(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-24
(45)【発行日】2025-04-01
(54)【発明の名称】セルロース系繊維製品の染色法
(51)【国際特許分類】
D06P 5/00 20060101AFI20250325BHJP
D06P 3/60 20060101ALI20250325BHJP
【FI】
D06P5/00 A
D06P3/60 Z
(21)【出願番号】P 2024558047
(86)(22)【出願日】2024-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2024019469
【審査請求日】2024-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2023090262
(32)【優先日】2023-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】松原 基耶
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-118680(JP,A)
【文献】特開昭60-259687(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104404797(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維の又はセルロース系繊維を含む繊維製品の染色方法であって、以下の行程:
染色浴に、5℃以上30℃未満の第一温度領域、又は、30℃以上40℃未満の第二温度領域の水を給水するとともに、セルロース系繊維の又はセルロース系繊維を含む繊維製品を投入する工程、但し、該給水と該投入の前後は問わない;
該第一温度領域から30℃以上40℃未満の第二温度領域まで、及び該第二温度領域から40℃以上70℃以下の第三温度領域まで昇温する、あるいは、該第二温度領域から40℃以上70℃以下の第三温度領域まで昇温する昇温工程;
該第三温度領域内で所定期間、第三温度を保持する工程;
該第一温度領域以上の温度で、反応染料を投入する工程;並びに
該第二温度領域以上の温度で、該反応染料を投入する工程とは別に、無機塩類とアルカリ剤の混合物を、3回以上に分けて分割投入する工程;
を含
み、かつ、該第二温度領域内で、前記無機塩類とアルカリ剤の混合物の全ての分割投入を行う、染色方法。
【請求項2】
セルロース系繊維の又はセルロース系繊維を含む繊維製品の染色方法であって、以下の行程:
染色浴に、5℃以上30℃未満の第一温度領域、又は、30℃以上40℃未満の第二温度領域の水を給水するとともに、セルロース系繊維の又はセルロース系繊維を含む繊維製品を投入する工程、但し、該給水と該投入の前後は問わない;
該第一温度領域から30℃以上40℃未満の第二温度領域まで、及び該第二温度領域から40℃以上70℃以下の第三温度領域まで昇温する、あるいは、該第二温度領域から40℃以上70℃以下の第三温度領域まで昇温する昇温工程;
該第三温度領域内で所定期間、第三温度を保持する工程;
該第一温度領域以上の温度で、反応染料を投入する工程;並びに
該第二温度領域以上の温度で、該反応染料を投入する工程とは別に、無機塩類とアルカリ剤の混合物を、3回以上に分けて分割投入する工程;
を含
み、かつ、該分割投入を、3回以上5回以下で行い、無機塩類とアルカリ剤の混合物の全量をT(g)、1段階目の投入量をA(g)、2段階目の投入量をB(g)とするとき、以下の式(1)~(3):
1/20×T≦A≦5/20×T …式(1)
1/20×T≦B≦7/20×T …式(2)
A≦B …式(3)
を満たす、染色方法。
【請求項3】
前記給水から前記第三温度保持工程の終了までの総時間期間が100分以下である、請求項1又は2に記載の染色方法。
【請求項4】
前記総時間期間が80分以下である、請求項
3に記載の染色方法。
【請求項5】
前記分割投入の最終段階目の投入から前記第三温度保持工程の終了までの染色反応時間期間が20分以上50分以下である、請求項1又は2に記載の染色方法。
【請求項6】
前記染色反応時間期間が40分以上である、請求項
5に記載の染色方法。
【請求項7】
前記第三温度を60℃以下に維持する、請求項1又は2に記載の染色方法。
【請求項8】
前記分割投入の時間間隔が5分~17分である請求項1又は2に記載の染色方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性染料を使用した、セルロース系繊維の又はセルロース系繊維を含有する繊維製品の染色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的な吸尽染色において、反応性染料を使用する場合、染色浴内に反応性染料とともに無機塩類とアルカリ剤を投入し、反応性染料の吸尽染色を実施する。無機塩類の存在は、セルロース繊維の内部への染料の吸収を促進するために必要であり、他方、アルカリ剤はセルロース繊維に反応染料を固定化させるために必要である。無機塩類とアルカリ剤の染色浴への投入は、均一な染色物を得るために重要な要素であることが一般に知られている。従来の染色プロセスにおいては、水と生地と染料が均一に分散した染色浴内に、無機塩類は適宜分割投入され、無機塩類の投入が完了した後に、アルカリ剤も適宜分割投入されている。
【0003】
しかしながら、従来知られている公知の技術では、染色堅牢度の高い色ムラがない均一な染色物を得る為には長時間を要するため、染色機を動かすための電力や温度を保持する蒸気が多く消費されるため、CO2の排出量が多くなるという問題がある。
【0004】
以下の特許文献1には、染色時間の短縮化を図る吸尽染色法として、特定の分子構造を持つ反応性染料を使用し、これと無機塩類とアルカリ剤を一括投入する方法が提案されている。
しかしながら、無機塩類とアルカリ剤を一括して投入する方法においては、無機塩類が溶解しにくい特性を有するため、無機塩類の溶解に時間が必要となり、作業性が複雑化するという問題が生じる。更に、無機塩類を一度に投入することで、染料が瞬時にセルロース繊維に吸尽される現象が発生し、均一な染色物を得るという観点からは、十分な染色結果が得られていない。
【0005】
また、以下の特許文献2には、無機塩類とアルカリ剤を分割して投入する方法として、無機塩類とアルカリ剤を、直線的関数にあるいは正もしくは負の指数、対数又は累乗関数に従って、単位時間当たりに少量ずつ最適に投入する方法が提案されている。
しかしながら、特許文献2の技術においては、特殊な専用設備を用いて無機塩類とアルカリ剤を無限段階で最適に投入しているものの、無機塩類とアルカリ剤の最適な投入速度を決定するためには、事前に一連の吸尽染色テストを実施し、コンピュータプログラムを用いる等温吸尽曲線の添加関数から計算する必要があり、さらに、無機塩類とアルカリ剤の同時添加速度が非線形な添加関数に従って変化する場合、この関数はデータ処理ユニット(例えば、パーソナルコンピュータ)を用いて決定する必要がある。つまり、添加速度を決定するまで非常に複雑で煩雑な作業が必要であり、数学的な知識も求められるという問題があった。さらに、計算によって得られた添加速度を実現するためには、手作業では不可能であるため、染色プロセス中にリアルタイムで計量を行いながら染色浴内に添加するための専用の設備が必要となり、設備投資が求められるため、簡単に実施できるものではない。これは、開発途上国においては特に当てはまる。
【0006】
また、以下の特許文献3には、無機塩類とアルカリ剤を混合した後に分割して投入する方法として、特定の3つの曲線のいずれかに示す、定量的かつ連続的に投入する方法が提案されている。
しかしながら、特許文献3の技術においては、特定の3つの曲線のいずれかに示す添加速度を実現するためには、手作業では不可能であるため、染色浴内に添加するための専用の設備が必要となり、設備投資が求められるため、簡単に実施できるものではない。これは、開発途上国においては特に当てはまる。
【0007】
このように、染色時間を短縮化することによりCO2排出量を削減しつつ、染色操作を簡素化した、染色堅牢度の高い色ムラがない均一な染色物を得ることができるセルロース系繊維生地の染色方法は、未だ提供されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭63-211379号公報
【文献】特開昭60-259687号公報
【文献】特開平01-118680号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】参考資料2 温室効果ガス排出量計算のための算定式及び排出係数一覧(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/suishin_g/3rd_edition/ref2.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記した技術の現状に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、染色時間を短縮化することによりCO2排出量を削減しつつ、染色操作を簡素化した、染色堅牢度の高い色ムラがない均一な染色物を得ることができるセルロース系繊維生地の新規染色方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、無機塩類とアルカリ剤の混合物の投入方法を、所定回数での分割投入とし、さらに染色液の温度や投入時機を最適化することにより、前記した特殊な専用設備を用いなくても、染色堅牢度の高い色ムラがない均一な染色物を得ることができることを予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1]セルロース系繊維の又はセルロース系繊維を含む繊維製品の染色方法であって、以下の行程:
染色浴に、5℃以上30℃未満の第一温度領域、又は、30℃以上40℃未満の第二温度領域の水を給水するとともに、セルロース系繊維の又はセルロース系繊維を含む繊維製品を投入する工程、但し、該給水と該投入の前後は問わない;
該第一温度領域から30℃以上40℃未満の第二温度領域まで、及び該第二温度領域から40℃以上70℃以下の第三温度領域まで昇温する、あるいは、該第二温度領域から40℃以上70℃以下の第三温度領域まで昇温する昇温工程;
該第三温度領域内で所定期間、第三温度を保持する工程;
該第一温度領域以上の温度で、反応染料を投入する工程;並びに
該第二温度領域以上の温度で、該反応染料を投入する工程とは別に、無機塩類とアルカリ剤の混合物を、3回以上に分けて分割投入する工程;
を含む、染色方法。
[2]以下の行程:
前記第二温度領域内で所定期間、温度を保持する工程;
をさらに含む、前記[1]に記載の染色方法。
[3]前記第三温度領域内で、前記無機塩類とアルカリ剤の混合物の全ての分割投入を行う、前記[1]に記載の染色方法。
[4]前記第二温度領域内で、前記無機塩類とアルカリ剤の混合物の全ての分割投入を行う、前記[2]に記載の染色方法。
[5]前記分割投入を、3回以上5回以下で行い、無機塩類とアルカリ剤の混合物の全量をT(g)、1段階目の投入量をA(g)、2段階目の投入量をB(g)とするとき、以下の式(1)~(3):
1/20×T≦A≦5/20×T …式(1)
1/20×T≦B≦7/20×T …式(2)
A≦B …式(3)
を満たす、前記[1]~[4]のいずれかに記載の染色方法。
[6]前記給水から前記第三温度保持工程の終了までの総時間期間が100分以下である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の染色方法。
[7]前記総時間期間が80分以下である、前記[6]に記載の染色方法。
[8]前記分割投入の最終段階目の投入から前記第三温度保持工程の終了までの染色反応時間期間が20分以上50分以下である、前記[1]~[7]のいずれかに記載の染色方法。
[9]前記染色反応時間期間が40分以上である、前記[8]に記載の染色方法。
[10]前記第三温度を60℃以下に維持する、前記[1]~[9]のいずれかに記載の染色方法。
[11]前記分割投入の時間間隔が5分~17分である、前記[1]~[10]のいずれかに記載の染色方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の染色方法によれば、前記した特殊な専用設備を用いない従来技術の吸尽染色方法と比較して染色時間が極めて短縮されるため、消費電力量や消費蒸気量といったエネルギー消費が低減されることで、CO2の排出量が大幅に削減される。また、本発明の染色方法は、前記した特殊な専用設備を用いた従来技術の吸尽染色方法と比較すれば、関連する設備投資を必要とせずに染色操作を簡素化するため経済的にも効果的であり、さらには、遜色ない、堅牢性の高い均一な染色物を得ることができる。すなわち、本発明の染色方法は、染色時間を短縮化することによりCO2排出量を削減しつつ、染色操作を簡素化した、染色堅牢度の高い色ムラがない均一な染色物を得ることができるセルロース系繊維生地の新規染色方法である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の染色方法に用いることができる液流染色機の概略図である。
【
図2】実施例1~4の投入タイミング、経過時間の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフである。
【
図3】実施例5の投入タイミング、経過時間の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフである。
【
図4】実施例6の投入タイミング、経過時間の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフである。
【
図5】実施例7の投入タイミング、経過時間の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフである。
【
図6】実施例8、9の投入タイミング、経過時間の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフである。
【
図7】実施例10~12の投入タイミング、経過時間の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフである。
【
図8】実施例13の投入タイミング、経過時間の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフである。
【
図9】実施例14の投入タイミング、経過時間の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフである。
【
図10】実施例15の投入タイミング、経過時間の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフである。
【
図11】比較例1の投入タイミング、経過時間の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフである。
【
図12】比較例2の投入タイミング、経過時間の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフである。
【
図13】比較例3の投入タイミング、経過時間の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフである。
【
図14】比較例4の投入タイミング、経過時間の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフである。
【
図15】比較例5の投入タイミング、経過時間の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフである。
【
図16】比較例6の投入タイミング、経過時間の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフである。
【
図17】比較例7の投入タイミング、経過時間の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の1実施形態は、セルロース系繊維の又はセルロース系繊維を含む繊維製品の染色方法であって、以下の行程:
染色浴に、5℃以上30℃未満の第一温度領域、又は、30℃以上40℃未満の第二温度領域の水を給水するとともに、セルロース系繊維の又はセルロース系繊維を含む繊維製品を投入する工程、但し、該給水と該投入の前後は問わない;
該第一温度領域から30℃以上40℃未満の第二温度領域まで、及び該第二温度領域から40℃以上70℃以下の第三温度領域まで昇温する、あるいは、該第二温度領域から40℃以上70℃以下の第三温度領域まで昇温する昇温工程;
該第三温度領域内で所定期間、第三温度を保持する工程;
該第一温度領域以上の温度で、反応染料を投入する工程;並びに
該第二温度領域以上の温度で、該反応染料を投入する工程とは別に、無機塩類とアルカリ剤の混合物を、3回以上に分けて分割投入する工程;
を含む、染色方法である。分割投与の回数は5回以下が好ましい。
【0016】
本実施形態の染色方法によって染色されるセルロース系繊維の又はセルロース系繊維を含む繊維製品の形態には、特に制限はなく、糸、織物、緯編物、不織布、縫製加工品など、各種の形態のものが挙げられる。セルロース系繊維にも、特に制限はなく、綿、麻、レーヨン、キュプラアンモニウムレーヨン、リヨセル、有機溶媒法セルロース繊維、イオン液体法セルロース繊維などが例示されるが、好ましくは綿、レーヨン、キュプラアンモニウムレーヨン、リヨセル、有機溶媒法セルロース繊維であり、より好ましくは綿、レーヨンである。本実施形態の染色方法によって染色されるセルロース系繊維を含む繊維製品のセルロース系繊維以外の繊維については、公知の染色方法と組み合わせて染色することができる。
【0017】
本実施形態の染色方法に用いられる設備には、特に制限はないが、好ましくは、チーズ染色機、かせ染め機、液流染色機、気流染色機、ビーム染色機、ジッガー染色機、ウインス染色機、ロータリー染色機、パドル染色機であり、より好ましくは、チーズ染色機、かせ染め機、液流染色機、ビーム染色機、ジッガー染色機、ウインス染色機であり、さらに好ましくは、チーズ染色機、かせ染め機、液流染色機、ウインス染色機であり、最も好ましくは液流染色機である。
図1に液流染色機の概要を例示する。染色設備は、好ましくは、昇温や温度調整装置、攪拌装置、無機塩類とアルカリ剤の混合物(溶液)を予め調製・貯蔵しておき、染色設備の染色浴に分割投入できる機能を有し、無機塩類とアルカリ剤の両者を溶かした溶液を貯留したリザーブタンク2を備える。
図1に例示する液流染色機1を用いれば、熱交換器3により染色浴6温度を調節しつつ、生地5を移動させながら、ノズル4を介して、リザーブタンク2内の無機塩類とアルカリ剤の両者を溶かした溶液を、染色液に投入(添加)することで、染色反応を効率よく実施することができる。尚、リザーブタンクに反応染料を溶かした溶液を準備し、これを染色装置内に投入し、その後、無機塩類とアルカリ剤の混合物(溶液)を溶かした溶液を準備し、これを染色装置内に投入し、さらに無機塩類とアルカリ剤の混合物(溶液)を溶かした溶液を準備し、これを染色装置内に投入することで、該反応染料を投入する工程とは別に、無機塩類とアルカリ剤の混合物を、3回以上に分けて分割投入することが可能となる。分割投与の回数は5回以下が好ましい。
【0018】
本実施形態の染色方法は、染色浴に、5℃以上30℃未満の第一温度領域、又は、30℃以上40℃未満の第二温度領域の水を給水するとともに、セルロース系繊維の又はセルロース系繊維を含む繊維製品を投入する工程を含む。ここで、該給水と該投入の前後は問わない。
第一温度領域は、環境温度である5℃以上30℃未満であることが好ましい。5℃未満では昇温にかかるエネルギー消費量が大きくなるためCO2の排出量が大きくなる。
【0019】
本実施形態の染色方法は、第一温度領域から30℃以上40℃未満の第二温度領域まで、及び該第二温度領域から40℃以上70℃以下の第三温度領域まで昇温する、あるいは、該第二温度領域から40℃以上70℃以下の第三温度領域まで昇温する昇温工程を含む。
第二温度領域は、30℃以上40℃未満であることが好ましい。30℃未満では反応性染料の反応速度が低下するため、目的の色相濃度が得難い場合や堅牢度が低下する場合があり、40℃以上では昇温にかかるエネルギー消費量が増加し、それに伴いCO2の排出量が増加する。
第三温度領域は40℃以上70℃以下であることが好ましく、より好ましくは40℃以上60℃以下である。40℃未満では反応性染料の反応速度が低下するため、目的の色相濃度が得難い場合や堅牢度が低下する場合があり、70℃を超えると昇温にかかるエネルギー消費量が増加し、それに伴いCO2の排出量が増加する。
【0020】
本実施形態の染色方法は、第三温度領域内で所定期間、第三温度を保持する工程を含む。
第三温度領域で保持する第三温度保持工程の時間は、10分以上70分以下であることが好ましい。10分以下では反応性染料の反応率が低下するため、目的の色相濃度が得難い場合や堅牢度が低下する場合があり、70分を超えると設備の稼働に要する電力や染色浴の温度保持に要する蒸気量等のエネルギー消費量が増加し、それに伴いCO2の排出量が増加する。
本実施形態の染色方法は、第二温度領域内で所定期間、温度を保持する工程をさらに含むことができる。第二温度領域で保持する第二温度保持工程の時間は、10分以上70分以下であることが好ましい。
【0021】
第一温度領域から第二温度領域まで、及び第二温度領域から第三温度領域までの昇温工程における昇温速度には、特に制限はないが、好ましくは1℃/分以上4℃/分以下であり、さらに好ましくは1℃/分以上2℃/分以下である。
本実施形態の染色方法は、第一温度領域以上の温度で、反応染料を投入する工程を含む。但し、反応染料を投入開始後に、無機塩類とアルカリ剤の混合物の投入を開始する。
【0022】
本実施形態の染色方法は、第二温度領域以上の温度で、反応染料を投入する工程とは別に、無機塩類とアルカリ剤の混合物を、3回以上に分けて分割投入する工程を含む。分割投与の回数は5回以下が好ましい。無機塩類とアルカリ剤を混合せずに投入すると、それぞれの投入に時間を要するため、設備の稼働に要する電力と染色浴の温度保持に要する蒸気量等のエネルギー消費量が増加し、それに伴いCO2の排出量が増加する。分割せずに1回で投入すると、反応性染料がセルロース系繊維に瞬く間に吸着されるため、得られた染色物には強い色ムラが発生し、それに伴い染色堅牢度も評価不能となる。
また、分割投与の回数が6回以上では長時間を要するため、設備の稼働に要する電力と染色浴の温度保持に要する蒸気量等のエネルギー消費量が増加し、それに伴いCO2の排出量が増加する。
第三温度領域内で、前記無機塩類とアルカリ剤の混合物の全ての分割投入を行うこと、又は、第二温度領域内で、前記無機塩類とアルカリ剤の混合物の全ての分割投入を行うことが好ましい。
前記した昇温工程の間に該分割投入してもよいが、その場合、昇温作業と投入作業を並行した作業が必要となるため、色ムラ抑制の観点からは、温度が所定範囲内で保持される第二温度領域内又は第三温度領域内で、全ての分割投入を終了させることが好ましい。尚、前記分割投入の時間間隔としては、染色反応制御の観点から、また、作業性の観点から、5分~17分であることが好ましく、より好ましくは7分~15分、さらに好ましくは8分~12分である。
分割投入の最終段階目の投入から第三温度保持工程の終了までの染色反応時間期間が20分以上50分以下であることが好ましく、40分以上50分以下がより好ましい。20分未満では反応性染料の反応率が低下するため、目的の色相濃度が得難い場合や堅牢度が低下する場合があり、50分を超えると設備の稼働に要する電力と染色浴の温度保持に要する蒸気量等のエネルギー消費量が増加し、それに伴いCO2の排出量が増加する。
【0023】
分割の割合に、特に制限はないが、前記分割投入を、3回以上5回以下で行い、無機塩類とアルカリ剤の混合物の全量をT(g)、1段階目の投入量をA(g)、2段階目の投入量をB(g)とするとき、以下の式(1)~(3):
1/20×T≦A≦5/20×T …式(1)
1/20×T≦B≦7/20×T …式(2)
A≦B …式(3)
を満たすことが好ましい。
式(1)~(3)を満たさない場合では、色ムラが発生し均一な染色物が得られない場合があり、また、堅牢度が低下する場合がある。
【0024】
本実施形態の染色方法では、前記給水から前記第三温度保持工程の終了までの総時間期間が100分以下であることが好ましく、より好ましくは80分以下である。
また、本実施形態の染色方法では、編物の回転速度を30秒/サイクルから180秒/サイクルに設定することが、染めムラの抑制および表面品位の低下を抑制する観点から好ましい。
【0025】
本実施形態の染色方法に用いる、染色浴中の染色液(染液)は、1種又はそれ以上の反応性染料と、所望により分散剤、湿潤剤、浴中柔軟剤、浴中平滑剤、乳化剤等の成分を含むことができる。反応性染料としては、少なくとも1個のセルロース系繊維と反応する官能基、例えば、モノクロロトリアジニル、モノフロロトリアジニル、フロロクロロピリミジニル、ジクロロキノキザニル、ビニルスルホニル、スルファトエチルスルホニル等の官能基を有する反応染料、又は、それらの官能基を複数有する多官能型の染料等が挙げられ、20℃以上100℃以下の温度、及びpH8以上13以下においてセルロース繊維と反応するようなものである。また、反応性染料を投入する染料投入工程は、無機塩類とアルカリ剤の混合物の分割投入よりも前に実施されることが好ましい。
【0026】
本実施形態の染色方法に用いる無機塩類としては、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、又はそれらの混合物等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。アルカリ剤としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、メタケイ酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、又はそれらの混合物等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
また、無機塩類とアルカリ剤の投入量は、被染色物の重量、色相濃度、及び浴比(被染色物の重量:染色液の重量(比重1として計算))によって決まる。無機塩類の投入総量(g/L(染色液))としては通常は1~200g/Lであり、好ましくは1~100g/L、さらに好ましくは1~80g/Lである。アルカリ剤の投入総量(g/L)としては通常は0.1~50g/Lであり、好ましくは1~20g/Lである。
浴比は、通常、1:1~1:100であり、好ましくは1:5~1:30である。
【0027】
本実施形態の染色方法は、第三温度保持工程の終了をもって完了し、その後、染色液を染色浴から排出した後、残存する染料を除去するための洗浄工程を経ることになる。洗浄作業としては公知の方法でよいが、浴比1:5以上で10℃以上40℃以下の温度において5分以上の水洗工程を少なくとも1回以上、及び、浴比1:5以上で60℃以上の温度において5分以上の湯洗工程を少なくとも1回以上を任意に組み合わせることにより行うことができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例、比較例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、実施例におけるCO2排出量削減量の算出、及び各糸又は繊維製品の各種評価は下記の方法で行った。
【0029】
(1)CO2排出量削減量の算出
染色機の運転にかかる消費電力量および消費蒸気量を測定し次式:
W=E×α+S×β
{式中、W:CO2排出量(kg-CO2e)、E:消費電力量(MJ)、S:消費蒸気量(MJ)、α:電力のCO2原単位(kg-CO2e/MJ)、そしてβ:蒸気のCO2原単位(kg-CO2e/MJ)である。}によりCO2排出量(kg-CO2e)を求めた。ここで、αとβは、ある時点での電力と蒸気のCO2原単位(kg-CO2e/MJ)であり、環境省が公開している値である。ある時点のCO2原単位は、特に限定されるものではないが、前記した非特許文献1:「参考資料2 温室効果ガス排出量計算のための算定式及び排出係数一覧(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/suishin_g/3rd_edition/ref2.pdf)」のCO2原単位を例示することができる。例えば、電力の原単位であるαは0.1542(kg-CO2e/MJ)であり、蒸気の原単位であるβは0.0600(kg-CO2e/MJ)であることができる。以下の実施例、比較例においてはα=0.1542(kg-CO2e/MJ)、β=0.0600(kg-CO2e/MJ)の原単位を使用することでCO2排出量(kg-CO2e)を求めた。このCO2排出量が30(kg-CO2e)未満であればCO2排出量が削減されている、30(kg-CO2e)以上であればCO2排出量が削減されていないと判断した。
【0030】
(2)色ムラ(斑)
染色した繊維製品について、その中からランダムに選定した5箇所について、分光光度計(Gretagmacbeth社製、形式Color-Eye7000A)を用いて、D56光源、視野角10度の条件で測色し、CIE1976L*a*b*色空間におけるL*値、a*値、及びb*値をそれぞれ求めた。次に、測色した5箇所から2箇所を選ぶ組み合わせの総数である10通り全てについて、選択した2箇所のL*値、a*値、及びb*値の差分である、ΔL*値、Δa*値、及びΔb*値を求め、次式:
ΔE=((ΔL*)^2+(Δa*)^2+(Δb*)^2)^1/2
により、それぞれのΔE値を求め、10通りのΔE値から最大となるΔE値を求めた。この最大となるΔE値が1.5以上であれば色ムラ「あり」、1.5未満であれば色ムラ「なし」と判断した。
【0031】
(3)染色汗堅牢度
JIS L 0848に規定の汗に対する染色堅牢度試験方法に準じた汗堅牢度の試験を行い、4級以上を「良好」、4級未満を「不良」、染色した繊維製品に色ムラ(斑)がある場合は「評価不能」として判定した。また、添付白布として、JIS L 0803に準拠した8種類の繊維(綿、ナイロン、アセテート、毛、レーヨン、アクリル、絹、及びポリエステル)をたてじま状に交織した多繊交織布を使用した。
【0032】
[実施例1]
液流染色機中に第一温度領域である20℃の水100部を給水し、未シルケット綿からなる編物5部を投入し、編物の回転速度を90秒/サイクルに調整した後に、液温を第三温度領域である40℃にした後に、染料投入工程として、予め溶解させたDyStar社製の反応性染料Procion Red H-E3B 0.26部を投入した。次いで、第一段目の分割投入工程として、予め溶解させた無水芒硝5部の2/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の2/20の量を混合した溶液を10分以内に投入した。第一段目の投入開始から10分後に、第二段目の分割投入工程として、予め溶解させた無水芒硝5部の6/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の6/20の量を混合した溶液を10分以内に投入した。第二段目の投入開始から10分後に、第三段目の分割投入工程として、予め溶解させた無水芒硝5部の12/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の12/20の量を混合した溶液を10分以内に投入した。第三段目の投入開始から10分後に、液温を第三温度領域である60℃まで10分で加熱し、60℃で30分間染色した後に、染色液を排出し、その後、公知の方法で洗浄作業を行い、乾燥して染色物を得た。投入タイミング、経過時間、CO
2排出量(kg-CO
2e)の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフを、
図2に、評価結果を以下の表1に示す。
【0033】
[実施例2]
分割投入工程における第一段目の投入量が無水芒硝5部の1/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の1/20の量、第二段目の投入量が無水芒硝5部の3/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の3/20の量、第三段目の投入量が無水芒硝5部の16/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の16/20の量であること以外は、実施例1と同様にして、染色した後、染色液を排出し、その後、公知の方法で洗浄作業を行い、乾燥して染色物を得た。投入タイミング、経過時間、CO
2排出量(kg-CO
2e)の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフを、
図2に、評価結果を以下の表1に示す。
【0034】
[実施例3]
分割投入工程における第一段目の投入量が無水芒硝5部の1/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の1/20の量、第二段目の投入量が無水芒硝5部の7/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の7/20の量、第三段目の投入量が無水芒硝5部の12/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の12/20の量であること以外は、実施例1と同様にして、染色した後、染色液を排出し、その後、公知の方法で洗浄作業を行い、乾燥して染色物を得た。投入タイミング、経過時間、CO
2排出量(kg-CO
2e)の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフを、
図2に、評価結果を以下の表1に示す。
【0035】
[実施例4]
分割投入工程における第一段目の投入量が無水芒硝5部の5/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の5/20の量、第二段目の投入量が無水芒硝5部の7/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の7/20の量、第三段目の投入量が無水芒硝5部の8/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の8/20の量であること以外は、実施例1と同様にして、染色した後に、染色液を排出し、その後、公知の方法で洗浄作業を行い、乾燥して染色物を得た。投入タイミング、経過時間、CO
2排出量(kg-CO
2e)の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフを、
図2に、評価結果を以下の表1に示す。
【0036】
[実施例5]
液流染色機中に第一温度領域である20℃の水100部を給水し、未シルケット綿からなる編物5部を投入し、編物の回転速度を90秒/サイクルに調整した後に、予め溶解させたDyStar社製の反応性染料Procion Red H-E3B 0.26部を投入し、液温を第三温度領域である60℃まで20分で加熱した。次いで、第一段目の分割投入工程として、予め溶解させた無水芒硝5部の2/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の2/20の量を混合した溶液を10分以内に投入した。第一段目の投入開始から10分後に、第二段目の分割投入工程として、予め溶解させた無水芒硝5部の6/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の6/20の量を混合した溶液を10分以内に投入した。第二段目の投入開始から10分後に、第三段目の分割投入工程として、予め溶解させた無水芒硝5部の12/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の12/20の量を混合した溶液を10分以内に投入した。第三段目の投入開始から60℃で20分間染色した後に、染色液を排出し、その後、公知の方法で洗浄作業を行い、乾燥して染色物を得た。投入タイミング、経過時間、CO
2排出量(kg-CO
2e)の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフを、
図3に、評価結果を以下の表1に示す。
【0037】
[実施例6]
分割投入工程における第三段目の投入開始から60℃で30分間染色したこと以外は、実施例5と同様にして、染色した後に、染色液を排出し、その後、公知の方法で洗浄作業を行い、乾燥して染色物を得た。投入タイミング、経過時間、CO
2排出量(kg-CO
2e)の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフを、
図4に、評価結果を以下の表1に示す。
【0038】
[実施例7]
液流染色機中に第一温度領域である20℃の水100部を給水し、未シルケット綿からなる編物5部を投入し、編物の回転速度を90秒/サイクルに調整した後に、予め溶解させたDyStar社製の反応性染料Procion Red H-E3B 0.26部を投入し、液温を第三温度領域である50℃まで10分で加熱した。次いで、第一段目の分割投入工程として、予め溶解させた無水芒硝5部の2/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の2/20の量を混合した溶液を10分以内に投入した。第一段目の投入開始から10分後に、第二段目の分割投入工程として、予め溶解させた無水芒硝5部の6/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の6/20の量を混合した溶液を10分以内に投入した。第二段目の投入開始から10分後に、第三段目の分割投入工程として、予め溶解させた無水芒硝5部の12/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の12/20の量を混合した溶液を10分以内に投入した。第三段目の投入開始から50℃で50分間染色した後に、染色液を排出し、その後、公知の方法で洗浄作業を行い、乾燥して染色物を得た。投入タイミング、経過時間、CO
2排出量(kg-CO
2e)の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフを、
図5に、評価結果を以下の表1に示す。
【0039】
[実施例8]
分割投入工程における第一段目の投入量が無水芒硝5部の2/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の2/20の量、第二段目の投入量が無水芒硝5部の4/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の4/20の量、第三段目の投入量が無水芒硝5部の6/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の6/20の量、第四段目の投入量が無水芒硝5部の8/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の8/20の量であること以外は、実施例1と同様にして、染色した後に、染色液を排出し、その後、公知の方法で洗浄作業を行い、乾燥して染色物を得た。投入タイミング、経過時間、CO
2排出量(kg-CO
2e)の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフを、
図6に、評価結果を以下の表1に示す。
【0040】
[実施例9]
分割投入工程における第一段目の投入量が無水芒硝5部の5/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の5/20の量、第二段目の投入量が無水芒硝5部の5/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の5/20の量、第三段目の投入量が無水芒硝5部の5/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の5/20の量、第四段目の投入量が無水芒硝5部の5/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の5/20の量であること以外は、実施例8と同様にして、染色した後に、染色液を排出し、その後、公知の方法で洗浄作業を行い、乾燥して染色物を得た。投入タイミング、経過時間、CO
2排出量(kg-CO
2e)の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフを、
図6に、評価結果を以下の表2に示す。
【0041】
[実施例10]
分割投入工程における第一段目の投入量が無水芒硝5部の2/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の2/20の量、第二段目の投入量が無水芒硝5部の3/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の3/20の量、第三段目の投入量が無水芒硝5部の4/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の4/20の量、第四段目の投入量が無水芒硝5部の5/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の5/20の量、第五段目の投入量が無水芒硝5部の6/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の6/20の量であること以外は、実施例1と同様にして、染色した後に、染色液を排出し、その後、公知の方法で洗浄作業を行い、乾燥して染色物を得た。投入タイミング、経過時間、CO
2排出量(kg-CO
2e)の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフを、
図7に、評価結果を以下の表2に示す。
【0042】
[実施例11]
分割投入工程における第一段目の投入量が無水芒硝5部の4/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の4/20の量、第二段目の投入量が無水芒硝5部の4/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の4/20の量、第三段目の投入量が無水芒硝5部の4/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の4/20の量、第四段目の投入量が無水芒硝5部の4/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の4/20の量、第五段目の投入量が無水芒硝5部の4/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の4/20の量であること以外は、実施例10と同様にして、染色した後に、染色液を排出し、その後、公知の方法で洗浄作業を行い、乾燥して染色物を得た。投入タイミング、経過時間、CO
2排出量(kg-CO
2e)の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフを、
図7に、評価結果を以下の表2に示す。
【0043】
[実施例12]
分割投入工程における第一段目の投入量が無水芒硝5部の1/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の1/20の量、第二段目の投入量が無水芒硝5部の1/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の1/20の量、第三段目の投入量が無水芒硝5部の3/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の3/20の量、第四段目の投入量が無水芒硝5部の3/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の3/20の量、第五段目の投入量が無水芒硝5部の12/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の12/20の量であること以外は、実施例10と同様にして、染色した後に、染色液を排出し、その後、公知の方法で洗浄作業を行い、乾燥して染色物を得た。投入タイミング、経過時間、CO
2排出量(kg-CO
2e)の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフを、
図7に、評価結果を以下の表2に示す。
【0044】
[実施例13]
液流染色機中に第一温度領域である20℃の水100部を給水し、未シルケット綿からなる編物5部を投入し、編物の回転速度を90秒/サイクルに調整した後に、液温を第三温度領域である40℃にした後に、染料投入工程として、予め溶解させたDyStar社製の反応性染料Procion Red H-E3B 0.26部を投入した。次いで、第一段目の分割投入工程として、予め溶解させた無水芒硝5部の2/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の2/20の量を混合した溶液を17分以内に投入した。第一段目の投入開始から17分後に、第二段目の分割投入工程として、予め溶解させた無水芒硝5部の6/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の6/20の量を混合した溶液を17分以内に投入した。第二段目の投入開始から17分後に、第三段目の分割投入工程として、予め溶解させた無水芒硝5部の12/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の12/20の量を混合した溶液を17分以内に投入した。第三段目の投入開始から17分後に、液温を第三温度領域である60℃まで10分で加熱し、60℃で30分間染色した後に、染色液を排出し、その後、公知の方法で洗浄作業を行い、乾燥して染色物を得た。投入タイミング、経過時間、CO
2排出量(kg-CO
2e)の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフを、
図8に、評価結果を以下の表2に示す。
【0045】
[実施例14]
液流染色機中に第一温度領域である20℃の水100部を給水し、未シルケット綿からなる編物5部を投入し、編物の回転速度を90秒/サイクルに調整した後に、液温を第三温度領域である40℃にした後に、染料投入工程として、予め溶解させたDyStar社製の反応性染料Procion Red H-E3B 0.26部を投入した。次いで、第一段目の分割投入工程として、予め溶解させた無水芒硝5部の4/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の4/20の量を混合した溶液を5分以内に投入した。第一段目の投入開始から5分後に、第二段目の分割投入工程として、予め溶解させた無水芒硝5部の4/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の4/20の量を混合した溶液を5分以内に投入した。第二段目の投入開始から5分後に、第三段目の分割投入工程として、予め溶解させた無水芒硝5部の4/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の4/20の量を混合した溶液を5分以内に投入した。第三段目の投入開始から5分後に、第四段目の分割投入工程として、予め溶解させた無水芒硝5部の4/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の4/20の量を混合した溶液を5分以内に投入した。第四段目の投入開始から5分後に、第五段目の分割投入工程として、予め溶解させた無水芒硝5部の4/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の4/20の量を混合した溶液を5分以内に投入した。第五段目の投入開始から5分後に、液温を第三温度領域である60℃まで10分で加熱し、60℃で30分間染色した後に、染色液を排出し、その後、公知の方法で洗浄作業を行い、乾燥して染色物を得た。投入タイミング、経過時間、CO
2排出量(kg-CO
2e)の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフを、
図9に、評価結果を以下の表2に示す。
【0046】
[実施例15]
分割投入工程における第一段目の投入量が無水芒硝5部の1/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の1/20の量、第二段目の投入量が無水芒硝5部の1/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の1/20の量、第三段目の投入量が無水芒硝5部の3/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の3/20の量、第四段目の投入量が無水芒硝5部の3/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の3/20の量、第五段目の投入量が無水芒硝5部の6/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の6/20の量、第六段目の投入量が無水芒硝5部の6/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の6/20の量であること以外は、実施例1と同様にして、染色した後に、染色液を排出し、その後、公知の方法で洗浄作業を行い、乾燥して染色物を得た。投入タイミング、経過時間、CO2排出量(kg-CO2e)の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフを、
図10に、評価結果を以下の表2に示す。
【0047】
[比較例1]
液流染色機中に第一温度領域である20℃の水100部を給水し、未シルケット綿からなる編物5部を投入し、編物の回転速度を90秒/サイクルに調整した後に、液温を第三温度領域である40℃にした後に、染料投入工程として、予め溶解させたDyStar社製の反応性染料Procion Red H-E3B 0.26部を投入した。次いで、第一段目の塩の投入工程として、予め溶解させた無水芒硝5部の2/20の量を5分以内に投入した。第一段目の投入開始から5分後に、第二段目の塩の投入工程として、予め溶解させた無水芒硝5部の6/20の量を5分以内に投入した。第二段目の投入開始から5分後に、第三段目の塩の投入工程として、予め溶解させた無水芒硝5部の12/20の量を5分以内に投入した。次に、第三段目の塩の投入開始から5分後に、第一段目のアルカリ剤の投入工程として、予め溶解させた炭酸ナトリウム5部の2/20の量を5分以内に投入した。第一段目の投入開始から5分後に、第二段目のアルカリ剤の投入工程として、予め溶解させた炭酸ナトリウム5部の6/20の量を5分以内に投入した。第二段目の投入開始から5分後に、第三段目のアルカリ剤の投入工程として、予め溶解させた炭酸ナトリウム5部の12/20の量を5分以内に投入した。第三段目のアルカリ剤の投入開始から5分後に、液温を第三温度領域である60℃まで10分で加熱し、60℃で30分間染色した後に、染色液を排出し、その後、公知の方法で洗浄作業を行い、乾燥して染色物を得た。投入タイミング、経過時間、CO
2排出量(kg-CO
2e)の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフを、
図11に、評価結果を以下の表3に示す。
【0048】
[比較例2]
液流染色機中に第一温度領域である20℃の水100部を給水し、未シルケット綿からなる編物5部を投入し、編物の回転速度を90秒/サイクルに調整した後に、液温を第三温度領域である40℃にした後に、染料投入工程として、予め溶解させたDyStar社製の反応性染料Procion Red H-E3B 0.26部を投入した。次いで、予め溶解させた無水芒硝5部および炭酸ナトリウム1.5部を混合した溶液を分割せずに一気に投入した。無水芒硝および炭酸ナトリウムの混合溶液の投入から30分後に、液温を第三温度領域である60℃まで10分で加熱し、60℃で30分間染色した後に、染色液を排出し、その後、公知の方法で洗浄作業を行い、乾燥して染色物を得た。投入タイミング、経過時間、CO
2排出量(kg-CO
2e)の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフを、
図12に、評価結果を以下の表3に示す。
【0049】
[比較例3]
液流染色機中に第一温度領域である20℃の水100部を給水し、未シルケット綿からなる編物5部を投入し、編物の回転速度を90秒/サイクルに調整した後に、予め溶解させたDyStar社製の反応性染料Procion Red H-E3B 0.26部を投入し、液温を第三温度領域である60℃まで20分で加熱した。次いで、第一段目の塩の分割投入工程として、予め溶解させた無水芒硝5部の2/20の量を10分以内に投入した。第一段目の投入開始から10分後に、第二段目の塩の投入工程として、予め溶解させた無水芒硝5部の6/20の量を10分以内に投入した。第二段目の投入開始から10分後に、第三段目の塩の投入工程として、予め溶解させた無水芒硝5部の12/20の量を10分以内に投入した。次に、第三段目の塩の投入開始から30分後に、第一段目のアルカリ剤の投入工程として、予め溶解させた炭酸ナトリウム5部の2/20の量を10分以内に投入した。第一段目の投入開始から10分後に、第二段目のアルカリ剤の投入工程として、予め溶解させた炭酸ナトリウム5部の6/20の量を10分以内に投入した。第二段目の投入開始から10分後に、第三段目のアルカリ剤の投入工程として、予め溶解させた炭酸ナトリウム5部の12/20の量を投入した。第三段目のアルカリ剤の投入開始から60℃で70分間染色した後に、染色液を排出し、その後、公知の方法で洗浄作業を行い、乾燥して染色物を得た。投入タイミング、経過時間、CO
2排出量(kg-CO
2e)の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフを、
図13に、評価結果を以下の表3に示す。
【0050】
[比較例4]
液流染色機中に第一温度領域である20℃の水100部を給水し、未シルケット綿からなる編物5部を投入し、編物の回転速度を90秒/サイクルに調整した後に、液温を第三温度領域である40℃にした後に、染料投入工程として、予め溶解させたDyStar社製の反応性染料Procion Red H-E3B 0.26部を投入した。次いで、予め溶解させた無水芒硝5部および炭酸ナトリウム1.5部を混合した溶液を分割せずに1回で全量投入した。無水芒硝および炭酸ナトリウムの混合溶液の投入直後に、液温を第三温度領域である60℃まで20分で加熱し、60℃で30分間染色した後に、染色液を排出し、その後、公知の方法で洗浄作業を行い、乾燥して染色物を得た。投入タイミング、経過時間、CO
2排出量(kg-CO
2e)の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフを、
図14に、評価結果を以下の表3に示す。
【0051】
[比較例5]
液流染色機中に第一温度領域である20℃の水100部を給水し、未シルケット綿からなる編物5部を投入し、編物の回転速度を90秒/サイクルに調整した後に、液温を第三温度領域である40℃にした後に、染料投入工程として、予め溶解させたDyStar社製の反応性染料Procion Red H-E3B 0.26部を投入した。次いで、予め溶解させた無水芒硝5部および炭酸ナトリウム1.5部を、分速1/30部の線速度で、リアルタイムで計量が可能な染色浴内に薬剤を添加するための専用の設備を使用して30分間かけて投入した。投入の完了後、液温を40℃で90分間染色した後に、染色液を排出し、その後、公知の方法で洗浄作業を行い、乾燥して染色物を得た。投入タイミング、経過時間、CO
2排出量(kg-CO
2e)の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフを、
図15に、評価結果を以下の表3に示す。
【0052】
[比較例6]
液流染色機中に第一温度領域である20℃の水100部を給水し、未シルケット綿からなる編物5部を投入し、編物の回転速度を90秒/サイクルに調整した後に、予め溶解させたDyStar社製の反応性染料Procion Red H-E3B 0.26部を投入し、液温を第三温度領域である60℃まで2.5分で加熱した。次いで、予め溶解させた無水芒硝5部および炭酸ナトリウム1.5部を、分速1/15部の線速度で、リアルタイムで計量が可能な染色浴内に薬剤を添加するための専用の設備を使用して15分間かけて投入した。投入の完了後、液温を60℃で20分間染色した後に、染色液を排出し、その後、公知の方法で洗浄作業を行い、乾燥して染色物を得た。投入タイミング、経過時間、CO
2排出量(kg-CO
2e)の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフを、
図16に、評価結果を以下の表3に示す。
【0053】
[比較例7]
分割投入工程における第一段目の投入量が無水芒硝5部の5/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の5/20の量、第二段目の投入量が無水芒硝5部の15/20の量および炭酸ナトリウム1.5部の15/20の量であること以外は、実施例1と同様にして、染色した後に、染色液を排出し、その後、公知の方法で洗浄作業を行い、乾燥して染色物を得た。投入タイミング、経過時間、CO
2排出量(kg-CO
2e)の表、並びに時間と温度の関係を示すグラフを、
図17に、評価結果を以下の表3に示す。
【0054】
実施例1~15、及び比較例1~7で得た染色物について、CO2排出量削減量の算出、色ムラの評価、及び染色堅牢度の評価を実施した。評価結果を以下の表1~3に示す。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
実施例1~15では、CO2排出量が大幅に削減され、得られた染色物は色ムラも無く均一に染色され、更には高堅牢度を有することが分かる。
比較例1の短時間化だけを行い、塩とアルカリを混合せず別々に投入した染色方法、比較例2と比較例4の短時間化だけを行い、塩とアルカリを分割投入せずに一括して一気に投入した染色方法では、CO2排出量が大幅に削減されている一方で、得られた染色物には強い色ムラが発生し、それに伴い染色堅牢度も評価不能となった。
比較例3の染色方法では、得られた染色物は色ムラも無く均一に染色され、高堅牢度を有している一方で、長時間を要することによりCO2排出量が多くなった。
比較例5の染色方法では、得られた染色物は色ムラも無く均一に染色され、高堅牢度を有している一方で、長時間を要することによりCO2排出量が多くなった。また、混合分割投入工程の分割回数が30回と非常に多いため人の手では不可能であり、分速1/30部の線速度で、リアルタイムで計量が可能な染色浴内に薬剤を添加するための専用の設備を要するため汎用性に乏しいものである。
比較例6の染色方法では、CO2排出量が大幅に削減されている一方で、得られた染色物には強い色ムラが発生し、それに伴い染色堅牢度も評価不能となった。また、混合分割投入工程の分割回数が30回と非常に多いため人の手では不可能であり、分速1/30部の線速度で、リアルタイムで計量が可能な染色浴内に薬剤を添加するための専用の設備を要するため汎用性に乏しいものである。
比較例7の混合分割投入における分割回数を2回に抑えて短時間化を行った染色方法では、CO2排出量が大幅に削減されている一方で、得られた染色物には強い色ムラが発生し、それに伴い染色堅牢度も評価不能となった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明により、染色時間が短縮化されたことによりCO2の排出量が削減される、染色操作の簡素化に対して効果的な、堅牢性の高い均一な染色物を得られる新規染色方法の提供が可能となるため、本発明はセルロース系繊維を含有する繊維製品の染色において、好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 液流染色機
2 リザーブタンク
3 熱交換器
4 ノズル
5 生地
6 染色浴
【要約】
セルロース系繊維の又はセルロース系繊維を含む繊維製品の染色方法であって、以下の行程:染色浴に、5℃以上30℃未満の第一温度領域、又は、30℃以上40℃未満の第二温度領域の水を給水するとともに、セルロース系繊維の又はセルロース系繊維を含む繊維製品を投入する工程、但し、該給水と該投入の前後は問わない;該第一温度領域から30℃以上40℃未満の第二温度領域まで、及び該第二温度領域から40℃以上70℃以下の第三温度領域まで昇温する、あるいは、該第二温度領域から40℃以上70℃以下の第三温度領域まで昇温する昇温工程;該第三温度領域内で所定期間、第三温度を保持する工程;該第一温度領域以上の温度で、反応染料を投入する工程;並びに7 該第二温度領域以上の温度で、該反応染料を投入する工程とは別に、無機塩類とアルカリ剤の混合物を、3回以上に分けて分割投入する工程;を含む、染色方法。