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特許7655133制御装置、工作システム、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-25
(45)【発行日】2025-04-02
(54)【発明の名称】制御装置、工作システム、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/4093 20060101AFI20250326BHJP
   B23Q 15/00 20060101ALI20250326BHJP
   G05B 19/42 20060101ALI20250326BHJP
   B25J 9/10 20060101ALI20250326BHJP
   B23Q 35/12 20060101ALI20250326BHJP
【FI】
G05B19/4093 F
B23Q15/00 301J
G05B19/42 H
B25J9/10 A
B23Q35/12 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021126252
(22)【出願日】2021-07-30
(65)【公開番号】P2023020723
(43)【公開日】2023-02-09
【審査請求日】2024-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】前田 高志
(72)【発明者】
【氏名】桂川 俊太郎
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-266269(JP,A)
【文献】特開昭61-230807(JP,A)
【文献】特開2012-232396(JP,A)
【文献】特開平6-31664(JP,A)
【文献】特開2018-81487(JP,A)
【文献】特開昭56-45352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18 - 19/46
B23Q 15/00
B23Q 35/00 - 35/48
G05B 19/42
B25J 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具を用いて被加工ワークを目標形状に加工する工作機械の動作を制御する制御装置において、
力の検出値を補正するためのフィルタと工具とを関連付けて記憶する記憶部と、
目標形状を有するマスターワークに前記工作機械が用いる工具が接触することによって生じる力を検出する検出部と、
該検出部が検出した力の検出値を、前記工具に関連付けて前記記憶部に記憶してあるフィルタを用いて補正する補正部と、
該補正部が補正した検出値を用いて、被加工ワークの加工時に前記工具が辿る加工経路を求める経路生成部と
を備えることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記工作機械が用いる工具の径、刃数、及び前記加工時の移動速度に基づいてカットオフ周波数を求める演算部を更に備え、
前記記憶部は前記フィルタとしてノッチフィルタを記憶しており、
前記補正部は、前記演算部が求めたカットオフ周波数のノッチフィルタを用いて前記検出部が検出した力の検出値を補正する第一補正部を有することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
カットオフ周波数の補正値を取得する取得部を更に備え、
前記演算部は、前記工作機械が用いる工具の径、刃数、及び前記移動速度に基づいて求めた周波数を前記取得部が取得した補正値で補正したカットオフ周波数を求めることを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
複数の周波数の何れかを選択するための選択部を更に備え、
前記記憶部は前記フィルタとしてローパスフィルタを記憶しており、
前記補正部は、前記選択部により選択した周波数を上限とするローパスフィルタを用いて前記検出部が検出した力の検出値を補正する第二補正部を有することを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
工具を用いて被加工ワークを目標形状に加工する工作機械と、
該工作機械の動作を制御する制御装置と
を有する工作システムにおいて、
力の検出値を補正するためのフィルタと工具とを関連付けて記憶する記憶部を有し、
前記制御装置は、
目標形状を有するマスターワークに前記工作機械が用いる工具が接触することによって生じる力を検出する検出部と、
該検出部が検出した力の検出値を、前記工具に関連付けて前記記憶部に記憶してあるフィルタを用いて補正する補正部と、
該補正部が補正した検出値を用いて、被加工ワークの加工時に前記工具が辿る加工経路を求める経路生成部と
を備えることを特徴とする工作システム。
【請求項6】
工具を用いて被加工ワークを目標形状に加工する工作機械の動作を制御する制御装置で実行可能なプログラムであって、
目標形状を有するマスターワークに前記工作機械が用いる工具が接触することによって生じる力を検出し、
力の検出値を補正するためのフィルタと工具とを関連付けて記憶する記憶部から、前記工作機械が用いる工具に対応する前記フィルタを取得し、
検出した力の検出値を、取得したフィルタを用いて補正し、
補正した検出値を用いて、被加工ワークの加工時に前記工具が辿る加工経路を求める
処理を前記制御装置に実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御装置、工作システム、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
工作システムは工作機械と制御装置とを備え、工具を用いて被加工ワークを目標形状に加工する。工具は刃を有し、回転しながら被加工ワークに接触することにより被加工ワークに切削加工を施す。
【0003】
特許文献1に記載の仕上げ加工装置(工作システム)は、加工ツール(工具)が所定の力で被加工ワークに接触するように力制御を行なうと共に、加工ツールが所与の加工経路を辿るように倣い制御を行なう。仕上げ加工装置は、力制御及び倣い制御による加工ツールの実際の移動経路と、目標形状のCADデータに基づく所与の移動経路とを比較し、比較結果に基づいてバリを検出し、検出したバリを加工ツールで除去するための切削パスパターン(加工経路)を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-58961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、目標形状を有するマスターワークを用いて制御装置が加工経路を求めることがある。制御装置は工具がマスターワークに接触しながら所定の速度で移動し、且つ工具がマスターワークに接触することによって生じる力が一定になるように加工経路を求める。
【0006】
工作機械は工具を回転駆動するモータを備えるが、加工経路の生成中はモータが工具を回転駆動しない。ただし、マスターワークとの接触によって工具が自然に回転するので、工具の刃がマスターワークに接触する。刃はマスターワークに引っかかりやすいので、工具がマスターワークに接触することによって生じる力の検出値には、刃に起因する誤差が含まれる。誤差を含む検出値に基づいて加工経路を求めた場合、被加工ワークの加工精度が悪化する虞がある。また、プローブ等の測定用工具を用いることで精度良く加工経路を求めることが考えられるが、測定用工具を加工用工具とは別に用意する必要があることに加え、実際に加工する工具とは工具径や工具長が異なることが多いため、その補正が必要となる。
【0007】
本開示の目的は、測定用工具を必要とせずに被加工ワークの加工精度を向上させることができる制御装置、工作システム、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る制御装置は、工具を用いて被加工ワークを目標形状に加工する工作機械の動作を制御する制御装置において、力の検出値を補正するためのフィルタと工具とを関連付けて記憶する記憶部と、目標形状を有するマスターワークに前記工作機械が用いる工具が接触することによって生じる力を検出する検出部と、該検出部が検出した力の検出値を、前記工具に関連付けて前記記憶部に記憶してあるフィルタを用いて補正する補正部と、該補正部が補正した検出値を用いて、被加工ワークの加工時に前記工具が辿る加工経路を求める経路生成部とを備えることを特徴とする。
【0009】
本開示にあっては、検出部が力を検出する。この力は工作機械が用いる工具がマスターワークに接触することによって生じる力である。検出部による検出値には工具の刃に起因する誤差が含まれる。工具の刃がマスターワークに周期的に接触する場合、工具の刃に起因する誤差には周期性があると考えられる。
【0010】
補正部は検出部による検出値を補正する。補正の際、補正部は工作機械が用いる工具に関連付けて記憶部が記憶しているフィルタを用いる。この結果、検出部による検出値から誤差を除去することができる。経路生成部は補正部が補正した検出値を用いて加工経路を求める。誤差を含まない検出値に基づいて加工経路を求めた場合、被加工ワークの加工精度を向上させることができる。実際に用いる工具を工作機械に装着した状態で加工経路を求めることができるので、測定用工具が不要である。
【0011】
本開示に係る制御装置は、前記工作機械が用いる工具の径、刃数、及び前記加工時の移動速度に基づいてカットオフ周波数を求める演算部を更に備え、前記記憶部は前記フィルタとしてノッチフィルタを記憶しており、前記補正部は、前記演算部が求めたカットオフ周波数のノッチフィルタを用いて前記検出部が検出した力の検出値を補正する第一補正部を有することを特徴とする。
【0012】
本開示にあっては、工作機械が用いる工具の径、刃数、及び被加工ワークの加工時の移動速度に基づいて、演算部がカットオフ周波数を求める。工具が棒状をなし、工具の径が工具の軸長方向に一定であり、且つ工具の刃数を数えることが容易である場合、工具の刃がマスターワークに接触する周期を求めることができる。求めた周期に対応する周波数成分は工具の刃に起因する誤差であると考えられる。補正部は、演算部が求めたカットオフ周波数のノッチフィルタを用いて、検出部による検出値を補正する。
【0013】
本開示に係る制御装置は、カットオフ周波数の補正値を取得する取得部を更に備え、前記演算部は、前記工作機械が用いる工具の径、刃数、及び前記移動速度に基づいて求めた周波数を前記取得部が取得した補正値で補正したカットオフ周波数を求めることを特徴とする。
【0014】
本開示にあっては、取得部がカットオフ周波数の補正値を取得する。演算部は、工作機械が用いる工具の径、刃数、及び被加工ワークの加工時の移動速度に基づいて求めた周波数を取得部が取得した補正値で補正したカットオフ周波数を求める。
工具に関するパラメータから機械的に求めたカットオフ周波数を適切に補正することにより、演算部が求めるカットオフ周波数が実際の誤差の周波数に近づくので、検出部による検出値から誤差を確実に除去することができる。
【0015】
本開示に係る制御装置は、複数の周波数の何れかを選択するための選択部を更に備え、前記記憶部は前記フィルタとしてローパスフィルタを記憶しており、前記補正部は、前記選択部により選択した周波数を上限とするローパスフィルタを用いて前記検出部が検出した力の検出値を補正する第二補正部を有することを特徴とする。
【0016】
本開示にあっては、選択部により選択した周波数を上限とするローパスフィルタを用いて、補正部が検出部による検出値を補正する。
工具の径が工具の軸長方向に変化するか、又は工具の刃数を数えることが困難である場合、工具に関するパラメータからカットオフ周波数を求めることはできない。しかしながら、刃に起因する誤差が高周波成分であることが実験的に分かっているので、ローパスフィルタにより、検出部による検出値から誤差を除去することができる。
【0017】
本開示に係る工作システムは、工具を用いて被加工ワークを目標形状に加工する工作機械と、該工作機械の動作を制御する制御装置とを有する工作システムにおいて、力の検出値を補正するためのフィルタと工具とを関連付けて記憶する記憶部を有し、前記制御装置は、目標形状を有するマスターワークに前記工作機械が用いる工具が接触することによって生じる力を検出する検出部と、該検出部が検出した力の検出値を、前記工具に関連付けて前記記憶部に記憶してあるフィルタを用いて補正する補正部と、該補正部が補正した検出値を用いて、被加工ワークの加工時に前記工具が辿る加工経路を求める経路生成部とを備えることを特徴とする。
【0018】
本開示にあっては、制御装置が検出部と補正部と経路生成部とを備え、記憶部を用いることにより、測定用工具を必要とせずに被加工ワークの加工精度を向上させることができる。
【0019】
本開示に係るプログラムは、工具を用いて被加工ワークを目標形状に加工する工作機械の動作を制御する制御装置で実行可能なプログラムであって、目標形状を有するマスターワークに前記工作機械が用いる工具が接触することによって生じる力を検出し、力の検出値を補正するためのフィルタと工具とを関連付けて記憶する記憶部から、前記工作機械が用いる工具に対応する前記フィルタを取得し、検出した力の検出値を、取得したフィルタを用いて補正し、補正した検出値を用いて、被加工ワークの加工時に前記工具が辿る加工経路を求める処理を前記制御装置に実行させることを特徴とする。
【0020】
本開示にあっては、制御装置が本開示に係るプログラムを実行することにより、測定用工具を必要とせずに被加工ワークの加工精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本開示の制御装置、工作システム、及びプログラムによれば、測定用工具を必要とせずに被加工ワークの加工精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施の形態に係る工作システムの外観斜視図である。
図2】工作機械の略示斜視図である。
図3】主軸ユニットの縦断面図である。
図4】制御装置及び力覚センサ等を示すブロック図である。
図5】マスターワークの略示平面図である。
図6】工具が開始点に接触したマスターワークの略示部分拡大平面図である。
図7】工具情報記憶部が記憶しているデータの一例を示す模式図である。
図8】フィルタ準備処理の手順を示すフローチャートである。
図9】加工経路生成処理の手順を示すフローチャートである。
図10】工具からマスターワークへの力の大きさの時間変化を示す特性図である。
図11】工具からマスターワークへの力の大きさの時間変化を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の実施の形態について説明する。以下の説明では図において矢符で示す上下前後左右を使用する。左右方向はX方向に対応し、前後方向はY方向に対応し、上下方向はZ方向に対応する。
【0024】
図1は実施の形態に係る工作システムの外観斜視図である。図中1は工作システムであり、工作システム1はカバー2、工作機械3、及び制御装置4を備える。
カバー2は上下に延びた直方体をなし、前面部2a、右面部2b、左面部2c、後面部2d及び上面部2eを備える。カバー2は工作機械3を前後左右及び上側から覆う。前面部2aに開閉扉21が設けてある。右面部2b及び左面部2cに透明な窓22が設けてある。上面部2eは平面視三角形状の支持板2fを備える。
工作機械3は保持台31を備える。保持台31の上面は図示しない被加工ワーク又はマスターワーク61(後述する図5及び図6参照)を保持する。
【0025】
図2は工作機械3の略示斜視図である。図2にて保持台31の記載を省略する。
工作機械3は三つの立柱32を備える。三つの立柱32はカバー2(図1参照)の内側にて上下方向に延びる。三つの立柱32は、平面視にて約120度の位相間隔を空けて、保持台31の周囲に配置してある。三つの立柱32は支持板2fの三つの角部に夫々隣接する。三つの立柱32の上部は支持板2fの角部に連結板320を介して連結する。図1にて立柱32の上部及び連結板320の記載を省略する。
【0026】
各立柱32の保持台31側の側面に軌道321が設けてある。軌道321は上下方向に延びる。軌道321に移動部322と駆動機構(不図示)を設け、駆動機構はボールねじ機構等で構成する。駆動機構に動力を供給するモータ323は立柱32の上端部に設ける。モータ323の駆動によって、移動部322は軌道321に沿って上下方向に移動する。モータ323は上面部2eの上に設け、且つカバー2の外側に位置する(図1参照)。
【0027】
工作機械3はモータ33及び減速機34を備える。モータ33及び減速機34は支持板2fの上に設けてある(図1参照)。
工作機械3は主軸ユニット5を備える。主軸ユニット5は保持台31の上側に配置してある。主軸ユニット5は、上下に延びたボールスプライン35を介して減速機34に連結する。モータ33の回転は減速機34で減速後、ボールスプライン35に伝達する。ボールスプライン35は軸回りに回転する。
【0028】
主軸ユニット5は各立柱32に対向する。主軸ユニット5と移動部322とは、平行な二つのリンク36で連結する。リンク36は棒状をなす。二つのリンク36の一端部は主軸ユニット5の第一ハウジング51に回転可能な継手361を介して連結する。二つのリンク36の他端部は移動部322に継手361を介して連結する。継手361は自在継手等である。三つの移動部322の上下位置が変化することにより、主軸ユニット5は上下前後左右に移動する。
【0029】
図3は主軸ユニット5の縦断面図である。
主軸ユニット5は円錐台形の第一ハウジング51を備える。第一ハウジング51は小径側を上方に向け、大径側を下方に向けて配置する。第一ハウジング51の下面全体は開口する。第一ハウジング51の下縁部にリンク36が連結する(図2参照)。
【0030】
第一ハウジング51の下面開口に第二ハウジング52が設けてある。第二ハウジング52は、内部が空洞の円柱状をなし、上下方向を軸方向にして配置してある。第二ハウジング52の上縁部は第一ハウジング51の下縁部内側に配置してある。第二ハウジング52の上縁部と第一ハウジング51の下縁部との間にクロスローラベアリング53が設けてある。クロスローラベアリング53は第二ハウジング52を回転可能に支持する。第二ハウジング52は上下軸回りに回転する。第一ハウジング51及び第二ハウジング52の上下方向に延びる中心軸は同じ位置にある。以下、第一ハウジング51及び第二ハウジング52の中心軸をC軸と称する。
【0031】
第二ハウジング52の周面部の一部が、径方向外側に且つ斜め下向きに突出している。以下、この突出した部分を突出部521と称する。突出部521の下端は開口している。突出部521と第二ハウジング52の周面部とのなす角は鋭角であり、例えば約30度である。突出部521の下端に第一アーム54が設けてある。第一アーム54は筒状のハウジング541を備える。ハウジング541の上端部は突出部521に連結し、ハウジング541は突出部521から斜め下向きに延びる。
【0032】
ハウジング541の下端部側面に開口55が形成してある。開口55の周縁部に第二アーム56が連結する。第二アーム56はアーム部561及び支持筒562を備える。アーム部561は棒の中央を曲げたような形状を有し、ハウジング541に平行な方向に延びる第一部分56aと、第一部分56aに交差する方向に延びる第二部分56bとを備える。第一部分56aの一端部と第二部分56bの一端部は一体的に連結する。第一部分56aの他端部は開口55の周縁部に、図に示すA軸回りに回転可能に連結する。A軸及びC軸の内角は90°未満であり、例えば約60°である。第二部分56bの他端部に支持筒562が設けてある。
【0033】
支持筒562は支持筒562の軸線とC軸とが一致するように配置してある。支持筒562にモータ563(後述する図4参照)及び主軸(不図示)が収納してある。主軸の下端部に円柱状の工具11が装着してある。工具11は支持筒562から下方に突出し、工具11の軸線とC軸とは一致する。工具11の先端はC軸及びA軸の交点に位置する。支持筒562に収納したモータ563は主軸に動力を供給し、主軸及び工具11はC軸回りに回転する。支持筒562は力覚センサ12を収納する。力覚センサ12は、工具11に作用した力の大きさ及び方向を検出する。
【0034】
第一ハウジング51は切替機構511を収納する。第一ハウジング51の外側にエアシリンダ512が取り付けてある。エアシリンダ512はロッド(不図示)を有する。第一ハウジング51及び第二ハウジング52は、第一伝達機構57を収納する。第一ハウジング51、第二ハウジング52及びハウジング541は第二伝達機構58を収納する。
【0035】
エアシリンダ512が有するロッドの移動によって切替機構511はボールスプライン35の回転の伝達先を第一伝達機構57又は第二伝達機構58に切り替える。第一伝達機構57はボールスプライン35の回転を第二ハウジング52に伝達する。第二伝達機構58は第一部分56aの他端部に連結し、ボールスプライン35の回転を第二アーム56に伝達する。なお切替機構511は第一伝達機構57及び第二伝達機構58の何れにも回転を伝達しない中立状態に切り替えることもできる。
【0036】
切替機構511がボールスプライン35の回転の伝達先を第一伝達機構57に切り替えた場合、第二ハウジング52、第一アーム54及び第二アーム56は、C軸回りに回転する。このとき第二アーム56はA軸回りに回転しない。切替機構511がボールスプライン35の回転の伝達先を第二伝達機構58に切り替えた場合、第二アーム56は、A軸回りに回転する。このとき第二ハウジング52、第一アーム54及び第二アーム56はC軸回りに回転しない。
【0037】
図4は、制御装置4及び力覚センサ12等を示すブロック図である。
制御装置4はモータ323及びエアシリンダ512等の駆動を制御することにより、工具11を用いて被加工ワークを目標形状に加工する。工具11は刃を有し、支持筒562に収納してあるモータ563に駆動され、回転しながら被加工ワークに接触することにより被加工ワークに切削加工を施す。
制御装置4は被加工ワークの加工を行なう前に、目標形状を有するマスターワーク61(図5参照)を用いて、被加工ワークの加工時に工具11が辿る加工経路を生成する。
【0038】
制御装置4は制御部41、主記憶部42、及び補助記憶部43を備え、これらはバスを介して相互に接続してある。制御部41はCPU、MPU、GPU等の1又は複数のプロセッサを含む。主記憶部42は揮発性を有し、例えばRAMである。補助記憶部43は不揮発性を有し、例えばEEPROM、フラッシュメモリ、ハードディスク、又はSSDである。補助記憶部43は、制御装置4の動作を制御するためのプログラム4P、及びプログラム4Pの実行に必要な各種のデータを予め記憶している。プログラム4P(プログラム製品)には加工経路を生成する加工経路生成プログラム、被加工ワークを加工する加工プログラムが含まれている。補助記憶部43の記憶領域の一部は、後述する情報記憶部431である。
【0039】
制御部41は、主記憶部42を作業領域として用い、補助記憶部43が記憶しているプログラム4Pに従って、各種の演算処理及び制御処理等を実行する。例えば、制御部41は工具11がマスターワーク61に接触しながら所定の送り速度Vで移動し、且つ工具11がマスターワーク61に接触することによって生じる力が一定になるように加工経路を求める。送り速度Vとは被加工ワークを加工する際の工具11の移動速度である。
【0040】
補助記憶部43にはCD-ROM又はフラッシュメモリ等の持ち運び可能な記録媒体62に記憶したプログラム4P又はデータが格納してあってもよく、ネットワークを介してサーバから受信したプログラム4P又はデータが格納してあってもよい。
なお情報記憶部431は制御装置4が備える構成に限定しない。情報記憶部431は、例えばネットワークを介して制御装置4と通信するサーバが備えてもよい。
【0041】
力覚センサ12は工具11に作用した力の方向及び大きさを示す信号を制御装置4に出力する。モータ323はエンコーダ13を有する。エンコーダ13はモータ323の位置を示す信号を制御装置4に出力する。制御装置4は力覚センサ12及びエンコーダ13からの入力に基づき、加工経路生成処理を実行する。
【0042】
工作システム1は表示部14及び操作部15を備える。表示部14及び操作部15は、例えばカバー2の外面に設けてある。表示部14は画像を表示する。操作部15は複数の操作キーを有する。作業者は、表示部14が表示する画像を見ながら操作部15の操作キーを操作することにより、被加工ワークの加工若しくは加工経路の生成に必要な指令又はデータ等を制御装置4に与える。
【0043】
図5はマスターワーク61の略示平面図である。なお、本実施例ではXY平面での加工経路生成方法について記述するが、平面を指定することでXY平面に限らず3次元空間上での任意の平面での加工経路生成を行なうことができる。
加工経路生成処理を行なう場合、作業者はマスターワーク61を保持台31に設置し、加工経路の開始点S及び終了点Eを設定する。作業者は手動で工具11を操作し、マスターワーク61の2つの所望の位置夫々に接触させる。制御部41は工具11が接触した位置、即ち開始点S及び終了点Eの前後左右上下位置を補助記憶部43に記憶する。本実施の形態では開始点Sよりも右側に終了点Eが設けてある。
【0044】
本実施の形態における制御装置4は、マスターワーク61の第一位置に付与する力の方向及び大きさを取得する。制御装置4は、第一位置に付与する力の方向及び大きさに基づいて、第一位置から第二位置への工具11の送り方向、第一位置から第二位置までの工具11の送り量、第二位置にて工具11がマスターワーク61に接近する距離、即ち押付量を自動的に求める。
【0045】
ここで、第一位置は工具11の現在位置であり、第一位置にある工具11はマスターワーク61に接触している。工具11の送り方向は、第一位置に付与する力の方向に直交する方向である。工具11の送り量は、工具11が送り方向に移動する量である。第二位置は、第一位置から送り方向に送り量だけ離れた位置である。送り量は十分に小さい。第二位置にて工具11がマスターワーク61に接近する距離とは、第一位置に付与する力の方向における第二位置での工具11の押付量である。
【0046】
図6は工具11が開始点Sに接触したマスターワーク61の略示部分拡大平面図である。図6のP(tk )は時点tk における工具11のマスターワーク61への接触位置である。V軸は、時点tk において工具11が接触位置にてマスターワーク61に付与する力の方向を示す軸である。V軸はマスターワーク61側を正側とする。U軸はV軸に直交する軸であって、工具11の送り方向を示す軸である。本実施の形態では、工具11は右側に移動するので、U軸は右側を正とする。
【0047】
時点tk における工具11のマスターワーク61への接触位置P(tk )から次の時点tk+1 における位置P(tk+1 )への移動の場合、P(tk )は第一位置に対応し、送り量だけ離れた位置が第二位置、そこから押付量を加味したP(tk+1 )が目標位置に対応する。例えば開始点Sは時点t0 における第一位置に対応し、時点t1 におけるP(t1 )は目標位置に対応する。
【0048】
第一位置P(tk )にて制御部41は力覚センサ12の検出値を取得する。制御部41は力覚センサ12の検出値が示す方向に基づき、工具11が第一位置P(tk )に付与する力f(tk )の方向、即ちV軸の方向の情報を求める。制御部41は力覚センサ12の検出値が示す力の大きさに基づき、工具11が第一位置P(tk )に付与する力f(tk )の大きさを求める。加工経路生成処理における力覚センサ12は、マスターワーク61に工具11が接触することによって生じる力を検出する検出部として機能する。
【0049】
制御部41は力f(tk )の大きさと目標値fd (tk )との差分を求める。目標値fd (tk )はV軸方向における力の目標値であり、補助記憶部43に予め記憶してある。制御部41は、求めた差分に係数κを乗じて、V軸方向における位置偏差量ΔPfd(tk )を求める。係数κは補助記憶部43に予め記憶してある。V軸方向における位置偏差量ΔPfd(tk )は、工具11が現在位置から次の位置に向かう場合におけるV軸方向の移動距離である。制御部41は、U軸方向と同一方向で補助記憶部43に予め記憶してある送り量nとなるよう位置偏差量ΔPd (tk )を求める。例えば、U軸の単位ベクトルに送り量nを乗算して位置偏差量ΔPd (tk )を求める。ただし、送り量nはU軸方向と同一方向でなくてもよい。その場合、V軸方向における位置偏差量ΔPfd(tk )にU軸方向の成分が含まれ、U軸方向における位置偏差量ΔPd (tk )にV軸方向の成分が含まれることになる。前述した他軸の成分を含む位置偏差量(ΔPfd(tk )、ΔPd (tk ))に対して該他軸の成分を削除したものがV軸方向誤差Ferr 、U軸方向誤差Perr である。U軸方向における位置偏差量ΔPd (tk )は、工具11が現在位置から次の位置に向かう場合におけるU軸方向の移動距離である。
【0050】
制御部41は、下記式1を用いて、V軸方向の誤差であるV軸方向誤差Ferr を求める。
【0051】
【数1】
ここで、RはXY座標系からUV座標系への変換行列であり、R=(v(tk ),u(tk ))である。R-1は、UV座標系からXY座標系への変換行列であり、R-1=(v(tk ),u(tk ))T である。なお、v(tk )はV軸方向における単位ベクトルを表し、u(tk )はU軸方向における単位ベクトルを表す。
【0052】
制御部41は、下記式2を用いて、U軸方向の誤差であるU軸方向誤差Perr を求める。
【0053】
【数2】
【0054】
制御部41はV軸方向誤差Ferr に対して、PID制御を用いて第一制御量を求める。PID制御は一般的なフィードバック制御方法である。第一制御量は位置P(tk )でのV軸方向における工具11の押付量に対応する。またU軸方向誤差Perr に対して、制御部41はPID制御を用いて第二制御量を求める。第二制御量はU軸方向における第一位置P(tk )から位置P(tk+1 )への工具11の送り量に対応する。制御部41は第一制御量及び第二制御量を夫々独立して求める(即ち、ハイブリッド制御に基づいて求める)。ハイブリッド制御とは、位置と力夫々の制御方向において、夫々の方向における制御量を互いに独立して制御することをいう。なお、必ずしもPID制御で第一制御量及び第二制御量を算出する必要はなく、例えば、V軸方向誤差Ferr を第一制御量、U軸方向誤差Perr を第二制御量としてもよい。制御部41は第一制御量及び第二制御量を加算し、XY座標系の合成制御量、即ち目標位置を求める。
【0055】
目標位置の演算後、制御部41は目標位置まで工具11を送り速度Vで移動する。作業者は加工経路の生成開始前に操作部15を操作することにより送り速度Vを制御装置4に与える。
制御部41は、位置P(tk )から次の位置P(tk+1 )への移動においても同様の演算処理を行なうことにより、工具11の目標位置を求め、求めた目標位置まで工具11を移動する。この場合、位置P(tk )は第一位置に対応し、位置P(tk+1 )は目標位置に対応する。
以上のような目標位置の演算を繰り返し実行することにより、制御部41は加工経路を生成する。
【0056】
第一位置から第二位置まで工具11はマスターワーク61に接触しながら移動する。加工経路の生成中に工具11の回転駆動を行なうことはない。しかしながら、マスターワーク61との接触によって工具11が自然に回転するので、工具11の刃がマスターワーク61に接触する。刃はマスターワーク61に引っかかりやすいので、力覚センサ12の検出値には、刃に起因する誤差が含まれる。誤差を含む検出値に基づいて加工経路を求めた場合、被加工ワークの加工精度が悪化する虞があるので、誤差を除去する必要がある。
【0057】
図7は情報記憶部431が記憶しているデータの一例を示す模式図である。
情報記憶部431は、力の検出値を補正するためのフィルタと工具11とを関連付けて記憶する記憶部である。情報記憶部431には、工具11を識別するための識別情報と、工具の種類とが互いに関連付けて記憶してある。情報記憶部431は、工具11の識別情報に関連付けて、工具11の工具径及び刃数の少なくとも一方を記憶するか、又は両方とも記憶しない。
【0058】
情報記憶部431は、工具径及び刃数を両方とも記憶している工具11の識別情報に関連付けて、ノッチフィルタを表わす関数(以下、単にノッチフィルタという)を記憶している。情報記憶部431は、ノッチフィルタを記憶している工具11の識別情報に関連付けて、後述するオフセット値(図中「F」)を記憶していることがある。
情報記憶部431は、工具径及び刃数の少なくとも一方を記憶していない工具11の識別情報に関連付けて、ローパスフィルタを表わす関数(以下、単にローパスフィルタという)を記憶している。情報記憶部431は、ローパスフィルタを記憶している工具11の識別情報に関連付けて、複数の周波数(図中「f1 ,f2 ,f3 」)を記憶する。例えば複数の周波数は全ての工具11に共通である。
【0059】
表示部14は複数の周波数を表示し、作業者は操作部15を操作することにより複数の周波数の何れか一つを選択する。このとき操作部15は実施の形態における選択部として機能する。なお、表示部14が表示する選択肢は、複数の周波数の数値そのものに限定することなく、例えば複数の周波数の大きさを示す情報(「大」「中」「小」)でもよい。情報記憶部431は、作業者が選択した周波数に関連付けて、作業者が選択したことを示すフラグ(図中「* 」)を記憶する。
【0060】
図8はフィルタ準備処理の手順を示すフローチャートである。
制御部41は、工具11の識別情報及び送り速度Vを受け付ける(S11)。S11において、制御部41が表示部14の動作を制御することにより、表示部14は工具11の識別情報及び送り速度Vを受け付けるための画像を表示する。作業者は、表示部14が表示する画像を見ながら操作部15を操作することにより、工具11の識別情報及び送り速度Vを制御装置4に与える。
工具11の識別情報及び送り速度Vを受け付けた制御部41は、情報記憶部431を参照し、受け付けた識別情報に関連付けて、工具11の工具径及び刃数の両方を情報記憶部431が記憶しているか否かを判定する(S12)。
【0061】
工具11の工具径及び刃数の両方を記憶している場合(S12でYES)、制御部41は、情報記憶部431がS11で受け付けた識別情報に関連付けて記憶している工具径及び刃数を読み出す(S13)。
【0062】
工具11におけるマスターワーク61と接触する位置の工具径及び工具11の刃数を知ることが容易である場合、工具11の刃がマスターワーク61に接触する周期を求めることができる。例えば工具11の工具径がφn[mm]、刃数がm[枚]である場合、工具11の周長はnπ[mm]なので、工具11がnπ/m回転する都度、工具11の刃がマスターワーク61に接触して誤差の原因となる。送り速度がV[mm/min]=V/60[mm/sec]のとき、nπ/m[mm]÷V/60[mm/sec]=60nπ/mV[sec.]毎に力覚センサ12の検出値に誤差が生じる。故にカットオフ周波数がmV/60nπ[Hz]のノッチフィルタを用いることにより、力覚センサ12の検出値から誤差を除去する。
【0063】
S13の処理終了後、制御部41は、S11で受け付けた識別情報に関連付けて情報記憶部431がオフセット値を記憶しているか否かを判定する(S14)。図7に示す情報記憶部431の場合、S14における制御部41は、オフセット値の欄が実数Fを記憶しているときはYESと判定し、オフセット値の欄が「-」を記憶しているときはNOと判定する。
【0064】
情報記憶部431がオフセット値を記憶していない場合(S14でNO)、制御部41は、S11で受け付けた送り速度V並びにS13で読み出した工具径がφn及び刃数mに基づいて、カットオフ周波数mV/60nπを求める(S15)。制御部41は、S15の処理で求めたカットオフ周波数を、S11で受け付けた識別情報に関連付けて主記憶部42に書き込み(S16)、フィルタ準備処理を終了する。
【0065】
情報記憶部431がオフセット値を記憶している場合(S14でYES)、制御部41は、S15の処理と同様にカットオフ周波数mV/60nπを求め、主記憶部42に書き込む(S17)。工具11によってはS17で求めたカットオフ周波数から多少ずれた周波数で誤差が生じることが経験的に分かっている。作業者は操作部15を操作することにより、制御部41がフィルタ準備処理を実行する前に、誤差分をオフセット値として情報記憶部431に与える。
【0066】
制御部41は、情報記憶部431よりオフセット値を読み出し(S18)、読み出したカットオフ周波数をS17で求めたカットオフ周波数に加減算する(S19)。ただし、オフセット値を加減算するかどうかを作業者が加工プログラムで指定してもよく、また、作業者が加工プログラムでカットオフ周波数を直接指定してもよい。
【0067】
S19の処理終了後、制御部41は、処理をS16に移して、S19の処理で求めたカットオフ周波数を、S11で受け付けた識別情報に関連付けて主記憶部42に書き込み、フィルタ準備処理を終了する。
S15における制御部41は、実施の形態における演算部として機能する。S18における制御部41は実施の形態における取得部として機能し、S17,S19における制御部41は実施の形態における演算部として機能する。S19で用いるオフセット値はカットオフ周波数の補正値として機能する。
【0068】
工具11におけるマスターワーク61と接触する位置の工具径が算出困難、又は工具11の刃数を数えることが困難である場合、工具11に関するパラメータからカットオフ周波数を求めることはできない。しかしながら、刃に起因する誤差が高周波成分であることが実験的に分かっている。そこで、工具11の工具径及び刃数の少なくとも一方を記憶していない場合(S12でNO)、制御部41は、作業者が選択したことを示すフラグに関連付けて情報記憶部431が記憶している周波数を読み出す(S21)。図7の場合、制御部41は周波数「f2 」を読み出す。
【0069】
制御部41は、情報記憶部431を参照してローパスフィルタを読み出し(S22)、S21で読み出した周波数が代入されたローパスフィルタを、S11で受け付けた識別情報に関連付けて主記憶部42に書き込み(S23)、フィルタ準備処理を終了する。
【0070】
図9は加工経路生成処理の手順を示すフローチャートである。
制御部41は、主記憶部42が記憶しているフィルタを演算する(S31)。フィルタ準備処理のS12でYESだった場合、S31における制御部41は、フィルタ準備処理のS16の処理で主記憶部42に書き込んだカットオフ周波数を読み出し、読み出したカットオフ周波数に基づきノッチフィルタを演算する。フィルタ準備処理のS12でNOだった場合、S31における制御部41は、フィルタ準備処理のS23の処理で主記憶部42が記憶したローパスフィルタを読み出す。
制御部41は工具11の開始点Sへの移動処理を行なう(S32)。S32における制御部41がモータ323及びエアシリンダ512等の駆動を制御することにより、工具11が開始点Sに移動する。
【0071】
制御部41は力覚センサ12の検出値を取得し(S33)、取得した検出値を、S31で読み出したフィルタで補正する(S34)。
【0072】
図10及び図11は工具11からマスターワーク61への力の大きさの時間変化を示す特性図である。
図10及び図11に示す横軸は時間を表わす。縦軸は力の大きさを表わす。V軸方向の力の大きさは太い実線で示してある。U軸方向の力の大きさは破線で示してある。V軸及びU軸双方に垂直な方向の力の大きさは細い実線で示してある。
図10A及び図11Aに示す力の大きさは、力覚センサ12の検出値から得た値である。図10B及び図11Bに示す力の大きさは、フィルタによる補正後の値である。
【0073】
図10図7に示す識別情報「N1」の如き工具11に関する。図10Aを見れば分かるように、検出値の波形が周期的に乱れている。図10Bはノッチフィルタによる補正後の値を示す。図を見れば、ノッチフィルタが波形の乱れを除去したことが分かる。
図11図7に示す識別情報「L1」の如き工具11に関する。図11Aを見れば分かるように、検出値の波形は高周波のノイズを含んでいる。図11Bはローパスフィルタによる適用後の値を示す。図を見れば、ローパスフィルタが高周波のノイズを除去したことが分かる。
【0074】
制御部41はS34で補正した検出値に基づいて力f(tk )の大きさを求めると共に、力f(tk )の方向(即ちV軸)を求める(S35)。
制御部41は、S35で求めたV軸に基づき、V軸と直交するU軸を演算し(S36)、第一制御量及び第二制御量、即ち押付量及び送り量を求める(S37)。制御部41は第一制御量及び第二制御量を加算し、合成制御量、即ち目標位置を求め、求めた目標位置を補助記憶部43に書き込む(S38)。
【0075】
制御部41は工具11の目標位置への移動処理を行なう(S39)。フィードバック制御によって、工具11は目標位置まで移動する。工具11の移動終了後、制御部41はエンコーダ13から工具11の現在位置を取得し(S40)、工具11が終了点Eにあるか否か判定する(S41)。なお、制御部41は、エンコーダ13から取得した工具11の現在位置と、終了点Eの位置との差分が所定値以下である場合、工具11が終了点Eにあると判断する。所定値は補助記憶部43に予め記憶してある。
【0076】
工具11が終了点Eにない場合(S41でNO)、制御部41はS33に処理を戻し、再び力覚センサ12の検出値を取得する。工具11が終了点Eにある場合(S41でYES)、制御部41は加工経路生成処理を終了する。
S33~S41の処理を繰り返す間にS38にて補助記憶部43が記憶した一連の目標位置が、制御部41が生成した加工経路である。
【0077】
S34における制御部41は、実施の形態における補正部として機能する。S31における制御部41がノッチフィルタを演算した場合、S34における制御部41は第一補正部として機能する。S31における制御部41がローパスフィルタを演算した場合、S34における制御部41は第二補正部として機能する。
S38における制御部41は、実施の形態における経路生成部として機能する。
【0078】
以上のような制御装置4によれば、力覚センサ12の検出値から誤差を除去することができる。誤差を含まない検出値に基づいて加工経路を求めるので、求めた加工経路に基づいて工具11の動作を制御した場合、測定用工具を必要とせずに被加工ワークの加工精度を向上させることができる。
【0079】
作業者が制御装置4に与えたオフセット値に基づいて生成した加工経路が不適切である場合、作業者は制御装置4に新たなオフセット値を入力し、制御部41は再びフィルタ準備処理の実行からやり直す。加工経路の適否は所与の基準に基づいて制御部41が判定してもよく、作業者が判断してもよい。同様に、作業者が選択した周波数に基づいて生成した加工経路が不適切である場合、作業者は改めて他の周波数を選択し、制御部41は再びフィルタ準備処理の実行からやり直す。
【0080】
本実施の形態では力覚センサ12が力の大きさ及び方向を検出しているが、これに限定することなく、例えば各モータ323に作用するトルクを検出し、検出したトルクに基づいて制御部41が力の大きさ及び方向を算出してもよい。この場合、制御部41が検出部として機能する。
工具11の工具径及び刃数は作業者が制御装置4に与えてもよい。制御装置4は送り速度Vを予め有していてもよい。
加工経路の生成手順は上述した手順に限定しない。
【0081】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲と均等の意味及び特許請求の範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0082】
1 工作システム
11 工具
12 力覚センサ(検出部)
3 工作機械
4 制御装置
4P プログラム
41 制御部(補正部,経路生成部,演算部,第一補正部,取得部,第二補正部)
431 情報記憶部(記憶部)
61 マスターワーク
図1
図2
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図5
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図7
図8
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図10
図11