(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-24
(45)【発行日】2025-04-01
(54)【発明の名称】内燃機関用潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20250325BHJP
C10M 145/14 20060101ALI20250325BHJP
C10M 101/02 20060101ALI20250325BHJP
C10M 143/06 20060101ALI20250325BHJP
C10M 143/00 20060101ALI20250325BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20250325BHJP
C10N 20/04 20060101ALN20250325BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20250325BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20250325BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20250325BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20250325BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M145/14
C10M101/02
C10M143/06
C10M143/00
C10N20:02
C10N20:04
C10N10:12
C10N10:04
C10N40:25
C10N30:00 Z
(21)【出願番号】P 2021140161
(22)【出願日】2021-08-30
【審査請求日】2024-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】常岡 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】和田 浩太朗
(72)【発明者】
【氏名】笹木 康平
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-076056(JP,A)
【文献】国際公開第2017/099052(WO,A1)
【文献】特開2017-101211(JP,A)
【文献】特開2017-110196(JP,A)
【文献】特開2000-053986(JP,A)
【文献】特開2015-038194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)100℃における動粘度が2.0mm
2/s以上6.0mm
2/s以下である潤滑油基油、
(B)金属系清浄剤を、金属系清浄剤由来の金属量として、潤滑油組成物全量基準で100質量ppm以上3500質量ppm以下、および
(C)オイル消費抑制剤として、重量平均分子量(Mw)が1,500以上350,000以下の高分子ポリマーを、潤滑油組成物全量基準で0.1質量%以上10.0質量%未満、
(D)粘度指数向上剤を、潤滑油組成物全量基準で20質量%以下、含有し、
前記オイル消費抑制剤の溶解度パラメータの値と、基油の溶解度パラメータの値との差が、1.0未満であ
り、
前記(D)粘度指数向上剤が、櫛型ポリ(メタ)アクリレートであり、(C)オイル消費抑制剤として用いられる高分子ポリマーが、櫛型ポリ(メタ)アクリレートではなく、
前記櫛型ポリ(メタ)アクリレートが、以下の(式5)で表されるモノマーと(式6)で表されるモノマーとの共重合体であり、式(6)におけるR
15
の数平均分子量(Mn)が、1,000以上10,000以下である、内燃機関用潤滑油組成物。
【化5】
(式(5)中、R
12
は水素原子またはメチル基を表し、R
13
は炭素数6~18の直鎖状または分枝状の炭化水素基を表す)、および
【化6】
(式(6)中、R
14
は水素原子またはメチル基を表し、R
15
は炭素数19以上の直鎖状または分枝状の炭化水素基を表す)。
【請求項2】
前記(D)粘度指数向上剤の重量平均分子量(Mw)が、350,000より大きく1,000,000以下である、請求項
1に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項3】
(A)潤滑油基油が、1種以上の鉱油系基油を含み、基油の溶解度パラメータが7.5以上8.5以下である、請求項
1又は2に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項4】
前記(C)オイル消費抑制剤の溶解度パラメータの値が、7.5以上9.3未満である、請求項1~
3のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項5】
(C)オイル消費抑制剤として用いられる高分子ポリマーが、ポリブテン、ポリイソブテン、およびオレフィンコポリマーから成る群から選択される少なくとも1つである、請求項
4に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項6】
(E)モリブデン系摩擦調整剤を、モリブデン量として、潤滑油組成物全量基準で、100質量ppm以上2,000質量ppm以下さらに含む、請求項1~
5のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項7】
(B)金属系清浄剤として、カルシウム系清浄剤およびマグネシウム系清浄剤を含有し、カルシウム系清浄剤由来のカルシウム量が、潤滑油組成物全量基準で500質量ppm以上2500質量ppm以下であり、マグネシウム系清浄剤由来のマグネシウム量が、潤滑油組成物全量基準で、50質量ppm以上800質量ppm以下である、請求項1~
6のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項8】
150℃におけるHTHS粘度が、1.7mPa・s以上2.9mPa・s以下である、請求項1~
7のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項9】
150℃におけるHTHS粘度が、2.3mPa・s以上2.9mPa・s以下である、請求項1~
8のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用潤滑油組成物に関する。詳細には、省燃費性を向上させるとともにオイルの液滴消費を抑制することができる内燃機関用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関はその発明以来、長年にわたり種々の輸送手段の動力源を担ってきた。近年、内燃機関に求められる省燃費性は高まる一方である。この要求に対応するために、内燃機関の潤滑油にも高い省燃費性能が求められている。
【0003】
燃費向上を目的として、エンジンオイルの低粘度化が進んでいる。同時に、排ガス規制の強化などを受けて、オイル消費量の抑制が求められている。これまでオイル消費の指標として、蒸発性(NOACK)が規定されてきた。しかしながら、低粘度化に伴う基油の軽質化は避けられず、したがって、蒸発による消費を現在以上に抑制することは難しいと考えられる。また、実際のオイル消費においては、蒸発消費とともに液滴消費の割合も大きいことが知られている。したがって、省燃費性の向上とともに液滴消費抑制を両立する処方が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、直接噴射エンジン中の吸気弁デポジットを減少させることができる潤滑組成物を開示している。しかしながら、特許文献1に記載の潤滑組成物では、省燃費性を向上させることとオイルの液滴消費を抑制することの両立を達成できない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、省燃費性を向上させるとともにオイルの液滴消費を抑制することができる内燃機関用潤滑油組成物について、鋭意検討した。そして、本発明者らは、特定の成分を組み合わせることにより、省燃費性を向上させるとともにオイルの液滴消費を抑制することができる内燃機関用潤滑油を得ることができることを確認して、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、かかる知見に基づきなされたもので、次の通りのものである。
<1>
(A)100℃における動粘度が2.0mm
2/s以上6.0mm
2/s以下である潤滑油基油、
(B)金属系清浄剤を、金属系清浄剤由来の金属量として、潤滑油組成物全量基準で100質量ppm以上3500質量ppm以下、および
(C)オイル消費抑制剤として、重量平均分子量(Mw)が1,500以上350,000以下の高分子ポリマーを、潤滑油組成物全量基準で0.1質量%以上10.0質量%未満、
含有し、前記オイル消費抑制剤の溶解度パラメータの値と、基油の溶解度パラメータの値との差が、1.0未満である、内燃機関用潤滑油組成物。
<2>
(D)粘度指数向上剤を、潤滑油組成物全量基準で20質量%以下さらに含む、<1>に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
<3>
(D)粘度指数向上剤が、櫛型ポリ(メタ)アクリレートであり、(C)オイル消費抑制剤として用いられる高分子ポリマーが、櫛型ポリ(メタ)アクリレートではない、<2>に記載の内燃機関用潤滑油組成物であって、
前記櫛型ポリ(メタ)アクリレートが、以下の(式5)で表されるモノマーと(式6)で表されるモノマーとの共重合体であり、式(6)におけるR
15の数平均分子量(Mn)が、1,000以上10,000以下である、前記内燃機関用潤滑油組成物
【化5】
(式(5)中、R
12は水素原子またはメチル基を表し、R
13は炭素数6~18の直鎖状または分枝状の炭化水素基を表す)、および
【化6】
(式(6)中、R
14は水素原子またはメチル基を表し、R
15は炭素数19以上の直鎖状または分枝状の炭化水素基を表す)。
<4>
前記(D)粘度指数向上剤の重量平均分子量(Mw)が、350,000より大きく1,000,000以下である、<2>または<3>に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
<5>
(A)潤滑油基油が、1種以上の鉱油系基油を含み、基油の溶解度パラメータが7.5以上8.5以下である、<1>~<4>のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
<6>
前記(C)オイル消費抑制剤の溶解度パラメータの値が、7.5以上9.3未満である、<1>~<5>のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
<7>
(C)オイル消費抑制剤として用いられる高分子ポリマーが、ポリブテン、ポリイソブテン、およびオレフィンコポリマーから成る群から選択される少なくとも1つである、<6>に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
<8>
(E)モリブデン系摩擦調整剤を、モリブデン量として、潤滑油組成物全量基準で、100質量ppm以上2,000質量ppm以下さらに含む、<1>~<7>のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
<9>
(B)金属系清浄剤として、カルシウム系清浄剤およびマグネシウム系清浄剤を含有し、カルシウム系清浄剤由来のカルシウム量が、潤滑油組成物全量基準で500質量ppm以上2500質量ppm以下であり、マグネシウム系清浄剤由来のマグネシウム量が、潤滑油組成物全量基準で、50質量ppm以上800質量ppm以下である、<1>~<8>のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
<10>
150℃におけるHTHS粘度が、1.7mPa・s以上2.9mPa・s以下である、<1>~<9>のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
<11>
150℃におけるHTHS粘度が、2.3mPa・s以上2.9mPa・s以下である、<1>~<10>のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物によれば、省燃費性を向上させるとともにオイルの液滴消費を抑制することができる内燃機関用潤滑油を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、以下、「本発明の潤滑油組成物の一実施形態」を単に「本発明」と称することがある。
【0010】
〔A〕潤滑油基油
本発明において使用される潤滑油基油としては、鉱油系基油または合成系基油のいずれも用いることができる。本発明においては、鉱油系基油を潤滑油基油として用いることが好ましい。
【0011】
鉱油系基油としては、原油を常圧蒸留して得られる留出油を使用することができる。また、この留出油をさらに減圧蒸留して得られる留出油を、各種の精製プロセスで精製した潤滑油留分も使用することができる。精製プロセスとしては、水素化精製、溶剤抽出、溶剤脱ろう、水素化脱ろう、硫酸洗浄、白土処理などを、適宜組み合わせることができる。これらの精製プロセスを適宜の順序で組み合わせて処理することにより、本発明で使用できる潤滑油基油を得ることができる。異なる原油または留出油を異なる精製プロセスの組合せに供することにより得られた、性状の異なる複数の精製油の混合物も使用可能である。
【0012】
本発明に用いられる鉱油系基油としては、API分類におけるグループIII基油に属するものを用いることが好ましい。APIグループIII基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、且つ粘度指数が120以上の鉱油系基油である。複数の種類のグループIII基油を用いてもよく、一種のみを用いてもよい。
本発明に用いられる鉱油系基油としては、API分類におけるグループII基油に属するものを用いることもできる。APIグループII基油は、硫黄分が0.03質量%以下、飽和分が90質量%以上、且つ粘度指数が80以上120未満の鉱油系基油である。複数の種類のグループII基油を用いてもよく、一種のみを用いてもよい。グループII基油とグループIII基油とを混合して用いることが好ましい。
【0013】
本発明においては、潤滑油基油として鉱油系基油のみを含むこともでき、その他の潤滑油基油を含むこともできる。具体的には、本発明において、鉱油系基油の含有量は、潤滑油基油基準で、例えば、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、または99質量%以上であることができる。
【0014】
本発明においては、潤滑油基油として合成系基油を用いてもよい。合成系基油としては、エステル系基油が好ましい。エステル系基油としては、例えば、有機酸エステル系基油、リン酸エステル系基油、およびケイ酸エステル系基油等が挙げられる。
合成系基油としては、エステル系基油以外に、ポリα-オレフィンおよびその水素化物、イソブテンオリゴマーおよびその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル、ならびにこれらの混合物等を用いることができる。
【0015】
本発明では、基油の溶解度パラメータの値と、後述するオイル消費抑制剤として用いられる高分子ポリマーの溶解度パラメータの値との差が1.0未満となるように、基油を選択する。溶解度パラメータの差が1.0未満となるように、基油とオイル消費抑制剤とを選択することで、省燃費性を向上させるとともにオイルの液滴消費を抑制することができる。
本発明における基油の溶解度パラメータの値は、例えば、7.5以上9.5以下、好ましくは7.5以上9.0以下、より好ましくは7.5以上8.8以下、さらに好ましくは7.5以上8.5以下、最も好ましくは8.0以上8.5以下である。
【0016】
本明細書において「溶解度パラメータ」とは、SP値(Solubility Parameter)とも呼ばれる。溶解度パラメータはその定義から沸点が測定できる液体でのみ算出可能であるが、高分子化合物へ適用する目的で、既知の溶媒へのポリマーの溶解度などを測定する方法から導きだされた。溶解度パラメータを推算する方法としては、物性値から推算する方法(蒸発潜熱から求める方法、表面張力による方法)と分子構造から推算する方法(Fedorsの計算方法、Hansenの計算方法、Hoyの計算方法など)とがある。本発明では、潤滑油基油の溶解度パラメータとオイル消費抑制剤として用いられる高分子ポリマーの溶解度パラメータとを、それぞれ、Fedorsの計算方法に基づき計算する。「添加剤の溶解性パラメータに関する考察」 上田ら、塗料の研究 No.152 Oct. 2010において、Fedorsの計算方法によるSP値の計算方法が詳述されている。
Fedorsの計算方法では、凝集エネルギー密度とモル分子容の両方が置換基の種類および数に依存していると考えられている。Fedorsの計算方法では、SP値σの測定に、以下の式(A)と表1に示す定数とが求められる。
式(A) σ(cal/ cm3)=[ΣEcoh(cal/mol)/ΣV(cm3/mol)]1/2
【0017】
【0018】
例えば、基油が、>CH-構造を1つ、-CH2-構造を8つ、そしてCH3-構造を1つ有するポリαオレフィンの場合は、ΣEcoh(cal/mol)は、約10385となり、ΣV(cm3/mol)は約161.3となる。したがって、[ΣEcoh(cal/mol)/ΣV(cm3/mol)]1/2≒8.40(cal/cm3)と計算できる。同様の方法でオイル消費抑制剤として用いられる高分子ポリマーの溶解度パラメータも計算することができる。
【0019】
本発明に含まれる潤滑油基油の100℃における動粘度は、2.0mm2/s以上6.0mm2/s以下である。本発明に含まれる潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは2.5mm2/s以上、より好ましくは3.0mm2/s以上、さらに好ましくは3.5mm2/s以上である。また、上限は、好ましくは5.5mm2/s以下、より好ましくは5.0mm2/s以下、さらに好ましくは4.5mm2/s以下である。具体的な範囲としては、好ましくは2.5mm2/s以上5.5mm2/s以下、より好ましくは3.0mm2/s以上5.0mm2/s以下、さらに好ましくは3.5mm2/s以上4.5mm2/s以下である。潤滑油基油の100℃における動粘度が6.0mm2/s以下であることにより、十分な省燃費性能を得ることができる。また、潤滑油基油の100℃における動粘度が2.0mm2/s以上であることにより、潤滑箇所での油膜形成を確保でき、潤滑油組成物の蒸発損失も小さくすることができる。
【0020】
前記の100℃における動粘度は、全ての潤滑油基油を混合した状態での動粘度、すなわち、基油全体としての動粘度を意味する。すなわち、複数の基油が含まれる場合の、特定の1つの潤滑油基油の動粘度を意味するものではない。
なお、本明細書において「100℃における動粘度」とは、ASTM D-445に準拠して測定された100℃での動粘度を意味する。
【0021】
本発明において、潤滑油基油の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、例えば、50質量%以上95質量%以下、好ましくは60質量%以上95質量%以下、より好ましくは60質量%以上90質量%以下、さらに好ましくは60質量%以上85質量%以下、最も好ましくは60質量%以上80質量%以下である。
【0022】
〔B〕金属系清浄剤
本発明は、金属系清浄剤として、例えば、カルシウム系清浄剤、マグネシウム系清浄剤、および/またはバリウム系清浄剤を含むことができる。これらの清浄剤は、ホウ酸、ホウ酸塩、炭酸、または炭酸塩により過塩基化されていてもよい。
【0023】
本発明は、金属系清浄剤として、金属サリシレートを含むことができる。金属サリシレートとしては、以下の式(1)で表される化合物を例示できる。
【0024】
【0025】
前記式(1)中、R1はそれぞれ独立に炭素数14~30のアルキル基またはアルケニル基を表し、nは1または2を表し、1が好ましい。なおn=2であるとき、R1は異なる基の組み合わせであってもよい。Mは金属元素、例えば、Ca、Mg、またはBaを表す。
【0026】
本発明は、金属系清浄剤として、金属スルホネートを含むことができる。金属スルホネートとしては、例えば、以下の式(2)で表される化合物を例示できる。
【0027】
【0028】
前記式(2)中、R2はそれぞれ独立に炭素数10~80のアルキル基またはアルケニル基を表し、nは1または2を表し、nとしては1が好ましい。なおn=2であるとき、R2は異なる基の組み合わせであってもよい。前記式(2)中、R2がそれぞれ独立に炭素数10~40のアルキル基またはアルケニル基を表すものを主成分(例えば、金属スルホネート中のスルホネート全量基準で90mol質量%以上)として含有する金属スルホネートを用いることが好ましい。Mは金属元素、例えば、Ca、Mg、またはBaを表す。
【0029】
本発明は、金属系清浄剤として、金属フェネートを含むことができる。金属フェネートとしては、例えば、以下の式(3)で表される化合物を例示できる。
【0030】
【0031】
式(3)中、R3は炭素数6~21の直鎖もしくは分岐鎖、飽和もしくは不飽和のアルキルまたはアルケニル基を表し、Aはスルフィド(-S-)基またはメチレン(-CH2-)基を表し、nは1~3の整数を表す。なおR3は2種以上の異なる基の組み合わせであってもよい。Mは金属元素、例えば、Ca、Mg、またはBaを表す。
【0032】
式(3)におけるR3の炭素数は、好ましくは9~18、より好ましくは9~15である。R3の炭素数が上記下限値以上であることにより、基油に対する溶解性を高めることができる。またR3の炭素数が上記上限値以下であることにより製造が容易になる。
【0033】
本発明は、金属系清浄剤として、カルシウム系清浄剤とマグネシウム系清浄剤を併用して含むことが好ましく、カルシウムサリシレートおよびマグネシウムスルホネートを含むことが最も好ましい。
【0034】
本発明において、金属系清浄剤の含有量は、金属系清浄剤由来の金属量として、潤滑油組成物全量基準で、100質量ppm以上3,500質量ppm以下である。金属系清浄剤の含有量の具体的な範囲としては、金属系清浄剤由来の金属量として、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは200質量ppm以上3,200質量ppm以下、より好ましくは300質量ppm以上3,000質量ppm以下、さらに好ましくは500質量ppm以上2,500質量ppm以下である。金属系清浄剤の含有量が100質量ppm以上であることにより、有効な清浄性能を発現する。また金属系清浄剤の含有量が3,500質量ppm以下であることにより、省燃費性能に悪影響を及ぼさない。
【0035】
本発明がマグネシウム系清浄剤を含む場合、マグネシウム系清浄剤に由来するマグネシウム量の具体的な範囲としては、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは50質量ppm以上800質量ppm以下、より好ましくは100質量ppm以上700質量ppm以下、さらに好ましくは150質量ppm以上600質量ppm以下、最も好ましくは150質量ppm以上400質量ppm以下である。マグネシウム系清浄剤に由来するマグネシウム量が、上記範囲内であることにより、有効な清浄性能を発現するとともに省燃費性能を維持できる。本明細書において、別途指定のない限り、油中のカルシウム、マグネシウム、亜鉛、ホウ素、リンおよびモリブデンの各元素の含有量は、JPI-5S-62に準拠して誘導結合プラズマ発光分光分析法(強度比法(内標準法))により測定されるものとする。
【0036】
本発明がカルシウム系清浄剤を含む場合、カルシウム系清浄剤に由来するカルシウム量の具体的な範囲としては、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは500質量ppm以上2,500質量ppm以下、より好ましくは1,000質量ppm以上2,200質量ppm以下、さらに好ましくは1,500質量ppm以上2,000質量ppm以下である。カルシウム系清浄剤に由来するカルシウム量が、上記範囲内であることにより、有効な清浄性能を発現するとともに省燃費性能を維持できる。
【0037】
(塩基価)
本発明がマグネシウム系清浄剤を含む場合、マグネシウム系清浄剤の塩基価の範囲としては、好ましくは200mgKOH/g以上600mgKOH/g以下、より好ましくは250mgKOH/g以上500mgKOH/g以下、さらに好ましくは300mgKOH/g以上450mgKOH/g以下である。なお、本明細書において、金属系清浄剤の塩基価は、JIS K 2501:2003の9により測定される値である。
【0038】
本発明がカルシウム系清浄剤を含む場合、カルシウム系清浄剤の塩基価の範囲としては、好ましくは140mgKOH/g以上400mgKOH/g以下、より好ましくは160mgKOH/g以上300mgKOH/g以下である。
【0039】
〔C〕オイル消費抑制剤
本発明は、オイル消費抑制剤を含む。オイル消費抑制剤とは、潤滑油に添加することで、潤滑油が霧状に分散することを防止する機能を有する高分子ポリマーである。オイル消費抑制剤として用いることができる高分子ポリマーとしては、重量平均分子量(Mw)1,500以上350,000以下の高分子ポリマー、例えば、ポリブテン(PB)、ポリイソブテン(PIB)、エチレン-プロピレンコポリマー(EPC)、オレフィンコポリマー(OCP)、ポリ(メタ)アクリレート(PMA)、およびスチレン-ジエンコポリマー(SDC)が挙げられる。高分子ポリマーは、好ましくはポリブテン(PB)、ポリイソブテン(PIB)、またはオレフィンコポリマー(OCP)であり、さらに好ましくはポリブテン(PB)またはポリイソブテン(PIB)であり、最も好ましくはポリイソブテン(PIB)である。
高分子ポリマーの種類は、基油の溶解度パラメータの値を考慮して、適宜選択することができる。オイル消費抑制剤として用いることができる高分子ポリマーは、櫛型ポリ(メタ)アクリレートを含むことができるが、含まないこともできる。
「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味し、「ポリ(メタ)アクリレート」とは、アクリレート単量体単位および/またはメタクリレート単量体単位を含むポリマーを意味する。
【0040】
オイル消費抑制剤として用いられる高分子ポリマーの重量平均分子量の下限は、1,500以上、5,000以上、10,000以上、30,000以上、50,000以上、75,000以上、100,000以上、150,000以上、200,000以上、または250,000以上であることができる。上限は、350,000以下、300,000以下、250,000以下、200,000以下、150,000以下、100,000以下、75,000以下、または50,000以下であることができる。オイル消費抑制剤として用いられる高分子ポリマーの重量平均分子量は、1,500以上300,000以下、1,500以上200,000以下、15,000以上100,000以下、または1,500以上75,000以下であることができる。オイル消費抑制剤として用いられる高分子ポリマーの重量平均分子量を350,000以下とすることで、省燃費性を向上させることができる。
【0041】
本発明では、オイル消費抑制剤として用いられる高分子ポリマーの溶解度パラメータの値と、基油の溶解度パラメータの値との差は、1.0未満である。基油の溶解度パラメータの値を考慮して、特定の溶解度パラメータを有する高分子ポリマーを適宜選択することができるが、溶解度パラメータの値が、例えば、6.5以上10.5以下、好ましくは7.0以上10.0以下、より好ましくは7.3以上9.3以下、さらに好ましくは7.5以上9.3未満の高分子ポリマーを用いることができる。
オイル消費抑制剤として用いられる高分子ポリマーの溶解度パラメータの値と、基油の溶解度パラメータの値との差は、0.9、0.8、または0.7未満であることができる。オイル消費抑制剤として用いられる高分子ポリマーの溶解度パラメータの値と、基油の溶解度パラメータの値とは、いずれの値が大きくともよい。オイル消費抑制剤として用いられる高分子ポリマーの溶解度パラメータの値と、基油の溶解度パラメータの値との差が1.0未満であることにより、基油と高分子ポリマーの溶解性が高くなり、オイルミスト抑制効果が高い。
【0042】
本発明において、オイル消費抑制剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、0.1質量%以上10.0質量%未満である。オイル消費抑制剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上である。上限は、好ましくは8.0質量%以下、より好ましくは7.0質量%以下、さらに好ましくは5.0質量%以下である。具体的な範囲としては、好ましくは0.2質量%以上8.0質量%以下、より好ましくは0.3質量%以上7.0質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上5.0質量%以下である。オイル消費抑制剤の含有量が上記範囲内であることにより、オイルミスト抑制効果を発現しつつ省燃費性能を維持できる。
【0043】
〔D〕粘度指数向上剤
本発明は、粘度指数向上剤を含むことが好ましい。粘度指数向上剤とは、潤滑油に添加することで、温度変化に伴う潤滑油の粘度変化を低減する機能を有する化合物を意味する。
粘度指数向上剤としては、本発明の効果が得られる限り、潤滑油組成物の分野で使用されている粘度指数向上剤を際限なく用いることができる。使用可能な粘度指数向上剤としては、ポリブテン(PB)、ポリイソブテン(PIB)、エチレン-プロピレンコポリマー(EPC)、オレフィンコポリマー(OCP)、ポリ(メタ)アクリレート(PMA)、スチレン-ジエンコポリマー(SDC)等を挙げることができる。ポリ(メタ)アクリレート(PMA)が好ましく、櫛型ポリ(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0044】
ポリ(メタ)アクリレートとしては、例えば、ポリマー中の全単量体単位に占める下記一般式(4)で表される(メタ)アクリレート構造単位の割合が10~90モル%であるポリ(メタ)アクリレートを例示できる。
【0045】
【化4】
(式(4)中、R
10は水素またはメチル基を表し、R
11は炭素数1~5の直鎖状または分枝状の炭化水素基を表す。)
【0046】
ポリ(メタ)アクリレートのポリマー中の全単量体単位における、一般式(4)で表される(メタ)アクリレート構造単位の割合が90モル%を超える場合は、基油への溶解性、粘度温度特性の向上効果、または低温粘度特性に劣るおそれがあり、10モル%を下回る場合は、粘度温度特性の向上効果に劣るおそれがある。
【0047】
本明細書において、櫛型ポリ(メタ)アクリレートとは、式(5)で表されるモノマー(M-1)と式(6)で表されるモノマー(M-2)との共重合体であるポリ(メタ)アクリレートを意味する。櫛型ポリ(メタ)アクリレートは、式(6)におけるR15の数平均分子量(Mn)が、1,000以上10,000以下(好ましくは1,500以上8,500以下、より好ましくは2,000以上7,000以下)であるマクロモノマーである。
【0048】
【化5】
(式(5)中、R
12は水素原子またはメチル基を表し、R
13は炭素数6~18の直鎖状または分枝状の炭化水素基を表す。)
【0049】
【化6】
(式(6)中、R
14は水素原子またはメチル基を表し、R
15は炭素数19以上の直鎖状または分枝状の炭化水素基を表す。)
【0050】
櫛型ポリ(メタ)アクリレートとしては、例えば、ブタジエンおよびイソプレンを共重合させることにより得られるポリオレフィンの水素化物から誘導されるマクロモノマーを採用できる。
本発明で使用されるポリ(メタ)アクリレートにおいて、ポリマー中の一般式(6)で表されるモノマー(M-2)に対応する(メタ)アクリレート構造単位は1種のみであってもよく、2種以上の組み合わせであっても良い。ポリマー中の全単量体単位に占める一般式(6)で表されるモノマー(M-2)に対応する構造単位の割合は、0.5~70モル%であることが好ましい。
【0051】
粘度指数向上剤の重量平均分子量は、100,000より大きく2,000,000以下、150,000より大きく1,800,000以下、200,000より大きく1,500,000以下、250,000より大きく1,200,000以下、300,000より大きく1,100,000以下、または350,000より大きく1,000,000以下であることができる。
【0052】
本発明が粘度指数向上剤を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物の粘度指数が、好ましくは160以上310以下、より好ましくは170以上290以下となるように適宜調整することができる。
本発明に粘度指数向上剤が含まれる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。上限は、20質量%以下、好ましくは18質量%以下、より好ましくは16質量%以下、さらに好ましくは14質量%以下である。具体的な範囲としては、0.1質量%以上20質量%以下、好ましくは1質量%以上18質量%以下、より好ましくは3質量%以上16質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上14質量%以下である。
【0053】
本明細書において、オイル消費抑制剤および粘度指数向上剤の重量平均分子量および数平均分子量は、それぞれゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で求められる値(ポリスチレン換算により得られた分子量)を意味する。なお、Mw、MnおよびMw/MnをGPCで求める際の測定条件は次の2通りである。
当業者であれば、測定すべきオイル消費抑制剤または粘度指数向上剤の種類、および重量平均分子量または数平均分子量に応じて、条件1および条件2のうち適切な方法を採用することができる。以下に限定されるものではないが、原則として高分子量のポリマーを条件1で、低分子量(例えば、重量平均分子量10,000以下)のポリマーを条件2で測定する。
【0054】
[GPC測定条件1]
装置:Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC UV RIシステム
カラム:上流側から順に、Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC XT900A(ゲル粒径2.5μm、カラムサイズ(内径×長さ)4.6mm×150mm)2本、および、Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC XT200A(ゲル粒径2.5μm、カラムサイズ(内径×長さ)4.6mm×150mm)1本を直列に接続
カラム温度:40℃
試料溶液:試料濃度1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液
流量:0.8mL/min
検出装置:示差屈折率検出器
基準物質:標準ポリスチレン(Agilent Technologies社製Agilent EasiCal(登録商標) PS-1)8点(分子量:2698000、660500、325600、128600、69650、30230、9960、2980)
【0055】
[GPC測定条件2]
装置:Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC UV RIシステム
カラム:上流側から順に、Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC XT125A(ゲル粒径2.5μm、カラムサイズ(内径×長さ)4.6mm×150mm)1本、および、Waters Corporation製 ACQUITY(登録商標) APC XT45A(ゲル粒径1.7μm、カラムサイズ(内径×長さ)4.6mm×150mm)2本を直列に接続
カラム温度:40℃
試料溶液:試料濃度1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液
流量:0.7mL/min
検出装置:示差屈折率検出器
基準物質:標準ポリスチレン(Agilent Technologies社製Agilent EasiCal(登録商標) PS-1)10点(分子量:30230、9960、2980、890、786、682、578、474、370、266)。
【0056】
〔E〕モリブデン系摩擦調整剤
本発明は、モリブデン系摩擦調整剤をさらに含むことが好ましい。モリブデン系摩擦調整剤としては、モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)が好ましい。
【0057】
MoDTCとしては、例えば次の式(7)で表される化合物を用いることができる。
【0058】
【0059】
前記式(7)中、R20~R23は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数2~24のアルキル基または炭素数6~24の(アルキル)アリール基、好ましくは炭素数4~13のアルキル基または炭素数10~15の(アルキル)アリール基である。アルキル基は第1級アルキル基、第2級アルキル基、第3級アルキル基のいずれでもよく、また直鎖でも分枝状でもよい。なお「(アルキル)アリール基」は「アリール基もしくはアルキルアリール基」を意味する。アルキルアリール基において、芳香環におけるアルキル基の置換位置は任意である。X1~X4はそれぞれ独立に硫黄原子または酸素原子であり、X1~X4のうち少なくとも1つは硫黄原子である。
【0060】
MoDTC以外のモリブデン系摩擦調整剤としては、例えば、モリブデンジチオホスフェート、酸化モリブデン、モリブデン酸、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、および硫黄を含有する有機モリブデン化合物等を挙げることができる。
【0061】
本発明がモリブデン系摩擦調整剤を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、例えば0.01質量%以上10質量%以下、好ましくは0.1質量%以上8質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上5質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上2質量%以下である。モリブデン系摩擦調整剤の含有量が前記下限値以上であることにより、省燃費性能をさらに高めることができる。またモリブデン系摩擦調整剤の含有量が前記上限値以下であることにより、潤滑油組成物の貯蔵安定性を高めることができる。
【0062】
本発明がモリブデン系摩擦調整剤を含む場合、モリブデン系摩擦調整剤由来のモリブデンの量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは100質量ppm以上2,000質量ppm以下、より好ましくは500質量ppm以上1,000質量ppm以下である。モリブデン含有量が前記下限値以上であることにより、省燃費性能をさらに高めることができる。またモリブデンの量が前記上限値以下であることにより、潤滑油組成物の貯蔵安定性を高めることができる。
【0063】
(その他の添加剤)
本発明は、さらに、無灰摩擦調整剤、酸化防止剤、および/または分散剤を含むことができる。
【0064】
無灰摩擦調整剤としては、N-オレオイルサルコシンを添加することが好ましい。本発明の潤滑油組成物が無灰摩擦調整剤を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、3.0質量%以下であり、好ましくは2.0質量%以下であり、また好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%以上である。
【0065】
酸化防止剤としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を添加することが好ましい。例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛としては、次の一般式(8)に示す化合物を挙げることができる。
【0066】
【0067】
前記一般式(8)中のR30~R33は、それぞれ独立に、炭素数1~24の直鎖状もしくは分枝状のアルキル基である。このアルキル基は、第1級でも、第2級でも、第3級であってもよい。ジアルキルジチオリン酸亜鉛としては、第1級アルキル基を有するジチオリン酸亜鉛(プライマリーZnDTP)または第2級アルキル基を含有するジチオリン酸亜鉛(セカンダリーZnDTP)が好ましく、特には、第2級のアルキル基のジチオリン酸亜鉛を主成分とするものが、耐摩耗性を高めるため好ましい。
本発明においては、これらのジアルキルジチオリン酸亜鉛は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
本発明がジアルキルジチオリン酸亜鉛を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、例えば0.01質量%以上20質量%以下、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下、より好ましくは0.2質量%以上5質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上2質量%以下である。
【0069】
本発明に含まれるジアルキルジチオリン酸亜鉛由来のリンの量は、潤滑油組成物全量基準で、例えば、100質量ppm以上2,000質量ppm以下、好ましくは500質量ppm以上1,000質量ppm以下である。
【0070】
酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤、またはモリブデン系酸化防止剤等の公知の酸化防止剤も使用可能である。例としては、ビス(ノナン-1-イルフェニル)アミンなどのアミン系酸化防止剤、モリブデン酸ジアルキルアミン塩などのモリブデン系酸化防止剤を挙げることができる。
潤滑油組成物がジアルキルジチオリン酸亜鉛以外の酸化防止剤を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常5.0質量%以下であり、好ましくは3.0質量%以下であり、また好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上である。
【0071】
分散剤としては、無灰分散剤、例えば、コハク酸イミドまたはベンジルアミンなどが挙げられる。
本発明が分散剤を含む場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常5.0質量%以下であり、また好ましくは0.1質量%以上である。
【0072】
本発明は、その性能をさらに向上するために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている他の添加剤を含むことができる。そのような添加剤としては、摩耗防止剤または極圧剤、流動点降下剤、腐食防止剤、防錆剤、金属不活性化剤、消泡剤等の添加剤を挙げることができる。
【0073】
(内燃機関用潤滑油組成物)
本発明の150℃におけるHTHS粘度は、1.7mPa・s以上2.9mPa・s以下、好ましくは1.8mPa・s以上2.9mPa・s以下、より好ましくは2.0mPa・s以上2.9mPa・s以下、さらに好ましくは2.3mPa・s以上2.9mPa・sである。150℃におけるHTHS粘度が2.9mPa・s以下であることにより、良好な省燃費性能を得ることができる。150℃におけるHTHS粘度が1.7mPa・s以上であることにより、良好な潤滑性を得ることができる。
なお、150℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D 4683に規定される150℃での高温高せん断粘度を示す。
【0074】
本発明の100℃におけるHTHS粘度は、4.8mPa・s以上6.0mPa・s以下、好ましくは4.9mPa・s以上5.9mPa・s以下、より好ましくは5.0mPa・s以上5.8mPa・s以下、さらに好ましくは5.0mPa・s以上5.7mPa・s以下である。100℃におけるHTHS粘度が4.8mPa・s以上であることにより、良好な潤滑性を得ることができ、6.0mPa・s以下であることにより、必要な低温粘度および十分な省燃費性能を得ることができる。
なお、100℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D 4683に規定される100℃での高温高せん断粘度を示す。
【0075】
本発明の粘度指数は、160以上310以下であることが好ましく、より好ましくは170以上290以下である。潤滑油組成物の粘度指数が160以上であることにより、150℃におけるHTHS粘度を維持しながら省燃費性能を向上させることができる。また、潤滑油組成物の粘度指数が290を超える場合には、蒸発性が悪化するおそれがある。
なお、本明細書において粘度指数とは、JIS K 2283-1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0076】
本発明の潤滑油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは14mm2/s以上、より好ましくは18mm2/s以上、さらに好ましくは20mm2/s以上、最も好ましくは22mm2/s以上である。上限は、好ましくは40mm2/s以下、より好ましくは36mm2/s以下、さらに好ましくは33mm2/s以下、最も好ましくは30mm2/s以下である。具体的な範囲としては、好ましくは14mm2/s以上40mm2/s以下、より好ましくは18mm2/s以上36mm2/s以下、さらに好ましくは20mm2/s以上33mm2/s以下、最も好ましくは22mm2/s以上30mm2/s以下である。潤滑油組成物の40℃における動粘度が40mm2/s以下であることにより、十分な省燃費性能を得ることができる。また、潤滑油組成物の40℃における動粘度が14mm2/s以上であることにより、潤滑箇所での油膜形成を確保でき、潤滑油組成物の蒸発損失も小さくすることができる。
なお、本明細書において「40℃における動粘度」とは、ASTM D-445に準拠して測定された40℃での動粘度を意味する。
【0077】
本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、好ましくは4.0mm2/s以上、より好ましくは6.0mm2/s以上である。上限は、好ましくは10.0mm2/s以下、より好ましくは9.0mm2/s以下である。具体的な範囲としては、好ましくは4.0mm2/s以上10.0mm2/s以下、より好ましくは6.0mm2/s以上9.0mm2/s以下である。
【0078】
本発明の潤滑油組成物15℃における密度(ρ15)は、好ましくは0.860以下、より好ましくは0.850以下である。なお、本明細書において15℃における密度とは、ASTM D4052に準拠して15℃において測定された密度を意味する。
【実施例】
【0079】
実施例を用いて、以下に本発明を説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0080】
<潤滑油の配合>
各実施例および各比較例について表2~3に示す配合割合で、基油および添加剤を配合することによって、試験用潤滑油組成物を調製した。得られた試験用潤滑油組成物に対して、次に示す評価を行った。評価結果を表4~5に示す。
【0081】
(A)基油
・基油1:グループIII基油(水素化精製鉱油) 動粘度4.2mm2/s(100℃)、粘度指数 125
・基油2:グループIII基油(水素化精製鉱油) 動粘度3.9mm2/s(100℃)、粘度指数 144
・基油3:グループII基油(水素化精製鉱油) 動粘度3.0mm2/s(100℃)、粘度指数 106
・基油4:ポリ-α-オレフィン 動粘度5.2mm2/s(100℃)、粘度指数 145
・基油5:エステル基油 動粘度3.0mm2/s(100℃)、粘度指数 146
・基油6:エステル基油 動粘度4.4mm2/s(100℃)、粘度指数 140
表2~3に示した質量比で基油を混合し、潤滑油基油を調製した。表中、基油の数値は基油全量基準での質量比を表している。
【0082】
表2~3に記載の通り、添加剤を添加した。添加剤の詳細は以下の通りである。添加剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準である。
(B)金属系清浄剤
・金属系清浄剤1:炭酸カルシウムサリシレート(カルシウム含有量が6.2質量%、塩基価:170mgKOH/g)
・金属系清浄剤2:ホウ酸カルシウムサリシレート(カルシウム含有量が6.8質量%、ホウ素含有量が2.7質量%、塩基価:190mgKOH/g)
・金属系清浄剤3:炭酸マグネシウムスルホネート(マグネシウム含有量が9.1質量%、塩基価:405mgKOH/g)
(C)粘度指数向上剤
・粘度指数向上剤1:櫛型ポリ(メタ)アクリレート(重量平均分子量500,000、SP値9.3)
(D)オイル消費抑制剤
・オイル消費抑制剤1:ポリイソブテン(重量平均分子量300,000、SP値7.7)
・オイル消費抑制剤2:オレフィンコポリマー(重量平均分子量120,000、SP値8.3)
・オイル消費抑制剤3:オレフィンコポリマー(重量平均分子量190,000、SP値8.3)
・オイル消費抑制剤4:ポリ(メタ)アクリレート(重量平均分子量100,000、SP値9.3)
・オイル消費抑制剤5:スチレン-ジエンコポリマー(重量平均分子量400,000、SP値10.5)
・オイル消費抑制剤6:ポリイソブテン(重量平均分子量500,000、SP値7.7)
・オイル消費抑制剤7:ポリブテン(重量平均分子量2,000、SP値8.0)
・オイル消費抑制剤8:ポリイソブテン(重量平均分子量49,000、SP値7.7)
・オイル消費抑制剤9:櫛型ポリ(メタ)アクリレート(重量平均分子量300,000、SP値9.3)
(E)摩擦調整剤
・Mo系摩擦調整剤1:モリブデンジチオカーバメート(モリブデン含有量が10.1質量%)
・無灰摩擦調整剤1:N-オレオイルサルコシン酸
(F)分散剤
・分散剤1:コハク酸イミド系分散剤(窒素含有量が0.8質量%、ホウ素含有量が0.0質量%)
(G)酸化防止剤
・酸化防止剤1:アミン系無灰酸化防止剤(ビス(ノナン-1-イルフェニル)アミン、窒素含有量が3.6質量%)
・酸化防止剤2:モリブデン系酸化防止剤(モリブデン酸ジアルキルアミン塩、モリブデン含有量が10.0質量%、窒素含有量が1.2質量%)
・酸化防止剤3:リン系酸化防止剤(ジアルキルジチオリン酸亜鉛、亜鉛含有量が9.3質量%、リン含有量が8.5質量%、硫黄含有量が17.8質量%、セカンダリーZnDTP)
・酸化防止剤4:リン系酸化防止剤(ジアルキルジチオリン酸亜鉛、亜鉛含有量が7.8質量%、リン含有量が7.0質量%、硫黄含有量が14.8質量%、プライマリーZnDTP)
【0083】
<評価方法>
(1)HTHS粘度および粘度指数
100℃および150℃におけるHTHS粘度を、ASTM D 4683に規定される方法で、計測した。
また、粘度指数をJIS K 2283-1993に準拠して測定した。150℃におけるHTHS粘度が1.7mPa・s以上2.9mPa・s以下の試験用潤滑油組成物を、良好な省燃費性能および良好な潤滑性を有すると評価した。
【0084】
(2)ミスト試験(オイルの液滴消費量の評価)
ミスト発生器内部にて油温40℃に調整した潤滑油に対して圧縮空気を供給し、ベンチュリー効果によってミストを発生させた。空気圧力は0.07MPaに調整した。オイルミスト粒径が大きいほど凝集しやすいため、系内上流側でトラップされる。試験機系内で凝集・トラップされなかった最も粒径の小さいミストの量(ストレーミストの量)を基にして、オイルミストの発生しやすさを評価した。ストレーミストの量が、25.00g/h以下の試験用潤滑油組成物を、液滴消費量が少ないと評価した。
【0085】
各試験用潤滑油組成物の評価結果を以下の表4~5に示す。なお、実施例1~6および比較例1~4の各試験用潤滑油組成物の15℃における密度は、いずれも0.850以下である。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
オイル消費抑制剤として重量平均分子量1,500以上350,000以下のオイル消費抑制剤を用い、オイル消費抑制剤の溶解度パラメータの値と、基油の溶解度パラメータの値との差が、1.0未満である実施例1~6の各試験用潤滑油組成物は、いずれも150℃におけるHTHS粘度が1.7mPa・s以上2.9mPa・s以下であり、そして、ストレーミストの量が、25.00g/h以下であり、したがって、良好な結果を示した。
オイル消費抑制剤を含まない比較例1では、ストレーミストの量が、25.00g/hを超過した。
オイル消費抑制剤の溶解度パラメータの値と、基油の溶解度パラメータの値との差が、1.0以上である比較例2および3では、ストレーミストの量が、25.00g/hを超過した。
重量平均分子量が500,000のオイル消費抑制剤を用いた比較例4では、HTHS粘度が2.9mPa・sを超過した。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物によれば、省燃費性を向上させるとともにオイルの液滴消費を抑制することができる内燃機関用潤滑油を提供することができる。