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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-24
(45)【発行日】2025-04-01
(54)【発明の名称】コアアセンブリの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20250325BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20250325BHJP
   H01F 3/02 20060101ALI20250325BHJP
   H01F 27/245 20060101ALI20250325BHJP
   H02K 1/18 20060101ALI20250325BHJP
   H02K 1/02 20060101ALN20250325BHJP
【FI】
H01F41/02 C
H01F1/153 133
H01F3/02
H01F27/245
H02K1/18 B
H02K1/02 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022547560
(86)(22)【出願日】2021-09-03
(86)【国際出願番号】 JP2021032516
(87)【国際公開番号】W WO2022054725
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2022-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2020151208
(32)【優先日】2020-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(72)【発明者】
【氏名】阿部 宗光
(72)【発明者】
【氏名】花田 成
(72)【発明者】
【氏名】山下 翔寛
(72)【発明者】
【氏名】大場 達也
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/105473(WO,A1)
【文献】特開2017-108578(JP,A)
【文献】特開2007-159300(JP,A)
【文献】実開昭57-093055(JP,U)
【文献】特開2015-076579(JP,A)
【文献】特公昭43-029604(JP,B1)
【文献】特開2019-145704(JP,A)
【文献】特開2020-048395(JP,A)
【文献】特開2020-126963(JP,A)
【文献】特開2017-141508(JP,A)
【文献】国際公開第2018/150807(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/006868(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/153、3/02、27/245、41/02
H02K 1/02、1/14、1/18、15/02-15/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
bcc-Fe相を主相とするナノ結晶薄帯が複数積層された構造を有するブロック薄帯を有するコアアセンブリの製造方法であって、
前記製造方法は、
アモルファス薄帯からなるコア薄帯部が複数積層されてなる第1積層体の側面にレーザ溶接により固着部を設けてブロック体を得ること、
前記ブロック体を、当該ブロック体の積層方向に2つの熱だめで挟み、前記2つの熱だめの前記積層方向に垂直な方向の周囲に、前記2つの熱だめと前記ブロック体とからなる第2積層体から空間を空けて、治具を配置して、前記2つの熱だめをヒータブロックにより加熱することを含む熱処理により、前記アモルファス薄帯を前記ナノ結晶薄帯として、前記ブロック体から厚さ3mm以下のブロック薄帯を得ること、および
前記ブロック薄帯を複数積層してなる第3積層体に含浸コートすることを含んで前記コアセンブリを得ること
を備え、
前記治具は、前記ヒータブロックから熱的に隔離され、前記熱だめと前記ブロック体とからなる積層体から放出される熱を外部に排出し、
前記治具と前記ブロック体との前記積層方向に垂直な方向の離間距離の最大値は1cm以下であること
を特徴とするコアアセンブリの製造方法。
【請求項2】
前記ブロック体を前記積層方向から見た形状が直径φ1の円形であって、
前記熱だめの前記積層方向から見た形状の内接円の直径φ2は、前記直径φ1の102%以上である、請求項1に記載のコアアセンブリの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性コアおよびかかる磁性コアを備える磁気部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アモルファス合金薄帯の積層体を保持する積層治具と、前記積層治具と接触することなく前記積層体を積層方向の上下面から挟み込む2つの加熱プレートと、前記2つの加熱プレートを加熱温度制御するための加熱制御装置と、を備えた、アモルファス合金薄帯の積層体の熱処理装置が開示されている。この熱処理装置を用いてアモルファス合金薄帯の積層体を加熱処理することにより、Fe基ナノ結晶合金の薄帯の積層体を備える磁性コアを得ることができる。
【0003】
特許文献2には、複数の磁性板が積層され、モータの回転方向に沿って山部と溝部とが交互に形成された表面凹凸形状の磁極を備えたモータの積層コアにおいて、前記磁極に形成された前記溝部の表面に前記磁性板を相互に固着する溶着部が設けられていることを特徴とするモータの積層コアが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-141508公報
【文献】国際公開1999/21264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるようなアモルファス合金薄帯の積層体を熱処理すると、アモルファス合金薄帯の結晶化の際に熱が発生する。この熱を適切に制御しないと、得られたナノ結晶合金の薄帯(ナノ結晶薄帯)の積層体の磁気特性の劣化や、熱暴走が生じて薄帯が焼損したりすることがある。アモルファス合金薄帯の積層体の積層数は熱処理において積層体に生じる熱と関連するとともに、積層体を備える磁性コアの磁気特性にも深く関連する。このため、磁気特性が異なる複数種類の磁性コアを得るべく積層枚数の異なる積層体を用意すると、積層体ごとに熱処理条件を個別に設定する必要がある。積層体として熱処理せずにアモルファス合金薄帯を枚葉で熱処理すると、熱処理により得られたナノ結晶薄帯は脆いため取り扱い性が低く、ナノ結晶薄帯を積層する工程において割れや欠けといった破損が生じやすく、磁性コアの品質を確保する観点で問題がある。
【0006】
本発明は、ナノ結晶薄帯が積層された構造を有する磁性コアであって、磁気特性に優れる磁性コアを提供することを目的とする。本発明は、かかる磁性コアを備える磁気部品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための本発明は、一態様において、ブロック薄帯が複数配置されたコアアセンブリを備える磁性コアであって、前記ブロック薄帯は、bcc-Fe相を主相とするナノ結晶薄帯が複数積層された構造を有し、前記ブロック薄帯の厚さ方向の中央に位置するナノ結晶薄帯の鉄損は、前記ブロック薄帯の表層に位置するナノ結晶薄帯の鉄損よりも低いことを特徴とする磁性コアである。上記磁性コアにおいて、中央に位置するナノ結晶薄帯(中央薄帯)の鉄損が表層に位置するナノ結晶薄帯(表層薄帯)の鉄損よりも低いということは、両端の結晶化に伴う発熱が中央薄帯にて結晶化を促進していることを示しており、それゆえ、かかる中央薄帯を備えるブロック薄帯は、全体としても鉄損が低い部材となる。
【0008】
前記ナノ結晶薄帯は、アモルファス合金材料からなるアモルファス薄帯の熱処理体であってもよい。この場合において、前記ブロック薄帯の厚さは、前記アモルファス薄帯が前記熱処理により前記ナノ結晶薄帯を生成しうる厚さであることが好ましい。ブロック薄帯の厚さが過度に大きい場合には、アモルファス薄帯を熱処理した際に温度制御が不能となり、ブロック薄帯が焼損してしまうことが懸念される。具体的には、前記ブロック薄帯の厚さは3mm以下であることが、アモルファス薄帯の熱処理の制御しやすさの観点から好ましい場合がある。
【0009】
前記ブロック薄帯は、積層方向に隣り合う前記ナノ結晶薄帯が互いに固着された固着部を有していてもよい。複数のナノ結晶薄帯が積層されたブロック薄帯を用意し、このブロック薄帯を複数配置してコアアセンブリ(コア組立体)を作製することが可能となるため、ナノ結晶薄帯を一枚ずつ積層して積層コアを形成した場合に比べて、ナノ結晶薄帯に破損などの不具合が生じにくく、結果、コアアセンブリを備える磁性コアの品質を高めることが可能となる。
【0010】
このように、コアアセンブリが複数のブロック薄帯の組立体であることにより、ブロック薄帯の固着部が例えば溶接などにより形成されて導電性を有する場合でも、コアアセンブリを備える磁性コアの短絡経路はブロック薄帯により分割される。特許文献2に記載されるように複数の薄帯を溶接などにより一体的化すると、得られた磁性コアは電気的にも一体化するため、磁性コアの短絡経路が長くなる。短絡経路が長いほど、磁性コアの渦電流損が大きくなるため、短絡経路ブロック薄帯単位に分割される本発明に係る磁性コアは、鉄損、特に渦電流損が高まりにくい。
【0011】
なお、コアアセンブリを構成する複数のブロック薄帯の並び方向と、ブロック薄帯におけるナノ結晶薄帯の積層方向との関係は任意である。並び方向と積層方向とが揃っていてもよいし、揃っていなくてもよい。
【0012】
上記の固着部を有する磁性コアにおいて、前記固着部では、前記ナノ結晶薄帯が溶着していてもよく、この固着部がレーザ溶接部から構成されていてもよい。
【0013】
第1方向に沿って並ぶ複数の前記ブロック薄帯からなり、複数の前記ブロック薄帯の前記固着部が前記第1方向に並ばない部分を有するシフト配置ブロック薄帯群を、上記の磁性コアは有していてもよい。第1方向の一具体例はナノ結晶薄帯の厚さ方向である。固着部は他の部分に比べて磁気特性が異なる場合がありうるが、そのような場合でも、コアアセンブリに含まれる複数の固着部が一方向に並ばないようにブロック薄帯を配置することにより、コアアセンブリを備える磁性コアの磁気特性の均一性を高めることができることがある。
【0014】
上記の磁性コアにおいて、前記コアアセンブリは含浸コートされていてもよい。コアアセンブリが含浸コートされていれば、コアアセンブリから薄帯が剥離する不具合が生じにくい。
【0015】
本発明は、他の一態様として、上記の磁性コアを備えることを特徴とする磁気部品を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ナノ結晶薄帯が積層された構造を有し、磁気特性に優れる磁性コアが提供される。また、本発明により上記の磁性コアを備える磁気部品も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)本発明の一実施形態に係る磁性コアを表す平面図、および(b)図1(a)が備えるコアアセンブリを表す図である。
図2】(a)図1(b)に示されるコアアセンブリが備えるブロック薄帯を表す図、および(b)ブロック薄帯の平面図である。
図3】(a)ブロック薄帯に設けられた固着部の一例であり、薄帯の積層体の切断と溶接とが同時に行われた場合(溶断)を示す図、および(b)ブロック薄帯に設けられた固着部の他の一例であり、薄帯の積層体の切断面の一部を溶接した場合を示す図である。
図4】(a)本発明の一実施形態に係る磁性コアが備えるコアアセンブリの変形例の一つを表す図、(b)本発明の一実施形態に係る磁性コアが備えるコアアセンブリの変形例の他の一つを表す図、および(c)本発明の一実施形態に係る磁性コアが備えるコアアセンブリの変形例の別の一つを表す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る磁性コアの製造方法の一例を示すフローチャートである。
図6】本発明の一実施形態に係る磁性コアの製造方法の他の一例を示すフローチャートである。
図7】本発明の一実施形態に係る磁性コアの製造方法の別の一例を示すフローチャートである。
図8】(a)本発明の一実施形態に係る磁性コアが備えるナノ結晶薄帯を形成するためのアモルファス薄帯からなるフープ材の製造プロセスの説明図、(b)図8(a)の製造プロセスにより製造されるアモルファス薄帯からなるフープ材の構成の説明図、および(c)図8(b)に示されるアモルファス薄帯からなるフープ材の抜き加工部を説明する図である。
図9】(a)図8(b)に示されるアモルファス薄帯からなるフープ材を小分けして得られる連成積層体を表す図、(b)図9(a)の連成積層体の熱処理を説明する図、および(c)図9(b)の熱処理における熱だめ(ヒータ)の配置を示す図である。
図10】(a)図9(b)の連成積層体の熱処理の変形例を説明する図、および(b)図10(a)の熱処理に用いられる熱だめの形状を表す平面図である。
図11】(a)図7のフローチャートに示される製造方法により製造されたブロック薄帯の一例を示す平面図、および(b)図10(a)のブロック薄帯の固着部を説明する図である。
図12】(a)本発明の他の一実施形態に係る磁性コアが備えるコアアセンブリを形成するためのアモルファス薄帯の形状を示す平面図、および(b)図12(a)のアモルファス薄帯から形成されたブロック薄帯の形状を表す図である。
図13】(a)図12(b)のブロック薄帯を備えるコアアセンブリを表す図、および(b)図13(a)のコアアセンブリをさらに組み合わせて得られるコアアセンブリを表す図である。
図14】(a)本発明の一実施形態に係る磁性コアを備える磁気部品が用いられた磁気製品の一例であるモータの外観図、(b)図14(a)のモータが備える磁気部品の1つであるロータの外観図、および(c)図14(a)のモータが備える磁気部品の他の1つであるステータの外観図である。
図15】実施例の熱処理工程に用いた熱処理加工装置の説明図である。
図16】実施例1の結果を示すグラフである。
図17】実施例2の結果を示すグラフである。
図18】実施例3の結果を示すグラフである。
図19】実施例4の結果を示すグラフである。
図20】実施例5の結果を示すグラフである。
図21】比較例1の結果を示すグラフである。
図22】実施例の結果に基づく、鉄損および結晶粒径の枚数依存性を示すグラフである。
図23】実施例の結果に基づく、鉄損および結晶粒径の積層厚さ依存性を示すグラフである。
図24】実施例の結果に基づく、積層枚数と熱処理温度との関係を示すグラフである。
図25】実施例の結果に基づく、積層厚さと熱処理温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明では、同一の部材には同一の符号を付し、一度説明した部材については適宜その説明を省略する。
【0019】
図1(a)は、本発明の一実施形態(第1実施形態)に係る磁性コアを表す平面図である。図1(b)は、図1(a)が備えるコアアセンブリを表す図である。図2(a)は、図1(b)に示されるコアアセンブリが備えるブロック薄帯を表す図である。図2(b)は、ブロック薄帯の平面図である。
【0020】
第1実施形態に係る磁性コア100は、図1(a)に示されるように、モータのステータの形状を有する。具体的は、磁性コア100は、Z1-Z2方向に沿う中心軸を通る貫通孔20を有する円筒状の本体部10と、円筒状の本体部10の外側面から放射状(XY平面内方向)に延びる複数のティース30とを有する。図1に示される磁性コア100は、12本のティース30を有し、それぞれのティース30の外側端部には周方向に突出する突出部を有する先端部40が位置する。
【0021】
磁性コア100は、図1(b)に示される軟磁性体からなるコアアセンブリ50に含浸コートが施されたものである。含浸コートは樹脂系材料からなるコート材をコアアセンブリ50の表面に付着させて含浸させることによって形成される。コート材は例えばエポキシ樹脂からなる。含浸コートの厚さは導電体であるコアアセンブリ50を適切に覆って磁性コア100が適切な絶縁性を有するように設定される。限定されない例示をすれば、含浸コートの厚さは0.1μmから5μmである。
【0022】
コアアセンブリ50は、複数のブロック薄帯51から構成される。図1(b)に示されるコアアセンブリ50は、5つのブロック薄帯51、52、53、54、55のZ1-Z2方向の積層体からなる。
【0023】
ブロック薄帯51は複数のナノ結晶薄帯511の積層体である。ナノ結晶薄帯511はbcc-Fe相を主相とするナノ結晶含有合金材料からなる。図2(a)に示されるブロック薄帯51は、n枚のナノ結晶薄帯511のZ1-Z2方向の積層体を備える。ブロック薄帯51の厚さ方向(Z1-Z2方向)の中央に位置するナノ結晶薄帯(中央薄帯)の鉄損は、ブロック薄帯51の表層に位置するナノ結晶薄帯(表層薄帯)の鉄損よりも低い。中央薄帯の鉄損が表層薄帯の鉄損よりも低いということは、両端の結晶化に伴う発熱が中央薄帯にて結晶化を促進していることを示しており、それゆえ、かかる中央薄帯を備えるブロック薄帯51は、全体としても鉄損が低い部材となる。
【0024】
図2(b)に示されるように、ブロック薄帯51の平面視の形状(Z1-Z2方向からみた形状)は、磁性コア100と同様であって、円状の本体部11の中心に貫通部21を有し、本体部11の外側面から12本のティース31が放射状に延出し、各ティース31の外側端部には円周方向に突出する突出部を有する先端部41が位置する。
【0025】
ブロック薄帯51は、積層方向(Z1-Z2方向)に隣り合うナノ結晶薄帯が互いに固着された固着部51Bを有する。図2(a)に示されるブロック薄帯51では、固着部51Bは、4つのティース31の先端部41の一部に設けられている。本実施形態では、固着部51Bはレーザ溶接部からなる。
【0026】
このように、図1(b)に示されるコアアセンブリ50は、複数のナノ結晶薄帯511の一体化物として用意されたブロック薄帯51を複数配置して作製されたものである。ブロック薄帯51を用いることにより、ナノ結晶薄帯を一枚ずつ積層して積層コアを形成した場合に比べて、ナノ結晶薄帯に破損などの不具合が生じにくく、結果、コアアセンブリ50の含浸コート体である磁性コア100の品質を高めることが可能となる。
【0027】
また、取り扱い性が容易なブロック薄帯51の配置数を変更することにより、具体的には積層数を変更することにより、コアアセンブリ50全体の大きさを容易に調整することができる。このため、異なる磁気特性を有する磁性コア100を容易に作製することが可能である。さらに、コアアセンブリ50の積層数を変更するだけで磁性コア100の磁気特性を変更できるため、アモルファス薄帯の積層体の熱処理条件を変更することなく、磁性コア100の磁気特性変更が実現される。前述のように、アモルファス薄帯の積層体の枚数を変更すると熱処理条件を新たに設定する必要があるため、このような方法で製造された磁性コアに比べて、本実施形態に係る磁性コア100は、品質の安定性に優れ、生産性にも優れる。
【0028】
上記のとおり、ブロック薄帯51の固着部51Bがレーザ溶接部である場合には、隣り合うナノ結晶薄帯511、511は固着部51Bを通じて電気的に接続される。このため、磁性コア100に渦電流が流れる場合に、渦電流の短絡経路はブロック薄帯51単位となる。すなわち、磁性コア100のコアアセンブリ50は複数のブロック薄帯51が配置された構造を有しているため、短絡経路はブロック薄帯51単位となる。それゆえ、磁性コア100に生じる渦電流損を相対的に少なくすることが可能である。これに対し、例えば特許文献2に記載される積層コアのように、積層コアを構成する複数の磁性板の全体を固着するように溶着部が設けられている場合には、積層コアの短絡経路はその全体となり、渦電流損が大きくなってしまう。
【0029】
固着部51Bの固着方法は限定されない。ブロック薄帯51において隣り合うナノ結晶薄帯は接着剤により固着されていてもよい。固着部51Bがナノ結晶薄帯511の側面を含むように位置する場合には、固着部51Bはナノ結晶薄帯511の切断部であってもよい。そのような場合の具体例として、固着部51Bが溶断部である場合が例示される。図3(a)はブロック薄帯51に設けられた固着部51Bの一例であり、ナノ結晶薄帯511の積層体の切断(切断痕51C)と溶接(固着部51B)とが同時に行われた場合(溶断)を示す図である。図3(b)は、ブロック薄帯51に設けられた固着部51Bの他の一例であり、ナノ結晶薄帯511の積層体の切断面の一部を溶接して固着部51Bとした場合を示す図である。
【0030】
図1(b)に示されるコアアセンブリ50では、第1方向(Z1-Z2方向)に沿って並ぶ5つのブロック薄帯51、52、53、54、55は、それぞれの固着部51B、52B、53B、54B、55Bが第1方向(Z1-Z2方向)に並ばない部分を有するシフト配置ブロック薄帯群を有する。図2(b)に示されるように、ブロック薄帯51は4つの固着部51Bを有し、これらの固着部51Bはいずれもティース31の先端部41の突出部42にあり、ブロック薄帯51が有する12個のティース31において2つおきに固着部51Bは配置されている。そして、コアアセンブリ50において隣り合う2つのブロック薄帯(例えばブロック薄帯51、52)はいずれも、2つの固着部51B、52Bが第1方向(Z1-Z2方向)に並んでいない。コアアセンブリ50において複数のブロック薄帯51、52、53、54、55がこのように配置されることにより、固着部51B、52B、53B、54B、55Bが他の部分と磁気的性質が異なる場合であっても、コアアセンブリ50の磁気特性の空間的ばらつきが生じにくくなると期待される。
【0031】
図1(b)に示されるコアアセンブリ50は、上記のように、コアアセンブリ50を構成するブロック薄帯51の固着部51Bが隣り合うブロック薄帯52の固着部52Bと第1方向(Z1-Z2方向)に並ばないように配置されているが、これに限定されない。図4は、本発明の一実施形態に係る磁性コアが備えるコアアセンブリの変形例の一つを表す図である。図4(a)に示されるコアアセンブリ501のように、隣り合うブロック薄帯の固着部が第1方向(Z1-Z2方向)に並んでいてもよい。この場合も、隣り合う2つのブロック薄帯において磁気的な連続性はあるが電気的な連続性はないため、コアアセンブリ501の短絡経路はそれぞれのブロック薄帯51、52、53、54、55の単位となる。
【0032】
図4(b)に示されるコアアセンブリ502では、コアアセンブリ502の最外側面に固着部が設けられておらず、最外側面よりも内側に位置する側面に固着部が設けられている。具体的には、コアアセンブリ502において、固着部51B,53B,54B,55Bは、ティース31の先端部41における周方向の突出部42の一方の側面に設けられている。コアアセンブリ502を備える磁性コア100が用いられた磁気部品の磁気回路は、コアアセンブリ502の最外側面を貫くように磁路が設定されている場合がある。このような場合には、最外側面に固着部が設けられていると、固着部を貫くように磁路が通ることが磁気部品の特性(例えばモータの回転特性)に影響を与える可能性もある。コアアセンブリ502では、最外側面に対応する突出部42の外側の側面に固着部が設けられていないため、コアアセンブリ502を備える磁性コア100の磁気特性が固着部の影響を受けにくくなると期待される。
【0033】
図4(c)に示されるコアアセンブリ503は、ブロック薄帯51において隣り合う2つのティース31の間の空間(磁性コア100のスロットSLの一部に対応する。)に位置する本体部11の外側面に、固着部51Bが設けられている。この位置に固着部51Bを設ける場合には、ティース31の一部に固着部51Bを設ける場合に比べて、固着部51Bを生成したことがブロック薄帯51に与える影響を小さくすることができる。例えば、ティース31の一部に固着部51Bをレーザ溶接により形成する場合には、レーザ溶接により与えられた熱によって、ティース31が部分的に変形(溶融後に固化)する可能性があるが、コアアセンブリ503の場合には、レーザ溶接によって固着部51Bを形成した際に変形が起こったとしても、固着部51Bが本体部11に設けられているため、固着部51Bによる磁性コア100の磁気特性への影響はティース31の一部に固着部51Bを形成した場合よりも小さいものとすることができる。
【0034】
本実施形態において、ナノ結晶薄帯511は、Fe基アモルファス合金材料からなるアモルファス薄帯の熱処理体である。具体的には、アモルファス薄帯を熱処理によりナノ結晶化させて得られたbcc-Fe相を主相とするナノ結晶含有合金材料からなる薄帯である。後述するように、ブロック薄帯51を構成する複数のナノ結晶薄帯511は、ブロック薄帯51に対応するアモルファス薄帯の積層体を一時に熱処理することによって得られる。
【0035】
ブロック薄帯51の厚さは、この熱処理によりアモルファス薄帯からナノ結晶薄帯511を生成しうる厚さに設定されている。アモルファス薄帯の積層体が厚くなると、アモルファス薄帯が結晶化する際に生成する熱が積層体の外部に放出されにくくなり、熱処理の制御性が低下する。したがって、熱処理を適切に進行させる観点から、ブロック薄帯51の厚さには上限が設定されることが好ましい。一方、熱処理により生成したナノ結晶薄帯511は堅く脆いため、熱処理により生成した積層体は、ある程度の枚数のナノ結晶薄帯511が積層されていることが、取り扱い性を高める観点から好ましい。この観点から、ブロック薄帯51の厚さの下限は設定されることが好ましい。
【0036】
限定されない例示をすれば、ブロック薄帯51の厚さは、3mm以下であることが好ましく、2mm以下であることが好ましい場合がある。また、ブロック薄帯51の厚さは、200μm以上であることが好ましい場合があり、500μm以上であることがより好ましい場合がある。
【0037】
本実施形態に係る磁性コア100の製造方法は限定されないが、次に説明する方法により製造すれば、磁性コア100を生産性高く製造することが可能である。図5は、本発明の一実施形態(第1実施形態)に係る磁性コアの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0038】
図5のフローチャートに示されるように、まず、単ロール法などにより、アモルファス薄帯を製造する(ステップS101)。得られたアモルファス薄帯を適当な長さに切断し、得られた薄帯片に対して打抜き加工を行い、平面視の形状(Z1-Z2方向からみた形状)が図2に示される形状を有する打ち抜き部材を得る(ステップS102)。得られた打ち抜き部材の複数を積層して、積層体を得る(ステップS103)。前述のように、アモルファス薄帯は熱処理後のナノ結晶薄帯よりも靱性を有するため、積層作業を行っても薄帯の欠けなどが生じにくい。
【0039】
得られた積層体の外側面を複数箇所レーザ溶接するブロック化工程を行って、ブロック体を得る(ステップS104)。得られたブロック体に熱処理を行ってブロック薄帯51を得る(ステップS105)。前述のように、熱処理の条件は、そのブロック体を構成するアモルファス薄帯の全てに適切に結晶化が進行し、結晶化によって発生した熱に起因する不具合(化合物など不要物の生成、焼損など)が適切に抑制されるように設定される。
【0040】
熱処理により得られたブロック薄帯51を複数積層して、図1(b)に示されるコアアセンブリ50が得られる。この際、隣り合う固着部(例えば固着部51B、固着部52B)が第1方向(Z1-Z2方向)に並ばないように、ブロック薄帯51に対して隣り合うブロック薄帯52を貫通部21の中心軸周りで回転させて積層する、回転積層を行う(ステップS106)。
【0041】
コアアセンブリ50に対して必要に応じ2次熱処理(ステップS107)を行い、含浸コートを行う(ステップS108)ことにより、磁性コア100が得られる。含浸コートを行った後に、必要に応じ、バリ取りなどの形状調整が行われる(ステップS109)ことがある。
【0042】
続いて、図6図8及び図9を用いて、コア薄帯部300の複数に対して同時に熱処理することを含んで、図4(b)に示されるコアアセンブリ502が備える複数のブロック薄帯51を効率的に製造する方法を説明する。図6は、本発明の一実施形態に係る磁性コアの製造方法の他の一例を示すフローチャートである。図8(a)は、本発明の一実施形態に係る磁性コアが備えるナノ結晶薄帯を形成するためのアモルファス薄帯からなるフープ材の製造プロセスの説明図である。図8(b)は図8(a)の製造プロセスにより製造されるアモルファス薄帯からなるフープ材の構成の説明図である。図8(c)は、図8(b)に示されるアモルファス薄帯からなるフープ材の抜き加工部を説明する図である。図9(a)は、図8(b)に示されるアモルファス薄帯からなるフープ材を小分けして得られる連成積層体を表す図である。図9(b)は、図9(a)の連成積層体の熱処理を説明する図である。図9(c)は、図9(b)の熱処理における熱処理装置の配置を示す図である。
【0043】
図6のフローチャートに示される製造方法においても、図5のフローチャートに示される製造方法と同様に、まず、単ロール法などにより、アモルファス薄帯を製造する(ステップS201)。得られたアモルファス薄帯はナノ結晶薄帯に比べると高い靱性を有するため、得られたアモルファス薄帯を巻き取って、ロール(アモルファスロール201)とする。
【0044】
次に打ち抜きによってフープ材205を生成する(ステップS202)。図8(a)には、ロールトゥロール方式のフープ材205の製造方法が示されている。アモルファスロール201からアモルファス薄帯202を一方向(具体的にはX1-X2方向X1側)に繰り出し、抜き金型(上型203、下型204)により、アモルファス薄帯202に対して打抜き加工を行う。
【0045】
得られたフープ材205は、図8(b)に示されるように、最終的に磁性コア100の直接的な構成部材となるコア薄帯部300と、コア薄帯部300の面内方向(具体的にはX1-X2方向)に延びる基材部211と、コア薄帯部300と基材部211とを接続する繋ぎ桟212とからなる抜き加工部350が基材部211の延びる方向(X1-X2方向)に並んで配置されてなる。基材部211には、位置決めのための孔(位置決め部213)が設けられている。
【0046】
図8(c)に示されるように、抜き加工部350のコア薄帯部300の平面視の形状(Z1-Z2方向からみた形状)は、ブロック薄帯51と同様であって、円状の本体部310の中心に貫通部320を有し、外側面から12本のティース330が放射状に延出し、各ティース330の外側端部には周方向に突出する突出部341を有する先端部340が位置する。図8(c)に示されるように、一部の繋ぎ桟212は、X1-X2方向に沿って延在する2つのティース330の先端部340において周方向(Y1-Y2方向)に突出する突出部341に接続するように設けられている。他の一部の繋ぎ桟212は、Y1-Y2方向に沿って延在する2つのティース330の先端部340において周方向(X1-X2方向)に突出する突出部341に接続するように設けられている。このため、繋ぎ桟212の切断部CPは、先端部340の最外側面につながるようには位置しない。それゆえ、図8(c)に示される抜き加工部350から得られたブロック薄帯51は、図4(b)に示されるように、最外側面に固着部51B(すなわち切断痕51C)が位置しない。
【0047】
切断痕51Cは、切断方法がレーザであるか機械的切断であるかにかかわらず、結晶状態が他の部分と変化する可能性がある。このため、磁性コア100は切断痕51Cが位置する部分において磁気特性が他の部分と異なる可能性がある。それゆえ、磁性コア100を備える磁気部品の磁気回路の磁路が切断痕51Cを通る場合には、その部分において磁気特性が変化し、結果的に、磁気部品の磁気特性の安定性に影響が及ぶ可能性がある。切断方法を最適化することにより、こうした影響を最小限に抑えることは可能である。ブロック薄帯51を備える磁性コア100が用いられた磁気部品の磁気回路は、その最外側面を貫くように磁路が通る場合があるが、例えば図10(a)に示される抜き加工部350を用いれば、図4(b)に示されるコアアセンブリ502が得られるため、磁気部品の磁気回路の磁路が切断痕51Cを通る可能性をより低減させることができる。
【0048】
打抜き加工により得られたフープ材205は巻き取られて、ロール材206となる。次に、ロール材206からフープ材205を繰り出して小分けする切断加工を行い、所定の数(例えば3)の抜き加工部350がつながった連成部材251を得る(ステップS203)。図9(a)に示されるように、得られた連成部材251の複数をZ1-Z2方向に積層して、連成積層体360を得る(ステップS204)。ここで、各連成部材251の位置決め部213を用いることにより、容易に、かつコア薄帯部300に接することなく、複数の連成部材251をZ1-Z2方向に積層することができる。
【0049】
続いて、得られた連成積層体360の熱処理を行う(ステップS205)。図9(b)および図9(c)に示されるように、連成積層体360の連成部材251が有するコア薄帯部300の積層体の数に応じて複数組の熱処理装置395、396を用意し、コア薄帯部300の積層体を各組の熱処理装置395、396で連成積層体360の積層方向(Z1-Z2方向)から挟む。熱処理装置395、396は、コア薄帯部300の温度を制御するためのものであり、それぞれ、ほぼ円柱状の形状を有しコア薄帯部300に直接的に接する熱だめ370、371と、熱だめ370、371を加熱するヒータブロック390、391とを備える。これにより、熱処理装置395、396は、コア薄帯部300に熱を与える機能を有するとともに、コア薄帯部300から熱を受ける機能を有する。このように1組の熱処理装置395、396を複数配置することにより、連成積層体360が有する複数のコア薄帯部300の積層体のそれぞれに加えられる熱処理の条件を等しくすることができる。なお、熱処理の条件は、連成積層体360のコア薄帯部300を構成する全てのアモルファス薄帯において適切に結晶化が進行し、結晶化によって発生した熱に起因する不具合(化合物など不要物の生成、焼損など)が適切に抑制されるように設定される。
【0050】
こうして熱処理することにより、連成積層体360のコア薄帯部300を構成するアモルファス薄帯は結晶化してナノ結晶薄帯511となる。続いて、突出部341における繋ぎ桟212との接続部(切断部CP)をレーザ溶断して、コア薄帯部300(ナノ結晶薄帯511)の積層体を分離するとともに、この積層体を構成する複数のナノ結晶薄帯511を固着して、図4(b)に示されるブロック薄帯51を得る(ステップS206)。したがって、図6のフローチャートに示される製造方法により製造されたブロック薄帯51の固着部51Bは、切断痕51Cでもある。
【0051】
以降、図5に示されるステップと同様に、回転積層(ステップS207)および必要に応じて2次熱処理(ステップS208)を行って、図1(b)に示されるコアアセンブリ50を得る。さらに含浸コート(ステップS209)および必要に応じて形状調整(ステップS210)を行って、図1(a)に示される磁性コア100を得る。
【0052】
図10(a)は、図9(b)の連成積層体の熱処理の変形例を説明する図、および図10(b)は、図10(a)の熱処理に用いられる加熱部材の形状を表す平面図である。
【0053】
図9(b)に示されるように、熱処理装置395、396が備える熱だめ370、371がほぼ円柱形状を有している場合には、図9(c)に示されるように、切断部CP(図8(c)参照)は熱だめ370に直接的に接触する。このため、熱処理工程(ステップS205)の後の連成積層体360では、切断部CPも熱処理を受けて結晶化している。それゆえ、切断部CPは切断加工性が低下している可能性がある。前述のように、切断部CPが接続している突出部341は磁路が通る可能性は低いものの、切断加工性が低下していると、切断痕51Cの形状均一性が低下し、ブロック薄帯51の形状品質の維持に影響を与える可能性もある。
【0054】
そこで、図10に示されるように、熱だめ370A、371Aの平面視の形状(Z1-Z2方向からみた形状)が、コア薄帯部300の平面視の形状に対応していれば、熱処理工程(ステップS205)において、繋ぎ桟212における先端部340の突出部341につながる部分は熱処理されず、アモルファス合金のままとなる。それゆえ、熱処理後の連成積層体360は、切断部CPの切断加工性が良好であり、図4(b)に示されるように、ブロック薄帯51の先端部340の突出部341の側面に固着部51Bを位置させても、形状品質が低下しにくい。
【0055】
図6に示される製造方法では、レーザ溶断して、切断加工とブロック化加工とを同時に行ったが、これらの工程は別工程で行われてもよい。図7は、本発明の一実施形態に係る磁性コアの製造方法の別の一例を示すフローチャートである。
【0056】
図7に示されるフローチャートは、図6に示されるフローチャートとの対比で、ステップS206の「分離切断/ブロック化」工程が、分離切断工程(ステップS206A)とブロック化工程(ステップS206B)とに分割されている点で相違する。この場合には、分離切断工程は例えば機械的切断により行われ、ブロック化工程は例えばレーザ溶接によって行われる。また、図7に示されるフローチャートは、図6に示されるフローチャートとの対比で、熱処理工程(ステップS205)がブロック化工程(ステップS206B)の後に行われている。アモルファス合金からなる部分は熱処理工程(ステップS205)を受けると、ナノ結晶化して切断加工性が低下する。したがって、熱処理工程(ステップS205)の前に分離切断工程(ステップS206A)を行えば、繋ぎ桟212の良好な切断加工性を確保することが容易となる。また、アモルファス薄帯が熱処理により結晶化してナノ結晶薄帯511となると、脆化して取り扱い性が低下するが、熱処理工程(ステップS205)の前にブロック化工程(ステップS206B)を行えば、熱処理により得られる生成物は複数のナノ結晶薄帯511が積層・固着したブロック薄帯51となるため、良好な取り扱い性を確保することができる。
【0057】
図11(a)は、図7のフローチャートに示される製造方法により製造されたブロック薄帯の一例を示す平面図である。図11(b)は、図11(a)のブロック薄帯の固着部を説明する図である。図11に示されるブロック薄帯510は、ティース31の先端部41の外側端に切断残部214を有する。切断残部214は、分離切断工程(ステップS206A)において繋ぎ桟212の切断部CPを切断した際の切断残りである。図11に示されるブロック薄帯510は、図4(c)に示されるコアアセンブリ503と同様に、固着部51Bは、スロットSLに対応する空間を形成する本体部11の外側面に、レーザ溶接によって設けられている。
【0058】
図12(a)本発明の他の一実施形態(第2実施形態)に係る磁性コアが備えるコアアセンブリを形成するためのアモルファス薄帯の形状を示す平面図である。図12(b)は、図12(a)のアモルファス薄帯から形成されたブロック薄帯の形状を表す図である。図13(a)は、図12(b)のブロック薄帯を備えるコアアセンブリを表す図である。図13(b)は、図13(a)のコアアセンブリをさらに組み合わせて得られるコアアセンブリを表す図である。
【0059】
本発明の第2実施形態に係るコアアセンブリ90は、ブロック薄帯70がブロック薄帯70を構成するナノ結晶薄帯60の積層方向(Z1-Z2方向)以外の方向にも並んで配置されている。
【0060】
第2実施形態に係るナノ結晶薄帯60は、図12(a)に示されるように、円環が四半分に分割された形状を有する本体部61と、本体部61において円環の周方向に突出する凸部62と、本体部61において円環の周方向に凹む凹部63と、円環の内周側から円環の中心側へと突出するティース64とを備える。凸部62と凹部63とは、他のナノ結晶薄帯60と連結できるように、嵌合可能な形状となっている。
【0061】
複数のナノ結晶薄帯601が厚さ方向(Z1-Z2方向)に沿って積層してなる積層体を固着することにより、固着部70Bを有するブロック薄帯70が得られる。ブロック薄帯70は、他のブロック薄帯70と嵌合できるように、ナノ結晶薄帯60の凸部62に基づく嵌合凸部71と、ナノ結晶薄帯60の凹部63に基づく嵌合凹部72とを有する。
【0062】
本実施形態に係るコアアセンブリ90は、図13(a)に示されるように、4つのブロック薄帯70が嵌合部80Cにおいて嵌合してなり全体形状が円環状のリングアセンブリ80を有する。リングアセンブリ80におけるブロック薄帯70の並び方向はナノ結晶薄帯60の積層方向(Z1-Z2方向)とは異なっている。そして、図13(b)に示されるように、リングアセンブリ80が複数(図13(b)では3つ)積層されて、コアアセンブリ90が構成されている。ブロック薄帯70の固着部70Bに由来するコアアセンブリ90の固着部81B,82B,83Bは、積層方向(Z1-Z2方向)に並んでいるが、コアアセンブリ90はブロック薄帯70ごとに電気的に分離されているので、短絡経路はブロック薄帯70に限定される。このため、コアアセンブリ90を備える磁性コアは渦電流損が大きくなりにくい。
【0063】
図14(a)は、本発明の一実施形態に係る磁性コアを備える磁気部品が用いられた磁気製品の一例であるモータの外観図である。図14(b)は、図14(a)のモータが備える磁気部品の1つであるロータの外観図である。図14(c)は、図14(a)のモータが備える磁気部品の他の1つであるステータの外観図である。図14(a)に示されるように、モータ700において、円筒状の形状を有するモータ本体701から、その底面の中心を通る回転軸702がZ1-Z2方向Z1側に突出している。
【0064】
モータ本体701の内部には、図14(b)に示されるロータ710が、Z1-Z2方向の回転軸を中心として回転可能に配置されている。ロータ710は、底面の一方(Z1-Z2方向Z1側)が開いた中空の円柱形状を有するロータ本体711と、ロータ本体711の他方(Z1-Z2方向Z2側)の底面の中央部に固定された回転軸702とを備える。ロータ本体711の内側壁には、複数の磁石712が周方向に並んで配置されている。
【0065】
ロータ710のロータ本体711と回転軸702との間には円柱状の外形を有するステータ720が配置される。ステータ720は、本発明の一実施形態に係る磁性コア100と、その複数のティース30のそれぞれに巻回されたコイル721とからなる。磁性コア100の貫通孔20には回転軸702が挿通される。磁性コア100のティース30の先端部40のそれぞれに対向するように、ロータ710の磁石712は、ロータ本体711の内側壁に設けられている。
【0066】
本発明の一実施形態に係る磁性コア100は、複数のナノ結晶薄帯511が固着部51Bで固定された積層体であるブロック薄帯51が複数積層されたコアアセンブリ50が含浸コートにより固定されたものであるから、優れた磁気特性を有する。具体的には、コアアセンブリ50が有する複数のブロック薄帯51は、磁気的には接続されているが、電気的には接続されていないため、渦電流損が少ない。また、磁性コア100がコアアセンブリ502(図4(b)参照)を備える場合には、先端部41の最外側面に固着部51Bが設けられていないため、モータ700の磁気回路が安定しやすい。それゆえ、モータ700は回転特性が特に安定すると期待される。
【0067】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。上記の実施形態の説明では、ブロック薄帯51は固着部50Bを備えるが、これに限定されない。ブロック薄帯51はbcc-Fe相を主相とするナノ結晶薄帯511が複数積層された構造を有し、その積層された複数のナノ結晶薄帯511について、中央薄帯の鉄損が表層薄帯の鉄損よりも低ければよい。
【実施例
【0068】
以下、本発明の効果を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)
図5のフローチャートに示される製造方法にしたがって、ブロック化工程(ステップS104)まで行って得られたブロック体380(アモルファス薄帯からなるコア薄帯部300が複数積層されてなる積層体の側面にレーザ溶接により固着部380Bが設けられたもの、図15参照)に熱処理工程(S105)を次のようにして行った。
【0070】
図15は実施例の熱処理工程に用いた熱処理加工装置の説明図である。図15に示されるように、熱処理加工装置397は、ブロック体380の積層方向(Z1-Z2方向)の両側に配置された熱処理装置395、396を備える。熱処理装置395、396は、ブロック体380の温度を制御するためのものであり、それぞれ、ほぼ円柱状の形状を有しコア薄帯部300を直接的に接する熱だめ370、371と、熱だめ370、371を加熱するヒータブロック390、391とを備える。
【0071】
ブロック体380の積層方向(Z1-Z2方向)からみた熱だめ370、371の形状は、ブロック体380の加熱均一性を高める観点から、ブロック体380の形状よりやや大きく、ブロック体380の積層方向の両側の面の全てが熱だめ370、371に接していることが好ましい。さらに、ブロック体380の加熱均一性をより安定的に高める観点から、ブロック体380の外縁を超えた外側の領域にも熱だめ370、371が位置することが好ましい。限定されない例示をすれば、ブロック体380の積層方向(Z1-Z2方向)から見た形状が円形である場合には、熱だめ370、371のブロック体380の積層方向(Z1-Z2方向)から見た形状の内接円の直径φ2が、ブロック体380の円形の直径φ1の102%以上であることが好ましく、105%以上であることがより好ましい。
【0072】
熱処理加工装置397では、熱だめ370、371のXY平面方向の周囲に、熱だめ370、371とブロック体380とからなる積層体から空間を空けて、治具375が設けられている。治具375とヒータブロック390、391との間には断熱材376が設けられて、治具375はヒータブロック390、391から熱的に隔離されている。治具375は、熱だめ370、371とブロック体380とからなる積層体からXY平面方向に放出される熱を熱処理加工装置397の外部に排出するためのものである(放熱機能)。治具375の放熱機能を適切に果たす観点から、治具375とブロック体380とのXY平面方向の離間距離の最大値dは、1cm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましく、2mm以下であること特に好ましい。
【0073】
実施例1では、ブロック体380は、一枚30μmの厚さのアモルファス薄帯を30枚備え、直径35mm、厚さ0.9mmの薄い円柱状の形状を有する。熱だめ370、371は、直径37mmの円からなる底面を有し厚さ10mmの円柱状の形状を有する。治具375はZ1-Z2方向を貫通軸とする内径40mmの貫通孔を有しZ1-Z2方向に分割可能な板状体からなり、この貫通孔の内部に、熱だめ370、371とブロック体380とからなる積層体が配置されている。したがって、治具375とブロック体380とのXY平面方向の離間距離の最大値dは2.5mmであった。
【0074】
熱だめ370、371の最高熱処理温度を450℃としてブロック体380に熱処理を行って、ブロック体380からブロック薄帯51を得た。得られたブロック薄帯51を複数のナノ結晶薄帯511に分離して、所定の積層位置(Z1-Z2方向Z1側から数えて1枚目、7枚目、15枚目、22枚目、30枚目)のナノ結晶薄帯511について、X線回折装置(XRD)により回折スペクトルを測定し、得られた回折スペクトルから、ナノ結晶の結晶粒径(単位:nm)を測定した。また、回折スペクトルを測定したナノ結晶薄帯511について、B-Hアナライザーを用いて、磁束密度の最大値が1.5Tで50Hzで交番する変動磁束(W15/50)を加えて鉄損(単位:W/kg)を測定した。その結果を表1および図16に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
図16に示されるように、15枚目のナノ結晶薄帯511(ブロック薄帯51の厚さ方向(Z1-Z2方向)の中央に位置する中央薄帯)は、1枚目のナノ結晶薄帯511および30枚目のナノ結晶薄帯511(ブロック薄帯51の表層に位置する表層薄帯)よりも、鉄損が低くなった。また、中央薄帯は表層薄帯よりも結晶粒径が小さくなった。この結果は、ブロック体380を構成する全てのアモルファス薄帯の熱処理が適切に進行したことを意味している。熱処理が適切に進行しない場合には、ブロック体380を構成するアモルファス薄帯のうち、中央付近に位置するアモルファス薄帯がナノ結晶化したときに発生する熱が適切にブロック体380から放出されず、中央付近に位置するアモルファス薄帯から得られたナノ結晶薄帯(中央薄帯)の結晶粒径が、表層に位置するナノ結晶薄帯(表層薄帯)よりも大きくなりやすく、中央薄帯の鉄損が表層薄帯よりも大きくなりやすい。
【0077】
(実施例2から実施例5)
ブロック体380におけるアモルファス薄帯の積層数を10枚(実施例2)、20枚(実施例3)、50枚(実施例4)、100枚(実施例5)にして、実施例1と同様の熱処理を行った。その結果を表2から表5および図17から図20に示す。各表に熱だめ370、371の最高熱処理温度を示した。なお、実施例5では、鉄損の測定を行ったが結晶粒径の測定を行わなかったナノ結晶薄帯511があった。
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】
【表5】
【0082】
積層枚数が10枚から100枚のいずれの場合においても、積層枚数が30枚の場合と同様に、中央薄帯は表層薄帯よりも、鉄損が低く、かつ結晶粒径が大きくなった。
【0083】
(比較例1)
実施例1で用いた熱処理加工装置397において、Z1-Z2方向を貫通軸とする内径120mmの貫通孔を有しZ1-Z2方向に分割可能な板状体からなる比較治具を用い、比較治具の貫通孔の内部に、熱だめ370、371とブロック体380とからなる積層体を配置した。したがって、比較治具とブロック体380とのXY平面方向の離間距離の最大値dは42.5mmであった。
【0084】
熱だめ370、371の最高熱処理温度を430℃としてブロック体380に熱処理を行って、ブロック体380からブロック薄帯51を得た。実施例1よりも最高熱処理温度を低く設定したのは、比較治具とブロック体380とのXY平面方向の離間距離の最大値dが実施例1の場合よりも広いので、ブロック体380において生じた熱が相対的に外部に放出されにくいと想定されたためである。得られたブロック薄帯のナノ結晶薄帯511の鉄損および結晶粒径の測定結果を表6および図21に示す。
【0085】
【表6】
【0086】
表6および図21に示されるように、15枚目のナノ結晶薄帯511(中央薄帯)は、ブロック薄帯51の表層に位置する、1枚目のナノ結晶薄帯511および30枚目のナノ結晶薄帯511(表層薄帯)よりも、鉄損が高くなった。また、実施例1のような、中央薄帯が表層薄帯よりも常に結晶粒径が小さくなる傾向はみられなかった。
【0087】
上記の結果に基づき、鉄損および結晶粒径の平均値と、積層枚数および積層厚さとの関係を確認した。その結果を表7ならびに図22および図23に示す。
【0088】
【表7】
【0089】
表7ならびに図22および図23に示されるように、積層枚数が増えたり積層厚さが大きくなったりすると、鉄損や結晶粒径が大きくなる傾向が見られた。
【0090】
また、熱処理温度(熱だめ表面温度)と、積層枚数および積層厚さとの関係を確認した。その結果を表8ならびに図24および図25に示す。
【0091】
【表8】
【0092】
表8ならびに図24および図25に示されるように、積層枚数が増えたり積層厚さが大きくなったりすると、熱暴走を生じさせない観点で設定される熱処理温度(最高熱処理温度)が低下する傾向が見られた。
【符号の説明】
【0093】
10、11、61、310 :本体部
20 :貫通孔
21、320 :貫通部
30、31、64、330 :ティース
40、41、340 :先端部
42、341 :突出部
50、90、501、502、503 :コアアセンブリ
51、52、53、54、55、510、70 :ブロック薄帯
51B、52B、53B、54B、55B、70B、380B、81B、82B、83B :固着部
51C :切断痕
60 :ナノ結晶薄帯
62 :凸部
63 :凹部
71 :嵌合凸部
72 :嵌合凹部
80、81、82、83 :リングアセンブリ
80C :嵌合部
100 :磁性コア
201 :アモルファスロール
202 :アモルファス薄帯
203 :上型
204 :下型
205 :フープ材
206 :ロール材
211 :基材部
212 :繋ぎ桟
213 :位置決め部
214 :切断残部
251 :連成部材
300 :コア薄帯部
350 :抜き加工部
360 :連成積層体
370、371、370A、371A :熱だめ
375 :治具
376 :断熱材
380 :ブロック体
390、391 :ヒータブロック
395、396 :熱処理装置
397 :熱処理加工装置
511、601 :ナノ結晶薄帯
700 :モータ
701 :モータ本体
702 :回転軸
710 :ロータ
711 :ロータ本体
712 :磁石
720 :ステータ
721 :コイル
CP :切断部
SL :スロット
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