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特許7654451ろう付け用ペースト状組成物及びそれを用いたろう付け方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-24
(45)【発行日】2025-04-01
(54)【発明の名称】ろう付け用ペースト状組成物及びそれを用いたろう付け方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/30 20060101AFI20250325BHJP
   B23K 1/008 20060101ALI20250325BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20250325BHJP
   B23K 35/363 20060101ALI20250325BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20250325BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20250325BHJP
【FI】
B23K35/30 310C
B23K1/008 A
B23K35/22 310A
B23K35/363 D
C22C9/00
B22F1/00 L
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021067452
(22)【出願日】2021-04-13
(65)【公開番号】P2021175580
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2020079066
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000157072
【氏名又は名称】関東冶金工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124648
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 和夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154450
【弁理士】
【氏名又は名称】吉岡 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】松村 賢
(72)【発明者】
【氏名】大下 浩
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-275895(JP,A)
【文献】国際公開第2016/013651(WO,A1)
【文献】特開2001-148568(JP,A)
【文献】特開2010-065278(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103659053(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/30
B23K 1/008
B23K 35/22
B23K 35/363
C22C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅粉を含み、
前記銅粉のうち目開き45μmの篩を通過する粒子の質量割合が5質量%以上40質量%以下であり
前記銅粉を構成する粒子のうち目開き45μmの篩を通過しかつ目開き20μmの篩上に残る粒子の酸素含有量が0.02質量%以下であり、そして
前記銅粉の体積平均粒子径(D 50 )が、30μm以上90μm以下であること
を特徴とするろう付け用ペースト状組成物。
【請求項2】
前記銅粉がリンを質量基準で500ppm以上2000ppm以下含むことを特徴とする請求項に記載のろう付け用ペースト状組成物。
【請求項3】
ろう付けを行う適用母材がステンレス鋼であることを特徴とする請求項1又は2に記載のろう付け用ペースト状組成物。
【請求項4】
請求項1からのいずれか1項に記載のろう付け用ペースト状組成物を一方の母材の少なくとも一部表面に塗布した後、一方の母材と他方の母材とのろう付けをろう付け炉内で不活性ガス雰囲気下において行なうことを特徴とするろう付け方法。
【請求項5】
前記不活性ガスとして、アルゴンガス及び/又はヘリウムガスを使用することを特徴とする請求項に記載のろう付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろう付け用ペースト状組成物及びそれを用いたろう付け方法に関し、特にステンレス鋼のろう付けに適しており、特定の粒度分布を有し、特定の粒度における酸素含有量が低い球状の銅粉を主成分とするろう付け用ペースト状組成物及びそれを用いたろう付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属、セラミックス等の接合方法の一種としてろう付け方法が知られている。ろう付け方法は溶接方法の範疇に入り、ろう付けされる対象物よりも融点が低く、且つ450℃以上の融点を有するろう材を用いてろう接する方法である。より具体的には、一方の母材の表面に塗布したろう材を、母材は溶融しないが、ろう材が溶融する温度へ加熱することにより、毛細管現象によって他方の母材との接合面に拡散した薄膜状のろう材を凝固させて母材同士を接合するものである。
【0003】
ところで、一般的にステンレス材料のろう付けには、ニッケルや銅などを主成分とするろう材が使用される。銅ろうの場合、主にワイヤー状、リング状、箔状の形態のものが用いられ、作業部位や作業環境を考慮して、例えば特開2003-275895号公報(特許文献1)に記載されているように、銅粉末と有機バインダー等とを混合したペースト状のろう材が開発されている。また、銅ろうを用いたろう付けは、約1100℃という高温下で行われ、酸化を防ぐ必要があることから、主に真空炉や水素炉内で行われている。
【0004】
しかし、特許文献1に記載されているようなペースト状の銅ろうを用いてステンレス鋼をろう付けしようとすると、ステンレス鋼中に含まれるクロムが酸化される結果、ステンレス鋼表面でのろう材の濡れが悪くなり、ろう付け後のろう付け部分(フィレット)が途切れたり、ろう材が弾かれて玉や粒として残るという問題があった。また、クロムの酸化により、ステンレス鋼表面が変色したり光沢を失ったりして外観が悪化するという問題もあった。
【0005】
一方、ステンレス鋼中に含まれるクロムの酸化を防ぐためには、ろう付けを水素を含む還元性ガス雰囲気下で行うことが有効であると考えられる。しかし、水素などの還元性ガスは可燃性で爆発するおそれもあるため、安全性等の面から、不活性ガス雰囲気下でもステンレス鋼中のクロムの酸化を防止できるろう材の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-275895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、特にステンレス鋼のろう付けに適しており、不活性ガス雰囲気下でのろう付けにおいても、フィレットの途切れや残渣の発生等のろう付け不良を起こすことがなく、ろう付け後のろう付け部分において良好なフィレットの形成(外観)を得ることができるろう付け用ペースト状組成物と、それを用いた不活性ガス雰囲下でのろう付け方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、ステンレス鋼中のクロムの酸化を防止することについて着目し、ろう付け用ペースト状組成物に用いる銅粉において、特にその形状や粒度、その性状などについて鋭意検討を重ねた結果、特定の粒度分布を有し、特定の粒度における酸素含有量が低い銅粉を用いれば上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、球状銅粉を含み、該銅粉のうち目開き45μmの篩を通過する粒子の質量割合が5質量%以上40質量%以下であり、そして銅粉を構成する粒子のうち目開き45μmの篩を通過しかつ目開き20μmの篩上に残る粒子の酸素含有量が0.02質量%以下であることを特徴とするろう付け用ペースト状組成物及びそれを用いたろう付け方法が提供される。
【0010】
その結果、本発明のろう付け用ペースト状組成物によれば、特にステンレス鋼のろう付けに適しており、不活性ガス雰囲気下でのろう付けにおいても、フィレットの途切れや残渣の発生等のろう付け不良を起こすことなく、ろう付け後のろう付け部分において良好なフィレットの形成(外観)を得ることができる。
【0011】
本発明のろう付け用ペースト状組成物は、銅粉と、それを湿潤させるための有機溶剤とを含んでいる。また、本発明のろう付け用ペースト状組成物は、用途に応じてその他有機バインダーや分散剤などを含んでいてもよい。
【0012】
<銅粉>
本発明のろう付け用ペースト状組成物に用いられる銅粉は球状であることが好ましく、その粒度分布は、銅粉を構成する全ての粒子に対し、目開き45μmの篩を通過する粒子の質量割合が5質量%以上40質量%以下であることが好ましく、5質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。目開き45μmの篩を通過する銅粉の質量割合を5質量%未満とすることは製造コストの面などから実用的ではなく、一方、目開き45μmの篩を通過する銅粉の質量割合が40質量%を超えると、得られるペースト状組成物の粘度が高くなり塗布性が悪くなる。
【0013】
また、本発明で用いられる銅粉の酸素含有量は、銅粉を構成する全ての粒子のうち、目開き45μmの篩を通過し、かつ目開き20μmの篩の上に残る粒子の酸素含有量が0.02質量%以下であることが好ましい。
【0014】
上記の粒度範囲内にある銅粉の酸素含有量が0.02質量%を超えると、銅粉に含まれる酸素により母材のステンレス鋼中のクロムが酸化され、過剰な酸化被膜の形成によりろう材の濡れ性を悪化させる結果、フィレットが途切れたり、ろう材が弾かれて玉や粒として残り易くなる。また、クロムの酸化により、ステンレス鋼表面が変色したり、光沢を失ったりして外観が悪化する場合もある。上記銅粉の酸素含有量の下限は特に限定されず、理想的には0質量%であることが好ましいが、製造コストの面などから、実用的には0.01質量%以上であれば、上述のろう付け不良を起こすことなく好適に使用することができる。
【0015】
本発明で用いられる球状銅粉の体積平均粒子径(D50)は、30μm以上90μm以下であることが好ましい。球状銅粉の体積平均粒子径(D50)が上記の範囲内にあれば、フィレットの途切れ等のろう付け不良や外観不良を生じることなく良好な塗布性を得ることができる。
【0016】
また、本発明で用いられる球状銅粉のBET法による比表面積は、0.005m/g以上0.06m/g以下であることが好ましい。球状銅粉のBET法による比表面積が上記の範囲内にあれば、保管中にペースト中の銅粉が分離しないので良好な塗布性を得ることができる。
【0017】
なお、本発明で用いられる球状銅粉は、ろう材の良好な流動性を得る観点及び母材との良好な濡れ性を得る観点より純度99質量%以上の銅粉を使用することが好ましく、99.78質量%以上99.95質量%以下であることがより好ましい。
【0018】
また、本発明で用いられる球状銅粉は、銅以外の成分として質量基準で500ppm以上2000ppm以下のリンを含んでいることが好ましく、1000ppm以上1500ppm以下のリンを含んでいることがより好ましい。500ppm以上2000ppm以下のリンを含んでいると、より残渣の少ないろう付け後の外観が得られる。また、リンの含有量が2000ppmを超えるとろう材の流動性が悪くなり、ろう切れなどの不具合を起こすおそれがある。
【0019】
<有機バインダー>
本発明のろう付け用ペースト状組成物は、必要に応じて有機バインダーを含んでいてもよい。有機バインダーとしては、ろう材に使用できるものであれば、特に限定されることなく公知のものを使用することができる。有機バインダーの中でも、特にブチルゴムは、ろう付けまでの工程の中で脱落することなく容易に熱分解されるので、残炭等によるろう付け不良を発生させることがなく、好適に用いることができる。
【0020】
ブチルゴムとは、イソブチレンモノマーとイソプレンモノマーの共重合体をいい、イソブチレンモノマーとイソプレンモノマーとの結合が直鎖であるので、加熱により分解しやすい構造であるという特徴を有している。このため、ブチルゴムはろう付け炉内の雰囲気に影響されることなく、ろう付け工程における加熱によって容易に分解される。
【0021】
<有機溶剤>
本発明のろう付け用ペースト状組成物に用いられる有機溶剤は、上記のバインダーが可溶であれば、特に限定されることなく、トルエン、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等を単独、あるいは2種以上を混合して使用することができ、酸素を含まない炭化水素系溶剤を用いることが好ましい。また、有機溶剤の含有量は、ペースト状組成物の粘度等を調整するために適宜加えればよい。
【0022】
<ろう付け方法>
本発明のろう付け用ペースト状組成物は、ろう付けされる母材の表面の一部又は全部に塗布して使用することができる。塗布方法としては、公知の方法を採用することができ、例えばディスペンサー、スクリーン印刷、はけ塗り、スプレー塗布等の方法を適用することができる。
【0023】
本発明のペースト状組成物は、塗布後、そのまま加熱してろう付けをすることもできるが、一度乾燥させて有機溶剤を揮発させることが望ましい。ペースト状組成物の乾燥は、室温乾燥又は必要に応じて30℃~200℃程度の温度で乾燥させればよい。未乾燥の場合、塗布したペースト状組成物中の有機溶剤が急激に気化するため、その気化ガスにより、塗布したペースト状組成物が飛散する場合があるからである。
【0024】
本発明では、ペースト状組成物を乾燥後、ろう付けは、マッフル炉等のろう付け炉を用いて、常圧の不活性ガス雰囲気下で行うことができる。不活性ガスとしては、特に限定はなく、アルゴンガス及び/又はヘリウムガスなどの不活性ガスを使用することができるが、アルゴンガスが好適に用いられる。ろう付け炉としては、カーボン製マッフル炉が、不活性ガス中に残存する微量の酸素を吸収するため好適に使用できる。
【0025】
本発明のペースト状組成物のろう付け温度は、1100℃以上1150℃以下であることが好ましく、1120℃以上1140℃以下であることがより好ましい。また、ろう付け時間は、ろう付け温度が1120℃以上である場合、5分以上30分以下保持するとよい。なお、ろう付け温度とは、通常ろう付け行う母材の温度を意味するが、マッフル炉等のろう付け炉でろう付けを行う場合は、ろう付け炉の雰囲気温度が母材の温度と略同じ履歴を示すことから、当該ろう付け炉の雰囲気温度で代用してもよい。
【0026】
本発明のペースト状組成物は、上述したような条件によりろう付けを行えば、母材への着色を抑えつつ、銅粉等からなるろう材の溶融状態も良好となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、球状銅粉を含み、該銅粉のうち目開き45μmの篩を通過する粒子の質量割合が5質量%以上40質量%以下であり、そして銅粉を構成する粒子のうち目開き45μmの篩を通過しかつ目開き20μmの篩上に残る粒子の酸素含有量が0.02質量%以下であるろう付け用ペースト状組成物が提供される。
【0028】
その結果、本発明のろう付け用ペースト状組成物及びそれを用いたろう付け方法は、特にステンレス鋼のろう付けに適しており、不活性ガス雰囲気下でのろう付けにおいても、フィレットの途切れや残渣の発生等のろう付け不良を起こすことなく、ろう付け後のろう付け部分において良好なフィレットの形成(外観)を得ることができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】ろう材の溶融状態、フィレットの形成状態、残渣を評価するための試験サンプルの概要を模式的に表した平面図(a)及びその中心断面図(b)である。
図2】ろう付けした際の母材の着色状態を評価するための試験サンプルの概要を模式的に表した平面図(a)及びその中心断面図(b)である。
図3】実施例1の試験サンプルのろう材の溶融状態等を示した平面写真(a)及びその斜め方向から見た斜視写真(b)である。
図4】実施例2の試験サンプルのろう材の溶融状態等を示した平面写真(a)及びその斜め方向から見た斜視写真(b)である。
図5】比較例1の試験サンプルのろう材の溶融状態等を示した平面写真(a)及びその斜め方向から見た斜視写真(b)である。
図6】比較例2の試験サンプルのろう材の溶融状態等を示した平面写真(a)及びその斜め方向から見た斜視写真(b)である。
図7】比較例3の試験サンプルのろう材の溶融状態等を示した平面写真(a)及びその斜め方向から見た斜視写真(b)である。
図8】比較例4の試験サンプルのろう材の溶融状態等を示した平面写真(a)及びその斜め方向から見た斜視写真(b)である。
図9】比較例5の試験サンプルのろう材の溶融状態等を示した平面写真(a)及びその斜め方向から見た斜視写真(b)である。
図10】実施例1の試験サンプルの母材着色状態を示した蓋材の裏面写真である
図11】実施例2の試験サンプルの母材着色状態を示した蓋材の裏面写真である。
図12】比較例1の試験サンプルの母材着色状態を示した蓋材の裏面写真である。
図13】比較例2の試験サンプルの母材着色状態を示した蓋材の裏面写真である。
図14】比較例3の試験サンプルの母材着色状態を示した蓋材の裏面写真である。
図15】比較例4の試験サンプルの母材着色状態を示した蓋材の裏面写真である。
図16】比較例5の試験サンプルの母材着色状態を示した蓋材の裏面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施形態に係るろう付け用ペースト状組成物及びそれを用いたろう付け方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示される実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。
【実施例
【0031】
<1.ろう付け用ペーストの作製>
本発明の一実施形態に係るろう付け用ペースト状組成物及び比較例のろう付け用ペースト状組成物は、以下の原料及び条件にて製作した(「表1」参照)。
[実施例1]
銅粉末として、アトマイズ法により製造された純度99質量%以上、質量基準でリン含有量1ppm未満、体積平均粒子径(D50)74μmの市販の球状銅粉a:85gを用い、この銅粉末へ、有機バインダーとしてエクソンブチル268(エクソン化学社製)3g、増粘剤としてディスパロン308(楠本化成社製)0.5gを有機溶剤であるトルエン13.5gに溶解させて加えた後、攪拌機にて混合して実施例1のろう付け用ペースト状組成物を作製した。
【0032】
[実施例2]
銅粉末として、アトマイズ法により製造された純度99質量%以上、リン含有量0.12質量%、体積平均粒子径(D50)66μmの市販の球状銅粉b:85gを用いたこと以外は、実施例1と同じ条件にて実施例2のろう付け用ペースト状組成物を作製した。
【0033】
[比較例1]
銅粉末として、アトマイズ法により製造された純度99質量%以上、リン含有量0.11質量%、体積平均粒子径(D50)36μmの市販の球状銅粉c:85gを用いたこと以外は、実施例1と同じ条件にて比較例1のろう付け用ペースト状組成物を作製した。
【0034】
[比較例2]
銅粉末として、アトマイズ法により製造された純度99質量%以上、リン含有量0.12質量%、体積平均粒子径(D50)54μmの市販の球状銅粉d:85gを用いたこと以外は、実施例1と同じ条件にて比較例2のろう付け用ペースト状組成物を作製した。
【0035】
[比較例3]
銅粉末として、アトマイズ法により製造された純度99質量%以上、体積平均粒子径(D50)34μmの市販の非球状銅粉e:85gを用いたこと以外は、実施例1と同じ条件にて比較例3のろう付け用ペースト状組成物を作製した。
【0036】
[比較例4]
銅粉末として、アトマイズ法により製造された純度99質量%以上、体積平均粒子径(D50)30μmの市販の非球状銅粉f:85gを用いたこと以外は、実施例1と同じ条件にて比較例4のろう付け用ペースト状組成物を作製した。
【0037】
[比較例5]
銅粉末として、アトマイズ法により製造された純度99質量%以上、リン含有量0.03質量%、体積平均粒子径(D50)40μmの市販の球状銅粉g:85gを用いたこと以外は、実施例1と同じ条件にて比較例5のろう付け用ペースト状組成物を作製した。
【0038】
<2.ろう付け用ペーストの評価>
<銅粉末特性の測定>
(1)体積平均粒子径
銅粉末の体積平均粒子径(D50)は、体積累積粒度分布曲線における体積平均粒子径50%での粒子径(μm)を示す。なお、体積平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(機器名:マイクロトラック、マイクロトラック・ベル社製)を用いて測定した。例えば体積平均粒子径(D50)は、縦軸が累積頻度(%)であり、横軸が粒子径(μm)である体積累積粒度分布曲線において、累積度50%の粒子径(μm)を意味する。
【0039】
(2)BET法による比表面積
BET法による銅粉末の比表面積は、比表面積装置(機器名:「Macsorb model-1210」、マウンテック社製)を用いて測定した。
【0040】
(3)粒度分布の測定
銅粉末の目開き45μmの篩を通過する粒子の質量割合(V-45)は、目開き45μmのステンレス合金製JIS標準篩い用金網を通過した銅粉末の質量Bと通過前の銅粉末の質量Aとから、次式に従って求めた。
-45(質量%)=(B/A)×100
【0041】
(4)酸素含有量の測定
銅粉の酸素含有量は、目開き45μmのステンレス合金製JIS標準篩い用金網を通過しかつ目開き20μmのステンレス合金製JIS標準篩上に残る銅粉を回収し、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法(測定機器名:EMGA-920、堀場製作所社製)を用いて測定した。
【0042】
<ろう付けの評価>
(1)ろう付けサンプルの作製
ステンレス鋼板(SUS304、50×50×3mm)の基材とステンレス製パイプ(SUS304、φ34×17t)を図1に示すように組み付け、実施例1、2及び比較例1~5のろう付け用ペースト状組成物4gをステンレス製パイプ内側に塗布し、室温にて18時間自然乾燥することにより試験サンプルを作製した。
自然乾燥した上記試験サンプルをカーボン製マッフル炉(オキシノン炉、関東冶金工業株式会社製)の中へ移し、常圧のアルゴン雰囲気下において1120℃のろう付け温度にて15分間保持し、ろう付けを行った。
【0043】
(2)ろう付けの評価
ろう付け完了後、ステンレス鋼板とステンレス製パイプとのろう付け部分において、ろう材の溶融状態、フィレットの形成(外観)状態及び残渣の有無を目視にて観察し、以下の基準により評価した。
【0044】
(ろう材の溶融状態)
「A」・・・良好
「B」・・・ろう材の流れが少し悪い
「C」・・・ろう材が溶融していない、或いは母材と濡れていない
【0045】
(フィレットの形成状態)
「A」・・・途切れることなくフィレットが形成している
「B」・・・フィレットが途切れている
「C」・・・フィレットが形成されていない、或いは極端に小さい
【0046】
(残渣)
「A」・・・残渣がない
「B」・・・黒色の残渣が若干見られる
「C」・・・粒状の残渣が見られる
【0047】
<母材着色の評価>
(1)母材着色確認用サンプルの作製
ステンレス鋼板(SUS304、50×50×3mm)の基材とステンレス製パイプ(SUS304、φ34×17t)を図2に示すように組み付け、実施例1、2及び比較例1~5のろう付け用ペースト状組成物4gをステンレス製パイプ内側に塗布し、室温にて18時間自然乾燥し、さらに、ステンレス製パイプの上部に下部基材と同じステンレス鋼板(SUS304、50×50×3mm)の蓋材で覆うことにより母材着色確認用試験サンプルを作製した。上記試験サンプルをカーボン製マッフル炉(オキシノン炉、関東冶金工業株式会社製)の中へ移し、常圧のアルゴン雰囲気下において1120℃のろう付け温度にて15分間保持し、ろう付けを行った。
【0048】
(2)母材着色の評価
ろう付け完了後、ステンレス鋼板の蓋材の裏面(内面)の外観を目視にて観察し、以下の基準により評価した。
【0049】
(母材着色)
「A」・・・母材(蓋材)の着色がなく、光輝状態にある
「B」・・・母材が曇っている
「C」・・・母材への着色部多く、商品価値がない状態にある
【0050】
実施例1、2及び比較例1~5のろう付け用ペースト状組成物に配合した各成分の配合量及び使用した銅粉末の特性、そして実施例1、2及び比較例1~5のろう付け用ペースト状組成物を用いたろう付けの評価を表1に示す。
【表1】
【0051】
<考察>
図3、4及び図5~9には、実施例1、2及び比較例1~5の各々の試験サンプルのろう材の溶融状態等を示した平面写真(a)及びその斜め方向から見た斜視写真(b)が示されている。また、図10、11及び図12~16には、実施例1、2及び比較例1~5の各々の試験サンプルの母材着色状態を示した蓋材の裏面写真が示されている。
【0052】
表1及び図3~16より、実施例1、2のろう付け用ペースト状組成物と比較例1~5のろう付け用ペースト状組成物とを比較すると、実施例1、2のろう付け用ペースト状組成物は、特にステンレス鋼の不活性ガス雰囲気下におけるろう付けにおいて、ろう材の溶融状態が良好でフィレットの途切れや残渣の発生を生じることがなく、また母材の変色や着色もない(ろう付け不良がない)優れたろう付けを得られることが判った。
【0053】
また、実施例1、2と比較例1~5、或いは比較例1、2と比較例3~5同士を比較すると、ろう付け用ペースト状組成物を構成する全ての銅粉のうち、目開き45μmの篩を通過し、かつ目開き20μmの篩の上に残る銅粉の酸素含有量が少ないほど、ろう材の溶融状態等が良好となり優れたろう付けを得られる傾向があることが判った。特に実施例1、2の場合、ろう付け用ペースト状組成物中の銅粉の上記の酸素含有量が0.02質量%以下に抑えられると極めて優れたろう付けを得られることが判った。これは、特定の粒度の銅粉に含まれる酸素含有量が低減された結果、母材における過剰な酸化被膜の形成が抑制されたことによるものと推察される。
【0054】
実施例1と実施例2同士、或いは比較例1、2と比較例3~5同士を比較すると、ろう付け用ペースト状組成物を構成する銅以外の成分として、質量基準で500ppm以上2000ppm以下のリンを含んでいる方がより残渣の少ないろう付け後の外観を得られることが判った。なお、リンの含有量が2000ppmを超えると、ろう材の流動性が悪くなり、ろう切れなどの不具合を起こすおそれがある。
【0055】
実施例1、2のろう付け用ペースト状組成物は、比較例1~5と比べることにより、ろう付け用ペースト状組成物を構成する全ての銅粉のうち、目開き45μmの篩を通過する銅粉の質量割合が好ましくは5質量%以上40質量%以下、より好ましくは5質量%以上30質量%以下であると、適度な粘度が得られてその塗布性が向上することが判った。
【0056】
また、実施例1、2のろう付け用ペースト状組成物は、比較例1~5と比べることにより、ろう付け用ペースト状組成物を構成する銅粉の体積平均粒子径(D50)が30μm以上90μm以下と比較的大きめであると、フィレットの途切れ等のろう付け不良や外観不良を生じることがなくなり、良好な塗布性を得られることが判った。
【0057】
さらに、実施例1、2のろう付け用ペースト状組成物は、比較例1~5と比べることにより、ろう付け用ペースト状組成物を構成する銅粉のBET法による比表面積が0.005m/g以上0.06m/g以下であると、ペースト中の銅粉の分離を抑制されて良好な塗布性を得られることが判った。
【符号の説明】
【0058】
1・・・ろう付け用ペースト状組成物
2・・・基材(ステンレス鋼板)
3・・・ステンレス製パイプ
4・・・蓋材(ステンレス鋼板)
5・・・フィレット
6・・・残渣(ろう材の着色、粒や玉)
7・・・着色評価部分
図1
図2
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