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特許7654979二次電池電極用活物質およびそれを用いた二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-25
(45)【発行日】2025-04-02
(54)【発明の名称】二次電池電極用活物質およびそれを用いた二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20250326BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20250326BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20250326BHJP
【FI】
H01M4/58
C01B25/45 Z
H01M4/36 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020568571
(86)(22)【出願日】2020-12-07
(86)【国際出願番号】 JP2020045410
(87)【国際公開番号】W WO2021153007
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2020010610
(32)【優先日】2020-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 智也
(72)【発明者】
【氏名】川村 博昭
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-076820(JP,A)
【文献】特開2012-216473(JP,A)
【文献】特開2018-163762(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158566(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オリビン型結晶構造を有し、表面に炭素層を有する二次電池電極用活物質であって、結晶軸b軸に垂直な面上に存在する炭素層の平均厚みの、前記b軸に垂直でない面上に存在する炭素層の平均厚みに対する比が0.30以上0.80以下であり、結晶軸b軸に垂直な面上に存在する炭素層の平均厚みが0.6nm以上2.24nm以下である、二次電池電極用活物質。
【請求項2】
結晶軸b軸に垂直な面上に存在する炭素層の平均厚みが2.0nm以下である、請求項1記載の二次電池電極用活物質。
【請求項3】
結晶軸b軸に垂直な面上に存在する炭素層の厚みの標準偏差が0.3nm以下である、請求項1または2記載の二次電池電極用活物質。
【請求項4】
結晶子径が60nm以下である、請求項1~3いずれかに記載の二次電池電極用活物質。
【請求項5】
一般式ABXO(AおよびBはそれぞれ独立に1種以上の金属元素を示し、Xは金属元素以外の任意の1種以上の元素を示す)で表されるオリビン型結晶構造のAサイトの少なくとも一部をリチウムが占める、請求項1~4いずれかに記載の二次電池電極用活物質。
【請求項6】
リン酸マンガン鉄リチウムである、請求項1~5いずれかに記載の二次電池電極用活物質。
【請求項7】
X線回折によって得られる20°におけるピーク強度と29°におけるピーク強度の比I20/I29が0.88以上1.05以下であり、35°におけるピーク強度と29°におけるピーク強度の比I35/I29が1.05以上1.20以下である、請求項6記載の二次電池電極用活物質。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の二次電池電極用活物質を用いてなる二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池電極用活物質およびそれを用いた二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題、特に地球温暖化に対する意識の高まりから、化石燃料の使用量削減が重要な課題となっている。中でも、化石燃料の使用量の高い電力供給および運輸の分野において、供給源の再生可能エネルギー化や、動力の電動化がそれぞれ検討されている。これらの分野において、再生可能エネルギーにおいては電力の平準化のため、動力の電動化においては動力源の貯蔵のため、二次電池などの蓄電装置に対する需要が高まっている。
【0003】
二次電池の1種であるリチウムイオン二次電池は、高いエネルギー密度を有し、出力特性に優れる反面、不具合が生じると貯蔵されているエネルギーが短時間に放出され、電池が発火・炎上する危険性がある。そのため、リチウムイオン二次電池にとっては、出力特性の向上とともに、安全性の向上が重要な課題である。
【0004】
リチウムイオン二次電池の安全性を大きく左右する要因が正極活物質であることはよく知られている。電気自動車向け等の大型電池で用いられることが多い層状岩塩系遷移金属リチウム酸化物正極活物質は、特に高エネルギー密度を発現する正極活物質であるが、充放電による酸素の放出を伴う結晶構造の変化に起因して劣化が促進され、使用状況によっては発煙・発火に至る危険性があるなど、安全性に課題がある。
【0005】
一方で、リン酸鉄リチウムに代表されるオリビン型結晶構造を有する正極活物質は、酸素がリンと共有結合しているために容易には酸素を放出せず、高温条件下においても比較的安定である安全性の高い正極材料であるが、その電子伝導性およびイオン伝導性は、層状岩塩系遷移金属リチウム酸化物正極活物質と比べると低いことが知られている。そこで、オリビン型結晶構造を有する正極活物質の電子伝導性やイオン伝導性を向上させる技術として、導電性炭素被覆層を設けることが検討されている。
【0006】
かかる技術に関して、これまでに、例えば、活物質コアがポリアニリンで被覆されたコア・シェル構造を有する電極材料前駆体を、還元雰囲気中300~900℃で熱処理することにより、活物質コアが炭素で被覆されたコア・シェル構造を有する電極材料を製造する製造方法(例えば、特許文献1参照)、導電性炭素被覆層を備えたリン酸鉄リチウムの一次粒子を有するリン酸鉄リチウム正極材料であって、前記導電性炭素被覆層は、その厚みが2nm以上の層厚部と、2nm未満の層薄部とを有することを特徴とする、リン酸鉄リチウム正極材料(例えば、特許文献2参照)、電極活物質粒子の表面に炭素質被膜が80%以上の被覆率にて形成された炭素質被覆電極活物質粒子を凝集してなる凝集体からなり、この炭素質被覆電極活物質粒子は、膜厚が0.1nm以上かつ3.0nm以下であり平均膜厚が1.0nm以上かつ2.0nm以下の炭素質被膜が形成された第1の炭素質被覆電極活物質粒子と、膜厚が1.0nm以上かつ10.0nm以下であり平均膜厚が2.0nmを超えかつ7.0nm以下の炭素質被膜が形成された第2の炭素質被覆電極活物質粒子とからなる電極材料(例えば、特許文献3参照)などが提案されている。
【0007】
ところで、オリビン型結晶構造を有する電極活物質においては、物質内部で担体イオンは結晶軸b軸の方向に対してのみ一次元的に高い拡散速度を示すことが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-40357号公報
【文献】特開2012-216473号公報
【文献】特開2014-146513号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Gardiner, G. R.; Islam, M. S. Anti-Site Defects and Ion Migration in the LiFe0.5Mn0.5PO4 Mixed-Metal Cathode Material. Chem. Mater. 2010, 22 (3), 1242-1248.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
オリビン型結晶構造を有する二次電池電極用活物質表面に炭素層を形成することにより、電子伝導性およびイオン伝導性を向上させ、レート特性を向上させることができる。また、かかる二次電池電極用活物質を用いた電極において、電解質と二次電池電極用活物質とが直接接触する面積が減少することによって、二次電池電極用活物質の電解液に対する溶出を抑制し、サイクル耐性を向上させることができる。電子伝導性およびサイクル耐性を向上させる観点からは、炭素層の厚みは厚いことが好ましい。
【0011】
一方、二次電池電極用活物質におけるリチウム等の担体イオンの二次電池電極用活物質内外への出入りを促進する観点からは、炭素層の厚みは薄いことが好ましい。前記特許文献1~3には、炭素層の厚みに大小を有する電極活物質粒子が開示されているものの、いずれにおいても結晶軸に対してランダムに炭素層の厚みを変化させており、前述のオリビン型結晶構造を有する電極活物質における担体イオンが結晶軸b軸の方向に対してのみ一次元的に高い拡散速度を示す現象を活用したものではなく、レート特性およびサイクル耐性の向上効果は不十分であった。
【0012】
かかる課題に鑑み、本発明の目的は、レート特性およびサイクル耐性に優れた二次電池電極用活物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明は、主として以下の構成を有する。
オリビン型結晶構造を有し、表面に炭素層を有する二次電池電極用活物質であって、結晶軸b軸に垂直な面上に存在する炭素層の平均厚みの、前記b軸に垂直でない面上に存在する炭素層の平均厚みに対する比が0.30以上0.80以下である、二次電池電極用活物質。
【発明の効果】
【0014】
本発明の二次電池電極用活物質を用いることにより、レート特性およびサイクル耐性に優れた二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例2において作製した本発明の二次電池電極用活物質の透過型電子顕微鏡像(a)およびそのフーリエ変換像(b)である。
図2】比較例2において作製した従来の二次電池電極用活物質透過型電子顕微鏡像(a)およびそのフーリエ変換像(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のオリビン型結晶構造を有する二次電池電極用活物質(以下、単に「オリビン型活物質」という場合がある)は、表面に炭素層を有し、結晶軸b軸に垂直な面上に存在する炭素層の平均厚みの、前記b軸に垂直でない面上に存在する炭素層の平均厚みに対する比が0.30以上0.80以下であることを特徴とする。前述のとおり、オリビン型結晶構造を有する二次電池電極用活物質表面に炭素層を形成することにより、レート特性およびサイクル耐性を向上させることができる。さらに、本発明においては、オリビン型活物質の結晶学的特徴から、オリビン型活物質内部において、リチウム、ナトリウム等の電極の担体イオン(本明細書において担体イオンとは充放電の際に活物質から出入りするイオンを指す)が結晶軸b軸の方向に対してのみ一次元的に高い拡散係数を示すことに着目し、結晶軸b軸方向においては、炭素層厚みを薄くし、担体イオンのオリビン型活物質内外への出入りを促進してレート特性を向上させる一方、その他の方向においては、炭素層厚みを厚くし、サイクル耐性を向上させるため、結晶軸b軸に垂直な面上に存在する炭素層の平均厚みの、前記b軸に垂直でない面上に存在する炭素層の平均厚みに対する比の数値範囲を限定した。以下、本発明のオリビン型活物質について説明する。
【0017】
本発明において、オリビン型活物質は、オリビン型結晶構造を有する限り特に限定されないが、一般式ABXO(AおよびBはそれぞれ独立に1種以上の金属元素を示し、Xは金属元素以外の任意の1種以上の元素を示す)で表される化学組成を有することが好ましい。Aはアルカリ金属が好ましく、Bは遷移金属が好ましく、Xはケイ素、リンなどが好ましい。一般式ABXOで表される化学組成としては、例えば、LiFePO、LiMnPO、LiFe1-xMnPO(0<x<1)、LiCoPO、LiNiPO、NaFePO、NaMnPO、NaCoPO、NaNiPO、LiFeSiO、NaFeSiOなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、リチウムは一般的に高い拡散係数を示しやすいことから、Aサイトとしてリチウムを用いることが好ましく、レート特性をより向上させることができる。オリビン型活物質の中でも、リン酸マンガン鉄リチウムは電子伝導性およびリチウムイオン伝導性が低い傾向にあり、本発明における炭素層による効果をより顕著に奏することができる。例えば、後述の通り、リン酸鉄リチウムを用いている実施例5と比較例4ではエネルギー密度比が0.06向上している。リン酸マンガン鉄リチウムを用いている実施例1と比較例1では、エネルギー密度比が0.16向上しており、本発明における炭素層による効果をより顕著に奏している。
【0018】
オリビン型活物質は、1次あるいは高次の粒子内部に化学組成の異なる構造(例えば、コア・シェル構造)を有してもよい。さらに、オリビン型活物質には、ドーピング元素が含まれていてもよい。
【0019】
本発明のオリビン型活物質は、表面に炭素層を有する。炭素層は、オリビン型活物質の表面の少なくとも一部を覆っていればよく、表面の80面積%以上を覆っていることが好ましい。また、炭素層は、その表面にカルボニル基やヒドロキシル基などの官能基を有してもよい。オリビン型活物質中における炭素層の含有量は、電子伝導性をより向上させてレート特性をより向上させる観点から、1重量%以上が好ましい。一方、炭素層とオリビン型活物質との副反応を抑制してサイクル耐性をより向上させる観点から、6重量%以下が好ましい。
【0020】
ここで、オリビン型活物質中の炭素層の含有量は、例えば、炭素・硫黄同時定量分析装置EMIA-920V(株式会社堀場製作所製)を用いて測定することができる。炭素層の含有量は、例えば後述するオリビン型活物質の製造方法において添加する炭素源の添加量を調整することによって、所望の範囲に調整することができる。
【0021】
本発明のオリビン型活物質は、結晶軸b軸に垂直な面上に存在する炭素層の平均厚みの、b軸に垂直でない面上に存在する炭素層の平均厚みに対する比(垂直面上の炭素層の平均厚み/垂直でない面上の炭素層の平均厚み)が、0.30以上0.80以下である。かかる比の値が0.30よりも小さい場合、結晶軸b軸に垂直な面上の炭素層が薄くなりすぎる、もしくは結晶軸b軸に垂直でない面上の炭素層が厚くなりすぎる。前者の場合、炭素層による電子伝導性向上効果が得られ難く、後者の場合、オリビン型活物質に占める炭素層の重量割合が大きくなりすぎ、いずれの場合も二次電池のレート特性が低下する。一方、かかる比の値が0.80よりも大きい場合、結晶軸b軸に垂直な面上の炭素層が厚くなりすぎる、もしくは結晶軸b軸に垂直でない面上の炭素層が薄くなりすぎる。前者の場合、b軸方向における担体イオンのオリビン型活物質内外への出入り促進効果が得られ難く、二次電池のレート特性が低下する。後者の場合、炭素層によるサイクル耐性向上効果が得られ難く、二次電池のサイクル耐性が低下する。
【0022】
結晶軸b軸に垂直な面上の炭素層の平均厚みは、二次電池のレート特性をより向上させる観点から、0.6nm以上が好ましく、2.0nm以下が好ましい。本発明のオリビン型活物質において、オリビン型活物質粒子表面を多面体と見做した際、同一面内の炭素層の厚みが均一であることが好ましく、二次電池の充放電に伴う電極反応においてオリビン型活物質表面にかかる電界が均一になり、サイクル耐性をより向上させることができる。特に、炭素層の厚みが小さくなる結晶軸b軸に垂直な面上における炭素層の厚みが均一であることが好ましく、結晶軸b軸に垂直な面上における炭素層の厚みの標準偏差は、0.3nm以下が好ましい。
【0023】
ここで、異なる結晶面上におけるオリビン型活物質表面の炭素層の平均厚みは、透過型電子顕微鏡を用いて測定することができる。具体的には、加速電圧300kV、倍率2,000,000倍の条件で、オリビン型活物質の多波干渉像を測定する。オリビン型活物質の粒子外周上に対して均等に選択した20点以上の測定点について、炭素層の厚みを測定する。また、得られた格子像に対してフーリエ変換を施し、原点から輝点までの距離を測定し、対応するd値を算出することにより、結晶方位の情報を得ることができる。炭素層の厚みを測定した各測定点において、粒子の表面と垂直な結晶方位を計算する。粒子の表面と垂直な結晶方位が結晶軸b軸となす角が20度以下である場合、該当する測定点は結晶軸b軸に垂直な面上に存在すると見做す。なす角が20度よりも大きい場合は、結晶軸b軸に垂直な面上に存在していないと見做す。この処理を全ての測定点について施し、結晶軸b軸に垂直な面上に存在する炭素層および結晶軸b軸に垂直でない面上に存在する炭素層のそれぞれについて、平均厚みおよび標準偏差を算出することができる。得られた平均厚みから、前述の比の値を算出することができる。
【0024】
炭素層の平均厚みの比および標準偏差を上記範囲にする方法としては、例えば、後述する製造方法によりオリビン型活物質を得る方法が挙げられる。
【0025】
本発明のオリビン型活物質の結晶子径は、60nm以下が好ましい。オリビン型活物質は、一般的に電子伝導性およびイオン伝導性が低いため、充放電電流が大きい条件下における電圧降下が大きくなりやすい。結晶子径を60nm以下とすることにより、電子や担体イオンの結晶子内における拡散距離が短くなるため、レート特性をより向上させることができる。結晶子径の小さい活物質粒子は、その比表面積が大きくなることから、本発明における炭素層の平均厚み比による効果をより顕著に奏することができる。
【0026】
ここで、オリビン型活物質の結晶子径は、オリビン型活物質の粉体試料について、回折角2θを10度以上70度以下とする条件下、粉末X線回折測定を行い、得られた回折パターンにリートベルト解析を施すことにより算出することができる。本発明のオリビン型活物質を直接測定してもよいし、後述する二次電池の場合、二次電池電極から剥離した電極合剤をすり潰して得られるオリビン型活物質を測定してもよい。オリビン型活物質の結晶子径は、例えば、後述するオリビン型活物質の製造方法において、溶媒として用いる水と有機溶媒の混合比や、原料に対する溶媒の総量や、合成温度や焼成温度などを調整することにより、所望の範囲に調整することができる。
【0027】
本発明におけるオリビン型活物質のうち、リン酸マンガン鉄リチウムの結晶性および粒子形状は、X線回折によって得られる20°におけるピーク強度と29°におけるピーク強度の比I20/I29、35°におけるピーク強度と29°におけるピーク強度の比I35/I29によって評価することができる。I20/29が0.88以上1.05以下であると、リン酸マンガン鉄リチウムがb軸方向へ極度に配向していないことを意味し、粒子の形状としては板状よりも球に近いことを意味する。粒子が球形に近づくことにより、充放電時のリチウムイオンの脱挿入による結晶格子の歪みを緩和し、レート特性およびサイクル耐性をより向上させることができる。また、I35/I29が1.05以上1.20以下であると、リン酸マンガン鉄リチウムの結晶の配向性がさらに低まり、より均質的な結晶配向となり、粒子形状としてはさらに球に近づくことを意味する。そのため、充放電時の担体イオンの脱挿入による結晶格子の歪みを緩和し、レート特性およびサイクル耐性をより向上させることができる。I20/29およびI35/I29を上記範囲にする方法としては、例えば、後述する製造方法によりリン酸マンガン鉄リチウムを得る方法が挙げられる。
【0028】
次に、本発明のオリビン型活物質の製造方法について説明する。本発明のオリビン型活物質は、固相法、液相法などの任意の方法により得ることができる。結晶子径を前述の好ましい範囲に調整しやすいことから、液相法が好ましい。液相には、水の他、結晶子をナノ粒子まで微細化するために有機溶媒を用いることも好適であり、その溶媒種としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、2-プロパノール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオールなどのアルコール系溶媒や、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。合成の過程において、粒子の結晶性を高めるために加圧してもかまわない。また、オリビン型活物質の化学組成は、原料の仕込み比により所望の範囲に調整することができる。また、液相法によるリン酸マンガン鉄リチウムの合成においては、原料の一部を含んだ溶液を高速撹拌した状態下、残りの原料を含んだ溶液を添加し、高速撹拌状態を維持したまま加圧することなく合成温度まで加熱することが好ましく、リン酸マンガン鉄リチウムのX線回折によって得られるピーク強度の比I20/I29とI35/I29を前述の好ましい範囲に容易に調整することができる。
【0029】
液相法によりオリビン型活物質1次粒子を得る場合、結晶子径は、例えば、溶媒中の水と有機溶媒の混合比、合成溶液の濃度、合成温度、原料の仕込み比などの条件により、所望の範囲に調整することができる。典型的には、結晶子径を大きくするためには、溶媒中の水の割合を増やすこと、合成溶液の濃度を高めること、合成温度を高めることなどが有効である。
【0030】
液相法により得られたオリビン型活物質に炭素層を形成するカーボンコート方法としては、オリビン型活物質1次粒子および/または2次粒子からなる粉体や、これらを含んだスラリーと炭素源を混合した後に、不活性ガス雰囲気下において焼成する方法が好ましい。炭素源としては、例えば、グルコース、スクロース、トレハロース、マルトース、デキストリン水和物、シクロデキストリンなどの糖類、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸などの有機酸類、ポリアニリン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの有機高分子類、コールタール、ピッチ、アスファルトなどの原油類などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、糖類や有機高分子類のみを炭素源として用いる場合、炭素層の厚みの標準偏差を前記の好ましい範囲に容易に調整することができる。
【0031】
オリビン型活物質と炭素源との混合方法としては、水、エタノール、アセトニトリル、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドなどの媒質中に炭素源およびオリビン型活物質を溶解ないし分散させ、ディスパー、ジェットミル、ハイシェアミキサー、超音波ホモジナイザーなどの混合装置を用いて混合・分散させることが好ましい。
【0032】
結晶軸b軸方向に対する炭素層の平均厚み比を前述の範囲にするためには、焼成に先立って、オリビン型活物質および炭素源を含有するスラリーを瞬時に乾燥させ、オリビン型活物質と炭素源が密に混合したオリビン型活物質の前駆体を得ることが好ましく、具体的には、スプレードライヤーを用いて乾燥することが好ましい。
【0033】
焼成の際に用いられる不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルガンなどが挙げられる。焼成時にオリビン型活物質と炭素源との混合物から発生するガスを系外に排除するため、不活性ガスをフローさせることが好ましい。焼成温度は500℃以上1000℃以下が好ましく、焼成時間は30分間以上24時間以下が好ましい。
【0034】
結晶軸b軸方向に対する炭素層の平均厚み比を前述の範囲にするためには、炭素源として融点の異なる複数種の化合物を組み合わせ、前記の焼成に先立って、融点の低い化合物の融点と、融点の高い化合物の融点との間の温度で1時間以上24時間以内の範囲で仮焼を行い、次いで前記の条件にて焼成を行うことが好ましい。融点の異なる炭素源の混合比を調整することにより、結晶軸b軸方向に対する炭素層の平均厚み比を調整することができる。この場合、融点の最も高い化合物の添加量を、その化合物よりも融点の低い化合物の合計添加量の0.50倍以上5.0倍以下とすることが好ましい。
【0035】
オリビン型活物質の1次粒子径が1μmよりも小さい場合、活物質は1次粒子の凝集した2次粒子として取り扱うことが好ましく、その2次粒子径は、後述する二次電池電極の製造方法におけるペーストの取り扱い性の観点から、3μm以上が好ましい。一方、オリビン型活物質の2次粒子径は、後述する合剤層の厚みとの関係から、40μm以下が好ましい。
【0036】
オリビン型活物質の2次粒子径とは、2次粒子の粒径の算術平均値を指し、走査型電子顕微鏡を用いて測定することができる。具体的には、走査型電子顕微鏡を用いて、電極を倍率3,000倍にて拡大観察し、無作為に選択した100個の2次粒子について2次粒子径を測定する。それらの数平均値を算出することにより、オリビン型活物質の2次粒子径を求めることができる。一つの観察視野内に100個未満の2次粒子しか観察されなかった場合は、観察される2次粒子の累計個数が100個に達するまで試料の別の箇所での観察を実施する。また、電極製造時の原料としてのオリビン型活物質の2次粒子について、走査型電子顕微鏡を用いて同様に2次粒子径を測定してもよい。
【0037】
オリビン型活物質2次粒子の製造方法としては、2次粒子の粒度分布をできるだけ狭くする観点から、オリビン型活物質1次粒子を含んだ分散液を、スプレードライヤーを用いて乾燥・造粒する手法が好ましい。オリビン型活物質の2次粒子径は、例えば、前述のオリビン型活物質の製造方法において、原料となるオリビン型活物質水分散液の重量濃度を変化させることにより、所望の範囲に容易に調整することができる。
【0038】
本発明のオリビン型活物質粒子は、二次電池電極に好適に用いられる。本発明の二次電池用電極は、アルミ箔、銅箔、ステンレス箔、白金箔などの集電体上に、本発明のオリビン型活物質とともに、バインダーや導電助剤などの添加剤を含有する合剤層を有することが好ましい。また、本発明のオリビン型活物質とともに、層状酸化物型結晶構造を有する活物質、スピネル型結晶構造を有する活物質等のその他の活物質を含有してもよい。
【0039】
バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニルデン、スチレンブタジエンゴムなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0040】
電極合剤層中におけるバインダーの含有量は、0.3重量%以上10重量%以下が好ましい。バインダーの含有量を0.3重量%以上とすることにより、バインダーの結着効果により、塗膜を形成した場合に塗膜形状を容易に維持することができる。一方、バインダーの含有量を10重量%以下とすることにより、電極内の抵抗の増加を抑制することができる。
【0041】
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラフェン、還元型酸化グラフェンなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0042】
合剤層中における導電助剤の含有量は、0.3重量%以上10重量%以下が好ましい。導電助剤の含有量を0.3重量%以上とすることにより、電極の導電性を向上させ、電子抵抗を低減することができる。一方、導電助剤の含有量を10重量%以下とすることにより、導電助剤による電池の担体イオンの移動の阻害を抑制し、イオン伝導性をより向上させることができる。
【0043】
二次電池を高エネルギー密度化するためには、電極合剤層中にできるだけ高い割合でオリビン型活物質が含まれていることが好ましく、電極合剤層中のオリビン型活物質およびその他の活物質の合計含有量は、80重量%以上が好ましく、85重量%以上がより好ましい。
【0044】
電極合剤層の厚みは、10μm以上200μm以下が好ましい。合剤層の厚みを10μm以上とすることにより、電極に占める集電体の割合を抑え、エネルギー密度をより向上させることができる。一方、合剤層の厚みを200μm以下とすることにより、充放電反応を合剤層全体に速やかに進行させ、高速充放電特性を向上させることができる。
【0045】
二次電池電極は、例えば、前述のオリビン型活物質2次粒子を分散媒に分散させたペーストを、集電体上に塗布し、乾燥し、加圧して合剤層を形成することにより得ることができる。ペーストの製造方法としては、前述のオリビン型活物質2次粒子、さらに必要に応じて導電助剤などの添加剤、バインダー、N-メチルピロリジノンなどの分散媒を混合して固練りし、水やN-メチルピロリジノンなどの分散媒を添加して粘度を調整することが好ましい。ペーストの固形分濃度は、塗布方法に応じて適宜選択することができる。塗布膜厚を均一にする観点から、30重量%以上80重量%以下が好ましい。ペーストの各材料は、一度に混合してもよいし、各材料をペースト中に均一に分散させるために、固練りを繰り返しながら、順番をつけて添加して混合してもよい。スラリーの混練装置としては、均一に混練できる点で、プラネタリーミキサーや薄膜旋回型高速ミキサーが好ましい。
【0046】
本発明の二次電池は、上記の電極に加え、対極、セパレータ、電解液を有することが好ましい。電池の形状としては、例えば、コイン型、角型、巻回型、ラミネート型などが挙げられ、使用する目的に応じて適宜選択することができる。対極を構成する材料としては、例えば、黒鉛、チタン酸リチウム、シリコン酸化物、コバルト酸リチウムなどが挙げられる。セパレータ、電解液についても、任意のものを適宜選択して用いることができる。
【0047】
本発明の二次電池は、例えば、露点が-50℃以下のドライ環境下にて、上記二次電池電極を、セパレータを介して対極と積層させ、電解液を添加することにより得ることができる。
【実施例
【0048】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。まず、実施例における評価方法について説明する。
【0049】
[測定A]炭素層平均厚みおよび標準偏差
各実施例および比較例により得られたオリビン型活物質2次粒子からなる粉体試料に対して、透過型電子顕微鏡を用い、加速電圧300kV、倍率2,000,000倍の条件で、多波干渉像を測定した。図を用いて説明すると、図1(a)において、観測された1次粒子の外周上に対して略均等に選択した21点の選択点について、炭素層の厚みを測定した。また、炭素層の厚みを測定した各測定点において、得られた格子像に対して二次元フーリエ変換を施した図1(b)において、原点から輝点までの距離を測定し、対応するd値を算出し(図1(b)においては0.630nmおよび0.534nm)、最も近い面間隔を当てはめることにより結晶方位の帰属を行い、粒子の表面と垂直な結晶方位を計算した。
【0050】
図1(b)においては0.630nmが(010)、0.534nmが(100)に対応する。結晶軸b軸は(010)と平行である。
【0051】
なお、本明細書において結晶方位として括弧内に示す指数は、通常の結晶学においては面を表すが、本明細書では、面の法線の方向を示す。面の法線の方向は、下記数式に示す、結晶格子に対応する逆格子の基本並進ベクトルk,k,k(矢印表記は省略)によって表記することができる。
【0052】
【数1】
【0053】
(但しx,x,x(矢印表記は省略)は結晶格子のa軸、b軸、c軸にそれぞれ平行な基本並進ベクトルを表す。)
粒子の表面と垂直な結晶方位が結晶軸b軸となす角が20度以下である場合、該当する測定点は結晶軸b軸に垂直な面上に存在すると見做し、なす角が20度よりも大きい場合は、結晶軸b軸に垂直な面上に存在していないと見做した。図1(b)においては、(010)とb軸のなす角は0度であり、(100)とb軸のなす角度は90度である。
【0054】
なお、観測した1次粒子上に結晶軸b軸とのなす角が20度以下となる点が1点以下しか存在しない場合、顕微鏡像の観察面に対してb軸が垂直方向にあると見做し、別の1次粒子を観測することとした。
【0055】
このようにして、結晶軸b軸に垂直な面上に存在する炭素層の平均厚みX、結晶軸b軸に垂直でない面上に存在する炭素層の平均厚みY、結晶軸b軸に垂直な面上に存在する炭素層の厚みの標準偏差をそれぞれ算出した。
【0056】
[測定B]結晶子径およびX線回折ピーク強度比
各実施例および比較例により得られたオリビン型活物質2次粒子からなる粉体試料に対して、ブルカー・エイエックスエス株式会社製X線回折装置D8 ADVANCEを用いて、回折角2θが10度以上70度以下の条件下、粉末X線回折測定を行った。得られた回折パターンを元に、ブルカー・エイエックスエス株式会社製解析ソフトTOPASを用い、リートベルト解析をすることにより、オリビン型活物質の結晶子径を算出した。
【0057】
解析はオリビン型結晶構造を出発構造として仮定して行い、解析の結果得られたGOF(=(Rwp/Rexp)値が4.0未満であることをもって活物質はオリビン型結晶構造を有すると見做した。各ピーク強度比は、ブルカー・エイエックスエス株式会社製の粉末X線回折用解析ソフトDIFFRAC.EVAを用いて、バックグランド除去(係数1.77)を行い、ピーク強度を読み取って算出した。20°、35°のピーク強度を、29°におけるピーク強度で除した値はそれぞれI20/I29、I35/I29とした。
【0058】
[測定C]二次電池のレート特性
各実施例および比較例により得られた電極板を直径15.9mmに切り出して正極とし、直径16.1mm、厚さ0.2mmに切り出したリチウム箔を負極とし、セパレータとして“セティーラ”(登録商標)、電解液としてLiPFを1Mの濃度で含有するエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=3:7(体積比)を用いて、2032型コイン電池を作製した。
【0059】
作製した2032型コイン電池について、カットオフ電圧を2.5V、最大充電電圧を4.3Vとし、充放電を0.1Cレートとして2回、続けて充放電を3Cレートとして2回行った。それぞれの充放電レートについて、2回目の放電から放電エネルギーを測定し、3Cレートでのエネルギーを0.1Cレートでのエネルギーで除した比を算出し、レート特性を評価した。
【0060】
[測定D]二次電池のサイクル耐性
各実施例および比較例により得られた電極板と、負極電極として市販のカーボン系負極(負極活物質:日立化成株式会社製 人造黒鉛MAG)、セパレータとして“セティーラ”(登録商標)、電解液としてLiPFを1M含有するエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=3:7(体積比)を用いて、容量1Ahの積層ラミネートセルを作製した。積層数は正極(サイズ:70mm×40mm)を7層、負極(サイズ:74mm×44mm)を8層とし、対向する正極と負極の容量比率(NP比)は1.05とした。
【0061】
作製したラミネート型セルを、25℃環境下、0.1Cレートで3回充放電させた後、55℃の環境下、1Cレートでの充放電を繰り返すサイクル試験を実施した。55℃の環境下における1回目の放電試験でのエネルギー密度を100%とし、エネルギー密度が80%を下回るまでのサイクル回数を測定し、サイクル耐性を評価した。
【0062】
[実施例1]
(工程1:オリビン型活物質2次粒子の作製)
水酸化リチウム一水和物60ミリモルを純水16gに溶解させた後、ジエチレングリコールを104g添加し、水酸化リチウム/ジエチレングリコール水溶液を作製した。得られた水酸化リチウム/ジエチレングリコール水溶液をホモディスパー(プライミクス社製 ホモディスパー 2.5型)を用いて2000rpmで撹拌させているところへ、リン酸(85%水溶液)20ミリモルと硫酸マンガン(II)1水和物16ミリモルと硫酸鉄(II)7水和物4ミリモルを純水10gに溶解させて得られる水溶液を添加し、オリビン型構造リン酸マンガン鉄リチウムナノ粒子前駆体を得た。得られた前駆体溶液を110℃まで加熱し、2時間保持し、固形分としてリン酸マンガン鉄リチウムを得た。得られた粒子に純水を添加し、遠心分離機による溶媒除去を繰り返すことにより洗浄した。洗浄して得られるリン酸マンガン鉄リチウムが10gとなるまで合成を繰り返した。
【0063】
得られたリン酸マンガン鉄リチウム10gに炭素源としてグルコース1.0g(融点146℃)とポリビニルアルコール0.75g(融点300℃)と純水40gを加えて混合し、スプレードライ装置(ヤマト科学製ADL-311-A)を用いて、ノズル径400μm、乾燥温度150℃、アトマイズ圧力0.2MPaの条件で造粒した。得られた造粒体について、焼成炉を用いて、175℃1時間仮焼を行い、次いで700℃1時間、窒素雰囲気下焼成を行い、リン酸マンガン鉄リチウム2次粒子からなる粉体試料を得た。
【0064】
(工程2:電極板の作製)
アセチレンブラック(デンカ株式会社製 Li-400)とバインダー(株式会社クレハKFポリマー L#9305)を混合した後、上記方法により得られたリン酸マンガン鉄リチウム2次粒子を添加して乳鉢で固練りを実施した。その際、含まれる各材料の重量比はリン酸マンガン鉄リチウム2次粒子:アセチレンブラック:バインダーが90:5:5となるようにした。その後、N-メチルピロリジノンを添加して固形分が48重量%となるように調整し、スラリー状の電極ペーストを得た。得られたペーストに流動性がでるまでN-メチルピロリジノンを追加し、薄膜旋回型高速ミキサー(プライミクス株式会社製“フィルミックス”(登録商標)40-L型)を用いて、40m/秒の撹拌条件で30秒間処理した。
【0065】
得られた電極ペーストを、ドクターブレード(300μm)を用いてアルミニウム箔(厚さ18μm)に塗布し、80℃30分間乾燥した後、プレスを施し電極板を作製した。
【0066】
[実施例2]
工程1におけるグルコースの使用量を1.50g、ポリビニルアルコールの使用量を1.10gとしたこと以外は実施例1と同様にして、リン酸マンガン鉄リチウム2次粒子と電極板を作製した。図1(a)に、得られたリン酸マンガン鉄リチウム2次粒子の透過型電子顕微鏡像を、図1(b)にそのフーリエ変換像を示す。図1(a)において、符号1は各測定点における、炭素層の厚みを示す。
【0067】
[実施例3]
工程1において、グルコースの代わりに20℃における粘度が600mPa・sec(B型粘度計で、回転速度6rpm時)の減圧重油原液を使用したこと以外は実施例1と同様にして、リン酸マンガン鉄リチウム2次粒子と電極板を作製した。
【0068】
[実施例4]
工程1におけるジエチレングリコールの添加量を60gとしたこと以外は実施例1と同様にして、リン酸マンガン鉄リチウム2次粒子と電極板を作製した。
【0069】
[実施例5]
工程1における硫酸鉄(II)7水和物の添加量を20ミリモルとし、硫酸マンガン(II)1水和物の添加を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、オリビン型活物質2次粒子と電極板を作製した。
【0070】
[実施例6]
純水150gにジメチルスルホキシド200g、水酸化リチウム1水和物390ミリモルを添加した。得られた溶液に、85重量%リン酸水溶液を用いてリン酸を120ミリモルさらに添加し、硫酸マンガン(II)1水和物を84ミリモル、硫酸鉄(II)7水和物を36ミリモル添加した。得られた溶液をオートクレーブに移し、容器内が150℃を維持するように4時間加熱保持した。加熱後に溶液の上澄みを捨て、沈殿物としてリン酸マンガン鉄リチウムを得た。得られたリン酸マンガン鉄リチウムを純水に分散させた後に、遠心分離により上澄みを除去する操作を5回繰り返すことで洗浄を行った。得られたリン酸マンガン鉄リチウムのうち10gに対し、実施例1と同様にして、リン酸マンガン鉄リチウム2次粒子からなる粉体試料を得た。その後、実施例1と同様にして、オリビン型活物質2次粒子と電極板を作製した。
【0071】
[比較例1]
工程1におけるグルコースの添加量を0.25g、ポリビニルアルコールの添加量を1.5gとしたこと以外は実施例1と同様にして、リン酸マンガン鉄リチウム2次粒子と電極板を作製した。
【0072】
[比較例2]
工程1においてグルコースの添加量を1.75gとし、ポリビニルアルコールの添加を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、造粒体を得た。得られた造粒体を焼成炉で700℃1時間窒素雰囲気下焼成し、リン酸マンガン鉄リチウム2次粒子からなる粉体試料を得た。その後、実施例1の工程2と同様にして、電極板を作製した。図2(a)に、得られたリン酸マンガン鉄リチウムナノ粒子造粒体の透過型電子顕微鏡像を、図(b)にそのフーリエ変換像(b)を示す。
【0073】
[比較例3]
純水150gにジメチルスルホキシド200g、水酸化リチウム1水和物390ミリモルを添加した。得られた溶液に、85重量%リン酸水溶液を用いてリン酸を120ミリモルさらに添加し、硫酸マンガン(II)1水和物を84ミリモル、硫酸鉄(II)7水和物を36ミリモル添加した。得られた溶液をオートクレーブに移し、容器内が150℃を維持するように4時間加熱保持した。加熱後に溶液の上澄みを捨て、沈殿物としてリン酸マンガン鉄リチウムを得た。得られたリン酸マンガン鉄リチウムを純水に分散させた後に、遠心分離により上澄みを除去する操作を5回繰り返すことにより洗浄を行った。得られたリン酸マンガン鉄リチウムのうち10gに対し、純水10g、グルコース0.75gを加えて撹拌し、リン酸マンガン鉄リチウム分散液を得たのち、スプレードライ装置(ヤマト科学製ADL-311-A)を用いノズル径400μm、乾燥温度150℃、アトマイズ圧力0.2MPaで造粒した。得られた造粒粒子を焼成炉で700℃1時間、窒素雰囲気下焼成を行い、リン酸マンガン鉄リチウム2次粒子からなる粉体試料を得た。その後、実施例1の工程2と同様にして、電極板を作製した。
【0074】
[比較例4]
硫酸マンガン(II)1水和物を添加せず、硫酸鉄(II)7水和物の添加量を120ミリモルとしたこと以外は比較例3と同様にして、オリビン型活物質2次粒子と電極板を作製した。
【0075】
[比較例5]
純水150gにジメチルスルホキシド200g、水酸化リチウム1水和物390ミリモルを添加した。得られた溶液に、85重量%リン酸水溶液を用いてリン酸を120ミリモルさらに添加し、硫酸マンガン(II)1水和物を84ミリモル、硫酸鉄(II)7水和物を36ミリモル添加した。得られた溶液をオートクレーブに移し、容器内が150℃を維持するように4時間加熱保持した。加熱後に溶液の上澄みを捨て、沈殿物としてリン酸マンガン鉄リチウムを得た。得られたリン酸マンガン鉄リチウムを純水に分散させた後に、遠心分離により上澄みを除去する操作を5回繰り返すことにより洗浄を行った。
【0076】
得られたリン酸マンガン鉄リチウムのうち10gに対し、20℃における粘度が600mPa・sec(B型粘度計で、回転速度6rpm時)の減圧重油原液を、前記リン酸マンガン鉄リチウムの重量に対して4.0重量%添加し、ジェットミル(スギノマシン製)によってさらに精密混合し、この混合物を700℃において3時間焼成した。
【0077】
[比較例6]
工程1においてグルコースの添加量を2.50gとし、ポリビニルアルコールの添加を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、造粒体を得た。得られた造粒体を焼成炉で700℃1時間窒素雰囲気下焼成し、リン酸マンガン鉄リチウム2次粒子からなる粉体試料を得た。この粉体試料と、比較例2と同様にして得られる粉体試料を重量比で1:1になるよう、乳鉢で混合し、オリビン型活物質粉体を得た。その後、実施例1の工程2と同様にして、電極板を作製した。
【0078】
各実施例および比較例の評価結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【符号の説明】
【0080】
1 各測定点における、炭素層の厚み
2 原点
3 輝点
4 原点から輝点までの距離
図1
図2