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特許7655090車両の走行制御方法および車両の走行制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-25
(45)【発行日】2025-04-02
(54)【発明の名称】車両の走行制御方法および車両の走行制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/96 20060101AFI20250326BHJP
   B60W 50/029 20120101ALI20250326BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20250326BHJP
   F16H 59/40 20060101ALI20250326BHJP
   F16H 61/22 20060101ALI20250326BHJP
   F16H 63/48 20060101ALI20250326BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20250326BHJP
   B60T 8/171 20060101ALI20250326BHJP
【FI】
B60T8/96
B60W50/029
B60W60/00
F16H59/40
F16H61/22
F16H63/48
B60T7/12 D
B60T7/12 A
B60T8/171 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021090542
(22)【出願日】2021-05-28
(65)【公開番号】P2022182807
(43)【公開日】2022-12-08
【審査請求日】2024-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武田 文紀
(72)【発明者】
【氏名】網代 圭悟
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-019376(JP,A)
【文献】特表2002-523296(JP,A)
【文献】特開2011-098729(JP,A)
【文献】特開2015-110378(JP,A)
【文献】特開2019-156091(JP,A)
【文献】特開2020-138657(JP,A)
【文献】特表2020-521666(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0283008(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0244283(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/96
B60W 50/029
B60W 60/00
F16H 59/40
F16H 61/22
F16H 63/48
B60T 7/12
B60T 8/171
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧式摩擦ブレーキ及び電動パーキングブレーキを含む車載制動制御装置からの信号と、センサにより検出された車輪速又は出力回転軸の出力値と、に基づいて自律走行制御により制動制御を実行する車両の走行制御方法において、
前記制動制御装置の異常状態を検出した場合には、
自車両の減速を開始し、
前記車輪速の出力値又は前記出力回転軸の出力値が0になったのちは、前記液圧式摩擦ブレーキを用いずに変速機のシフトレンジをパーキングポジションに設定し、
前記車輪速の出力値が検出不能である場合には、前記出力回転軸の出力値に基づいて、前記変速機のシフトレンジをパーキングポジションに設定する車両の走行制御方法。
【請求項2】
液圧式摩擦ブレーキ及び電動パーキングブレーキを含む車載制動制御装置からの信号と、センサにより検出された車輪速又は出力回転軸の出力値と、に基づいて自律走行制御により制動制御を実行する車両の走行制御方法において、
前記制動制御装置の異常状態を検出した場合には、
自車両の減速を開始し、
前記車輪速の出力値と、前記出力回転軸の出力値のいずれもが0になったのちは、前記液圧式摩擦ブレーキを用いずに変速機のシフトレンジをパーキングポジションに設定する車両の走行制御方法。
【請求項3】
前記制動制御装置は、第1の制動制御装置と、これをバックアップする第2の制動制御装置により制御され、
前記車輪速の出力値は、前記第1の制動制御装置が備える車輪速センサにより検出された出力値、又は前記第2の制動制御装置が備える車輪速センサにより検出された出力値であり、
前記第1の制動制御装置が備える前記車輪速センサにより検出された出力値と、前記第2の制動制御装置が備える前記車輪速センサにより検出された出力値のいずれもが検出不能である場合には、前記出力回転軸の出力値に基づいて、前記変速機のシフトレンジをパーキングポジションに設定する請求項に記載の車両の走行制御方法。
【請求項4】
前記制動制御装置は、第1の制動制御装置と、これをバックアップする第2の制動制御装置により制御され、
前記車輪速の出力値は、前記第1の制動制御装置が備える車輪速センサにより検出された出力値、又は前記第2の制動制御装置が備える車輪速センサにより検出された出力値であり、
前記第1の制動制御装置が備える前記車輪速センサにより検出された出力値と、前記第2の制動制御装置が備える前記車輪速センサにより検出された出力値と、前記出力回転軸の出力値のいずれもが0であるときは、前記変速機のシフトレンジをパーキングポジションに設定する請求項に記載の車両の走行制御方法。
【請求項5】
前記制動制御装置の異常状態を検出した場合には、
前記自車両の乗員に異常状態を検出した旨の通知を出力し、当該通知に対する前記乗員からの入力に基づいて緊急停止制御を開始する請求項1~のいずれか一項に記載の車両の走行制御方法。
【請求項6】
液圧式摩擦ブレーキ及び電動パーキングブレーキを含む車載制動制御装置からの信号と、センサにより検出された車輪速又は出力回転軸の出力値と、に基づいて自律走行制御により制動制御を実行するプロセッサを備えた車両の走行制御装置において、
前記プロセッサは、
前記制動制御装置の異常状態を検出した場合には、
自車両の減速を開始し、
前記車輪速の出力値又は前記出力回転軸の出力値が0になったのちは、液圧式摩擦ブレーキを用いずに変速機のシフトレンジをパーキングポジションに設定し、
前記車輪速の出力値が検出不能である場合には、前記出力回転軸の出力値に基づいて、前記変速機のシフトレンジをパーキングポジションに設定する車両の走行制御装置。
【請求項7】
液圧式摩擦ブレーキ及び電動パーキングブレーキを含む車載制動制御装置からの信号と、センサにより検出された車輪速又は出力回転軸の出力値と、に基づいて自律走行制御により制動制御を実行するプロセッサを備えた車両の走行制御装置において、
前記プロセッサは、
前記制動制御装置の異常状態を検出した場合には、
自車両の減速を開始し、
前記車輪速の出力値と、前記出力回転軸の出力値のいずれもが0になったのちは、前記液圧式摩擦ブレーキを用いずに変速機のシフトレンジをパーキングポジションに設定する車両の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行制御方法および車両の走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動運転車両において、緊急停車スイッチが押下された場合に、予め加圧状態で貯留された作動液を開放することでブレーキユニットに油圧を供給する蓄圧式アクチュエータを用いて車輪を制動する車載ブレーキシステムが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-006442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、緊急停止時に油圧ブレーキにより車両を制動し続けるのは、機械的な負荷が大きいという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、緊急停止時に機械的な負荷を軽減して停車状態を維持することができる車両の走行制御方法および車両の走行制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、制動制御装置の異常状態を検出した場合には、自車両の減速を開始し、車輪速の出力値又は出力回転軸の出力値が0になったのちは、液圧式摩擦ブレーキを用いずに変速機のシフトレンジをパーキングポジションに設定することによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、緊急停止時に機械的な負荷を軽減して車両の停車状態を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の車両の走行制御装置の一実施の形態を示すブロック図である。
図2図1の入力装置の一部を示す正面図である。
図3図1の走行制御装置の車線変更制御の一例を示す平面図である。
図4図1の走行制御装置に含まれる制動制御装置の一例を示すブロック図である。
図5図4の制動制御装置で実行される制動制御の一例を示す平面図である。
図6図4の制動制御装置で実行される処理例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
《走行制御装置の構成》
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る車両の走行制御装置1の構成を示すブロック図である。本実施形態の走行制御装置1は、本発明に係る車両の走行制御方法を実施する一実施の形態でもある。
【0010】
図1に示すように、本実施形態の走行制御装置1は、センサ11、自車位置検出装置12、地図データベース13、車載機器14、ナビゲーション装置15、提示装置16、入力装置17、駆動制御装置18a、操舵制御装置18b、制御装置19及び制動制御装置20を備える。これらの装置は、たとえばCAN(Controller Area Network)その他の車載LANにより接続され、相互に情報の送受信を行うことができる。
【0011】
センサ11は、自車両の走行状態を検出する。たとえば、センサ11として、自車両の前方を撮像する前方カメラ、自車両の左右の側方をそれぞれ撮像する側方カメラ、自車両の後方を撮像する後方カメラ、自車両の前方の障害物を検出する前方レーダー、自車両の後方の障害物を検出する後方レーダー、自車両の左右の側方に存在する障害物を検出する側方レーダー、自車両の車速を検出する車速センサ、ドライバーがハンドルを持っているか否かを検出するタッチセンサ(静電容量センサ)およびドライバーを撮像する車内カメラなどが挙げられる。なお、センサ11として、上述した複数のセンサのうち1つを用いる構成としてもよいし、2種類以上のセンサを組み合わせて用いる構成としてもよい。センサ11の検出結果は、所定時間間隔で制御装置19に出力される。
【0012】
自車位置検出装置12は、GPSユニット、ジャイロセンサ、および車速センサ等を備える。自車位置検出装置12は、GPSユニットにより複数の衛星通信から送信される電波を検出し、自車両の位置情報を周期的に取得する。また、自車位置検出装置12は、取得した自車両の位置情報と、ジャイロセンサから取得した角度変化情報と、車速センサから取得した車速とに基づいて、自車両の現在位置を検出する。自車位置検出装置12により検出された自車両の位置情報は、所定時間間隔で制御装置19に出力される。
【0013】
地図データベース13は、各種施設や特定の地点の位置情報を含む三次元高精度地図情報を格納し、制御装置19からアクセス可能とされたメモリである。三次元高精度地図情報は、データ取得用車両を用いて実際の道路を走行した際に検出された道路形状に基づく三次元地図情報である。三次元高精度地図情報は、地図情報とともに、カーブ路及びそのカーブの大きさ(たとえば曲率又は曲率半径)、道路の合流地点、分岐地点、料金所、車線数の減少位置などの詳細かつ高精度の位置情報が、三次元情報として関連付けられた地図情報である。ただし、本発明の地図データベースに格納される地図情報は、三次元高精度地図情報にのみ限定されず、それ以外の地図情報であってもよい。
【0014】
車載機器14は、車両に搭載された各種機器であり、ドライバーの操作により動作する。このような車載機器としては、ステアリングホイール、アクセルペダル、ブレーキペダル、方向指示器、ワイパー、ライト、クラクション、その他の特定のスイッチなどが挙げられる。車載機器14は、ドライバーにより操作された場合に、その操作情報を制御装置19に出力する。
【0015】
ナビゲーション装置15は、自車位置検出装置12から自車両の現在の位置情報を取得し、誘導用の地図情報に自車両の位置を重ね合わせてディスプレイなどに表示する。また、ナビゲーション装置15は、ドライバーが目的地を入力すると、その目的地までのルートを演算し、設定されたルートをドライバーに案内するナビゲーション機能を備える。このナビゲーション機能により、ナビゲーション装置15は、ディスプレイの地図上に目的地までのルートを表示するとともに、音声等によってルート上の走行推奨行動をドライバーに知らせる。
【0016】
提示装置16は、ナビゲーション装置15が備えるディスプレイ、ルームミラーに組み込まれたディスプレイ、メーター部に組み込まれたディスプレイ、フロントガラスに映し出されるヘッドアップディスプレイ等の各種ディスプレイを含む。また、提示装置16は、オーディオ装置のスピーカー、振動体が埋設された座席シート装置など、ディスプレイ以外の装置を含む。提示装置16は、制御装置19の制御に従って、各種の提示情報をドライバーに報知する。
【0017】
入力装置17は、たとえば、ドライバーの手動操作による入力が可能なボタンスイッチ、ディスプレイ画面上に配置されたタッチパネル、又はドライバーの音声による入力が可能なマイクなどの装置である。本実施形態では、ドライバーが入力装置17を操作することで、提示装置16により提示された提示情報に対する設定情報を入力することができる。図2は、本実施形態の入力装置17の一部を示す正面図であり、ステアリングホイールのスポーク部などに配置されたボタンスイッチ群からなる一例を示す。
【0018】
図示する入力装置17は、制御装置19が備える自律走行制御機能(自律速度制御機能及び自律操舵制御機能)のON/OFF等を設定する際に使用するボタンスイッチである。自律速度制御機能及び自律操舵制御機能を含む自律走行制御機能の詳細は、後述する。本実施形態の入力装置17は、メインスイッチ171、リジューム・アクセラレートスイッチ172、セット・コーストスイッチ173、キャンセルスイッチ174、車間調整スイッチ175、及び車線変更支援スイッチ176を備える。
【0019】
メインスイッチ171は、制御装置19の自律速度制御機能及び自律操舵制御機能を実現するシステムの電源をON/OFFするスイッチである。リジューム・アクセラレートスイッチ172は、自律速度制御機能を一旦OFFしたのちOFF前の設定速度で自律速度制御機能を再開したり、先行車両(自車両と同じ車線の前方を走行する他車両。以下、本明細書において同じ。)に追従して停車したのち制御装置19によって再発進したりするリジューム操作や、設定速度を上げるアクセラレート操作をするためのスイッチである。セット・コーストスイッチ173は、走行時の速度で自律速度制御機能を開始するセット操作や、設定速度を下げるコースト操作をするためのスイッチである。キャンセルスイッチ174は、自律速度制御機能をOFFするスイッチである。車間調整スイッチ175は、先行車両との車間距離を設定するためのスイッチであり、たとえば短距離・中距離・長距離といった複数段の設定から1つを選択するスイッチである。車線変更支援スイッチ176は、制御装置19が車線変更の開始をドライバーに確認した場合に車線変更の開始を承諾するためのスイッチである。なお、車線変更の開始を承諾した後に、車線変更支援スイッチ176を所定時間よりも長く押すことで、制御装置19による車線変更の提案の承諾を取り消すことができる。
【0020】
図2に示すボタンスイッチ群以外にも、方向指示器の方向指示レバーやその他の車載機器14のスイッチを入力装置17として用いることができる。たとえば、制御装置19から自律制御により車線変更を行うか否かを提案された場合に、ドライバーが方向指示器のスイッチをオンにすることで、車線変更の承諾又は許可を入力する構成とすることもできる。また、制御装置19から自律制御により車線変更を行うか否かを提案された場合に、ドライバーが方向指示レバーを操作すると、提案された車線変更ではなく、方向指示レバーが操作された方向に向かって車線変更を行う構成とすることもできる。入力装置17により入力された設定情報は、制御装置19に出力される。
【0021】
駆動制御装置18aは、種々の態様で自車両の走行を制御する。たとえば、駆動制御装置18aは、自律速度制御機能により自車両が設定速度で定速走行する場合には、自車両が設定速度となるように、加速および減速、並びに走行速度を維持するために、駆動機構の動作(エンジン自動車にあっては内燃機関の動作、電気自動車系にあっては走行用モータの動作を含み、ハイブリッド自動車にあっては内燃機関と走行用モータとのトルク配分も含む)およびブレーキ動作を制御する。また、駆動制御装置18aは、自律速度制御機能により自車両が先行車両に追従走行する場合には、自車両と先行車両との車間距離が一定距離となるように、加減速度および走行速度を実現するための駆動機構の動作およびブレーキ動作を制御する。
【0022】
また、操舵制御装置18bは、自律操舵制御機能により、上述した駆動機構とブレーキの動作制御に加えて、ステアリングアクチュエータの動作を制御することで、自車両の操舵制御を実行する。たとえば、操舵制御装置18bは、自律操舵制御機能によりレーンキープ制御を実行する場合に、自車線(自車両が走行する車線。以下、本明細書において同じ。)のレーンマーカを検出し、自車両が自車線内の所定位置を走行するように、自車両の幅員方向における走行位置を制御する。また、操舵制御装置18bは、後述する車線変更支援機能により車線変更支援を実行する場合に、自車両が車線変更を行うように、自車両の幅員方向における走行位置を制御する。さらに、操舵制御装置18bは、自律操舵制御機能により右左折支援を実行する場合には、交差点などにおいて右折又は左折する走行制御を行う。なお、操舵制御装置18bは、後述する制御装置19の指示により自車両の走行を制御する。また、操舵制御装置18bによる走行制御方法として、その他の公知の方法を用いることもできる。
【0023】
制御装置19は、自車両の走行を制御するためのプログラムを格納したROM(Read Only Memory)と、このROMに格納されたプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)と、アクセス可能な記憶装置として機能するRAM(Random Access Memory)等を備える。なお、動作回路としては、CPU(Central Processing Unit)に代えて又はこれとともに、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などを用いることができる。
【0024】
《制御装置19により実現される機能》
制御装置19は、ROMに格納されたプログラムをCPUにより実行することにより、自車両の走行状態に関する情報を取得する走行情報取得機能と、自車両の走行シーンを判定する走行シーン判定機能と、自車両の走行速度及び/又は操舵を自律制御する自律走行制御機能とを実現する。以下、制御装置19が備える各機能について説明する。
【0025】
制御装置19の走行情報取得機能は、制御装置19が自車両の走行状態に関する走行情報を取得するための機能である。たとえば、制御装置19は、センサ11の前方カメラ、後方カメラ及び側方カメラにより撮像された自車両外部の画像情報を走行情報として取得する。また、制御装置19は、前方レーダー、後方レーダー及び側方レーダーによる検出結果を、走行情報として取得する。さらに、制御装置19は、センサ11の車速センサにより検出された自車両の車速情報、ジャイロセンサにより検出された自車両の姿勢角・ヨーレート、車内カメラにより撮像されたドライバーの顔の画像情報なども走行情報として取得する。
【0026】
さらに、制御装置19は、自車両の現在の位置情報を走行情報として自車位置検出装置12から取得する。また、制御装置19は、設定された目的地及び目的地までのルートを走行情報としてナビゲーション装置15から取得する。さらに、制御装置19は、カーブ路及びそのカーブの大きさ(たとえば曲率又は曲率半径)、合流地点、分岐地点、料金所、車線数の減少位置などの位置情報を走行情報として地図データベース13から取得する。加えて、制御装置19は、ドライバーによる車載機器14の操作情報を、走行情報として車載機器14から取得する。以上が、制御装置19により実現される走行情報取得機能である。
【0027】
制御装置19の走行シーン判定機能は、制御装置19のROMに記憶されたテーブルを参照して、自車両が走行している走行シーンを判定する機能である。制御装置19のROMに記憶されたテーブルには、たとえば車線変更や追い越しに適した走行シーンとその判定条件が、走行シーンごとに記憶されている。制御装置19は、ROMに記憶されたテーブルを参照して、自車両の走行シーンが、たとえば車線変更や追い越しに適した走行シーンであるか否かを判定する。
【0028】
たとえば、「先行車両への追いつきシーン」の判定条件として、「前方に先行車両が存在」、「先行車両の車速<自車両の設定車速」、「先行車両への到達が所定時間以内」、および「車線変更の方向が車線変更禁止条件になっていない」の4つの条件が設定されているとする。この場合、制御装置19は、たとえば、センサ11に含まれる前方カメラや前方レーダーによる検出結果、車速センサにより検出された自車両の車速、および自車位置検出装置12による自車両の位置情報などに基づいて、自車両が上記条件を満たすか否かを判断する。上記条件を満たす場合には、制御装置19は、自車両が「先行車両への追いつきシーン」であると判定する。以上が、制御装置19により実現される走行シーン判定機能である。
【0029】
制御装置19の自律走行制御機能は、制御装置19が自車両の走行をドライバーの操作に依ることなく自律制御するための機能である。制御装置19の自律走行制御機能は、自車両の走行速度を自律制御する自律速度制御機能と、自車両の操舵を自律制御する自律操舵制御機能とを含む。なお、ドライバーの操作に依ることなく自律制御することには、一部の操作をドライバーにより行うことも含まれる。また、自律速度制御機能と自律操舵制御機能は、互いに独立した機能であってもよく、互いに関連した機能であってもよい。以下、本実施形態の自律速度制御機能と自律操舵制御機能について説明する。
【0030】
自律速度制御機能は、先行車両を検出しているときは、ドライバーが設定した車速を上限にして、車速に応じた車間距離を保つように車間制御を行いつつ先行車両に追従走行する一方、先行車両を検出していない場合には、ドライバーが設定した車速で定速走行する機能である。前者を車間制御、後者を定速制御ともいう。なお、自律速度制御機能は、センサ11により道路標識から走行中の道路の制限速度を検出し、あるいは地図データベース13の地図情報から制限速度を取得して、その制限速度を自動的に設定車速にする機能を含んでもよい。
【0031】
自律速度制御機能を作動するには、まずドライバーが、図2に示す入力装置17のリジューム・アクセラレートスイッチ172又はセット・コーストスイッチ173を操作して、所望の走行速度を入力する。たとえば、自車両が70km/hで走行中にセット・コーストスイッチ173を押すと、現在の走行速度がそのまま設定されるが、ドライバーが所望する速度が80km/hであるとすると、リジューム・アクセラレートスイッチ172を複数回押して、設定速度を上げればよい。リジューム・アクセラレートスイッチ172に付された「+」の印は、設定値を増加させるスイッチであることを示している。逆にドライバーが所望する速度が60km/hであるとすると、セット・コーストスイッチ173を複数回押して、設定速度を下げればよい。セット・コーストスイッチ173に付された「-」の印は、設定値を減少させるスイッチであることを示している。また、ドライバーが所望する車間距離は、図2に示す入力装置17の車間調整スイッチ175を操作し、たとえば短距離・中距離・長距離といった複数段の設定から1つを選択すればよい。
【0032】
ドライバーが設定した車速で定速走行する定速制御は、センサ11の前方レーダー等により、自車線の前方に先行車両が存在しないことが検出された場合に実行される。定速制御では、設定された走行速度を維持するように、車速センサによる車速データをフィードバックしながら、駆動制御装置18aによりエンジンやブレーキなどの駆動機構の動作を制御する。
【0033】
車間制御を行いつつ先行車両に追従走行する車間制御は、センサ11の前方レーダー等により、自車線の前方に先行車両が存在することが検出された場合に実行される。車間制御では、設定された走行速度を上限にして、設定された車間距離を維持するように、前方レーダーにより検出した車間距離データをフィードバックしながら、駆動制御装置18aによりエンジンやブレーキなどの駆動機構の動作を制御する。なお、車間制御で走行中に先行車両が停止した場合は、先行車両に続いて自車両も停止する。また、自車両が停止した後、たとえば30秒以内に先行車両が発進すると、自車両も発進し、再び車間制御による追従走行を開始する。自車両が30秒を超えて停止している場合は、先行車両が発進しても自動で発進せず、先行車両が発進した後、リジューム・アクセラレートスイッチ172を押すか又はアクセルペダルを踏むと、再び車間制御による追従走行を開始する。
【0034】
一方、自律操舵制御機能は、ステアリングアクチュエータの動作を制御することで、自車両の操舵制御を実行するための機能である。本実施形態の自律操舵制御機能には、(1)車線のたとえば中央付近を走行するようにステアリングを制御して、ドライバーのハンドル操作を支援するレーンキープ機能(車線幅員方向維持機能)、(2)ドライバーがウィンカーレバーを操作するとステアリングを制御し、車線変更に必要なハンドル操作を支援する車線変更支援機能、(3)設定車速よりも遅い車両を前方に検出すると、表示によりドライバーに追い越し操作を行うか確認し、ドライバーが承諾スイッチを操作した場合、ステアリングを制御し追い越し操作を支援する追い越し支援機能、(4)ドライバーがナビゲーション装置などに目的地を設定している場合には、ルートに従って走行するために必要な車線変更地点に到達すると、表示によりドライバーに車線変更を行うか確認し、ドライバーが承諾スイッチを操作した場合、ステアリングを制御し車線変更を支援するルート走行支援機能などが含まれる。なお、自律操舵制御を実行する場合、自律速度制御も同時に実行するが、速度制御はドライバーのアクセル・ブレーキ操作によって実行してもよい。
【0035】
ここで、自律操舵制御機能のうちの車線変更支援機能について説明する。なお、車線変更支援とともに、自律速度制御も同時に実行される。図3は、本実施形態の制御装置19が実行する車線変更制御(車線変更支援機能)の一例を示す平面図である。図3に示すように、ドライバーが自車両V1のウィンカーレバーを操作すると、制御装置19は方向指示器を点灯し、予め設定された車線変更開始条件を満たすと車線変更操作LCP(Lane Change Process、自律車線変更の一連の処理をいう。)を開始する。制御装置19は、センサ11により取得した各種の走行情報に基づいて、車線変更開始条件が成立するか否かを判断する。車線変更開始条件としては、特に限定されないが、(1)レーンキープモードであること、(2)ドライバーがステアリングホイールを保持していること、(3)速度60km/時以上で走行していること、(4)車線変更方向に車線があること、(5)車線変更先の車線に車線変更可能なスペースがあること、(6)レーンマーカの種別が車線変更可能であること、(7)道路の曲率半径が250m以上であること、(8)ドライバーが方向指示レバーを操作してから1秒以内であること、といった全ての条件(1)~(8)が成立することを例示できる。なお、制御装置19は、ドライバーの指示がなくても、車線変更支援機能により車線変更開始条件が成立すると判断した場合には、提示装置16によってドライバーに報知することで、ドライバーに車線変更を提案してもよい。
【0036】
車線変更開始条件を満たすと、制御装置19は、車線変更操作LCPを開始する。本実施形態の車線変更操作LCPは、図3に示すように、自車両V1が自車線L1内において隣接車線L2の方へ移動する横移動と、自車両V1が自車線L1からレーンマーカを跨いで隣接車線L2へ移動する車線変更操縦LCM(Lane Change Manipulation)とを含む。制御装置19は、車線変更操作LCPを実行中に、自律制御により車線変更を行っていることを表す情報を、提示装置16を介してドライバーに提示し、周囲へ注意を払うよう喚起する。制御装置19は、車線変更操縦LCMが完了すると、方向指示器を消灯し、隣接車線L2でのレーンキープ機能の実行などを開始する。なお、車線変更操作LCPは、ウィンカーレバーの操作による方向指示器の点灯から消灯までの期間をいい、車線変更操縦LCMは、自車両V1が自車線L1と隣接車線L2との境界線を踏み始めてから踏み終わるまでの期間をいう。
【0037】
さて、自律走行制御機能を用いて自律走行している際に、システムの不具合による制御不調が生じたり、ドライバーが操作不能の状況に陥ったりするなど、緊急停止が必要となる場合がある。従来文献にて挙げた先行技術文献には、緊急停車スイッチが押下された場合に、予め加圧状態で貯留された作動液を開放することでブレーキユニットに油圧を供給する蓄圧式アクチュエータを用いて車輪を制動することが記載されている。しかしながら、油圧ブレーキにより車両を制動し続けるのは機械的な負荷が大きく、停車状態を継続的に維持するのは困難である。そのため、液圧式摩擦ブレーキで減速したのち、電動パーキングブレーキ(以下、単にパーキングブレーキともいう)を用いて停車状態を維持するのが一般的である。ただし、パーキングブレーキが使用できない状態である場合には、このような手段は利用できない。
【0038】
そこで、本実施形態に係る車両の走行制御装置1では、パーキングブレーキの故障や、パーキングブレーキを制御するシステムからの入力信号が途絶するなどの異常状態を検出した場合には、まず自車両を減速させる。この自車両の減速は、液圧式摩擦ブレーキを用いて行うことができるほか、当該液圧式摩擦ブレーキに代えて又はこれに加えて、エンジンブレーキ及び/又は走行駆動用モータの回生ブレーキを用いて行うこともできる。なお、以下においては、自車両を減速させるのに液圧式摩擦ブレーキを適用した例で説明する。自車両を減速させたのち、センサから検出される車輪速の出力値又は出力回転軸の出力値が0、すなわち車速が検出されない停車状態であると判定した場合には、変速機のシフトレンジをパーキングポジションに設定する。以下、制動制御装置20を用いた制動制御の実施形態について、図4及び図5を用いて説明する。
【0039】
図4は、図1に示した本発明の実施形態に係る制動制御装置20の概略を示すブロック図である。図4に示すように、本実施形態の制動制御装置20は、ADC(Assisted and automated Driving Control)ユニット21と、VDC(Vehicle Dynamics Control)ユニット22と、EBA(Emergency Brake Assist)ユニット23とを備え、これに駆動制御装置18aとしての出力回転軸センサ181からの信号又は情報が読み込まれ、最終的な指令値はVDCユニット22と、EBAユニット23及び変速機182に出力される。なお、VDCユニット22は本発明の第1の制動制御装置の一例に相当し、EBAユニット23は第2の制動制御装置に相当する。
【0040】
ADCユニット21は、車両の走行支援及び自律走行を行うための制御を実行する。ADCユニット21は、コントローラのROMに格納されたプログラムをCPUにより実行することにより、駆動制御機能及び制動制御機能を実現する。ADCユニット21は、センサ11としてのアクセルペダルセンサによりドライバーの要求駆動力を、ブレーキペダルセンサにより要求制動力を読み込むとともに、車速センサにより現在の車速を検出して、車両の状態をモニタし、これらの状態に応じた指令値を駆動制御装置18a及び制動制御装置20の各装置に出力する。
【0041】
VDCユニット22は、VDCCU221と、車輪速センサ222と、電動パーキングブレーキ223とを備え、制動制御装置20の主系統制御ユニットを構成する。EBAユニット23は、EBACU231と、車輪速センサ232とを備え、主系統制御ユニットをバックアップする副系統制御ユニットを構成する。平常時の制動制御では、主として主系統制御ユニットのVDCユニット22がADCユニット21からの信号及び情報に基づいて、電動パーキングブレーキ223や、EBAユニット23を制御することにより実行される。しかしながら、VDCユニット22に異常状態が検出された場合には、副系統制御ユニットのEBAユニット23のみを用いて制動制御を実行することもでき、EBAユニット23に異常状態が検出された場合には、主系統制御ユニットのVDCユニット22のみを用いて制動制御を実行することもできる。
【0042】
また、ADCユニット21は、緊急停止制御機能を備える。具体的には、VDCユニット22、EBAユニット23に設けられた各装置の故障又はシステムエラーなどの異常を検出すると、緊急停止制御MRM(Minimum Risk Maneuver)を作動して、車両の緊急停止制御を実行する。緊急停止制御MRMとは、車両の走行がシステムによる制御からドライバーによる操作に引き継がれない場合において、車両を自動で停止させる制御をいう。なお、ADCユニット21は、緊急停止制御MRMを作動する必要があると判断した場合には、ドライバーの操作に依ることなく自動で緊急停止制御MRMを作動する構成としてもよい。また、たとえば緊急停止ボタンなどを設けて、ドライバーからの入力を受信した場合に緊急停止制御MRMを作動する構成としてもよい。
【0043】
VDCCU221は、コントローラのROMに格納されたプログラムをCPUにより実行することにより、車両の挙動の安定性を制御する。VDCユニット22には、車両の挙動を安定化するために、車輪の回転速度を検出する車輪速センサ222、車両のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ(不図示)、操舵輪の舵角を検出する舵角センサ(不図示)、車両の横加速度を検出する横加速度センサなどの各種センサが設けられ、これらのセンサによって検出された検出値は、VDCCU221に送信される。VDCCU221は、各種センサの検出値に基づいて車両のアンダーステア傾向又はオーバステア傾向を検出したり、操舵輪の舵角及び車両の横加速度を検出したり、急ブレーキや凍結路面などでのブレーキ動作による滑走を検出したりすることで各車輪のブレーキ圧を制御する。
【0044】
電動パーキングブレーキ223は、車輪やプロペラシャフトの制動状態を制御する。VDCCU221からの指令信号に基づいて、モータ等の電動アクチュエータを駆動させ、パーキングプレーキの作動及び解除を実行する。本実施形態では、パーキングブレーキの一例として電動パーキングブレーキEPKB(Electric Parking Brake)を用いた場合について説明するが、パーキングブレーキの構成は、これに限定されず、ドライバーによるレバーやペダル等の操作により車輪やプロペラシャフトの制動状態を制御するものでもよい。
【0045】
EBACU231は、コントローラのROMに格納されたプログラムをCPUにより実行することにより、ブレーキ動作の制御を支援する。EBACU231は、センサ11としてのブレーキペダルセンサによりドライバーの要求制動力を読み込むと、ブレーキブースタ(不図示)を制御して、モータを用いてドライバーのペダル踏力の負荷を低減する。
【0046】
また、EBACU231は、緊急時のブレーキ動作を制御する。センサ11としての車両の周囲の障害物を検出するレーダー及び車両の周囲を撮像するカメラ、車輪の回転速度を検出する車輪速センサ232などの各種センサの出力値に基づいて、自車両に干渉する可能性がある車両や静止物などの障害物が検出されると、EBACU231は、ADCユニット21及びVDCユニット22からの指令値に基づいて緊急時のブレーキ制御を実行する。具体的には、自車両に干渉する可能性がある障害物が検出されたにもかかわらずブレーキ動作が遅れている、あるいはブレーキ動作の制動制御が十分でないと判断すると、必要な制動力を確保するため、液圧式摩擦ブレーキや電動パーキングブレーキ223を制御する指令信号を出力する。
【0047】
なお、本実施形態において、副系統制御ユニットとしてEBAユニット23を別個に備える構成としているが、これに限定されない。たとえば、EBAユニット23は、ADCユニット21に組み込まれる構成としてもよく、必要に応じて省略されてもよい。また、VDCユニット22と、EBAユニット23は、それぞれが各種センサを別個に備える構成としているが、たとえば、1つの車輪速センサをVDCユニット22とEBAユニット23で兼用する構成としてもよい。
【0048】
変速機182は、シフトポジションの設定に基づいて、シフトアップ又はシフトダウンなどの変速状態を制御する。本実施形態では、ギアによる段階的な変速を自動で行うAT(Automatic Transmission)を用いた場合について説明するが、これに限定されず、ベルトとプーリーにより変速比を連続的に変更して無段階変速を行うCVT(Continuously Variable Transmission)を用いて変速状態を制御するものでもよい。シフトポジションには、駆動レンジと非駆動レンジがある。駆動レンジには、車両の前進走行時に設定するドライブレンジと、後退走行時に設定するリバースレンジがあり、非駆動レンジは、車両の停車時に設定し、変速機を固定するパーキングレンジがある。また、駆動機構から車輪への駆動力の伝達を遮断するニュートラルレンジがある。ADCユニット21は、車両の状態に応じた指令値を出力し、これに基づいて変速機182は、シフトポジションの設定と変速状態の制御を実行する。
【0049】
上述したように、平常時の制動制御においては、ADCユニット21からの指令値をVDCユニット22が受信すると、このVDCユニット22と、VDCユニット22により制御されるEBAユニット23によって制動制御が実行され、液圧式摩擦ブレーキにより車両を減速し、電動パーキングブレーキ223を作動して制動状態を維持する。しかしながら、VDCユニット22に異常が発生した場合、たとえばVDCCU221からの入力信号が途絶し、VDCユニット22を制御できない場合や、電動パーキングブレーキ223が故障して作動できない場合には、車両の制動状態を維持することができない。このため、ADCユニット21は、VDCユニット22の異常を検出すると、緊急停止制御MRMを開始する。
【0050】
図5は、制動制御装置20により、緊急停止制御MRMが実行されるシーンを示す。ADCユニット21は、t1においてVDCユニット22の異常状態を検出すると、t2において自車両V1のドライバーにVDCユニット22の異常状態を通知する。異常状態を通知する形態は、特に限定されないが、たとえば自車両V1のインストルメントパネルに設けられたディスプレイ等の提示装置16に、「システム故障が発生しました」などの警告文と、「手動操作してください」などのドライバーによる操作を促す内容を表示してもよい。さらに、これらの表示とともに警告灯を点灯させたり、警報音を発したりして、より強く注意喚起する形態としてもよい。なお、ドライバーに対する異常状態の通知は、本発明に必須の構成ではなく、必要に応じて省略されてもよい。この場合には、ADCユニット21は、t1においてVDCユニット22の異常状態を検出すると、ドライバーの指示がなくても、t3からt5における制動制御を自律的に実行する。
【0051】
ドライバーに対してVDCユニット22の異常状態を通知したのち、ドライバーから所定時間、応答が得られない場合には、ADCユニット21は、緊急停止制御MRMを開始する。これにより、緊急性に応じた制動制御を実行することができる。所定時間は、特に限定されないが、たとえば4秒など、少なくとも異常状態の通知を確認したドライバーにより操作が開始されるまでの時間である。また、応答が得られない場合とは、ドライバーによるハンドル操作や、警報音の消音など、異常状態の通知に対するドライバーからの反応が確認できない場合を含む。このような場合には、ドライバーが自車両V1を操作できない状態に陥っている可能性があり、緊急停止する必要性が高いからである。
【0052】
ADCユニット21は、緊急停止制御MRMを開始すると、t3において液圧式摩擦ブレーキを作動し、自律走行制御機能を維持しつつ自車両V1の減速を開始する。このとき、自車両V1のインストルメントパネルに設けられたディスプレイ等の提示装置16に、「緊急停止制御を開始します」などの内容を通知してもよい。緊急停止制御MRMの開始を通知することで、自車両V1の減速によるドライバーの不安感を軽減することができる。また、ここでドライバーによるハンドル操作などの応答を得られた場合には、緊急停止制御MRMの作動からドライバーによる操作に切り替える構成としてもよい。これにより、緊急停止時により適切な制動制御を実行することができる。
【0053】
ADCユニット21は、t3で自車両V1を減速したのち、t4において自車両V1の停車状態を判定する。たとえば、VDCユニット22の車輪速センサ222や、出力回転軸センサ181の出力値を用いて、車輪速の出力値又は出力回転軸の出力値が0である場合には、車速が検出されない、すなわち停車状態であると判定する。自車両V1が停車状態であると判定した場合には、ADCユニット21は、t5において変速機182を制御してシフトレンジをパーキングポジションに設定する。このように、車輪速の出力値又は出力回転軸の出力値が0になったのちは、液圧式摩擦ブレーキを作動し続けずに変速機182のシフトレンジをパーキングポジションに設定することにより、機械的な負荷を軽減して自車両V1の停車状態を維持することができる。なお、液圧式摩擦ブレーキの作動を解除するタイミングは、シフトレンジをパーキングポジションに設定するのと同時に解除してもよく、シフトレンジをパーキングポジションに設定してから解除してもよい。
【0054】
t4において、VDCCU221からの入力信号が途絶している場合や、車輪速センサ222が故障している場合など、車輪速の出力値が検出不能であるときは、出力回転軸の出力値のみを用いる構成としてもよい。車輪の出力回転軸の検出値が0であるときは、車速が検出されない状態を意味するので、車輪速の出力値が検出不能であっても、出力回転軸の出力値を用いることで、自車両V1の停車状態を判定することができる。
【0055】
さらに、車輪速の出力値は、VDCユニット22の車輪速センサ222により検出された出力値と、EBAユニット23の車輪速センサ232により検出された出力値の、いずれかの出力値を用いる構成としてもよい。これにより、主系統制御ユニットで車輪速の出力値が検出不能であっても、副系統制御ユニットの車輪速の出力値を用いて自車両V1の停車状態を判定することができる。また、車輪速の出力値が、VDCユニット22の車輪速センサ222と、EBAユニット23の車輪速センサ232の、いずれのセンサからも検出不能である場合には、出力回転軸センサ181の出力値を用いればよい。制動制御装置20に広範な異常が発生した場合であっても、自車両V1の状態に応じて適切に停車状態を判定することができる。
【0056】
なお、車両が停車状態でないにもかかわらず、シフトレンジをパーキングポジションに設定すると、変速機182の構成部品が損傷する虞がある。そのため、車輪速の出力値と、出力回転軸の出力値の、いずれもが0であることが好ましい。より好ましくは、VDCユニット22の車輪速センサ222により検出された出力値と、EBAユニット23の車輪速センサ232により検出された出力値と、出力回転軸センサ181により検出された出力値の、いずれもが0であると、停車状態の判定の信頼性が向上する。
【0057】
t4における自車両V1の停車状態の判定には、t3からt4に至るまでの推定時間を用いてもよい。たとえば、t1における自車両V1の車速と、t3で開始した液圧式摩擦ブレーキによる減速度から、自車両V1が停止するまでに要する時間を演算する。演算された時間に、誤差分を考慮した時間を停止推定時刻t4とし、t4に至ると停車状態の判定を行う。停止推定時刻t4に至った時点で、車輪速の出力値又は出力回転軸の出力値を検出して停車状態の判定を行えば、センサからの出力値をモニタし続けなくてよいので、緊急停止時の演算負荷を軽減することができる。また、自車位置検出装置12のGPSユニットなどを用いて、停止推定時刻t4における自車両V1の位置情報から停車状態を確認してもよい。これにより、車輪速の出力値又は出力回転軸の出力値のいずれもが検出不能の場合であっても、停止推定時刻t4における自車両V1の停車状態を判定することができ、状況に応じて適切に自車両V1の停車状態を維持することができる。
【0058】
《制動制御処理》
次に、図6を参照して、本実施形態の制動制御について説明する。図6は、本実施形態の制動制御装置20が実行する制動制御処理の一例を示すフローチャートである。以下に説明する制動制御処理は、制動制御装置20により所定の時間間隔で実行される。また、以下においては、制御装置19の自律走行制御機能により、自律速度制御と自律操舵制御が実行され、自車両がドライバーの設定した速度で車線内を走行するように、自車両の幅員方向における走行位置を制御するレーンキープ制御が行われているものとする。
【0059】
まず、ステップS1にて、VDCユニット22の異常状態が検出されると、ステップS2にて、ADCユニット21は、乗員に対してVDCユニット22の異常状態を検出した旨の通知を出力する。
【0060】
次に、ステップS3にて、ADCユニット21は、緊急停止制御MRMを開始するか否かを判定する。ステップS2にて出力したVDCユニット22の異常状態を検出した旨の通知に対して、たとえばドライバーによるハンドル操作が行われた場合には、緊急停止制御MRMを開始しないで制動制御処理を終了する。これに対して、ドライバーによるハンドル操作が行われない場合など、所定時間、応答が得られない場合には、ステップS4へ進み緊急停止制御MRMを開始する。
【0061】
ステップS5にて、ADCユニット21は、液圧式摩擦ブレーキを作動し、自車両V1の減速を開始する。続くステップS6にて、ADCユニット21は、車輪速センサ222、車輪速センサ232又は出力回転軸センサ181の出力値に基づいて、自車両V1が停車状態であるか否かを判定する。車輪速の出力値又は出力回転軸の出力値が0である場合には、自車両V1は停車状態であると判定し、ステップS7へ進む。これに対して、車輪速の出力値又は出力回転軸の出力値が0でない場合には、所定時間ステップS6を繰り返す。
【0062】
ステップS6の判定の結果、自車両V1は停車状態であると判定された場合には、ステップS7にて、ADCユニット21は、変速機182を制御してシフトレンジをパーキングポジションに設定する。
【0063】
以上の通り、本実施形態の走行制御方法及び走行制御装置1によれば、液圧式摩擦ブレーキ及び電動パーキングブレーキ223を含む車載制動制御装置20からの信号と、車輪速センサ222、車輪速センサ232、出力回転軸センサ181により検出された車輪速の出力値又は出力回転軸の出力値と、に基づいて自律走行制御により制動制御を実行する車両の走行制御方法において、制動制御装置20の異常状態を検出した場合には、自車両V1の減速を開始し、車輪速の出力値又は出力回転軸の出力値が0になったのちは、液圧式摩擦ブレーキを用いずに変速機182のシフトレンジをパーキングポジションに設定する。これにより、緊急停止時に機械的な負荷を軽減して自車両V1の停車状態を維持することができる。
【0064】
また、本実施形態の走行制御方法及び走行制御装置1によれば、車輪速の出力値が検出不能である場合には、出力回転軸の出力値に基づいて、変速機182のシフトレンジをパーキングポジションに設定する。これにより、車輪速の出力値が検出不能であっても、出力回転軸の出力値を用いることで、自車両V1の停車状態を判定することができる。
【0065】
また、本実施形態の走行制御方法及び走行制御装置1によれば、車輪速の出力値と、出力回転軸の出力値のいずれもが0である場合には、変速機182のシフトレンジをパーキングポジションに設定するので、自車両V1の停車状態をより好ましく判定することができる。
【0066】
また、本実施形態の走行制御方法及び走行制御装置1によれば、制動制御装置20は、第1の制動制御装置(VDCユニット)22と、これをバックアップする第2の制動制御装置(EBAユニット)23により制御され、車輪速の出力値は、第1の制動制御装置(VDCユニット)22が備える車輪速センサ222により検出された出力値、又は前記第2の制動制御装置(EBAユニット)23が備える車輪速センサ232により検出された出力値である。これにより、主系統制御ユニットで車輪速の出力値が検出不能であっても、副系統制御ユニットの車輪速の出力値を用いて自車両V1の停車状態を判定することができる。
【0067】
また、本実施形態の走行制御方法及び走行制御装置1によれば、第1の制動制御装置(VDCユニット)22が備える車輪速センサ222により検出された出力値と、第2の制動制御装置(EBAユニット)23が備える車輪速センサ232により検出された出力値のいずれもが検出不能である場合には、出力回転軸の出力値に基づいて、変速機182のシフトレンジをパーキングポジションに設定する。これにより、制動制御装置20に広範な異常が発生した場合であっても、自車両V1の状態に応じて適切に停車状態を判定することができる。
【0068】
また、本実施形態の走行制御方法及び走行制御装置1によれば、第1の制動制御装置(VDCユニット)22が備える車輪速センサ222により検出された出力値と、第2の制動制御(EBAユニット)23ユニットが備える車輪速センサ232により検出された出力値と、出力回転軸の出力値のいずれもが0であるときは、変速機182のシフトレンジをパーキングポジションに設定するので、停車状態の判定の信頼性が向上する。
【0069】
また、本実施形態の走行制御方法及び走行制御装置1によれば、制動制御装置20の異常状態を検出した場合には、自車両V1の乗員に異常状態を検出した旨の通知を出力し、当該通知に対する乗員からの入力に基づいて緊急停止制御を開始するので、緊急性に応じた制動制御を実行することができる。
【0070】
なお、以上に説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0071】
1…走行制御装置
11…センサ
12…自車位置検出装置
13…地図データベース
14…車載機器
15…ナビゲーション装置
16…提示装置
17…入力装置
18a…駆動制御装置
18b…操舵制御装置
19…制御装置
20…制動制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6