(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-24
(45)【発行日】2025-04-01
(54)【発明の名称】地盤改良工法および注入装置
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20250325BHJP
C09K 17/12 20060101ALI20250325BHJP
C09K 17/02 20060101ALI20250325BHJP
C09K 17/06 20060101ALI20250325BHJP
C09K 103/00 20060101ALN20250325BHJP
【FI】
E02D3/12 101
C09K17/12 P
C09K17/02 P
C09K17/06 P
C09K103:00
(21)【出願番号】P 2024160475
(22)【出願日】2024-09-17
【審査請求日】2024-09-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000162652
【氏名又は名称】強化土エンジニヤリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【氏名又は名称】杉本 由美子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 隆光
(72)【発明者】
【氏名】島田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】角田 百合花
(72)【発明者】
【氏名】田井 智大
【審査官】小林 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-172253(JP,A)
【文献】特開2022-066686(JP,A)
【文献】特開2023-178680(JP,A)
【文献】特開2022-090984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に挿入した
複数の注入管からの噴射流体により該地盤を切削して切削領域を形成し、形成された該切削領域に注入材を注入する
にあたり、
下記i)~iii)、
i)焼成シリカおよびポゾラン作用を有する天然シリカのいずれかまたは複数からなるシリカ粒子、
ii)前記焼成シリカがスラグ、フライアッシュ、セメント、下水焼却灰、植物焼却灰および焼成粘土のいずれかまたは複数からなるシリカ粒子、
iii)前記ポゾラン作用を有する天然シリカがローム土、シラス、火山灰、二和土および三和土のいずれかまたは複数からなるシリカ粒子、
のいずれかのシリカ粒子からなる懸濁粒子を主材とし、溶液型シリカを有効成分とする懸濁液からなる注入材を、複数の前記注入管から前記地盤に注入して、前記切削領域に充填するとともに該切削領域から周辺地盤の土粒子間に浸透させることにより、該切削領域および周辺地盤を固結する
地盤改良工法であって、
前記懸濁液より分離された分離シリカ溶液が前記懸濁粒子が浸透し得ない領域まで浸透した後、該分離シリカ溶液がゲル化して地盤を固化することにより、該懸濁粒子による地盤の固化と、該分離シリカ溶液による地盤の固化を行うものであり、
前記シリカ粒子としてブレーン値が4000~20000cm
2
/gのものを用い、前記注入材における該シリカ粒子の配合量を40~200kg/400Lとし、前記溶液型シリカとしてシリカコロイドおよび/または水ガラスを用い、
前記注入材は、前記溶液型シリカが水ガラスを含む場合は、モル比1.0~5.0の水ガラスを用い、該注入材における該水ガラスの配合量を10~150L/400Lとし、
前記分離シリカ溶液のシリカ濃度が0.5w/v%以上であって、該分離シリカ溶液がゲル化したホモゲルが自立する強度を有するとともに、該分離シリカ溶液が浸透して固結したサンドゲルが自立する強度を有するものであり、
前記分離シリカ溶液がゲル化してそのホモゲルが自立するとは、該分離シリカ溶液のシリカ濃度が0.5w/v%以上であって、モールド内において、該ホモゲルを斜めに傾けてもゲルが崩れず自立する状態を意味し、前記サンドゲルが自立するとは、前記分離シリカ溶液のシリカ濃度が0.5w/v%以上であって、6号珪砂を用いた場合、該分離シリカ溶液を使用して相対密度60%になるように直径5cm×高さ10cmで混合法により作製された該サンドゲルが自立し、該サンドゲルを用いて測定された一軸圧縮試験における強度が2.0kN/m
2
以上であることを意味し、
前記分離シリカ溶液が、細粒土への浸透性をもって、前記地盤のうち前記懸濁粒子が浸透し得なかった領域まで浸透して、中心に近い部分における、該懸濁粒子の濃度が高く相体的に高強度となる領域と、中心から離れるにつれ該懸濁粒子の濃度が低くなって相対的に低強度となる領域と、その外側の、前記分離シリカ溶液のゲル化によるシリカ分の多い固結体とを形成し、隣接する前記注入管からの該懸濁粒子による固結体同士を連結することを特徴とする地盤改良工法。
【請求項2】
前記注入材が、以下のいずれかまたは複数からなる
アルカリ剤を含む請求項
1記載の地盤改良工法。
(1)石膏およびMgOのいずれかまたは複数を有効成分とする
アルカリ剤。
(2)Ca塩、Mg塩、Al塩、炭酸塩および重炭酸塩のいずれかまたは複数を有効成分とする
アルカリ剤。
(3)石灰、セメント、苛性アルカリ、水ガラスおよびシリカコロイドのいずれかまたは複数を有効成分とする
アルカリ剤。
【請求項3】
前記懸濁粒子
がスラグ
であってセメントを併用しない場合は、前記注入材における該スラグの配合量が10~50w/v%
であり、または、前記注入材が前記懸濁粒子としてスラグを含むとともにセメントを含む場合
は、該セメントの重量が該懸濁粒子の重量に対して5~50%である請求項1記載の地盤改良工法。
【請求項4】
前記注入材が、マイクロバブル、空気、分散剤および増粘剤のいずれかまたは複数を有効成分とする請求項1記載の地盤改良工法。
【請求項5】
前記注入材が、多価金属化合物
からなる硬化剤を含み、該硬化剤が、Ca、Mg若しくはAlの、水酸化物、酸化物または塩のうちのいずれか1種または複数種、および/または、石膏である請求項
1記載の地盤改良工法。
【請求項6】
前記注入材を、空間を有する地下構造物の周辺地盤に注入することで、該地下構造物の強化を行う請求項1記載の地盤改良工法。
【請求項7】
掘削面の自立および止水に適用される請求項1記載の地盤改良工法。
【請求項8】
液状化地盤の地盤改良に適用される請求項1記載の地盤改良工法。
【請求項9】
前記注入材の注入による改良効果を非破壊試験によって確認する請求項1記載の地盤改良工法。
【請求項10】
前記非破壊試験が、弾性波速度検層法、音響トモグラフィーまたは表面波探査によるものである請求項
9記載の地盤改良工法。
【請求項11】
前記分離シリカ溶液が、前記地盤のうち前記懸濁粒子が浸透し得なかった部分に浸透して、固結範囲を拡大し、または、該地盤のうち該懸濁粒子が浸透した部分と一体化して固結体を形成する請求項1記載の地盤改良工法。
【請求項12】
請求項1記載の地盤改良工法において高圧噴射攪拌工法に
用いられる注入装置であって、地盤に挿入されるガイド管と、該ガイド管内に配置され注入材の注入に用いられる注入内管と、該ガイド管と該注入内管との間の空間を開放または閉塞する開閉機構と、を備えることを特徴とする注入装置。
【請求項13】
前記開閉機構が、前記ガイド管と前記注入内管との間に配置され、流体が流通可能な管路を備える環状のゴムバッグと、該ゴムバッグの前記注入内管側の内面に設けられたボールベアリングと、該ゴムバックの上端および下端に設けられたシール部材とからなり、該開閉機構による前記空間の開放または閉塞が、該ゴムバッグ内への流体の流出入による該ゴムバッグ内部の加圧の有無により行われる請求項
12記載の注入装置。
【請求項14】
前記開閉機構が、前記ガイド管と前記注入内管との間に配置され、流体が流通可能な管路を備える環状のゴムバッグと、該ゴムバッグを前記ガイド管に対して固定する固定部材と、該ゴムバッグの上端および下端を閉塞するリング状の金具とからなり、該開閉機構による前記空間の開放または閉塞が、該ゴムバッグ内への流体の流出入による該ゴムバッグ内部の加圧の有無により行われる請求項
12記載の注入装置。
【請求項15】
請求項
12記載の注入装置を用いた高圧噴射攪拌工法による
請求項1記載の地盤改良工法であって、前記ガイド管により前記地盤の対象深度まで削孔し、該ガイド管の内部に前記注入内管を挿入する工程と、前記開閉機構により前記空間を開放して、前記注入内管から前記注入材を、高圧噴射水または空気とともに高圧噴射し、前記地盤を切削しつつ噴射攪拌して、切削により生じた切削土を地上部で前記注入材と混合することにより、混合注入材を製造する工程と、前記混合注入材を前記注入内管から、高圧噴射水または空気とともに前記地盤中に高圧噴射する工程と、を含むことを特徴とする地盤改良工法。
【請求項16】
請求項
12記載の注入装置を用いた高圧噴射攪拌工法による
請求項1記載の地盤改良工法であって、前記ガイド管により前記地盤の対象深度まで削孔し、該ガイド管の内部に前記注入内管を挿入する工程と、前記開閉機構により前記空間を開放して、前記注入内管から前記注入材を、高圧噴射水または空気とともに高圧噴射し、前記地盤を切削しつつ噴射攪拌して、切削により生じた領域に前記注入材を充填する工程と、前記開閉機構により前記空間を閉塞して、前記注入材を前記地盤中に加圧浸透させる工程と、を含むことを特徴とする地盤改良工法。
【請求項17】
噴射攪拌および加圧浸透に用いる注入材として異なるものを用いて、加圧浸透に用いる注入材を、噴射攪拌に用いる注入材よりも浸透性の高いものとする請求項
16記載の地盤改良工法。
【請求項18】
前記開閉機構による前記空間の開閉により、前記噴射攪拌に用いる注入材と前記加圧浸透に用いる注入材を切り替える請求項
16記載の地盤改良工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射流体の持つ運動エネルギーを利用した地盤の切削と固化において、切削領域に懸濁型注入材または懸濁型注入材と切削領域の土との混合物を充填するとともに、注入材を切削領域より周辺地盤に浸透固化せしめて大きな固結体を形成する噴射・浸透複合注入工法による地盤改良工法に関する。特に本発明は、懸濁液を主成分とし、噴射注入と浸透注入からなる複合注入に係る。具体的には噴射流体を用い、運動エネルギーを利用した切削領域への注入材の充填に引き続いて、浸透注入により周辺地盤へ注入材を浸透させて地盤改良を行う噴射注入および浸透注入からなる複合注入工法並びに注入装置に係る。注入材としては、セメントやスラグ等の焼成シリカや水硬性アルミナ等の懸濁液、或いはこれらの混合物を用いた噴射注入および浸透注入からなる複合注入工法に係る。また、シリカ溶液を含有する懸濁液を用い、かつ、懸濁型注入材が土粒子間中に浸透している間に分離した分離シリカ溶液がゲル化することにより、懸濁粒子による高強度領域と分離シリカ溶液による浸透固結領域の形成を同時に可能とする噴射・浸透複合注入工法に係る。
さらに、高圧噴射による切削土を再利用して地盤に注入することにより、産業廃棄物の減容化を可能にしたものである。さらにまた、注入材として現場土、廃泥やコンクリート破砕材などのシリカ粉体やスラグ、フライアッシュ、下水焼却灰、植物焼却灰等の人工焼成シリカを主成分とする懸濁型注入材や、二和土、三和土、ローム層、シラス、火山堆積土等の可溶性シリカを含む土など天然のポゾラン作用を有するシリカ粒子などを用い、またこれらとともに硬化剤や溶液シリカ、アルカリ剤を用いることによって、非セメント系注入材またはセメントを減量した注入材によりCO2を低減した低炭素地盤改良工法であり、中性付近で広範囲の固結体を形成でき、さらに、注入後直ちに強度発現することを可能にし、周辺構造物に対して安全性を確保し、かつ、固結体の重量を軽減して従来のセメント主体の注入材を用いた高圧噴射攪拌工法の課題を解決した発明に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、軟弱な地盤や液状化のおそれがある地盤に対する地盤改良工法として種々の工法が知られている。中でも、地盤の土粒子間の間隙に注入材(薬液)を注入して地盤を浸透固化する薬液注入工法が、その簡便性から多くの工事で採用されている。
【0003】
薬液注入工法は、注入した薬液が土粒子間の間隙に浸透して固化し、それが接着剤となって地盤の強化や止水(透水性の改良)などの効力を発揮する工法であり、コンパクトな設備で簡便に実施できることから、主に短期間での仮設工事(地下工事での補助的な工法)や恒久グラウトを用いた急速浸透注入工法による液状化対策工などで活用されている。
【0004】
その他、セメントを高圧噴射して地盤を切削攪拌しながら切削土とセメントを撹拌・混合する高圧噴射撹拌工法や、深層部まで堆積した軟弱土層に対してスラリー状の注入材を注入し、撹拌翼により現場土と注入材とを撹拌混合して地中に円柱状の改良体を形成することで、強固で安定した改良地盤を造成する機械撹拌工法なども知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-40950号公報
【文献】特許第3413398号公報(特開2002-88752号公報)
【文献】特許第7193105号公報(特開2024-53139号公報)
【文献】特開2022-66686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、今日、CO2による地球温暖化を抑止するために、地盤改良工法においても脱セメント化が強く望まれている。
本出願人はこれまでに、スラグを用いた高圧噴射工法に関して、特許文献1~3に記載された発明を行っているが、本発明はそれを更に発展した地盤改良工法である。
【0007】
すなわち、従来の高圧噴射撹拌工法では、注入材の主成分としてセメントが使用されているが、セメントは比重が3.17と大きい反面、比表面積が3,220cm2/g程度と小さく、このため、高圧噴射攪拌工法が対象とする軟弱地盤の強化に対しては、セメント粒子が重いために到達距離が短く、大きな固結体を形成することが困難であった。
【0008】
また、土を排土しセメントと置き換えて固結体を形成するため、今日ではその排泥の処理が環境上の大きな問題になってきている。さらに、軟弱地盤の改良においては、軟弱地盤は支持力が小さいためにセメント固結体の改良体は沈下しやすく、構造物の変位も大きくなりやすいという問題があった。
【0009】
以上のとおり、高圧噴射攪拌工法は、固結体の強度が高いという利点はあるものの、産廃土の問題を生じることに加え、固化するまでの支持力が低く、固結後の重量が大きく剛性が高いために、軟弱地盤では既存の地盤との一体化が得られず沈下しやすいという問題があった。また、セメント注入材が切削地盤中で高圧噴射水と混合されるために切削土砂とともに地上部に排出されやすいという問題もあった。
【0010】
一方、液状化対策工では、強度よりも経済性が優先されるため、薬液による土の一軸圧縮強さは100~200kN/m2程度あればよく、従来の土と置き換えてセメント自体で固結する際の、数~数十MN/m2といった大きな強度を必要としない。
【0011】
高圧噴射によって地盤の土粒子を排出してセメントに置き換えた場合、地盤の改良強度が増すことに伴い、地盤の重量が大きくなることによって慣性力が大きくなり、また、衝撃を伝えやすくなるために地震等の繰返し荷重に対して脆性的に破壊するおそれがあった。
【0012】
また、摩擦杭基礎構造物や直接基礎、或いは戸建住宅などの直下について、上述した従来工法による耐震補強や液状化対策を行うと、機械式セメント攪拌工法や高圧噴射攪拌工法では、構造物基礎の補強は容易に行うことができるが、地盤改良によって地盤のせん断剛性が増大(例えば、100~2000MN/m2程度)することにより、地震動を上部構造に伝達しやすくなり、その結果、地震の際に、基礎(下部)の損壊は防げても、構造物(上部)に設計値以上の地震力が作用して、その機能を失う可能性がある。
【0013】
さらに、従来の高圧噴射攪拌工法では、一軸圧縮強さが3MN/m2程度もあり、容易に掘削することが困難であった。
【0014】
ここで、高圧噴射攪拌工法には、大きく分けて2種類ある。第一に、地盤に挿入した注入管からセメントなどの注入材または空気と注入材の混合物を噴射して、地盤中に注入材または注入材と切削した土との混合物からなる固結体を形成する方法である。第二に、ガイドパイプで対象深度まで削孔し、その内部に内管を挿入した後ガイドパイプを引き上げて、内管から高圧噴射水または空気と高圧噴射水との混合物を噴射することによって切削を行い、切削で生じた切削土を注入管ロッドの外周部の空隙(切削土砂排出路)から地上部まで排出し、それによって形成された切削領域に、高圧水噴射口よりも下方に位置する吐出口から注入材を注入する方法である(
図1)。
【0015】
従来工法で用いられている管の構造は、単管の他、二重管(
図2)、三重管(
図3)が主流であり、それぞれ、単管は固化材のみ、
図2は固化材+エアー、
図3は固化材+エアー+切削水の噴射が行える点に特徴がある。これらの工法は排泥を伴うため、経済性の向上および環境への負荷を低減することを目的に、排泥の削減や有効利用が求められている。
先行技術では、改良径の大型化を図るため、二重管または三重管のロッドを用い、固化材とエアー、または、切削水とエアーおよび固化材を、ロッドに設けられた噴射ノズルから高圧で噴射する。このエアーは、噴射流体(固化材または切削水)の周りに気液境界面を形成して、ジェット噴流の距離に伴う減衰を抑制し、大口径の改良体を造成することを第一の目的として用いられている。
また、造成直後の改良体は、十分な水和反応などが行えていないため、未固化な状態にある。したがって、構造物の近傍で施工を行う場合、支持力の低下によって構造物の機能を阻害する場合がある。さらに、高圧噴射流体のもつエネルギーに頼る従来の高圧噴射工法では噴射流体の距離によって切削領域が限定されるために改良体の大きさは制約される。
【0016】
上記のいずれの方法においても、切削された土砂は注入材が混ざった状態で注入管の外周部から地上に排出されることになる。この際、セメントが混合した切削土砂の廃棄処理が、環境上の大きな問題になっている。
【0017】
本出願人はすでに、特許文献1,2において、懸濁型グラウトを用いた高圧噴射工法にスラグとシリカを主成分とする懸濁型注入材を用いた地盤注入工法を提案しており、また、切削土と上記注入材を混合して再注入する工法(特許文献1)、および、スラグと石膏または酸化マグネシウムを主成分とする注入材を用いた高圧噴射注入工法も開発している(特許文献3)。また、本出願人は、スラグと低モル比水ガラスグラウトのブリーディング液がゲル化することを明らかにしている(特許文献4)。
【0018】
しかしながら、前述の通り従来の地盤改良工法では造成径や環境上の問題において課題があり、さらなる改良が望まれている。そこで、本発明の目的は、従来の高圧噴射工法において、切削領域に注入材を充填するのみではなく、さらに、切削領域の外側に注入材を浸透させて、大きな固結体を形成することにある。また、脱セメント化を図ることにより、CO2を低減した地球環境に配慮した地盤改良を行うことができるとともに、従来よりも軽量であって大きな固結体を形成することができる地盤改良工法および注入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
ここで、一般にブリーディング液とは、懸濁液を静止した場合に、懸濁粒子が沈降したその上澄の溶液をいう。しかし、実際の地盤注入において、ブリーディング液に相当する液は地盤中に浸透している間に懸濁粒子が土粒子間に充填され分離した溶液をいう。従って、シリカ溶液を含有する懸濁液の分離液は、微細な懸濁粒子とシリカ溶液を含むため、本願発明においては「分離シリカ溶液」と称する。本発明において、「ブリーディング液」と「分離シリカ溶液」とは、実質的に同じものを意味する。
【0020】
本出願人は、特許文献4に記載された現象を高圧噴射工法に適用して、噴射・浸透複合注入による地盤改良工法の研究を進めた。
本出願人は、ブリーディング液のゲル化に関して研究を続けた結果、溶液型シリカを含有する懸濁液では、ブリーディング率が50%以下でも50%以上でもゲル化することを見出した(
図4)。また、硬化剤を加えることにより、ブリーディング液のゲル化時間や強度を調整できることが分かった。そして、そのブリーディング液のゲル化に関するホモゲル(注入材単体が固化したもの)およびサンドゲル(注入材と土が混合した状態で固化したもの)が自立するために十分なシリカ濃度の関係をも見出した(表9、
図6、
図8~
図10、
図12、
図13)。
その結果、
図15に示す噴射・浸透複合注入の新しいコンセプトによる地盤改良工法の発明に到った。
図15(a)~(e)は、本発明の地盤改良工法の浸透固結の形態を示す。
図15は、噴射によって注入材切削領域に本注入材を注入して、注入材単体、または、注入材と切削領域の土との混合物を充填するとともに、注入材が切削領域よりも広範囲に浸透して懸濁粒子が土粒子間に浸透し、さらに、懸濁液より分離された分離シリカ溶液が浸透固化して、一体化した浸透固結領域が形成されることを示す。
従って、複数の注入孔から、高圧噴射によって切削領域に充填された高強度の注入材単体または地盤と攪拌状態にて固化した改良体とその周辺部の懸濁液より分離された分離シリカ溶液が地盤に浸透固化して、地盤全体を一体化した地盤改良が可能になった。
また、本発明は、懸濁グラウトの適用範囲(土質的視点)を溶液型グラウトの範囲まで実質上拡大し、単なる高圧噴射攪拌工法から、高圧噴射浸透注入工法という新たな技術思想からなる地盤改良工法へと発展させたものである(
図11、
図14)。
【0021】
具体的に、本発明は、従来のセメントを主成分とする高圧噴射攪拌工法についての上述した問題点を、スラグやフライアッシュ等の人工焼成シリカや、天然の焼成工程を得たシリカ粒子(天然ポゾラン)からなる懸濁粒子を注入材に用いることにより、また、地上部に排土された注入材の混ざった切削泥を注入材と混合して地盤中に再注入することにより、解決したものである。
【0022】
このように本出願人は、高圧噴射による切削領域の固結に加えて、切削領域から周辺部への浸透固結により大きな固結体の形成を可能にした噴射・浸透複合注入工法による地盤改良工法を発明した(
図15)。また、本発明は、上記注入材として、天然または人工的に製造されたシリカ粒子や、焼成シリカや天然のポゾラン作用を有するシリカ粒子、現場発生土をスラリー化した流動化土を主材として用いることにより、固結体の重量を低減し、浸透固結範囲を拡大し、かつ、CO
2低減により地球環境に貢献できる地盤改良工法を実現したものであり、さらには切削に伴う排泥(現場発生土)をスラリー化した流動化土を注入材として用いることにより、産業廃棄物の減容化を図ることが可能な地盤改良工法である。
【0023】
さらに、本発明は、上述したように軟弱地盤や液状化地盤を高強度かつ軽量に地盤改良する地盤改良工法に関し、高圧噴射流体の持つ運動エネルギーを利用して地盤を切削して、その切削領域に上記懸濁粒子やスラグ系などの注入材、または、注入材と切削領域の土との混合物を充填し、かつ、切削領域からさらにその周辺部に注入材を浸透せしめて、大きな固結体を形成するものである。本発明によれば、高圧噴射により地上部に排出した切削土と注入材を混合した混合土砂を再利用して地盤に再注入することにより、低炭素地盤改良が可能となる。さらにまた、スラグやフライアッシュ等の焼成シリカを主成分とする懸濁型注入材や天然のポゾラン作用を有するシリカ粒子を用いることにより、非セメント系注入材またはセメントを減量した注入材の使用による材料面からのCO2の削減を実現し、地球環境に優しい地盤改良を提供する。さらにまた、本発明は、上記懸濁型注入材が溶液型シリカを含むことで、懸濁液より分離された分離シリカ溶液が浸透ゲル化して、切削領域を超えて浸透固結範囲を拡大でき、高圧噴射注入工法による固結体の形成および薬液注入工法による浸透固結の双方の利点を同時に得ることができる地盤改良を可能にしたものである。
【0024】
すなわち、本発明の地盤改良工法は、地盤に挿入した複数の注入管からの噴射流体により該地盤を切削して切削領域を形成し、形成された該切削領域に注入材を注入するにあたり、
下記i)~iii)、
i)焼成シリカおよびポゾラン作用を有する天然シリカのいずれかまたは複数からなるシリカ粒子、
ii)前記焼成シリカがスラグ、フライアッシュ、セメント、下水焼却灰、植物焼却灰および焼成粘土のいずれかまたは複数からなるシリカ粒子、
iii)前記ポゾラン作用を有する天然シリカがローム土、シラス、火山灰、二和土および三和土のいずれかまたは複数からなるシリカ粒子、
のいずれかのシリカ粒子からなる懸濁粒子を主材とし、溶液型シリカを有効成分とする懸濁液からなる注入材を、複数の前記注入管から前記地盤に注入して、前記切削領域に充填するとともに該切削領域から周辺地盤の土粒子間に浸透させることにより、該切削領域および周辺地盤を固結する地盤改良工法であって、
前記懸濁液より分離された分離シリカ溶液が前記懸濁粒子が浸透し得ない領域まで浸透した後、該分離シリカ溶液がゲル化して地盤を固化することにより、該懸濁粒子による地盤の固化と、該分離シリカ溶液による地盤の固化を行うものであり、
前記シリカ粒子としてブレーン値が4000~20000cm2/gのものを用い、前記注入材における該シリカ粒子の配合量を40~200kg/400Lとし、前記溶液型シリカとしてシリカコロイドおよび/または水ガラスを用い、
前記注入材は、前記溶液型シリカが水ガラスを含む場合は、モル比1.0~5.0の水ガラスを用い、該注入材における該水ガラスの配合量を10~150L/400Lとし、
前記分離シリカ溶液のシリカ濃度が0.5w/v%以上であって、該分離シリカ溶液がゲル化したホモゲルが自立する強度を有するとともに、該分離シリカ溶液が浸透して固結したサンドゲルが自立する強度を有するものであり、
前記分離シリカ溶液がゲル化してそのホモゲルが自立するとは、該分離シリカ溶液のシリカ濃度が0.5w/v%以上であって、モールド内において、該ホモゲルを斜めに傾けてもゲルが崩れず自立する状態を意味し、前記サンドゲルが自立するとは、前記分離シリカ溶液のシリカ濃度が0.5w/v%以上であって、6号珪砂を用いた場合、該分離シリカ溶液を使用して相対密度60%になるように直径5cm×高さ10cmで混合法により作製された該サンドゲルが自立し、該サンドゲルを用いて測定された一軸圧縮試験における強度が2.0kN/m2以上であることを意味し、
前記分離シリカ溶液が、細粒土への浸透性をもって、前記地盤のうち前記懸濁粒子が浸透し得なかった領域まで浸透して、中心に近い部分における、該懸濁粒子の濃度が高く相体的に高強度となる領域と、中心から離れるにつれ該懸濁粒子の濃度が低くなって相対的に低強度となる領域と、その外側の、前記分離シリカ溶液のゲル化によるシリカ分の多い固結体とを形成し、隣接する前記注入管からの該懸濁粒子による固結体同士を連結することを特徴とするものである。
【0030】
本発明においては、前記注入材が、以下のいずれかまたは複数からなるアルカリ剤を含むことが好ましい。
(1)石膏およびMgOのいずれかまたは複数を有効成分とするアルカリ剤。
(2)Ca塩、Mg塩、Al塩、炭酸塩および重炭酸塩のいずれかまたは複数を有効成分とするアルカリ剤。
(3)石灰、セメント、苛性アルカリ、水ガラスおよびシリカコロイドのいずれかまたは複数を有効成分とするアルカリ剤。
【0033】
本発明においては、前記懸濁粒子がスラグであってセメントを併用しない場合は、前記注入材における該スラグの配合量が10~50w/v%であり、または、前記注入材が前記懸濁粒子としてスラグを含むとともにセメントを含む場合は、該セメントの重量が該懸濁粒子の重量に対して5~50%であることが好ましい。
【0037】
本発明においては、前記注入材を、空間を有する地下構造物の周辺地盤に注入することで、該地下構造物の強化を行うことができる。また、本発明は、掘削面の自立および止水や、液状化地盤の地盤改良に好適に適用される。本発明においては、前記分離シリカ溶液が、前記地盤のうち前記懸濁粒子が浸透し得なかった部分に浸透して、固結範囲を拡大し、または、該地盤のうち該懸濁粒子が浸透した部分と一体化して固結体を形成することができる。
【0038】
本発明においては、前記注入材が、マイクロバブル、空気、分散剤および増粘剤のいずれかまたは複数を有効成分とすることが好ましい。
【0039】
本発明においては、前記注入材が、多価金属化合物からなる硬化剤を含み、該硬化剤が、Ca、Mg若しくはAlの、水酸化物、酸化物または塩のうちのいずれか1種または複数種、および/または、石膏であることが好ましい。
【0040】
本発明においては、前記注入材の注入による改良効果を非破壊試験によって確認することが好ましい。
【0041】
本発明においては、前記非破壊試験が、弾性波速度検層法、音響トモグラフィーまたは表面波探査によるものであることが好ましい。
【0042】
本発明の注入装置は、上記本発明の地盤改良工法において高圧噴射攪拌工法に用いられる注入装置であって、地盤に挿入されるガイド管と、該ガイド管内に配置され注入材の注入に用いられる注入内管と、該ガイド管と該注入内管との間の空間を開放または閉塞する開閉機構と、を備えることを特徴とするものである。
【0043】
本発明の注入装置においては、前記開閉機構が、前記ガイド管と前記注入内管との間に配置され、流体が流通可能な管路を備える環状のゴムバッグと、該ゴムバッグの前記注入内管側の内面に設けられたボールベアリングと、該ゴムバックの上端および下端に設けられたシール部材とからなり、該開閉機構による前記空間の開放または閉塞が、該ゴムバッグ内への流体の流出入による該ゴムバッグ内部の加圧の有無により行われるものとすることができる。
【0044】
本発明の注入装置においては、前記開閉機構が、前記ガイド管と前記注入内管との間に配置され、流体が流通可能な管路を備える環状のゴムバッグと、該ゴムバッグを前記ガイド管に対して固定する固定部材と、該ゴムバッグの上端および下端を閉塞するリング状の金具とからなり、該開閉機構による前記空間の開放または閉塞が、該ゴムバッグ内への流体の流出入による該ゴムバッグ内部の加圧の有無により行われるものとすることもできる。
【0045】
また、本発明のさらに他の地盤改良工法は、上記注入装置を用いた高圧噴射攪拌工法による上記本発明の地盤改良工法であって、前記ガイド管により前記地盤の対象深度まで削孔し、該ガイド管の内部に前記注入内管を挿入する工程と、前記開閉機構により前記空間を開放して、前記注入内管から前記注入材を、高圧噴射水または空気とともに高圧噴射し、前記地盤を切削しつつ噴射攪拌して、切削により生じた切削土を地上部で前記注入材と混合することにより、混合注入材を製造する工程と、前記混合注入材を前記注入内管から、高圧噴射水または空気とともに前記地盤中に高圧噴射する工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0046】
さらに、本発明のさらに他の地盤改良工法は、上記注入装置を用いた高圧噴射攪拌工法による上記本発明の地盤改良工法であって、前記ガイド管により前記地盤の対象深度まで削孔し、該ガイド管の内部に前記注入内管を挿入する工程と、前記開閉機構により前記空間を開放して、前記注入内管から前記注入材を、高圧噴射水または空気とともに高圧噴射し、前記地盤を切削しつつ噴射攪拌して、切削により生じた領域に前記注入材を充填する工程と、前記開閉機構により前記空間を閉塞して、前記注入材を前記地盤中に加圧浸透させる工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0047】
本発明の地盤改良工法においては、噴射攪拌および加圧浸透に用いる注入材として異なるものを用いて、加圧浸透に用いる注入材を、噴射攪拌に用いる注入材よりも浸透性の高いものとすることができる。また、前記開閉機構による前記空間の開閉により、前記噴射攪拌に用いる注入材と前記加圧浸透に用いる注入材を切り替えることができる。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、従来の高圧噴射工法において脱セメント化を図るか、または、セメントの含有量を少なくすることにより、CO2を低減した地球環境に配慮した地盤改良を行うことができるとともに、従来よりも軽量であって大きな固結体を形成することができる地盤改良工法および注入装置を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】高圧噴射を用いた従来の地盤改良工法と本発明に係る地盤改良工法を対比させた概念図であり、(a)は従来工法において三重管ロッドを用いる場合、(b)は従来工法において二重管ロッドを用いる場合の例を示したものである。
【
図2】二重管ロッドを用いた従来工法の一例(日本ジェットグラウト協会のJSG工法(登録商標)(「JSG工法」は株式会社エヌ・アイ・テイの登録商標))を示す断面図である。
【
図3】三重管ロッドを用いた従来工法の一例(日本ジェットグラウト協会のコラムジェットグラウト工法)を示す断面図である。
【
図4】実施例36のサンプルのブリーディング状態を示す写真図である。
【
図5】比較例1のサンプルのブリーディング状態を示す写真図である。
【
図6】実施例36のサンプルの浸透後数日経過後の状態を示す写真図である。
【
図7】比較例1のサンプルの浸透後数日経過後の状態を示す写真図である。
【
図8】実施例36および比較例1の長尺浸透試験の結果を示すグラフである。
【
図9】
図8の浸透距離90cm~120cmの部分を拡大したグラフである。
【
図10】ブリーディング液がゲル化し、斜めにしてもゲルが崩れない(自立している)状態を示す写真図である。
【
図11】溶液型グラウトによる液状化対策を行った種々の現場砂の粒径加積曲線を示すグラフである。
【
図12】ブリーディング液を用いた混合法による供試体の7日目強度測定状況を示す写真図である。
【
図13】ブリーディング液を用いた混合法による供試体の強度測定後の状態を示す写真図である。
【
図15(a)】本発明の地盤注入工法における浸透固結の一形態を示す説明図である。
【
図15(b)】本発明の地盤注入工法における浸透固結の他の形態を示す説明図である。
【
図15(c)】本発明の地盤注入工法における浸透固結のさらに他の形態を示す説明図である。
【
図15(d)】本発明の地盤注入工法における浸透固結のさらに他の形態を示す説明図である。
【
図15(e)】本発明の地盤注入工法における浸透固結のさらに他の形態を示す説明図である。
【
図15(f)】本発明の地盤注入工法における浸透固結のさらに他の形態を示す説明図である。
【
図16(a)】本発明の噴射・浸透複合注入工法に用いる注入装置に係る説明図である。
【
図16(b)】本発明の噴射・浸透複合注入工法に用いる注入装置に係る他の説明図である。
【
図16(c)】本発明の噴射・浸透複合注入工法に用いる注入装置に係るさらに他の説明図である。
【
図16(d)】本発明の噴射・浸透複合注入工法に用いる注入装置を用いた施工手順の説明図である。
【
図17(a)】本発明の噴射・浸透複合注入工法に用いる他の注入装置に係る説明図である。
【
図17(b)】本発明の噴射・浸透複合注入工法に用いる他の注入装置に係る他の説明図である。
【
図17(c)】本発明の噴射・浸透複合注入工法に用いる他の注入装置を用いた施工手順の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明の地盤改良工法は、地盤に挿入した注入管からの噴射流体により地盤を切削して切削領域を形成し、形成された切削領域に注入材を注入して地盤改良を行うものである。
【0051】
本発明においては、注入材として、懸濁粒子を主材とするもの、または、懸濁粒子を主材とし、さらに、硬化剤、アルカリ剤および溶液型シリカのいずれかまたは複数種を含むものを用いて、この注入材を、切削領域に充填するとともに切削領域から周辺地盤の土粒子間に浸透させることにより、切削領域および周辺地盤を固結する。
【0052】
上述の本発明は、噴射流体、特には高圧噴射流体(例えば、圧力40~70MPa)の力で軟弱地盤を切削して軟弱土を地表に排出し、注入材、または、排出した切削土と注入材を混合したものを切削領域に充填することによって、注入材料が低炭素グラウトであって、かつ、排泥の運搬や廃棄物の処理、廃棄場所の観点から低炭素化を行い、環境問題の低減を可能にするものである。排出した切削土と注入材の混合は、再生注入材製造槽に充填して行うことができる。
【0053】
上述の方法で処理された再生注入材は、切削領域への充填や周辺構造物の防護、立坑底盤の改良を目的とする場合には、一軸圧縮強さが、粘性土層で2~6MN/m2、砂質土層で5~15MN/m2であることが好ましい。また、透水係数については、10-5~10-9m/sec程度に改良されることが好ましい。
【0054】
このようにして本発明は、上述したシリカ粉体やスラグまたはフライアッシュ等の人工の焼成シリカを主成分とするか、若しくは、天然のポゾラン作用を有するシリカ粒子を主成分とし、または、セメントは少ない使用量でもって固結体を形成し、かつ、全体の改良領域において、改良体としては重量が軽減して、改良体による沈下を解消するという利点が得られる。なぜならば、セメントは比重3.15であるのに対し、スラグは比重が2.9、フライアッシュは比重2.8、火山灰は一般に比重0.9~2.5であり、普通土とほとんど変わらないためである。
【0055】
後述の表1は、地盤が砂質土または粘性土の場合における、注入材との混合物の固結強度試験の例を示す。または、切削土が砂質土または粘性土の場合の再生土の配合例の固結強度試験の例とすることができる。再生土は、注入目的や必要強度、混合時間、切削土砂に応じて、注入材料と配合処方を調整すればよいことがわかる。
【0056】
表1~表8は、切削土でなくても注入材として現場土と混合して注入することができることを意味している。また、切削領域で注入材と切削領域の土の噴射混合土の強度を示している。本発明においては、後述するように、地盤状況に応じて流動性の良い粒径の小さな懸濁粒子を主材とする軽量懸濁液を選定することにより、切削領域の周辺地盤に浸透させ固結することができる(
図7~
図9、
図11、
図14)。懸濁液が溶液型シリカを含有すれば、懸濁液より分離された分離シリカ溶液がゲル化して固化するため、懸濁液のみでは浸透し得ない地盤でも切削領域の周辺土まで固結範囲が拡がり、しかも止水効果と固結体同士の連続固化が可能となる(
図4、
図6、
図8~
図13)。
図11は、溶液型グラウトで浸透固結効果が得られた粒度分布曲線を示すもので、溶液型シリカを含む上記懸濁粒子による懸濁型注入材は
図11に示す粒径分布の地盤まで浸透固結が可能となるため、高圧噴射注入工法と薬液注入工法の利点を同時に備えた「噴射・浸透複合注入工法」という新しいコンセプトからなる地盤改良工法が可能になる。また、シリカ溶液は注入直後にゲル化し、強度増加が得られれば或いは可塑状ゲルを注入すれば構造物近傍の地盤に高圧噴射攪拌工法のように構造物に変状や沈下を生じることなく、かつ、注入装置も軽量な装置で済み、騒音や振動も少なく環境に良いという利点もあり、従来の高圧噴射攪拌工法の問題を解決することができる(
図15(e))。
【0057】
以下に、本発明に用いる注入材について説明する。
本発明に係る注入材は、懸濁粒子を主材とするか、または、懸濁粒子を主材とし、さらに、硬化剤、アルカリ剤および溶液型シリカのいずれか1種または複数種を含む。懸濁粒子を主材とする懸濁液として、スラグやフライアッシュ等の焼成シリカを水懸濁液とし、これに、水ガラスおよび/またはアルカリ剤等の硬化剤を混合して、調整して用いられる。懸濁粒子としては、焼成シリカ、ポゾラン作用を有する天然シリカおよび硬化性シリカ粒子のいずれかまたは複数を有効成分とすることができる。
【0058】
このうち焼成シリカとしては、スラグやフライアッシュの他に、セメント、製紙スラッジ、汚泥焼却灰、下水焼却灰、植物焼却灰および焼成粘土等やシリカを多く含む植物の焼却灰が挙げられ、これらのいずれかまたは複数を用いることができる。また、ポゾラン作用を有する天然シリカとしては、ローム土(関東ローム)、シラス、火山灰、二和土および三和土等の天然の焼成土壌が挙げられ、これらのいずれかまたは複数を用いることができる。これらの焼成シリカは、潜在水硬性を有するシリカ粒子であって、可溶性シリカを含み、消石灰、石膏、水酸化マグネシウム、水ガラス、シリカコロイド、苛性アルカリ、炭酸塩、重炭酸塩、アルミニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリの作用によって、ポゾラン反応によりセメントの一部と類似の結晶構造をつくって強固に固結する。また、これらに粘土および/または土砂等の骨材を増粘剤や増量材として用いることにより、経済的に地盤改良を行うことが可能になる。さらに、現場土を、上記硬化剤とともにスラリー化して用いることもできる。
【0059】
上記懸濁粒子として、ブレーン値が4000~20000cm2/gの粒径のものを用いることで、土粒子間浸透が可能になる。また、懸濁粒子として人工または天然の焼成シリカを用いて、注入材における懸濁粒子の配合量を400L当たり40~200kgとすることにより、高強度が得られる。本発明に係る注入材中のスラグ等の焼成シリカの配合量は、目的とする硬化物の強度によって定められるが、400L当たり50~200kgであって、セメントを併用しない場合は10~50w/v%、セメントを併用する場合はセメントの重量が懸濁粒子の重量に対して5~50%であることが好ましい。
【0060】
本発明における注入材に用いる硬化剤としては、多価金属化合物であって、Ca、Mg若しくはAlの、水酸化物、酸化物または塩のうちのいずれか1種または複数種、および/または、石膏とすることができる。具体的には、セメント、消石灰、石膏等のCa溶融物やアルカリ剤であり、特に、消石灰は、ゲル化時間の短縮や初期強度の向上を図る上で好ましい。また、上記注入材は、スラグ、ベントナイト、炭酸カルシウム、粘土、土砂等のシリカ粉末等を充填材として併用することもできる。可塑状グラウトとしてフライアッシュ、高分子、セメント、アルミニウム塩等の可塑剤、増粘剤、粘土などを充填材として用いることができる。
【0061】
本発明の注入材に用いる硬化剤、アルカリ剤および溶液型シリカとしては、下記(1)~(3)のいずれかまたは複数とすることができる。
(1)石膏およびMgOのいずれかまたは複数を有効成分とするもの。
(2)Ca塩、Mg塩、Al塩、炭酸塩および重炭酸塩のいずれかまたは複数を有効成分とするもの。
(3)石灰、セメント、苛性アルカリ、水ガラスおよびシリカコロイドのいずれかまたは複数を有効成分とするもの。
【0062】
本発明の注入材に用いる溶液型シリカとしては、シリカコロイドおよび/または水ガラスを含むことが好ましく、これにより注入材のブリーディング液がゲル化する。この場合、水ガラスのモル比が1.0~5.0であって、注入材における水ガラスの配合量が、10~150L/400Lであることが好ましい。
【0063】
本発明において、上記スラグとしては、高炉スラグを微粉砕したものが用いられ、反応性を高めるために粒径が細かい方が好ましく、例えば、比表面積(ブレーン値)が4000cm2/g以上、好ましくは6000cm2/g~20000cm2/gであり、平均粒径が10μm以下のものが適している。
【0064】
本発明において、上記水ガラスとしては、スラグとの反応性から、アルカリ濃度の高いものが好ましく、特に、SiO2/Na2Oのモル比が2.5以下であるものが好ましい。モル比が低いと、高強度の固結体および長いゲル化時間を得ることができる。また、水ガラスとして、無水オルソ珪酸ソーダと水酸化ナトリウムの混合物、メタ珪酸ソーダを含む結晶性珪酸ソーダ、一部結晶性珪酸ソーダを含む混合物、珪酸ソーダガラス(カレット)、水和ガラス、脱水した珪酸ソーダ、半固体珪酸ソーダ、粘稠珪酸ソーダ、市販の珪酸ソーダの希薄溶液などを用いることができ、粘度やモル比、シリカ濃度に変えて用いてもよく、粉体のまま用いてもよい。水ガラスのアルカリ分は、スラグの潜在水硬性を刺激する作用を呈する。また、モル比の低い水ガラスは、水ガラスと苛性アルカリとを混合したものであってもよい。但し、消石灰、セメント等のCa溶融物を併用する場合には、水ガラス3号および4号のようなSiO2/Na2Oのモル比の高い水ガラスを使用することができる。
【0065】
本発明に使用される塩としては、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム等、アルミニウム化合物や、Ca,Mgの塩化物、硫酸塩等の他、これらに苛性アルカリを反応させたものであってもよい。さらに、Na2O/Al2O3のモル比も特に限定されないが、スラグとの反応性から注入材中のNa2O濃度が1wt%以上であることが好ましい。苛性アルカリはスラグの水硬性を刺激するために効果的であり、アルミニウム分は水ガラスやスラグのシリカ分と反応してアルミニウムシリケートやカルシウムアルミノシリケートを形成する。また、これらの添加物の添加量によって、本懸濁液や懸濁液より分離された分離シリカ溶液のゲルタイムや強度を調整することができる。さらに、懸濁液の配合液として、海水を用いることもできる。
【0066】
注入材中の水ガラスおよびアルミニウム化合物の配合量は、注入材の硬化時間が数時間、通常は1時間以内、好ましくは30分以内となるような配合量であり、Na2O、Al2O3、SiO2のモル比によっても異なるが、注入材中のNa2Oが1wt%以上となる量が好ましい。但し、広範囲を固結する場合には、硬化時間が数時間となるような配合量が必要である。
【0067】
本発明において、注入材の切削土に対する混合量は、処理の対象となる切削土の性質により大きく異なるが、切削土1m3当たり0.1~0.5m3の範囲であることが好ましい。
【0068】
また、本発明の注入材は、発泡剤や起泡剤を加えて流動性を向上し、軽量化を図ることができ、無塩タイプ高性能減水剤や分散剤、粘土、ベントナイト、高分子系増粘剤、すなわち、ポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等を添加することにより、水に対する分散性を抑制し、沈殿を少なくし、ワーカビリティの改善効果、または、保水材として、また、主材となるスラグなどの懸濁粒子のバインダーとして機能させて、擬似ゲル状にして、流動性を保持しながら分散しにくい構造をもつ流動体を形成することができる。この結果、地盤中における拡散や希釈を低減し、固結体の拡大を促進できる。
【0069】
本発明においては、スラグやフライアッシュ等の上記懸濁液やセメント等の懸濁液に、マイクロバブルまたはマイクロバブルおよび空気を混入して、切削領域に注入することもできる。これにより、懸濁粒子を覆うマイクロバブルまたはマイクロバブルと空気のベアリング作用により、懸濁粒子による広範囲固結体の構築を可能にするとともに、固結体中の気体量の増大に伴う固結体の軽量化および強度の低減を図ることが可能となる。本発明における注入材には、マイクロバブル、空気、分散剤および増粘剤のいずれかまたは複数を有効成分として用いることができる。
【0070】
また、固結体中に存在する気泡は、固結体中の懸濁粒子の量が少なく強度が低くても、液状化防止効果を向上させることが分かっている。
【0071】
なお、本発明における切削土の利用は、低炭素技術として効果的である。すなわち、従来、切削残土は、産業廃棄物としてそのまま投棄されるか、現場から処理場に運んで石灰と混合処理するなど、不経済で時間のかかる方法で処理することが必要であったが、このような従来方法の問題は、本発明を適用することによって解消される。本発明によれば、現場で残土を埋め戻したり、切削残土と注入材を混合してから混合物を切削領域に充填したりすることで、経済的でかつ急速な施工が可能となる。
【0072】
本発明においては、注入材として、軽量、低アルカリかつ低炭素型の地盤改良となる配合処方を設定することができる。
【0073】
本発明において注入材は、直接混合して1液で注入ロッドに送液してもよく、また、上述の懸濁液(A液)と水ガラスおよび/またはアルカリ剤(B液)とをポンプで移送し、混合して注入してもよい。この場合、これらA液およびB液は、ほぼ1:1(容量)の比率で混合することが好ましいが、通常は、10:1~1:10の範囲内の任意の比率で混合される。
【0074】
また、上記注入材を切削領域に再圧入する場合の再生注入材の硬化時間は、切削土との混合が充分に達成され得る時間であればよく、したがって、混合方法または混合装置によって定められ、例えば、10分~30分程度が適切である。また、作業性を考慮して、数時間~十数時間と定めることもできる。
【0075】
本発明においては、注入材の注入による改良効果を、非破壊試験によって確認することができる。非破壊試験としては、弾性波速度検層法、音響トモグラフィーまたは表面波探査を用いることができる。
【0076】
(試験)
切削土として粘性土および砂質土を用い、これらをそれぞれ注入材に混合して、本発明に係る上記注入材により固結した。この固結体について強度を測定した実施例の試験結果を、表1に示す。
【0077】
以下より、焼成シリカやポゾラン作用を有する天然シリカを主材とし、セメントを用いない注入材、または、セメント使用量を低減した注入材は、セメントを主材とする注入材よりも比重が小さく、したがってほとんど原地盤と比重が変わらない材料で、あるいはさらに軽量な材料で地盤を固結するため、固結体の軽量化効果が得られることがわかる。
【0078】
[使用材料]
スラグ:比重2.9、ブレーン値8000cm2/g、シリカ系非硬化性粉状体である。
フライアッシュ(FA):火力発電所より排出される石炭灰:シリカ系非硬化性粉状体である。比重1.9~2.3g/cm3、粒度分布0.1mm以下が90%以上。
セメント:普通ポルトランドセメント:PC、比重3.15、硬化材。
硫酸バンド:硫酸アルミニウム、Al2O3=17.2%、ゲル化剤、比重1.32。
消石灰:工業用水酸化カルシウム、ゲル化促進剤および硬化材。
石膏または半水石膏:硬化発現材、比重2.6。
ベントナイト:保水材および増粘材、比重2.6。
酸化マグネシウム(ゲル化剤):比重3.65。
塩化カルシウム(ゲル化剤):比重1.85。
重曹:比重2.2。
分散剤:比重1.04。
硫酸:比重1.67、75w/w%。
5号水ガラス:比重1.32、シリカ濃度25.5%、Na2O7.03、モル比3.75。
1号水ガラス:比重1.35、シリカ濃度21.59%、Na2O10.80%、モル比2.06。
3号水ガラス:比重1.41、シリカ濃度29.16%、Na2O9.36、モル比3.22。
ポリ塩化アルミニウムや気泡材を用いることもできる。
【0079】
[試験方法および試験結果]
表1~表7の一軸圧縮強度試験には、高さ100mm、直径50mmの円柱供試体を用い、日本産業規格(JIS A 1216:2020 土の一軸圧縮試験方法)に準拠した。1日目、7日目および28日目、または、28日目の強度を測定した結果を、それぞれ示す。
また、表1~表8において、ゲルタイムは攪拌棒で攪拌を続けた状態にて懸濁液が増粘するまでの時間である。
【0080】
この実施例より、本発明においては、地盤中で切削土と本注入材を混合した固結体も、切削土と本注入材を混合して切削領域に注入して十分な固結地盤を形成することができるのみならず、切削土でなくても入手した土砂や粘土を本注入材と混合して得られた注入材を注入することにより、経済的に地盤改良することができることがわかる。
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
以下に、シリカ溶液を含む上記懸濁液におけるブリーディング液、または、懸濁液より分離された分離シリカ溶液のゲル化による効果を示す試験例(
図4~
図13)について説明する。
図10は、表4の実施例36を用いた
図4を傾けた状態を示す。また、
図12、
図13は表8のブリーディング液で固化した砂の供試体の強度試験の状態を示す。
【0090】
(浸透性試験)
(試験装置および試験方法)
1次元浸透装置(長さ2m)を用いて、6号珪砂に対する浸透試験を行い、浸透長および強度分布を調べた。
【0091】
試験条件:アクリルモールドh=2m、配合液3L。
試料に水を飽和させた後、懸濁液を下部から注入し、排出液が排出されなくなるまで注入した。
【0092】
一軸圧縮試験は、日本産業規格(案)(JIS A 1216:2020)土の一軸圧縮試験方法に準拠し、供試体は高さ100mm、直径50mmの円柱供試体を用いた。
【0093】
実施例36および比較例1の配合にて行った(
図6~9、12、13)。
【0094】
図8、
図9の実線は、実施例36の配合にて行った結果を示す。浸透距離120cmでも強度測定が可能であった。なお、90cm以降サンドゲルの変色はなかったが、強度測定ができたのは、懸濁液から分離された分離シリカ溶液が90cm以降で固化したためと思われる。90cm以降の部分は、0.5%以上のシリカが含有されていると思われる。
【0095】
図8、
図9の点線は、比較例1の配合にて行った結果を示す。90cmまで強度測定できたが、90cm以降は変色がなく、強度測定できず、懸濁液から分離された分離シリカ溶液がゲル化していなかったことが分かった。
【0096】
図7の浸透試験で砂の変色反応がなかった部分は、スラグが浸透していないと思われる。ブリーディング液の自立性がないことより、懸濁液より分離した溶液が浸透している部分も自立性がなく固化していなかった。これに対し
図6では、ブリーディング液がゲル化し、自立性があることより、懸濁粒子が浸透せずサンドゲルは変色していないものの、懸濁液より分離された分離シリカ溶液が浸透し、固化することにより自立して強度を発現していた。
【0097】
以上より、土の粒径や密度、懸濁粒子の粒径分布によっては土粒子間に浸透し得ない条件下では、懸濁液より分離された分離シリカ溶液のみが浸透することになる(
図11,14)。
【0098】
図8,9より、懸濁液の懸濁粒子の浸透距離が90cmでも、120cmまで懸濁液より分離された分離シリカ溶液が浸透し、その溶液が自立する強度があり、サンドゲルが自立する強度がある。その場合の、シリカ濃度は0.5~2%以上であることが予測できる(表9)。したがって、注入孔間隔を長くとっても、高強度を得られる懸濁粒子が浸透している固結体同士を、シリカ溶液のホモゲルが連結することになる。
【0099】
このようにして、懸濁粒子が浸透し得ない地盤条件でも一体化した固結体を形成して、また、注入孔間隔を広くとってもその間の固結体同士を自立可能なシリカ溶液のゲル化物で連結して、一体化した固結地盤を形成できる。
【0100】
懸濁型グラウトは、溶液型グラウトに比べて高強度は得られるものの、粒径が大きいため細粒土に対する浸透性が悪いが、溶液型シリカを含有することにより、懸濁粒子が浸透し得ない地盤においても固結効果が得られ、一体化した地盤改良や止水性の実現が可能となる(
図15)。
【0101】
上述したように、本発明者らは、懸濁型グラウトのブリーディング液のゲル化に着目して、ブリーディング液のゲル化、ブリーディング液のホモゲルの自立性、ブリーディング液のサンドゲルの自立性や強度を研究し、それを条件とすることにより、従来は適用不可能と考えられていた細粒土や細粒土を含む地盤の懸濁型グラウトの浸透固結性を改善して、本発明を完成した。また、本発明によれば、掘削地盤でも掘削面の自立および止水が可能な改良効果が得られる。従って、本発明は、
図15に示すような地盤の強化のみならず、掘削地盤の強化および止水にも適用することができる。
【0102】
本発明は特に、シリカ溶液を含む懸濁型グラウトを適用した場合、以下の、懸濁型グラウトより分離された分離シリカ溶液のゲル化による効果を発現する。このような従来の高圧噴射攪拌工法では得られない効果を発現することにより、本発明は、高圧噴射攪拌工法と浸透注入工法の利点が同時に得られる噴射・浸透注入という新しいコンセプトからなる地盤改良工法を実現した。
(1)懸濁粒子の浸透固結が不可能であった細粒土地盤への浸透固結。
(2)切削面の自立効果および止水性。
(3)浸透固結による改良範囲の拡大。
(4)隣接する固結体同士が連結して一体化した地盤改良。
(5)注入管の削孔間隔の拡大による工費の低減。
(6)懸濁型グラウトから分離された分離シリカ溶液の短期固結効果の発現による隣接建造物からの土圧や土留壁背面からの土圧に対する抵抗力の向上による施工の安全性、浸透注入による地中埋設物に対する安全性、空間のある地下構造物の周辺地盤の強化、止水および劣化の補修。
【0103】
以下に実施例を示す。
(強度試験)
(サンドゲル供試体の作製)
6号珪砂(
図14)を用い、ブリーディング液を使用して、相対密度60%になるように直径5cm×高さ10cmの混合法による供試体を作製し、28日目の一軸圧縮強さを測定した。ブリーディング率は水ガラス量が多いほうが多く、スラグ量が少なくなると多くなる。ブリーディング液を用いたサンドゲルでは、水ガラスおよびスラグ量が多い方が強度の発現割合が高い。また、石膏を併用したもので、石膏を添加するとブリーディング率が減少し、強度が増加した。
【0104】
ブリーディング液のゲル化とその自立性やブリーディング液による固結した砂(サンドゲル)の強度や自立性は、懸濁液中のスラグや水ガラスの配合量、水ガラスのシリカ(SiO2)とスラグのカルシウム(CaO)の比率(CaO/SiO2)、ゲルタイム、ブリーディング液によって固化する砂の粒径や密度によって異なる。そこで、これらのいくつもの要因に総合的に影響する条件として、ブリーディング液のゲル化と自立、その強度の最小値を確認する試験を行った(表9)。表8のゲルタイムは攪拌ゲルタイムであり、ブリーディング液では得られないため、ここでは静置ゲルタイムを用いた。静置ゲルタイムは以下のようにして測定した。まず、ブリーディング液を規格袋No.8(厚さ0.03×幅130×高さ250mm)の中に100mL入れると、下部の懸濁粒子が多い部分と上部の懸濁粒子が少ない部分(ブリーディング液)とに分かれる。このうち下部の懸濁部分の上部が、ゆっくりと横に傾けたときに固形分が2/3傾かなくなった時点を、静置ゲルタイムとした。静置ゲルタイムは攪拌ゲルタイムよりも短く、ほとんどが攪拌ゲルタイムの半分の時間となった。表8のサンドゲルを作製する際に、2Lまたは3Lの配合を3Lのポリジョッキに入れて、静置ゲルタイムの半分の時間のときにブリーディング液を取り出した液を用いて、サンドゲルを作製した。
【0105】
その結果、ブリーディング液のゲル化および自立とブリーディング液が浸透したサンドゲルが自立することを条件として、懸濁粒子の浸透固結が困難であった細粒土部分、または、浸透するに至らなかった部分を、懸濁液より分離された分離シリカ溶液によって固結するとともに全体を一体化する懸濁・溶液複合注入による地盤改良が可能になった。
【0106】
ブリーディング率が50%以上でも、また50%以下でもゲル化することより、注入時に懸濁液から分離された分離シリカ溶液が浸透して固結する特性を得られることが分かった。そのサンドゲルが自立する最小強度は2.0kN/m
2であった。400mL当たりスラグ75gと1号水ガラス100mLのみの配合の自立可能なサンドゲルの強度が28日目で15kN/m
2であることがわかった。また、1日目と7日目の強度も測定した。1日強度では2.0kN/m
2の強度が得られた。7日目は10kN/m
2であった(
図12、
図13)。また、豊浦砂でも同様な傾向が得られた。また、ブリーディング液中にCa、Mg、Al等の塩が含まれれば、サンドゲルの強度はさらに増加するとみてよい。
【0107】
本発明において供試体は、土の一軸圧縮試験の供試体サイズに合わせ、直径D
0(mm)は、通常、35mmまたは50mmとし、高さH
0(mm)は、直径D
0(mm)の1.8倍~2.5倍とする自立するサンドゲルであれば、どの材令でも判定ができる。
図12に、試験状況を示す。このことより、現場砂でも注入率40%で2.0kN/m
2の強度が得られれば自立することがわかった。また、注入率とは、改良対象地盤の体積に対する注入液の割合であり、改良地盤1m
3に対する注入率が40%の場合、注入量では0.4m
3となる。
【0108】
消石灰の添加量が多くなると、ゲルタイムが短縮された。また、スラグ量が多いと強度が増大した。
比較例1では懸濁粒子が含まれる部分は固化するが、ブリーディング液の部分はゲル化しなかった。
実施例36のブリーディング液はゲル化した。なお、シリカコロイドおよび水ガラスのいずれかまたは両者を併用しても、ブリーディング液がゲル化することがわかった。
【0109】
(シリカ濃度と強度との関係)
底面が外れるアクリルモールドに中性~アルカリ領域の薬液を入れて固化させ、ホモゲルのシリカ濃度別のゲル化の有無、および、ゲルの自立性を確認した。また、サンドゲルでも同様に行い、固化および固結砂の自立性を確認した。その結果を、表9に示す。
【0110】
シリカ濃度0.5%未満においては、ホモゲルとサンドゲルの自立性が得られなかった。
また、さらに試験を追加して、シリカ濃度0.25%でもゲル化することが分かったが、ゲルの自立性、サンドゲルの固結性および自立性は得られなかった(表9)。
【0111】
【0112】
すなわち、単にブリーディング液がゲル化しても、ホモゲルもサンドゲルも自立性が得られない場合や、ホモゲルが自立しないにもかかわらずサンドゲルが自立することもあることより、ホモゲルおよびサンドゲルの自立性が得られるための条件が必要であることが分かった(表8、9)。
【0113】
また、1次元浸透装置(長さ2m)を用いた浸透試験より、水ガラス-スラグ系ではブリーディング液がゲル化しゲルが自立しうる強度を持つが、水ガラスが含まれない場合はブリーディング液がゲル化しないこと、またブリーディング率が50%以上でも50%以下でもブリーディング液がゲル化することより、懸濁液より分離された分離シリカ溶液が浸透し、固結する特性が得られることが分かった。その場合の分離シリカ溶液のシリカ濃度は0.5w/v%以上であると予測された(表9)。
【0114】
また、浸透試験より、水ガラス-スラグ系と水ガラスが含まれない懸濁液では、水ガラスが含まれる懸濁液では懸濁液より分離された分離シリカ溶液による懸濁粒子が浸透し得ない砂に、上記分離シリカ溶液が浸透して固化することが確認されている。
このため、この分離シリカ溶液は溶液型グラウトの浸透固結の粒径加積曲線の地盤においても浸透が可能であることから、溶液型シリカグラウトの浸透可能性が得られることが分かった(
図11)。
【0115】
このように懸濁型グラウトは、スラグまたはフライアッシュ等の微粒子シリカと溶液型シリカを用いることにより、懸濁物が浸透し得ない部分にもブリーディング液が浸透固結することから、ブリーディング液のゲル化に着目し、ブリーディング液とサンドゲルが自立する以下の条件を見出した。
【0116】
以上より、本発明の他の好適形態は、以下の通りである。
地盤に設けた複数の注入孔から、注入材を地盤に噴射して、切削領域に充填するとともにその周辺に土粒子間浸透固結させる注入工法であって、注入材として、スラグまたはフライアッシュ等の懸濁粒子を主材とし、水ガラスやシリカコロイドなどの溶液型シリカを有効成分とする懸濁液からなるものを用いて、懸濁液が浸透し得ない領域まで浸透固結するものである。
【0117】
本発明者らは、ブリーディング液のゲル化に着目し、分離シリカ溶液とサンドゲルが自立する条件を見出し、スラグまたはフライアッシュ等の懸濁粒子と溶液型シリカを用いることにより、懸濁粒子が浸透し得ない部分にも懸濁液より分離された分離シリカ溶液が浸透固結することを可能にした。
【0118】
上記懸濁液が溶液型シリカを含有する場合、分離された分離シリカ溶液がゲル化するとともに、そのホモゲルが自立する強度を有し、上記分離シリカ溶液が浸透して固結したサンドゲルが自立する強度を有し、上記分離シリカ溶液が、地盤のうち懸濁液が浸透し得なかった部分に浸透して、固結範囲を拡大するか、または、地盤のうち懸濁粒子が浸透した部分と一体化して固結体を形成することにより、隣接する注入孔からの懸濁粒子による固結体同士を連結する。また、CMCやMC、ポリアクリルアミドや粘土等を注入液に添加すれば、地盤中で分散されにくく、砂礫地盤でも希釈されにくい効果が得られる。さらに、掘削予定地盤に注入しても、掘削地盤の削面を、自立しかつ地下水を止水できる噴射・浸透複合注入工法が可能になる。
【0119】
ここで、上記において、懸濁液より分離された分離シリカ溶液がゲル化してそのホモゲルが自立するとは、上記分離シリカ溶液のシリカ濃度が0.5w/v%以上であって、モールド内において、ホモゲルを斜めに傾けてもゲルが崩れず自立する状態を意味する。
【0120】
また、上記サンドゲルが自立するとは、上記分離シリカ溶液のシリカ濃度が0.5w/v%以上であって、6号珪砂を用いた場合には、上記分離シリカ溶液を使用して相対密度60%になるように直径5cm×高さ10cmで混合法により作製されたサンドゲルが自立し、サンドゲルを用いて測定された一軸圧縮試験における強度が2.0kN/m2以上であることを意味する。
【0121】
上記において、水ガラスとCaを含有するシリカ粒子からなるシリカグラウトのブリーディング液によるサンドゲルは、経時的に強度が増加する(表8)。これは、シリカ粒子のCaイオンがゲル化後も長期にわたってブリーディング液のゲル中に溶出してシリカと反応し、珪酸カルシウムを形成して強度増加に寄与しているものと思われる。あるいは、添加されたCaやMgを含む硬化剤が、長期にわたってポゾラン作用によりシリカ粒子の可溶性シリカと反応して、ポゾラン反応による強度増加が生じているものと思われる。
【0122】
以上より、本発明によれば、地盤状況や地盤改良目的(強度や固結領域の範囲等)に応じて、噴射による切削領域の固結体の大きさや懸濁粒子、懸濁液より分離された分離シリカ溶液のゲル化によって、浸透固結範囲を設定できる。また、懸濁型注入材の懸濁粒子の種類や粒径、配合量、硬化剤やアルカリ剤、溶液型シリカの種類や添加量、ブリーディング率、ブリーディング液の強度やゲル化時間によって、懸濁粒子の浸透固結範囲、懸濁液より分離された分離シリカ溶液による浸透固結範囲を設定することができる。その結果、
図15に示すように、噴射・浸透複合注入という新しいコンセプトを創造し、懸濁型グラウトを用いた噴射浸透注入による地盤改良が可能になった。
【0123】
本発明に用いる注入材は、特には、以下の特性を持つものである。
(1)粒径の小さな軽量で流動性の良い懸濁粒子を主材とした懸濁型注入材の配合を設定することにより、切削領域から周辺地盤に広範囲に浸透させることができる(
図7~9)。
(2)シリカ溶液を含むことにより、地盤に浸透中に懸濁液より分離された分離シリカ溶液がゲル化し、懸濁粒子が浸透し得ない地盤の細粒子部分にシリカ溶液が浸透し(
図6、
図8~10)、地盤の細粒子部分が固結し、自立する。懸濁液より分離された分離シリカ溶液は溶液型シリカグラウトと同様の浸透性を得ることから、
図11の細粒土浸透可能範囲が期待できる。
図4は、シリカを含有するシリカ懸濁液を静置した場合、懸濁物が固化し、ブリーディング液がゲル化する状況を示す。
図5はシリカを含有しないシリカ懸濁液を静置した場合、懸濁物のみ固化し、ブリーディング液はゲル化しない状況を示す。
(3)表9は溶液型グラウトの低シリカ濃度におけるホモゲルの自立性、サンドゲルの固化と固結砂の自立性を示す。
(4)浸透試験に用いた砂の粒径分布(
図14)から、本発明に用いる懸濁粒子が砂地盤に浸透固結することが分かる。
【0124】
浸透試験(
図6~9)に用いた砂の粒径分布は、
図14の6号珪砂である。この粒径分布では、シリカ溶液を含有しない懸濁液では80cmは懸濁粒子が土粒子間への浸透が可能である(
図8、
図9)。それよりも細粒土である豊浦砂では、その浸透距離はそのほぼ半分以下であった。さらにシリカ溶液を含有する上記懸濁液(実施例36)を用いれば、溶液型の浸透可能範囲の粒径と同じ
図11の浸透範囲が得られ、土質状況に応じて浸透距離の違いはあるものの、
図15のような固結体が形成できることが分かる。
図15(c),(d)は、浸透固結体の平面図である。懸濁型注入材の懸濁粒子の種類と大きさは、土質状況に応じて選択すればよい。また、
図15(e)のように浸透注入が可能であるがゆえに、地下埋設物に損傷を生ずることなく周辺構造物の安定化を可能にする。
図15(f)は、高圧噴射攪拌工法では、地下埋設物が損傷を生ずる危険があることを示す。
【0125】
以上のように、本発明者らは、シリカ溶液を含有する上記懸濁粒子を主成分とする懸濁液を注入すると、中心に近い部分は懸濁粒子の多い高強度領域となり、中心から離れるとともに懸濁粒子の濃度が低くなり、低強度領域となることを見出した。さらに、その外側には、懸濁液より分離された分離シリカ溶液のゲル化によるシリカ分の多い固結体が形成されて、隣接する固結体同士を連結することを見出した。従来、懸濁液におけるブリーディングが多いことは欠点とみなされていたが、本発明においては、懸濁粒子が浸透し得ない土粒子間に懸濁液より分離された分離シリカ溶液が浸透しうることに着目し、ブリーディング液のゲル化の研究を行った。その結果、ブリーディング液そのもののゲル化や強度、懸濁液より分離された分離シリカ溶液の砂への浸透性とサンドゲルの強度が懸濁型グラウトの浸透固結性の改善に大きく影響することが分かった。これらの知見に基づき、噴射領域の周辺地盤に懸濁液が浸透できるのみならず、さらに、懸濁粒子が浸透し得ない細粒土領域まで懸濁液より分離された分離シリカ溶液が浸透してゲル化し、大きな改良体の形成を可能にする条件について検討した。
その研究の結果、本発明者らは、懸濁粒子の注入可能限界を懸濁型注入材より分離した溶液型シリカ(ブリーディング液)のゲル化機能によってカバーすることで、高い浸透性を有し、高強度かつ止水性に優れた、対象地盤全体を一体化した地盤改良を可能とした。
【0126】
本発明によれば、粗粒土を固結するとともに、懸濁液より分離された分離シリカ溶液のゲル化により懸濁粒子が浸透し得ない細粒土についても浸透し固化して、懸濁粒子の固結体よりも大きな固結体の形成が可能となった。しかし、懸濁液より分離された分離シリカ溶液がゲル化するのみでは、充分な強度は得られない。このような点から、ブリーディング液のホモゲル、サンドゲルの自立の強度条件はブリーディング液のシリカ濃度が0.5w/v%以上であることを見出し(表9)、これを上記懸濁型グラウトとして高圧噴射攪拌工法に適用することで、前述したセメントを主体とする高圧噴射攪拌工法の課題を解決するとともに、新しい地盤改良工法を実現するに至ったものである。
【0127】
また、本発明は、スラグやフライアッシュ等の人工焼成シリカやローム土等の可溶性シリカを含む、天然のポゾラン作用を有するシリカ粒子を主成分とする非セメント系注入材を使用することにより、耐久性に優れた固結体を得ることができ、CO2削減効果を期待できる地盤改良工法を提供するものである。
【0128】
(注入装置と施工手順)
上述したように、本発明は噴射・浸透複合注入工法である。従って、注入装置は噴射攪拌および加圧浸透注入ができることが必要である。高圧水を噴射攪拌して本発明に係る懸濁液を切削空間に充填するとともに加圧浸透させるためには、注入した懸濁液が排泥とともに地上に排出されないようにする必要がある。
図16は、その機能をもつ注入装置(
図16(a))およびこれを用いた施工の手順(
図16(b)~(d))を示す。
【0129】
本発明の注入装置は、高圧噴射攪拌工法に用いるものであり、図示するように、地盤に挿入されるガイド管と、ガイド管内に配置され注入材の注入に用いられる注入内管と、ガイド管と注入内管との間の空間を開放または閉塞する開閉機構と、を備える。注入材を地盤中に高圧噴射する際には、開閉機構により上記空間が開放されて、上記空間を介して地上に排泥が行われる。また、開閉機構により空間が閉塞されることで、注入材が地盤中に加圧浸透される。
【0130】
この注入装置を用いた高圧噴射攪拌工法による地盤改良工法においては、具体的には、まず、ガイド管により地盤の対象深度まで削孔し、その内部に注入内管を挿入する。次に、開閉機構によりガイド管と注入内管との間の空間を開放し、ガイド管を引き上げて、注入内管から注入材を、高圧噴射水または空気とともに高圧噴射し、地盤を切削しつつ噴射攪拌する。次に、切削によって生じた切削土を地上部で注入材と混合することにより混合注入材を製造し、この混合注入材を注入内管から、高圧噴射水または空気とともに地盤中に高圧噴射する。または、切削により生じた領域に注入材を充填した後、開閉機構により上記空間を閉塞して、注入材を地盤中に加圧浸透させる。注入材を周辺地盤まで浸透注入しようとする場合、浸透圧力をかけることが必要となる。
【0131】
図16(a)は、切削排土を可能にし、かつ、浸透圧力をかけることができるゴムバッグを用いた開閉機構を示す。図示する例では、開閉機構が、ガイド管と注入内管との間に配置され、流体が流通可能な管路を備える環状のゴムバッグと、その注入内管側の内面に設けられたボールベアリングと、ゴムバックの上端および下端に設けられたシール部材とからなり、開閉機構による空間の開放または閉塞が、ゴムバッグ内への流体の流出入によるゴムバッグ内部の加圧の有無により行われる。
【0132】
ゴムバッグは、その内面にボールベアリングが設けられるとともに上下両端にオーリング等のシール部材が設けられることで、内部に空気等の流体を注入した際の気密性を保っている。切削時には、注入内管とガイド管との間の空間は開放された状態であって、切削土が地上に排土される。一方、注入材の注入時には、ゴムバッグ内に流体が送られ、ゴムバッグが膨張して注入内管とガイド管との間の空間を閉塞するため、注入材は加圧によって地盤中に浸透する。切削領域を移動する際には、開閉機構のボールベアリングにより、ガイド管と注入内管との間の相互移動が可能である。
【0133】
図17(a)~(c)は、他の開閉機構を用いた例の構造および施工手順を示す。この場合、開閉機構が、ガイド管と注入内管との間に配置され、流体が流通可能な管路を備える環状のゴムバッグと、ゴムバッグをガイド管に対して固定する固定部材と、ゴムバッグの上端および下端を閉塞するリング状の金具とからなり、開閉機構による空間の開放または閉塞が、ゴムバッグ内への流体の流出入によるゴムバッグ内部の加圧の有無により行われる。
【0134】
まず、開閉機構を取り付けたガイド管に挿入した注入内管から、高圧噴射水または空気とともに注入材を高圧噴射し、地盤を切削して噴射攪拌し、切削によって生じた切削土を地上部まで排出する。次に、ゴムバッグを空気等の流体による加圧で膨張させ、ガイド管に密着させることにより、ガイド管と注入内管との間の空間を閉塞して、排泥させずに注入材を注入し、注入圧力により切削領域の外周部に浸透注入を図る。その後、ゴムバッグの加圧をやめ、ゴムバッグの注入内管に対する密着を中断して注入内管を引き上げ、同様の作業を繰り返す。
【0135】
この装置は、上記注入材のみならず、セメント懸濁液などすべての注入材について用いることができる。
【0136】
図16,
図17の注入装置を用いることにより、加圧浸透注入時の注入材(注入材X)を噴射攪拌注入時の注入材(注入材Y)よりも浸透性の高い注入材に切り替えることができるし、異なるゲル化時間の配合を用いることもできる。すなわち、本発明においては、噴射攪拌および加圧浸透に用いる注入材として異なるものを用いて、加圧浸透に用いる注入材を、噴射攪拌に用いる注入材よりも浸透性の高いものとすること等ができる。また、本発明においては、開閉機構による上記空間の開閉により、噴射攪拌に用いる注入材と加圧浸透に用いる注入材を切り替えることができる。
【0137】
例えば、注入材としてセメント懸濁液を用いる場合、注入材Yを高濃度とし、注入材Xを低濃度にして、上記開閉機構を有する注入装置を噴射攪拌注入から加圧浸透注入に用いてもよく、また、注入材Yを懸濁液とし、注入材Xを溶液型グラウトとすることもできる。さらに、注入材Yを注入した後に、注入材Xとして注入材Yに促進剤を加えてゲル化時間を調整した注入材を用いることもできる。懸濁液が浸透可能か否かは、注入地盤の粒度に関係がある。その場合の判断は、注入地盤の既存の注入可能限界を計算した数値を目安に用いることができる。例えば、J.C.Kingによる懸濁液グラウトの注入可能限界に関する実験的統計結果(Proc. ASCE 1961)を用いる(「最先端技術の薬液注入工法」理工図書、島田俊介、佐藤武、多久実著、P.154~P.158より)。土粒子のD
15、D
10と懸濁液のD
85、D
95とするNを[注入比](Groutability Ratio)という(通常はN
1をとる)。
N
1=D
15/D
85≧15
N
2=D
10/D
95≧8
の関係が満足されないとグラウト(懸濁液)はスムーズに浸透できない。
したがって、グラウタビリティー比Nが満足される地盤では、懸濁液の浸透注入が可能になる。また、懸濁液の浸透注入が難しい地盤でもシリカ溶液を含む懸濁液を用いれば、懸濁液の浸透が不十分な地盤でも分離シリカ溶液のゲル化によって細粒土でも懸濁粒子と一体化した地盤が構成され、または、さらに広範囲に分離シリカ溶液の浸透によって大きな固結体が形成される。その場合、分離シリカ溶液の浸透可能粒径は、
図11の溶液型グラウトと同様とみなすことができる。
【0138】
このように注入材の内容物や配合を切り替えることによって、固結強度や浸透性、ゲルタイムを調整して、固結範囲や注入可能限界を拡大し、噴射攪拌浸透複合注入という新しいコンセプトからなる地盤改良工法を実現することが可能になった。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明は、軟弱地盤や液状化地盤を、高強度かつ均一に地盤改良することが可能な地盤改良工法に関し、高圧噴射流体の持つ運動エネルギーを利用した地盤の破壊と固化において、切削領域に固結体を形成するのみならず、注入材を切削領域から土粒子間浸透させることで、より大きな固結体を形成し、かつ、高圧噴射による切削土を再利用して地盤に充填することにより、低炭素地盤改良を可能にしたものである。また、スラグやフライアッシュ等の人工の焼成シリカを主成分とする懸濁型注入材や天然のポゾラン作用を有するシリカ粒子を用いることにより、非セメント系注入材またはセメントを減量した注入材でCO2を低減した地球環境に優れた地盤改良を広範囲に行い、かつ、浸透固結範囲を拡大し固結体の重量を軽減する効果を有し、軟弱地盤や液状化地盤の地盤改良を効率的かつ経済的に行うことができる。
【要約】
【課題】従来の高圧噴射撹拌工法に浸透注入を付与することにより懸濁グラウトによる大径固結体の形成を可能にする。また、切削土に注入材を加えて再注入することを可能にし、CO2を低減した地球環境に配慮した地盤改良を行うことができるとともに、従来よりも軽量であって大きな固結体を形成することができる地盤改良工法および注入装置を提供する。
【解決手段】地盤に挿入した注入管からの噴射流体により地盤を切削して切削領域を形成し、形成された切削領域に注入材を注入する地盤改良工法および注入装置であって、注入材として、懸濁粒子を主材とし、或いはさらに硬化剤、アルカリ剤および溶液型シリカのいずれかまたは複数種を含むものを用いて、注入材を、切削領域に充填するとともに切削領域から周辺地盤の土粒子間に浸透させることにより、切削領域および周辺地盤を固結する。
【選択図】なし