(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-24
(45)【発行日】2025-04-01
(54)【発明の名称】高硬度鋼材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20250325BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20250325BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20250325BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C21D9/46 T
C22C38/54
C22C38/00 301F
(21)【出願番号】P 2021559152
(86)(22)【出願日】2020-04-02
(86)【国際出願番号】 EP2020059424
(87)【国際公開番号】W WO2020201438
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-02
(32)【優先日】2019-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511126992
【氏名又は名称】エスエスアーベー テクノロジー アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】ミッコ・ヘミレ
(72)【発明者】
【氏名】トンミ・リーマタイネン
(72)【発明者】
【氏名】エサ・ヴィロライネン
(72)【発明者】
【氏名】パシ・スイッカネン
(72)【発明者】
【氏名】マグヌス・ラーション
(72)【発明者】
【氏名】マグヌス・グラド
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-030093(JP,A)
【文献】特開2012-214891(JP,A)
【文献】特開2007-224408(JP,A)
【文献】特表2018-507110(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108411203(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106319347(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0134872(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 9/46- 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%(wt.%)で示される以下の組成物からなる熱間圧延帯鋼材であって
C 0.17~0.38
Si 0~0.5
Mn 0.1~0.4
Al 0.015~0.15
Cu 0.1~0.6
Ni 0~0.8
Cr 0.1~1
Mo 0.01~0.3
Nb 0~0.005
Ti 0~0.05
V 0~0.2
B 0.0005~0.005
P 0~0.025
S 0~0.008
N 0~0.01
Ca 0~0.01
残部はFe、および不純物であり、
その鋼材は、ブリネル硬度が420~580HBWの範囲にあり、かつ、腐食指数(ASTM G101-04)が少なくとも5であり、
Nの量が0~0.003wt.%の範囲にあるとき、Tiの量が0~0.005wt.%の範囲であり、
体積パーセント(vol.%)で、マルテンサイト90%以上、残留オーステナイト0~1、残部は、ベイナイト、フェライトおよび/またはパーライトからなる微細構造を有し、1.5~7の範囲のアスペクト比を持つオーステナイト粒構造を有し、
厚さが10mm以下である、
上記の熱間圧延帯鋼材。
【請求項2】
Nの量が0.003wt%以上0.01wt%以下のとき、Tiの量が0.005wt%以上0.05wt%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の鋼材。
【請求項3】
[Ni]>[Cu]/3、であり
[Ni]は、組成物中のNiの量であり
[Cu]は、組成物中のCuの量である、請求項1または2に記載の鋼材。
【請求項4】
Ca/S比が1~2の範囲である、請求項1~3のいずれか1項に記載の鋼材。
【請求項5】
450~550HBWの範囲のブリネル硬度を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の鋼材。
【請求項6】
腐食指数(ASTM G101-04)が少なくとも5.5である、請求項1~5のいずれか1項に記載の鋼材。
【請求項7】
横方向および/または縦方向の温度が-20
℃のとき、シャルピーV衝撃靭性が45J/cm
2
以上で、また-40℃のとき、シャルピーV衝撃靭性
が38J/cm
2
である、請求項1~6のいずれか1項に記載の鋼材。
【請求項8】
曲げ軸が圧延方向に対して長手方向にある、圧延方向と平行する測定方向の最小曲げ半径が3.4t以下、曲げ軸が圧延方向に対して横方向にある圧延方向と直交する測定方向の最小曲げ半径が2.7t以下であり、tは帯鋼の厚さであることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の鋼材。
【請求項9】
オーステナイト粒径が50μm以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の鋼材。
【請求項10】
以下の工程を含む、前記請求項1~9のいずれか1項に記載の鋼材の製造方法。
- 請求項1~4のいずれか1項に記載の化学組成からなる鋼スラブを提供する工程と、- 前記鋼スラブを1200~1350℃のオーステナイト化温度に加熱する工程と、
- Ar3~1300℃の範囲の温度で所望の厚さに熱間圧延する工程であって、仕上げ圧延温度は800℃~960℃の範囲であり、
- 熱間圧延された帯鋼を、450℃以下の冷却温度およびコイリング温度に直接焼き入れするする工程と、
- 任意に、150℃~250℃の範囲内の温度で焼きなましを行う工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐気候性腐食(resistance to climatic corrosion)を示し、高硬度と、衝撃強度や曲げ性などの優れた機械的特性とのバランスがとれた高硬度帯鋼に関するものである。さらに、本発明は、該高硬度帯鋼の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高硬度であることは鋼材の耐摩耗性に直接影響し、硬度が高いほど耐摩耗性が向上する。高硬度とは、ブリネル硬度が450HBW以上、特に500HBWから650HBWの範囲にあることを意味する。
【0003】
耐摩耗鋼は、耐衝撃鋼としても知られている。これらは摩耗や衝撃に対する高い耐性が必要とされる用途に使用される。
【0004】
このような用途は、鉱業、土木業、廃棄物運搬業などで見られる。耐摩耗鋼は、例えば、砂利運搬車のボディや掘削機のバケットに使用されており、耐摩耗鋼が提供する高い硬度により、車両部品の耐用年数を延ばすことができる。耐摩耗鋼(wear resistant steel)の効果は、機械の外表面の塗装が、衝撃などの機械的ストレスに頻繁にさらされ、塗装に傷がついてしまうような場合には、さらに重要になる。
【0005】
このような高硬度の鋼材は、炭素含有量の多い(0.41~0.50wt%)鋼を炉内でオーステナイト化した後、急冷硬化(焼き入れ)させて得られるマルテンサイト組織によって得られるのが一般的である。この工程では、鋼板はまず熱間圧延され、熱間圧延の温度から室温までゆっくりと冷却され、オーステナイト化温度まで再加熱され、均熱され、最後に急冷硬化される。
【0006】
以下、この工程をRHQ(Reheating and Quenching)工程と呼ぶ。このようにして製造された鋼の例としては、特許文献1に開示されている耐摩耗鋼や、いくつかの市販の耐摩耗鋼がある。所望の硬度を得るために必要とされる炭素の含有量が比較的多いため、結果として生じるマルテンサイト反応により、鋼に大きな内部残留応力が発生する。これは、炭素含有量が多いほど格子歪みが大きくなるためである。そのため、この種の鋼は非常に脆く、急冷硬化中に割れてしまうことさえある。このような脆さの問題を解決するために、通常は焼入れ後に焼戻しを行うが、これは加工の手間とコストの増加につながる。
【0007】
これらの鋼材は、炭素含有量が多いため、衝撃強度が低下し、成形性や曲げ性が悪く、応力腐食割れ(SCC)に対する耐性も低い。応力腐食割れとは、引張応力と腐食環境の複合的な影響を受けて発生する割れのことである。通常、応力腐食割れは、材料の表面の大部分は無傷のように見えるが、検出が困難な微細な亀裂が材料に侵入する孔食として始まる。応力腐食割れは、このような微細な亀裂の検出が非常に困難であり、損傷を容易に予測できないことから、壊滅的な形態の腐食に分類される。
【0008】
そのため、硬度やその他の機械的特性(衝撃強度、成形性/曲げ性、応力腐食割れへの耐性など)を損なうことなく、炭素含有量を減少させるためのより良いアプローチが必要とされている。
【0009】
特許文献2および特許文献3は、比較的低い炭素含有量(特許文献2では0.25~0.30wt.%、特許文献3では0.22~0.29wt.%)と、比較的低いマンガン含有量を有するRHQ鋼板に関するものである。このようなRHQ鋼板を製造するためには、焼き入れ硬化後に焼戻し工程が必要であり、加工の手間とコストが必然的に増加する。
【0010】
特許文献4は、優れた耐応力腐食割れ性を示す耐摩耗性鋼材に関するものであり、この鋼板は、RHQ工程のような熱間圧延後の再加熱処理を行わずに、熱間圧延直後に直接焼入れ(DQ)を行うことができる工程で製造することができるものである。特許文献4の鋼板は、炭素含有量が比較的少なく(0.20~0.30wt.%)、マンガン含有量が比較的多い(0.40~1.20wt.%)のが特徴である。耐応力腐食割れ性を向上させるためには、特許文献4の鋼材の組織の基相または主相が焼戻しマルテンサイトであることが必要である。
【0011】
一方、非焼戻しマルテンサイトが存在すると耐応力腐食割れ性が低下するため、非焼戻しマルテンサイトの面積率は10%以下に制限される。
【0012】
耐摩耗性と耐応力腐食割れ性のバランスから、特許文献4の鋼材の表面硬さは520HBW以下である。
【0013】
本発明は、直接焼入れdirect quenching(DQ)と組み合わせて、費用対効果の高い熱機械制御処理thermomechanically controlled processing(TMCP)の利用を拡大するもので、耐気候性腐食が向上し、衝撃強度が保証され優れた成形性/曲げ性を示す高硬度鋼ストリップ製品を製造するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】CN102199737
【文献】CN102392186
【文献】CN103820717
【文献】EP2695960
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
現状に鑑み、本発明の目的は、優れた耐気候性腐食、確かな衝撃強度性、および優れた成形性/曲げ性を有する高硬度鋼材を提供するということである。この目的は、特定の組成の合金と、主にマルテンサイトからなる金属組織を生成するコスト効率の高いTMCPの組み合わせによって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1の側面で、本発明は、質量パーセント(wt.%)で、以下の組成を含む熱間圧延帯鋼を提供する。
C 0.17~0.38、好ましくは0.21~0.35、より好ましくは0.22~0.28
Si 0~0.5、好ましくは0.01~0.5、より好ましくは0.03~0.25
Mn 0.1~0.4、好ましくは0.15~0.3
Al 0.015~0.15
Cu 0.1~0.6、好ましくは0.1~0.5、より好ましくは0.1~0.35
Ni 0~0.8、好ましくは0.2~0.8
Cr 0.1~1、好ましくは0.3~1、より好ましくは0.35~1。
さらに好ましくは0.35~0.8
Mo 0.01~0.3、好ましくは0.03~0.3、より好ましくは0.05~0.3
Nb 0~0.005
Ti 0~0.05、好ましくは0~0.035、より好ましくは0~0.02
V 0~0.2、好ましくは0~0.06
B 0.0005~0.005、好ましくは0.0008~0.005
P 0~0.025、好ましくは0.001~0.025、より好ましくは0.001~0.012
S 0~0.008、好ましくは0~0.005
N 0~0.01、好ましくは0~0.005、より好ましくは0~0.004
Ca 0~0.01、好ましくは0~0.005、より好ましくは0.0008~0.003
残部はFe、および不純物。
【0017】
好ましくは、前記組成物は、質量パーセント(wt.%)で、以下を含む。
Ti 0 - 0.005
N 0 - 0.003
【0018】
好ましくは、前記組成物は、質量パーセント(wt.%)で、以下を含む。
Ti>0.005および≦0.05
N>0.003および≦0.01
【0019】
好ましくは、[Ni]>[Cu]/3、より好ましくは[Ni]>[Cu]/2であり、ここで
[Ni]は、組成物中のNiの量である。
[Cu]は組成物中のCuの量である。
【0020】
鋼材は、必須の元素であるSi、Cu、Ni、Crが合金化されているため、耐気候性腐食に優れ、塗膜の耐久性も向上している。
【0021】
また、衝撃靭性や曲げ加工性を向上させるために重要な、Mnの含有量を低く抑えている。
【0022】
Ca/S比は、衝撃靭性と曲げ性を向上させために、CaSが形成されないように調整される。Ca/S比は、好ましくは1~2、より好ましくは1.1~1.7、さらに好ましくは1.2~1.6の範囲である。
【0023】
Nbの含有量は、鋼材の成形性や曲げ性を向上させるために、可能な限り低く抑えることが望ましい。なお、Nbなどの元素は、意図的に添加されていない残留物として存在してもよい。
【0024】
残留物と不純物の違いは、残留物は管理された量の合金元素であり、不純物とは見なされないことである。工業工程で通常管理されている残留物は、合金に本質的な影響を与えない。
【0025】
第2の側面で、本発明は、以下の工程を含む熱間圧延鋼帯の製造方法を提供することである。
- 概要で述べた化学組成からなる、請求項1~5のいずれか1項に記載の鋼スラブを準備する工程と
- 前記鋼スラブを1200~1350℃のオーステナイト化温度に加熱する工程と
- Ar3~1300℃の範囲の温度で所望の厚さに熱間圧延する工程であって、仕上げ圧延温度が800℃~960℃の範囲、好ましくは870℃~930℃の範囲、より好ましくは885℃~930℃の範囲である工程;および
- 熱間圧延された帯鋼を450℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは100℃以下の冷却完了温度および巻取温度に直接、急冷する工程。
【0026】
選択的に、焼き入れされコイル化された帯鋼に対して、150℃~250℃の範囲の温度で焼き戻しの工程が行われる。しかし、本発明では、焼き戻しの工程は必要ない。
【0027】
鋼材は、厚さが10mm以下、好ましくは8mm以下、より好ましくは7mm以下の帯鋼である。
【0028】
得られた鋼材は、鋼材の1/4の厚さから測定して、体積パーセント(vol.%)で、少なくとも90vol.%のマルテンサイト、好ましくは少なくとも95vol.%のマルテンサイト、より好ましくは少なくとも98vol.%のマルテンサイトからなる微細構造を有している。マルテンサイト組織は、焼き戻しなし、自動焼き戻しおよび/または焼き戻しされていてもよい。好ましくは、マルテンサイト組織は焼戻しされていない。より好ましくは、前記微細構造は、10vol.%以上の焼き戻しなしのマルテンサイトからなる。好ましくは、前記微細構造は、0~1vol.%の残留オーステナイトからなり、より好ましくは0~0.5vol.%の残留オーステナイトである。また、ベイナイト、フェライト、パーライトなどの組織も含まれる。
【0029】
得られた鋼材は、鋼材の1/4厚さから測定したオーステナイト粒径が50μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。
【0030】
オーステナイト粒組織のアスペクト比は、鋼材の衝撃靭性と曲げ性に影響を与える要因の一つである。
【0031】
衝撃靭性を向上させるためには、オーステナイト粒組織は、アスペクト比が1.5以上、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であることが望ましい。曲げ性を向上させるためには、オーステナイト粒組織は、アスペクト比が7以下、好ましくは5以下、より好ましくは1.5以下であることが望ましい。
【0032】
本発明による得られた鋼材は、アスペクト比が1.5~7、好ましくは1.5~5、より好ましくは2~5の範囲にあるオーステナイト粒組織(prior austenite grain structure)を有しているので、優れた衝撃靭性と優れた曲げ加工性を確実にバランスよく実現することができる。
【0033】
得られた鋼材は、硬さと、耐気候性腐食の向上や優れた衝撃強度などの他の機械的特性とのバランスが良い。本発明の鋼材は、以下の機械的特性のうち少なくとも1つを有する。
【0034】
420~580HBW、好ましくは450~550HBW、より好ましくは470~530HBWの範囲のブリネル硬度。
【0035】
腐食指数(ASTM G101-04)≧5、好ましくは≧5.5、より好ましくは≧6。
【0036】
20℃または-40℃の温度で34J/cm2以上のシャルピーV衝撃靭性。
【0037】
本発明の鋼材は、優れた曲げ加工性または成形性を有する。また、曲げ軸を圧延方向に長手方向とした測定方向での最小曲げ半径が3.4t以下であり、曲げ軸を圧延方向に横方向とした測定方向での最小曲げ半径が2.7t以下であり、ここでtは鋼帯製品の厚さである。
【0038】
本発明の鋼材は、高硬度と、衝撃強度や成形性・曲げ性などの機械的特性のバランスが取れている。また、耐気候性腐食にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【発明を実施するための形態】
【0040】
鋼という用語は、炭素(C)を含む鉄合金である。
【0041】
気候性腐食(climatic corrosion別名:大気腐食)とは、地域の環境条件によって引き起こされる屋外での腐食を指す。
【0042】
環境条件は、雨や太陽のような気象現象によって形成される。また、海水に含まれる塩化物や、火山活動や工業・鉱業に由来する硫黄化合物など、空気中のさまざまな不純物の影響も受ける。
【0043】
ブリネル硬度(HBW)」とは、鋼の硬さの呼称である。ブリネル硬度の試験は、きれいに準備された表面に10mmの球状のタングステンカーバイドボールを3000キログラムの力で押し付けて印を作り、それを測定して数値を与えることで行われる。
【0044】
腐食指数(ASTM G101-04)」とは、米国材料試験協会(ASTM)の標準規格であるG101のことで、耐気候性腐食鋼の大気中での耐食性を組成の関数として定量化するための、現在入手可能な唯一のガイドである。
【0045】
ACC(Accelerated Continuous Cooling)」とは、ある温度まで冷却速度を速めて、中断することなく冷却する工程を指す。
【0046】
UTS(Ultimate Tensile Strength、Rm)」とは、鋼材が引張により破断する限界値であり、最大引張応力を意味する。
【0047】
降伏強さ(YS、Rp0.2)」とは、0.2%の塑性ひずみが生じる応力量として定義される0.2%オフセット降伏強さをいう。
【0048】
全伸度total elongation(TEL)」とは、材料が破断するまでに伸ばせる割合のことで、成形性の大まかな指標であり、通常、伸度計の一定のゲージ長に対する割合で表される。一般的なゲージ長は50mm(A50)と80mm(A80)である。
【0049】
「最小曲げ半径(Ri)」とは、試験片に亀裂を発生させずに適用できる最小の曲げ半径のことである。
【0050】
また、「曲げやすさ」とは、Riとシートの厚さ(t)の比である。
【0051】
鋼材の合金含有量と加工パラメータが微細構造を決定し、それが鋼材の機械的特性を決定する。
【0052】
合金の設計は、目標とする機械的特性を備えた鋼材を開発する際に考慮すべき最初の問題である。次に、本発明による化学組成をより詳細に説明する。ここで、各成分の%は質量%を意味する。
【0053】
炭素Cは0.17%から0.38%の範囲で使用される。
Cの含有は、固溶体強化によって鋼材の強度を高めるため、Cの含有量が強度レベルを決定することになる。Cは目標とする硬さに応じて0.17%から0.38%の範囲で使用する。炭素含有量が0.17%未満の場合、ブリネル硬度420HBW以上を達成することは困難である。しかし、Cは溶接性、衝撃靭性、成形性または曲げ性、耐応力腐食割れ性などに悪影響を及ぼす。そのため、Cの含有量は0.38%以下に設定される。好ましくは、Cを0.21%~0.35%の範囲で使用し、より好ましくは0.22%~0.28%である。
【0054】
シリコンSiは、0.5%以下の量で使用される。
Siは、気候性腐食の条件下で酸化保護層の形成を促進するために組成物に添加され、気候性腐食に対して良好な耐性を与え、摩耗により機械表面から損傷または除去されやすい塗装層の耐久性を向上させる。Siは製鋼工程で溶液中の酸素を除去する脱酸剤や阻止剤として有効である。Siの合金は、固溶体強化により強度を高め、オーステナイトの焼入れ性を高めて硬度を高める。また、Siの存在は残留オーステナイトを安定化させる。しかし、Si含有量が0.5%を超えると、炭素当量(CE)を不必要に増加させ、溶接性を低下させる可能性がある。さらに、Siが過剰に含まれると、表面品質が劣化する可能性がある。前述したように、Siは十分な硬さと耐気候性腐食を得るために、また塗膜の耐久性を高めるために重要な元素である。好ましくは、Siは0.01%~0.5%の範囲で使用され、より好ましくは0.03%~0.25%である。
【0055】
マンガンMnは、0.1%~0.4%の範囲で使用される。
Mnは、マルテンサイト開始温度(Ms)とマルテンサイト終了温度(Mf)を低下させ、焼入れ時のマルテンサイトのオートテンパリング、オートテンパリング(autotempering)を抑制することができる。マルテンサイトのオートテンパリングが抑制されると、内部応力が大きくなり、焼入れによるクラックや形状の歪みが発生しやすくなる。オートテンパー化したマルテンサイト組織の程度が低いと、高硬度化には有利であるが、衝撃強度への悪影響を過小評価してはならない。
【0056】
また、Mnは、固溶強化によって強度を高め、オーステナイトの焼入れ性を高めることによって硬度を高める。しかし、Mn含有量が多すぎると、鋼の焼入れ性が向上して衝撃靭性が犠牲になる。また、Mnを過剰に合金とすると、C-Mnの偏析やMnSの形成が起こり、孔食や応力腐食割れの開始サイトの形成を誘発する可能性がある。したがって、Mnは、焼入れ性を確保するために0.1%以上の量で使用されるが、上述のような弊害を回避し、衝撃強度や曲げ性などの優れた機械的特性を確保するために、0.4%以下の量で使用される。好ましくは、0.15%~0.3%の範囲で低濃度のMnを使用する。
【0057】
アルミニウムAlは、0.015%から0.15%の範囲で使用される。
Alは、製鋼工程中に溶融物から酸素を除去できる脱酸剤または阻止剤として有効である。また、Alは安定したAlN粒子を形成することでNを除去し、結晶粒を微細化することで、特に低温での高靭性に効果がある。また、Alは残留オーステナイトを安定させる。しかし、過剰なAlは非金属介在物を増加させ、清浄度を悪化させる可能性がある。
【0058】
Cuは、0.1%から0.6%の範囲で使用される。
Cuは、気候性腐食の条件の下で酸化保護層の形成を促進するために組成物に添加され、気候性腐食に対する良好な耐性を与え、摩耗により機械表面から損傷または除去されやすい塗膜層の耐久性を向上させる。Cuは、低炭素ベイナイト構造の形成を促進し、固溶体強化を起こし、析出強化に寄与する。また、応力腐食割れを抑制する効果も期待できる。Cuは過剰に添加すると、溶接性や熱影響部(HAZ)の靭性を劣化させる。そのため、Cuの上限は0.6%とした。前述したように、Cuは十分な硬さと良好な耐気候性腐食を付与し、塗膜の耐久性を高めるために重要な元素である。好ましくは、Cuは0.1%~0.5%、より好ましくは0.1%~0.35%の範囲で使用される。
【0059】
ニッケルNiは0.8%以下の量で使用される。
Niは焼入れ割れを防止し、低温靭性を向上させるために使用される。Niは、オーステナイトの焼入れ性を向上させ、衝撃靭性やHAZ靭性をほとんど損なわずに強度を高める元素である。また、Niは表面品質を向上させ、応力腐食割れの原因となる孔食の発生を防ぐ。Niは、気候性腐食の条件の下で酸化保護層の形成を促進するために組成物に添加される。これは、気候性腐食に対して良好な耐性を提供し、摩耗によって機械表面から損傷または除去されやすい塗布層の耐久性を向上させる。
【0060】
しかし、ニッケル含有量が0.8%を超えると、大きな技術的改善がないまま合金化コストが高くなりすぎる。過剰なNiは高粘度の酸化鉄のスケールを生成し、鋼材の表面品質を劣化させる可能性がある。また、Ni含有量が多いと、CE値や割れ感受性係数が増加するため、溶接性に悪影響を及ぼす。前述のように、Niは十分な硬さと良好な耐気候性腐食を、衝撃靭性を全くあるいはわずかに損なうことなく提供するために、また、塗膜の耐久性を高めるために重要な元素である。Niは好ましくは0.2%から0.8%の範囲で使用される。
【0061】
クロムCrは、0.1%から1%の範囲で使用される。
Crは、気候性腐食の条件の下で酸化保護層の形成を促進するために組成物に添加される。これにより、気候性腐食に対する良好な耐性が得られ、摩耗により機械表面から損傷または除去されやすい塗膜層の耐久性が向上する。また、Crを添加することで耐孔食性が向上し、応力腐食割れの発生を早期に防止することができる。中強度の炭化物を形成する元素として、Crは母材と溶接部の両方の強度を向上させるが、衝撃靭性の低下はわずかである。また、Crの合金は、オーステナイトの焼入れ性を高めることにより、強度と硬度を向上させる。
【0062】
しかし、Crの使用量が1%を超えると、HAZ靭性や現場での溶接性に悪影響を及ぼす可能性がある。前述したように、Crは、十分な硬さと良好な耐気候性腐食を、衝撃靭性を全くあるいは損なうことなく提供するために、また、塗膜の耐久性を高めるために、重要な元素である。好ましくは、Crは0.3%~1%、より好ましくは0.35%~1%、さらに好ましくは0.35%~0.8%の範囲で使用される。
【0063】
モリブデンMoは0.01%~0.3%の範囲で使用される。
Moは、衝撃強度、低温靭性、焼戻し耐性を向上させる。Moの存在は、オーステナイトの硬化性を高めることにより、強度と硬度を向上させる。Moは、Mnの代わりに焼入れ性を付与するために組成に添加することができる。B合金の場合、Bの効果を確保するためには通常Moが必要であるが、Moは経済的に許容される合金の元素ではない。Moを0.3%以上使用すると、靭性が低下して脆性化の危険性が高まる。
【0064】
さらに、本発明者らは、Moの合金がオーステナイトの再結晶を遅らせ、オーステナイト結晶粒組織のアスペクト比を増加させることに着目した。そのため、オーステナイト粒が過度に伸長して鋼材の曲げ性が劣化するのを防ぐために、Moの含有量を注意深く制御する必要がある。好ましくは、Moは0.03%から0.3%の範囲で使用され、より好ましくは0.05%から0.3%である。
【0065】
ニオブNbは0.005%以下の量で使用される。
Nbは炭化物NbCと炭窒化物Nb(C,N)を形成する。Nbは主要な結晶粒微細化元素と考えられている。Nbは鋼材の強化と強靭化に寄与する。しかし、Nbが過剰になると、特に直接焼入れを行う場合や、組成中にMoが存在する場合に曲げ性が悪化するため、Nbの添加量は0.005%に制限すべきである。さらに、Nbは、比較的不安定なTiNbNまたはTiNb(C,N)の析出物を形成することにより、粗い上部ベイナイト構造の形成を促進する可能性があるため、HAZ靭性にとって有害である。鋼製品の成形性や曲げ性を高めるためには、Nbの含有量をできるだけ少なくする必要がある。
【0066】
チタンTiは0.05%以下の量で使用される。
TiCの析出物は、かなりの量の水素Hを捕捉することができ、材料中のHの拡散性を低下させ、有害なHの一部を微細構造から除去して応力腐食割れを防止する。また、Tiは靭性に有害なフリーNを結合するために添加され、安定したTiNを形成し、NbCとともに高温での再加熱段階のオーステナイト粒成長を効率的に防ぐことができる。
【0067】
また、TiNの析出により、溶接時のHAZにおける結晶粒の粗大化を防ぎ、靭性を向上させることができる。TiNの形成はBNの析出を抑制し、それによってBが焼入れ性に貢献できるようにする。この目的のために、Ti/Nの比率は少なくとも3.4である。
【0068】
しかし、Tiの含有量が多すぎると、TiNの粗大化やTiCによる析出硬化が生じ、低温靭性が低下することがある。そのため、チタンは0.05%以下に制限する必要がある。
【0069】
好ましくは、Tiは0.035%以下、より好ましくは0.02%以下の量で用いる。鋼材の窒素含有量が0.003%以下と少ない場合は、ホウ素焼入性効果を確保するためにTiを添加する必要はなく、Tiの含有量は0.005%以下とすることができる。窒素含有量が0.003 %以上0.01 %以下の場合、Ti含有量は0.005 %以上0.05 %以下とすることができる。
【0070】
バナジウムVは0.2%以下の量で使用される。
VはNbと実質的に同じだが小さな効果である。V4C3の析出物は、かなりの量の水素Hをトラップすることができ、材料中のHの拡散性を低下させ、有害なHの一部を微細構造から除去してHICを防止する。Vは強いカーバイドとナイトライドフォーマーであるが、V(C,N)も形成可能で、オーステナイトへの溶解度はNbやTiよりも高い。このように、V合金はフェライト中に大量のVが溶解して析出可能となるため、分散強化や析出強化の可能性がある。しかし、0.2%を超えるVの添加は、溶接性や焼入れ性に悪影響を及ぼす。
【0071】
好ましくは、Vは0.06%以下の量で用いる。
【0072】
ホウ素Bは、0.0005%から0.005%の範囲で使用される。
Bは焼入れ性を高めるためのマイクロアロイとして確立された元素である。最も効果的なBの合金には、BNの形成を防ぐために、好ましくは少なくとも3.42Nの量のTiの存在が必要である。0.003%以下の量の窒素の存在下では、Tiの含有量を0.005%以下に下げることができ、低温靭性に有利である。Bの含有量が0.005%を超えると、焼入れ性が悪化する。
【0073】
好ましくは、Bを0.0008%~0.005%の範囲で使用される。
【0074】
カルシウムCaは0.01%以下の量で使用される。
製鋼工程でのCa添加は、精錬、脱酸、脱硫、酸化物や硫化物の介在物の形状、大きさ、分布の制御のためである。Caは通常、後続のコーティングを改善するために添加される。硫化カルシウム(CaS)や酸化カルシウム(CaO)、またはこれらの混合物(CaOS)が形成され、曲げ性や耐SCC性などの機械的特性が劣化するのを防ぐために、過剰なCaの添加は避けるべきである。
【0075】
好ましくはCaを0.005%以下、より好ましくは0.0008%~0.003%の量で使用することで、衝撃強度や曲げ性などの機械的特性に優れたものとなる。
【0076】
また、Ca/S比は、CaSが形成されないように調整することで、衝撃靭性や曲げ性を向上させることができる。本発明者らは、一般に、製鋼工程において、最適なCa/S比は、クリーンな鋼材では1~2、好ましくは1.1~1.7、より好ましくは1.2~1.6の範囲であることを見いだした。
【0077】
不可避的な不純物としては、リンP、硫黄S、窒素Nなどがあり、これらの含有量を質量%で表すと、以下のように定義されるのが好ましい。
P 0~0.025、好ましくは0.001~0.025、より好ましくは0.001~0.012
S 0~0.008、好ましくは0~0.005、より好ましくは0~0.002
N 0~0.01、好ましくは0~0.005、より好ましくは0~0.004
【0078】
その他の不可避的な不純物としては、水素H、酸素O、希土類金属(REM)などが考えられる。これらの含有量は、衝撃靭性などの優れた機械的特性を確保するために制限される。
【0079】
鋼材のオーステナイトからマルテンサイトへの変態は、化学組成といくつかの加工パラメータ(主に再加熱温度、冷却速度、冷却温度)に大きく依存する。化学組成に関しては、ある元素は他の元素よりも大きな影響を与えるが、他の元素は無視できる程度の影響しか与えない。冷却中のマルテンサイト形成に対する元素の影響を評価するには、オーステナイトの焼入れ性を表す方程式を用いることができる。そのような方程式の1つを以下に示す。
【0080】
この式から、炭素の影響が最も大きく、Mn、Mo、Crの影響は中間的であり、SiとNiの影響は小さいことがわかる。さらに、この式は、どの元素もマルテンサイト形成に不可欠ではなく、ある元素の不在は、他の合金元素の量や、冷却速度などの処理パラメータで補うことができることを示している。
【0081】
【0082】
目標とする機械的特性を持つ鋼材は、鋼材の機械的特性を決定することとなる特定の工程により製造される。
【0083】
最初の工程は、例えばストランドキャスティング(strand casting)と呼ばれる連続鋳造の工程によって、鋼スラブを提供することである。
【0084】
再加熱段階では、鋼スラブは1200~1350℃のオーステナイト化温度まで加熱され、その後、30~150分かけて温度を均一化する工程が行われる。この再加熱と均熱の工程は、オーステナイト粒の成長を制御する上で重要である。加熱温度の上昇は、合金の析出物の溶解や粗大化を引き起こし、異常粒成長の原因となる。
【0085】
最終的な鋼材は、帯鋼の1/4の厚さから測定したオーステナイト(prior austenite)粒径が50μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。
【0086】
熱間圧延段階では、スラブはAr3~1300℃の範囲の温度で所望の厚さに熱間圧延され、仕上げ圧延温度(FRT)は800℃~960℃、好ましくは870℃~930℃、より好ましくは885℃~930℃の範囲である。
【0087】
オーステナイト粒組織(prior austenite grain structure)のアスペクト比は、鉄材の衝撃靭性と曲げ性に影響を与える要因の一つである。衝撃靭性を向上させるためには、オーステナイト粒組織のアスペクト比は1.5以上、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であることが望ましい。曲げ性を向上させるためには、オーステナイト粒組織のアスペクト比は7以下、好ましくは5以下、より好ましくは1.5以下であることが望ましい。
【0088】
オーステナイト粒の所望のアスペクト比は、仕上げ圧延温度、ひずみ/変形、ひずみ速度、および/またはオーステナイトの再結晶を遅延させるMoなどの元素との合金化など、多くのパラメータを調整することによって達成することができる。
【0089】
本発明により得られた鋼材は、アスペクト比が1.5~7、好ましくは1.5~5、より好ましくは2~5の範囲にあるオーステナイト粒組織を有するため、優れた衝撃靭性と優れた曲げ加工性を確実にバランスよく達成することができる。
【0090】
得られた鋼材は、その厚さが10mm以下、好ましくは8mm以下、より好ましくは7mm以下である。
【0091】
熱間圧延された帯鋼は、冷却完了温度および巻取温度が450℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは100℃以下になるように直接焼入れされる。また、冷却速度は30℃/秒以上である。
【0092】
直接焼入れされた帯鋼は、450℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは100℃以下の温度でコイリングされる。
【0093】
得られた鋼材は、帯鋼の1/4の厚さから測定して、で、体積パーセント(vol.%)少なくとも90vol.%のマルテンサイト、好ましくは少なくとも95vol.%のマルテンサイト、より好ましくは少なくとも98vol.%のマルテンサイトからなる微細構造を有するものである。マルテンサイト組織は、焼き戻しなし、オートテンパリングおよび/または焼き戻しされていてもよい。好ましくは、マルテンサイト組織は焼戻しされていない。より好ましくは、前記微細構造は、10vol.%以上の焼き戻しなしのマルテンサイトからなる。好ましくは、前記微細構造は、0~1vol.%の残留オーステナイトからなり、より好ましくは0~0.5vol.%の残留オーステナイトである。また、微細構造はベイナイト、フェライト、パーライトなども含む。
【0094】
本発明の帯鋼は、硬度と、優れた衝撃強度、耐気候性腐食の向上、優れた成形性/曲げ性などの他の機械的特性とのバランスが取れている。
【0095】
本発明の帯鋼は、420~580HBW、好ましくは450~550HBW、より好ましくは470~530HBWの範囲の高いブリネル硬度を有する。
【0096】
帯鋼は、腐食指数(ASTM G101-04)が少なくとも5、好ましくは少なくとも5.5、より好ましくは少なくとも6であり、気候性腐食に対する耐性が向上している。本発明の鋼材を使用することにより、塗膜の耐久性が向上し、再塗装間隔を1.5~2倍にすることができる。
【0097】
腐食指数(ASTM G101-04)は、様々な環境下における合金鋼の長期的な大気腐食を推定するために使用される。腐食指数(ASTM G101-04)の式は、長期間の屋外腐食暴露試験からの統計的手法により形成されており、その式は以下のように表される。
IASTMG101=26.01(%Cu)+3.88(%Ni)+1.20(%Cr)+1.49(%Si)+17.28(%P)-7.29(%Cu)(%Ni)-9.10(%Ni)(%P)-33.39(%Cu)2
【0098】
高硬度の帯鋼は、-20℃または-40℃の温度で34J/cm2以上のシャルピーV衝撃靭性を有し、従来の衝撃強度の要求を満たしている。
【0099】
帯鋼は、優れた曲げ加工性または成形性を有する。本発明の鋼材は、曲げ軸が圧延方向に対して長手方向にある測定方向の最小曲げ半径が3.4t以下であり、曲げ軸が圧延方向に対して横方向にある測定方向の最小曲げ半径が2.7t以下であり、tは帯鋼の厚さである。
【実施例】
【0100】
以下の実施例は、本発明の実施形態をさらに説明および実証するものである。本発明の範囲から逸脱することなくその多くの変形が可能であるため、実施例は単に説明のためのものであり、本発明の限定として解釈されるべきではない。
【0101】
試験された帯鋼を製造するために使用された化学組成を、表1に示す。試験した帯鋼を製造するための製造条件を表2に示す。試験した帯鋼の機械的特性を表3に示す。
【0102】
微細構造
微細構造は、SEM顕微鏡写真から特徴づけることができ、体積分率は、ポイントカウンティングまたは画像分析法を用いて決定することができる。試験した実施例1~4の微細構造はすべて、少なくとも90vol.%のマルテンサイトを主相としている。
図1は、帯鋼No.1の1/4厚さからのRD-ND面のSEM像であり、オーステナイト粒界が可視化されている。帯鋼No.1のオーステナイト粒界のアスペクト比は3.4である。
【0103】
ブリネル硬度HBW
ブリネル硬度の試験は、清浄に準備された表面に、10mmの球状のタングステンカーバイドボールを3000キログラムの力で押し付けて印を作り、それを測定して特定の数値を得ることで行われる。測定は、鋼板の上面に垂直に、鋼板の表面から10~15%の深さで行う。表3に示すように、本実施例1~4は、ブリネルハーネスが475~491HBWの範囲にあることがわかる。また、比較例5は486HBWのブリネル・ハーネスを示し、比較例6は469HBWのブリネル・ハーネスを示す。
【0104】
腐食指数(ASTM G101-04)
腐食指数(ASTM G101-04)は、American Society for Testing and Materials(ASTM)規格G101に基づいて算出される。表3に示すように、実施例1~4は、腐食指数(ASTM G101-04)が5.28以上であった。一方で、比較例No.5および6は、腐食指数(ASTM G101-04)がそれぞれ3.4および1.04と大幅に低かった。
【0105】
シャルピーV衝撃靭性
ASME(American Society of Mechanical Engineers)規格に準拠したシャルピーVノッチ試験により、-20℃または-40℃の衝撃靭性値を求めた。実施例のものは、-20℃におけるシャルピーV衝撃靭性値が、それぞれ63J/cm2、45J/cm2であった(表3)。また、実施例1~4は、測定方向が圧延方向の長手方向である場合、温度-40℃でのシャルピーV衝撃靭性が38~120J/cm2の範囲内である。また、実施例1~4は、測定方向が圧延方向に対して横方向の場合、-40℃の温度でのシャルピーV衝撃靭性が58~105J/cm2の範囲にある。実施例1~4の衝撃靭性は、比較例.6に比べて向上している。
【0106】
比較例5は、曲げ加工性を犠牲にしており、実施例および2よりも優れたシャルピーV衝撃靭性値を有している。
【0107】
伸び率
伸び率は、2000トンの板材を製造したバッチの横方向の試験片を用いて、ASTM E8規格に従って測定した。実施例1および2の全伸度(A50)の平均値は、それぞれ11.6および11.3であり(表3)、A50の平均値がそれぞれ10.1および9.1である比較例5および6よりも良好であった。比較例5および6は、シャルピーV衝撃靭性を犠牲にして、実施例3および4よりも優れたA50値を有している。
【0108】
曲げ加工性
曲げ試験は、試験片を3点曲げで塑性変形させ、1回のストロークで、負荷解除後に曲げの指定角度90°に達するまで行う。曲げの検査と評価は、一連の試験の間、継続的に行われる。これは、パンチ半径(R)を大きくすべきか、維持すべきか、あるいは小さくすべきかを決定できるようにするためである。材料の曲げ加工性の限界(R/t)は、長手方向と横方向の両方に同じパンチ半径(R)で、欠陥のない最低3mの曲げ長さが満たされた場合に、一連の試験で特定することができる。クラック、表面のネッキングマーク、フラットベンド(著しいネッキング)は欠陥として登録される。
【0109】
曲げ試験の結果、実施例1~4のいずれも、圧延方向と直交する測定方向の最小曲げ半径が3.3t以下であり、圧延方向と直交する測定方向の最小曲げ半径が2.6t以下であり、tは鋼帯製品の板厚である(表3)。比較例5は、圧延方向に垂直な測定方向の最小曲げ半径が3.7t、圧延方向に横切る測定方向の最小曲げ半径が2.2tと、低い曲げ性を示している。
【0110】
降伏強度
降伏強度は、2000トンの板材の製造バッチの横方向の試験片を用いて、ASTM E8規格に従って測定した。実施例1~4のいずれも、長手方向に測定した降伏強度(Rp0.2)の平均値が1302MPa~1399MPaの範囲にある(表3)。また、比較例5および6は、長手方向に測定した降伏強度(Rp0.2)の平均値がそれぞれ1262MPaおよび1338MPaである(表3)。
【0111】
引張強度
引張強度は、2000トンのプレートの製造バッチの横方向の試験片を用いて、ASTM E8規格に従って測定した。実施例1~4のそれぞれは、長手方向に測定した極限引張強度(Rm)の平均値が1509MPa~1566MPaの範囲にある(表3)。また、比較例5及び6は、長手方向に測定した極限引張強度(Rm)の平均値がそれぞれ1550MPa及び1552MPaである(表3)。
【0112】
【0113】
【0114】