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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-24
(45)【発行日】2025-04-01
(54)【発明の名称】土壌採集装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/08 20060101AFI20250325BHJP
   E02D 1/04 20060101ALI20250325BHJP
【FI】
G01N1/08 D
E02D1/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021212824
(22)【出願日】2021-12-27
(65)【公開番号】P2023096813
(43)【公開日】2023-07-07
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】和栗 創一
(72)【発明者】
【氏名】佐野 愛樹
(72)【発明者】
【氏名】志摩 秀和
(72)【発明者】
【氏名】大西 健司
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第212903965(CN,U)
【文献】米国特許第06016713(US,A)
【文献】特開2021-004519(JP,A)
【文献】特開2014-043717(JP,A)
【文献】特開平02-108788(JP,A)
【文献】特開平01-161129(JP,A)
【文献】米国特許第05076372(US,A)
【文献】中国特許出願公開第108195614(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111795851(CN,A)
【文献】中国実用新案第210953440(CN,U)
【文献】中国実用新案第214040807(CN,U)
【文献】中国実用新案第212321136(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/08
E02D 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
採集管と、
土壌表面より所定深さの下降位置まで前記採集管を下降させると共に土壌表面より上方の上昇位置まで前記採集管を上昇させる昇降機構と、
前記採集管内に上下移動可能に配備された押動シャフトと、
を備え、
前記押動シャフトは、前記採集管が前記下降位置にあるときに、前記採集管内で下降して前記採集管内にある土壌を押し固め
前記昇降機構は、前記採集管を前記下降位置から前記上昇位置に上昇させる際に、当該採集管と共に前記押動シャフトを前記上昇位置に上昇させる
土壌採集装置。
【請求項2】
採集管と、
土壌表面より所定深さの下降位置まで前記採集管を下降させると共に土壌表面より上方の上昇位置まで前記採集管を上昇させる昇降機構と、
前記採集管内に上下移動可能に配備された押動シャフトと、
前記採集管内に採集された土壌を回収する回収缶と、
前記回収缶に向けて水平方向に相対移動するスクレープ部材と、
を備え、
前記回収缶は、上方に向かって開口する開口部を有し、
前記押動シャフトは、前記採集管が前記上昇位置にあるとき、前記採集管内で下降して前記採集管内の土壌を前記回収缶に向けて押し出し、前記採集管が前記下降位置にあるときに、前記採集管内で下降して前記採集管内にある土壌を押し固め、
前記スクレープ部材は、前記押動シャフトが前記採集管内の土壌を押し出した後に、前記回収缶の開口部の上方を通過する土壌採集装置。
【請求項3】
前記採集管内に採集された土壌を回収する回収缶と、
前記回収缶に向けて水平方向に相対移動するスクレープ部材と、
前記回収缶を水平に移動させる移動機構と、を備え、
前記回収缶は、上方に向かって開口する開口部を有し、
前記採集管の上昇位置と下降位置との間には、上下を仕切る仕切板が設けられており、
前記仕切板には、前記採集管が上昇又は下降するときに前記採集管の通過を許容する窓が形成されており、
前記移動機構は、前記開口部が前記窓の下部を通過するように前記回収缶を水平方向に移動させ、
前記開口部が前記窓の下側を通過するとき、前記窓の内縁部が前記スクレープ部材として機能する請求項に記載の土壌採集装置。
【請求項4】
前記移動機構は、前記仕切板の下側に設けられて、上下方向を向く回転軸回りに回転するスロットル部材を有し、
前記スロットル部材には、前記回転軸回りに等間隔をあけて複数の前記回収缶が設けられており、
前記窓の内縁部は、平面視において、前記回転軸回りに回転する前記回収缶の回転軌道上に配置されている請求項に記載の土壌採集装置。
【請求項5】
前記スクレープ部材は、前記回収缶の移動方向に対して傾斜した刃先を備えている
請求項またはに記載の土壌採集装置。
【請求項6】
前記開口部に対する前記スクレープ部材の高さを調整可能な調整機構を備えている請求項のいずれか1項に記載の土壌採集装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌分析に供される土壌を圃場より採集する土壌採集装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土壌を採集する技術としては、特許文献1に開示された土壌調査装置が知られている。
特許文献1に開示された土壌調査装置は、調査孔崩壊を防ぎ、正確な地盤環境調査を行う地盤環境調査装置である。この土壌調査装置は、土壌をサンプリングするコアサンプラーを備えている。土壌をサンプリングする場合には、調査孔にコアサンプラーを挿入し、土壌の採集(サンプリング)が実現可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-20531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の土壌調査装置では、下方に開口部を向けて配備される有底中空柱状の土壌採取部材(コアサンプラー)を用いて土壌の採集を行っている。土壌採取部材は、土壌中に非旋回あるいは旋回しながら圧入もしくは打入され、有底中空柱状体の内部空洞内に土壌を充填した後、これを引き上げることによって土壌を採集する。
ここで、土壌採取部材を土壌中に圧入等する場合は、内部空洞内に存在する空気が圧入等の邪魔になる可能性がある。そのため、特許文献1の土壌採取部材には、符号1cで示される小孔が予め形成されている。このような小孔を設ければ、中空部の空気を散逸させ、圧入もしくは打入が容易に行える。
【0005】
しかし、上述した小孔を土壌採取部材に設けると、土壌採取部材の引き上げの際に小孔を通って内部空洞内に外部から空気が逆流する可能性がある。つまり、逆流する空気に押される等して、せっかく採集した土壌が落下してしまうことも考えられる。それゆえ、特許文献1の土壌調査装置では、土壌を確実に採集できない場合があった。
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、地中より採集した土壌を採集管の中に強固に留めることで、土壌を確実に採集することができる土壌採集装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この技術的課題を解決するための本発明の技術的手段は、以下に示す点を特徴とする。
土壌採集装置は、採集管と、土壌表面より所定深さの下降位置まで前記採集管を下降させると共に土壌表面より上方の上昇位置まで前記採集管を上昇させる昇降機構と、前記採集管内に上下移動可能に配備された押動シャフトと、を備え、前記押動シャフトは、前記採集管が前記下降位置にあるときに、前記採集管内で下降して前記採集管内にある土壌を押し固め、前記昇降機構は、前記採集管を前記下降位置から前記上昇位置に上昇させる際に、当該採集管と共に前記押動シャフトを前記上昇位置に上昇させる
【0007】
土壌採集装置は、採集管と、土壌表面より所定深さの下降位置まで前記採集管を下降させると共に土壌表面より上方の上昇位置まで前記採集管を上昇させる昇降機構と、前記採集管内に上下移動可能に配備された押動シャフトと、前記採集管内に採集された土壌を回収する回収缶と、前記回収缶に向けて水平方向に相対移動するスクレープ部材と、を備え、前記回収缶は、上方に向かって開口する開口部を有し、前記押動シャフトは、前記採集管が前記上昇位置にあるとき、前記採集管内で下降して前記採集管内の土壌を前記回収缶に向けて押し出し、前記採集管が前記下降位置にあるときに、前記採集管内で下降して前記採集管内にある土壌を押し固め、前記スクレープ部材は、前記押動シャフトが前記採集管内の土壌を押し出した後に、前記回収缶の開口部の上方を通過する。
【0008】
土壌採集装置は、前記採集管内に採集された土壌を回収する回収缶と、前記回収缶に向けて水平方向に相対移動するスクレープ部材と、前記回収缶を水平に移動させる移動機構と、を備え、前記回収缶は、上方に向かって開口する開口部を有し、前記採集管の上昇位置と下降位置との間には、上下を仕切る仕切板が設けられており、前記仕切り板には、前記採集管が上昇又は下降するときに前記採集管の通過を許容する窓が形成されており、前記移動機構は、前記開口部が前記窓の下部を通過するように前記回収缶を水平方向に移動させ、前記開口部が前記窓の下側を通過するとき、前記窓の内縁部が前記スクレープ部材として機能する。
【0009】
土壌採集装置は、前記移動機構は、前記仕切板の下側に設けられて、上下方向を向く回転軸回りに回転するスロットル部材を有し、前記スロットル部材には、前記回転軸回りに等間隔をあけて複数の前記回収缶が設けられており、前記窓の内縁部は、平面視において、前記回転軸回りに回転する前記回収缶の回転軌道上に配置されている。
土壌採集装置は、前記スクレープ部材は、前記回収缶の移動方向に対して傾斜した刃先を備えている。
【0010】
土壌採集装置は、前記開口部に対する前記スクレープ部材の高さを調整可能な調整機構を備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、地中より採集した土壌を採集管の中に強固に留めることで、土壌を確実に採集することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】土壌採集装置の使用態様を示す図である。
図2】採集管が下降位置にある土壌採集装置の断面図である。
図3】採集管が上昇位置にある土壌採集装置の断面図である。
図4】採集管が上昇位置にある場合における押動シャフトの伸長と縮退とを比較して示した図である。
図5】採集管が下降位置にある場合における押動シャフトの伸長と縮退とを比較して示した図である。
図6】スロットル部材の回転状態と、回収缶に対するスクレープ部材の位置関係を、(a)回収缶と採集管とが上下方向に並ぶ場合と、(b)隣り合う回収缶の間に採集管が位置する場合とで比較した平面図である。
図7】他の実施形態のスロットル部材、回収缶、及びスクレープ部材の位置関係を示した図である。
図8】(a)は刃先が直角のスクレープ部材を用いた土壌の掻き落とし、(b)は傾斜した刃先を備えたスクレープ部材を用いた土壌の掻き落とし、(c)は高さ調整機構を備えたスクレープ部材を用いた土壌の掻き落としを示す図である。
図9】採集管内に土壌を採集する手順を示した図である。
図10】採集した土壌を回収缶に移送する手順を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係る土壌採集装置1の使用態様を示している。図2及び図3は、本実施形態に係る土壌採集装置1の全体構成を示す概略側面図である。図2は、採集管2が下降位置にある状態、言い換えれば採集管2を土壌表面より下方まで下降させた状態を示している。図3は、採集管2が上昇位置にある状態、言い換えれば採集管2を土壌表面より上方まで上昇させた状態を示している。
【0014】
土壌採集装置1は、トラクタなどの作業車両3の後部に接続されて牽引可能とされており、作業車両3に牽引されて圃場を移動し、所定位置の土壌を採集可能となっている。本実施形態では、作業車両3がトラクタとされた土壌採集装置1を例に挙げて、本発明の土壌採集装置1を説明する。但し、作業車両3はトラクタには限定されない。
図1を用いて、土壌採集装置1が接続される作業車両3の全体構成を簡単に説明する。
【0015】
作業車両3(トラクタ)は、車体4と、走行装置5と、を備えている。車体4上にはキャビン6が搭載されている。キャビン6の室内には運転席が設けられている。車体4の後部には、3点リンク機構で構成された連結部7が設けられている。連結部7は、作業装置(インプルメント)を着脱可能、且つ、作業装置(インプルメント)を昇降可能となっている。本発明の作業装置(インプルメント)は土壌採集装置1とされている。
【0016】
図示は省略するが、走行装置5は、左側と右側とに走行体をそれぞれ有している。走行装置5は、前輪5a及び後輪5bを有する装置である。前輪5aは、タイヤ型であっても
クローラ型であってもよい。また、後輪5bも、タイヤ型であってもクローラ型であってもよい。
車体4は、走行装置5上に支持されている。車体4には、原動機8が搭載されている。原動機8は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、電動モータ、またはディーゼルエンジン及び電動モータを有するハイブリッド型である。原動機8で発生した動力は、走行装置5の駆動輪に伝達されて走行装置5を動作させると共に、PTO軸を介して作業装置に伝達可能とされている。
【0017】
本実施形態の土壌採集装置1を連結する連結部7には、3点リンク機構が用いられている。車体4の後部に設けられた3点リンク機構(連結部7)が土壌採集装置1の前部に設けられた連結枠9に着脱自在に連結可能とされている。これらの3点リンク機構には、トップリンク7aと2本のロアリンク7bとがあり、これらのリンク7a、7bは油圧アクチュエータを用いて上下方向に揺動可能とされている。土壌採集装置1は、3点リンク機構(連結部7)の駆動(揺動)によって、作業車両3に対して昇降可能である。
【0018】
図2及び図3に示すように、土壌採集装置1は、採集管2、昇降機構10、押動シャフト11、回収缶12、スクレープ部材13、スロットル部材14を備えている。これらの部材は、いずれも装置本体15に取り付けられている。
装置本体15は、連結枠9を備えている。連結枠9には、作業車両3の3点リンク機構(連結部7)が取り付けられる。装置本体15を作業車両3に取り付けることによって、装置本体15に配備された採集管2などの部材を作業車両3で牽引することができる。つまり、作業車両3によって土壌採集装置1は圃場内の任意の位置に移動可能であり、圃場の様々な場所で土壌を採集することができる。但し、土壌採集装置1は、作業車両3に取り付ける移動式のものには限定されず、圃場の土壌採集場所に設置する定置式のものであってもよい。定置式の場合は、連結枠9が予め設けられていない装置本体15を採用することもできる。
【0019】
なお、本実施形態は、連結枠9を備えた移動式の土壌採集装置1である。それゆえ、以降の説明では、特に断らない限り、土壌採集装置1は移動式であるものとする。
連結枠9は、装置本体15の後部に設けられている。連結枠9は、上下方向に沿うように設けられている。連結枠9の上部には、3点リンク機構のトップリンク7aを連結する上部連結アイ9uが形成されている。上部連結アイ9uは、連結枠9の上部に上下方向に距離をあけて複数(3つ)設けられている。連結枠9の下部には、3点リンク機構のロアリンク7bを連結する下部連結アイ9dが形成されている。本実施形態の場合、上部連結アイ9u及び下部連結アイ9dは連結ピンを挿通可能な孔として形成されており、連結ピンを上部連結アイ9u及び下部連結アイ9dのそれぞれに挿通することで土壌採集装置1と作業車両3の連結部7との連結が行われる。
【0020】
土壌採集装置1は、装置本体15の前部(前後方向の中央より前)に、採集管2と、昇降機構10と、押動シャフト11と、を備えている。また、土壌採集装置1は、回収缶12と、スロットル部材14と、を備えている。さらに、土壌採集装置1は、スクレープ部材13を備えている。具体的には、装置本体15は、後部(連結枠9の下端)から前方に向かって水平に延びている。装置本体15は、前後方向の中途部で上方に曲がり、上方に延びた先で前方に曲がるクランク状の断面形状を備えている。装置本体15は、クランク状に折れ曲がった前端に、採集管2、昇降機構10、及び押動シャフト11が配備されている。また、装置本体15における前後方向の中途部には、回収缶12、スクレープ部材13、及びスロットル部材14が配備されている。
【0021】
採集管2は、土壌表面から土中に突き刺して、中空とされた管内に土壌分析のサンプルとなる土壌を採集するものである。なお、以降の説明では、採集管2内に採集された土壌を、サンプル土壌Sと呼び、圃場にある他の土壌と区別する場合がある。
採集管2は、鋼鉄などの金属材料を用いて、上下方向に伸びる筒状(本実施形態の場合であれば円筒状)に形成されている。採集管2は、上下方向に長い長尺の管である。採集管2の下端は土壌表面を貫いて地中に入り込む箇所であるため、土壌へ侵入する際の抵抗を下げる目的で採集管2の下部の管端を研削するなどして尖らせても良い。また、注射針
の先端のように、側方から見た場合に採集管2の下部の管端が垂直方向に対して傾斜するように加工して、土壌へ侵入する際の抵抗を下げてもよい。
【0022】
図4及び図5に示すように、採集管2の下部の外周面には、土壌に対する採集管2の進入深さを規制する規制部材16が設けられている。規制部材16は、フランジ状に形成されており、採集管2を外周側から囲むように配備されている。規制部材16の下面は、水平方向に沿って延びる平坦な面状に形成されている。規制部材16は、平坦な下面16aを土壌表面に面接触させることで、土壌への採集管2の侵入を規制している。そのため、採集管2の下端からの規制部材16までの長さは、採集管2の進入深さと同じである。つまり、規制部材16の取り付け位置を変更することで、採集しようとする土壌の深さを変更することができる。例えば、土壌表面から深さ300mmの土壌を採集する場合には、採集管2の下端からの規制部材16の取り付け位置は少なくとも300mm以上とするのが好ましい。
【0023】
採集管2の上端には、当該採集管2の下部や上下方向の中途部よりも外径が大きな大径部2aが形成されている。大径部2aは、当該大径部2aより下側の採集管2に対して、外径だけでなく内径も大きく形成されている。詳しくは、採集管2の大径部2aと、大径部2aより下側の採集管2との間には、内周面と外周面とのそれぞれに段差が形成されている。以下、採集管2の内周面に形成される段差を内周段差2bといい、採集管2の外周面に形成される段差を外周段差2cという。
【0024】
内周段差2bは、上方を向く水平な段差面を備えている。内周段差2bの段差面に後述する押動用アクチュエータ本体17の下面が面接触することで、押動用アクチュエータ本体17の下方移動が規制される。つまり、内周段差2bは、採集管2に対する押動用アクチュエータ本体17の差し込み位置を大径部2aと同じ高さに規定している。
外周段差2cは、下方を向く水平な段差面を備えている。外周段差2cの段差面が後述する装置本体15の支持部18の上面に面接触することで、採集管2の下方移動が規制される。つまり、外周段差2cは、装置本体15の支持部18に対する採集管2の差し込み位置を支持部18と同じ高さに規定している。
【0025】
次に、採集管2を昇降させる昇降機構10について説明する。
昇降機構10は、土壌表面より所定深さにある下降位置まで採集管2を下降させると共に、土壌表面より上方の上昇位置まで採集管2を上昇させる機構である。言い換えれば、昇降機構10は、上昇位置と下降位置との上下間で採集管2を昇降させる。
図2に示すように、下降位置は、土壌表面を基準として採集管2の下端部が深さDだけ下方の位置である。下降位置を規定する深さDは、土壌で栽培しようとする作物の種類、土壌分析しようとする成分などによって変動するが、本実施形態の場合であれば深さDは100mm~600mmである。例えば、一般的な葉物野菜などを栽培する畑土の場合であれば深さDは100mm~300mmと浅くて良い。しかし、根が深くまで伸びる果樹などの作土の場合は、深さDは300mm~600mmと深く設定される。
【0026】
図3に示すように、採集管2が上昇位置にあるとき、採集管2の下端部は土壌表面よりも高さHだけ上方に位置する。上昇位置を規定する高さHは、後述するスクレープ部材13と物理的に干渉しないようにスクレープ部材13の設置高さより高く設定される。本実施形態の場合であれば、スクレープ部材13は土壌表面より150mmの設置高さに設置される。そのため、上述した上昇位置を規定する高さHは、安全性に鑑みて150mmよりやや高い200mm以上とされる。なお、高さHの上限には制約はない。しかし、高さHを大きくし過ぎると、採集管2の昇降に時間や労力がかかり、非効率的である。そのため、高さHは500mm以下とされる。
【0027】
具体的には、昇降機構10は、アクチュエータ19と、第1支持アーム部20と、第2支持アーム部21と、を有している。
図4及び図5に示すように、アクチュエータ19は、上下方向に沿うように配備されており、電動モータ及び油圧アクチュエータ等の電気式、油圧式のアクチュエータによって上下方向に伸縮する。本実施形態のアクチュエータ19は、相対的に見て下部にアクチュエータ本体22を備える。アクチュエータ本体22の上部には、伸縮ロッド23がアクチ
ュエータ本体22から上方に向かって伸縮可能なように配備されている。また、アクチュエータ19は、上部の第1支持アーム部20と下部の第2支持アーム部21との2部材で支持されている。
【0028】
第1支持アーム部20は、前方上部から後方下部に向かってクランク状に折れ曲がる板部材である。第1支持アーム部20の前端は、伸縮ロッド23の上端に連結されている。第1支持アーム部20の後端は、採集管2の大径部2aに連結されている。つまり、第1支持アーム部20は、採集管2の大径部2aを、伸縮ロッド23の上端に対して支持している。
【0029】
また、第2支持アーム部21は、前方下方から後方上部に向かってクランク状に折れ曲がる板部材である。第2支持アーム部21の前端は、アクチュエータ本体22の下端に連結されている。第2支持アーム部21の後端は、装置本体15の支持部18に連結されている。つまり、第2支持アーム部21は、アクチュエータ本体22の下端を装置本体15の支持部18に対して動かないように固定している。
【0030】
第2支持アーム部21は、アクチュエータ本体22の下端と、装置本体15の支持部18とのそれぞれに連結されている。
そのため、アクチュエータ19が伸長すると、アクチュエータ本体22から伸縮ロッド23が上方に向かって伸長される。このとき、アクチュエータ本体22の下端は、第2支持アーム部21により装置本体15の支持部18に連結されているので移動しない。そのため、固定されたアクチュエータ本体22から伸縮ロッド23が上方に伸びる。そうすると、第1支持アーム部20により伸縮ロッド23の上端に支持された大径部2aも上方に移動し、採集管2が上方に引き上げられる。
【0031】
アクチュエータ19を縮退させた場合には、固定されたアクチュエータ本体22に対して、伸縮ロッド23が下方に移動するため、採集管2が下方に引き下げられる。
支持部18は、採集管2を支持する円筒状の部分であり、装置本体15の前端に形成されている。支持部18の内径は、大径部2aより下方の採集管2の外径よりは大きくされている。それゆえ、支持部18は、大径部2aより下方の採集管2を内周側に挿し込み可能とされている。また、支持部18の内径は、大径部2aの外径よりは小さくされている。それゆえ、支持部18の内周側に採集管2を上方より挿通させると、大径部2aの下端に形成される外周段差2cの段差面が支持部18に上方から面接触する。このようにして、支持部18に対する採集管2の下方移動が規制され、採集管2が支持部18によって支持される。
【0032】
なお、上述した例では、アクチュエータ19は、縮退することで伸縮ロッド23を下方に移動させることで、採集管2を下方に引き下げる構成を挙げた。しかし、伸長することで伸縮ロッド23を下方に移動させるように、アクチュエータ19を配備しても良い。
次に、押動シャフト11と、押動シャフト11を上下方向に移動させている押動用アクチュエータ24について説明する。
【0033】
図4及び図5に示されるように、押動シャフト11は、採集管2内に上下移動可能に配備された棒状の部材であり、採集管2内に取り込まれた土壌を押し下げる機能を備えている。本実施形態の押動シャフト11は、押動用アクチュエータ24の下側に配備された第1シャフト11aと、第1シャフト11aのさらに下側に配備された第2シャフト11bと、を備えている。なお、本実施形態では2つのシャフト11a、11bを長手方向につなげた例を挙げているが、押動シャフト11は上下に途切れなくつながった1本であって良い。
【0034】
具体的には、押動シャフト11の外径は、内周段差2b(大径部2a)より下方に位置する採集管2の内径よりも大きく形成されている。これにより、押動シャフト11は、採集管2の内部を上下方向に移動可能とされている。
押動用アクチュエータ24は、採集管2の大径部2aの内部に上方より挿し込まれている。押動用アクチュエータ24の外径は、採集管2の大径部2aの内径より小さく、大径部2aより下方に位置する採集管2の内径よりも大きく形成されている。それゆえ、大径部2aの内側に押動用アクチュエータ24を上方より挿し込むと、大径部2aに形成され
る内周段差2bの段差面に押動用アクチュエータ24の下面が面接触する。そして、内周段差2bで押動用アクチュエータ24を支持した状態で、押動シャフト11のみを採集管2内で上下方向に伸長または縮退させることが可能となる。
【0035】
なお、押動用アクチュエータ24を大径部2aに固定する方法としては、螺合や締結などを用いても良い。例えば、押動用アクチュエータ24の外周面と、大径部2aの内周面とに、互いに螺合可能なネジ部を形成しておく。このようにすれば、押動用アクチュエータ24を大径部2aの内側に螺合で固定することが可能となる。また、押動用アクチュエータ24を大径部2aの内側に差し込んだ状態で、大径部2aを貫通して押動用アクチュエータ24の外周面に達する締結具などを設ければ、締結具などで押動用アクチュエータ24を大径部2aの内側に固定することもできる。
【0036】
なお、上述した押動用アクチュエータ24にも、電動モータ及び油圧アクチュエータ等の電気式、油圧式のアクチュエータによって、押動シャフト11を上下方向に伸縮するものを用いることができる。
上述した押動シャフト11は、次の2つの機能を有している。
一つの機能は、採集されたサンプル土壌Sを押し固める機能である。つまり、押動シャフト11は、採集管2が下降位置にあるときに、採集管2内で下降して採集管2内にある土壌を押し固めるものである。具体的には、図9の左から2つ目の図にあるように、採集管2が下降位置にあるときには、採集管2の下端は土壌表面GLより下方に位置し、採集管2の内側には土壌Sが入り込んでいる。この採集管2が下降した場合でも、押動シャフト11によるサンプル土壌Sの圧縮が行われる前は、押動シャフト11(第2シャフト11b)の下端11cは、採集管2の下端よりも上方に位置する。これにより、押動シャフト11の下端11cと採集管2の下端との間に、土壌Sを収容するスペース32が形成される。即ち、押動シャフト11を所定位置まで下降後させた状態では、採集管2の内壁と、押動シャフト11の下端11cとで囲まれた空間が土壌Sを収容するスペース32となる。そして、このスペース32内に土壌Sが収容される。
【0037】
次に、押動シャフト11を所定位置からさらに下降させることでサンプル土壌Sを押し固める。このとき、押動シャフト11の下端11cは、スペース32内で下方に移動してサンプル土壌Sを上方から押す。採集管2内のサンプル土壌Sのうち、下方は下層の土壌、側方は採集管2の管壁に囲まれている。そのため、採集管2内のサンプル土壌Sを押動シャフト11の下端で下方に向かって押すと、サンプル土壌Sはすべての方向に移動が規制されているので、サンプル土壌Sはスペース32内で圧縮される。そして、圧縮されたサンプル土壌Sがスペース32内で採集管2の内周面に強固に押し固められる(固着される)。採集管2内に押し固められたサンプル土壌Sは、押し固めがない場合よりも落下しにくい。それゆえ、採集されたサンプル土壌Sを落とさないように、採集管2を地中より引き上げたり移動させたりすることが可能となる。
【0038】
なお、上述したサンプル土壌Sを押し固める機能を確実に実現するために、押動シャフト11の下端11cは、スペース32内のサンプル土壌Sを十分に押圧できるように略平面に形成されていることが好ましい。
もう一つの機能は、採集管2内で押し固めたサンプル土壌Sを剥ぎ落とす機能である。押動シャフト11は、採集管2が上昇位置にあるときに、採集管2内で下降して採集管2内の土壌を回収缶12に向けて押し出すものである。具体的には、採集管2内に押し固められたサンプル土壌Sを押動シャフト11で押し、採集管2の内周面からサンプル土壌Sを剥ぎ落として採集管2からの落下を促進させる。サンプル土壌Sを採集管2から落下させるとき、図10の右側の図に示すように、押動シャフト11の下端11cは採集管2の下端の高さまで下降する。このように、サンプル土壌Sを剥ぎ落とすときには、押動シャフト11が最下降位置にある状態において、押動シャフト11の下端11cは採集管2の下端の高さ以下となる。これにより、押動シャフト11の下端11cと採集管2の下端との間にスペース32が無くなるため、採集管2内に押し固められたサンプル土壌Sを確実に落下させることができる。
【0039】
より具体的に説明すると、採集管2を上方に引き上げる際に、予め押動シャフト11を
押動用アクチュエータ24側に縮退させておく(図5の右図参照)。つまり、上述した昇降機構10は、採集管2を下降位置から上昇位置に上昇させる際に、当該採集管2と共に押動シャフト11を上昇位置に上昇させる。そして、採集管2が回収缶12の上方に位置した状態で、押動シャフト11を押動用アクチュエータ24から再び下方に向かって伸長させる(図5の左図参照)。そうすると、下方に伸長した押動シャフト11の下端が採集管2内のサンプル土壌Sに接触し、押動用アクチュエータ24の押動力(押圧力)を用いて採集管2内でサンプル土壌Sを剥ぎ取り、落下を促進することができる。このように押動用アクチュエータ24の押動力を用いて強制的にサンプル土壌Sを剥ぎ取る方法は、特に粘土質の土壌のように採集管2内にサンプル土壌Sが強固に固着する場合に有利である。このようにすれば採集管2内にサンプル土壌Sが残留することがなくなり、土壌の採集を確実に行うことが可能となる。
【0040】
土壌採集装置1が上述した採集管2、昇降機構10、及び押動シャフト11などを備えることによって、サンプル土壌Sが短時間且つ効率的に回収缶12に回収される。そのため、採集管2、昇降機構10、及び押動シャフト11などの動作に充分に対応できるように、回収缶12も効率的に装填されるのが好ましい。そこで、本実施形態の土壌採集装置1は、サンプル土壌Sを回収する回収缶12を短時間で装填する装填機構を備えている。
【0041】
図6に示すように、回収缶12の装填機構は、複数の回収缶12と、複数の回収缶12のうちから一の回収缶12のみを採集管2の移動軸線上に移動させるスロットル部材14と、を備えている。
複数の回収缶12は、いずれも同一の形状を備えた有底円筒状の部材である。いずれの回収缶12も、上方に向かって開口する開口部12aを備えている。回収缶12には、開口部12aの周囲を囲むように円環状のフランジ部12bが形成されている。フランジ部12bを開口部12aの周囲に設けることで、開口部12aから外れて落下したサンプル土壌Sをフランジ部12bで受け止めて回収缶12に回収可能となり、回収缶12へのサンプル土壌Sの回収効率が向上する。
【0042】
回収缶12の開口部12aは、採集管2の口径と同じかやや大きい口径に形成されており、採集管2内のサンプル土壌Sをこぼさず回収できるようになっている。回収缶12の容積は、採集管2に回収されるサンプル土壌Sの量よりも小さいものとされている。これは、採集管2に回収されるサンプル土壌Sのうち、土壌分析に用いられる土壌は、土壌表面から所定の深さ(例えば上述した100mm以深)に存在するものに限定されるからである。表面の土壌を用いて土壌分析を行うと、腐植や異物により正確な分析が困難となる場合があるため、一般には地表から所定の深さ(例えば100mm以深)の土壌をサンプル土壌Sとして回収缶12に回収するのが好ましい。そこで、本実施形態の回収缶12は、採集管2に採集されたサンプル土壌Sをすべて回収するものとはなっていない。例えば、本実施形態の回収缶12は、所定の深さ(例えば100mm以深)の土壌は回収可能となっている。しかし、所定の深さ(例えば100mm)より浅い土壌(表層土壌)を回収しようとしても、回収缶12が先に回収した土壌で満杯になっている。そのため、所定の深さ(例えば100mm)より浅い土壌は、缶外にこぼれ落ち、缶内に回収されることがない。このような土壌の選択的な回収(所定の深さ以深の土壌のみの回収)を可能とするように、本実施形態の回収缶12は表層土壌の分を除いたサンプル土壌Sで缶内が満杯となるような容積に設定される。
【0043】
図2等に示すように、スロットル部材14は、装置本体15における前後方向の中途部に配備されている。図6に示すように、スロットル部材14は、水平方向に沿うように配備された、平面視にて歯車状の平板部材である。スロットル部材14の外周縁には、中心から離れるように外周方向に突出した凸縁部14aと、中心に近づくように凹んだ凹縁部14bとが、周方向に交互に並んで形成されている。凸縁部14aと凹縁部14bとは、いずれも複数(本実施形態では10箇所)形成されており、周方向に交互に並んで配備されている。そして、凸縁部14aの先端に、回収缶12がそれぞれ配備されている。
【0044】
スロットル部材14の中心には、上下方向に軸心を向けて配備された回転軸14cが形成されている。また、スロットル部材14の回転軸14cには、ウォームギヤを介して上
下方向を向く軸回りに回転軸14cを回転させる回動モータ26が配備されている。それゆえ、回動モータ26が回転すると、回転モータ26の回転駆動力がウォームギヤを介して回転軸14cに伝達され、回転軸14cが上下方向を向く軸回りに回転する。そして、回転軸14cの回転に連動して、スロットル部材14も回転軸14cの軸心回りに回転する(図6の矢印TD参照)。
【0045】
上述したスロットル部材14では、回転軸14cの軸心から凸縁部14aの突端までの距離は、どの凸縁部14aでも等しく形成されている。言い換えれば、回転軸14cの軸心から回収缶12までの距離は、すべての回収缶12で等しい。それゆえ、スロットル部材14が回転すると、すべての回収缶12がスロットル部材14の回転軸14cを中心とする同一の回転軌道R上を移動する。図6(a)及び(b)において2点鎖線で示されるように、この回転軌道Rは、回転軸14cの軸心を中心とする円軌道であり、複数の回収缶12の中心を通っている。
【0046】
回転軌道R上には、採集管2から回収缶12への土壌移替位置Tが1箇所設けられている。土壌移替位置Tは、採集管2の移動軸線(上下方向の軸線)と回転軌道Rとの交差部に位置している。つまり、スロットル部材14が回転することで、複数の回収缶12を回転軌道Rに沿って土壌移替位置Tに1つずつ順次移動(装填)させることが可能となる。
例えば、図6(a)は、スロットル部材14の外周縁に配備された回収缶12の上方(真上)に採集管2が位置する位置関係を示している。言い換えれば、図6(a)では、回収缶12と採集管2とが上下方向に並んでいる。回収缶12の上方(真上)に採集管2が位置するため、採集管2内に採集されたサンプル土壌Sを下方に落下させると、落下した土壌が回収缶12に回収される。
【0047】
回収缶12に土壌が回収されたら、上下方向を向く軸回りにスロットル部材14をさらに回転させる。本実施形態の場合であれば、回収缶12は回転軸14cの軸心を基準として36°間隔で配備されているので、スロットル部材14をさらに18°回転させる。そうすると、土壌移替位置Tに位置していた回収缶12の位置が図6(b)に示すような位置に変化する。
【0048】
図6(b)は、平面視にて隣り合った回収缶12の間に採集管2が位置する位置関係を示している。言い換えれば、図6(b)では、平面視にて隣り合う回収缶12の間に採集管2が位置している。上述したように回収缶12は凸縁部14aの先端に配備されているが、凸縁部14aの間の凹縁部14bはスロットル部材14の回転軸14c心側に向かって円弧状に凹んで形成されている。そのため、図6(b)の位置では、スロットル部材14が物理的に採集管2に干渉することがなく、採集管2を自由に上下方向に移動させることが可能となる。
【0049】
スクレープ部材13は回収缶12に向けて水平方向に相対移動する。この相対移動は、スクレープ部材13が固定されて回収缶12が移動する場合と、回収缶12が固定されてスクレープ部材13が移動する場合とを含む。以下に説明する実施形態は、前者の場合の実施形態である。
スクレープ部材13は、装置本体15に移動しないように固定された板部材である。本実施形態の場合、図6(a)及び図6(b)に示すように、スクレープ部材13は、長方形の板部材である。
【0050】
スクレープ部材13は、下縁が水平方向を向くように、且つ、下縁が回収缶12の開口部12aのやや上方に位置するように配備されている。また、スクレープ部材13は、回転軌道Rを横切る位置に取り付けられている。それゆえ、スロットル部材14が回転軸14cの軸心回りに回転すると、回収缶12は、回転軌道R上を移動し、スクレープ部材13の下縁のやや下方を通過する。
【0051】
ここで、図6(a)の下円内に示すように、押動シャフト11が採集管2内の土壌を押し出した後では、回収缶12の開口部12aよりも上方に余剰なサンプル土壌Sが山盛りになって(盛り上がって)堆積している。この状態で、スロットル部材14が回転することで、回収缶12を移動させる。そうすると、図6(b)の下円内に示すように、スクレープ部材13の下縁のやや下方を回収缶12が通過する。このとき、回収缶12から見ると、スクレープ部材13の下縁が開口部12aのやや上方を水平に通過することになる。そうすると、水平に通過するスクレープ部材13により開口部12aの上に堆積したサンプル土壌Sが掻き落とされる。
【0052】
つまり、本実施形態の土壌採集装置1では、スクレープ部材13は回収缶12に向けて水平方向に相対移動する。このとき、スクレープ部材13は、押動シャフト11が採集管2内の土壌を押し出した後に、回収缶12の開口部12aの上方を通過する。これにより、スクレープ部材13は、回収缶12の上端よりも上方の(上端から突出した)余剰なサンプル土壌Sを取り除くことができる。
【0053】
スクレープ部材13の取り付け高さは、回収缶12の開口部12aのやや上方にスクレープ部材13の下縁が位置するような高さとされている。つまり、スロットル部材14が回転軸14cの軸心回りに回転すれば、回収缶12もスロットル部材14と一体に回転する。このとき、回転する回収缶12のやや上方をスクレープ部材13が水平方向に相対移動する高さにスクレープ部材13を設ければ、スクレープ部材13が回収缶12の開口より上方に位置するサンプル土壌Sを掻き落とす。スクレープ部材13が掻き落とす土壌は、採取前の圃場においては表層付近に位置していた土壌である。そのため、回収缶12に回収されるサンプル土壌Sは、表層付近に多い腐植や異物を確実に含まないものとなり、土壌分析に最適なサンプルを採集することが可能となる。
【0054】
なお、上述した例は、スクレープ部材13に装置本体15に下縁を水平方向に向けて配備された長方形の板部材をスクレープ部材13に用いたものであったが、スクレープ部材13としては板部材以外の部材を用いることもできる。
例えば、図7(a)に示すように、採集管2の上昇位置と下降位置との間に上下を仕切る仕切板28を設けておく。この仕切板28は、図例では装置本体15の底板である。次に、仕切板28(装置本体15の底板)に、採集管2の上下方向に沿った通過を許容する窓29を形成しておく。そして、窓29の下部を回収缶12の開口部12aが通過するように、回収缶12を水平方向に移動させる移動機構30を設ける。
【0055】
上述した移動機構30には、回転を用いて回収缶12を土壌移替位置Tに移動させるスロットル部材14を用いることができる。しかし、回収缶12の移動機構30は、上述したスロットル部材14に限定されないし、回収缶12の移動は回転を利用するものでなくても良い。例えば、回収缶12を土壌移替位置Tに対して直線的に水平移動させる移動機構30を用いても良い。また、採集管2自体を回収缶12に対して移動させる移動機構30を用いても良い。つまり、回収缶12の移動機構30は、採集管2に対して回収缶12を水平方向に相対移動可能なものであればよい。
【0056】
上述した移動機構30を用いても、回収缶12の開口部12aが窓29の下側を通過するとき、窓29の内縁部29aがスクレープ部材13として機能して、回収缶12の上端よりも上方の余剰なサンプル土壌Sが取り除かれる。この場合、図7(b)に示すように、窓29の内縁部29aは、平面視において、回転軸14c回りに回転する回収缶12の回転軌道R上に(回転軌道Rを横切るように)配置され、スクレープ部材13として機能する。
【0057】
つまり、土壌採集装置1は、図7に示すように、回収缶12を水平に移動させる移動機構30を備え、採集管2の上昇位置と下降位置との間には、上下を仕切る仕切板28が設けられているものであってもよい。この場合、仕切板28には、採集管2が上昇又は下降するときに採集管2の通過を許容する窓29が形成される。また、移動機構30は、開口部12aが窓29の下部を通過するように回収缶12を水平方向に移動させ、開口部12aが窓29の下側を通過するとき、窓29の内縁部29aをスクレープ部材13として機能させる。
【0058】
また、図8(b)に示すように、スクレープ部材13における土壌と接触する側の端縁を傾斜状(上下方向に対して傾斜した直線形状)に切断することもできる。つまり、図8(a)に示す直角(上下方向に対して直角)な刃先13aを備えたスクレープ部材13に対して、図8(b)に示す傾斜した鋭利な刃先13bのスクレープ部材13を用いれば、土壌に対する切削能力を高くすることができる。その結果、硬質な土壌であっても土壌を
確実に排除することができ、高精度に定容された土壌を用いて精確な土壌分析を行うことが可能となる。
【0059】
さらに、図8(c)に示すように、回収缶12の開口部12aに対するスクレープ部材13の高さを調整可能な調整機構31を設けることもできる。例えば、採取しようとする土壌の性質が砂のように保型性を備えていない場合は、スクレープ部材13の高さを高くしすぎると、掻き取るそばから山が崩れて、サンプル土壌Sを精確に回収できなくなる場合がある。このような場合は、スクレープ部材13の高さを低く抑えることで、回収缶12に回収するサンプル土壌Sの量を精確に調整でき、より精確な土壌分析を行うことが可能となる。
【0060】
次に、本実施形態の土壌採集装置1を用いた土壌採集方法について説明する。
図9の左端の図は、土壌表面より上方の上昇位置に採集管2が存在している状態(土壌採集前の状態)を示している。この状態から土壌を採集する場合、まず、アクチュエータ19を縮退させ、第1支持アーム部20を介して押動シャフト11に連結された採集管2を下降させる。
【0061】
そうすると、図9の左端から2番目の図に示すように、採集管2が土壌表面を貫いて土中に入り込み、中空とされた採集管2の内部にサンプル土壌Sが入り込む。採集管2が下降位置まで下降したら、採集管2の中にサンプル土壌Sが採集される。このとき、採集管2に採集されるサンプル土壌Sの体積は、採集管2の圧入で若干圧縮され、元の土壌(採集される前の土壌)の体積よりもやや小さくになる。
【0062】
図9の右端から2番目の図に示すように、採集管2の中に採集されたサンプル土壌Sを、さらに押動シャフト11で押圧して押し固める。具体的には、押動用アクチュエータ本体17から下方に向かって棒状の押動シャフト11を伸長させ、押動シャフト11の下端で採集管2内のサンプル土壌Sを圧縮する。このようにすれば、サンプル土壌Sが採集管2内で押し固められ、押し固められたサンプル土壌Sが採取管の内周面に固着する。それゆえ、採集管2を上昇させてもサンプル土壌Sの落下を抑制することが可能となる。
【0063】
図9の右端の図に示すように、サンプル土壌Sの圧縮が終了したら、アクチュエータ19を上方に伸長させ、採集管2を上方に引き上げる。このとき、採集管2を下降位置から上昇位置に上昇させるのに合わせて、採集管2と共に押動シャフト11も上昇させる。このようにすれば押動シャフト11がサンプル土壌Sの上方に引き上げられ、押動シャフト11を用いてサンプル土壌Sを強制的に採集管2から剥離させるための予備動作を行うことが可能となる。
【0064】
図10の左端の図は、採集管2が上昇位置に引き上げられると共に、押動シャフト11が縮退している状態(土壌落下前の状態)を示している。まず、スロットル部材14を回転軸14cの軸心回りに回転させ、スロットル部材14に設けられた回収缶12を、引き上げられた採集管2の真下の土壌移替位置Tに移動させる(図6(a)の上図参照)。
土壌移替位置Tに回収缶12が移動したら、スロットル部材14の回転を一旦停止する。そして、図10の左端から2番目の図に示すように、再び押動シャフト11を下降させてサンプル土壌Sを強制的に採集管2から剥離し、剥離したサンプル土壌Sを回収缶12に落下させる。このとき、回収缶12の容積に比してサンプル土壌Sの体積の方が大きいので、余剰となった表層側のサンプル土壌Sは回収缶12に回収されることなく、回収缶12の上に山盛り状に積層される(図6(a)の下円内の図参照)。
【0065】
サンプル土壌Sの回収が完了したら、スロットル部材14を回転軸14cの軸心回りにさらに回転させる。そうすると、サンプル土壌Sの回収が終了した回収缶12が水平方向に移動する。そして、サンプル土壌Sの回収が終了した回収缶12が、スクレープ部材13まで移動する。スクレープ部材13は、回収缶12の回転軌道Rを横切るように取り付けられている(図6参照)。また、回収缶12は、スクレープ部材13の下縁のやや下方を、開口部12aが通過するように取り付けられている。それゆえ、スロットル部材14を回転させると、スクレープ部材13が回収缶12の開口部12aのやや上方を水平方向に向かって相対移動し、開口部12aの上に山盛り状に堆積した余剰な土壌を掻き落とす。
【0066】
その結果、図10の右端の図に示すように、開口部12aの上に堆積した土壌、言い換えれば採取前の圃場においては表層付近に位置していた土壌が掻き落とされる。そして、腐植や異物を含まないサンプル土壌Sのみを回収缶12に回収できるようになり、土壌分析に適したサンプル土壌Sを用いて精度の良い土壌分析を行うことが可能となる。
上記した実施形態の土壌採集装置1によれば、以下に説明する効果を奏することができる。
【0067】
土壌採集装置1は、採集管2と、土壌表面より所定深さの下降位置まで採集管2を下降させると共に土壌表面より上方の上昇位置まで採集管2を上昇させる昇降機構10と、採集管2内に上下移動可能に配備された押動シャフト11と、を備え、押動シャフト11は、採集管2が下降位置にあるときに、採集管2内で下降して採集管2内にある土壌を押し固める。
【0068】
この構成によれば、押動シャフト11に押し固められることで、採集管2内でサンプル土壌Sが圧縮される。圧縮されたサンプル土壌Sは採集管2の内周面に強く押し付けられ、内周面に固着する。このように採集管2の内周面に固着したサンプル土壌Sは容易に落下することはない。そのため、上述した土壌採集装置1では、地中より採集した土壌を採集管2の中に強固に留めることができ、土壌を確実に採集することができる。
【0069】
土壌採集装置1は、昇降機構10は、採集管2を下降位置から上昇位置に上昇させる際に、当該採集管2と共に押動シャフト11を上昇位置に上昇させる。
この構成によれば、採集管2内に強固に留めたサンプル土壌Sを剥離して、確実に回収缶12に回収することができる。つまり、サンプル土壌Sを採集した採集管2は、回収缶12にサンプル土壌Sを移し替えるために昇降機構10を用いて引き上げられる。そして、採集管2は、下降位置から上昇位置に上昇する。このとき、採集管2内に設けられた押動シャフト11を、採集管2の上昇と同時に伸長状態から縮退状態に変化させる。このようにすれば、回収缶12にサンプル土壌Sを移し替える際に、押動シャフト11を用いて採集管2内のサンプル土壌Sを引き剥がす準備を行うことができる。
【0070】
土壌採集装置1は、採集管2内に採集された土壌を回収する回収缶12と、回収缶12に向けて水平方向に相対移動するスクレープ部材13と、を備え、回収缶12は、上方に向かって開口する開口部12aを有し、押動シャフト11は、採集管2が上昇位置にあるとき、採集管2内で下降して採集管2内の土壌を回収缶12に向けて押し出し、スクレープ部材13は、押動シャフト11が採集管2内の土壌を押し出した後に、回収缶12の開口部12aの上方を通過する。
【0071】
この構成によれば、回収缶12の開口部12aの上方を通過するスクレープ部材13によって、開口部12aの上に山盛り状に堆積した余剰な土壌を掻き落とすことができる。つまり、この開口部12aの上に堆積した土壌とは、採取前の圃場においては表層付近に位置していた土壌に他ならない。そして、圃場においては表層付近に位置していた土壌には、腐植や異物といった分析には適さない物が含まれている。それゆえ、余剰な土壌を掻き落とすことで、腐植や異物を含まないサンプル土壌Sのみを回収缶12に回収できるようになる。その結果、上述した土壌採集装置1では、土壌分析に適したサンプル土壌Sを用いて精度の良い土壌分析を行うことが可能となる。
【0072】
土壌採集装置1は、回収缶12を水平に移動させる移動機構30を備え、採集管2の上昇位置と下降位置との間には、上下を仕切る仕切板28が設けられており、仕切り板には、採集管2が上昇又は下降するときに採集管2の通過を許容する窓29が形成されており、移動機構30は、開口部12aが窓29の下部を通過するように回収缶12を水平方向に移動させ、開口部12aが窓29の下側を通過するとき、窓29の内縁部がスクレープ部材13として機能する。
【0073】
この構成によれば、スクレープ部材13を別途設けなくても、装置本体15の底板などに窓29を形成するだけで済むようになる。つまり、スクレープ部材13として板部材を設ける場合には、装置構成が複雑となる。しかし、装置本体15の底板などに窓29を形成するだけであれば、シンプルな装置構成のままで余剰な土壌を掻き落とすことが可能となる。
【0074】
土壌採集装置1は、移動機構30は、仕切板28の下側に設けられて、上下方向を向く回転軸14c回りに回転するスロットル部材14を有し、スロットル部材14には、回転軸14c回りに等間隔をあけて複数の回収缶12が設けられており、窓29の内縁部は、平面視において、回転軸14c回りに回転する回収缶12の回転軌道R上に配置されている。
【0075】
この構成によれば、スロットル部材14を回転させる移動機構30を用いて、回収缶12を短時間で、且つ、効率良く土壌移替位置Tに移動することができる。つまり、上述した採集管2、押動シャフト11、及び昇降機構10などを用いた土壌採集装置1では、短時間でサンプル土壌Sの採集が可能となる。本発明の土壌採集装置1では、土壌の採集に合わせて、採集したサンプル土壌Sを短時間で回収缶12に回収することも必要となる。それゆえ、上述した移動機構30も用いることで、土壌の採集から回収までの操作を短時間で行うことが可能となる。また、複数の回収缶12を、回転軸14cを中心とする円形の小さいスペース内に配置することができるため、土壌採集装置1をコンパクトに構成することができる。
【0076】
土壌採集装置1は、スクレープ部材13は、回収缶12の移動方向に対して傾斜した刃先を備えている。
この構成によれば、傾斜した刃先を備えたスクレープ部材13によって硬質な土壌であっても摺り落としが容易に行えるようになる。つまり、土壌を確実に排除することができるので、高精度に定容された土壌を用いて精確な土壌分析を行うことも可能となる。
【0077】
土壌採集装置1は、開口部12aに対するスクレープ部材13の高さを調整可能な調整機構31を備えている。
この構成によれば、調整機構31を用いてスクレープ部材13の高さを調整することで、サンプル土壌Sの性質に対応した高さにスクレープ部材13を調整可能となる。その結果、回収缶12に回収するサンプル土壌Sの量を精確に調整でき、より精確な土壌分析を行うことが可能となる。
【0078】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0079】
1 土壌採集装置
2 採集管
3 作業車両
10 昇降機構
11 押動シャフト
12 回収缶
12a 開口部
13 スクレープ部材
14 スロットル部材
28 仕切板
29 窓
30 移動機構
31 調整機構
R 回転軌道
GL 土壌表面
図1
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