IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 井口 学の特許一覧 ▶ 株式会社ヒューエンスの特許一覧

<>
  • 特許-攪拌装置 図1
  • 特許-攪拌装置 図2
  • 特許-攪拌装置 図3
  • 特許-攪拌装置 図4
  • 特許-攪拌装置 図5
  • 特許-攪拌装置 図6
  • 特許-攪拌装置 図7
  • 特許-攪拌装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-24
(45)【発行日】2025-04-01
(54)【発明の名称】攪拌装置
(51)【国際特許分類】
   B01F 33/40 20220101AFI20250325BHJP
   B01F 35/221 20220101ALI20250325BHJP
   B01F 35/50 20220101ALI20250325BHJP
   B01F 35/71 20220101ALI20250325BHJP
【FI】
B01F33/40
B01F35/221
B01F35/50
B01F35/71
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024040960
(22)【出願日】2024-03-15
【審査請求日】2024-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】599083547
【氏名又は名称】井口 学
(73)【特許権者】
【識別番号】500430903
【氏名又は名称】株式会社ヒューエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100104330
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 誠二
(72)【発明者】
【氏名】井口 学
(72)【発明者】
【氏名】設樂 守良
(72)【発明者】
【氏名】中畑 佑介
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-63375(JP,A)
【文献】井口学、竹内博明、森田善一郎,底吹き円筒容器内水-空気系気泡噴流中の流れ場,鉄と鋼,76巻5号,日本,日本鉄鋼協会,1990年,699~706ページ
【文献】井口学、川尻明、富田祐志、森田善一郎,高粘度の液体中を上昇する気泡群の動的挙動に関するコールドモデル実験,鉄と鋼,78巻9号,日本,日本鉄鋼協会,1992年,1456~1463ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 33/40
B01F 35/221
B01F 35/50
B01F 35/71
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径Dの円筒形容器又は内接円径Dの多角形の平面形状をもつ多角形容器を備えた攪拌装置であって、前記円筒形容器又は前記多角形容器内には、液体が収容されており、前記円筒形容器又は前記多角形容器の底壁のほぼ中央に、前記液体内に気体を吹き込むためのノズルが配置されており、前記ノズルから前記液体内に吹き込まれる気体の流量Qが、ρg 2 /(σ3 )=10-5(ここで、ρ は液体の密度、σ は液体の表面張力)を満足する流量以上であり、かつ、前記気体の気泡が前記液体の液面を吹き抜けない流量以下である攪拌装置において、
前記ノズルの先端から上方に所定距離離れた個所に下端が位置し、前記液面から深さHの個所に上端が位置し、前記下端および前記上端が開口し、ほぼ垂直方向に延びた円筒形状のガイドパイプを備え、
前記ガイドパイプの内径が、少なくとも、
[1.5×(Qg/uB )×{1+(0.0608uL/Qg)×z2}]1/2(ここで、uB は前記ガイドパイプ内を気泡と液体の混合物が上昇するときの気泡の上昇速度、uLは前記ガイドパイプ内を気泡と液体の混合物が上昇するときの前記ガイドパイプの中心軸上における液体の上昇速度、zは前記ノズルの前記先端から前記ガイドパイプの前記下端までの垂直方向距離)によって与えられる径となるように選定されており、
前記Hと前記内径又は内接円径Dとの比H/Dが、0.3~1の範囲にあることを特徴とする攪拌装置。
【請求項2】
前記ガイドパイプの前記下端に、拡径部が設けられており、前記拡径部の内径が、少なくとも、4bα(ここで、bαは前記気泡の半径方向の分散度合を表すガスホールドアップの半値半幅)によって与えられる径となるように選定されていることを特徴とする請求項1に記載された攪拌装置。
【請求項3】
前記円筒形容器又は前記多角形容器の底壁が、平底又は丸底であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された攪拌装置。
【請求項4】
前記気体が空気又は反応性ガスであることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された攪拌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、攪拌装置に関する。より詳細には、本発明は、容器底が深い場合であっても、プロペラ等の機械的な駆動源を必要とせずに、液体を効率的に攪拌することができる攪拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、機械的な駆動源を必要とせずに、液体を効率的に攪拌させることができる種々の攪拌装置を提案している(特許文献1~特許文献4参照)。また、本発明者は、特許文献1~特許文献4に開示された装置を改良発展させて、深い容器においても良好な攪拌を可能とする装置も提案している(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3058876号公報
【文献】特許第4195782号公報
【文献】特許第4384477号公報
【文献】特許第4710070号公報
【文献】特開2013‐63375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
深い容器を対象とした特許文献5の攪拌装置は、有益な利点を提供するものであったが、以下の2つの解決すべき課題があった。第1に、装置内に設置されるガイドパイプに「詰まり」が生ずることにより、課題が発生する。すなわち、ガイドパイプ内を通過することができる気液二相流のガス流量には上限値が存在するため、ガス流量が上限値よりも大きくなると、余分なガスがガイドパイプの入口から外へ溢れ出して旋回現象の発生が阻害され、効率的な攪拌が期待できなくなる。第2に、ガイドパイプに「吸い込み不良」が生ずることにより、課題が発生する。すなわち、装置の容器底部に設けられたノズルから噴出したガスによって生じた気泡噴流の半径方向への拡散がガイドパイプの入口よりも大きくなりすぎると、ガイドパイプ内に導入されるガス流量が少なくなって旋回現象の発生が阻害され、効率的な攪拌が期待できなくなる。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みて開発されたものであって、上記の2つの課題を解決することにより、深い容器においても良好な攪拌を可能とする攪拌装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
図8を参照して、本発明の攪拌装置の作動原理について説明する。底部に単孔ノズルを備えた円筒形容器内に液体を充填し、ノズルから液体内にガスを吹き込むと上昇気泡噴流が形成されるが、本発明者は、特許文献1に示したように、一定条件下において、この上昇気泡噴流によって、液体の攪拌に好ましい旋回現象が発生することを見い出した。すなわち、円筒形容器の内径をD、ノズルの先端と液面との高さの差を 01 とすると、Dと 01 との関係が約0.3< 01 /D<約1である場合に、気泡噴流の半径方向変位が比較的小さく、周期が短い旋回現象が発生し、円筒形容器内の液体は、スロッシングに似た挙動を示す。ここで、スロッシングとは、容器が軸方向又は半径方向に加振されることによって液体の振動が誘起される現象をいう。上述の旋回現象は、気泡の生成、上昇に伴う気体から液体への周期的加振によって誘起されたものと推測される。
【0007】
なお、比 01 /D<約0.3である場合には、気泡噴流の半径方向変位が極めて小さいため、旋回は、液体を攪拌するには不十分なものとなる。また、比 01 /D>約1である場合には、旋回が安定せず、十分な攪拌効果が得られない。
【0008】
上述の旋回現象が気泡による液体への周期的な加振によって誘起されるものであるため、液体の攪拌に好ましい旋回現象が発生するためには、吹き込まれるガスの流量が臨界値以上であり、かつ、気泡が液面を吹き抜ける程度以下であることが必要である。なお、本明細書において使用される語「吹き抜け」とは、ノズルから液体中に吹き込まれた気体が気柱を作って液面から外部へ出る現象を意味している。
【0009】
本発明者は、ガスの流量の臨界値を以下のように算定した。スロッシングに関する研究によれば、容器の加振によって液面における波動が誘起され、この波動が粘性を介して液体の内部に伝わり、液体内部の運動が起こるといわれている。したがって、旋回は、液面の波動現象が抑えられることによって止まるものと推測される。本発明者の実験によれば、加振力の主要な部分は、気泡が上昇して液面から出る際にほぼ周期的に液体に及ぼす力であろうと結論できる。この力は、上昇する液体の慣性力に依存すると仮定する。また、波動を止めようとする力には、表面張力が関与しているであろう。本発明者は、液体の慣性力と表面張力の比として定義されるウェーバー数We =ρg 2 /(σ3 )が10-5以上であれば、液体の攪拌に好ましい旋回現象が発生することを実験により確かめた。すなわち、上式のウェーバー数We =10-5が臨界値となる。ここで、ρ は液体の密度、Qg はガスの吹き込み流量、σL は液体の表面張力、Dは円筒形容器の内径である。
【0010】
一方、ノズルより上方の液体が、図8(b)の矢印Aで示されるように、一方向に旋回すると、角運動量保存則により、ノズルより下方の液体は、図8(b)の矢印Bで示されるように、逆方向に旋回する。ノズルより下方における旋回流Bは、ノズルより上方における旋回流Aを安定化させており、旋回流Aへの固形物等の投入により旋回流Aの速度の低下や乱れが生じても、旋回流Bが存在していれば、容易に元の状態に復帰することができる。このため、ノズルより下方に一定の深さの領域を設けるのが好ましい。
【0011】
上述のように、底部に単孔ノズルを備えた円筒形容器内に液体を充填し、ノズルから液体内にガスを吹き込むことにより、一定条件下で、液体の攪拌に好ましい旋回現象が発生することを見い出したが、円筒形容器が深い(すなわち、ノズルの先端から円筒形容器の底壁までの深さが深い)場合には、円筒形容器の底部に位置する液体の攪拌は、必ずしも十分であるとは言い難かった。そこで、本発明者は、ノズルの先端から上方に一定距離だけ離れた個所に下端が位置し、液面から所定深さのところに上端が位置し、垂直方向に延びたガイドパイプを円筒形容器内に設けることにより、円筒形容器が深い場合であっても、容器内の液体が良好に攪拌される装置を提案した(特許文献5)。
【0012】
特許文献5の装置には、上述のように、ガイドパイプの「詰まり」、およびガイドパイプの「吸い込み不良」という2つの解決すべき課題があったが、本発明者は、これらの課題について以下のように解決した。
【0013】
(ガイドパイプの「詰まり」)
鉛直円管内をガス(気泡)と液体の混合物(気液二相流)が上昇するとき、気泡の上昇速度uBを表す実験式として、下記の赤川・坂口の式(赤川浩爾, 坂口忠司: 気液二相流のボイド率特性に関する研究(第3報), 日本機械学会論文集, 31-223(1965), pp. 601-607)が知られている。

大きな気泡について uB= 1.25 ×(jg +jL) (1)

小さな気泡について uB= 1.10 ×(jg +jL) (2)

ここで、jg はガイドパイプ内のガスの空塔速度、jL はガイドパイプ内の液体の空塔速度であり、それぞれ次式で表される。

g = (4Qg)/(πd 2) (3)

L = (4QL)/(πd 2) (4)

ここで、Qgはガスの吹き込み流量、QLは気泡噴流中で気泡によって誘起された液体の流量、dはガイドパイプの内径である。
【0014】
本発明では、気泡の上昇速度uBを表す式として、式(1)と式(2)の平均をとった下記の近似式を使用する。

B = 1.18 ×(jg +jL) (5)
【0015】
式(3)および式(4)を式(5)に代入して整理すると、ガイドパイプの内径dは、次式で表される。

g = [ 1.5×(Qg/uB )×{ 1+(QL/Qg )}]1/2 (6)
【0016】
一方、気泡の上昇速度uBと液体の流量QL は、次式で得られることが知られている(井口 学,竹内 博明,森田善一郎: 底吹き円筒容器内水-空気系気泡噴流中の流れ場, 鉄と鋼,76-5(1990), pp.699-706/Marco A. S. C. Castello-Branco and K. Schwerdtfeger: Large-Scale Measurements of the Physical Characteristics of Round Vertical Bubble Plumes in Liquids, Metallurgical and Materials Transactions B, 25B (1994), pp. 359-371)。

B =(Qg21/5×{1.60×(z/z0CS -2.04
+1.82×(z/z0CS -0.08 }
ただし、(z/z0CS )> 0.6 (7)

0CS =6.8×dni×{(Qg 2ρg )/(gdni 5ρL )}0.272 (8)

L =3.6×uL×b 2 (9)

L =(Qg2 1/5×{ 0.95×(z/z0CS -2.30
+1.10×(z/z0CS -0.08}
ただし、(z/z0CS )> 0.8 (10)

=0.13×z (11)

ここで、Qgは上述のように、ガスの吹き込み流量、uBは上述のように、鉛直円管内をガス(気泡)と液体の混合物が上昇するときの気泡の上昇速度、uLは、鉛直円管内をガス(気泡)と液体の混合物が上昇するときの鉛直円管の中心軸上における液体の上昇速度、zは、ノズルの先端からガイドパイプの下端までの距離(図1におけるH1 )、gは重力加速度、dniはノズルの内径、ρ はガスの密度、ρ は液体の密度である。
【0017】
式(9)および式(11)を式(6)に代入すると、次式が得られる。

=[1.5×(Qg/uB
×{1+(0.0608uL/Qg)×z2}]1/2 (12)

すなわち、ガイドパイプの内径dを少なくとも式(12)によって与えられる径にすることにより、ガイドパイプの「詰まり」が生じないようにすることができる。
【0018】
(ガイドパイプの「吸い込み不良」)
ノズルから円筒形容器内の液体中にガスを吹き込むと、ノズルの先端近傍で多数の気泡が発生し、半径方向に分散しながら上昇する。この気泡の半径方向への分散を定量的に知るため、ガスホールドアップαに着目する。気泡噴流中のある点Pを見ると、気泡と液体が交互に通過していくが、ガスホールドアップαとは、全測定時間に占める気泡の通過時間のことであり、%で表される。例えば、点Pが常に気泡中にあれば、ガスホールドアップαは100%、点Pが常に液体中にあれば、ガスホールドアップαは0%となる。
【0019】
ガスホールドアップαは、次式で得られることが知られている。

α=αcl×exp{-0.6931×(r2/bα 2)} (13)

ここで、αclはガスホールドアップαの中心軸上の値、rは半径方向の座標、bαはガスホールドアップαの半値半幅であり、αclおよびbαは、本発明で対象としている吹き込み条件下では、それぞれ次式で与えられる。

αcl =50×(z/z-1.0 (14)

α =bα(z)×(z/z0.5
=0.42×(Qg 2/g1/5 ×(z/z0.5 (15)

ここで、zは、ガスホールドアップαが50%となるzの値であり、次式で与えられる。

=5×dni×{(Qg 2ρg )/(gdni 5ρL )}0.30 (16)
【0020】
一方、気泡の半径方向への分散の幅Wは、次式で近似できることが知られている(井口学, 川端弘俊, 岩崎敏勝, 野沢健太郎, 森田善一郎: 底吹き円筒容器内水-空気系気泡噴流の運動量支配領域における気泡特性, 鉄と鋼, 76-6(1990), pp. 840-847)。

g=4bα (17)
【0021】
ノズルから出たガスがすべてガイドパイプ内に吸い込まれるためには、ガイドパイプ下端の直径Dが気泡の半径方向への分散の幅Wよりも大きいことが必要である。すなわち、

g > Wg (18)

したがって、ノズルから出たガスがすべてガイドパイプ内に吸い込まれるには、

g > 4bα (19)

を満たす必要がある。
すなわち、ガイドパイプの下端の内径を少なくとも式(19)によって与えられる径にすることにより、ガイドパイプの「吸い込み不良」が生じないようにすることができる。
【0022】
本願請求項1に記載された、内径Dの円筒形容器又は内接円径Dの多角形の平面形状をもつ多角形容器を備えた攪拌装置は、前記円筒形容器又は前記多角形容器内には、液体が収容されており、前記円筒形容器又は前記多角形容器の底壁のほぼ中央に、前記液体内に気体を吹き込むためのノズルが配置されており、前記ノズルから前記液体内に吹き込まれる気体の流量Qが、ρg 2 /(σ3 )=10-5 (ここで、ρ は液体の密度、σ は液体の表面張力)を満足する流量以上であり、かつ、前記気体の気泡が前記液体の液面を吹き抜けない流量以下であり、前記ノズルの先端から上方に所定距離離れた個所に下端が位置し、前記液面から深さHの個所に上端が位置し、前記下端および前記上端が開口し、ほぼ垂直方向に延びた円筒形状のガイドパイプを備え、前記ガイドパイプの内径が、少なくとも、
[1.5×(Qg/uB )×{1+(0.0608uL/Qg)×z2}]1/2
(ここで、uB は前記ガイドパイプ内を気泡と液体の混合物が上昇するときの気泡の上昇速度、uLは前記ガイドパイプ内を気泡と液体の混合物が上昇するときの前記ガイドパイプの中心軸上における液体の上昇速度、zは前記ノズルの前記先端から前記ガイドパイプの前記下端までの垂直方向距離)によって与えられる径となるように選定されており、前記Hと前記内径又は内接円径Dとの比H/Dが、0.3~1の範囲にあることを特徴とするものである。
【0023】
本願請求項2に記載された攪拌装置は、前記請求項1の攪拌装置において、前記ガイドパイプの前記下端に、拡径部が設けられており、前記拡径部の内径が、少なくとも、4bα(ここで、bαは前記気泡の半径方向の分散度合を表すガスホールドアップの半値半幅)によって与えられる径となるように選定されていることを特徴とするものである。
【0024】
本願請求項3に記載された攪拌装置は、前記請求項1又は請求項2の攪拌装置において、前記円筒形容器又は前記多角形容器の底壁が、平底又は丸底であることを特徴とするものである。
【0025】
本願請求項4に記載された攪拌装置は、前記請求項1から請求項3のいずれか1項の攪拌装置において、前記気体が空気又は反応性ガスであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明の攪拌装置によれば、容器が深い場合であっても、良好な攪拌効果を得ることができる。本発明の攪拌装置は、プロペラ等の駆動源を必要としないため、構造が極めて簡単である。したがって、本発明の攪拌装置では、製造コスト、維持コストを安価に押さえることができ、保守点検に要する時間や手間を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の好ましい実施形態に係る攪拌装置の全体を示した模式図である。
図2】ガイドパイプの取り付け形態を例示的に示した一連の図である。
図3】ガイドパイプの下端の変形形態を示した図である。
図4図1の攪拌装置の作動状態を示した図である。
図5図4においてガイドパイプの下端周辺を示した拡大図である。
図6】ノズルの配置の変形例を示した図である。
図7】容器が丸底の場合の攪拌装置の全体を示した模式図である。
図8図1の攪拌装置の作動原理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態に係る攪拌装置について説明する。図1において全体として参照符号10で示される本発明の好ましい実施形態に係る攪拌装置は、側壁12aおよび底壁12bを有する円筒形容器12を備えている。円筒形容器12の内径は、図1に示されるように、Dである。円筒形容器12内には、底壁12bから液面までの高さがH+H+Hとなるように、攪拌しようとする液体が収容されている。
【0029】
円筒形容器12の底壁12bのほぼ中央には、ノズル14が配置されており、ノズル14は、エアコンプレッサ(図示せず)に連結されている。これにより、エアコンプレッサから供給された空気がノズル14から液体内に噴射されるようになっている。
【0030】
攪拌装置10はまた、ノズル14の先端から上方に距離zだけ離れた個所に下端16aが位置し、液面から深さHの個所に上端16bが位置する、ほぼ垂直方向に延びた長さH2のガイドパイプ16を備えている。ガイドパイプ16は、全体として円筒形状であり、その内径はdである。なお、図1に示される攪拌装置10の形態では、ノズル14の先端と円筒形容器12の底壁12bとは同一高さに位置しているので、ノズル14の先端からガイドパイプ16の下端16aまでの距離zは、底壁12bとガイドパイプ16の下端16aまでの距離Hと等しい。
【0031】
ガイドパイプ16の内径dは、少なくとも、式(12)によって与えられる径になるように選定される。これにより、ガイドパイプ16の「詰まり」を回避することができる。
【0032】
図2(a)~図2(d)は、ガイドパイプ16が支持部材18によって円筒形容器12の底壁12bのノズル14の先端から上方に距離zを隔てた個所に支持されている状態を示した一連の図である。図2(a)および図2(b)に示される形態では、支持部材18は、円周方向に90°間隔を隔てて配置された4基の支柱によって構成されている。また、図2(c)および図2(d)に示される形態では、支持部材18は、円周方向に120°間隔を隔てて配置された3基の支柱によって構成されている。なお、図2(a)~図2(d)に示される形態は、支持部材18の構成の詳細を例示的に示したものであり、ガイドパイプ16を所定位置に支持することができるものであれば、図示されている構成に限定されるものではない。
【0033】
好ましくは、ガイドパイプ16の下端16aには、図3(a)に示されるように、他の部分よりも径が大きい拡径部16cが設けられている。拡径部16cの内径Dは、少なくとも、式(19)によって与えられる径になるように選定される。これにより、ガイドパイプ16の「吸い込み不良」を回避することができる。
【0034】
図3(a)に示される形態では、拡径部16cは、内径Dの部分が一定長さ続いた後に内径dに徐々に縮減するように形作られているが、最下部の内径が所要径を確保できるのであれば、たとえば、図3(b)に示されるように、内径Dの部分から内径dに徐々に縮減するように形作られたものでもよい。
【0035】
なお、液面からガイドパイプ16の上端16bまでの深さHと円筒形容器12の内径Dとの比H/Dは、約0.3~約1の範囲にある。好ましくは、比H/Dは、約0.5である。
【0036】
図4は、攪拌装置10においてノズル14から噴射された空気がガイドパイプ16を通って液体内に噴射され、これにより液体が、矢印Aで示されるように旋回している状態を示した模式図である。この場合において、ノズル14から噴射される空気の流量Qは、ρg 2 /(σ3 )=10-5を満足する流量以上であり、かつ、空気の気泡が液面を吹き抜ける程度以下である。
【0037】
なお、ガイドパイプ16の上端16bより下方の液体は、上述のように、角運動量保存則により、図4において矢印Bで示されるように、逆方向に旋回する。
【0038】
(実施例)
円筒形容器12の内径D=30.8cm、ノズル14の内径dni=0.8cm、ノズル14の先端からガイドパイプ16の下端16aまでの距離z=2.5cm、ガスの吹き込み流量Qg =250cm/s(=15L/min)の場合を例にとり、「詰まり」の生じないノズル14の内径dおよび「吸い込み不良」の生じない拡径部16cの内径Dについて試算する。
【0039】
式(8)より、
0CS =6.8×0.8×{(2502×1.23×10-6)/(980×0.85×998×10-6 )}0.272
=3.69cm
式(7)より、
B =(250×98021/5
×{1.60×(2.5/3.69-2.04 +1.82×(2.5/3.69-0.08 }
=47.4×(3.54+1.88)
=257cm/s
式(10)より、
L =(250×9802 1/5
×{0.95×(2.5/3.69-2.30+1.10×(2.5/3.69-0.08}
=47.4×(2.32+1.13)
=164cm/s
式(12)より、
=[1.5×(250/257)×{1+(0.0608×164/250)×2.52}]1/2
=1.35cm
したがって、ガイドパイプ16の内径d を少なくとも1.35cmにすることにより、ガイドパイプ16に「詰まり」が生じないようにすることができる。
【0040】
式(16)より、
=5×0.8×{(2502×1.23×10-6 )/(980×0.85×998×10-6 )}0.30
=2.61cm
式(15)より、
α=0.42×(2502/980)1/5×(2.5/2.61)0.5
=0.943cm
式(17)より、
g=4×0.943 =3.77cm
したがって、拡径部16cの内径Dを少なくとも3.77cmにすることにより、ガイドパイプ16に「吸い込み不良」が生じないようにすることができる。
【0041】
次に、主として図4および図5を参照して、以上のように構成された攪拌装置10の作動について説明する。攪拌装置10において、ノズル14から液体内に空気を吹き込むと、空気は、ガイドパイプ16を通って、ガイドパイプ16の上端16bから液体内に噴射される。その際、ガイドパイプ16に「詰まり」が生じないように内径dが選定されているため、[1]流体をノズルから噴流状態で同じ流体又は別の流体中に導入すると噴流の周囲の流体が噴流中に巻き込まれることによって現れる“エジェクター効果”、および、[2]ガイドパイプ16の内部の気液二相流の見掛けの密度がガイドパイプ16の外側の液体の密度よりも小さいことによって現れる“煙突効果”によって、ガイドパイプ16の下端16aの空気は液体とともにガイドパイプ16内に吸い込まれ、上端16bから液体内に噴射される。
【0042】
以上のようにして、ガイドパイプ16の上端16bの近傍およびそれより上方に位置する液体は、矢印Aで示されるように旋回し、その下方に位置する液体は、矢印Bで示されるように、逆方向に旋回する。
【0043】
一方、ガイドパイプ16の下端16aの周辺に位置する液体は、ノズル14から液体内に吹き込まれる空気に随伴してガイドパイプ16の下端16aに吸い込まれようとするため、液体に矢印で示されるような運動が付加される。これにより、円筒形容器12の底部に位置する液体も攪拌されることになる。
【0044】
ガイドパイプ16の下端16aに拡径部16cを設ける(図3(a)、(b)参照)と、ガイドパイプ16の「吸い込み不良」が回避され、ノズル14から吹き込まれた空気の実質的に全てがガイドパイプ16内に吸い込まれるため、円筒形容器12内の液体を一層効率的に攪拌することができる。
【0045】
本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0046】
たとえば、前記実施の形態では、容器12の平面形状は円であるが、平面形状をn角形(n≧3)にした多角形容器を円筒形容器12の代わりに使用してもよい。この場合のDは、n角形の内接円の径となる。
【0047】
また、図1に示される攪拌装置10の形態では、ノズル14の先端と円筒形容器12の底壁12bとは同一高さに位置しているが、円筒形容器12の底部に固形物が溜まる可能性がある場合には、ノズル14内に固形物が侵入してノズル14が詰まることがないように、ノズル14の先端が円筒形容器12の底壁12bよりも僅かに上方に位置するように構成するのが好ましい(図6参照)。
【0048】
また、前記実施の形態では、円筒形容器12の底壁12bは平底であるが、図7に示されるように、円筒形容器12の底壁12bを丸底にしてもよい。
【0049】
さらに、前記実施の形態では、ノズルから噴射される気体は空気であるが、液体を攪拌しつつ反応させようとする場合には、ノズルから噴射される気体を、目的に応じて、例えば酸素ガスのような反応性ガスとしてもよい。
【符号の説明】
【0050】
10 攪拌装置
12 円筒形容器
12a 側壁
12b 底壁
14 ノズル
16 ガイドパイプ
16a 下端
16b 上端
16c 拡径部
18 支持部材
【要約】
【課題】深い容器においても良好な攪拌を可能とする攪拌装置を提供する。
【解決手段】底壁に配置されたノズルから上方に所定距離離れた個所に下端が位置し、液面から所定深さの個所に上端が位置し、下端および上端が開口し、ほぼ垂直方向に延びた円筒形状のガイドパイプを備え、ガイドパイプの内径が、少なくとも、[1.5×(Qg/uB )×{1+(0.0608uL/Qg)×z2}]1/2 (ここで、Qは気体の流量、uB は気泡の上昇速度、uLは液体の上昇速度、zはノズルの先端からガイドパイプの下端までの垂直方向距離)によって与えられる径となるように選定されている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8