(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-24
(45)【発行日】2025-04-01
(54)【発明の名称】ゴルフシャフト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A63B 53/10 20150101AFI20250325BHJP
A63B 60/48 20150101ALI20250325BHJP
A63B 102/32 20150101ALN20250325BHJP
【FI】
A63B53/10 A
A63B60/48
A63B102:32
(21)【出願番号】P 2025501737
(86)(22)【出願日】2024-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2024035300
【審査請求日】2025-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2024007055
(32)【優先日】2024-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110629
【氏名又は名称】須藤 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100166615
【氏名又は名称】須藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大畑 亮太
(72)【発明者】
【氏名】藤原 甲介
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-036259(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0160065(US,A1)
【文献】特開2014-033831(JP,A)
【文献】特開2005-279098(JP,A)
【文献】特開2001-276288(JP,A)
【文献】米国特許第5692970(US,A)
【文献】特開2018-086194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/00 -53/14
A63B 60/00 -60/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部と基端部との間
の中間部で外径が漸次大きくなるテーパー状の外面を有する中空状の管体を備え、
前記管体は、前記
中間部において、内径の変化によって相対的に肉厚が小さい薄肉部と該薄肉部の軸方向の両側に位置して相対的に肉厚が大きい厚肉部とを備え
、
前記薄肉部は、前記中間部に対する境界部分での前記先端部の内径と前記基端部の内径を結ぶ線分を含む基本形状の対応箇所よりも大きい内径を有する、
ゴルフシャフト。
【請求項2】
請求項1のゴルフシャフトであって、
前記薄肉部は、周回状に設けられている、
ゴルフシャフト。
【請求項3】
請求項
1のゴルフシャフトであって、
前記管体の長さは、838mm~1194mmであり、
前記薄肉部は、前記管体の長さが838mmの場合に、前記管体の先端からの長さが150mm~688mmの範囲に位置し、前記管体の長さが1194mmの場合に、前記管体の先端からの長さが150mm~1044mmの範囲に位置する、
ゴルフシャフト。
【請求項4】
請求項
2のゴルフシャフトであって、
前記厚肉部は、前記基本形状の対応箇所よりも小さい内径を有する、
ゴルフシャフト。
【請求項5】
請求項
1~4の何れか一項のゴルフシャフトであって、
前記管体は、炭素繊維強化プラスチックからなる、
ゴルフシャフト。
【請求項6】
請求項1のゴルフシャフトを製造するゴルフシャフトの製造方法であって、
マンドレルの表面に径方向の突起を位置させつつプリプレグを巻き付け、
前記プリプレグを硬化させることによって中空状の管体を形成する、
ゴルフシャフト
の製造方法。
【請求項7】
請求項6のゴルフシャフトの製造方法であって、
前記突起は、前記マンドレルに一体に設けられた、
ゴルフシャフトの製造方法。
【請求項8】
請求項
6のゴルフシャフトの製造方法であって、
前記突起は、前記マンドレルに対して周回状に設けられている、
ゴルフシャフトの製造方法。
【請求項9】
請求項
6のゴルフシャフトの製造方法であって、
前記突起は、前記マンドレルの先端部の外径及び基端部の外径を結ぶ線分を含む基本形状の対応箇所よりも大きい外径を有する、
ゴルフシャフトの製造方法。
【請求項10】
請求項
6のゴルフシャフトの製造方法であって、
前記管体の長さは、838mm~1194mmであり、
前記突起は、前記管体の長さが838mmの場合に、前記管体の先端からの長さが150mm~688mmの範囲に位置させ、前記管体の長さが1194mmの場合に、前記管体の先端からの長さが150mm~1044mmの範囲に位置させる、
ゴルフシャフトの製造方法。
【請求項11】
請求項
6のゴルフシャフトの製造方法であって、
前記突起の前記軸方向の両側に、前記マンドレルの先端部の外径及び基端部の外径を結ぶ線分を含む基本形状の対応箇所よりも小さい外径を有する凹部を有する、
ゴルフシャフトの製造方法。
【請求項12】
請求項
6~11の何れか一項のゴルフシャフトの製造方法であって、
前記プリプレグは、樹脂を含侵させた炭素繊維シートである、
ゴルフシャフトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフシャフト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブは、スイング時のシャフト(以下、ゴルフシャフトと称する)のしなりを利用することでボールの飛距離や安定性を向上できることが知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、振動数、重量、及びキックポイントの位置を設定することにより、適切にしなり、ボールの飛距離を伸ばすことができるゴルフシャフトが開示されている。
【0004】
しかし、かかる特許文献1のゴルフシャフトは、ユーザーが一定レベル以上である場合に適切なしなりが得られるようになっているため、ユーザーによっては適切なしなりを得ることが困難なものとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする問題点は、ユーザーによっては適切なしなりを得ることが困難な点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、先端部と基端部との間の中間部で外径が漸次大きくなるテーパー状の外面を有する中空状の管体を備えたゴルフシャフトを提供する。前記管体は、前記中間部において、内径の変化によって相対的に肉厚が小さい薄肉部と該薄肉部の軸方向の両側に位置して相対的に肉厚が大きい厚肉部とを備え、前記薄肉部は、前記中間部に対する境界部分での前記先端部の内径と前記基端部の内径を結ぶ線分を含む基本形状の対応箇所よりも大きい内径を有する。
【0008】
また、本発明は、上記ゴルフシャフトの製造方法であって、マンドレルの表面に径方向の突起を位置させつつプリプレグを巻き付け、前記プリプレグを硬化させることによって中空状の管体を形成するゴルフシャフトの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、ユーザーに拘わらず適切なしなりを得ることが可能なゴルフシャフトを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施例に係るゴルフシャフトの概略縦断面図である。
【
図3】
図3(A)及び(B)は、ゴルフシャフトのしなり及びしなり戻りを示す概略図であり、
図3(A)は実施例、
図3(B)は比較例である。
【
図4】
図4は、
図1のゴルフシャフトの薄肉部の潰れを示す横断面図である。
【
図5】
図5は、
図1のゴルフシャフトの薄肉部の潰れ度を概略的に示すグラフである。
【
図6】
図6(A)は、潰れ度の測定方法を示す概略図であり、
図6(B)は潰れ度の測定結果を示すグラフである。
【
図7】
図7(A)及び(B)は、それぞれ異なるユーザーによる試打の結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、ダイナミックアングルとアタックアングルの理想値を示すグラフである。
【
図9】
図9(A)~(C)は、ゴルフシャフト1の製造方法を示す縦断面図であり、
図9(A)はマンドレル、
図9(B)は
図9(A)のマンドレルにプリプレグを巻き付けた状態、
図9(C)は
図9(B)のプリプレグにテープを巻き付けた状態である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ユーザーに拘わらず適切なしなりを得ることが可能なゴルフシャフトを実現するという目的を、ゴルフシャフトの中間部に薄肉部を設けることによって実現した。
【0012】
ゴルフシャフト1は、先端部5と基端部7との間で外径が漸次大きくなるテーパー状の外面を有する中空管状の管体3を備える。管体3は、先端部5と基端部7との間において、内径の変化により、薄肉部11と厚肉部13とを備える。薄肉部11は、相対的に肉厚が小さい。厚肉部13は、この薄肉部11の軸方向の両側に位置して相対的に肉厚が大きい。
【0013】
薄肉部11は、周回状に設け、或いは周方向に部分的に設けてもよい。
【0014】
薄肉部11は、先端部5の内径と基端部7の内径を結ぶ線分を含む基本形状15よりも大きい内径を有するのが好ましい。
【0015】
管体3の長さは、例えば、838mm~1194mmの範囲で設定可能である。薄肉部11は、ユーザーのヘッドスピードやスイングの癖等によって位置を変更可能であるが、管体3の長さが838mmの場合に、管体3の先端3aからの長さが150mm~688mmの範囲に位置し、管体3の長さが1194mmの場合に、管体3の先端3aからの長さが150mm~1044mmの範囲に位置するのが好ましい。
【0016】
厚肉部13は、基本形状15よりも小さい内径を有してもよい。
【0017】
ゴルフシャフト1の管体3の材質は、適宜のものを採用可能であるが、炭素繊維強化プラスチックであってもよい。
【0018】
かかるゴルフシャフト1の製造方法は、マンドレル17の外面17aに径方向の突起19を位置させつつプリプレグ21を巻き付け、プリプレグ21を硬化させることによって、薄肉部11を有する中空状の管体3を形成する。
【0019】
突起19は、マンドレル17に一体に設けられるのが好ましいが、マンドレル17とは別体としてもよい。
【0020】
突起19は、管体3の薄肉部11に応じてマンドレル17に対して周回状に設けられるのが好ましい。
【0021】
また、突起19は、薄肉部11に応じて、マンドレル17の先端部23の外径及び基端部25の外径を結ぶ線分からなる基本形状29よりも大きい外径を有するのが好ましい。
【0022】
突起19は、薄肉部11に応じて、管体3の長さが838mmの場合に、管体3の先端3aからの長さが150mm~688mmの範囲に位置させ、管体3の長さが1194mmの場合に、管体3の先端3aからの長さが150mm~1044mmの範囲に位置させるのが好ましい。
【0023】
突起19の軸方向の両側に、マンドレル17の基本形状29よりも小さい外径を有する凹部20を有してもよい。
【0024】
プリプレグ21は、ゴルフシャフト1の材質に応じて、樹脂を含侵させた炭素繊維シートであってもよい。
【実施例】
【0025】
[ゴルフシャフトの構造]
図1は、本発明の実施例1に係るゴルフシャフトの概略縦断面図である。
図2は、
図1のII-II線に係る横断面図である。なお、縦断面は、ゴルフシャフトの軸方向に沿った断面をいい、横断面は、軸方向に直交する断面をいう。
【0026】
図1のゴルフシャフト1は、繊維強化プラスチック製、特に炭素強化プラスチック製のシャフトであり、中空状の管体3を備える。なお、管体3の材質は特に限定されるものではなく、他の繊維強化プラスチックや金属等の他、コンポジット材とすることも可能である。
【0027】
管体3の横断面における断面形状は円形となっている。ただし、管体3の横断面形状は、楕円等の他の形状としてもよい。管体3の長さは、838mm~1194mmとなっている。ただし、ゴルフシャフト1は、838mmより短く、或いは1194mmより長く設定することも可能であるが、概ね838mm~1194mmの範囲となっている。
【0028】
かかる管体3は、先端部5と、基端部7と、中間部9とで構成されている。
【0029】
先端部5は、軸方向の先端部であり、軸方向での管体3の先端3aから所定範囲の領域をいう。本実施例の先端部5は、ゴルフクラブのヘッドが取り付けられる部分である。この先端部5は、基端3bへ向けて漸次僅かに外径が増加するテーパー状の外面を有している。ただし、先端部5は、外径を一定にしたストレート状に形成してもよい。
【0030】
基端部7は、管体3の軸方向の基端部であり、軸方向での管体3の基端3bから所定範囲の領域をいう。本実施例の基端部7は、ゴルフクラブのグリップが取り付けられる部分である。この基端部7は、外径を一定にしたストレート状の外面を有している。ただし、基端部7の外面は、基端3bへ向けて漸次僅かに外径が変化するテーパー状であってもよい。
【0031】
中間部9は、先端部5と基端部7との間に位置する部分であり、基端3bへ向けて漸次僅かに外径が増加するテーパー状の外面を有している。従って、管体3は、先端部5と基端部7との間で外径が漸次大きくなるテーパー状の外面を有する構成となっている。
【0032】
かかる管体3は、薄肉部11と厚肉部13とを備えている。
【0033】
薄肉部11は、相対的に肉厚が小さい部分である。薄肉部11は、管体3に対して周回状に連続して設けられている。なお、薄肉部11は、周回状に非連続で複数設けることも可能である。また、薄肉部11は、径方向の両側に離れて非周回状に設けることも可能である。
【0034】
この薄肉部11は、基本形状15の対応箇所よりも大きい内径を有する。これにより、薄肉部11の肉厚は、基本形状15の対応箇所よりも薄い。基本形状15は、中間部9の外面と先端部5の内径及び基端部7の内径を結ぶ線分(直線)とで区画される。
【0035】
なお、先端部5の内径及び外径は、先端部5の何れの部分のものであってもよい。基端部7の内径及び外径も、基端部7の何れの部分のものであってもよい。好ましくは、先端部5及び基端部7の内径及び外径は、中間部9との境界部分のものとする。
【0036】
本実施例の薄肉部11は、軸方向の両側から漸次内径が大きくなるテーパー状の内面11aを有している。これにより、薄肉部11は、軸方向の両側から漸次肉厚が小さくなっている。薄肉部11の最も薄い部分での肉厚は、例えば1.03mm~1.46mmであり、基本形状15の軸方向の同一箇所(対応箇所)における肉厚の98%~99%となっている。
【0037】
薄肉部11の位置は、管体3の長さが838mm~1194mmである場合、管体3の先端3aからの長さが150mm~1044mmの範囲とする。より好ましくは、薄肉部11の位置は、管体3の全長の12%~88%の範囲とする。管体3の長さが838mmの場合、薄肉部11の位置は、管体3の先端3aからの長さが150mm~688mmの範囲とするのが好ましい。管体3の長さが1194mmの場合、薄肉部11の位置は、管体3の先端3aからの長さが150mm~1044mmの範囲とするのが好ましい。
【0038】
本実施例では、薄肉部11の最も肉厚が薄い部分が先端3aからの長さが455mm(管体3の先端3aから39%)の範囲に位置し、薄肉部11全体が先端からの長さが392mm~597mm(管体3の全長の33%~52%)の範囲に位置する。
【0039】
厚肉部13は、薄肉部11の軸方向の両側に位置し、相対的に肉厚が大きい部分である。各厚肉部13は、管体3に対して周回状に連続して設けられている。ただし、厚肉部13は、周回状に非連続で複数設けることも可能である。また、厚肉部13は、径方向の両側に離れて非周回状に設けることも可能である。
【0040】
この厚肉部13は、管体3の基本形状15の対応箇所よりも小さい内径を有する。これにより、厚肉部13の肉厚は、基本形状15の対応箇所よりも厚い。ただし、厚肉部13は、少なくとも薄肉部11よりも厚肉であればよく、基本形状15の対応箇所と同等の肉厚であってもよい。
【0041】
本実施例の厚肉部13は、軸方向の両側から漸次内径が小さくなるテーパー状の内面13aを有している。これにより、厚肉部13は、軸方向の両側から漸次肉厚が大きくなっている。厚肉部13の最も暑い部分での肉厚が、例えば1.06mm~1.56mmであり、基本形状15の軸方向の同一箇所(対応箇所)における肉厚の101%~105%となっている。
【0042】
厚肉部13の位置は、薄肉部11に軸方向で隣接する領域であればよい。本実施例において、厚肉部13の最も肉厚が厚い部分が先端3aからの長さが330mm(管体3の先端3aから28%)及び740mm(管体3の先端3aから64%)の範囲に位置し、厚肉部13全体が先端からの長さが155mm~392mm(管体3の全長の13%~33%)及び597mm~900mm(管体3の全長の52%~77%)の範囲に位置する。
【0043】
なお、厚肉部13及び薄肉部11の個数は任意に設定で、例えば薄肉部11を二つ以上、厚肉部13を三つ以上設けることも可能である。
【0044】
[ゴルフシャフトの作用]
図3(A)及び(B)は、ゴルフシャフト1のしなり及びしなり戻りを示す概略図であり、
図3(A)は実施例、
図3(B)は比較例である。
図4は、薄肉部11の潰れを示す横断面図である。なお、
図3(B)の比較例は、薄肉部11及び厚肉部13を有しないこと以外は実施例1のゴルフシャフト1と同一である。
【0045】
本実施例のゴルフシャフト1では、ユーザーのスイング時に薄肉部11が潰れやすくなっている。潰れとは、ゴルフシャフト1の横断面において、管体3を径方向の内側に向かって潰れることであり、本実施例において管体3の横断面形状が楕円形状となるように扁平に変形することをいう。
【0046】
具体的には、ゴルフシャフト1では、
図3(A)のように、スイング中にしなりとしなり戻りが生じる。しなりは、先端部5に向けてスイング方向の後方に漸次変形することであり、しなり戻りは、しなりとは逆に先端部5に向けてスイング方向の前方に漸次変形することである。
【0047】
本実施例のゴルフシャフト1は、
図1、
図3(A)及び
図4のように、しなりの際に薄肉部11が両側の厚肉部13の存在によって、潰れながら屈曲するように先行してしなることになる。このとき、薄肉部11は、基本形状15の対応箇所よりも薄肉であることによって潰れやすいため、より確実に潰れながら先行してしなる。
【0048】
また、ゴルフシャフト1では、薄肉部11から厚肉部13にわたって漸次肉厚が厚くなっているため、急激な肉厚の変化を抑制し、応力の集中を避けて破損を抑制できる。
【0049】
しなり戻りは、薄肉部11が一度円形に戻ってから再度逆方向に潰れながら屈曲するように先行してしなる。このしなり戻り時も、薄肉部11が両側の厚肉部13の存在及び基本形状の対応箇所よりも薄肉であることによって潰れ易い。
【0050】
一方、一般的なしなり及びしなり戻りは、
図3(B)のように、先行したしなりがなく、ゴルフシャフト1の全体的なしなり及びしなり戻りとなる。この場合と比較して、本実施例では、しなり量及びしなり戻り量の絶対値を小さくすることができる。このため、本実施例のゴルフシャフト1では、しなり及びしなり戻りを確実に得ながらコントロールがし易い。
【0051】
また、本実施例のゴルフシャフト1では、しなり量及びしなり戻り量の絶対値を小さくすることによって、ダイナミックロフトDが過度に大きくなることを抑制して、適切なダイナミックロフトDを得ることができる。ダイナミックロフトDは、インパクト時に実際にボールに与えられるロフトである。
【0052】
さらに、本実施例のゴルフシャフト1では、しなり及びしなり戻りによってアタックアングルAが緩やかになるため、スピンアングルSを抑制できる。アタックアングルAは、ボールに対する入射角のことであり、スピンアングルSは、アタックアングルAとダイナミックロフトDとでなす挟角をいう。この結果として、スピン量を低減できる。
【0053】
図5は、本実施例のゴルフシャフト1の潰れ度を概略的に示すグラフ、
図6(A)は、潰れ度の測定方法を示す概略図であり、
図6(B)は潰れ度の測定結果を示すグラフである。潰れ度は、高いほど潰れ易いことを意味する。潰れ度としては、ゴルフシャフト1に対する三点曲げを行い、このときの撓み量と曲げ剛性に基づいて算出した。
【0054】
ここで、曲げ剛性は、
図6(A)のように測定スパンLでゴルフシャフト1を撓ませ、このときの荷重を測定して算出している。なお、測定スパンLは300mmとした。撓み量を変更すると、
図6(B)のように撓み量の変更前に対して曲げ剛性に差(曲げ剛性差)が生じる。これは、
図4のようにつぶれが生じ、撓み量が大きいほどその影響が大きいためである。この曲げ剛性差を潰れ度と定義する。
【0055】
図5のように、本実施例のゴルフシャフト1では、薄肉部11の部分で、その軸方向の両側よりも潰れ度が増加していることがわかる。
【0056】
図7(A)及び(B)は、それぞれ異なるユーザーによる試打の結果を示すグラフである。ユーザーAは、ヘッドスピードが43.5m/sであり、ユーザーBは、ヘッドスピードが39.9m/sである。
【0057】
図7(A)及び(B)では、実施例のゴルフシャフト1と比較例のゴルフシャフトとで試打をした結果をプロットしたものに基づいて誤差楕円を表している。比較例は、薄肉部11及び厚肉部13を有しないこと以外は実施例1のゴルフシャフト1と同一である。
【0058】
図7(A)及び(B)のように、何れのユーザーも、実施例のゴルフシャフト1で試打した場合の方が誤差楕円がダイナミックロフトD及びアタックアングルAの理想値に近づいている。
【0059】
図8は、ダイナミックロフトD及びアタックアングルAの理想値を示すグラフである。
図8のように理想値は、飛距離を伸ばすための打ち出し角とスピン量を最適化するためのものであり、ヘッドスピード毎に異なっている。
【0060】
図8のように理想値がヘッドスピード毎に異なるにも関わらず、実施例のゴルフシャフト1ではヘッドスピードの異なるユーザーA及びBの何れにおいてもダイナミックロフトD及びアタックアングルAを理想値へ近づけることができている。
【0061】
このように、本実施例のゴルフシャフト1は、先端部5と基端部7との間で外径が漸次大きくなるテーパー状の外面を有する中空状の管体3を備える。管体3は、先端部5と基端部7との間において、内径の変化によって相対的に肉厚が小さい薄肉部11とこの薄肉部11の軸方向の両側に位置して相対的に肉厚が大きい厚肉部13とを備える。
【0062】
このため、ゴルフシャフト1では、薄肉部11の部分で管体3に先行してしなり及びしなり戻りが生じ、ユーザーに拘わらず適切にしなりを得ることができる。また、ゴルフシャフト1では、しなり量及びしなり戻り量の絶対値を小さくすることができるため、しなり及びしなり戻りを確実に得ながらコントロールがし易い。
【0063】
薄肉部11は、周回状に設けられているため、潰れを円滑に行うことができる。
【0064】
薄肉部11は、先端部5の内径及び外径と基端部7の内径及び外径をそれぞれ結ぶ線分からなる基本形状15の対応箇所よりも大きい内径を有する。従って、ゴルフシャフト1は、薄肉部11が確実に潰れを行うことができ、よりユーザーに拘わらず適切なしなりが得られる。
【0065】
また、薄肉部11は、管体3の長さが838mm~1194mmの場合に、管体3の先端3aからの長さが150mm~1044mmの範囲に位置するため、よりユーザーに拘わらず適切なしなりが得られる。
【0066】
[ゴルフシャフトの製造方法]
図9(A)~(C)は、ゴルフシャフト1の製造方法を示す縦断面図であり、
図9(A)はマンドレル、
図9(B)は
図9(A)のマンドレルにプリプレグを巻き付けた状態、
図9(C)は
図9(B)のプリプレグにテープを巻き付けた状態である。
【0067】
本実施例のゴルフシャフト1の製造方法では、
図9(A)及び(B)のようにマンドレル17の外面17aに径方向の突起19を位置させつつプリプレグ21を巻き付ける。
【0068】
マンドレル17は、棒状であり、表面が先端から基端にかけて漸次外径が増加する棒状である。本実施例のマンドレル17は、ゴルフシャフト1に対応して、先端部23、中間部25、及び基端部27を有する。先端部23は、先端17bから外径が一定の外面を有する。中間部25は、突起19及び凹部20を有する。基端部27は、基端17cに向けて外径が漸次大きくなる外面を有する。
【0069】
突起19は、本実施例においてマンドレル17に一体に構成されているが、別体に形成してもよい。突起19の形状は、薄肉部11に嵌合する形状を有している。従って、本実施例の突起19は、周回状に設けられ、軸方向の両側から漸次外径が大きくなっている。この突起19は、マンドレル17の基本形状29の対応箇所よりも大きい外径を有する。基本形状29は、先端部23の外径及び基端部27の外径を結ぶ線分(直線)からなる。のまた、突起19は、管体3の長さが838mm~1194mmの場合に、管体3の先端3aからの長さが150mm~1044mmの範囲となる部分に対応して位置する。
【0070】
管体3の長さが838mmの場合、突起19は、管体3の先端3aからの長さが150mm~688mmの範囲となる部分に対応して位置する。管体3の長さが1194mmの場合、突起19は、管体3の先端3aからの長さが150mm~1044mmの範囲となる部分に対応して位置する。
【0071】
凹部20は、突起19の軸方向両側に位置し、厚肉部13に対応して突起19から漸次外径が小さくなる外面によって連続している。この凹部20は、マンドレル17の先端部23の外径及び基端部27の外径を結ぶ線分からなる基本形状29の対応箇所よりも小さい外径を有する。
【0072】
プリプレグ21は、所定の裁断形状と寸法を有する複数枚がマンドレル17に巻き付けられる。この巻き付けは、プリプレグ21が突起19を有するマンドレル17の外面に沿うようにして行われる。
図10にプリプレグ21の展開図を示す。
図10の例では、6枚のプリプレグ21が用いられる。プリプレグ21の枚数は、ゴルフシャフト1の特性に応じて適宜設定される。
【0073】
各プリプレグ21は、樹脂を含侵させた繊維シートである。樹脂は、特に限定されるものではないが、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等である。繊維シートは、例えば、金属繊維、ボロン繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミクス繊維等の無機系繊維、アラミド繊維、その他の高強力合成繊維等のシートを使用することができる。無機繊維は軽量かつ高強力であることから好ましく使用される。中でも、炭素繊維は、比強度、比剛性に優れるので最適である。従って、本実施例では、繊維シートとして炭素繊維シートを用いている。
【0074】
マンドレル17にプリプレグ21を巻き付けた後は、
図9(C)のように、さらにテープ31を巻き付けてプリプレグ21のマンドレル17に対する巻き付け状態を保持する。この状態で加熱することによってプリプレグ21を硬化させて管状の半製品を得る。半製品は、テープ31を取り外した後に外面が研磨され、
図1のゴルフシャフト1の管体3となる。
【0075】
管体3は、上記のように、先端部5と基端部7との間において、突起19に対応する部分に相対的に肉厚が小さい薄肉部11を備え、この薄肉部11の軸方向の両側に相対的に肉厚が大きい厚肉部13を備えることとなる。
【0076】
従って、ユーザーに拘わらず適切なしなりを得ることが可能なゴルフシャフト1を実現できる。
【符号の説明】
【0077】
1 ゴルフシャフト
3 管体
5 先端部(管体)
7 基端部(管体)
9 中間部(管体)
11 薄肉部
13 厚肉部
15 基本形状(管体)
17 マンドレル
19 突起
21 プリプレグ
23 先端部(マンドレル)
25 中間部(マンドレル)
27 基端部(マンドレル)
29 基本形状(マンドレル)
【要約】
ユーザーに拘わらず適切なしなりを得ることが可能なゴルフシャフトを実現する。先端部5と基端部7との間で外径が漸次大きくなるテーパー状の外面を有する中空管状の管体3を備え、管体3が、先端部5と基端部7との間において、内径の変化によって相対的に肉厚が小さい薄肉部11とこの薄肉部11の軸方向の両側に位置して相対的に肉厚が大きい厚肉部13とを備え、薄肉部11が、周回状に設けられ、先端部5の内径及び外径と基端部7の内径及び外径をそれぞれ結ぶ線分からなる基本形状15の対応箇所よりも大きい内径を有する。