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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-21
(45)【発行日】2025-03-31
(54)【発明の名称】レーザレーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/39 20060101AFI20250324BHJP
   H01S 5/12 20210101ALI20250324BHJP
   H01S 3/13 20060101ALI20250324BHJP
   H01S 3/00 20060101ALI20250324BHJP
【FI】
G01N21/39
H01S5/12
H01S3/13
H01S3/00 F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024573081
(86)(22)【出願日】2023-07-31
(86)【国際出願番号】 JP2023027891
【審査請求日】2024-12-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原口 英介
(72)【発明者】
【氏名】辻 秀伸
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-127514(JP,A)
【文献】特許第7205010(JP,B1)
【文献】特表2014-523002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/39
H01S 3/00
H01S 3/13
H01S 5/12
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出力する単一の基準光源と、
前記基準光源から出力されたレーザ光に対し2つ以上の側帯波を発生させ、側帯波を発生させたレーザ光を出力する側帯波発生器と、
前記側帯波発生器から出力されたレーザ光、または前記基準光源から出力されたレーザ光を2系統に分配する光分配器と、
その分配されたレーザ光の一方に基準信号を用いて光位相変調を行う第1の光位相変調器と、
その光位相変調がなされたレーザ光が透過されるガスセルまたはエタロンと、
その透過したレーザ光を電気信号に変換する光受信器と、
その変換された電気信号と前記基準信号から誤差信号を生成するミキサと、
その生成された誤差信号を用いて、前記基準光源のレーザ光の波長を予め定められた波長にロックするフィードバック回路と、
前記光分配器により分配されたレーザ光の他方のパワーを安定化する光増幅器と、
を備えるレーザレーダ装置。
【請求項2】
前記側帯波発生器は第2の光位相変調器である、
請求項1に記載されたレーザレーダ装置。
【請求項3】
レーザ光を出力する単一の基準光源と、
前記基準光源から出力されたレーザ光に対し2つ以上の側帯波を発生させ、側帯波を発生させたレーザ光を出力する側帯波発生器と、
前記側帯波発生器から出力されたレーザ光、または前記基準光源から出力されたレーザ光を2系統に分配する光分配器と、
その分配されたレーザ光の一方に基準信号を用いて光位相変調を行う第1の光位相変調器と、
その光位相変調がなされたレーザ光が透過されるガスセルまたはエタロンと、
その透過したレーザ光を電気信号に変換する光受信器と、
その変換された電気信号と前記基準信号から誤差信号を生成するミキサと、
その生成された誤差信号を用いて、前記基準光源のレーザ光の波長を予め定められた波長にロックするフィードバック回路と、
を備え、
前記2つ以上の側帯波は、前記基準光源のレーザ光に対し、低周波側の側帯波と、観測に用いる高周波側の側帯波とを含み、
前記誤差信号は、前記低周波側の側帯波を用いて生成された、HCN吸収線からの誤差信号であり、
前記基準光源のレーザ光または前記高周波側の側帯波を大気に向けて照射し、大気中の水蒸気からの後方散乱光を受信する光アンテナと、
前記基準光源のレーザ光の受信信号と前記高周波側の側帯波の受信信号との差分から水蒸気量を算出する演算装置と、
を更に備えるレーザレーダ装置。
【請求項4】
前記側帯波発生器の周波数は20GHz以上である、
請求項3に記載されたレーザレーダ装置。
【請求項5】
レーザ光を出力する単一の基準光源と、
前記基準光源から出力されたレーザ光に対し2つ以上の側帯波を発生させ、側帯波を発生させたレーザ光を出力する側帯波発生器と、
前記側帯波発生器から出力されたレーザ光、または前記基準光源から出力されたレーザ光を2系統に分配する光分配器と、
その分配されたレーザ光の一方に基準信号を用いて光位相変調を行う第1の光位相変調器と、
その光位相変調がなされたレーザ光が透過されるガスセルまたはエタロンと、
その透過したレーザ光を電気信号に変換する光受信器と、
その変換された電気信号と前記基準信号から誤差信号を生成するミキサと、
その生成された誤差信号を用いて、前記基準光源のレーザ光の波長を予め定められた波長にロックするフィードバック回路と、
前記2つ以上の側帯波は、前記基準光源のレーザ光に対し、低周波側の側帯波と、観測に用いる高周波側の側帯波とを含み、
前記基準光源のレーザ光と前記観測に用いる側帯波とに対して異なる周波数シフト量を重畳する周波数シフタを更に備え、
その異なる周波数シフト量が与えられた基準光源のレーザ光と観測に用いる側帯波とを大気に向けて照射し、大気中の水蒸気からの後方散乱光を受信する光アンテナと、
コヒーレント受信後の周波数情報および強度情報から、水蒸気量を算出する演算装置と、
を更に備えるレーザレーダ装置。
【請求項6】
前記周波数シフタは第3の光位相変調器である、
請求項5に記載されたレーザレーダ装置。
【請求項7】
前記側帯波発生器は光コム発生器であり、
前記光分配器は、前記基準光源のレーザ光を2系統に分配し、
前記第1の光位相変調器は、前記基準光源のレーザ光の一方に前記基準信号を用いて光位相変調を行う、
請求項1から6のいずれか1項に記載されたレーザレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザレーダ装置に、より詳しくは差分吸収ライダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
差分吸収ライダ装置においては、観測対象とする気体分子による光吸収量が異なる2波長のレーザ光を照射して、気体分子からの散乱光の受信強度比に基づいて気体分子の濃度を計測する。このレーザ光の波長のずれは観測に大きな影響を与えるため、波長制御は最も重要な要素の一つである。
【0003】
特許文献1には、複数の光源を用いた差分吸収ライダ装置において、この複数の光源から出力されるレーザ光の波長を安定化する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2022-127514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているような複数の光源を用いた構成では、光源の個体差または駆動ドライバの特性に応じて、光源から発せられるレーザ光の光周波数雑音特性が光源間で異なるため、レーザレーダ装置の測定精度が低下するという課題がある。
【0006】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものであり、測定精度の低下を抑制できるレーザレーダ装置を構築することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の実施形態によるレーザレーダ装置は、レーザ光を出力する単一の基準光源と、前記基準光源から出力されたレーザ光に対し2つ以上の側帯波を発生させ、側帯波を発生させたレーザ光を出力する側帯波発生器と、前記側帯波発生器から出力されたレーザ光、または前記基準光源から出力されたレーザ光を2系統に分配する光分配器と、その分配されたレーザ光の一方に基準信号を用いて光位相変調を行う光位相変調器と、その光位相変調がなされたレーザ光が透過されるガスセルまたはエタロンと、その透過したレーザ光を電気信号に変換する光受信器と、その変換された電気信号と前記基準信号から誤差信号を生成するミキサと、その生成された誤差信号を用いて、前記基準光源のレーザ光の波長を予め定められた波長にロックするフィードバック回路と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の実施形態によるレーザレーダ装置によれば、測定精度の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】レーザレーダ装置の構成例を示す構成図である。
図1B】トリガ信号および光周波数シフタ駆動信号の波形図である。
図2】外部変調後の光スペクトラムの概念図である。
図3】波長制御器が備える光位相変調器による変調後の光スペクトラムの概念図である。
図4図4A図4Dは光スイッチの動作の様子を示す図である。図4Aは、光スイッチに入力される前のON光の強度を示す図である。図4Bは、光スイッチに入力される前のOFF光の強度を示す図である。図4Cは、光スイッチを駆動する光スイッチ駆動信号を示す図である。図4Dは、光スイッチから出力されるレーザ光の強度を示す図である。
図5】レーザレーダ装置の構成例を示す図である。
図6図6A図6Dは光周波数シフタ(光位相変調器)の動作の様子を示す図である。図6Aは、ON光路の光周波数シフタ駆動信号を示す図である。図6Bは、OFF光路の光周波数シフタ駆動信号を示す図である。図6Cは、ON光路の出力光(G12)を示す図である。図6Dは、OFF光路の出力光(G12)を示す図である。図6Eは、半導体光増幅器のON光路の出力光(G14)を示す図である。図6Fは、半導体光増幅器のOFF光路の出力光(G14)を示す図である。
図7】受信信号スペクトラムを示す図である。
図8】レーザレーダ装置の構成例を示す図である。
図9】光コム発生器の入出力スペクトラムを示す図である。図9Aは、光コム発生器への入力スペクトラムを示す。図9Bは、光コム発生器の出力スペクトラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照して、本開示における種々の実施形態について詳細に説明する。なお、図面において同一または類似の符号を付された構成要素は、同一または類似の構成または機能を有するものであり、そのような構成要素についての重複する説明は省略する。また、本開示において、「または」との用語は、別段の記載が無い限り、包括的論理和の意味で用いる。
【0011】
実施の形態1.
<構成>
図1を参照して、実施の形態1によるレーザレーダ装置LR1について説明をする。図1は、実施の形態1によるレーザレーダ装置LR1の構成を示す構成図である。ここでは、一例として、計測する気体はHO、基準となる分子はHCNであると想定して説明をする。
【0012】
図1に示されているように、レーザレーダ装置LR1は、単一の基準光源1と、光分配器2と、光位相変調器3と、発振器4と、光分配器5と、波長制御器WLCと、光フィルタ12と、半導体光増幅器13と、光スイッチ14と、制御装置15と、光分配器16と、光周波数シフタ17と、パルス生成装置18と、光増幅器19と、光サーキュレータ20と、光アンテナ21と、光合波器22と、光受信器23と、演算装置24とを備える。
【0013】
(基準光源)
基準光源1は、光周波数fのレーザ光を発振し、発振したレーザ光を出力する。基準光源1として、例えば単一モードで連続発振可能なDFBレーザを用いることができる。レーザレーダ装置LR1は、従来技術が複数の光源を備えるのと異なり、単一の基準光源1を備える。基準光源1から出力されるレーザ光は、光導波路G1を介して、光分配器2へ伝送される。
【0014】
(光分配器)
光分配器2は、光導波路G1を介して受け付けるレーザ光を2つに分配して、分配後のレーザ光を出力する。分配後のレーザ光の一方は、光導波路G2を介して、光スイッチ14へ伝送される。光導波路G2は、本開示において、OFF光路25と称する場合がある。分配後のレーザ光の他方は、光導波路G3を介して、光位相変調器3へ伝送される。光導波路G3は、本開示において、ON光路26と称する場合がある。
【0015】
(光位相変調器;発振器)
光位相変調器3は、側帯波発生器の一例である。光位相変調器3は、ON光路26を介して受け付ける光周波数fのレーザ光に外部変調を行って側帯波を発生させ、側帯波を発生させたレーザ光を出力する変調器である。光位相変調器3として、例えばLN(LiNbO)位相変調器を用いることができる。また、発振器4は、周波数Δfの変調信号を発生して、発生させた変調信号を光位相変調器3へ供給する発振器である。一例として、周波数Δfは20GHz以上である。光位相変調器3が光周波数fのレーザ光に位相変調を印加することにより、光周波数fのレーザ光の側帯波(変調+側(高周波側):f+,変調-側(低周波側):f-)を発生させることができる。外部変調後の光スペクトラムの概念図を図2に示す。fおよびΔfを適切に設定することにより、例えば、f-の側帯波をHCNガスセルの吸収線にロックする波長ロックを行うことができる。光位相変調器3により側帯波を発生させたレーザ光は、光導波路G4を介して、光分配器5へ伝送される。
【0016】
(光分配器)
光分配器5は、光導波路G4を介して受け付ける光位相変調器3から出力されたレーザ光を2つに分配して、分配後のレーザ光を出力する。分配後のレーザ光の一方は、光導波路G5を介して、光位相変調器6へ伝送される。光導波路G5は、本開示において、波長誤差検出回路27と称する場合がある。分配後のレーザ光の他方は、光導波路G6を介して、光フィルタ12へ伝送される。光導波路G6は、本開示において、ON出力光路28と称する場合がある。
【0017】
(波長制御器)
波長制御器WLCは、側帯波を周波数基準光として波長安定化を行う波長制御器である。このような機能を実現するために、波長制御器WLCは、一例として、図1に示されているように、光位相変調器6と、基準発振器7と、ガスセル8と、光受信器9と、ミキサ10と、フィードバック回路11と、を備える。
【0018】
[光位相変調器;基準発振器]
光位相変調器6は、波長誤差検出回路27を介して受け付ける光位相変調器3から出力されたレーザ光にδfの光位相変調を更に重畳する変調器である。また、基準発振器7は、周波数δfの基準信号を発生させて光位相変調器3を駆動する発振器である。基準発振器7は、基準信号をミキサ10へも出力する。
【0019】
光位相変調器6による変調後の光スペクトラムの概念図を図3に示す。図3に示されているように、光周波数f、f、およびfのレーザ光のそれぞれに、さらに±δfだけ周波数シフトされたレーザ光が発生する。光位相変調器6によりδfが重畳された後のレーザ光は、光導波路G7を介して、ガスセル8へ伝送される。
【0020】
[ガスセル]
ガスセル8は、光吸収媒体が封入されたセルである。観測対象がHOの場合、HOの吸収率は小さいので、HOの代わりに吸収率の大きいシアン化水素(HCN)を封入する。ガスセル8を透過した後の透過レーザ光は、導波路G8を介して光受信器9へ伝送される。
【0021】
[光受信器9]
光受信器9は、導波路G8を介して透過レーザ光を検出し、検出したレーザ光を電気信号に変換する光受信器である。光受信器9は、変換後の電気信号(受信信号)を、ミキサ10へ伝送する。
【0022】
[ミキサ]
ミキサ10は、基準発振器7により生成された基準信号と、光受信器9からの受信信号とをミキシングして、δfに相当する誤差信号の成分を含む信号を生成するミキサである。
【0023】
[フィードバック回路]
フィードバック回路11は、ミキサ10により生成された信号から誤差信号を抽出して、基準光源1の発振周波数を調整するフィードバック制御を行う回路である。誤差信号の抽出は、不図示のローパスフィルタを用いて行う。フィードバック回路11は、抽出した誤差信号が0となるように、基準光源1の電流または温度を調整するフィードバック制御を行う。
【0024】
このようにして、f-の側帯波を、HCNの吸収線(予め定められた波長)にロックする波長ロックを行うことができる。f-の側帯波の周波数変動はf0のレーザ光の周波数変動によるものなので、f-の側帯波をHCNの吸収線へロックすることにより、f0のレーザ光をHCNの吸収線へf-の側帯波を介して間接的にロックする波長ロックを行うことができる。
【0025】
(光フィルタ)
光フィルタ12は、ON出力光路28を介して受け付ける光位相変調器3から出力されたレーザ光のうち、不要なレーザ光を抑圧して、f+の側帯波を抽出するフィルタである。光フィルタ12として、DWDM(Dense Wavelength Division Multiplexing)フィルタなどの光フィルタを用いることができる。抽出されたf+の側帯波は、光導波路G9を介して、半導体光増幅器13へ伝送される。
【0026】
(半導体光増幅器)
半導体光増幅器13は、光導波路G9を介して受け付けるf+の側帯波の出力光パワーを一定とする増幅器である。増幅されたf+の側帯波は、光導波路G10を介して光スイッチ14へ伝送される。
【0027】
(光スイッチ;制御装置)
光スイッチ14は、制御装置15から入力された光スイッチ駆動信号に従い、複数の光経路を切り替えて、ON光とOFF光の一方を選択的に出力するスイッチである。より具体的には、光スイッチ14は、光経路を切り替えることにより、大気中の分子に吸収される波長のレーザ光(ON光)と大気中の分子に吸収され難い波長のレーザ光(OFF光)とのいずれか一方を選択的に出力する。光スイッチ14により選択的に出力されたレーザ光は、光導波路G11を介して、光分配器16へと伝送される。
【0028】
(制御装置)
制御装置15は、光スイッチ駆動信号を生成して、生成した光スイッチ駆動信号を光スイッチ14へ供給する装置である。
【0029】
(光分配器)
光分配器16は、光導波路G11を介して受け付ける光スイッチ14から出力されたレーザ光を2つに分配して、分配後のレーザ光を出力する。分配後のレーザ光の一方は、光導波路G12を介して、光周波数シフタ17へ信号光として伝送される。光導波路G12は、本開示において、信号光路30と称する場合がある。分配後のレーザ光の他方は、光導波路G13を介して、光合波器22へ局発光として伝送される。光導波路G13は、本開示において、局発光路29と称する場合がある。
【0030】
(光周波数シフタ)
光周波数シフタ17は、パルス生成装置18からのトリガ信号によるタイミングで光周波数シフタ駆動回路18-1より出力されるパルス化された正弦波により駆動されることで、信号光路30を介して入力された信号光をパルス化するとともに、パルスONのタイミングにおいて、信号光の光周波数に対しあらかじめ設定された値の周波数シフトを付加する光周波数シフタである。光周波数シフタ17として、例えばAOM(Acousto Optic Modulator)を用いることができる。光周波数シフタ17により周波数シフトが付加されたパルス光は、光導波路G14を介して光増幅器19へ伝送される。
【0031】
(パルス生成装置)
パルス生成装置18は、光周波数シフタ17をパルス駆動するトリガ信号を生成して、生成したトリガ信号を光周波数シフタ駆動回路18-1へ供給する。
【0032】
(光周波数シフタ駆動回路)
光周波数シフト駆動回路18-1は、パルス生成装置18から出力されるトリガ信号に同期し、パルス化された正弦波を光周波数シフタ17へ供給する。
【0033】
パルス生成装置18が生成するトリガ信号、および光周波数シフト駆動回路18-1が出力するパルス化された正弦波である光周波数シフタ駆動信号の波形図を図1Bに示す。
【0034】
(光増幅器)
光増幅器19は、光導波路G14を介して入力される光周波数シフタ17から出力されたパルス光を増幅して、増幅したパルス光を出力する。光増幅器19として、例えばファイバ増幅器を用いることができる。光増幅器19により増幅されたパルス光は光導波路G15を介して光サーキュレータ20へ伝送される。
【0035】
(光サーキュレータ;光アンテナ)
光サーキュレータ20は、計測に用いる光導波路G16(「出力光路31」と称する場合がある。)と光導波路G16(「受信光路32」と称する場合がある。)とを分離する。出力光路31により表される送信光学系は、光増幅器19から出力されたパルス光を光アンテナ21から大気中に照射する。大気中のエアロゾルからの後方散乱光が光アンテナ21により受信光として受信され、受信光は光サーキュレータ20により受信光路32へ導かれる。受信光は、受信光路32を介して光合波器22へ伝送される。
【0036】
(光合波器)
光合波器22は、受信光路32を介して入力される受信光と、光導波路G13を介して入力される局発光とを合波して、合波された合波光を出力する光合波器である。光合波器22は、合波光を光導波路G18を介して光受信器23へ伝送する。
【0037】
(光受信器)
光受信器23は、光導波路G18を介して入力される合波光を検出して、検出した合波光を電気信号である受信信号に光電変換して、変換後の受信信号を演算装置24へ伝送する。
【0038】
(演算装置)
演算装置24は、ON光の受信信号の強度とOFF光の受信信号の強度との強度比に基づいて気体分子の濃度を算出する装置である。気体分子がHOの場合、演算装置24は、HOの濃度、すなわち水蒸気量を算出する。演算装置は、不図示のプロセッサとメモリを備えてもよい。プロセッサがメモリに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、水蒸気量を算出する。
【0039】
<動作>
次に、レーザレーダ装置LR1の動作について説明する。基準光源1から出力された光(光周波数f)は、光分配器2によりOFF光路25とON光路26に分配される。
【0040】
ON光路26では、発振器4が周波数Δfの変調信号を光位相変調器3に供給し、光位相変調器3が光周波数fのレーザ光に変調信号で位相変調を印加することにより、図2に示されているような側帯波(f+,f-)を発生させる。ここで、Δfおよびfは、発生する側帯波(変調-側:f-)がHCNガスセルの吸収線付近となるように決定する。本実施形態では、fを195,740.83GHz、Δfを25.02GHzとすることで、f-の側帯波をHCNのR17吸収線に、f+の側帯波をHOの吸収線にそれぞれ合わせることが可能となる。
【0041】
次に、側帯波を発生させたレーザ光は、光分配器5により波長誤差検出回路27とON出力光路28に分配される。波長誤差検出回路27では、波長制御器WLCの光位相変調器6により、δfの光位相変調がさらに重畳される。ここで、δfはHCN吸収線幅と同等(1GHzほど)である。波長制御器WLCは、HCNガスセルの吸収帯においては、一般的なPDH法(Pound-Drever-Hall)による検波を行う。また、波長制御器WLCは、吸収帯以外の周波数においては、光位相変調が重畳された場合の直接検波を行う。δfの側帯波はそれぞれ位相が反転しているため、検波時にビート信号は発生しない。したがって、HCNガスセルの吸収帯の影響を受ける領域のみビート信号が検出される。fのキャリアの周波数変動はf-の側帯波の周波数変動に表れているので、f-で検出した波長誤差信号をフィードバック回路11により基準光源1の電流または温度にフィードバックすることで、f-の側帯波がHCNの吸収線へ波長ロックされ、fのキャリアはf-の側帯波を介してHCNの吸収線へ間接的にロックされる。
【0042】
ON出力光路28では、HO計測に用いるf+以外の波長のレーザ光は光フィルタ12により抑圧される。その後、半導体光増幅器13により、光位相変調器3、光分配器5および光フィルタ12で生じた損失が補填され、ON出力光路28の系のレーザ光がOFF光路25のレーザ光と同等の光パワーに増幅される。
【0043】
光フィルタ12によって不要光が抑圧されたON光(光周波数f+)と、基準光源1を変調前に分配したOFF光(光周波数f)とが光スイッチ14により合波される。
【0044】
光スイッチ14の動作の様子を図4に示す。図4Aは、光スイッチ14に入力される前のON光の強度を示す図である。図4Bは、光スイッチ14に入力される前のOFF光の強度を示す図である。図4Cは、光スイッチ14を駆動する光スイッチ駆動信号を示す図である。図4Dは、光スイッチ14から出力されるレーザ光の強度を示す図である。図4Dに示されているように、ON光とOFF光は光スイッチ14によって切り替えられながら出力される。このとき、ON光出力時間とOFF光出力時間は同一である。
【0045】
光スイッチ14でON光とOFF光が合波された後のレーザ光は、光分配器16により信号光路30への信号光と、局発光路29への局発光とに分配される。信号光路30では、光周波数シフタ17がパルス駆動されることで、周波数シフトを付加したパルス光が生成される。その後、光増幅器19によって、パルス光を増幅し、光サーキュレータ20および光アンテナ21を介して、増幅されたパルス光が空間へ出力される。
【0046】
空間出力されたパルス光はエアロゾルによる散乱される。後方散乱光は光アンテナ21で受信された後、光サーキュレータ20で受信光路32へ導かれる。局発光と受信光とは、光合波器22で合波され、光受信器23で光電変換される。光電変換後、演算装置24にて、ON光とOFF光の受信強度比からHO量を算出する。
【0047】
以上のように、基準光源を外部変調し、外部変調によって生じた側帯波を用いて基準となるガス吸収線の誤差信号を検出し、基準光源にフィードバックをかけることで、基準となるガス吸収線に波長ロックされた複数の波長のレーザ光を生成することが可能となる。この複数の波長は同一光源から生成されているため、光周波数雑音は同一となり、コヒーレント検波時に発生する検出スペクトルの距離依存は発生しない。したがって、レーザレーダ装置LR1は、従来技術に比して、測定精度を向上させることができる。
【0048】
上記した実施形態は外部変調器として光位相変調器3を、強度安定に半導体光増幅器13を用いたものであるが、他の装置を用いてもよい。例えば、光位相変調器3の代わりに光強度変調器を用いてもよいし、半導体光増幅器13の代わりに光ファイバ増幅器を用いてもよい。
【0049】
また、本実施形態では波長ロックの際の基準としてHCNガスの吸収線を用いたが、HCNガス以外のガスの吸収線などその他の基準を用いてもよい。例えば、アセチレンのガス吸収線を用いてもよいし、エタロンなどの波長吸収特性をもつ素子を用いてもよい。
【0050】
また、計測対象がHOである場合を想定して説明をしたが、計測対象はHOに限定されるものではなく、COなどのその他の分子であってもよい。
【0051】
実施の形態2.
<構成>
図5を参照して、実施の形態2によるレーザレーダ装置LR2について説明をする。実施の形態2によるレーザレーダ装置LR2が実施の形態1によるレーザレーダ装置LR1と主に異なる点は、レーザレーダ装置LR1が光スイッチ14を用いてON光とOFF光を時間的に切り替えて測定するのと異なり、光周波数シフタ17を駆動する周波数をON光とOFF光で異ならせることによりON光とOFF光の同時計測を実現する点である。このような相違を実現するために、実施の形態2によるレーザレーダ装置LR2は、図5に示されたような構成を備える。具体的には、レーザレーダ装置LR2は、実施の形態1における光スイッチ14に代えて波長合波器33を備える。また、レーザレーダ装置LR2は、ON光路、OFF光路それぞれに光位相変調器を備える。図5に示されているように、ON光路には光位相変調器17aが、OFF光路には光位相変調器17bがそれぞれ備えられる。タイミング制御装置35で同期されたクロック信号にてパルス生成装置18および34を動作させることにより、パルス生成装置18および34は同期されたトリガ信号を生成する。このトリガ信号に同期し、2つの光周波数シフタ駆動回路18-1および34-1から異なる周波数のパルス化された鋸波の変調信号を出力する。ここで、光周波数シフタ駆動回路18-1はfmON、光周波数シフタ駆動回路34-1はfmOFFの周波数で光位相変調器17aおよび17bを0~2πの範囲で動作させる。位相の瞬時位相変化量と周波数のシフト量の間には、式δf=dφ/(2πdt)の関係がある。0~2πで鋸波状に位相を変化させることで、のこぎり周期の周波数シフトを実現する。
【0052】
<動作>
次に、レーザレーダ装置LR2の動作について説明する。半導体光増幅器13の出力であるON光と、光分配器2により分配されたOFF光路25のOFF光とが、波長合波器33により合波される。
【0053】
合波後、合波されたレーザ光は信号光路と局発光路に分配される。信号光路30では、合波されたレーザ光は、パルス生成装置38でパルス駆動された半導体光増幅器39にてパルス光とされる。図6にパルス光のタイミングを示す。図6C図6Fに示されているように、ON光、OFF光ともに同じタイミングでパルス光とする。ここで、ON光にはfmON、OFF光にはfmOFFの周波数シフトを付加する。これにより、光周波数シフタ17(光位相変調器17a、17b)の出力光は、同一タイミングで異なった周波数シフトのパルス光となる。
【0054】
光受信器23によるコヒーレント受信後の受信信号スペクトラムを図7に示す。ON光にはfmON、OFF光にはfmOFFの周波数シフトがそれぞれ付加されているので、ON光による受信信号はfmON、OFF光による受信信号はfmOFFに生じる。演算装置24は、コヒーレント受信後のこれらの周波数情報、および強度情報から、光吸収量の差分を検出する。
【0055】
以上のようなレーザレーダ装置LR2を用いることで、光スイッチによる切り替え不要の計測が可能となる。光スイッチによる切り替えを用いる方式ではON光とOFF光の計測タイミングにずれが生じるため、各レーザ光がOFF時の変動を計測することができない。したがって、環境変動によって生じたスペクトラム異常が片側レーザのみに発生し、計測エラーを誘発する場合があるという問題がある。本実施の形態によるレーザレーダ装置LR2を用いることで、環境変動はON光とOFF光の両方に等しく表れるので、各レーザ光がOFF時の変動を計測することができないという問題が生じない。したがって、レーザレーダ装置LR2によれば高精度な計測が可能となる。
【0056】
実施の形態3.
<構成>
図8を参照して、実施の形態3によるレーザレーダ装置LR3について説明をする。実施の形態3によるレーザレーダ装置LR3が実施の形態1によるレーザレーダ装置LR1と主に異なる点は、側帯波発生器として、光位相変調器3の代わりに光コム発生器37を用いる点である。光コム発生器37は、図8に示されているように、光分配器5と光フィルタ12の間に配置される。光コム発生器37を用いることにより、任意の吸収線への波長安定化を実現することができる。
【0057】
このような相違点に関連して、図8に示されているように、レーザレーダ装置LR3は、光コム発生器37に接続され、光コム発生器37を周波数Δfで動作させるRF基準信号を発振する発振器36を備える。
【0058】
実施の形態3においては、基準光源1から出力されたレーザ光が光分配器5により2分配され、2分配された後の一方のレーザ光は波長制御器WLCへ伝送される。2分配された後の他方のレーザ光は、光コム発生器37へ伝送される。
【0059】
<動作>
次に、レーザレーダ装置LR3の動作について説明する。基準となるガスセルの吸収線に波長ロックされたON出力光(ON出力光路28)と、をRF基準信号とが光コム発生器37に入力されると、光コム発生器37は光コムを生成する。光コム発生器37への入力スペクトラムを図9Aに、光コム発生器37からの出力スペクトラムを図9Bに示す。図9Bに示されているように、光コム発生器37からの出力光は、f0を中心としたΔfの間隔のコム状のスペクトラムを有する。
【0060】
コムの光スペクトラムは等間隔(Δf)で発生する。したがって、実施形態1で述べたHCNガス吸収線のR17のみならず、他の吸収線や、例えばアセチレンなどの別の分子の吸収線を用いて安定な計測をすることが可能となる。
【0061】
なお、実施形態を組み合わせたり、各実施形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本開示のレーザレーダ装置は、差分吸収ライダ装置として用いることができる。
【符号の説明】
【0063】
1 基準光源、2 光分配器、3 光位相変調器(第2の光位相変調器)、4 発振器、5 光分配器、6 光位相変調器(第1の光位相変調器)、7 基準発振器、8 ガスセル、9 光受信器、10 ミキサ、11 フィードバック回路、12 光フィルタ、13 半導体光増幅器、14 光スイッチ、15 制御装置、16 光分配器、17(17a、17b) 光周波数シフタ(光位相変調器;第3の光位相変調器)、18 パルス生成装置、18-1 光周波数シフタ駆動回路、19 光増幅器、20 光サーキュレータ、21 光アンテナ、22 光合波器、23 光受信器、24 演算装置、25 OFF光路、26 ON光路、27 波長誤差検出回路、28 ON出力光路、29 局発光路、30 信号光路、31 出力光路、32 受信光路、33 波長合波器、34 パルス生成装置、34-1 光周波数シフタ駆動回路、35 タイミング制御装置、36 発振器、37 光コム発生器、39 半導体光増幅器、G1~G18 光導波路、LR1~LR3 レーザレーダ装置、WLC 波長制御器。
【要約】
レーザ光を出力する単一の基準光源(1)と、前記基準光源から出力されたレーザ光に対し2つ以上の側帯波を発生させ、側帯波を発生させたレーザ光を出力する側帯波発生器(3;37)と、前記側帯波発生器から出力されたレーザ光、または前記基準光源から出力されたレーザ光を2系統に分配する光分配器(5)と、その分配されたレーザ光の一方に基準信号を用いて光位相変調を行う光位相変調器(6)と、その光位相変調がなされたレーザ光が透過されるガスセルまたはエタロン(8)と、その透過したレーザ光を電気信号に変換する光受信器(9)と、その変換された電気信号と前記基準信号から誤差信号を生成するミキサ(10)と、その生成された誤差信号を用いて、前記基準光源のレーザ光の波長を予め定められた波長にロックするフィードバック回路(11)と、を備えるレーザレーダ装置。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9