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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-24
(45)【発行日】2025-04-01
(54)【発明の名称】電動機
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/10 20060101AFI20250325BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20250325BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20250325BHJP
   H05K 5/02 20060101ALI20250325BHJP
   H01F 30/10 20060101ALI20250325BHJP
   H01F 41/00 20060101ALI20250325BHJP
   H01F 27/02 20060101ALI20250325BHJP
   H02K 15/14 20250101ALI20250325BHJP
【FI】
H02K5/10
B05D7/14 P
B05D7/24 302T
H05K5/02 L
H01F30/10 Z
H01F41/00 B
H01F27/02 Z
H01F30/10 S
H02K15/14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021008498
(22)【出願日】2021-01-22
(65)【公開番号】P2022112636
(43)【公開日】2022-08-03
【審査請求日】2023-12-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000203977
【氏名又は名称】日鉄テックスエンジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】松坂 一志
(72)【発明者】
【氏名】岡林 清志
(72)【発明者】
【氏名】能登 宏
(72)【発明者】
【氏名】増田 匡一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直哉
(72)【発明者】
【氏名】相馬 祐介
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-049282(JP,A)
【文献】特開平07-024408(JP,A)
【文献】特開2010-288350(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0201472(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
H01F27/00-27/06
30/00-38/12
38/16
41/00-41/04
41/08
41/10
H02K5/00-5/26
15/00-15/02
15/04-15/16
H05K5/00-5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機であって、
金属製の筐体を有する電動機本体と、前記電動機本体に設けられた出力軸とを備え、
前記筐体は、固定子を収納する略筒状のハウジングと、前記ハウジングの端部に設けられ、前記出力軸を挿通、支持するカバーとを備え、
前記筐体の表面及び前記筐体に設けられたフィンの表面にポリウレア層が設けられることを特徴とする電動機。
【請求項2】
前記ポリウレア層は、前記ハウジングと前記カバーとの継ぎ目を覆うように設けられることを特徴とする請求項1に記載の電動機。
【請求項3】
前記出力軸の表面にはポリウレア層が設けられていないことを特徴とする請求項1又は2に記載の電動機。
【請求項4】
前記筐体に固定台が設けられており、
前記固定台を含む前記筐体の表面に前記ポリウレア層が設けられることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項5】
製鉄所の熱延ラインに用いられる電動機であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
産業界で使用される電動機や変圧器といった電気機器の設置環境は広範囲に渡り、水、雰囲気ガス、ミスト、粉塵等が存在する環境下で使用されることがある。従来、電気機器の表面塗装は、シンナー系やポリウレタン系が主流であり、その塗膜の厚さや強度、更には伸縮性に課題がある。そのため、水、雰囲気ガス、ミスト、粉塵等の侵入(以下、浸水等という)、粉塵等の衝突、浸食の影響で塗膜が損傷しやすく、錆からの腐食進行が速くなるおそれがある。
【0003】
特許文献1には、液体タンクの補修方法として、塗装部分にプライマーを塗布し、次いで噴射可能な瞬間硬化型樹脂(例えばポリウレア樹脂)を吹付け塗装することが開示されている。
特許文献2には、高温材料を移動させるための電磁リフタにおいて、コイルが、例えばポリウレアまたは他の同等の樹脂などの防水製品によるスプレー塗装によって外側および内側から絶縁されることが開示されている。
特許文献3には、CNT塗布型融雪・凍結防止用平面状ヒーターにおいて、保護塗料であるポリウレタン-ポリウレア樹脂を塗装することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-101527号公報
【文献】特表2017-519701号公報
【文献】特開2019-125488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1乃至3はいずれも、電動機又は変圧器である電気機器において浸水等、粉塵等の衝突、腐食、錆への対策を採るものではない。
【0006】
本発明は、電動機における防水、防塵、防食、防錆の効果を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電動機は、金属製の筐体を有する電動機本体と、前記電動機本体に設けられた出力軸とを備え、前記筐体は、固定子を収納する略筒状のハウジングと、前記ハウジングの端部に設けられ、前記出力軸を挿通、支持するカバーとを備え、前記筐体の表面及び前記筐体に設けられたフィンの表面にポリウレア層が設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電動機における防水、防塵、防食、防錆の効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る電動機を示す図である。
図2】各種塗装の伸び率と引張り強さとの関係の例を示す特性図である。
図3】ポリウレア層の密着性について説明するための図である。
図4】実施形態に係る別のタイプの電動機を示す図である。
図5】間欠運転時の塗膜の温度変化の例を示す特性図である。
図6】電動機内のコイルカバーの腐食穿孔の補修のためにポリウレアを塗布する例を説明するための図である。
図7】実施形態に係る変圧器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
[第1の実施形態]
図1に、実施形態に係る電気機器である電動機100を示す。本実施形態では、製鉄所において常に水を浴びて運転している熱延ラインに用いられる電動機100を対象とする。既述したように、水、雰囲気ガス、ミスト、粉塵等が存在する環境下で使用される電動機100では、浸水等、粉塵等の衝突、浸食の影響で塗膜が損傷しやすく、錆からの腐食進行が速いという課題がある。また、電動機100に継ぎ目や孔がある場合には、浸水等しやすくなる。
【0011】
そこで、本実施形態では、以下に詳述するように、電動機100の電動機本体101の筐体101aの表面にポリウレア層106を設ける。
【0012】
図1に示すように、電動機100は、鋼板等からなる金属製の筐体101aを有する電動機本体101と、電動機本体101に設けられた出力軸102とを備える。筐体101aは、固定子を収納する略筒状のハウジング103と、ハウジング103の両端に着脱自在に設けられ、出力軸102を挿通、支持するカバー104とを備え、全体として略円柱形状を有する。また、ハウジング103の下部には、電動機100を固定するための固定台105が設けられる。
【0013】
このような電動機100において、固定台105を含む筐体101aの表面に、略一定の厚みのポリウレア層106が設けられる。なお、固定台105や筐体101aの表面に、後述する継ぎ目107や孔と比較して大きな凹凸がある場合、この凹凸に倣うようにして略一定の厚みのポリウレア層106が設けられるようにする。
また、筐体101aの表面には、ハウジング103とカバー104との継ぎ目107が形成されるが、ポリウレア層106は、継ぎ目107を覆うように設けられる。すなわち、ハウジング103側のポリウレア層106と、カバー104側のポリウレア層106とが、継ぎ目107を跨いで連続的につながるようになっている。なお、ここでは継ぎ目107を例としたが、筐体101aの表面に孔がある場合、ポリウレア層106が孔を覆うように設けられる。
【0014】
一方、出力軸102の表面にはポリウレア層は設けられていない。出力軸102は、電動機本体101に対して回転するものであり、出力軸102の表面に筐体101a側から連続的につながるポリウレア層があると、出力軸102の回転が妨げられることになるからである。なお、電動機本体101内の軸受と出力軸102との間にはグリスが充填されており、電動機本体101と出力軸102との間からの浸水等は生じない。
【0015】
ここで、ポリウレアは、イソシアネートとポリアミンの化学変化によって形成された樹脂化合物であり、防水、防塵、防食、防錆に効果を有する。
筐体101aの表面に、ポリウレア層106を形成するために、塗装を兼ねてポリウレアを刷毛塗りする。このとき、筐体101aの表面の継ぎ目107を覆うようにポリウレアを連続塗布する。なお、筐体101aの表面にポリウレアを刷毛塗りする際に、出力軸102をウエスで被覆してポリウレアがつかないようにする等の処置を施してもよい。また、ポリウレアを刷毛塗りするとしたが、吹き付けるようにしてもよい。
【0016】
図2に、各種塗装の伸び率[%]と引張り強さ[MPa]との関係の例を示す。ポリウレアは、エポキシ樹脂の強い強度(耐久性)とポリウレタンの高い伸び率(弾性)との中間的位置にあり、ポリウレア層は、柔軟性、伸縮性を備えた可撓性の高い物質特性を有する塗膜といえる。
【0017】
また、ポリウレア層は、耐熱温度が-30℃~120℃と幅広く、熱延ラインに用いられる電動機100への適用にも適している。
【0018】
また、ポリウレア層は、高い密着性を保持することができる。ポリウレア層の密着性を検討した。図3に示すように、直径30mmの孔301を形成した鉄板302に、孔301を覆って塞ぐかたちでポリウレアを1mm厚で刷毛塗りし、ポリウレア層303を形成した。図3(a)に示すように、ポリウレア層303が設けられた側から油圧により加圧を行い(以下、外側加圧と呼ぶ)、また、(b)に示すように、ポリウレア層303が設けられた側と反対側から油圧による加圧を行った(以下、内側加圧と呼ぶ)。
図3(b)に示す内側加圧では、圧力が高くなると徐々にポリウレア層303の膨張が進み、0.24MPaを境に、図中の点線で囲む領域で剥離が始まって、膨張が一気に加速して接着力を失う結果になった。なお、0.24MPa付近までにポリウレア層303に膨張が生じても、ポリウレア層303の変形量で接着力をカバーし、その後、剥離に繋がっても、高い可撓性によりポリウレア層303が破壊することはなかった。
一方、図3(a)に示す外側加圧では、ポリウレア層303が鉄板302に押し付けられるかたちになり、0.70MPaまで全く膨張せず、高い密着性を保持する結果になった。これより、ポリウレアを塗布する金属面を挟んで一方の側の圧力が他方の側の圧力よりも高くなる状況になる場合、当該金属面の高圧になる側の面にポリウレアを塗布するのが好適である。電動機100の筐体101aには外圧しかかからないことを考えると、継ぎ目や孔のある筐体101aの表面に防水、防塵、防食、防錆のためのポリウレア層106を設けることは有効といえる。
【0019】
以上のように、電動機100の電動機本体101の筐体101aの表面にポリウレア層106を設けることにより、防水、防塵、防食、防錆の効果を高めることができる。腐食、錆の発生は、水に限らず粉塵、雰囲気のガス、ミスト(含海水)等でも進行する経験から、多種の環境下でポリウレアを塗布した鉄板を放置した防食、防錆実験を試みた。例えば酸ミスト環境下にポリウレアを塗布した供試鉄板に置き、ポリウレア層に地金まで届く疵をいれて、4カ月放置した。4カ月放置した後、ポリウレア層を剥いで視認したところ、疵まわりに錆の広がりが見られたが、ポリウレア層下での防錆には問題ないがことが確認された。このように、熱延ラインに用いられる電動機100において、ポリウレア層による防水、防塵対策だけでなく、防食、防錆対策での有効性を確認することができた。
【0020】
なお、新品の電動機に対してポリウレアを塗布することに限られず、使用中の電動機に対してポリウレアを塗布するようにしてもよい。電動機では限界設計による構造の小型薄肉化が進み、補修で耐久力を補完する技術、つまり設置後数年経たないと出ない症状に対する保全技術が期待されている。例えば使用中の電動機の筐体の表面に腐食穿孔がある場合、その補修のためにポリウレアを塗布する。このように腐食穿孔に対して、現場でポリウレアの塗布以外の治工具を必要とせず、腐食欠落部の蓋養生を短工期にて施工することが可能である。
【0021】
また、図1に示す電動機100は、電動機の一例に過ぎず、電動機の形状やサイズ等は限定されるものではない。
図4に、実施形態に係る別のタイプの電動機400を示す。なお、図1に示す電動機100と同様の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。電動機400では、電動機本体101の筐体101aに、冷却のためのフィン401が設けられている。この場合、フィン401の表面にも、略一定の厚みのポリウレア層106が設けられるようにする。フィン401の表面にポリウレア層106が設けられることにより、例えば自冷風による粉塵等の衝突によるフィン401の損傷を防止することができる。
【0022】
ポリウレア塗装の塗膜を1mmとする場合と、従来から使われているエポキシ防蝕塗装の塗膜を0.5mmとする場合とで、電動機の40分稼働、20分停止の間欠運転を繰り返し、塗膜の温度変化の追従性を捉えることで熱伝導の差異を確認した。図5に示すように、ポリウレア塗装及びエポキシ防蝕塗装は、間欠運転負荷に即応する格好で温度差なくシンクロしており、熱伝導に大きな差がない結果になった。フィン401でも温度推移の傾向は変わらず、熱伝導だけでなく熱放散でも遜色ない知見が得られた。
【0023】
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、電動機100の電動機本体101の筐体101aの表面にポリウレアを塗布する形態を説明したが、他の金属面にポリウレアを塗布するようにしてもよい。
図6を参照して、電動機内のコイルカバーの腐食穿孔の補修のためにポリウレアを塗布する例を説明する。電動機内には、固定子枠601で支持される固定子602と、出力軸603につながる回転子604とが設置される。固定子602の周囲には、固定子鉄心602aに巻回されたコイル602bを保護するためのコイルカバー605が配置される。
【0024】
コイルカバー605に腐食穿孔606が生じた場合、その補修のために、腐食穿孔606を含む領域に、腐食穿孔606を覆って塞ぐかたちでポリウレアを塗布してポリウレア層607を形成する。
腐食穿孔606が大きい場合(例えば直径30mmを超えるような場合)、腐食穿孔606を当て板608で塞いだ状態にしてから、当て板608を含む領域にポリウレアを塗布してポリウレア層607を形成するようにしてもよい。
なお、コイルカバー605を例示したが、電動機内の風向風量調整用の仕切り板等、耐振強度を必要としない部材の腐食穿孔等の補修を目的として、ポリウレアを塗布することが可能である。
【0025】
電動機内のコイルカバーや風向風量調整用の仕切り板等に腐食穿孔が生じた場合、取付状態のままでの補修は手入れ粉や溶接スパッタ等で絶縁物始めとして品質への影響が大きく、また、取り外し新製は工程に影響を与え、補修解体時以外での損傷把握が困難である。そのため、従来の補修では、短工期及び補修周期長期化の実現は厳しい。それに対して、本実施形態のようにポリウレアを塗布する補修により、現場でポリウレアの塗布以外の治工具を必要とせず、腐食欠落部の蓋養生を短工期にて施工することが可能である。
【0026】
[第3の実施形態]
上記実施形態では電動機を対象としたが、本発明を適用可能な電気機器はこれに限られず、例えば変圧器を対象としてもよい。図7に、実施形態に係る電気機器の例である変圧器700を示す。図7に示すように、変圧器700は、油入式の変圧器であり、鋼板等からなる金属製の筐体701aを有する変圧器本体701と、変圧器本体701の側部に接続されたラジエータ702と、変圧器本体701の上部に接続されたコンサベータ703とを備える。
【0027】
このような変圧器700において、変圧器本体701の筐体701aの表面、ラジエータ702の表面、コンサベータ703の表面に、略一定の厚みのポリウレア層704が設けられる。この場合も、筐体701aの表面、ラジエータ702の表面、コンサベータ703の表面に大きな凹凸があれば、この凹凸に倣うようにして略一定の厚みのポリウレア層704が設けられるようにする。また、筐体701aの表面、ラジエータ702の表面、コンサベータ703の表面に継ぎ目や孔があれば、ポリウレア層704は、継ぎ目や孔を覆うように設けられる。
【0028】
以上、本発明を実施形態と共に説明したが、上記実施形態は本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0029】
100:電動機、101:電動機本体、101a:筐体、102:出力軸、106:ポリウレア層、107:継ぎ目、401:フィン、605:コイルカバー、607:ポリウレア層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7