(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-25
(45)【発行日】2025-04-02
(54)【発明の名称】短下肢装具
(51)【国際特許分類】
A61F 5/01 20060101AFI20250326BHJP
A61F 2/62 20060101ALI20250326BHJP
【FI】
A61F5/01 N
A61F2/62
(21)【出願番号】P 2021185474
(22)【出願日】2021-11-15
【審査請求日】2024-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】303053600
【氏名又は名称】有限会社出水義肢装具製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(72)【発明者】
【氏名】弓木野 勇次
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0319799(US,A1)
【文献】実公昭60-038982(JP,Y2)
【文献】特開2019-193694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 5/01-5/34
A61H 3/00
A61F 2/60-2/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患足の足底が載置される足載置部、該足載置部から立設し患足の足内側縦アーチから内果直下にかけての所定の範囲に当接する足内側面部、前記足載置部から立設し患足の足外側縦アーチから外果直下にかけての所定の範囲に当接する足外側面部を有する足底装着部と、
外果直上から腓骨小頭直下までの範囲に当接する下腿外側面部、内果直上から脛骨の高さ方向の略中央部までの範囲に当接する下腿内側面部、及びアキレス腱の略中央部から脹脛の最大径の直下までの範囲に当接する下腿背面部を有
し、表面に凸状に湾曲したコルゲーションが前記下腿外側面部、前記下腿背面部、及び前記下腿内側面部にわたって形成された下腿装着部と、
患足の前面側であって脛骨骨幹部の所定の位置を横断し、前記下腿内側面部、及び前記下腿外側面部を連結するベルト体と、
一側が前記足底装着部の足内側面部、他側が前記下腿装着部の下腿内側面部にそれぞれ接続され、内果に略対応する位置に回転軸を有する足内連結部と、
一側が前記足底装着部の足外側面部、他側が前記下腿装着部の下腿外側面部にそれぞれ接続され、外果に略対応する位置に回転軸を有する足外連結部と、を備える
短下肢装具。
【請求項2】
患足の足底が載置される足載置部、該足載置部から立設し患足の足内側縦アーチから内果直下にかけての所定の範囲に当接する足内側面部、前記足載置部から立設し患足の足外側縦アーチから外果直下にかけての所定の範囲に当接する足外側面部を有する足底装着部と、
内果直上から脛骨近位端までの範囲に当接する下腿内側面部、外果直上から腓骨の高さ方向の略中央部までの範囲に当接する下腿外側面部、及びアキレス腱の略中央部から脹脛の最大径の直下までの範囲に当接する下腿背面部を有
し、表面に凸状に湾曲したコルゲーションが前記下腿外側面部、前記下腿背面部、及び前記下腿内側面部にわたって形成された下腿装着部と、
患足の前面側であって脛骨骨幹部の所定の位置を横断し、前記下腿内側面部、及び前記下腿外側面部を連結するベルト体と、
一側が前記足底装着部の足内側面部、他側が前記下腿装着部の下腿内側面部にそれぞれ接続され、内果に略対応する位置に回転軸を有する足内連結部と、
一側が前記足底装着部の足外側面部、他側が前記下腿装着部の下腿外側面部にそれぞれ接続され、外果に略対応する位置に回転軸を有する足外連結部と、を備える
短下肢装具。
【請求項3】
前記ベルト体の一端は前記下腿外側面部の上端に固定され、前記ベルト体の他端は前記下腿内側面部の上端に固定されたホルダ部に挿通されて、前記ベルト体を任意の長さに調整可能な位置で係脱自在に係止された
請求項1に記載の短下肢装具。
【請求項4】
前記ベルト体の一端は前記下腿内側面部の上端に固定され、前記ベルト体の他端は前記下腿外側面部の上端に固定されたホルダ部に挿通されて、前記ベルト体を任意の長さに調整可能な位置で係脱自在に係止された
請求項2に記載の短下肢装具。
【請求項5】
前記足内連結部は、
一側が前記足底装着部の前記足内側面部に接続された第1の足内連結部、一側が前記下腿装着部の前記下腿内側面部に接続された第2の足内連結部を含み、前記第1の足内連結部の一側に対峙する他側と前記第2の足内連結部の一側に対峙する他側が内果に略対応する位置を回転軸として締結部により締結され、
前記足外連結部は、
一側が前記足底装着部の前記足外側面部に接続された第1の足外連結部、一側が前記下腿装着部の前記下腿外側面部に接続された第2の足外連結部を含み、前記第1の足外連結部の一側に対峙する他側と前記第2の足外連結部の一側に対峙する他側が外果に略対応する位置を回転軸として締結部により締結された
請求項1から請求項
4の何れか一項に記載の短下肢装具。
【請求項6】
前記足内連結部の回転軸と前記足外連結部の回転軸を結ぶ仮想直線は、水平軸に対して略8~13°の傾斜角度を有する
請求項
5に記載の短下肢装具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短下肢装具に関するものである。詳しくは、歩行時における過剰な回旋運動を制御して、変形性膝関節症に伴う疼痛と病態の改善を図ることができる短下肢装具に係るものである。
【背景技術】
【0002】
変形性膝関節症は、筋力低下、加齢、肥満などにより膝関節の機能が低下して、膝軟骨の磨り減りや半月板のかみ合わせの緩み、変形、断裂、炎症による関節液の過剰滞留を起こすものであり、膝関節に横ずれなどの負荷がかかると激しい痛みを伴う。
【0003】
変形性膝関節症が進行すると、関節破壊による内反変形を生じることがあり、俗にO脚と呼ばれる内反膝になることがある。また、内反膝は、俗にX脚と呼ばれる外反膝と共に、変形性膝関節症の原因の一つとも考えられており、変形性膝関節症との関連が深いとされている。
【0004】
変形性膝関節症の治療としては、例えば膝関節を切断して金属製の人工関節を接合する手術療法が提案されている。しかしながら、手術療法は高額であるとともに、老化が進行すると骨が脆くなることにより、金属との強度バランスが崩れるため耐用年数は約10年程度であるといわれており、耐用年数経過後は再手術が必要になるという問題がある。
【0005】
一方、保存療法は、膝治療用のサポーターや短下肢装具を用いて歩行の痛みを緩和させ、毎日定期的に歩くことによって、筋肉を強化させる方法であり、長期的治療となるため患者の体力と根気が必要ではあるが、手術療法特有の問題は生じることはない。
【0006】
膝関節用のサポーターの形状の一つとして、巻き付け用のベルトが一体となったサポーターがよく知られている。例えば特許文献1には、患足の膝関節に装着するためのベルト一体型のサポーターが開示している。ベルト一体型の膝関節用のサポーターは、巻き付け圧力の調整が自在であり、靴を履いたまま装着できるという利点がある。
【0007】
また、特許文献2には、患足の足部に装着するサポーターとして、足首に沿って巻回される伸縮ベルトと、伸縮ベルトに着脱自在に取り付けられる弾性体とを備え、弾性体の厚さが外反側から内反側に向かって漸次小さくなるように形成された変形性膝関節症用のインソールが開示されている。
【0008】
特許文献2に開示の技術によれば、(O脚矯正の場合には)インソールの外反側の厚みが内反側に比べて肉厚に構成されているため、該インソールを装着して立脚、或いは歩行する際には、膝にかかる負担を均等に分散させることができる。その結果、靴底の片減りが減り、良好な歩行姿勢を長時間にわたって維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2000-197654号公報
【文献】特開2015-66324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記した特許文献1に開示のベルト一体型のサポーターは、脱着作業の容易性や巻き付け圧力の調整の自在性を実現することができるものの、ベルト、及びサポーター本体部の自重により、サポーターを装着した状態で長時間の運動を行うとサポーターがずれ落ちてしまい、サポーターによる矯正効果を得られない虞がある。また、近年の研究では、サポーターの装着は疼痛の軽減効果はあるものの、関節軸のアライメントの改善や運動機能の改善効果は乏しいとの報告もされている。
【0011】
この点、特許文献2に開示のインソールによれば、伸縮バンドを足首に巻回して固定するため、インソールを装着した状態で長時間使用してもずれにくいというメリットがある。しかしながら、足底からの矯正のみでは膝に対する圧迫矯正力は弱く、特許文献1に開示のサポーターと同様に変形性膝関節症の症状のうち、主として疼痛の緩和効果は少なからずあるものの、関節軸のアライメントの改善効果については臨床的にはまだまだ満足のいくレベルではない。
【0012】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、歩行時における過剰な回旋運動を制御して、変形性膝関節症に伴う疼痛と病態の改善を図ることができる短下肢装具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するために、本発明の短下肢装具は、患足の足底が載置される足載置部、該足載置部から立設し患足の足内側縦アーチから内果直下にかけての所定の範囲に当接する足内側面部、前記足載置部から立設し患足の足外側縦アーチから外果直下にかけての所定の範囲に当接する足外側面部を有する足底装着部と、外果直上から腓骨小頭直下までの範囲に当接する下腿外側面部、内果直上から脛骨の高さ方向の略中央部までの範囲に当接する下腿内側面部、及びアキレス腱の略中央部から脹脛の最大径の直下までの範囲に当接する下腿背面部を有する下腿装着部と、患足の前面側であって脛骨骨幹部の所定の位置を横断し、前記下腿内側面部、及び前記下腿外側面部を連結するベルト体と、一側が前記足底装着部の足内側面部、他側が前記下腿装着部の下腿内側面部にそれぞれ接続され、内果に略対応する位置に回転軸を有する足内連結部と、一側が前記足底装着部の足外側面部、他側が前記下腿装着部の下腿外側面部にそれぞれ接続され、外果に略対応する位置に回転軸を有する足外連結部とを備える。
【0014】
ここで、短下肢装具が、患足の足底が載置される足載置部、足載置部から立設し患足の足内側縦アーチから内果直下にかけての所定の範囲に当接する足内側面部、足載置部から立設し患足の足外側縦アーチから外果直下にかけての所定の範囲に当接する足外側面部を有する足底装着部を備えることにより、患足を足底装着部の足載置部に載置した状態において、足部の両側が足内側面部、又は足外側面部により支持されるため、短下肢装具を装着した患足に対して適切な底背屈運動を誘導することができる。
【0015】
また、患足の下腿の所定範囲に当接する下腿装着部を備えることにより、膝関節のアライメントを適切な位置に矯正するための矯正力を下腿に対して作用させることができる。
【0016】
また、下腿装着部は、外果直上から腓骨小頭直下までの範囲に当接する下腿外側面部を有することにより、腓骨に対して下腿内側への矯正力を作用させることで、膝関節に作用する内反力を抑制してO脚の症状を矯正し、膝関節のアライメントを適切な位置に矯正することができる。
【0017】
また、下腿装着部は、内果直上から脛骨の高さ方向の略中央部までの範囲に当接する下腿内側面部を備えることにより、下腿外側面部から下腿内側に作用する矯正力を下腿内側面部において受け止めることができる。このとき、下腿内側面部の高さ位置として脛骨の高さ方向の略中央付近の高さとすることで、下腿内側面部の上端で脛骨を支持しながら膝関節のアライメントを適切な位置に矯正することができる。
【0018】
また、アキレス腱の略中央部から脹脛の最大径の直下までの範囲に当接する下腿背面部を有することにより、脹脛が圧迫されることを防止して、下腿外側面部から膝関節に作用する矯正力を下腿の内側へと開放させることができる。
【0019】
また、患足の前面側であって脛骨骨幹部の所定の位置を横断し、下腿内側面部、及び下腿外側面部を連結するベルト体を備えることにより、膝関節の内外旋運動を抑制することで歩行時の疼痛を緩和し、膝関節の矯正効果を高めることができる。さらに、ベルト体により短下肢装具の患足に対する密着性を高めることができ、歩行時に短下肢装具がずれ落ちることを防止できる。
【0020】
また、一側が足底装着部、他側が下腿装着部にそれぞれ接続され内果に略対応する位置に回転軸を有する足内連結部と、一側が足底装着部、他側が下腿装着部にそれぞれ接続され外果に略対応する位置に回転軸を有する足外連結部とを備えることにより、足底装着部と下腿装着部とを足内連結部、及び足外連結部により連結することができる。このとき、患足の内果、及び外果の略対応する位置に足内連結部と足外連結部の回転軸がそれぞれ位置するため、患足の回外作用や回内作用が阻害されず円滑な底背屈運動を実現することができる。
【0021】
以上の構成により、短下肢装具を装着して起立、又は歩行する際には、患足から足載置部に対して鉛直下向きに荷重が作用し、該荷重を力点、足内側面部、及び足外側面部の周辺を支点とした場合に、テコの原理により下腿装着部の下腿外側面部を作用点として、関節に対して内側に向かう矯正力を作用させることができる。
【0022】
前記の目的を達成するために、本発明の短下肢装具は、患足の足底が載置される足載置部、該足載置部から立設し患足の足内側縦アーチから内果直下にかけての所定の範囲に当接する足内側面部、前記足載置部から立設し患足の足外側縦アーチから外果直下にかけての所定の範囲に当接する足外側面部を有する足底装着部と、内果直上から脛骨近位端までの範囲に当接する下腿内側面部、外果直上から腓骨の高さ方向の略中央部までの範囲に当接する下腿外側面部、及びアキレス腱の略中央部から脹脛の最大径の直下までの範囲に当接する下腿背面部を有する下腿装着部と、患足の前面側であって脛骨骨幹部の所定の位置を横断し、前記下腿内側面部、及び前記下腿外側面部を連結するベルト体と、一側が前記足底装着部の足内側面部、他側が前記下腿装着部の下腿内側面部にそれぞれ接続され、内果に略対応する位置に回転軸を有する足内連結部と、一側が前記足底装着部の足外側面部、他側が前記下腿装着部の下腿外側面部にそれぞれ接続され、外果に略対応する位置に回転軸を有する足外連結部とを備える。
【0023】
ここで、短下肢装具が、患足の足底が載置される足載置部、足載置部から立設し患足の足内側縦アーチから内果直下にかけての所定の範囲に当接する足内側面部、足載置部から立設し患足の足外側縦アーチから外果直下にかけての所定の範囲に当接する足外側面部を有する足底装着部を備えることにより、患足を足底装着部の足載置部に載置した状態において、足部の両側が足内側面部、又は足外側面部により支持されるため、短下肢装具を装着した患足に対して適切な底背屈運動を誘導することができる。
【0024】
また、患足の下腿の所定の範囲に当接する下腿装着部を備えることにより、膝関節のアライメントを適切な位置に矯正するための矯正力を下腿に対して作用させることができる。
【0025】
また、下腿装着部は内果直上から脛骨近位端までの範囲に当接する下腿内側面部を有することにより、脛骨に対して下腿外側への矯正力を作用させることで、膝関節に作用する外反力を抑制してX脚の症状を矯正し、膝関節のアライメントを適切な位置に矯正することができる。
【0026】
また、外果直上から腓骨の高さ方向の略中央部までの範囲に当接する下腿外側面部を備えることにより、下腿内側面部から下腿外側に作用する矯正力を下腿外側面部において受け止めることができる。このとき、下腿外側面部の高さ位置として腓骨の高さ方向の略中央付近までの高さとすることで、下腿外側面部の上端で腓骨を支持しながら膝関節のアライメントを適切な位置に矯正することができる。
【0027】
また、アキレス腱の略中央部から脹脛の最大径の直下までの範囲に当接する下腿背面部を有することにより、脹脛が圧迫されることを防止して、下腿内側面部から膝関節に作用する矯正力を下腿の外側へと開放させることができる。
【0028】
また、患足の前面側であって脛骨骨幹部の所定の位置を横断し、下腿内側面部、及び下腿外側面部を連結するベルト体を備えることにより、膝関節の内外旋運動を抑制することで歩行時の疼痛を緩和し、膝関節の矯正効果を高めることができる。さらに、ベルト体により短下肢装具の患足に対する密着性を高めることができ、歩行時に短下肢装具がずれ落ちることを防止できる。
【0029】
また、一側が足底装着部、他側が下腿装着部にそれぞれ接続され内果に略対応する位置に回転軸を有する足内連結部と、一側が足底装着部、他側が下腿装着部にそれぞれ接続され外果に略対応する位置に回転軸を有する足外連結部とを備えることにより、足底装着部と下腿装着部とを足内連結部、及び足外連結部により連結することができる。このとき、患足の内果、及び外果の略対応する位置に足内連結部と足外連結部の回転軸がそれぞれ位置するため、患足の回外作用や回内作用が阻害されず円滑な底背屈運動を実現することができる。
【0030】
また、ベルト体の一端は下腿内側面部の上端に固定され、ベルト体の他端は下腿外側面部の上端に固定されたホルダ部に挿通されて、ベルト体を任意の長さに調整可能な位置で係脱自在に係止されている場合には、ベルト体の長さを任意に変更することで、下腿装着部の下腿内側面部から下腿外側へと加わる矯正力を調整することができる。
【0031】
また、下腿装着部の表面には、凸状に湾曲したコルゲーションが下腿外側面部、下腿背面部、及び下腿内側面部にわたって形成されている場合には、下腿装着部の剛性を高めることができる。従って、下腿装着部に外力が加わったとしても、下腿装着部の変形、或いは破損を防止することができる。
【0032】
また、足内連結部は、一側が足底装着部の足内側面部に接続された第1の足内連結部、一側が下腿装着部の下腿内側面部に接続された第2の足内連結部を含み、第1の足内連結部の一側に対峙する他側と第2の足内連結部の一側に対峙する他側が内果に略対応する位置で締結部により締結されている場合には、患足の内果の略対応する位置に第1の足内連結部と第2の足内連結部の回転軸が位置するため、患足の回外作用や回内作用が阻害されず円滑な底背屈運動を実現することができる。
【0033】
また、足外連結部は、一側が足底装着部の足外側面部に接続された第1の足外連結部、一側が下腿装着部の下腿外側面部に接続された第2の足外連結部を含み、第1の足外連結部の一側に対峙する他側と第2の足外連結部の一側に対峙する他側が外果に略対応する位置で締結部により締結されている場合には、患足の外果の略対応する位置に第1の足外連結部と第2の足外連結部の回転軸が位置するため、患足の回外作用や回内作用が阻害されず円滑な底背屈運動を実現することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る短下肢装具は、歩行時における過剰な回旋運動を制御して、変形性膝関節症に伴う疼痛と病態の改善を図ることができるものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る短下肢装具の正面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る短下肢装具の背面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る短下肢装具の正面斜視図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る短下肢装具の連結部の要部拡大図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る短下肢装具を装着した際の患足に作用する力成分を示す図である
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る短下肢装具の正面図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る短下肢装具を装着した際の患足に作用する力成分を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、短下肢装具に関する本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明し、本発明の理解に供する。なお、各図においては、説明の便宜上、短下肢装具を患者の患足に装着した状態において、足部から下腿部に向かう方向を上方向、上方向の反対方向を下方向、上方向、及び下方向により表される軸方向を鉛直軸、鉛直軸と垂直な軸方向を水平軸、とそれぞれ定義する。また、説明の便宜上、以下では右足用の短下肢装具について説明する。
【0037】
[第1の実施形態]
まず、本発明を適用した第1の実施形態に係る短下肢装具1の全体構成について、
図1乃至
図3に基づいて説明する。第1の実施形態に係る短下肢装具1はO脚の矯正を目的とするものであり、足底装着部2、下腿装着部3、足内連結部4、及び足外連結部5から主に構成されている。
【0038】
足底装着部2は、患足の足底を載置する足載置部21、足載置部21の足内側から鉛直上方に向けて立設し患足の足内側縦アーチから内果直下までの所定の範囲に当接する足内側面部22、足載置部21の足外側から鉛直上方に向けて立設し患足の足外縦アーチから外果直下までの所定の範囲に当接する足外側面部23から構成されている。
【0039】
足内側面部22の上端部には、足内連結部4の一部である第1の足内連結部41が嵌挿される第1の足内凹部24が凹設され、足外側面部23の上端部には、足外連結部5の一部である第1の足外連結部5が嵌挿される第1の足外凹部25が凹設されている。
【0040】
足外側面部23には、患足を足載置部21に載置した状態で患足の足部を足載置部21に対して固定するための足部ベルト体26の一端が固定されている。足部ベルト体26は、所定の幅と長さを有する可撓性部材であり、足部ベルト体26の他端を足内側面部22に固定された足部ホルダ部27に係合させた状態で折り返し、面ファスナー等の固定手段により任意の位置で固定することで、患足の足部を足載置部21に対して強固に固定することができる。
【0041】
ここで、必ずしも、足部ベルト体26は有している必要はない。但し、足部ベルト体26により、足部の甲側が固定されるため、歩行時に短下肢装具1がずれたりすることを防止し、長時間において短下肢装具1による矯正力を確保することができる。
【0042】
下腿装着部3は、前面部が開放された後方支持式であり、下腿部の外側であって外果直上から腓骨小頭直下までの腓骨に沿った範囲に当接する下腿外側面部31と、下腿部の内側面であって内果直上から脛骨の高さ方向の略中央部までの脛骨に沿った範囲に当接する下腿内側面部32と、アキレス腱の略中央部から脹脛の最大径の直下までの範囲に当接する下腿背面部33が一体形成されている。また、下腿装着部3の表面には、下腿外側面部31、下腿背面部33、及び下腿内側面部32を横断するように鉛直方向にわたって凸状に湾曲したコルゲーション34が形成されている。
【0043】
なお、腓骨小頭を圧迫すると腓骨神経麻痺を引き起こす可能性があるため、下腿外側面部31の上端は、腓骨小頭直下、具体的には腓骨小頭から略3cm下方に当接するように下腿外側面部31の高さが調整される。
【0044】
ここで、必ずしも、下腿装着部3の表面にはコルゲーション34が形成されている必要はない。但し、コルゲーションが形成されていることにより、下腿装着部3の全体の剛性を高めることができるため、外力による下腿装着部3の破損を防止することができる。
【0045】
下腿装着部3の下腿内側面部32の下端には、足内連結部4の一部であり第1の足内連結部41と対峙する第2の足内連結部42が嵌挿される第2の足内凹部35が凹設され、下腿装着部3の下腿外側面部31の下端部には、足外連結部の一部であり第1の足外連結部5と対峙する第2の足外連結部5が嵌挿される第2の足外凹部36が凹設されている。
【0046】
下腿外側面部31には、患足に下腿装着部3を装着した状態で患足の下腿を下腿装着部3に対して固定するための下腿ベルト体37の一端が固定されている。下腿ベルト体37は、前記した足部ベルト体26と同様に、所定の幅と長さを有する可撓性部材であり、下腿ベルト体37の他端を下腿内側面部32に固定された下腿ホルダ部38に係合させた状態で面ファスナー等の固定手段により任意の位置で固定することで、患足の下腿を下腿装着部3に対して強固に固定することができる。
【0047】
第1の足内連結部41と第2の足内連結部42から構成された足内連結部4のうち、第1の足内連結部41は前記した通り第1の足内凹部24に嵌挿されており、一端が足底装着部2の足内側の上端部に固定されている。また、第2の足内連結部42は第2の足内凹部35に嵌挿されており、一端が下腿装着部3の下腿内側面部32の下側部に固定されている。そして、第1の足内連結部41と第2の足内連結部42の他端同士は締結部6により回転可能に軸支されている。
【0048】
第1の足外連結部51と第2の足外連結部52から構成された足外連結部5のうち、第1の足外連結部51は第1の足外凹部25に嵌挿されており、一端が足底装着部2の足外側の上側端部に固定されている。また、第2の足外連結部52は第2の足外凹部36に嵌挿されており、一端が下腿装着部3の足外側の下側部に固定されている。そして、第1の足外連結部51と第2の足外連結部52の他端同士は締結部6により回転可能に軸支されている。
【0049】
図2に示すように、第1の足内連結部41と第2の足内連結部42は患足の内果端点に略対応する位置に回転軸r1を有し、第1の足外連結部51と第2の足外連結部52は患足の外果端点に略対応する位置に回転軸r2を有する。このとき、回転軸r1と回転軸r2を結ぶ仮想線Lは水平軸線Hに対して略8~13°の傾斜角を有している。
【0050】
ここで、必ずしも、各回転軸r1、r2を内果端点、及び外果端点に略対応する位置に設ける必要はない。但し、各回転軸r1、r2を内果端点、及び外果端点に略対応する位置に設けることで、短下肢装具1の動きを患足の動きにより近づけることができるため、患足の回外作用や回内作用が阻害されず円滑な底背屈運動を実現することができる。
【0051】
次に、足内連結部4、及び足外連結部5の詳細な構造について
図4を用いて説明する。なお、足内連結部4、及び足外連結部5は同一の構造であるため、説明の便宜上、足外連結部5に基づいて説明する。
【0052】
図4(a)に示すように、足外連結部5を構成する第1の足外連結部51の他端には第1の足外段差部511が形成され、同じく第2の足外連結部52の他端には第2の足外段差部が形成されている。そして、第1の足外段差部511と第2の足外段差部521は、第1の足外連結部51と第2の足外連結部52が同一平面を構成するように互い違いに噛合いするように隙間なく凹凸嵌合されたうえで、締結部6により軸支されている。このとき、第1の足外段差部511と第2の足外段差部521の接合面は、同一勾配に傾斜した傾斜面が形成されている。
【0053】
ここで、必ずしも、第1の足外段差部511と第2の足外段差部521は凹凸嵌合されている必要はない。例えば、第1の足外段差部511と第2の足外段差部521の他端同士が凹凸嵌合されず、締結部6により軸支されていてもよい。但し、凹凸嵌合されていることにより、第1の足外段差部511と第2の足外段差部521の締結はより強固なものとなるため、凹凸嵌合構造を採用することが好ましい。
【0054】
また、必ずしも、第1の足外段差部511と第2の足外段差部521は、第1の足外連結部51と第2の足外連結部52が同一平面を構成するように嵌合されている必要はない。但し、第1の足外連結部51と第2の足外連結部52が同一平面を構成するように嵌合されていることにより、足外連結部5を省スペース内でも設置することができる。
【0055】
また、必ずしも、第1の足外段差部511と第2の足外段差部521の凹凸嵌合による接合面は、同一勾配に傾斜した傾斜面が形成されている必要はない。但し、凹凸嵌合されていることにより、第1の足外段差部511と第2の足外段差部521の締結はより強固なものとなるため、凹凸嵌合の接合面は傾斜面が形成されていることが好ましい。
【0056】
凹凸嵌合された第1の足外連結部51と第2の足外連結部52は、締結部6により揺動可能に軸支されている。具体的には、第1の足外段差部511と第2の足外段差部521を凹凸嵌合により嵌合した状態で、第1の足外凸部511に形成された取付孔512と、第2の足外凸部521に形成された取付孔522を重合させ、ボルト61a、及びナット62を挿通して固定される。
【0057】
ボルト61aは頭部が皿ネジで六角レンチにより回転可能な六角孔が形成されており、雄ネジは、例えばそのピッチが略0.5mmピッチに形成されている。
【0058】
ナット62は、頭部が平板状の円盤で、この頭部の裏面には、ボルト61aの雄ネジが螺合可能な雌ネジが内径に螺設されるとともに、外形が断面略四角形の凸柱部621を有している。
【0059】
この締結部6の具体的な取付方法としては、取付孔512と取付孔522を重合させた状態で、一方の側面からボルト61aを取付孔512と取付孔522に挿入する。また、他方の側面からナット62の凸柱部621を取付孔512と取付孔522に挿入するとともに、ボルト61aの雄ネジとナット62の雌ネジを螺合させ、締め付け固定する。
【0060】
第1の足外連結部51と第2の足外連結部52を締結部6により締結したら、
図4(b)に示すように、足外連結部5を足底装着部2、及び下腿装着部3に対してボルト61b、61cにより回動不能に固定する。
【0061】
次に、本発明の第1の実施形態に係る短下肢装具1の作用について
図5に基づいて説明する。
図5に示すように、例えば非荷重時(短下肢装具1を患足に装着した状態で使用者が横たわっている状態)には、患足の足部の両側は足底装着部2の足外側面部23、及び足内側面部22が当接しており、これら足内側面部22、及び足外側面部23からの当接力が支持力として足部の両側に作用する。また、患足の下腿の内側には下腿内側面部32が当接しており、下腿内側面部32からの支持力が下腿の脛骨に支持力として作用する。
【0062】
そして、足部、及び脛骨のそれぞれが支持された状態で、下腿外側面部31から腓骨の外側の筋肉に対して患足の内側への矯正力が作用すると、外側から内側に向かう圧力により腓骨が内側へと押される。さらに、脛骨も内側に押されることで、O脚の要因である関節外側の裂隙が改善し膝関節のアライメントを適正な位置(内側方向)へと矯正することができる。このとき、下腿ベルト体37を調整することで、下腿外側面部31からの矯正力を適宜調整することが可能となる。
【0063】
また、使用者が起立した状態(又は歩行時)においては、患足の足部の両側には非荷重時と同様に足内側面部22、及び足外側面部23からの当接力が支持力として作用するとともに、患足の下腿の内側である脛骨には下腿内側面部32からの当接力が支持力として作用する。さらに、腓骨に対しては下腿外側面部31からの矯正力が患足の内側に向けて作用する。
【0064】
このとき、足載置部21に鉛直下方に向けて荷重が作用するが、この荷重を力点、足底装着部2の足内側面部22、及び足外側面部23の周辺を支点とした場合に、テコの原理により下腿外側面部31からの矯正力が作用点となり、非荷重時に比べてより強い矯正力が腓骨小頭の直下に作用するため(歩行時は起立時に比べて荷重が大きくなるため、より大きな矯正力が作用する)、O脚の原因となる関節裂隙が改善し膝関節のアライメントを適正な位置へと矯正することができる。
【0065】
また、O脚の場合には、歩行時における膝関節が過度に内外旋し、それに伴う疼痛が強くなるが、下腿ベルト体37により歩行時における膝関節の内外旋運動が抑制されるため、歩行時における疼痛を抑制するとともに、O脚の症状を緩和することができる。
【0066】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態にかかる短下肢装具について説明する。なお、第1の実施形態と共通する構成については共通の符号を付するとともに、重複する説明については省略する。また、第1の実施形態と同様に、右足用の短下肢装具について説明する。
【0067】
第2の実施形態に係る短下肢装具1aは、X脚の矯正を目的とするものであり、主に下腿装着部3aの構成が第1の実施形態に係る短下肢装具1と異なる。具体的には、
図6に示すように、下腿装着部3aは、前面部が開放された後方支持式であり、下腿部の外側であって外果直上から腓骨の高さ方向の略中央高さまでの腓骨に沿った範囲に当接する下腿外側面部31aと、下腿部の内側面であって内果直上から脛骨近位端までの脛骨に沿った範囲に当接する下腿内側面部32aと、アキレス腱の略中央部から脹脛の最大径の直下までの範囲に当接する下腿背面部33aが一体形成されている。
【0068】
そして、下腿内側面部32aの上端には、患足に下腿装着部3aを装着した状態で患足の下腿を下腿装着部3aに対して固定するための下腿ベルト体37aの一端が固定されている。下腿ベルト体37aは、第1の実施形態と同様に、所定の幅と長さを有する可撓性部材であり、下腿ベルト体37aの他端を下腿外側面部31aに固定された下腿ホルダ部38aに係合させた状態で面ファスナー等の固定手段により任意の位置で固定することで、患足の下腿を下腿装着部3aに対して強固に固定することができる。
【0069】
次に、本発明の第2の実施形態に係る短下肢装具1aの作用について説明する。
図7に示すように、例えば非荷重時(短下肢装具1aを患足に装着した状態で使用者が横たわっている状態)には、患足の足部の両側は足底装着部2の足内側面部22、及び足外側面部23が当接しており、これら足内側面部22、及び足外側面部23からの当接力が支持力として足部の両側に作用する。また、患足の下腿の外側には下腿外側面部31aが当接しており、下腿外側面部31aからの支持力が下腿の脛骨に支持力として作用する。
【0070】
そして、足部、及び腓骨のそれぞれが支持された状態で、下腿内側面部32aから脛骨の外側の筋肉に対して患足の外側への矯正力が作用すると、内側から外側に向かう圧力により脛骨が外側へと押される。さらに、腓骨も外側に押されることで、X脚の要因である関節内側の裂隙が改善し膝関節のアライメントを適正な位置(外側方向)へと矯正することができる。このとき、下腿ベルト体37aを調整することで、下腿内側面部32aからの矯正力を適宜調整することが可能となる。
【0071】
また、使用者が起立した状態においては、患足の足部の両側には非荷重時と同様に足外側面部23、及び足内側面部22からの当接力が支持力として作用するとともに、患足の下腿の外側である腓骨には下腿外側面部31aからの当接力が支持力として作用する。さらに、脛骨に対しては下腿内側面部32aからの矯正力が患足の外側に向けて作用する。
【0072】
このとき、足載置部21に鉛直下方に向けて荷重が作用するが、この荷重を力点、足底装着部2の足内側面部22、及び足外側面部23の周辺を支点とした場合に、テコの原理により下腿内側面部32aからの矯正力が作用点となり、非荷重時に比べてより強い矯正力が脛骨近位端に作用するため(歩行時は起立時に比べて荷重が大きくなるため、より大きな矯正力が作用する)、X脚の原因となる関節裂隙が改善し膝関節のアライメントを適正な位置へと矯正することができる。
【0073】
また、X脚の場合には、歩行時における膝関節が過度に内外旋し、それに伴う疼痛が強くなるが、下腿ベルト体37aにより歩行時における膝関節の内外旋運動が抑制されるため、歩行時における疼痛を抑制するとともに、X脚の症状を緩和することができる。
【0074】
以上、本発明を適用した短下肢装具においては、歩行時における過剰な回旋運動を制御して、変形性膝関節症に伴う疼痛と病態の改善を図ることができるものとなっている。
【符号の説明】
【0075】
1、1a 短下肢装具
2 足底装着部
21 足載置部
22 足内側面部
23 足外側面部
24 第1の足内凹部
25 第1の足外凹部
26 足部ベルト体
27 足部ホルダ部
3、3a 下腿装着部
31、31a 下腿外側面部
32、32a 下腿内側面部
33 下腿背面部
34 コルゲーション
35 第2の足内凹部
36 第2の足外凹部
37、37a 下腿ベルト体
38 下腿ホルダ部
4 足内連結部
41 第1の足内連結部
42 第2の足内連結部
5 足外連結部
51 第1の足外連結部
511 第1の足外段差部
512 取付孔
52 第2の足外連結部
521 第2の足外段差部
522 取付孔
6 締結部
61a、61b、61c ボルト
62 ナット
621 凸柱部
r1、r2 回転軸