(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-25
(45)【発行日】2025-04-02
(54)【発明の名称】冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
F25B 49/02 20060101AFI20250326BHJP
B60H 1/22 20060101ALI20250326BHJP
B60H 1/32 20060101ALI20250326BHJP
F25B 1/00 20060101ALI20250326BHJP
F25B 43/00 20060101ALI20250326BHJP
【FI】
F25B49/02 570B
B60H1/22 651C
B60H1/32 613C
F25B1/00 304L
F25B43/00 L
F25B49/02 510B
F25B49/02 510F
(21)【出願番号】P 2021087579
(22)【出願日】2021-05-25
【審査請求日】2024-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2020140048
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】弁理士法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡村 徹
(72)【発明者】
【氏名】河野 紘明
(72)【発明者】
【氏名】牧本 直也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 吉毅
【審査官】笹木 俊男
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-151117(JP,A)
【文献】特開2014-160594(JP,A)
【文献】特開2015-090227(JP,A)
【文献】特開2011-075120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00 ~ 49/04
B60H 1/00 ~ 3/06
F24F 1/00 ~ 13/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を吸入し圧縮して吐出する圧縮機(11)と、
前記冷媒を放熱させる放熱部(12)と、
前記冷媒を減圧させるとともに、前記冷媒の流量が調整されるように流路開度を調整可能な減圧部(14)と、
前記減圧部で減圧された前記冷媒に空気から吸熱させる蒸発部(15)と、
前記減圧部の冷媒入口よりも下流側かつ前記圧縮機の吸入口よりも上流側における前記冷媒の状態を検出する冷媒状態検出部(64、66)と、
前記減圧部の開度を、前記蒸発部から流出した前記冷媒の過熱度(SHE)が目標過熱度(SHEO)に近づくような開度である通常開度(EVN)に制御し、前記冷媒状態検出部が検出した前記冷媒の状態に基づいて、前記蒸発部で前記冷媒がドライアウトしているか否かを判定し、前記蒸発部で前記冷媒がドライアウトしていると判定した場合、前記減圧部の開度を前記通常開度よりも大きくする制御部(60)とを備え、
前記冷媒状態検出部は、
前記蒸発部の出口よりも下流側かつ前記圧縮機の吸入口よりも上流側における前記冷媒の状態を検出する第1検出部(66)と、
前記蒸発部の入口よりも下流側かつ前記蒸発部の出口よりも上流側における前記冷媒の状態を検出する第2検出部(64)とを有しており、
前記第1検出部は、前記冷媒の圧力(Psuc)を検出し、
前記第2検出部は、前記冷媒の温度(Tefin)を検出し、
前記制御部は、前記第1検出部が検出した前記冷媒の圧力に基づいて前記冷媒の飽和温度(Tsat)を算出し、
前記第2検出部が検出した前記冷媒の温度と前記飽和温度との差が閾値(α1)を超えている場合、前記蒸発部で前記冷媒がドライアウトしていると判定
し、
前記制御部は、前記蒸発部に流入する前記冷媒の流量が大きいほど、前記閾値を大きくする冷凍サイクル装置。
【請求項2】
前記冷媒状態検出部は、前記蒸発部の冷媒入口よりも下流側かつ前記圧縮機の吸入口よりも上流側における前記冷媒の状態を検出する請求項1に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項3】
前記放熱部の下流側かつ前記減圧部の上流側に、前記冷媒の気液を分離し、余剰の冷媒を貯える貯液部(13)を備える請求項1
または2に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記蒸発部で前記冷媒がドライアウトしていると判定した場合、前記減圧部の開度を前記通常開度よりも大きくした後、前記通常開度に戻すように前記減圧部を制御する請求項1ないし
3のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記目標過熱度と前記蒸発部から流出した前記冷媒の過熱度との偏差に基づいて、前記蒸発部から流出した前記冷媒の過熱度が前記目標過熱度に近づくように決定する請求項1ないし
4のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御部によって減圧部の開度を制御する冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、車両用空調装置に適用される冷凍サイクル装置が記載されている。この従来技術では、蒸発器が、膨張弁から流出した冷媒と車室内へ送風される空気とを熱交換させて車室内へ送風される空気を冷却する。
【0003】
膨張弁の開度は、圧縮機へ流入する冷媒の過熱度が目標過熱度に近づくように制御装置によって制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術によると、蒸発器の吸込空気温度が低い場合等、圧縮機へ流入する冷媒が過熱度をとれない場合がある。このような条件下で大きな負荷変動があった場合、蒸発器で冷媒がドライアウトして、蒸発器が冷却能力を発揮できなくなるおそれがある。ドライアウトとは、蒸発器において冷媒の蒸発が過剰になって気相冷媒のみが存在する領域が過大になることを言う。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、蒸発器における冷媒のドライアウトを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の冷凍サイクル装置は、
冷媒を吸入し圧縮して吐出する圧縮機(11)と、
冷媒を放熱させる放熱部(12)と、
冷媒を減圧させるとともに、冷媒の流量が調整されるように流路開度を調整可能な減圧部(14)と、
減圧部で減圧された冷媒に空気から吸熱させる蒸発部(15)と、
蒸発部の冷媒入口よりも下流側かつ圧縮機の吸入口よりも上流側における冷媒の状態を検出する冷媒状態検出部(64、66)と、
減圧部の開度を、蒸発器から流出した冷媒の過熱度(SHE)が目標過熱度(SHEO)に近づくような開度である通常開度(EVN)に制御し、冷媒状態検出部が検出した冷媒の状態に基づいて、蒸発部で冷媒がドライアウトしているか否かを判定し、蒸発部で冷媒がドライアウトしていると判定した場合、減圧部の開度を通常開度よりも大きくする制御部(60)とを備え、
冷媒状態検出部は、
蒸発部の出口よりも下流側かつ圧縮機の吸入口よりも上流側における冷媒の状態を検出する第1検出部(66)と、
蒸発部の入口よりも下流側かつ蒸発部の出口よりも上流側における冷媒の状態を検出する第2検出部(64)とを有しており、
第1検出部は、冷媒の圧力(Psuc)を検出し、
第2検出部は、冷媒の温度(Tefin)を検出し、
制御部は、第1検出部が検出した冷媒の圧力に基づいて冷媒の飽和温度(Tsat)を算出し、
第2検出部が検出した冷媒の温度と飽和温度との差が閾値(α1)を超えている場合、蒸発部で冷媒がドライアウトしていると判定し、
前記制御部は、前記蒸発部に流入する前記冷媒の流量が大きいほど、前記閾値を大きくする。
【0008】
これによると、蒸発部で冷媒がドライアウトしているか否かを適切に判定できる。そして、蒸発部で冷媒がドライアウトしていると判定した場合、蒸発部に流入する冷媒の流量を増加させることができるので、蒸発器における冷媒のドライアウトを抑制できる。
【0009】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態における冷凍サイクル装置の全体構成図である。
【
図2】第1実施形態における冷凍サイクル装置の電気制御部を示すブロック図である。
【
図3】第1実施形態における制御プログラムの制御処理を示すフローチャートである。
【
図4】第1実施形態の蒸発器においてドライアウトが発生していない場合の冷媒温度および冷媒圧力を示すグラフである。
【
図5】第1実施形態の蒸発器においてドライアウトが発生している場合の冷媒温度および冷媒圧力を示すグラフである。
【
図6】第1実施形態の蒸発器において冷媒流量が多い場合の冷媒温度および冷媒圧力を示すグラフである。
【
図7】第1実施形態の蒸発器において吸込空気温度が低い場合の冷媒温度および冷媒圧力を示すグラフである。
【
図8】第1実施形態の蒸発器において吸込空気温度が低い場合の膨張弁の挙動を示すグラフである。
【
図9】第2実施形態における制御プログラムの制御処理を示すフローチャートである。
【
図10】第2実施形態における制御プログラムの制御処理で用いられる制御特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について図に基づいて説明する。
図1に示す車両用空調装置1は、自動車の車室内空間(換言すれば、空調対象空間)を適切な温度に調整する空調装置である。車両用空調装置1は、冷凍サイクル装置10を有している。
【0012】
冷凍サイクル装置10は、圧縮機11、凝縮器12、レシーバ13、膨張弁14および蒸発器15を備える蒸気圧縮式冷凍機である。本実施形態の冷凍サイクル装置10では、冷媒としてフロン系冷媒を用いており、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルを構成している。
【0013】
冷凍サイクル装置10には、冷媒循環回路が形成される。冷媒循環回路では、冷媒が圧縮機11、凝縮器12、レシーバ13、膨張弁14、蒸発器15、圧縮機11の順に循環する。
【0014】
圧縮機11は、電池から供給される電力によって駆動される電動圧縮機であり、冷凍サイクル装置10の冷媒を吸入して圧縮して吐出する。圧縮機11の電動モータは、
図2に示す制御装置60によって制御される。圧縮機11は、ベルトによって駆動される可変容量圧縮機であってもよい。
【0015】
凝縮器12は、圧縮機11から吐出された高圧側冷媒を放熱させて凝縮させる高圧側熱交換器である。凝縮器12は、圧縮機11から吐出された高圧側冷媒と外気とを熱交換させることによって高圧側冷媒を凝縮させる。凝縮器12は、圧縮機11から吐出された高圧側冷媒と冷却水とを熱交換させることによって高圧側冷媒を凝縮させてもよい。
【0016】
レシーバ13は、凝縮器12から流出した高圧冷媒の気液を分離して、分離された液相冷媒を下流側へ流出させるとともに、サイクルの余剰冷媒を貯える気液分離部である。
【0017】
膨張弁14は、レシーバ13から流出した液相冷媒を減圧膨張させる減圧部である。膨張弁14は、電気式膨張弁である。電気式膨張弁は、絞り開度を変更可能に構成された弁体と、この弁体の開度を変化させる電動アクチュエータとを有して構成される電気式の可変絞り機構である。
【0018】
膨張弁14は、蒸発器15に冷媒が流れる状態と冷媒が流れない状態とを切り替える冷媒流れ切替部である。膨張弁14は、制御装置60から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0019】
蒸発器15は、膨張弁14から流出した冷媒と車室内へ送風される空気とを熱交換させて冷媒を蒸発させる蒸発器である。蒸発器15では、冷媒が車室内へ送風される空気から吸熱する。蒸発器15は、車室内へ送風される空気を冷却する空気冷却器である。蒸発器15で蒸発した気相冷媒は圧縮機11に吸入されて圧縮される。
【0020】
蒸発器15は、室内空調ユニット50の空調ケーシング51に収容されている。室内空調ユニット50は、車室内前部の図示しない計器盤の内側に配置されている。空調ケーシング51は、空気通路を形成する空気通路形成部材である。
【0021】
空調ケーシング51には、内外気切替箱52と室内送風機53とヒータコア54とが配置されている。内外気切替箱52は、空調ケーシング51内の空気通路に内気と外気とを切替導入する内外気切替部である。室内送風機53は、内外気切替箱52を通して空調ケーシング51内の空気通路に導入された内気および外気を吸入して送風する。室内送風機53の作動は、制御装置60によって制御される。
【0022】
ヒータコア54は、空調ケーシング51内の空気通路において、蒸発器15の空気流れ下流側に配置されている。ヒータコア54は、高温冷却水と車室内へ送風される空気とを熱交換させて車室内へ送風される空気を加熱する空気加熱器である。高温冷却水は、走行用エンジンや電気ヒータ等の暖房用熱源で加熱される。高温冷却水は、凝縮器12で加熱されるようになっていてもよい。
【0023】
空調ケーシング51内の空気通路において蒸発器15とヒータコア54との間には、エアミックスドア55が配置されている。エアミックスドア55は、蒸発器15を通過した冷風のうちヒータコア54に流入する冷風と冷風バイパス通路56を流れる冷風との風量割合を調整する。
【0024】
冷風バイパス通路56は、蒸発器15を通過した冷風がヒータコア54をバイスして流れる空気通路である。エアミックスドア55の回転軸は、サーボモータ57によって駆動される。エアミックスドア用サーボモータの作動は、制御装置60によって制御される。
【0025】
エアミックスドア55は、空気流れと略直交する方向にスライド移動するスライドドアであってもよい。スライドドアは、剛体で形成された板状のドアであってもよいし。可撓性を有するフィルム材で形成されたフィルムドアであってもよい。
【0026】
エアミックスドア55によって温度調整された空調風は、空調ケーシング51に形成された吹出口58から車室内へ吹き出される。
【0027】
図2に示す制御装置60は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。制御装置60は、ROM内に記憶された制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行う。制御装置60の出力側には各種制御対象機器が接続されている。制御装置60は、各種制御対象機器の作動を制御する制御部である。
【0028】
制御装置60によって制御される制御対象機器は、圧縮機11、膨張弁14、室内送風機53およびエアミックスドア用サーボモータ57等である。
【0029】
制御装置60のうち圧縮機11の電動モータを制御するソフトウェアおよびハードウェアは、冷媒吐出能力制御部である。制御装置60のうち膨張弁14を制御するソフトウェアおよびハードウェアは、絞り制御部である。
【0030】
制御装置60のうち室内送風機53を制御するソフトウェアおよびハードウェアは、空気送風能力制御部である。制御装置60のうちエアミックスドア用サーボモータ57を制御するソフトウェアおよびハードウェアは、風量割合制御部である。
【0031】
制御装置60の入力側には、種々の制御用センサ群が接続されている。種々の制御用センサ群は、内気温度センサ61、外気温度センサ62、日射量センサ63、蒸発器温度センサ64、吸入冷媒温度センサ65、吸入冷媒圧力センサ66、高温冷却水温度センサ67等である。
【0032】
内気温度センサ61は車室内温度Trを検出する。外気温度センサ62は外気温Tamを検出する。日射量センサ63は車室内の日射量Tsを検出する。
【0033】
蒸発器温度センサ64は、蒸発器15における冷媒蒸発温度(蒸発器温度)Tefinを検出する蒸発器温度検出部である。蒸発器温度センサ64は、具体的に、蒸発器15の熱交換フィンの温度を検出している。
【0034】
蒸発器温度センサ64は、蒸発器15のうち、ドライアウトが発生していないときに液相冷媒が存在している領域に配置されている。例えば、蒸発器温度センサ64は、蒸発器15のうち冷媒流れ上流側の部位に配置されている。
【0035】
吸入冷媒温度センサ65は、圧縮機11へ吸入される冷媒の吸入冷媒温度Tsucを検出する吸入冷媒温度検出部である。換言すれば、吸入冷媒温度センサ65は、蒸発器15の出口側冷媒の温度を検出する。
【0036】
吸入冷媒圧力センサ66は、圧縮機11へ吸入される冷媒の吸入冷媒圧力Psucを検出する吸入冷媒温度検出部である。換言すれば、吸入冷媒圧力センサ66は、蒸発器15の出口側冷媒の圧力を検出する。
【0037】
吸入冷媒温度センサ65および吸入冷媒圧力センサ66は、蒸発器15にドライアウトが発生していないときに、過熱度をもった冷媒が存在している領域に配置されている。例えば、吸入冷媒温度センサ65および吸入冷媒圧力センサ66は、蒸発器15と圧縮機11との間の冷媒配管に配置されている。
【0038】
蒸発器温度センサ64および吸入冷媒圧力センサ66は、膨張弁14の冷媒入口よりも下流側かつ圧縮機11の吸入口よりも上流側における冷媒の状態を検出する冷媒状態検出部である。より好ましくは、蒸発器温度センサ64および吸入冷媒圧力センサ66は、蒸発器15の冷媒入口よりも下流側かつ圧縮機11の吸入口よりも上流側における冷媒の状態を検出する。
【0039】
吸入冷媒圧力センサ66は、蒸発器15の出口よりも下流側かつ圧縮機11の吸入口よりも上流側における冷媒の状態を検出する第1検出部である。蒸発器温度センサ64は、蒸発器15の入口よりも下流側かつ蒸発器15の出口よりも上流側における冷媒の状態を検出する第2検出部である。
【0040】
高温冷却水温度センサ67は、ヒータコア54に流入する高温冷却水の温度TWを検出する。例えば、高温冷却水温度センサ67は、凝縮器12から流出した冷却水の温度を検出する。
【0041】
制御装置60の入力側には、図示しない各種操作スイッチが接続されている。各種操作スイッチは操作パネル70に設けられており、乗員によって操作される。操作パネル70は車室内前部の計器盤付近に配置されている。制御装置60には、各種操作スイッチからの操作信号が入力される。
【0042】
各種操作スイッチは、オートスイッチ、エアコンスイッチ、温度設定スイッチ等である。オートスイッチは、車両用空調装置1の自動制御運転の設定および解除を行うスイッチである。エアコンスイッチは、室内空調ユニット50にて空気の冷却を行うか否かを設定するスイッチである。温度設定スイッチは、車室内の設定温度を設定するスイッチである。
【0043】
次に、上記構成における作動を説明する。以下では、操作パネル70のオートスイッチが乗員によってオンされている場合の作動について説明する。操作パネル70のエアコンスイッチが乗員によってオンされている場合、制御装置60は、空調制御プログラムを実行する。
【0044】
空調制御プログラムでは、圧縮機11の回転数Nc、エアミックスドア55の開度SW、および膨張弁14の絞り開度EVが決定される。圧縮機11の回転数は、目標蒸発器温度TEOと、蒸発器温度センサ64によって検出された蒸発器温度Tefinとの偏差に基づいて、フィードバック制御手法により、蒸発器温度Tefinが目標蒸発器温度TEOに近づくように決定される。目標蒸発器温度TEOは、目標吹出温度TAOに基づいて、制御装置60に記憶された制御マップを参照して決定される。本実施形態の制御マップでは、目標吹出温度TAOの上昇に伴って、目標蒸発器温度TEOが上昇するように決定される。
【0045】
目標吹出温度TAOは、車室内へ吹き出す吹出空気の目標温度である。制御装置60は、目標吹出温度TAOを以下の数式F1に基づいて算出する。
TAO=Kset×Tset-Kr×Tr-Kam×Tam-Ks×Ts+C…(F1)
この数式において、Tsetは操作パネル70の温度設定スイッチによって設定された車室内設定温度、Trは内気温度センサ61によって検出された内気温、Tamは外気温度センサ62によって検出された外気温、Tsは日射量センサ63によって検出された日射量である。Kset、Kr、Kam、Ksは制御ゲインであり、Cは補正用の定数である。
【0046】
エアミックスドア55の開度SWは、エアミックスドア55によって温度調整された空調風が目標吹出温度TAOとなるように決定される。具体的には、エアミックスドア55の開度が、目標吹出温度TAO、蒸発器温度Tefinおよびヒータコア54に流入する高温冷却水の温度TW等に基づいて決定される。
【0047】
膨張弁14の絞り開度EVは、
図3のフローチャートに示す制御処理によって決定される。まずステップS100では、通常制御時の膨張弁14の絞り開度EVN(以下、通常開度と言う。)が、蒸発器15出口側冷媒の目標過熱度SHEOと蒸発器15出口側冷媒の過熱度SHEとの偏差に基づいて、フィードバック制御手法により、過熱度SHEが目標過熱度SHEOに近づくように決定される。例えば、目標過熱度SHEOは、予め定めた定数(本実施形態では、5℃)である。
【0048】
過熱度SHEは、吸入冷媒圧力センサ66が検出した吸入冷媒圧力Psucと、吸入冷媒温度センサ65が検出した吸入冷媒温度Tsucとに基づいて算出される。
【0049】
次のステップS110では、蒸発器温度Tefinから蒸発器出口飽和温度Tsatを減じた温度差が閾値α1を上回っているか否かが判定される。蒸発器出口飽和温度Tsatは、吸入冷媒圧力センサ66が検出した吸入冷媒圧力Psucに基づいて算出される。閾値α1は、制御装置60によって適宜決定される正の値である。
【0050】
蒸発器温度Tefinから蒸発器出口飽和温度Tsatを減じた温度差が閾値α1を上回っていないと判定された場合、蒸発器15でドライアウトが発生していないと考えられる。蒸発器温度Tefinから蒸発器出口飽和温度Tsatを減じた温度差が閾値α1を上回っていると判定された場合、蒸発器15でドライアウトが発生していると考えられる。
【0051】
すなわち、
図4に示すように、蒸発器15でドライアウトが発生していない場合、蒸発器温度センサ64は、過熱度をもたない冷媒の温度を検出することになるため、蒸発器温度Tefinから蒸発器出口飽和温度Tsatを減じた温度差が閾値α1を下回ることとなる。
【0052】
図5に示すように、蒸発器15でドライアウトが発生している場合、蒸発器温度センサ64は、過熱度をもった冷媒の温度を検出することになるため、蒸発器温度Tefinから蒸発器出口飽和温度Tsatを減じた温度差が閾値α1を上回ることとなる。
【0053】
閾値α1は、蒸発器15に流入する冷媒の流量が大きいほど、大きい値に決定される。
図6に示すように、冷媒流量が大きいと圧力損失が大きくなるので蒸発器15の入口側と出口側とで圧力差が生じることから、この圧力差に起因する誤判定を抑制するためである。
【0054】
ステップS110にて蒸発器温度Tefinから蒸発器出口飽和温度Tsatを減じた温度差が閾値α1を上回っていないと判定された場合、ステップS120へ進む。ステップS110にて蒸発器温度Tefinから蒸発器出口飽和温度Tsatを減じた温度差が閾値α1を上回っていると判定された場合、ステップS130へ進む。
【0055】
ステップS120では、蒸発器15でドライアウトが発生していないと考えられるため、膨張弁14の絞り開度EVとして、ステップS100で決定された通常開度EVNが決定されてステップS140へ進む。
【0056】
ステップS130では、蒸発器15でドライアウトが発生していると考えられるため、膨張弁14の絞り開度EVとして、ステップS100で決定された通常開度EVNよりも大きい開度EVD(以下、ドライアウト開度と言う。)に決定されてステップS140へ進む。例えば、ドライアウト開度EVDは、膨張弁14の全開時の開度(100%)である。ドライアウト開度EVDは、通常開度EVNに対して所定量大きい開度であってもよい。
【0057】
ステップS140では、ステップS120、S130で決定された膨張弁14の絞り開度EVが得られるように、膨張弁14に対して制御信号あるいは制御電圧を出力して、ステップS100へ戻る。
【0058】
これにより、冷凍サイクル装置10では、サイクルを循環する冷媒の状態が以下のように変化する。すなわち、圧縮機11から吐出された高圧冷媒が凝縮器12に流入して放熱する。これにより、凝縮器12で冷媒が冷却されて凝縮する。
【0059】
凝縮器12から流出した冷媒は、レシーバ13にて気液分離される。レシーバ13で分離された液相冷媒は膨張弁14へ流入して、膨張弁14にて低圧冷媒となるまで減圧膨張される。膨張弁14にて減圧された低圧冷媒は、蒸発器15に流入し、車室内へ送風される空気から吸熱して蒸発する。これにより、車室内へ送風される空気が冷却される。
【0060】
そして、蒸発器15から流出した冷媒は、圧縮機11の吸入側へと流れて再び圧縮機11にて圧縮される。
【0061】
このように、冷凍サイクル装置10は、蒸発器15にて低圧冷媒に空気から吸熱させて、冷却された空気を車室内へ吹き出すことができる。これにより、車室内の冷房を実現することができる。
【0062】
蒸発器15でドライアウトが発生している場合、ステップS130にて膨張弁14の絞り開度EVを通常開度EVNよりも大きくするので、蒸発器15に流入する冷媒の流量を増加させることができる。これにより、ドライアウトを速やかに解消できる。
【0063】
本実施形態では、蒸発器温度センサ64および吸入冷媒圧力センサ66の検出値をフィードバック制御しているため、膨張弁14自体の公差に影響されず、低開度まで適切に使うことができる。さらに、蒸発部15の出口で過熱度をとって制御しやすく、蒸発部15の出口から圧縮機11の吸入口までの間に気液分離機構(いわゆるアキュムレータ)が不要になるので、吸入圧損を低減して性能と効率を向上できるとともに製造コストを低減できる。
【0064】
蒸発器15でドライアウトが発生しているか否かを、蒸発器温度Tefinから蒸発器出口飽和温度Tsatを減じた温度差に基づいて判定するので、
図7に示すように蒸発器15に流入する空気の温度が低い条件下であっても蒸発器15でドライアウトが発生しているか否かを適切に判定できる。
【0065】
蒸発器15に流入する空気の温度が低いために膨張弁14の開度を小さくしても十分な過熱度が得られない場合、膨張弁14の挙動は、
図8に示すように開度の増減を繰り返す。換言すれば、膨張弁14の開度が揺らぐ。そのため、蒸発器15に流入する空気の温度が低くても過熱度を適切にフィードバック制御できる。
【0066】
本実施形態では、制御装置60は、膨張弁14の通常制御では、膨張弁14の開度を、蒸発器15から流出した冷媒の過熱度SHEが目標過熱度SHEOに近づくような開度である通常開度に制御する。制御装置60は、蒸発器温度センサ64が検出した冷媒の温度Tefin、および吸入冷媒圧力センサ66が検出した冷媒の圧力Psucから蒸発器15で冷媒がドライアウトしているか否かを判定する。制御装置60は、蒸発器15で冷媒がドライアウトしていると判定した場合、膨張弁14の開度を通常開度よりも大きくする。
【0067】
これによると、蒸発器15で冷媒がドライアウトしているか否かを適切に判定できる。そして、蒸発器15で冷媒がドライアウトしていると判定した場合、蒸発器15に流入する冷媒の流量を増加させることができるので、蒸発器15における冷媒のドライアウトを抑制できる。
【0068】
本実施形態では、蒸発器15の出口よりも下流側かつ圧縮機11の吸入口よりも上流側における冷媒の状態を検出する第1検出部として吸入冷媒圧力センサ66を備え、蒸発器15の入口よりも下流側かつ蒸発器15の出口よりも上流側における冷媒の状態を検出する第2検出部として蒸発器温度センサ64を備える。これによると、蒸発器15で冷媒がドライアウトしているか否かを適切に判定できる。
【0069】
本実施形態では、制御装置60は、吸入冷媒圧力センサ66が検出した冷媒の圧力Psucに基づいて冷媒の飽和温度Tsatを算出し、蒸発器温度センサ64が検出した冷媒の温度Tefinと飽和温度Tsatとの差が閾値α1を超えている場合、蒸発器15で冷媒がドライアウトしていると判定する。
【0070】
これによると、蒸発器15の吸込空気温度が低い場合であっても、蒸発器15で冷媒がドライアウトしているか否かを適切に判定できる。
【0071】
本実施形態では、制御装置60は、蒸発器15に流入する冷媒の流量が大きいほど、閾値α1を大きくする。これによると、蒸発器15での冷媒の圧力損失を考慮して、より適切にドライアウトを判定できる。
【0072】
本実施形態では、凝縮器12の下流側かつ膨張弁14の上流側にレシーバ13を備える冷凍サイクル装置10に上述の膨張弁制御を適用しているので、膨張弁14を閉じ気味で使いやすくなる。その結果、圧縮機11に液相冷媒が吸入される現象(いわゆる液バック)を抑制できる。
【0073】
本実施形態では、制御装置60は、蒸発器15で冷媒がドライアウトしていると判定した場合、膨張弁14の開度を通常開度よりも大きくした後、通常開度に戻すように膨張弁14を制御する。これにより、ドライアウトが解消した後は膨張弁14を通常制御して冷凍サイクル装置10を適切に制御できる。
【0074】
本実施形態では、制御装置60は、目標過熱度SHEOと蒸発器15出口側冷媒の過熱度SHEとの偏差に基づいて、蒸発器15出口側冷媒の過熱度SHEが目標過熱度SHEOに近づくように決定する。これにより、通常制御時に過熱度SHEを適切に制御できる。
【0075】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、膨張弁14の絞り開度EVを決定する制御処理において、蒸発器温度Tefinから蒸発器出口飽和温度Tsatを減じた温度差が閾値α1を上回っている場合、膨張弁14の絞り開度EVとしてドライアウト開度EVDが決定される。
【0076】
本実施形態では、
図9に示すように、膨張弁14の絞り開度EVを決定する制御処理において、蒸発器温度Tefinから蒸発器出口飽和温度Tsatを減じた温度差が閾値α1を上回っており且つ冷媒流量Grが閾値β1を下回っている場合、膨張弁14の絞り開度EVとしてドライアウト開度EVDが決定される。
【0077】
本実施形態では、膨張弁14の絞り開度EVは、
図9のフローチャートに示す制御処理によって決定される。まずステップS200では、上記第1実施形態のステップS100と同様に、膨張弁14の通常開度EVNが、蒸発器15出口側冷媒の目標過熱度SHEOと蒸発器15出口側冷媒の過熱度SHEとの偏差に基づいて、フィードバック制御手法により、過熱度SHEが目標過熱度SHEOに近づくように決定される。例えば、目標過熱度SHEOは、予め定めた定数(本実施形態では、5℃)である。
【0078】
次のステップS210では、蒸発器温度Tefinから蒸発器出口飽和温度Tsatを減じた温度差が閾値α1を上回っており且つ冷媒流量Grが閾値β1を下回っているか否かが判定される。冷媒流量Grは、吸入冷媒圧力センサ66で検出された吸入冷媒圧力Psucと圧縮機11の回転数等とに基づいて算出される。冷媒流量Grは、冷媒流量センサによって検出されてもよい。閾値β1は、予め制御装置60に記憶されている。
【0079】
すなわち、ステップS210では、
図10中の網掛けが付された領域(以下、ドライアウト開度領域)にあるか否かが判定される。ドライアウト開度領域は、ドライアウトが発生する領域(
図10では、実線よりも上方の領域)の一部の領域である。
【0080】
ステップS210にて蒸発器温度Tefinから蒸発器出口飽和温度Tsatを減じた温度差が閾値α1を上回っていない又は冷媒流量が閾値β1を下回っていないと判定された場合(すなわち、
図10のドライアウト開度領域にないと判定された場合)、ステップS220へ進む。ステップS210にて蒸発器温度Tefinから蒸発器出口飽和温度Tsatを減じた温度差が閾値α1を上回っており且つ冷媒流量Grが閾値β1を下回っていると判定された場合(すなわち、
図10のドライアウト開度領域にあると判定された場合)、ステップS230へ進む。
【0081】
ステップS220では、上記第1実施形態のステップS120と同様に、膨張弁14の絞り開度EVとして、ステップS200で決定された通常開度EVNが決定されてステップS240へ進む。温度差が閾値α1を上回っていないときはそもそも蒸発器15で熱交換量が少ないので、蒸発器15でドライアウトが発生してもドライアウトによる性能低下が少ないと考えられるからである。冷媒流量が閾値β1を下回っていないときは蒸発器15でドライアウトが発生しても冷媒流量が少なくなっても性能低下が大きな問題にならないからである。
【0082】
ステップS230では、蒸発器15でドライアウトが発生していると考えられるため、上記第1実施形態のステップS130と同様に、膨張弁14の絞り開度EVとして、ステップS200で決定された通常開度EVNよりも大きいドライアウト開度EVDに決定されてステップS240へ進む。例えば、ドライアウト開度EVDは、膨張弁14の全開時の開度(100%)である。ドライアウト開度EVDは、通常開度EVNに対して所定量大きい開度であってもよい。
【0083】
ステップS240では、上記第1実施形態のステップS240と同様に、ステップS220、S230で決定された膨張弁14の絞り開度EVが得られるように、膨張弁14に対して制御信号あるいは制御電圧を出力して、ステップS200へ戻る。
【0084】
これにより、上記第1実施形態と同様に、蒸発器15でドライアウトが発生している場合、ステップS230にて膨張弁14の絞り開度EVを通常開度EVNよりも大きくするので、蒸発器15に流入する冷媒の流量を増加させることができる。これにより、ドライアウトを速やかに解消できる。
【0085】
本実施形態では、膨張弁14の絞り開度EVがドライアウト開度EVDに決定される領域を、冷媒の低流量領域に限定するので、制御の簡素化と設計工数の低減とを図ることができる。
【0086】
(他の実施形態)
上記実施形態を例えば以下のように種々変形可能である。
【0087】
(1)上記実施形態の冷凍サイクル装置10では、冷媒としてフロン系冷媒を用いているが、冷媒の種類はこれに限定されるものではなく、二酸化炭素等の自然冷媒や炭化水素系冷媒等を用いてもよい。
【0088】
また、上記実施形態の冷凍サイクル装置10は、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルを構成しているが、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超える超臨界冷凍サイクルを構成していてもよい。
【0089】
(2)上記実施形態の蒸発器15は、冷媒と空気(換言すれば気体)とを熱交換させるが、これに限定されるものではなく、冷媒と冷却水(換言すれば液体)とを熱交換させてもよい。蒸発器15に電池等の冷却対象物が熱伝導可能に接触されていて、蒸発器15を流れる冷媒によって冷却対象物が冷却されるようになっていてもよい。
【0090】
(3)上記実施形態の冷凍サイクル装置10は、車両用空調装置に適用されているが、冷凍サイクル装置10の適用対象はこれに限定されるものではなく、電池冷却装置や据え置き型の空調装置、冷凍冷蔵装置等に適用してもよい。
【符号の説明】
【0091】
11 圧縮機
12 凝縮器(放熱部)
14 膨張弁(減圧部)
15 蒸発器(蒸発部)
60 制御装置(制御部)
64 蒸発器温度センサ(冷媒状態検出部、第2検出部)
66 吸入冷媒圧力センサ(冷媒状態検出部、第1検出部)