(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-25
(45)【発行日】2025-04-02
(54)【発明の名称】非水電解質蓄電素子用の負極、非水電解質蓄電素子、及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/134 20100101AFI20250326BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20250326BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/1395
(21)【出願番号】P 2021004938
(22)【出願日】2021-01-15
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 克行
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-063731(JP,A)
【文献】特開2007-227219(JP,A)
【文献】特表2019-509606(JP,A)
【文献】特開2018-113259(JP,A)
【文献】特表2017-504931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M10/00-10/39
H01M 6/00- 6/22
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属リチウムを含む負極活物質層と、
上記負極活物質層の少なくとも一部を被覆する被覆層と
を備え、
上記被覆層が
、上記金属リチウムと反応可能な化合物又は上記化合物と上記金属リチウムとの反応生成物
、及びバインダを含
み、
上記化合物が、窒素及びリンのいずれか一方を含むオキソ酸若しくはオキソ酸塩、又はケイ素を含む酸化物であり、
上記被覆層において、上記化合物及び上記バインダが混合されている非水電解質蓄電素子用の負極。
【請求項2】
金属リチウムを含む負極活物質層と、
上記負極活物質層の少なくとも一部を被覆する被覆層と
を備え、
上記被覆層が、硝酸、亜硝酸、リン酸、亜リン酸、硝酸塩、亜硝酸塩、リン酸塩及び亜リン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種である化合物、又は上記化合物と上記金属リチウムとの反応生成物を含み、
上記被覆層が上記負極活物質層に直接積層されている非水電解質蓄電素子用の負極(但し、上記被覆層が酸化ケイ素、硫化ケイ素、酸化リチウム及び硫化リチウムを含む場合を除く)。
【請求項3】
金属リチウムを含む負極活物質層と、
上記負極活物質層の少なくとも一部を被覆する被覆層と
を備え、
上記被覆層が、上記金属リチウムと反応可能な化合物又は上記化合物と上記金属リチウムとの反応生成物を含み、
上記化合物が、窒素及びリンのいずれか一方を含むオキソ酸若しくはオキソ酸塩であり、
上記被覆層が最外層に位置するとともに上記負極活物質層に直接積層されている非水電解質蓄電素子用の負極(但し、上記被覆層が酸化ケイ素、硫化ケイ素、酸化リチウム及び硫化リチウムを含む場合を除く)。
【請求項4】
金属リチウムを含む負極活物質層に
、上記金属リチウムと反応可能な化合物
、及びバインダを含む被覆層形成用材料を接触させることを備え
、
上記化合物が、窒素及びリンのいずれか一方を含むオキソ酸若しくはオキソ酸塩、又はケイ素を含む酸化物であり、
上記被覆層形成材料において、上記化合物及び上記バインダが混合されている非水電解質蓄電素子用の負極の製造方法。
【請求項5】
金属リチウムを含む負極活物質層に、硝酸、亜硝酸、リン酸、亜リン酸、硝酸塩、亜硝酸塩、リン酸塩及び亜リン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種である化合物を含む被覆層形成用材料を接触させることと、
上記被覆層形成用材料を基に被覆層を形成することと
を備え、
上記被覆層が上記負極活物質層に直接積層されている非水電解質蓄電素子用の負極の製造方法(但し、上記被覆層形成用材料が酸化ケイ素、硫化ケイ素、酸化リチウム及び硫化リチウムを含む場合を除く)。
【請求項6】
非水電解質蓄電素子用の負極の製造方法であって、
金属リチウムを含む負極活物質層に、上記金属リチウムと反応可能な化合物を含む被覆層形成用材料を接触させることと、
上記被覆層形成用材料を基に被覆層を形成することと
を備え、
上記化合物が、窒素及びリンのいずれか一方を含むオキソ酸若しくはオキソ酸塩であり、
上記被覆層が上記負極の最外層に位置するとともに上記負極活物質層に直接積層されている非水電解質蓄電素子用の負極の製造方法(但し、上記被覆層形成用材料が酸化ケイ素、硫化ケイ素、酸化リチウム及び硫化リチウムを含む場合を除く)。
【請求項7】
請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の負極を備える非水電解質蓄電素子。
【請求項8】
請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の負極又は請求項
4から請求項
6のいずれか1項に記載の負極の製造方法により得られた負極を用いて非水電解質蓄電素子を作製することを備える非水電解質蓄電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質蓄電素子用の負極、非水電解質蓄電素子、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。非水電解質蓄電素子に用いられる高エネルギー密度を有する負極活物質として、金属リチウムが知られている(特許文献1、2参照)。また、特許文献3には、金属リチウムの表面にフッ素含有高分子によって保護膜を設ける方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-100065号公報
【文献】特開平07-245099号公報
【文献】特開2003-36842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウム電池等、負極活物質に金属リチウムが用いられた非水電解質蓄電素子においては、充電の際に負極表面で金属リチウムが樹枝状に析出することがある(以下、樹枝状の形態をした金属リチウムを「デンドライト」という。)。このデンドライトが成長しセパレータを貫通して正極と接触すると、微短絡を引き起こす。このため、負極活物質として金属リチウムを含む非水電解質蓄電素子は、充放電の繰り返しによって微短絡が発生しやすいという不都合を有する。上記特許文献3のような保護膜が設けられた負極を用いた場合も、微短絡の発生抑制効果は十分ではない。
【0005】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、微短絡の発生を抑制できる非水電解質蓄電素子用の負極及び非水電解質蓄電素子、並びにこれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、金属リチウムを含む負極活物質層と、上記負極活物質層の少なくとも一部を被覆する被覆層とを備え、上記被覆層が、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含み上記金属リチウムと反応可能な化合物、又は上記化合物と上記金属リチウムとの反応生成物を含む非水電解質蓄電素子用の負極(A)である。
【0007】
本発明の他の一態様は、金属リチウムを含む負極活物質層と、上記負極活物質層の少なくとも一部を被覆する被覆層とを備え、上記被覆層が、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含むオキソ酸、オキソ酸塩、酸化物、又はこれらと上記金属リチウムとの反応生成物を含む非水電解質蓄電素子用の負極(B)である。
【0008】
本発明の他の一態様は、金属リチウムを含む負極活物質層に、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含み上記金属リチウムと反応可能な化合物を含む被覆層形成用材料を接触させることを備える非水電解質蓄電素子用の負極の製造方法(A)である。
【0009】
本発明の他の一態様は、金属リチウムを含む負極活物質層に、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含むオキソ酸、オキソ酸塩又は酸化物を含む被覆層形成用材料を接触させることを備える非水電解質蓄電素子用の負極の製造方法(B)である。
【0010】
本発明の他の一態様は、本発明の一態様に係る負極(A)又は負極(B)を備える非水電解質蓄電素子である。
【0011】
本発明の他の一態様は、本発明の一態様に係る負極(A)若しくは負極(B)又は本発明の一態様に係る負極の製造方法(A)若しくは負極の製造方法(B)により得られた負極を用いて非水電解質蓄電素子を作製することを備える非水電解質蓄電素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、微短絡の発生を抑制できる非水電解質蓄電素子用の負極及び非水電解質蓄電素子、並びにこれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を示す外観斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
初めに、本明細書によって開示される非水電解質蓄電素子用の負極、非水電解質蓄電素子用の負極の製造方法、非水電解質蓄電素子、及び非水電解質蓄電素子の製造方法の概要について説明する。
【0015】
本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子用の負極は、金属リチウムを含む負極活物質層と、上記負極活物質層の少なくとも一部を被覆する被覆層とを備え、上記被覆層が、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含み上記金属リチウムと反応可能な化合物、又は上記化合物と上記金属リチウムとの反応生成物を含む非水電解質蓄電素子用の負極(A)である。
【0016】
当該負極(A)は、非水電解質蓄電素子の充放電の繰り返しに伴う微短絡の発生を抑制することができる。すなわち、当該負極(A)が備えられた非水電解質蓄電素子においては、充放電の繰り返しによって生じる微短絡の発生が遅延化される。この理由は定かではないが、以下の理由が推測される。被覆層中の窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含み金属リチウムと反応可能な化合物の少なくとも一部は、負極活物質層の少なくとも一部を被覆することによって、負極活物質層表面の金属リチウムに接触することで金属リチウムと反応して反応生成物を形成していると考えられる。また、この反応は、非水電解質蓄電素子の充放電中にも進行すると考えられる。負極活物質層の少なくとも一部を被覆する被覆層が、このような窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含む上記化合物と金属リチウムとの反応生成物を含む、あるいはこのような反応生成物を形成可能であることにより、被覆層が均質且つ良質なものとなり、これにより負極表面におけるデンドライトの成長が抑制されることなどが推測される。
【0017】
上記化合物が、オキソ酸、オキソ酸塩又は酸化物であることが好ましい。これにより、被覆層がより均質且つ良質なものとなり、微短絡の発生をより抑制することができる。
【0018】
本発明の他の一態様に係る非水電解質蓄電素子用の負極は、金属リチウムを含む負極活物質層と、上記負極活物質層の少なくとも一部を被覆する被覆層とを備え、上記被覆層が、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含むオキソ酸、オキソ酸塩、酸化物、又はこれらと上記金属リチウムとの反応生成物を含む非水電解質蓄電素子用の負極(B)である。
【0019】
当該負極(B)は、非水電解質蓄電素子の充放電の繰り返しに伴う微短絡の発生を抑制することができる。この理由は定かではないが、上述した負極(A)と同様、金属リチウムを含む負極活物質層の少なくとも一部を被覆する被覆層が、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含むオキソ酸、オキソ酸塩、酸化物、又はこれらと金属リチウムとの反応生成物を含むことにより、被覆層が均質且つ良質なものとなっており、これにより負極表面におけるデンドライトの成長が抑制されることなどが推測される。
【0020】
当該負極(A)及び負極(B)の被覆層がバインダをさらに含むことが好ましい場合もある。被覆層がバインダをさらに含むことで、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含む化合物等が負極活物質層に十分に固着される。また、被覆層が含む化合物の種類によっては、微短絡の発生をより抑制することができる。例えば被覆層に非水電解質に溶解する化合物が用いられている場合、被覆層がバインダを含むことで上記化合物の非水電解質への溶解速度が調整されることなどにより、微短絡の発生がより遅延化され得る。
【0021】
上記バインダがフッ素樹脂であることが好ましい。バインダがフッ素樹脂である場合、被覆層がさらに均質且つ良質なものとなることや、用いられた化合物等が負極活物質層にさらに十分に固着されることなどにより、微短絡の発生をより抑制することができる。
【0022】
当該負極(A)及び負極(B)の被覆層がバインダを実質的に含まないことが好ましい場合もある。このような場合、所定の化合物と金属リチウムとの反応生成物を含む被膜層がより均質且つ良質なものとなること、被覆層が低抵抗化されて電流集中が起きにくくなることなどにより、微短絡の発生をより抑制することができる。なお、被覆層がバインダを実質的に含まないとは、被覆層におけるバインダの含有量が1質量%以下であることをいう。
【0023】
本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子用の負極の製造方法は、金属リチウムを含む負極活物質層に、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含み上記金属リチウムと反応可能な化合物を含む被覆層形成用材料を接触させることを備える非水電解質蓄電素子用の負極の製造方法(A)である。
【0024】
当該製造方法(A)によれば、非水電解質蓄電素子の充放電の繰り返しに伴う微短絡の発生を抑制することができる負極を製造することができる。
【0025】
本発明の他の一態様に係る非水電解質蓄電素子用の負極の製造方法は、金属リチウムを含む負極活物質層に、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含むオキソ酸、オキソ酸塩又は酸化物を含む被覆層形成用材料を接触させることを備える非水電解質蓄電素子用の負極の製造方法(B)である。
【0026】
当該製造方法(B)によっても、非水電解質蓄電素子の充放電の繰り返しに伴う微短絡の発生を抑制することができる負極を製造することができる。
【0027】
本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子は、本発明の一態様に係る負極(A)又は負極(B)を備える非水電解質蓄電素子である。
【0028】
当該非水電解質蓄電素子は、本発明の一態様に係る負極(A)又は負極(B)が備えられているため、充放電の繰り返しに伴う微短絡の発生が抑制されている。
【0029】
本発明の一態様に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、本発明の一態様に係る負極(A)若しくは負極(B)又は本発明の一態様に係る負極の製造方法(A)若しくは負極の製造方法(B)により得られた負極を用いて非水電解質蓄電素子を作製することを備える非水電解質蓄電素子の製造方法である。
【0030】
当該製造方法によれば、充放電の繰り返しに伴う微短絡の発生が抑制された非水電解質蓄電素子を製造することができる。
【0031】
以下、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子用の負極、非水電解質蓄電素子用の負極の製造方法、非水電解質蓄電素子、及び非水電解質蓄電素子の製造方法について、順に説明する。
【0032】
<非水電解質蓄電素子用の負極>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子用の負極は、負極基材、この負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層、及びこの負極活物質層の少なくとも一部を被覆する被覆層を備える。すなわち、当該負極は、負極基材、負極活物質層及び被覆層の少なくとも三層がこの順に積層された積層構造を有する。負極活物質層及び被覆層は、負極基材の一方の面側のみに積層されていてもよく、負極基材の両方の面側にそれぞれ積層されていてもよい。
【0033】
(負極基材)
負極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するとは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が107Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が107Ω・cm超であることを意味する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。また、負極基材の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0034】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、非水電解質蓄電素子の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。「平均厚さ」とは、所定の面積の基材を打ち抜いた際の打ち抜き質量を、基材の真密度及び打ち抜き面積で除した値をいう。以下、後述する正極基材の「平均厚さ」についても同様である。
【0035】
(中間層)
中間層は、負極基材の表面の被覆層であり、炭素粒子等の導電性粒子を含むことで負極基材と負極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば樹脂バインダ及び導電性粒子を含有する組成物により形成できる。
【0036】
(負極活物質層)
負極活物質層は、金属リチウムを含む。金属リチウムは、負極活物質として機能する成分である。金属リチウムは、実質的にリチウムのみからなる純金属リチウムとして存在してもよいし、他の金属成分を含むリチウム合金として存在してもよい。リチウム合金としては、リチウム銀合金、リチウム亜鉛合金、リチウムカルシウム合金、リチウムアルミニウム合金、リチウムマグネシウム合金、リチウムインジウム合金等が挙げられる。リチウム合金は、リチウム以外の複数の金属元素を含有していてもよい。
【0037】
負極活物質層は、実質的に金属リチウムのみからなる層であってよい。負極活物質層における金属リチウムの含有量は、90質量%以上であってよく、99質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
【0038】
負極活物質層は、リチウム箔又はリチウム合金箔であってよい。負極活物質層は、無孔質の層(中実の層)であってよい。また、負極活物質層は、金属リチウムを含む粒子を有する多孔質の層であってもよい。負極活物質層の平均厚さは、5μm以上1,000μm以下が好ましく、10μm以上500μm以下がより好ましく、30μm以上300μm以下がさらに好ましい。
【0039】
(被覆層)
被覆層は、負極活物質層の少なくとも一部を被覆する。すなわち、負極活物質層は、露出した部分があってもよい。但し、被覆層は、負極活物質層の外面(負極基材又は中間層と接触している面以外の面)の面積の50%以上を被覆していることが好ましく、70%以上を被覆していることがより好ましく、90%以上さらには99%以上を被覆していることがさらに好ましい。
【0040】
被覆層は、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含む化合物又は上記化合物と金属リチウムとの反応生成物を含む。
【0041】
当該負極の第一の実施形態において、上記窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含む化合物は、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含み金属リチウムと反応可能な化合物である。窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含み金属リチウムと反応可能な化合物とは、窒素、ケイ素又はリンの酸化数が正の値である化合物であってよい。このような化合物としては、窒素、ケイ素又はリンを含むオキソ酸、これらのオキソ酸の塩、窒素、ケイ素又はリンの酸化物等が挙げられる。
【0042】
窒素を含むオキソ酸としては、硝酸、亜硝酸等が挙げられる。
ケイ素を含むオキソ酸としては、ケイ酸等が挙げられる。
リンを含むオキソ酸としては、リン酸、亜リン酸等が挙げられる。
これらのオキソ酸の塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、鉄、銅、銀等の遷移金属の塩等が挙げられる。
窒素の酸化物としては、一酸化窒素、二酸化窒素等が挙げられる。
ケイ素の酸化物としては、一酸化ケイ素、二酸化ケイ素等が挙げられる。
リンの酸化物としては、五酸化二リン等が挙げられる。
【0043】
窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含む化合物が常温で気体である場合、金属リチウムを含む負極活物質層の表面に接触することで金属リチウムと反応し、この反応生成物が被覆層を形成することができる。
【0044】
窒素を含む化合物としては、オキソ酸及びオキソ酸塩が好ましく、オキソ酸塩がより好ましい。また、窒素を含む化合物としては、亜硝酸及び亜硝酸塩がより好ましいこともあり、亜硝酸塩がさらに好ましく、亜硝酸のアルカリ金属塩がよりさらに好ましい。
リンを含む化合物としては、オキソ酸及びオキソ酸塩が好ましく、オキソ酸がより好ましい。また、リンを含む化合物としては、亜リン酸及び亜リン酸塩がより好ましく、亜リン酸がさらに好ましい。
ケイ素を含む化合部としては、ケイ素の酸化物が好ましい。
このような化合物、又はこのような化合物と金属リチウムとの反応生成物が被覆層に含有されていることで、微短絡の発生抑制効果が高まる。
【0045】
当該負極の第二の実施形態において、上記窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含む化合物は、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含むオキソ酸、オキソ酸塩又は酸化物である。本実施形態においては、これらの化合物は金属リチウムと反応可能でなくてもよいが、金属リチウムと反応可能な化合物であることが好ましい。第二の実施形態で用いられるオキソ酸、オキソ酸塩又は酸化物の具体例及び好適例は、上述した第一の実施形態において例示した各オキソ酸、オキソ酸塩又は酸化物が挙げられる。
【0046】
被覆層の形成に用いられた窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含む化合物の一部又は全部は、被覆層中でそのまま上記化合物として存在していてもよい。但し、第一の実施形態における上記化合物は、金属リチウムを含む負極活物質層と接触することで反応が生じると考えられる。このため、被覆層の形成に用いられた上記化合物の一部又は全部は、金属リチウムと上記化合物との反応生成物の状態で被覆層中に存在していてもよい。
【0047】
被覆層における上記窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含む化合物及び上記化合物と金属リチウムとの反応生成物の合計含有量としては、1質量%以上100質量%以下であってよい。上記合計含有量の下限は、5質量%、20質量%、50質量%、80質量%、90質量%、95質量%、99質量%又は99.9質量%が好ましい場合がある。このように被覆層における窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含む化合物及び上記化合物と金属リチウムとの反応生成物の合計含有量が多い場合、形成される被膜層がより均質且つ良好なものとなり、微短絡の発生がより抑制されることがある。例えば、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含む化合物がオキソ酸及び酸化物の少なくとも一方である場合、この化合物及びこの化合物と金属リチウムとの反応生成物の含有量が多いことが好ましい傾向にある。なお、上記含有量の上限は、50質量%であってもよく、30質量%であってもよい。
【0048】
被覆層は、バインダをさらに含んでいてもよい。例えば被覆層に非水電解質に溶解する化合物が用いられている場合、被覆層がバインダを含むことで上記化合物の非水電解質への溶解速度が調整されることなどにより、微短絡の発生がより遅延化され得る。非水電解質に溶解する化合物としては、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含むオキソ酸塩等の塩が挙げられ、具体的にはLiNO3が例示できる。
【0049】
上記バインダとしては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子などが挙げられる。上記バインダとしては、フッ素樹脂が好ましく、PVDFがより好ましい。
【0050】
被覆層がバインダを含む場合、被覆層におけるバインダの含有量としては、例えば10質量%以上99質量%以下が好ましく、50質量%以上95質量%以下がより好ましい。被覆層におけるバインダの含有量が上記範囲であることにより、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含む化合物等が負極活物質層に十分に固着される。また、例えば被覆層に非水電解質に溶解する化合物が用いられている場合、バインダの含有量が上記範囲であることにより、上記化合物の非水電解質への溶解速度を適切に調整することができる。
【0051】
被覆層におけるバインダの含有量は、30質量%以下、10質量%以下、1質量%以下、0.1質量%以下、さらには0質量%が好ましい場合がある。また、被覆層は、バインダを実質的に含まないことが好ましい場合もある。例えば、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含む化合物がオキソ酸及び酸化物の少なくとも一方である場合、バインダの含有量が少ない方が、被膜層がより均質且つ良質なものとなること、被覆層が低抵抗化されて電流集中が起きにくくなることなどにより、微短絡の発生がより抑制される傾向にある。
【0052】
被覆層は、重合性化合物の架橋体を実質的に含まなくてよい。当該負極においては、被覆層が重合性化合物の架橋体を実質的に含まなくても、上記窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含む化合物を用いることにより、非水電解質蓄電素子の充放電の繰り返しに伴う微短絡の発生を抑制することができる。被覆層における重合性化合物の架橋体の含有量は、10質量%以下が好ましいことがあり、3質量%以下、1質量%以下、又は0質量%がより好ましいことがある。被覆層における重合性化合物の架橋体の含有量を上記上限以下とすることで、生産性を高め、生産コストを抑制することなどができる。
【0053】
<非水電解質蓄電素子用の負極の製造方法>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子用の負極の製造方法は、例えば負極基材に直接又は中間層を介して金属リチウムを含む負極活物質層を積層すること(工程1)、及び上記負極活物質層に、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含む化合物を含む被覆層形成用材料を接触させること(工程2)を備える。
【0054】
上記工程1は、従来公知の方法により行うことができる。具体的には、例えば負極基材に直接又は中間層を介して金属リチウムを含む負極活物質層を重ね、プレス等することなどにより行うことができる。金属リチウムを含む負極活物質層は、リチウム箔又はリチウム合金箔であってよい。
【0055】
上記工程2においては、上記工程1で得られた負極基材と負極活物質層との積層体における負極活物質層の露出面に、被覆層形成用材料を接触させる。被覆層形成用材料は、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含む化合物に加え、通常、分散媒をさらに含み、バインダをさらに含んでいてもよい。
【0056】
当該負極の製造方法の第一の実施形態において、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含む化合物は、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含み金属リチウムと反応可能な化合物である。また、当該負極の製造方法の第二の実施形態において、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含む化合物は、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含むオキソ酸、オキソ酸塩又は酸化物である。これらの化合物の具体例及び好適例は、本発明の一実施形態に係る負極の被覆層に含まれる窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含む化合物の具体例及び好適例として例示したものと同様である。
【0057】
被覆層形成用材料中の固形分(分散媒以外の成分)における窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含む化合物の含有量としては、1質量%以上100質量%以下であってよい。被覆層形成用材料中の固形分(分散媒以外の成分)におけるバインダの含有量としては、0質量%以上99質量%以下であってよい。
【0058】
被覆層形成用材料の分散媒としては、N-メチルピロリドン(NMP)、トルエン等の有機溶剤が好適に用いられる。被覆層形成用材料における分散媒の含有量としては、例えば50質量%以上99質量%以下が好ましく、80質量%以上96質量%以下がより好ましい。
【0059】
上記工程2は、具体的には以下の手順で行うことができる。窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含む化合物、分散媒等を混合し、被覆層形成用材料を調製する。調製した被覆層形成用材料を負極活物質層の表面に接触させる。被覆層形成用材料が接触した負極活物質層(負極活物質層と被覆層形成用材料の膜との積層体)を乾燥させる。被覆層形成用材料の負極活物質層への接触は、被覆層形成用材料の塗布や、被覆層形成用材料への負極活物質層の浸漬などにより行うことができる。このような工程を経て、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含む化合物又は上記化合物と金属リチウムとの反応生成物を含む被覆層が、負極活物質層の表面に積層される。
【0060】
なお、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含む化合物が常温で気体である場合、被覆層形成用材料は、上記化合物のみからなるガス、又は上記化合物と他の成分との混合ガスであってもよい。この場合、例えば負極活物質層表面へ被覆層形成用材料を噴射する、あるいは被覆層形成用材料のガス雰囲気下に負極活物質層を曝すことなどにより、負極活物質層の表面に被覆層形成用材料を接触させ、被覆層を形成することができる。
【0061】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、正極、負極及び非水電解質を有する。以下、非水電解質蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。上記正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回により交互に重畳された電極体を形成する。この電極体は容器に収納され、この容器内に非水電解質が充填される。上記非水電解質は、正極と負極との間に介在する。また、上記容器としては、二次電池の容器として通常用いられる公知の金属容器、樹脂容器等を用いることができる。
【0062】
(正極)
正極は、正極基材、及びこの正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層を有する。正極の中間層は負極の中間層と同様の構成とすることができる。
【0063】
正極基材は、負極基材と同様の構成とすることができるが、材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
【0064】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0065】
正極活物質層は、正極活物質を含むいわゆる正極合剤から形成される層である。正極活物質層を形成する正極合剤は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含んでいてよい。
【0066】
正極活物質としては、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi1-x]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo1-x-γ]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixCo1-x]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγMn1-x-γ]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixNiγMnβCo1-x-γ-β]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)、Li[LixNiγCoβAl1-x-γ-β]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LixMn2O4、LixNiγMn2-γO4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0067】
正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物がより好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属としてニッケル又はマンガンを含むことが好ましく、ニッケル及びマンガンの双方を含むことがより好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物は、コバルト等の他の遷移金属をさらに含んでいてもよい。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物においては、遷移金属(Me)に対するリチウム(Li)のモル比(Li/Me)が1超であることが好ましく、1.1以上さらには1.2以上であることがより好ましい。このようなリチウム遷移金属複合酸化物を用いることで、電気容量を大きくすることができる。また、このような正極活物質を用いた非水電解質蓄電素子の場合、高い電流密度で使用される傾向にあり、通常、デンドライトは成長しやすい。従って、上記リチウム遷移金属複合酸化物を有する正極を備える非水電解質蓄電素子の場合、微短絡の発生を抑制するという効果がより顕著に享受できる。なお、遷移金属に対するリチウムのモル比(Li/Me)の上限としては、1.6が好ましく、1.5がより好ましい。
【0068】
α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物としては、下記式(1)で表される化合物が好ましい。
Li1+αMe1-αO2 ・・・(1)
式(1)中、MeはNi又はMnを含む遷移金属である。0<α<1である。
【0069】
式(1)中のMeは、Ni及びMnを含むことが好ましい。Meは、実質的にNi及びMnの二元素、又はNi、Mn及びCoの三元素から構成されていることが好ましい。Meは、その他の遷移金属が含有されていてもよい。
【0070】
式(1)中、Meに対するNiのモル比(Ni/Me)の下限としては、0.1が好ましく、0.2がより好ましい。一方、このモル比(Ni/Me)の上限としては、0.5が好ましく、0.45がより好ましい。モル比(Ni/Me)を上記範囲とすることにより、エネルギー密度が向上する。
【0071】
式(1)中、Meに対するMnのモル比(Mn/Me)の下限としては、0.5が好ましく、0.55がより好ましい。一方、このモル比(Mn/Me)の上限としては、0.75が好ましく、0.7がより好ましい。モル比(Mn/Me)を上記範囲とすることにより、エネルギー密度が向上する。
【0072】
式(1)中、Meに対するCoのモル比(Co/Me)の上限としては、0.3が好ましく、0.2がより好ましい。このモル比(Co/Me)又はこのモル比(Co/Me)の下限は0であってよい。
【0073】
式(1)中、Meに対するLiのモル比(Li/Me)、即ち、(1+α)/(1-α)は、1.0超(α>0)が好ましく、1.1以上がより好ましく、1.2以上がさらに好ましい。一方、このモル比(Li/Me)の上限としては、1.6が好ましく、1.5がより好ましい。モル比(Li/Me)を上記範囲とすることで、放電容量が大きくなる。
【0074】
全ての正極活物質に対する上記リチウム遷移金属複合酸化物の含有量の下限は、50質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、95質量%がさらに好ましい。全ての正極活物質に対する上記リチウム遷移金属複合酸化物の含有量は、100質量%であってよい。
【0075】
正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。ここで、「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0076】
正極活物質の粒子を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0077】
正極活物質層における正極活物質の含有量としては、70質量%以上98質量%以下が好ましく、80質量%以上97質量%以下がより好ましく、90質量%以上96質量%以下がさらに好ましい。正極活物質の含有量を上記範囲とすることで、二次電池の電気容量を大きくすることができる。
【0078】
導電剤としては、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料;金属;導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛やカーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックの種類としては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。これらの中でも、導電性及び塗工性の観点より、炭素質材料が好ましい。なかでも、アセチレンブラックやケッチェンブラックが好ましい。導電剤の形状としては、粉状、シート状、繊維状等が挙げられる。
【0079】
正極活物質層における導電剤の含有量は、1質量%以上40質量%以下が好ましく、2質量%以上10質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、二次電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0080】
バインダの具体例としては、負極の被覆層の成分として上述したバインダを挙げることができる。
【0081】
正極活物質層におけるバインダの含有量は、0.5質量%以上10質量%以下が好ましく、1質量%以上6質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、活物質を安定して保持することができる。
【0082】
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。本発明の一態様においては、増粘剤は正極活物質層に含有されていないことが好ましい場合もある。
【0083】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。本発明の一態様においては、フィラーは正極活物質層に含有されていないことが好ましい場合もある。
【0084】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0085】
(負極)
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の負極は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子用の負極として上述した負極である。
【0086】
(セパレータ)
セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の形状としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの形状の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0087】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、大気下で室温から500℃に加熱したときの質量減少が5%以下であるものが好ましく、大気下で室温から800℃に加熱したときの質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。加熱したときの質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、チタン酸バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、蓄電素子の安全性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又はアルミノケイ酸塩が好ましい。
【0088】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0089】
セパレータとして、ポリマーと非水電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーとして、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリビニルカーボネート、ポリメチルメタアクリレート等のポリアルキルメタアクリレート類、ポリメチルアクリレート等のポリアルキルアクリレート類、ポリビニルエチレンカーボネート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリマレイン酸及びその誘導体、ポリフッ化ビニリデン、ポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン)、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。例示した上記ポリマーを構成するモノマーを2種以上含む共重合体を用いてもよく、2種以上のポリマーの混合物を用いてもよい。また、これらのポリマーは無機塩やイオン液体と複合させてもよい。ポリマーゲルを用いると、漏液を抑制する効果がある。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等とポリマーゲルを併用してもよい。
【0090】
(非水電解質)
非水電解質は、通常、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解された電解質塩とを含む非水電解液が好適に用いられる。
【0091】
非水溶媒としては、公知の非水溶媒の中から適宜選択できる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲンに置換されたものを用いてもよい。
【0092】
非水溶媒として、環状カーボネート及び鎖状カーボネートの少なくとも一方を用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解質のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解質の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。
【0093】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、フルオロメチルエチレンカーボネート、トリフルオロエチルエチレンカーボネート、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。環状カーボネートの炭素数としては、例えば3以上13以下であってよく、7以下又は5以下であってもよい。
【0094】
環状カーボネートとしては、耐酸化性等の点から、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、フルオロメチルエチレンカーボネート、トリフルオロエチルエチレンカーボネート等、フッ素化環状カーボネートが好ましい。
【0095】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート、エチル-2,2,2-トリフルオロエチルカーボネート等が挙げられる。鎖状カーボネートの炭素数としては、例えば3以上13以下であってよく、7以下又は5以下であってもよい。
【0096】
鎖状カーボネートとしては、耐酸化性等の点から、2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(2,2,2-トリフルオロエチル)カーボネート、エチル-2,2,2-トリフルオロエチルカーボネート等、フッ素化鎖状カーボネートが好ましい。
【0097】
全非水溶媒に対するカーボネートの含有量は、50体積%以上100体積%以下が好ましく、80体積%以上がより好ましく、90体積%以上、95体積%以上又は99体積%以上がさらに好ましい場合もある。
【0098】
非水溶媒は、フッ素化溶媒を含むことが好ましい。全非水溶媒に対するフッ素化溶媒の合計含有量は、60体積%以上が好ましく、90体積%以上がより好ましく、99体積%以上がさらに好ましく、100体積%が特に好ましい。なお、フッ素化溶媒とは、フッ素化カーボネート(フッ素化鎖状カーボネート及びフッ素化環状カーボネート)、フッ素化エーテル等、分子内にフッ素原子を有する溶媒(非水溶媒)をいう。このようにフッ素化溶媒を含有させること、好ましくは上記下限以上で含有させることにより、微短絡の抑制性、耐酸化性等をより高めることなどができる。
【0099】
電解質塩は、通常、リチウム塩である。リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF6がより好ましい。また、耐酸化性等の点から、電解質塩は、フッ素原子を含むものが好ましい。
【0100】
非水電解質における電解質塩の含有量は、0.1mol/dm3以上2.5mol/dm3以下が好ましく、0.3mol/dm3以上2.0mol/dm3以下がより好ましく、0.5mol/dm3以上1.7mol/dm3以下がさらに好ましく、0.7mol/dm3以上1.5mol/dm3以下が特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解質のイオン伝導度を高めることができる。
【0101】
非水電解質は、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えばビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の上記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル等が挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0102】
非水電解質に含まれる添加剤の含有量は、非水電解質全体に対して0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上7質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下がさらに好ましく、0.3質量%以上3質量%以下が特に好ましい。添加剤の含有量を上記の範囲とすることで、高温保存後の容量維持性能又は充放電サイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。
【0103】
非水電解質には、固体電解質を用いてもよく、非水電解液と固体電解質とを併用してもよい。
【0104】
固体電解質としては、リチウム、ナトリウム、カルシウム等のイオン伝導性を有し、常温(例えば15℃から25℃)において固体である任意の材料から選択できる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、及び酸窒化物固体電解質、ポリマー固体電解質等が挙げられる。
【0105】
硫化物固体電解質としては、リチウムイオン二次電池の場合、例えば、Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2S5、Li10Ge-P2S12等が挙げられる。
【0106】
当該非水電解質蓄電素子においては、通常使用時の充電終止電圧における正極電位が4.30V vs.Li/Li+以上であることが好ましく、4.35V vs.Li/Li+以上であることがより好ましく、4.40V vs.Li/Li+以上であることがさらに好ましい場合もある。通常使用時の充電終止電圧における正極電位を上記下限以上とすることで、放電容量を大きくし、エネルギー密度を高めることができる。
【0107】
なお、「通常使用時」とは、当該非水電解質蓄電素子について推奨され、又は指定される充電条件を採用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合をいう。例えば、当該非水電解質蓄電素子のための充電器が用意されている場合は、その充電器を適用して当該非水電解質蓄電素子を使用する場合をいう。
【0108】
当該非水電解質蓄電素子の通常使用時の充電終止電圧における正極電位の上限としては、例えば5.0V vs.Li/Li+であり、4.8V vs.Li/Li+であってよく、4.7V vs.Li/Li+であってよい。
【0109】
デンドライトは、充電の際の電流密度が高い場合に成長しやすい傾向にある。従って、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、電流密度が高い充電が行われる用途に好適に適用できる。このような用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、回生電力充電用電源などが挙げられる。
【0110】
本実施形態の非水電解質蓄電素子の形状については特に限定されるものではなく、例えば、円筒型電池、角型電池、扁平型電池、コイン型電池、ボタン型電池等が挙げられる。
【0111】
図1に角型電池の一例としての非水電解質蓄電素子1を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極を有する電極体2が角型の容器3に収納される。正極は正極リード41を介して正極端子4と電気的に接続されている。負極は負極リード51を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0112】
<非水電解質蓄電装置の構成>
本実施形態の非水電解質蓄電素子は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の非水電解質蓄電素子を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電ユニットに含まれる少なくとも一つの非水電解質蓄電素子に対して、本発明の一実施形態に係る技術が適用されていればよい。
【0113】
図2に、電気的に接続された二以上の非水電解質蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の非水電解質蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の非水電解質蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0114】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、本発明の一実施形態に係る負極又は本発明の一実施形態に係る負極の製造方法により得られた負極を用いて非水電解質蓄電素子を作製することを備える。当該製造方法は、負極として、本発明の一実施形態に係る負極又は本発明の一実施形態に係る負極の製造方法により得られた負極を用いること以外は、従来公知の非水電解質蓄電素子の製造と同様に行うことができる。
【0115】
例えば、当該非水電解質蓄電素子の製造方法は、正極を準備又は作製すること、負極を準備又は作製すること、非水電解質を準備又は調製すること、セパレータを準備又は作製すること、正極及び負極をセパレータを介して積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成すること、正極及び負極(電極体)を容器に収容すること、並びに上記容器に上記非水電解質を注入することを備える。注入後、注入口を封止することにより当該非水電解質蓄電素子を得ることができる。
【0116】
<その他の実施形態>
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0117】
上記実施形態では、非水電解質蓄電素子が充放電可能な非水電解質二次電池(リチウム電池)として用いられる場合について説明したが、非水電解質蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明の非水電解質蓄電素子は、種々の非水電解質二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタにも適用できる。また、本発明の非水電解質蓄電素子は、リチウム空気電池にも適用することができる。
【実施例】
【0118】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0119】
[実施例1]
(正極の作製)
正極活物質として、α―NaFeO2型結晶構造を有し、Li1+αMe1-αO2(Meは遷移金属)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を用いた。ここで、LiとMeのモル比Li/Meは1.33であり、Meは、Ni及びMnからなり、Ni:Mn=1:2のモル比で含んでいるものであった。
【0120】
N-メチルピロリドン(NMP)を分散媒とし、上記正極活物質、導電剤であるアセチレンブラック(AB)、及びバインダであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を固形分として94:4.5:1.5の質量比率で含有する正極合剤ペーストを作製した。正極基材であるアルミニウム箔の片面に、上記正極合剤ペーストを塗布し、乾燥後プレスし、正極活物質層が配置された正極を作製した。なお、正極は、1Cでの電流密度が5.1mA/cm2となるように設計して作製した。
【0121】
(負極の作製)
ニッケルリード線を、負極活物質層としての平均厚さ300μmの2枚のリチウム箔(金属リチウム100質量%)で挟み込んだ。添加剤としてH3PO3と、バインダとしてPVDFと、分散媒としてNMPとを、0.05:0.5:6.5の質量比で混合し、被覆層形成用材料を調製した。これを45℃で加熱し、上記リチウム箔の表面に塗布した後、乾燥させることで、金属リチウムを含む負極活物質層の表面に被覆層が積層された負極を作製した。
【0122】
(非水電解質の調製)
フルオロエチレンカーボネート(FEC)及び2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート(TFEMC)を30:70の体積比で混合した混合溶媒にLiPF6を1mol/dm3の濃度で溶解させ、非水電解質とした。
【0123】
(非水電解質蓄電素子の作製)
ポリオレフィン製微多孔膜であるセパレータを介して、上記正極と上記負極とを積層することにより電極体を作製した。この電極体を金属樹脂複合フィルム製の容器に収納し、内部に上記の非水電解質を注入した後、熱溶着により封口し、実施例1の非水電解質蓄電素子(リチウム電池)を得た。
【0124】
[実施例2から5及び比較例1]
添加剤及びバインダの種類を表1に記載の通りとして被覆層形成用材料を調製し、この被覆層形成用材料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2から5及び比較例1の各負極及び非水電解質蓄電素子を得た。なお、実施例4、5においては、バインダを含まない被覆層形成用材料を用いて被覆層を形成した負極を用い、非水電解質蓄電素子を得た。比較例1においては、添加剤を含まない被覆層形成用材料を用いて被覆層を形成した負極を用い、非水電解質蓄電素子を得た。
【0125】
(初期充放電)
得られた各非水電解質蓄電素子について、以下の条件にて初期充放電を行った。25℃において、0.1Cの電流で充電終止電圧4.6Vとして定電流定電圧充電した。充電の終了条件は、電流が0.05Cとなるまでとした。その後、10分間の休止期間を設けた。その後、0.1Cの電流で放電終止電圧2.0Vとして定電流放電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。この充放電サイクルを2サイクル行った。
【0126】
(充放電サイクル試験)
次いで、以下の充放電サイクル試験を行った。25℃において、0.2Cの電流で充電終止電圧4.6Vとして定電流定電圧充電した。充電の終了条件は、電流が0.05Cとなるまでとした。その後、10分間の休止期間を設けた。その後、0.1Cの電流で放電終止電圧2.0Vとして定電流放電を行い、その後、10分間の休止期間を設けた。この充放電のサイクルを繰り返し、微短絡が生じるまでのサイクル数を記録した。結果(微短絡が生じるまでのサイクル数)を表1に示す。
【0127】
【0128】
表1に示されるように、窒素、ケイ素及びリンの少なくとも一種を含む、所定の化合物を含有する被覆層形成用材料を用いて被覆層を形成した負極を備える実施例1から5の各非水電解質蓄電素子は、微短絡が生じるまでのサイクル数が90回を超え、優れた微短絡発生抑制効果が確認できた。実施例の中でも、バインダを含まない被覆層形成用材料を用いてバインダを含まない被覆層を形成した負極を備える実施例4、5の各非水電解質蓄電素子は、特に優れた微短絡発生抑制効果が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車などの電源として使用される非水電解質蓄電素子などに適用できる。
【符号の説明】
【0130】
1 非水電解質蓄電素子
2 電極体
3 容器
4 正極端子
41 正極リード
5 負極端子
51 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置