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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-24
(45)【発行日】2025-04-01
(54)【発明の名称】炭素繊維複合材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/20 20060101AFI20250325BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20250325BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20250325BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20250325BHJP
【FI】
C08J3/20 B CEW
C08L27/12
C08K3/04
C08K7/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021196787
(22)【出願日】2021-12-03
(65)【公開番号】P2023082827
(43)【公開日】2023-06-15
【審査請求日】2024-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】植木 宏之
(72)【発明者】
【氏名】川本 圭一
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-168777(JP,A)
【文献】特開2013-23575(JP,A)
【文献】特開2021-70767(JP,A)
【文献】特開2012-224816(JP,A)
【文献】特開2023-19471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28
C08L
C08K
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋されたパーフルオロエラストマー中に平均直径0.7nm以上30nm以下のカーボンナノチューブ及び平均粒径100nm以上300nm以下のカーボンブラックを含む炭素繊維複合材料であって、
前記カーボンナノチューブの配合量は、前記パーフルオロエラストマー100質量部に対して0.1質量部以上3.5質量部以下であり、
前記カーボンブラックの配合量は、前記パーフルオロエラストマー100質量部に対して15質量部以上50質量部以下であり、
前記炭素繊維複合材料の断面において、隣接する前記カーボンナノチューブ同士の距離または前記カーボンナノチューブと前記カーボンブラックとの距離が100nm以下で構成される連続構造を複数有し、
前記断面における単位面積当たりの前記連続構造の個数が0.80個/μm~3.50個/μmであり、
前記断面における前記連続構造の最大長がそれぞれ10nm以上1000nm以下である、炭素繊維複合材料。
【請求項2】
請求項1において、
260℃環境下とした以外はASTM D1414に準拠して測定した引張強さが2.2MPa以上、切断時伸びが60%以上であり、
ASTM D395に準拠して測定した260℃、168時間、25%圧縮で保持後の圧縮永久ひずみが50%未満である、炭素繊維複合材料。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
JIS K6253に準拠して測定した国際ゴム硬さ(IRHD)が68以上82以下である、炭素繊維複合材料。
【請求項4】
架橋前のパーフルオロエラストマー100質量部に、平均直径0.7nm以上30nm以下のカーボンナノチューブ0.1質量部以上3.5質量部以下を混練して第1混合物を得る第1混合工程と、
前記第1混合物をロール間隔が0mmを超え0.5mm以下に設定されかつロール温度が0℃~50℃に設定されたオープンロールに投入して薄通しして第2混合物を得る第1薄通し工程と、
前記第2混合物に平均粒径100nm以上300nm以下のカーボンブラック15質量部以上50質量部以下を混練して第3混合物を得る第2混合工程と、
前記第3混合物をロール間隔が0mmを超え0.5mm以下に設定されかつロール温度が0℃~50℃に設定されたオープンロールに投入して薄通しして炭素繊維複合材料を得る第2薄通し工程と、
を含み、
前記炭素繊維複合材料の断面において、隣接する前記カーボンナノチューブ同士の距離または前記カーボンナノチューブと前記カーボンブラックとの距離が100nm以下で構成される連続構造を複数有し、
前記断面における単位面積当たりの前記連続構造の個数が0.80個/μm~3.50個/μmであり、
前記断面における前記連続構造の最大長がそれぞれ10nm以上1000nm以下である、炭素繊維複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンナノチューブで機械的強度を向上させた複合材料が注目されている。しかしながら、カーボンナノチューブは、強い凝集性を有するため、凝集塊になりやすく、繊維状の補強材として複合材料に用いることは非常に困難であった。
【0003】
これに対し、エラストマーにカーボンナノチューブを混練する過程で、エラストマー分子がカーボンナノチューブの末端のラジカルと結合することにより、カーボンナノチューブの凝集力を弱め、カーボンナノチューブを解繊した状態で複合化した炭素繊維複合材料が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、炭素繊維複合材料のエラストマーとしてパーフルオロエラストマー(FFKM)を用いたシール部材が提案されており、石油や天然ガスなどの地下資源を探査するためのダウンホール装置に用いることができる高い耐熱性に加えて耐薬品性に優れたシール部材が提案されている(例えば、特許文献2)。
【0005】
さらに、パーフルオロエラストマー(FFKM)を用いた炭素繊維複合材料を改良して耐ブリスター性に優れた炭素繊維複合材料も提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-97525号公報
【文献】特許第5816474号公報
【文献】特許第6284394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体分野や化学製品分野では処理温度が高温化する傾向にあり、これらの分野に用いる周辺機器のシール材等のゴム製品にも比較的高い耐熱性が求められる傾向にある。しかしながら、従来のパーフルオロエラストマーを用いた炭素繊維複合材料は、高温時の力学特性に優れる一方で高温環境下における圧縮永久ひずみ特性がこれらの分野のゴム製品の要求性能を満たしていなかった。
【0008】
そこで、本発明は、高温時の力学特性及び高温環境下における圧縮永久ひずみ特性に優れる炭素繊維複合材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0010】
[1]本発明に係る炭素繊維複合材料の一態様は、
架橋されたパーフルオロエラストマー中に平均直径0.7nm以上30nm以下のカーボンナノチューブ及び平均粒径100nm以上300nm以下のカーボンブラックを含む炭素繊維複合材料であって、
前記カーボンナノチューブの配合量は、前記パーフルオロエラストマー100質量部に
対して0.1質量部以上3.5質量部以下であり、
前記カーボンブラックの配合量は、前記パーフルオロエラストマー100質量部に対して15質量部以上50質量部以下であり、
前記炭素繊維複合材料の断面において、隣接する前記カーボンナノチューブ同士の距離または前記カーボンナノチューブと前記カーボンブラックとの距離が100nm以下で構成される連続構造を複数有し、
前記断面における単位面積当たりの前記連続構造の個数が0.80個/μm~3.50個/μmであり、
前記断面における前記連続構造の最大長がそれぞれ10nm以上1000nm以下であることを特徴とする。
【0011】
[2]上記炭素繊維複合材料の一態様において、
260℃環境下とした以外はASTM D1414に準拠して測定した引張強さが2.2MPa以上、切断時伸びが60%以上であり、
ASTM D395に準拠して測定した260℃、168時間、25%圧縮で保持後の圧縮永久ひずみが50%未満であることができる。
【0012】
[3]上記炭素繊維複合材料の一態様において、
JIS K6253に準拠して測定した国際ゴム硬さ(IRHD)が68以上82以下であることができる。
【0013】
[4]本発明に係る炭素繊維複合材料の製造方法の一態様は、
架橋前のパーフルオロエラストマー100質量部に、平均直径0.7nm以上30nm以下のカーボンナノチューブ0.1質量部以上3.5質量部以下を混練して第1混合物を得る第1混合工程と、
前記第1混合物をロール間隔が0mmを超え0.5mm以下に設定されかつロール温度が0℃~50℃に設定されたオープンロールに投入して薄通しして第2混合物を得る第1薄通し工程と、
前記第2混合物に平均粒径100nm以上300nm以下のカーボンブラック15質量部以上50質量部以下を混練して第3混合物を得る第2混合工程と、
前記第3混合物をロール間隔が0mmを超え0.5mm以下に設定されかつロール温度が0℃~50℃に設定されたオープンロールに投入して薄通しして炭素繊維複合材料を得る第2薄通し工程と、
を含み、
前記炭素繊維複合材料の断面において、隣接する前記カーボンナノチューブ同士の距離または前記カーボンナノチューブと前記カーボンブラックとの距離が100nm以下で構成される連続構造を複数有し、
前記断面における単位面積当たりの前記連続構造の個数が0.80個/μm~3.50個/μmであり、
前記断面における前記連続構造の最大長がそれぞれ10nm以上1000nm以下であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】炭素繊維複合材料の断面における連続構造を説明する模式図である。
図2】炭素繊維複合材料の引張破断面のSEM画像である。
図3】連続構造を説明するための炭素繊維複合材料の引張破断面のSEM画像である。
図4図3における連続構造を説明する模式図である。
図5】炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。
図6】炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。
図7】炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。
図8】炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。
図9】炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0016】
1.炭素繊維複合材料
本発明の一実施形態に係る炭素繊維複合材料は、架橋されたパーフルオロエラストマー中に平均直径0.7nm以上30nm以下のカーボンナノチューブ及び平均粒径100nm以上300nm以下のカーボンブラックを含む炭素繊維複合材料であって、前記カーボンナノチューブの配合量は、前記パーフルオロエラストマー100質量部に対して0.1質量部以上3.5質量部以下であり、前記カーボンブラックの配合量は、前記パーフルオロエラストマー100質量部に対して15質量部以上50質量部以下であり、前記炭素繊維複合材料の断面において、隣接する前記カーボンナノチューブ同士の距離または前記カーボンナノチューブと前記カーボンブラックとの距離が100nm以下で構成される連続構造を複数有し、前記断面における単位面積当たりの前記連続構造の個数が0.80個/μm~3.50個/μmであり、前記断面における前記連続構造の最大長がそれぞれ10nm以上1000nm以下であることを特徴とする。
【0017】
炭素繊維複合材料は、JIS K6253に準拠して測定した国際ゴム硬さ(IRHD)が68以上82以下であることができ、さらに70以上80以下であることができる。国際ゴム硬さが68未満であると高温における引張強さが低く、82を超えると圧縮永久ひずみ特性が低下する。
【0018】
炭素繊維複合材料は、耐熱性に優れる。ここで耐熱性は、高温時の力学特性として評価することが可能であって、具体的には高温例えば260℃引張試験における引張強さ及び切断時伸びで評価できる。炭素繊維複合材料は、260℃環境下とした以外はASTM D1414に準拠して測定した引張強さが2.2MPa以上、切断時伸びが60%以上であることができ、さらに、引張強さが2.5MPa以上5.0MPa以下であることができ、切断時伸びが65%以上120%以下であることができる。炭素繊維複合材料の引張強さが2.2MPa未満、切断時伸びが60%未満になると、炭素繊維複合材料でシール材等のゴム製品を製造した場合にゴム製品の耐久性が低下する傾向がある。また、炭素繊維複合材料は、ASTM D395に準拠して測定した260℃、168時間、25%圧縮で保持後の圧縮永久ひずみが50%未満であることができ、さらに、圧縮永久ひずみが48%以下であることができる。炭素繊維複合材料の圧縮永久ひずみが50%以上になると、炭素繊維複合材料で製造したシール材が高温時にへたってしまい、シール性が維持することが難しくなる。これらの性能を備える炭素繊維複合材料は、比較的少量の解繊されたカーボンナノチューブに加えて、カーボンブラックを所定量配合して、後述の製造方法により得られる。
【0019】
炭素繊維複合材料は、カーボンナノチューブが解繊された状態で全体に分散している。炭素繊維複合材料は、カーボンナノチューブの凝集塊が存在しない。凝集塊が存在すると破壊の起点となり、機械的強度の低下を招くからである。
【0020】
1.1.連続構造
炭素繊維複合材料について本発明者等が走査型電子顕微鏡を用いた計測を行った結果、
高温環境下における圧縮永久ひずみ特性に優れる炭素繊維複合材料には共通する構造的特徴があることがわかった。
【0021】
そこで、図1図4を用いて、炭素繊維複合材料50の構造的特徴について詳細に説明する。図1図4に示す炭素繊維複合材料50は、後述する実施例3のサンプルである。
【0022】
図1は炭素繊維複合材料50の断面の画像90における構造を説明する模式図であり、図2は炭素繊維複合材料50の引張破断面のSEMの画像90であり、図3図2の画像90に連続構造84を示した画像90であり、図4図3における連続構造84を説明する模式図である。なお、「断面」は凍結割断面であってもよいし、引張破断面であってもよい。また、「SEM」は走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)の略称である。
【0023】
図1には、炭素繊維複合材料50の断面におけるカーボンナノチューブ81とカーボンブラック82の配置がわかりやすくなるようにカーボンナノチューブ81を丸い黒点で示し、カーボンブラック82を網掛けで示した。また、連続構造84は、100nm以下で隣接するカーボンナノチューブ81同士または100nm以下で隣接するカーボンナノチューブ81とカーボンブラック82を直線の破線で結ぶことで1つの連続する構造として示した。したがって、図1の範囲には連続構造84が5個あることがわかる。その他の部分はパーフルオロエラストマー30である。
【0024】
図1は、図4の破線で囲まれた領域を拡大して示す図である。図4は、図2の画像90に基づいて連続構造84を特定し、その個数を計測するために作成した図である。具体的な特定及び計測の手順について説明する。まず、図2の画像90におけるカーボンナノチューブ81とカーボンブラック82を特定する。対象物の間隔を計測しやすくするために、図3に示すように、図2の断面に表れるカーボンナノチューブ81を黒い点でマークし、カーボンブラック82を塗りつぶす(図3では白であるが着色されている)ように加工する。この加工は、画像処理ソフトを用いて加工してもよいし、描画ソフトを用いて描いてもよい。図3をそのまま用いて特定及び計測してもよいが、よりわかりやすくなるように図3から加工前の画像90を消して、黒い点と塗りつぶされた領域だけを残して図4を得てもよい。そして、図4上で隣接するカーボンナノチューブ81同士の距離L1またはカーボンナノチューブ81とカーボンブラック82との距離L1を計測する。距離L1が100nm以下の部分は破線で直線を描いて連続構造84を特定して示す。そして、図4を用いて、連続構造84の個数を数えて単位面積当たりの個数を計算し、それぞれの連続構造84の最大長L2を計測することができる。これらの計測処理においては、画像90を画像処理ソフトウェアを用いて二値化する等してカーボンナノチューブ81とカーボンブラック82を特定してもよいし、距離L1の測定をパソコンで自動化してもよい。
【0025】
図1図4に示す炭素繊維複合材料50は、架橋されたパーフルオロエラストマー30中に平均直径が0.7nm以上30nm以下のカーボンナノチューブ81及び平均粒径が100nm以上300nm以下のカーボンブラック82を含む。カーボンナノチューブ81は後述の「2.3.カーボンナノチューブ」の欄で説明し、カーボンブラック82は後述の「2.2.カーボンブラック」の欄で説明する。
【0026】
図1図4に示すように、炭素繊維複合材料50の断面において、隣接するカーボンナノチューブ81同士の距離L1またはカーボンナノチューブ81とカーボンブラック82との距離L1が100nm以下で構成される連続構造84を複数有する。距離L1は、隣接するカーボンナノチューブ81同士またはカーボンナノチューブ81とカーボンブラック82とが最も近接している位置における相互の間隔である。図1でカーボンナノチューブ81とカーボンブラック82を破線の直線で結ぶように示した部分が連続構造84であ
る。連続構造84は、あるカーボンナノチューブ81に対して距離L1が100nm以下で他のカーボンナノチューブ81またはカーボンブラック82が隣接し、またはその隣接する構造が連続する。距離L1が100nm以下であると、隣接するカーボンナノチューブ81間または隣接するカーボンナノチューブ81とカーボンブラック82との間に相互作用が生じると考えられる。なお、カーボンブラック82同士の間における相互作用は小さいと考えられるため、カーボンブラック82同士の間隔が100nm以下であっても連続構造84の一部として扱わない。
【0027】
連続構造84における距離L1の平均値は、10nm以上100nm未満であることができ、さらに、距離L1の平均値は、10nm~95nmであることができる。距離L1の平均値が10nm未満であると炭素繊維複合材料50の柔軟性が低下する。また、距離L1の平均値が100nm以上だとカーボンナノチューブ81同士またはカーボンナノチューブ81とカーボンブラック82の間の相互作用が減少して補強効果が低下する。距離L1は走査型電子顕微鏡の画像90上で計測する。
【0028】
炭素繊維複合材料50の断面における単位面積当たりの連続構造84の個数は、0.80個/μm~3.50個/μmである。さらに、炭素繊維複合材料50の断面における単位面積当たりの連続構造84の個数は、1.10個/μm~2.90個/μmであることができる。連続構造84の個数は、図4のように画像90内における連続構造84を特定し、それらの個数を数えて、単位面積(μm)当たりの個数に換算することで得られる。カーボンナノチューブ81及びカーボンブラック82の添加量が少ない場合、連続構造84の個数が0.80個/μm未満であると著しく補強性に劣り、3.50個/μmを超えると部分的にカーボンナノチューブ81が凝集している可能性があり、引張強さや切断時伸び等の物性が低下する。また、カーボンナノチューブ81及びカーボンブラック82の添加量が多い場合、連続構造84の個数が0.80個/μm未満であると連続構造84が大きく発達した状態にあると考えられるため、高温環境下における圧縮永久ひずみ特性が低下し、3.50個/μmを超えると部分的にカーボンナノチューブ81が凝集している可能性があり、物性が低下する。
【0029】
炭素繊維複合材料50の断面における連続構造84の最大長L2は、それぞれ10nm以上1000nm以下である。さらに、炭素繊維複合材料50の断面における連続構造84の最大長L2がそれぞれ30nm以上900nm以下であることができる。連続構造84の最大長L2は、図4のように画像90内における連続構造84を特定し、それらの最大長L2をそれぞれ測定することで得られる。最大長L2は、直線距離であり、連続構造84を一つの塊りと考えた場合には最大径ともいえる。最大長L2が10nm未満であると、ほとんどの連続構造84が一組のカーボンナノチューブ81同士で構成される状態であるため、物性が向上しない。また、最大長L2が1000nm以上であると、連続構造84が大きく発達しすぎて、高温環境下における圧縮永久ひずみ特性が低下する。
【0030】
連続構造84は、パーフルオロエラストマー30だけの相よりも高い弾性率を有することにより、炭素繊維複合材料50の中で一つの構造体に近い挙動を示すと推測される。そのため、連続構造84が炭素繊維複合材料50に対する応力を負担することで高温下における引張強さ及び伸びに優れる。連続構造84の中では隣接するカーボンナノチューブ81同士またはカーボンナノチューブ81とカーボンブラック82の間に応力場による相互作用が生じると考えられる。また、複数の連続構造84が炭素繊維複合材料50の中にそれぞれ独立して点在することにより、パーフルオロエラストマー30が連続するため、変形時の柔軟性を維持する。
【0031】
2.原料
次に、炭素繊維複合材料を構成する原料について説明する。
【0032】
2.1.パーフルオロエラストマー
炭素繊維複合材料に用いるパーフルオロエラストマー(FFKM)は、ムーニー粘度ML(1+10)121℃が30~80であることができる。パーフルオロエラストマーのムーニー粘度がこの範囲であると、カーボンナノチューブと混練する加工が比較的容易である。
【0033】
炭素繊維複合材料に用いるパーフルオロエラストマーは、フッ素含有量が72%以上であることができる。パーフルオロエラストマーのフッ素含有量がこの範囲であると、耐薬品性に優れるため好ましい。
【0034】
このようなパーフルオロエラストマーとしては、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)系共重合体などを挙げることができ、ここで用いることができるパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)としては、例えば、パーフルオロメトキシビニルエーテル(PMOVE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、パーフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)およびその他の同様の化合物を挙げることができる。
【0035】
パーフルオロエラストマーは、パーオキサイド架橋系、トリアジン架橋系等であることができる。
【0036】
2.2.カーボンブラック
炭素繊維複合材料に用いるカーボンブラックは、平均粒径が100nm以上300nm以下である。カーボンブラックの平均粒径は、走査型電子顕微鏡の撮像によって観察して基本構成粒子の粒子直径を2000個以上測定して算術平均して求めることができる。
【0037】
このようなカーボンブラックとしては、例えば、FT,MTなどの補強用カーボンブラックなどを用いることができる。比較的大きな粒径を有するカーボンブラックを用いることにより、炭素繊維複合材料の柔軟性を維持しつつ、圧縮永久ひずみ特性に優れることができる。カーボンブラックは、ハイストラクチャーでないことが好ましく、例えばDBP吸収量(A法)が20cm/100g~65cm/100gであることができる。ストラクチャーが発達すると連続構造が発達することになるからである。炭素繊維複合材料は、MTグレードのカーボンブラックを用いることができる。
【0038】
炭素繊維複合材料におけるカーボンブラックの配合量は、パーフルオロエラストマー100質量部に対して15質量部以上50質量部以下である。また、炭素繊維複合材料におけるカーボンブラックの配合量は、パーフルオロエラストマー100質量部に対して20質量部以上45質量部以下であることができる。カーボンブラックの配合量が15質量部未満であると、ゴム硬度及び物性が低く、機械的強度が低い。また、カーボンブラックの配合量が50質量部を超えると、ゴム硬度が高く、高温における引張強さ及び切断時伸びが低い。
【0039】
2.3.カーボンナノチューブ
本発明の一実施の形態に用いるカーボンナノチューブは、平均直径(繊維径)が0.7nm以上30nm以下であることができ、さらに2nm以上20nm以下であることができる。このようなカーボンナノチューブは、その平均直径が比較的細いため、比表面積が大きく、マトリックスであるパーフルオロエラストマーとの表面反応性が向上し、パーフルオロエラストマー中におけるカーボンナノチューブの分散不良を改善しやすい傾向がある。カーボンナノチューブは、直径が0.7nm以上であれば市場で入手可能であり、3
0nm以下であれば引裂き疲労性及び耐摩耗性に優れるという効果を有する。カーボンナノチューブは、その表面のパーフルオロエラストマーとの反応性を向上させるために、公知の活性化処理を施すことができる。カーボンナノチューブの平均直径は、電子顕微鏡による観察によって計測することができる。なお、本発明の詳細な説明においてカーボンナノチューブの平均直径及び平均長さは、電子顕微鏡による例えば5,000倍の撮像(カーボンナノチューブのサイズによって適宜倍率は変更できる)から200箇所以上の直径及び長さを計測し、その算術平均値として計算して得ることができる。
【0040】
カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラファイトの1枚面(グラフェンシート)を巻いて筒状にした形状を有するいわゆる多層カーボンナノチューブ(MWCNT:マルチウォールカーボンナノチューブ)及び単層カーボンナノチューブ(SWCNT:シングルウォールカーボンナノチューブ)の少なくとも一方であり、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブ及び単層カーボンナノチューブを含んでもよい。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブ、気相成長炭素繊維といった名称で称されることもある。
【0041】
カーボンナノチューブは、気相成長法によって得ることができる。気相成長法は、触媒気相合成法(Catalytic Chemical Vapor Deposition:CCVD)とも呼ばれ、炭化水素等のガスを金属系触媒の存在下で気相熱分解させて未処理のカーボンナノチューブを製造する方法である。より詳細に気相成長法を説明すると、例えば、ベンゼン、トルエン等の有機化合物を原料とし、フェロセン、ニッケルセン等の有機遷移金属化合物を金属系触媒として用い、これらをキャリアーガスとともに高温例えば400℃~1000℃の反応温度に設定された反応炉に導入し、浮遊状態あるいは反応炉壁にカーボンナノチューブを生成させる浮遊流動反応法(Floating Reaction Method)や、あらかじめアルミナ、酸化マグネシウム等のセラミックス上に担持された金属含有粒子を炭素含有化合物と高温で接触させてカーボンナノチューブを基板上に生成させる触媒担持反応法(Substrate Reaction Method)等を用いることができる。例えば、平均直径が9nm~20nmのカーボンナノチューブは触媒担持反応法によって得ることができ、これより太いカーボンナノチューブは浮遊流動反応法によって得ることができる。カーボンナノチューブの直径は、例えば金属含有粒子の大きさや反応時間などで調節することができる。
【0042】
カーボンナノチューブの配合量は、パーフルオロエラストマー100質量部に対して0.1質量部以上3.5質量部以下である。また、カーボンナノチューブの配合量は、パーフルオロエラストマー100質量部に対して0.5質量部~3.0質量部であることができる。カーボンナノチューブの配合量は、カーボンブラックの配合量と共に調整することができる。カーボンナノチューブの配合量が0.1質量部未満であると高温における引張強さ及び切断時伸びが低く、3.5質量部を超えるとゴム硬度が高くなって高温環境下の圧縮永久ひずみ特性が低下する。
【0043】
2.4.その他の配合剤
パーフルオロエラストマーに対して瀝青炭粉砕物(bitumious coal)をさらに配合してもよい。瀝青炭粉砕物は、石炭の一種で高品位炭と呼ばれる瀝青炭(JIS M1002の石炭分類でB1、B2、C)を含む石炭一般を、平均粒径1μm~100μmに粉砕したものである。さらに、瀝青炭粉砕物の平均粒径は1μm~10μmであることができ、特に、瀝青炭粉砕物の平均粒径は3μm~8μmであることができる。瀝青炭粉砕物は、パーフルオロエラストマー100質量部に対して1質量部以上10質量部以下であることができる。瀝青炭粉砕物を1質量部以上含むことによって圧縮永久歪みに優れるという効果が得られ、10質量部を超えて含有すると脆くなる傾向を示す。瀝青炭
粉砕物は、カーボンブラックの1つの種類と考えられることもあるが、ここではカーボンブラックには含まれないものとして説明する。
【0044】
瀝青炭粉砕物の平均粒径は、市販されている場合はメーカーで平均粒径を測定し公表しているが、瀝青炭粉砕物を走査型電子顕微鏡の撮像によって観察して単一粒子(基本粒子)とみなしての粒子直径を2000個以上測定して算術平均値として求めることができる。
【0045】
また、瀝青炭粉砕物は、比重が1.6以下であることができ、さらに1.35以下であることができる。
【0046】
なお、炭素繊維複合材料は、上記成分以外にも、例えば、内部離型剤、加工助剤、酸化亜鉛などの金属酸化物または水酸化物、あるいはハイドロタルサイト類化合物である受酸剤、可塑剤などゴム工業で一般に使用される配合剤を適宜添加して用いることができる。
【0047】
3.炭素繊維複合材料の製造方法
本発明の一実施の形態に係る炭素繊維複合材料の製造方法は、架橋前のパーフルオロエラストマー100質量部に、平均直径0.7nm以上30nm以下のカーボンナノチューブ0.1質量部以上3.5質量部以下を混練して第1混合物を得る第1混合工程と、前記第1混合物をロール間隔が0mmを超え0.5mm以下に設定されかつロール温度が0℃~50℃に設定されたオープンロールに投入して薄通しして第2混合物を得る第1薄通し工程と、前記第2混合物に平均粒径100nm以上300nm以下のカーボンブラック15質量部以上50質量部以下を混練して第3混合物を得る第2混合工程と、前記第3混合物をロール間隔が0mmを超え0.5mm以下に設定されかつロール温度が0℃~50℃に設定されたオープンロールに投入して薄通しして炭素繊維複合材料を得る第2薄通し工程と、を含み、前記炭素繊維複合材料の断面において、隣接する前記カーボンナノチューブ同士の距離または前記カーボンナノチューブと前記カーボンブラックとの距離が100nm以下で構成される連続構造を複数有し、前記断面における単位面積当たりの前記連続構造の個数が0.80個/μm2~3.50個/μm2であり、前記断面における前記連続構造の最大長がそれぞれ10nm以上1000nm以下であることを特徴とする。
【0048】
本実施形態に係る炭素繊維複合材料の製造方法について図5図9を用いて詳細に説明する。図5図9は、本発明の一実施形態に係るオープンロール法による炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。なお、炭素繊維複合材料、原料及び配合量については上記1,2の通りであるので、重複する説明は省略する。
【0049】
図5図9に示すように、2本ロールのオープンロール100における第1のロール110と第2のロール120とは、所定のロール間隔d、例えば0.5mm~1.5mmの間隔で配置され、図5図9において矢印で示す方向に回転速度V1,V2で正転あるいは逆転で回転する。
【0050】
まず、図5に示すように、第1のロール110に巻き付けられた架橋前のパーフルオロエラストマー30の素練りを行ない、パーフルオロエラストマー分子鎖を適度に切断してフリーラジカルを生成する。素練りによって生成されたパーフルオロエラストマーのフリーラジカルがカーボンナノチューブと結びつきやすい状態となる。
【0051】
3.1.第1混合工程
次に、図6に示すように、第1混合工程を実行する。第1混合工程は、第1のロール110に巻き付けられた架橋前のパーフルオロエラストマー30(100質量部)のバンク34に、平均直径0.7nm以上30nm以下のカーボンナノチューブ81(0.1質量
部以上3.5質量部以下)を投入し、混練して第1混合物36(図7)を得る。この混練におけるパーフルオロエラストマー30の温度は、例えば0℃~100℃であることができ、さらに0℃~50℃であることができる。第1混合工程は、オープンロール法に限定されず、例えば密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。
【0052】
3.2.第1薄通し工程
さらに、図7に示すように、第1薄通し工程を実行する。第1薄通し工程は、第1混合物36をロール間隔dが0mmを超え0.5mm以下に設定されかつロール温度が0℃~50℃に設定されたオープンロール100に投入して薄通しして第2混合物37を得る。
【0053】
薄通しの回数は、例えば1回~10回程度行なうことができる。
【0054】
第1のロール110の表面速度をV1、第2のロール120の表面速度をV2とすると、薄通しにおける両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05~3.00であることができ、さらに1.05~1.2であることが好ましい。このような表面速度比を用いることにより、所望の剪断力を得ることができる。
【0055】
このように狭いロール間から押し出された第2混合物37は、パーフルオロエラストマーの弾性による復元力で図7のように大きく変形し、その際にパーフルオロエラストマーと共にカーボンナノチューブが大きく移動する。
【0056】
第1薄通し工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、ロール温度を例えば0℃~50℃、より好ましくは5℃~30℃の比較的低い温度に設定して行われ、第1混合物36及び第2混合物37の実測温度も0℃~50℃に調整されることができる。
【0057】
このようにして得られた剪断力により、パーフルオロエラストマーに高い剪断力が作用し、凝集していたカーボンナノチューブがパーフルオロエラストマー分子に1本ずつ引き抜かれるように相互に分離して解繊し、パーフルオロエラストマー中に分散される。特に、パーフルオロエラストマーは、弾性と、粘性と、カーボンナノチューブとの化学的相互作用と、を有するため、カーボンナノチューブを容易に分散することができる。そして、カーボンナノチューブの分散性及び分散安定性(カーボンナノチューブが再凝集しにくいこと)に優れた第2混合物37を得ることができる。
【0058】
より具体的には、オープンロールでパーフルオロエラストマーとカーボンナノチューブとを混合すると、粘性を有するパーフルオロエラストマーがカーボンナノチューブの相互に侵入し、かつ、パーフルオロエラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノチューブの活性の高い部分と結合する。カーボンナノチューブの表面の活性が適度に高いと、特にパーフルオロエラストマー分子と結合し易くなることができる。次に、パーフルオロエラストマーに強い剪断力が作用すると、パーフルオロエラストマー分子の移動に伴ってカーボンナノチューブも移動し、さらに剪断後の弾性によるパーフルオロエラストマーの復元力によって、凝集していたカーボンナノチューブが分離されて、パーフルオロエラストマー中に分散されることになる。
【0059】
本実施の形態によれば、第2混合物37が狭いロール間から押し出された際に、パーフルオロエラストマーの弾性による復元力で第2混合物37はロール間隔dより厚く変形する。その変形は、強い剪断力の作用した第2混合物37をさらに複雑に流動させ、カーボンナノチューブをパーフルオロエラストマー中に分散させると推測できる。そして、一旦分散したカーボンナノチューブは、パーフルオロエラストマーとの化学的相互作用によって再凝集することが防止され、良好な分散安定性を有することができる。
【0060】
第1薄通し工程は、パーフルオロエラストマーにカーボンナノチューブを剪断力によって解繊させることができれば、前記オープンロール法に限定されず、密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。要するに、この工程では、凝集したカーボンナノチューブを分離して解繊できる剪断力をパーフルオロエラストマーに与えることができればよい。特に、オープンロール法は、ロール温度の管理だけでなく、混合物の実際の温度を測定し管理することができるため、好ましい。
【0061】
3.3.第2混合工程
次に、図8に示すように、第2混合工程を実行する。第2混合工程は、第1のロール110に巻き付けられた第2混合物37のバンク34に平均粒径100nm以上300nm以下のカーボンブラック82(15質量部以上50質量部以下)を混練して第3混合物38(図9)を得る。ここで、カーボンブラック82の配合量は、パーフルオロエラストマー100質量部に対する配合量である。第2混合工程の加工法及び加工条件は、第1混合工程と同じである。
【0062】
3.4.第2薄通し工程
次に、図9に示すように、第2薄通し工程を実行する。第2薄通し工程は、第3混合物38をロール間隔dが0mmを超え0.5mm以下に設定されかつロール温度が0℃~50℃に設定されたオープンロール100に投入して薄通しして炭素繊維複合材料50を得る。薄通しの回数や表面速度等の加工条件は、第1薄通し工程と同じである。
【0063】
薄通しして得られた炭素繊維複合材料50は、ロールで圧延されて所定厚さのシート状に分出ししてもよい。第1混合工程前、第1混合工程中、第2混合工程前、第2混合工程中、または第2混合工程後に、架橋剤をパーフルオロエラストマーに混合することができる。
【0064】
3.5.架橋工程
架橋工程は、第2薄通し工程で得られた炭素繊維複合材料50(図9)におけるパーフルオロエラストマーを架橋して炭素繊維複合材料を得る。架橋工程は、例えば、架橋剤を含む炭素繊維複合材料を金型内に配置し、金型を加熱することでパーフルオロエラストマーを架橋すると共にプレス加工することで炭素繊維複合材料を用いた所望形状のゴム製品(シール材等)を成形することができる。架橋剤としては、公知のパーオキサイドまたは架橋触媒を用いることができる。架橋工程で得られた炭素繊維複合材料は、その断面の走査型電子顕微鏡の画像において前述した連続構造を観察できる。
【0065】
前記のように、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。したがって、このような変形例はすべて、本発明の範囲に含まれるものとする。
【実施例
【0066】
(1)サンプルの作製
実施例1~7及び比較例1~8のサンプルは、以下の工程によって作製した。
【0067】
混練工程:ロール径が6インチのオープンロール(ロール温度10℃~20℃、ロール間隔0.5mm~1.0mm)に、表1及び表2に示す100質量部(phr)のパーフルオロエラストマー(表1~表3では「FFKM1」、「FFKM2」と記載した)を投入して、ロールに巻き付かせ素練りした(図5参照)。なお、以下の各工程におけるロール温度は10℃~20℃とした。
【0068】
第1混合工程:次に、表1~表3に示す質量部(phr)のカーボンナノチューブ(表
1~表3では「MWCNT1」、「MWCNT2」、「SWCNT」と記載した)をパーフルオロエラストマーに投入し(図6参照)、混練りして第1混合物を得た。このとき、ロール間隔dを1.5mmとした。
【0069】
第1薄通し工程:第1混合物をロールから取り出し、ロール間隔dを1.5mmから0.3mmと狭くして、第1混合物をオープンロールに投入して薄通しをし、第2混合物を得た(図7参照)。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。薄通しは繰り返し5回行った。なお、比較例1,7では、第1混合工程でカーボンナノチューブの代わりにカーボンブラックを投入し、第2混合工程及び第2薄通し工程を省略した。
【0070】
第2混合工程:次に、ロール間隔dを1.5mmとして、表1~表3に示す質量部(phr)のカーボンブラック(表1~表3では「HS-CB」、「MT-CB」と記載した)及び瀝青炭粉砕物(表1~表3では「オースチンブラック」と記載した)を第2混合物に投入し(図8参照)、混練りして第3混合物を得た。
【0071】
第2薄通し工程:第3混合物をロールから取り出し、ロール間隔dを1.5mmから0.3mmと狭くして、第3混合物をオープンロールに投入して薄通しをし、炭素繊維複合材料を得た(図9参照)。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。薄通しは繰り返し5回行った。
【0072】
さらに、架橋開始剤としてパーオキサイドまたは架橋触媒を加えて厚さ1mmの架橋前の炭素繊維複合材料を分出しした。
【0073】
また、分出ししたシートをOリングの金型内に入れ、プレス架橋、二次架橋で成形してAS568C-214のOリング(以下「サンプル」)を得た。ここで、実施例1~6のサンプルは、一次架橋が170℃、24分、二次架橋が300℃(9時間昇温+4時間保持)であり、実施例7のサンプルは、一次架橋が165℃、10分、二次架橋290℃(8時間昇温+16時間保持)であった。また、比較例1~6のサンプルは、一次架橋が170℃、24分、二次架橋が300℃(9時間昇温+4時間保持)であり、比較例7,8のサンプルは、一次架橋が165℃、10分、二次架橋290℃(8時間昇温+16時間保持)であった。
【0074】
なお、表の配合欄におけるパーフルオロエラストマー及び各種配合剤の詳細は以下の通りであった。
【0075】
FFKM1:ムーニー粘度ML1+10121℃(中心値)80の架橋触媒系、
FFKM2:ムーニー粘度ML1+10121℃(中心値)75のパーオキサイド架橋系、
HS-CB:ハイストラクチャーSRFグレードのカーボンブラック、平均粒径70nm、DBP吸収量(A法)152cm/100g、
MT-CB:MTグレードのカーボンブラック、平均粒径200nm、
オースチンブラック:平均直径5μmの瀝青炭粉砕物、
MWCNT1:マルチウォールカーボンナノチューブ、平均直径15.3nm、
MWCNT2:マルチウォールカーボンナノチューブ、平均直径18nm、
SWCNT:シングルウォールカーボンナノチューブ、平均直径5nm、
であった。
【0076】
カーボンブラックは、各サンプルの硬度が68~82となるように調節しながら配合した。
【0077】
実施例1~7及び比較例1~8の試験サンプルについて、以下に説明する各種試験を行い、試験結果を表1~表3に示した。
【0078】
(2)基本特性試験
実施例及び比較例の各サンプルについて、国際ゴム硬さ(Hs(IRHD))をJIS
K 6253に基づいて測定した。
【0079】
また、実施例及び比較例の各サンプルについて、島津製作所社製オートグラフAG-Xの引張試験機を用いて、引張速度500mm/minでASTM D1414を基に高温雰囲気(260±2℃)で引張試験を行い、引張強さ(TS/260℃(MPa))、切断時伸び(Eb/260℃(%))、及び25%応力(M25/260℃(MPa))を測定した。測定結果は、表の各欄に示した。
【0080】
(3)圧縮永久ひずみ試験
実施例及び比較例の各サンプルについて、ASTM D395に準拠して、260℃、圧縮率25%で70時間、168時間、336時間保持後の圧縮永久ひずみ(CS260℃ 70hr、168hr、336hr(%))を測定した。測定結果は、表の各欄に示した。
【0081】
(4)SEM計測
実施例及び比較例の引張試験後の各サンプルの破断面をSEMで画像を撮影した。各画像における隣接するカーボンナノチューブ同士またはカーボンナノチューブとカーボンブラック間の距離を計測し、距離が100nm以下で隣接したカーボンナノチューブ及びカーボンブラックを連続構造として特定すると共に、各画像における連続構造の個数を計測し、単位面積当たりの連続構造数を算出した。算出結果は、表1~表3に記載した。また、各画像における全ての連続構造の最大長を計測し、その最大値と最小値を表1~表3に記載した。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
表1~表3によれば、実施例1~実施例7のサンプルは、国際ゴム硬さが74以上81以下であった。
【0086】
表1~表3によれば、実施例1~実施例7のサンプルは、260℃における引張強さ(TS)が2.5MPa以上であり、260℃における切断時伸び(Eb)が65%以上であった。比較例1,2,7のサンプルは、260℃における引張強さ(TS)が2.0MPa以下であり、比較例1~8のサンプルは、260℃における切断時伸び(Eb)が58%以下であった。
【0087】
表1~表3によれば、実施例1~実施例7のサンプルは、260℃、圧縮率25%で168時間保持した圧縮永久ひずみが48%以下であった。比較例3~6,8のサンプルは、260℃、圧縮率25%で168時間保持した圧縮永久ひずみが53%以上であった。
【0088】
表1~表3によれば、実施例1~実施例7のサンプルの単位面積当たりの連続構造数は、1.22個/μm~2.80個/μmであった。比較例4,6,8のサンプルの単
位面積当たりの連続構造数は、0.76個/μm以下であった。
【0089】
表1~表3によれば、実施例1~実施例7のサンプルの連続構造の最大長は、32μm~865μmであった。比較例2,4~6,8のサンプルの連続構造の最大長は、1341μm以上であり、比較例1,7のサンプルは、カーボンナノチューブを含まないので連続構造がなかった。
【符号の説明】
【0090】
30…パーフルオロエラストマー、34…バンク、36…第1混合物、37…第2混合物、38…第3混合物、50…炭素繊維複合材料、81…カーボンナノチューブ、82…カーボンブラック、84…連続構造、90…画像、100…オープンロール、110…第1のロール、120…第2のロール、d…ロール間隔、L1…距離、L2…最大長、V1,V2…回転速度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9