(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-25
(45)【発行日】2025-04-02
(54)【発明の名称】食品包装シート及び食品包装パック
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20250326BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20250326BHJP
B32B 7/022 20190101ALI20250326BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20250326BHJP
【FI】
B32B27/32 D
B32B27/00 H
B32B7/022
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2020196246
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2023-10-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大矢 善亨
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-159018(JP,A)
【文献】特開2014-046674(JP,A)
【文献】特開2004-223795(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0167486(US,A1)
【文献】特開2001-334616(JP,A)
【文献】特開2002-273842(JP,A)
【文献】特開2020-104509(JP,A)
【文献】特開2018-153964(JP,A)
【文献】特開2004-167800(JP,A)
【文献】特開2019-142037(JP,A)
【文献】特開2020-163629(JP,A)
【文献】特開2018-058366(JP,A)
【文献】特開2020-066228(JP,A)
【文献】特開2017-052291(JP,A)
【文献】特開2020-055177(JP,A)
【文献】特許第6705573(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
B65D65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被包装物である食品をボイル加熱可能な食品包装パックで使用される食品包装シートであって、
ポリエチレン系樹脂を主体と
し、2枚の食品包装シートが貼り合わされる際に外部に露出する外層と、ポリエチレン系樹脂を主体と
し、2枚の食品包装シートが貼り合わされる際に互いに接合され、かつ前記食品と接する内層と、前記外層と前記内層との間の中間層と、を備え、
前記外層が、密度が0.93g/cm
3以上の直鎖状低密度ポリエチレンを含み、
前記内層が、密度が0.93g/cm
3以上の直鎖状低密度ポリエチレンを含む最内層と、バイオマス由来低密度ポリエチレン系樹脂を含み前記中間層側に位置する副内層と、を有し、
前記中間層が、ポリアミド系樹脂を含み、
2枚の食品包装シートを用い、95℃の湯水中でそれぞれの前記外層どうしを2kg/100cm
2の荷重をかけて10分間圧着し、その後、乾燥させて室温まで冷却してから90°の方向に200mm/分の速度で引き剥がしたときのピール強度が0.5N/15mm以下であり、
2枚の食品包装シートを用い、95℃の湯水中でそれぞれの前記内層どうしを2kg/100cm
2の荷重をかけて10分間圧着し、その後、乾燥させて室温まで冷却してから90°の方向に200mm/分の速度で引き剥がしたときのピール強度が0.5N/15mm以下であり、
JIS K 7124-2に準拠して測定された、-20℃における全貫通エネルギーが0.5J以上である、食品包装シート。
【請求項2】
被包装物である食品をボイル加熱可能な食品包装パックで使用される食品包装シートであって、
ポリエチレン系樹脂を主体と
し、2枚の食品包装シートが貼り合わされる際に外部に露出する外層と、ポリエチレン系樹脂を主体と
し、2枚の食品包装シートが貼り合わされる際に互いに接合され、かつ前記食品と接する内層と、前記外層と前記内層との間の中間層と、を備え、
前記外層が、密度が0.93g/cm
3以上の直鎖状低密度ポリエチレンを含む最外層と、バイオマス由来低密度ポリエチレン系樹脂を含み前記中間層側に位置する副外層と、を有し、
前記内層が、密度が0.93g/cm
3以上の直鎖状低密度ポリエチレンを含み、
前記中間層が、ポリアミド系樹脂を含み、
2枚の食品包装シートを用い、95℃の湯水中でそれぞれの前記外層どうしを2kg/100cm
2の荷重をかけて10分間圧着し、その後、乾燥させて室温まで冷却してから90°の方向に200mm/分の速度で引き剥がしたときのピール強度が0.5N/15mm以下であり、
2枚の食品包装シートを用い、95℃の湯水中でそれぞれの前記内層どうしを2kg/100cm
2の荷重をかけて10分間圧着し、その後、乾燥させて室温まで冷却してから90°の方向に200mm/分の速度で引き剥がしたときのピール強度が0.5N/15mm以下であり、
JIS K 7124-2に準拠して測定された、-20℃における全貫通エネルギーが0.5J以上である、食品包装シート。
【請求項3】
1cm×3cmに裁断して得られるシート片を用い、95℃の湯水中で10分間ボイル加熱した後のカール高さが10mm以下である、請求項1または2に記載の食品包装シート。
【請求項4】
前記外層を構成するポリエチレン系樹脂のガラス転位点が-50℃以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の食品包装シート。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の食品包装シートを用いた、
食品包装パックであって、
2枚の前記食品包装シートの前記内層の間に食品を挟み、前記食品の周囲で前記内層どうしを面シールすることによって形成され、前記食品をボイル加熱可能な食品包装パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品包装シート及び食品包装パックに関する。
【背景技術】
【0002】
食品(例えばハンバーグや惣菜等の調理済食材)を食品包装シートで包装した食品包装パックが利用されている。このような食品包装パックは、食品包装シートで食品を包装した後に殺菌するため、熱水又は水蒸気で加熱処理される場合があり、また、包装された食品を喫食する前に温めるため、熱水で加熱処理される場合がある。なお、食品包装パックは、製造されてから消費者の手元に届くまでの間、内容物が冷凍された状態で搬送される場合がある。
【0003】
例えば特開2015-174347号公報(特許文献1)には、ボイル加熱可能な食品包装パックで使用される食品包装シートが開示されている。特許文献1の食品包装シートは、ポリプロピレン樹脂からなる外層と、ポリアミド樹脂からなる中間層と、ポリオレフィン系樹脂からなる内層とを備えている。この食品包装シートは、外層がポリプロピレン樹脂で構成されているので、良好な耐熱性を備えていると言える。しかしその一方で、耐寒衝撃性が十分ではなく、冷凍搬送される際に割れやピンホールが発生する可能性がある。また、特許文献1では、複数の食品包装パックを同時にボイル加熱する場合にも食品包装パックどうしを独立状態に保つことについて、何ら開示されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
冷凍して用いられる場合にも割れやピンホールが生じにくく、かつ、複数の食品包装パックを同時にボイル加熱する場合にも食品包装パックどうしを独立状態に保ちやすい食品包装シートの実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る食品包装シートは、
ボイル加熱可能な食品包装パックで使用される食品包装シートであって、
ポリエチレン系樹脂を主体とする外層と、ポリエチレン系樹脂を主体とする内層と、前記外層と前記内層との間の中間層と、を備え、
2枚の食品包装シートを用い、95℃の湯水中でそれぞれの前記外層どうしを2kg/100cm2の荷重をかけて10分間圧着し、その後、乾燥させて室温まで冷却してから90°の方向に200mm/分の速度で引き剥がしたときのピール強度が0.5N/15mm以下である。
【0007】
この構成によれば、外層がポリエチレン系樹脂を主体として構成されるので、耐寒衝撃性を向上させることができ、冷凍して用いられる場合にも割れやピンホールが生じにくくなる。また、2枚の食品包装シートを用い、95℃の湯水中でそれぞれの外層どうしを2kg/100cm2の荷重をかけて10分間圧着し、その後、乾燥させて室温まで冷却してから90°の方向に200mm/分の速度で引き剥がしたときのピール強度が0.5N/15mm以下であるので、複数の食品包装パックを同時にボイル加熱したときに、外層どうしが融着しにくく、食品包装パックどうしを独立状態に保ちやすい。従って、冷凍して用いられる場合にも割れやピンホールが生じにくく、かつ、複数の食品包装パックを同時にボイル加熱する場合にも食品包装パックどうしを独立状態に保ちやすい食品包装シートを提供することができる。
【0008】
以下、本発明の好適な態様について説明する。但し、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定される訳ではない。
【0009】
一態様として、
1cm×3cmに裁断して得られるシート片を用い、95℃の湯水中で10分間ボイル加熱した後のカール高さが10mm以下であることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、食品包装パックをボイル加熱する場合に、当該食品包装パックのカールを小さく抑えることができる。
【0011】
一態様として、
JIS K 7124-2に準拠して測定された、-20℃における全貫通エネルギーが0.5J以上であることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、冷凍して用いられる場合にも、割れやピンホールの発生を効果的に抑えることができる。
【0013】
一態様として、
前記外層が、密度が0.93g/cm3以上の直鎖状低密度ポリエチレンを含むことが好ましい。
【0014】
この構成によれば、直鎖状低密度ポリエチレンの中でも0.93g/cm3以上という比較的高密度の材料を含むことで、ポリエチレン系樹脂を主体として外層を構成しながらも耐熱性を高めることができる。よって、耐熱性と耐寒衝撃性とを両立させることができる。
【0015】
一態様として、
前記外層を構成するポリエチレン系樹脂のガラス転位点が-50℃以下であることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、冷凍して用いられる場合にも、割れやピンホールの発生を効果的に抑えることができる。
【0017】
一態様として、
2枚の食品包装シートを用い、95℃の湯水中でそれぞれの前記内層どうしを2kg/100cm2の荷重をかけて10分間圧着し、その後、乾燥させて室温まで冷却してから90°の方向に200mm/分の速度で引き剥がしたときのピール強度が0.5N/15mm以下であることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、食品包装パックをボイル加熱したときに、内層どうしが融着しにくく、開封しやすい。よって、内容物を容易に取り出すことができる。
【0019】
一態様として、
前記内層が、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を含む最内層と、バイオマス由来低密度ポリエチレン系樹脂を含み前記中間層側に位置する副内層と、を有することが好ましい。
【0020】
この構成によれば、最内層を直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を含んで構成することで、食品包装パックで使用する際に良好なヒートシール性を得ることができる。また、内層のうち中間層側に位置する一部を、副内層としてバイオマス由来低密度ポリエチレン系樹脂を含んで構成することで、環境負荷を低減することができる。
【0021】
一態様として、
前記最内層を構成する直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂の密度が、0.93g/cm3以上であることが好ましい。
【0022】
この構成によれば、直鎖状低密度ポリエチレンの中でも0.93g/cm3以上という比較的高密度の材料を含むことで、ポリエチレン系樹脂を主体として最内層を構成しながらも耐熱性を高めることができる。よって、耐熱性と耐寒衝撃性とを両立させることができる。
【0023】
本発明に係る食品包装パックは、
上述した食品包装シートを用いて形成され、ボイル加熱可能である。
【0024】
この構成によれば、冷凍搬送される場合にも食品包装シートに割れやピンホールが生じにくく、かつ、複数を同時にボイル加熱する場合にも互いに独立状態に保たれやすい食品包装パックを提供することができる。
【0025】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【発明を実施するための形態】
【0027】
食品包装シート及び食品包装パックの実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態の食品包装シート1は、ボイル加熱可能な食品包装パック100で使用されるものである。本実施形態では、
図1に示すように、2枚の食品包装シート1を用いてそれらの間に食品9を挟んで真空パックすることにより、食品包装パック100が形成されている。なお、食品9としては、例えばハンバーグや惣菜等の調理済食材であって、喫食する前に加熱されるものを用いる。
【0028】
図1に示すように、食品包装シート1は、外層10と、内層20と、これらの間の中間層30とを備えている。内層20は、2枚の食品包装シート1が貼り合わされる際に、互いに接合される層である。外層10は、2枚の食品包装シート1が貼り合わされる際に、外部に露出することになる層である。
【0029】
外層10は、ポリエチレン系樹脂を主体として構成されている。ポリエチレン系樹脂を主体として構成されるとは、外層10の構成樹脂の50重量%超がポリエチレン系樹脂であることを意味する。ポリエチレン系樹脂の樹脂種は特に限定されず、例えば低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、及びエチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)のアイオノマー(ION)等を用いることができる。これらは、1種のみを単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。これらの中では、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を好ましく用いることができる。
【0030】
ポリエチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、特に制限されないが、例えば0.1~10g/10分であることが好ましく、0.2~5g/10分であることがより好ましい。なお、MFRは、JIS K 7210に準拠して、温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定される。
【0031】
ポリエチレン系樹脂の密度は、特に限定されないが、例えば0.91~0.95g/cm3であることが好ましく、0.93~0.95g/cm3であることがより好ましい。特に、密度が0.93g/cm3以上の直鎖状低密度ポリエチレンを好ましく用いることができる。なお、密度は、JIS K 7112に従い、水中置換法で測定される。
【0032】
ポリエチレン系樹脂の引張破壊強さは、特に制限されないが、例えば10~50MPaであることが好ましく、30~40MPaであることがより好ましい。また、ポリエチレン系樹脂の引張破壊伸びは、特に制限されないが、例えば700~1000%であることが好ましく、800~900%であることがより好ましい。なお、引張破壊強さ及び引張破壊伸びは、JIS K 7127に準拠して測定される。
【0033】
ポリエチレン系樹脂の曲げ弾性率は、特に制限されないが、例えば300~1000MPaであることが好ましく、600~900MPaであることがより好ましい。なお、曲げ弾性率は、JIS K 6922に準拠して測定される。
【0034】
ポリエチレン系樹脂の硬度は、特に制限されないが、例えば40~80HDDであることが好ましく、60~70HDDであることがより好ましい。なお、硬度は、JIS K 7215に準拠して測定される。
【0035】
ポリエチレン系樹脂の融点は、特に制限されないが、例えば100~140℃であることが好ましく、120~130℃であることがより好ましい。なお、融点は、JIS K 7121に準拠して測定される。
【0036】
ポリエチレン系樹脂のビカット軟化点は、特に制限されないが、例えば100~150℃であることが好ましく、110~130℃であることがより好ましい。なお、ビカット軟化点は、JIS K 7206に準拠して測定される。
【0037】
ポリエチレン系樹脂のガラス転位点は、特に制限されないが、例えば-120~-50℃であることが好ましく、-110~-90℃であることがより好ましい。なお、ガラス転位点は、JIS K 7121に準拠して測定される。
【0038】
外層10の厚みは、特に限定されないが、食品包装シート1の総厚みを基準として例えば5~50%が好ましく、10~45%がより好ましく、20~40%がさらに好ましい。
【0039】
内層20は、ポリエチレン系樹脂を主体として構成されている。内層20は、その構成樹脂の50重量%超がポリエチレン系樹脂で構成されている。内層20を構成するポリエチレン系樹脂としては、外層10を構成するポリエチレン系樹脂の樹脂種として例示したものを同様に用いることができる。また、外層10を構成するポリエチレン系樹脂として例示した各種特性を備えるものを同様に用いることができる。
【0040】
他の例として、
図2に示すように、内層20が、最内層21と、中間層30側に位置する副内層22とを有する二層構成とされても良い。
図2の例では、食品包装シート1は、全体としては、外層10と中間層30と副内層22と最内層21とを備える四層構成となっている。このような構成では、最内層21は、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を含んで構成されることが好ましい。中でも、最内層21は、密度が0.93g/cm
3以上の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を含んで構成されることが特に好ましい。
【0041】
なお、
図2の例において、副内層22と同様の構成の層が、外層10と中間層30との間に設けられても良い。この場合、外層10と中間層30との間に位置する、
図2の例における副内層22と同様の構成の層は、「副外層」と称することができる。
【0042】
また、副内層22は、バイオマス由来低密度ポリエチレン系樹脂を含んで構成されることが好ましい。ここで、バイオマス由来低密度ポリエチレン系樹脂とは、上述したポリエチレン系樹脂を得るための原料として、化石燃料から得られるエチレンに代えて、バイオマス由来のエチレンを用いたものを意味する。バイオマス由来のエチレンは、例えばサトウキビ、トウモロコシ、及びサツマイモ等の植物から得られる糖液や澱粉を、酵母等の微生物により発酵させてバイオエタノールを製造し、これを触媒存在下で加熱することにより得ることができる。また、バイオマス由来のエチレンとしては、市販されているものを用いることもできる。副内層22におけるバイオマス由来ポリエチレン系樹脂の含有量は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。
【0043】
内層20の厚みは、特に限定されないが、食品包装シート1の総厚みを基準として例えば5~50%が好ましく、10~45%がより好ましく、20~40%がさらに好ましい。また、
図2の例のように内層20が最内層21と副内層22とを有する場合には、副内層22の厚みは、内層20の総厚みを基準として例えば20~80%が好ましく、30~75%がより好ましく、40~60%がさらに好ましい。
【0044】
中間層30は、外層10と内層20との間に設けられ、食品包装シート1に各種の性能を付与する。中間層30を構成する樹脂材料は特に限定されないが、機械的強度を高める目的で、少なくともポリアミド樹脂を含んで構成されることが好ましい。ポリアミド樹脂の樹脂種は特に限定されず、例えば4ナイロン、6ナイロン、7ナイロン、11ナイロン、12ナイロン、46ナイロン、66ナイロン、69ナイロン、610ナイロン、611ナイロン、6Tナイロン、6Iナイロン、MXD6ナイロン、6-66ナイロン、6-610ナイロン、6-611ナイロン、6-12ナイロン、6-612ナイロン、6-6Tナイロン、6-6Iナイロン、6-66-610ナイロン、6-66-12ナイロン、6-66-612ナイロン、66-6Tナイロン、66-6Iナイロン、6T-6Iナイロン、及び66-6T-6Iナイロン等を用いることができる。これらは、1種のみを単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。これらの中では、6ナイロンや6-66ナイロンを好ましく用いることができる。
【0045】
他の例として、
図3に示すように、中間層30が、互いに異なる機能を付与する第一中間層31と第二中間層32とを有する二層構成とされても良い。
図3の例では、食品包装シート1は、全体としては、外層10と第一中間層31と第二中間層32と内層20とを備える四層構成となっている。第一中間層31は、例えば上述したようなポリアミド樹脂を含んで構成されることが好ましい。
【0046】
第二中間層32は、例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物樹脂(EVOH)を含んで構成されることが好ましい。第二中間層32としてこのようなEVOH層を備えることで、食品包装シート1に酸素バリア性を付与することができる。EVOH中のエチレン含有率は特に限定されないが、製膜安定性の観点から、32~47モル%が好ましく、38~44モル%がより好ましい。また、EVOHのケン化度は90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましい。
【0047】
中間層30の厚みは、特に限定されないが、食品包装シート1の総厚みを基準として例えば5~50%が好ましく、10~45%がより好ましく、20~40%がさらに好ましい。また、
図3の例のように中間層30が第一中間層31と第二中間層32とを有する場合には、第一中間層31の厚みは、内層20の総厚みを基準として例えば40~90%が好ましく、50~80%がより好ましく、60~70%がさらに好ましい。
【0048】
また、食品包装シート1は、必要に応じて各層の層間剥離強度を高める目的で、
図4に示すように接着層40をさらに備えても良い。
図4の例では、食品包装シート1が外層10と中間層30と副内層22と最内層21とを備える構成において、外層10と中間層30との間に第一接着層41が設けられ、中間層30と副内層22と間に第二接着層42が設けられて、全体として六層構成となっている。
【0049】
接着層40を構成する樹脂材料は特に限定されず、例えばポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のオレフィン系樹脂、及び、例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)やエチレン-メチルメタアクリレート共重合体(EMMA)、エチレン系アイオノマー(ION)等のエチレン系共重合体等を用いることができる。
【0050】
接着層40の厚みは、特に限定されないが、食品包装シート1の総厚みを基準として例えば3~15%が好ましく、5~10%がより好ましい。
図4の例のように食品包装シート1が複数の接着層40(図示の例では第一接着層41及び第二接着層42)を備える場合には、それぞれが、上記厚みであることが好ましい。
【0051】
一例として、
図4に示す六層構成の食品包装シート1における、総厚みを基準とする各層の厚みの比率は、好ましくは、
外層10 :20~30%
第一接着層41: 5~10%
中間層30 :20~30%
第二接着層42: 5~10%
副内層22 :10~20%
最内層21 :10~20%
である。
【0052】
なお、食品包装シート1の総厚みは、特に限定されないが、例えば60~250μmが好ましく、70~200μmがより好ましく、75~150μmがさらに好ましい。
【0053】
図1に示すように、本実施形態の食品包装パック100は、2枚の食品包装シート1が間に食品9を挟んでその周囲で内層20どうしを面シールすることによって接合されている。食品包装パック100は、被包装物である食品9を殺菌するためにボイル加熱される場合があり、その際、複数(多数)の食品包装パック100がまとめてボイル加熱される場合がある。このとき、食品包装パック100は、ボイル加熱中も熱水中で互いに融着せずに独立状態を保つことが好ましい。また、食品包装パック100から食品9を取り出す際には、2枚の食品包装シート1を引き剥がす必要がある。このとき、食品包装パック100は、2枚の食品包装シート1を容易に引き剥がすことができ、食品9を容易に取り出せることが好ましい。
【0054】
このような観点から、本実施形態の食品包装シート1は、2枚を用いて所定条件下で引き剥がしたときのピール強度が以下の条件を満足するように形成されている。ここで、2枚の食品包装シート1は、それぞれの外層10どうしを圧着する場合と内層20どうしを圧着する場合とがある。
【0055】
95℃の湯水中で2枚の食品包装シート1のそれぞれの外層10どうしを2kg/100cm2の荷重をかけて10分間圧着し、その後、乾燥させて室温まで冷却してから90°の方向に200mm/分の速度で引き剥がしたときのピール強度(以下、「外層側ピール強度」と言う。)が、0.5N/15mm以下である。外層側ピール強度を0.5N/15mm以下に抑えることで、複数(多数)の食品包装パック100がまとめてボイル加熱された場合でも、食品包装パック100どうしが熱水中で互いに融着しない。よって、ボイル加熱中に熱水中で独立状態を保つことができる。外層側ピール強度は、0.3N/15mm以下であることが好ましく、0.1N/15mm以下であることがより好ましい。
【0056】
95℃の湯水中で2枚の食品包装シート1のそれぞれの内層20どうしを2kg/100cm2の荷重をかけて10分間圧着し、その後、乾燥させて室温まで冷却してから90°の方向に200mm/分の速度で引き剥がしたときのピール強度(以下、「内層側ピール強度」と言う。)が、0.5N/15mm以下であることが好ましい。内層側ピール強度を0.5N/15mm以下に抑えることで、食品包装パック100から食品9を取り出す際に、2枚の食品包装シート1を容易に引き剥がすことができ、食品9を容易に取り出すことができる。内層側ピール強度は、0.3N/15mm以下であることがより好ましく、0.1N/15mm以下であることがさらに好ましい。
【0057】
また、別観点から、食品包装シート1を1cm×3cmに裁断して得られるシート片を用い、95℃の湯水中で10分間ボイル加熱した後のカール高さ(以下、単に「カール高さ」と言う。)が、10mm以下であることが好ましい。1cm×3cmのシート片のカール高さを10mm以下に抑えることで、食品包装パック100のボイル加熱を行ってもそのカールを小さく抑えることができる。1cm×3cmのシート片のカール高さは、8mm以下であることがより好ましく、6mm以下であることがさらに好ましい。
【0058】
なお、本実施形態の食品包装シート1では、外層10及び内層20の両方がいずれもポリエチレン系樹脂を主体として構成され、厚み方向の対称性が高くなっているので、この点からも食品包装パック100のカールを小さく抑えることができる。
【0059】
また、別観点から、食品包装シート1の-20℃における全貫通エネルギーが、0.5J以上であることが好ましい。-20℃における全貫通エネルギーが0.5J以上であることで、低温での耐衝撃性を高めることができ、例えば冷凍搬送される場合にも割れやピンホールが発生しにくい。なお、全貫通エネルギーは、JIS K 7124-2に準拠して測定される。-20℃における全貫通エネルギーは、0.6J以上であることがより好ましく、0.7J以上であることがさらに好ましい。
【0060】
以下に複数の試験例を示し、本発明についてより具体的に説明する。但し、以下に記載する具体的な試験例によって本発明の範囲が限定される訳ではない。
【0061】
[試験例1]
外層と、第一接着層と、中間層と、第二接着層と、内層とを有する五層構成の積層フィルムを作製した。外層の構成材料としては、直鎖状低密度ポリエチレン(宇部丸善製ユメリット4040F)を準備した。中間層の構成材料としては、ナイロン(宇部興産製ナイロン1024)を準備した。内層の構成材料としては、直鎖状低密度ポリエチレン(宇部丸善製ユメリット4040F)を準備した。第一接着層及び第二接着層の構成材料としては、ポリオレフィン系接着剤(三井化学製アドマーNF539)を準備した。そして、外層、第一接着層、中間層、第二接着層、及び内層を、記載の順で共押出成形した。
【0062】
得られた積層フィルムの総厚は80μmであった。また、積層フィルム全体に対する、各層の厚さの比率は、外層が30%、第一接着層が5%、中間層が30%、第二接着層が5%、内層が30%であった。
【0063】
[試験例2]
外層と、第一接着層と、中間層と、第二接着層と、副内層と、最内層とを有する六層構成の積層フィルムを作製した。外層、中間層、第一接着層、及び第二接着層の構成材料は、試験例1と同じとした。副内層の構成材料としては、低密度ポリエチレン(ブラスケム製SEB853)を準備した。最内層の構成材料としては、直鎖状低密度ポリエチレン(宇部丸善製ユメリット4040F)を準備した。そして、外層、第一接着層、中間層、第二接着層、副内層、及び最内層を、記載の順で共押出成形した。
【0064】
得られた積層フィルムの総厚は80μmであった。また、積層フィルム全体に対する、各層の厚さの比率は、外層が30%、第一接着層が5%、中間層が30%、第二接着層が5%、副内層が15%、最内層が15%であった。
【0065】
[試験例3]
外層と、第一接着層と、第一中間層と、第二中間層と、第二接着層と、内層とを有する六層構成の積層フィルムを作製した。外層の構成材料としては、2種の直鎖状低密度ポリエチレンの混合物(宇部丸善製ユメリット4040F/同ユメリット4540F=50/50)を準備した。第一中間層の構成材料としては、エチレン-ビニルアルコール共重合体(クラレ製エバールF171B)を準備した。第二中間層の構成材料としては、ナイロン(宇部興産製ナイロン1024)を準備した。内層の構成材料としては、2種の直鎖状低密度ポリエチレンの混合物(宇部丸善製ユメリット4040F/同ユメリット4540F=50/50)を準備した。第一接着層及び第二接着層の構成材料は、試験例1,2と同じとした。そして、外層、第一接着層、第一中間層、第二中間層、第二接着層、副内層、及び最内層を、記載の順で共押出成形した。
【0066】
得られた積層フィルムの総厚は80μmであった。また、積層フィルム全体に対する、各層の厚さの比率は、外層が30%、第一接着層が5%、第一中間層が10%、第二中間層が20%、第二接着層が5%、内層が30%であった。
【0067】
[試験例4]
最外層と、副外層と、第一接着層と、中間層と、第二接着層と、内層とを有する六層構成の積層フィルムを作製した。中間層、第一接着層、第二接着層、及び内層の構成材料は、試験例1と同じとした。最外層の構成材料としては、直鎖状低密度ポリエチレン(宇部丸善製ユメリット4540F)を準備した。副外層の構成材料としては、低密度ポリエチレン(ブラスケム製SEB853)を準備した。そして、最外層、副外層、第一接着層、中間層、第二接着層、及び内層を、記載の順で共押出成形した。
【0068】
得られた積層フィルムの総厚は80μmであった。また、積層フィルム全体に対する、各層の厚さの比率は、最外層が15%、副外層が15%、第一接着層が5%、中間層が30%、第二接着層が5%、内層が30%であった。
【0069】
[試験例5]
外層と、第一接着層と、中間層と、第二接着層と、内層とを有する五層構成の積層フィルムを作製した。中間層、第一接着層、及び第二接着層の構成材料は、試験例1と同じとした。外層及び内層の構成材料としては、いずれも直鎖状低密度ポリエチレン(宇部丸善製ユメリット1540F)を準備した。そして、外層、第一接着層、中間層、第二接着層、及び内層を、記載の順で共押出成形した。
【0070】
得られた積層フィルムの総厚は80μmであった。また、積層フィルム全体に対する、各層の厚さの比率は、外層が30%、第一接着層が5%、中間層が30%、第二接着層が5%、内層が30%であった。
【0071】
各試験例の積層フィルムを用いて、外層どうし(試験例4においては最外層どうし)のピール強度、内層どうし(試験例2においては最内層どうし)のピール強度、カール高さ、及び全貫通エネルギーを測定した。
【0072】
外層どうしのピール強度は、95℃の湯水中で2枚の積層フィルムのそれぞれの外層(又は最外層)どうしを2kg/100cm2の荷重をかけて10分間圧着し、その後、乾燥させて室温まで冷却してから90°の方向に200mm/分の速度で引き剥がして測定した。
【0073】
内層どうしのピール強度は、95℃の湯水中で2枚の積層フィルムのそれぞれの内層(又は最内層)どうしを2kg/100cm2の荷重をかけて10分間圧着し、その後、乾燥させて室温まで冷却してから90°の方向に200mm/分の速度で引き剥がして測定した。
【0074】
カール高さは、積層フィルムを1cm×3cmに裁断してシート片を形成し、そのシート片を95℃の湯水中で10分間ボイル加熱した後に測定した。
【0075】
全貫通エネルギーは、JIS K 7124-2に準拠して、-20℃で測定した。
【0076】
また、各試験例の積層フィルムを用いて食品包装パックを作製し、95℃の湯水中で10分間ボイル加熱した後、食品包装パックどうしの融着の有無、食品包装パックの内部での融着の有無、及び食品包装パックのカールの有無を目視観察した。また、各試験例の積層フィルムを用いて作製した食品包装パックを冷凍し、割れの有無を目視観察した。
【0077】
これらの結果を表1に示す。
【0078】
【0079】
これらの結果から、外層どうしのピール強度が0.5N/15mm以下である試験例1~4において、ボイル加熱後も食品包装パックどうしが融着しないことが確認された。また、内層どうしのピール強度が0.5N/15mm以下である試験例1~4において、ボイル加熱後も食品包装パックの内部で融着しないことが確認された。また、食品包装パックどうしでも、またそれぞれの食品包装パックの内部でも融着しなかった試験例1~4において、ボイル加熱後も食品包装パックがカールせず、かつ、冷凍後も食品包装パックに割れが生じないことが確認された。
【0080】
以上、食品包装シートについて、具体的な実施形態及び試験例を示して詳細に説明したが、本発明はそれに限定されるものではない。本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 食品包装シート
9 食品
10 外層
20 内層
21 最内層
22 副内層
30 中間層
31 第一中間層
32 第二中間層
40 接着層
41 第一接着層
42 第二接着層
100 食品包装パック