(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-25
(45)【発行日】2025-04-02
(54)【発明の名称】モデル生成方法、粉粒体原料の造粒方法および焼結鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 1/16 20060101AFI20250326BHJP
B01J 2/14 20060101ALI20250326BHJP
G06F 30/27 20200101ALI20250326BHJP
【FI】
C22B1/16 K
B01J2/14
G06F30/27
(21)【出願番号】P 2022080600
(22)【出願日】2022-05-17
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小澤 典子
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-011076(JP,A)
【文献】国際公開第2021/001897(WO,A1)
【文献】特開平02-077529(JP,A)
【文献】特許第7107472(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00 - 1/26
B01J 2/00 - 2/30
G06Q 50/04
G06F 30/27
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンが傾斜した状態で回転するパン型ペレタイザを用い、前記パンに粉粒体原料を投入し、同時に液架橋力を得るための液体を一か所または複数か所から投入し、粉粒体原料を造粒する方法において、
液体投入位置に対する、造粒物の強度および粒度の少なくとも一方の評価結果に基づいて、前記液体投入位置
および原料投入位置を説明変数に含み、前記造粒物の強度および粒度の少なくとも一方を目的変数として機械学習を行い、前記造粒物の強度および粒度の少なくとも一方を予測するモデルを生成する、
モデル生成方法。
【請求項2】
前記機械学習として、逐次近似最適化を行う請求項1に記載のモデル生成方法。
【請求項3】
前記逐次近似最適化は、ベイズ最適化である請求項2に記載のモデル生成方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3
のいずれか一項に記載のモデル生成方法によって生成したモデルを用いて、液体投入位置を予測し、
予測した液体投入位置から液体を投入することにより、造粒物の強度および粒度の少なくとも一方を所望の範囲に制御して、粉粒体原料を造粒する粉粒体原料の造粒方法。
【請求項5】
パンが傾斜した状態で回転するパン型ペレタイザを用い、前記パンに粉粒体原料を投入し、同時に液架橋力を得るための液体を一か所または複数か所から投入し、粉粒体原料を造粒する方法において、
液体投入位置に対する、造粒物の強度および粒度の少なくとも一方の評価結果に基づいて、前記液体投入位置
および原料投入位置を説明変数に含み、前記造粒物の強度および粒度の少なくとも一方を目的変数として、逐次近似最適化を行い、前記造粒物の強度および粒度の少なくとも一方が所望の範囲になる液体投入位置を決定して、粉粒体原料を造粒する粉粒体原料の造粒方法。
【請求項6】
前記粉粒体原料は、焼結鉱製造用の焼結原料である請求項
4に記載の粉粒体原料の造粒方法。
【請求項7】
請求項6に記載の粉粒体原料の造粒方法によって焼結鉱製造用の焼結原料を造粒し、その造粒物を焼結して焼結鉱を製造する焼結鉱の製造方法。
【請求項8】
前記粉粒体原料は、焼結鉱製造用の焼結原料である請求項5に記載の粉粒体原料の造粒方法。
【請求項9】
請求項8に記載の粉粒体原料の造粒方法によって焼結鉱製造用の焼結原料を造粒し、その造粒物を焼結して焼結鉱を製造する焼結鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モデル生成方法、粉粒体原料の造粒方法および焼結鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉粒体原料の造粒装置として、パン型ペレタイザが広く用いられている。このパン型ペレタイザは、パンが所定の角度で傾斜した状態に設置されており、この傾斜した状態で回転するパン内で、粉粒体原料を転動させることにより造粒を行う。
【0003】
パン内の粉粒体原料には、液体(水や粘結剤を含む水溶液)が加えられ、この液体が液架橋力を発揮することにより、粉粒体間の接着に寄与する。造粒過程では、パンの上方から転がり落ちる際に粉粒体同士が接触し、パンの側壁に沿って持ち上げられる際に粉粒体同士が押し固められ、これが繰り返されることにより、強度を持った造粒物が生成される。
【0004】
一般に、粉粒体原料の造粒過程では、大きめの核となる粉粒体に、それよりも小さな粉体が接着して造粒が進む。連続式のパン型ペレタイザでは、パンの傾斜角度や回転速度に応じて、粉粒体原料が一定の大きさまで造粒されると、表層に分布しやすい造粒物がパンの縁からこぼれ出ることにより、粒度の揃った製品(造粒物)が回収される。
【0005】
パン型ペレタイザは、食品製造や工業原料の事前処理等に広く使用されており、例えば、鉄鋼業では、製鉄用の焼結鉱を製造するための焼結原料(粉鉱石を主原料とし、石灰石系粉原料等を副原料とする焼結原料)を造粒する際に利用されている。このパン型ペレタイザによって、一定の強度および粒度(粒径、大きさ)を有する造粒物を得るには、パン内の粉粒体原料に対して、液架橋力を発揮させるための液体が均等に行き渡ることが重要である。
【0006】
従来、焼結鉱製造用の焼結原料を造粒する場合、散水用のホースでパン内の焼結原料に加水(散水)を行っている。その際、特に決められた加水位置はなく、パン内の焼結原料になるべく均等に水が行き渡るように、散水用のホースが引き回せる範囲内で数か所に分けて加水を行っている。
【0007】
一方、特許文献1には、炭材核の周囲が、鉄鉱石粉と石灰含有原料との混合粉によって被覆された二層構造の炭材内装造粒粒子を製造する方法に関して、造粒機内部において、炭材核が表面に現れて転動する領域に対して選択的に散水することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1で提案された方法は、二層構造の炭材内装造粒粒子を製造する場合に有効な加水方法であるといえるが、造粒対象が限られる。パン型ペレタイザを用いた粉粒体原料の造粒において、粉粒体原料に均等に液体(水分)を行き渡らせて一定の強度および粒度を有する高品質の造粒物を得るには、パンのどの位置で液体を投入するのかが重要であると考えられる。しかしながら、特許文献1等の従来技術では、例えば散水用のホースをどこに配置するか等、最適な液体投入位置についての提案はなされていない。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、パン型ペレタイザを用いた粉粒体原料の造粒において、液架橋力を得るための液体の投入を最適な条件で行うことにより、所定の強度および粒度を有し、かつ強度および粒度のばらつきの小さい造粒物を安定して得ることができる、モデル生成方法、粉粒体原料の造粒方法および焼結鉱の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るモデル生成方法は、パンが傾斜した状態で回転するパン型ペレタイザを用い、前記パンに粉粒体原料を投入し、同時に液架橋力を得るための液体を一か所または複数か所から投入し、粉粒体原料を造粒する方法において、液体投入位置に対する、造粒物の強度および粒度の少なくとも一方の評価結果に基づいて、前記液体投入位置を説明変数に含み、前記造粒物の強度および粒度の少なくとも一方を目的変数として機械学習を行い、前記造粒物の強度および粒度の少なくとも一方を予測するモデルを生成する。
【0012】
また、本発明に係るモデル生成方法は、上記発明において、前記機械学習として、逐次近似最適化を行う。
【0013】
また、本発明に係るモデル生成方法は、上記発明において、前記逐次近似最適化が、ベイズ最適化である。
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る粉粒体原料の造粒方法は、上記のモデル生成方法によって生成したモデルを用いて、液体投入位置を予測し、予測した液体投入位置から液体を投入することにより、造粒物の強度および粒度の少なくとも一方を所望の範囲に制御して、粉粒体原料を造粒する。
【0015】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るモデル生成方法は、パンが傾斜した状態で回転するパン型ペレタイザを用い、前記パンに粉粒体原料を投入し、同時に液架橋力を得るための液体を一か所または複数か所から投入し、粉粒体原料を造粒する方法において、液体投入位置に対する、造粒物の強度および粒度の少なくとも一方の評価結果に基づいて、前記液体投入位置を説明変数に含み、前記造粒物の強度および粒度の少なくとも一方を目的変数として、逐次近似最適化を行い、前記造粒物の強度および粒度の少なくとも一方が所望の範囲になる液体投入位置を決定して、粉粒体原料を造粒する。
【0016】
また、本発明に係る粉粒体原料の造粒方法は、上記発明において、前記粉粒体原料が、焼結鉱製造用の焼結原料である。
【0017】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る焼結鉱の製造方法は、上記の粉粒体原料の造粒方法によって焼結鉱製造用の焼結原料を造粒し、その造粒物を焼結して焼結鉱を製造する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るモデル生成方法、粉粒体原料の造粒方法および焼結鉱の製造方法によれば、パン型ペレタイザを用いた粉粒体原料の造粒において、液架橋力を得るための液体の投入を最適な条件で行うことにより、所定の強度および粒度を有し、かつ強度および粒度のばらつきの小さい造粒物を安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明を適用可能なパン型ペレタイザの一例を示す模式図であり、(a)はパンとこれに対するスクレーパの配置状態を示す斜視図であり、(b)はパンの側面図である。
【
図2】
図2は、本発明を適用可能なパン型ペレタイザの他の例を示す模式図であり、パンとこれに対するスクレーパの配置状態を示す平面図である。
【
図3】
図3は、本発明を適用可能なパン型ペレタイザの他の例を示す模式図であり、パンとこれに対するスクレーパの配置状態を示す平面図である。
【
図4】
図4は、
図1のパン型ペレタイザによる造粒過程を離散要素法で解析した結果を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、パン型ペレタイザによる造粒過程において、パン内での粉粒体原料の動きを模式的に示す図であり、(a)は粉粒体原料層のうちの底層の動きを示す説明図、(b)は粉粒体原料層のうちの中間層の動きを示す説明図、(c)は粉粒体原料層のうちの表層の動きを示す説明図、である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態に係るモデル生成方法、粉粒体原料の造粒方法および焼結鉱の製造方法の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0021】
本実施形態に係る粉粒体原料の造粒方法では、パンが傾斜した状態で回転するパン型ペレタイザを用い、当該パンに粉粒体原料を投入し、同時に液架橋力を得るための液体を一か所または複数か所から投入し、粉粒体原料を造粒する。また、本実施形態に係る焼結鉱の製造方法では、上記の粉粒体原料の造粒方法によって焼結鉱製造用の焼結原料を造粒し、その造粒物を焼結して焼結鉱を製造する。また、本実施形態に係るモデル生成方法では、上記の粉粒体原料の造粒方法において、造粒物の強度および粒度の少なくとも一方を予測するためのモデル(予測モデル、学習済みモデル)を生成する。
【0022】
本発明者らは、パン型ペレタイザによる粉粒体原料の造粒において、粉粒体間の接着に寄与する液体(液架橋力を得るための液体。以下、単に「液体」という)の投入位置(以下、「液体投入位置」という)が、造粒物の強度および粒度の均一性に及ぼす影響について調査した。そして、詳細な調査の結果、最適な液体投入位置を決定する方法を見出した。
【0023】
図1は、本発明を適用可能なパン型ペレタイザの一例を模式的に示しており、(a)はパン1とこれに対するスクレーパ2の配置状態を示す斜視図であり、(b)はパン1の側面図である。なお、以下の説明において、パン底面とは、粉粒体原料が転動して造粒される円形の皿面(上面)のことを指す。
【0024】
パン1は、円形の底板部10と、この底板部10を囲む側壁部11とからなる。パン1は、通常、水平から一定の角度θ(
図1の(b)参照)だけ立てた状態(傾斜した状態)に保持され、この傾斜した状態で回転する。また、
図1の例では、矢印で示すように、パン1は図に向かって反時計回りに回転する。また、後述する
図2~
図4に示すパン1も、図に向かって反時計回りに回転する。
【0025】
スクレーパ2は、板状の部材である。スクレーパ2は、パン1の側壁面や底面に付着した粉粒体原料を掻き落とす機能を有する。更に、スクレーパ2は、傾斜したパン底面の上方に移動した粉粒体原料を下方向に誘導し、パン底面における粉粒体原料の転動領域を規制(制限)する機能を有する。このスクレーパ2がない場合には、粉粒体原料がパン1の側壁面等に付着したまま回転するため、パン1の上方から転がり落ちる転動効果が小さくなる。そのため、スクレーパ2は、必須ではないものの、多くの場合に利用されている。
【0026】
スクレーパ2は、支持アーム(図示せず)に支持され、その一端部20が傾斜したパン底面の頂部Aまたはその周辺部(
図1の例ではパン1の頂部A)において、側壁面と近接するように配置される。また、スクレーパ2は、その長手方向が、一端部20を基点としたパン半径方向に対して、パン上半部が回転する側(
図1の矢印で示すパン上半部の回転方向)に傾いた状態に配置される。また、
図1に示したスクレーパ2は、パン1の半径と略同じ長さを有し、その一端部20を通過するパン底面上における垂線gから、例えばφ30°程度傾いた状態に配置される。
【0027】
図2および
図3は、それぞれ本発明を適用可能なパン型ペレタイザの他の例を模式的に示しており、パン1とこれに対するスクレーパ2の配置状態を示す平面図である。
図2に示したパン型ペレタイザにおいて、スクレーパ2は、パン1の直径の1/3程度の長さを有している。また、スクレーパ2は、その一端部20が傾斜したパン底面の頂部Aの周辺部に位置し、この一端部20を通過するパン底面上における垂線gから、例えばφ40°程度傾いた状態に配置される。
【0028】
一方、
図3に示したパン型ペレタイザにおいて、スクレーパ2は、互いに平行であり、かつ傾斜したパン1の上下方向で間隔を置いて配置される複数のスクレーパ部材2a(
図3の例では二つのスクレーパ部材2a)により構成されている。
【0029】
各スクレーパ部材2aは、パン1の半径の1/4~1/3程度の長さを有する短尺材である。各スクレーパ部材2aのうちの最上部のスクレーパ部材2aは、その一端部20aが傾斜したパン底面の頂部Aの周辺部に位置している。また、最上部のスクレーパ部材2aは、その長手方向が、一端部20aを基点としたパン半径方向に対して、パン上半部が回転する側(
図3の矢印で示すパン上半部の回転方向)に傾いた状態に配置される。
【0030】
図3に示した最上部のスクレーパ部材2aは、その一端部20aを通過するパン底面上での垂線gから、例えばφ15°程度傾いた状態に配置される。また、その下側の他のスクレーパ部材2aも、上側のスクレーパ部材2aと同じ傾きで配置される。なお、スクレーパ2は、三つ以上のスクレーパ部材2aによって構成されてもよい。
【0031】
パン型ペレタイザは、バッチ式で運転される場合もあるが、工業的には連続的に運転されるのが一般的であり、パン1に対して粉粒体原料および液体がそれぞれの投入手段から連続的に投入される。また、造粒を促進するためのバインダは、増粘や硬化作用を期待して粉粒体原料に配合されるものであり、用途によって無機系や有機系の固体または液体の様々なバインダが用いられる。例えば、焼結鉱製造用の焼結原料(粉鉱石と副原料の混合原料)を造粒する場合には、一般に焼結原料に対して、生石灰が1~2質量%程度配合される。
【0032】
また、液体については、粉粒体原料に対して液架橋力が有効に働く投入量で投入される。焼結鉱製造用の焼結原料を造粒する場合には、概ね8~12質量%で付着性が高くなり、その範囲以外では付着性が低下することから、この範囲で液体を投入することが一般的である。
【0033】
液体を均等に散水するためには、スプレーによって分散させることが望ましいが、焼結鉱製造用の焼結原料を造粒する場合、スプレーノズルがすぐに詰りトラブルとなる。そのため、散水用のホースが引き回せる範囲内で、数か所に分けて焼結原料に加水(散水)を行っている。
【0034】
ここで、一定の強度および粒度を有する高品質な造粒物を得るには、パン1のどの位置で液体を投入するかが重要であり、液体投入位置の最適化を行う必要がある。この液体投入位置の最適化のプロセスには、試行実験が必要となる。この試行実験では、例えば液体投入位置を変更しながら、造粒物の強度および粒度の少なくとも一方を評価する試行を複数回行う。そして、液体投入位置を説明変数に含み、造粒物の強度および粒度の少なくとも一方を目的変数として、機械学習を行うことにより、造粒物の強度および粒度の少なくとも一方を所望の範囲に制御することが可能となる。
【0035】
液体投入位置の最適化の際の試行実験および機械学習は、例えばワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータからなる情報処理装置が主体となって実施される。この情報処理装置は、例えばCPU(Central Processing Unit)等によって実現される演算手段と、各種記録媒体等によって実現される記憶手段と、入出力手段等を備えている。
【0036】
例えば
図1において、パン底面に正対して、中心pを原点として水平右向きにx座標、垂直上向きにy座標を取るとすると、nか所の液体投入位置Snの各x(Sn)座標、y(Sn)座標を説明変数とする。
【0037】
粉粒体原料(焼結原料)の投入位置(以下、「原料投入位置」という)Rは、設備仕様によって決まっている場合が多いが、原料投入位置を変更する可能性がある場合は、原料投入位置Rの各x(R)座標、y(R)座標を説明変数に加えてもよい。更に、パン1の回転数や傾斜角度θ、粉粒体原料の粒度分布、バインダの種類や添加量、液体添加割合、スクレーパ2の仕様等の操業条件を変更するのであれば、それらを説明変数に加えてもよい。
【0038】
各条件で造粒した場合の造粒物の強度および粒度を調査して、目的変数とする。例えば、パン型ペレタイザの運転を開始して一定時間経過後の造粒物のサンプルを定量採取する。造粒物の強度に関しては、造粒物のサンプルを複数個抽出し、これらについて一軸圧縮試験を行い、圧壊強度Pを調べることができる。例えば一軸圧縮試験は、「JIS A1216」によって規定される試験機を用いて行い、極限の荷重F0から、下記式(1)により圧壊強度Pを算出する。
【0039】
【0040】
なお、上記式(1)において、πは円周率、Aは造粒物の粒径である。また、圧壊強度Pの算術平均を取り、そのばらつきとして標準偏差(各データの値と平均の差の二乗の合計を、データの総数nで割った値の正の平方根)を取ることができる。
【0041】
造粒物の粒度に関しては、ふるい分けを行い、基準粒子径を各ふるい目開きの中間値として、それらの質量割合で重み付けして平均粒径を算出することができる。また、ばらつきを示す標準偏差は、各基準粒子径と平均粒径との差の二乗に質量割合で重み付けした合計を、質量割合の合計100%で割った値の正の平方根として求めることができる。
【0042】
目的変数は、一つのみ設定してもよく、あるいは複数個設定してもよい。造粒物の強度は、一般に強ければ強いほどよいと考えられるが、後工程の搬送過程で割れや粉化が生じない強度が必要である。製鉄用の焼結鉱を製造するための焼結原料を造粒する場合、一般に、粒径は8mm前後がよいとされ、圧壊強度は0.5MPa前後が必要と考えられる。
【0043】
以上のように説明変数と目的変数を取り、最適化計算を行う。最適化計算の手法としては、生物の進化の過程を模擬した遺伝的アルゴリズムに代表される進化型計算法(進化型アルゴリズム)や、有限のサンプリングデータを元に近似関数を生成し、段階的に精度を高めて解を得る逐次近似法等の様々なモデルを利用することができる。
【0044】
進化型計算法では、試行回数が必要で実験によるコストや計算時間負荷が高くなる傾向があるため、大型設備に対しては実行が困難な場合がある。一方、逐次近似法は、探索点が少ないため、高速で最適化するにはよい方法である。この逐次近似法としては、例えばベイズ最適化が挙げられる。ベイズ最適化は、試行実験を行った既知のデータの間にある未知のデータの存在確率を見積もり、その不確定さを小さくするように次の試行実験を行い、全体の関数の形を推定し、最適値(最小値や最大値)を探索する手法である。
【0045】
なお、上記では、実際の試行実験による説明変数および目的変数の取り方の例を示したが、数値解析を用いた仮想の試行実験によって代用してもよい。造粒の数値解析には、例えば離散要素法(DEM)を利用することができる。この離散要素法では、実際の造粒工程を模擬して、パン型ペレタイザのモデルに粉粒体原料および液体としての粒子を連続投入して、粒子(造粒物)がパン1の縁からこぼれ出る解析を実行する。その際、粉粒体原料を微粉として投入して実際の造粒を解析することもできるが、非常に計算コストが掛かるため、造粒物相当の大きさの粉粒体原料を投入することが現実的である。
【0046】
説明変数としては、液体投入位置Sおよび原料投入位置Rの他に、必要に応じて、パン1の回転数や傾斜角度θ、粉粒体原料の粒度分布、バインダの種類や添加量、液体添加割合、スクレーパ2の仕様等の操業条件を加えることができる。
【0047】
目的変数としては、例えば各原料に液体が接触した量や回数を集計し、液体を消失させるモデルとし、最終的にパン1の縁からこぼれ出て回収した造粒物の液体接触量の平均やそのばらつきを取ることができる。
【0048】
図4は、パン型ペレタイザにおける粉粒体原料および液体の挙動を、離散要素法によって数値解析した結果の一例を示している。
図4における粉粒体原料の動きを、模式的に
図5の(a)~(c)に示す。
図5において、(a)は粉粒体原料層3のうちの底層30の動きを、(b)は粉粒体原料層のうちの中間層31の動きを、(c)は粉粒体原料層のうちの表層32の動きを、それぞれ示している。また、図中のP30,P31,P32は、各層の回転渦中心を示している。
【0049】
一般的に知られているように、底層30から表層32にかけて粉粒体原料の回転渦が小さくなり、かつその回転渦中心が、図に向かってパン中心右寄り位置から右下方にずれていく。
図4では、原料に液体が接触した量に応じて、原料の粒子に濃淡を付している。同図に示すように、液体投入位置によって原料の粒子の濃淡が異なり、液体の接触履歴の違いを評価することができた。
【0050】
なお、これまでの説明では、現実または仮想の試行実験によって得たデータに対して、直接最適化計算を行う場合の例を説明したが、例えば機械学習によって予めモデルを作成し、作成したモデルに対してベイズ最適化等の最適化計算を行ってもよい。その際、モデルを作成するための機械学習の手法としては、例えばニューラルネットワーク、サポートベクタマシン、ランダムフォレスト等の各種手法を用いることができる。
【0051】
本実施形態に係る粉粒体原料の造粒方法は、以下の三通りの方法で実施可能である。
(1)事前にモデルを作成せず、直接最適化計算(例えば逐次近似最適化)を行う。
(2)事前にモデルを作成し、所望の強度や粒度の範囲に収まる液体投入位置を決定する。
(3)事前にモデルを作成し、その後最適化計算を行い、液体投入位置を決定する。
【0052】
上記(1)では、実験や解析を実施して、既知のデータの間にある未知のデータの存在確率を見積もり、その不確定さを小さくするように次の試行実験を行う。そして、全体の関数の形を推定し、最適値(最小値や最大値)を探索する。この方法では、事前にモデルを作成しないため、膨大なデータを用意する必要がないというメリットがある。
【0053】
上記(2)では、実験や解析を実施して、説明変数(液体投入位置)と目的変数(強度や粒度)の関係からモデルを生成する。続いて、生成したモデルに対して、液体投入位置を入力することにより、造粒物の強度や粒度を予測する。そして、モデルに対して、様々な液体投入位置を入力することにより、造粒物の強度や粒度が所望の範囲となる液体投入位置を決定する。
【0054】
上記(3)では、実験や解析を実施して、説明変数(液体投入位置)と目的変数(強度や粒度)の関係からモデルを生成する。続いて、生成したモデルに対して、液体投入位置を入力することにより、造粒物の強度や粒度を予測する。そして、更に最適化計算を行うことにより、造粒物の強度や粒度が所望の範囲となる液体投入位置を決定する。
【0055】
また、本実施形態において、粉粒体原料を原料投入位置Rに投入する方法は任意であり、特に制限はない。粉粒体原料を原料投入位置Rに投入する方法としては、例えばベルトコンベア等の装入コンベア、定量切出機構を備えた装入シュート等を用いることができる。また、液体を液体投入位置Sに投入する方法も任意であり、特に制限はない。液体を液体投入位置Sに投入する方法としては、例えばホースで投入(散水)する方法や、散水ノズル等の散水手段によって投入(散水)する方法を用いることができる。
【0056】
また、本実施形態において、造粒対象に特別な制限はなく、種々の粉粒体原料を造粒対象とすることができるが、特に製鉄分野において、焼結鉱製造用の焼結原料を造粒するのに適している。
【0057】
焼結鉱製造用の焼結原料の造粒では、高品質の焼結鉱を製造するために、所定の強度および粒径を有し、かつ強度および粒径のばらつきの小さい造粒物(擬似粒子)を得ることが重要な課題である。本実施形態に係る粉粒体原料の造粒方法によれば、そのような造粒物を安定して得ることができる。また、本実施形態に係る粉粒体原料の造粒方法によって造粒された焼結鉱製造用の焼結原料の造粒物は、例えば焼結機(通常、ドワイトロイド式焼結機)に装入されて焼結され、高炉の鉄源となる焼結鉱が製造される。
【実施例】
【0058】
本発明に係る粉粒体原料の造粒方法の実施例について、
図4を参照しながら説明する。本実施例では、パン型ペレタイザの造粒において、接着に寄与する液体の最適な液体投入位置を決定するために、離散要素法による数値解析によって、パン型ペレタイザを用いた仮想造粒実験を行った。
【0059】
本実施例では、
図1に示した構成のパン型ペレタイザを用いた。パンの直径は0.24m、側壁部の高さは0.07m、スクレーパの長さは0.12m、スクレーパの傾斜角度はφ30°、パンの傾斜角度θは51°であり、回転速度39rpmで運転を行った。
【0060】
原料の粒子は、焼結鉱用造粒物を想定して直径10mmとした。液体は粒子として設定し、解析負荷を小さくするために、実際より大きな直径2mmとした。パン底面の中心pを原点として、
図1の方向に座標軸を取り、原料投入位置Rは、「x(R)=-0.041,y(R)=-0.015」を中心pxとする50mm角とした。そして、その原料投入位置Rに、焼結原料を連続的に260g/sで投入した。なお、本実施例では、原料投入位置Rを一か所に固定しているが、原料投入位置Rを複数か所とし、説明変数に加えてもよい。
【0061】
液体は、30mm角で一か所から投入することとし、連続的に8.2g/sで投入した。各原料に液体が接触した回数を集計し、一度接触した液体は消失させた。そして、最終的に運転開始から40~80秒の間にパンの縁からこぼれ出て回収された造粒物の粒子の液体接触回数のばらつき(標準偏差σ)を目的変数とした。
【0062】
一例として、液体投入位置Sの中心pyが、「x(s)=-0.015,y(S)=0.01」のときの離散要素法による数値解析の結果を
図4に示す。同図では、液体の粒子は黒で示し、原料の粒子は液体接触回数が多い程、濃色で表現している。
【0063】
液体投入位置の最適値の探索範囲は、現実的な範囲として、「x(S)=-0.05~0.05,y(S)=-0.085~0.085」とし、0.005刻みの離散値とした。この場合、液体投入位置の候補は、全735(21×35)候補となる。
【0064】
最適化計算を行う逐次近似最適化手法として、ベイズ推定を実施した。ここでは、表1に示すように、探索範囲の境界となる4条件と、原料投入位置の近傍2条件とを選んで予備実験を行い、初期値とした。その後、実験点5点による探索を3回繰り返した。その結果を表2に示す。
【0065】
【0066】
最適化計算では、6回の予備実験と計15回の本実験を行い、「x(S)=-0.045,y(S)=-0.045のとき、σ=14.14」が最適値であると予測した。別途手作業で全条件を実験した結果と比較した結果、「x(S)=-0.045,y(S)=-0.045、σ=14.14」が最適値であると確認できた。すなわち全735(21×35)候補のうち、わずか21回の実験で最適値を見つけ出すことができた。このように、本発明は最適な液体投入位置を探索する有効な方法であることが示された。
【0067】
以上説明した本発明に係るモデル生成方法、粉粒体原料の造粒方法および焼結鉱の製造方法によれば、パン型ペレタイザを用いた粉粒体原料の造粒において、液架橋力を得るための液体の投入を最適な条件で行うことにより、所定の強度および粒度を有し、かつ強度および粒度のばらつきの小さい造粒物を安定して得ることができる。
【0068】
以上、本発明に係るモデル生成方法、粉粒体原料の造粒方法および焼結鉱の製造方法について、発明を実施するための形態および実施例により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0069】
1 パン
2 スクレーパ
2a スクレーパ部材
3 粉粒体原料層
10 底板部
20,20a 一端部
30 底層
31 中間層
32 表層
A 頂部
g 垂線
P30,P31,P32 原料の回転渦中心