(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-25
(45)【発行日】2025-04-02
(54)【発明の名称】細胞培養器具
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20250326BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20250326BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M3/00 A
(21)【出願番号】P 2021206725
(22)【出願日】2021-12-21
【審査請求日】2023-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼城 誠太郎
(72)【発明者】
【氏名】日野 清香
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-208283(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0009390(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0215940(US,A1)
【文献】関東化学株式会社 [オンライン], 2017 [検索日 2024.10.16], インターネット:<URL:https://www.sns-kk.co.jp/category/new_product/pdf/cf77222b46526a18a6e86d2df86b1ad5.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12M 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養器具であって、
本体円筒部と、前記本体円筒部の開口端部に配置された培養膜と、を有する円筒部材と、
前記本体円筒部に装着される円筒の被覆部材であって、(i)前記円筒部材に装着された場合、
少なくとも前記開口端部の外周を全周に亘って覆う第1円筒部と、(ii)前記被覆部材の軸方向について前記第1円筒部と隣接し、前記円筒部材に装着された場合、前記培養膜を底面とする容器を形成する第2円筒部と、を有す
る被覆部材と、を備え、
前記第1円筒部は、前記軸方向における長さが第1長さである第1部分と、前記長さが前記第1長さよりも短い第2長さである第2部分とを有
し、
前記被覆部材は、前記円筒部材とは別体であり、
前記第1円筒部の端面は、楕円形状を有し、前記第1円筒部の中心軸に対して傾斜している、細胞培養器具。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞培養器具であって、
前記第1円筒部の内径は、前記第2円筒部の内径よりも大きく、前記被覆部材は、さらに、
前記第1円筒部の内周面と前記第2円筒部の内周面との境界に、前記第1円筒部の内径と前記第2円筒部の内径の違いにより形成された段差部を有する、細胞培養器具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の細胞培養器具であって、
前記被覆部材は、可撓性を有し、
前記第1円筒部の径方向の厚みは、前記第2円筒部の径方向の厚みよりも薄い、細胞培養器具。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の細胞培養器具であって、
前記本体円筒部の内径と、前記第2円筒部の内径とは、同じである、細胞培養器具。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の細胞培養器具であって、さらに、
前記第2円筒部の外周面に周方向に延びる溝部を有する、細胞培養器具。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の細胞培養器具であって、
前記被覆部材を複数備え、
前記複数の被覆部材を保持する保持部を備える、細胞培養器具。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の細胞培養器具であって、さらに、
前記第2円筒部を挟むための把持器具であって、前記第2円筒部を把持した場合、前記第2円筒部を挟んで径方向に対向し、前記第2円筒部の外周面に沿った把持内面を有する一対の把持部を有する把持器具を備える、細胞培養器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細胞培養器具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞培養用膜の両面での細胞培養が行われている。そこで、両面培養を行うための細胞培養装置が提案されている(例えば、特許文献1、非特許文献1)。非特許文献1の細胞培養装置では、細胞培養用膜の両面のうち、インサートの外側を向く面で細胞培養を行うために、インサートの外側に円筒形状のオプションリングが装着される。オプションリングはピンセットを用いて着脱される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】「関東化学株式会社|製品情報|ad-MEDビドリゲル(登録商標)2」、[online]、[令和3年11月9日検索]、インターネット<URL:https://products.kanto.co.jp/web/index.cgi?c=t_product_table&pk=55>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1に記載のオプションリングでは、インサートへのオプションリングの着脱が困難な場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
本開示の一形態によれば、細胞培養器具が提供される。この細胞培養器具は、本体円筒部と、前記本体円筒部の開口端部に配置された培養膜と、を有する円筒部材と、前記本体円筒部に装着される円筒の被覆部材であって、(i)前記円筒部材に装着された場合、少なくとも前記開口端部の外周を全周に亘って覆う第1円筒部と、(ii)前記被覆部材の軸方向について前記第1円筒部と隣接し、前記円筒部材に装着された場合、前記培養膜を底面とする容器を形成する第2円筒部と、を有する被覆部材と、を備え、前記第1円筒部は、前記軸方向における長さが第1長さである第1部分と、前記長さが前記第1長さよりも短い第2長さである第2部分とを有し、前記被覆部材は、前記円筒部材とは別体であり、前記第1円筒部の端面は、楕円形状を有し、前記第1円筒部の中心軸に対して傾斜している。
【0007】
(1)本開示の一形態によれば、細胞培養器具が提供される。この細胞培養器具は、本体円筒部と、前記本体円筒部の開口端部に配置された培養膜と、を有する円筒部材と、前記本体円筒部に装着される円筒の被覆部材であって、(i)前記円筒部材に装着された場合、前記本体円筒部の外周面を覆う第1円筒部と、(ii)前記被覆部材の軸方向について前記第1円筒部と隣接し、前記円筒部材に装着された場合、前記培養膜を底面とする容器を形成する第2円筒部と、を有する被覆部材と、を備え、前記第1円筒部は、前記軸方向における長さが第1長さである第1部分と、前記長さが前記第1長さよりも短い第2長さである第2部分と、を有する。この形態によれば、第1円筒部は、長さが互いに異なる第2部分と第1部分とを有する。このため、本体円筒部の中心軸に対して被覆部材の中心軸を傾けて、第1部分より先に第2部分を円筒部に接触させた姿勢から、被覆部材の中心軸が円筒部の中心軸と平行となるように、第2部分付近を支点として、被覆部材を動かすことにより、被覆部材を円筒部材に装着することができる。この装着方法によれば、被覆部材の内周面のうち、被覆部材を動かす過程で円筒部材の外周面と摺れ合う範囲は、第1部分周辺の内周面の一部に限られる。よって、周方向に亘って、軸方向の長さが同じ被覆部材が装着される場合と比較して、装着時の被覆部材の内周面と円筒部材の外周面との摩擦が生じる範囲を少なくすることができる。このため、被覆部材の着脱に要する力を軽減できるため、容易に着脱でき、作業性を向上させることができる。
(2)上記形態の細胞培養器具において、前記第1円筒部の内径は、前記第2円筒部の内径よりも大きく、前記被覆部材は、さらに、前記第1円筒部の内周面と前記第2円筒部の内周面との境界に、前記第1円筒部の内径と前記第2円筒部の内径の違いにより形成された段差部を有してもよい。この形態によれば、円筒部材に被覆部材を装着する場合に、円筒部材の開口端部を段差部に当接させることができるため、容易に位置決めすることができる。
(3)上記形態の細胞培養器具において、前記被覆部材は、可撓性を有し、前記第1円筒部の径方向の厚みは、前記第2円筒部の径方向の厚みよりも薄くてもよい。この形態によれば、培養膜を底面とする容器として使用される場合の安定性を維持しつつ、良好な可撓性を有する第1円筒部によって、円筒部材に容易に着脱することができる。
(4)上記形態の細胞培養器具において、前記本体円筒部の内径と、前記第2円筒部の内径とは、同じであってもよい。この形態によれば、培養膜の両面に細胞培養する場合に、細胞が培養される面積を両面で揃えることができる。
(5)上記形態の細胞培養器具において、細胞培養器具は、前記第2円筒部の外周面に周方向に延びる溝部を有してもよい。この形態によれば、器具を用いて円筒部材を着脱する場合に、器具の先端を溝部に引っ掛けることができるため、円筒部材を安定して把持することができる。
(6)上記形態の細胞培養器具において、細胞培養器具は、前記被覆部材を複数備え、前記複数の被覆部材を保持する保持部を備えてもよい。この形態によれば、複数の被覆部材を複数の円筒部材に同時期に装着することができる。また、被覆部材に触れることなく、保持部を手で持ち、被覆部材を動かすことができるため、細胞培養工程におけるコンタミネーションを抑制することができる。
(7)上記形態の細胞培養器具において、さらに、前記第2円筒部を挟むための把持器具であって、前記第2円筒部を把持した場合、前記第2円筒部を挟んで径方向に対向し、前記第2円筒部の外周面に沿った把持内面を有する一対の把持部を有する把持器具を備えてもよい。この形態によれば、一対の把持部の把持内面を第2円筒部の外周面に沿わせることができるため、把持器具を用いて円筒部材を安定して把持することができる。
なお、本開示は、種々の形態で実現することが可能であり、上記形態の他に、細胞培養方法などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図5】被覆部材の円筒部材への装着方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
A1.細胞培養器具の構成:
図1は、細胞培養器具100の斜視図である。
図2は、細胞培養器具100の断面図である。
図3は、被覆部材50が円筒部材10に装着された装着状態における細胞培養器具100の断面図である。
図4は、把持器具80の斜視図である。
図5は、被覆部材50の円筒部材10への装着方法を説明する図である。
図1から
図3および
図5では、互いに直交する、X軸と、Y軸と、Z軸とを示している。細胞培養器具100は、典型的には、Z方向が鉛直方向と沿うように配置されて使用される。X軸,Y軸,Z軸の矢印が向いている方向は、それぞれX軸,Y軸,Z軸に沿った正の方向を示している。X軸,Y軸,Z軸に沿った正の方向を、それぞれ+X方向,+Y方向,+Z方向とする。X軸,Y軸,Z軸の矢印が向いている方向と逆の方向が、それぞれX軸,Y軸,Z軸に沿った負の方向である。X軸,Y軸,Z軸に沿った負の方向を、それぞれ-X方向,-Y方向,-Z方向とする。X軸,Y軸,Z軸に沿った方向で正負を問わないものを、それぞれX方向,Y方向,Z方向とよぶ。これ以降に示す図及び説明についても同様である。また、+Z方向を上、-Z方向を下と呼ぶ場合がある。
【0010】
細胞培養器具100は、円筒部材10と、被覆部材50と、把持器具80(
図4)とを備える。
図1に示すように、円筒部材10は、本体円筒部11と、培養膜12と、フランジ13とを有する。本体円筒部11とフランジ13とは、例えば、樹脂材料を用いて一体に成形されている。樹脂材料として、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル等を用いることができる。フランジ13は、円環形状を有し、円筒部材10の中心軸CX1に沿う方向である軸方向の一端から径方向に延びる。培養膜12は、本体円筒部11の開口端部11aに配置されている。具体的には、培養膜12は、円筒部材10の軸方向の2つの端部のうち、フランジ13が形成されている一端とは反対側の開口端部11aに配置されている。円形の培養膜12は、本体円筒部11の開口端部11aを覆うように、本体円筒部11の開口端部11aに接合されている。培養膜12は、本体円筒部11の内側を向く第1面12aと、第1面12aとは反対側の面である第2面12bとを有する。細胞培養工程では、第1面12aと、第2面12bとの何れにも細胞が培養される。
【0011】
培養膜12は、細胞培養を行う際に、細胞培養の足場となる膜である。培養膜12として、膜の厚み方向に貫通する多数の細孔を有する、合成高分子製の多孔質膜や天然高分子製の多孔質膜を用いることができる。具体的には、多孔質膜として、トラックエッチング膜や、ナノファイバー膜や、コラーゲンビトリゲル膜や、ハニカム膜や、多孔質ポリウレタン膜などが挙げられる。多孔質ポリウレタン膜としては、次に記載する、第1工程および第2工程を備える製造方法を用いて製造された多孔質ポリウレタン膜などが挙げられる。第1工程は、基板上に未硬化であるポリウレタン原料の層を形成する工程である。第2工程は、基板上に形成されたポリウレタン原料の層における基板から離間した露出面に対して水蒸気の供給を行なって、ポリウレタン原料の層において、ポリウレタン原料の硬化を進行させると共に複数の凹凸を露出面に有する多孔質形状を形成させる工程である。
【0012】
被覆部材50は、円筒形状を有する。被覆部材50は、細胞培養工程において、円筒部材10に装着されて用いられる。被覆部材50は、可撓性を有し、円筒部材10に対する動摩擦係数の小さい材料で形成されている。具体的に、動摩擦係数の小さい材料として、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン、テトラフルオロエチレン-ペルフルオロエーテル共重合体(PFA)などを用いることができる。また、被覆部材50は、可撓性を有する材料の表面に動摩擦係数を小さくするための表面処理が施されて形成されてもよい。具体的には、可撓性を有する材料にダイヤモンドライクカーボン(DLC)や2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ポリマーなどで表面をコーティングして被覆部材50を形成してもよい。これにより、後に詳述するように、被覆部材50を円筒部材10に着脱する過程で、作業性を向上させることができる。
【0013】
被覆部材50は、第1円筒部51と、第2円筒部52とを有する。
図3に示すように、第1円筒部51は、被覆部材50の本体のうちで、被覆部材50が円筒部材10に装着された場合、本体円筒部11の外周面を覆う部分である。第2円筒部52は、被覆部材50の本体のうちで、被覆部材50が円筒部材10に装着された場合、本体円筒部11の外周面を覆わない部分である。第2円筒部52は、被覆部材50の中心軸CX2に沿った軸方向について第1円筒部51と隣接する。第2円筒部52は、円筒部材10に装着された場合、第2円筒部52を側面、培養膜12を底面とする容器を形成する。
図2に示すように、第1円筒部51は、軸方向における長さが第1長さL1である第1部分53と、軸方向における長さが第2長さL2である第2部分54とを有する。第2長さL2は、第1長さL1よりも短い。これにより、後に詳述するように、被覆部材50を円筒部材10に着脱する過程で、作業性を向上させることができる。第1部分53と第2部分54とは、軸方向と直交する径方向において対向する。第1円筒部51は、第1部分53から軸方向を中心とした周方向に沿って第2部分54に向かうに従い、軸方向における長さが次第に短くなる形状を有する。つまり、本実施形態では、被覆部材50の第1円筒部51の端面
は、中心軸CX2に対して傾斜する形状であ
り、端面の形状は楕円である。
【0014】
被覆部材50は、さらに、内周面に段差部55を有する。第1円筒部51の径方向の厚みは、第2円筒部52の径方向の厚みより薄い。第1円筒部51の外径と、第2円筒部52の外径とは同じである。第1円筒部51の内径D3は、第2円筒部52の内径D1より大きい。そして、第1円筒部51の内周面と、第2円筒部52の内周面との境界に、第1円筒部の内径と第2円筒部52の内径の違いにより、段差部55が形成されている。段差部55は、第1円筒部51と第2円筒部52の境界において、周方向に亘って形成された面である。この段差部55は、境界において、第1円筒部51の内周面から径方向内側に突出する。これにより、後に詳述するように、被覆部材50を円筒部材10に装着する過程で、被覆部材50を円筒部材10に対して位置決めし易くすることができる。第2円筒部52の内径D1は、本体円筒部11の内径D1と同じである。これにより、細胞培養工程において、細胞が培養される面積を第1面12aと第2面12bとで揃えることができる。なお、「第2円筒部52の内径D1は、本体円筒部11の内径D1と同じ」とは、第2円筒部52の内径と、本体円筒部11の内径とが一致する場合に限らず、例えば、本体円筒部11の内径を基準として第2円筒部52の内径がプラスマイナス約10%以内の範囲であってもよい。
【0015】
本実施形態において、本体円筒部11の内径D1は6mm程度、外径D2は9mm程度である。本体円筒部11の外径D2に対して、第1円筒部51の内径D3は、0.1mm以上0.3mm以下程度小さい。よって、被覆部材50は、径が大きくなるように引き延ばされて円筒部材10に装着される。これにより、被覆部材50を円筒部材10に密着して装着させることができる。また、第1円筒部51の厚みは、0.3mm以上2mm以下程度である。これにより、第1円筒部51の可撓性を良好に維持することができるため、被覆部材50を円筒部材10に着脱する過程で、作業性を向上させることができる。可撓性を有する材料の場合、厚みが厚くなる程、変形しにくくなる傾向がある。そこで、第1円筒部51の厚みを、上記の範囲とすることにより、可撓性を良好に維持することができる。
【0016】
被覆部材50は、さらに、外周面に周方向に延びる複数の溝部56を有する。複数の溝部56は、第2円筒部52の外周面から中心軸CX2に向かって凹んで形成されている。これにより、後に詳述するように、把持器具80が有する凸部83を溝部56に嵌めることができるため、把持器具80を用いて円筒部材10を安定して把持することができる。また、把持器具80を用いない場合であっても、ピンセットなどの器具の先端を溝部56に引っ掛けることにより、器具を用いて被覆部材50を把持し易くすることができる。
【0017】
図4は、把持器具80の斜視図である。把持器具80は、被覆部材50の第2円筒部52を把持するための器具である。把持器具80は、一対の把持部81,81と、一対の板部82,82とを有する。一対の板部82,82は、板形状を有し、長辺方向において、一対の把持部81,81が配置されている端部と反対側の端部が互いに接合されている。一対の板部82,82は、外力が加えられていない状態では、
図4に示すように、一対の把持部81,81が互いに離れている。そして、外力を受けると、一対の板部82,82は、互いに近づくように可逆的に変形する。これにより、作業者は、一対の把持部81,81に間に第2円筒部52を挟んだ状態で一対の板部82,82を掴み、把持器具80を変形させることにより、把持器具80を用いて被覆部材50を把持することができる。
【0018】
一対の把持部81,81の各々は、第2円筒部52を把持した場合、第2円筒部52を挟んで第2円筒部52の径方向に対向する。一対の把持部81,81の各々は、第2円筒部52(
図1)の外周面に沿った曲面である把持内面81aを有する。これにより、円筒部材10を安定して把持することができる。把持内面81aには、第2円筒部52が有する溝部56と対応する位置に、周方向に延びる複数の凸部83が形成されている。具体的には、複数の凸部83は、把持内面81aから径方向に沿って外方へ突出する。複数の凸部83の互いの間隔は、複数の溝部56の間隔と同じである。本実施形態では、把持内面81aは、シート状部材で被覆されており、シート状部材と凸部83とが一体に成形されている。シート状部材と凸部83とは、被覆部材50に対する静止摩擦係数が高い材料で形成されている。シート状部材および凸部83を形成する材料の静止摩擦係数は、1より大きいことが好ましい。静止摩擦係数の高い材料として、イソブチレン・イソプレン・ラバー(IIR)、天然ゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)などを用いることができる。これにより、把持器具80を用いて被覆部材50を安定して把持することができる。
【0019】
図5に示すように、円筒部材10に被覆部材50が装着される場合、まず、設置された円筒部材10に対して、被覆部材50は、円筒部材10の中心軸CX1に対して被覆部材50の中心軸CX2が傾けられた姿勢にされる。なお、被覆部材50は、把持器具80により把持される。次に、第1部分53より先に第2部分54の内周面が円筒部材10の外周面に密着される。ここで、被覆部材50は段差部55を有するため、本体円筒部11の開口端部11aを段差部55に当接させることにより、被覆部材50の円筒部材10に対する位置決めを容易に行うことができる。
【0020】
次に、被覆部材50の中心軸CX2が円筒部材10の中心軸CX1と平行となるように被覆部材50が矢印の向きに、第2部分54付近を支点として動かされる。二点鎖線で示すように、本体円筒部11の開口端部11aが段差部55に当接する位置となるまで、被覆部材50は移動される。上記と同様に、被覆部材50は段差部55を有するため、本体円筒部11の開口端部11aを段差部55と当接させることができるため、被覆部材50の円筒部材10に対する位置決めを容易に行うことができる。
【0021】
第1円筒部51は、長さが互いに異なる第2部分54と第1部分53とを有するため、上記の手順により、被覆部材50を円筒部材10に装着することができる。そして、この装着方法によれば、第1円筒部51の内周面のうち、被覆部材50を動かす過程で円筒部材10の外周面と摺れ合う範囲は、第1部分53周辺の内周面のごく一部に限られる。よって、装着時の被覆部材50の内周面と円筒部材10の外周面との摩擦が生じる範囲を少なくすることができる。このため、被覆部材50の装着に要する力を軽減できるため、容易に装着でき、作業性を向上させることができる。
【0022】
図3に示すように、被覆部材50の第1円筒部51は、外径および内径が大きくなるように変形した状態で円筒部材10に装着される。ここで、被覆部材50は可撓性を有し、第1円筒部51の厚みは、第2円筒部52の厚みよりも薄いため、第2円筒部52の可撓性は良好である。よって、装着し易く、装着状態において、被覆部材50を第1円筒部51に密着させることができる。
【0023】
被覆部材50が円筒部材10から取り外される場合には、上記の手順が逆行して行われる。すなわち、まず、被覆部材50の中心軸CX2が円筒部材10の中心軸CX1に対して斜めになるように、被覆部材50が第2部分54付近を支点として動かされる。第1部分53が本体円筒部11から離れた後、被覆部材50は、第2部分54が本体円筒部11から離れるように移動される。被覆部材50が円筒部材10から取り外される場合においても、装着される場合と同様に、被覆部材50の装着に要する力を軽減できるため、容易に取り外すことができ、作業性を向上させることができる。
【0024】
A2.細胞培養器具を用いた細胞培養方法:
図6は、細胞培養器具100を用いて培養膜12の両面に細胞培養するための細胞培養工程を示すフローチャートである。
図7は、工程と細胞培養器具100の状態とを対応して示す、細胞培養工程を説明する模式図である。
図6に示す工程P10にて、細胞培養器具100が準備される。工程P20にて、円筒部材10が、ウェルプレート500(
図7)のウェル502(
図7)に挿入される。具体的には、
図7の工程P30にて示すように、円筒部材10は、
図1に示す姿勢から上下に反転された姿勢にて、フランジ13がウェルプレート500のウェル502を連結する上面501に係止される。これにより、円筒部材10は、ウェル502内に吊り下げられた状態となる。
【0025】
図6に示す工程P30にて、円筒部材10に、第1細胞C1と第1細胞用の培養液とを含む第1細胞懸濁液B1が注入される。第1細胞懸濁液B1が注入されることにより、第1細胞C1が培養膜12の第1面12aに播種される。本実施形態では、ウェル502内にも培養液が注入される。本作業を終えた後、ウェルプレート500の蓋がされる。工程P40にて、必要に応じ、培養液が適宜交換され、第1細胞C1が培養膜12の第1面12aに定着するまで培養される。培養は、温度・湿度・CO
2濃度が一定であり、安定した環境であるインキュベーター内にて行われる。これにより、細胞をより生理的条件に近い状態で培養することができる。
【0026】
工程P50では、円筒部材10に、本体円筒部11の内部に培養液を貯留しておくための貯留用治具800(
図7)が装着される。
図7の工程P50にて示すように、貯留用治具800は、可撓性を有し、円柱形状に形成されている。貯留用治具800の外径は、本体円筒部11の内周面と密着する程度の大きさである。貯留用治具800は、貯留用治具800の中心軸が円筒部材10の中心軸CX1に沿う姿勢で、本体円筒部11に挿入される。貯留用治具800の挿入方向である下方の先端が培養膜12と触れない程度の位置になるまで挿入される。これにより、次の工程P60にて、円筒部材10が上下に反転された場合にも、本体円筒部11の内部に培養液を貯留しておくことができる。よって、第1細胞C1の培養を継続することができる。
【0027】
図6に示す工程P60では、円筒部材10が上下に反転されて、把持器具80を用いて被覆部材50が円筒部材10の外周面に装着される。被覆部材50が装着されることにより、培養膜12を底面、被覆部材50の内周面を側面とする、培養液を貯留するための容器が形成される。ここで、第1円筒部51は、円筒部材10に密着しているため、次の工程P70にて第2円筒部52に注入される第2細胞懸濁液B2の漏れを抑制することができる。
【0028】
工程P70では、被覆部材50の内部に第2細胞C2と第2細胞用の培養液とを含む第2細胞懸濁液B2が注入される。
図7の工程P70にて示すように、第2細胞懸濁液B2が注入されることにより、第2細胞C2が培養膜12の第2面12bに播種される。
【0029】
図6に示す工程P80では、第2細胞懸濁液B2に含まれる第2細胞C2が培養膜12の第2面12bに定着するまで、必要に応じ培養液が適宜交換され、第2細胞C2が培養される。培養は、培養はインキュベーター内にて行われる。培養を行う時は、例えば、蓋のついた広口容器の中で行うことが望ましい。このようにすることで、被覆部材50の内部に播種された培養時の培養液の蒸発を抑制することができ、且つ培養中のコンタミネーションを抑制できる。ここで、上記のように、第2円筒部52の内径D1と、本体円筒部11の内径D1とは同じであるため、第2細胞C2の培養面積を第1細胞C1の培養面積と揃えることができる。
【0030】
工程P90では、まず、被覆部材50の内側から培養液が抜き取られ、把持器具80を用いて円筒部材10から被覆部材50が取り外される。その後、円筒部材10は、上下に反転され、再びウェルプレート500のウェル502に挿入される。全ての円筒部材10を挿入された後、ウェルプレート500の蓋がされる。
【0031】
工程P100では、第2細胞C2の培養が継続される。培養は、全てインキュベーター内にて行われる。具体的には、
図7の工程P100に示すように、ウェル502の内部に第2面12bに定着している第2細胞C2用の培養液が注入され、円筒部材10の内部に第1面12aに定着している第1細胞C1用の培養液が注入される。適宜、培養液の交換が行われ、培養作業を終えるまで培養される。第2細胞C2の培養が終了すると、本細胞培養工程は、終了する。細胞培養工程により、培養膜12の第1面12aと第2面12bとのそれぞれに細胞を培養することができる。
【0032】
以上、説明した第1実施形態によれば、円筒部材10と被覆部材50とを有する細胞培養器具100が提供される。被覆部材50は、本体円筒部11に装着された場合、本体円筒部11の外周面を覆う第1円筒部51と、培養膜12を底面とする容器を形成する第2円筒部52とを有する。第1円筒部51は、軸方向における長さが第1長さL1である第1部分53と、軸方向における長さが第1長さL1より短い第2長さL2である第2部分54と、を有する。第1円筒部51は、長さが互いに異なる第2部分54と第1部分53とを有するため、円筒部材10の中心軸CX1に対して被覆部材50の中心軸CX2を傾けて、第1部分53より先に第2部分54を円筒部材10に接触させた状態から、被覆部材50の中心軸CX2が円筒部材10の中心軸CX1と平行となるように、第2部分54付近を支点として被覆部材50を動かすことにより、被覆部材50を円筒部材10に装着することができる。この装着方法によれば、被覆部材50の内周面のうち、被覆部材50を動かす過程で円筒部材10の外周面と摺れ合う範囲は、第1部分53周辺の内周面の一部に限られる。よって、装着時の被覆部材50の内周面と円筒部材10の外周面との摩擦が生じる範囲を少なくできるため、被覆部材50の装着に要する力を軽減できる。よって、被覆部材50を容易に着脱でき、作業性を向上させることができる。
【0033】
また、被覆部材50は、内周面に、第1円筒部51の内径D3と第2円筒部52の内径D1の違いにより形成された段差部55を有する。これにより、円筒部材10に被覆部材50を装着する場合に、開口端部11aを段差部55に当接させることができるため、容易に位置決めすることができる。
【0034】
また、被覆部材50は、可撓性を有し、第1円筒部51の径方向の厚みは、第2円筒部52の径方向の厚みよりも薄い。これにより、被覆部材50が円筒部材10に装着されて、培養膜12を底面とする容器として使用される場合の安定性を維持しつつ、良好な可撓性を有する第1円筒部51によって、被覆部材50を円筒部材10に容易に着脱することができる。
【0035】
また、本体円筒部11の内径D1と、第2円筒部52の内径D1とは、同じである。よって、培養膜12の両面に細胞培養する場合に、細胞が培養される面積を第1面12aと第2面12bとで揃えることができる。
【0036】
また、第2円筒部52は、外周面に周方向に延びる溝部56を有する。よって、把持器具80を用いて円筒部材10を装着する場合に、把持器具80の凸部83を溝部56に嵌めることにより、円筒部材10を安定して把持することができる。また、把持器具80の代わりにピンセットを用いる場合にも、ピンセットの先端を溝部56に引っ掛けることができるため、円筒部材10を安定して把持することができる。
【0037】
また、把持器具80は、第2円筒部52を把持した場合、第2円筒部52を挟んで径方向に対向し、第2円筒部52の外周面に沿った把持内面81aを有する一対の把持部81,81を有する。これにより、一対の把持部81,81の把持内面81aを第2円筒部52の外周面に沿わせることができるため、把持器具80を用いて円筒部材10を安定して把持することができる。
【0038】
B.第2実施形態:
図8は、第2実施形態に係る細胞培養器具1100の斜視図である。本実施形態に係る細胞培養器具1100は、複数の被覆部材50を保持する保持部90を有する点と、複数の円筒部材10を連結する連結部95を有する点およびつまみ91を有する点が、第1実施形態に係る細胞培養器具100とは異なる。第1実施形態と同じ構成については、同一の符号を付し、詳細な説明は、適宜省略する。
【0039】
保持部90は、複数の被覆部材50が並ぶ方向に延びる板状部材である。保持部90には、厚み方向に貫通する複数の孔が形成されている。複数の被覆部材50の各々は、保持部90に形成された複数の孔の各々に挿入され、第2円筒部52の端部が保持部90から露出した状態で保持部90に固定されている。同一直線上に並ぶ複数の円筒部材10は、連結部95により互いに連結されている。円筒部材10の配置間隔と、被覆部材50の配置間隔とは同じである。複数の被覆部材50が保持部90に保持されているため、同一直線上に並ぶ複数の円筒部材10に対して、複数の被覆部材50を同時期に装着することができる。また、保持部90の長辺方向の両端部には、つまみ91が取り付けられている。これにより、作業者は、被覆部材50を円筒部材10に着脱する場合、つまみ91を手袋を装着した手で持つことにより、被覆部材50に直接触れることなく着脱することができるため、細胞培養工程におけるコンタミネーションを抑制することができる。
【0040】
以上説明した第2実施形態によれば、細胞培養器具1100は、複数の被覆部材50を保持する保持部90を備える。これにより、複数の被覆部材50を複数の円筒部材10に同時期に装着することができる。また、被覆部材50を手で触れることなく、保持部90を手で持ち、被覆部材50を動かすことができるため、細胞培養工程におけるコンタミネーションを抑制することができる。
【0041】
C.他の実施形態:
(C1)上記第1実施形態では、被覆部材50の第1円筒部51の端面は、径方向から視た場合、中心軸CX2に対して、斜めの線を描く形状であり、端面の形状は楕円である。第1円筒部51の端面の形状は楕円に限られない。例えば、被覆部材50の第1円筒部51の端面が、径方向から視た場合、途中に複数の変曲点を有する曲線であってもよい。端面の形状に拘わらず、第1円筒部51が、第1部分53と、第2部分54とを有することで、被覆部材50を円筒部材10に容易に着脱することができる。
【0042】
(C2)上記第1実施形態では、作業者により被覆部材50が円筒部材10に装着される場合を説明したが、被覆部材50が円筒部材10に機械により装着されてもよい。機械により装着される場合にも、被覆部材50の装着に要する力を軽減できるため、容易に着脱でき、作業性を向上させることができる。
【0043】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0044】
10…円筒部材、11…本体円筒部、11a…開口端部、12…培養膜、12a…第1面、12b…第2面、13…フランジ、50…被覆部材、51…第1円筒部、52…第2円筒部、53…第1部分、54…第2部分、55…段差部、56…溝部、80…把持器具、81…把持部、81a…把持内面、82…板部、83…凸部、90…保持部、91…つまみ、95…連結部、100,1100…細胞培養器具、500…ウェルプレート、501…上面、502…ウェル、800…貯留用治具、B1…第1細胞懸濁液、B2…第2細胞懸濁液、C1…第1細胞、C2…第2細胞、CX1,CX2…中心軸、D1,D3…内径、D2…外径、L1…第1長さ、L2…第2長さ、P10~P100…工程