(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-24
(45)【発行日】2025-04-01
(54)【発明の名称】放熱材
(51)【国際特許分類】
H01F 6/04 20060101AFI20250325BHJP
D04H 1/435 20120101ALI20250325BHJP
D04H 1/46 20120101ALI20250325BHJP
【FI】
H01F6/04
D04H1/435
D04H1/46
(21)【出願番号】P 2021178033
(22)【出願日】2021-10-29
【審査請求日】2024-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】307046545
【氏名又は名称】クラレクラフレックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】片山 隆
(72)【発明者】
【氏名】高尾 智明
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-33475(JP,A)
【文献】特開平6-244027(JP,A)
【文献】特開平4-266077(JP,A)
【文献】特開平8-115813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/04
D04H 1/435
D04H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝導冷却型超電導コイルにおいて冷却装置と高温超電導線材との間に配置するための、繊維シートを含んでなる放熱材であって、繊維シートに含まれる含浸樹脂の量は繊維シートの総質量に基づいて5質量%未満であり、繊維シートを形成する繊維の少なくとも一部の、273Kから77Kに冷却した際の繊維方向での熱歪みは0より大きく、繊維シートを形成している繊維の少なくとも一部はシート面に対して30度より大きい角度で配向しており、繊維シートを形成する繊維の密度に対する放熱材の密度の百分率は10%以上、70%以下である、放熱材。
【請求項2】
前記放熱材の任意の断面の幅2.4mm当たり1以上の繊維交絡部を有する、請求項1に記載の放熱材。
【請求項3】
前記繊維の、77Kにおける繊維方向での熱伝導率は0.20~10W/m・Kである、請求項1または2に記載の放熱材。
【請求項4】
前記繊維の、273Kから77Kに冷却した際の繊維方向での熱歪みは2500×10
-6~6500×10
-6である、請求項1~3のいずれかに記載の放熱材。
【請求項5】
前記繊維は液晶性ポリエステル繊維である、請求項1~4のいずれかに記載の放熱材。
【請求項6】
前記繊維シートの目付は30~200g/m
2である、請求項1~5のいずれかに記載の放熱材。
【請求項7】
前記繊維シートは連続不織布または短繊維不織布である、請求項1~6のいずれかに記載の放熱材。
【請求項8】
前記放熱材の厚さは100~500μmである、請求項1~7のいずれかに記載の放熱材。
【請求項9】
前記放熱材の任意の断面の幅2.4mmの範囲で観察される繊維のうち10本以上は、シート面に対して30度より大きい角度で配向している、請求項1~8のいずれかに記載の放熱材。
【請求項10】
前記放熱材は含浸された樹脂を含まない、請求項1~9のいずれかに記載の放熱材。
【請求項11】
シート状の繊維集合体を水流絡合処理、気流絡合処理、ニードルパンチ処理またはこれらを組み合わせた処理に付すことにより繊維シートを形成することを含む、請求項1~10のいずれかに記載の放熱材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝導冷却型超電導コイルにおいて冷却装置と高温超電導線材との間に配置するための放熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導コイルの冷却方式は、浸漬冷却と伝導冷却とに大別される。浸漬冷却に対して伝導冷却では、冷媒が不要であり、任意の温度に冷却できるといった利点が存在する。その一方で、緩慢な冷却速度、熱安定性が悪いといった問題点が指摘されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、280K以上300K以下の温度領域にてステンレスとの動摩擦係数が0.04以上、0.14以下、厚みが0.01mm以上、10mm以下である繊維布帛を、樹脂非含浸超電導コイルにおいてコイルとコイルの間に巻き込むタイプの絶縁層間シートとして用いることが開示されている。
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載されている技術では、繊維布帛の金属線材に対する動摩擦係数をステンレスに対して規定しているため、酸化物系超電導線材または金属系超電導線材に樹脂を被覆した線材に対しては、十分な効果を発揮できない場合がある。また、布帛繊維間の隙間を冷媒が流動することによって熱を除去する浸漬冷却での使用を前提としているため、同文献の繊維布帛を伝導冷却型HTS線材に用いると、十分な冷却効果は得られない。
【0004】
また、コイル構成材料若しくは超電導線材周辺の部材材料として、エポキシ樹脂をマトリックス樹脂としたガラス繊維強化複合材料(以下、「GFRP」と略記する)が一般的に使用されている。例えば特許文献2には、無機繊維と樹脂とを一体成形してなる繊維強化プラスチックを切断してなる極低温スペーサーにおいて、初期の圧縮荷重が50MPaにおける20℃での48時間後の応力保持率が96%以上であり、且つ繊維軸方向の無荷重での熱膨張係数が15×10-6(1/℃)以下であることを特徴とする極低温スペーサーが開示されており、同文献には、無機繊維を含む一方向強化または織物強化のプリプレグシートを用いて繊維強化プラスチックを製造することが記載されている。
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献2に記載されている技術では、GFRPの熱伝達性が低く、また、冷却時に収縮するため超電導線材とGFRPで作られた部材との密着性が低下して熱伝達性の更なる低下および部材が動くことによる摩擦熱の発生を招く場合がある。
【0005】
このような問題を解決すべく、特許文献3では、繊維強化樹脂の総質量に基づいて30~95質量%の繊維を含有する繊維強化樹脂からなる放熱材であって、前記繊維は8cN/dtex以上の引張強度を有し、77Kにおける繊維方向での熱伝導率は0.20~10W/m・Kであり、放熱材を273Kから77Kに冷却した際の繊維方向での熱歪みは2500×10-6~6500×10-6である、放熱材が提案されている。この放熱材では、特定の繊維を樹脂で固定することにより、形態安定性および取り扱い性を確保し、繊維のズレによる発熱も回避し、冷却時でも優れた冷却性能を実現している。しかし、より優れた放熱性を有する放熱材の開発は常に求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-151319号公報
【文献】特開平10-310649号公報
【文献】特開2020-33475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、高い熱伝達性を示し、伝導冷却時でも超電導線材と放熱材との接触を良好に保持し、優れた冷却性能を発現する放熱材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するため詳細に検討を重ね、本発明の完成に至った。即ち、本発明は、以下の好適な実施態様を包含する。
[1]伝導冷却型超電導コイルにおいて冷却装置と高温超電導線材との間に配置するための、繊維シートを含んでなる放熱材であって、繊維シートに含まれる含浸樹脂の量は繊維シートの総質量に基づいて5質量%未満であり、繊維シートを形成する繊維の少なくとも一部の、273Kから77Kに冷却した際の繊維方向での熱歪みは0より大きく、繊維シートを形成している繊維の少なくとも一部はシート面に対して30度より大きい角度で配向しており、繊維シートを形成する繊維の密度に対する放熱材の密度の百分率は10%以上、70%以下である、放熱材。
[2]前記放熱材の任意の断面の幅2.4mm当たり1以上の繊維交絡部を有する、前記[1]に記載の放熱材。
[3]前記繊維の、77Kにおける繊維方向での熱伝導率は0.20~10W/m・Kである、前記[1]または[2]に記載の放熱材。
[4]前記繊維の、273Kから77Kに冷却した際の繊維方向での熱歪みは2500×10-6~6500×10-6である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の放熱材。
[5]前記繊維は液晶性ポリエステル繊維である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の放熱材。
[6]前記繊維シートの目付は30~200g/m2である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の放熱材。
[7]前記繊維シートは連続不織布または短繊維不織布である、前記[1]~[6]のいずれかに記載の放熱材。
[8]前記放熱材の厚さは100~500μmである、前記[1]~[7]のいずれかに記載の放熱材。
[9]前記放熱材の任意の断面の幅2.4mmの範囲で観察される繊維のうち10本以上は、シート面に対して30度より大きい角度で配向している、前記[1]~[8]のいずれかに記載の放熱材。
[10]前記放熱材は含浸された樹脂を含まない、前記[1]~[9]のいずれかに記載の放熱材。
[11]シート状の繊維集合体を水流絡合処理、気流絡合処理、ニードルパンチ処理またはこれらを組み合わせた処理に付すことにより繊維シートを形成することを含む、前記[1]~[10]のいずれかに記載の放熱材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い熱伝達性を示し、伝導冷却時でも超電導線材と放熱材との接触を良好に保持し、優れた冷却性能を発現する放熱材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】繊維の繊維方向での熱伝導率を測定する装置の概略図である。
【
図2】放熱材の熱伝達性を測定する装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[放熱材]
本発明の放熱材は、伝導冷却型超電導コイルにおいて冷却装置と高温超電導線材との間に配置するための、繊維シートを含んでなる放熱材である。
【0012】
本発明の放熱材において、繊維シートを形成している繊維の少なくとも一部はシート面に対して30度より大きい角度で配向しており、これにより、繊維同士が絡まって交絡部が形成されている。
更に、繊維シートを形成する繊維の密度に対する放熱材の密度の百分率〔{(放熱材の密度)/(繊維シートを形成する繊維の密度)}×100〕は10%以上、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上であり、70%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下である。即ち、放熱材は、ある程度の嵩高さを有する。前記百分率が10%未満であると、熱伝導に寄与する繊維の本数が少なく、十分な熱伝達性が得られない場合がある。また、前記百分率が70%より大きいと、厚さ方向に繊維を配向させにくくなり、また、冷却時に膨張する繊維を用いた場合に繊維が膨張しにくくなり、十分な熱伝達性が得られない場合がある。なお、前記百分率は、後述の実施例に記載の方法で求めることができる。繊維シートが複数種の繊維で形成されている場合は、繊維シートを形成する繊維の密度は、後述の実施例に記載の方法で求めた各繊維の密度に、各繊維の割合を乗じて求める。例えば、繊維シートが密度D1を有する繊維1の40質量%および密度D2を有する繊維2の60質量%で形成されている場合は、0.4×D1+0.6×D2により繊維シートを形成する繊維の密度が求められる。
【0013】
上述した特徴をあわせ持つことにより、放熱材が高い熱伝達性を示し、伝導冷却時でも超電導線材と放熱材との接触を良好に保持し、優れた冷却性能を発現できる理由としては、下記作用機構が推定される。まず、繊維の少なくとも一部がシート面に対して特定の角度より大きい角度で配向していることにより繊維同士が絡まる(交絡部を有する)ことで形態安定性が確保され、特定の嵩高さを有することにより冷却装置と超電導線材との間で放熱材が固定されて繊維のズレによる発熱が生じにくい。そして、冷却時であっても、これら繊維同士の絡まりおよび嵩高さが好適に作用して形態安定性および繊維のズレにくさがもたらされる。また、冷却時に繊維が配向方向に膨張し、放熱材と超電導線材との密着性および/または放熱材と冷却装置の冷却板との密着性が高くなるため、放熱材は高い熱伝達性を示し、冷却時でも優れた冷却性能を発現できる。ただし、上記は推定であり、本発明はこの作用機構に限定されない。
【0014】
本発明の放熱材では、繊維を多量の含浸樹脂で固定しなくても、上述の通り、形態安定性および優れた冷却性能を発現できる。従って、繊維シートに含まれる含浸樹脂の量は、繊維シートの総質量に基づいて5質量%未満である。繊維シートに含まれる含浸樹脂の量は、繊維シートの総質量に基づいて、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、または0質量%であってもよい。繊維シートに含浸された樹脂の量がより少ないと、後述するように、繊維シートを形成している繊維として冷却時に膨張する繊維を用いた場合にその膨張がより阻害されにくく、その結果、伝導冷却時でも放熱材と超電導線材との密着性および/または放熱材と冷却装置の冷却板との密着性を向上することができる。本発明の好ましい一実施態様では、放熱材は含浸された樹脂を含まない。
【0015】
繊維に含浸させる樹脂は特に限定されない。熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂のいずれであってもよく、熱硬化性樹脂であることが好ましい。例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂等の柔らかい熱硬化性樹脂がより好ましい。
【0016】
好ましい一実施態様において、放熱材は、放熱材の任意の断面の幅2.4mm当たり1以上、好ましくは2以上、より好ましくは3以上の繊維交絡部を有する。前記繊維交絡部の上限値は特に限定されず、通常は10以下である。
また、好ましい一実施態様において、放熱材は、放熱材の任意の断面の幅2.4mmの範囲で観察される繊維のうち10本以上、好ましくは50本以上、より好ましくは100本以上がシート面に対して30度より大きい角度で配向している。この配向している繊維の本数の上限値は特に限定されず、通常は300本以下である。配向している繊維の本数は、連続繊維の屈曲部分を以って2本とする。
繊維交絡部の数並びに配向している繊維の有無および数は、後述の実施例に記載するように、放熱材の断面を走査型電子顕微鏡で観察することにより評価できる。繊維交絡部は、織目および編目とは異なり、走査型電子顕微鏡の観察画像において相互に区別できる。
放熱材の任意の断面の幅2.4mm当たり1以上の繊維交絡部が存在すること、および放熱材の任意の断面の幅2.4mmの範囲で観察される繊維のうち10本以上が特定の角度より大きい角度で配向していることは、シートの厚さ方向に配向した繊維が一定の割合以上で存在し、繊維同士の絡まりが一定の割合以上で存在していることを表している。従って、これらの実施態様では、放熱材はより高い熱伝達性を示し、冷却時でもより優れた冷却性能を発現できる。
繊維の配向および繊維交絡部の形成は、例えば、シート状の繊維集合体に水流絡合処理、気流絡合処理、ニードルパンチ処理またはこれらを組み合わせた処理を行うことにより、実施できる。
【0017】
放熱材の厚さは、好ましくは100μm以上、より好ましくは150μm以上、特に好ましくは200μm以上であり、好ましくは500μm以下、より好ましくは400μm以下、特に好ましくは300μm以下である。放熱材の厚さが前記下限値以上であると、所望の形態安定性および取り扱い性を得やすく、前記上限値以下であると、所望の熱伝達性を得やすい。放熱材の厚さは、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0018】
本発明の放熱材は、繊維シートに加えて、絶縁性を損なわない範囲で、任意に、冷却装置の冷却板、熱伝導板および/または熱伝導線など、伝導冷却型超電導コイルを構成する部品の一部を含んでもよい。
冷却性能の観点から、好ましい一実施態様では、放熱材は繊維シートからなる。
【0019】
好ましい一実施態様において、繊維シートを形成している繊維の、77Kにおける繊維方向での熱伝導率は、好ましくは0.20~10W/m・K、より好ましくは0.25~5.0W/m・K、更に好ましくは0.30~3.0W/m・K、特に好ましくは0.35~2.0W/m・Kである。熱伝導率が前記範囲内であると、放熱材としての性能が十分に発現されやすい。そのような繊維の例としては、高強度ポリエチレン繊維、アラミド繊維および液晶性ポリエステル繊維が挙げられる。繊維シートを形成している繊維は、一種単独でも、二種以上の組み合わせでもよい。熱伝導率は、後述の実施例に記載の方法に従って測定できる。
【0020】
繊維シートを形成している繊維は、その摩擦係数が0.15~0.50の範囲であることが好ましく、0.20~0.45の範囲であることがより好ましい。摩擦係数が前記範囲内であると、繊維を配向させやすく繊維交絡部が形成されやすい。そのような繊維の例としては、アラミド繊維および液晶性ポリエステル繊維が挙げられる。繊維の摩擦係数は、JIS L 1015:2010を参考にレーダー法で測定できる。例えば、金属をクロームとし、荷重100mg、周速度120r.p.mの条件で測定する。
【0021】
繊維シートを形成している繊維の少なくとも一部(例えば、30質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上)の、好ましくは繊維シートを形成している繊維の全ての、273Kから77Kに冷却した際の繊維方向での熱歪みは、0より大きく、好ましくは2500×10-6~6500×10-6、より好ましくは3000×10-6~6000×10-6、更に好ましくは3500×10-6~5500×10-6である。本明細書において熱歪みとは、放熱材が温度低下につれて膨張または収縮する現象を意味し、冷却した際の繊維方向(繊維軸方向)での熱歪みが正の値であると、繊維は繊維方向に膨張する。本発明では、前記熱歪みが正の値をとるため、放熱材が温度低下につれて繊維方向に膨張する負膨張特性を示し、冷却時でも超電導線材と放熱材との接触を良好に保持して優れた冷却性能を発現できる。熱歪みが前記数値範囲内であると、熱歪みと良好な熱伝達性との両立が達成されやすいため放熱材としての性能が発現されやすい。熱歪みは後述の実施例に記載の方法に従って測定できる。
【0022】
前記範囲の熱歪みを有する繊維としては、例えば、高強度ポリエチレン繊維、アラミド繊維および液晶性ポリエステル繊維が挙げられる。これらの中でも、より好ましい熱歪みを発現しやすい観点、適度な摩擦係数を有するため繊維シートに加工すると繊維を配向させやすく繊維交絡部が形成されやすい観点からは、液晶性ポリエステル繊維が好ましい。
【0023】
<液晶性ポリエステル繊維>
本発明における「液晶性ポリエステル繊維」は、液晶性ポリエステルを溶融紡糸することにより製造できる。液晶性ポリエステルは、溶融相において光学的異方性(液晶性)を示すポリエステルであり、例えば試料をホットステージに載せ窒素雰囲気下で加熱し、試料の透過光を偏光顕微鏡で観察することにより認定できる。また、液晶性ポリエステルは、例えば芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸または芳香族ヒドロキシカルボン酸等に由来する反復構成単位からなり、本発明の効果を損なわない限り、前記構成単位は、その化学的構成について特に限定されない。更に、また、本発明の効果を阻害しない範囲で、液晶性ポリエステルは、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンまたは芳香族アミノカルボン酸に由来する構成単位を含んでもよい。
【0024】
例えば、好ましい構成単位としては、表1に示す例が挙げられる。
【表1】
【0025】
ここで、Yは、1~芳香族環において置換可能な最大数の範囲の個数存在し、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)、アラルキル基[ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(フェニルエチル基)等]、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基等)およびアラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基等)等からなる群から選択される。
【0026】
より好ましい構成単位としては、下記表2、表3および表4に示す例(1)~(18)に記載される構成単位が挙げられる。なお、式中の構成単位が、複数の構造を示し得る構成単位である場合、そのような構成単位を二種以上組み合わせて、ポリマーを構成する構成単位として使用してもよい。
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
表2、3および4の構成単位において、nは1または2の整数で、それぞれの構成単位n=1、n=2は、単独でまたは組み合わせて存在してもよく、;Y1およびY2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)、アラルキル基[ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(フェニルエチル基)等]、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基等)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基等)等であってよい。これらのうち、好ましいYとしては、水素原子、塩素原子、臭素原子またはメチル基が挙げられる。
【0031】
また、Zとしては、下記式で表される置換基が挙げられる。
【化1】
【0032】
好ましい液晶性ポリエステルは、好ましくは、二種以上のナフタレン骨格を構成単位として有する。特に好ましくは、液晶性ポリエステルは、ヒドロキシ安息香酸由来の構成単位(A)およびヒドロキシナフトエ酸由来の構成単位(B)の両方を含む。例えば、構成単位(A)としては下記式(A)が挙げられ、構成単位(B)としては下記式(B)が挙げられ、溶融成形性を向上しやすい観点から、構成単位(A)と構成単位(B)の比率は、好ましくは9/1~1/1、より好ましくは7/1~1/1、更に好ましくは5/1~1/1の範囲であってよい。
【0033】
【0034】
また、(A)の構成単位と(B)の構成単位の合計は、例えば、全構成単位に対して65モル%以上であってよく、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上であってよい。ポリマー中、特に(B)の構成単位が4~45モル%である液晶性ポリエステルが好ましい。
【0035】
本発明で好適に用いられる液晶性ポリエステルの融点は、好ましくは250~360℃、より好ましくは260~320℃である。ここで、融点とは、JIS K7121試験法に準拠し、示差走差熱量計(DSC;メトラー社製「TA3000」)で測定し、観察される主吸収ピーク温度である。具体的には、前記DSC装置に、サンプルを10~20mgとりアルミ製パンへ封入した後、キャリヤーガスとしての窒素を100cc/分で流通させ、20℃/分で昇温したときの吸熱ピークを測定する。ポリマーの種類によってDSC測定において1st runで明確なピークが現れない場合は、50℃/分の昇温速度で予想される流れ温度よりも50℃高い温度まで昇温し、その温度で3分間保持し、完全に溶融した後、-80℃/分の降温速度で50℃まで冷却し、しかる後に20℃/分の昇温速度で吸熱ピークを測定するとよい。
【0036】
なお、前記液晶性ポリエステルには、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、およびフッ素樹脂等の熱可塑性ポリマーを添加してもよい。また、酸化チタン、カオリン、シリカ、酸化バリウム等の無機物、カーボンブラック、染料、顔料等の着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0037】
本発明の放熱材に含まれる液晶性ポリエステル繊維は、常法により前記液晶性ポリエステルを溶融紡糸して製造できる。通常は、液晶性ポリエステルの融点より10~50℃高い温度で紡糸する。紡糸後の繊維は熱処理を行ってもよい。熱処理により固相重合(一部架橋反応も伴うこともある)が起こり、強度および弾性率が向上し、更に融点が上昇する。
【0038】
熱処理は、窒素等の不活性雰囲気中または空気のような酸素含有活性雰囲気中または減圧下で行うことが可能である。露点が-40℃以下の気体の雰囲気中で熱処理することが好ましい。好ましい温度条件としては、液晶性ポリエステル繊維の融点以下から順次昇温していく温度条件が挙げられる。熱処理は、目的とする性能に応じて、数秒から数十時間行うことができる。通常熱処理は繊維の状態で行われるが、必要に応じて不織布、織物、編物、後述のシート状の繊維集合体、または繊維シートの状態で行ってもよい。
【0039】
液晶性ポリエステル繊維の単糸繊度は、好ましくは0.01~50dtex、より好ましくは0.01~20dtex、特に好ましくは0.01~10dtexである。単糸繊度が前記範囲内であると、所望の厚さを有し、地合いのよい繊維シートを得やすい。
【0040】
「液晶性ポリエステル繊維」として、市販品を使用することもできる。そのような市販品として、例えば、株式会社クラレ製ベクトランUM(商品名)、株式会社クラレ製ベクトランHT(商品名)、株式会社クラレ製ベクトランNT(商品名)、株式会社クラレ製ベクトランEX(商品名)、東レ株式会社製シベラス(商品名)、およびKBセーレン株式会社製ゼクシオン(商品名)等を挙げることができる。
液晶性ポリエステル繊維は、単独でまたは組み合わせて使用できる。
【0041】
[放熱材の製造方法]
本発明の放熱材は、例えば、シート状の繊維集合体を水流絡合処理、気流絡合処理、ニードルパンチ処理またはこれらを組み合わせた処理に付すことにより繊維シートを形成することを含む製造方法により製造できる。繊維集合体を形成する繊維としては、上述した繊維を使用する。
【0042】
本発明におけるシート状の繊維集合体とは、繊維間の接着が弱い予備的な不織布状繊維集合体、または繊維同士が接着されず絡まった状態で不織布形状を有している予備的な繊維集合体を意味する。繊維間の接着が弱いことは、例えば、単位質量当たりの破断強力が弱いこと、または指で表面を摩擦した際に毛羽立ちが発生することによって確認できる。
【0043】
シート状の繊維集合体は、例えば、上述した、繊維シートを形成する繊維を捲縮・カットしてステープル(原綿)を得、ステープルを公知の方法でカードまたはウェッバーに通してランダムウェブまたはクロスラップウェブとし、これらのウェブを積層することにより得ることができる。
【0044】
シート状の繊維集合体は、繊維シートを形成する繊維を構成する樹脂の直結紡糸型の不織布状繊維集合体として得ることもできる。前記繊維集合体を形成できる限り紡糸手段は特に限定されず、例えばメルトブローン法、スパンボンド法、静電紡糸法などを採用できる。紡糸法は、溶融紡糸または溶液紡糸のいずれでもよいが、接着性を制御する観点から、溶融紡糸が好ましい。これらのうち、製造効率に優れ、また平均繊維径を小さくすることができる観点から、メルトブローン法が好ましい。メルトブローン法に使用される装置は特に限定されず、従来公知のメルトブローン装置を用いることができる。
【0045】
メルトブローン装置における紡糸ノズルの孔径は、ノズル詰まりまたは糸切れが抑制されやすい観点から、好ましくは0.1~0.5mmφ、より好ましくは0.12~0.35mmφである。
【0046】
メルトブローン装置における紡糸ノズルのノズル孔長さ(L)とノズル孔径(D)の比(L/D)は、良好な生産性および糸切れ抑制の観点から、好ましくは5~50、より好ましくは8~45である。
【0047】
また、ノズル孔同士の間隔(ノズル孔ピッチ)は、0.2~1.0mmであることが好ましく、0.25~0.75mmであることがより好ましい。ノズル孔ピッチが前記範囲内であると、紡糸直下で隣接する繊維同士の融着が抑制されて糸塊が少なくなりやすく、また、繊維間空隙が適切になりやすく、その結果、繊維集合体において優れた均質性を得やすい。
【0048】
本発明における方法では、上述したシート状繊維集合体を、水流絡合処理、気流絡合処理、ニードルパンチ処理またはこれらを組み合わせた処理に付すことにより繊維シートを形成する。所望の繊維配向性(繊維のシート面に対する角度、配向している繊維の本数)を効率よく得やすい観点から、水流絡合処理またはニードルパンチ処理が好ましく、水流絡合処理がより好ましい。
【0049】
水流絡合処理の場合、例えば、オリフィスを特定の間隔で設けてあるノズルを用いて絡合処理を行うことにより、シート状繊維集合体において特に水流の当たる部分と、比較的水流が当たらない部分が生じる。従って、オリフィスの間隔により、放熱材における繊維交絡部の個数および繊維配向性を調節することができる。また、放熱材における繊維交絡部の個数および繊維配向性の調節は、例えば、シート状繊維集合体の移動速度の調整、または水流の運動エネルギーの調整によっても実施できる。
【0050】
ニードルパンチ処理の場合、フェルト針としては公知のフェルト針を用いてよい。シート状繊維集合体の厚さ方向への交絡を確実に行うためには、繊維切れの起きにくい1バーブ針が好適に用いられる。また、より高い繊維配向性をより効率よく得るためには、3バーブ、6バーブ、9バーブ等の多バーブの針を使用できる。目的によって、これらの針を組み合わせてもよい。
【0051】
ニードルパンチ処理におけるパンチ数は、使用する針の形状およびシート状繊維集合体の厚さにより異なるが、一般に200~2500パンチ/cm2の範囲で設定される。
【0052】
繊維シートには、不織布、編物若しくは織物が1枚の不織布若しくは不織布前駆体の片面若しくは両面に水流絡合処理、気流絡合処理またはニードルパンチ処理により結合されたもの、および編物若しくは織物が2枚の不織布若しくは不織布前駆体の間に水流絡合処理、気流絡合処理またはニードルパンチ処理により結合されたものが包含される。ここで、不織布前駆体とは、水流絡合処理、気流絡合処理またはニードルパンチ処理に付されると不織布を形成するシート状の繊維集合体を意味する。
好ましい一実施態様において、繊維シートは、好ましくは不織布であり、より好ましくは連続不織布または短繊維不織布である。
【0053】
繊維シートの目付は、好ましくは30~200g/m2、より好ましくは40~180g/m2、更に好ましくは50~160g/m2である。繊維シートの目付が前記範囲内であると、適度な密度を有する繊維シートとなり、放熱材として用いた場合に、優れた熱伝達性および絶縁性を得やすい。繊維シートの目付は後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0054】
繊維シートとして、市販品を使用することもできる。そのような市販品として、例えば、液晶性ポリエステル不織布である株式会社クラレ製ベクルス(商品名)を挙げることができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されない。
【0056】
[測定方法または評価方法]
<繊維シートに含まれる含浸樹脂の量>
樹脂が含浸されていない繊維シートの質量W1を秤量した。繊維シートにマトリックス樹脂を含浸させた後、マトリックス樹脂を熱硬化させた。得られた、樹脂が含浸された繊維シートの質量W2を秤量した。これらの秤量値から、下記式により、繊維シートに含まれる含浸樹脂の量を求めた。
含浸樹脂の量=[(W2-W1)/W2]×100
【0057】
<走査型電子顕微鏡による断面観察>
放熱材を製品幅方向(CD方向)に切り出し、その断面を走査型電子顕微鏡にて100倍で観察した。観察画像にて下記事項を評価した。
・繊維シートを形成している繊維の少なくとも一部がシート面に対して30度より大きい角度で配向していること。
・断面の幅2.4mm当たり1以上の、繊維シートを形成している繊維の交絡部が存在すること。
・断面の幅2.4mmの範囲で観察される、繊維シートを形成している繊維のうち10本以上が、シート面に対して30度より大きい角度で配向していること。
3箇所の断面を観察し、いずれの断面も同じ結果であることを確認した。
【0058】
<繊維シートを形成する繊維の密度に対する放熱材の密度の百分率>
繊維シートを形成する繊維の密度を、JIS L1015:2010に記載の「密度こうばい管法」によって求めた。
放熱材の密度は、放熱材の目付を厚さで除して求めた。ここで、放熱材の目付は、JIS L1913:2010に記載の「単位面積当たりの質量」に従って求め、放熱材の厚さは、JISL1913:2010に記載の「A法」に従って求めた。
これらの値を用いて、下記式により、繊維シートを形成する繊維の密度に対する放熱材の密度の百分率を求めた。
{(放熱材の密度)/(繊維シートを形成する繊維の密度)}×100
【0059】
<繊維シートを形成している繊維の、77Kにおける繊維方向での熱伝導率>
繊維シートを形成している繊維を一方向に200本束ねて秤量した。繊維束にエポキシ樹脂(主剤:三菱ケミカル株式会社製のグレード827、硬化剤:日立化成株式会社製のHN-5500)を塗り込み、直径約10mmの熱収縮性チューブに挿入した。120℃に設定したドライオーブンにて2時間加熱することによりエポキシ樹脂を硬化させた後、熱収縮性チューブを除去して秤量した。これらの秤量値から求められる、樹脂を含浸させた繊維に含まれる繊維の量が40~55質量%となるように、エポキシ樹脂の量を調整した。
約60mmの長さとなるように繊維強化樹脂の両端をカットして端面を整え、試験片を得た。試験片において、繊維は、一方向に引き揃えられており、カットした一方の端部面と他方の端部面との間に延在していた。
定常熱流法を採用し、
図1に示す測定装置を用いて、下記手順に従い熱伝導率を測定した。なお、
図1および後述の
図2においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率等は適宜相違させている。
(1)試料(試験片)の一部を銅製の試料台に挿入し、冷凍機のコールドヘッドに固定した。
(2)真空断熱の条件下、冷凍機で77Kに試料を冷却した。
(3)試料の上端に取り付けたヒーターを用いて試料を一定の電力(0.03W)で連続的に加熱し、試料に定常状態の温度勾配を形成した。
(4)試料の温度勾配を、2つの熱電対を用いて測定した。
(5)測定した温度から、下記式により熱伝導率λを算出した。
【数1】
式中、Lは熱電対の間隔(単位:m)、Qはヒーターの加熱量(単位:W)、Sは試料断面積(単位:m
2)、T
1およびT
2は各熱電対により測定された温度(単位:K)を示す。
一種類の繊維について3個ずつ試料を作製して熱伝導率λを測定し、その平均値をその繊維の熱伝導率λとして採用した。
【0060】
<繊維シートを形成している繊維の、273Kから77Kに冷却した際の繊維方向での熱歪み>
上述した熱伝導率の測定のための試験片と同様にして試験片を作製し、試験片の繊維方向での熱歪みを測定するよう歪みゲージを貼った。次いで、試験片を氷水に浸漬し、273Kの基準温度を明確にした。その後、試験片を液体窒素に浸漬し、273Kから77Kに冷却した際の膨張または収縮を測定した。
一種類の繊維について3個ずつ試料を作製し、各試料について膨張または収縮を3回ずつ測定し、その平均値を、繊維シートを形成している繊維の、273Kから77Kに冷却した際の繊維方向での熱歪みとした。
【0061】
<繊維シートの目付>
繊維シートの目付は、JIS L1913:2010に記載の「単位面積当たりの質量」に従って求めた。
【0062】
<放熱材の厚さ>
放熱材の厚さは、JIS L1913:2010に記載の「A法」に従って求めた。
【0063】
<放熱材の熱伝達性>
図2に示す装置を使用し、放熱材の温度変化測定を行った。
板状のYBCO線材(イットリウム系高温超電導線材)を40層立てて並べ、YBCO線材の20層目と21層目との間に、ヒーターとしてハステロイ線材を挿入した。次いで、ハステロイ線材から0-1層、7-8層、14-15層のYBCO線材の層間に、熱電対TC1、TC2、TC3をそれぞれ挿入し、線材パックを作製した。線材パックを両側面から銅ブロックで挟み、1.4MPaの面圧となるよう圧力を印加した。線材パックの底面積と同じ面積になるよう放熱材をカットし、下から、銅ブロック、放熱材(
図2では「試験試料」と記載)、銅ブロックで挟まれた線材パックとなるよう重ねて配置し、線材パック上部からGFRPブロックによって1.4MPaの面圧を印加した。
これを冷凍機に投入し、冷凍機内部を真空状態とし、設定温度77Kで冷却した。3つの熱電対により測定される温度が一定となった後、ヒーター出力300mWで入熱し、温度変化ΔTが概ね一定となった、5000秒後の各熱電対におけるΔTを熱伝達性として評価した。ΔTが小さいほど、熱伝達性に優れていることを示す。
なお、
図2においては、図面を見やすくするため、ハステロイ線材から電源への配線および各熱電対からアンプへの配線は省略している。
【0064】
実施例1
主としてパラヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロシキ-2-ナフトエ酸とからなる液晶性ポリエステル(ポリプラスチックス株式会社製、ラペロスAタイプ)を用い、総繊度1670dtex、フィラメント数600の液晶性ポリエステルマルチフィラメント1(以下、「フィラメント1」と略記する)を得た。フィラメント1の、JIS L 1015:2010を参考にレーダー法で測定される摩擦係数は0.26であった。フィラメント1の熱伝導率および熱歪みを測定した。結果を表5に示す。
フィラメント1を捲縮およびカットし、単糸繊度2.8dtex、繊維長38mmの原綿を得た。この原綿を使用し、カード法によりセミランダムウェブを作製し、穴径0.3mmのパンチングドラム支持体上に設置して、連続的に移送すると同時に、上方から高圧水流を噴射し、絡合処理を行うことにより、樹脂シート(短繊維不織布)を得た。この樹脂シートを放熱材とし、各種の測定および評価を実施した。結果を表5に示す。
【0065】
実施例2
主としてパラヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロシキ-2-ナフトエ酸とからなる液晶性ポリエステル(ポリプラスチックス株式会社製、ラペロスLタイプ)を用い、メルトブローン法により不織布前駆体を作製した。得られた不織布前駆体の一部を解して引き揃え、平均繊維径約3μmの液晶性ポリエステルの繊維の束(トウ)(以下、「トウ1」と略記する)を得た。トウ1の、JIS L 1015:2010を参考にレーダー法で測定される摩擦係数は0.30であった。トウ1の熱伝導率および熱歪みを測定した。結果を表5に示す。
トウ1を熱伝導率および熱歪みの測定のために取り出した不織布前駆体とは別の部分の、作製した不織布前駆体を、実施例1と同様に高圧水流絡合処理を施すことにより、樹脂シート(連続不織布)を得た。この樹脂シートを放熱材とし、各種の測定および評価を実施した。結果を表5に示す。
【0066】
比較例1
ガラスクロスとエポキシ樹脂からなるGFRPシート(利昌工業製、ES-3230J、厚さ0.2mm)を放熱材とし、各種の測定および評価を実施した。また、前記GFRPシートに含まれているガラスクロスを構成するガラス繊維に相当するガラス繊維の熱伝導率および熱歪みを測定した。結果を表5に示す。
【0067】
比較例2
液晶性ポリエステル繊維であるベクトランHT(株式会社クラレ製、繊度220dtex)の熱伝導率および熱歪みを測定した。結果を表5に示す。
ベクトランHTを用い、タテ55本/インチ、ヨコ55本/インチの織密度で、厚さ200μmの織物を作製した。この織物にエポキシ樹脂(主剤:三菱ケミカル株式会社製グレード827、硬化剤:日立化成株式会社製HN-5500)を含浸し、120℃で2時間加熱することにより、繊維補強樹脂シートを得た。この繊維補強樹脂シートを放熱材とし、各種の測定および評価を実施した。結果を表5に示す。
【0068】
参考例1
東洋紡製ダイニーマ(登録商標)SK60を38mmにカットし、カーディングにより目付70g/m2の不織布前駆体を得、実施例1と同様に高圧水流絡合処理を施した。地合いは悪いながらも厚さ200μm程度のカードウェブは得られたが、繊維の摩擦係数(JIS L 1015:2010を参考にレーダー法で測定される摩擦係数:0.1程度)が小さいためか、高圧水流絡合処理を施しても繊維が十分に交絡せず、不織布を製造できなかった。
【0069】
【0070】
表5から分かるように、本発明に従った放熱材はいずれも、高い熱伝達性を示した。これは、少なくとも一部の繊維がシート面に対して特定の角度より大きい角度で配向していることにより繊維同士がより絡まり、特定の嵩高さを有することにより冷却された銅ブロックと超電導線材との間で放熱材が固定されて繊維のズレによる発熱が生じにくかったためと考えられる。また、77Kで高い熱伝導率を有する繊維が冷却により繊維方向に膨張し、この膨張が含浸樹脂により阻害されなかったことにより、放熱材と超電導線材との密着性および放熱材と銅ブロックとの密着性がより向上し、冷却性能の更なる向上がもたらされたと考えられる。
【0071】
一方、放熱材としてGFRPシートを用いた比較例1では、熱伝達性が顕著に低かった。これは、少なくとも一部の繊維がシート面に対して特定の角度より大きい角度で配向していないこと、冷却時に繊維方向も含めて放熱材全体が収縮したこと、およびガラス繊維自体の77Kでの熱伝導率が低いことに起因すると考えられる。
繊維シートの繊維は77Kで高い熱伝導率を有するが、繊維シートに5質量%以上の含浸樹脂が含まれ、シート面に対して30度より大きい角度で配向している繊維が存在しない比較例2では、熱伝達性が低かった。この一因は、冷却時に繊維の膨張が放熱材と超電導線材との密着性および放熱材と銅ブロックとの密着性の向上に有効に作用できなかったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の放熱材は、高い熱伝達性を示し、冷却時でも優れた冷却性能を発現することから、特に、伝導冷却型HTSコイルの放熱材として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 ヒーター
2 熱電対1
3 熱電対2
4 試料
5 試料台
6 コールドヘッド