(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-24
(45)【発行日】2025-04-01
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
G03G 9/09 20060101AFI20250325BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20250325BHJP
G03G 9/087 20060101ALI20250325BHJP
【FI】
G03G9/09
G03G9/097 368
G03G9/097 365
G03G9/087 331
(21)【出願番号】P 2021064685
(22)【出願日】2021-04-06
【審査請求日】2024-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 陽介
(72)【発明者】
【氏名】山下 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田村 順一
(72)【発明者】
【氏名】石上 恒
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-067527(JP,A)
【文献】特開2020-020866(JP,A)
【文献】特開2009-132911(JP,A)
【文献】特開2009-215554(JP,A)
【文献】特開2017-173808(JP,A)
【文献】特開平02-024367(JP,A)
【文献】特開2013-203818(JP,A)
【文献】特開2012-063487(JP,A)
【文献】特開2012-053321(JP,A)
【文献】特開昭60-026951(JP,A)
【文献】米国特許第05889181(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08-9/097
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性ポリエステル、炭化水素系ワックス、および銅フタロシアニン組成物を含有するトナー粒子を有するトナーであって、
該非晶性ポリエステルの水酸基価が40mgKOH/g以上90mgKOH/g以下であり、
該銅フタロシアニン組成物は、
C.I.ピグメントブルー15:3と銅フタロシアニン誘導体とを含有しており、該銅フタロシアニン誘導体が、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とするトナー。
【化1】
[式中、R
1~R
8は、水素原子、スルホ基、アルキル基、または、スルホン酸アルキルエステル基を表し、
R
1~R
8の少なくとも1つがスルホ基であり、
R
1~R
8の少なくとも1つがアルキル基またはスルホン酸アルキルエステル基であり、該アルキル基および該スルホン酸アルキルエステル基に含まれるアルキル基が炭素数5以上40以下のアルキル基である。]
【請求項2】
前記炭化水素系ワックスの融点が70℃以上130℃以下である請求項1に記載のトナー。
【請求項3】
金属塩を含有する請求項1または2に記載のトナー。
【請求項4】
前記
C.I.ピグメントブルー15:3と前記銅フタロシアニン誘導体との混合割合は、質量比で20:1~100:1である請求項1~3のいずれか1項に記載のトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式、静電記録方式、静電印刷方式、トナージェット方式に用いられるトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真方式のフルカラー複写機が広く普及し、印刷市場への適用も進んでいる。印刷市場へ求められる性能として高画質化があげられ、色域の拡大や色味が変わらないという安定性も重要となっている。色域拡大のため着色剤である顔料の検討が行われており、シアン顔料も例外ではない。現在、シアントナー用の着色剤としては、顔料の一種である銅フタロシアニンが好適に用いられている。銅フタロシアニンは、コストおよび耐光性に関して優れた性能を有している。
しかしながら、銅フタロシアニンは、強い結晶性を有し、銅フタロシアニンの結晶の粒子間の凝集力が強い傾向にあるため、有機溶剤および溶融樹脂などの媒体中での分散が不十分になりやすい。銅フタロシアニンの結晶の粒子の分散性が不十分である場合、トナーの着色力の低下や帯電性の低下を引き起こしやすい。
特許文献1には、トナー粒子中に銅フタロシアニン誘導体を含有させ、トナー粒子中での顔料分散性を向上させる技術が開示されている。
しかし、銅フタロシアニンに官能基を付加した誘導体では、分散性向上による色域拡大などを図ることはできるが、帯電維持性にまつわる色味安定性に関して改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記の如き問題を解決し、色域拡大と色味安定性の両立を可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、非晶性ポリエステル、炭化水素系ワックス、および銅フタロシアニン組成物を含有するトナー粒子を有するトナーであって、
該非晶性ポリエステルの水酸基価が40mgKOH/g以上90mgKOH/g以下であり、
該銅フタロシアニン組成物は、C.I.ピグメントブルー15:3と銅フタロシアニン誘導体とを含有しており、該銅フタロシアニン誘導体が、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とするトナーに関する。
【0006】
【化1】
[式中、R
1~R
8は、水素原子、スルホ基、アルキル基、または、スルホン酸アルキルエステル基を表し、
R
1~R
8の少なくとも1つがスルホ基であり、
R
1~R
8の少なくとも1つがアルキル基またはスルホン酸アルキルエステル基であり、該アルキル基および該スルホン酸アルキルエステル基に含まれるアルキル基が炭素数5以上40以下のアルキル基である。]
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、色域拡大と色味安定性を両立するトナーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明において好ましいトナーの構成を詳述する。
【0009】
本発明におけるトナーは、非晶性ポリエステル、炭化水素系ワックス、および銅フタロシアニン組成物を含有するトナー粒子を有するトナーであって、該非晶性ポリエステルの水酸基価が40mgKOH/g以上90mgKOH/g以下であり、該銅フタロシアニン組成物は、銅フタロシアニンと銅フタロシアニン誘導体とを含有しており、該銅フタロシアニン誘導体が、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とするものである。
【0010】
【化2】
[式中、R
1~R
8は、水素原子、スルホ基、アルキル基、または、スルホン酸アルキルエステル基を表し、
R
1~R
8の少なくとも1つがスルホ基であり、
R
1~R
8の少なくとも1つがアルキル基またはスルホン酸アルキルエステル基であり、該アルキル基および該スルホン酸アルキルエステル基に含まれるアルキル基が炭素数5以上40以下のアルキル基である。]
【0011】
本発明者らは、銅フタロシアニンにスルホ基と、アルキル基、または、スルホン酸アルキルエステル基とを同時に有する誘導体を用いることで、色域拡大と色味安定性の両立を達成できることを見出した。メカニズムの詳細は明らかになっていないが、以下のように推察される。
【0012】
本発明における銅フタロシアニン誘導体はスルホ基を有することが重要である。スルホ基が、結着樹脂である非晶性ポリエステルの水酸基部位と相互作用することで、電子状態に影響がおよび、吸光に変化が起きると考えている。本発明者らが検討を重ねた結果、スルホ基を有した誘導体が非晶性ポリエステル樹脂と相互作用し十分な効果を発現することがわかった。
【0013】
一方、スルホ基を有することで水分吸着性が増し、帯電維持性が悪化するという課題が生じる。本発明者らは、銅フタロシアニン誘導体にスルホ基と同時にアルキル基またはスルホン酸アルキルエステル基を有することで、帯電維持性悪化の課題を同時に解決できることを見出した。こちらに関してもメカニズムは明らかになっていないが、以下のように推定している。
【0014】
本発明におけるトナーは、炭化水素系ワックスを含有することが重要である。一般的に非晶性ポリエステルより、炭化水素系ワックスの方が極性基がなく電荷漏洩しにくく、帯電維持性が高い。この炭化水素系ワックスと銅フタロシアニン誘導体のアルキル基が相互作用することで、スルホ基だけを有する場合と比較して帯電安定性が増したと推測している。
【0015】
以下に本発明において好ましいトナーと誘導体の構成について詳述する。
【0016】
<トナーの原料>
本発明で使用するトナー用結着樹脂及びトナー粒子の原材料について説明する。
【0017】
<着色剤(銅フタロシアニン)>
本発明に係るトナー粒子には、着色剤として銅フタロシアニンの結晶が含有される。安定性や色域の関係で、C.I.ピグメントブルー15:3、またはC.I.ピグメントブルー15:4であることが好ましい。
【0018】
トナー粒子中の上記銅フタロシアニンの結晶の含有量は、トナー粒子中の結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
【0019】
<銅フタロシアニン誘導体>
本発明では、色域と色味安定性の向上のため、上記スルホ基と、アルキル基またはスルホン酸アルキルエステル基を有する銅フタロシアニン誘導体を用いることが重要である。スルホ基が結着樹脂である非晶性ポリエステルの水酸基部位と相互作用することで、電子状態に影響がおよび、吸光波長に変化が起きると考えている。また同時にアルキル基、または、スルホン酸アルキルエステル基を有することで、ワックスと相互作用することで帯電性維持性が向上すると推察される。
【0020】
スルホ基、アルキル基、または、スルホン酸アルキルエステル基の置換基を導入した銅フタロシアニン誘導体を含有する顔料は特に限定しないが、例えば以下の製法によって製造することができる。
【0021】
無水フタル酸と尿素化合物と金属銅を反応させることによって得られる合成銅フタロシアニンと、スルホン酸化合物またはアルキル由来の置換基をもつ銅フタロシアニン誘導体を混合してから、湿式又は乾式で粉砕することにより顔料化する方法が挙げられる。また、市販の無置換の銅フタロシアニン顔料、例えば、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4などに、スルホ基、アルキル基、または、スルホン酸アルキルエステル基の置換基をもつ銅フタロシアニン誘導体を、湿式又は乾式で混合処理することにより得ることができる。
【0022】
ここで、無置換の銅フタロシアニン顔料と、スルホ基、アルキル基、または、スルホン酸アルキルエステル基の置換基をもつ銅フタロシアニン誘導体との混合割合は、質量比で20:1~100:1であることが好ましい。
【0023】
また、顔料の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、2質量部以上30質量部以下であることが好ましい。
【0024】
また、スルホ基、アルキル基、または、スルホン酸アルキルエステル基の置換基をもつ銅フタロシアニン誘導体における、スルホ基、アルキル基、または、スルホン酸アルキルエステル基の置換基の平均導入量は、0.5以上4.0以下であることが好ましい。
【0025】
スルホ基、アルキル基、または、スルホン酸アルキルエステル基の「置換基の平均導入量」とは、該式(1)における置換基数の平均値を意味し、蛍光X線計測(XRF)、飛行時間型質量分析計(TOF-MS)などの分析手段により測定することができる。
【0026】
<非晶性ポリエステル樹脂>
本発明のトナーに用いられる結着樹脂としては、非晶性ポリエステル樹脂が重要である。水酸基部位を有することで、銅フタロシアニン誘導体のスルホ基部位と相互作用し電子状態が変化、吸光が変わり色域の拡大が達成できる。
【0027】
ポリエステル樹脂のポリエステルユニットに用いられるモノマーとしては、多価アルコール(2価もしくは3価以上のアルコール)と、多価カルボン酸(2価もしくは3価以上のカルボン酸)、その酸無水物又はその低級アルキルエステルとが用いられる。ここで、分岐ポリマーを作製する場合には、結着樹脂の分子内において部分架橋することが有効であり、そのためには、3価以上の多官能化合物を使用することが好ましい。従って、ポリエステルユニットの原料モノマーとして、3価以上のカルボン酸、その酸無水物又はその低級アルキルエステル、及び/又は3価以上のアルコールを含むことが好ましい。
【0028】
ポリエステル樹脂のポリエステルユニットに用いられる多価アルコールモノマーとしては、以下の多価アルコールモノマーを使用することができる。
【0029】
2価のアルコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、水素化ビスフェノールA、また式(A)で表わされるビスフェノール及びその誘導体;
【0030】
【化3】
(式中、Rはエチレンまたはプロピレン基であり、x及びyはそれぞれ0以上の整数であり、かつ、x+yの平均値は0以上10以下である。)
【0031】
式(B)で示されるジオール類;
【0032】
【0033】
3価以上のアルコール成分としては、例えば、ソルビトール、1,2,3,6-ヘキサンテトロール、1,4-ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、グリセロール、2-メチルプロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5-トリヒドロキシメチルベンゼンが挙げられる。これらのうち、好ましくはグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールが用いられる。これらの2価のアルコール及び3価以上のアルコールは、単独であるいは複数を併用して用いることができる。
【0034】
ポリエステル樹脂のポリエステルユニットに用いられる多価カルボン酸モノマーとしては、以下の多価カルボン酸モノマーを使用することができる。
【0035】
2価のカルボン酸成分としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、マロン酸、n-ドデセニルコハク酸、イソドデセニルコハク酸、n-ドデシルコハク酸、イソドデシルコハク酸、n-オクテニルコハク酸、n-オクチルコハク酸、イソオクテニルコハク酸、イソオクチルコハク酸、これらの酸の無水物及びこれらの低級アルキルエステルが挙げられる。これらのうち、マレイン酸、フマル酸、テレフタル酸、n-ドデセニルコハク酸が好ましく用いられる。
【0036】
3価以上のカルボン酸、その酸無水物又はその低級アルキルエステルとしては、例えば、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、1,2,5-ヘキサントリカルボン酸、1,3-ジカルボキシル-2-メチル-2-メチレンカルボキシプロパン、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8-オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、エンポール三量体酸、これらの酸無水物又はこれらの低級アルキルエステルが挙げられる。これらのうち、特に1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、すなわちトリメリット酸又はその誘導体が安価で、反応制御が容易であるため、好ましく用いられる。これらの2価のカルボン酸等及び3価以上のカルボン酸は、単独であるいは複数を併用して用いることができる。
【0037】
ポリエステル樹脂を主成分とするならば、他の樹脂成分を含有するハイブリッド樹脂であっても良い。例えば、ポリエステル樹脂とビニル系樹脂とのハイブリッド樹脂が挙げられる。ハイブリッド樹脂のような、ビニル系樹脂やビニル系共重合ユニットとポリエステル樹脂の反応生成物を得る方法としては、ビニル系樹脂やビニル系共重合ユニット及びポリエステル樹脂のそれぞれと反応しうるモノマー成分を含むポリマーが存在しているところで、どちらか一方もしくは両方の樹脂の重合反応を行う方法が好ましい。
【0038】
例えば、ポリエステル樹脂成分を構成するモノマーのうちビニル系共重合体と反応し得るものとしては、例えば、フタル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸の如き不飽和ジカルボン酸又はその無水物等が挙げられる。ビニル系共重合体成分を構成するモノマーのうちポリエステル樹脂成分と反応し得るものとしては、カルボキシル基又はヒドロキシ基を有するものや、アクリル酸もしくはメタクリル酸エステル類が挙げられる。
【0039】
また、本発明では結着樹脂として、ポリエステル樹脂を主成分とするならば、上記のビニル系樹脂以外にも、従来より結着樹脂として知られている種々の樹脂化合物を併用することができる。このような樹脂化合物としては、例えばフェノール樹脂、天然樹脂変性フェノール樹脂、天然樹脂変性マレイン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリアミド樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、ポリビニルブチラール、テルペン樹脂、クマロインデン樹脂、石油系樹脂等が挙げられる。
【0040】
本発明の非晶性ポリエステル樹脂は、水酸基価が40mgKOH/g以上90mgKOH/g以下であることが重要である。水酸基価がこの範囲にあるとき、銅フタロシアニン誘導体が有するスルホ基との相互作用が強まり、本発明の効果を発揮できる。40mgKOH/g未満の場合、樹脂との相互作用が弱まり、効果のある色域拡大を達成できない。90mgKOH/gより大きい場合、樹脂そのものの水分吸着性が上がり、帯電維持性が目標を満足できない。
【0041】
また、本発明の結着樹脂は、低分子量の結着樹脂Lと高分子量の結着樹脂Hを混ぜ合わせて使用しても良い。高分子量の結着樹脂Hと低分子量の結着樹脂Lの含有比率(H/L)は質量基準で10/90以上60/40以下であることが、低温定着性と耐ホットオフセット性の観点から好ましい。
【0042】
高分子量の結着樹脂Hのピーク分子量は10000以上20000以下であることが、耐ホットオフセット性の観点から好ましい。また、高分子量の結着樹脂の酸価は2mgKOH/g以上20mgKOH/g以下であることが、高温高湿環境下における帯電安定性の観点から好ましい。
【0043】
低分子量の結着樹脂Lの数平均分子量は3000以上7000以下であることが、低温定着性の観点から好ましい。また、低分子量の結着樹脂の酸価は10mgKOH/g以下であることが、高温高湿環境下における帯電安定性の観点から好ましい。
【0044】
<離型剤>
離型剤としては、炭化水素系ワックスを添加することが重要である。炭化水素系ワックスが銅フタロシアニン誘導体のアルキル基部位と相互作用することで電荷漏洩パスを減らし、電荷維持性が向上すると推測される。低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、アルキレン共重合体、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックスなどの炭化水素系ワックスがあげられる。これらのワックスの中でも、トナーの着色力および適度な帯電性の観点から、フィッシャートロプシュワックスが好ましい。
【0045】
トナー粒子中のワックスの含有量は、トナー粒子中の結着樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上20質量部以下であることが好ましい。また、電荷漏洩しにくい構成として、分子量が大きいことがあげられる。示差走査熱量分析装置(DSC)で測定される昇温時の吸熱曲線において、30℃以上200℃以下の範囲に存在する最大吸熱ピークのピーク温度が、70℃以上130℃以下であることが好ましい。
【0046】
<荷電制御剤>
本発明に係るトナー粒子には、必要に応じて、荷電制御剤を含有させてもよい。荷電制御剤としては、無色でトナーの帯電スピードが速く、一定の帯電量を安定して保持できる観点から、芳香族カルボン酸の金属化合物が好ましい。
【0047】
ネガ系荷電制御剤としては、例えば、サリチル酸金属化合物、ナフトエ酸金属化合物、ジカルボン酸金属化合物、スルホン酸またはカルボン酸を側鎖に持つ高分子型化合物、スルホン酸塩またはスルホン酸エステル化物を側鎖に持つ高分子型化合物、カルボン酸塩またはカルボン酸エステル化物を側鎖に持つ高分子型化合物、ホウ素化合物、尿素化合物、ケイ素化合物、カリックスアレーンなどが挙げられる。
【0048】
荷電制御剤は、トナー粒子に対して内添してもよいし、外添してもよい。
【0049】
トナー粒子中の荷電制御剤の含有量は、トナー粒子中の結着樹脂100質量部に対して、0.2質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0050】
<金属塩>
本発明におけるトナーには金属塩を有することが好ましい。本発明の誘導体が有するスルホ基部位は、金属塩と相互作用することができると考えられる。樹脂と相互作用するだけでなく金属塩とも相互作用することで、吸光が変化しやすいと推測され、より色域が広がる。
【0051】
本発明における金属塩としては、炭酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどからなる金属塩が挙げられる。屈折率が非晶性ポリエステルに近しいという点から、炭酸カルシウムがより好ましく、より色域拡大につながる。トナー粒子中の金属塩の含有量は、トナー粒子中の結着樹脂100質量部に対して、0.2質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0052】
<外添剤>
本発明のトナーには、必要に応じて、流動性の向上および摩擦帯電量の調整の観点から、外添剤を含有させてもよい。
【0053】
外添剤としては、例えば、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン(チタニア)、酸化アルミニウム(アルミナ)、チタン酸ストロンチウムなどの無機微粒子が好ましい。無機微粒子は、シラン化合物、シリコーンオイルまたはそれらの混合物などの疎水化剤で疎水化処理されていることが好ましい。
【0054】
外添剤の比表面積は、10m2/g以上50m2/g以下であることが、外添剤の埋め込みの抑制の観点から好ましい。
【0055】
また、トナー中の外添剤の含有量は、トナー粒子100質量部に対して、0.1質量部以上5.0質量部以下であることが好ましい。
【0056】
トナー粒子と外添剤との混合には、例えば、ヘンシェルミキサーなどの混合機を用いることができる。
【0057】
<キャリア>
本発明のトナーは、長期にわたり安定した画像を得る観点から、磁性キャリアと混合して、二成分系現像剤のトナーとして用いることが好ましい。
【0058】
磁性キャリアとしては、例えば、表面を酸化した鉄粉、未酸化の鉄粉、鉄、リチウム、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、銅、亜鉛、コバルト、マンガン、希土類などの金属粒子、上記金属の合金粒子、上記金属の酸化物粒子、フェライトなどの磁性体、磁性体と、磁性体を分散した状態で保持するバインダー樹脂とを含有する磁性体分散樹脂キャリア(いわゆる樹脂キャリア)などが挙げられる。
【0059】
<トナー用混練物の製造方法>
トナー粒子の製造方法としては、トナー粒子中の銅フタロシアニンの結晶性の制御および分散性の向上の観点から、溶融混練法を採用することが好ましい。
【0060】
溶融混練法とは、結着樹脂、着色剤(本発明の場合、銅フタロシアニン)、銅フタロシアニン誘導体、及びワックス、必要に応じて、ワックス分散剤などを含有する混合物を溶融および混練して溶融混練物を得る工程(以下、単に「溶融混練工程」ともいう。)を含む、トナー粒子の製造方法である。
【0061】
以下、溶融混練法を用いたトナー粒子の製造手順について説明する。なお、以下の説明において、「顔料」は、銅フタロシアニンと銅フタロシアニン誘導体からなる銅フタロシアニン組成物の場合を含む。
【0062】
本発明の効果を発揮するうえで、顔料分散工程(銅フタロシアニン組成物分散工程)を含むことが好ましい。顔料と金属塩、非晶性ポリエステル樹脂を均一に混合したのちに混練を実施することが望ましい。この工程を経ることで、非晶性ポリエステル中に分散した銅フタロシアニン組成物分散体が得られ、銅フタロシアニン誘導体が非晶性ポリエステル樹脂の水酸基部位、金属塩と相互作用しやすくなる。
【0063】
上記均一に混合する工程として原料混合工程を説明する。原料混合工程では、顔料分散体の原料として、少なくとも顔料、金属塩、非晶性ポリエステル樹脂を所定量秤量して配合し、混合する。混合装置の一例としては、ダブルコン・ミキサー、V型ミキサー、ドラム型ミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー等がある。
【0064】
更に、上記で配合し、混合した顔料分散体原料を溶融混練機に投入し、非晶性ポリエステル樹脂の溶融粘度が6000Pa・sec以下となる温度で溶融混練することで、顔料と金属塩が均一に分散され、顔料分散体が得られる。該溶融混練工程では、例えば、ニーダー、加圧ニーダー、バンバリィミキサー等のバッチ式練り機や、連続式の練り機を用いることができる。
【0065】
トナー粒子の原料混合工程では、トナー粒子を構成する材料として、例えば、結着樹脂および着色剤(銅フタロシアニン)または上記顔料分散体、ならびに、ワックス、必要に応じて、荷電制御剤などの成分を所定量秤量して配合し、混合する。混合装置としては、例えば、ダブルコン・ミキサー、V型ミキサー、ドラム型ミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、メカノハイブリッド(日本コークス工業(株)製)などが挙げられる。
【0066】
次に、混合した材料を溶融混練して、結着樹脂中に着色剤(銅フタロシアニン)などを分散させる。溶融混練工程では、加圧ニーダー、バンバリィミキサーなどのバッチ式練り機や、連続式の練り機を用いることができる。連続生産できる優位性から、1軸または2軸押し出し機が主流となっている。例えば、KTK型2軸押し出し機((株)神戸製鋼所製)、TEM型2軸押し出し機(東芝機械(株)製)、PCM混練機((株)池貝製)、2軸押し出し機(ケイ・シー・ケイ社製)、コ・ニーダー(ブス社製)、ニーデックス(日本コークス工業(株)製)などが挙げられる。
【0067】
溶融混練することによって得られる混練物は、2本ロールなどで圧延したり、冷却工程で水などによって冷却したりしてもよい。
【0068】
混練物の冷却物は、粉砕工程で所望の粒径にまで粉砕される。粉砕工程では、粉砕機で粗粉砕した後、さらに、微粉砕機で微粉砕する。粗粉砕を行う粉砕機としては、例えば、クラッシャー、ハンマーミル、フェザーミルなどが挙げられる。微粉砕を行う微粉砕機としては、例えば、クリプトロンシステム(川崎重工業(株)製)、スーパーローター(日清エンジニアリング(株)製)、ターボ・ミル(ターボ工業(株)製)、エアージェット方式による微粉砕機などが挙げられる。
【0069】
その後、必要に応じて、分級機や篩分機を用いて分級し、トナー粒子を得る。分級機や篩分機としては、例えば、慣性分級方式のエルボージェット(日鉄鉱業(株)製)、遠心力分級方式のターボプレックス(ホソカワミクロン(株)製)、TSPセパレーター(ホソカワミクロン(株)製)、ファカルティ(ホソカワミクロン(株)製)などが挙げられる。
【0070】
その後、必要に応じて、例えば、トナーに流動性を付与したり、帯電性を適度にしたりするために、無機微粒子や樹脂粒子などの外添剤を加えてトナー粒子と混合(外添)することにより、トナーを得る。混合装置としては、撹拌部材を有する回転体と、撹拌部材と間隙を有して設けられた本体ケーシングとを有する混合装置によって行うことができる。
【0071】
混合装置としては、例えば、ヘンシェルミキサー(三井鉱山(株)製)、スーパーミキサー((株)カワタ製)、リボコーン((株)大川原製作所製)、ナウターミキサー、タービュライザー、サイクロミックス、ノビルタ(ホソカワミクロン(株)製)、スパイラルピンミキサー(太平洋機工(株)製)、レーディゲミキサー((株)マツボー製)などが挙げられる。特に、外添剤とトナー粒子とを均一に混合し、外添剤の凝集体をほぐすためには、ヘンシェルミキサー(三井鉱山(株)製)が好適である。
【0072】
混合条件としては、例えば、処理量、撹拌軸回転数、撹拌時間、撹拌羽根形状、槽内温度などが挙げられる。
【0073】
添加剤の粗大凝集物が、得られたトナー中に遊離して存在する場合などには、必要に応じて、篩分機などを用いてもよい。
【0074】
<測定、解析>
次に、本発明で使用する測定手法、解析手法について説明する。
【0075】
<樹脂の水酸基価の測定方法>
水酸基価とは,試料1gをアセチル化するとき、ヒドロキシ基(水酸基)と結合した酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムの質量[mg]である。結着樹脂の水酸基価はJIS K0070-1992に準じて測定される。具体的には、以下の手順に従って測定する。
【0076】
(1)試薬の準備
特級無水酢酸25gをメスフラスコ100mLに入れ、ピリジンを加えて全量を100mLにし、十分に振りまぜてアセチル化試薬を得る。得られたアセチル化試薬は、湿気、炭酸ガスなどに触れないように、褐色びんにて保存する。
【0077】
フェノールフタレイン1.0gをエチルアルコール(95体積%)90mLに溶かし、イオン交換水を加えて100mLとし、フェノールフタレイン溶液を得る。
【0078】
特級水酸化カリウム35gを20mLの水に溶かし、エチルアルコール(95体積%)を加えて1Lとする。炭酸ガスなどに触れないように、耐アルカリ性の容器に入れて3日間放置後、濾過して、水酸化カリウム溶液を得る。得られた水酸化カリウム溶液は、耐アルカリ性の容器に保管する。上記水酸化カリウム溶液のファクターは、0.5mol/L塩酸25mLを三角フラスコに取り、上記フェノールフタレイン溶液を数滴加え、上記水酸化カリウム溶液で滴定し、中和に要した上記水酸化カリウム溶液の量から求める。上記0.5mol/L塩酸は、JIS K8001-1998に準じて作成されたものを用いる。
【0079】
(2)操作
(A)本試験
粉砕した結着樹脂の試料1.0gを200mL丸底フラスコに精秤し、これに上記アセチル化試薬5.0mLをホールピペットを用いて正確に加える。この際、試料がアセチル化試薬に溶解しにくいときは、特級トルエンを少量加えて溶解させる。
【0080】
フラスコの口に小さな漏斗を載せ、約97℃のグリセリン浴中にフラスコ底部約1cmを浸して加熱する。このとき、フラスコの首の温度が浴の熱を受けて上昇するのを防ぐため、丸い穴をあけた厚紙をフラスコの首の付根にかぶせることが好ましい。
【0081】
1時間後、グリセリン浴からフラスコを取り出して放冷する。放冷後、漏斗から水1mLを加えて振り動かして無水酢酸を加水分解する。さらに、完全に加水分解するため、再びフラスコをグリセリン浴中で10分間加熱する。放冷後、エチルアルコール5mLで漏斗およびフラスコの壁を洗う。
【0082】
指示薬として上記フェノールフタレイン溶液を数滴加え、上記水酸化カリウム溶液で滴定する。なお、滴定の終点は、指示薬の薄い紅色が約30秒間続いたときとする。
【0083】
(B)空試験
結着樹脂の試料を用いない以外は、上記操作と同様の滴定を行う。
【0084】
(3)得られた結果を下記式に代入して、水酸基価を算出する。
A=[{(B-C)×28.05×f}/S]+D
【0085】
ここで、A:水酸基価(mgKOH/g)、B:空試験の水酸化カリウム溶液の添加量(mL)、C:本試験の水酸化カリウム溶液の添加量(mL)、f:水酸化カリウム溶液のファクター、S:試料(g)、D:結着樹脂の酸価(mgKOH/g)である。
【0086】
<ワックスの融点(最大吸熱ピークのピーク温度)の測定>
ワックスの最大吸熱ピークのピーク温度は、示差走査熱量分析装置(商品名:Q1000、TA Instruments社製)を用いてASTM D3418-82に準じて測定する。装置検出部の温度補正は、インジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正については、インジウムの融解熱を用いる。
【0087】
具体的には、試料約5mgを精秤し、これをアルミニウム製のパンの中に入れ、リファレンスとして空のアルミニウム製のパンを用い、測定温度範囲30℃~200℃の間で、昇温速度10℃/分で測定を行う。測定においては、一度200℃まで昇温させ、続いて30℃まで降温し、その後に再度昇温を行う。この2度目の昇温過程での30℃以上200℃以下の範囲におけるDSC曲線の最大の吸熱ピークを示す温度を、ワックスの融点(最大吸熱ピークのピーク温度)とする。
【0088】
<銅フタロシアニン誘導体のスルホ基>
スルホ基の平均導入量はSとCuの存在量比S/Cuで決定する。蛍光X線の測定は、JIS K 0119-1969に準ずるが、具体的には以下の通りである。
【0089】
測定装置としては、波長分散型蛍光X線分析装置「Axios」(PANalytical社製)と、測定条件設定及び測定データ解析をするための付属の専用ソフト「SuperQ ver.4.0F」(PANalytical社製)を用いる。尚、X線管球のアノードとしてはRhを用い、測定雰囲気は真空、測定径(コリメーターマスク径)は27mm、測定時間10秒とする。また、検出器は、プロポーショナルカウンタ(PC)またはシンチレーションカウンタ(SC)など、公知の検出器を使用することが可能である。顔料サンプルを測定し、S量とCu量を検出し、その比S/Cuで平均導入量を決定する。
【0090】
<銅フタロシアニン誘導体のアルキル基、スルホン酸アルキルエステル基に含まれるアルキル基>
アルキル部位の長さに関してはrapifleX MALDI PharmaPulse(BRUKER社製)を用い、TOF-MSにより質量を分析し、銅フタロシアニンおよびスルホ基量を差し引いたところから測定を行う。サンプルをチャンバーに入れ、測定を行う。イオン化はN2レーザーを用いて、加速電圧±20kVで行った。質量校正は、スルホ基を蛍光X線で定量し、TOF-MSで全体分子量を測定後、スルホ基と銅フタロシアニンの分子量を引くことで、アルキル基の平均導入量を算出する。
【実施例】
【0091】
<銅フタロシアニン顔料1の製造例>
・顔料(C.I.ピグメントブルー15:3) 100質量部
・銅フタロシアニン誘導体1 5質量部
(スルホ基の平均導入量が2.0、アルキル基の平均導入量が2.0、アルキル部炭素数15)
・テトラヒドロフラン 100質量部
上記処方を直径1mmのジルコニアビーズ30質量部とともにペイントシェーカーで5時間混合したのち、金属メッシュで濾過してジルコニアビーズを取り除いた。
【0092】
得られた銅フタロシアニン顔料の分散液に対して、ロータリーエバポレータを用いてテトラヒドロフランの蒸留除去を行い、さらに、50℃の減圧乾燥炉で乾燥して、銅フタロシアニン組成物である銅フタロシアニン顔料1を得た。構成を表1に示す。
【0093】
<銅フタロシアニン顔料2~14の製造例>
銅フタロシアニン誘導体の構成を表1の通り変更した以外は、銅フタロシアニン顔料1と同様にして、銅フタロシアニン顔料2~14を製造した。
【0094】
【0095】
<非晶性ポリエステル1の製造例>
・ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン 75質量部
・テレフタル酸 25質量部
・アジピン酸 8質量部
・チタンテトラブトキシド 0.5質量部
上記処方をガラス製4Lの4つ口フラスコに入れ、温度計、撹拌棒、コンデンサーおよび窒素導入管を取り付け、マントルヒーター内においた。
【0096】
次に、フラスコ内を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら徐々に昇温し、200℃の温度で撹拌しつつ、4時間反応させた(第1反応工程)。
【0097】
その後、無水トリメリット酸1.2質量部(0.006mol)を添加し、180℃で1時間反応させ(第2反応工程)、非晶性ポリエステル1を得た。非晶性ポリエステル1の水酸基価は、55mgKOH/gであった。
【0098】
<非晶性ポリエステル2~7の製造例>
ポリオキシプロピレン(2.2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、テレフタル酸、合成条件等を表2の通りに変更した以外は非晶性ポリエステル1と同様にして非晶性ポリエステル2~7を得た。
【0099】
【0100】
<顔料分散体1の製造>
・顔料1 20質量部
・金属塩(軽質炭酸カルシウム、個数平均粒径0.4μm) 20質量部
・非晶性ポリエステル1 60質量部
上記材料をヘンシェルミキサー(FM-75型、三井鉱山(株)製)を用いて、回転数20s-1、回転時間5minで混合した後、二軸混練機(PCM-30型、株式会社池貝製)にて120℃で混練した。得られた混練物を冷却し、ピンミルにて体積平均粒径100μm以下に粗粉砕し、顔料分散体1の粗砕物を得た。構成を表3に示す。
【0101】
<顔料分散体2~5の製造>
顔料と非晶性ポリエステルを変更した以外は、顔料分散体1と同様にして顔料分散体2~5を製造した。構成を表3に示す。
【0102】
【0103】
<トナー1の製造例>
・非晶性ポリエステル1 85質量部
・フィッシャートロプシュワックス(炭化水素ワックス;融点90℃) 5質量部
・顔料分散体1 25質量部
上記材料をヘンシェルミキサー(FM-75型、三井鉱山(株)製)を用いて、回転数20s-1、回転時間5minで混合した後、二軸混練機(PCM-30型、株式会社池貝製)にて混練した。混練時のバレル温度は、混練物の出口温度が115℃になるよう設定した。混練物の出口温度は、安立計器社製ハンディタイプ温度計HA-200Eを用い直接計測した。
【0104】
得られた混練物を冷却し、ハンマーミルにて1mm以下に粗粉砕し、粗砕物を得た。得られた粗砕物を、機械式粉砕機(T-250、ターボ工業(株)製)にて微粉砕した。さらにファカルティF-300(ホソカワミクロン社製)を用い、分級を行い、トナー粒子1を得た。運転条件は、分級ローター回転数を130s-1、分散ローター回転数を120s-1とした。
【0105】
得られたトナー粒子100質量部に、疎水性シリカ(BET:200m2/g)1.0質量部、イソブチルトリメトキシシランで表面処理した酸化チタン微粒子(BET:80m2/g)を1.0質量部、ヘンシェルミキサー(FM-75型、三井鉱山(株)製)で回転数30s-1、回転時間10min.で混合して、トナー1を得た。構成を表4に示す。
【0106】
<トナー2~29の製造例>
非晶性ポリエステルの種類、顔料もしくは顔料分散体などを表4の通り変更した以外はトナー1と同様にして、トナー2~29を製造した。なお、表4における「非晶性ポリエステル」及び「金属塩」の欄は、顔料分散体で配合されている非晶性ポリエステルや金属塩は含まない。
【0107】
【0108】
<磁性コア粒子1の製造例>
工程1(秤量・混合工程):
・Fe2O3 62.7質量部
・MnCO3 29.5質量部
・Mg(OH)2 6.8質量部
・SrCO3 1.0質量部
上記材料を上記組成比となるようにフェライト原材料を秤量した。その後、直径1/8インチのステンレスビーズを用いた乾式振動ミルで5時間粉砕・混合した。
工程2(仮焼成工程):
得られた粉砕物をローラーコンパクターにて、約1mm角のペレットにした。このペレットを目開き3mmの振動篩にて粗粉を除去し、次いで目開き0.5mmの振動篩にて微粉を除去した後、バーナー式焼成炉を用いて、窒素雰囲気下(酸素濃度0.01体積%)で、温度1000℃で4時間焼成し、仮焼フェライトを作製した。得られた仮焼フェライトの組成は、下記の通りである。
(MnO)a(MgO)b(SrO)c(Fe2O3)d
上記式において、a=0.257、b=0.117、c=0.007、d=0.393である。
工程3(粉砕工程):
クラッシャーで0.3mm程度に粉砕した後に、直径1/8インチのジルコニアビーズを用い、仮焼フェライト100質量部に対し、水を30質量部加え、湿式ボールミルで1時間粉砕した。そのスラリーを、直径1/16インチのアルミナビーズを用いた湿式ボールミルで4時間粉砕し、フェライトスラリー(仮焼フェライトの微粉砕品)を得た。
工程4(造粒工程):
フェライトスラリーに、仮焼フェライト100質量部に対して分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム1.0質量部、バインダーとしてポリビニルアルコール2.0質量部を添加し、スプレードライヤー(製造元:大川原化工機)で、球状粒子に造粒した。得られた粒子を粒度調整した後、ロータリーキルンを用いて、650℃で2時間加熱し、分散剤やバインダーの有機成分を除去した。
工程5(焼成工程):
焼成雰囲気をコントロールするために、電気炉にて窒素雰囲気下(酸素濃度1.00体積%)で、室温から温度1300℃まで2時間で昇温し、その後、温度1150℃で4時間焼成した。その後、4時間をかけて、温度60℃まで降温し、窒素雰囲気から大気に戻し、温度40℃以下で取り出した。
工程6(選別工程):
凝集した粒子を解砕した後に、磁力選鉱により低磁力品をカットし、目開き250μmの篩で篩分して粗大粒子を除去し、体積分布基準の50%粒径(D50)37.0μmの磁性コア粒子1を得た。
【0109】
<被覆樹脂1の調製>
・シクロヘキシルメタクリレートモノマー 26.8質量%
・メチルメタクリレートモノマー 0.2質量%
・メチルメタクリレートマクロモノマー 8.4質量%
(片末端にメタクリロイル基を有する重量平均分子量5000のマクロモノマー)
・トルエン 31.3質量%
・メチルエチルケトン 31.3質量%
・アゾビスイソブチロニトリル 2.0質量%
上記材料のうち、シクロヘキシルメタクリレート、メチルメタクリレート、メチルメタクリレートマクロモノマー、トルエン、メチルエチルケトンを、還流冷却器、温度計、窒素導入管及び撹拌装置を取り付けた四つ口のセパラブルフラスコに入れ、窒素ガスを導入して窒素ガスで系内を置換した。その後、80℃まで加温し、アゾビスイソブチロニトリルを添加して5時間還流し重合させた。得られた反応物にヘキサンを注入して共重合体を沈殿析出させ、沈殿物を濾別後、真空乾燥して被覆樹脂1を得た。得られた被覆樹脂1を30質量部、トルエン40質量部、メチルエチルケトン30質量部に溶解させて、重合体溶液1(固形分30質量%)を得た。
【0110】
<被覆樹脂溶液1の調製>
・重合体溶液1(樹脂固形分濃度30%) 33.3質量%
・トルエン 66.4質量%
・カーボンブラック(Regal330;キャボット社製) 0.3質量%
(一次粒径25nm、窒素吸着比表面積94m2/g、DBP吸油量75ml/100g)
を、直径0.5mmのジルコニアビーズを用いて、ペイントシェーカーで1時間分散をおこなった。得られた分散液を、5.0μmのメンブランフィルターで濾過をおこない、被覆樹脂溶液1を得た。
【0111】
<磁性キャリア1の製造例>
(樹脂被覆工程):
常温で維持されている真空脱気型ニーダーに被覆樹脂溶液1を磁性コア粒子1の100質量部に対して樹脂成分として2.5質量部になるように投入した。投入後、回転速度30rpmで15分間撹拌し、溶媒が一定以上(80質量%)揮発した後、減圧混合しながら80℃まで昇温し、2時間かけてトルエンを留去した後冷却した。得られた磁性キャリアを、磁力選鉱により低磁力品を分別し、開口70μmの篩を通した後、風力分級器で分級し、体積分布基準の50%粒径(D50)38.2μmの磁性キャリア1を得た。
【0112】
<二成分系現像剤1の製造例>
磁性キャリア1を92.0質量部に対し、トナー1を8.0質量部加え、V型混合機(V-20、セイシン企業製)により混合し、二成分系現像剤1を得た。
【0113】
<二成分系現像剤2~29の製造例>
二成分系現像剤1の製造例において、表5のようにトナーの組合せを変更した以外は同様の操作を行い、二成分系現像剤2~29を得た。
【0114】
〔実施例1〕
上記二成分系現像剤1を用いて、評価を行った。
【0115】
画像形成装置として、画像形成装置として、キヤノン製フルカラー複写機imageRUNNER ADVANCE C5255の改造機を用い、シアンステーションの現像器に二成分系現像剤1を投入して、静電潜像担持体または又は紙上のトナーの載り量が所望になるように現像剤担持体の直流電圧VDC、静電潜像担持体の帯電電圧VD、レーザーパワーを調整し、後述の評価を行った。改造点としては、定着温度、及びプロセススピードを自由に設定できるように変更したことである。
【0116】
以下の評価方法に基づいて評価し、その結果を表5に示す。
【0117】
[トナーの彩度の評価方法]
評価環境は、常温常湿環境下(23℃、50%RH)とし、評価紙は、コピー用普通紙CS-680(A4紙、坪量:68g/m2、キヤノンマーケティングジャパン(株)より販売)を用いた。
【0118】
まず該評価環境において、紙上のトナー乗り量を変化させて、画像濃度と、紙上のトナー載り量との関係を調べた。
【0119】
次いで、FFH画像(ベタ部)の画像濃度が1.40になるように調整し、ベタ画像を出力した。SpectroScan Transmission(GretagMacbeth社製)(測定条件:D50 視野角2°)を用いてベタ画像のL1*、a1*、b1*を測定した。
【0120】
また、下記の式から各階調のC1*を求めた。
C1*={(a1*)2+(b1*)2}0.5
C1*が大きいほど高彩度であり、下記の基準で評価を行った。評価結果を表7に示す。
【0121】
(評価基準)
A:66以上 (非常に優れている)
B:63以上、66未満 (良好である)
C:60以上、63未満 (本発明では問題ないレベルである)
D:60未満 (本発明では許容できない)
【0122】
[トナーの色味変動の評価方法]
彩度の評価時に設定したまま、評価環境を高温高湿環境下(30℃、80%RH)とし、ベタ画像のL2*、a2*、b2*を測定した。画像のL*、a*、b*の値からΔEを算出した。評価結果を表5に示す。
ΔE={(L1
*-L2
*)2+(a1
*-a2
*)2+(b1
*-b2
*)2}0.5
A:ΔE 2.0未満(目視で色味変動を確認できない)
B:ΔE 2.0以上3.0未満(Aより大きいが、目視では色味変動を確認できない)
C:ΔE 3.0以上4.0未満(Bより大きいが、目視で色味変動がわずかにしか確認できない)
D:ΔE 4.0以上(Cより大きく、色味変動が目視で確認できる)
【0123】
[トナーの濃度変動の評価方法]
次に、印字比率1%の画像にて、トナー濃度が一定となるよう定量補給し、5000枚(5k)画像出力を行った。
【0124】
10k耐久後終了後、紙上のトナー乗り量を変化させて、画像濃度と、紙上のトナー載り量との関係を調べた。
【0125】
次いで、FFH画像(ベタ部)の画像濃度が1.40になるように調整し、ベタ画像を出力した。SpectroScan Transmission(GretagMacbeth社製)(測定条件:D50 視野角2°)を用いてベタ画像のL3*、a3*、b3*を測定した。
【0126】
初期画像及び5k耐久後の画像のL*、a*、b*の値からΔEを算出した。評価結果を表5に示す。
ΔE={(L1
*-L3
*)2+(a1
*-a3
*)2+(b1
*-b3
*)2}0.5
A:ΔE 2.0未満(目視で色味変動を確認できない)
B:ΔE 2.0以上3.0未満(Aより大きいが、目視では色味変動を確認できない)
C:ΔE 3.0以上4.0未満(Bより大きいが、目視で色味変動がわずかにしか確認できない)
D:ΔE 4.0以上(Cより大きく、色味変動が目視で確認できる)
【0127】
〔実施例2~22〕
トナーを表5の通り変更した以外は、実施例1と同様に評価を行った。結果を表5に示す。
【0128】
〔比較例1~7〕
トナーを表5の通り変更した以外は、実施例1と同様に評価を行った。結果を表5に示す。
【0129】
【0130】
比較例1は、非晶性ポリエステルの水酸基価が下限を下回っている。誘導体のスルホ基が樹脂と相互作用しにくくなった結果、彩度評価の結果が悪化したと考えている。
【0131】
比較例2は、非晶性ポリエステルの水酸基価が上限を上回っている。結果としては色味変動、耐久濃度変動が悪化しており、樹脂として水分性が悪化した結果と考えている。
【0132】
比較例3は、誘導体アルキル部位の炭素数が下限を下回っている。ワックスとの相互作用が少なくなり、電荷維持性が悪化、色味や濃度安定性が悪化したと推測される。
【0133】
比較例4は、誘導体アルキル部位の炭素数が上限を上回っている。炭素数が多すぎると、ワックスとの距離が遠くなりすぎると推測している。その結果相互作用が少なくなり、電荷維持性が悪化、色味や濃度安定性が悪化したと推測される。
【0134】
比較例5は、誘導体のアルキル基が含まれていないものである。ワックスとの相互作用がなくなり、帯電維持性が悪化、色域や濃度の安定性の悪化につながったと考えられる。
【0135】
比較例6は、スルホ基が含まれておらず、アミン基が平均導入量2.0含まれている。アミン基は水酸基と相互作用しにくいため、電子状態の変化が起きず、彩度の値が低くなったと考えられる。
【0136】
比較例7は、スルホ基が含まれていない場合になる。スルホ基が含まれない場合、非晶性ポリエステルの水酸基部位との相互作用がなくなり、電子状態の変化が生じない。その結果彩度の悪化につながったと考えられる。