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特許7654246距離、速度測定装置及び距離、速度測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-24
(45)【発行日】2025-04-01
(54)【発明の名称】距離、速度測定装置及び距離、速度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/34 20200101AFI20250325BHJP
【FI】
G01S17/34
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021046608
(22)【出願日】2021-03-19
(65)【公開番号】P2022145268
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2024-02-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「マイクロ光周波数コムの新規制御技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】久世 直也
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-111160(JP,A)
【文献】国際公開第2020/018805(WO,A1)
【文献】特表2010-505095(JP,A)
【文献】特開平09-166414(JP,A)
【文献】国際公開第2017/187510(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0333443(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0377089(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0123720(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第3581962(EP,A1)
【文献】国際公開第2021/020242(WO,A1)
【文献】特開平06-317669(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0051146(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0331797(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48- 7/51,
G01S 17/00-17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続波である励起光を照射するレーザ光源装置と、
前記励起光の発振周波数を制御するための電流コントローラと
前記電流コントローラを制御する第1制御装置と、
変調周波数で変調信号を発振するRF発振器と、
前記励起光から得られるキャリア光源が入力され、前記RF発振器の前記変調信号によって駆動され、前記キャリア光源を抑制し、前記キャリア光源の高周波側に前記変調周波数だけシフトした上側サイドバンド及び前記キャリア光源の低周波側に前記変調周波数だけシフトした下側サイドバンドを生成し、前記上側サイドバンドと前記下側サイドバンドの混合光を参照光として出力する電気光学変調器と、
前記RF発振器の前記変調周波数を制御する第2制御装置と、
前記参照光を対象体に照射したときの散乱光と前記参照光との干渉信号を計測する光検出器と、
前記光検出器によって検出された前記干渉信号から前記対象体までの距離及び前記対象体の速度を計算する計算装置と
を備え、前記第1制御装置による前記電流コントローラの制御によって前記参照光の周波数をνからν+ΔCWまで掃引し、前記第2制御装置による前記RF発振器の制御によって、前記RF発振器の前記発振周波数をfからf+Δまで掃引し、
前記第1制御装置による前記電流コントローラの制御及び前記第2制御装置による前記RF発振器の制御は、互いに同期をとりながら実行され、
前記計算装置は前記干渉信号から前記上側サイドバンドのビート信号の周波数beat+及び前記下側サイドバンドのビート信号の周波数beat-以下の式
【数1】

【数2】

より算出し、さらに
【数3】

【数4】


の式(cは光速、Tは前記参照光の周波数のνからν+ΔCWまでの掃引時間、Δは周波数変化量の最大値)により前記対象体までの距離τ及び前記対象体の速度Vを算出することを特徴とする距離・速度測定装置。
【請求項2】
前記対象体に照射する前記参照光の角度を掃引する角度掃引機構をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の距離・速度測定装置。
【請求項3】
前記励起光と前記キャリア光源とは互いに同一であることを特徴とする請求項1又は2に記載の距離・速度測定装置。
【請求項4】
前記参照光の周波数の掃引量と前記RF発振器の前記発振周波数の掃引量とをアンバランスマッハツェンダ―干渉計を用いて測定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の距離・速度測定装置。
【請求項5】
前記参照光の周波数の掃引量と前記RF発振器の前記発振周波数の掃引量とを干渉用CWレーザを用いて測定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の距離・速度測定装置。
【請求項6】
前記励起光から前記キャリア光源として光周波数コムを生成する光周波数コム発生器と、
前記第1制御装置による前記電流コントローラの制御による前記光周波数コムのコムモード周波数の掃引量を測定する周波数変化測定部と、
前記光周波数コムを前記電気光学変調器に入力し、前記光周波数コムの各コムモードについて生成された前記上側サイドバンドと前記下側サイドバンドの混合光を、前記各コムモードのモード毎に分離し、前記モード毎に分離された前記混合光のそれぞれを前記各コムモードのモード周波数に応じた角度で照射するための第1波長分割多重伝送装置と
をさらに備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の距離・速度測定装置。
【請求項7】
前記光周波数コム発生器は、電気光学変調器から構成されることを特徴とする請求項6に記載の距離・速度測定装置。
【請求項8】
前記光周波数コム発生器は、微小共振器から構成されることを特徴とする請求項6に記載の距離・速度測定装置。
【請求項9】
前記周波数変化測定部はアンバランスマッハツェンダ―干渉計から構成されることを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載の距離・速度測定装置。
【請求項10】
前記周波数変化測定部は前記光周波数コムと干渉用CWレーザとの干渉計から構成されることを特徴とする請求項6乃至8のいずれかに記載の距離・速度測定装置。
【請求項11】
前記電気光学変調器は、強度変調器であり、直流バイアス電圧を調整することによってキャリア抑制両側サイドバンド変調するように調整されることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の距離・速度測定装置。
【請求項12】
連続波である励起光を照射するステップと、
前記励起光からキャリア光源を得るステップと、
変調周波数で変調信号を発振するRF発振器によって駆動される電気光学変調器に入力し、前記キャリア光源が抑制され、前記キャリア光源の高周波側に前記変調周波数だけシフトした上側サイドバンド及び前記キャリア光源の低周波側に前記変調周波数だけシフトした下側サイドバンドを生成し、前記上側サイドバンドと前記下側サイドバンドの混合光を参照光として出力するステップと、
前記参照光を対象体に照射したときの散乱光と前記参照光との干渉信号を計測するステップと、
前記参照光の周波数をνからν+ΔCWまで掃引し、前記RF発振器の発振周波数をfからf+Δまで掃引するステップと、
前記干渉信号から前記上側サイドバンドのビート信号の周波数beat+及び前記下側サイドバンドのビート信号の周波数beat-以下の式
【数5】


【数6】


より算出するステップと、
【数7】


【数8】


上式(cは光速、Tは前記参照光の周波数のνからν+ΔCWまでの掃引時間、Δは周波数変化量の最大値)により前記対象体までの距離τ及び前記対象体の速度Vを算出するステップと
を備えることを特徴とする距離・速度測定方法。
【請求項13】
前記対象体に照射する前記参照光の角度を掃引するステップをさらに備えたことを特徴とする請求項12に記載の距離・速度測定方法。
【請求項14】
前記励起光と前記キャリア光源とは互いに同一であることを特徴とする請求項12又は13に記載の距離・速度測定方法。
【請求項15】
前記参照光の周波数の掃引量と前記RF発振器の前記発振周波数の掃引量とをアンバランスマッハツェンダ―干渉計を用いて測定するステップをさらに備えたことを特徴とする請求項12乃至14のいずれかに記載の距離・速度測定方法。
【請求項16】
前記参照光の周波数の掃引量と前記RF発振器の前記発振周波数の掃引量とを干渉用CWレーザを用いて測定するステップをさらに備えたことを特徴とする請求項12乃至14のいずれかに記載の距離・速度測定方法。
【請求項17】
前記励起光から前記キャリア光源として光周波数コムを生成するステップと、
前記参照光の周波数をνからν+ΔCWまで掃引し、前記RF発振器の前記発振周波数をfからf+Δまで掃引するステップにおいて、前記光周波数コムのコムモード周波数の掃引量を測定するステップと、
前記光周波数コムの各コムモードについて生成された前記上側サイドバンドと前記下側サイドバンドの混合光を、前記各コムモードのモード毎に分離し、前記モード毎に分離された前記混合光のそれぞれを前記各コムモードのモード周波数に応じた角度で照射するステップと
をさらに備えたことを特徴とする請求項12又は13に記載の距離・速度測定方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、距離、速度測定装置及び距離、速度測定方法に関し、特に、FMCWライダーによる距離、速度測定装置及び距離、速度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「光検出と測距(Light Detection and Ranging、LiDAR)」は、レーザを対象体に照射して散乱光を検出し、対象体までの距離を計測する技術である。その手法の1つに周波数変調CWライダー(frequency-modulated cw LiDAR、FMCW LiDAR)がある。FMCWライダーは、周波数変調したCWレーザを対象体に照射し、参照光と散乱光の干渉によって生じるビート信号の周波数を測定することによって対象体までの距離及び速度を検出する方法である。
【0003】
図10図11及び図11を参照して、FMCWライダーにより対象体までの距離及び対象体の速度を検出する方法を説明する。図10に、従来のFMCWライダーによる距離測定装置100の構成の一例を示す。CWレーザ光源装置1001から照射されたCWレーザ1009は、光方向性結合器1002において参照光1010と参照光1016とに分離される。参照光1010は、サーキュレータ1003を介して角度掃引機構1004に入射し、角度掃引機構1004によって角度αの方向へ照射される。照射された参照光1012は角度αの方向に位置する対象体1005によって散乱し、散乱光1013が角度掃引機構1004に入射する。角度掃引機構1004に入射した散乱光1013は、そのまま散乱光1014としてサーキュレータに入力され、散乱光1015として出力される。散乱光1015は、光方向性結合器1006によって、参照光1016と合流し出力光1017として出力される。出力光1017の干渉信号を光検出器1007によって検出し、検出された干渉信号1018は計算装置1008に入力される。角度掃引機構1004が参照光1012を角度αの方向へ照射する状態を保ったまま、CWレーザ光源装置1001によってCWレーザ1009の周波数を掃引することにより、対象体1005までの距離が算出される。
【0004】
CWレーザ1009の周波数掃引の一例として、図11(a)及び図12(a)に示すように、CWレーザ1009の周波数を三角波形で時間変化させるとする。対象体1005が静止しているとき、散乱光1015は、参照光1016に対して遅れて伝搬するため、出力光1017の周波数を掃引したときの周波数変化量は図11(b)のように表される。散乱光1015と参照光1016の干渉によりビート信号が生じ、光検出器1007によって図11(c)に示すような、ビート信号の周波数fbeatを検出することが出来る。ビート信号の周波数は次式
【0005】
【数1】
のように表されることから、対象体1005までの距離Lを算出することが出来る。ここで、cは光速、Tは図11及び図12に示す三角波形の半周期、Δは図11及び図12に示す周波数変化量の最大値である。
【0006】
対象体1005が移動しているとき、散乱光1015は、参照光1016に対して遅れて伝搬するが、ドップラーシフトにより、周波数も変化する。図12(b)に示す例では、周波数が高周波側にシフトしている。ビート信号の周波数は図12(c)のように表され、次式により対象体1005までの距離L及び対象体の速度Vを算出することが出来る。
【0007】
【数2】
【0008】
【数3】
【0009】
こういったFMCWライダーにより対象体までの距離及び速度を検出する方法は、CWレーザの照射角度を掃引しながら、掃引する全ての照射角度においてCWレーザの周波数を掃引する必要があるため、測定時間が長くなる。これに対して、FMCWライダーにより対象体までの距離及び速度を検出する際の測定時間を短縮する方法が、例えば非特許文献1及び非特許文献2に開示されている。
【0010】
非特許文献1には、光源としてマイクロコムを使用し、マイクロコムの各コムモードをCWレーザ光源とすることにより角度掃引時間を短縮する方法が開示されている。非特許文献1に開示された方法によれば、マイクロコムの各コムモードを、回折光学素子等により各コムモードのコムモード周波数に応じた角度方向に照射し、励起CWレーザ光の周波数と、マイクロコムの共鳴周波数を同時に掃引することによりマイクロコムの周波数掃引を行うことによって、角度掃引時間を短縮することが出来る。
【0011】
図12を参照しながら説明した方法によれば、移動する対象体の距離及び速度を算出するためには、図12(a)に示すような三角波形状に周波数掃引する場合、図12では、時間0からTまで周波数を増加させた後、時間Tから2Tまで周波数を減少させることによって距離と速度を算出することが出来る。非特許文献2に開示された方法によれば、光源としてキャリア抑制両側サイドバンド変調を使用することにより距離と速度を同時刻に測定することが出来、よって掃引時間を短縮することが出来る。
【0012】
図13に、非特許文献2に開示された方法による距離、速度測定装置130の構成の一例を示す。図13に示す速度測定装置130は、CWレーザ光源装置1001に電気光学変調器1301を接続する点を除き、図10に示すFMCWライダーによる距離測定装置100の構成と同様である。電気光学変調器1301は、キャリア、即ちCWレーザ1009を抑制して両側のサイドバンドのみを出力するように調整されるとし、かつ変調周波数がfであるRF発振器1302によって駆動されるとする。
【0013】
CWレーザ光源装置1001から照射された周波数νのCWレーザ1009は、電気光学変調器1301によって変調を受け、CWレーザ1009は抑制され、周波数がν+fとν―fの2つのサイドバンドが生成される。RF発振器1302の発振周波数をfからf+Δまでシフトさせることにより、図14(a)に示すように、上側サイドバンド(A)の周波数をν+fからν+f+Δまで、下側サイドバンド(B)の周波数をν―fからν―(f+Δ)までシフトさせることが出来る。
【0014】
上側サイドバンド(A)及び下側サイドバンド(B)を静止している対象体に照射したときの散乱光は、図14(b)の散乱光(C)及び散乱光(D)のように、上側サイドバンド(A)及び下側サイドバンド(B)に対して遅れて伝搬する。上側サイドバンド(A)及び下側サイドバンド(B)を移動している対象体に照射すると、散乱光は、図14(b)の散乱光(E)及び散乱光(F)のように、ドップラーシフトによって周波数がシフトする。光検出器907によって、図14(c)に示すように、上側サイドバンド(A)と散乱光(E)とのビート周波数(G)、及び下側サイドバンド(B)と散乱光(F)とのビート周波数(H)を検出することにより、距離と速度を同時に算出することが出来る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【文献】J.Riemensberger,et al.,Nature,581,164(2020)
【文献】Z.Xu,et al.,IEEE Photonics Technology Letters,Vol.29,No.24,December 15,pp.2254-2257(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
非特許文献2に開示されている方法によると、上側サイドバンド(A)及び下側サイドバンド(B)を移動している対象体に照射すると、図13(c)に示すように、ビート周波数(G)とビート周波数(H)が互いに異なる値であるため、距離と速度を算出することが出来る。しかしながら、静止している対象体に対しては、上側サイドバンド(A)と散乱光(C)とのビート周波数と下側サイドバンド(B)と散乱光(D)とのビート周波数とが同じ値となり、上側サイドバンド(A)による散乱光と下側サイドバンド(B)による散乱光が干渉し打ち消しあうことで、光検出器によって信号を検出することが出来ず、距離を算出することが出来なくなる状況が存在する。
【0017】
上記問題点を鑑み、本発明は、静止している対象体、移動している対象体の距離、速度測定のいずれにおいても、計測時間を短縮する、FMCWライダーによる距離、速度測定装置及び距離、速度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1の態様は、距離、速度測定装置であって、連続波である励起光を照射するレーザ光源装置と、励起光の発振周波数を制御するための電流コントローラと電流コントローラを制御する第1制御装置と、変調周波数で変調信号を発振するRF発振器と、励起光から得られるキャリア光源が入力され、RF発振器の変調信号によって駆動され、キャリア光源を抑制し、キャリア光源の高周波側に変調周波数だけシフトした上側サイドバンド及びキャリア光源の低周波側に変調周波数だけシフトした下側サイドバンドを生成し、上側サイドバンドと下側サイドバンドの混合光を参照光として出力する電気光学変調器と、RF発振器の変調周波数を制御する第2制御装置と、参照光を対象体に照射したときの散乱光と参照光との干渉信号を計測する光検出器と、光検出器によって検出された干渉信号から対象体までの距離及び対象体の速度を計算する計算装置とを備え、第1制御装置による電流コントローラの制御によって参照光の周波数をνからν+ΔCWまで掃引し、第2制御装置によるRF発振器の制御によって、RF発振器の発振周波数をfからf+Δまで掃引し、第1制御装置による電流コントローラの制御及び第2制御装置によるRF発振器の制御は、互いに同期をとりながら実行され、計算装置は干渉信号からビート信号fbeat+、fbeat-を算出し、さらに
【0019】
【数4】
【0020】
【数5】

の式により対象体までの距離τ及び対象体の速度Vを算出することを要旨とする。
【0021】
本発明の第1の態様において、対象体に照射する参照光の角度を掃引する角度掃引機構をさらに備えてもよい。
【0022】
本発明の第1の態様において、励起光と前記キャリア光源とは互いに同一であってもよい。
【0023】
本発明の第1の態様において、参照光の周波数の掃引量とRF発振器の発振周波数の掃引量とをアンバランスマッハツェンダ―干渉計を用いて測定してもよい。
【0024】
本発明の第1の態様において、参照光の周波数の掃引量とRF発振器の発振周波数の掃引量とを干渉用CWレーザを用いて測定してもよい。
【0025】
本発明の第1の態様において、励起光からキャリア光源として光周波数コムを生成する光周波数コム発生器と、第1制御装置による電流コントローラの制御による光周波数コムのコムモード周波数の掃引量を測定する周波数変化測定部と、光周波数コムを電気光学変調器に入力し、光周波数コムの各コムモードについて生成された上側サイドバンドと下側サイドバンドの混合光を、各コムモードのモード毎に分離し、モード毎に分離された混合光のそれぞれを各コムモードのモード周波数に応じた角度で照射するための第1波長分割多重伝送装置とをさらに備えてもよい。
【0026】
本発明の第1の態様において、光周波数コム発生器は、電気光学変調器から構成されてもよい。
【0027】
本発明の第1の態様において、光周波数コム発生器は、微小共振器から構成されてもよい。
【0028】
本発明の第1の態様において、周波数変化測定部はアンバランスマッハツェンダ―干渉計から構成されてもよい。
【0029】
本発明の第1の態様において、周波数変化測定部は光周波数コムと干渉用CWレーザとの干渉計から構成されてもよい。
【0030】
本発明の第1の態様において、強度変調器であり、直流バイアス電圧を調整することによってキャリア抑制両側サイドバンド変調するように調整されてもよい。
【0031】
本発明の第2の態様は、距離、速度測定方法であって、連続波である励起光を照射するステップと、励起光からキャリア光源を得るステップと、変調周波数で変調信号を発振するRF発振器によって駆動される電気光学変調器に入力し、キャリア光源が抑制され、キャリア光源の高周波側に変調周波数だけシフトした上側サイドバンド及びキャリア光源の低周波側に変調周波数だけシフトした下側サイドバンドを生成し、上側サイドバンドと下側サイドバンドの混合光を参照光として出力するステップと、参照光を対象体に照射したときの散乱光と参照光との干渉信号を計測するステップと、参照光の周波数をνからν+ΔCWまで掃引し、RF発振器の発振周波数をfからf+Δまで掃引するステップと、干渉信号からビート信号fbeat+、fbeat-を算出するステップと、
【0032】
【数6】
【0033】
【数7】
上式により対象体までの距離τ及び対象体の速度Vを算出するステップとを備えることを要旨とする。
【0034】
本発明の第2の態様において、対象体に照射する参照光の角度を掃引するステップをさらに備えてもよい。
【0035】
本発明の第2の態様において、励起光とキャリア光源とは互いに同一であってもよい。
【0036】
参照光の周波数の掃引量とRF発振器の発振周波数の掃引量とをアンバランスマッハツェンダ―干渉計を用いて測定するステップをさらに備えてもよい。
【0037】
参照光の周波数の掃引量とRF発振器の発振周波数の掃引量とを干渉用CWレーザを用いて測定するステップをさらに備えてもよい。
【0038】
本発明の第2の態様において、励起光から前記キャリア光源として光周波数コムを生成するステップと、参照光の周波数をνからν+ΔCWまで掃引し、RF発振器の発振周波数をfからf+Δまで掃引するステップにおいて、光周波数コムのコムモード周波数の掃引量を測定するステップと、光周波数コムの各コムモードについて生成された上側サイドバンドと下側サイドバンドの混合光を、各コムモードのモード毎に分離し、モード毎に分離された混合光のそれぞれを各コムモードのモード周波数に応じた角度で照射するステップとをさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、静止している対象体、移動している対象体の距離、速度測定のいずれにおいても、短時間での計測を可能とする、FMCWライダーによる距離、速度測定装置及び距離、速度測定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】第1の実施形態に係る距離、速度測定装置の構成の一例を示すブロック図である。
図2】第1の実施形態に係る距離、速度測定装置による参照光、散乱光の上側サイドバンド周波数、下側サイドバンド周波数及びビート周波数の時間変化を示すグラフであり、(a)及び(b)は上側サイドバンド周波数、下側サイドバンド周波数、(c)はビート周波数に対するグラフである。
図3】第2の実施形態に係る距離、速度測定装置の構成の一例を示すブロック図である。
図4】第2の実施形態に係る距離、速度測定装置のライダー部の構成の一例を示すブロック図である。
図5】光周波数コム発生器として電気光学変調器を使用する場合の、周波数変化測定部の構成の一例を示すブロック図である。
図6】光周波数コム発生器として微小共振器を使用する場合の、周波数変化測定部の構成の一例を示すブロック図である。
図7】実験を行った距離、速度測定装置の構成を示すブロック図である。
図8】観測された上側サイドバンドと下側サイドバンドの周波数の時間変化を示すグラフである。
図9】観測されたビート信号を示すグラフである。
図10】従来のFMCWライダーによる距離測定装置の構成の一例を示すブロック図である。
図11】対象体が静止しているときの従来のFMCWライダーによる参照光、散乱光及びビート周波数の変化量を示すグラフであり、(a)は参照光、(b)は参照光と散乱光、(c)はビート周波数に対するグラフである。
図12】対象体が移動しているときの従来のFMCWライダーによる参照光、散乱光及びビート周波数の変化量を示すグラフであり、(a)は参照光、(b)は参照光と散乱光、(c)はビート周波数に対するグラフである。
図13】非特許文献2に開示された方法による距離、速度測定装置の構成の一例を示すブロック図である。
図14】非特許文献2に開示された方法による距離、速度測定装置の参照光、散乱光の上側サイドバンド周波数、下側サイドバンド周波数及びビート周波数の時間変化を示すグラフであり、(a)及び(b)は上側サイドバンド周波数、下側サイドバンド周波数、(c)はビート周波数に対するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。実施形態に係る図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各部材の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0042】
又、実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、各構成要素の構成や配置、レイアウト等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0043】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る距離、速度測定装置及び距離、速度測定方法を図1を参照しながら説明する。図1に示すように、本実施形態に係る距離、速度測定装置10は、CWレーザ光源装置101と、電気光学変調器102と、RF発振器103と、電流コントローラ104と、第1制御装置105と、第2制御装置106と、第1光方向性結合器107と、サーキュレータ108と、角度掃引機構109と、第2光方向性結合器110と、光検出器111と、計算装置112とから構成される。
【0044】
CWレーザ光源装置101から、周波数がνであるCWレーザ113をキャリア抑制両側サイドバンド変調するように設定された電気光学変調器102に入射する。電気光学変調器102は、変調周波数がfであるRF発振器103によって駆動される。キャリア抑制両側サイドバンド変調とは、キャリア光源を入力すると、キャリア光源は抑制し、キャリア光源の周波数から高周波側及び低周波側に変調周波数分シフトした周波数を有する2つのサイドバンドを生成し、出力する変調である。電気光学変調器102としては、特に強度変調器が好適であり、この場合、直流バイアス電圧を調整することによってキャリア抑制両側サイドバンド変調するように調整される。電気光学変調器102によって、キャリア光源であるCWレーザ113は抑制され、CWレーザ113の周波数νの高周波側及び低周波側にfだけシフトした周波数を有する2つのサイドバンドが生成される。
【0045】
電気光学変調器102によって生成された2つのサイドバンドの混合光114を、2つの参照光115、116に分け、参照光115を対象体124に照射し、散乱光と参照光の干渉を光検出器によって検出して対象体までの距離を算出する点は、以下に述べるように、従来のFMCWライダーと同様である。
【0046】
2つのサイドバンドの混合光114は、第1光方向性結合器107において参照光115と参照光116とに分離される。参照光115はサーキュレータ108に入力され、参照光117として出力される。角度掃引機構109に入力された参照光117は、角度掃引機構109の出力孔から見て角度αの方向へ照射され、照射された参照光118は角度αの方向に位置する対象体124によって散乱し、散乱光119が角度掃引機構109に入射する。入射した散乱光120はサーキュレータ108及び第2光方向性結合器110によって、参照光116と合流し、出力光122として出力される。出力光122の干渉信号を光検出器111によって検出し、干渉信号123は計算装置112に入力される。
【0047】
非特許文献2に開示されている方法では、RF発振器1202の発振周波数をfからf+Δまで掃引し、図13(c)に示すように、上側サイドバンド(A)と散乱光(E)とのビート周波数(G)、及び下側サイドバンド(B)と散乱光(F)とのビート周波数(H)を検出し、距離と速度を同時に算出する。この方法によれば、静止している対象体に対して、上側サイドバンド(A)と散乱光(C)とのビート周波数と下側サイドバンド(B)と散乱光(D)とのビート周波数とが同じ値となり、距離を算出することが出来ない状況が存在する。
【0048】
本実施形態においては、RF発振器103の発振周波数をfからf+Δまで掃引すると同時に、CWレーザ光源装置101から照射するCWレーザ113の周波数をνからν+ΔCWまで掃引する。図2(a)に示すように、電気光学変調器102によって生成された上側サイドバンド(I)の周波数はν+fからν+f+Δ+ΔCWまで、下側サイドバンド(J)の周波数はν―fからν―(f+Δ)+ΔCWまで変化する。上側サイドバンド(I)及び下側サイドバンド(J)を静止している対象体に照射したときの散乱光は、図2(b)の散乱光(K)及び散乱光(L)、移動している対象体に照射したときの散乱光は、図2(b)の散乱光(M)及び散乱光(N)となる。
【0049】
非特許文献2に開示されている方法では、上側サイドバンド(A)と散乱光(C)とのビート周波数と下側サイドバンド(B)と散乱光(D)とのビート周波数とが同じ値となり、距離を算出することが出来ない場合があるのに対して、本実施形態では、上側サイドバンド(I)と下側サイドバンド(J)のビート周波数が互いに異なるため、対象体が静止している場合においても、距離を算出することが出来る。
【0050】
図2(c)に示すように、対象体が静止しているとき、移動しているときのいずれにおいても、上側サイドバンドのビート周波数(O)と下側サイドバンドのビート周波数(P)が互いに異なり、次式のように表すことが出来る。
【0051】
【数8】
【0052】
【数9】
したがって、対象体が静止しているときは対象体までの距離を、対象体が移動しているときは対象体までの距離及び対象体の速度を次式より算出することが出来る。
【0053】
【数10】
【0054】
【数11】
【0055】
上式により得られる距離及び速度は、角度掃引機構109によって参照光115を所定の角度の方向へ照射した際に、角度掃引機構109から所定の角度方向に位置する対象体までの距離及び対象体の速度である。本実施形態における一連の距離、速度測定は、角度掃引機構109によって参照光115の照射角の角度掃引を行い、各角度において、上式による距離及び速度測定を行う。
【0056】
本実施形態において、電気光学変調器102としては、特に強度変調器を使用し、キャリア抑制両側サイドバンド変調が可能となるように直流バイアス電圧を調整する。RF発振器103としては、例えば電圧制御発振器を使用する。第2制御装置106によってRF発振器103が発振周波数をfからf+Δまで掃引するように制御する。CWレーザ光源装置101には電流コントローラ104を接続し、さらに電流コントローラ104に第1制御装置105を接続する。第1制御装置105によって電流コントローラ104を制御し、CWレーザ光源装置101から照射するCWレーザ113の周波数をνからν+ΔCWまで掃引する。
【0057】
CWレーザの周波数掃引量と、RF発振器の周波数掃引量の測定方法としては、例えば、アンバランスマッハツェンダ―干渉計を使用する方法や、CWレーザ及び上側サイドバンドと干渉させるための干渉用CWレーザを用意し、干渉用CWレーザとCWレーザとの干渉と、干渉用CWレーザと上側サイドバンドとの干渉をそれぞれ光検出器によって検出し、その周波数差を測定する方法が挙げられる。
【0058】
CWレーザの周波数掃引量とRF発振器の周波数掃引量の測定を、アンバランスマッハツェンダ―干渉計を用いて行う場合、本実施形態においては、CWレーザ113を図示しない周波数掃引量測定用アンバランスマッハツェンダ―干渉計を用いて2つに分岐させ、光路長の異なる2つの光路を伝搬させたのち重ね合わせ、干渉による干渉信号を光検出器によって検出し、CWレーザ113の周波数変化による干渉信号の位相の変化を測定することによりCWレーザの周波数掃引量を測定する。RF発振器の周波数掃引量の測定についても同様に、2つのサイドバンドの混合光114のうちのいずれかのサイドバンドの、図示しないアンバランスマッハツェンダ―干渉計によって生じる干渉の干渉信号を光検出器によって検出することによりRF発振器の周波数掃引量を測定する。なお、CWレーザの周波数掃引量を測定するための図示しないアンバランスマッハツェンダ―干渉計と、RF発振器の周波数掃引量を測定するための図示しないアンバランスマッハツェンダ―干渉計とは、互いに異なる干渉計であってもよく、また、互いに同一の干渉計であってもよい。互いに同一の干渉計である場合は、CWレーザ113と、2つのサイドバンドの混合光114のうちのいずれかのサイドバンドとを、それぞれ、周波数掃引量測定用アンバランスマッハツェンダ―干渉計の対抗する入力端子から入力させる。
【0059】
CWレーザの周波数掃引量とRF発振器の周波数掃引量の測定を、干渉用CWレーザを用いて行う場合、本実施形態においては、CWレーザ113とは別の、CWレーザ113と干渉させるための図示しない干渉用CWレーザを用意し、CWレーザ113と干渉用CWレーザとの干渉による干渉信号を光検出器によって検出し、CWレーザ113の周波数変化による干渉信号の位相の変化を測定することによりCWレーザの周波数掃引量を測定する。RF発振器の周波数掃引量の測定についても同様に、2つのサイドバンドの混合光114のうちのいずれかのサイドバンドと、図示しない干渉用CWレーザとの干渉の干渉信号を光検出器によって検出することによりRF発振器の周波数掃引量を測定する。なお、CWレーザ113と干渉させるための図示しない干渉用CWレーザと、2つのサイドバンドの混合光114のうちのいずれかのサイドバンドと干渉させるための図示しない干渉用CWレーザとは、互いに異なるレーザであってもよく、また、互いに同一のレーザであってもよい。互いに同一のレーザである場合は、図示しない干渉用CWレーザを2つに分岐させ、一方をCWレーザ113と干渉させ、もう一方をサイドバンドと干渉させる。
【0060】
図2(a)に示すように、RF発振器103の発振周波数の掃引とCWレーザ113の周波数の掃引は同じ周期で行う必要があるため、第1制御装置105と第2制御装置106による制御は、互いに同期をとりながら実行される。第1制御装置105による電流コントローラ104の制御及び第2制御装置106によるRF発振器103の制御は、CWレーザ113の周波数及びRF発振器1102の発振周波数が、例えばのこぎり波形状となるように、実行される。
【0061】
以上述べたように、本実施形態に係る距離、速度測定装置及び距離、速度測定方法によれば、対象体が静止しているときは対象体までの距離を、対象体が移動しているときは対象体までの距離及び対象体の速度を測定する時間を短縮することが出来る。
【0062】
(第2の実施形態)
第1の実施形態において、CWレーザ光源装置からCWレーザを電気光学変調器に入射した。本実施形態では、電気光学変調器に、CWレーザの代わりに光周波数コムを入射することにより、距離及び速度の測定時間をさらに短縮する。
【0063】
本実施形態に係る距離、速度測定装置30の構成の一例を図3に示す。図3に示すように、本実施形態に係る距離、速度測定装置30は、CWレーザ光源装置301と、光周波数コム発生器302と、電気光学変調器303と、RF発振器304と、電流コントローラ305と、第1制御装置306と、第2制御装置307と、第1光方向性結合器308と、第2光方向性結合器309と、ライダー部310と、周波数変化測定部311とから構成される。
【0064】
光周波数コム発生器302としては、例えば電気光学変調器や微小共振器が挙げられる。光周波数コム発生器302として電気光学変調器を用いる場合、CWレーザ光源装置301からCWレーザを電気光学変調器に入力し、変調を加えることによってサイドバンド、即ち光周波数コムを発生させる。光周波数コム発生器302として微小共振器を用いる場合、CWレーザ光源装置301からCWレーザを導波路を介して導波路に光結合された微小共振器に入力し、光周波数コムを発生させる。
【0065】
電気光学変調器や微小共振器による光周波数コムは、コムモード周波数の間隔が10GHz-1THz程度と、モードロックファイバレーザ等の従来の光周波数コムのコム間隔が100MHz-1GHz程度であるのと比較して広い。本実施形態においては、後述するように、光周波数コムの各コムモードは互いに分離して、各コムモードを複数のCWレーザとして使用し、更に各コムモードのコムモード周波数を掃引することから、光周波数コムのコム間隔が広いほうが望ましく、コム間隔の観点からは、光周波数コム発生器302として電気光学変調器や微小共振器を使用するのが望ましい。
【0066】
CWレーザ光源装置301からCWレーザ312を光周波数コム発生器302に入力させ、光周波数コム313を生成させる。光周波数コム発生器302において生成された光周波数コム313は、第1光方向性結合器308によって光周波数コム314と光周波数コム317に分離され、光周波数コム314が電気光学変調器303に入力される。電気光学変調器303は、第1の実施形態と同様、変調周波数がfであるRF発振器304によって駆動され、かつキャリア抑制両側サイドバンド変調するように設定されている。光周波数コム314を電気光学変調器303に入力すると、キャリア光源である光周波数コム314は抑制され、光周波数コム314の複数のコムモードのそれぞれに対して、各コムモードのコムモード周波数の高周波側及び低周波側にfだけシフトした周波数を有する2つのサイドバンドが生成される。光周波数コム314がn個のコムモードから構成されるとすると、電気光学変調器303によってn個のコムモードは抑制され、n個のコムモードのそれぞれに対して2個ずつ、即ち2n個のサイドバンドが生成される。電気光学変調器303によって生成された2n個のサイドバンドは、参照光315として第2光方向性結合器309に入力され、参照光316と参照光318に分離され、参照光316はライダー部310に入力される。
【0067】
ライダー部310の構成の一例を図4に示す。図4に示すライダー部310は、第3光方向性結合器401と、サーキュレータ402と、第1波長分割多重伝送(Wavelength Division Multiplexing,WDM)装置403と、第4光方向性結合器404と、第2波長分割多重伝送(WDM)装置405と、第1~第n光検出器4061~406nと、計算装置407とから構成される。
【0068】
参照光316は、第3光方向性結合器401において参照光408と参照光409とに分離される。参照光408は、サーキュレータ402を介して第1波長分割多重伝送装置403に入力される。第1波長分割多重伝送装置403において、2n個のサイドバンドは、各コムモードの上側サイドバンド及び下側サイドバンドを1組として、n個のサイドバンドの組に分離され、各サイドバンドの周波数に応じた角度方向に照射される。
【0069】
各サイドバンドは、それぞれの周波数に応じた角度方向に位置する対象体410によって散乱される。各サイドバンドの散乱光は、第1波長分割多重伝送装置403によって散乱光411として合流し、サーキュレータ402及び第4光方向性結合器404によって参照光409と合流し、出力光412として出力される。出力光412は第2波長分割多重伝送装置405によって再度n個のサイドバンドの組に分離される。それぞれのサイドバンドの組の干渉信号4131~413nは第1~第n光検出器4061~406nによって検出され、計算装置407に入力される。
【0070】
本実施形態においては、RF発振器304の発振周波数をfからf+Δまで掃引すると同時に、光周波数コム313の各コムモード周波数をνからν+Δまで掃引する。ここで、νはp番目のコムモードのコムモード周波数とする。RF発振器304の発振周波数の掃引と光周波数コム313の各コムモード周波数の掃引が同じ周期である必要があるため、第1制御装置306と第2制御装置307による制御は、互いに同期をとりながら実行される。
【0071】
光周波数コム313の周波数掃引は、光周波数コム発生器302として電気光学変調器を使用する場合、第1制御装置306によって電流コントローラ305を制御することにより、電流コントローラ305に接続されたCWレーザ光源装置301から電気光学変調器に入力されるCWレーザの周波数を掃引することによって行う。光周波数コム発生器302として微小共振器を使用する場合、微小共振器の共鳴周波数をマイクロヒータ、圧電素子等により制御し、微小共振器の共鳴周波数の制御に同期して、第1制御装置306によって電流コントローラ305を制御することでCWレーザの周波数を制御し、光周波数コム313の周波数掃引を行う。ただし、周波数掃引範囲が小さい場合は電流コントローラ305を制御することで、CWレーザーの周波数を制御するだけでよい。
【0072】
光周波数コム313の周波数掃引量は、周波数変化測定部311を用いて測定する。各コムモードをFMCWライダーの光キャリアとして使用するため、周波数掃引されている全てのコムモードの周波数掃引量を同時に測定する必要がある。
【0073】
掃引されるコムモードの周波数掃引量の測定は、例えば、アンバランスマッハツェンダ―干渉計を使用する方法や、コムモードと干渉させるための干渉用CWレーザを使用する方法が挙げられる。掃引されるコムモードの周波数掃引量の測定を、干渉用CWレーザを用いて行う場合、コムモードと干渉させるための干渉用CWレーザを用意し、干渉用CWレーザとコムモードを干渉させて、干渉信号を光検出器によって検出し、コムモードの周波数の周波数変化による干渉信号の位相の変化量を測定することにより周波数掃引量を測定する。本実施形態においては、アンバランスマッハツェンダ―干渉計を使用してコムモードの周波数掃引量の測定を行う。
【0074】
本実施形態において、アンバランスマッハツェンダ―干渉計を使用してコムモードの周波数掃引量の測定を行う際、光周波数コム発生器302として電気光学変調器を使用する場合と、微小共振器を使用する場合とでは、測定方法が互いに異なる。
【0075】
光周波数コム発生器302として電気光学変調器を使用する場合の、本実施形態に係る周波数変化測定部311を周波数変化測定部3111として、その一例を図5に示す。図5に示す周波数変化測定部311は2波長アンバランスマッハツェンダ―干渉計501と、第1光バンドパスフィルタ(BPF)502、第2光バンドパスフィルタ(BPF)503、第1光検出器504、第2光検出器505とから構成される。2波長アンバランスマッハツェンダ―干渉計501は、互いに光路長の異なる第1導波路506と、第2導波路507と、第5光方向性結合器508と、第6光方向性結合器509とから構成される。
【0076】
光周波数コム発生器302において生成された光周波数コム313は、第1光方向性結合器308に入力され、光周波数コム314と光周波数コム317に分離され、光周波数コム317は周波数変化測定部311に入力される。光周波数コム317は、参照光510として第1導波路506を、参照光511として第2導波路507を伝搬し、第6光方向性結合器509において合流し、出力光512が出力される。第1光バンドパスフィルタ(BPF)502によって出力光512のp番目のコムモードのみを出力光513として透過させ、第1光検出器504によって出力光513の干渉信号が検出される。
【0077】
電気光学変調器303によって生成された2n個のサイドバンドは、参照光315として第2光方向性結合器309に入力され、参照光316と参照光318に分離され、参照光318は周波数変化測定部311に入力される。参照光318は、光周波数コム317と同様、第1導波路506及び第2導波路507を伝搬し、第1光方向性結合器308から出力光516として出力される。第2光バンドパスフィルタ(BPF)503によって出力光516のq番目のコムモードの上側サイドバンドのみを出力光517として透過させ、第2光検出器505によって出力光517の干渉信号が検出される。第2光バンドパスフィルタ(BPF)503は、出力光516のq番目のコムモードの上側サイドバンドのみを透過させるように設定されるものとしたが、出力光516のq番目のコムモードの下 側サイドバンドを透過させるように設定されるものとしてもかまわない。
【0078】
光周波数コム313がn個のコムから構成されるとして、光周波数コム313が電気光学変調器303に入力されることによって生成された2n個のサイドバンドのうち、光周波数コム313のCWレーザ312から数えてq番目のコムから生成されたサイドバンドの、上側サイドバンドの周波数νq+及び下側サイドバンドの周波数νq―は、
【0079】
【数12】
【0080】
【数13】

で表すことが出来る。ΔCWとΔを求めることによって、電気光学変調器303によって生成された2n個のサイドバンドのうち、全てのサイドバンドの周波数を算出することが出来る。
【0081】
図5に示す周波数変化測定部3111を用いた場合、光周波数コム317のs番目のコムモードの周波数は、
【0082】
【数14】
で表される。光周波数コム317の周波数変化量Δνと、第1光検出器504によって検出された出力光513の干渉信号の位相の変化量Δφは、
【0083】
【数15】
で表されることから、出力光513の干渉信号の位相の変化量Δφを計測することで、光周波数コム317の周波数変化量Δν、即ちΔCWを求めることが出来る。ここで、τは、2波長アンバランスマッハツェンダ―干渉計501による、参照光318の光周波数コム317に対する遅延時間である。
【0084】
参照光318のCWレーザ312から数えてq番目のコムから生成されたサイドバンドの、上側サイドバンドの周波数νq+は(式12)のように表されることから、光周波数コム317の周波数変化量Δν、即ちΔCWを求める手順と同様の手順で、参照光318の周波数変化量ΔCW+Δ、即ちΔを求めることが出来る。
【0085】
光周波数コム発生器302として微小共振器を使用する場合の、本実施形態に係る周波数変化測定部311を周波数変化測定部3112として、その一例を図6に示す。図6に示す周波数変化測定部3112は、図5に示す周波数変化測定部3111と比較すると、第5光方向性結合器508には第5光バンドパスフィルタ(BPF)603及び第5光検出器606が、第6光方向性結合器509には第3光バンドパスフィルタ(BPF)601、第4光バンドパスフィルタ(BPF)602、第3光検出器604及び第4光検出器605が接続されている点が異なっている。
【0086】
光周波数コム317は第5光方向性結合器508によって参照光510と参照光511とに分離され、参照光510は第1導波路506を、参照光511は第2導波路507を伝搬し、第6光方向性結合器509において合流し、出力光606及び出力光607が出力され、出力光606が第3光バンドパスフィルタ(BPF)601に、出力光607が第4光バンドパスフィルタ(BPF)602に入力される。第3光バンドパスフィルタ(BPF)601によって出力光606のp番目のコムモードのみを出力光609として透過させ、第3光検出器604によって出力光609の干渉信号が検出される。第4光バンドパスフィルタ(BPF)602によって出力光607のq番目のコムモードのみを出力光610として透過させ、第4光検出器605によって出力光610の干渉信号が検出される。ただし、p≠qである。
【0087】
参照光318についても、光周波数コム317と同様、第5光バンドパスフィルタ(BPF)603によって出力光608のr番目のコムモードの上側サイドバンドのみを出力光611として透過させ、第5光検出器606によって出力光611の干渉信号が検出される。
【0088】
光周波数コム313が電気光学変調器303に入力されることによって生成された2n個のサイドバンドのうち、光周波数コム313のCWレーザ312から数えてr番目のコムから生成されたサイドバンドの、上側サイドバンドの周波数νr+及び下側サイドバンドの周波数νr―は、
【0089】
【数16】
【0090】
【数17】

で表すことが出来る。ただし、ΔrepはCWレーザ312の変化に伴って生じるコムモード間隔の変化量である。ΔCW、Δ、及びΔrepを求めることによって、電気光学変調器303によって生成された2n個のサイドバンドのうち、全てのサイドバンドの周波数を算出することが出来る。
【0091】
図6に示す周波数変化測定部3112を用いた場合、出力光609及び出力光610の干渉信号から、ΔCW及びΔrepを求めることが出来る。さらに、出力光611の干渉信号から、Δを求めることが出来る。
【0092】
RF発振器304の発振周波数をfからf+Δまで掃引すると同時に、光周波数コム313の各コムモード周波数をνからν+Δまで掃引し、ライダー部310の第1~第n光検出器4061~406nによって検出された干渉信号4131~413nから、第1の実施形態と同様、第1波長分割多重伝送装置403から光周波数コム313の各サイドバンドの周波数に応じた角度方向に位置する対象体までの距離と対象体の速度を算出することが出来る。
【0093】
以上により得られる距離及び速度は、光周波数コム313の各サイドバンドの周波数に応じた角度方向に位置する対象体までの距離及び対象体の速度である。本実施形態における一連の距離、速度測定は、光周波数コム313のコムモード周波数を掃引することによって、参照光408の照射角の角度掃引を行い、各角度において、上式による距離及び速度測定を行う。
【0094】
本実施形態の距離、速度測定装置を使用して、静止している対象体、移動している対象体の距離と速度の算出を実際に行った。この実験の構成の一部を図7に示す。本実験では、図3に示す光周波数コム発生器302として微小共振器702を使用した。また、簡単のために、光バンドパスフィルタ(BPF)711によって、微小共振器702において生成された光周波数コム715のn本のコムモードのうち1本のコムモード716のみを取り出して、コムモード616に対してのみ距離と速度の算出を行った。図7には、図3に示すライダー部310と周波数変化測定部311は示していない。また、微小共振器702の共鳴周波数を変えるための、例えばマイクロヒータ等の機構は図7には図示されていない。
【0095】
図8に、観測された上側サイドバンドと下側サイドバンドの周波数の時間変化を示す。また、図9に、静止している対象体、移動している対象体に対する観測されたビート信号を示す。図9に示すように、静止している対象体、移動している対象体のいずれに対してもビート周波数を観測出来た。また、図8に示すように、上側サイドバンドと下側サイドバンドとで互いに異なる周波数変化が観測された。
【0096】
静止している対象体、移動している対象体のビート周波数を使用して算出した距離と速度を次の表に示す。静止している対象体、移動している対象体のそれぞれの距離はほぼ同じ値を示し、速度の値は50倍程度の差となった。従って、本実施形態の距離、速度測定装置によって、静止している対象体が静止状態であり、移動している対象体は動作している状態であると認識することが出来た。また、定量的に値を算出することが出来た。
【0097】
【表1】
【0098】
以上、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0099】
10、30、90、130 距離、速度測定装置
101、301、701、1001 CWレーザ光源装置
102、303、703、1301 電気光学変調器
103、304、704、1302 RF発振器
104、305、705 電流コントローラ
105、306、706 第1制御装置
106、307、707 第2制御装置
107、308 第1光方向性結合器
108、402、1003 サーキュレータ
109、1004 角度掃引機構
110、309 第2光方向性結合器
111、712、1007 光検出器
112、407、713、1008 計算装置
113、312、714、1009 CWレーザ
114 混合光
115~118、315、316、318、408、409、510、511、1010~1012、1016 参照光
119~121、411、1013、1014 散乱光
122、412、512、513、516、517、606~611、1017 出力光
123、4131~413n、1018 干渉信号
124、410、1005 対象体
302 光周波数コム発生器
310 ライダー部
311、3111、3112 周波数変化測定部
313、314、317、615 光周波数コム
401 第3光方向性結合器
403 第1波長分割多重伝送装置
404 第4光方向性結合器
405 第2波長分割多重伝送装置
4061~406n 第1~第n光検出器
501 2波長アンバランスマッハツェンダ―干渉計
502 第1光バンドパスフィルタ(BPF)
503 第2光バンドパスフィルタ(BPF)
504 第1光検出器
505 第2光検出器
506 第1導波路
507 第2導波路
508 第5光方向性結合器
509 第6光方向性結合器
601 第3光バンドパスフィルタ(BPF)
602 第4光バンドパスフィルタ(BPF)
603 第5光バンドパスフィルタ(BPF)
604 第3光検出器
605 第4光検出器
606 第5光検出器
702 微小共振器
711 コムモード
1002、1006 光方向性結合器
図1
図2
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