(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-24
(45)【発行日】2025-04-01
(54)【発明の名称】高圧タンクライナ及びその製造方法並びに高圧タンク
(51)【国際特許分類】
F16J 12/00 20060101AFI20250325BHJP
F17C 1/16 20060101ALI20250325BHJP
F17C 1/06 20060101ALI20250325BHJP
【FI】
F16J12/00 A
F17C1/16
F17C1/06
(21)【出願番号】P 2022102737
(22)【出願日】2022-06-27
【審査請求日】2024-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390023917
【氏名又は名称】マザーサンヤチヨ・オートモーティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆治
(72)【発明者】
【氏名】石山 樹雄
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-046002(JP,A)
【文献】特開2019-044937(JP,A)
【文献】特開平09-072494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 12/00
F17C 1/16
F17C 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒体からなる胴部と、
前記胴部に形成されて前記胴部の一般部の外径よりも拡径した円筒体からなる拡径部と、
前記胴部の前記一般部と前記拡径部との間の段差部に形成される複数段からなる階段部と、
を有しており、
前記段差部の前記拡径部側の角部から、前記階段部を構成する各段部の角部を通って前記一般部の周面に至るまでの距離が、前記胴部の周方向に延びるように配置される強化繊維のロービングの横幅よりも短いことを特徴とする高圧タンクライナ。
【請求項2】
前記階段部は、前記拡径部の円筒体軸方向の少なくとも一端側に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の高圧タンクライナ。
【請求項3】
前記階段部は、前記拡径部の周方向に沿って前記拡径部の円筒体軸方向の一端側と他端側とに交互に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の高圧タンクライナ。
【請求項4】
前記階段部を構成する複数段のうち、最も前記一般部寄りに形成される第1段目の段部を除く他の段部は、円筒体の軸から離れる方向に向けて立ち上がる立上り面が、前記一般部側から前記拡径部側へと向かうほど円筒体の軸から徐々に離れるように傾斜する傾斜面にて形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の高圧タンクライナ。
【請求項5】
円筒体からなる胴部と、前記胴部の一端側の開口部に形成されるフランジ部と、を有する一対のライナ半体の前記フランジ部同士を接合する工程と、
前記ライナ半体の前記フランジ部同士の接合部を円筒体の周方向に切削して前記胴部の一般部の外径よりも拡径した円筒体からなる拡径部を形成する工程と、
前記胴部の前記一般部と前記拡径部との間に形成される段差部を切削して複数段からなる階段部を形成する工程と、
を有し、
前記階段部を形成する工程においては、前記段差部の前記拡径部側の角部から、前記階段部を構成する各段部の角部を通って前記一般部の周面に至るまでの距離が、前記胴部の周方向に延びるように配置される強化繊維のロービングの横幅よりも短くなるように前記段差部が切削されることを特徴とする高圧タンクライナの製造方法。
【請求項6】
円筒体からなる胴部と、前記胴部に形成されて前記胴部の一般部の外径よりも拡径した円筒体からなる拡径部と、前記胴部の前記一般部と前記拡径部との間の段差部に形成される複数段からなる階段部と、を有する高圧タンクライナと、
高圧タンクライナの外側を覆うように配置される繊維強化樹脂層と、
を備え、
前記繊維強化樹脂層を構成する強化繊維のロービングは、前記高圧タンクライナの軸周りに前記高圧タンクライナの外周面を巻回するように配置され、前記高圧タンクライナにおける前記段差部の前記拡径部側の角部から、前記階段部を構成する各段部の角部を通って前記一般部の周面に至るまでの距離よりも幅広であることを特徴とする高圧タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧タンクライナ及びその製造方法並びに高圧タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高圧ガスを充填するためのいわゆる高圧タンクとしては、合成樹脂からなる円筒状のライナ(高圧タンクライナ)の外側に繊維強化樹脂層を形成したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このライナは、円筒形状の半体同士を溶着して形成されている。そして、半体同士の溶着部は、ライナの胴部の一般部における外径よりも拡径した円筒形状を呈している。これによりライナの外周面には、一般部と溶着部との間に段差部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
国際公開第2019/131737号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の高圧タンク(特許文献1参照)においては、ライナの外側に繊維強化樹脂層を形成する際に、所定のテンションを掛けた強化繊維のロービングをライナに巻回する。しかしながら、ライナの段差部上に巻回されるロービングは、ライナの一般部側で浮きを生じたり、ロービングを形成するストランドにばらつきを生じたりする恐れがある。
【0005】
本発明の課題は、高圧タンクライナの外側に設けられる繊維強化樹脂層の強化繊維の浮きやばらつきを抑制する高圧タンクライナ及びその製造方法並びに高圧タンクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決した本発明の高圧タンクライナは、円筒体からなる胴部と、前記胴部に形成されて前記胴部の一般部の外径よりも拡径した円筒体からなる拡径部と、前記胴部の前記一般部と前記拡径部との間の段差部に形成される複数段からなる階段部と、を有しており、前記段差部の前記拡径部側の角部から、前記階段部を構成する各段部の角部を通って前記一般部の周面に至るまでの距離が、前記胴部の周方向に延びるように配置される強化繊維のロービングの横幅よりも短いことを特徴とする。
【0007】
また、前記課題を解決した本発明の高圧タンクライナの製造方法は、円筒体からなる胴部と、前記胴部の一端側の開口部に形成されるフランジ部と、を有する一対のライナ半体の前記フランジ部同士を接合する工程と、前記ライナ半体の前記フランジ部同士の接合部を円筒体の周方向に切削して前記胴部の一般部の外径よりも拡径した円筒体からなる拡径部を形成する工程と、前記胴部の前記一般部と前記拡径部との間に形成される段差部を切削して複数段からなる階段部を形成する工程と、を有し、前記階段部を形成する工程においては、前記段差部の前記拡径部側の角部から、前記階段部を構成する各段部の角部を通って前記一般部の周面に至るまでの距離が、前記胴部の周方向に延びるように配置される強化繊維のロービングの横幅よりも短くなるように前記段差部が切削されることを特徴とする。
【0008】
また、前記課題を解決した高圧タンクは、円筒体からなる胴部と、前記胴部に形成されて前記胴部の一般部の外径よりも拡径した円筒体からなる拡径部と、前記胴部の前記一般部と前記拡径部との間の段差部に形成される複数段からなる階段部と、を有する高圧タンクライナと、高圧タンクライナの外側を覆うように配置される繊維強化樹脂層と、を備え、前記繊維強化樹脂層を構成する強化繊維のロービングは、前記高圧タンクライナの軸周りに前記高圧タンクライナの外周面を巻回するように配置され、前記高圧タンクライナにおける前記段差部の前記拡径部側の角部から、前記階段部を構成する各段部の角部を通って前記一般部の周面に至るまでの距離よりも幅広であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高圧タンクライナの外側に繊維強化樹脂層を形成する際に、繊維強化樹脂層を構成する強化繊維の浮きやばらつきを抑制する高圧タンクライナ及びその製造方法並びに高圧タンクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る高圧タンクの縦断面図である。
【
図3A】本発明の実施形態に係る高圧タンクライナの製造方法に使用する一対のライナ半体の縦断面図である。
【
図3C】
図3Aに示す一対のライナ半体同士を溶着にて接合した接合部の部分拡大断面図である。
【
図3D】
図3Cの接合部に切削加工を施こすことで形成したライナ2の拡径部の部分拡大断面図である。
【
図3E】
図3Dに示す拡径部に階段加工を施す工程説明図である。
【
図4A】本発明の実施形態に係る高圧タンクライナの階段部に巻回されたロービングの様子を模式的に示す部分拡大断面図である。
【
図4B】第1の比較例に係る高圧タンクライナの段差部に巻回されたロービングの様子を模式的に示す部分拡大断面図である。
【
図4C】第2の比較例に係る高圧タンクライナの段差部に巻回されたロービングの様子を模式的に示す部分拡大断面図である。
【
図5A】第1変形例に係る高圧タンクライナの部分拡大断面図である。
【
図5B】第2変形例に係る高圧タンクライナの構成説明図である。
【
図5C】第3変形例に係る高圧タンクライナの部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための形態(実施形態)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、本実施形態の高圧タンク及びこの高圧タンクに使用する高圧タンクライナについて説明する。
【0012】
≪高圧タンク≫
図1は、本発明の実施形態に係る高圧タンク1の縦断面図である。
本実施形態の高圧タンク1は、例えば、燃料電池車に搭載され、燃料電池システムに供給するための水素ガスを貯留するものを想定している。ただし、高圧タンク1は、これに限定されるものではなく、他の高圧ガスについて使用されるものであってもよい。
【0013】
図1に示すように、高圧タンク1は、後に詳しく説明する高圧タンクライナ2(以下、単に「ライナ2」と称することがある)と、このライナ2に連結される口金3と、ライナ2から口金3に亘ってこれらの外側を覆う繊維強化樹脂層4と、を備えている。
【0014】
口金3は、例えば、アルミニウム合金などの金属製材料にて形成されるものを想定している。口金3は、内側に給排孔21を有する円筒状の口金本体18と、この口金本体18の軸方向の一端側に形成されるフランジ部19とを有している。給排孔21は、フランジ部19が形成される一端側で高圧タンク1内に連通する。そして、給排孔21の他端側には、前記の燃料電池システムなどに連通する配管(図示を省略)が接続されることとなる。
【0015】
口金本体18の一端側における給排孔21の内周面には、後記するライナ2の筒状部17に形成されるねじ部17aと噛み合うねじ部21aが形成されている。そして、ライナ2の筒状部17の先端部と給排孔21の内周面との間には、Оリング(図示を省略)が装着されることとなる。
【0016】
また、給排孔21の内部には、金属材料からなる円筒状のカラー22が配置されている。このカラー22は、給排孔21の内周面に支持される一端側からライナ2側に延びて、ライナ2の筒状部17内に嵌入されている。
【0017】
本実施形態での繊維強化樹脂層4は、強化繊維に予めマトリクス樹脂を含侵させたプリプレグをライナ2及び口金3の外周面に巻回した後、このマトリクス樹脂を硬化させて得られるものを想定している。
【0018】
本実施形態での強化繊維としては、複数の炭素繊維フィラメントからなるストランドをさらに複数纏めて形成される後記の帯状のロービング7(
図2参照)を想定している。ただし、強化繊維は、これに限定されるものではなく、例えば、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維などを使用することもできる。
【0019】
本実施形態でのマトリックス樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂の硬化物からなるものを想定している。
なお、繊維強化樹脂層4の形成方法は、前記のプリプレグを使用したものに限定されるものではない。したがって、繊維強化樹脂層4は、例えば、ライナ2に巻回した樹脂未含侵の強化繊維にマトリックス樹脂を含侵しこれを硬化させたものであってもよい。
【0020】
≪高圧タンクライナ≫
ライナ2は、熱可塑性樹脂からなる中空体である。熱可塑性樹脂としては、例えばポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂などが挙げられるがこれに限定されるものではない。
本実施形態のライナ2は、円筒体からなる胴部5と、この胴部5の両端に一体に成形される鏡部6と、を備えている。
胴部5は、所定の外径にて形成されて胴部5の軸(Ax)方向の殆どを占める一般部8と、胴部5の軸(Ax)方向の中央部に形成され、一般部8よりも拡径した拡径部9と、を備えて構成されている。
【0021】
拡径部9は、後記する「高圧タンクライナの製造方法」で詳しく説明するように、一対のライナ半体31(
図3A参照)の端部同士を溶着にて接合した接合部36(
図3C参照)に切削加工を施して形成したものである。
【0022】
図2は、
図1のII部の部分拡大断面図である。
図2に示すように、胴部5の一般部8と拡径部9との間に形成される段差部11には、一般部8側から拡径部9側に向けて複数段からなる階段部12が形成されている。ちなみに、本実施形態での階段部12の段数は、2段としたが、後記するように、階段部12の段数は、3段以上とすることもできる。
【0023】
また、このような階段部12においては、この階段部12を構成する複数の段部13のうち、最も一般部8寄りに形成される第1段目の段部13aを除く他の段部13bは、立上り面14が、傾斜面となっている。
なお、本実施形態での立上り面14とは、一般部8を階下とし、拡径部9を階上に見立てた階段構造において、いわゆる踏面から立ち上がる蹴込部に対応する面部に相当する。そして、本実施形態での立上り面14は、一般部8側から拡径部9側へと向かうほど円筒体の軸(
図1の符号Ax参照)から徐々に離れるように傾斜している。
図2中の符号4は、繊維強化樹脂層であり、符号7は、階段部12上で胴部5の周方向に延びる、その横断面にて示すロービングである。
【0024】
そして、階段部12は、
図2に示すように、段差部11の拡径部9側の角部15から、拡径部9と一般部8との間に形成される段部13の角部15を通って一般部8の周面8aに至るまでの距離Dが、ロービング7の横幅Wよりも短くなるように形成されている。
【0025】
鏡部6は、
図1に示すように、胴部5側から軸(Ax)方向外側に離れるほど徐々に縮径するように収斂する扁平の椀状体である。
鏡部6の径方向の中央部は、口金3のフランジ部19の形状に対応するように陥没する陥没部16を有している。
また、陥没部16の中央部には、口金3の給排孔21内に向けて突出するように、前記の筒状部17が形成されている。そして、前記した給排孔21のねじ部21aと噛み合うねじ部17aは、筒状部17の外周面に形成されている。
【0026】
≪高圧タンクライナの製造方法≫
次に、ライナ2(
図1参照)の製造方法について説明する。
図3Aは、本実施形態に係るライナ2(
図1参照)の製造方法に使用する一対のライナ半体31の縦断面図である。
図3Bは、
図3AのIIIb部の部分拡大断面図である。
図3Cは、
図3Aに示す一対のライナ半体31同士を溶着にて接合した接合部36の部分拡大断面図である。
図3Dは、
図3Cの接合部36に切削加工を施こすことで形成したライナ2の拡径部6の部分拡大断面図である。
図3Eは、
図3Dに示す拡径部6に階段加工を施す工程説明図である。
【0027】
本実施形態に係るライナ2(
図1参照)の製造方法は、
図3Aから
図3Eに示すように、ライナ半体31の準備工程と、ライナ半体31同士を溶着にて一体に接合する接合工程と、一体化したライナ半体31同士の接合部36に切削加工を施す切削工程と、を主に有して構成されている。
【0028】
図3Aに示すように、前記の準備工程では、一対のライナ半体31が準備される。
ライナ半体31は、次に説明するフランジ部32を有することを除いて、
図1に示すライナ2を軸方向の中央部で2分割した形状と略同じ形状を有している。
このようなライナ半体31は、射出成形法やブロー成形法にて形成することができる。
【0029】
図3Bに示すように、ライナ半体31同士が向き合うこととなる互いの開口部33側には、フランジ部32と、後に詳しく説明する溶融代35を有する突出端部34とが形成されている。
フランジ部32は、ライナ半体31における胴部5よりも径方向外側に張り出すように胴部5に一体に成形された胴部5と同軸の環状体である。
フランジ部32には、周溝32aが形成されている。
【0030】
この周溝32aは、ライナ半体31における胴部5の周面から立ち上がるフランジ面部32bにおいて、周方向に延びるように形成されている。つまり、周溝32aは、ライナ半体31の軸方向に並ぶように形成される一対のフランジ面部32bのうち、ライナ半体31の開口部33から遠く離れた方のフランジ面部32bに形成されている。
なお、このような周溝32aには、押圧ジグ(図示を省略)が嵌め込まれることとなる。そして、この押圧ジグは、
図3Aに示すように、互いの開口部33が向き合うように配置されたライナ半体31同士を所定荷重で押圧することとなる。
【0031】
図3Bに示すように、突出端部34は、ライナ半体31の開口部33側の端面に一体に成形された胴部5と同軸の環状体である。
突出端部34の外径は、ライナ半体31における胴部5の外径よりも大きく、そしてフランジ部32の外径よりも小さくなるように設定されている。
また、突出端部34の内径は、ライナ半体31の内径と同じになるように設定されている。
そして、ライナ半体31の軸方向Axにおける突出端部34の厚さは、後記するライナ半体31同士の溶着時における溶融代35よりも厚くなっている。
【0032】
次に、ライナ半体31同士の接合工程においては、
図3Bに示す突出端部34の溶融代35を加熱溶融させてライナ半体31同士を接合する。
本実施形態での溶融代35の溶融方法としては、ヒータにて突出端部34を加熱する方法、ライナ半体31同士の摩擦熱を利用する方法などを想定している。ちなみに、ライナ半体31同士の摩擦熱は、前記の押圧ジグ(図面省略)でライナ半体31同士を所定の荷重にて押し付けながら振動などにより相対変位させて発生させることができる。
【0033】
そして、この接合工程においては、
図3Cに示すように、押圧ジグ(図面省略)でライナ半体31同士を所定の荷重にて押し付けて、ライナ半体31同士の押圧方向(軸Ax方向)に対して交差する方向に溶融代35(
図3B参照)の溶融物35aを流動させる。これによりライナ半体31同士の溶融物35aは、仮想線(二点鎖線)にて示す溶着面36aで互いに溶け合う。そして、溶融物35aが冷却されることで、ライナ半体31同士は、溶着面36aにて一体化して接続される。
【0034】
次に、一体化したライナ半体31同士の切削工程においては、
図3Dに示すように、接合部36におけるフランジ部32(仮想線(二点鎖線)にて示す)がその根元部分32cを残して切削加工により取り除かれる。
そして、残された根元部分32cにて、前記のライナ2における拡径部9が形成される。
【0035】
また、この切削工程においては、
図3Eに示すように、胴部5の一般部8と拡径部9との間に形成される段差部11を切削して複数段からなる階段部12が形成される。具体的には、
図3Eの上段の図に示すように、円錐台状の切削工具ヘッド37を有する回転ツールが、段差部11に対して胴部5の軸方向Axに沿うように接近する。
【0036】
そして、切削工具ヘッド37は、
図3Eの中段の図に示すように、段差部11の切削を開始する。この際、胴部5の一般部8からの切削工具ヘッド37の距離によって、階段部12における第1段目の段部13aの高さが決定される。
【0037】
次いで、
図3Eの下段の図に示すように、さらに切削工具ヘッド37が切削を進めることで、第1段目の段部13aと、傾斜する立上り面14を有する段部13bとからなる複数段からなる階段部12が形成される。
【0038】
また、
図2に示すように、このような階段部12を含むライナ2の胴部5に強化繊維のロービング7が巻回されて高圧タンク1が製造されるところ、前記したように、階段部12の距離Dは、ロービング7の横幅Wよりも短くなっている。
そして、このような階段部12が、拡径部9に形成されて本実施形態のライナ2(
図1参照)の一連の製造工程が終了する。
【0039】
≪作用効果≫
次に、本実施形態の高圧タンクライナ2及びその製造方法並びに高圧タンク1の奏する作用効果について説明する。
図4Aは、実施形態に係るライナ2の階段部12に巻回された強化繊維としてのロービング7の様子を模式的に示す部分拡大断面図である。
図4Bは、第1の比較例に係るライナ40aの段差部11に巻回された強化繊維としてのロービング7の様子を模式的に示す部分拡大断面図である。
図4Cは、第2の比較例に係るライナ40bの段差部11に巻回された強化繊維としてのロービング7の様子を模式的に示す部分拡大断面図である。
【0040】
ここでは、まず第1の比較例に係るライナ40aと、第2の比較例に係るライナ40bとについて説明する。
図4Bに示すように、第1の比較例に係るライナ40aは、一般部8と拡径部9との間の段差部11に、複数段部からなる階段部12(
図4A)が形成されていない他は、本実施形態のライナ2と同様に形成されている。
【0041】
このようなライナ40aの段差部11にロービング7が巻回されると、ロービング7は、ライナ40aの一般部8側で浮きLを生じる。また、ライナ40aにおいては、所定のテンションを掛けたロービング7が段差部11上に巻回されると、ロービング7を形成するストランド同士(図示を省略)の間に拡径部9の角部15が入り込んでストランドにばらつきを生じることがある。
【0042】
また、
図4Cに示すように、第2の比較例に係るライナ40bは、第1の比較例に係るライナ40a(
図4B参照)の角部15(
図4B参照)に対応する部分に、面取り部15a(C面)を形成した構成となっている。
【0043】
このようなライナ40bの段差部11にロービング7が巻回されると、第1の比較例に係るライナ40a(
図4B参照)と同様に、ライナ40bの一般部8側でロービング7に浮きLを生じるとともに、段差部11の角部15によってストランド(図示を省略)にばらつきを生じることも考えられる。
【0044】
ちなみに、従来のライナ(例えば、特許文献1参照)においては、溶着面36a(
図3C参照)が加工誤差により蛇行していることが多い。そのため、拡径部9の軸Ax方向の両端部に形成される段差部11のうち、一端側は面取り部15a(
図4B参照)を形成し、他の一箇所は段差部11をそのまま残した角部15(
図4B参照)としていた。
【0045】
これに対して本実施形態のライナ2は、
図4Aに示すように、複数段からなる階段部12の距離Dが、ロービング7の横幅Wよりも短くなっている。
このようなライナ2によれば、階段部12上で所定のテンションが掛かったロービング7は、拡径部9側の角部15と、一般部8の周面8aと、階段部12を構成する一段目の段部13aの角部15と、の3点で支持されることとなる。これによりテンションが掛かったロービング7がライナ2側から受ける反力は、この3点に分散されてストランド(図示を省略)のばらつきが抑制されることとなる。
また、このようなライナ2によれば、拡径部9に複数段からなる階段部12が形成されることによって、ライナ2の一般部8と拡径部9との段差におけるロービング7の浮きLが低減される。
【0046】
また、本実施形態のライナ2は、立上り面14が傾斜面となっているので、一段目の段部13aを除く他の段部13bの角部15が鈍角となって、ロービング7を形成するストランド同士(図示を省略)の間に入り込む角部15の楔効果が第1の比較例に係るライナ40a(
図4B参照)と比較して低減される。これによりストランド(図示を省略)のばらつきが、より確実に抑制されることとなる。
また、本実施形態のライナ2は、立上り面14が傾斜面となっているので、段差部11におけるライナ2に対するロービング7の浮きLが、さらに低減される。
【0047】
以上、本実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、種々の形態で実施することができる。
前記実施形態では、段数が2段の階段部12を有するライナ2及びこのライナ2を有する高圧タンク1を例示した(
図2参照)。
しかしながら、ライナ2の階段部12の段数はこれに限定されることなく3段以上とすることができる。
図5Aは、第1変形例に係るライナ2の部分拡大断面図である。
図5Aに示すように、第1変形例に係るライナ2は、階段部12の段数を3段とした他は、前記実施形態のライナ2(
図1参照)と同様に形成されている。
このような第1変形例に係るライナ2によれば、ライナ2に対するロービング7(
図2参照)の支持点が段数に応じてさらに増加することで、ライナ2に対するロービング7(
図4A参照)の浮きL(
図4A参照)やストランドのばらつきが、より一層抑制されることとなる。
【0048】
図5Bは、第2変形例に係るライナ2の構成説明図である。この
図5Bは、ライナ2の断面と周面とを同一平面に表した展開図となっている。なお、
図5Bに示すうねりUdの大きさ及び形状は、この変形例の説明の便宜上、誇張して描いており実際のものとは異なっている。
図5Bに示すように、第2変形例に係るライナ2の階段部12は、拡径部9の周方向Cdに沿って、拡径部9の軸Ax方向の一端側と他端側とに交互に形成されている。
図5B中、符号Udは、溶着面36aが蛇行することで拡径部9の軸Ax方向の一端部と他端部とに形成されたうねりである。つまり、うねりUdは、拡径部9の周方向Cdに沿って拡径部9が蛇行することで形成されている。そして、拡径部9の軸Ax方向の一端部と他端部には、このうねりUdの周期に応じて第1段目の段部13aが形成される部分と、形成されない部分とが交互に現れる。これにより第2変形例に係るライナ2は、階段部12が周方向Cdに沿って交互に形成されている。
このような第2変形例に係るライナ2によれば、拡径部9の一端側又は他端側に形成された階段部12によって、ロービング7(
図4A参照)の浮きL(
図4A参照)やストランド(図示を省略)のばらつきを抑制できることとなる。
【0049】
前記実施形態では、ライナ2の階段部12が、拡径部9の円筒体の軸Ax方向の両端に形成されるものを例示した(
図2参照)。ライナ2の階段部12は、拡径部9の円筒体の軸方向の少なくとも一端側に形成されていればよい。
図5Cは、第3変形例に係るライナ2の部分拡大断面図である。
図5Cに示すように、第3変形例に係るライナ2は、階段部12が拡径部9の円筒体の軸Ax方向の一端側にのみ形成されている。また、拡径部9の他端側には、面取り部15a(C面)が形成されている。
このような第3変形例に係るライナ2によれば、一端側に形成された階段部12によって、ロービング7(
図4A参照)の浮きL(
図4A参照)やストランド(図示を省略)のばらつきを抑制できる。また、他端側に形成された面取り部15a(C面)によって、フィラメント(図示を省略)に対する負荷が低減される。
【符号の説明】
【0050】
1 高圧タンク
2 高圧タンクライナ
4 繊維強化樹脂層
5 胴部
7 ロービング
8 胴部の一般部
8a 一般部の周面
9 胴部の拡径部
11 段差部
12 階段部
13 段部
13a 第1段目の段部
13b 他の段部
14 段部の立上り面
15 角部
31 ライナ半体
32 ライナ半体のフランジ部
33 ライナ半体の開口部
36 フランジ部同士の接合部
Ax 高圧タンクライナの軸
D 距離
W ロービングの横幅