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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-24
(45)【発行日】2025-04-01
(54)【発明の名称】透明導電性フィルム
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/14 20060101AFI20250325BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20250325BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20250325BHJP
【FI】
H01B5/14 A
C23C14/08 D
B32B7/025
H01B5/14 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022078431
(22)【出願日】2022-05-11
(62)【分割の表示】P 2021545485の分割
【原出願日】2021-03-18
(65)【公開番号】P2022105578
(43)【公開日】2022-07-14
【審査請求日】2024-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2020049864
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020074854
(32)【優先日】2020-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020074853
(32)【優先日】2020-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020134832
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020200421
(32)【優先日】2020-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020200422
(32)【優先日】2020-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】梶原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】藤野 望
(72)【発明者】
【氏名】碓井 圭太
【審査官】間宮 嘉誉
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-334924(JP,A)
【文献】特開2011-18623(JP,A)
【文献】特開平7-262829(JP,A)
【文献】特開2014-103067(JP,A)
【文献】国際公開第00/51139(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101211990(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C23C 14/00-14/58
H01B 5/00- 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と光透過性導電層とを厚さ方向にこの順で備え、
前記光透過性導電層が、結晶質膜であり、クリプトンを含有し
前記光透過性導電層がホール移動度μ(cm/V・s)およびキャリア密度n×1019(cm-3)を有し、μに対するnの比率が4.4以上20以下である、透明導電性フィルム。
【請求項2】
前記光透過性導電層が、インジウム含有導電性酸化物を含有する、請求項1に記載の透明導電性フィルム。
【請求項3】
前記ホール移動度が、5cm/V・s以上40cm/V・s以下である、請求項1または2に記載の透明導電性フィルム。
【請求項4】
前記キャリア密度が、100×1019cm-3以上170×1019cm-3以下である、請求項1から3のいずれか一つに記載の透明導電性フィルム。
【請求項5】
前記光透過性導電層がパターニングされている、請求項1から4のいずれか一つに記載
の透明導電性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明な基材フィルムと透明な導電層(光透過性導電層)とを厚さ方向に順に備える透明導電性フィルムが知られている。光透過性導電層は、液晶ディスプレイ、タッチパネル、および光センサなどの各種デバイスにおける透明電極をパターン形成するための導体膜として用いられる。光透過性導電層は、例えば、スパッタリング法で基材フィルム上に導電性酸化物を成膜することによって、形成される。そのスパッタリング法では、従来、ターゲット(成膜材料供給材)に衝突してターゲット表面の原子を弾き出すためのスパッタリングガスとして、アルゴンなどの不活性ガスが用いられる。このような透明導電性フィルムに関する技術については、例えば下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-71850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
透明導電性フィルムの光透過性導電層は、光透過性導電層に対する所定のエッチングマスクを介したエッチング処理により、パターニングされる。しかしながら、特許文献1の透明導電性フィルムは、光透過性導電層に対するエッチング処理でのエッチング速度が遅いという不具合を有する。透明導電性フィルムにおける光透過性導電層のエッチング速度が遅いことは、当該透明導電性フィルムが用いられるデバイス製造プロセスの効率の観点から、好ましくない。
【0005】
本発明は、光透過性導電層において高いエッチング速度を実現するのに適した透明導電性フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明[1]は、透明基材と光透過性導電層とを厚さ方向にこの順で備え、前記光透過性導電層が、クリプトンを含有し、2.8×10-4Ω・cm未満の比抵抗を有し、前記光透過性導電層がホール移動度μ(cm/V・s)およびキャリア密度n×1019(cm-3)を有し、μに対するnの比率が4以上である、透明導電性フィルムを含む。
【0007】
本発明[2]は、前記光透過性導電層が、インジウム含有導電性酸化物を含有する、上記[1]に記載の透明導電性フィルムを含む。
【0008】
本発明[3]は、前記ホール移動度が、5cm/V・s以上40cm/V・s以下である、上記[1]または[2]に記載の透明導電性フィルムを含む。
【0009】
本発明[4]は、前記キャリア密度が、100×1019cm-3以上170×1019cm-3以下である、上記[1]から[3]のいずれか一つに記載の透明導電性フィルムを含む。
【0010】
本発明[5]は、前記光透過性導電層がパターニングされている、上記[1]から[4]のいずれか一つに記載の透明導電性フィルムを含む。
【0011】
本発明[6]は、前記光透過性導電層が、2.2×10-4Ω・cm未満の比抵抗を有する、上記[1]から[5]のいずれか一つに記載の透明導電性フィルムを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の透明導電性フィルムは、光透過性導電層が、クリプトンを含有し、且つ2.8×10-4Ω・cm未満の比抵抗を有する。また、本発明の透明導電性フィルムでは、光透過性導電層のホール移動度μ(cm/V・s)およびキャリア密度n×1019(cm-3)において、μに対するnの比率が4以上である。そのため、本発明の透明導電性フィルムは、光透過性導電層において高いエッチング速度を実現するのに適する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の透明導電性フィルムの一実施形態の断面模式図である。
図2図1に示す透明導電性フィルムの製造方法を表す。図2Aは、樹脂フィルムを用意する工程を表し、図2Bは、樹脂フィルム上に機能層を形成する工程を表し、図2Cは、機能層上に光透過性導電層を形成する工程を表し、図2Dは、光透過性導電層を結晶化する工程を表す。
図3図1に示す透明導電性フィルムにおいて、光透過性導電層がパターニングされた場合を表す。
図4】スパッタリング法により光透過性導電層を形成する際の酸素導入量と、形成される光透過性導電層の比抵抗との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の透明導電性フィルムの一実施形態である透明導電性フィルムXの断面模式図である。透明導電性フィルムXは、透明基材10と、光透過性導電層20とを、厚さ方向Dの一方側に向かってこの順で備える。透明導電性フィルムXは、厚さ方向Dと直交する方向(面方向)に広がる形状を有する。透過性導電フィルムXは、タッチセンサ装置、調光素子、光電変換素子、熱線制御部材、アンテナ部材、電磁波シールド部材、照明装置、および画像表示装置などに備えられる一要素である。
【0015】
透明基材10は、本実施形態では、樹脂フィルム11と、機能層12とを、厚さ方向Dの一方側に向かってこの順で備える。透明基材10は、厚さ方向Dと直交する方向(面方向)に広がる形状を有する。
【0016】
樹脂フィルム11は、可撓性を有する透明な樹脂フィルムである。樹脂フィルム11の材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、およびポリスチレン樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、およびポリエチレンナフタレートが挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびシクロオレフィンポリマー(COP)が挙げられる。アクリル樹脂としては、例えばポリメタクリレートが挙げられる。アクリル樹脂としては、例えばポリメタクリレートが挙げられる。樹脂フィルム11の材料としては、例えば透明性および強度の観点から、好ましくはポリオレフィン樹脂が用いられ、より好ましくはCOPが用いられる。
【0017】
樹脂フィルム11における機能層12側表面は、表面改質処理されていてもよい。表面改質処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、およびカップリング剤処理が挙げられる。
【0018】
樹脂フィルム11の厚さは、好ましくは1μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは30μm以上である。樹脂フィルム11の厚さは、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは100μm以下、とくに好ましくは75μm以下である。樹脂フィルム11の厚さに関するこれら構成は、透明導電性フィルムXの取り扱い性を確保するのに適する。
【0019】
樹脂フィルム11の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上である。このような構成は、タッチセンサ装置、調光素子、光電変換素子、熱線制御部材、アンテナ部材、電磁波シールド部材、照明装置、および画像表示装置などに透明導電性フィルムXが備えられる場合に当該透明導電性フィルムXに求められる透明性を確保するのに適する。樹脂フィルム11の全光線透過率は、例えば100%以下である。
【0020】
機能層12は、本実施形態では、樹脂フィルム11における厚さ方向Dの一方面上に位置する。また、本実施形態では、機能層12は、光透過性導電層20の露出表面(図1では上面)に擦り傷が形成されにくくするためのハードコート層である。
【0021】
ハードコート層は、硬化性樹脂組成物の硬化物である。硬化性樹脂組成物が含有する樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、およびメラミン樹脂が挙げられる。また、硬化性樹脂組成物としては、例えば、紫外線硬化型の樹脂組成物、および、熱硬化型の樹脂組成物が挙げられる。高温加熱せずに硬化可能であるために透明導電性フィルムXの製造効率向上に役立つ観点から、硬化性樹脂組成物としては、好ましくは、紫外線硬化型の樹脂組成物が用いられる。紫外線硬化型の脂組成物としては、具体的には、特開2016-179686号公報に記載のハードコート層形成用組成物が挙げられる。
【0022】
機能層12における光透過性導電層20側表面は、表面改質処理されていてもよい。表面改質処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、およびカップリング剤処理が挙げられる。
【0023】
ハードコート層としての機能層12の厚さは、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは1μm以上である。このような構成は、光透過性導電層20において充分な耐擦過性を発現させるのに適する。ハードコート層としての機能層12の厚さは、機能層12の透明性を確保する観点からは、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは3μm以下である。
【0024】
透明基材10の厚さは、好ましくは1μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上、特に好ましくは30μm以上である。透明基材10の厚さは、好ましくは310μm以下、より好ましくは210μm以下、さらに好ましくは110μm以下、特に好ましくは80μm以下である。透明基材10の厚さに関するこれら構成は、透明導電性フィルムXの取り扱い性を確保するのに適する。
【0025】
透明基材10の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上である。このような構成は、タッチセンサ装置、調光素子、光電変換素子、熱線制御部材、アンテナ部材、電磁波シールド部材、照明装置、および画像表示装置などに透明導電性フィルムXが備えられる場合に当該透明導電性フィルムXに求められる透明性を確保するのに適する。透明基材10の全光線透過率は、例えば100%以下である。
【0026】
光透過性導電層20は、本実施形態では、透明基材10における厚さ方向Dの一方面上に位置する。光透過性導電層20は、光透過性と導電性とを兼ね備える結晶質膜である。
【0027】
光透過性導電層20は、光透過性導電材料から形成された層である。光透過性導電材料は、主成分として、例えば導電性酸化物を含有する。
【0028】
導電性酸化物としては、例えば、In、Sn、Zn、Ga、Sb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Cu、Pd、Wからなる群より選択される少なくとも一種類の金属または半金属を含有する金属酸化物が挙げられる。具体的には、導電性酸化物としては、インジウム含有導電性酸化物およびアンチモン含有導電性酸化物が挙げられる。インジウム含有導電性酸化物としては、例えば、インジウムスズ複合酸化物(ITO)、インジウム亜鉛複合酸化物(IZO)、インジウムガリウム複合酸化物(IGO)、およびインジウムガリウム亜鉛複合酸化物(IGZO)が挙げられる。アンチモン含有導電性酸化物としては、例えば、アンチモンスズ複合酸化物(ATO)が挙げられる。高い透明性と良好な導電性とを実現する観点からは、導電性酸化物としては、好ましくはインジウム含有導電性酸化物が用いられ、より好ましくはITOが用いられる。このITOは、InおよびSn以外の金属または半金属を、InおよびSnのそれぞれの含有量より少ない量で含有してもよい。
【0029】
導電性酸化物としてITOが用いられる場合、光透過性導電層20における酸化インジウム(In)および酸化スズ(SnO)の合計含有量に対する酸化スズの含有量の割合(酸化スズ含有割合)は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、特に好ましくは7質量%以上である。このような構成は、光透過性導電層20の耐久性を確保するのに適する。また、加熱により結晶化しやすい光透過性導電層20を得る観点からは、酸化スズ含有割合は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは13質量%以下、さらに好ましくは12質量%以下である。酸化スズの上記含有割合は、測定対象物についてX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy)によって測定されるXPSスペクトルから、求められる。
【0030】
光透過性導電層20における酸化スズ含有割合は、厚さ方向Dにおいて非一様であってもよい。例えば、光透過性導電層20は、酸化スズ含有割合が相対的に高い第1層と、酸化スズ含有割合が相対的に低い第2層とを、透明基材10側からこの順で含んでもよい。第1層における酸化スズ含有割合は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上である。第1層における酸化スズ含有割合は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは13質量%以下である。第2層における酸化スズ含有割合は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは2質量%以上である。第2層における酸化スズ含有割合は、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。光透過性導電層20の厚さにおける第1層の厚さの割合は、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上である。また、光透過性導電層20の厚さにおける第2層の厚さの割合は、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下である。
【0031】
光透過性導電層20は、希ガス原子としてクリプトン(Kr)を含有する。光透過性導電層20における希ガス原子は、本実施形態では、後述のスパッタリング法においてスパッタリングガスとして用いられる希ガス原子に由来する。本実施形態において、光透過性導電層20は、スパッタリング法で形成された膜(スパッタ膜)である。
【0032】
光透過性導電層20がKrを含有する構成は、光透過性導電層20において低抵抗を実現するのに適する。また、当該構成は、光透過性導電層20を、例えばパターニングのために、エッチング処理する場合において、高いエッチング速度を実現するのに適する。光透過性導電層20におけるKrの存否は、例えば、実施例に関して後述する蛍光X線分析によって同定される。
【0033】
光透過性導電層20におけるKrの含有割合は、厚さ方向Dの全域において、例えば0.5原子%以下であり、好ましくは0.3原子%以下、より好ましくは0.2原子%以下、である。このような構成は、透明導電性フィルムXの製造過程において、非晶質光透過性導電層(後記の光透過性導電層20’)を加熱により結晶化させて光透過性導電層20を形成する時に、良好な結晶成長を実現して大きな結晶粒を形成するのに適し、従って、低抵抗の光透過性導電層20を得るのに適する(光透過性導電層20内の結晶粒が大きいほど、光透過性導電層20の抵抗は低い)。また、光透過性導電層20におけるKrの含有割合は、厚さ方向Dの全域において、例えば0.0001原子%以上である。
【0034】
光透過性導電層20におけるKrの含有割合は、厚さ方向Dにおいて非一様であってもよい。例えば、厚さ方向Dにおいて、透明基材10から遠ざかるほどKr含有割合が漸増または漸減してもよい。或いは、厚さ方向Dにおいて、透明基材10から遠ざかるほどKr含有割合が漸増する部分領域が透明基材10側に位置し、且つ、透明基材10から遠ざかるほどKr含有割合が漸減する部分領域が透明基材10とは反対側に位置してもよい。或いは、厚さ方向Dにおいて、透明基材10から遠ざかるほどKr含有割合が漸減する部分領域が透明基材10側に位置し、且つ、透明基材10から遠ざかるほどKr含有割合が漸増する部分領域が透明基材10とは反対側に位置してもよい。
【0035】
光透過性導電層20は、希ガス原子としてKrのみを含有するのが好ましい。このような構成は、光透過性導電層20において低抵抗を実現する観点から好ましい。また、当該構成は、光透過性導電層20を、例えばパターニングのために、エッチング処理する場合において、高いエッチング速度を実現する観点から好ましい。
【0036】
光透過性導電層20が、Kr以外の希ガス原子を含有する場合、Kr以外の希ガス原子としては、例えば、アルゴン(Ar)およびキセノン(Xe)が挙げられる。透明導電性フィルムXの製造コスト低減の観点からは、光透過性導電層20は、好ましくはXeを含有しない。
【0037】
光透過性導電層20における希ガス原子(Krを含む)の含有割合は、厚さ方向Dの全域において、例えば0.5原子%以下であり、好ましくは0.3原子%以下、より好ましくは0.2原子%以下である。このような構成は、透明導電性フィルムXの製造過程において、非晶質光透過性導電層を加熱により結晶化させて光透過性導電層20を形成する時に、良好な結晶成長を実現して大きな結晶粒を形成するのに適し、従って、低抵抗の光透過性導電層20を得るのに適する。また、光透過性導電層20における希ガス原子含有割合は、厚さ方向Dの全域において、例えば0.0001原子%以上である。
【0038】
光透過性導電層20の厚さは、例えば10nm以上、好ましくは25nm以上、より好ましくは30nm以上、さらに好ましくは35nm以上、特に好ましくは40nm以上である。このような構成は、光透過性導電層20の低抵抗化を図るのに適する。また、光透過性導電層20の厚さは、例えば1000nm以下、好ましくは300nm未満、より好ましくは250nm以下、さらに好ましくは200nm以下、ことさらに好ましくは160nm以下、特に好ましくは150nm未満、最も好ましくは148nm以下である。このような構成は、光透過性導電層20の圧縮残留応力を低減して、透明導電性フィルムXの反りを抑制するのに適する。
【0039】
光透過性導電層20の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上である。このような構成は、光透過性導電層20において透明性を確保するのに適する。また、光透過性導電層20の全光線透過率は、例えば100%以下である。
【0040】
光透過性導電層20の表面抵抗は、例えば200Ω/□以下、好ましくは70Ω/□以下、より好ましく55Ω/□以下、さらに好ましくは50Ω/□以下、特に好ましくは45Ω/□以下である。光透過性導電層20の表面抵抗は、例えば1Ω/□以上である。表面抵抗に関するこれらの構成は、タッチセンサ装置、調光素子、光電変換素子、熱線制御部材、アンテナ部材、電磁波シールド部材、照明装置、および画像表示装置などに、透明導電性フィルムXが備えられる場合に、光透過性導電層20に求められる低抵抗性を確保するのに適する。表面抵抗は、JIS K7194に準拠した4端子法によって測定できる。
【0041】
光透過性導電層20の比抵抗は、2.8×10-4Ω・cm未満であり、好ましくは2.2×10-4Ω・cm以下、より好ましくは2×10-4Ω・cm以下、さらに好ましくは1.8×10-4Ω・cm以下、特に好ましくは1.7×10-4Ω・cm以下である。光透過性導電層20の比抵抗は、例えば0.1×10-4Ω・cm以上である。比抵抗に関するこれらの構成は、タッチセンサ装置、調光素子、光電変換素子、熱線制御部材、アンテナ部材、電磁波シールド部材、照明装置、および画像表示装置などに、透明導電性フィルムXが備えられる場合に、光透過性導電層20に求められる低抵抗性を確保するのに適する。比抵抗は、表面抵抗に厚さを乗じて求められる。
【0042】
光透過性導電層20におけるホール移動度は、好ましくは5cm/V・s以上、より好ましくは10cm/V・s以上、さらに好ましくは20cm/V・s以上である。光透過性導電層20のホール移動度は、好ましくは40cm/V・s以下、より好ましくは35cm/V・s以下、さらに好ましくは30cm/V・s以下である。ホール移動度は、例えば、光透過性導電層20におけるKr含有割合の調整、および、加熱によって光透過性導電層20に転化される非晶質光透過性導電層(後記の光透過性導電層20’)をスパッタ成膜する時の各種条件の調整により、調整できる。当該条件としては、例えば、非晶質光透過性導電層が成膜される下地(本実施形態では透明基材10)の温度や、基材側(本実施形態では透明基材10側)のスパッタ出力などが挙げられる。また、ホール移動度は、非晶質光透過性導電層が成膜される下地の表面形状など表面性状(本実施形態では、機能層12の表面性状)の調整によっても調整可能である。
【0043】
光透過性導電層20におけるキャリア密度は、好ましくは100×1019cm-3以上、より好ましくは120×1019cm-3以上である。光透過性導電層20におけるキャリア密度は、好ましくは170×1019cm-3以下、より好ましくは150×1019cm-3以下である。キャリア密度は、例えば、光透過性導電層20におけるKr含有割合の調整、および、加熱によって光透過性導電層20に転化される非晶質光透過性導電層(後記の光透過性導電層20’)をスパッタ成膜する時の各種条件の調整により、調整できる。当該条件としては、例えば、非晶質光透過性導電層が成膜される下地(本実施形態では透明基材10)の温度、および、成膜室内への酸素導入量が挙げられる。また、キャリア密度は、非晶質光透過性導電層が成膜される下地の表面性状(本実施形態では、機能層12の表面性状)の調整によっても調整可能である。
【0044】
光透過性導電層20のホール移動度をμ(cm/V・s)とし、且つ、光透過性導電層20のキャリア密度をn×1019cm-3とした場合に、μに対するnの比率(n/μ)は、4以上であり、好ましくは4.2以上、より好ましくは4.4以上、さらに好ましくは5以上、特に好ましくは6以上である。このような構成は、光透過性導電層20において高いエッチング速度を実現するのに適する。光透過性導電層20における高エッチング速度と低抵抗化との両立の観点からは、μに対するnの比率は、例えば20以下であり、好ましくは10以下であり、より好ましくは6.2未満である。
【0045】
光透過性導電層が結晶質であることは、例えば、次のようにして判断できる。まず、光透過性導電層(透明導電性フィルムXでは、透明基材10上の光透過性導電層20)を、濃度5質量%の塩酸に、20℃で15分間、浸漬する。次に、光透過性導電層を、水洗した後、乾燥する。次に、光透過性導電層の露出平面(透明導電性フィルムXでは、光透過性導電層20における透明基材10とは反対側の表面)において、離隔距離15mmの一対の端子の間の抵抗(端子間抵抗)を測定する。この測定において、端子間抵抗が10kΩ以下である場合、光透過性導電層は結晶質である。
【0046】
透明導電性フィルムXは、例えば以下のように製造される。
【0047】
まず、図2Aに示すように、樹脂フィルム11を用意する。
【0048】
次に、図2Bに示すように、樹脂フィルム11の厚さ方向Dの一方面上に機能層12を形成する。樹脂フィルム11上への機能層12の形成により、透明基材10が作製される。
【0049】
ハードコート層としての上述の機能層12は、樹脂フィルム11上に、硬化性樹脂組成物を塗布して塗膜を形成した後、この塗膜を硬化させることによって形成できる。硬化性樹脂組成物が紫外線化型樹脂を含有する場合には、紫外線照射によって前記塗膜を硬化させる。硬化性樹脂組成物が熱硬化型樹脂を含有する場合には、加熱によって前記塗膜を硬化させる。
【0050】
樹脂フィルム11上に形成された機能層12の露出表面は、必要に応じて、表面改質処理される。表面改質処理としてプラズマ処理する場合、不活性ガスとして例えばアルゴンガスを用いる。また、プラズマ処理における放電電力は、例えば100W以上であり、また、例えば500W以下である。
【0051】
次に、図2Cに示すように、透明基材10上に、非晶質の光透過性導電層20’を形成する(成膜工程)。具体的には、スパッタリング法により、透明基材10における機能層12上に材料を成膜して非晶質の光透過性導電層20’を形成する。光透過性導電層20’は、光透過性と導電性とを兼ね備える非晶質膜である(光透過性導電層20’は、後述の結晶化工程において、加熱によって結晶質の光透過性導電層20に転化される)。
【0052】
スパッタリング法では、ロールトゥロール方式で成膜プロセスを実施できるスパッタ成膜装置を使用するのが好ましい。透明導電性フィルムXの製造において、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置を使用する場合、長尺状の透明基材10を、装置が備える繰出しロールから巻取りロールまで走行させつつ、当該透明基材10上に材料を成膜して光透過性導電層20’を形成する。また、当該スパッタリング法では、一つの成膜室を備えるスパッタ成膜装置を使用してもよいし、透明基材10の走行経路に沿って順に配置された複数の成膜室を備えるスパッタ成膜装置を使用してもよい(上述の第1層および第2層を含む光透過性導電層20’を形成する場合には、2以上の複数の成膜室を備えるスパッタ成膜装置を使用する)。
【0053】
スパッタリング法では、具体的には、成膜室内に真空条件下でスパッタリングガス(不活性ガス)を導入しつつ、成膜室内のカソード上に配置されたターゲットにマイナスの電圧を印加する。これにより、グロー放電を発生させてガス原子をイオン化し、当該ガスイオンを高速でターゲット表面に衝突させ、ターゲット表面からターゲット材料を弾き出し、弾き出たターゲット材料を透明基材10における機能層12上に堆積させる。
【0054】
成膜室内のカソード上に配置されるターゲットの材料としては、光透過性導電層20に関して上述した導電性酸化物が用いられ、好ましくはインジウム含有導電性酸化物が用いられ、より好ましくはITOが用いられる。ITOが用いられる場合、当該ITOにおける酸化スズおよび酸化インジウムの合計含有量に対する酸化スズの含有量の割合は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、特に好ましくは7質量%以上であり、また、好ましくは15質量%以下、より好ましくは13質量%以下、さらに好ましくは12質量%以下である。
【0055】
スパッタリング法は、好ましくは、反応性スパッタリング法である。反応性スパッタリング法では、スパッタリングガスに加えて反応性ガスが、成膜室内に導入される。
【0056】
厚さ方向Dの全域にわたってKrを含有する光透過性導電層20’を形成する場合、成膜室に導入されるガスは、スパッタリングガスとしてのKrと反応性ガスとしての酸素とを含有する。スパッタリングガスは、Kr以外の不活性ガスを含有してもよい。Kr以外の不活性ガスとしては、例えば、Kr以外の希ガス原子が挙げられる。希ガス原子としては、例えば、ArおよびXeが挙げられる。スパッタリングガスがKr以外の不活性ガスを含有する場合、その含有割合は、好ましくは5体積%以下、より好ましくは3体積%以下である。
【0057】
反応性スパッタリング法において成膜室に導入されるスパッタリングガスおよび酸素の合計導入量に対する、酸素の導入量の割合は、例えば0.1流量%以上であり、また、例えば5流量%以下である。
【0058】
スパッタリング法による成膜(スパッタ成膜)中の成膜室内の気圧は、例えば0.02Pa以上であり、また、例えば1Pa以下である。
【0059】
スパッタ成膜中の透明基材10の温度は、例えば100℃以下、好ましくは50℃以下、より好ましくは30℃以下であり、また、例えば-20℃以上、好ましくは-10℃以上、より好ましくは-7℃以上である。
【0060】
ターゲットに対する電圧印加のための電源としては、例えば、DC電源、AC電源、MF電源、およびRF電源が挙げられる。電源としては、DC電源とRF電源とを併用してもよい。スパッタ成膜中の放電電圧は、例えば200V以上であり、また、例えば400V以下である。
【0061】
本製造方法では、次に、図2Dに示すように、加熱によって光透過性導電層20を非晶質から結晶質へと転化(結晶化)させる(結晶化工程)。加熱の手段としては、例えば、赤外線ヒーターおよびオーブンが挙げられる。加熱温度は、高い結晶化速度を確保する観点からは、例えば100℃以上であり、好ましくは120℃以上である。加熱温度は、透明基材10への加熱の影響を抑制する観点から、例えば200℃以下であり、好ましくは180℃以下、より好ましくは170℃以下、さらに好ましくは165℃以下である。加熱時間は、例えば6時間以下であり、好ましくは200分以下、より好ましくは150分以下、さらに好ましくは90分以下であり、また、例えば1分以上、好ましくは5分以上である。
【0062】
以上のようにして、透明導電性フィルムXが製造される。
【0063】
透明導電性フィルムXにおける光透過性導電層20は、図3に模式的に示すように、パターニングされてもよい。所定のエッチングマスクを介して光透過性導電層20をエッチング処理することにより、光透過性導電層20をパターニングできる。光透過性導電層20のパターニングは、上述の結晶化工程より前に実施されてもよいし、結晶化工程より後に実施されてもよい。パターニングされた光透過性導電層20は、例えば、配線パターンとして機能する。
【0064】
透明導電性フィルムXは、上述のように、透明基材10上の光透過性導電層20が、クリプトンを含有し、且つ、2.8×10-4Ω・cm未満の比抵抗を有する。加えて、光透過性導電層のホール移動度μ(cm/V・s)とし且つキャリア密度をn×1019(cm-3)とした場合に、μに対するnの比率(n/μ)が、4以上であり、好ましくは4.2以上、より好ましくは4.4以上、さらに好ましくは5以上、特に好ましくは6以上である。
【0065】
透明導電性フィルムXにおけるこのような構成は、光透過性導電層20において高いエッチング速度を実現するのに適する。具体的には、後記の実施例および比較例をもって示すとおりである。
【0066】
透明導電性フィルムXにおいて、機能層12は、透明基材10に対する光透過性導電層20の高い密着性を実現するための密着性向上層であってもよい。機能層12が密着性向上層である構成は、透明基材10と光透過性導電層20との間の密着力を確保するのに適する。
【0067】
機能層12は、透明基材10の表面(厚さ方向Dの一方面)の反射率を調整するための屈折率調整層(index-matching layer)であってもよい。機能層12が屈折率調整層である構成は、透明基材10上の光透過性導電層20がパターニングされている場合に、当該光透過性導電層20のパターン形状を視認されにくくするのに適する。
【0068】
機能層12は、透明基材10から光透過性導電層20を実用的に剥離可能にするための剥離機能層であってもよい。機能層12が剥離機能層である構成は、透明基材10から光透過性導電層20を剥離して、当該光透過性導電層20を他の部材に転写するのに適する。
【0069】
機能層12は、複数の層が厚さ方向Dに連なる複合層であってもよい。複合層は、好ましくは、ハードコート層、密着性向上層、屈折率調整層、および剥離機能層からなる群より選択される2以上の層を含む。このような構成は、選択される各層の上述の機能を、機能層12において複合的に発現するのに適する。好ましい一形態では、機能層12は、樹脂フィルム11上において、密着性向上層と、ハードコート層と、屈折率調整層とを、厚さ方向Dの一方側に向かってこの順で備える。好ましい他の形態では、機能層12は、樹脂フィルム11上において、剥離機能層と、ハードコート層と、屈折率調整層とを、厚さ方向Dの一方側に向かってこの順で備える。
【0070】
透明導電性フィルムXは、物品に対して貼り合わされ、且つ必要に応じてパターニングされた状態で、利用される。透明導電性フィルムXは、例えば固着機能層を介して、物品に対して貼り合わされる。
【0071】
物品としては、例えば、素子、部材、および装置が挙げられる。すなわち、透明導電性フィルム付き物品としては、例えば、透明導電性フィルム付き素子、透明導電性フィルム付き部材、および透明導電性フィルム付き装置が挙げられる。
【0072】
素子としては、例えば、調光素子および光電変換素子が挙げられる。調光素子としては、例えば、電流駆動型調光素子および電界駆動型調光素子が挙げられる。電流駆動型調光素子としては、例えば、エレクトロクロミック(EC)調光素子が挙げられる。電界駆動型調光素子としては、例えば、PDLC(polymer dispersed liquid crystal)調光素子、PNLC(polymer network liquid crystal)調光素子、および、SPD(suspended particle device)調光素子が挙げられる。光電変換素子としては、例えば太陽電池などが挙げられる。太陽電池としては、例えば、有機薄膜太陽電池および色素増感太陽電池が挙げられる。部材としては、例えば、電磁波シールド部材、熱線制御部材、ヒーター部材、およびアンテナ部材が挙げられる。装置としては、例えば、タッチセンサ装置、照明装置、および画像表示装置が挙げられる。
【0073】
透明導電性フィルム付き物品は、それが備える透明導電性フィルムXの光透過性導電層20において高いエッチング速度を実現するのに適することから、高い製造効率を実現するのに適する。
【0074】
上述の固着機能層としては、例えば、粘着層および接着層が挙げられる。固着機能層の材料としては、透明性を有し且つ固着機能を発揮する材料であれば、特に制限なく用いられる。固着機能層は、好ましくは、樹脂から形成されている。樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、天然ゴム、および合成ゴムが挙げられる。凝集性、接着性、適度な濡れ性などの粘着特性を示すこと、透明性に優れること、並びに、耐候性および耐熱性に優れることから、前記樹脂としては、アクリル樹脂が好ましい。
【0075】
固着機能層(固着機能層を形成する樹脂)には、光透過性導電層20の腐食抑制のために、腐食防止剤を配合してもよい。固着機能層(固着機能層を形成する樹脂)には、光透過性導電層20のマイグレーション抑制のために、マイグレーション防止剤(例えば、特開2015-022397号に開示の材料)を配合してもよい。また、固着機能層(固着機能層を形成する樹脂)には、物品の屋外使用時の劣化を抑制するために、紫外線吸収剤を配合してもよい。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン化合物、ベンゾトリアゾール化合物、サリチル酸化合物、シュウ酸アニリド化合物、シアノアクリレート化合物、および、トリアジン化合物が挙げられる。
【0076】
また、透明導電性フィルムXの透明基材10を、物品に対して固着機能層を介して固定した場合、透明導電性フィルムXにおいて光透過性導電層20(パターニング後の光透過性導電層20を含む)は露出する。このような場合、光透過性導電層20の当該露出面にカバー層を配置してもよい。カバー層は、光透過性導電層20を被覆する層であり、光透過性導電層20の信頼性を向上させ、また、光透過性導電層20の受傷による機能劣化を抑制できる。そのようなカバー層は、好ましくは、誘電体材料から形成されており、より好ましくは、樹脂と無機材料との複合材料から形成されている。樹脂としては、例えば、固着機能層に関して上記した樹脂が挙げられる。無機材料としては、例えば、無機酸化物およびフッ化物が挙げられる。無機酸化物としては、例えば、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化アルミニウム、二酸化ジルコニウム、および酸化カルシウムが挙げられる。フッ化物としては、例えばフッ化マグネシウムが挙げられる。また、カバー層(樹脂および無機材料の混合物)には、上記の腐食防止剤、マイグレーション防止剤、および紫外線吸収剤を配合してもよい。
【実施例
【0077】
本発明について、以下に実施例を示して具体的に説明する。本発明は、実施例に限定されない。また、以下に記載されている配合量(含有量)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上述の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合量(含有量)、物性値、パラメータなどの上限(「以下」または「未満」として定義されている数値)または下限(「以上」または「超える」として定義されている数値)に代替できる。
【0078】
〔実施例1〕
透明な樹脂フィルムとしての長尺のシクロオレフィンポリマー(COP)フィルム(商品名「ゼオノア」,厚さ40μm,ゼオン社製)の一方の面に、アクリル樹脂を含有する紫外線硬化性樹脂組成物を塗布して塗膜を形成した。次に、紫外線照射によって当該塗膜を硬化させてハードコート層(厚さ1μm)を形成した。次に、ハードコート層上に、屈折率調整層形成用の紫外線硬化性樹脂組成物(ジルコニア粒子含有の複合樹脂組成物)を塗布して塗膜を形成した。次に、紫外線照射によって当該塗膜を硬化させて、ハードコート層上に屈折率調整層(厚さ90nm,屈折率1.62)を形成した。このようにして、樹脂フィルムと、ハードコート層と、屈折率調整層とをこの順で備える透明基材を作製した。
【0079】
次に、反応性スパッタリング法により、透明基材におけるハードコート層上に、厚さ66nmの非晶質の光透過性導電層を形成した(成膜工程)。反応性スパッタリング法では、ロールトゥロール方式で成膜プロセスを実施できるスパッタ成膜装置(DCマグネトロンスパッタリング装置)を使用した。本実施例におけるスパッタ成膜の条件は、次のとおりである。
【0080】
ターゲットとしては、酸化インジウムと酸化スズとの焼結体(酸化スズ濃度は10質量%)を用いた。ターゲットに対する電圧印加のための電源としては、DC電源を用いた。ターゲット上の水平磁場強度は90mTとした。成膜温度(光透過性導電層が積層される透明基材の温度)は20℃とした。また、装置が備える成膜室内の到達真空度が0.8×10-4Paに至るまで成膜室内を真空排気した後、成膜室内に、スパッタリングガスとしてのKrと、反応性ガスとしての酸素とを導入し、成膜室内の気圧を0.2Paとした。成膜室に導入されるKrおよび酸素の合計導入量に対する酸素導入量の割合は約2流量%であり、その酸素導入量は、図4に示すように、比抵抗-酸素導入量曲線の領域R内であって、形成される膜の比抵抗の値が6.9×10-4Ω・cmになるように調整した。図4に示す比抵抗-酸素導入量曲線は、酸素導入量以外の条件は上記と同じ条件で光透過性導電層を反応性スパッタリング法で形成した場合の、光透過性導電層の比抵抗の酸素導入量依存性を、予め調べて作成できる。
【0081】
次に、透明基材上の光透過性導電層を、熱風オーブン内での加熱によって結晶化させた(結晶化工程)。本工程において、加熱温度は130℃とし、加熱時間は1.5時間とした。
【0082】
以上のようにして、実施例1の透明導電性フィルムを作製した。実施例1の透明導電性フィルムの光透過性導電層(厚さ66nm,結晶質)は、単一のKr含有ITO層からなる。
【0083】
〔実施例2,3および比較例1〕
以下のこと以外は、実施例1の透明導電性フィルムと同様にして、実施例2,3および比較例1の各透明導電性フィルムを作製した。
【0084】
成膜工程において、形成される光透過性導電層の厚さを66nmに代えて56nm(実施例2)、41nm(実施例3)または43nm(比較例1)としたこと、および、形成される膜の比抵抗が6.9×10-4Ω・cmに代えて7.4×10-4Ω・cm(実施例2)、7.2×10-4Ω・cm(実施例3)または7.5×10-4Ω・cm(比較例1)となるように酸素導入量を調整したこと。
【0085】
実施例2,3および比較例1の各透明導電性フィルムの光透過性導電層(結晶質)は、単一のKr含有ITO層からなる。
【0086】
〔比較例2〕
以下のこと以外は、実施例1の透明導電性フィルムと同様にして、比較例2の透明導電性フィルムを作製した。
【0087】
成膜工程において、スパッタリングガスとしてKrに代えてArを用いたこと、成膜圧力を0.2Paに代えて0.4Paとしたこと、および、形成される膜の比抵抗が6.5×10-4Ω・cmに代えて7.0×10-4Ω・cmとなるように酸素導入量を調整したこと。
【0088】
比較例2の透明導電性フィルムの光透過性導電層(厚さ70nm,結晶質)は、単一のAr含有ITO層からなる。
【0089】
〔比較例3〕
以下のこと以外は、実施例1の透明導電性フィルムと同様にして、比較例3の透明導電性フィルムを作製した。
【0090】
成膜工程において、透明基材上に第1層(厚さ26nm)を形成する第1スパッタ成膜と、当該第1層上に第2層(厚さ4nm)を形成する第2スパッタ成膜とを順次に実施したこと。
【0091】
本比較例における第1スパッタ成膜の条件は、次のとおりである。ターゲットとしては、酸化インジウムと酸化スズとの焼結体(酸化スズ濃度は10質量%)を用いた。ターゲットに対する電圧印加のための電源としては、DC電源を用いた。ターゲット上の水平磁場強度は90mTとした。成膜温度は20℃とした。また、装置が備える第1成膜室内の到達真空度が0.8×10-4Paに至るまで第1成膜室内を真空排気した後、第1成膜室内に、スパッタリングガスとしてのArと、反応性ガスとしての酸素とを導入し、成膜室内の気圧を0.4Paとした。成膜室への酸素導入量は、形成される膜の比抵抗の値が6.2×10-4Ω・cmになるように調整した。
【0092】
本比較例における第2スパッタ成膜の条件は、次のとおりである。ターゲットとしては、酸化インジウムと酸化スズとの焼結体(酸化スズ濃度は3質量%)を用いた。装置が備える第2成膜室内の到達真空度が0.8×10-4Paに至るまで第2成膜室内を真空排気した後、第2成膜室内に、スパッタリングガスとしてのArと、反応性ガスとしての酸素とを導入し、成膜室内の気圧を0.2Paとした。本比較例において、第2スパッタ成膜の他の条件は、第1スパッタ成膜と同じである。
【0093】
比較例3の透明導電性フィルムの光透過性導電層(厚さ30nm,結晶質)は、Ar含有ITO層からなる第1層(厚さ26nm)と、Ar含有ITO層からなる第2層(厚さ4nm)とを、透明基材側から順に有する。
【0094】
〔比較例4〕
以下のこと以外は、実施例1の透明導電性フィルムと同様にして、比較例4の透明導電性フィルムを作製した。
【0095】
成膜工程において、スパッタリングガスとしてKrに代えてArを用いたこと、形成される膜の比抵抗が6.5×10-4Ω・cmに代えて3.1×10-4Ω・cmとなるように酸素導入量を調整したこと、および、形成される光透過性導電層の厚さを66nmに代えて83nmとしたこと。
【0096】
比較例4の透明導電性フィルムの光透過性導電層(厚さ83nm,結晶質)は、単一のAr含有ITO層からなる。
【0097】
〈光透過性導電層の厚さ〉
実施例1~3および比較例1~4の各透明導電性フィルムにおける光透過性導電層の厚さを、FE-TEM観察により測定した。具体的には、まず、FIBマイクロサンプリング法により、実施例1~3および比較例1~4における各光透過性導電層の断面観察用サンプルを作製した。FIBマイクロサンプリング法では、FIB装置(商品名「FB2200」,Hitachi製)を使用し、加速電圧を10kVとした。次に、断面観察用サンプルにおける光透過性導電層の厚さを、FE-TEM観察によって測定した。FE-TEM観察では、FE-TEM装置(商品名「JEM-2800」,JEOL製)を使用し、加速電圧を200kVとした。
【0098】
比較例3における光透過性導電層の第1層の厚さは、当該第1層の上に第2層を形成する前の中間作製物から断面観察用サンプルを作製し、当該サンプルのFE-TEM観察により測定した。比較例3における光透過性導電層の第2層の厚さは、比較例3における光透過性導電層の総厚から第1層の厚さを差し引いて求めた。
【0099】
〈比抵抗〉
実施例1~3および比較例1~4の各透明導電性フィルムについて、光透過性導電層の比抵抗を調べた。具体的には、JIS K 7194(1994年)に準拠した四端子法により、光透過性導電層の表面抵抗を測定した後、表面抵抗値と光透過性導電層の厚さとを乗じることにより、比抵抗(Ω・cm)を求めた。その結果を表1に示す。
【0100】
〈ホール移動度およびキャリア密度〉
実施例1~3および比較例1~4の各透明導電性フィルムについて、光透過性導電層のホール移動度およびキャリア密度を測定した。本測定には、ホール効果測定システム(商品名「HL5500PC」,バイオラッド社製)を使用した。本測定により得られたホール移動度μ(cm/V・s)およびキャリア密度n×1019(cm-3)の値を表1に示す。また、表1には、μに対するnの比率(n/μ)も示す。
【0101】
〈エッチング速度〉
実施例1~3および比較例1~4の各透明導電性フィルムについて、光透過性導電層のエッチング速度を調べた。具体的には、透明導電性フィルムについて、次のような第1ステップ、第2ステップ、および第3ステップがこの順で実施される1サイクルを繰り返した(第3ステップにおいて、後記の基準に基づきエッチングが完了したと判定されるまで、1サイクルを繰り返した)。
【0102】
第1ステップでは、透明導電性フィルムを、濃度7質量%の塩酸に浸漬した。浸漬温度は35℃とした。浸漬時間は15秒間とした。第2ステップでは、透明導電性フィルムを、水洗し、その後に乾燥した。第3ステップでは、透明導電性フィルムの光透過性導電層の露出面において、表面抵抗測定テスタを使用して、離隔距離15mmの一対の端子の間の抵抗(端子間抵抗)を測定した。測定された端子間抵抗が50kΩを超えた場合、または、測定不能であった場合に、当該第3ステップが属するサイクルの第1ステップにおいて、エッチングが完了したと判定した。複数サイクルにおける複数の第1ステップの累積浸漬時間(エッチング時間)を、光透過性導電層の厚さで除することにより、エッチング速度(秒/nm)を求めた。その値を表1に示す。
【0103】
〈光透過性導電層内のKr原子の確認〉
実施例1~3および比較例1における各光透過性導電層がKr原子を含有することは、次のようにして確認した。まず、走査型蛍光X線分析装置(商品名「ZSX PrimusIV」,リガク社製)を使用して、下記の測定条件にて蛍光X線分析測定を5回繰り返し、各走査角度の平均値を算出し、X線スペクトルを作成した。作成されたX線スペクトルにおいて、走査角度28.2°近傍にピークが出ていることを確認することにより、光透過性導電層にKr原子が含有されることを確認した。
【0104】
<測定条件>
スペクトル;Kr-KA
測定径:30mm
雰囲気:真空
ターゲット:Rh
管電圧:50kV
管電流:60mA
1次フィルタ:Ni40
走査角度(deg):27.0~29.5
ステップ(deg):0.020
速度(deg/分):0.75
アッテネータ:1/1
スリット:S2
分光結晶:LiF(200)
検出器:SC
PHA:100-300
【0105】
【表1】
【0106】
[評価]
実施例1~3の各透明導電性フィルムでは、光透過性導電層がKrを含有し、且つ、光透過性導電層における上述のn/μの値が4以上である。このような実施例1~3の各透明導電性フィルムでは、比較例1の透明導電性フィルム(n/μの値が4未満である)および比較例2~4の各透明導電性フィルム(光透過性導電層がKrを含有しない)よりも、光透過性導電層において高いエッチング速度が実現されている。
【0107】
また、実施例1~3の各透明導電性フィルム(光透過性導電層がKrを含有する)は、比較例2~4の各透明導電性フィルム(光透過性導電層がKrを含有しない)よりも、光透過性導電層の比抵抗が低い。実施例2,3の各透明導電性フィルム(光透過性導電層がKrを含有し、且つ、n/μの値が4以上である)は、光透過性導電層の比抵抗が特に低く、比較例1の透明導電性フィルム(光透過性導電層がKrを含有するものの、n/μの値が4未満である)よりも低い。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の透明導電性フィルムは、例えば、液晶ディスプレイ、タッチパネル、および光センサなどの各種デバイスにおける透明電極をパターン形成するための導体膜の供給材として用いることができる。
【符号の説明】
【0109】
X 透明導電性フィルム
D 厚さ方向
10 透明基材
11 樹脂フィルム
12 機能層
20 光透過性導電層
図1
図2
図3
図4