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特許7654906処理システム、軟磁性材料の製造方法、処理方法、およびプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-24
(45)【発行日】2025-04-01
(54)【発明の名称】処理システム、軟磁性材料の製造方法、処理方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/12 20060101AFI20250325BHJP
   G01N 27/72 20060101ALI20250325BHJP
   G01R 33/032 20060101ALI20250325BHJP
【FI】
G01R33/12 Z
G01N27/72
G01R33/032
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2024525421
(86)(22)【出願日】2024-02-29
(86)【国際出願番号】 JP2024007577
(87)【国際公開番号】W WO2024181540
(87)【国際公開日】2024-09-06
【審査請求日】2024-04-26
【審判番号】
【審判請求日】2024-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2023032148
(32)【優先日】2023-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】本間 励
(72)【発明者】
【氏名】川村 悠祐
【合議体】
【審判長】濱野 隆
【審判官】素川 慎司
【審判官】谷垣 圭二
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-224484(JP,A)
【文献】特開2010-203938(JP,A)
【文献】特開2020-169373(JP,A)
【文献】特開2021-169979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/00 - 33/26
G01N 27/72 - 27/9093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象の磁区画像の磁区情報を導出する処理システムであって、
前記処理対象の磁区画像に写し出されている磁区の一部の領域である被比較領域と、前記磁区情報を有する画像である以上のテンプレート画像と、を比較する比較部と、
前記比較の結果に基づいて、前記被比較領域における前記磁区情報を導出する磁区情報導出部と、を備え、
前記比較部が前記被比較領域と比較することが可能な前記テンプレート画像は、複数あり、
前記比較部が前記被比較領域と比較することが可能な複数のテンプレート画像は、相互に異なる前記磁区情報を有し、
前記磁区情報は、磁区の特徴を示す定量的な情報である、処理システム。
【請求項2】
前記磁区情報導出部は、前記比較部が前記被比較領域と比較することが可能な複数のテンプレート画像に含まれる以上のテンプレート画像のうち、所定の条件を満たすテンプレート画像を、前記被比較領域に対応するテンプレート画像として選択し、前記被比較領域に対応するテンプレート画像が有する磁区情報を、前記被比較領域における磁区情報とする、請求項1に記載の処理システム。
【請求項3】
前記所定の条件は、前記被比較領域と前記テンプレート画像との一致度を用いた条件である、請求項2に記載の処理システム。
【請求項4】
前記磁区画像は、前記磁区情報の導出対象となる複数の前記被比較領域を含み、
前記磁区情報導出部により前記磁区情報が導出されなかった前記被比較領域における前記磁区情報を、前記磁区情報導出部により導出された少なくとも1つの他の被比較領域における前記磁区情報に基づいて導出する補充磁区情報導出部を備える請求項1~3のいずれか1項に記載の処理システム。
【請求項5】
前記補充磁区情報導出部は、前記磁区情報導出部により前記磁区情報が導出されなかった前記被比較領域の位置と、前記磁区情報導出部により前記磁区情報が導出された前記被比較領域の位置と、に基づいて、前記少なくとも1つの他の被比較領域を選択する、請求項4に記載の処理システム。
【請求項6】
前記磁区画像には、磁気モーメントの向きが相互に異なる第1磁区および第2磁区の画像が含まれ、
前記テンプレート画像は、前記第1磁区に対応する第1テンプレート画像と、前記第2磁区に対応する第2テンプレート画像と、を含み、
前記比較部は、前記磁区画像の被比較領域と前記第1テンプレート画像との比較と、前記磁区画像の被比較領域と前記第2テンプレート画像との比較と、を行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の処理システム。
【請求項7】
前記磁区情報は、磁区幅と、磁区が延びる方向と、のうちの少なくとも一方を示す情報を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の処理システム。
【請求項8】
前記複数のテンプレート画像のうちの少なくとも2つのテンプレート画像に示される磁区幅および磁区の延びる方向のうちの少なくとも一方は相互に異なる、請求項7に記載の処理システム。
【請求項9】
前記比較部は、前記磁区画像と、前記テンプレート画像と、のうちの少なくとも一方を回転させた後に、前記被比較領域と前記テンプレート画像とを比較する、請求項1~3のいずれか1項に記載の処理システム。
【請求項10】
前記磁区情報導出部によって導出された磁区情報に基づく処理を行う処理部を備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の処理システム。
【請求項11】
前記磁区情報は、磁区幅を含み、
前記処理部は、1つの前記磁区画像または複数の前記磁区画像を前記処理対象の磁区画像として導出された前記磁区幅について、前記磁区幅の頻度分布を表す情報を導出する、請求項10に記載の処理システム。
【請求項12】
前記処理部は、前記磁区幅の頻度分布を表す情報に基づいて、軟磁性材料の前記磁区幅を調整するための処理を行う、請求項11に記載の処理システム。
【請求項13】
前記処理部は、前記磁区幅の頻度分布を表す情報における、前記磁区幅の代表値に基づいて、前記軟磁性材料の前記磁区幅を調整するための処理を行う、請求項12に記載の処理システム。
【請求項14】
前記磁区幅の調整は、前記軟磁性材料にレーザ光または電子ビームを照射することにより行われ、
前記処理部は、レーザ光または電子ビームの照射が行われる前の前記軟磁性材料における1つの前記磁区画像または複数の前記磁区画像を前記処理対象の磁区画像として導出された前記磁区幅について、前記磁区幅の頻度分布を表す情報を導出することと、当該磁区幅の頻度分布を表す情報における、前記磁区幅の代表値に基づいて、前記軟磁性材料の照射するレーザ光または電子ビームの強度を決定することと、を行う、請求項13に記載の処理システム。
【請求項15】
軟磁性材料にレーザ光または電子ビームを照射する照射部を備え、
前記照射部は、前記処理部による処理の結果に基づいて、レーザ光または電子ビームを照射する、請求項14に記載の処理システム。
【請求項16】
前記代表値は、最頻値である、請求項13に記載の処理システム。
【請求項17】
前記処理部は、前記磁区幅の頻度分布を表す情報における、前記磁区幅の最頻値をWm(μm)、arctanで表される角度の単位をradとして、以下の(A)式を満足する強度Ua(mJ/mm2)に、レーザ光または電子ビームの強度を決定する、請求項16に記載の処理システム。
【数1】
【請求項18】
前記処理部は、前記磁区幅の頻度分布を表す情報において、レーザ光または電子ビームの照射後の前記軟磁性材料の前記磁区幅の最頻値が、200μm以上400μm以下になるように、レーザ光または電子ビームの強度を決定する、請求項16に記載の処理システム。
【請求項19】
前記磁区幅の頻度分布を表す情報において、レーザ光または電子ビームの照射前の前記軟磁性材料の前記磁区幅の最頻値が、700μm以上である、請求項16に記載の処理システム。
【請求項20】
前記処理部は、レーザ光または電子ビームの照射が行われた後に歪取り焼鈍が施された前記軟磁性材料における1つの前記磁区画像または複数の前記磁区画像を前記処理対象の磁区画像として導出された前記磁区幅について、前記磁区幅の頻度分布を表す情報を導出し、
当該磁区幅の頻度分布を表す情報において、前記磁区幅の最頻値は、700μm以上である、請求項16に記載の処理システム。
【請求項21】
請求項17に記載の処理システムが備える前記処理部で決定された強度のレーザ光または電子ビームを軟磁性材料に照射する工程を備え、
前記処理部で導出される前記磁区幅の頻度分布を表す情報において、前記磁区幅の最頻値が、200μm以上、400μm未満である軟磁性材料の製造方法。
【請求項22】
請求項18に記載の処理システムが備える前記処理部で決定された強度のレーザ光または電子ビームを軟磁性材料に照射する工程を備え、
前記処理部で導出される前記磁区幅の頻度分布を表す情報において、前記磁区幅の最頻値が、200μm以上、400μm未満である軟磁性材料の製造方法。
【請求項23】
処理対象の磁区画像の磁区情報を導出する処理方法であって、
前記処理対象の磁区画像に写し出されている磁区の一部の領域である被比較領域と、前記磁区情報を有する画像である以上のテンプレート画像と、を比較する比較工程と、
前記比較の結果に基づいて、前記被比較領域における前記磁区情報を導出する磁区情報導出工程と、を備え、
前記比較工程で前記被比較領域と比較することが可能な前記テンプレート画像は、複数あり、
前記比較工程で前記被比較領域と比較することが可能な複数のテンプレート画像は、相互に異なる前記磁区情報を有し、
前記磁区情報は、磁区の特徴を示す定量的な情報である、処理方法。
【請求項24】
請求項1~3のいずれか1項に記載の処理システムの各部としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、処理システム、軟磁性材料の製造方法、処理方法、およびプログラムに関する。本願は、2023年3月2日に日本に出願された特願2023-032148号に基づき優先権を主張し、その内容を全てここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、方向性電磁鋼板および無方向性電磁鋼板などの磁性体における磁区情報は、当該磁性体の特性の推定に用いられるなど、磁性体の評価において重要である。磁区情報は、磁区の特徴を示す情報である。磁区情報には、例えば、磁区の幅と、磁区が延びる方向と、のうちの少なくとも一方が含まれる(以下の説明では、磁区の幅を必要に応じて磁区幅と称し、磁区が延びる方向を必要に応じて磁区方向と称する)。例えば、磁区幅は、磁性体の異常渦電流損に大きく影響を与える因子である。磁性体における磁区幅の分布から当該磁性体の鉄損の推定が可能である。このような磁区情報は、磁区画像の解析から得ることも出来る(特許文献1を参照)。磁区画像は、評価対象の磁性体における各位置での磁気モーメントの向きの計測結果を画素値に変換して可視化した画像である。この磁区画像は、縞模様状の画像であるのが通常である。磁区画像では、当該磁区画像内の位置によって縞の幅が変化する場合や、当該磁区画像内において不規則に縞の幅が切り替わる場合や、当該磁区画像内に不鮮明な部分などのノイズが含まれる場合がある(後述する図3を参照)。磁区画像内のこういった場所の磁区情報を得ることは容易ではない。したがって、これらの要因の影響を可及的に受けずに磁区画像から磁区情報を得る技術が求められる。
【0003】
特許文献1には、以下のことが開示されている。まず、磁区画像から、当該磁区画像の相互に異なる位置に対応する複数の部分領域(四角形の領域)を切り出す。このようにして磁区画像から切り出した各部分領域に対して二次元フーリエ変換を施すことによって、各部分領域の空間周波数成分を算出する。そして、当該空間周波数成分に基づいて、磁区幅および磁区方向を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-169979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、フーリエ変換を行うため、ナイキストの標本化定理に起因する分解能によって、磁区情報の精度が制限される。また、特許文献1に記載の技術では、磁区画像において画素値が周期的に変化していれば、磁区ではない位置が磁区として認識される可能性がある。具体的には、ノイズなどにより局所的に存在する縞の幅も磁区幅として算出される可能性がある(ノイズなどにより局所的に存在する縞については、後述する図6の領域NRも参照)。したがって、特許文献1に記載の技術では、前述した要因の影響を大きく受ける虞がある。よって、特許文献1に記載の技術では、磁区情報として正確な情報を得ることが出来ない虞があるという問題点がある。
【0006】
本開示は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、磁区画像から磁区情報をより高精度に導出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の処理システムは、処理対象の磁区画像の磁区情報を導出する処理システムであって、前記処理対象の磁区画像に写し出されている磁区の一部の領域である被比較領域と、前記磁区情報を有する画像である以上のテンプレート画像と、を比較する比較部と、前記比較の結果に基づいて、前記被比較領域における前記磁区情報を導出する磁区情報導出部と、を備え、前記比較部が前記被比較領域と比較することが可能な前記テンプレート画像は、複数あり、前記比較部が前記被比較領域と比較することが可能な複数のテンプレート画像は、相互に異なる前記磁区情報を有し、前記磁区情報は、磁区の特徴を示す定量的な情報である。
【0008】
また、本開示の処理システムは、前記磁区情報導出部によって導出された磁区情報に基づく処理を行う処理部を備えても良い。
この場合、前記磁区情報は、磁区幅を含んでも良い。また、前記処理部は、1つの前記磁区画像または複数の前記磁区画像を前記処理対象の磁区画像として導出された前記磁区幅の頻度分布を表す情報を導出しても良い。また、前記処理部は、前記磁区幅の頻度分布を表す情報に基づいて、軟磁性材料の前記磁区幅を調整するための処理を行っても良い。また、前記処理部は、前記磁区幅の頻度分布を表す情報における、前記磁区幅の代表値に基づいて、前記軟磁性材料の前記磁区幅を調整するための処理を行っても良い。当該代表値は、最頻値でも良い。
【0009】
本開示の軟磁性材料の製造方法は、処理システムが備える前記処理部で決定された強度のレーザ光または電子ビームを軟磁性材料に照射する工程を備え、前記処理部で導出される前記磁区幅の頻度分布を表す情報において、前記磁区幅の最頻値が、200μm以上、400μm未満である。
【0012】
本開示の処理方法は、処理対象の磁区画像の磁区情報を導出する処理方法であって、前記処理対象の磁区画像に写し出されている磁区の一部の領域である被比較領域と、前記磁区情報を有する画像である以上のテンプレート画像と、を比較する比較工程と、前記比較の結果に基づいて、前記被比較領域における前記磁区情報を導出する磁区情報導出工程と、を備え、前記比較工程で前記被比較領域と比較することが可能な前記テンプレート画像は、複数あり、前記比較工程で前記被比較領域と比較することが可能な複数のテンプレート画像は、相互に異なる前記磁区情報を有し、前記磁区情報は、磁区の特徴を示す定量的な情報である。
【0013】
本開示のプログラムは、前記処理システムの各部としてコンピュータを機能させる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、処理システムの構成の第1の例を示す図である。
図2A図2Aは、処理装置のハードウェアの構成の一例を示す図である。
図2B図2Bは、処理装置の機能的な構成の第1の例を示す図である。
図3図3は、磁区画像の一例を示す図である。
図4図4は、テンプレート画像群の第1の例を示す図である。
図5図5は、被比較領域とテンプレート画像とを比較する手法の一例を概念的に示す図である。
図6図6は、磁区ではない領域が磁区として検知されづらいことを説明する図である。
図7A図7Aは、処理方法の第1の例を説明するフローチャートである。
図7B図7Bは、図7Aに続くフローチャートである。
図8図8は、テンプレート画像群の第2の例を示す図である。
図9図9は、処理装置の機能的な構成の第2の例を示す図である。
図10A図10Aは、磁区幅のヒストグラムの一例を示す図である。
図10B図10Bは、磁区幅の頻度分布の関数の一例を示す図である。
図11図11は、処理方法の第2の例を説明するフローチャートである。
図12A図12Aは、本計算例で使用した磁区画像を示す図である。
図12B図12Bは、本計算例における磁区幅の計算結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。なお、以下の説明において、長さ、位置、大きさ、間隔等、比較対象が同じであることは、厳密に同じである場合の他、本開示の主旨を逸脱しない範囲で異なるもの(例えば、設計時に定められる公差の範囲内で異なるもの)も含むものとする。
【0016】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態を説明する。
図1は、処理システムの構成の一例を示す図である。図1において、本実施形態の処理システムは、磁性体Sの磁区画像を作成し、磁区画像に基づいて、この磁区画像に対応する磁性体Sの部分の磁区情報を導出する。磁区情報は、磁区の特徴を示す情報である。磁区情報には、例えば、磁区幅と、磁区方向と、のうちの少なくとも一方の情報が含まれる。本実施形態では、磁区情報が、定量的な情報(数値情報)である場合を例示する。しかしながら、磁区情報は、定性的な情報(数値以外の情報(例えば、長い、短いといった程度を示す情報))でも良い。また、磁区情報は、一時刻において定めることが出来る情報でも良い。
図1において本実施形態では、処理システムが、磁区画像取得装置100と、処理装置200と、を備える場合を例示する。
【0017】
<磁区画像取得装置100>
磁区画像取得装置100は、磁性体Sの磁区画像を取得する装置である。磁区画像では、磁性体Sの計測対象領域における各位置で計測される磁気モーメントの向きは、その向きに対応する値に変換される。磁区画像の各画素の値(画素値)は、当該画素に対応する位置で計測される磁気モーメントの向きに対応する値で表される。磁区画像に含まれる各画素の画素値は、相互に異なる磁気モーメントの向きを判別可能な2以上の値(階調値)、あるいは、相互に異なる磁気モーメントの向きの違いの程度を判別可能な2以上の値(階調値)のいずれかを取る。図1では、磁区画像取得装置100が、光源110と、偏光子120と、検光子130と、光学系140と、磁気光学素子150と、カメラ160と、を備える場合を例示する。
【0018】
光源110は、例えば、発光ダイオードを備え、光を出力する。
偏光子120は、光源110から出力された光の中から偏光面の揃った光(直線偏光L1)を通過させる。直線偏光L1は、磁気光学素子150に照射される。
【0019】
磁気光学素子150は、ファラデー効果を利用して磁性体Sの構造を検知する素子(センサ)である。磁気光学素子150は、例えば、透明基板と、磁気光学膜と、反射膜と、を備える。透明基板に対して、磁気光学膜および反射膜がこの順で積層される。なお、磁気光学素子は、MOセンサなどとも称される。
【0020】
磁性体Sは、磁気光学素子150の反射膜側に設置される。磁性体Sからは、その内部の磁気モーメントの向きに応じた漏洩磁界が発生する。この漏洩磁界が磁気光学素子150の磁気光学膜に印加される。透明基板側から磁気光学素子150の内部に進入した直線偏光L1の偏光面は、磁気光学膜において、磁性体Sからの漏洩磁界の大きさに応じた角度でファラデー回転する(この角度をファラデー回転角と称する)。偏光面が回転した光は、反射膜において反射する。反射膜において反射された光の偏光面は、磁気光学膜において再びファラデー回転する。このようにして磁性体Sからの漏洩磁界の大きさに応じて偏光面が回転した反射光L2が、磁気光学素子150からカメラ160の方に向けて出射される。
【0021】
偏光子120および検光子130は、それらの透過軸を相互に直交させた状態(クロスニコル)となるように設置される。反射光L2は、結像レンズ等を備える光学系140により結像された後、検光子130に入射する。検光子130に入射した光のうち、反射光L2の偏光面のファラデー回転角に応じた強度の光が検光子130を透過し、カメラ160に入射する。
【0022】
カメラ160は、例えば、イメージセンサと、画像処理回路と、を備える。本実施形態では、磁性体Sからの漏洩磁界の向きに応じた強度の光が、イメージセンサの受光素子に入射される。イメージセンサは、受光素子に入射された光を電気信号に変換する。画像処理回路は、イメージセンサの各受光素子に入射された光に対応する電気信号に対して、画像信号を生成するための公知の画像処理を行うことにより、磁性体Sの磁気モーメントの向きに応じた画素値を有する磁区画像を作成する。
【0023】
イメージセンサは、CMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)イメージセンサを備えていても、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサを備えていても、その他のイメージセンサを備えていても良い。なお、本実施形態では、磁区画像が二次元画像である場合を例示する。したがって、カメラ160が備えるイメージセンサは、複数の受光素子が二次元マトリクス状に設置されたエリアセンサであるのが好ましい。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、カメラ160が備えるイメージセンサは、複数の受光素子が一直線状に設置されたリニアセンサであっても良い。カメラ160が備えるイメージセンサが、リニアセンサである場合、例えば、複数の受光素子の設置方向に対して垂直な方向にリニアセンサを走査することで、二次元の磁区画像が得られるようにしても良い。
【0024】
磁区画像の取得対象の磁性体(軟磁性材料)の磁区画像は、当該磁性体を消磁させてから撮影される。本実施形態では、消磁の際に、磁性体内の磁束密度が、以下の(1)式に従って減衰する場合を例示する。この場合、磁性体は、30秒間で消磁される。そこで、本実施形態では、磁区画像取得装置100が、以下の(1)式に従うように磁束密度の減衰が開始してから30秒が経過したタイミングで磁区画像を撮影(取得)する場合を例示する。本実施形態において、特に断りがない限り、磁区画像は、このようなタイミングで撮影されるものとする。
B=1.9e-0.2tcos0.75πt ・・・(1)
ここで、Bは、磁束密度(T)、tは時間(sec)である。
【0025】
なお、磁区画像取得装置100は、特許文献1などに記載されている公知の技術で実現することが出来る。したがって、磁区画像取得装置100は、図1に示す構成を有するものに限定されない。また、磁性体Sといった計測対象領域における各計測位置の磁気モーメントの向きに応じた画素値を有する磁区画像が得られれば、必ずしも図1を参照しながら説明した原理で磁区画像を得る必要はない。
【0026】
<処理装置200>
処理装置200は、磁区画像取得装置100で取得された磁区画像に基づいて、磁性体Sの一部または全部における磁区情報を導出することを含む処理を行う。磁性体Sは、例えば、方向性電磁鋼板および無方向性電磁鋼板などの軟磁性体である。磁性体Sの形状は、板状であっても良いし、板状でなくても良い。図2図2Aは、処理装置200の機能的な構成の一例を示す図である。
【0027】
処理装置200は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等、一またはそれ以上の数のハードウェアプロセッサと、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等、一またはそれ以上の数のメモリと、をハードウェアとして有する。処理装置200は、例えば、メモリに格納される一またはそれ以上の数のプログラムを一またはそれ以上の数のハードウェアプロセッサにより実行することで各種の演算を実行する。
【0028】
さらに、処理装置200には、入力装置220および出力装置230が、処理装置200と通信可能に接続される。処理装置200と、入力装置220および出力装置230と、の通信は、有線通信であっても良いし、無線通信であっても良い。また、処理装置200が、入力装置220および出力装置230を備えていても良い。
【0029】
また、処理装置200は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の専用のハードウェアにより実現されても良い。
【0030】
処理装置200のハードウェアは、例えば、図2Aに示すようにして実現されてもよい。図2Aにおいて、処理装置200は、CPU2001、主記憶装置2002、補助記憶装置2003、通信回路2004、信号処理回路2005、画像処理回路2006、I/F回路2007、およびバス2008を有する。
【0031】
CPU2001は、処理装置200の全体を統括制御する。CPU2001は、主記憶装置2002をワークエリアとして用いて、補助記憶装置2003に記憶されているプログラムを実行する。主記憶装置2002は、データを一時的に格納する。補助記憶装置2003は、CPU2001によって実行されるプログラムの他、各種のデータを記憶する。
【0032】
通信回路2004は、処理装置200の外部との通信を行うための回路である。通信回路2004は、処理装置200の外部と無線通信を行っても良いし、有線通信を行っても良いし、ネットワークを介した通信を行っても良い。
【0033】
信号処理回路2005は、通信回路2004で受信された信号や、CPU2001による制御に従って入力した信号に対し、各種の信号処理を行う。
画像処理回路2006は、CPU2001による制御に従って入力した信号に対し、各種の画像処理を行う。この画像処理が行われた信号は、例えば、出力装置230(ディスプレイ)に出力される。
【0034】
I/F回路2007は、I/F回路2007に接続される装置との間でデータのやり取りを行う。I/F回路2007に接続される装置として、例えば、図2Aに示す入力装置220および出力装置230のうちの少なくとも一方がある。しかしながら、I/F回路2007に接続される装置は、これらに限定されない。
【0035】
なお、CPU2001、主記憶装置2002、補助記憶装置2003、信号処理回路2005、画像処理回路2006、およびI/F回路2007は、バス2008に接続される。これらの構成要素間の通信は、バス2008を介して行われる。また、処理装置110のハードウェアは、処理装置200の機能を実現することが出来れば、図2Aに示すハードウェアに限定されない。例えば、CPU2001に代えてまたは加えてGPUがプロセッサとして用いられても良い。
【0036】
次に、処理装置200が有する機能構成の一例を説明する。
<<取得部211>>
取得部211は、処理対象の磁区画像と、事前取得情報と、を取得する。事前取得情報は、処理装置200が磁性体Sの磁区情報を導出するために事前に取得する必要がある情報である。本実施形態では、事前取得情報に、テンプレート設定情報と、閾値情報と、が含まれる場合を例示する。
【0037】
本実施形態では、取得部211が、カメラ160で作成された磁区画像を入力装置220から取得する場合を例示する。また、本実施形態では、カメラ160および入力装置220が通信ケーブルを介して有線通信を行う場合を例示する。
【0038】
この場合、入力装置220は、受信装置を備える。本実施形態では取得部211が、入力装置220で受信された磁区画像を取得する場合を例示する。しかしながら、取得部211は、必ずしもこのようにして磁区画像を取得する必要はない。例えば、カメラ160が備える無線通信装置またはカメラ160に接続された不図示の無線通信装置を用いて、カメラ160および入力装置220が無線通信を行うことにより、取得部211が磁区画像を取得しても良い。また、処理装置200が、カメラ160が有する機能の少なくとも一部を備えていても良い。この場合、取得部211は、前述したようにして磁区画像を作成することにより取得しても良い。
【0039】
図3は、磁区画像300の一例を示す図である。図3では、磁性体Sが方向性電磁鋼板の磁区画像300を例示する、以下では、磁区画像300の横方向がx軸方向であり、縦方向がy軸方向であるものとして説明を行う。なお、図3では表記の都合上、座標を磁区画像300から離れた位置に示す。しかしながら、本実施形態では、座標系の原点の位置が、磁区画像300の左下隅の位置である場合を例示する。また、図3を含む各図では、x-y二次元直交座標系と、極座標系(円座標)と、を合わせて示す。なお、座標系の原点が、画像の左下隅の位置に設定されることは、磁区画像300以外の各画像(後述するテンプレート画像410、810および被比較領域510)においても同じであるものとする。
【0040】
また、本実施形態では、磁区画像300がグレースケール画像(例えば、8ビット画像である場合0~255の階調値を画素値として有する画像)である場合を例示する。ただし、磁区画像300は、グレースケール画像に限定されない。例えば、磁区画像300は、カラー画像であっても良いし、二値画像であっても良い。
【0041】
図3に示す磁区画像300に示される磁性体Sは、複数の磁区を備える。本実施形態では、複数の磁区が、概ね、x軸方向に並ぶ場合を例示する。また、本実施形態では、複数の磁区が有する磁気モーメントの向きが、概ね、y軸方向である場合を例示する。また、本実施形態では、複数の磁区が有する磁気モーメントの向きが、x軸方向に沿って交互に反対方向の向きである場合を例示する。つまり、図3の磁区画像300における、階調値が相対的に大きい複数の領域(図3の濃度が薄い白の領域)、および、階調値が相対的に小さい複数の領域(図3の濃度が濃い黒の領域)の各々が磁区である。
【0042】
また、図3では、各磁区が、概ねy軸方向に延びている場合を例示する。また、図3では、白で表された磁区と、黒で表された磁区と、が、概ね、x軸方向に沿って交互に並んでいる場合を例視する。この場合、当該領域(濃度が反転する領域)の境界は、180°磁壁を示す。ただし、磁気モーメントの向きがy軸に平行でない磁区が存在することや、磁区画像300内にノイズが含まれることなどの要因によって、図3に示すように、磁区画像300の画素値が、最小の階調値および最大の階調値以外の階調値を示したり、磁区画像300において磁区方向が、特定の方向(例えばy軸に平行な方向)にならなかったりすることが生じ得る。また、図3において領域NRに例示するように、局所的に見れば、磁区のように見える領域が磁区画像300に存在することも生じ得る。なお、磁区画像には、180°磁区に加えてまたは代えて90°磁区が含まれていても良い。
【0043】
図2Bの説明に戻り、前述したように本実施形態では、取得部211が、磁区画像300の他に、テンプレート設定情報を取得する場合を例示する。<<比較部213>>の項で後述するように本実施形態では、処理装置200が、磁区画像300の被比較領域と、複数のテンプレート画像のそれぞれと、を比較する場合を例示する。テンプレート設定情報は、複数のテンプレート画像を作成するために必要な情報である。なお、取得部211がテンプレート情報を取得するタイミングは限定されない。取得部211は、磁区画像300の取得前に予め取得しても良いし、磁区画像300の取得後に取得しても良い。
【0044】
図4は、複数のテンプレート画像410を含むテンプレート画像群400の一例を示す図である。なお、図4では、表記の都合上1つのテンプレート画像においてのみ符号(410)を付す。以下の説明では、階調値が小さい領域(図3の濃度が濃い領域)に対応する磁区を、必要に応じて第1磁区と称する。また、以下の説明では、階調値が大きい領域(図3の濃度が薄い領域)に対応する磁区を、必要に応じて第2磁区と称する。なお、第1磁区および第2磁区は、相互に磁気モーメントの向きが異なる磁区であれば、このような磁区として定義される必要はない。例えば、階調値が大きい領域(図3の濃度が薄い領域)に対応する磁区を第1磁区とし、かつ、階調値が小さい領域(図3の濃度が濃い領域)に対応する磁区を第2磁区としても良い。この場合、図4において、濃度の濃さ(黒と白の領域)を反転させ、以下の図4の説明において、第1磁区が白の領域であるものとすれば良い。
【0045】
図4では、テンプレート画像群400に含まれる全てのテンプレート画像410の大きさおよび形状が同じである場合を例示する。具体的に図4では、全てのテンプレート画像410が、長辺および短辺の長さが同じ長方形である場合を例示する。テンプレート画像410の短辺の長さ(x軸方向の長さ)は、例えば、磁性体Sの磁区幅として想定される幅の最大値より長くても良い。また、テンプレート画像410の長辺の長さ(y軸方向の長さ)は、例えば、磁性体Sの磁区幅として想定される幅の最大値の1.2倍以上(好ましくは1.5倍以上)3倍以下(好ましくは2倍以下)でも良い。ただし、テンプレート画像410の形状は、長方形に限定されず、例えば、正方形であっても良い。
【0046】
図4において、wは、テンプレート画像410に示される第1磁区(黒の領域)の幅である。図4においては、一つの磁区幅に対して、磁区幅は同じであるが、第1磁区の磁区方向が相互に異なる複数のテンプレート画像がテンプレート画像群400に含まれる場合を例示する。具体的に図4では、wの横に、第1磁区の磁区幅wがwで同じであるものの、磁区方向を相互に異ならせた複数のテンプレート画像410が示されている。同様に図4では、w、w、・・・、wの横に、第1磁区の磁区幅wがそれぞれw、w、・・・、wであるテンプレート画像410が示されている。なお、図4では、テンプレート画像410に示される第1磁区の磁区幅の最大値がwであり、最小値がwである場合を例示する(図4において、w、wの下に示す(max)、(min)は、このことを示す)。
【0047】
また、図4では、第1磁区の磁区幅wが、w~wの範囲で所定の幅ステップΔwずつずれた幅である場合を例示する。しかしながら、必ずしもこのようにして第1磁区の磁区幅wを定める必要はない。例えば、幅ステップΔwは、一定値でなくても良い。本実施形態では、磁区画像300に基づいて算出される磁区幅wの分解能が、幅ステップΔwにより定められる場合を例示する。例えば、磁区幅wの精度を高めることを、計算負荷を低減することよりも優先させる場合には、幅ステップΔwを小さくし、これとは逆に、磁区幅wの計算負荷を低減することを、磁区幅wの精度を高めることよりも優先させる場合には、幅ステップΔwを大きくする。したがって、本実施形態においては、磁区幅wの分解能は、オペレータによって調整することが出来るものであるので、発明が解決しようとする課題の欄で説明したナイキストの標本化定理のように計算原理によって制限されない。
【0048】
また、本実施形態においては、第1磁区の磁区幅wは、オペレータによって調整することが出来るものである。したがって、本実施形態においては、磁区画像300に、磁区幅が広い磁区と、磁区幅が狭い磁区と、の双方が含まれている場合であっても、磁区情報の導出のための設定を変えることなく、これらの磁区の磁区幅wを導出することが出来る。これに対し、特許文献1に記載の技術では、磁区画像300に、磁区幅が広い磁区と、磁区幅が狭い磁区と、の双方が含まれている場合、磁区幅が広い磁区に応じた窓関数を設定すると、磁区幅が狭い磁区を精度良く導出することが出来ない場合や、磁区幅が狭い磁区を導出することが出来ない場合がある。このため、特許文献1に記載の技術では、磁区幅に応じた複数の窓関数を設定しなければならない。
【0049】
図4において、θは、テンプレート画像410に示される第1磁区(黒の領域)の磁区方向を表す角度である。磁区方向は、観察面(テンプレート画像410の面)において磁区幅方向に垂直な方向である(換言すると、磁区幅方向は、観察面において磁区方向に垂直な方向である)。以下の説明では、磁区方向を表す角度を、必要に応じて磁区角θと称する。図4において、θの下に、第1磁区の磁区角θがθであるテンプレート画像410を示す。同様に、θ、θ、・・・、θの下に、第1磁区の磁区角θがそれぞれθ、θ、・・・、θであるテンプレート画像410を示す。なお、図4では、第1磁区の磁区角θが、x軸の正の方向を向く直線を始線として、紙面に向かって反時計回りの方向を正の方向とする角度(右手系の角度)で表される場合を例示する。また、前述したように、図4に示す座標系の原点は、各テンプレート画像410の左下隅の位置であるものとする。したがって、図4において、第1磁区の磁区角θは90°になる(図4において、θの横に示す(=90°)は、このことを示す)。
【0050】
また、図4では、第1磁区の磁区角θが0°以上180°未満の範囲で所定の角度ステップΔθずつずれた角度である場合を例示する。例えば、角度ステップΔθが5°である場合、第1磁区の磁区角θは、0°、5°、10°、・・・、170°、175°となる。しかしながら、必ずしもこのようにして第1磁区の磁区角θを定める必要はない。例えば、角度ステップΔθは、一定値でなくても良い。また、第1磁区の磁区角θの範囲は、0°以上180°未満の範囲よりも狭い範囲であっても良い。本実施形態では、磁区画像300に基づいて算出される磁区角θの分解能が、角度ステップΔθにより定められる場合を例示する。したがって、本実施形態においては、磁区幅wと同様に、磁区角θの分解能も、オペレータによって調整することが出来るものであるので、発明が解決しようとする課題の欄で説明したナイキストの標本化定理のように計算原理によって制限されない。なお、磁区角θが0°以上180°以下の範囲である場合と、磁区角θが180°以上360°以下の範囲である場合と、で、テンプレート画像410内の第1磁区の形状が異なる場合には、磁区角θは、0°以上360°未満の範囲としても良い。
【0051】
また、図4では、テンプレート画像410において、磁区角θがn×90°(nは0、1)である場合の第1磁区(黒の領域)の形状が長方形であり、かつ、当該長方形の重心位置がテンプレート画像410の重心位置と一致する場合を例示する。また、図4では、磁区角θがn×90°以外である場合の第1磁区の形状が、n×90°(nは0、1)である場合の第1磁区を、その重心位置周りでθ°回動させた形状である場合を例示する(ただし、この場合、第1磁区(黒の領域)の磁区方向の端をテンプレート画像410の端と一致させる)。しかしながら、テンプレート画像における第1磁区の大きさおよび形状は、このようなものに限定されない。例えば、テンプレート画像における第1磁区の形状は、正方形であっても良いし、楕円形であっても良い。テンプレート画像における第1磁区の形状が楕円形である場合、例えば、楕円の短径が、テンプレート画像における第1磁区の磁区幅であるとしても良い。また、楕円の長径が向く方向が、テンプレート画像における第1磁区の磁区方向であっても良い。
【0052】
また、本実施形態では、テンプレート画像410における第1磁区の画素値が、最小の階調値(=0)であり、第2磁区の画素値が、最大の階調値(=255)である場合を例示する。しかしながら、テンプレート画像410における第1磁区の画素には、最小の階調値を上回る画素値の画素が含まれていても良い。また、テンプレート画像410における第2磁区の画素には、最大の階調値を下回る画素値の画素が含まれていても良い。また、テンプレート画像410における第1磁区の画素値を、当該第1磁区の場所に応じて異ならせても良い。同様に、テンプレート画像410における第2磁区の画素値を、当該第2磁区の場所に応じて異ならせても良い。
【0053】
また、本実施形態では、図3に示すように、概ねy軸に平行な方向において磁気モーメントの向きが反転する磁区がx軸方向において1つずつ交互に並ぶような磁区構造をとり得る磁性体Sの磁区画像300を例示する。そして、本実施形態では、図4に示すように、このような磁区画像300に対応する複数のテンプレート画像410が作成される場合を例示する。しかしながら、磁性体Sが有する磁区構造は、このような磁区構造に限定されない。本実施形態の適用対象の磁区画像は、例えば、180°磁壁に加えてまたは代えて90°磁壁を有する磁性体Sの磁区画像であっても良い。磁性体Sにおいて想定される磁区構造に応じてテンプレート画像を用意すればよい。
【0054】
また、テンプレート画像群400に含まれるテンプレート画像410に対し、拡大および縮小のうちの少なくとも一方が行われても良い。この場合、例えば、テンプレート画像410に含まれる磁区(第1磁区および第2磁区)の磁区方向における長さが短くなり過ぎないように、テンプレート画像410に対し、拡大および縮小のうちの少なくとも一方が行われるのが好ましい。
【0055】
具体的には例えば、磁区幅方向の拡大率が磁区方向の拡大率よりも小さくなるようにテンプレート画像410を拡大するのが好ましい。また、磁区幅方向の縮小率が磁区方向の縮小率よりも小さくなるようにテンプレート画像410を拡大するのが好ましい。例えば、テンプレート画像410に含まれる磁区(第1磁区および第2磁区)と、磁区画像300内に含まれるノイズと、を区別し易くするためである。例えば、磁区角θが0°である第1磁区を含むテンプレート画像410の、磁区方向(図4ではy軸方向)の長さを変えずに、磁区角θが0°である第1磁区を含むテンプレート画像410の磁区幅方向(図4ではx軸方向)の拡大および縮小を行っても良い。ただし、例えば、テンプレート画像410全体を同一の拡大率で拡大しても良い。また、例えば、テンプレート画像410全体を同一の縮小率で縮小しても良い。
【0056】
図2Bの説明に戻り、前述したようにテンプレート設定情報は、複数のテンプレート画像410を作成するために必要な情報である。図4に例示するテンプレート画像410を作成する場合、テンプレート設定情報には、第1磁区の磁区幅wを特定するための情報として、例えば、最大値w、最小値w、および幅ステップΔwの情報が含まれる。また、テンプレート設定情報には、第1磁区の磁区角θを特定するための情報として、例えば、第1磁区の磁区角θの最大値、最小値、および角度ステップΔθの情報が含まれる。
【0057】
前述したように本実施形態では、取得部211が、磁区画像300およびテンプレート設定情報の他に、閾値情報を取得する場合を例示する。閾値情報は、後述する比較部213において使用される閾値を示す情報である。詳細は<<比較部213>>の項で後述するが、閾値は、磁区画像300の被比較領域と、テンプレート画像410と、の一致度に対する閾値である。
【0058】
本実施形態では、オペレータが、入力装置220に対して、テンプレート設定情報および閾値情報を示す情報を入力するための操作を行う場合を例示する。この場合、入力装置220は、ユーザインターフェースを備える。本実施形態では取得部211が、入力装置220に対する入力操作により入力されたテンプレート設定情報および閾値情報を取得する場合を例示する。しかしながら、テンプレート設定情報および閾値情報の取得形態は限定されない。例えば、外部装置から送信されるテンプレート設定情報および閾値情報を入力装置220が受信することによりテンプレート設定情報および閾値情報を取得部211が取得しても良い。この場合、入力装置220は、受信装置を備える。また、取得部211は、入力装置220が備える記憶媒体に記憶されているテンプレート設定情報および閾値情報を読み出すことによりテンプレート設定情報および閾値情報を取得しても良い。
【0059】
<<作成部212>>
作成部212は、取得部211で取得されたテンプレート設定情報に基づいて、複数のテンプレート画像410を作成する。本実施形態では、作成部212が、図4に例示する複数のテンプレート画像410を作成する場合を例示する。このように本実施形態では、処理装置200(作成部212)が複数のテンプレート画像410を作成する場合を例示する。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、取得部211が、複数のテンプレート画像410を取得しても良い。このようにする場合、取得部211は、テンプレート設定情報を取得する必要はない。複数のテンプレート画像410の取得形態は、例えば、<<取得部211>>の項で説明したテンプレート設定情報の取得形態と同じで良い。
【0060】
<<比較部213>>
比較部213は、磁区画像300の被比較領域510と、テンプレート画像410と、を比較する(図5参照)。被比較領域510は、磁区画像300の少なくとも一部の領域である。被比較領域510は、被比較画素520を含む。被比較領域510は、例えば、テンプレート画像410と比較される磁区画像300の部分領域(一部の領域)である。被比較画素520は、磁区情報を得る位置の画素である。被比較画素520は、被比較領域510の所定の位置(例えば、重心位置。以下、代表位置)に設定される。磁区情報を得る位置の画素とは、磁区画像300の画素のうち、比較部213による比較により求めた磁区情報を反映させる被比較領域520内の位置の画素である。被比較領域510のサイズ(縦、横の長さ)は、例えば1つの画素であっても良いし、複数の画素のまとまりであっても良い。複数の画素のまとまりは、例えば、所定の大きさを有する円、四角形、および多角形の内側に含まれる複数の画素である。
【0061】
本実施形態では、被比較画素520が1つの画素で構成される場合を例示する。また、本実施形態では、複数のテンプレート画像との比較によって、被比較画素520ごとに磁区情報が得られる場合を例示する。すなわち、比較部213は、磁区情報を得る位置の画素(被比較画素520)を含む画像部分(被比較領域510)と、複数のテンプレート画像410の各々と、をそれぞれ比較する。図5では、磁区情報を得る位置の画素(被比較画素520)を含む画像部分(被比較領域510)が複数ある場合を例示する。この場合、比較部213は、被比較画素520の各々を含む被比較領域510と、テンプレート画像410と、をそれぞれ比較する。例えば磁区画像300全体にわたって磁区情報を得る場合には、磁区画像300全体に含まれる全ての画素を被比較画素520として比較部213が選択することにより、磁区画像300全体に含まれる全ての画素の磁区情報を求めることが出来るようにする。例えば、比較部213は、テンプレート画像410から選択し得る全ての画素が被比較画素520として選択されるように、被比較画素520として選択する磁区画像300内の画素を所定の間隔(例えば1画素)ずつ移動させながら、被比較領域510とテンプレート画像410とを比較しても良い。なお、例えば、磁区画像300の一部の領域の磁区情報が得られれば良い場合には、当該一部の領域の磁区情報が求められれば良い。このように、必ずしも磁区画像300全体に含まれる全ての画素の磁区情報を求める必要はない。
【0062】
この比較部213による比較によって、例えば一致度などの比較結果が得られるので、当該比較結果に基づいて、被比較画素520の磁区情報を各テンプレート画像410の磁区情報から求めることが可能となる。つまり、被比較領域510とテンプレート画像410との比較結果として得られたテンプレート画像410の磁区情報を、その被比較領域510における被比較画素520の磁区情報として反映させることで、被比較領域520の磁区情報を求めることが可能になる。なお、テンプレート画像410は1つでも良い。この場合、例えば、被比較領域510との比較に用いた1つのテンプレート画像410の磁区情報に対して、比較対象の被比較画素520の磁区情報が同じであるか否かを判定しても良い。また、例えば、被比較領域510との比較に用いた1つのテンプレート画像410における磁区幅と、被比較領域510における磁区幅と、の大小関係を判定しても良い。また、一般に、被比較領域510は、被比較画素520と、その周囲の画素と、を含む。しかしながら、被比較領域510と被比較画素520とは一致していても良い。
【0063】
以下の説明では、本実施形態では、比較部213が、いわゆるテンプレートマッチングにより、被比較領域510と、複数のテンプレート画像410のそれぞれと、の一致度を算出する場合を例示する(なお、一致度は類似度などとも称される)。より具体的には、本実施形態では、比較部213は、処理対象の磁区画像内に設定された走査領域330内で被比較領域510を移動させながら、各位置において一致するテンプレート画像410がどれかを判定する。例えば、下記の通りに比較部213による処理を行っても良い。
【0064】
図5は、被比較領域510と、テンプレート画像410と、を比較する手法の一例を概念的に示す図である。
図5では、対頂点310、320を有する長方形の走査領域330内の1つの画素に、テンプレート画像410の左上隅の画素411が位置し、かつ、テンプレート画像410のx軸方向、y軸方向がそれぞれ、磁区画像300のx軸方向、y軸方向とそれぞれ平行になるように、テンプレート画像410を磁区画像300に重ねた場合に、テンプレート画像410と重なる磁区画像300の領域が、被比較領域510になる場合を例示する。
【0065】
図5では、走査領域330の頂点310が、磁区画像300の左上隅の画素である場合を例示する。この場合、走査領域330の頂点320(前述した対頂点310、320のうちの1つ)から磁区画像300のx軸の正の方向の端までのx軸方向の距離Δxは、テンプレート画像410のx軸方向の長さである。また、走査領域330の頂点320から磁区画像300のy軸の負の方向の端までのy軸方向の距離Δyは、テンプレート画像410のy軸方向の長さである。
【0066】
比較部213は、以上のようにして走査領域330の1つの画素に対して被比較領域510を設定する。また、比較部213は、被比較領域510の代表位置の画素を、被比較領域510の被比較画素520として設定する。図5では、代表位置が重心位置である場合を例示する。ただし、代表位置は重心位置に限定されない。代表位置は、例えば、左上隅の位置であっても良い。図5では、走査領域330の左上隅の頂点310の位置の画素に対して被比較領域510が定められている状態を例示する。
【0067】
そして、比較部213は、被比較領域510と、複数のテンプレート画像410のそれぞれと、の一致度を算出する。一致度としては、テンプレートマッチングにおいて一般的に使用されている指標を用いれば良い。例えば、一致度は、SSD(Sum of Squared Difference)またはSAD(Sum of Absolute Difference)でも良い。なお、SADは、テンプレート画像410の画素値と被比較領域510の画素値との差の絶対値の和である。また、SSDは、テンプレート画像410の画素値と、被比較領域510の画素値との差の2乗和である。
【0068】
なお、比較部213は、被比較領域510とテンプレート画像410との比較のための計算として必ずしも一致度を算出する必要はない。例えば、230は、一致度に代えて不一致度を算出しても良い。例えば、SSDまたはSADに-1を乗算した値を不一致度として算出しても良い。
【0069】
比較部213は、以上のようにして走査領域330内の1つの画素に対して被比較領域510を設定する。そして、比較部213は、被比較領域510と複数のテンプレート画像410のそれぞれとの一致度を算出する。比較部213は、このような一致度の算出を、走査領域330の全ての画素を1画素ずつ被比較画素520として選択して行う。これにより、走査領域330の全ての画素において一致度が算出される。なお、走査領域330の全ての画素を被比較画素520として選択すれば、走査領域330の全ての画素において磁区情報が導出されるので好ましい。しかしながら、必ずしも走査領域330の全ての画素を被比較画素520としなくても良い。
【0070】
なお、比較部213が、走査領域330の1つの画素を選択する順番は限定されない。例えば、走査領域330の左上隅の頂点310が最初に選択され、右下隅の頂点320が最後に選択されるように、一番上の行の画素をx軸の正の方向に1画素ずつずらして選択した後に、その1つ下の行の画素をx軸の正の方向に1画素ずつずらして選択することを、走査領域330の一番上の行から一番下の行まで順次行っても良い。
【0071】
比較部213が走査領域330の1つの画素を選択する場合、被比較領域510の被比較画素520は、磁区画像300の一部の領域530(領域530をグレーで示す)に設定され、磁区画像300の全領域に設定されない。以下の説明では、この領域530を、必要に応じて被比較画素設定領域530と称する。一般に、磁区画像300は、磁性体Sの一部の領域の画像である。したがって、比較部213は、磁区画像300の領域のうち、被比較画素設定領域530以外の領域については、当該領域に隣接する不図示の別の磁区画像を用いて、被比較領域510と、複数のテンプレート画像410のそれぞれと、の一致度を算出しても良い。ただし、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、比較部213は、磁区画像300の領域のうち、被比較画素設定領域530以外の領域については、被比較領域510と、複数のテンプレート画像410のそれぞれと、の一致度を算出しなくても良い。
【0072】
なお、本実施形態では、図4に示すように、複数のテンプレート画像410の少なくとも2つのテンプレート画像410に示される磁区角θが異なる場合を例示する。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、図4において、1つの磁区角θのみにおいて、複数の磁区幅w~wのそれぞれの第1磁区を示す複数のテンプレート画像410をテンプレート画像群400として用意しても良い。この場合、比較部213は、例えば、テンプレート画像410を回転させずに、被比較領域510を角度ステップΔθだけ回転させても良い。この場合、比較部213は、回転後の被比較領域510をテンプレート画像410に重ねることにより、被比較領域510に示される磁区方向に対する、テンプレート画像410に示される磁区方向を異ならせても良い。なお、例えば、このようにする場合であって、磁区情報として磁区幅wを導出せずに磁区角θを導出する場合には、テンプレート画像410の数は1つであっても良い。また、比較部213は、例えば、テンプレート画像410を回転することに代えてまたは加えて被比較領域510を回転させても良い。
【0073】
<<磁区情報導出部214>>
磁区情報導出部214は、比較部213による比較の結果に基づいて、被比較領域510の被比較画素520における磁区情報を導出する。本実施形態では、磁区情報導出部214が、被比較領域510と、複数のテンプレート画像410のそれぞれと、の比較結果が所定の条件を満たすか否かを判定する場合を例示する。そして、本実施形態では、磁区情報導出部214が、当該所定の条件を満たす場合に、当該所定の条件を満たしたテンプレート画像410の磁区情報に基づいて被比較領域510の被比較画素520における磁区情報を導出する場合を例示する。当該所定の条件は、被比較領域510と一致あるいは類似するテンプレート画像410があるか否かを定める条件であれば良い。本実施形態では、磁区情報導出部214が、被比較領域510と、複数のテンプレート画像410のそれぞれと、の一致度のうち、一致度の最大値が閾値を上回るか否かを判定する場合を例示する。
【0074】
この場合において、磁区情報導出部214は、例えば、被比較領域510との一致度が閾値を上回るテンプレート画像410が複数あった場合には、その複数のテンプレート画像410のうち、一致度が最大となるテンプレート画像410に基づいて、当該被比較領域510の被比較画素520における磁区情報を導出しても良い。本実施形態では、磁区情報が磁区幅wおよび磁区角θである場合を例示する。しかしながら、磁区情報は、磁区幅wおよび磁区角θに限定されない。例えば、磁区幅wおよび磁区角θのうちの一方のみを磁区情報としても良い。以下の説明では、磁区情報導出部214により導出される磁区情報を、必要に応じて単に磁区情報と称する。
【0075】
例えば、図4に示すように、テンプレート画像410に対して磁区幅wおよび磁区角θの情報が紐づけられている場合、磁区情報導出部214は、被比較領域510との一致度が最大となるテンプレート画像410に紐づけられている磁区幅wおよび磁区角θを、当該被比較領域510の被比較画素520における磁区情報として読み出すことにより、磁区情報を導出しても良い。また、例えば、テンプレート画像410に対して磁区幅wおよび磁区角θの情報が紐づけられていない場合、磁区情報導出部214は、被比較領域510との一致度が最大となるテンプレート画像410の画素値に基づいて、第1磁区の磁区角θおよび磁区幅wを算出することにより、磁区情報を導出しても良い。例えば、磁区情報導出部214は、第1磁区および第2磁区の境界(磁壁に対する領域)を特定し、特定した境界が延びる方向と、当該方向に垂直な方向の第1磁区の長さと、に基づいて、第1磁区の磁区角θおよび磁区幅wを算出しても良い。
【0076】
以上のように本実施形態では、磁区情報導出部214が、被比較領域510との一致度の最大値が閾値を上回る場合に、当該被比較領域510の被比較画素520における磁区情報(磁区幅wおよび磁区角θ)を導出する場合を例示する。したがって、図5に示す被比較画素設定領域530の画素(被比較画素520)ごとに、磁区情報(磁区幅wおよび磁区角θ)がそれぞれ導出される。なお、磁区情報において、磁区幅wおよび磁区角θが、第1磁区のものであることが示されていなくても良いし、示されていても良い。
【0077】
一方、本実施形態では、被比較領域510との一致度の最大値が閾値を上回らない場合に、磁区情報導出部214は、当該被比較領域510の被比較画素520における磁区情報を導出しない場合を例示する。この場合、磁区情報導出部214は、磁区情報が導出されていない被比較画素520を、磁区情報が導出されていないことを示すブランク画素として設定しても良い。このようにブランク画素は、被比較画素でもあるが、被比較画素520との区別のために、ブランク画素の符号を520’とする(後述する図6を参照)。
【0078】
ただし、磁区情報導出部214は、必ずしもブランク画素520’を設定するする必要はない。例えば、磁区情報導出部214は、閾値を上回るか否かに関わらず、被比較領域510との一致度が最大となるテンプレート画像410に基づいて、前述したようにして磁区情報を導出しても良い。このようにする場合、磁区情報導出部214は、一致度の最大値と閾値との比較を行う必要はない。また、後述する補充磁区情報導出部215は不要になる。
【0079】
なお、前述したように本実施形態では、磁区情報導出部214が、被比較領域510と、複数のテンプレート画像410と、の一致度の最大値を算出し、算出した一致度の最大値が、閾値を上回るか否かを判定する場合を例示する。しかしながら、判定条件は、このような条件に限定されない。例えば、磁区情報導出部214は、閾値を上回るか否かに代えて閾値以上であるか否かを判定しても良い。また、比較部213が、被比較領域510と、複数のテンプレート画像410と、の不一致度を算出する場合、磁区情報導出部214は、不一致度の最小値を算出し、算出した不一致度が閾値以下であるか(または閾値を下回るか)否かを判定しても良い。
【0080】
一般に、テンプレートマッチングは、画像内のオブジェクトを抽出するために用いられる。このため、一般に、テンプレートマッチングの技術では、1つのテンプレート画像内に、画像内の1つのオブジェクトが全て含まれる必要がある。本実施形態では、磁区画像300の磁区全体(概ね縦方向(y軸方向)に延びる縞の全体)が1つのテンプレート画像に含まれる必要がある。したがって、仮に、一般的なテンプレートマッチングの技術を磁区画像に適用することが出来たとしても、磁区画像から個々の磁区を抽出するために、テンプレートマッチングを行うことが得られるに過ぎない。しかしながら、図3に例示する磁区画像300だけでも、磁区の形状は様々である。すなわち、磁区の形状は無数にある。したがって、テンプレート画像の数も無数になる。よって、通常は、磁区画像は、テンプレートマッチングの技術に馴染まないと考えることが出来る。
【0081】
これに対し、本実施形態では、磁区画像に含まれる磁区全体を導出するためではなく、磁区情報を導出するためにテンプレートマッチングの技術を用いる。図4および図5を参照しながら説明したように、磁区情報(例えば、磁区幅wおよび磁区角θ)は、磁区画像300に写し出されている磁区の一部の領域(被比較領域510)と、テンプレート画像410と、を比較することによって定量的に導出することが出来る。磁区画像300に写し出されている磁区の一部の領域(被比較領域510)は、磁区情報(例えば、磁区幅wおよび磁区角θ)を得ることが出来る大きさを有していれば良い。全体の形状が相互に異なる複数の磁区には、部分的に形状が同一または類似の領域がある。また、1つの磁区内に、部分的に形状が同一または類似の複数の領域がある。したがって、テンプレート画像410を無数に用意する必要はない。以上のように本実施形態は、磁区画像300に含まれる磁区を抽出するためにテンプレートマッチングを用いるのではなく、磁区画像300に含まれる磁区情報を定量的に導出するための手法として、テンプレートマッチングを用いる。
【0082】
<<補充磁区情報導出部215>>
補充磁区情報導出部215は、ブランク画素520’における磁区情報を、磁区情報導出部214により導出された少なくとも1つの磁区情報に基づいて導出する。前述したように、ブランク画素520’は、磁区情報導出部214により磁区情報が導出されなかった被比較画素520である。また、前述したように本実施形態では、磁区情報が磁区幅wおよび磁区角θである場合を例示する。以下の説明では、補充磁区情報導出部215により導出される磁区情報を、必要に応じて補充磁区情報と称する。
【0083】
図4に例示するテンプレート画像410では、第1磁区(階調値が小さい領域(図3の濃度が濃い領域))の磁区幅wおよび磁区角θが定められる。したがって、被比較領域510が、第1磁区に類似する場合に、磁区情報導出部214により磁区情報が導出される可能性が高い。換言すると、注目領域510が、第1磁区に類似せずに第2磁区(階調値が大きい領域(図3の濃度が薄い領域))に類似する場合に、磁区情報導出部214により磁区情報が導出されない可能性が高い。しかしながら、相互に近い位置(例えば相互に隣接する位置)に存在する複数の磁区の磁区情報(本実施形態の例では磁区幅wおよび磁区角θ)は、第1磁区および第2磁区に関わらず大きく異ならない。そこで、本実施形態では、補充磁区情報導出部215が、ブランク画素520’の位置と、磁区情報導出部214により磁区情報が導出された被比較画素520の位置と、に基づいて、磁区情報導出部214により導出された少なくとも1つの磁区情報を選択する場合を例示する。この場合、補充磁区情報導出部215は、当該選択した磁区情報に基づいて、当該ブランク画素520’における磁区情報(補充磁区情報)を算出しても良い。ブランク画素520’の位置と、被比較画素520の位置との関係は、相互に隣接することが好ましい。
【0084】
例えば、補充磁区情報導出部215は、磁区情報導出部214により磁区情報が導出された被比較画素520のうち、ブランク画素520’とのユークリッド距離が最も短い被比較画素520における磁区情報を選択しても良い。この場合、補充磁区情報導出部215は、当該磁区情報を、当該ブランク画素520’における磁区情報とすることにより、補充磁区情報を導出しても良い。
【0085】
また、補充磁区情報導出部215は、磁区情報導出部214により磁区情報が導出された被比較画素520のうち、ブランク画素520’とのユークリッド距離などの距離が短いものから順に複数の被比較画素520を選択しても良い。当該複数の被比較画素520の数は、所定数などである。補充磁区情報導出部215は、当該複数の被比較画素520における磁区情報に基づいてブランク画素520’の磁区情報を算出しても良い。例えば、補充磁区情報導出部215は、当該複数の被比較画素520’における磁区幅w(磁区情報)の平均値、最頻値、重み付き線形和などの統計値を、当該ブランク画素520’における磁区幅wとして算出しても良い。重み付き線形和の場合、被比較画素520とブランク画素520’とのユークリッド距離に応じて、当該被比較画素520における磁区幅wに対する重み係数を定めても良い。例えば、各被比較画素520における磁区幅wに対する重み係数は、ブランク画素520’とのユークリッド距離が短いほど大きくなるようにしても良い。補充磁区情報導出部215は、磁区角θについても、磁区幅wと同様に、複数の被比較画素520における磁区角θの重み付き線形和を、ブランク画素520’における磁区角θとして算出しても良い。
【0086】
以上のように本実施形態では、図5に示す被比較画素設定領域530の画素(被比較画素520)ごとに、補充磁区情報(磁区幅wおよび磁区角θ)がそれぞれ導出され得る場合を例示する。なお、補充磁区情報において、磁区幅wおよび磁区角θが、第1磁区のものでないこと(または第2磁区のものであること)が示されていなくても良いし、示されていても良い。
【0087】
図6は、本実施形態の手法において、磁区ではない領域が磁区として検知されづらいことを説明する図である。図3において例示される領域NRは、黒の部分がy軸方向に沿って延びており、かつ、x軸の方向の両隣に白の部分があるので、局所的に見れば、磁区のようにも見え得る。特許文献1に記載の技術では、このような領域NRが磁区として検知され易い。
【0088】
これに対し本実施形態では、領域NRが被比較画素520と重なる場合の被比較領域510と、図4に示すテンプレート画像群400の各テンプレート画像410と、の一致度は低くなる。したがって、磁区情報が導出されづらくなる(すなわち、領域NR内の被比較画素520はブランク画素520’として設定され易くなる)。この場合、領域NR内のブランク画素520’の磁区情報(補充磁区情報)は、当該ブランク画素520’に近い位置の被比較画素520における磁区情報を用いて導出される。
【0089】
例えば、図6に示す位置の被比較画素520が、磁区情報が算出された被比較画素520のうち、図6に示す領域NR内のブランク画素520’とのユークリッド距離が最も近い被比較画素520であるとする。また、被比較画素520における磁区情報が、第1磁区610の磁区幅wおよび磁区角θであるとする。そして、ブランク画素520’における磁区情報(補充磁区情報)として、ブランク画素520’とのユークリッド距離が最も近い被比較画素520における磁区情報が導出されるものとする。この場合、ブランク画素520’における磁区情報(補充磁区情報)は、第1磁区610の磁区幅wおよび磁区角θである。したがって、領域NRがノイズとして検知されずに、領域NRを取り囲む第2磁区(濃度が薄い領域)の磁区幅wおよび磁区角θに近い磁区幅wおよび磁区角θが、領域NRの磁区情報として導出される。
【0090】
<<出力部216>>
出力部216は、磁区情報導出部214により導出された全ての磁区情報と、補充磁区情報導出部215により導出された全ての補充磁区情報と、を含む全磁区情報を出力する。本実施形態では、被比較画素設定領域530の各被比較画素520における磁区幅wおよび磁区角θを含む情報が、全磁区情報に含まれる場合を例示する。また、全磁区情報(磁区情報導出部214により導出された各磁区情報と、補充磁区情報導出部215により導出された補充磁区情報)には、磁区画像における位置が紐づけられていても良い。
【0091】
本実施形態では、出力部216が、全磁区情報を出力装置230に出力する場合を例示する。本実施形態では、出力装置230が、全磁区情報を表示する場合を例示する。この場合、例えば、出力装置230は、コンピュータディスプレイを備えていても良い。また、出力装置230は、記憶媒体を備えていても良い。この場合、例えば、出力装置230が備える記憶媒体に記憶された全磁区情報が、処理装置200および外部装置で利用されても良い。また、出力装置230は、送信装置を備えていても良い。この場合、例えば、出力装置230は、全磁区情報を外部装置に送信する。出力装置230と外部装置との通信は、有線通信であっても良いし、無線通信であっても良いし、ネットワークを介した通信であっても良い。
【0092】
<フローチャート>
次に、図7Aおよび図7Bのフローチャートを参照しながら、本実施形態の処理装置200を用いて行われる処理方法の一例を説明する。図7Aおよび図7Bのフローチャートは、例えば、処理装置200が備えるプロセッサが、メモリに記憶されているプログラムをメモリに展開して実行することにより実現される。
【0093】
まず、ステップS701において、取得部211は、テンプレート設定情報を取得する。テンプレート設定情報は、複数のテンプレート画像410を作成するために必要な情報である。テンプレート設定情報には、例えば、第1磁区の磁区幅wを特定するための情報として、最大値w、最小値w、および幅ステップΔwの情報が含まれる。また、テンプレート設定情報には、例えば、第1磁区の磁区角θを特定するための情報として、第1磁区の磁区角θの最大値、最小値、および角度ステップΔθの情報が含まれる。
【0094】
次に、ステップS702において、作成部212は、ステップS701で取得されたテンプレート設定情報に基づいて、複数のテンプレート画像410を作成して記憶する。
次に、ステップS703において、取得部211は、磁性体Sの磁区画像300と、閾値情報と、を取得する。閾値情報は、後述する図7BのステップS708において、被比較領域510と、複数のテンプレート画像410のそれぞれと、の一致度のうち、最大の一致度と比較される閾値を示す情報である。
【0095】
次に、ステップS704において、比較部213は、走査領域330の1つの画素に対して被比較領域510を定め、当該被比較領域510の代表位置(例えば、重心位置)の画素を、被比較領域510の被比較画素520として設定する。本実施形態では、被比較画素設定領域530に対して被比較画素520が設定される。ステップS704では、次のステップS705で読み出されるテンプレート画像410と比較される領域が被比較領域510として設定される。
【0096】
次に、ステップS705において、比較部213は、ステップS702で記憶された複数のテンプレート画像410のうちの1つを読み出す。
次に、ステップS706において、比較部213は、ステップS704で被比較画素520を設定した被比較領域510と、ステップS705で読み出したテンプレート画像410と、の一致度を算出する。
【0097】
次に、ステップS707において、比較部213は、ステップS702で記憶された複数のテンプレート画像410の全て(テンプレート画像群400に含まれる複数のテンプレート画像410)が読み出されたか否かを判定する。この判定の結果、ステップS702で記憶された複数のテンプレート画像410の全てが読み出されていない場合(ステップS707でNOの場合)、ステップS705の処理が再び行われる。そして、ステップS705において、新たなテンプレート画像410が1つ読み出される。また、ステップS706において、ステップS704で被比較画素520を設定した被比較領域510と、当該テンプレート画像410と、の一致度が算出される。ステップS705~S707の処理は、ステップS707において、ステップS702で記憶された複数のテンプレート画像410の全てが読み出されたと判定されるまで繰り返し行われる。
【0098】
そして、ステップS707において、ステップS702で記憶された複数のテンプレート画像410の全てが読み出されたと判定されると(ステップS707でYESの場合)、図7BのステップS708の処理が行われる。ステップS708において、磁区情報導出部214は、ステップS704で被比較画素520を設定した被比較領域510と、ステップS705で読み出した各テンプレート画像410と、の一致度のうちの最大値が、ステップS703で取得した閾値情報に示される閾値を上回るか否かを判定する。
【0099】
この判定の結果、被比較領域510と各テンプレート画像410との一致度のうちの最大値が、閾値を上回る場合(ステップS708でYESの場合)には、ステップS709の処理が行われる。
【0100】
ステップS709において、磁区情報導出部214は、ステップS702で記憶された複数のテンプレート画像410のうち、ステップS704で被比較画素520を設定した被比較領域510との一致度が最大となるテンプレート画像410に基づいて、当該被比較領域510の被比較画素520における磁区情報を導出する。そして、後述するステップS711の処理が行われる。
【0101】
一方、ステップS708の判定の結果、被比較領域510と各テンプレート画像410との一致度のうちの最大値が、閾値を上回らない場合(ステップS708でNOの場合)、ステップS710の処理が行われる。ステップS710において、磁区情報導出部214は、ステップS704で設定した被比較画素520をブランク画素520’に設定する。そして、ステップS711の処理が行われる。
【0102】
ステップS711において、比較部213は、被比較画素設定領域530の全ての画素を被比較画素520として設定したか否かを判定する。この判定の結果、被比較画素設定領域530の全ての画素を被比較画素520として設定していない場合(ステップS711でNOの場合)には、図7AのステップS704の処理が再び行われる。そして、ステップS704において新たな被比較画素520が設定され、当該被比較画素520に対するステップS705~S710の処理が再び行われる。ステップS704~S711の処理は、ステップS711において、被比較画素設定領域530の全ての画素を被比較画素520として設定したと判定されるまで繰り返し行われる。
【0103】
そして、ステップS711において、被比較画素設定領域530の全ての画素が被比較画素520として設定されたと判定されると(ステップS711でYESの場合)、ステップS712の処理が行われる。ステップS712において、磁区情報導出部214は、ステップS710において(少なくとも1つの被比較画素520に対して)ブランク画素520’が設定されたか否かを判定する。この判定の結果、ブランク画素520’が設定されていない場合(ステップS712でNOの場合)には、ステップS713~S715の処理は省略され、後述するステップS716の処理が行われる。
【0104】
一方、ステップS712において、前述のステップS710におけるブランク画素520’の設定があるか否かを確認する。この確認の結果、ブランク画素520’が設定されていると判定された場合(ステップS712でYESの場合)には、ステップS713の処理が行われる。ステップS713において、補充磁区情報導出部215は、ステップS710で設定されたブランク画素520’を順番に1つ選択する。
次に、ステップS714において、補充磁区情報導出部215は、ステップS712で選択したブランク画素520’の位置と、ステップS704で設定された被比較画素520の位置と、に基づいて、ステップS709で導出された少なくとも1つの磁区情報を選択する。そして、補充磁区情報導出部215は、当該選択した磁区情報に基づいて、当該ブランク画素520’における磁区情報(補充磁区情報)を算出する。
【0105】
次に、ステップS715において、補充磁区情報導出部215は、ステップS710で設定されたブランク画素520’を全て選択したか否かを判定する。この判定の結果、ブランク画素520’を全て選択していない場合(ステップS715でNOの場合)には、ステップS713の処理が再び行われる。そして、ステップS713において、新たなブランク画素520’が1つ選択される。また、ステップS714において、当該ブランク画素520’における磁区情報(補充磁区情報)が算出される。ステップS713~S715の処理は、ステップS715において、ステップS710で設定されたブランク画素520’を全て選択したと判定されるまで繰り返し行われる。
【0106】
そして、ステップS715において、ステップS710で設定されたブランク画素520’を全て選択したと判定されると(ステップS715でYESの場合)、ステップS716の処理が行われる。ステップS716において、出力部216は、ステップS709で導出された磁区情報と、ステップS714で導出された補充磁区情報と、を含む全磁区情報を出力する。なお、ステップS712においてブランク画素520’が設定されていない(NO)と判定されてステップS716の処理が行われる場合、全磁区情報には、補充磁区情報は含まれない。ステップS716の処理が終了すると、図7Aおよび図7Bのフローチャートによる処理は終了する。
【0107】
<まとめ>
以上のように本実施形態では、処理装置200は、磁区画像300における被比較領域510と、1以上のテンプレート画像410と、の比較の結果に基づいて、被比較領域510の被比較画素520における磁区情報を導出する。各テンプレート画像410には、画像に応じた磁区情報(磁区幅wや磁区角θなどの値)が予め設定されている。処理装置200は、被比較領域510と、テンプレート画像410と、の比較の結果を、当該被比較領域500内の被比較画素520に反映することにより、導出対象の被比較画素520の磁区情報(磁区幅wや磁区角θなどの値)を、テンプレートマッチングにより定量化して求めることが出来る。したがって、被比較領域510の磁区情報を、用意したテンプレート画像に基づいた所望の分解能で求めることが出来る。また、ノイズなどに対して影響されにくく、ロバストに磁区情報を導出することが出来る。よって、磁区情報をより高精度に導出することが出来る。
【0108】
また、本実施形態では、処理装置200は、被比較領域510と、複数のテンプレート画像410と、の比較結果が所定の条件に満たすことにより被比較領域510に対応すると判定されるテンプレート画像410が有する磁区情報を、当該被比較領域510における磁区情報とする。したがって、複数のテンプレート画像410の中から、被比較領域510に対応するテンプレート画像410を適切に選択することが出来る。よって、導出対象の被比較画素520の磁区情報(磁区幅wや磁区角θなど)を、テンプレートマッチングによって、より一層高精度に定量化して求めることが出来る。これにより、磁区情報をより一層高精度に導出することが出来る。
【0109】
また、本実施形態では、処理装置200は、被比較領域510と、テンプレート画像410と、の比較の結果が所定の条件を満たすことにより被比較領域510に対応すると判定されるテンプレート画像410が有する磁区情報を、被比較領域510における磁区情報とする。この場合、前記所定の条件を満たさない被比較領域510に対応する磁区情報(ブランク画素520’における磁区情報)は導出されない。したがって、磁区情報として不正確な情報が導出されることを抑制することが出来る。
【0110】
また、本実施形態では、処理装置200は、磁区情報が導出されなかった被比較領域51における磁区情報(ブランク画素520’における磁区情報(補充磁区情報))を、導出済みの少なくとも1つの他の被比較領域510における磁区情報に基づいて導出する。したがって、磁区情報の導出精度の低減を抑制しつつ、磁区情報が導出されない領域を低減することが出来る。
【0111】
また、本実施形態では、処理装置200は、磁区情報が導出されなかった被比較領域510の位置(ブランク画素520’の位置)と、導出済みの他の被比較領域510(被比較画素520の位置)と、に基づいて、前述の少なくとも1つの他の被比較領域510における磁区情報を選択する。磁性体では、磁区幅wが同等となる領域が結晶粒内で固まって分布することが多い。したがって、例えば、導出済みの他の被比較領域510内の被比較画素520の位置のうち、磁区情報が導出されなかった被比較領域510の位置(ブランク画素520’の位置)からの距離が近い位置の磁区幅wを用いてブランク画素520’の磁区情報を補完することが出来る。よって、ブランク画素520’の磁区情報を精度良く推定することが出来る。
【0112】
また、本実施形態では、複数のテンプレート画像410のうちの少なくとも2つのテンプレート画像410に示される磁区幅wを相互に異なせる。したがって、最も一致するテンプレート画像などを選択することにより、磁区情報として磁区幅wをより精度良く導出することが出来る。また、本実施形態では、複数のテンプレート画像のうちの少なくとも2つのテンプレート画像410に示される磁区の延びる方向を相互に異ならせる。したがって、最も一致するテンプレート画像などを選択することにより、画像の回転などの処理を行わなくても、磁区情報として磁区方向(例えば、磁区角θ)をより精度良く導出することが出来る。
【0113】
また、本実施形態では、磁区画像300と、テンプレート画像410と、のうちの少なくとも一方を回転させて、被比較領域510とテンプレート画像410とを比較する。したがって、最も一致するテンプレート画像などを選択することにより、磁区情報として磁区方向(例えば、磁区角θ)をより精度良く導出することが出来る。
【0114】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態を説明する。第1実施形態では、相互に近い位置に存在する磁区は、第1磁区および第2磁区に関わらず磁区情報が大きく異ならないことから、テンプレート画像410において、第1磁区(黒の領域)の情報(例えば磁区幅wおよび磁区角θ)が定められる場合を例示した。これに対し本実施形態では、このようなテンプレート画像410に加えて、第2磁区(白の領域)の情報(例えば磁区幅wおよび磁区角θ)が定められたテンプレート画像と、被比較領域510との比較を行う場合を例示する。第1磁区および第2磁区の情報が定められることにより、より詳細な磁区情報を精度良く導出することが出来る。このように本実施形態は、第1実施形態に対し、被比較領域510と比較するテンプレート画像を増やす点が主として異なる。したがって、本実施形態の説明において第1実施形態と同一の部分については、図1図7Bに付した符号と同一の符号を付すなどして詳細な説明を省略する。
【0115】
図8は、第2磁区の情報が定められた複数のテンプレート画像810を含むテンプレート画像群800の一例を示す図である。図4と同様に図8でも、表記の都合上1つのテンプレート画像においてのみ符号(810)を付す。
【0116】
テンプレート画像810は、例えば、テンプレート画像410に対し、第1磁区(黒の領域)および第2磁区(白の領域)を入れ替えたもので実現される。また、テンプレート画像410と同様に、テンプレート画像810を回転させずに、被比較領域510を角度ステップΔθだけ回転させても良い。この場合、回転後の被比較領域510をテンプレート画像810に重ねることにより、被比較領域510に示される磁区方向に対する、テンプレート画像810に示される磁区方向を異ならせても良い。なお、テンプレート画像410における第1磁区の磁区角θ、θ、・・・、θと、テンプレート画像810における第2磁区の磁区角θ、θ、・・・、θは、同じであっても良いし、異なっていても良い。同様に、テンプレート画像410における第1磁区の磁区幅w、w、・・・、wと、テンプレート画像810における第2磁区幅w、w、・・・、wは、同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0117】
本実施形態では、テンプレート画像410が第1磁区に対応する第1テンプレート画像の一例である。また、本実施形態では、テンプレート画像810が第2磁区に対応する第2テンプレート画像の一例である。なお、第1磁区および第2磁区は、磁気モーメントの向きが相互に異なっていれば、第1磁区および第2磁区の境界(磁壁)は180°磁壁に限定されない。また、磁区画像において3つ以上の磁区が存在することが想定される場合、3つ以上の磁区のうちの全部または一部の磁区ごとに、それぞれ1つ以上のテンプレート画像を用意しても良い。
【0118】
本実施形態の処理方法(フローチャート)では、例えば、図7のステップS705で読み出されるテンプレート画像が、図4に示すテンプレート画像410と、図8に示すテンプレート画像810になる。また、ステップS707において、図4に示すテンプレート画像410と、図8に示すテンプレート画像810と、の全てが読み出されたか否かが判定される。
【0119】
以上のように本実施形態では、処理装置200は、被比較領域510とテンプレート画像410、810との比較を行う。したがって、ブランク画素520’を低減することが出来、磁区情報の導出精度をより高めることが出来る。
【0120】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態を説明する。本実施形態では、第1実施形態および第2実施形態で説明したようにして導出される磁区情報に基づく処理を行う場合を例示する。このように本実施形態は、第1実施形態および第2実施形態に対し、磁区情報に基づく処理を行うための構成および処理が追加される。したがって、本実施形態の説明において第1実施形態および第2実施形態と同一の部分については、図1図8に付した符号と同一の符号を付すなどして詳細な説明を省略する。
【0121】
本実施形態の処理システムは、磁区情報を導出することに加えて、磁区情報に基づく処理を行う。
第1実施形態および第2実施形態で説明したように、第1実施形態および第2実施形態の手法を用いれば、ノイズの影響を低減しつつ磁区幅を含む磁区情報を高精度に導出することが出来る。したがって、このような磁区幅の情報を活用すれば、例えば、磁性体S(軟磁性材料)の磁気特性(例えば鉄損)をより効果的に改善することが出来る。
【0122】
そこで、本実施形態では、磁区情報に基づく処理に、磁性体Sの磁区幅を調整するための処理が含まれる場合を例示する。なお、磁区情報に基づく処理は、このような処理に限定されない。例えば、磁区幅に加えてまたは代えてその他の製造条件を導出する処理が行われても良い。例えば、磁区角を調整するための処理が行われても良い。なお、以下の説明では、磁区幅の調整を含む磁区の操作を、必要に応じて磁区制御と称する。
【0123】
また、磁区情報に基づく処理は、磁性体Sの製造条件を導出する処理に限定されない。例えば、磁区画像の各画素を、当該画素に対応する磁区情報の値に応じた色に変換する処理が行われても良い。このようにすれば、磁区情報の値に応じた色で磁区画像の各位置を色付けして表示することが出来る。したがって、磁区情報の分布をオペレータがより直感的に把握することが可能になる。例えば、RGB(赤、緑、青)のうちの一色(例えばR)を示す階調値(例えば0~255)を磁区幅wの値に対応させても良い。また、RGB(赤、緑、青)のうちの他の一色(例えばG)を示す階調値(例えば0~255)を磁区角θの値に対応させても良い。また、RGB(赤、緑、青)のうちの残りの一色(例えばB)を示す階調値を一定値としても良い。
【0124】
本実施形態では、方向性電磁鋼帯を製造する過程の軟磁性材料が、磁区画像の取得対象および磁区制御の対象の磁性体Sである場合を例示する。ただし、磁性体Sは、磁区制御が可能な軟磁性材料であれば、このような軟磁性材料に限定されない。
【0125】
図9は、処理装置900の機能的な構成の一例を示す図である。処理装置900のハードウェアは、第1実施形態で説明した処理装置200と同じハードウェアで良い。本実施形態では、処理システムが、磁区画像取得装置100と、処理装置900と、磁区制御装置910と、を備える場合を例示する。
【0126】
<磁区画像取得装置100>
磁区画像取得装置100は、第1実施形態で説明した磁区画像取得装置100と同じ装置で良い。磁区画像取得装置100は、搬送中の磁性体Sの磁区画像300を取得しても良い。この場合、磁区画像取得装置100は、例えば、コイルから巻き戻されながら製造ラインを搬送する磁性体Sの磁区画像300を取得しても良い。また、磁区画像取得装置100は、搬送中でない磁性体S(すなわち、動いていない状態の磁性体S)の磁区画像300を取得しても良い。この場合、磁区画像取得装置100は、例えば、コイルから切断された磁性体Sの磁区画像300を取得しても良い。
【0127】
<磁区制御装置910>
磁区制御装置910は、磁性体S(軟磁性材料)に対して磁区制御を施す装置である。磁区制御装置910は、搬送中の磁性体Sに対して磁区制御を施しても良い。この場合、磁区制御装置910は、例えば、コイルから巻き戻されながら製造ラインを搬送する磁性体Sに対して磁区制御を施しても良い。また、磁区制御装置910は、搬送中でない磁性体S(すなわち、動いていない状態の磁性体S)に対して磁区制御を施しても良い。
【0128】
また、本実施形態では、後述するようにして処理装置900から、磁性体Sに対する磁区制御装置910の動作指令が出力された後に、磁区制御装置910が、当該磁性体Sに対して磁区制御を施す場合を例示する。
【0129】
また、本実施形態では、磁区制御装置910が、レーザ光または電子ビームを照射することにより、磁性体Sに対して磁区制御を施す装置である場合を例示する。この場合、磁区制御装置910は、磁性体Sの幅方向に、レーザ光または電子ビームを照射しても良い。また、磁区制御装置910は、板状または帯状の磁性体Sの表面および裏面のうちの少なくとも一方の全体に、レーザ光または電子ビームを照射しても良い。以下の説明では、磁区制御装置910がレーザ光を照射する照射部を備える場合を例示する。なお、磁区制御装置910が電子ビームを照射する場合には、以下の説明において、レーザ光は電子ビームに置き換えられる。
【0130】
コイルから巻き戻されながら製造ラインを搬送する磁性体Sが、方向性電磁鋼帯の製造過程の軟磁性材料である場合、磁区制御装置910は、例えば、冷延工程が終了した後、鋼板表面に被膜(例えば絶縁被膜)を形成する工程が開始する前に、当該製造ラインを搬送中の磁性体Sに対してレーザ光を照射しても良い。なお、当該製造ラインは、例えば、熱延工程、冷延工程、および鋼板表面に被膜を形成する工程を含むのが好ましい。なお、熱延工程は、スラブなどの鋼材を熱間圧延する工程である。冷延工程は、熱延工程後の鋼帯を冷間圧延する工程である。鋼板表面に被膜を形成する工程は、冷延工程後の鋼帯の表面に被膜を形成する工程である。また、当該製造ラインは、これらの工程に加えて、焼鈍工程および酸洗工程を含むのがより好ましい。焼鈍工程は、冷延工程後の鋼帯を連続的に焼鈍する工程である。焼鈍工程では、鋼帯の歪みが低減(好ましくは除去)される。酸洗工程は、焼鈍工程後の鋼帯に対して酸洗を行う工程である。酸洗工程では、鋼帯の表面に形成されているスケールが低減(好ましくは除去)される。なお、熱延工程と、冷延工程および鋼板表面に被膜を形成する工程とは、別の製造ラインで行われてもよい。冷延工程から鋼板表面に被膜を形成する工程までの各工程は同一の製造ラインで連続的に行われてもよい。焼鈍工程が行われる場合、レーザ光の照射は、焼鈍工程後に行われる。酸洗工程が行われる場合、レーザ光の照射は、酸洗工程後に行われるのが好ましい。熱延工程、冷延工程、鋼板表面に被膜を形成する工程、焼鈍工程、および酸洗工程自体は、公知の技術で実現することが出来る。したがって、ここでは、これらの工程の詳細な説明を省略する。
【0131】
なお、磁区制御装置910は、磁区幅が変更されるように軟磁性材料に対して磁区制御を施すことが出来る装置であれば、レーザ光または電子ビームを照射する装置に限定されない。例えば、磁区制御装置910は、磁性体Sに物理的に接触することにより磁性体Sに溝を形成する装置でも良い。また、例えば、磁区制御装置910は、磁性体Sに対して電界エッチングを行う装置でも良い。
【0132】
<処理装置900>
<<取得部211、作成部212、比較部213、磁区情報導出部214、補充磁区情報導出部215、出力部216>>
【0133】
取得部211、作成部212、比較部213、磁区情報導出部214、補充磁区情報導出部215、および出力部216は、第1実施形態および第2実施形態で説明した機能と同じ機能を有する。
【0134】
例えば、取得部211は、1つのコイルから、1つの磁区画像300を取得しても良いし、1つのコイルから、複数の磁区画像300を取得しても良い。取得部211が複数の磁区画像300を取得する場合、作成部212、比較部213、磁区情報導出部214、および補充磁区情報導出部215は、例えば、取得部211により取得された複数の磁区画像300のそれぞれを処理対象の磁区画像として、第1実施形態および第2実施形態で説明した処理を行っても良い。
【0135】
また、本実施形態では、出力部216が、出力装置230に、全磁区情報に加えてまたは代えて、磁区制御装置910に対する動作指令を出力する場合を例示する。
【0136】
<<処理部217>>
処理部217は、磁区情報導出部214により導出された磁区情報に基づく処理を行う。本実施形態では、処理部217が、全磁区情報に基づく処理を行う場合を例示する。第1実施形態で説明したように、全磁区情報には、磁区情報導出部214により導出された全ての磁区情報と、補充磁区情報導出部215により導出された全ての補充磁区情報と、が含まれる。処理部217は、例えば、磁区情報に基づく処理を行う際に、磁区情報導出部214により導出された一部の磁区情報を用いなくても良い。また、処理部217は、例えば、補充磁区情報導出部215により導出された全てまたは一部の補充磁区情報を用いなくても良い。
【0137】
また、本実施形態では、処理部217が、1つの磁区画像300から導出される全磁区情報ごとに(すなわち1つの磁区画像300ごとに)、全磁区情報に基づく処理を行う場合を例示する。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。処理部217は、複数の磁区画像300から導出される全磁区情報ごとに(すなわち、複数の磁区画像300ごとに)、全磁区情報に基づく処理を行っても良い。
【0138】
また、前述したように本実施形態では、処理部217が行う処理に、磁性体Sの磁区幅を調整するための処理が含まれる場合を例示する。ただし、磁区情報に基づく処理が、このような処理に限定されないことは前述した通りである。処理部217が行う処理に、磁性体Sの磁区幅を調整するための処理が含まれない場合、処理システムは、磁区制御装置910を備えていなくても良い。また、処理装置900とは別の処理装置が、処理部217が有する機能を備えていても良い。この場合、処理装置900と、当該別の処理装置と、が通信を行っても良い。
【0139】
以下に、磁性体Sの磁区幅を調整するための処理の一例を説明する。
本実施形態では、処理部217が、磁区幅の頻度分布を表す情報を導出する場合を例示する。磁区幅の頻度分布を表す情報は、磁区幅の値と、当該値を有する磁区幅の数と、の関係を示す情報でも良い。また、磁区幅の頻度分布を表す情報は、磁区幅の範囲と、当該当該範囲内の値を有する磁区幅の数と、の関係を示す情報も良い。磁区幅の頻度分布を表す情報は、例えば、ヒストグラムでも良い。また、磁区幅の頻度分布を表す情報は、表でも良い。また、磁区幅の頻度分布を表す情報は、関数でも良い。この場合、磁区幅の数を、磁区幅の値の関数として表しても良い。当該関数の次数は限定されない。また、当該関数の係数および定数は、例えば、カーブフィッティングを用いることにより導出されても良い。
【0140】
また、本実施形態では、処理部217が、1つの磁区画像300を処理対象の磁区画像として導出された全磁区情報を用いて、当該全磁区情報に含まれる磁区幅の頻度分布を表す情報を導出する場合を例示する。ただし、処理部217は、複数の磁区画像300を処理対象の磁区画像として導出された全磁区情報を用いて、当該全磁区情報に含まれる磁区幅の頻度分布を表す情報を導出しても良い。
【0141】
1つの磁区画像300において、テンプレート画像410と比較される部分領域の数(例えば、図5に示す被比較領域510の数)の磁区幅が導出される。1つの磁区画像300を処理対象の磁区画像として導出された全磁区情報を用いて、当該全磁区情報に含まれる磁区幅の頻度分布を表す情報を導出する場合、処理部217は、当該部分領域の数の磁区幅を用いて、磁区幅の頻度分布を表す情報を導出する。
【0142】
なお、補充磁区情報導出部215により補充磁区情報が導出されなかった場合、および、補充磁区情報を導出しない場合、1つの磁区画像300から導出される磁区幅の数は、磁区情報導出部214により導出された磁区情報の数になる。
【0143】
なお、処理部217が磁区幅の頻度分布を表す情報を導出することにより、磁区幅の分布をユーザがより直感的に把握することが可能になる。したがって、処理部217は、磁性体Sの磁区幅を調整するための処理を行わない場合に、磁区幅の頻度分布を表す情報を導出しても良い。また、処理部217は、磁区幅の頻度分布を表す情報に代えてまたは加えて磁区角の頻度分布を表す情報を導出しても良い。
【0144】
磁区幅を調整するために、レーザ光の強度に加えてまたは代えて、レーザ光の照射時間および照射回数を調整しても良い。しかしながら、このようにすると、磁性体Sの搬送速度を遅くする必要がある場合が生じ得る。そこで本実施形態では、処理部217が、磁区幅を調整するためにレーザ光の強度を決定する場合を例示する。
【0145】
レーザ光の強度を変化させると、磁性体Sにおける、磁区幅の最頻値は変化する。レーザ光の強度を変化させると、磁性体Sにおける磁区幅の平均値も変化する。しかしながら、磁区幅が極端に広い領域や、磁区幅が極端に狭い領域が磁性体Sに存在する場合、磁性体Sにおける磁区幅の平均値は変動する。一方、磁性体Sの鉄損は、磁性体S全面の磁区幅分布から定まる。磁区幅の局所的な異常値は磁区幅の平均値に大きな影響を与える。しかしながら、局所的な異常値を示す磁区幅を有する磁区の、磁性体S全面に対して占める面積は小さい。したがって、磁区幅の局所的な異常値にレーザ光の強度の指示値が影響を受けるのは好ましくない。したがって、磁区幅の最頻値に基づいて磁性体S(軟磁性材料)を製造することが好ましい。
【0146】
そこで、本実施形態では、処理部217が、磁区幅の頻度分布における、磁区幅の最頻値に基づいて、磁性体Sの磁区幅を調整するための処理を行う場合を例示する。ただし、最頻値に加えてまたは代えて最頻値以外の代表値が使用されても良い。最頻値以外の代表値として、例えば、中央値が用いられても良い。
【0147】
例えば、磁区幅の頻度分布を表す情報が関数である場合、前記関数において、前記関数の値を最大とする1つまたは複数の磁区幅の値が、磁区幅の最頻値である。また、例えば、磁区幅の頻度分布がヒストグラムで表される場合、ヒストグラムにおいて、度数を最大とする1つまたは複数の階級(磁区幅の範囲)が、磁区幅の最頻値である。
【0148】
図10Aは、磁区幅のヒストグラム1010の一例を示す図である。図10Aにおいて、磁区幅W~Wi+9は、磁区幅のヒストグラム1010の各階級の上限値および下限値を示す。磁区幅W~Wi+9のiは1以上の整数である。なお、磁区幅を示す記号を図4に示した記号(w~w)と区別するために、図10Aおよび図10Bでは、磁区幅を示す記号を大文字のWとする。図11Aでは、磁区幅Wi+5~Wi+6の範囲(階級)が、磁区幅の頻度分布において、磁区幅の最頻値に対応する磁区幅の範囲である。この場合、処理部217は、当該階級の代表値(例えば、算術平均値)を磁区幅の最頻値として特定しても良い。
【0149】
図10Bは、磁区幅の頻度分布の関数1020の一例を示す図である。図10Bでは、磁区幅の頻度分布の関数1020において最大値を示す磁区幅Wmax(一つの値)が、磁区幅の頻度分布における、磁区幅の最頻値である場合を例示する。処理部217は、当該磁区幅Wmaxを、磁区幅の最頻値として特定する。
【0150】
なお、磁区幅の最頻値として、複数の値(複数の階級)がある場合、処理部217は、それら複数の値(複数の階級)のそれぞれを、磁区幅の最頻値として扱っても良い。また、処理部217は、それら複数の値(複数の階級)のうちの1つまたは複数を選択しても良い。例えば、処理部217は、それら複数の値(複数の階級)のうちの最大の値(階級)または所定値を上回る値(階級)を、磁区幅の最頻値として扱っても良い。
【0151】
また、レーザ光の強度が大きければ、磁区を細分化する効果を十分に得ることが出来る。したがって、磁性体Sの異常渦電流損が低減される。ただし、レーザ光の強度が大き過ぎる場合、熱歪により磁性体Sのヒステリシス損が増加する虞がある。よって、レーザ光の強度が大き過ぎると好ましくない場合がある。一方、レーザの強度が小さ過ぎる場合、磁区を細分化する効果を十分に得ることが出来ない虞がある。したがって、磁性体Sの異常渦電流損を低減することが出来ない虞がある。以上のことから、磁区を細分化するためのレーザ光の強度を適切な範囲に制御するのが好ましい。また、レーザ光の適切な強度は磁区幅を制御する前の磁性体Sの磁区幅によって変わる。磁区幅が広い領域に対して照射されるレーザ光の強度を大きくするとともに、磁区幅が狭い領域に対して照射されるレーザ光の強度を小さくすることで、磁性体Sの鉄損を低減することが可能である。
【0152】
以上のような観点から本実施形態では、処理部217が、以下の(2)式を満足する強度Ua(mJ/mm)に、レーザ光(または電子ビーム)の強度を決定する場合を例示する。
【0153】
【数1】
【0154】
ここで、Wは、磁区幅の頻度分布を表す情報における、磁区幅の最頻値(μm)である。なお、Wは、レーザ光(または電子ビーム)が照射される前に導出されるものである。また、arctanによって表される角度の単位はラジアン(rad)である。すなわち、(W-400)/300および(W-300)/300の単位はラジアン(rad)である。
【0155】
また、処理部217は、レーザ光の照射によって、磁区幅の頻度分布を表す情報において、磁区幅の最頻値が、200μm以上、400μm未満になるように、レーザ光の強度Uaを決定するのが好ましい。すなわち、処理部217は、レーザ光が照射された後の磁性体S(軟磁性材料)を処理対象の磁区画像として導出される磁区幅の最頻値が、200μm以上、400μm未満になるように、レーザ光の強度Uaを決定するのが好ましい。このようにすることによって、磁区幅の頻度分布を表す情報における、磁区幅の最頻値が、200μm以上、400μm未満の軟磁性材料を製造することが出来る。
【0156】
処理部217は、以上のようにして決定される強度のレーザ光を出力することを示す動作指令を、出力部216を介して磁区制御装置910に出力する。磁区制御装置910は、当該動作指令に含まれる強度のレーザ光を磁性体Sに対して照射する。その際、処理部217は、磁性体Sに対するレーザ光の照射範囲(例えば、磁性体Sの表面および裏面のうちの少なくとも一方の全体)にレーザ光が照射されるように、磁区制御装置910の動作条件を導出して動作指令に含めても良い。
【0157】
また、以上のようにして磁区制御が行われた後の磁性体Sに対して歪取り焼鈍を施しても良い。この場合、磁区画像取得装置100は、当該歪取り焼鈍が施された後の磁性体Sの磁区画像300を取得しても良い。そして、処理装置900は、当該磁区画像300に基づいて、磁区幅の頻度分布を表す情報を導出しても良い。この場合、当該磁区幅の頻度分布を表す情報において、磁区幅の最頻値は、700μm以上であるのが好ましい。この場合、磁区制御が行われた磁性体Sに対して歪取り焼鈍が施されることによって、磁性体Sの磁区幅の最頻値は、例えば、200μm以上、400μm未満から、700μm以上に変わる。すなわち、磁区制御が行われた磁性体Sに対して歪取り焼鈍が施されることによって、磁性体Sの磁区の状態は、磁区制御が行われる前の状態に近い状態になる。
【0158】
歪取り焼鈍は、例えば、以下のようにして行われる。まず、磁性体Sの温度を800℃とする。磁性体Sの温度を800℃にした状態を240分以上継続する(磁性体Sを800℃で240分以上保温する)。なお、歪取り焼鈍の時間を短縮すること等の理由から、磁性体Sの保温時間は、240分でよい。その後、磁性体Sを次のようにして冷却する。まず、磁性体Sの温度が800℃から200℃に低下するまでは、平均冷却速度を0℃/h超、25℃/h以下にする。なお、歪取り焼鈍の時間を短縮すること等の理由から、平均冷却速度は、25℃/hでよい。その後、0℃/h超、100℃/h以下の平均冷却速度で50℃になるまで磁性体Sを冷却する。なお、歪取り焼鈍の時間を短縮すること等の理由から、平均冷却速度は、100℃/hでよい。
【0159】
このようにすることによって、レーザ光を照射した後の磁性体S(軟磁性材料)が、レーザ光を照射する前においては、磁区幅の頻度分布を表す情報における、磁区幅の最頻値が、700μm以上である磁性体S(軟磁性材料)であったことを確認することが出来る。
【0160】
また、磁区幅の頻度分布を表す情報における、磁区幅の最頻値が、700μm以上である軟磁性材料を、磁性体Sを製造するための軟磁性中間材料として製造しても良い。この軟磁性中間材料は、軟磁性材料に歪取焼鈍を施したものであっても良い。歪取り焼鈍は、例えば、上記の条件で実施したものであれば良い。この場合、当該軟磁性中間材料に対してレーザ光を照射することにより、磁区幅の頻度分布を表す情報における、磁区幅の最頻値が、200μm以上、400μm未満である磁性体S(軟磁性材料)を製造するのが好ましい。
【0161】
<変圧器>
また、以上のようにして磁区制御が行われることにより製造された磁性体S(本実施形態では方向性電磁鋼帯)を用いて、変圧器用の鉄心を製造しても良い。また、当該鉄心を備える変圧器を製造しても良い。例えば、磁性体Sを、鉄心の平面形状と略同じ(好ましくは同じ)形状に切断することにより、複数の軟磁性板を製造する。切断は、打抜き加工により行われても良いし、レーザ加工により行われても良い。これら複数の軟磁性板を積層することにより積層鉄心を製造する。なお、変圧器用の鉄心は、積層鉄心に限定されない。例えば、磁性体Sを用いて巻鉄心を、変圧器用の鉄心として製造しても良い。変圧器用の鉄心の製造方法自体は公知の技術で実現することが出来る。したがって、ここでは、変圧器用の鉄心の製造方法自体の詳細な説明を省略する。
【0162】
このようにして製造した変圧器用の鉄心に対して、絶縁部材を介してコイルを巻き回す。コイルには、例えば、電圧が印加される一次コイルと、変圧後の電圧が発生する二次コイルと、が含まれる。変圧器の製造方法自体は公知の技術で実現することが出来る。したがって、ここでは、変圧器の製造方法自体の詳細な説明を省略する。
【0163】
なお、磁性体Sは、変圧器用の鉄心に用いられなくても良い。例えば、磁性体Sは、回転電機のステータコア(例えば、分割コア)を製造するために用いられても良い。
【0164】
<フローチャート>
次に、図11のフローチャートを参照しながら、本実施形態の処理装置900を用いて行われる処理方法の一例を説明する。図11のフローチャートは、例えば、処理装置900が備えるプロセッサが、メモリに記憶されているプログラムをメモリに展開して実行することにより実現される。
【0165】
まず、ステップS1101において、取得部211は、テンプレート設定情報を取得する。
次に、ステップS1102において、作成部212は、ステップS1101で取得されたテンプレート設定情報に基づいて、複数のテンプレート画像410を作成して記憶する。
なお、ステップS1101、S1102の処理は、それぞれ、図7AのステップS701、S702の処理と同じ処理で良い。
【0166】
次に、ステップS1103において、磁区情報導出処理が行われる。磁区情報導出処理は、例えば、図7Aおよび図7BのステップS703~S715の処理である。また、第2実施形態で説明した処理がステップS1103で行われても良い。なお、ここでは、ステップS1103(ステップS703)において、1つの磁区画像300が取得される場合を例示する。
【0167】
次に、ステップS1104において、処理部217は、全磁区情報(ステップS709で導出された磁区情報と、ステップS714で導出された補充磁区情報)から、磁区幅を抽出する。処理部217は、このようにして抽出した磁区幅の頻度分布を表す情報を導出する。
【0168】
次に、ステップS1105において、処理部217は、磁区幅の頻度分布を表す情報における、磁区幅の最頻値を特定する。例えば、磁区幅の頻度分布がヒストグラム1010で表される場合、磁区幅の最頻値は、階級(磁区幅の範囲)で表される。この場合、処理部217は、当該階級の代表値(例えば、算術平均値)を磁区幅の最頻値として特定しても良い。また、例えば、磁区幅の頻度分布が関数1020で表される場合、処理部217は、磁区幅の頻度分布が関数1020において最大値を示す磁区幅を、磁区幅の最頻値として特定しても良い。
【0169】
次に、ステップS1106において、処理部217は、磁区幅の最頻値に対応する磁区幅の値に基づいて、レーザ光の強度を決定する。
【0170】
この際、処理部217は、(2)式を満足するようにレーザ光の強度を決定するのが好ましい。また、処理部217は、磁性体Sの表面および裏面のうちの少なくとも一方の全体をレーザ光の照射範囲として決定するのが好ましい。
【0171】
次に、ステップS1107において、処理部217は、ステップS1107で決定した強度のレーザ光を照射することを示す動作指令を導出して出力部216に出力する。出力部216は、当該動作指令を磁区制御装置910に出力する。これにより磁区制御装置910は、ステップS1107で決定された強度のレーザ光を、磁性体Sに対して照射する。磁区制御装置910がレーザ光を照射する期間は、例えば、磁区制御の対象の磁性体Sが、磁区制御装置910から照射されるレーザ光の照射範囲に存在する期間である。磁区制御の対象の磁性体Sは、磁区画像300の取得対象の磁性体Sでも良い。また、磁区制御の対象の磁性体Sは、磁区画像300の取得対象の磁性体Sの母材でも良い。例えば、磁区画像300の取得対象の磁性体Sがコイルから切断されたものである場合、母材は、当該コイルである。
【0172】
(計算例)
次に、計算例を示す。なお、本計算例は、本計算例に限定されない。図12Aおよび図12Bは、本計算例の結果を示す図である。本計算例では、図12Aに示す磁区画像1210の磁区幅wを、第1実施形態の手法で算出した。図12Bに磁区幅wの計算結果を示す。図12Bに示す幅可視化画像1220の画素は、被比較画素520である。幅可視化画像920の画素の位置は、図12Aに示す磁区画像1210の画素の位置と対応する。例えば、幅可視化画像1220の第1行第1列の画素の画素値は、磁区画像1210の第1行第1列の画素における磁区幅wを示す。また、図12Bに示す幅可視化画像1220において、濃度が濃いほど磁区幅wが広いこと(換言すると濃度が薄いほど磁区幅wが狭いこと)を示す。
【0173】
図12Aおよび図12Bを比較すれば明らかなように、図12Bに示す幅可視化画像1220の領域のうち、図12Aに示す磁区画像1210において幅wが狭い領域に対応する領域(例えばx軸の正の方向側の領域)おいては、濃度が薄くなっている。また、図12Bに示す幅可視化画像1220の領域のうち、図12Aに示す磁区画像1210において幅wが広い領域に対応する領域(例えばx軸の中央付近の領域)おいては、濃度が濃くなっている。このように前述した実施形態の手法により磁性体Sの磁区情報を精度よく導出することが出来ることが分かる。
【0174】
(実施例)
次に、実施例を示す。なお、本開示は、本実施例に限定されない。本実施例では、磁区制御を行う工程を行わずに製造された方向性電磁鋼帯の1つのコイルから複数の55mm角サイズのサンプルを作製した。1つのコイルの異なる場所から複数のサンプルを採取することにより、磁区構造が相互に異なる複数のサンプルが得られる。本実施例では、JIS C 2556:2015で規定されている条件を満足するように、全てのサンプルの形状および大きさを同じにした。
【0175】
また、本実施例の説明において、磁区画像は、第1実施形態で説明したようにして取得されたものである。サンプルの表面(一面)の全体を撮影することにより磁区画像を取得した。また、磁区画像を撮影する際に、サンプル内の磁束密度を(1)式に従って減衰させた。そして、当該減衰が開始してから30秒が経過したタイミングで磁区画像を取得(撮影)した。
【0176】
また、本実施例の説明において、磁区幅の頻度分布を表す情報の一例である磁区幅のヒストグラムは、第3実施形態で説明したようにして導出されたヒストグラムである。磁区幅のヒストグラムの各階級の範囲を50μmとした。磁区幅のヒストグラムにおいて、頻度が最大の階級の算術平均値を磁区幅の最頻値とした。
【0177】
また、本実施例では、各サンプルに対して同一の条件で歪取り焼鈍を行った。具体的には、サンプルを800℃にした状態を240分以上継続した後、冷却した。その際、サンプルの温度が800℃から200℃に低下するまでは、平均冷却速度を25℃/h以下とした。また、サンプルの温度が50℃になるまでは、平均冷却速度を100℃/h以下とした。
【0178】
また、本実施例では、JIS C 2556:2015に従って、SST(Single Sheet Tester)法にて55mm角サイズのサンプルを用いて、各サンプルに対して同一の条件で鉄損を導出した。
【0179】
前述した複数のサンプルを、強度が同じレーザ光により磁区制御が行われるサンプルと、第3実施形態で説明したように(2)式に基づいて導出される強度のレーザ光により磁区制御が行われるサンプルと、に分けた。本実施例の以下の説明では、前者のサンプルを、比較例用のサンプルと称する。また、後者のサンプルを、発明例用のサンプルと称する。
【0180】
レーザ光を照射する前に、比較例用のサンプルの鉄損を測定した。その後、比較例用のサンプルの表面の全体に、強度Uaを1.5mJ/mmにして、レーザ光を照射することにより、磁区制御を行った。
次に、磁区制御が行われた比較例用のサンプルの磁区幅のヒストグラムを導出した。
【0181】
次に、磁区制御が行われた比較例用のサンプルの磁区幅のヒストグラムから磁区幅の最頻値を特定した。
次に、磁区制御が行われた比較例用のサンプルに対して歪取り焼鈍を行った。
【0182】
次に、歪取り焼鈍が行われた比較例用のサンプルの磁区幅のヒストグラムを導出した。
次に、歪取り焼鈍が行われた比較例用のサンプルの磁区幅のヒストグラムから磁区幅の最頻値を特定した。
以上のことを、1つの比較例用のサンプルごとに個別に行った。表1に、8つの比較用のサンプルに対する結果を示す。
【0183】
【表1】
【0184】
表1において、「焼鈍後の最頻値」は、歪取り焼鈍が行われた比較例用のサンプルの磁区幅の最頻値である。「鉄損比」は、磁区制御が行われた比較例用のサンプルの鉄損を、レーザ光が照射される前の比較例用のサンプルの鉄損で割った値である。「磁区制御時の最頻値」は、磁区制御が行われた比較例用のサンプルの磁区幅の最頻値である。
【0185】
発明例用のサンプルについても、レーザ光を照射する前に鉄損を測定した。また、発明例用のサンプルの磁区幅のヒストグラムを第3実施形態で説明したようにして導出した。
次に、レーザ光を照射する前の発明例用のサンプルの磁区幅のヒストグラムから、磁区幅の最頻値(μm)を特定し、(2)式のWとした。
【0186】
次に、発明例用のサンプルの表面の全体に、(2)式を満足する強度Uaのレーザ光を照射することにより、磁区制御を行った。
次に、磁区制御が行われた発明例用のサンプルの鉄損を導出した。また、磁区制御が行われた発明例用のサンプルの磁区幅のヒストグラムを導出した。
【0187】
次に、磁区制御が行われた発明例用のサンプルの磁区幅のヒストグラムから磁区幅の最頻値を特定した。
次に、磁区制御が行われた発明例用のサンプルに対して歪取り焼鈍を行った。
【0188】
次に、歪取り焼鈍が行われた発明例用のサンプルの磁区幅のヒストグラムを導出した。
次に、歪取り焼鈍が行われた発明例用のサンプルの磁区幅のヒストグラムから磁区幅の最頻値を特定した。
以上のことを、1つの発明用のサンプルごとに個別に行った。表2に、8つの発明用のサンプルに対する結果を示す。
【0189】
【表2】
【0190】
表2において、「焼鈍後の最頻値」は、歪取り焼鈍が行われた発明例用のサンプルの磁区幅の最頻値である。第3実施形態で説明した通り、表1および表2において、「焼鈍後の最頻値」は、磁区制御が行われる前の磁区幅の最頻値に対応する。「鉄損比」は、磁区制御が行われた発明例用のサンプルの鉄損を、レーザ光が照射される前の発明例用のサンプルの鉄損で割った値である。「磁区制御時の最頻値」は、磁区制御が行われた発明例用のサンプルの磁区幅の磁区幅の最頻値である。
【0191】
表1に示すように、磁区構造に関わらずレーザ光の強度Uaを一定にすると、磁区制御が行われる前の磁区幅の最頻値が700μm以上である場合、磁区制御(レーザ光の照射)を行った後の磁区幅の最頻値を200μm以上、400μm未満の範囲にすることが出来なかった(表1のNo.3~No.8の「磁区制御時の最頻値」を参照)。
【0192】
一方、表2に示すように、(2)式を満足する強度Uaのレーザ光を照射すると、磁区制御が行われる前の磁区幅の最頻値が700μm以上である場合でも、磁区制御(レーザ光の照射)を行った後の磁区幅の最頻値を200μm以上、400μm未満の範囲にすることが出来た(表2のNo.3~No.8の「磁区制御時の最頻値」を参照)。これにより、(2)式を満足する強度Uaのレーザ光を照射した場合には、磁区構造に関わらずレーザ光の強度Uaを一定にした場合に比べ、鉄損を低減することが出来た(表1、2のNo.3~No.8の「鉄損比」を参照)。
【0193】
(その他の実施形態)
なお、以上説明した本開示の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することが出来る。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラムなどのコンピュータプログラムプロダクトも本開示の実施形態として適用することが出来る。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることが出来る。
また、以上説明した本開示の実施形態は、何れも本開示を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本開示の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本開示はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0194】
本開示は、例えば、磁区情報を得ることに利用することが出来る。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12A
図12B