(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-25
(45)【発行日】2025-04-02
(54)【発明の名称】ロータリエンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
F02B 53/02 20060101AFI20250326BHJP
F02D 17/04 20060101ALI20250326BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20250326BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20250326BHJP
F02N 11/08 20060101ALI20250326BHJP
【FI】
F02B53/02 Z ZHV
F02D17/04 P
F02D29/06 D
F02D45/00 345
F02D45/00 362
F02N11/08 V
F02N11/08 X
(21)【出願番号】P 2021091084
(22)【出願日】2021-05-31
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹光 考昭
(72)【発明者】
【氏名】戸次 亨弐
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-180381(JP,A)
【文献】特開2014-47746(JP,A)
【文献】特開2004-112942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 53/00
F02D 17/04
F02D 45/00
F02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイドハウジングに開口した吸気ポートを有するロータリエンジンと、
前記ロータリエンジンのシャフトに機械的に接続されたモータと、
前記モータの駆動によって前記ロータリエンジンが始動するよう、前記モータに対する通電制御を行うコントローラと、
前記ロータリエンジンの回転方向に関係する電気信号を、前記コントローラへ出力するセンサと、を備え、
前記コントローラは、前記ロータリエンジンを始動させる際に、前記センサの電気信号に基づいて、前記ロータリエンジンの前記シャフトが所定角度以上、逆回転した後、前記ロータリエンジンが逆回転を所定時間、継続した場合に、前記モータへの通電を停止する、
ロータリエンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のロータリエンジンの制御装置において、
前記コントローラは、前記ロータリエンジンの前記シャフトが、逆回転を開始して70degに至るまでに止まるよう、前記モータへの通電を停止する、
ロータリエンジンの制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のロータリエンジンの制御装置において、
前記所定角度は、逆回転の開始から10msecの間に、5degである、
ロータリエンジンの制御装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のロータリエンジンの制御装置において、
前記所定時間は、5msecである、
ロータリエンジンの制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のロータリエンジンの制御装置において、
前記コントローラは、逆回転の開始から15msec経過時に前記モータへの通電を停止した場合における前記シャフトの回転角度を、前記モータの最大始動トルクと前記ロータリエンジンのイナーシャとから推定し、
前記コントローラはまた、推定した角度が70degを超える場合、前記ロータリエンジンを始動させる前の、前記シャフトの回転位置を、前記モータを使って正回転方向へ変更させる、
ロータリエンジンの制御装置。
【請求項6】
請求項4に記載のロータリエンジンの制御装置において、
前記コントローラは、逆回転の開始から15msec経過時に前記モータへの通電を停止した場合における前記シャフトの回転角度を、前記モータの最大始動トルクと前記ロータリエンジンのイナーシャとから推定し、
前記コントローラはまた、前記シャフトが推定した角度分逆回転をすると、前記ロータリエンジンのサイドシールの端と前記吸気ポートの開口部とが干渉する場合、前記ロータリエンジンを始動させる前の、前記シャフトの回転位置を、前記モータを使って正回転方向へ変更させる、
ロータリエンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、ロータリエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アイドリングストップを行うエンジンが記載されている。このエンジンは、再始動時に、センサがエンジンの逆回転を検知すると、コントローラが、筒内への燃料噴射及び点火を停止する。これにより、エンジンの破損が回避される。
【0003】
特許文献2には、ロータリエンジンが記載されている。このロータリエンジンの吸気ポートは、サイドハウジングに開口している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-47746号公報
【文献】特開2010-174740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ロータリエンジンが逆回転すると、サイドシールの端が、サイドハウジングに形成された吸気ポートの開口部と干渉し、サイドシールが破損してしまう恐れがある。サイドシールの破損は、ロータリエンジンの燃費性能及びエミッション性能を低下させる。ロータリエンジンが逆回転した場合、ロータリエンジンを速やかに停止することが望ましい。
【0006】
ロータリエンジンの逆回転を速やかに止めるためには、シャフトが逆回転したことを速やかに検出することが必要になる。しかしながら、シャフトが逆回転方向に微少角度だけ回転した場合、及び/又は、シャフトが逆回転方向に微少時間だけ回転した場合に、シャフトが逆回転をしたと判定することは、誤判定を招きやすい。
【0007】
ここに開示する技術は、ロータリエンジンの逆回転に伴う破損の抑制と、ロータリエンジンの逆回転の誤判定の抑制と、を両立する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示する技術は、ロータリエンジンの制御装置に係る。このロータリエンジンの制御装置は、
サイドハウジングに開口した吸気ポートを有するロータリエンジンと、
前記ロータリエンジンのシャフトに機械的に接続されたモータと、
前記モータの駆動によって前記ロータリエンジンが始動するよう、前記モータに対する通電制御を行うコントローラと、
前記ロータリエンジンの回転方向に関係する電気信号を、前記コントローラへ出力するセンサと、を備え、
前記コントローラは、前記ロータリエンジンを始動させる際に、前記センサの電気信号に基づいて、前記ロータリエンジンの前記シャフトが所定角度以上、逆回転した後、前記ロータリエンジンが逆回転を所定時間、継続した場合に、前記モータへの通電を停止する。
【0009】
この構成によると、コントローラは、ロータリエンジンの始動の際に、次の条件が成立した場合に、ロータリエンジンが逆回転をしたと判定する。その条件は、ロータリエンジンのシャフトが所定角度以上、逆回転した後、ロータリエンジンが逆回転を所定時間、継続したという条件である。
【0010】
コントローラは、ロータリエンジンの回転に関する情報を、センサの電気信号に基づいて取得する。センサは、ロータリエンジンの回転方向に関係する電気信号を出力する。
【0011】
モータをスタータとして機能させてロータリエンジンを始動させる際に、ロータリエンジンが正回転方向及び逆回転方向に振動する場合がある。始動が生じても、シャフトの回転角度が所定角度未満であれば、コントローラは、ロータリエンジンが逆回転をしたと判定しない。
【0012】
また、センサの電気信号のノイズが、コントローラの誤判定を招く場合もある。ノイズが発生しても、ロータリエンジンが逆回転を所定時間、継続しなければ、コントローラは、ロータリエンジンが逆回転をしたと判定しない。シャフトの回転角度というパラメータと、逆回転を継続する時間というパラメータとの、二つのパラメータが組み合わされた条件に基づいて、コントローラがロータリエンジンの逆回転を判定するため、誤判定が抑制される。
【0013】
そして、前記の条件が成立すれば、コントローラがモータへの通電を停止する。このことによって、サイドシールの端が、サイドハウジングに形成された吸気ポートの開口部と干渉する前に、ロータリエンジンの逆回転を止めることができる。よって、ロータリエンジンの逆回転に起因するロータリエンジンの破損が抑制される。
【0014】
従って、前記の構成によれば、ロータリエンジンの逆回転に伴う破損の抑制と、ロータリエンジンの逆回転の誤判定の抑制と、が両立する。
【0015】
前記コントローラは、前記ロータリエンジンの前記シャフトが、逆回転を開始して70degに至るまでに止まるよう、前記モータへの通電を停止する、としてもよい。
【0016】
運転していたロータリエンジンが停止する場合、作動室の一つが圧縮行程の中期から後期になった状態で、ロータは停止する。モータへの通電が停止し、ロータリエンジンが慣性によって回転している状態において、圧縮行程が、前期、中期、及び、後期へと進行するに従って作動室内の圧力が高まり、そのことがロータリエンジンの回転抵抗になるためである。より具体的に、ロータリエンジンは、おおよそATDC-90degの回転位置で停止する。
【0017】
また、略三角形状のロータを有するロータリエンジンは、ロータ収容室が、長軸を境に、吸気行程及び排気行程の領域と、圧縮行程及び膨張行程の領域とに分けられる。吸気ポートは、吸気行程に対応する領域において、サイドハウジングに開口している。本願発明者らは、ロータリエンジンの逆回転に関して、次のことを見出した。つまり、前述したATDC-90degの回転位置で停止しているロータリエンジンのシャフトが135deg以上逆回転をすれば、サイドシールの端が吸気ポートの開口部と干渉してしまう恐れがある。
【0018】
従って、安全率を考慮して、ロータリエンジンのシャフトが、逆回転を開始してから70degに至るまでに止まるよう、モータへの通電を停止すれば、ロータリエンジンの逆回転に伴う破損が、抑制できる。尚、前記の通り、ロータリエンジンのシャフトは、モータへの通電を停止した後も、慣性によって回転を継続する。慣性による回転継続を含めて、ロータリエンジンのシャフトが、逆回転を開始してから70degに至るまでに止まるよう、モータへの通電は停止される。
【0019】
前記所定角度は、逆回転の開始から10msecの間に、5degである、としてもよい。
【0020】
コントローラは、この条件に基づいて、ロータリエンジンの始動時に発生する振動と、ロータリエンジンのシャフトが逆回転していることとを、区別できる。
【0021】
前記所定時間は、5msecである、としてよい。
【0022】
コントローラは、この条件に基づくことにより、センサの電気信号のノイズの影響を排除して、ロータリエンジンが逆回転していることを判定できる。
【0023】
前記コントローラは、逆回転の開始から15msec経過時に前記モータへの通電を停止した場合における前記シャフトの回転角度を、前記モータの最大始動トルクと前記ロータリエンジンのイナーシャとから推定し、
前記コントローラはまた、推定した角度が70degを超える場合、前記ロータリエンジンを始動させる前の、前記シャフトの回転位置を、前記モータを使って正回転方向へ変更させる、としてもよい。
【0024】
ロータリエンジンの始動時に、モータが逆回転をし、そのモータへの電力供給が15msec継続した後で停止したと仮定した場合に、ロータリエンジンのシャフトが回転する角度は、モータの最大始動トルクと、ロータリエンジンのイナーシャとから算出できる。シャフトの回転角度が70degを超える場合、サイドシールの端が、サイドハウジングに形成された吸気ポートの開口部と干渉してしまう懸念がある。
【0025】
コントローラは、推定したシャフトの回転角度が70degを超える場合、ロータリエンジンを始動させる前の、シャフトの回転位置を、モータを使って正回転方向へ変更させる。こうすることで、ロータリエンジンを始動させる時点における、シャフトの回転位置は、前述したATDC-90degよりも進んでいる。このため、ロータリエンジンの始動時に、シャフトが70degを超えて逆回転しても、サイドシールの端が吸気ポートの開口部に干渉することが抑制される。ロータリエンジンの逆回転に伴う破損の抑制と、ロータリエンジンの逆回転の誤判定の抑制と、が両立する。
【0026】
前記コントローラは、逆回転の開始から15msec経過時に前記モータへの通電を停止した場合における前記シャフトの回転角度を、前記モータの最大始動トルクと前記ロータリエンジンのイナーシャとから推定し、
前記コントローラはまた、前記シャフトが推定した角度分逆回転をすると、前記ロータリエンジンのサイドシールの端と前記吸気ポートの開口部とが干渉する場合、前記ロータリエンジンを始動させる前の、前記シャフトの回転位置を、前記モータを使って正回転方向へ変更させる、としてもよい。
【0027】
前記と同様に、コントローラは、モータが逆回転をし、しかもその逆回転が15msec継続したと仮定した場合の、ロータリエンジンのシャフトの回転角度を推定する。
【0028】
前記の構成とは異なり、コントローラは、ロータリエンジンを始動させる時点におけるシャフトの回転位置に基づいて、推定した角度分、シャフトが逆回転をすると、サイドシールの端と吸気ポートの開口部とが干渉するか否かを判定する。ロータリエンジンは、常に、一定の位置で停止するとは限らないためである。コントローラは、干渉すると判定した場合、シャフトの回転位置を、モータを使って正回転方向へ変更させる。
【0029】
こうすることで、ロータリエンジンを始動させる時点における、シャフトの回転位置は、正回転方向へさらに進んでいる。ロータリエンジンの始動時に、モータへの通電が15msec継続し、その通電の間シャフトが逆回転しても、サイドシールの端が、サイドハウジングに形成された吸気ポートの開口部に干渉することが抑制される。ロータリエンジンの逆回転に伴う破損の抑制と、ロータリエンジンの逆回転の誤判定の抑制と、が両立する。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、前記のロータリエンジンの制御装置は、ロータリエンジンの逆回転に伴う破損の抑制と、ロータリエンジンの逆回転の誤判定の抑制と、を両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、例示的な電動車両の制御システムを示す。
【
図3】
図3は、例示的なロータリエンジンの運転を示す。
【
図4】
図4は、例示的なロータリエンジンのサイドシールと吸気ポートとの干渉状態を示す。
【
図5】
図5は、例示的なバッテリ管理の手順と、例示的なモータ制御の手順とを示す。
【
図6】
図6は、例示的なエンジン制御の手順を示す。
【
図7】
図7は、例示的なエンジン始動の手順を示す。
【
図8】
図8は、例示的な逆回転に関するシミュレーション結果を示す。
【
図9】
図9は、エンジン制御の変形例の手順を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、ロータリエンジンの制御装置の実施形態が、図面を参照しながら説明される。ここで説明されるロータリエンジンの制御装置は、例示である。
【0033】
(電動車両の全体構成)
図1は、電動車両の制御システムを示している。電動車両1は、走行用の走行モータ11を備えている。走行モータ11は、減速機13を介して、駆動輪14、14に、機械的に接続されている。減速機13は、走行モータ11の出力を減速させる。駆動輪14、14に走行モータ11の出力が伝達されると、電動車両1が走行する。
【0034】
電動車両1は、高電圧バッテリ23を備えている。高電圧バッテリ23は、走行用の電力を蓄積する。高電圧バッテリ23は、例えばリチウムイオン電池である。
【0035】
走行モータ11は、第1インバータ21を介して、高電圧バッテリ23に、電気的に接続されている。走行モータ11と第1インバータ21とは、
図1に破線で示すハーネス線を介して電気的に接続され、第1インバータ21と高電圧バッテリ23とは、ハーネス線を介して電気的に接続されている。走行モータ11は、高電圧バッテリ23からの電力供給を受けて力行運転する。走行モータ11はまた、電動車両1の減速時には発電運転をする。第1インバータ21は、走行モータ11の回生電力を、高電圧バッテリ23に供給する。高電圧バッテリ23は、走行モータ11の回生電力によって充電される。
【0036】
電動車両1には、レンジエクステンダ装置30が搭載されている。レンジエクステンダ装置30は、発電用の発電モータ12と、発電モータ12を運転する内燃機関とを備えている。ここに例示する電動車両1において、内燃機関は、ロータリエンジン3である。
【0037】
ロータリエンジン3のシャフトは、発電モータ12に機械的に接続されている。ロータリエンジン3が運転すると、発電モータ12は、発電運転をする。尚、ロータリエンジン3の構成は、後で詳述される。
【0038】
発電モータ12は、第2インバータ22を介して、高電圧バッテリ23に接続されている。発電モータ12と第2インバータ22とは、
図1に破線で示すハーネス線を介して電気的に接続され、第2インバータ22と高電圧バッテリ23とは、ハーネス線を介して電気的に接続されている。第2インバータ22は、発電モータ12の発電電力を、高電圧バッテリ23へ供給する。高電圧バッテリ23は、発電モータ12の発電電力によって充電される。尚、後述するように、発電モータ12は、高電圧バッテリ23からの電力供給を受けて力行運転する場合もある。発電モータ12は、スタータとしても機能する。発電モータ12は、クランキングトルクをロータリエンジン3に付与することによってロータリエンジン3を始動させる。
【0039】
電動車両1は、エンジンECU(Electric Control Unit)25と、モータECU26と、バッテリECU27と、を備えている。エンジンECU25、モータECU26、及び、バッテリECU27はそれぞれ、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラである。各ECUは、中央演算処理装置(Central Processing Unit: CPU)と、メモリと、I/F回路と、を備えている。CPUは、プログラムを実行する。メモリは、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成される。メモリはプログラム及びデータを格納する。I/F回路は、電気信号を入出力する。
【0040】
エンジンECU25、モータECU26、及び、バッテリECU27は、CAN(Car Area Network)通信線28を介して互いに接続されている。エンジンECU25、モータECU26、及び、バッテリECU27は、CAN通信線28を介して、相互に、信号を送信及び受信できる。
【0041】
エンジンECU25は、ロータリエンジン3に対して、二点鎖線で示す信号線を介して、電気的に接続されている。エンジンECU25は、ロータリエンジン3を制御する。エンジンECU25には、エキセン角センサSN1が接続されている。エキセン角センサSN1は、ロータリエンジン3の出力軸であるエキセントリックシャフト35の回転に関係する信号を出力する。エンジンECU25は、エキセン角センサSN1の信号に基づいて、ロータリエンジン3の回転位置の情報を取得できる。
【0042】
エンジンECU25は、機能ブロックとして、エンジン動作点設定部251及びエンジン制御部252を有している。エンジンECU25によるロータリエンジン3の制御の詳細は、後述する。
【0043】
モータECU26は、第1インバータ21及び第2インバータ22に対して、二点鎖線で示す信号線を介して、電気的に接続されている。モータECU26は、第1インバータ21を通じて、走行モータ11を制御する。モータECU26は、第2インバータ22を通じて、発電モータ12を制御する。
【0044】
モータECU26には、アクセル開度センサSN2、車速センサSN3、及び、モータ回転センサSN4が接続されている。アクセル開度センサSN2は、アクセルペダルの踏み込み量に対応する信号を、モータECU26に出力する。車速センサSN3は、電動車両1の速度に対応する信号を、モータECU26に出力する。
【0045】
モータ回転センサSN4は、発電モータ12の回転に関係する信号を、モータECU26に出力する。モータ回転センサSN4は、発電モータ12のシャフトに対して、周方向に異なる複数の位置それぞれに配置されたフォトインタラプタを含んでいる。複数のフォトインタラプタの出力信号の位相が異なるため、モータECU26は、発電モータ12の回転方向、つまり、正回転か、逆回転か、を判断できる。モータECU26はまた、モータ回転センサSN4の信号に基づいて、発電モータ12が機械的に接続された、ロータリエンジン3のエキセントリックシャフト35の回転角度を把握できる。
【0046】
モータ回転センサSN4はまた、走行モータ11の回転に関する信号を、モータECU26に出力する。
【0047】
モータECU26は、機能ブロックとして、発電モータ制御部261及び走行モータ制御部262を有している。発電モータ制御部261は、始動制御部263、発電制御部264、及び、停止位置制御部265を有している。発電モータ制御部261による発電モータ12の制御の詳細は、後述する。
【0048】
走行モータ制御部262は、アクセル開度センサSN2、車速センサSN3及びモータ回転センサSN4の信号に基づいて、走行モータ11を制御する。それによって、電動車両1は、運転者のアクセルペダルの操作に応じた加速又は減速を行う。
【0049】
バッテリECU27には、電圧/電流センサSN5が接続されている。電圧/電流センサSN5は、高電圧バッテリ23の出力電圧及び出力電流に関係する信号を、バッテリECU27に出力する。バッテリECU27は、機能ブロックとして、SOC算出部271及び発電電力算出部272を有している。SOC算出部271は、電圧/電流センサSN5からの信号に基づいて、高電圧バッテリ23のSOC(State Of Charge)を算出する。発電電力算出部272は、高電圧バッテリ23のSOCに基づいて、高電圧バッテリ23の充電が必要な場合、目標の発電量を算出する。
【0050】
モータECU26には、メーターパネルの警告灯41が、電気的に接続されている。警告灯41は、モータECU26からの信号を受けて点灯し、運転者への警告を行う。
【0051】
(ロータリエンジンの構成)
図2は、ロータリエンジン3を例示している。
図2は、ロータリエンジン3を前から見た場合の内部構成を例示している。ロータリエンジン3の前後方向は、エキセントリックシャフト35が軸方向であって、
図2の紙面に直交する方向である。
【0052】
ロータリエンジン3は、一つのロータ34と、ロータ収容室31とを有している。ロータ収容室31は、ロータハウジング32と、サイドハウジング33とによって形成されている。ロータハウジング32は、トロコイド内周面321を有している。ロータ34は、ロータ収容室31に、収容されている。ロータ34は、概略三角形状である。ロータ収容室31は、ロータ34によって、第1室361、第2室362、及び、第3室363の3つの作動室に区画される。
【0053】
エキセントリックシャフト35は、ロータ収容室31を貫通するように設けられている。ロータ34は、エキセントリックシャフト35に対して、遊星回転運動するように支持されている。ロータ34は、三つの頂部がトロコイド内周面321に沿って移動するようにエキセントリックシャフト35の周囲を回転する。
【0054】
図4に拡大して示すように、ロータ34の各頂部には、アペックスシール341が取り付けられている。また、各アペックスシール341の前後両端部には、略円柱状のコーナーシール342が設けられている。さらに、ロータ34の前後両側面には、サイドシール343が設けられている。サイドシール343は、コーナーシール342同士をロータ34の外周縁と略平行に連結する。
【0055】
アペックスシール341は、ロータハウジング32のトロコイド内周面321に当接する。このことによって、アペックスシール341は、作動室の気密を保つ。サイドシール343は、サイドハウジング33に当接する。このことによって、サイドシール343は、作動室の気密を保つ。コーナーシール342は、サイドシール343とアペックスシール341との接合部分の気密を保つ。
【0056】
図2に矢印で示すロータ34の回転に伴い、第1室361、第2室362、及び、第3室363がエキセントリックシャフト35の回りに変移し、第1室361、第2室362、及び、第3室363のそれぞれにおいて吸気、圧縮、膨張、及び排気の各行程が行われる。このことによって発生する回転力が、エキセントリックシャフト35から出力される。
【0057】
より詳細に、ロータ34は、
図2における時計回り方向に回転する。ロータ収容室31は、回転軸心Xを通る長軸Y及び短軸Zにより、左上側領域、右上側領域、右下側領域、及び、左下側領域に分けられる。各作動室は、左上側領域において概ね吸気行程を行い、右上側領域において概ね圧縮行程を行い、右下側領域において概ね膨張行程を行い、左下側領域において概ね排気行程を行う。
【0058】
ロータハウジング32には、インジェクタ37、第1点火プラグ381、及び、第2点火プラグ382が取り付けられている。インジェクタ37は、ロータハウジング32の頂部に取り付けられている。インジェクタ37は、吸気行程中、又は、圧縮行程中の作動室内に燃料を噴射する。
【0059】
第1点火プラグ381は、ロータハウジング32の右側壁部に取り付けられている。第2点火プラグ382も、ロータハウジング32の右側壁部に取り付けられている。第2点火プラグ382は、第1点火プラグ381よりも、ロータ34の進み側に位置している。第1点火プラグ381及び第2点火プラグ382はそれぞれ、圧縮行程中に、作動室内の混合気に点火する。
【0060】
サイドハウジング33には、吸気ポート391及び排気ポート392が開口している。吸気ポート391の開口部は、ロータ収容室31の左上側領域に位置している。吸気ポート391は、サイドハウジング33の内部を、この開口部から水平方向左方に向かって略直線状に延びている。吸気ポート391の開口部は、ロータ34の回転に伴って開閉する。吸気ポート391は、吸気行程中の作動室内に連通する。吸気ポート391は、吸気通路に接続されている。吸気通路には、スロットル弁394が配設されている。スロットル弁394は、ロータリエンジン3に供給する空気量を調整する絞り弁である。
【0061】
排気ポート392の開口部は、ロータ収容室31の左下側領域に位置している。排気ポート392の開口部は、吸気ポート391の開口部の下方に位置している。排気ポート392は、サイドハウジング33の内部を、この開口部から水平方向左方に向かって略直線状に延びている。排気ポート392の開口部は、ロータ34の回転に伴って開閉する。排気ポート392は、排気行程中の作動室内に連通する。
【0062】
図3は、ロータリエンジン3の各作動室の行程の遷移を示している。一つの作動室の一つの行程は、エキセントリックシャフト35が270deg回転する期間に対応する。P31は、第1室が吸気行程の開始タイミングに相当するロータリエンジン3である。P32は、第1室が吸気行程の終了タイミングでかつ、圧縮行程の開始タイミングに相当するロータリエンジン3である。P33は、第1室が圧縮行程の終了タイミングでかつ、膨張行程の開始タイミングに相当するロータリエンジン3である。P33は、第1室の圧縮上死点である。P34は、第1室が膨張行程の終了タイミングでかつ、排気行程の開始タイミングに相当するロータリエンジン3である。P35は、第1室が排気行程の終了タイミングに相当するロータリエンジン3である。P35とP31とは同じである。
【0063】
一つの作動室の、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、及び、排気行程を含む一サイクルは、エキセントリックシャフト35が1080deg回転する期間に対応する。また、第1室361に対し、第2室362は位相が360deg遅れる。第2室362に対し、第3室は位相が360deg遅れる。
【0064】
(電動車両の発電制御)
次に、
図5~
図6を参照しながら、電動車両1の発電制御を説明する。先ず、
図5の左のフローチャートは、バッテリECU27が実行する高電圧バッテリ23の管理手順を示す。
【0065】
先ずスタート後のステップS51において、バッテリECU27のSOC算出部271は、電圧/電流センサSN5の信号に基づいて、高電圧バッテリ23のSOCを算出する。続くステップS52において、バッテリECU27は、算出したSOCが、第1基準SOC1未満であるか否かを判断する。ステップS52がYESの場合、プロセスはステップS53へ進む。バッテリECU27は、高電圧バッテリ23の充電が必要と判断する。ステップS52がNOの場合、プロセスはステップS51へ戻る。
【0066】
ステップS53において、バッテリECU27は、SOCの減少率を算出し、続くステップS54において、バッテリECU27の発電電力算出部272は、算出したSOCの減少率に応じて目標発電量を算出する。バッテリECU27は、減少率が高いほど目標発電量を大にする。
【0067】
目標発電量を算出すれば、バッテリECU27は、ステップS55において、CAN通信線28を通じて、エンジンECU25及びモータECU26のそれぞれに、発電要求を出力する。
【0068】
ステップS56において、バッテリECU27は、エンジンECU25からの情報に基づき、ロータリエンジン3が始動したか否かを判断する。ロータリエンジン3の始動が完了するまで、プロセスはステップS56を繰り返し、ロータリエンジン3の始動が完了すれば、プロセスはステップS57に進む。
【0069】
ロータリエンジン3が始動して、発電モータ12による発電が開始されれば、バッテリECU27のSOC算出部271は、ステップS57において、高電圧バッテリ23のSOCを算出する。続くステップS58において、バッテリECU27は、算出したSOCが、第2基準SOC2を超えた否かを判断する。ステップS58がNOの場合、プロセスはステップS57に戻り、バッテリECU27は、発電を継続させる。ステップS58がYESの場合、プロセスはステップS59に進む。ステップS59において、バッテリECU27は、高電圧バッテリ23の充電が完了したとして、CAN通信線28を通じて、エンジンECU25及びモータECU26のそれぞれに、発電終了を出力する。
【0070】
図5の右のフローチャートは、モータECU26が実行する、発電時の発電モータ12の制御手順を示す。先ずスタート後のステップS510において、モータECU26は、バッテリECU27からの発電要求による発電中であるか否かを判断する。発電中でない場合、プロセスはステップS510を繰り返し、発電中である場合、プロセスはステップS511へ進む。
【0071】
ステップS511において、モータECU26の発電制御部264は、バッテリECU27が算出した目標発電量を読み込み、続くステップS512において、発電制御部264は、目標発電量に基づいて、発電モータ12の動作点を設定する。また、発電制御部264は、ステップS513において、設定した動作点において発電モータ12が動作するよう、第2インバータ22を制御する。
【0072】
ステップS514において、モータECU26の発電制御部264は、発電停止が指示されたか否かを判断する。発電停止が指示されない間、プロセスはステップS513を繰り返す。発電モータ12は、発電運転を継続する。発電停止が指示されれば、プロセスはステップS515へ進む。ステップS515において、発電制御部264は、インバータ制御を停止する。
【0073】
図6は、エンジンECU25が実行する、ロータリエンジン3の制御手順を示す。先ずスタート後のステップS61において、エンジンECU25は、バッテリECU27からの発電要求があったか否かを判断する。発電要求がない場合、プロセスはステップS61を繰り返し、発電要求があった場合、プロセスはステップS62へ進む。
【0074】
ステップS62において、エンジンECU25は、バッテリECU27が算出した目標発電量を読み込み、続くステップS63において、エンジンECU25のエンジン動作点設定部251は、目標発電量に基づいて、ロータリエンジン3の動作点を設定する。また、エンジンECU25のエンジン制御部252は、ステップS64において、設定した動作点においてロータリエンジン3が運転するよう、スロットル弁394の開度及び燃料噴射量を設定する。
【0075】
ステップS65において、エンジン始動制御が実行される。このエンジン始動制御は、発電モータ12をスタータとして用いて実行される。従って、このエンジン始動制御は、後述の通り、エンジンECU25及びモータECU26の協調により実行される。エンジン始動制御の詳細は、
図7を参照しながら後で説明する。
【0076】
ステップS66において、エンジンECU25は、ロータリエンジン3の始動が完了したか否かを判断する。始動が完了していない場合、プロセスはステップS65に戻り、始動が完了した場合、プロセスはステップS67に進む。
【0077】
ステップS67において、エンジンECU25のエンジン制御部252は、ロータリエンジン3を、設定した動作点において運転させる。続くステップS68において、エンジンECU25は、発電停止が指示されたか否かを判断する。発電停止が指示されない間、プロセスはステップS67へ戻り、エンジン制御部252は、ロータリエンジン3の運転を継続する。発電停止が指示されれば、プロセスはステップS68からステップS69へ進む。ステップS69において、エンジンECU25は、ロータリエンジン3を停止する。
【0078】
(ロータリエンジンの始動制御)
図7は、
図6のフローのステップS65における、エンジン始動制御の手順を例示している。発電モータ12は、力行運転及び発電運転の両方を実行するため、その構造上、電力が供給された場合に、逆回転してしまう場合がある。発電モータ12とロータリエンジン3のエキセントリックシャフト35とは、機械的に接続されており、発電モータ12が逆回転をすると、ロータリエンジン3も逆回転する。ロータリエンジン3が逆回転をすると、サイドシール343の端が、サイドハウジング33に形成された吸気ポート391の開口部と干渉して、サイドシール343が破損する恐れがある。
【0079】
図4は、サイドシール343の端と、吸気ポート391の開口部との干渉状態を例示している。サイドシール343は、ロータ34の側面に取り付けられている。サイドシール343は、概略三角形状のロータ34の頂部と頂部とを掛け渡すように、三角形状のロータ34の外周縁に沿って配設されている。
【0080】
ロータリエンジン3が正回転をしている場合の、サイドシール343の先端の軌跡は、
図4の上図に二点鎖線の矢印で例示するように、吸気ポート391の開口部の縁に交差する軌跡にならない。ロータリエンジン3が正回転をしている場合、サイドシール343の先端と吸気ポート391の開口部とは干渉しない。しかしながら、ロータリエンジン3が逆回転をしている場合の、サイドシール343の先端の軌跡は、
図4の上図に一点鎖線の矢印で例示するように、吸気ポート391の開口部の縁に交差する軌跡になる。尚、ロータ34が逆回転をしている場合のサイドシール343の先端は、正回転をしている場合のサイドシール343の先端に対して逆側の端である。
【0081】
図4の下図は、上図のA-A断面図である。
図4の下図に例示するように、ロータ34の側面には、溝344が形成されている。この溝344内に配設されたスプリング345が、サイドシール343をサイドハウジング33の方へ押している。このため、サイドシール343の先端が、吸気ポート391の開口部と重なると、サイドシール343の先端は、スプリング345に押されて吸気ポート391の内方、つまり、
図4の下図において紙面の上方へ突き出る。
【0082】
そのため、ロータ34の逆回転によって、サイドシール343の先端の軌跡が、吸気ポート391の開口部の縁に交差すると、突き出たサイドシール343の先端が、吸気ポート391の開口部の縦壁393に衝突して、サイドシール343が破損する恐れがある。
【0083】
そこで、モータECU26は、ロータリエンジン3の始動時に、ロータ34が大きく逆回転してしまうことを抑制する。
【0084】
尚、ロータ34が正回転をしている場合にも、サイドシール343の後端は、吸気ポート391の開口部と重なると、スプリング345に押されて吸気ポート391の内方へ突き出る。しかしながらこの場合、サイドシール343の後端は、
図4の下図において紙面の左から右へ移動するようになるから、サイドシール343の後端が、吸気ポート391の開口部の縁と衝突することはない。
【0085】
図7のフローに戻り、エンジンECU25は、ステップS71において、これまでにエンジンの始動に関して異常が報知されていないか否かを判断する。ここでの異常は、ロータリエンジン3を始動させる発電モータ12が逆回転をしてしまう異常である。異常が報知されていない場合、プロセスは、ステップS72に進む。異常が報知されている場合、プロセスは終了する。ロータリエンジン3の再始動が中止される。
【0086】
ステップS72において、モータECU26の始動制御部263は、ロータリエンジン3に始動トルクが付与されるよう、第2インバータ22を制御する。
【0087】
ステップS73において、始動制御部263は、モータ回転センサSN4の信号を読み込み、続くステップS74において、モータECU26は、モータ回転センサSN4の信号に基づいて、発電モータ12と機械的に接続されたエキセントリックシャフト35が、発電モータ12の逆回転に伴って逆回転すると共に、エキセントリックシャフト35が、逆回転の開始から、10msecの間に5deg以上、逆回転をしたか否かを判定する。10msecの間に5deg以上、逆回転をしたというモータ回転センサSN4の出力信号は、単なる振動の発生ではないことを意味する。つまり、10msecの間に5deg以上、逆回転をしたという出力信号は、発電モータ12が逆回転をし、それに伴い、ロータリエンジン3も逆回転をしていることを意味している。この判定条件が採用されることによって、モータECU26は、ロータリエンジン3の逆回転に関する誤判定を抑制できる。
【0088】
ステップS74の判定がNOの場合、発電モータ12及びロータリエンジン3が逆回転をしていないため、プロセスはステップS78へ進む。一方、ステップS74の判定がYESの場合、発電モータ12及びロータリエンジン3が逆回転をしている可能性があるため、プロセスはステップS75へ進む。
【0089】
ステップS75において、始動制御部263は、モータ回転センサSN4の出力信号に基づいて、発電モータ12及びロータリエンジン3が、10msecの間に5deg以上、逆回転をした上に、さらに、逆回転が5msec継続をしたか否かを判定する。逆回転がさらに5msec継続をしたというモータ回転センサSN4の出力信号は、センサの電気信号のノイズの影響を排除して、発電モータ12及びロータリエンジン3が、実際に逆回転をしていることの判定を可能にする。
【0090】
ステップS75の判定がNOの場合、発電モータ12及びロータリエンジン3が共に、逆回転をしていないと判断できるため、プロセスはステップS78へ移行する。ステップS78において、始動制御部263は、ロータリエンジン3の始動が完了したか否かを判断する。始動が完了していない場合、プロセスはステップS73に戻る。始動が完了した場合、プロセスはステップS77に進む。
【0091】
一方、ステップS75の判定がYESの場合、発電モータ12及びロータリエンジン3が共に、逆回転をしていると判断できるため、プロセスはステップS76へ移行する。
【0092】
ステップS76において始動制御部263は、メーターパネルの警告灯41を通じて、運転者に対して異常を報知する。続くステップS77において、モータECU26は、第2インバータ22を停止して、発電モータ12を停止させる。
【0093】
ここで、ステップS74及びステップS75の判定によって、発電モータ12及びロータリエンジン3は、逆回転を開始してから、少なくとも15msecが経過している。第2インバータ22から発電モータ12への電力供給は、15msecの経過後に停止される。ロータリエンジン3は、電力供給の停止後も、慣性によって逆回転を継続する。
【0094】
このロータリエンジン3において、始動前のロータ34の回転位置は、
図3のP37に例示するように、作動室の一つが圧縮行程の中期の状態である。これは、ロータリエンジン3の停止直前に、慣性によって回転している状態において、P32、P36及びP37と、圧縮行程が、前期、中期、及び、後期へと進行するに従って作動室内の圧力が高まり、そのことがロータリエンジン3の回転抵抗になるためである。より具体的に、ロータリエンジン3は、おおよそATDC-90degの回転位置で停止する。尚、
図3においてTDCは、540degである。
【0095】
この位置から、エキセントリックシャフト35が135deg逆回転をすると、サイドシール343の端が吸気ポート391の開口部に干渉する。サイドシール343の端と吸気ポート391の開口部との干渉を確実に避けようとすれば、安全率を考慮して、発電モータ12への電力供給の停止後に、慣性によってロータリエンジン3が逆回転を継続したとしても、エキセントリックシャフトが、135degの約半分の70degだけ逆回転をした位置までに停止させることが好ましい。
【0096】
図8は、電力供給を停止するタイミングを変更した場合の、エキセントリックシャフト35が停止する回転位置を算出したシミュレーション結果を例示している。
図8の縦軸はエキセントリックシャフト35の角度である。縦軸のゼロは、ロータリエンジン3の始動前のエキセントリックシャフト35の角度である(
図3のP37参照)。マイナスの角度は、逆回転の方向の角度を示している。角度-135degは、前述の通り、サイドシール343の端と吸気ポート391の開口部とが干渉する角度である。角度-70degは、エキセントリックシャフト35の目標の停止位置である。また、
図8の横軸は時間である。横軸のゼロは、発電モータ12の逆回転が開始したタイミングである。時間は
図8の左から右へ進行する。
【0097】
図8の二点鎖線は、発電モータ12が逆回転を開始した後、発電モータ12への電力供給を中止しなかった例である。発電モータ12及びロータリエンジン3は、10msecの間に5deg逆回転をする。その後も、発電モータ12へ電力が供給される。この場合、エキセントリックシャフト35の角度が-135degを超えるため、サイドシール343の端と吸気ポート391の開口部とが干渉する。
【0098】
図8の一点鎖線は、発電モータ12が逆回転を開始して、10msecの間に5deg逆回転をし、さらに10msecだけ発電モータ12への電力供給を継続した後で、発電モータ12への電力供給を中止した例である。ロータリエンジン3は、20msec経過後、慣性によって逆回転を継続する。この場合、エキセントリックシャフト35は、おおよそ-90degまで回転する。エキセントリックシャフト35は、目標の停止角度を超えてしまう。
【0099】
図8の実線は、発電モータ12が逆回転を開始して、10msecの間に5deg逆回転をし、さらに5msecだけ発電モータ12への電力供給を継続した後で、発電モータ12への電力供給を中止した例である。この条件は、
図7のフローのステップS74及びステップS75の条件に対応する。この場合、エキセントリックシャフト35は、おおよそ-50degまで回転する。エキセントリックシャフト35は、目標の停止角度を超えない。
【0100】
図8の破線は発電モータ12が逆回転を開始して、10msecの間に5deg逆回転をした後で、発電モータ12への電力供給を中止した例である。この条件は、
図7のフローのステップS75を省略した条件に対応する。この場合、エキセントリックシャフト35は、おおよそ-20degまで回転する。エキセントリックシャフト35は、目標の停止角度を超えない。しかしながら、ステップS75を省略することによって、モータ回転センサSN4のノイズの影響を受けて、モータECU26は、誤判断をしてしまう恐れがある。
【0101】
発電モータ12への電力供給を早期に停止すれば、エキセントリックシャフト35の逆回転が早期に止まるため、サイドシール343と吸気ポート391の開口部との干渉が回避できる。しかしながら、モータECU26は、誤判断をする恐れがある。
図8のシミュレーション結果によれば、発電モータ12への電力供給を、15msecの間、継続しても、サイドシール343と吸気ポート391の開口部との干渉が回避できる。換言すれば、モータECU26は、15msecの時間を、逆回転の判定に利用できる。15msecの時間を、逆回転の判定に利用することによって、モータECU26は、ロータリエンジンの逆回転に伴う破損の抑制と、ロータリエンジンの逆回転の誤判定の抑制と、を両立させることができる。
【0102】
また、エキセントリックシャフト35が10msecの間に5deg逆回転をする場合、ロータリエンジン3の始動の際に振動が発生したことと、発電モータ12及びロータリエンジン3が実際に逆回転したこととを、モータECU26は、区別できる。
【0103】
従って、
図7のステップS74とステップS75との二つの条件を組み合わせることによって、モータECU26は、誤判定を抑制しながら、サイドシール343の端がサイドハウジング33に形成された吸気ポート391の開口部と干渉する前に、ロータリエンジン3の逆回転を止めることができる。
【0104】
(エンジン制御の変形例)
図7のフローチャートのステップS74及びステップS75の条件は、所定の発電モータ12の最大始動トルクと、所定のロータリエンジン3のイナーシャとに基づいて設定される条件である。発電モータ12のスペック、及び/又は、ロータリエンジン3のスペックが変わると、同じ時間だけ発電モータ12に通電を行っても、慣性による回転を含めたエキセントリックシャフト35の逆回転の角度が大きくなり得る。ステップS74及びステップS75の条件に従って発電モータ12への電力供給を停止しても、サイドシール343の端と吸気ポート391の開口部とが干渉してしまう恐れがある。
【0105】
図9のフローは、モータスペック及び/又はエンジンスペックに応じて、ロータリエンジン3の停止位置を調整するエンジン制御に関係する。先ず、スタート後のステップS91において、モータECU26の停止位置制御部265は、ロータリエンジン3が停止したか否かを判断する。エンジンが停止していない場合、プロセスはステップS91を繰り返す。エンジンが停止した場合、プロセスはステップS92へ移行する。
【0106】
ステップS92において停止位置制御部265は、モータスペック及び/又はエンジンスペックから、逆回転の開始から15msecの間、発電モータ12への電力供給を継続し、その後、発電モータ12への電力供給を停止した場合における、エキセントリックシャフト35の回転角度αを推定する。モータスペックには、発電モータ12の最大始動トルクが含まれ、エンジンスペックには、ロータリエンジン3のイナーシャが含まれる。また、回転角度αには、ロータリエンジン3の慣性による回転が含まれる。
【0107】
そして、ステップS93において、停止位置制御部265は、推定した角度αが、70degを超えるか否かを判定する。70degを超えない場合、
図7のフローチャートのステップS74及びステップS75の条件に従って発電モータ12への電力供給を停止すれば、エキセントリックシャフト35は70deg未満で停止すると予想できる。プロセスは、ロータリエンジン3の停止位置の補正を行わずに、ステップS93からリターンする。
【0108】
一方、ステップS93において、停止位置制御部265が、推定した角度αが、70degを超えると判定した場合、
図7のフローチャートのステップS74及びステップS75の条件に従って発電モータ12への電力供給を停止すると、エキセントリックシャフト35は70degを超えて停止すると予想できる。エキセントリックシャフト35が目標位置で停止しないため、停止位置制御部265は、ロータリエンジン3の停止位置を補正する。具体的に、プロセスはステップS93からステップS94へ移行し、停止位置制御部265は、発電モータ12を力行運転させることによって、停止しているロータリエンジン3の回転位置を、α-70degだけ、正回転の方へ進める。ロータリエンジン3の回転位置は、
図3のP37よりも正回転の方向へと変わる。その結果、次回のロータリエンジン3の始動時に、発電モータ12が逆回転をしたとしても、モータECU26は、
図7のフローチャートに従って、サイドシール343の端と吸気ポート391の開口部とが干渉するまでに、エキセントリックシャフト35の逆回転を止めることができる。
【0109】
(エンジン制御の第2変形例)
図10のフローチャートは、様々なモータスペック及び/又はエンジンスペックに対応できる、エンジン制御に係る。先ずスタート後のステップS101において、モータECU26の停止位置制御部265は、エンジンECU25からエンジン回転位置情報を取得する。続くステップS102において、停止位置制御部265は、ステップS101において取得したエンジン回転位置情報に基づいて、ロータリエンジン3と発電モータ12との相対位置関係を確定する。ロータリエンジン3のエキセントリックシャフト35と発電モータ12とは、機械的に接続されているため、ロータリエンジン3が運転しかつ、発電モータ12が発電をしている最中に確認した、ロータリエンジン3の回転位置と発電モータ12の回転位置との相対位置関係は、ロータリエンジン3の停止後においても変わらない。従って、相対位置関係の確定後、モータECU26は、モータ回転センサSN4の出力信号のみに基づいて、ロータリエンジン3及び発電モータ12の回転位置を取得することができる。
【0110】
ステップS103において、モータECU26は、ロータリエンジン3が停止したか否かを判断する。モータECU26は、例えばモータ回転センサSN4の出力信号のみに基づいて、ロータリエンジン3が停止したことを判断できる。ステップS103の判断がNOの場合、プロセスはステップS103を繰り返し、ステップS103の判断がYESの場合、プロセスはステップS104へ移行する。
【0111】
ステップS104において、モータECU26は、ロータリエンジン3が停止する際の、モータ回転センサSN4の出力信号に基づいて、ロータリエンジン3の停止位置を確認する。ロータリエンジン3の回転数が低下するエンジン停止直前には、エンジンECU25は、エキセン角センサSN1の信号に基づいてロータリエンジン3の回転位置を精度良く把握することが難しい。エンジンECU25のサンプリング周波数は、相対的に低いためである。これに対し、モータECU26のサンプリング周波数は、相対的に高い。予め確定させた、ロータリエンジン3の回転位置と発電モータ12の回転位置との相対位置関係と、モータ回転センサSN4の信号とに基づき、モータECU26は、エンジン停止直前であっても、ロータリエンジン3の回転位置を精度良く把握できる。
【0112】
ステップS105において、停止位置制御部265は、モータスペック及び/又はエンジンスペックから、逆回転の開始から15msecの間、発電モータ12への電力供給を継続し、その後、発電モータ12への電力供給を停止した場合における、ロータ34の角度βを推定する。エキセントリックシャフト35の角度αが推定されるステップS82とは異なり、モータECU26は、ロータ34の角度βを推定する。
【0113】
続くステップS106において、モータECU26は、ステップS104において確認をしたロータリエンジン3の停止位置とエンジンスペックとに基づいて、その停止位置における、サイドシール343の端と吸気ポート391の開口部との間の角度γを算出する。角度γは、発電モータ12が逆回転をした場合に、サイドシール343の端と吸気ポート391の開口部とが干渉に至るまでの許容角度に相当する。
【0114】
そして、ステップS107において、モータECU26は、ステップS105で推定した角度βが、ステップS96で算出した角度γの半分よりも大きいか否かを判定する。ここで、γ/2とする理由は、前述した135degの約半分の70degを、目標の停止位置に設定することに対応させるためである。ステップS107の判定がNOの場合、
図7のフローチャートのステップS74及びステップS75の条件に従って発電モータ12への電力供給を停止すれば、サイドシール343の端と吸気ポート391の開口部との干渉が回避できる。プロセスは、ロータリエンジン3の停止位置の補正を行わずに、ステップS107からリターンする。
【0115】
ステップS107において、モータECU26が、推定した角度βが、γ/2を超えると判定した場合、
図7のフローチャートのステップS74及びステップS75の条件に従って発電モータ12への電力供給を停止すると、サイドシール343の端と吸気ポート391の開口部とが干渉すると予想できる。そこで、モータECU26は、ロータリエンジン3の停止位置を補正する。具体的に、プロセスはステップS107からステップS108へ移行し、モータECU26は、発電モータ12を使って、ロータリエンジン3の回転位置を、β-γ/2だけ、正回転の方へ進める。これにより、その結果、次回のロータリエンジン3の始動時に、発電モータ12が逆回転をしたとしても、モータECU26は、
図7のフローチャートに従って、サイドシール343の端と吸気ポート391の開口部との干渉を抑制できる。
【0116】
尚、前述した各フローは、ステップの順番を定めているとは限らない。ステップの順番は、可能な範囲で、入れ替えることができ、複数のステップの処理が、同時に実行できる場合もある。また、各フローにおいて、一部のステップを省略することができ、新たなステップを追加することもできる。
【0117】
また、
図1に示すシステムは一例であり、ここに開示する技術が適用可能なシステムは、
図1のシステムに限定されない。また、ここに開示する技術は、ロータリエンジンの制御システムに広く適用が可能であり、ロータリエンジンの構造は、
図2の構造に限定されない。
【符号の説明】
【0118】
12 発電モータ
26 モータECU(コントローラ)
3 ロータリエンジン
33 サイドハウジング
343 サイドシール
35 エキセントリックシャフト
391 吸気ポート
SN4 モータ回転センサ