IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機株式会社の特許一覧

特許7654171時刻同期装置、時刻同期方法、通信システム、及び時刻同期プログラム
<>
  • 特許-時刻同期装置、時刻同期方法、通信システム、及び時刻同期プログラム 図1
  • 特許-時刻同期装置、時刻同期方法、通信システム、及び時刻同期プログラム 図2
  • 特許-時刻同期装置、時刻同期方法、通信システム、及び時刻同期プログラム 図3
  • 特許-時刻同期装置、時刻同期方法、通信システム、及び時刻同期プログラム 図4
  • 特許-時刻同期装置、時刻同期方法、通信システム、及び時刻同期プログラム 図5
  • 特許-時刻同期装置、時刻同期方法、通信システム、及び時刻同期プログラム 図6
  • 特許-時刻同期装置、時刻同期方法、通信システム、及び時刻同期プログラム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-21
(45)【発行日】2025-03-31
(54)【発明の名称】時刻同期装置、時刻同期方法、通信システム、及び時刻同期プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04L 7/00 20060101AFI20250324BHJP
【FI】
H04L7/00 990
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2024545039
(86)(22)【出願日】2022-10-03
(86)【国際出願番号】 JP2022036891
(87)【国際公開番号】W WO2024075144
(87)【国際公開日】2024-04-11
【審査請求日】2024-07-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002491
【氏名又は名称】弁理士法人クロスボーダー特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長川 大介
【審査官】阿部 弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/059138(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/059139(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
刻同期用の通信プロトコルを利用し、ネットワーク内で最も優先度が高い場合に基準時刻を配信する時刻同期装置であって、
前記通信プロトコルを利用して前記ネットワーク内において前記時刻同期装置の前記優先度が最も高いことを把握した場合に、前記時刻同期装置の前記優先度を引き上げる優先度制御部を備える時刻同期装置。
【請求項2】
前記優先度制御部は、配信された基準時刻を前記時刻同期装置が受信した場合に前記時刻同期装置の前記優先度を引き上げる請求項1に記載の時刻同期装置。
【請求項3】
前記優先度制御部は、前記時刻同期装置の前記優先度を一度引き上げた後、再度、前記通信プロトコルを利用して前記ネットワーク内において前記時刻同期装置の前記優先度が最も高いことを把握した場合と、再度、配信された基準時刻を前記時刻同期装置が受信した場合とのいずれにおいても、前記時刻同期装置の前記優先度を引き上げない請求項1又は2に記載の時刻同期装置。
【請求項4】
前記優先度制御部は、前記時刻同期装置に初期設定された前記優先度が引き上げられたことがない場合に、前記時刻同期装置の前記優先度を引き上げる請求項1又は2に記載の時刻同期装置。
【請求項5】
前記時刻同期装置の前記優先度は、前記ネットワーク内の他の時刻同期装置のいずれの前記優先度とも異なる請求項1又は2に記載の時刻同期装置。
【請求項6】
前記ネットワーク内の各時刻同期装置は、前記ネットワーク内の各時刻同期装置の前記優先度を示すデータであって、前記通信プロトコルに従うデータである通知データを、前記ネットワーク内の他の時刻同期装置に周期的に送信し、
前記優先度制御部は、前記時刻同期装置の前記優先度が、前記時刻同期装置前記ネットワーク内の他の時刻同期装置から過去周期時間内に受信したいずれの通知データが示す前記優先度よりも高い場合に、前記ネットワーク内において前記時刻同期装置の前記優先度が最も高いと判断する請求項に記載の時刻同期装置。
【請求項7】
前記ネットワーク内において前記優先度が最も高い時刻同期装置であるグランドマスタ局から、前記グランドマスタ局が管理している時刻を示すデータであって、前記通信プロトコルに従うデータである同期データを前記時刻同期装置が受信し、前記時刻同期装置が管理している時刻が、受信した同期データが示す時刻に同期された場合に、前記優先度制御部は前記時刻同期装置の前記優先度を引き上げる請求項1又は2に記載の時刻同期装置。
【請求項8】
前記ネットワーク内の各時刻同期装置の前記優先度について、前記通信プロトコルを利用して前記ネットワーク内の他の時刻同期装置のいずれかが管理している時刻と同期した時刻同期装置と、前記ネットワーク内において前記優先度が最も高い時刻同期装置とのいずれかである各時刻同期装置に設定される前記優先度の最低値は、前記通信プロトコルを利用して前記ネットワーク内の他の時刻同期装置のいずれかが管理している時刻と同期した時刻同期装置と、前記ネットワーク内において前記優先度が最も高い時刻同期装置とのいずれでもない各時刻同期装置の前記優先度の最高値よりも高い請求項1又は2に記載の時刻同期装置。
【請求項9】
前記通信プロトコルはIEEE802.1ASである請求項1又は2に記載の時刻同期装置。
【請求項10】
求項1又は2に記載の複数の時刻同期装置と、
前記ネットワーク内の各時刻同期装置に対して前記通信プロトコルに関する設定を実行する設定装置と
を備える通信システム。
【請求項11】
刻同期用の通信プロトコルを利用し、ネットワーク内で最も優先度が高い場合に基準時刻を配信する時刻同期装置であるコンピュータが、前記通信プロトコルを利用して前記ネットワーク内において前記時刻同期装置の前記優先度が最も高いことを把握した場合に、前記時刻同期装置の前記優先度を引き上げる時刻同期方法。
【請求項12】
刻同期用の通信プロトコルを利用し、ネットワーク内で最も優先度が高い場合に基準時刻を配信する時刻同期装置であるコンピュータが実行する時刻同期プログラムであって、
前記通信プロトコルを利用して前記ネットワーク内において前記時刻同期装置の前記優先度が最も高いことを把握した場合に、前記時刻同期装置の前記優先度を引き上げる優先度制御処理を前記コンピュータに実行させる時刻同期プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、時刻同期装置、時刻同期方法、通信システム、及び時刻同期プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
FA(Factory Automation)ネットワークにおける時刻同期用の通信プロトコルでは、GPS(Global Positioning System)のように精度が高い時刻同期ソースを持たない局が多いため、現在時刻から大幅にずれた基準時刻が配信されることがある。基準時刻は周期的な制御タイミングの基準として用いられることがあり、基準時刻が大幅に変更されることにより基準時刻が不連続になると制御が適切に行われなくなることがある。
特許文献1は、管理マスタに指定された通信局がネットワーク内で最も優先度が高い通信局に対して優先度を最も高くするための通信を実行する技術を開示している。当該技術により、優先度が最も高い通信局以外の通信局が基準時刻を配信する通信局(以下、グランドマスタ局)になることを防ぐことができるため、大幅な時刻の変更を防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2020-089962号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1が開示している技術では、優先度を最も高くするための通信を解釈する必要がある。そのため、対象通信局が時刻同期用の通信プロトコルしか解釈することができない場合に、対象通信局の優先度をネットワーク内で最も高い値に設定することができない。従って、対象通信局に設定されている優先度よりも高く、対象通信局に本来設定されるべき優先度よりも低い優先度が設定されている通信局がネットワークに接続されると、後から接続された通信局がグランドマスタ局となり、その結果対象通信局において大幅な時刻変更が引き起こされることがあった。
【0005】
本開示は、対象通信局が時刻同期用の通信プロトコルしか解釈することができない場合であっても、対象通信局が対象通信局に設定されている優先度を変更することができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る時刻同期装置は、
刻同期用の通信プロトコルを利用し、ネットワーク内で最も優先度が高い場合に基準時刻を配信する時刻同期装置であって、
前記通信プロトコルを利用して前記ネットワーク内において前記時刻同期装置の前記優先度が最も高いことを把握した場合に、前記時刻同期装置の前記優先度を引き上げる優先度制御部を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、対象通信局には時刻同期用の通信プロトコルによって優先度が設定されている。また、時刻同期装置が備える優先度制御部は、同期条件が対象通信局において満たされた場合に、対象通信局に設定されている優先度を引き上げる。従って、本開示によれば、対象通信局が時刻同期用の通信プロトコルしか解釈することができない場合であっても、対象通信局が対象通信局に設定されている優先度を変更することができるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1に係る通信システム90の構成例を示す図。
図2】実施の形態1に係る時刻同期装置100のハードウェア構成例を示す図。
図3】実施の形態1に係る通信システム90の動作を説明する図。
図4】実施の形態1に係る時刻同期装置100の動作を示すフローチャート。
図5】実施の形態1に係る時刻同期装置100の動作を示すフローチャート。
図6】実施の形態1の変形例を説明する図。
図7】実施の形態1の変形例に係る時刻同期装置100のハードウェア構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態の説明及び図面において、同じ要素及び対応する要素には同じ符号を付している。同じ符号が付された要素の説明は、適宜に省略又は簡略化する。図中の矢印はデータの流れ又は処理の流れを主に示している。また、「部」を、「装置」、「回路」、「工程」、「手順」、「処理」又は「サーキットリー」に適宜読み替えてもよい。
【0010】
実施の形態1.
以下、本実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
***構成の説明***
図1は、本実施の形態に係る通信システム90の構成例を示している。通信システム90は、図1に示すように複数の通信局91と設定装置92を備える。なお、通信システム90に対して新たに通信局91が接続されることがある。
【0012】
複数の通信局91は通信ネットワーク内に存在している。各通信局91は、少なくとも1つの他の通信局91と有線又は無線により通信可能に接続している。
複数の通信局91は、複数の通信局91間で時刻同期用の通信プロトコルを利用して時刻を同期する。時刻同期用の通信プロトコルは、優先度に関する規定を含み、典型的には、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)802.1AS、又はIEEE802.1ASの派生に相当する通信プロトコルである。IEEE802.1ASはgPTP(Generalized Precision Time Protocol)とも呼ばれる。時刻同期用の通信プロトコルがIEEE802.1ASである場合において、各通信局91は、通信ケーブル等を用いて他の通信局91との間でAnnounceフレームとSyncフレームとを送受信することができる。
各通信局91は時刻同期用の通信プロトコルを利用し、各通信局91には時刻同期用の通信プロトコルによって優先度が設定されている。通信システム90が備える通信局91のうち、最も高い優先度が設定されている通信局91がグランドマスタ局である。グランドマスタ局が示す時刻は基準時刻であり、各通信局91は基準時刻に同期する。通信局91の優先度は、時刻同期において通信局91が管理している時刻が基準時刻となる度合いを示す。通信システム90において、各通信局91の時刻情報192が示す時刻は、より高い優先度を有する通信局91の時刻情報192が示す時刻に同期される。各通信局91に設定されている優先度は、通信システム90が備える他のいずれの通信局91に設定されている優先度とも異なる。なお、複数の通信局91間で設定されている優先度の値が重複していてもよい。複数の通信局91間で設定されている優先度の値が重複している場合において、各通信局91のMAC(Media Access Control)アドレス等を利用することによって複数の通信局91の優先度間には上下関係が一意に定まるものとする。
各通信局91は、通知データを、通信システム90が備える他の通信局91に周期的に送信する。通知データは、各通信局91に設定されている優先度を示すデータであって、時刻同期用の通信プロトコルに従うデータである。
【0013】
設定装置92は、各通信局91と通信可能に接続しており、各通信局91に対して時刻同期用の通信プロトコルに関する設定と、各通信局91のその他の機能に関する設定とを実行する。設定装置92は、複数存在してもよく、通信局91と一体的に構成されていてもよい。
【0014】
各通信局91は時刻同期装置100を備える。通信局91と時刻同期装置100とは一体的に構成されていてもよい。時刻同期装置100は、図1に示すように、通信部110と、通知データ送信部120と、通知データ受信部130と、同期データ送信部140と、同期データ受信部150と、優先度制御部160とを備える。また、通信局91は、優先度情報191と時刻情報192とを保有する。
通信部110は、通信ポートであり、通信フレームの送受信を行う。通信部110は複数の通信ポートを備えてもよい。
通知データ送信部120は、優先度情報191を格納したデータであるAnnounceフレームを、他の通信局91に対して通信部110を介して定期的に送信する。Announceフレームは通知データとも呼ばれる。
通知データ受信部130は、通知データ受信部130を備える通信局91の優先度よりも高い優先度を示すAnnounceフレームの受信期間を監視する。
同期データ送信部140は、時刻情報192を格納したデータであるSyncフレームを必要に応じて定期的に送信する。Syncフレームは同期データとも呼ばれる。
同期データ受信部150は、Syncフレームを受信した場合に、受信したSyncフレームに格納されている基準時刻に時刻情報192が示す時刻を同期する。
優先度制御部160は、同期条件が優先度制御部160を備える通信局91である対象通信局において満たされた場合に、対象通信局に設定されている優先度を引き上げる。同期条件は、対象通信局と、通信システム90が備える他の通信局91との間で通信プロトコルを利用して時刻を同期することに対応する条件である。同期条件は、時刻を同期することを決定したことに対応する条件であってもよく、時刻の同期が完了したことに対応する条件であってもよい。各通信局91に設定されている優先度の中で対象通信局に設定されている優先度が最も高いと判断された場合に、同期条件が対象通信局において満たされる。優先度制御部160は、対象通信局に設定されている優先度が、対象通信局が他の通信局91から過去周期時間内に受信したいずれの通知データが示す優先度よりも高い場合に、通信システム90が備える各通信局91に設定されている優先度の中で対象通信局に設定されている優先度が最も高いと判断してもよい。また、各通信局91に設定されている優先度の中で最も高い優先度が設定されていると判断された通信局91であるグランドマスタ局から同期データを対象通信局が受信し、対象通信局が管理している時刻が、受信した同期データが示す時刻に同期された場合に、同期条件が対象通信局において満たされる。同期データは、グランドマスタ局が管理している時刻を示すデータであって、時刻同期用の通信プロトコルに従うデータである。優先度制御部160は、対象通信局の優先度を過去に引き上げたことがない場合、即ち対象通信局に初期設定された優先度が引き上げられたことがない場合に、対象通信局の優先度を引き上げる。
優先度情報191は、優先度情報191を保有している通信局91の優先度を示す情報である。
時刻情報192は、時刻情報192を保有している通信局91が管理している時刻を示す情報であり、当該通信局91における現在時刻を示す情報である。
【0015】
図2は、本実施の形態に係る時刻同期装置100のハードウェア構成例を示している。時刻同期装置100はコンピュータから成る。時刻同期装置100は複数のコンピュータから成ってもよい。
【0016】
時刻同期装置100は、本図に示すように、プロセッサ11と、メモリ12と、補助記憶装置13と、入出力IF(Interface)14と、通信装置15等のハードウェアを備えるコンピュータである。これらのハードウェアは、信号線19を介して適宜接続されている。
【0017】
プロセッサ11は、演算処理を行うIC(Integrated Circuit)であり、かつ、コンピュータが備えるハードウェアを制御する。プロセッサ11は、具体例として、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、又はGPU(Graphics Processing Unit)である。
時刻同期装置100は、プロセッサ11を代替する複数のプロセッサを備えてもよい。複数のプロセッサはプロセッサ11の役割を分担する。
【0018】
メモリ12は、典型的には揮発性の記憶装置であり、具体例としてRAM(Random Access Memory)である。メモリ12は、主記憶装置又はメインメモリとも呼ばれる。メモリ12に記憶されたデータは、必要に応じて補助記憶装置13に保存される。
【0019】
補助記憶装置13は、典型的には不揮発性の記憶装置であり、具体例として、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、又はフラッシュメモリである。補助記憶装置13に記憶されたデータは、必要に応じてメモリ12にロードされる。
メモリ12及び補助記憶装置13は一体的に構成されていてもよい。
【0020】
入出力IF14は、入力装置及び出力装置が接続されるポートである。入出力IF14は、具体例として、USB(Universal Serial Bus)端子である。入力装置は、具体例として、キーボード及びマウスである。出力装置は、具体例として、ディスプレイである。
【0021】
通信装置15は、レシーバ及びトランスミッタである。通信装置15は、具体例として、通信チップ又はNIC(Network Interface Card)である。
【0022】
通信部110は入出力IF14及び通信装置15から成る。時刻同期装置100の各部は、他の装置等と通信する際に、入出力IF14及び通信装置15を適宜用いてもよい。
【0023】
補助記憶装置13は時刻同期プログラムを記憶している。時刻同期プログラムは、時刻同期装置100が備える各部の機能をコンピュータに実現させるプログラムである。時刻同期プログラムは、メモリ12にロードされて、プロセッサ11によって実行される。時刻同期装置100が備える各部の機能は、ソフトウェアにより実現される。
【0024】
時刻同期プログラムを実行する際に用いられるデータと、時刻同期プログラムを実行することによって得られるデータ等は、記憶装置に適宜記憶される。時刻同期装置100の各部は記憶装置を適宜利用する。記憶装置は、具体例として、メモリ12と、補助記憶装置13と、プロセッサ11内のレジスタと、プロセッサ11内のキャッシュメモリとの少なくとも1つから成る。なお、データという用語と情報という用語とは同等の意味を有することもある。記憶装置はコンピュータと独立したものであってもよい。
メモリ12及び補助記憶装置13の機能は、他の記憶装置によって実現されてもよい。
【0025】
時刻同期プログラムは、コンピュータが読み取り可能な不揮発性の記録媒体に記録されていてもよい。不揮発性の記録媒体は、具体例として、光ディスク又はフラッシュメモリである。時刻同期プログラムは、プログラムプロダクトとして提供されてもよい。
【0026】
***動作の説明***
時刻同期装置100の動作手順は時刻同期方法に相当する。また、時刻同期装置100の動作を実現するプログラムは時刻同期プログラムに相当する。
【0027】
図3は、通信システム90の動作の一例を説明するためのシーケンス図である。通信局Aと通信局Bと通信局Cと通信局Dとの各々は通信局91の具体例である。本例では、初期状態において、通信局Aの優先度は1であり、通信局Bの優先度は3であり、通信局Cの優先度は2であり、通信局Dの優先度は4である。優先度の最低値は0であり、優先度の最高値は255である。また、初期状態において、通信局Aと通信局Bと通信局Cとは通信システム90のネットワークに接続されているものの、通信局Dは当該ネットワークに接続されていない。
以下、通信システム90の動作を説明する。
まず、通信局Aは、Announceフレームを送信することによって通信局Aの優先度を通信局B及び通信局Cに通知する。
次に、通信局Bは、Announceフレームを送信することによって通信局Bの優先度を通信局A及び通信局Cに通知する。
次に、通信局Cは、Announceフレームを送信することによって通信局Cの優先度を通信局A及び通信局Bに通知する。
その結果、通信局Aと通信局Bと通信局Cとの各々はこれら3つの通信局の中で通信局Bの優先度が最も高いことを把握し、通信システム90において通信局Bがグランドマスタ局になる。従って、通信局Bは、通信局Bの優先度を引き上げ、通信局Bが管理している時刻を基準時刻とし、Syncフレームを送信することによって通信局Aと通信局Cとに基準時刻を通知する。このとき、通信局Bは、通信局Bの優先度を、ネットワークに接続されていない通信局の優先度よりも高くする。
次に、通信局Aは、通信局Aが管理している時刻を通知された基準時刻に同期し、また、通信局Aの優先度を引き上げる。通信局Cは通信局Aの処理と同様の処理を実行する。
ここで、通信局Dがネットワークに接続されたものする。このとき、各通信局91は、Announceフレームを送信することによって各通信局91の優先度を他の通信局91に通知する。ここで、通信局Dの優先度は他の通信局91の優先度よりも低いため、通信局Dがグランドマスタ局になることはない。従って、通信局Dがネットワークに接続された後に、通信局Aと通信局Bと通信局Cとの各々が管理している時刻が大幅に変更されることはない。
【0028】
図4及び図5は、通信局91である対象通信局が備える時刻同期装置100の動作の一例を示すフローチャートである。図4及び図5を用いて時刻同期装置100の動作を説明する。
対象通信局は、時刻同期プロトコルIEEE802.1ASに従って通信し、対象通信局が同期後局になったときに対象通信局の優先度を引き上げる。同期後局は、通信プロトコルを利用して通信システム90が備える他の通信局91が管理している時刻と同期した通信局91と、通信システム90が備える各通信局91に設定されている優先度の中で最も高い優先度が設定されている通信局91とのいずれかである。即ち、同期後局は基準時刻と同期した通信局91又はグランドマスタ局となった通信局91である。
当該フローチャートの開始時点において対象通信局は同期前局である。同期前局は同期後局ではない通信局91である。なお、同期前局が管理している時刻は大幅に変更されても構わない。また、当該フローチャートの処理を実行することにより、通信システム90において同期前局がグランドマスタ局になることを防ぐことができる。
【0029】
(ステップS101)
通知データ送信部120は、Announceフレームの定期送信を開始し、優先度制御部160と同期データ送信部140との送信状態を「開始」に切り替える。ここで、Announceフレームの定期送信において、通知データ送信部120は他の通信局91に対して通信部110を介してAnnounceフレームを定期的に送信し、Announceフレームには対象通信局の優先度を示すデータを格納されており、通知データ送信部120がAnnounceフレームを送信する周期をTa(ms)とする。
【0030】
(ステップS102)
Ta前から現在までの間に通信部110が受信したAnnounceフレームの中で最も高い優先度を示すAnnounceフレームを送信した通信局91から通信部110がSyncフレームを受信した場合、時刻同期装置100はステップS113に進む。ここで、最も高い優先度は対象通信局の優先度よりも高いものとする。それ以外の場合、時刻同期装置100はステップS103に進む。Ta前から現在までの間は過去周期時間の具体例である。
【0031】
(ステップS103)
対象通信局の優先度よりも高い優先度を示すAnnounceフレームをTa前から現在までの間に通信部110が他の通信局91から受信した場合、通知データ受信部130は、「Announceフレーム受信あり」を通知データ送信部120と同期データ送信部140との各々に通知し、受信したAnnounceフレームが示す優先度と、受信したAnnounceフレームの送信元である通信局91とを同期データ受信部150に通知する。また、時刻同期装置100はステップS109に進む。
それ以外の場合、通知データ受信部130は「Announceフレーム受信なし」を通知データ送信部120と同期データ送信部140と優先度制御部160との各々に通知する。また、時刻同期装置100はステップS104に進む。
【0032】
(ステップS104)
通知データ送信部120がAnnounceフレームの定期送信を実行している場合、時刻同期装置100はステップS106に進む。それ以外の場合、時刻同期装置100はステップS105に進む。
【0033】
(ステップS105)
通知データ送信部120は、Announceフレームの定期送信を開始し、優先度制御部160と同期データ送信部140との送信状態を「開始」に切り替える。
【0034】
(ステップS106)
対象通信局の優先度を過去に引き上げたことがある場合、時刻同期装置100はステップS108に進む。それ以外の場合、時刻同期装置100はステップS107に進む。
なお、送信状態が「開始」である場合、かつ、通知データ受信部130が「Announceフレーム受信なし」を通知した場合において、対象通信局がグランドマスタ局となり、対象通信局が管理している時刻が基準時刻となる。
【0035】
(ステップS107)
優先度制御部160は、同期条件が対象通信局において満たされたと判断し、対象通信局の優先度を引き上げる。
【0036】
(ステップS108)
同期データ送信部140は、Syncフレームの定期送信を開始する。Syncフレームの定期送信において、同期データ送信部140は、他の通信局91に対して通信部110を介してSyncフレームを定期的に送信する。ここで、Syncフレームには基準時刻を示す情報が格納されている。
【0037】
(ステップS109)
通知データ送信部120がAnnounceフレームの定期送信を実行している場合、時刻同期装置100はステップS110に進む。それ以外の場合、時刻同期装置100はステップS111に進む。
【0038】
(ステップS110)
通知データ送信部120は、Announceフレームの定期送信を停止し、優先度制御部160と同期データ送信部140との送信状態を「停止」に切り替える。
【0039】
(ステップS111)
同期データ送信部140がSyncフレームの定期送信を実行している場合、時刻同期装置100はステップS112に進む。それ以外の場合、時刻同期装置100はステップS102に進む。
【0040】
(ステップS112)
同期データ送信部140は、Syncフレームの定期送信を停止する。
なお、同期データ送信部140が「Announceフレーム受信あり」を通知された場合において対象通信局はグランドマスタ局ではない。
【0041】
(ステップS113)
同期データ受信部150は、時刻情報192が示す時刻を基準時刻に同期させ、また、優先度制御部160に「Syncフレーム受信」を通知する。
【0042】
(ステップS114)
対象通信局の優先度を過去に引き上げたことがある場合、時刻同期装置100はステップS102に進む。それ以外の場合、時刻同期装置100はステップS115に進む。
なお、優先度制御部160が「Syncフレーム受信」を通知されることは、対象通信局が管理している時刻が基準時刻と同期されたことを意味する。
【0043】
(ステップS115)
優先度制御部160は、同期条件が対象通信局において満たされたと判断し、対象通信局の優先度を引き上げる。
【0044】
***実施の形態1の効果の説明***
以上のように、本実施の形態によれば、通信局91が時刻同期用の通信プロトコルであるIEEE802.1ASに従う通信のみを行う場合であっても、同期後局の優先度を同期前局の優先度よりも高くすることができる。そのため、大幅な時刻変更を行う可能性がある同期前局がグランドマスタ局になることを防ぐことができる。従って、本実施の形態によれば、通信システム90内に時刻同期用の通信プロトコルしか解釈することができない通信局91が存在する場合に、後から接続された通信局91がグランドマスタ局となり、その結果大幅な時刻変更を引き起こすことがあったという従来の課題を解決することができる。
また、制御が実行される時刻が指定されているときに不連続に時刻を変更した場合、実行すべき制御をスキップするリスクと、実行すべき制御を重複して実行するリスクとがある。本実施の形態によれば、これらのリスクを軽減することができる。
【0045】
***他の構成***
<変形例1>
各同期後局に設定される優先度の最低値は、各同期前局に設定される優先度の最高値よりも高くてもよい。
図6は、本変形例の実施例を説明する図である。本例において、優先度の範囲は図6に示すように同期後局と同期前局との間で二等分される。ここで、iは[数式1]に示す通りであり、最高値は優先度がとり得る値のうち最も大きな値であり、最低値は優先度がとり得る値のうち最も小さな値である。
同期前局には、図6に示す範囲内の優先度が初期設定される。
優先度制御部160は、図6に示す範囲内の優先度として、同期後局の優先度を[数式2]により算出する。なお、優先度制御部160はステップS107及びステップS115において[数式2]を用いる。
【0046】
[数式1]
i=[(最高値+最低値-1)/2] ([]はガウス記号)
[数式2]
同期後局の優先度=最高値-(i-同期前局の優先度)
【0047】
本変形例によれば、同期前局の優先度と同期後局の優先度とが重複しないように各通信局91に対して優先度を設定することができる。さらに、本変形例によれば、同期前局の優先度から、同期後局の優先度を比較的容易に導出することができる。
【0048】
<変形例2>
図7は、本変形例に係る時刻同期装置100のハードウェア構成例を示している。
時刻同期装置100は、プロセッサ11、プロセッサ11とメモリ12、プロセッサ11と補助記憶装置13、あるいはプロセッサ11とメモリ12と補助記憶装置13とに代えて、処理回路18を備える。
処理回路18は、時刻同期装置100が備える各部の少なくとも一部を実現するハードウェアである。
処理回路18は、専用のハードウェアであってもよく、また、メモリ12に格納されるプログラムを実行するプロセッサであってもよい。
【0049】
処理回路18が専用のハードウェアである場合、処理回路18は、具体例として、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)又はこれらの組み合わせである。
時刻同期装置100は、処理回路18を代替する複数の処理回路を備えてもよい。複数の処理回路は、処理回路18の役割を分担する。
【0050】
時刻同期装置100において、一部の機能が専用のハードウェアによって実現されて、残りの機能がソフトウェア又はファームウェアによって実現されてもよい。
【0051】
処理回路18は、具体例として、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はこれらの組み合わせにより実現される。
プロセッサ11とメモリ12と補助記憶装置13と処理回路18とを、総称して「プロセッシングサーキットリー」という。つまり、時刻同期装置100の各機能構成要素の機能は、プロセッシングサーキットリーにより実現される。
【0052】
***他の実施の形態***
実施の形態1について説明したが、本実施の形態のうち、複数の部分を組み合わせて実施しても構わない。あるいは、本実施の形態を部分的に実施しても構わない。その他、本実施の形態は、必要に応じて種々の変更がなされても構わず、全体としてあるいは部分的に、どのように組み合わせて実施されても構わない。
なお、前述した実施の形態は、本質的に好ましい例示であって、本開示と、その適用物と、用途の範囲とを制限することを意図するものではない。フローチャート等を用いて説明した手順は適宜変更されてもよい。
【符号の説明】
【0053】
11 プロセッサ、12 メモリ、13 補助記憶装置、14 入出力IF、15 通信装置、18 処理回路、19 信号線、90 通信システム、91 通信局、92 設定装置、100 時刻同期装置、110 通信部、120 通知データ送信部、130 通知データ受信部、140 同期データ送信部、150 同期データ受信部、160 優先度制御部、191 優先度情報、192 時刻情報。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7