+Ti=100質量%となる。Ag、Cu、TiH、Inの4種で活性金属ろう材が構成される場合、Ag+Cu+TiH+In=100質量%となる。Ag、Cu、Ti、Sn、Cの5種で活性金属ろう材が構成される場合、Ag+Cu+Ti+Sn+C=100質量%となる。
【0045】
AgまたはCuは、ろう材の母材となる成分である。SnまたはInは、ろう材の融点を下げる効果を有する。C(炭素)は、ろう材の流動性を制御したり、他の成分と反応して接合層の組織を制御する効果がある。このため、ろう材の成分としては、Ag-Cu-Ti、Ag-Cu-Sn-Ti、Ag-Cu-Ti-C、Ag-Cu-Sn-Ti-C、Ag-Ti、Cu-Ti、Ag-Sn-Ti、Cu-Sn-Ti、Ag-Ti-C、Cu-Ti-C、Ag-Sn-Ti-C、Cu-Sn-Ti-C、が挙げられる。Snの代わりにInが用いられてもよい。SnとInの両方が用いられてもよい。
【0046】
活性金属ろう材には、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、レニウム(Re)から選ばれる1種以上が、0.1質量%以上10質量%以下の範囲内で添加されてもよい。タングステン、モリブデン、レニウムの添加により、活性金属ろう材の流動性を制御することができる。活性金属ろう材には、マグネシウム(Mg)が添加されてもよい。
【0047】
上記の活性金属ろう材は、銅板の接合に有効である。金属部3は銅部材であり、セラミックス基板と銅部材がAgを含まない接合層を介して接合されていることが好ましい。Agを含まない接合層とは、Agを添加してない活性金属ろう材を用いて形成される部材を指す。不可避不純物としてAgが0.01質量%以下(検出限界以下としてのゼロを含む)含有されていてもよい。Agを含まない接合層を用いることにより、Agイオンマイグレーションの発生を抑制できることができる。Agイオンマイグレーションとは、湿度の多い環境下で電圧を印加したとき、接合層のAgがイオン化して移動する現象である。Agイオンが移動すると、Agが別の場所で析出する。これにより、絶縁不良の原因となる。活性金属ろう材の中で、Agが最もイオンマイグレーションを起こし易い。接合層にAgを用いないことにより、Agイオンマイグレーションを抑制することができる。
【0048】
金属板がアルミニウム板である場合、活性金属ろう材には、Al-Si系またはAlMg系のろう材を用いることが好ましい。活性金属ろう材中のSiまたはMgの1種または2種の含有量は、0.1質量%以上20質量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0049】
実施形態に係るセラミックス回路基板は、金属部3に半導体素子が実装された半導体装置に用いることができる。セラミックス回路基板は、モールド樹脂を具備することが好ましい。
【0050】
図7は、実施形態に係る半導体装置の一例を示す側面図である。図7において、符号1はセラミックス回路基板を示す。符号6は半導体素子を示す。符号7はモールド樹脂を示す。符号10は半導体装置を示す。半導体素子7は、金属部3に実装されている。図7には、2つの半導体素子7が実装された半導体装置10が例示されている。実施形態に係る半導体装置10は、この形態に限定されない。半導体素子7の数は任意である。半導体装置10は、図示しないワイヤーボンディングまたはリードフレームなどを具備していても良い。
【0051】
図7に示す形態では、半導体素子7が実装された第1面2aが、モールド樹脂8で覆われている。モールド樹脂8はこのような形態に限定されず、半導体装置10の金属部5まで、モールド樹脂8で覆っても良い。
【0052】
モールド樹脂8は、半導体素子7や配線などを外部応力から保護する役割がある。また、モールド樹脂は湿気などの外気から半導体素子7などを保護する役割もある。モールド樹脂には、主に熱硬化型樹脂が用いられる。熱硬化型樹脂としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。
【0053】
モールド方法としては、トランスファー方式、コンプレッション方式などが挙げられる。トランスファー方式は、溶融した樹脂を金型に射出して、硬化する封止方法である。トランスファー形式によって形成されたモールドは、トランスファーモールドと呼ばれている。コンプレッション方式は、予め金型に樹脂を投入、溶融して、硬化する封止方法である。コンプレッション形式によって形成されたモールドは、コンプレッションモールドと呼ばれている。トランスファーモールドは、樹脂を射出する方式のため量産性に優れている。トランスファーモールドは、樹脂流動を伴うため、半導体素子やワイヤーボンディングなどの位置ずれを生じる可能性がある。コンプレッション形式では、予め金型に樹脂を投入し、樹脂を溶融させるので、半導体素子などの位置ずれへの影響は少ない。一方、予め金型に樹脂を投入しなければならない。このため、コンプレッション形式による量産性は、トランスファーモールドよりも低下する。
【0054】
実施形態に係るセラミックス回路基板は、金属部同士の隙間部のセラミックス基板表面は、粗さ曲線要素の平均長さRSmが40μm以上としている。山と谷の1サイクルを大きくしている。これにより、モールド樹脂との密着性を向上させている。トランスファーモールド、コンプレッションモールドのどちらの方法であっても密着性を向上させることができる。例えば、トランスファーモールドは、樹脂流動を伴う。樹脂が流動したとしても、山と谷の1サイクルを大きくしておくことにより、流動している樹脂が表面凹凸に入り込んでいく。これにより、密着性を向上させることができる。言い換えると、モールド樹脂8を具備する半導体装置10に好適である。
【0055】
モールド樹脂を具備する半導体装置において、隙間部(金属部間領域)の粗さ曲線要素の平均長さRSmを測定する際は、モールド樹脂を除去してから平均長さRSmを測定する。モールド樹脂の除去方法としては、樹脂のみを溶かす薬液処理などが挙げられる。
【0056】
次に、実施形態に係るセラミックス回路基板1の製造方法について説明する。実施形態に係るセラミックス回路基板1は、上記構成を具備していれば、その製造方法は限定されない。ここでは、歩留まり良くセラミックス回路基板1を製造するための方法を説明する。
【0057】
まず、セラミックス基板2と金属板の接合体を調製する。金属板は、セラミックス基板2の片面または両面に設けられる。セラミックス基板2は、窒化珪素基板、窒化アルミニウム基板、アルミナ基板、ジルコニア基板、アルジル基板から選ばれる1種であることが好ましい。金属板は、銅板、銅合金板、アルミニウム板、アルミニウム合金板から選ばれる1種以上が好ましい。セラミックス基板2と金属板の接合には、活性金属接合法を用いる方法が好ましい。
【0058】
金属板が銅板(銅合金板含む)である場合、活性金属ろう材は、CuまたはAgを主成分とし、Ti、Zr、Hfから選ばれる1種以上をさらに含有する。必要に応じ、Sn、InまたはC(炭素)から選ばれる1種以上が添加されてもよい。金属板がアルミニウム板である場合、活性金属ろう材には、Al-Si系、Al-Mg系のろう材を用いることが好ましい。活性金属ろう材の好ましい組成範囲は、前述の通りである。
【0059】
接合工程として、真空中または不活性雰囲気中において、600~980℃で、セラミックス基板と金属板との積層体を加熱する工程が挙げられる。真空中について、圧力は10-2Pa以下であることが好ましい。不活性雰囲気としては、窒素雰囲気が好ましい。真空中の接合工程では、バッチ炉を用いることが好ましい。不活性雰囲気中の接合工程には、連続炉を用いることが好ましい。接合工程により、セラミックス基板2と金属板が接合層4を介して接合された接合体が用意される。
【0060】
次に、エッチング工程を行う。エッチング工程は、金属板に回路形状を付与するために実行される。金属板に回路形状を付与することで、上記の金属部3が得られる。また、金属板に回路形状を付与することにより、セラミックス回路基板1が作製される。なお、予め回路形状に加工された金属板が、セラミックス基板2に接合されても良い。この場合、エッチング工程を行う必要はなく、回路形状の金属板が上記の金属部3に相当する。
【0061】
RSm、Rp、Rvの制御には、エッチング工程を活用することが有効である。活性金属ろう材を用いた接合層には、AgまたはCuを主成分とする層と、活性金属を主成分とする層とが形成される。国際公開番号WO2019/054294号公報(特許文献4)には、活性金属ろう材を用いた接合層のエッチング工程として、ろう材エッチング工程と化学研磨工程を用いる方法が挙げられている。
【0062】
銅板の一部がエッチングされると、接合層の一部がむき出しになる。ろう材エッチング工程では、接合層の露出した部分が除去される。また、ろう材の一部をむき出しにする際、露出したろう材の表面が酸化する可能性がある。銅板のエッチング工程によって、ろう材の表面に、反応生成物が生成される可能性もある。化学研磨工程は、ろう材の表面に形成される酸化物または反応生成物を除去するために行われる。化学研磨工程を行うことで、続いて実行されるろう材エッチング工程において、接合層を効率的に除去できる。
【0063】
RSmなどの制御には、ろう材エッチング液のエッチング量を増やすことが有効である。ろう材エッチング液のエッチング量を増やす方法としては、ろう材エッチング液のエッチングレートを高くすること、ろう材エッチング液のエッチングレートの低下を抑制すること、エッチング時間を長くすること、から選ばれる1種以上が有効である。
【0064】
ろう材エッチング液として、過酸化水素を含有するpH6以下の溶液が挙げられる。ろう材エッチング液のエッチングレートを高くするには、過酸化水素水の濃度を高くすることが有効である。前記エッチング液は、過酸化水素以外に、フッ化アンモニウムと、pH安定化剤とを含有していても良い。pH安定化剤として、HBF、EDTA、NTA、CyDTA、DTPA、TTHA、GEDTA、グリシン、ジカルボン酸、トリカルボン酸、オキシカルボン酸およびこれらの塩から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0065】
ろう材エッチング液のエッチングレートの低下を抑制するには、過酸化水素水の濃度が5質量%変化した際に、新しいエッチング液を投入する方法が有効である。これにより、ろう材エッチング液のエッチングレートの低下を抑制できる。ろう材エッチングのエッチング時間を長くすることも、RSmの制御に有効である。目安として、1回のろう材エッチング工程の時間は、15分以上に設定される。
【0066】
また、RSmなどの制御には、化学研磨工程により、接合層の取り除かれる量を増やすことが有効である。化学研磨工程により取り除かれる量を増やす方法としては、塩酸または硫酸の濃度を増やすこと、化学研磨工程を行う時間を長くすること、が挙げられる。例えば、過酸化水素と硫酸の組合せをろう材エッチング液に用いる場合、硫酸を5質量%以上にすることが挙げられる。塩酸をろう材エッチング液に用いる場合は、塩酸を7質量%以上にする方法が挙げられる。化学研磨工程を行う時間を、5分以上にすることも有効である。
【0067】
上記のろう材エッチング工程および化学研磨工程は、組合わせて実行されても良い。つまり、化学研磨工程とろう材エッチング工程のそれぞれに対して、上記の方法が適用されても良い。また、化学研磨工程およびろう材エッチング工程は、交互に実行されても良い。この場合、複数の化学研磨工程のうち最後の化学研磨工程に上記の方法が適用され、複数のろう材エッチング工程のうち最後のろう材エッチング工程に上記の方法が適用されることが有効である。
【0068】
最後のろう材エッチング工程は、接合層を完全に除去する工程となる。活性金属接合法によりセラミックス基板2と金属板が接合される場合、活性金属を主成分とする層が形成される。活性金属としてTi、セラミックス基板として窒化珪素基板が用いられる場合、活性金属を主成分とする層は窒化チタン(TiN)層となる。接合層に、活性金属を主成分とする層が形成されることにより、接合強度が向上する。一方で、活性金属を主成分とする層は導電性を有しているため、セラミックス回路基板1に残存すると、金属部3同士の導通不良の原因となる可能性がある。このため、活性金属を主成分とする層を取り除く必要がある。エッチング工程または化学研磨工程において、取り除かれる量を増やすことにより、活性金属を主成分とする層と、その下のセラミックス基板表面の一部と、を取り除くことができる。これにより、RSm等の制御を行うことができる。
【0069】
予め回路形状の金属板をセラミックス基板2に接合し、エッチング工程を行わない場合は、金属板同士の隙間部に対して、化学研磨工程を施すことが有効である。また、必要に応じ、第2領域をブラスト処理や研磨工程を施してRSm等の制御を行う方法も有効である。
【0070】
以上の工程により、実施形態に係るセラミックス回路基板1を製造することができる。さらに、セラミックス回路基板1に半導体素子7などを実装することにより、半導体装置10を製造することができる。必要に応じ、半導体装置10には、モールド樹脂8が設けられる。
【0071】
(実施例1~7、比較例1~2)
実施例1~6にかかるセラミックス基板として、窒化珪素基板を用意した。窒化珪素基板の熱伝導率は90W/m・K、3点曲強度は700MPaである。窒化珪素基板の縦寸法は50mm、横寸法は40mm、厚さは0.32mmである。金属板として、厚さ0.8mmの銅板を用意した。
【0072】
次に、活性金属接合法を用いて窒化珪素基板と銅板の接合体(窒化珪素回路基板)を製造した。窒化珪素基板の両面に、厚さ0.8mmの銅板をそれぞれ接合した。活性金属ろう材の組成は、表1に示す通りである。
【0073】
実施例7にかかるセラミックス基板として、窒化アルミニウム基板を用意した。窒化アルミニウム基板の熱伝導率は170W/m・K、3点曲強度は400MPaである。金属板として、厚さ0.4mmの銅板を用意した。活性金属接合法を用いて、窒化アルミニウム基板の両面に、厚さ0.4mmの銅板をそれぞれ接合し、接合体(窒化アルミニウム回路基板)を製造した。また、比較例1として、窒化珪素回路基板を製造した。比較例2として、窒化アルミニウム回路基板を製造した。
【0074】
【表1】
【0075】
次に、エッチング工程により、銅板に回路形状を付与し、金属部3を形成した。実施例に係るセラミックス回路基板については、ろう材エッチング液のエッチング量を増やす方法、または化学研磨工程により取り除かれる量を増やす方法を用いた。
【0076】
製造されたセラミックス回路基板において、第2領域r2の合計面積(%)は表2に示した通りである。なお、第2領域r2の合計面積(%)は、(各第2領域r2の面積の合計/第1面2aの表面積)×100(%)により算出した。第1面2aの表面積は、縦50mm×横40mm=2000mmである。また、第2領域r2におけるRSm、Rp、Rvを測定した。RSm、Rp、及びRvの測定方法は、前述の通りである。
【0077】
【表2】
【0078】
実施例に係るセラミックス回路基板では、RSmを40μm以上とした。また、Rpを1.0μm以上とし、Rvを1.0μm以上とした。比較例1および比較例2では、RSmを40μm未満とした。
【0079】
次に、実施例および比較例に係るセラミックス回路基板に半導体素子を実装して半導体装置を製造した。半導体装置に対して、モールド樹脂を設けた。モールド樹脂を設けた半導体装置に対して、Agマイグレーション特性および樹脂密着性を測定した。
【0080】
Agマイグレーション特性の評価では、高温高湿の雰囲気中で半導体装置に電圧を印加し、Agマイグレーション痕の発生割合を測定した。測定装置として、エスペック社エレクトロケミカルマイグレーション評価システムを用いた。温度85℃、湿度85%の環境下で、印加電圧AC2000V(ピーク電圧2820V)を連続で40時間、半導体装置に加える。セラミックス回路基板の表面におけるAgマイグレーション痕の有無を調べた。
【0081】
各実施例および各比較例において、100個の半導体装置を評価した。各例において、少なくとも1つのAgマイグレーション痕が存在する半導体装置の数をカウントした。カウントされた数が0だった例を、「最良」とした。カウントされた数が1以上10以下だった例を、「良」とした。カウントされた数が11以上だった例を、「不良」とした。
【0082】
樹脂密着性について、TCT試験(熱サイクル試験)後のモールド樹脂のはがれの有無を測定した。TCT試験では、-40℃×30分→室温(25℃)×10分→175℃×30分→室温(25℃)×10分を1サイクルとし、300サイクル後のモールド樹脂のはがれの有無を測定した。超音波探傷法(SAT)により、第2領域r2の表面における樹脂はがれの有無を測定した。モールド樹脂のはがれ率(%)は、(第2領域r2において樹脂が剥がれているの合計/第2領域r2の合計面積)×100により計算した。その結果を表3に示す。
【0083】
【表3】
【0084】
表3から分かるように、実施例に係る半導体装置では、セラミックス基板と樹脂との密着性が良好であった。特許文献2のように銅板に凹部を設けなくても、密着性が改善されていた。このため、実施形態によれば、半導体素子を実装する面積の減少を抑制できる。
【0085】
実施例6および実施例7のように、RSmが40μm以上100μm以下を外れると、樹脂はがれが発生していた。このため、RSmは、40μm以上100μm以下の範囲内が好ましいことが分かる。また、Agレスろう材を用いた実施例4~7では、Agイオンマイグレーションが発生しなかった。この点からすると、Agレスろう材を用いることが好ましい。言い換えると、Agレスろう材を用いることにより、Agイオンマイグレーション抑制とモールド樹脂の密着性向上を両立させることができる。それに対し、比較例1および比較例2では、RSmが小さいため、モールド樹脂の密着性が低下した。
【0086】
本発明の実施形態は、以下の構成を含みうる。
(構成1)
第1面を有するセラミックス基板と、
前記第1面の複数の第1領域にそれぞれ設けられた複数の金属部と、を備え、
前記第1面は、隣り合う前記第1領域同士の間に位置する第2領域を有し、
前記第2領域における粗さ曲線要素の平均長さRSmは、40μm以上である、セラミックス回路基板。
(構成2)
前記第2領域における前記平均長さRSmは、100μm以下である、構成1に記載のセラミックス回路基板。
(構成3)
前記第2領域における面の粗さ曲線の最大山高さRpは、1.0μm以上である、構成1ないし構成2のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板。
(構成4)
前記第2領域における面の粗さ曲線の最大谷深さRvは、1.0μm以上である、構成1ないし構成3のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板。
(構成5)
前記第1面の表面積に対する1つ以上の前記第2領域の面積の和は、5%以上50%以下の範囲内である、構成1ないし構成4のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板。
(構成6)
前記セラミックス基板は窒化珪素基板である、構成1ないし構成5のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板。
(構成7)
前記複数の金属部のそれぞれは銅部材であり、
複数の前記銅部材は、Agを含まない複数の接合層を介して前記複数の第1領域にそれぞれ接合されている、構成1ないし構成6のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板。
(構成8)
前記第2領域における粗さ曲線の最大山高さRpが1.0μm以上、かつ、前記粗さ曲線の最大谷深さRvが1.0μm以上ある、構成7に記載のセラミックス回路基板。
(構成9)
前記第1面の表面積に対する1つ以上の前記第2領域の面積の和は、5%以上50%以下の範囲内である、構成8に記載のセラミックス回路基板。
(構成10)
構成1ないし構成9のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板と、
前記複数の金属部のいずれかの上に実装された半導体素子と、
を備えた半導体装置。
(構成11)
前記第2領域を覆うモールド樹脂をさらに備えた、構成10記載の半導体装置。
【0087】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0088】
1…セラミックス回路基板
2…セラミックス基板
2a…第1面(表面)
2b…第2面(裏面)
3,3a~3d…金属部
4…接合層
5…金属部(裏金属部)
6…接合層
7…半導体素子
8…モールド樹脂
10…半導体装置
r1…第1領域
r2…第2領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7