(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-25
(45)【発行日】2025-04-02
(54)【発明の名称】(メタ)アクリル酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/08 20060101AFI20250326BHJP
C07C 69/54 20060101ALI20250326BHJP
B01J 21/10 20060101ALI20250326BHJP
B01J 23/04 20060101ALI20250326BHJP
B01J 27/10 20060101ALI20250326BHJP
B01J 27/138 20060101ALI20250326BHJP
B01J 31/04 20060101ALI20250326BHJP
B01J 23/02 20060101ALI20250326BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20250326BHJP
【FI】
C07C67/08
C07C69/54 B
B01J21/10 Z
B01J23/04 Z
B01J27/10 Z
B01J27/138 Z
B01J31/04 Z
B01J23/02 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021048120
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2024-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】安齋 竜一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 嘉秀
(72)【発明者】
【氏名】加門 良啓
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/035315(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/148386(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/224193(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸マグネシウムの存在下、下記式(1)で表されるアルコールと(メタ)アクリル酸無水物とを反応させて得られる、下記式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【化1】
(式(1)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数1~10のアルコキシ基を示す。)
【化2】
(式(2)中、式(1)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数1~10のアルコキシ基を示し、R
3は水素原子またはメチル基を示す。)
【請求項2】
前記
(メタ)アクリル酸マグネシウムおよび前記式(1)で表されるアルコール、前記(メタ)アクリル酸無水物の合計質量に対し、3倍以下の溶媒を使用することを特徴とする、請求項1に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項3】
前記
(メタ)アクリル酸マグネシウムおよび前記式(1)で表されるアルコール、前記(メタ)アクリル酸無水物の合計質量に対し、1倍以下の溶媒を使用することを特徴とする、請求項1に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項4】
下記式(1)で表される
アルコールと(メタ)アクリル酸無水物との反応生成物であって、
下記式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステルを含み、前記反応生成物のガスクロマトグラフィー分析における、前記アルコールのマイケル付加物のピーク面積、前記アルコールのピーク面積、及び前記(メタ)アクリル酸エステルのピーク面積の合計(100%
)に対する前記マイケル付加物
のピーク面積の割合が
0.1%以下である、
反応生成物。
【化3】
(式(1)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数1~10のアルコキシ基を示す。)
【化4】
(式(2)中、式(1)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数1~10のアルコキシ基を示し、R
3は水素原子またはメチル基を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシベンゾフェノン類と(メタ)アクリル酸無水物とを反応させて、
ヒドロキシベンゾフェノン類の(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシベンゾフェノン類の(メタ)アクリル酸エステルを製造する方法として、非
特許文献1には無水アセトン中、トリエチルアミン存在下で(メタ)アクリル酸クロライ
ドと4-ヒドロキシベンゾフェノンを反応させる方法が記載されている。この方法は、塩
酸が発生する上に、(メタ)アクリル酸クロライドと等モルのアミンと大量の溶媒を必要
とする。特許文献1にはトリエチルアミンを使用し、(メタ)アクリル酸無水物を反応さ
せる方法が記載されている。この方法でもアミンを(メタ)アクリル酸無水物と等モル必
要とする上に、多量の溶媒を必要とする。特許文献2には、触媒量の硫酸の存在下で(メ
タ)アクリル酸無水物を反応させる方法が記載されているが、腐食性の高い硫酸を使用す
るため、耐食性の高い材質の設備を使用する必要がある上に、硫酸の作用によりフリース
転移や反応液の着色などの副反応が進行する。特許文献3には触媒量のナトリウムメタク
リレートや酢酸ナトリウムを使用し、(メタ)アクリル酸無水物を反応させる方法が記載
されている。本発明者らの検討によると、この方法では、式(2)の化合物のメタアクリ
ロイル基の不飽和結合にメタクリル酸のカルボキシ基が付加反応してマイケル付加物が生
成し、収率が低下することが分かった。そして、精製によりこのマイケル付加物を除き、
高純度のヒドロキシベンゾフェノン類の(メタ)アクリル酸エステルを取得しようとする
と取得収率が著しく低くなることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-261506号公報
【文献】特表2012-512216号公報
【文献】特表2016-539913号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】(J.Appl.Polym.Sci.,57(8),997(1995))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ヒドロキシベンゾフェノン類の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法にお
いて、マイケル付加物の副生を抑制し、ヒドロキシベンゾフェノン類の(メタ)アクリル
酸エステルを高収率で製造し、精製負荷を少なくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は、以下の本発明によって解決される。
[1]リチウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、およびストロンチウムからなる
群から選ばれる少なくとも一種の金属またはその塩の存在下、下記式(1)で表されるア
ルコールと(メタ)アクリル酸無水物とを反応させて得られる、下記式(2)で表される
(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【化1】
(式(1)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素
数1~10のアルキル基、または炭素数1~10のアルコキシ基を示す。)
【化2】
(式(2)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素
数1~10のアルキル基、または炭素数1~10のアルコキシ基を示し、R
3は水素原子
またはメチル基を示す。)
[2]前記リチウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウムから選ばれ
る少なくとも一種の金属またはその塩および前記式(1)で表されるアルコール、前記(
メタ)アクリル酸無水物の合計質量に対し、3倍以下の溶媒を使用することを特徴とする
、[1]に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
[3]前記リチウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウムから選ばれ
る少なくとも一種の金属またはその塩および前記式(1)で表されるアルコール、前記(
メタ)アクリル酸無水物の合計質量に対し、1倍以下の溶媒を使用することを特徴とする
、[1]に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
[4]前記塩が酸化物、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、有機酸塩であることを特徴とす
る、[1]~[3]のいずれか一項に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
[5]前記塩がマグネシウム、カルシウムから選ばれる少なくとも一種の酸化物、水酸化
物、炭酸塩、炭酸水素塩、有機酸塩であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか
一項に記載の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
[6]下記式(1)で表される構造を含み、総量100%とした際にマイケル付加物が0
.5%以下である、下記式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル。
【化3】
(式(1)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素
数1~10のアルキル基、または炭素数1~10のアルコキシ基を示す。)
【化4】
(式(2)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素
数1~10のアルキル基、または炭素数1~10のアルコキシ基を示し、R
3は水素原子
またはメチル基を示す。)
【発明の効果】
【0007】
本発明の(メタ)アクリル酸エステルの製造方法によれば、マイケル付加物の生成を抑
制し、不純物の少ないヒドロキシベンゾフェノン類の(メタ)アクリル酸エステルを高効
率で収率良く得ることが出来る。また、ヒドロキシベンゾフェノン類の(メタ)アクリル
酸エステルの精製負荷を低減出来る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸
を意味する。(メタ)アクリル酸無水物は、アクリル酸無水物および/またはメタクリル
酸無水物を意味し、(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステルおよび/または
メタクリル酸エステルを意味する。また、マイケル付加物とは式(2)で表される(メタ
)アクリル酸エステルのメタクリロイル基あるいはアクリロイル基の不飽和結合に(メタ
)アクリル酸のカルボキシ基がマイケル付加した化合物を意味する。
【0009】
本発明では、下記式で(1)で表されるアルコールと(メタ)アクリル酸無水物とを反
応させ、下記式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステルを製造する。
【化5】
(式(1)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素
数1~10のアルキル基、または炭素数1~10のアルコキシ基を示す。)
【化6】
(式(2)中、R
1、R
2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素
数1~10のアルキル基、または炭素数1~10のアルコキシ基を示し、R
3は水素原子
またはメチル基を示す。)
【0010】
式(1)で表されるアルコールとしては、2-ヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロ
キシ-5―メチルベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4―メチルベンゾフェノン、2-ヒ
ドロキシ-4―メトキシベンゾフェノン、5-クロロ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、
5-クロロ-2-ヒドロキシ-4-メチルベンゾフェノン、4‘-クロロ-5-フルオロ
-2-ヒドロキシベンゾフェノン、4-アリルオキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、
2,4-ジメトキシ-4’-ヒドロキシベンゾフェノン、2‘,5-ジクロロ-2-ヒド
ロキシベンゾフェノン、5-ブロモ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-
4-n-オクチルオキシベンゾフェノン、3-ヒドロキシベンゾフェノン、4-フルオロ
-4’-ヒドロキシベンゾフェノン、4-クロロ-4’-ヒドロキシベンゾフェノン、2
,4-ジメトキシ-4‘-ヒドロキシベンゾフェノンなどのヒドロキシベンゾフェノン類
が挙げられる。腐食性の点からハロゲン原子を含まない構造が好ましく、反応速度の点か
ら4―ヒドロキシベンゾフェノン類が好ましい。化合物の安定性の点から、R1および/
またはR2は水素、アルキル基が好ましい。反応速度および安定性の点から4―ヒドロキ
シベンゾフェノンが最も好ましい。
【0011】
式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステルの製造は、リチウム、マグネシウム、
カルシウム、バリウム、ストロンチウムから選ばれる少なくとも一種の金属またはその塩
を触媒として、その存在下で実施される。マイケル付加物副生量の点から、リチウム、マ
グネシウム、カルシウムから選ばれる少なくとも一種の金属またはその塩が好ましい。塩
としては酸化物、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、塩化物、硝酸塩、リン酸塩、
ホウ酸塩などの無機酸との塩;酢酸塩や(メタ)アクリル酸塩、安息香酸塩などの有機酸
塩;アセチルアセトナート、シクロペンタジエニル錯体などの錯塩などが挙げられる。活
性の点から、リチウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウムの酸化物
、水酸化物、炭酸水素塩、塩化物、有機酸塩が好ましく、ハロゲンを含まないことから酸
化物、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、有機酸塩がより好ましい。溶解性が良い(メタ)
アクリル酸塩がさらに好ましい。これらは、すべてが溶解しても良く、一部が溶解してい
ても良い。反応に際して、系内で上記の触媒となる化合物を使用しても良い。触媒は単独
で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。触媒を反応器に仕込む方法としては、例
えば、全量を最初に反応器に仕込む方法、最初に一部を仕込み、残りを後で供給する方法
などが挙げられる。
触媒の使用量は、式(1)で表されるアルコールに対し、モル比で0.0001~0.
2倍が好ましい。反応を円滑に進行させる点から、このモル比は0.0005倍以上が好
ましく、0.001倍以上がより好ましい。一方、触媒の除去や副反応の抑制の点から、
このモル比は0.2倍以下が好ましく、0.1倍以下がより好ましい。
【0012】
(メタ)アクリル酸無水物の使用量は、式(1)で表されるアルコールに対しモル比で
0.5~5倍で使用することが好ましい。アルコール基準の(メタ)アクリル酸エステル
収率の点から、このモル比は0.9倍以上であることが好ましく、1倍以上であることが
より好ましく、1.1倍以上であることがさらに好ましい。
また、反応終了時の残存(メタ)アクリル酸無水物の処理負荷軽減の点から、このモル
比は2倍以下であることが好ましく、1.5倍以下であることがより好ましく、1.3倍
以下であることがさらに好ましい。
【0013】
本発明においては、溶媒を使用することが出来る。溶媒としては、例えば、ヘキサン、
ヘプタン、ペンタン、シクロヘキサン等の脂肪族系炭化水素;トルエン、キシレン等の芳
香族系炭化水素;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル-tert-ブチルエー
テル、テトラヒドロフランなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、ジイソプ
ロピルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類などが使用できる。溶解度の点で
アセトン、メチルエチルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトンなどの
ケトン類などが好ましい。溶媒の使用量は、リチウム、マグネシウム、カルシウム、バリ
ウム、ストロンチウムから選ばれる少なくとも一種の金属またはその塩および式で(1)
で表されるアルコール、(メタ)アクリル酸無水物の合計質量に対して0.01~10倍
が使用されるが、反応速度および精製負荷の点から、溶媒の使用量は3倍以下が好ましく
、1倍以下がより好ましい。溶解量の点から、溶媒の使用量は0.05倍以上が好ましく
、0.1倍以上がより好ましい。
【0014】
反応温度は、0~130℃の範囲で実施できる。反応を円滑に進行することができる点
から、反応温度は20℃以上がより好ましく、40℃以上がさらに好ましい。一方、重合
や副反応を抑制する点から、反応温度は110℃以下がより好ましく、90℃以下がさら
に好ましい。
【0015】
反応時間は、仕込み比、反応温度から適宜決めればよいが通常0.5~48時間である
。式(1)で表されるアルコールの転化率が70%以上になる時間が好ましく、90%以
上になる時間がより好ましい。一方、生産性の点から反応時間は18時間以下が好ましく
、12時間以下がより好ましく、8時間以下がさらに好ましい。
【0016】
本発明においては、重合防止剤を使用することができる。重合防止剤は反応器中に導入
されるが、配管類、還流冷却塔の塔頂や塔の途中にも導入することも出来る。
重合防止剤としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ベンゾキ
ノン等のキノン系重合防止剤、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,4-ジ-
tert-ブチルフェノール、2-tert-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2
,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,4,6-トリ-tert-ブ
チルフェノール等のアルキルフェノール系重合防止剤、アルキル化ジフェニルアミン、N
,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、フェノチアジン等のアミン系重合防止剤
、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-ベン
ゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシルや4-アセトア
ミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシルなどのヒンダートアミン
系重合防止剤、金属銅、硫酸銅、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジエチルジチオカルバ
ミン酸銅、ジブチルジチオカルバミン酸銅等のジチオカルバミン酸銅系重合防止剤などが
挙げられる。これらの重合防止剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用して
もよい。
重合防止剤の添加量は、その種類や条件により影響されるが、反応液の質量に対して0
.1~10000ppmの範囲で使用される。また、反応液に酸素を含む気体をバブリン
グさせることにより、重合防止効果が向上する場合がある。
【0017】
反応器に原料を仕込む方法としては、反応前に1)原料の全てを一度に仕込む方法、2
)原料のいずれかを全て反応器に仕込み、他方の原料後から仕込む方法、3)原料のいず
れかを全て反応器に仕込み、他方の原料の一部を仕込む方法、4)すべての原料を一部仕
込む方法等いずれの方法でもよい。一部仕込む場合、残りの原料は反応開始後に分割また
は連続のいずれの方法で供給してもよい。
【0018】
反応方式としては、例えば、単一の反応器内に全ての原料を仕込んで反応を完結させる
回分式、反応器内に原料を連続的に供給して連続的に反応させる連続式、反応器と配合タ
ンクとを備え、反応器と配合タンクとの間で原料を循環させながら反応器で反応させる循
環式などが挙げられる。反応は副生する(メタ)アクリル酸を回収しながら行っても良い
。また、圧力は、減圧した状態、大気圧、加圧した状態のいずれでも良い。
反応液を、濃縮、蒸留、洗浄、吸着剤処理、晶析等の処理をすることによって式(2)で
表される(メタ)アクリル酸エステルを精製することができる。
【0019】
反応終了後、(メタ)アクリル酸無水物が残存している場合、蒸留や抽出などの処理で
除いても良い。水やアルコールなど(メタ)アクリル酸無水物と反応しやすい化合物と反
応させ、(メタ)アクリル酸エステルや(メタ)アクリル酸とする処理をしても良く、塩
基性物質および酸性物質あるいはその水溶液と反応させ、(メタ)アクリル酸または(メ
タ)アクリル酸の塩としても良い。生成した(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アク
リル酸、(メタ)アクリル酸の塩は前記の蒸留や抽出、洗浄により除去をすることが可能
である。アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアル
コール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、
tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール等の直鎖または分枝鎖の脂肪族アル
コール、アリルアルコール等の不飽和アルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノ
ール等の環式アルコール、フェノール、ベンジルアルコール等の芳香族アルコール、エチ
レングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタ
ンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、グリセリン等の多価ア
ルコールなどが挙げられる。これらのアルコールの中でも、生成した(メタ)アクリル酸
エステル除去の点から、炭素数4以下のアルコールが好ましく、メチルアルコールまたは
、エチルアルコールがより好ましい。
アルコールによる処理温度は、0~100℃の範囲が好ましい。加熱処理時間の点から
、処理温度は20℃以上がより好ましく、40℃以上がさらに好ましい。一方、重合や副
反応を抑制する点から、処理温度は100℃以下がより好ましく、80℃以下がより好ま
しい。
(メタ)アクリル酸の塩とする際の処理温度は、0~100℃の範囲が好ましい。加熱
処理時間の点から、処理温度は10℃以上がより好ましく、20℃以上がさらに好ましい
。一方、重合や副反応を抑制する点から、処理温度は80℃以下がより好ましく、60℃
以下がより好ましい。
【0020】
これらの処理は、触媒等が残留した状態でも、後述の洗浄や抽出などにより除いた後で
も良い。
これらの処理は、反応に不活性な溶媒を用いることもできる。不活性な溶媒としては、
前期の物が上げられる。溶媒の使用量は式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル
の質量に対して0.1~50倍量が使用できる。
これらの処理時間は、通常0.01~48時間である。(メタ)アクリル酸無水物を消
失させるため、処理時間は0.1時間以上が好ましく、0.2時間以上がさらに好ましい
。重合及び副反応抑制の点から処理時間は24時間以下が好ましく、12時間以下がより
好ましく、6時間以下がさらに好ましい。
【0021】
式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステルを蒸留精製する方法としては、例えば
、単蒸留、複数段の蒸留塔(精留塔)を用いて蒸留する方法などが挙げられる。蒸留塔に
は、例えば、ステンレス鋼、ガラス、陶磁器製などのラシヒリング、レッシングリング、
ディクソンパッキン、ポールリング、サドル、スルザーパッキンなどの形状を有する充填
物を使用した充填塔、多孔板塔や泡鐘塔などの棚段塔などが使用できる。蒸留塔と反応器
との接続は、反応器の上部に蒸留塔が連接された形態、反応器と接続された別容器の上部
に蒸留塔が連接された形態、蒸留塔の上段から下段のいずれかの位置に反応器が接続され
た形態のいずれでも良い。いずれの接続形態においても、反応器と蒸留塔の間の経路は一
つでも複数でも良く、途中に熱交換器などの装置が介在していてもよい。蒸留では、還流
器を使用しない内部還流方式や還流器を使用して還流比を制御する方式等が使用できる。
蒸留温度は10~250℃の範囲で実施できる。重合や副反応を抑制する点から蒸留温
度は200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。蒸気量を十分に維持する点
から蒸留温度は40℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。
【0022】
式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステルを洗浄する方法としては、水、食塩や
硫酸ナトリウムなどの塩の水溶液、塩基性物質の水溶液によって洗浄する方法が挙げられ
る。塩基性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属
の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;
炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;炭酸カルシウム、炭酸マグネ
シウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアル
カリ金属の炭酸水素塩;炭酸水素カルシウム、炭酸水素マグネシウム等のアルカリ土類金
属の炭酸水素塩;ピリジン、4-(ジメチルアミノ)ピリジン、トリエチルアミンなどの
有機塩基等が挙げられる。また、これらの塩基性物質を2種類以上組み合わせて使用する
ことも可能である。洗浄は1回でも複数回でも良い。更に、異なる塩基性物質の水溶液に
より複数回の洗浄を行うこともできる。塩基性物質で洗浄後は、有機層に残存する塩基性
物質を除くために水による洗浄を行うことが好ましい。洗浄に使用する水は、蒸留水やイ
オン交換樹脂等で脱イオンされた純水を使用することが好ましい。
【0023】
また、塩基性物質の水溶液によって洗浄する前に、水または酸性物質の水溶液によって
洗浄しても良い。酸性物質としては、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、塩酸およびヘテロポ
リ酸などの無機酸、酢酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、カンファースル
ホン酸などの有機酸などが挙げられる。
【0024】
式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステルを洗浄する際は溶媒を使用しても良い
。溶媒としては前記で挙げたものの中で水100gへの溶解量が20g以下のものが使用
できる。溶媒の質量は、反応液に対し0.1~30倍が好ましく、0.5~5倍がより好
ましい。溶媒量が少ないと、洗浄に使用する水や水溶液への式(2)で表される(メタ)
アクリル酸エステルの移動が起こる場合あり。また多いと大きな反応器を必要とする上に
濃縮する時間、エネルギー大きくなる。
【0025】
式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステルを吸着剤処理して不純物量を低減する
方法としては、カラムクロマトグラフィー、吸着剤を懸濁して不純物を吸着させた後吸着
剤を分離する方法などが挙げられる。吸着剤としては、活性白土、ハイドロタルサイト類
、多孔質の重合体、イオン交換樹脂(陽イオン交換樹脂又は陰イオン交換樹脂)、活性炭
、吸着樹脂、シリカゲル、シリカアルミナ系吸着剤、アルミナゲル、活性アルミナ、二酸
化ケイ素、ゼオライト等が挙げられる。吸着剤使用量は式(2)で表される(メタ)アク
リル酸エステルに対し0.05~20質量%である。特に0.5~10質量%が好ましい
。少ない場合は不純物の低減効果が充分に得られず、多い場合は吸着剤に対する式(2)
で表される(メタ)アクリル酸エステルの合計吸着量が多くなって、式(2)で表される
(メタ)アクリル酸エステルの吸着によるロスや吸着剤をろ過などにより分離する場合の
負荷が大きくなる。式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステルと吸着剤とを接触さ
せる際の温度は、特に限定されないが、通常、0~100℃である。処理時の副反応抑制
の点から接触させる際の温度は、60℃以下、特に40℃以下が好ましい。反応液と吸着
剤とを接触させる際の時間は、吸着剤の種類やその使用量などによって異なるが、通常、
1~120分間程度、特に3~60分間程度が好ましい。
【0026】
吸着剤によって吸着処理した後には、例えば、ろ過などの方法により、式(2)で表さ
れる(メタ)アクリル酸エステルと吸着剤とを分離することができる。フィルターとして
は、例えば、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂製メンブランフィルターなど
が挙げられる。式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステルと吸着剤とを接触させる
際は溶媒を使用しても良い。溶媒としては、前記で挙げたものが使用できる。溶媒の質量
は、反応液に対し0.1~30倍が好ましく、0.5~5倍がより好ましい。
【0027】
式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステルを晶析する方法としては、溶媒に溶解
させたのち、溶液の温度を下げて結晶を析出させる方法、溶液を濃縮することによって濃
縮して結晶を析出させる方法、式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル溶液に溶
解度の低い溶媒を添加する方法などが挙げられる。溶媒としては、前記と同じものが挙げ
られる。またこれらの2種以上を混合して使用しても良い。晶析する場合に溶媒を使用し
ても良い。溶媒としては、前記で挙げたものが使用できる。溶媒の質量は、反応液に対し
0.1~30倍が好ましく、0.5~5倍がより好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例によって詳しく説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、
以下の実施例に限定されるものではない。
本発明で用いた測定方法及び評価方法は次のとおりである。
【0029】
実施例において、分析はガスクロマトグラフィー(以下、GCと表記する)により行っ
た。分析はアニソールを内部標準物質、アセトンを希釈溶媒として、以下の条件で行った
。
・カラム:J&B Scientific社製 DB-1 長さ30m×内径0.53
mm
・膜厚:3μm
・インジェクション温度:200℃
・ディテクター温度:250℃
・カラム温度及び時間:60℃1分 10℃/分で昇温 250℃で保持
【0030】
4-ヒドロキシベンゾフェノンおよび4-メタクリロイルオキシベンゾフェノンは検量
線法にて定量を行い、転化率及び4-ヒドロキシベンゾフェノン基準の収率を計算した。
4-メタクリロイルオキシベンゾフェノンのメタクリロイル基にメタクリル酸が付加し
たマイケル付加物の収率は、各々の化合物のGCピーク面積をもとに次式で算出した。
A:マイケル付加物のGCピーク面積
B:4-ヒドロキシベンゾフェノンのGCピーク面積
C:4-メタクリロイルオキシベンゾフェノンのGCピーク面積
マイケル付加物収率(%)=A/(A+B+C)×100
【0031】
(実施例1)
還流冷却管付き、5つ口フラスコにアルドリッチ株式会社製のメタクリル酸無水物を蒸
留精製したもの18.5g(0.12mol)、4-ヒドロキシベンゾフェノン(東京化
成工業株式会社製)19.8g(0.1mol)、重質酸化マグネシウム(富士フイルム
和光純薬株式会社製)0.20g(0.005mol)、メチルイソブチルケトン5g、
2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール(東京化成工業株式会社製)10mgを
入れ、オイルバスで加熱して、80℃で5時間反応させた。反応後の液を分析した結果、
4-ヒドロキシベンゾフェノン転化率は99.8%、4-メタクリロイルオキシベンゾフ
ェノン(MBP)収率は99.5%であった。マイケル付加物収率は0.2%であった。
【0032】
(実施例2~14)
実施例1の重質酸化マグネウムを表1に示す触媒0.005molに変えて、実施例1
と同様の操作を行った。反応後の液を分析した結果を表1に示す。
【0033】
(比較例1~4)
実施例1の重質酸化マグネウムを表1に示す触媒0.005molに変えて、実施例1
と同様の操作を行った。反応後の液を分析した結果を表1に示す。
【0034】
【0035】
表中の各触媒の詳細は次の通りである。
・重質酸化マグネシウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・水酸化リチウム(東京化成工業株式会社製)
・炭酸リチウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・塩化リチウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・水酸化マグネシウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・塩化マグネシウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・酢酸マグネシウム四水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・メタクリル酸マグネシウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・酸化カルシウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・水酸化カルシウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・メタクリル酸カルシウム(東京化成工業株式会社製)
・水酸化バリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・水酸化ストロンチウム(Sigma-Aldrich社製)
・4-ジメチルアミノピリジン(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・ナトリウムメトキシド(東京化成工業株式会社製)
・炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・炭酸カルシウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)
【0036】
(実施例15~19)
実施例1の重質酸化マグネウムを表2に示す触媒0.0005molに変えて、メチル
イソブチルケトンを使用せず、90℃で5時間反応させた以外は実施例1と同様の操作を
行った。反応後の液を分析した結果を表2に示す。
【0037】
【0038】
(実施例20)
実施例1の重質酸化マグネウムを0.0001molに変えて、メチルイソブチルケト
ンを使用せず、90℃で7時間反応させた以外は実施例1と同様の操作を行った。反応後
の液を分析した結果、4-ヒドロキシベンゾフェノン転化率は99.4%、4-メタクリ
ロイルオキシベンゾフェノン(MBP)収率は99.2%であった。マイケル付加物収率
は0.1%であった。
【0039】
(実施例21)
実施例1において、溶媒としてメチルイソブチルケトンを最初に38.5g加えた以外
は、実施例1と同様の操作を行った。反応後の液を分析した結果、4-ヒドロキシベンゾ
フェノン転化率は99.2%、4-メタクリロイルオキシベンゾフェノン(MBP)収率
は99.0%であった。マイケル付加物収率は0.2%であった。
【0040】
(比較例5)
比較例3において、メチルイソブチルケトンを最初に120g加えた以外は、比較例3
と同様の操作を行った。反応後の液を分析した結果、4-ヒドロキシベンゾフェノン転化
率は66.1%、4-メタクリロイルオキシベンゾフェノン(MBP)収率は63.8%
であった。マイケル付加物収率は2.0%であった。
【0041】
実施例1~21はいずれも4-ヒドロキシベンゾフェノン転化率と4-メタクリロイル
オキシベンゾフェノン(MBP)収率は非常に高く、マイケル付加物収率は低く抑えられ
ていた。一方、触媒を本発明と異なるものとした比較例1~5は、4-メタクリロイルオ
キシベンゾフェノン(MBP)収率が低く、マイケル付加物は多量に副生していた。
【0042】
以上の実施例から、本発明の製造方法は優れた4-ヒドロキシベンゾフェノン転化率と
4-メタクリロイルオキシベンゾフェノン(MBP)収率を示し、マイケル付加物の副生
を十分に抑制し、精製負荷を少なくすることを可能にした。