(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-24
(45)【発行日】2025-04-01
(54)【発明の名称】複数のビーム形成手法を用いて通信する通信装置、通信方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 7/06 20060101AFI20250325BHJP
H04W 16/28 20090101ALI20250325BHJP
H04W 72/54 20230101ALI20250325BHJP
H04W 72/044 20230101ALI20250325BHJP
【FI】
H04B7/06 956
H04B7/06 958
H04W16/28
H04W72/54
H04W72/044
(21)【出願番号】P 2020191874
(22)【出願日】2020-11-18
【審査請求日】2023-03-31
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅原 雅人
(72)【発明者】
【氏名】柴山 昌也
【審査官】吉江 一明
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-164281(JP,A)
【文献】特開2020-115692(JP,A)
【文献】国際公開第2018/128180(WO,A1)
【文献】米国特許第10700760(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/06
H04W 16/28
H04W 72/54
H04W 72/044
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信装置であって、
相手装置から送信された無線信号を用いて、前記通信装置と前記相手装置との間の伝送路の状態を推定する推定手段と、
前記通信装置が送信した無線信号に基づいて前記相手装置によって決定された、前記通信装置が前記相手装置へ信号を送信する際のビームの特定に関する情報を取得する取得手段と、
前記推定された伝送路の状態に基づいて前記相手装置へ信号を送信する際の第1のビームを形成し、又は、前記取得された情報に基づいて前記相手装置へ信号を送信する際の第2のビーム
であって前記第1のビームよりビーム幅が広い前記第2のビームを形成して、前記相手装置と通信する通信手段と、
前記第1のビームを用いて前記相手装置と通信している間に、当該第1のビームで送信された第1の無線信号についての前記相手装置における第1の無線品質と、前記第2のビームに関連する所定のビームで送信された第2の無線信号についての前記相手装置における第2の無線品質とに基づいて、使用するビームを前記第1のビームから前記第2のビームへ切り替えるように前記通信手段を制御する制御手段と、
を有することを特徴とする通信装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第1の無線品質と前記第2の無線品質との差が所定レベル以下となったことに基づいて、前記第1のビームから前記第2のビームへの切り替えを行うように制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第1の無線品質が前記第2の無線品質を下回ったことに基づいて、前記第1のビームから前記第2のビームへの切り替えを行うように制御を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の通信装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記通信手段によって前記相手装置から受信された前記第1の無線品質に関する報告および前記第2の無線品質に関する報告に基づいて、使用するビームを前記第1のビームから前記第2のビームへ切り替えるか否かを判定する、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記相手装置から取得された前記第1の無線品質と前記第2の無線品質とに基づいて生成され、前記通信手段によって前記相手装置から受信された報告に基づいて、使用するビームを前記第1のビームから前記第2のビームへ切り替えるか否かを判定する、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項6】
前記第1の無線信号は、復調参照信号またはチャネル状態情報参照信号を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項7】
前記第2の無線信号は、チャネル状態情報参照信号を含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項8】
前記通信装置はセルラ通信システムにおける基地局装置であり、前記相手装置はセルラ通信システムにおける端末装置である、ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項9】
前記推定手段は、前記端末装置から送信されるサウンディング参照信号(SRS)に基づいて、前記通信装置と前記相手装置との間の伝送路の状態を推定する、ことを特徴とする請求項8に記載の通信装置。
【請求項10】
前記取得手段は、前記通信装置が前記相手装置へ信号を送信する際のビームの特定に関する情報として、PMI(Precoding Matrix Indicator)を取得する、ことを特徴とする請求項8又は9に記載の通信装置。
【請求項11】
通信装置によって実行される制御方法であって、
前記通信装置は、相手装置から送信された無線信号を用いて推定された前記通信装置と前記相手装置との間の伝送路の状態に基づいて前記相手装置へ信号を送信する際の第1のビームを形成し、又は、前記通信装置が送信した無線信号に基づいて前記相手装置によって決定された、前記通信装置が前記相手装置へ信号を送信する際のビームの特定に関する情報に基づいて前記相手装置へ信号を送信する際の第2のビーム
であって前記第1のビームよりビーム幅が広い前記第2のビームを形成して、前記相手装置と通信するように構成され、
前記制御方法は、前記第1のビームを用いて前記相手装置と通信している間に、当該第1のビームで送信された第1の無線信号についての前記相手装置における第1の無線品質と、前記第2のビームに関連する所定のビームで送信された第2の無線信号についての前記相手装置における第2の無線品質とに基づいて、使用するビームを前記第1のビームから前記第2のビームへ切り替えるように制御を行うことを含む、ことを特徴とする制御方法。
【請求項12】
コンピュータを、請求項1から10のいずれか1項に記載の通信装置が有する各手段として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアンテナを用いてビームを形成する通信装置の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信の技術分野において、スループットの向上や通信容量の拡大のために、複数のアンテナを用いて空間リソースを有効活用する技術が知られている。この技術は、例えば、多入力多出力(MIMO)やアンテナダイバーシティを含む。
【0003】
セルラ通信システムでは、基地局装置が、端末装置から送信された上りリンクの信号(例えば、SRS(Sounding Reference Signal)やDMRS(Demodulation Reference Signal))に基づいて伝送路の状態を推定することができる。そして、基地局装置は、その推定値に基づいてアンテナウェイトを調整し、形状が細く、かつ指向方向における利得を十分に高くしたビームを形成して端末装置と通信することもできる。この手法では、上述のように、基地局装置が、指向方向における利得が十分に高く、端末装置に適したビームを形成することができるため、高いスループットで端末装置にデータを送信することができる。この手法は、周波数分割複信(FDD)システムでも利用可能であるが、時分割複信(TDD)システムにおいて特に有用である。
【0004】
また、セルラ通信システムでは、端末装置が基地局装置から送信されたCSI-RS(Channel State Information Reference Signal)を観測して、そのCSI-RSに基づいて下りリンクの伝送路の状態を推定しうる。そして、端末装置は、事前に用意された複数のアンテナウェイトパターンにそれぞれ対応する複数のPMI(Precoding Matrix Indicator)の値のうちの1つをその推定結果に基づいて特定し、特定したPMIの値を基地局装置へ通知する。基地局装置は、通知されたPMIに対応するアンテナウェイトを用いてビームを形成し、端末装置と通信しうる。PMIを用いる技術では、端末装置に伝送路推定をさせて、その伝送路推定値に基づいて大まかに適したビームを選択させ、その選択結果のみをフィードバックさせることにより、少ないフィードバックでビームを設定することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基地局装置が直接伝送路を推定してビームを形成する手法では、端末装置の位置に応じた固有のビームが形成されることにより、高いスループットを得ることができる。一方で、この手法では、端末装置の方向に向けてビームの利得を高くするためにビーム幅が狭く形成される。このため、端末装置が移動することによって、ビームの方向と端末装置の位置の不一致が生じ、スループットも低下してしまいうる。これに対して、端末装置がPMIの値をフィードバックする手法では、端末装置の方向に大まかに向けたビームが使用されるため、最大スループットが相対的に低いが、端末装置の移動に対するスループットの劣化の程度は大きくない。
【0006】
本発明は、複数のアンテナを用いた送信手法を状況に応じて適切に選択して使用する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による通信装置は、相手装置から送信された無線信号を用いて、前記通信装置と前記相手装置との間の伝送路の状態を推定する推定手段と、前記通信装置が送信した無線信号に基づいて前記相手装置によって決定された、前記通信装置が前記相手装置へ信号を送信する際のビームの特定に関する情報を取得する取得手段と、前記推定された伝送路の状態に基づいて前記相手装置へ信号を送信する際の第1のビームを形成し、又は、前記取得された情報に基づいて前記相手装置へ信号を送信する際の第2のビームであって前記第1のビームよりビーム幅が広い前記第2のビームを形成して、前記相手装置と通信する通信手段と、前記第1のビームを用いて前記相手装置と通信している間に、当該第1のビームで送信された第1の無線信号についての前記相手装置における第1の無線品質と、前記第2のビームの決定のために所定のビームで送信された第2の無線信号についての前記相手装置における第2の無線品質とに基づいて、使用するビームを前記第1のビームから前記第2のビームへ切り替えるように前記通信手段を制御する制御手段と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数のアンテナを用いた送信手法を状況に応じて適切に選択して使用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】基地局装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図4】基地局装置によって実行される処理の流れの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
(システム構成)
図1に、本実施形態に係る無線通信システムの構成例を示す。無線通信システムは、例えばロングタームエボリューション(LTE)や第5世代(5G)のセルラ通信システムであり、複数のアンテナを有する基地局装置101と、1つ以上のアンテナを有する端末装置102とを含んで構成される。なお、これは一例であり、複数のアンテナを有する通信装置が、その複数のアンテナを用いてビームを形成し、1つ以上のアンテナを有する相手装置との間で無線通信する任意の無線通信システムにおいて、以下の議論を適用することができる。
【0012】
本無線通信システムでは、基地局装置は、端末装置との間の伝送路の状態の推定値に基づいて、ビームを形成して、基地局装置へ無線信号(無線フレーム)を送信することができる。なお、本実施形態及び添付の特許請求の範囲を通じて、基地局装置と端末装置との間の伝送路の状態とは、基地局装置が有する複数のアンテナのそれぞれと、端末装置が有する1つ以上のアンテナのそれぞれとの間の伝送路の状態を示す。例えば、基地局装置がアンテナをN本有し、端末装置がアンテナをM本有する場合、N×M個の伝送路の状態が推定される。基地局装置は、例えば、伝送路の状態の推定値に基づいて、複数のアンテナのそれぞれにおいて送信対象の無線フレームに乗じるウェイトを計算し、そのウェイトを乗じた送信対象の無線フレームを複数のアンテナから並行して送出する。なお、基地局装置は、例えば、端末装置が複数のアンテナを有する場合には、複数のデータストリームを並行して端末装置へ送信することができる。すなわち、基地局装置と端末装置との間で、双方が複数のアンテナを用いて、複数のストリームを送受信するMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)技術を使用することが可能である。この手法では、同じ周波数帯及び時間において、空間的に複数のデータストリームが多重されて送信されうる。この場合、例えば、送信アンテナ数×受信アンテナ数のアンテナウェイト行列(プリコーディング行列)に、各データストリームを示すベクトルを乗じることにより、各送信アンテナで送信すべきデータストリームのベクトルが生成される。そして、基地局装置(送信側)の複数のアンテナのそれぞれが、そのベクトルのうちの対応する要素を送信する。これによれば、一例において、端末装置(受信側)の各アンテナで受信された信号から、送信された複数のストリームを高品質に抽出することが可能となる。
【0013】
基地局装置は、上述のように、端末装置から送信されたSRS(Sounding Reference Signal)などの無線信号に基づいて伝送路の状態を推定し、その伝送路推定値に基づいてプリコーディング行列を算出することができる。また、基地局装置が使用可能なプリコーディング行列の候補を事前に複数個用意しておき、その候補のいずれを基地局装置が使用すべきかを端末装置が決定してもよい。この場合、端末装置は、その決定したビームを特定する情報をPMI(Precoding Matrix Indicator)として基地局装置に通知し、基地局装置は、そのPMIに基づいて使用するプリコーディング行列を決定することができる。
【0014】
基地局装置が伝送路の状態を推定して形成する第1のビームは、端末装置が無線信号を送信した時点での伝送路の状態に最も適したビームである。しかしながら、この第1のビームは、ビーム幅が狭いビームであり、端末装置が移動した場合等の伝送路の状態の変化に対して脆弱であり、そのような変化があった場合に急峻にスループットが劣化してしまいうる。一方、端末装置がプリコーディング行列の候補の中から使用されるべきプリコーディング行列を決定することによって得られる第2のビームは、その決定の時点において、候補の中では最も適しているが、第1のビームと比して、ほとんどの場合で性能が不十分である。すなわち、PMIを用いる手法は、フィードバック量を減らすために限定的な数のプリコーディング行列の候補のみが用意されているため、第2のビームは、端末装置における伝送路の状態に大まかに適しているが、最適ではない。このため、第2のビームは、一般的に、スループットなどの品質において第1のビームより劣る。一方で、第2のビームは、伝送路の状態に大まかに適するように設定されるため、端末装置における伝送路の状態が変化したとしても、その変化が大幅でない限りは十分な利得を得られる傾向がある。
【0015】
本実施形態では、このようなビームの特徴に基づいて、適切にビームを切り替えて使用する技術を提供する。なお、以下では、第1のビームと第2のビームとを切り替えて端末装置と通信可能な基地局装置について説明するが、これは一例であり、例えば、端末装置が同様の処理を実行してもよいし、他の無線通信システムにおいて同様の処理が実行されてもよい。
【0016】
本実施形態では、基地局装置は、第1のビームを形成して端末装置と通信を行っている間に、DMRS(Demodulation Reference Signal)やCSI-RS(Channel State Information Reference Signal)などの第1の無線信号を、その第1のビームを用いて送信する。また、基地局装置は、例えば端末装置がPMIを決定するために、(相対的にビーム幅の広い)所定のビームを用いて、CSI-RSなどの第2の無線信号を送信しうる。そして、端末装置は、第1のビームで送信された第1の無線信号を受信して、第1の無線信号に関する第1の無線品質を測定する。また、端末装置は、所定のビームで送信された第2の無線信号を受信して、その第2の無線信号に関する第2の無線品質を測定する。これらの無線品質は、例えば、信号対干渉及び雑音比(SINR)でありうるが、例えば信号対雑音比(SNR)、受信信号強度であってもよい。そして、基地局装置は、第1の無線品質と第2の無線品質とに基づいて、使用するビームをSRSに基づく第1のビームからPMIに基づく第2のビームへ切り替えるかを判定する。基地局装置は、切り替えを行うと判定した場合には第1のビームを使用せずに第2のビームを使用して、切り替えを行わないと判定した場合には第1のビームの使用を継続して、端末装置へデータを送信する。
【0017】
一例において、基地局装置は、第1の無線品質と第2の無線品質との差が所定レベル以下となったことに基づいて、使用するビームを第1のビームから第2のビームへ切り替えると判定しうる。例えば、第1の無線品質が第2の無線品質を下回ったことに基づいて、使用するビームを第1のビームから第2のビームへ切り替えると判定しうる。なお、第1のビームは、一般にビーム幅が狭く、端末装置が移動することなどによって伝送路の状態が変化する場合に、端末装置への信号送信において得られる利得が急峻に劣化することが想定される。このため、第1の無線品質の劣化の兆候が見られる程度に第1の無線品質と第2の無線品質のレベル差が接近した場合に、使用するビームを第2のビームに切り替えるような制御が実行されるようにしうる。すなわち、第1の無線品質が第2の無線品質よりも高い状態において、使用されるビームが第1のビームから第2のビームに切り替えられてもよい。また、第1の無線品質のレベルから第2の無線品質のレベルを減じた値が負の所定値を下回ってから、使用されるビームが第1のビームから第2のビームに切り替えられてもよい。
【0018】
なお、端末装置は、第1の無線品質に関する報告と、第2の無線品質に関する報告とを、基地局装置へ送信してもよい。そして、基地局装置は、それらの報告値に基づいて、上述のような第2のビームへの切り替えを行うかの判定を行いうる。また、端末装置は、第1の無線品質と第2の無線品質とに基づいて生成した情報を、基地局装置へ報告してもよい。例えば、第1の無線品質と第2の無線品質との差分を示す情報が生成され、基地局装置へ通知されうる。一例において、その差分は、16段階で示され、4ビットの情報として報告されうる。なお、この段階の数やビット数は一例であり、8段階が3ビットで示されてもよいし、64段階が6ビットで示されてもよい。また、この段階は、一例において1dB刻みでありうるが、2dB刻みや、0.5dB刻み、又は、事前に定められた一様でない刻み幅など、任意の刻み幅を有してもよい。
【0019】
なお、基地局装置は、例えば、第2のビームを用いて通信中に、端末装置からのSRSを受信し、そのSRSに基づいて第1のビームを形成したと仮定した場合の無線品質を算出し、その無線品質と、第2のビームを用いた通信において端末装置が測定した無線品質とを比較して、使用するビームを第1のビームに切り替えるかの判定を行ってもよい。例えば、基地局装置は、SRSに基づいてパスロスなどの伝送路の状態を推定し、第1のビームを形成した場合に得られる利得と、基地局装置が使用可能な送信電力とに基づいて、端末装置における信号に関する第1の受信電力を推定しうる。そして、基地局装置は、端末装置から、第2のビームを使用して送信した信号に関する第2の受信電力の報告を受信し、第1の受信電力が所定レベルを超えて第2の受信電力を上回る場合に、第1のビームを使用すると判定してもよい。なお、受信電力は無線品質の一例であり、他の指標が用いられてもよい。また、基地局装置は、第1の受信電力が、所定期間にわたって、所定レベルを超えて第2の受信電力を上回る場合に、第1のビームを使用すると判定してもよい。このように、第2のビームから第1のビームへの切り替えも、上述の手法と同様にして行われてもよい。
【0020】
上述のような処理によれば、SRSに基づく第1のビームと、PMIに基づく第2のビームとを、端末装置における伝送路の状態に基づいて適切に切り替えて使用することが可能となる。例えば、端末装置の移動などによる伝送路の状態の変化に応じて第1のビームで得られる利得が減少し、十分なスループットが得られなくなることが想定される場合に、相対的に安定性の高い第2のビームを使用するようにすることができる。これにより、通信の安定性を増しながら、端末装置が静止している等により伝送路の状態が安定している場合には、より高い利得の第1のビームを使用することにより、システム全体のスループットを向上させることができる。
【0021】
(装置構成)
続いて、上述のような基地局装置のハードウェア構成例について
図2を用いて説明する。基地局装置は、一例において、プロセッサ201、ROM202、RAM203、記憶装置204、及び通信回路205を含んで構成される。プロセッサ201は、汎用のCPU(中央演算装置)や、ASIC(特定用途向け集積回路)等の、1つ以上の処理回路を含んで構成されるコンピュータであり、ROM202や記憶装置204に記憶されているプログラムを読み出して実行することにより、基地局装置の全体の処理や、上述の各処理を実行する。ROM202は、基地局装置が実行する処理に関するプログラムや各種パラメータ等の情報を記憶する読み出し専用メモリである。RAM203は、プロセッサ201がプログラムを実行する際のワークスペースとして機能し、また、一時的な情報を記憶するランダムアクセスメモリである。記憶装置204は、例えば着脱可能な外部記憶装置等によって構成される。通信回路205は、例えば、LTEや5Gの無線通信用の回路によって構成される。なお、
図2では、1つの通信回路205が図示されているが、基地局装置は、例えば、LTE用および5G用の無線通信回路および有線通信用の有線通信回路などの、複数の通信回路を有しうる。なお、基地局装置は、使用可能な複数の周波数帯域のそれぞれについて別個の通信回路205を有してもよいし、それらの周波数帯域の少なくとも一部に対して共通の通信回路205を有してもよい。
【0022】
図3に、本実施形態に係る基地局装置の機能構成例を示す。基地局装置は、その機能構成例として、例えば、通信部301、伝送路推定部302、候補行列保持部303、情報取得部304、及び、ビーム形成制御部305を有する。なお、
図3は、基地局装置が有する機能のうちの、本実施形態の説明に関連する部分のみを示しており、基地局装置は、一般的なセルラ通信システムの基地局装置としての機能を当然に有する。また、基地局装置は、
図3に示した機能及び基地局装置としての汎用機能以外の機能を有してもよい。また、
図3の機能ブロックは概略的に示したものであり、それぞれの機能ブロックが一体化されて実現されてもよいし、さらに細分化されてもよい。
図3の各機能は、例えば、プロセッサ201がROM202や記憶装置204に記憶されているプログラムを実行することにより実現されてもよいし、例えば通信回路205の内部に存在するプロセッサが所定のソフトウェアを実行することによって実現されてもよい。
【0023】
通信部301は、端末装置との間の伝送路の状態に基づいてビームを形成して、端末装置と無線通信を行う。通信部301は、例えば、端末装置へ送信する変調後の信号に対して送信アンテナごとの所定のウェイトを乗じて並行して送信することにより、所定の方向に利得の高いビームを形成して送信するように構成される。通信部301は、複数の信号ストリームのそれぞれに別個のアンテナウェイトを乗じて、別個の方向に向けて送信することにより、複数の信号ストリームを並行して送信することができる。この場合、各アンテナからは、複数の信号ストリームの成分が加算された波形が送出される。
【0024】
伝送路推定部302は、端末装置から受信した上りリンクの無線信号に基づいて、伝送路推定を行う。伝送路推定部302は、例えば、端末装置から受信したSRSに基づいて伝送路推定を行い、その結果を下りリンクの伝送路の推定値として保持する。なお、SRSは、上りリンクの無線信号の一例であり、これ以外の無線信号によって伝送路推定が行われてもよい。候補行列保持部303は、事前に定められたプリコーディング行列の複数の候補を保持する。なお、複数の候補のそれぞれにはインジケータが付されており、端末装置からのPMIによって使用すべきプリコーディング行列が指定される。
【0025】
通信部301は、伝送路推定部302によって推定された伝送路の状態に基づいてプリコーディング行列を生成して、その行列による第1のビームを形成して、端末装置と通信することができる。また、通信部301は、候補行列保持部303が保持しているプリコーディング行列の候補の中から、端末装置からのPMIによって指定されたプリコーディング行列を選択して、その行列による第2のビームを形成して、端末装置と通信することができる。
【0026】
情報取得部304は、第1のビームと第2のビームとのいずれを使用するかを決定するための情報を取得する。例えば、情報取得部304は、第1のビームを用いて通信中に、通信部301を介して端末装置から、第1のビームで送信された第1の無線信号についての端末装置における第1の無線品質を特定可能な情報を取得する。また、情報取得部304は、第2のビームに関連する(例えば第2のビームの決定のために用いられる)所定のビームで送信された第2の無線信号についての端末装置における第2の無線品質を取得する。第1の無線品質及び第2の無線品質は、例えば、信号対干渉及び雑音比(SINR)でありうる。また、第1の無線信号は、例えば、端末装置へ宛てたユーザデータの直前に送信されるDMRSでありうる。また、第1の無線信号は、例えば第1のビームを用いて送信される、端末装置に固有のCSI-RSであってもよい。また、さらに別の信号が第1の無線信号として用いられてもよい。第2の無線信号は、例えば、セル固有(セル内の端末装置に共通)のCSI-RSでありうる。なお、CSI-RSは、例えば第2のビームの選択のための所定のビームで、CSI-RSのポート数に基づいてリソースにマッピングされ、所定周期で送信される。なお、所定のビームは、SRS等に基づいて形成される端末装置固有のビームよりビーム幅の広いビームであり、無指向性ビームであってもよい。
【0027】
一例において、情報取得部304は、第1の無線品質と第2の無線品質とに基づいて生成された1つの情報を取得してもよい。この1つの情報は、例えば、第1の無線品質と第2の無線品質との差分値でありうる。第1の無線品質から第2の無線品質を減じた値が、例えば、0dB未満、0dB以上1dB未満、1dB以上2dB未満、・・・、13dB以上14dB未満、14dB以上、の16段階で、4ビットの情報として、端末装置から基地局装置へ通知されうる。なお、これは一例であり、例えば2dB刻みなどのステップ幅で差分値が表現されてもよい。また、5ビットを用いて32段階の情報が通知されてもよいし、3ビットを用いて8段階の情報のみが通知されてもよい。また、差分値のみが通知されるようにしてもよいし、差分値と共に第1の無線品質と第2の無線品質とのいずれか一方が通知されるようにしてもよい。例えば、端末装置は、第1の無線品質と差分値とを基地局装置へ通知しうる。なお、通知される情報については、基地局装置が端末装置を設定してもよい。例えば、接続を確立する際のRRCメッセージによって、差分値のみの通知、第1の無線品質又は第2の無線品質と差分値との通知、第1の無線品質と第2の無線品質との通知、のいずれを実行すべきかを示す設定情報が端末装置へ通知されうる。
【0028】
なお、情報取得部304は、例えば、端末装置から送信された信号を受信し、その信号に基づいて上述の第1の無線品質や第2の無線品質に対応する無線品質の推定値を算出してもよい。例えば、情報取得部304は、端末装置の各アンテナから送信された信号が基地局装置の各アンテナに到来した際の振幅変動や位相回転量を測定する。そして、情報取得部304は、第1のビーム及び所定のビームに対応するアンテナウェイトに対応して各アンテナから送出されるべき信号に、端末装置の1つのアンテナから送出された信号に基づいて各アンテナにおいて測定された振幅変動及び位相回転量を乗じる。そして、その乗算の結果を全て加算することにより、その端末装置の1つのアンテナにおいて信号がどのように受信されるかを推定することができる。このようにすることで、情報取得部304は、端末装置からの報告を受信することなく、自装置内で第1の無線品質や第2の無線品質を推定することができる。
【0029】
ビーム形成制御部305は、情報取得部304によって取得された第1の無線品質と第2の無線品質、またはその差分値に基づいて、第1のビームと第2のビームとのいずれを用いるかを決定する。そして、ビーム形成制御部305は、その決定に基づいてビームを形成するように通信部301を制御する。ビーム形成制御部305は、例えば、初期接続時には第1のビームを使用するように制御を行う。そして、ビーム形成制御部305は、例えば、第1の無線品質と第2の無線品質のレベルの差が所定レベル以下となったことに基づいて、第1のビームから第2のビームへ、通信に使用するビームを切り替える。一例として、ビーム形成制御部305は、第1の無線品質のレベルが、第2の無線品質のレベルを下回ったことに基づいて、第1のビームから第2のビームへ、通信に使用するビームを切り替えうる。
【0030】
(処理の流れ)
続いて、本実施形態に係る基地局装置によって実行される処理の流れの例について、
図4を用いて説明する。本処理は、例えば、プロセッサ201がROM202や記憶装置204に記憶されているプログラムを実行することにより実現されうる。なお、基地局装置が使用するビームを切り替える基準については上述の通りであるため、ここでは基地局装置が実行する処理の流れの例を概説するにとどめ、その詳細については繰り返さない。
【0031】
基地局装置は、まず、端末装置との間で接続を確立して第1のビームで通信を開始する(S401)。基地局装置は、例えば、接続を確立した端末装置にSRSを送信させ、そのSRSを測定した結果に基づいて第1のビームを形成して、端末装置へのユーザデータの送信を実行する。そして、基地局装置は、例えば、第1のビームを用いて、ユーザデータの送信の直前にDMRSやCSI-RSなどの第1の無線信号を送信し(S402)、端末装置に第1の無線信号に関する第1の無線品質を測定させる。また、基地局装置は、第1のビームを用いた通信中であっても、PMIに基づく第2のビームに関連する所定のビームを用いて、周期的なCSI-RSの送信などにより、第2の無線信号を送出する(S403)。なお、基地局装置は、端末装置と接続しない状態においても所定のビームでCSI-RSを定期的に送出する。また、基地局装置は、上述のように、端末装置に対してユーザデータを送信する前にDMRSを送信する。このように、S401~S403の順序は一例に過ぎず、これらの手順は異なる順序で実行されてもよい。
【0032】
その後、基地局装置は、第1の無線信号に関する第1の無線品質と、第2の無線信号に関する第2の無線品質とについての報告を端末装置から受信する(S404)。この報告は、例えば、第1の無線品質と第2の無線品質とを示す情報を含む報告であってもよいし、第1の無線品質と第2の無線品質とのレベル差を示す情報(及び必要に応じて第1の無線品質又は第2の無線品質を示す情報)を含む報告であってもよい。なお、基地局装置は、端末装置から送信された上りリンク信号を用いて第1の無線品質と第2の無線品質を推定することができる場合等では、S402~S403の処理は、上りリンクの無線信号の測定及び無線品質の算出と置き換えられてもよい。
【0033】
その後、基地局装置は、第1の無線品質と第2の無線品質との関係に基づいて、使用するビームを第1のビームから第2のビームに切り替えるかを判定する(S405)。そして、基地局装置は、第1のビームから第2のビームへ切り替えないと判定した場合(S405でNO)には、処理をS401に戻し、第1の無線品質が、第2の無線品質に近接する程度に劣化しているかの監視を継続する。一方、基地局装置は、第1のビームから第2のビームへ切り替えると判定した場合(S405でYES)、使用するビームを第2のビームへ切り替えて、端末装置へ信号(ユーザデータ)を送信する(S406)。なお、基地局装置は、CSI-RSを定期的に送信しており、それを観測した端末装置が下りリンクの伝送路の状態を推定し、推定結果に基づいて特定したPMIを基地局装置へ通知する。基地局装置は、端末装置から受信したPMIによって指定されたプリコーディング行列を用いた第2のビームで通信を行う。
【0034】
基地局装置は、その後、第2のビームへの切り替え後に、再度、端末装置の伝送路の状態が安定したと判定されたことに応じて、第1のビームへ切り替えてもよい。基地局装置は、第1のビームへの切り替えがなされた場合には、再度、
図4の処理を実行しうる。
【0035】
以上のような処理により、基地局装置は、端末装置からの無線信号に基づく伝送路の状態の推定値から生成されるプリコーディング行列による第1のビームと、端末装置が複数の候補の中から選択した結果に応じたプリコーディング行列による第2のビームとを、端末装置の状況に応じて適切に切り替えて使用することが可能となる。これにより、端末装置が移動している場合等の伝送路の状況の変化が大きい場合には第2のビームを使用し、伝送路の状況の変化が小さい場合には第1のビームを使用して通信を行うことで、状況に適した安定的かつ高品質な通信が可能となる。
【0036】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。