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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-25
(45)【発行日】2025-04-02
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/06 20060101AFI20250326BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20250326BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20250326BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20250326BHJP
   B60W 20/40 20160101ALI20250326BHJP
   F02D 29/06 20060101ALI20250326BHJP
【FI】
B60W10/06 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/54
B60W10/02 900
B60W20/40
F02D29/06 D
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021031582
(22)【出願日】2021-03-01
(65)【公開番号】P2022132873
(43)【公開日】2022-09-13
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 卓弘
(72)【発明者】
【氏名】福田 敦史
(72)【発明者】
【氏名】市川 晃次
(72)【発明者】
【氏名】井戸側 正直
(72)【発明者】
【氏名】中野 智洋
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-31659(JP,A)
【文献】特開2012-56362(JP,A)
【文献】特開2019-19890(JP,A)
【文献】特開2018-168911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/48, 6/54,
B60W 10/00,20/40,
B60L 50/16,
F02D 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと車輪との動力伝達経路上にモータが設けられ、前記動力伝達経路上の前記エンジンと前記モータとの間にクラッチが設けられたハイブリッド車両の制御装置において、
前記エンジンの回転数と前記モータの回転数とを取得する取得部と、
前記エンジンが駆動中であり、前記クラッチが開放状態及びスリップ状態の何れか一方であるか否かを判定する第1判定部と、
前記エンジンの回転数が目標アイドル回転数から低下したか否かを判定する第2判定部と、
前記第1及び第2判定部により肯定判定がなされた場合に、前記エンジンの出力トルクを所定のトルク増大量分だけ増大させる補正を行う補正部と、を備え
前記目標アイドル回転数から前記エンジンの回転数を減算した値である不足回転数が大きいほど、前記トルク増大量を増大させ、
前記エンジンの回転数の単位時間当たりの低下量が大きいほど、前記トルク増大量を増大させ、
前記エンジンの回転数から前記モータの回転数を減算した差分回転数が、前記クラッチが係合する直前の状態とみなすことができる値以下の場合には、前記トルク増大量を徐々に減少させてゼロにする、ハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンと車輪との動力伝達経路上にモータが設けられ、動力伝達経路上のエンジンとモータとの間にクラッチが設けられたハイブリッド車両が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-067008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハイブリッド車両の始動の際には、エンジン及びモータの始動後に、クラッチが開放状態からスリップ状態を経て係合状態となって、エンジンとモータとが連結される。この際に、エンジン及びモータの回転数は例えば目標アイドル回転数に維持される。ここで、例えば低温始動時や、モータに何らかの異常が発生した場合には、モータの出力トルクが所望の出力トルクよりも低下するおそれがある。このような状態でクラッチがスリップ状態になると、モータの出力トルクの低下分をエンジンの出力トルクにより補うことができずにエンジン回転数が目標アイドル回転数よりも低下するおそれがある。この場合、クラッチが係合状態となった後においても、エンジン及びモータの回転数が目標アイドル回転数を維持できないおそれがある。このようにして始動性が低下するおそれがある。
【0005】
このため、クラッチがスリップ状態となった際に、エンジンの出力トルクを増大させるように補正することが考えられる。ここで、クラッチがスリップ状態となったか否の判定を、クラッチに供給される油圧に基づいて行うことが考えられる。しかしながら、油圧の大きさとクラッチの状態との関係は、環境温度や油量に応じてばらつきがあり、油圧に基づいてクラッチの状態を精度よく判定することは困難である。このため、油圧に基づいてクラッチがスリップ状態になったと判定された場合であっても、実際にはクラッチが係合状態となった後にこのような判定が行われ、上記の補正を適切なタイミングで行うことができずに、始動性が低下するおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、始動性が向上したハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、エンジンと車輪との動力伝達経路上にモータが設けられ、前記動力伝達経路上の前記エンジンと前記モータとの間にクラッチが設けられたハイブリッド車両の制御装置において、前記エンジンの回転数と前記モータの回転数とを取得する取得部と、前記エンジンが駆動中であり、前記クラッチが開放状態及びスリップ状態の何れか一方であるか否かを判定する第1判定部と、前記エンジンの回転数が目標アイドル回転数から低下したか否かを判定する第2判定部と、前記第1及び第2判定部により肯定判定がなされた場合に、前記エンジンの出力トルクを所定のトルク増大量分だけ増大させる補正を行う補正部と、を備え、前記目標アイドル回転数から前記エンジンの回転数を減算した値である不足回転数が大きいほど、前記トルク増大量を増大させ、前記エンジンの回転数の単位時間当たりの低下量が大きいほど、前記トルク増大量を増大させ、前記エンジンの回転数から前記モータの回転数を減算した差分回転数が、前記クラッチが係合する直前の状態とみなすことができる値以下の場合には、前記トルク増大量を徐々に減少させてゼロにする、ハイブリッド車両の制御装置によって達成できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、始動性が向上したハイブリッド車両の制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、ハイブリッド車両の概略構成図である。
図2図2は、比較例でのエンジンの回転数、モータの回転数、及びK0クラッチに供給される油圧の推移を示したタイミングチャートである。
図3図3は、ECUが実行する出力トルク増大制御の一例を示したフローチャートである。
図4図4は、トルク増大量を規定したマップの一例である。
図5図5は、本実施例でのエンジンの回転数、モータの回転数、K0クラッチに供給される油圧、及びトルク増大量の推移を示したタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[ハイブリッド車両の概略構成]
図1は、ハイブリッド車両の概略構成図である。ハイブリッド車両には、走行用の駆動源としてのエンジン10とモータ15が搭載されている。エンジン10は、例えばガソリンエンジンであるが、ディーゼルエンジンであってもよい。エンジン10には、エンジン10をクランキングして始動させるためのスタータ24が設けられている。エンジン10から車輪13への動力伝達経路上に、変速ユニット11が設けられている。変速ユニット11と左右の車輪13とは、ディファレンシャル12を介して駆動連結されている。
【0011】
変速ユニット11には、K0クラッチ14とモータ15とが設けられている。変速ユニット11においてモータ15は、エンジン10から車輪13への動力伝達経路上に位置するように設置されている。K0クラッチ14は、同動力伝達経路上のエンジン10とモータ15との間に設けられている。K0クラッチ14は、油圧の供給を受けて、開放状態からスリップ状態を経て係合状態となって、エンジン10とモータ15との動力伝達を接続する。K0クラッチ14は、油圧の供給が停止されると開放状態となって、エンジン10とモータ15との動力伝達を遮断する。
【0012】
モータ15は、インバータ17を介して車載バッテリ16に接続されている。モータ15は、車載バッテリ16からの給電に応じて車両の駆動力を発生するモータとして機能する一方で、エンジン10や車輪13からの動力伝達に応じて車載バッテリ16に充電する電力を発電する発電機としても機能する。モータ15と車載バッテリ16との間で授受される電力は、インバータ17により調整されている。
【0013】
変速ユニット11には、トルク増幅機能を有した流体継ぎ手であるトルクコンバータ18と、ギア段の切替えにより変速比を多段階に切替える有段式の自動変速機19と、が設けられている。変速ユニット11において自動変速機19は、動力伝達経路上のモータ15と車輪13の間に設けられている。トルクコンバータ18を介して、モータ15と自動変速機19とが連結されている。トルクコンバータ18には、油圧の供給を受けて係合状態となってモータ15と自動変速機19とを直結するロックアップクラッチ20が設けられている。
【0014】
更に変速ユニット11には、オイルポンプ21と油圧制御機構22とが設けられている。そして、オイルポンプ21で発生した油圧が、油圧制御機構22を介して、K0クラッチ14、トルクコンバータ18、自動変速機19、及びロックアップクラッチ20にそれぞれ供給されている。油圧制御機構22には、K0クラッチ14、トルクコンバータ18、自動変速機19、及びロックアップクラッチ20のそれぞれの油圧回路と、それらの作動油圧を制御するための各種の油圧制御弁と、が設けられている。
【0015】
ハイブリッド車両には、ECU(Electronic Control Unit)23が設けられている。ECU23は、車両の走行制御に係る各種演算処理を行う演算処理回路と、制御用のプログラムやデータが記憶されたメモリと、を備える電子制御ユニットである。ECU23は、ハイブリッド車両の制御装置の一例であり、詳しくは後述する取得部、第1判定部、第2判定部、及び補正部を機能的に実現する。
【0016】
ECU23は、エンジン10及びモータ15の駆動を制御する。例えばECU23は、エンジン10のスロットル開度、点火時期、燃料噴射量を制御することにより、エンジン10のトルク制御を行う。またECU23は、インバータ17を制御して、モータ15と車載バッテリ16との間での電力の授受量を調整することで、モータ15のトルク制御を行う。さらにECU23は、油圧制御機構22の制御を通じて、K0クラッチ14やロックアップクラッチ20、自動変速機19の駆動制御を行う。ECU23には、エンジン10のクランクシャフトの回転数を検出するエンジン回転数センサ25、モータ15の回転数を検出するモータ回転数センサ26、その他、運転者のアクセルペダルの踏込量であるアクセルペダル開度などの検出信号が入力されている。
【0017】
[比較例での始動性]
次に、比較例でのハイブリッド車両の始動性について説明する。図2は、比較例でのエンジン10の回転数[rpm]、モータ15の回転数[rpm]、及びK0クラッチ14に供給される油圧[Pa]の推移を示したタイミングチャートである。ハイブリッド車両のイグニッションがオンにされると、スタータ24が駆動してエンジン10を始動し(時刻t1)、エンジン10の回転数は目標アイドル回転数に維持される。その後にモータ15が始動し(時刻t2)、開放状態にあるK0クラッチ14への油圧が増大し始める(時刻t3)。ここで、例えば外気温が5℃~30℃まで常温環境下での始動時では、エンジン10の回転数が目標アイドル回転数を維持したまま、K0クラッチ14がスリップ状態となり(時刻t4)、その後に係合状態となっても(時刻t5)、エンジン10及びモータ15の回転数は目標アイドル回転数に維持される。
【0018】
しかしながら、例えば外気温が5℃未満の低温環境下での始動時では、K0クラッチ14やモータ15、自動変速機19で用いられる潤滑油の温度も低いため粘度が高くなっており、これらのフリクショントルクが増大している。これにより、モータ15の出力トルク所望の出力トルクよりも低下する。このため低温始動時においては、K0クラッチ14がスリップ状態になると(時刻t4)、モータ15の出力トルクの低下分をエンジン10の出力トルクにより補うことができずに、エンジン10の回転数が目標アイドル回転数よりも低下する。この状態でK0クラッチ14が係合状態となると(時刻t5)、エンジン10及びモータ15の回転数を目標アイドル回転数に維持することができないおそれがある。これにより、例えばエンジン10がストールするなど、始動性が低下するおそれがある。そこで本実施例のECU23は、以下のような出力トルク増大制御を実行する。
【0019】
[出力トルク増大制御]
図3は、ECU23が実行する出力トルク増大制御の一例を示したフローチャートである。本制御は、ハイブリッド車両のイグニッションがオンの間は繰り返し実行される。最初にECU23は、エンジン10が駆動中であるか否かを判定する(ステップS1)。ステップS1の判定は、エンジン回転数センサ25の検出値に基づいて行うことができる。
【0020】
次に、ECU23は、K0クラッチ14の状態が開放状態及びスリップ状態の何れか一方であるか否かを判定する(ステップS2)。ステップS2では、K0クラッチ14に供給される油圧センサの検出値が、K0クラッチ14が係合状態を示す値よりも小さいことをもって、K0クラッチ14の状態が開放状態及びスリップ状態の何れか一方であると判定してもよい。またステップS2では、エンジン10の回転数とモータ15の回転数とが不一致であることをもって、K0クラッチ14の状態が開放状態及びスリップ状態の何れか一方であると判定してもよい。ステップS1及びS2の処理は、第1判定部が実行する処理の一例である。ステップS1及びS2の何れかでNoの場合には、本制御を終了する。
【0021】
ステップS1及びS2でYesの場合には、ECU23はエンジン回転数センサ25及びモータ回転数センサ26の検出値に基づいて、エンジン10の回転数とモータ15の回転数を取得する(ステップS3)。ステップS3の処理は、取得部が実行する処理の一例である。
【0022】
次にECU23は、モータ15の回転数が所定値α以上であるか否かを判定する(ステップS4)。所定値αは、ゼロより大きい値であって、目標回転数よりも低い値に設定されている。ステップS4については、詳しくは後述する。ステップS4でNoの場合、本制御は終了する。
【0023】
ステップS4でYesの場合、ECU23はエンジン10の回転数が目標回転数から低下したか否かを判定する(ステップS5)。ステップS5の処理は、第2判定部が実行する処理の一例である。ステップS5でNoの場合、本制御は終了する。例えば、エンジン10の回転数が目標回転数よりも上昇した場合には、ステップS5でNoと判定される。
【0024】
ステップS5でYesの場合、ECU23は出力トルク増大補正を実行する(ステップS6)。出力トルク増大補正は、後述する図4のマップに基づいて算出されたトルク増大量分だけ、エンジン10の出力トルクを、出力トルク増大補正が実行されていない場合よりも増大させる補正である。エンジン10の出力トルクの増大は、スロットル開度、点火時期、燃料噴射量を制御することにより実現できる。ステップS6の処理は、補正部が実行する処理の一例である。
【0025】
このようにステップS1、S2、及びS4でYesの場合であって、ステップS5でエンジン10の回転数が目標回転数から低下したと判定された場合に、出力トルク増大補正が実行される。例えばK0クラッチ14に供給される油圧に基づいてK0クラッチ14がスリップ状態であると判定してから出力トルク増大補正を実行することも考えられるが、上述したように油圧に基づいてK0クラッチ14の状態を精度よく判定することは困難である。このため、本実施例のように、実際にエンジン10の回転数が目標回転数から低下し始めたタイミングでエンジン10の出力トルク増大補正を開始することができ、適切なタイミングで出力トルク増大補正を実行することができる。
【0026】
図4は、トルク増大量を規定したマップの一例である。図4は、横軸は、単位時間当たりのエンジン10の回転数の変化量[rpm/msec]を示し、縦軸はトルク増大量[N・m]を示している。また、図4には、目標回転数からエンジン10の回転数を減算した値である不足回転数β1及びβ2の場合でのトルク増大量を示している。不足回転数β1はゼロよりも大きい値である。不足回転数β2は不足回転数β1よりも大きい値である。
【0027】
図4のマップには、不足回転数β1及びβ2の2つの場合のみを示しているが、実際には不足回転数毎にトルク増大量が規定されている。詳細には、図4のマップでは、エンジン10の回転数の変化量が一定の負の値である場合、不足回転数が増大するほどトルク増大量も増大するように規定されている。ここで、エンジン10の回転数の変化量が負の値の場合には、エンジン10の回転数が低下していることを示す。エンジン10の回転数の変化量が正の値の場合には、エンジン10の回転数が上昇していることを示す。エンジン10の回転数の変化量がゼロの場合には、エンジン10の回転数が一定であることを示す。
【0028】
図4に示すように、不足回転数が大きいほどトルク増大量は増大し、エンジン10の回転数の低下量が大きいほどトルク増大量は増大する。不足回転数が大きいほど、及びエンジン10の回転数の低下量が大きいほど、エンジン10の回転数を目標回転数にまで上昇させるために必要となるトルクも大きいからである。このように、必要となるトルクに対して過不足なくエンジン10の出力トルクを増大させることができる。
【0029】
次にECU23は、エンジン10の回転数からモータ15の回転数を減算した差分回転数が閾値γ以下であるか否かを判定する(ステップS7)。閾値γは、ゼロ以外のゼロに近い値であって、K0クラッチ14が係合する直前の状態とみなすことができる値に設定されている。ステップS7でNoの場合には、本制御を終了する。
【0030】
ステップS7でYesの場合には、ECU23は、設定されたトルク増大量を徐々に減少させてゼロとする徐変減少処理を実行する(ステップS8)。これにより、出力トルク増大補正の実行によりエンジン10の回転数が目標回転数を超えて過度に上昇することを抑制することができる。
【0031】
ここで、K0クラッチ14に供給される油圧に基づいてK0クラッチ14が係合直前の状態であることを判定してから、徐変減少処理を開始することも考えられる。しかしながら、上述したように油圧に基づいてK0クラッチ14の状態を精度よく判定することは困難である。このため、K0クラッチ14が係合状態となった後に遅れて徐変減少処理が開始され、出力トルク増大補正の実行によるエンジン10の回転数の過度な上昇を抑制できないおそれがある。従って、エンジン10の回転数からモータ15の回転数を減算した差分回転数を用いることにより、K0クラッチ14が係合直前の状態であるか否かを精度よく判定でき、K0クラッチ14が係合直前の状態から徐変減少処理を開始して、エンジン10の回転数の過度な上昇を抑制することができる。
【0032】
[本実施例の始動性]
次に、本実施例でのハイブリッド車両の始動性について説明する。図5は、本実施例でのエンジン10の回転数、モータ15の回転数、K0クラッチ14に供給される油圧、及びトルク増大量の推移を示したタイミングチャートである。図5は、図2に対応しており、時刻t3までは図2と同じであるため重複する説明を省略する。モータ15の回転数が所定値α以上となり(時刻t3a)、上述したステップS4でYesと判定される。その後に、エンジン10の回転数が目標回転数から低下し始めて(時刻t4)、出力トルク増大補正が行われる。これにより、エンジン10の回転数の低下が抑制される。その後にエンジン10の回転数からモータ15の回転数を減算した差分回転数が閾値γ以下となると(時刻t5)、トルク増大量に対して徐変減少処理が実行され、トルク増大量は徐々にゼロにまで低下する。このようにしてエンジン10の回転数の低下を抑制することができ、始動性が向上している。
【0033】
時刻t3a及びステップS4で説明したように、モータ15の回転数が所定値α以上であることは、出力トルク増大補正を実行するための前提要件の一つである。例えばモータ15の回転数が所定値α以上となる前のエンジン10の始動直後での燃焼状態が安定しない時期に、一時的にエンジン10の回転数が目標回転数から低下する場合がある。このような場合であっても、モータ15の回転数が所定値α以上であることが出力トルク増大補正の前提要件であるため、出力トルク増大補正が意図しないタイミングで実行されることを回避できる。また、モータ15の始動時での回転数の立ち上がりのタイミングは、車載バッテリ16の充電残量やK0クラッチ14の作動油の充填状態に応じてばらつきがある。このような場合であっても、モータ15の回転数が所定値α以上であることが出力トルク増大補正の前提要件であるため、モータ15の回転数の立ち上がりのタイミングのばらつきの影響を受けずに、出力トルク増大補正を実行することができる。
【0034】
上記実施例においてECU23は、エンジン10の回転数、及びモータ15の回転数をステップS2とステップS4との間で取得していたが、これに限定されない。例えばECU23は、ステップS1の前や、ステップS1の後であってステップS2の前にこれらの回転数を取得していてもよいし、各処理を実行しながら常時これらの回転数を取得してもよい。
【0035】
上記実施例において図4のマップでは、低温始動時でのモータ15の出力トルクの低下分を考慮してトルク増大量が規定されている。例えばモータ15に故障等の何らかの異常が生じたことを検出した場合には、図4のマップとは異なるモータ15の異常発生時でのマップを用いて、出力トルク増大補正を行ってもよい。例えば、モータ15が単独で始動できないほどの異常が発生している場合には、K0クラッチ14がスリップ状態となることにより、エンジン10の回転に伴ってモータ15が強制的に回転される。この際には、エンジン10の出力トルクを低温始動時よりも大きく増大させる必要がある。このため、モータ15の異常発生時でのマップは、例えば図4のマップよりもトルク増大量が増大するように規定することが好ましい。これにより、モータ15に異常が生じた場合であっても、ハイブリッド車両の始動性を向上させることができる。
【0036】
上記実施例では、単一のECU23によりハイブリッド車両を制御する場合を例示したが、これに限定されず、例えばエンジン10を制御するエンジンECU、モータ15を制御するモータECU、K0クラッチ14を制御するクラッチECU等の複数のECUによって、上述した制御を実行してもよい。
【0037】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0038】
10 エンジン
13 車輪
14 K0クラッチ
15 モータ
19 自動変速機
23 ECU(ハイブリッド車両の制御装置)
25 エンジン回転数センサ
26 モータ回転数センサ
図1
図2
図3
図4
図5