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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-24
(45)【発行日】2025-04-01
(54)【発明の名称】変異型Gタンパク質共役型受容体
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/705 20060101AFI20250325BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20250325BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20250325BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20250325BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20250325BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20250325BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20250325BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20250325BHJP
   C07D 417/04 20060101ALI20250325BHJP
   C07D 295/088 20060101ALI20250325BHJP
   A01K 67/027 20240101ALI20250325BHJP
   C12P 21/02 20060101ALN20250325BHJP
【FI】
C07K14/705 ZNA
C07K19/00
C12N15/63 Z
C12N15/12
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07D417/04 CSP
C07D295/088
A01K67/027
C12P21/02 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021028956
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2021137000
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2024-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2020033798
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (その1) 発行年月日 2020年3月5日 刊行物名 日本化学会 第100春季年会(2020)講演予稿集(DVD・USB・Web予稿集) (その2) ウェブサイトの掲載日 2020年8月19日 ウェブサイトのアドレス https://seitai.chemistry.or.jp/2020/biojointsympo/ (その3) ウェブサイトの掲載日 2020年8月31日 ウェブサイトのアドレス https://seitai.chemistry.or.jp/2020/biojointsympo/ (その4) 開催日 2020年9月7日から2020年9月8日 集会名 第14回バイオ関連化学シンポジウム2020 開催場所 (オンライン開催)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 研究タイプ「総括実施型研究(ERATO)」研究領域「浜地ニューロ分子技術」研究題目「神経細胞・脳組織での活性制御・可視化」 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清中 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】堂浦 智裕
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 寛太
(72)【発明者】
【氏名】柏 俊太朗
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/037543(WO,A1)
【文献】特表2010-521462(JP,A)
【文献】特表2003-515600(JP,A)
【文献】国際公開第2009/057133(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/168125(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/125851(WO,A1)
【文献】特開2012-228181(JP,A)
【文献】特開2012-228180(JP,A)
【文献】国際公開第2011/027554(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/042684(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
C12N
C07D
C12P
A01K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞外ループ2の保存システイン残基周辺領域における嵩高いアミノ酸残基、小さいアミノ酸残基、及び電荷の有無又は正負を変更するアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも1種のアミノ酸残基への置換を含む、変異型Gタンパク質共役型受容体であって、
前記細胞外ループ2の保存システイン残基が、膜貫通ドメイン3(細胞膜内の7つの膜貫通ドメインのN末端側から3番目のドメイン)の保存システイン残基とS-S結合を形成するシステイン残基であり、
前記保存システイン残基周辺領域が、保存システイン残基のN末端側10アミノ酸残基及びC末端側10アミノ酸残基からなる20アミノ酸残基からなる領域であり、
前記嵩高いアミノ酸残基が芳香族アミノ酸残基であり、且つ前記小さいアミノ酸残基及び前記電荷の有無又は正負を変更するアミノ酸残基がアラニン残基及び/又はグリシン残基であり、
前記Gタンパク質共役型受容体が代謝型グルタミン酸受容体又はヒスタミン受容体である、
変異型Gタンパク質共役型受容体
【請求項2】
請求項1に記載の変異型Gタンパク質共役型受容体のコード配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項に記載のポリヌクレオチドを含む、細胞。
【請求項4】
請求項に記載の細胞を含む、非ヒト動物。
【請求項5】
一般式(1):
【化1】
[式中:R1は同一又は異なって、-CH(-R112(R11は同一又は異なって、炭素数2~8のアルキル基を示す。)、-(CH20-4-R12(R12は置換されていてもよい炭素数5~8の炭素環を示す。)、又は水素原子を示す(但し、全てのR1が水素原子である場合を除く)。R2はハロゲン原子を示す。]
で表される化合物、その塩、又はそれらの溶媒和物。
【請求項6】
一般式(2):
【化2】
[式中:R3は同一又は異なって、-(CH20-4-R31(R31は置換されていてもよい炭素環を示し、前記炭素環がナフチル基若しくはアダマンチル基である。)、又は水素原子を示す(但し、全てのR3が水素原子である場合を除く)。R4はハロゲン原子を示す。]
で表される化合物、その塩、又はそれらの溶媒和物。
【請求項7】
(i)請求項1に記載の変異型Gタンパク質共役型受容体を発現する細胞1、及び非変異型Gタンパク質共役型受容体を発現する細胞2を含む非ヒト動物に、前記非変異型Gタンパク質共役型受容体の人工リガンドを投与する工程
を含む、前記細胞1特異的に又は前記細胞2特異的にGタンパクシグナルを誘導する方法であって、
前記人工リガンドが、
一般式(1):
【化3】
[式中:R 1 は同一又は異なって、-CH(-R 11 2 (R 11 は同一又は異なって、炭素数2~8のアルキル基を示す。)、-(CH 2 0-4 -R 12 (R 12 は置換されていてもよい炭素数5~8の炭素環を示す。)、又は水素原子を示す(但し、全てのR 1 が水素原子である場合を除く)。R 2 はハロゲン原子を示す。]
で表される化合物、その塩、若しくはそれらの溶媒和物、又は
一般式(2):
【化4】
[式中:R 3 は同一又は異なって、-(CH 2 0-4 -R 31 (R 31 は置換されていてもよい炭素環を示し、前記炭素環がナフチル基若しくはアダマンチル基である。)、又は水素原子を示す(但し、全てのR 3 が水素原子である場合を除く)。R 4 はハロゲン原子を示す。]
で表される化合物、その塩、若しくはそれらの溶媒和物である、
方法
【請求項8】
人工リガンドを含む、請求項7に記載の方法に用いるための組成物であって、
前記人工リガンドが、
一般式(1):
【化5】
[式中:R 1 は同一又は異なって、-CH(-R 11 2 (R 11 は同一又は異なって、炭素数2以上のアルキル基を示す。)、-(CH 2 0-4 -R 12 (R 12 は置換されていてもよい炭素環を示す。)、又は水素原子を示す(但し、全てのR 1 が水素原子である場合を除く)。R 2 はハロゲン原子、アルキル基、又はアルコキシ基を示す。]
で表される化合物、その塩、若しくはそれらの溶媒和物、又は
一般式(2):
【化6】
[式中:R 3 は同一又は異なって、アルキル基、-(CH 2 0-4 -R 31 (R 31 は置換されていてもよい炭素環を示す。)、又は水素原子を示す(但し、全てのR 3 が水素原子である場合を除く)。R 4 はハロゲン原子、アルキル基、又はアルコキシ基を示す。]
で表される化合物、その塩、若しくはそれらの溶媒和物である、
組成物。
【請求項9】
(a)細胞外ループ2の保存システイン残基周辺領域におけるアミノ酸残基の置換を含む変異型Gタンパク質共役型受容体を発現する細胞x、及び非変異型Gタンパク質共役型受容体を発現する細胞yに、被検物質を作用させる工程
(b)前記工程(a)後にGタンパク質シグナルを検出する工程、
(c)前記細胞xにおける前記Gタンパク質シグナルの強度と前記細胞yにおける前記Gタンパク質シグナルの強度とが異なる被検物質を選択する工程
を含む、人工リガンドのスクリーニング方法であって、
前記細胞外ループ2の保存システイン残基が、膜貫通ドメイン3(細胞膜内の7つの膜貫通ドメインのN末端側から3番目のドメイン)の保存システイン残基とS-S結合を形成するシステイン残基であり、
前記保存システイン残基周辺領域が、保存システイン残基のN末端側10アミノ酸残基及びC末端側10アミノ酸残基からなる20アミノ酸残基からなる領域であり、
前記アミノ酸残基の置換が、嵩高いアミノ酸残基、小さいアミノ酸残基、及び電荷の有無又は正負を変更するアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも1種のアミノ酸残基への置換であり、
前記嵩高いアミノ酸残基が芳香族アミノ酸残基であり、且つ前記小さいアミノ酸残基及び前記電荷の有無又は正負を変更するアミノ酸残基がアラニン残基及び/又はグリシン残基であり、
前記Gタンパク質共役型受容体が代謝型グルタミン酸受容体又はヒスタミン受容体であり、
前記人工リガンドが、
一般式(1):
【化7】
[式中:R 1 は同一又は異なって、-CH(-R 11 2 (R 11 は同一又は異なって、炭素数2~8のアルキル基を示す。)、-(CH 2 0-4 -R 12 (R 12 は置換されていてもよい炭素数5~8の炭素環を示す。)、又は水素原子を示す(但し、全てのR 1 が水素原子である場合を除く)。R 2 はハロゲン原子を示す。]
で表される化合物、その塩、若しくはそれらの溶媒和物、又は
一般式(2):
【化8】
[式中:R 3 は同一又は異なって、-(CH 2 0-4 -R 31 (R 31 は置換されていてもよい炭素環を示し、前記炭素環がナフチル基若しくはアダマンチル基である。)、又は水素原子を示す(但し、全てのR 3 が水素原子である場合を除く)。R 4 はハロゲン原子を示す。]
で表される化合物、その塩、若しくはそれらの溶媒和物である、
スクリーニング方法
【請求項10】
前記人工リガンドが請求項に記載の方法に用いるための人工リガンドである、請求項に記載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変異型Gタンパク質共役型受容体、及びそれを用いたケミカルジェネティクス技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの脳には、千億個以上ものニューロンとその10倍ものグリア細胞(ニューロン以外の細胞)が存在し情報伝達を行っている。これまで、脳科学の進歩により部位ごとの働きや細胞種ごとの働きが分かってきた。しかし、各神経回路における各タンパク質の役割などは未解明な状況である。その解明は高次脳機能の理解だけでなく、未開拓な領域である精神疾患に対する分子標的薬の開発につながる。それを実現するために、神経細胞を部位特異的に、また細胞種選択的に活性制御する方法の開発が急務とされてきた。これまで、特定の細胞を制御する手段としてオプトジェネティクスやケモジェネティクスと呼ばれる手法が開発されている。
【0003】
オプトジェネティクスとは、ロドプシンと呼ばれる光により構造変化を引き起こす受容体を用いることで、ロドプシンを発現した細胞のみを光により制御するという手法である。この手法は、光を用いるので数μ~数m秒での神経活動の制御を可能とし、自由動物下への利用も可能にした。しかし、オプトジェネティクスは光ファイバーを脳に刺す侵襲的な方法であり、かつ光が届かない組織深部へは適用できない。
【0004】
このような欠点を補える手法がケモジェネティクスの一つであるDREADD法である。DREADD法は、特定の化合物(人工リガンド)によって選択的に活性化される人工Gタンパク質共役型受容体を用いる非侵襲的な方法である。しかし、DREADD法では人工Gタンパク質共役型受容体の下流のシグナルを人為的に引き起こすだけであり、内在性のGタンパク質共役型受容体の機能解析には適さず、また創薬への展開は期待できない。分子標的薬の開発につながる次世代技術として、注目する細胞において内在的に発現する標的受容体機能を解明するための新たなケミカルジェネティクス技術が必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Nature Chemistry. 2016 Oct; 8(10): 958-967.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況下、本発明者は2016年に配位ケモジェネティクス(別名:OcCC)という受容体選択的なケモジェネティクス手法を開発した(非特許文献1)。この手法は、受容体に変異を加えることで金属錯体と配位結合できるようになり、構造変化を引き起こすことで活性を制御するというものである。この手法では、本来の受容体機能(リガンド結合能および応答)を維持した状態で、金属錯体(パラジウムビピリジル錯体)による人為的な制御が可能となる。しかしながら、用いている金属錯体の薬物動態は不明であり、金属錯体の物性を考えると血液脳関門を通らないことおよび毒性が懸念され、この方法論の動物個体への適用は困難である。また、Gタンパク質共役型受容体は200~300種類存在するが、この方法が適用できるのは、細胞外に大きなリガンド結合部位を有するごく一部のGタンパク質共役型受容体に限られる。
【0007】
そこで、本発明は、より多種のGタンパク質共役型受容体に適用でき、且つ生体安全性がより高いケモジェネティクス技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
Gタンパク質共役型受容体の細胞外ループ2の保存システイン残基(膜貫通ドメイン3の保存システイン残基とS-S結合を形成するシステイン残基)の周辺領域は保存されていることが知られている。また、Gタンパク質共役型受容体の内在性リガンドは、細胞外に露出したリガンド結合ドメイン(クラスCの場合)又は膜貫通ドメインの比較的深部を認識する一方、人工リガンドは細胞外ループ2に比較的近い位置(膜貫通ドメインの比較的浅い位置)を認識する。このことから、細胞外ループ2の保存システイン残基周辺領域におけるアミノ酸残基を嵩高いアミノ酸残基、小さいアミノ酸残基、又は電荷の有無又は正負を変更するアミノ酸残基に置換することにより、人工リガンドの親和性を変化させることができる(結果として、Gタンパクシグナル強度を変えることができる)と考えられた。人工リガンドの親和性が変異型と非変異型(例えば野生型)とで異なれば、例えば、変異型を発現する細胞と非変異型を発現する細胞を含む動物個体に人工リガンドを投与することにより、一方の細胞特異的にGタンパクシグナルを誘導することができる。
【0009】
本発明者は鋭意研究を進めた結果、上記仮説がGタンパク質共役型受容体に対して普遍的に適用できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0010】
項1. 細胞外ループ2の保存システイン残基周辺領域における嵩高いアミノ酸残基、小さいアミノ酸残基、及び電荷の有無又は正負を変更するアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも1種のアミノ酸残基への置換を含む、変異型Gタンパク質共役型受容体。
【0011】
項2. 前記保存システイン残基周辺領域が、保存システイン残基のN末端側10アミノ酸残基及びC末端側10アミノ酸残基からなる20アミノ酸残基からなる領域である、項1に記載の変異型Gタンパク質共役型受容体。
【0012】
項3. 前記嵩高いアミノ酸残基が芳香族アミノ酸残基であり、且つ前記小さいアミノ酸残基及び前記電荷の有無又は正負を変更するアミノ酸残基がアラニン残基及び/又はグリシン残基である、項1又は2に記載の変異型Gタンパク質共役型受容体。
【0013】
項4. 前記Gタンパク質共役型受容体がクラスC受容体又はクラスA受容体である、項1~3のいずれかに記載の変異型Gタンパク質共役型受容体。
【0014】
項5. 前記Gタンパク質共役型受容体が代謝型グルタミン酸受容体又はヒスタミン受容体である、項1~4のいずれかに記載の変異型Gタンパク質共役型受容体。
【0015】
項6. 項1~5のいずれかに記載の変異型Gタンパク質共役型受容体のコード配列を含む、ポリヌクレオチド。
【0016】
項7. 項6に記載のポリヌクレオチドを含む、細胞。
【0017】
項8. 項7に記載の細胞を含む、非ヒト動物。
【0018】
項9. 一般式(1):
【0019】
【化1】
【0020】
[式中:R1は同一又は異なって、-CH(-R112(R11は同一又は異なって、炭素数2以上のアルキル基を示す。)、-(CH20-4-R12(R12は置換されていてもよい炭素環を示す。)、又は水素原子を示す(但し、全てのR1が水素原子である場合を除く)。R2はハロゲン原子、アルキル基、又はアルコキシ基を示す。]
で表される化合物、その塩、又はそれらの溶媒和物。
【0021】
項10. 一般式(2):
【化2】
【0022】
[式中:R3は同一又は異なって、アルキル基、-(CH20-4-R31(R31は置換されていてもよい炭素環を示す。)、又は水素原子を示す(但し、全てのR3が水素原子である場合を除く)。R4はハロゲン原子、アルキル基、又はアルコキシ基を示す。]
で表される化合物、その塩、又はそれらの溶媒和物。
【0023】
項11. (i)項1~5のいずれかに記載の変異型Gタンパク質共役型受容体を発現する細胞1、及び非変異型Gタンパク質共役型受容体を発現する細胞2を含む非ヒト動物に、前記非変異型Gタンパク質共役型受容体の人工リガンドを投与する工程
を含む、前記細胞1特異的に又は前記細胞2特異的にGタンパクシグナルを誘導する方法。
【0024】
項12. 前記Gタンパク質共役型受容体が代謝型グルタミン酸受容体又はヒスタミン受容体であり、且つ前記人工リガンドが項9に記載の化合物、その塩、又はそれらの溶媒和物或いは前記人工リガンドが請求項10に記載の化合物、その塩、又はそれらの溶媒和物である、項11に記載の方法。
【0025】
項13. (a)細胞外ループ2の保存システイン残基周辺領域におけるアミノ酸残基の置換を含む変異型Gタンパク質共役型受容体を発現する細胞x、及び非変異型Gタンパク質共役型受容体を発現する細胞yに、被検物質を作用させる工程
(b)前記工程(a)後にGタンパク質シグナルを検出する工程、
(c)前記細胞xにおける前記Gタンパク質シグナルの強度と前記細胞yにおける前記Gタンパク質シグナルの強度とが異なる被検物質を選択する工程
を含む、人工リガンドのスクリーニング方法。
【0026】
項14. 前記人工リガンドが項11に記載の方法に用いるための人工リガンドである、項13に記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、より多種のGタンパク質共役型受容体に適用でき、且つ生体安全性がより高いケモジェネティクス技術を提供することができる。具体的には、該技術に使用する変異型Gタンパク質共役型受容体等を提供することができる。さらに、該技術の一態様において好適に使用することができる人工リガンドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】試験例2のCa2+蛍光イメージングの結果を示す。縦軸は340 nmと380 nmの蛍光強度比を示し、横軸はFITM終濃度を示す。
図2】試験例4のCa2+蛍光イメージングの結果を示す。縦軸は340 nmと380 nmの蛍光強度比を示し、横軸はcompound 2終濃度を示す。
図3】試験例4のCa2+蛍光イメージングの結果を示す。縦軸は340 nmと380 nmの蛍光強度比の、FITM誘導体(compound 2、compound 3、又はcompound 4)濃度が0μMの場合を1とした場合の相対値を示し、横軸はFITM誘導体(compound 2、compound 3、又はcompound 4)終濃度を示す。左側のグラフが野生型mGluR1を使用した場合の結果であり、右側のグラフがmGluR1変異体を使用した場合の結果である。
図4】試験例5のCa2+蛍光イメージングの結果を示す。縦軸は340 nmと380 nmの蛍光強度比を示し、横軸はグルタミン酸終濃度を示す。上方のグラフが野生型mGluR1を使用した場合の結果であり、下方のグラフがmGluR1変異体を使用した場合の結果である。
図5】H1R変異体発現ベクターのoverlap extension PCR法による作製方法(試験例6)の概要を示す。
図6】試験例8のCa2+蛍光イメージングの結果を示す。縦軸は340 nmと380 nmの蛍光強度比を示し、横軸はLvc-Diisopro終濃度を示す。
図7】試験例8のCa2+蛍光イメージングの結果を示す。縦軸は340 nmと380 nmの蛍光強度比を示し、横軸はLvc-Adam終濃度を示す。
図8】試験例8のCa2+蛍光イメージングの結果を示す。縦軸は340 nmと380 nmの蛍光強度比を示し、横軸はLvc-1-MeNaph終濃度を示す。
図9】試験例8のCa2+蛍光イメージングの結果を示す。縦軸は340 nmと380 nmの蛍光強度比を示し、横軸はLvc-Dipro終濃度を示す。
図10】試験例10のCa2+蛍光イメージングの結果を示す。縦軸は340 nmと380 nmの蛍光強度比を示し、横軸はLvc-Diisopro終濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
1.定義
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0030】
アミノ酸配列の「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。従って、ある2つのアミノ酸配列の一致性が高いほど、それらの配列の同一性又は類似性は高い。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(S. Karlin,S. F. Altschul.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoringschemes.”Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87, 2264-2268 (1990)、S. Karlin,S. F. Altschul.“Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences.”Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 5873-5877 (1993))を用いて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェエブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。また、塩基配列の『同一性』も上記に準じて定義される。
【0031】
本明細書中において、「保存的置換」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換にあたる。その他、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。
【0032】
本明細書において、DNA、RNAなどのヌクレオチドには、次に例示するように、公知の化学修飾が施されていてもよい。ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2位の水酸基を、-OR(Rは、例えばCH3(2´-O-Me)、CH2CH2OCH3(2´-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えば、ビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたものなどを挙げることができるが、これに限定されない。また、ヌクレオチドの糖部の2´酸素と4´炭素を架橋することにより、糖部のコンフォーメーションをN型に固定したものであるBNA(LNA)等もまた、好ましく用いられ得る。
【0033】
2.変異型Gタンパク質共役型受容体
本発明は、その一態様において、細胞外ループ2の保存システイン残基周辺領域における嵩高いアミノ酸残基、小さいアミノ酸残基、及び電荷の有無又は正負を変更するアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも1種のアミノ酸残基への置換を含む、変異型Gタンパク質共役型受容体(本明細書において、「本発明の変異型Gタンパク質共役型受容体」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0034】
まず、「細胞外ループ2の保存システイン残基周辺領域における嵩高いアミノ酸残基、小さいアミノ酸残基、及び電荷の有無又は正負を変更するアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも1種のアミノ酸残基への置換」がなされる前のGタンパク質共役型受容体(本明細書において、単に「Gタンパク質共役型受容体」、或いは「非変異型Gタンパク質共役型受容体」と示すこともある。)について説明する。
【0035】
Gタンパク質共役型受容体とは、Gタンパク質と共役して細胞内に外界からのシグナルを伝達する受容体を指す。Gタンパク質共役型受容体は細胞膜を7回貫通する共通した構造を有し、Gタンパク質共役型受容体スーパーファミリーを構成する。Gタンパク質共役型受容体はアミノ酸配列や機能の類似性に基づいて、クラスA、クラスB、クラスC、クラスD、クラスE、及びクラスFの6つのクラスに分類されている。
【0036】
Gタンパク質共役型受容体の由来生物種は特に制限されない。該生物種としては、特に制限されず、動物、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカなどの種々の哺乳類が挙げられる。
【0037】
Gタンパク質共役型受容体としては、例えば、代謝型グルタミン酸受容体(例えば、mGluR1、mGluR2、mGluR3、mGluR4、mGluR5、mGluR6、mGluR7、mGluR8等)、アデノシン受容体、β-アドレナリン受容体、ニューロテンシン受容体、ムスカリン酸受容体、5-ヒドロキシトリプタミン受容体、アドレナリン受容体、アナフィラトキシン受容体、アンジオテンシン受容体、アペリン受容体、ボンベシン受容体、ブラディキニン受容体、カンナビノイド受容体、ケモカイン受容体、コレシストキニン受容体、ドーパミン受容体、エンドセリン受容体、遊離脂肪酸受容体、胆汁酸受容体、ガラニン受容体、モチリン受容体、グレリン受容体、糖タンパク質ホルモン受容体、GnRH受容体、ヒスタミン受容体、KiSS1-由来ペプチド受容体、ロイコトリエン及びリポキシン受容体、リゾリン脂質受容体、メラニン濃縮ホルモン受容体、メラノコルチン受容体、メラトニン受容体、ニューロメジンU受容体、神経ペプチド受容体、N-ホルミルペプチドファミリー受容体、ニコチン酸受容体、オピオイド受容体、Gタンパク質共役型受容体様受容体、オレキシン受容体、P2Y受容体、ペプチドP518受容体、血小板活性化因子受容体、プロキネチシン受容体、プロラクチン放出ペプチド受容体、プロスタノイド受容体、プロテアーゼ活性化受容体、リラキシン受容体、ソマトスタチン受容体、SPC/LPC受容体、タチキニン受容体、トレースアミノ受容体、チロトロピン放出ホルモン受容体、ユーロテンシン受容体、バソプレッシン/オキシトシン受容体、オーファンGPCR、カルシトニン受容体、コルチコトロピン放出因子受容体、グルカゴン受容体、パラチロイド受容体、VIP/PACAP受容体、LNB7TM受容体、GABAB受容体、カルシウムセンサー受容体等が挙げられる。これらの中でも、好ましい一例として代謝型グルタミン酸受容体、ヒスタミン受容体等が挙げられ、この中でもより好ましい一例としてmGluR1、hH1R等が挙げられる。
【0038】
本発明の一態様において、Gタンパク質共役型受容体としては、結晶構造が明らかとなっているものを採用することが好ましい。これにより、後述の置換させるアミノ酸残基をより高い精度で決定することが可能になる。結晶構造は、Protein Data Bank (PDB)(https://www.rcsb.org/)で公開されている。結晶構造が明らかなGタンパク質共役型受容体としては、例えばβ1-Adrenergic receptor(β1アドレナリン受容体)、β2-Adrenergic receptor(β1アドレナリン受容体)、Adenosine A2A receptor(アデノシンA2A受容体)、Dopamine D2 receptor(ドーパミンD2受容体)、Dopamine D3 receptor(ドーパミンD3受容体)、Histamine H1 receptor(ヒスタミンH1受容体)、Muscarinic M2 receptor(ムスカリンM2受容体)、Muscarinic M3 receptor(ムスカリンM3受容体)、Sphingosine 1-phosphate receptor(スフィンゴシン-1-リン酸受容体)、Serotonin 5-HT1B receptor(セロトニン5-HT1B受容体)、Serotonin 5-HT2B receptor(セロトニン5-HT2B受容体)、Serotonin 5-HT3 receptor(セロトニン5-HT3受容体)、Neurotensin receptor 1(ニューロテンシン受容体1)、Chemokine receptor 4(ケモカイン受容体4)、Chemokine receptor 5(ケモカイン受容体5)、μ-Opioid receptor(μ-オピオイド受容体)、P2Y12 purinergic receptor(P2Y12プリン受容体)等のクラスA受容体が挙げられ、また、Metabotropic glutamate receptor 1(代謝型グルタミン酸受容体1)、Metabotropic glutamate receptor 5(代謝型グルタミン酸受容体5)、GABAB receptor(GABAB受容体)等のクラスC受容体、Orexin receptor(オレキシン受容体)等が挙げられる。上記以外にも多数のGPCRの構造生物学的情報(X線結晶構造解析法や低温電子顕微鏡による単粒子解析法から得られた構造情報)が報告されている。そのを利用することにより、後述の置換させるアミノ酸残基をより高い精度で決定することもできる。
【0039】
種々のGタンパク質共役型受容体のアミノ酸配列は公知である。例えば、公知のデータベース(例えば、NCBI:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等から入手することができる。具体的には、例えばラット由来mGluR1としては、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質(NCBI Accession Number:NM_017011.1)が挙げられる。
【0040】
Gタンパク質共役型受容体は、リガンドの結合によりGタンパクシグナルを惹起する性質が著しく低減しない限りにおいて、野生型のGタンパク質共役型受容体に対してアミノ酸の置換、欠失、付加、挿入等の変異を有するものであってもよい。変異としては、好ましくは置換、より好ましくは保存的置換が挙げられる。アミノ酸変異を有する場合、野生型Gタンパク質共役型受容体のアミノ酸配列に対して、例えば85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、よりさらに好ましくは99%以上の同一性を有する。
【0041】
Gタンパク質共役型受容体の好ましい具体例としては、下記(a)に記載するタンパク質及び下記(b)に記載するタンパク質:
(a)野生型mGluR1アミノ酸配列(例えば配列番号1に示されるアミノ酸配列)からなるタンパク質、及び
(b)野生型mGluR1アミノ酸配列(例えば配列番号1に示されるアミノ酸配列)と85%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質
からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0042】
上記(b)において、同一性は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。また、上記(b)及び(d)において変異しているアミノ酸数は、例えば1~30個、好ましくは1~15個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個、よりさらに好ましくは1~2個である。
【0043】
Gタンパク質共役型受容体は、リガンドの結合によりGタンパクシグナルを惹起する性質が著しく低減しない限りにおいて、化学修飾されたものであってもよい。
【0044】
Gタンパク質共役型受容体は、C末端がカルボキシル基(-COOH)、カルボキシレート(-COO)、アミド(-CONH2)またはエステル(-COOR)の何れであってもよい。
【0045】
ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基;例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基;例えば、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基;例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基;α-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基;ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
【0046】
Gタンパク質共役型受容体は、C末端以外のカルボキシル基(またはカルボキシレート)が、アミド化またはエステル化されていてもよい。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。
【0047】
さらに、Gタンパク質共役型受容体には、N末端のアミノ酸残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成し得るN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖蛋白質などの複合蛋白質なども包含される。
【0048】
Gタンパク質共役型受容体は、リンカー、エピトープタグ、蛍光タンパク質、精製を容易にするペプチド、切断可能なリンカーペプチドなどが付加されたもの(例えば、融合タンパク質)であってもよい。タグとしては、例えばヒスチジンタグ、FLAGタグ、HAタグ等が挙げられる。
【0049】
本発明の変異型Gタンパク質共役型受容体は、上記した「Gタンパク質共役型受容体」において、細胞外ループ2の保存システイン残基周辺領域における嵩高いアミノ酸残基、小さいアミノ酸残基、及び電荷の有無又は正負を変更するアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも1種のアミノ酸残基への置換を含む変異体である。
【0050】
細胞外ループ2は、Gタンパク質共役型受容体の7回膜貫通構造において形成される6つのループ中、細胞外の3つのループのN末端側から2番目のループ(一般的に、「ECL2」と表示されることもある。)である。
【0051】
細胞外ループ2の保存システイン残基とは、膜貫通ドメイン3(細胞膜内の7つの膜貫通ドメインのN末端側から3番目のドメイン)の保存システイン残基とS-S結合を形成するシステイン残基である。
【0052】
細胞外ループ2及び保存システイン残基は、公知のアミノ酸配列情報や構造解析情報等に基づいて容易に決定することができる。例えば、ラット由来mGluR1(アミノ酸配列:配列番号1)における保存システイン残基はN末から746番目のアミノ酸残基であるので、他の生物種におけるmGluR1、その他の代謝型グルタミン酸受容体における保存システイン残基も、この情報に基づいて(例えばアライメント解析することにより)容易に決定することが可能である。さらに、細胞外ループ2の保存システイン残基の周辺領域は保存されているので、上記情報(及び/又は他のGタンパク質共役型受容体における同様の情報)に基づいて、各種のGタンパク質共役型受容体における保存システイン残基も容易に決定することが可能である。
【0053】
保存システイン残基周辺領域は、Gタンパク質共役型受容体において保存性が高い領域である限り特に制限されない。保存システイン残基周辺領域は、好ましくは、保存システイン残基のN末端側10アミノ酸残基及びC末端側10アミノ酸残基からなる20アミノ酸残基からなる領域である。該領域は、より好ましくは、保存システイン残基のN末端側5アミノ酸残基及びC末端側5アミノ酸残基からなる10アミノ酸残基からなる領域である。
【0054】
該領域は、本発明の一態様において、さらに好ましくは、保存システイン残基のN末端側1アミノ酸残基及びC末端側5アミノ酸残基からなる6アミノ酸残基からなる領域である。該領域は、本発明の一態様において、よりさらに好ましくは、保存システイン残基のC末端側4アミノ酸残基からなる領域である。該領域は、本発明の一態様において、よりさらに好ましくは、保存システイン残基のC末端側3アミノ酸残基からなる領域である。
【0055】
該領域は、本発明の一態様において、さらに好ましくは、保存システイン残基のN末端側5アミノ酸残基及びC末端側1アミノ酸残基からなる6アミノ酸残基からなる領域である。該領域は、本発明の一態様において、よりさらに好ましくは、保存システイン残基のN末端側4アミノ酸残基からなる領域である。該領域は、本発明の一態様において、よりさらに好ましくは、保存システイン残基のN末端側3アミノ酸残基からなる領域である。
【0056】
保存システイン残基周辺領域における置換対象のアミノ酸残基の種類は、特に制限されない。
【0057】
嵩高いアミノ酸残基へ置換する場合は、置換対象のアミノ酸残基としては、比較的分子量の小さいアミノ酸残基が好ましい。このようなアミノ酸残基としては、例えばグリシン、アラニン、システイン、セリン、トレオニン、バリン、イソロイシン、ロイシン等が挙げられ、好ましくはグリシン、アラニン、システイン、セリン、トレオニン、バリン等が挙げられる。
【0058】
小さいアミノ酸残基へ置換する場合は、置換対象のアミノ酸残基としては、比較的分子量の大きいアミノ酸残基が好ましい。このようなアミノ酸残基としては、例えばフェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン、プロリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、システイン、メチオニン、リジン、アルギニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、イソロイシン、ロイシン、バリン等が挙げられる。
【0059】
保存システイン残基周辺領域における置換対象のアミノ酸残基の数は、特に制限されず、例えば1~6、1~4、1~3、1~2、1である。
【0060】
保存システイン残基周辺領域における置換対象のアミノ酸残基の位置は、特に制限されない。好ましい一態様として、側鎖が、結合する人工リガンド側に向いているアミノ酸残基を、構造情報等に基づいて同定することができる。このようなアミノ酸残基であれば、より嵩高いアミノ酸残基に置換することにより、立体反発により、人工リガンドの親和性をより低下させることができる。
【0061】
なお、各種Gタンパク質共役型受容体に作用する人工リガンドは、各種知られている。例えば、代謝型グルタミン酸受容体に対する4-fluoro-N-(4-(6-(isopropylamino)pyrimidin-4-yl)thiazol-2-yl)-N-methylbenzamide(FITM)、アデノシンA2A受容体に対する2-(4-(carbokyethyl)-phenylethylamino)adenosine-5’-N-ethyluronamide(CGS21680)、P2Y受容体に対する8,8'-(Carbonylbis(imino-3,1-phenylenecarbonylimino(4-methyl-3,1-phenylene)carbonylimino))di(1,3,5-naphthalenetrisulfonic acid)(スラミン)、ヒスタミン受容体に対するN,N-Dimethyl-3-(6,11-dihydrodibenz(b,e)oxepin-11-ylidene)propylamine(ドキセピン)、ムスカリン受容体に対する11-((4-methylpiperazin-1-yl)acetyl)-5,11-dihydro-6H-pyrido(2,3-b)(1,4)benzodiazepin-6-one(ピレンゼピン)、セロトニン受容体に対するN-((1R,5S)-8-methyl-8-azabicyclo(3.2.1)oct-3-yl)-2-oxo-3-(propan-2-yl)-2,3-dihydro-1H-benzimidazole-1-carboxamide hydrochloride(BIMU8)等が挙げられる。また、人工リガンドは、各種文献、例えばアデノシンA2A受容体の人工リガンドに関する文献1(M. de Lera Ruiz, et al. J. Med. Chem. 57, 3623-3650 (2014))、代謝型グルタミン酸受容体の人工リガンドに関する文献2(C. M. Niswender, et al. Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol. 50, 295-322 (2010))等において報告されている。
【0062】
人工リガンドの分子量は、例えば100~3000、100~2000、150~1000、200~700、又は200~500である。
【0063】
置換後のアミノ酸残基は、より嵩高いアミノ酸残基、小さいアミノ酸残基、及び電荷の有無又は正負を変更するアミノ酸残基からなる群より選択される少なくとも1種のアミノ酸残基である。
【0064】
嵩高いアミノ酸残基は、特に制限されず、天然アミノ酸残基、人工アミノ酸残基のいずれも包含する。嵩高いアミノ酸残基として、好適には、芳香族アミノ酸残基が挙げられる。
【0065】
芳香族アミノ酸残基は、側鎖上に芳香族基を有する(好ましくは側鎖の末端が芳香族基である)アミノ酸残基である限り特に制限されない。芳香族基としては、特に制限されず、例えば、環構成炭素原子数6~20、好ましくは6~12、さらに好ましくは6~8のアリール基、具体的にはフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ペンタレニル基、インデニル基、アントラニル基、テトラセニル基、ペンタセニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオレニル基、フェナントリル基等の単環又は多環アリール基や、環構成原子数が3~20、好ましくは3~12、より好ましくは7~11のヘテロアリール基(好ましくはヘテロ原子が窒素原子であるヘテロアリール基)、具体的にはピロリル基、ピリジル基、ピロリジル基、ピペリジル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、ピペラジル基、トリアジニル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、モルホリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、フラニル基、チオフェニル基、インドリル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾイミダゾリル基、キナゾリル基、フタラジル基、プリニル基、プテリジル基、ベンゾフラニル基、クマリル基、クロモニル基、ベンゾチオフェニル基等の単環又は多環ヘテロアリール基等が挙げられる。
【0066】
芳香族基として、好ましくはヘテロアリール基が挙げられ、より好ましくはヘテロ原子が窒素原子であるヘテロアリール基が挙げられ、さらに好ましくはヘテロ原子が1~3個(好ましくは1個)の窒素原子であるヘテロアリール基が挙げられ、よりさらに好ましくはヘテロ原子が1個の窒素原子である環構成原子数7~11のヘテロアリール基が挙げられ、特に好ましくはインドリル基が挙げられる。
【0067】
芳香族アミノ酸残基の好ましい一態様としては、側鎖が式(A):-LA-RA(式中:LAは置換されていてもよいアルキレン基を示す。RAは芳香族基を示す。-は単結合を示す。)で表される基であるアミノ酸残基が挙げられる。
【0068】
LAで示されるアルキレン基は、特に制限されないが、例えば炭素原子数1~6、好ましくは1~4、より好ましくは1~2、さらに好ましくは1の直鎖状又は分岐鎖状(好ましくは直鎖状)のアルキレン基が挙げられる。該アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等が挙げられる。
【0069】
LAで示されるアルキレン基は、置換されていてもよい。置換基としては、特に制限されず、例えばアミノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、水酸基等が挙げられる。置換基の数は、特に制限されないが、例えば0~3、好ましくは0~1、より好ましくは0である。
【0070】
RAで示される芳香族基は、上述の芳香族基と同様である。
【0071】
芳香族アミノ酸残基の具体例としては、トリプトファン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、ヒスチジン残基、チロキシン残基等が挙げられ、好ましくはトリプトファン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基等が挙げられ、より好ましくはトリプトファン残基が挙げられる。
【0072】
小さいアミノ酸残基は、特に制限されず、天然アミノ酸残基、人工アミノ酸残基のいずれも包含する。小さいアミノ酸残基として、好適には、グリシン残基、アラニン残基、セリン残基等が挙げられる。
【0073】
電荷の有無又は正負を変更するアミノ酸残基は、置換対象のアミノ酸残基から、電荷の有無が変更する(例えば有電荷から無電荷、又は無電荷から有電荷)、又は電荷の正負が変更する(例えば正電化から負電荷、又は負電荷から正電荷)アミノ酸残基である限り、特に制限されない。例えば置換対象のアミノ酸がリシンやグルタミン酸等の有電荷アミノ酸である場合に、これをアラニンやグリシン等の無電荷のアミノ酸に置換すること等が挙げられる。
【0074】
本発明の変異型Gタンパク質共役型受容体は、酸または塩基との薬学的に許容される塩の形態であってもよい。塩は、薬学的に許容される塩である限り特に限定されず、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。例えば酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩; アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等のアミノ酸塩等が挙げられる。また、塩基性塩の例として、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩; カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類・金属塩等が挙げられる。
【0075】
本発明の変異型Gタンパク質共役型受容体は、溶媒和物の形態であってもよい。溶媒は、薬学的に許容されるものであれば特に限定されず、例えば水、エタノール、グリセロール、酢酸等が挙げられる。
【0076】
本発明の変異型Gタンパク質共役型受容体は、公知の遺伝子工学的手法に従って容易に製造することができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術、in vitro転写・翻訳技術、リコンビナントタンパク質作製技術等を利用して製造することができる。
【0077】
3.ポリヌクレオチド、細胞、非ヒト動物
本発明は、その一態様において、本発明の変異型Gタンパク質共役型受容体のコード配列を含む、ポリヌクレオチド(本明細書において、「本発明のポリヌクレオチド」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0078】
本発明の変異型Gタンパク質共役型受容体のコード配列は、本発明の変異型Gタンパク質共役型受容体をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドである限り、特に制限されない。
【0079】
本発明のポリヌクレオチドは、その一態様において、本発明の変異型Gタンパク質共役型受容体の発現カセットを含む。
【0080】
本発明の変異型Gタンパク質共役型受容体の発現カセットは、細胞内で本発明の変異型Gタンパク質共役型受容体を発現可能なポリヌクレオチドである限り特に制限されない。本発明の変異型Gタンパク質共役型受容体の発現カセットの典型例としては、プロモーター、及びそのプロモーターの制御下に配置された本発明の変異型Gタンパク質共役型受容体のコード配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
【0081】
対象細胞の由来生物種としては、特に制限されず、例えば腸内細菌科細菌等の細菌、酵母等の真菌、動物、植物が挙げられる。動物としては、特にヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ等の種々の哺乳類動物以外にも、非哺乳類脊椎動物、無脊椎動物等も挙げられる。本発明の好ましい一態様において、対象細胞の由来生物種としては、哺乳類、大腸菌、酵母、枯草菌、ゼブラフィッシュ、メダカ、昆虫等が挙げられる。また、細胞の種類としても、特に制限されず、各種組織由来又は各種性質の細胞、例えば血液細胞、造血幹細胞・前駆細胞、配偶子(精子、卵子)、線維芽細胞、上皮細胞、血管内皮細胞、神経細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、筋細胞、表皮細胞、内分泌細胞、ES細胞、iPS細胞、組織幹細胞、がん細胞等が挙げられる。
【0082】
本発明の変異型Gタンパク質共役型受容体の発現カセットに含まれるプロモーターとしては、特に制限されず、対象細胞に応じて適宜選択することができる。プロモーターとしては、例えばpol II系プロモーターを各種使用することができる。pol II系プロモーターとしては、特に制限されないが、例えばCMVプロモーター、EF1プロモーター、SV40プロモーター、MSCVプロモーター、hTERTプロモーター、βアクチンプロモーター、CAGプロモーター等が挙げられる。その他にも、プロモーターとして、例えばtrcやtac等のトリプトファンプロモーター、lacプロモーター、T7プロモーター、T5プロモーター、T3プロモーター、SP6プロモーター、アラビノース誘導プロモーター、コールドショックプロモーター、テトラサイクリン誘導性プロモーター等が挙げられる。
【0083】
本発明の変異型Gタンパク質共役型受容体の発現カセットは、必要に応じて、他のエレメント(例えば、マルチクローニングサイト(MCS)、薬剤耐性遺伝子、複製起点、エンハンサー配列、リプレッサー配列、インスレーター配列、レポータータンパク質(例えば、蛍光タンパク質等)コード配列、薬剤耐性遺伝子コード配列などが挙げられる。)を含んでいてもよい。MCSは複数(例えば2~50、好ましくは2~20、より好ましくは2~10)個の制限酵素サイトを含むものであれば特に制限されない。本発明の変異型Gタンパク質共役型受容体が機能性ドメインを含まない場合であれば、該MCSは、任意の機能性ドメインのコード配列を挿入に使用することができる。
【0084】
薬剤耐性遺伝子としては、例えばクロラムフェニコール耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、エリスロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0085】
レポータータンパク質としては、特定の基質と反応して発光(発色)する発光(発色)タンパク質、或いは励起光によって蛍光を発する蛍光タンパク質である限り特に限定されない。発光(発色)タンパク質としては、例えばルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、βグルクロニダーゼ等が挙げられ、蛍光タンパク質としては、例えばGFP、Azami-Green、ZsGreen、GFP2、HyPer、Sirius、BFP、CFP、Turquoise、Cyan、TFP1、YFP、Venus、ZsYellow、Banana、KusabiraOrange、RFP、DsRed、AsRed、Strawberry、Jred、KillerRed、Cherry、HcRed、mPlum等が挙げられる。
【0086】
本発明の変異型Gタンパク質共役型受容体の発現カセットは、これのみで、或いは他の配列と共に発現ベクターを構成していてもよい。ベクターの種類は、特に制限されず、例えば動物細胞発現プラスミド等のプラスミドベクター; レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクター等が挙げられる。また、その他にも、ベクターとしては、例えば、大腸菌においてはpBR322誘導体に代表されるColE1系プラスミド、p15Aオリジンを持つpACYC系プラスミド、pSC系プラスミド、Bac系等のF因子由来ミニFプラスミドが挙げられる。
【0087】
本発明のポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法に従って容易に作製することができる。例えば、PCR、制限酵素切断、DNA連結技術等を利用して作製することができる。
【0088】
また、本発明は、その一態様において、本発明のポリヌクレオチドを含む、細胞(本明細書において、「本発明の細胞」と示すこともある。)に関する。細胞については、上記で説明した対象細胞と同様である。本発明のポリヌクレオチドは、本発明の細胞のゲノム内に、或いはゲノム外に存在する。
【0089】
さらに、本発明は、その一態様において、本発明の細胞を含む、非ヒト動物(本明細書において、「本発明の動物」と示すこともある。)に関する。動物については、上記で説明した動物と同様である。本発明の動物としては、好適には、後述の本発明の誘導方法で使用される非ヒト動物を採用することができる。
【0090】
4.人工リガンド
本発明は、その一態様において、
【0091】
【化3】
【0092】
で表される化合物、その塩、又はそれらの溶媒和物(本明細書において、「本発明の人工リガンド1」と示すこともある。)、に関する。
本発明は、その一態様において、
【0093】
【化4】
【0094】
で表される化合物、その塩、又はそれらの溶媒和物(本明細書において、「本発明の人工リガンド2」と示すこともある。)、に関する。
【0095】
以下、これらについて説明する。
【0096】
R1は同一又は異なって、-CH(-R112、-(CH20-4-R12、又は水素原子を示す(但し、全てのR3が水素原子である場合を除く)。R1は、好ましくは一方が水素原子である。R1は、好ましくは-CH(-R112である。
【0097】
R11は同一又は異なって、炭素数2以上のアルキル基を示す。該アルキル基には、直鎖状及び分岐鎖状のいずれのものも包含される(好ましくは直鎖状である)。該アルキル基の炭素数は、例えば2~8である。該炭素数は、好ましくは2~5、より好ましくは2~3、特に好ましくは2である。該アルキル基の具体例としては、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、3-メチルペンチル基等が挙げられる。
【0098】
R12は置換されていてもよい炭素環を示す。炭素環を構成する炭素原子数は、特に制限されないが、例えば3~12、好ましくは5~8である。R12としては、例えばフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ペンタレニル基、インデニル基、アントラニル基、テトラセニル基、ペンタセニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオレニル基、フェナントリル基等の芳香族基、シクロへキシル等のシクロアルキル基、アダマンチル基等の脂肪族基等が挙げられる。炭素環の置換基としては、特に制限されず、例えばアルキル基が挙げられる。
【0099】
R1中の「-(CH20-4-」におけるメチレン基の数は、好ましくは1~3、より好ましくは1~2である。
【0100】
R2はハロゲン原子、アルキル基、又はアルコキシ基である。R2はハロゲン原子であることが好ましい。
【0101】
R2で示されるハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。これらの中でも、フッ素原子が好ましい。
【0102】
R2で示されるアルキル基としては、直鎖状及び分岐鎖状のいずれのものも包含される(好ましくは直鎖状である)。該アルキル基の炭素数は、例えば1~6である。該炭素数は、好ましくは1~4、より好ましくは1~2、特に好ましくは1である。該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、3-メチルペンチル基等が挙げられる。
【0103】
R2で示されるアルコキシ基としては、直鎖状及び分岐鎖状のいずれのものも包含される(好ましくは直鎖状である)。該アルコキシ基の炭素数は、例えば1~6である。該炭素数は、好ましくは1~4、より好ましくは1~2、特に好ましくは1である。該アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等が挙げられる。
【0104】
R3は同一又は異なって、アルキル基、-(CH20-4-R31、又は水素原子を示す(但し、全てのR3が水素原子である場合を除く)。R1は、好ましくは両方がアルキル基である。
【0105】
R3で示されるアルキル基には、直鎖状及び分岐鎖状のいずれのものも包含される(好ましくは分岐鎖状である)。該アルキル基の炭素数は、例えば1~8である。該炭素数は、好ましくは2~5、より好ましくは2~3、特に好ましくは3である。該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、3-メチルペンチル基等が挙げられる。
【0106】
R31は置換されていてもよい炭素環を示す。当該炭素環については、R12で示される炭素環と同様である。
【0107】
R3中の「-(CH20-4-」におけるメチレン基の数は、好ましくは0~3、より好ましくは0~2である。
【0108】
R4はハロゲン原子、アルキル基、又はアルコキシ基である。
【0109】
R4で示されるハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。これらの中でも、塩素原子が好ましい。
【0110】
R4で示されるアルキル基については、R2で示されるアルキル基と同様である。
【0111】
R4で示されるアルコキシについては、R2で示されるアルコキシと同様である。
【0112】
塩は、薬学的に許容される塩である限り特に限定されず、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。例えば酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩; アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等のアミノ酸塩等が挙げられる。また、塩基性塩の例として、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩; カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0113】
溶媒は、薬学的に許容されるものであれば特に限定されず、例えば水、エタノール、グリセロール、酢酸等が挙げられる。
【0114】
上記化合物は様々な方法で合成することができる。一例として、本発明の人工リガンド1は、後述の試験例3で使用される化合物1と一般式(3):(R1-)2NH[式中:R1は前記に同じである。]で表される化合物を反応させることにより合成することができる。また、別の例として、本発明の人工リガンド2は、レボセチリジンと一般式(4):(R3-)2NH[式中:R1は前記に同じである。]で表される化合物を反応させることにより合成することができる。一般式(3)で表される化合物及び一般式(4)で表される化合物の使用量は、収率、合成の容易さ等の観点から、通常、化合物1又はレボセチリジンの1モルに対して、1~7モルが好ましく、1~5モルがより好ましい。本反応は、通常、反応溶媒の存在下で行われる。反応溶媒としては、特に制限されないが、例えばN,N-ジメチルホルムアミド、ジクロロメタン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、アセトン、トルエン等が挙げられる。溶媒は単独で使用してもよく、また、複数併用してもよい。本反応は、塩基の存在下で行うことが好ましい。塩基としては、特に制限されるものではなく、例えば公知の塩基を広く使用することができる。塩基としては、具体的には炭酸カリウム、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)等が挙げられる。塩基は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。塩基の使用量は、一例として、化合物1又はレボセチリジンの1モルに対して、1~2モルが好ましい。反応温度は、加熱下、常温下及び冷却下のいずれでも行うことができ、通常、70~100℃で行うことが好ましい。反応時間は特に制限されず、通常、1時間~30時間とすることができる。反応の進行は、クロマトグラフィーのような通常の方法で追跡することができる。反応終了後、溶媒を留去し、生成物はクロマトグラフィー法、再結晶法等の通常の方法で単離精製することができる。また、生成物の構造は、元素分析、MS(ESI-MS)分析、IR分析、1H-NMR、13C-NMR等により同定することができる。
【0115】
上記化合物は、後述の本発明の誘導方法の一態様において、好適に使用することができる。
【0116】
5.ケモジェネティクス
本発明は、その一態様において、(i)本発明の変異型Gタンパク質共役型受容体を発現する細胞1、及び非変異型Gタンパク質共役型受容体を発現する細胞2を含む非ヒト動物に、前記非変異型Gタンパク質共役型受容体の人工リガンドを投与する工程を含む、前記細胞1特異的に又は前記細胞2特異的にGタンパクシグナルを誘導する方法(本明細書において、「本発明の誘導方法」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0117】
細胞1は、本発明のポリヌクレオチドを導入することによって得ることができる。細胞1においては、非変異型Gタンパク質共役型受容体の発現が抑制されていることが好ましい。本発明の一態様において、細胞1においては、野生型Gタンパク質共役型受容体の発現が欠損又は低下するように、該野生型Gタンパク質共役型受容体遺伝子に変異が導入されている。「欠損」とは、細胞1から得られたサンプルについて、Gタンパク質共役型受容体の発現量が検出限界以下であることを示す。また、「低下」とは、細胞1から得られたサンプルについて、Gタンパク質共役型受容体の発現量が、変異導入前の野生型Gタンパク質共役型受容体遺伝子の活性及び/又は発現量よりも低い(例えば1/2、1/5、1/10、1/20、1/50、1/100、1/200、1/500、1/1000、1/2000、1/5000、1/10000以下である)ことを示す。
【0118】
遺伝子の発現の抑制は、標的遺伝子から転写されたmRNA及び標的遺伝子によってコードされる蛋白質の少なくともいずれかを検出することにより評価することができる。具体的には、mRNAに基づき評価する場合には、標的遺伝子に特異的なプライマーやプローブを用いたノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR、定量的PCR、マイクロアレイなどにより、標的遺伝子から転写されたmRNAの量を測定することにより行うことができる。蛋白質に基づき評価する場合には、標的遺伝子によってコードされる蛋白質に特異的な抗体を用いたウエスタンブロッティング、ELISAなどの免疫学的な方法により、その蛋白質の発現量を測定することにより行うことができる。
【0119】
Gタンパク質共役型受容体遺伝子に変異を導入する場合、その変異としては、Gタンパク質共役型受容体遺伝子の発現が欠損又は低下する変異である限り特に制限されるものではない。当該変異としては、例えば遺伝子欠損、タンパク質コード領域における変異、スプライシング調節領域における変異、発現制御領域(例えば、プロモーター、アクチベーター、エンハンサー等)における変異等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは遺伝子欠損が挙げられる。また、細胞1においては、当該変異を、対の染色体の両方において有することが好ましい。
【0120】
Gタンパク質共役型受容体遺伝子への変異導入は、例えば人工ヌクレアーゼ(TALEN、Casタンパク質)を用いる遺伝子ノックアウト、Gタンパク質共役型受容体遺伝子の少なくとも一部を含むターゲティングベクターが相同組み換えによって導入されたES細胞等を用いる遺伝子ノックアウト、Gタンパク質共役型受容体遺伝子に対するshRNA、アンチセンス、リボザイム等を用いる遺伝子ノックダウン、放射線照射、化学変異原投与、トランスポゾン導入等によって達成され得る。遺伝子ノックアウト、遺伝子ノックダウン、遺伝子変異導入に用いられる、ターゲッティングベクターの構築、shRNA、アンチセンス、リボザイム等の設計及び合成、ES細胞、未受精卵、受精卵、胚、始原生殖細胞等へのDNAの導入方法等は、当業者であれば従来公知の方法を適用して行うことができる。
【0121】
細胞2としては、例えば遺伝子変異導入等の処置をしていない通常の細胞であってもよいし、上記した非変異型Gタンパク質共役型受容体の発現が抑制された細胞に別の非変異型Gタンパク質共役型受容体の発現カセットを導入することにより得られた細胞であってもよい。
【0122】
細胞1及び細胞2を含む非ヒト動物は、本発明の一態様において、例えば全ての細胞において野生型Gタンパク質共役型受容体遺伝子が本発明の変異型Gタンパク質共役型受容体遺伝子に置換された動物を、人工ヌクレアーゼシステム、ターゲティングベクター等を用いた組換え技術によって作出し、該動物において、特定の細胞においてのみ、非変異型Gタンパク質共役型受容体を(例えば、細胞種特異的プロモーター等を利用して)発現させることによって、得ることができる。
【0123】
細胞1及び細胞2を含む非ヒト動物は、本発明の一態様において、例えば特定の細胞においてのみ、変異型Gタンパク質共役型受容体を(例えば、細胞種特異的プロモーター等を利用して)発現させることによって、得ることができる。
【0124】
人工リガンドの投与方法としては、特に制限されず、各種方法を採用することができる。投与経路としては、所望の効果が得られる限り特に制限されず、経口投与、経管栄養、注腸投与等の経腸投与; 経静脈投与、経動脈投与、筋肉内投与、心臓内投与、皮下投与、皮内投与、腹腔内投与等の非経口投与等が挙げられる。
【0125】
本発明の一態様において、細胞2においては人工リガンドが非変異型Gタンパク質共役型受容体に結合するのに対して、細胞1においては人工リガンドと本発明の変異型Gタンパク質共役型受容体との親和性が低いので両者の結合量が低下する。本発明の別の一態様において、細胞1においては人工リガンドが本発明の変異型Gタンパク質共役型受容体に結合するのに対して、細胞2においては人工リガンドと非変異型Gタンパク質共役型受容体との親和性が低いので両者の結合量が低下する。このため、工程(i)により、細胞1特異的(細胞1優先的に)に又は細胞2特異的(細胞2優先的に)にGタンパクシグナルを誘導することができる。すなわち、本発明の一態様において、人工リガンドがアゴニストである場合は、細胞2特異的にGタンパクシグナルを誘導することができ、人工リガンドがアンタゴニストである場合は、細胞1特異的にGタンパクシグナルを誘導することができる。また、本発明の別の一態様において、人工リガンドがアゴニストである場合は、細胞1特異的にGタンパクシグナルを誘導することができ、人工リガンドがアンタゴニストである場合は、細胞2特異的にGタンパクシグナルを誘導することができる。
【0126】
特異的にとは、例えば、細胞1(又は細胞2)におけるGタンパクシグナル強度が、細胞2(又は細胞1)におけるGタンパクシグナル強度の、2倍以上、5倍以上、10倍以上、20倍以上、50倍以上、100倍以上、200倍以上、500倍以上、又は1000倍以上であることを示す。
【0127】
Gタンパクシグナル強度は、例えばセカンドメッセンジャー(例えばカルシウムイオン、サイクリックAMP、イノシトール三リン酸等)の量を、直接的に又は間接的に測定することによって、測定することができる。測定方法としては、特に制限されず、公知の方法に従って又は準じた方法を採用することができる。
【0128】
本発明の好ましい一態様においては、Gタンパク質共役型受容体として代謝型グルタミン酸受容体を採用し、且つ人工リガンドとして本発明の人工リガンドを採用することができる。これにより、Gタンパクシグナル誘導の特異性をより高めることができる。
【0129】
本項において上記説明した以外の事項については、上述の項で説明したとおりである。
【0130】
6.試薬、キット
本発明の変異型Gタンパク質共役型受容体、本発明のポリヌクレオチド、本発明の細胞、本発明の非ヒト動物、及び本発明の人工リガンドは、本発明の誘導方法において好適に用いることができる。この観点から、本発明は、その一態様において、本発明の変異型Gタンパク質共役型受容体、本発明のポリヌクレオチド、本発明の細胞、本発明の非ヒト動物、及び本発明の人工リガンドからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、本発明の誘導方法に使用するための試薬又はキット、に関する。
【0131】
試薬は、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、特に限定されるものではないが、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤等が挙げられる。
【0132】
キットは、必要に応じてウイルス調製用試薬、遺伝子導入試薬、細胞、緩衝液等、本発明の細胞や非ヒト動物の作製、本発明の誘導方法の実施等に必要な他の材料、試薬、器具等を適宜含んでいてもよい。
【0133】
7.スクリーニング方法
本発明は、その一態様において、(a)非変異型Gタンパク質共役型受容体を発現する細胞x、及び細胞外ループ2の保存システイン残基周辺領域におけるアミノ酸残基の置換を含む変異型Gタンパク質共役型受容体を発現する細胞yに、被検物質を作用させる工程(b)前記工程(a)後にGタンパク質シグナルを検出する工程、(c)前記細胞xにおける前記Gタンパク質シグナルの強度と前記細胞yにおける前記Gタンパク質シグナルの強度とが異なる被検物質を選択する工程を含む、人工リガンドのスクリーニング方法(本明細書において、「本発明のスクリーニング方法」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0134】
細胞xは、変異型Gタンパク質共役型受容体における置換後のアミノ酸残基が限定されないこと以外は、細胞1と同様である。また、細胞yは、細胞2と同様である。
【0135】
被検物質の種類は治療薬の候補になり得る限り特に限定されない。例えば、タンパク質、ペプチド、非ペプチド性化合物(ヌクレオチド、アミン、糖質、脂質等)、有機低分子化合物、無機低分子化合物、醗酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液等が挙げられる。
【0136】
Gタンパクシグナルとしては、例えばセカンドメッセンジャー(例えばカルシウムイオン、サイクリックAMP、イノシトール三リン酸等)等が挙げられる。その測定方法としては、特に制限されず、公知の方法に従って又は準じた方法を採用することができる。
【0137】
工程(c)における選択基準となる強度の差は、例えば2倍以上、5倍以上、10倍以上、20倍以上、50倍以上、100倍以上、200倍以上、500倍以上、又は1000倍以上である。
【0138】
選択された被検物質は、人工リガンドとして、特に本発明の誘導方法に用いるための人工リガンドとして好適に使用することができる。
【0139】
本項において上記説明した以外の事項については、上述の項で説明したとおりである。
【実施例
【0140】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0141】
試験例1.ラット由来mGluR1変異体の作製
Gタンパク質共役型受容体の細胞外ループ2の保存システイン残基(膜貫通ドメイン3の保存システイン残基とS-S結合を形成するシステイン残基)の周辺領域は保存されていることが知られている。また、Gタンパク質共役型受容体の内在性リガンドは、細胞外に露出したリガンド結合ドメイン(クラスCの場合)又は膜貫通ドメインの比較的深部を認識する一方、人工リガンドは細胞外ループ2に比較的近い位置(膜貫通ドメインの比較的浅い位置)を認識する。このことから、細胞外ループ2の保存システイン残基周辺領域におけるアミノ酸残基を嵩高いアミノ酸残基に置換することにより、人工リガンドの親和性を下げることができる(結果として、Gタンパクシグナル強度を変えることができる)と考えられた。この仮説を実践するために、ラット由来mGluR1(アミノ酸配列:配列番号1、コード配列:配列番号2)において、細胞外ループ2の保存システイン残基(配列番号1のN末から746番目のアミノ酸残基)の周辺領域(配列番号1のN末から748番目のアミノ酸残基:トレオニン残基)をトリプトファン残基に置換してなるmGluR1変異体の発現プラスミドを作製した。具体的には、以下のようにして作製した。
【0142】
pcDNA3.1(ThermoFisher)から制限酵素PvuIIを用いて薬物耐性遺伝子を除き、DNA Ligation Kit Ver.2.1(Takara Bio)により3.3kbpサイズの発現ベクター(pCDM)を調製した。得られたpCDM発現ベクターにラット由来mGluR1のcDNA(文献3:S. Kiyonaka, et al. Nat. Chem. 8, 958-967 (2016))をサブクローニングしたプラスミド(pCDM-mGluR1)を作製した。これをPCRの鋳型とし、Q5 site-directed mutagenesis kit (New England Biolabs) を用いて変異導入を行なった。付属のマニュアルに従って行い変異導入を行い、目的の変異を有するmGluR1の発現プラスミド(pCDM-mGluR1-T748W)を得た。
【0143】
試験例2.Gタンパクシグナルの検出1
試験例1で得たmGluR1変異体と野生型mGluR1に人工リガンド(FITM)と内在性リガンド(グルタミン酸)を作用させ、Gタンパクシグナル強度を測定した。具体的には以下のようにして行った。
【0144】
【化5】
【0145】
試験例2-1.HEK293細胞の培養
HEK293細胞 (ATCC)は、Dulbecco’s modified Eagle’s medium (DMEM) (Sigma-Aldrich)に10%fetal bovine serum (FBS) (Sigma-Aldrich)、100 unit/mLのペニシリン、100 μg/mlのストレプトマイシンを加えたものを培地として37℃、5%CO2下のインキュベーター内で維持した。
【0146】
試験例2-2.トランスフェクション
HEK293細胞へのmGluR1発現プラスミド(pCDM-mGluR1又はpCDM-mGluR1-T748W)の一過性トランスフェクションは、培地にDMEM-GlutaMAXに10%のDialyzed-FBS、100 unit/mLのペニシリン、100 μg/mlのストレプトマイシンを加えたものを使い、トランスフェクション試薬としてViafect Transfecton Reagent (Promega)を用いてPromegaのマニュアルに従い実施した。pEGFP-F (Clonteh), pDsRed monomer-N1 (Clontech)を発現マーカーとしてmGluR1発現プラスミドと同時にトランスフェクションした。また、Ca2+イメージングを実施する前に、24~48時間インキュベーション後のHEK293細胞をpoly-L-lysine (Sigma-Aldrich)でコーティングされたカバーガラス(Matsunami)上に播種した。
【0147】
試験例2-3.Ca 2+ 蛍光イメージング
ガラス上に播種したHEK293細胞の培地中に5 μMのFura 2-AM (Dojindo)を加え、20-30分間染色した。HEK293細胞内のFura 2の蛍光をHBS (107 mM NaCl, 6 mM KCl, 1.2 mM MgSO4, 2 mM CaCl2, 11.5 mM glucose, 20 mM HEPES at pH 7.4)中で計測した。 FITMは1000× DMSO stockからHBS中に溶かし、グルタミン酸を加える3分前からHEK293細胞に加えた。蛍光画像は、蛍光顕微鏡(IX71, Olympus)にCMOSカメラ(ORCA-flash4.0, Hamamatsu Photonics)をキセノンランプに取り付けたものを用いて5秒毎に取得し、画像上のROI毎の340 nmと380 nmの蛍光強度比ratio (340 nm/380 nm)をイメージングシステムcellSens (Olympus)を用いて解析した。実験を効率化するため、異なる2種類のmGluR1(変異型または野生型)をそれぞれ発現した2種類のHEK293細胞を同時にカバーガラスに播種して実験した。細胞に発現している2種類のmGluR1は共発現している蛍光タンパク質の蛍光から区別可能である。
【0148】
結果
結果を図1に示す。細胞外ループ2の保存システイン残基周辺領域におけるアミノ酸残基を嵩高いアミノ酸残基に置換することにより、人工リガンドの親和性を下げることができるという仮説が、実証された。
【0149】
また、mGluR1以外のGタンパク質共役型受容体、及びFITM以外の人工リガンドを用いて同様の試験を行ったところ、同様の結果が得られた。このことから、上記仮説は、他のGタンパク質共役型受容体と人工リガンドとの組合せについても適用できることが分かった。
【0150】
試験例3.FITM誘導体の合成
人工リガンドであるFITMの構造の一部を嵩高く改変することにより、野生型Gタンパク質共役型受容体との親和性と、細胞外ループ2の保存システイン残基周辺領域におけるアミノ酸残基を嵩高いアミノ酸残基に置換してなる変異型Gタンパク質共役型受容体との親和性との差を、さらに大きくすることができると考えた。そこで、まずは各種FITM誘導体を作製した。
【0151】
試験例3-1.試薬類、化合物の同定に使用した測定機器類
使用した試薬類は、東京化成工業、富士フィルム和光純薬、シグマアルドリッチ、関東化学より購入した。核磁気共鳴(NMR)スペクトルはBruker Biospin Avance III HD (300 MHz for 1H NMR and 500 MHz for 1H NMR)を使用して取得した。マススペクトル(Mass spectrum, MS)は名古屋大学・化学測定機器室にてBruker Daltonics compactを使用したエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)により取得した。
【0152】
試験例3-2.Compound 2の合成
【0153】
【化6】
【0154】
化合物1は文献4(A. Satoh, et al. Bioorg. Med. Chem. Lett. 19, 5464-5468 (2009).)を参考に合成した。化合物1(50 mg, 0.143 mml, 1 eq.)と炭酸カリウム(27 mg, 0.195 mmol, 1.36 eq.)に乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(5 ml)を加えて1を溶解させ、3-アミノペンタン(40 μl, 30 mg, 0.344 mmol, 2.41 eq.)を加えて窒素雰囲気下、90℃で22.5時間加熱撹拌した。反応液をエバポレーションしてDMFを留去し、残渣に酢酸エチルと飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて2回分液操作を行い、得られた有機相に飽和塩化ナトリウム水溶液を加えてさらに分液操作を行った。有機相に硫酸マグネシウムを加えて乾燥させ、濾過して塩を取り除いた後、濾液をエバポレーションにより濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム、クロロホルム/酢酸エチル = 50/1, 25/1)と分取用薄層クロマトグラフィー(クロロホルム/酢酸エチル = 1/1)により精製し、目的物を白色固体として収率16%で得た(9 mg, 0.023 mmol)。
【0155】
1H NMR (300 MHz, CD3OD): δ 8.35 (d, J = 1.1 Hz, 1H), 7.88 (s, 1H), 7.71 (dd, J = 5.3, 8.9 Hz, 2H), 7.28 (t, J = 8.9 Hz, 2H), 7.23 (brs, 1H), 3.74 (s, 3H), 1.73-1.44 (m, 4H), 0.95 (t, J= 7.4 Hz, 6H); HRMS (ESI+): calcd for [M + H]+ (C20H23FN5OS) 400.1602, found 400.1607。
【0156】
試験例3-3.Compound 3の合成
【0157】
【化7】
【0158】
3-アミノペンタンに代えて適当な化合物を使用する以外は試験例3-2と同様にして合成した。目的物を白色個体として収率32%で得た(14 mg, 33.4 mmol)。
【0159】
1H NMR (500 MHz, CDCl3): δ 8.63 (s, 1H), 7.93 (s, 1H), 7.61 (dd, J = 5.2, 8.8 Hz, 2H), 7.38-7.34 (m, 4H), 7.32-7.28 (m,1H), 7.19 (t, J = 8.8 Hz, 2H), 7.13 (s, 1H), 5.35 (brs, 1H, NH), 4.64 (s, 2H), 3.72 (s, 3H); HRMS (ESI+): calcd for [M + H]+ (C22H19FN5OS) 420.1289, found 420.1286。
【0160】
試験例3-4.Compound 4の合成
【0161】
【化8】
【0162】
3-アミノペンタンに代えて適当な化合物を使用する以外は試験例3-2と同様にして合成した。目的物を白色固体として収率88%で得た(52 mg, 0.122 mmol)。
【0163】
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 8.56 (brs, 1H), 7.92 (s, 1H), 7.61 (dd, J = 5.2, 8.9 Hz, 2H), 7.20 (t, J = 8.9 Hz, 2H), 7.07 (d, J = 1.1 Hz, 1H), 5.23 (brs, 1H, NH), 3.75 (s, 3H), 3.25 (brs, 2H), 1.99 (brs, 1H), 1.84-1.68 (m, 4H), 1.33-1.15 (m, 4H), 1.08-0.96 (m, 2H); HRMS (ESI+): calcd for [M + H]+ (C22H25FN5OS) 426.1758, found 426.1750。
【0164】
試験例3-5.Compound 5の合成
【0165】
【化9】
【0166】
3-アミノペンタンに代えて適当な化合物を使用する以外は試験例3-2と同様にして合成した。目的物を白色固体として収率94%で得た(56 mg, 0.127 mmol)。
【0167】
1H NMR (300 MHz, CDCl3):δ 8.57 (brs, 1H), 7.93 (s, 1H), 7.61 (dd, J = 5.2, 8.8 Hz, 2H), 7.20 (t, J = 8.8 Hz, 2H), 7.07 (d, J = 1.0 Hz, 1H), 5.02 (brs, 1H, NH), 3.75 (s, 3H), 3.41 (brs, 2H), 1.78-1.64 (m, 6H), 1.55 (dt, J = 7.0, 7.5 Hz, 2H), 1.44-1.36 (m, 1H), 1.29-1.12 (m, 2H), 1.02-0.91 (m, 2H); HRMS (ESI+): calcd for [M + H]+ (C23H27FN5OS) 440.1915, found 440.1915。
【0168】
試験例4.Gタンパクシグナルの検出2
試験例1で得たmGluR1変異体と野生型mGluR1に人工リガンド(FITM誘導体:試験例3)と内在性リガンド(グルタミン酸)を作用させ、Gタンパクシグナル強度を測定した。具体的には試験例2と同様にして行った。
【0169】
結果を図2及び図3に示す。人工リガンドであるFITMの構造の一部を嵩高く改変することにより、野生型Gタンパク質共役型受容体との親和性と、細胞外ループ2の保存システイン残基周辺領域におけるアミノ酸残基を嵩高いアミノ酸残基に置換してなる変異型Gタンパク質共役型受容体との親和性との差を、さらに大きくすることができた。
【0170】
試験例5.Gタンパクシグナルの検出3
試験例1で得たmGluR1変異体と野生型mGluR1に内在性リガンド(グルタミン酸)のみを作用させ、Gタンパクシグナル強度を測定した。具体的には試験例2と同様にして行った。
【0171】
結果を図4に示す。図4より、細胞外ループ2部位への変異導入は、内在性リガンド(グルタミン酸)応答性を損なわないことが示された。
【0172】
試験例6.ヒト由来H1R変異体の作製1
ヒト由来H1R(アミノ酸配列:配列番号3、コード配列:配列番号4)において、細胞外ループ2の保存システイン残基(配列番号3のN末から180番目のアミノ酸残基)の周辺領域(配列番号3のN末から178番目のアミノ酸残基:アスパラギン酸残基、及びN末から179番目のアミノ酸残基:リシン残基)をアラニン残基、アラニン残基に置換してなるhH1R変異体の発現プラスミドを作製した。具体的には、以下のようにして作製した。
pcDNA3.1(ThermoFisher)から制限酵素PvuIIを用いて薬物耐性遺伝子を除き、DNA Ligation Kit Ver.2.1(Takara Bio)により3.3kbpサイズの発現ベクターを作製した(pCDMベクター)。この遺伝子発現ベクターのプロモーターはサイトメガロウイルス由来のCMVプロモーターであり、プロモーター下流にサブクローニングされた遺伝子を強く発現させる。しかし、今回の実験ではH1Rの過剰な発現を抑制するため、pCDMベクターのCMVプロモーターをpFN24A HaloTag CMVd3 Flexi Vector(Promega)が持つCMVd3プロモーターへ交換し、H1RのcDNAをサブクローニングすることによりH1Rの発現ベクター、pCDM-d3-H1Rを作製した。
H1R変異体発現ベクターはoverlap extension PCR法を用いて作製した(図)。初めに変異導入したプライマーを用いてPCRを行い、変異導入部位が相補的な2つのPCR産物を得た。これら2つのPCR産物を鋳型にしてPCRを行って全長cDNAを持つPCR産物を得、NheIとNotIを加えて制限酵素処理を行って変異導入したcDNAを得た。これをpCDM-d3ベクターにサブクローニングしてH1R変異体の発現ベクターを作製した。
【0173】
試験例7.レボセチリジン誘導体の合成
ヒスタミンH1受容体(H1R)の拮抗薬である第3世代抗ヒスタミン薬の一つ、レボセチリジンの構造の一部を嵩高く改変した。
【0174】
試験例7-1.試薬類、化合物の同定に使用した測定機器類
使用した試薬類は、東京化成工業、富士フィルム和光純薬、シグマアルドリッチ、関東化学より購入した。核磁気共鳴(NMR)スペクトルはBruker Biospin Advance III HD (300 MHz for 1H NMR)とBruker Biospin Advance III HD (500 MHz for 1H NMR)を使用して取得した。
略語:DMF; N,N-ジメチルホルムアミド、HBTU; 1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-ベンゾトリアゾリウム3-オキシドへミサフルオロホスファート、DIPEA; N,N-ジイソプロピルエチルアミン。
【0175】
試験例7-2.Lvc-Diisoproの合成
【0176】
【化10】
【0177】
25 mL二首ナスフラスコにLevocetirizine・2HCl 45 mg(0.10 mmol, 1.0 eq)とHBTU 50 mg(0.13 mmol, 1.4 eq)を入れ、脱気および窒素置換を行った。置換後dry DMF 3 mLとDIPEA 60 μL(0.35 mmol, 3.6 eq)をシリンジで加え、室温で56分撹拌した。撹拌後diisopropylamine 60 μL (0.43 mmol, 4.4 eq) をシリンジで加え、室温で3時間撹拌した。反応を止めて溶媒を留去した後にクロロホルムに溶解させ、5%炭酸ナトリウム水溶液で4回の分液を行った。クロロホルム相のみを回収し無水硫酸ナトリウムで脱水し、吸引濾過により濾液を回収した。回収した濾液から溶媒を留去した。粗精製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (クロロホルム → クロロホルム:メタノール = 99 : 1 → クロロホルム:メタノール = 8 : 1)にて精製し、精製物をCDCl3に溶解させ、1H NMRを測定した(収量46 mg, 収率100%, 無色透明のオイル状)。
【0178】
1H NMR (500 MHz CDCl3) δ: 7.36-7.34 (m, 4H), 7.27-7.16 (m, 5H), 4.20 (s, 1H), 4.07 (s, 2H), 3.99 (m, 1H), 3.63 (t, J = 5.8 Hz, 2H), 3.39 (m, 1H), 2.62 (t, J = 5.8 Hz, 2H), 2.52 (br, 4H), 2.41 (br, 4H), 1.90 (d, J = 6.5 Hz, 6H), 1.16 (d, J = 6.5 Hz, 6H)。
【0179】
試験例7-3.Lvc-Adamの合成
【0180】
【化11】
【0181】
25 mL二首ナスフラスコにLevocetirizine・2HCl 45 mg(0.10 mmol, 1.0 eq)とHBTU 50 mg(0.13 mmol, 1.4 eq)を入れ、脱気および窒素置換を行った。置換後DMF 2 mLとDIPEA 60 μL(0.35 mmol, 3.6 eq)をシリンジで加え、室温で40分撹拌した。この際、反応液が透明から薄い褐色に変化した。撹拌後1-adamantanamine 26 mg (0.17 mmol, 1.8 eq) をDMF 1 mLに溶解させた溶液をシリンジで加え、室温で3時間45分撹拌した。反応を止めて溶媒を留去した後にクロロホルムに溶解させ、5%炭酸ナトリウム水溶液で3回分液を行った。クロロホルム相のみを回収し無水硫酸ナトリウムで脱水し、吸引濾過により濾液を回収し、濾液から溶媒を留去した。粗精製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (クロロホルム → クロロホルム:メタノール = 100 : 1 → クロロホルム:メタノール = 50 : 1 → クロロホルム:メタノール = 25 : 1)にて精製し、精製物をCDCl3に溶解させ、1H NMRを測定した(収量51 mg, 収率100%, 褐色のオイル状)。
【0182】
1H NMR (300 MHz CDCl3) δ: 7.38-7.34 (m, 4H), 7.29-7.19 (m, 5H), 6.29 (br, 1H), 4.20 (s, 1H), 3.82 (s, 1H), 3.59 (t, J = 5.7 Hz, 2H), 2.60 (t, J = 5.7 Hz, 2H), 2.53 (br, 4H), 2.42 (br, 4H), 2.07 (br, 3H), 2.00 (m, 6H), 1.68 (t, J = 2.7 Hz, 6H)。
【0183】
試験例7-4.Lvc-1-MeNaphの合成
【0184】
【化12】
【0185】
25 mL二首ナスフラスコにLevocetirizine・2HCl 50 mg(0.11 mmol, 1.0 eq)とHBTU 82 mg(0.21 mmol, 1.9 eq)を入れ、脱気および窒素置換を行った。置換後DMF 4 mLとDIPEA 60 μL(0.35 mmol, 3.3 eq)をシリンジで加え、室温で50分撹拌した。この際、反応液が透明から薄い黄色に変化した。撹拌後1-Naphthylmethylamine 20 μL (0.14 mmol, 1.3 eq) をシリンジで加え、室温で22時間撹拌した。反応を止めて溶媒を留去した後にクロロホルムに溶解させ、水酸化ナトリウム水溶液(1 mM)で1回分液を行った。クロロホルム相のみを回収し無水硫酸ナトリウムで脱水し、吸引濾過により濾液を回収した。回収した濾液から溶媒を留去した。粗精製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (クロロホルム → クロロホルム:メタノール = 19 : 1)にて精製し、精製物をCDCl3に溶解させ、1H NMRを測定した(収量11 mg, 収率19%, 黄褐色のオイル状)。
【0186】
1H NMR (500 MHz CDCl3) δ: 8.01 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 7.87 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 7.79 (br, 1H, l), 8.01 (d, J = 8.5 Hz, 1H), 7.59-7.35 (m, 4H), 7.23-7.13 (m, 9H), 4.97 (d, J = 5.5 Hz, 2H), 4.07 (s, 2H), 3.65 (s, 1H), 3.56 (t, J = 5.0 Hz, 2H), 2.46 (t, J = 5.0 Hz, 2H), 2.31 (br, 4H), 1.99 (br, 4H)。
【0187】
試験例7-5.Lvc-Diproの合成
【0188】
【化13】
【0189】
25 mL二首ナスフラスコにLevocetirizine・2HCl 45 mg(0.10 mmol, 1.0 eq)とHBTU 50 mg(0.13 mmol, 1.4 eq)を入れ、脱気および窒素置換を行った。置換後dry DMF 4 mLとDIPEA 60 μL(0.35 mmol, 3.6 eq)をシリンジで加え、室温で40分撹拌した。この際、透明から薄い褐色に変化した。撹拌後Dipropylamine50 μL (0.37 mmol, 3.8 eq) をシリンジで加え、室温で4時間35分撹拌した。反応を止めて溶媒を留去した後にクロロホルムに溶解させ、水酸化ナトリウム水溶液(pH 11)で2回分液を行った。クロロホルム相のみを回収し無水硫酸ナトリウムで脱水し、吸引濾過により濾液を回収した。回収した濾液から溶媒を留去した。粗精製物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (クロロホルム → クロロホルム:メタノール = 49 : 1)にて精製し、精製物をCDCl3に溶解させ、1H NMRを測定した(収量40 mg, 収率87%, 黄色のオイル状)。
【0190】
1H NMR (500 MHz CDCl3) δ: 7.37-7.34 (m, 4H), 7.29-7.17 (m, 5H), 4.26 (s, 1H), 4.20 (s, 2H), 3.72 (t, J = 5.5 Hz, 2H), 3.19 (dt, J = 7.5, 8.8 Hz, 4H), 2.85 (t, J = 5.5 Hz, 2H), 2.79 (br, 4H), 2.52 (br, 4H), 1.59-1.52 (m, 4H), 0.89 (dd, J = 7.5, 8.5 Hz, 6H)。
【0191】
試験例8.Gタンパクシグナルの検出4
試験例6で得たhH1R変異体と野生型hH1Rに人工リガンド(レボセチリジン誘導体:試験例7)を作用させ、Gタンパクシグナル強度を測定した。具体的には以下のようにして行った。
【0192】
<HEK293細胞の培養>
HEK293細胞 (ATCC)は、Dulbecco’s modified Eagle’s medium (DMEM) (Sigma-Aldrich)に10% fetal bovine serum (FBS) (Sigma-Aldrich)、100 unit/mLのペニシリン、100 μg/mlのストレプトマイシンを加えたものを培地として37℃、5% CO2条件下、インキュベーター内で維持した。
【0193】
<トランスフェクション>
HEK293細胞へのプラスミド(pCDM-d3-H1R、pCDM-d3-H1R-D178A/K179A、pCDM-d3-H1R-D178G/K179G)の一過性トランスフェクションは、培地DMEM-GlutaMAXに10%のDialyzed-FBS、100 unit/mLのペニシリン、100 μg/mlのストレプトマイシンを加えたものを使い、トランスフェクション試薬としてViafect Transfecton Reagent (Promega)を用いてPromegaのマニュアルに従い実施した。pCDM-d1-EGFP-F、pDsRed monomer-N1 (Clontech)、piRFP670-N1(Addgene)をpCDM-mGlu1と同時にトランスフェクションし、これらの蛍光タンパク質を発現マーカーとした。また、Ca2+イメージングを実施する前に、24~48時間インキュベーション後のHEK293細胞をpoly-L-lysine (Sigma-Aldrich)でコーティングされたカバーガラス(Matsunami)上に播種した。
【0194】
<Ca2+蛍光イメージング>
ガラス上に播種したHEK293細胞の培地中に5 μMのFura 2-AM (Dojindo)を加え、20-30分間染色した。HEK293細胞内のFura 2の蛍光をHBS (107 mM NaCl, 6 mM KCl, 1.2 mM MgSO4, 2 mM CaCl2, 11.5 mM glucose, 20 mM HEPES at pH 7.4)中で計測した。Levocetirizineまたはlevocetirizine誘導体を1000× DMSO stockからHBS中に溶かし、ヒスタミンを加える4分前からHEK293細胞に加えた。蛍光画像は、蛍光顕微鏡(IX71, Olympus)にCMOSカメラ(ORCA-flash4.0, Hamamatsu Photonics)をキセノンランプに取り付けたものを用いて5秒毎に取得し、画像上のROI毎の340 nmと380 nmの蛍光強度比ratio (340 nm/380 nm)をイメージングシステムcellSens (Olympus)を用いて解析した。実験を効率化するため、異なる3種類のH1R(変異型または野生型)をそれぞれ発現した3種類のHEK293細胞を同時にカバーガラスに播種して実験した。細胞に発現している3種類のH1Rは共発現している蛍光タンパク質の蛍光から判別した。
【0195】
<結果>
結果を図6~9に示す。細胞外ループ2の保存システイン残基周辺領域におけるアミノ酸残基をより小さいアミノ酸残基に置換することにより、得られた変異型Gタンパク質共役型受容体と人工リガンドとの親和性と、野生型Gタンパク質共役型受容体と人工リガンドとの親和性との差を、大きくすることができた。
【0196】
試験例9.ヒト由来H1R変異体の作製2
ヒト由来H1R(アミノ酸配列:配列番号3、コード配列:配列番号4)において、細胞外ループ2の保存システイン残基(配列番号3のN末から180番目のアミノ酸残基)の周辺領域(配列番号3のN末から178番目のアミノ酸残基:アスパラギン酸残基、及びN末から179番目のアミノ酸残基:リシン残基)をグリシン残基、グリシン残基に置換してなるhH1R変異体の発現プラスミドを作製した。具体的には、試験例6と同様にして作製した。
【0197】
試験例10.Gタンパクシグナルの検出5
試験例9で得たhH1R変異体と野生型hH1Rに人工リガンド(レボセチリジン誘導体:試験例7)と内在性リガンド(ヒスタミン)を作用させ、Gタンパクシグナル強度を測定した。具体的には試験例8と同様にして行った。
結果を図10に示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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