(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-25
(45)【発行日】2025-04-02
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質、前記正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20250326BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20250326BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20250326BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 D
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2022528132
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(86)【国際出願番号】 KR2020017599
(87)【国際公開番号】W WO2021112606
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-05-13
【審判番号】
【審判請求日】2024-01-26
(31)【優先権主張番号】10-2019-0160667
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ソ・ラ・ベク
(72)【発明者】
【氏名】ギ・ボム・ハン
(72)【発明者】
【氏名】サン・ウク・イ
(72)【発明者】
【氏名】ハク・ユン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・ミン・ハン
(72)【発明者】
【氏名】ワン・モ・ジュン
【合議体】
【審判長】岩間 直純
【審判官】渡辺 努
【審判官】須原 宏光
(56)【参考文献】
【文献】特許第4131521(JP,B2)
【文献】国際公開第2016/6557(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/137296(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/43189(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/104178(WO,A1)
【文献】特開2011-113825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子が凝集して形成された二次粒子の形態を有し、下記化学式1で表されるリチウム遷移金属酸化物を含む正極活物質であって、
前記リチウム遷移金属酸化物は、結晶粒のサイズが160nm以下であり、一次粒子の平均粒径が0.6μm以上であり、
前記正極活物質は、二次粒子の平均粒径D
50が相違する2種のリチウム遷移金属酸化物を含み、
[化学式1]
Li
1+aNi
xCo
y
Mn
zB
wO
2
前記化学式1中、
0≦a≦0.5、0.5≦x<1.0、0<y≦0.4、0<z≦0.4、0<w≦0.1である、正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム遷移金属酸化物100重量部に対して、ホウ素(B)は、0.02~0.3重量部で含まれる、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム遷移金属酸化物の結晶粒のサイズは、100nm~160nmである、請求項1または2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム遷移金属酸化物の一次粒子は、0.6μm~1.3μmの平均粒径を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記正極活物質は、二次粒子の平均粒径D
50が7μm~20μmである大粒径リチウム遷移金属酸化物と、二次粒子の平均粒径D
50が1μm~7μmである小粒径リチウム遷移金属酸化物とを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項6】
遷移金属水酸化物前駆体を準備するステップと、
遷移金属水酸化物前駆体、リチウム原料物質およびホウ素(B)含有原料物質を混合し、760℃~840℃で焼成して、ホウ素(B)ドープされたリチウム遷移金属酸化物を製造するステップとを含み、
前記ホウ素(B)ドープされたリチウム遷移金属酸化物は、下記化学式1で表され、結晶粒のサイズが160nm以下であり、一次粒子の平均粒径が0.6μm以上であり、
[化学式1]
Li
1+aNi
xCo
y
Mn
zB
wO
2
前記化学式1中、
0≦a≦0.5、0.5≦x<1.0、0<y≦0.4、0<z≦0.4、0<w≦0.1である、正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記遷移金属水酸化物前駆体は、下記化学式2で表され、
[化学式2]
Ni
x1Co
y1
Mn
z1(OH)
2
前記化学式2中、
0.5≦x1<1.0、0<y1≦0.4、0<z1≦0.4、x1+y1+z1=1である、請求項6に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記遷移金属水酸化物前駆体と前記ホウ素(B)含有原料物質は、遷移金属の総モル数:ホウ素のモル数が0.97:0.03~0.998:0.002になるようにする量で混合される、請求項6または7に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記リチウム原料物質は、遷移金属とホウ素の総モル数に対するリチウムのモル数比が1.0~1.2になるようにする量で混合される、請求項6から8のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記焼成は、760℃~800℃で15時間~30時間行われる、請求項6から9のいずれか一項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項11】
請求項1から5のいずれか一項に記載の正極活物質を含む、リチウム二次電池用正極。
【請求項12】
請求項11に記載のリチウム二次電池用正極を含む、リチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年12月5日付けの韓国特許出願第10-2019-0160667号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質、前記正極活物質の製造方法、前記正極活物質を含む正極およびリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
モバイル機器に関する技術開発と需要の増加に伴い、エネルギー源として二次電池の需要が急激に増加している。このような二次電池のうち、高いエネルギー密度と電圧を有し、サイクル寿命が長く、自己放電率が低いリチウム二次電池が商用化し、広く使用されている。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物が用いられており、中でも、作用電圧が高く容量特性に優れたLiCoO2などのリチウムコバルト複合金属酸化物が主に使用されている。しかし、LiCoO2は、脱リチウムによる結晶構造の不安定化のため、熱的特性が非常に劣っている。また、前記LiCoO2は、高価であるため、電気自動車などの分野における動力源として大量使用するには限界がある。
【0005】
前記LiCoO2の代わりに使用するための材料として、リチウムマンガン複合金属酸化物(LiMnO2またはLiMn2O4など)、リチウムリン酸鉄化合物(LiFePO4など)またはリチウムニッケル複合金属酸化物(LiNiO2など)などが開発されている。中でも、約200mAh/gの高い可逆容量を有することで大容量の電池の実現が容易なリチウムニッケル複合金属酸化物に関する研究開発がより活発になされている。しかし、前記LiNiO2は、LiCoO2に比べて熱安定性が劣り、充電状態で外部からの圧力などによって内部短絡が生じると、正極活物質自体が分解し、電池の破裂および発火を引き起こす問題があった。そのため、LiNiO2の優れた可逆容量は維持し、且つ低い熱安定性を改善するための方法として、Niの一部をCo、MnまたはAlで置換したリチウム遷移金属酸化物が開発されている。
【0006】
しかし、前記のように、Co、MnまたはAlで置換したリチウム遷移金属酸化物は、依然として熱安定性が劣るため、これを電池に適用した時に高温寿命特性および貯蔵特性が劣るという問題があった。
【0007】
したがって、熱安定性を改善して、高温で寿命特性および貯蔵特性を改善することができる正極活物質の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような問題を解決するために、本発明の第1技術的課題は、一次粒子のサイズおよび結晶のサイズが制御され、高温寿命特性および高温貯蔵特性を改善することができる正極活物質を提供することである。
【0010】
本発明の第2技術的課題は、前記正極活物質の製造方法を提供することである。
【0011】
本発明の第3技術的課題は、前記正極活物質を含む正極を提供することである。
【0012】
本発明の第4技術的課題は、前記正極を含むリチウム二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、一次粒子が凝集して形成された二次粒子の形態を有し、下記化学式1で表されるリチウム遷移金属酸化物を含み、前記リチウム遷移金属酸化物の結晶粒(Crystalline)のサイズが160nm以下であり、一次粒子の平均粒径が0.6μm以上である正極活物質を提供する。
[化学式1]
Li1+aNixCoyM1
zBwO2
前記化学式1中、M1は、MnまたはAlのうち少なくともいずれか一つを含み、0≦a≦0.5、0.5≦x<1.0、0<y≦0.4、0<z≦0.4、0<w≦0.1である。
【0014】
また、本発明は、遷移金属水酸化物前駆体を準備するステップと、遷移金属水酸化物前駆体、リチウム原料物質およびホウ素(B)含有原料物質を混合し、760℃~840℃で焼成して、ホウ素(B)ドープされたリチウム遷移金属酸化物を製造するステップとを含み、前記ホウ素(B)ドープされたリチウム遷移金属酸化物は、前記化学式1で表され、結晶粒のサイズが160nm以下であり、一次粒子の平均粒径が0.6μm以上である正極活物質の製造方法を提供する。
【0015】
また、本発明は、前記正極活物質を含むリチウム二次電池用正極を提供する。
【0016】
また、本発明は、前記リチウム二次電池用正極を含むリチウム二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法は、リチウム遷移金属酸化物の製造時に、ホウ素をドープし、特定の温度で焼成を行うことで、リチウム遷移金属酸化物の結晶のサイズは小さく、一次粒子は大きく形成されるようにした。
【0018】
前記のように、結晶のサイズと一次粒子のサイズが制御された本発明のリチウム遷移金属酸化物を含む正極活物質は、二次電池に適用された時に、優れた高温寿命特性、高温貯蔵特性およびガス発生特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0020】
本明細書および請求の範囲にて使用されている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適宜定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念に解釈すべきである。
【0021】
本発明において、「結晶粒(Crystalline)」は、規則的な原子配列を有する単結晶粒子単位を意味する。前記結晶粒のサイズは、正極活物質粉末をX線回折分析して得られたXRDデータをRietveld refinement方法で分析して測定することができる。この際、前記X線回折分析は、LynxEye XE‐T位置敏感型検出器(position sensitive detector)が装着されたBruker D8 Endeavor(光源:Cu‐Kα、λ=1.54Å)を用いて、一般粉末用ホルダー(holder)の溝に試料を入れ、スライドグラス(slide glass)を用いて試料の表面を均一にし、試料の高さがホルダーの縁部に一致するように充填した後、FDS0.5゜、2θ=15゜~90゜の領域に対してステップサイズ(step size)=0.02゜、total scan time=約20分の条件で測定した。
【0022】
測定されたデータに対して、各サイト(site)でのcharge(遷移金属サイトでの金属は、+3、LiサイトのNiは+2)とカチオン混合(cation mixing)を考慮してリートベルト解析(Rietveld refinement)を行った。具体的には、結晶粒のサイズの分析時に、instrumental broadening(装置による広がり)は、Bruker TOPASプログラムに組み込まれているFPA(Fundamental Parameter Approach)を用いて考慮され、フィッティング(fitting)時に測定範囲の全体のピークを使用した。ピーク形状(Peak shape)は、TOPASで使用可能なピークタイプ(peak type)のうちFP(First Principle)としてローレンチアン寄与(Lorenzian contribution)のみを使用してフィッティング(fitting)し、歪み(strain)は考慮しなかった。
【0023】
本発明において、「一次粒子」は、走査型電子顕微鏡(SEM)を介して正極活物質の断面を観察した時に、1個の塊として区別される最小粒子単位を意味し、一つの結晶粒からなることもでき、複数個の結晶粒からなることもできる。本発明において、前記一次粒子の平均粒径は、正極活物質粒子の断面SEMイメージで区別されるそれぞれの粒子径を測定した後、これらの算術平均値を計算して測定した。
【0024】
本発明において、「二次粒子」は、複数個の一次粒子が凝集して形成される二次構造体を意味する。前記二次粒子の平均粒径は、粒度分析装置を用いて測定されることができ、本発明では、粒度分析装置としてMicrotrac社製のs3500を使用した。
【0025】
本発明において、正極活物質の「粒径Dn」は、粒径による体積累積分布のn%地点での粒径を意味する。すなわち、D50は、粒径による体積累積分布の50%地点での粒径であり、D90は、粒径による体積累積分布の90%地点での粒径であり、D10は、粒径による体積累積分布の10%地点での粒径である。前記Dnは、レーザ回折法(laser diffraction method)を用いて測定することができる。具体的には、測定対象粉末を分散媒の中に分散させた後、市販のレーザ回折粒度測定装置(例えば、Microtrac S3500)に導入して、粒子がレーザビームを通過する時の粒子径による回折パターンの差を測定して粒度分布を算出する。測定装置における粒径による体積累積分布の10%、50%および90%になる地点での粒子直径を算出することで、D10、D50およびD90を測定することができる。
【0026】
正極活物質
本発明者らは、リチウム遷移金属酸化物の一次粒子のサイズおよび結晶粒のサイズを特定の範囲で制御することで、正極活物質の高温寿命特性、高温貯蔵特性およびガス発生特性を改善することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0027】
本発明による正極活物質は、一次粒子が凝集して形成された二次粒子の形態を有し、結晶粒のサイズが160nm以下であり、一次粒子の平均粒径が0.6μm以上であるリチウム遷移金属酸化物を含む。
【0028】
この際、前記リチウム遷移金属酸化物は、遷移金属の総モル数に対するニッケルのモル比が50モル%以上、好ましくは60モル%以上であり、ホウ素(B)でドープされたリチウム遷移金属酸化物であることができる。
【0029】
好ましくは、前記リチウム遷移金属酸化物は、下記化学式1で表されることができる。
【0030】
[化学式1]
Li1+aNixCoyM1
zBwO2
【0031】
前記化学式1中、M1は、MnまたはAlのうち1種以上であり、好ましくは、MnまたはMnおよびAlの組み合わせであることができる。
【0032】
前記1+aは、リチウム遷移金属酸化物内のリチウムのモル比を示し、0≦a≦0.5、好ましくは0≦a≦0.2、より好ましくは0≦a≦0.1であることができる。
【0033】
前記xは、リチウム遷移金属酸化物内の全体の遷移金属元素に対するニッケルのモル比を示し、0.5≦x<1.0、好ましくは0.6≦x≦0.98、より好ましくは0.6≦x≦0.95であることができる。
【0034】
前記yは、リチウム遷移金属酸化物内の全体の遷移金属元素に対するコバルトのモル比を示し、0<y≦0.4、好ましくは0<y≦0.3、より好ましくは0.05≦y≦0.3であることができる。
【0035】
前記zは、リチウム遷移金属酸化物内の全体の遷移金属元素に対するM1元素のモル比を示し、0<z≦0.4、好ましくは0<z≦0.3、より好ましくは0.01≦z≦0.3であることができる。
【0036】
前記wは、リチウム遷移金属酸化物内のホウ素のモル比を示し、0<w≦0.1、好ましくは0<w≦0.05、より好ましくは0<w≦0.02である。
【0037】
前記本発明によるリチウム遷移金属酸化物は、正極活物質前駆体、リチウム原料物質およびホウ素含有原料物質を混合した後、焼成することで製造されることができる。焼成時に、ホウ素含有原料を添加する場合、ホウ素(B)が正極活物質前駆体とリチウム原料物質との反応温度を下げて相対的に低い温度で焼成を行うことができ、低い焼成温度によって結晶粒成長が抑制され、結晶粒のサイズが小さいリチウム遷移金属酸化物を得ることができる。また、前記のように、焼成時にホウ素(B)が存在する場合、ホウ素が正極活物質前駆体とリチウム原料物質との反応を促進させる触媒剤としての役割を果たして一次粒子の成長を促進させ、同一の焼成条件でホウ素を添加せずに製造された正極活物質に比べて一次粒子のサイズが大きいリチウム遷移金属酸化物を得ることができる。
【0038】
具体的には、本発明において、前記リチウム遷移金属酸化物は、一次粒子の平均粒径が0.6μm以上、好ましくは0.6μm~1.3μm、より好ましくは0.6μm~1.0μmであることができる。一次粒子の平均粒径が前記範囲を満たす時に、正極製造または電池の充放電過程で粒子の割れが抑制されて、正極内微粉によって引き起こされる高温貯蔵特性の劣化および多量のガスの発生などを効果的に抑制することができる。
【0039】
また、本発明において、前記リチウム遷移金属酸化物は、結晶粒のサイズが160nm以下、好ましくは100nm~160nmであることができる。リチウム遷移金属酸化物の結晶粒のサイズが上述の範囲を満たす場合、充放電過程で発生する正極活物質内のクラック(crack)の生成が最小化し、サイクル進行による容量維持率を増加させ、抵抗増加率を抑制させることにより、高温寿命特性が改善することができる。
【0040】
また、前記リチウム遷移金属酸化物は、一次粒子が凝集してなる二次粒子の形態を示すことができる。
【0041】
正極活物質が、前記のように、二次粒子形態のリチウム遷移金属酸化物を含む場合、正極活物質と電解液の抵触面接が広くなり、正極活物質内のリチウムイオンの距離が短くなるため、高容量および高出力特性を達成することができる。
【0042】
また、前記正極活物質は、前記化学式1で表されるリチウム遷移金属酸化物100重量部に対して、ホウ素(B)を0.02~0.3重量部、好ましくは0.05~0.2重量部含むことができる。上述の範囲でホウ素(B)を含む場合、エネルギー密度の低下なしに、リチウム遷移金属酸化物の一次粒子の平均粒径を所望の範囲に制御することができる。ドープされるホウ素(B)の含量が上述の範囲未満である場合、一次粒子の成長が微小であるため、正極の製造または電池の充放電過程で粒子の割れによる微粉が発生しやすく、そのため、電池に適用時に高温貯蔵特性が低下し、ガスが多量発生して、スウェリング(swelling)現象を引き起こし得る。一方、前記ホウ素(B)の含量が上述の範囲を超える場合、過量のドーピング元素の添加によって正極活物質のエネルギー密度が低くなり得る。
【0043】
一方、本発明において、前記正極活物質は、二次粒子の平均粒径D50が相違する2種のリチウム遷移金属酸化物を含むことができる。すなわち、本発明による正極活物質は、二次粒子の平均粒径D50が大きい大粒径リチウム遷移金属酸化物と二次粒子の平均粒径D50が小さい小粒径リチウム遷移金属酸化物を含むバイモーダル粒径分布を有することができる。前記大粒径リチウム遷移金属酸化物と小粒径リチウム遷移金属酸化物は、それぞれ独立して前記化学式1で表される組成を有することができ、大粒径リチウム遷移金属酸化物と小粒径リチウム遷移金属酸化物の組成は、互いに同一であるか相違することができるが、大粒径リチウム遷移金属酸化物と小粒径リチウム遷移金属酸化物の組成が同一であることがより好ましい。
【0044】
一方、前記大粒径リチウム遷移金属酸化物の二次粒子の平均粒径(D50)は、7μm~20μm、好ましくは8μm~18μm、より好ましくは8μm~16μmであることができ、小粒径リチウム遷移金属酸化物の二次粒子の平均粒径(D50)は、1μm~7μm、好ましくは3μm~7μm、より好ましくは3μm~6μmであることができる。前記のようにバイモーダル粒径分布を有する正極活物質を使用する場合、高い電極密度およびエネルギー密度を有する正極を形成することができる。
【0045】
正極活物質の製造方法
次に、本発明による正極活物質の製造方法について説明する。
【0046】
本発明による正極活物質製造方法は、(1)遷移金属水酸化物前駆体を準備するステップと、(2)遷移金属水酸化物前駆体、リチウム原料物質およびホウ素(B)含有原料物質を混合し、760℃~840℃で焼成して、ホウ素(B)ドープされたリチウム遷移金属酸化物を製造するステップとを含む。
【0047】
この際、前記ホウ素(B)ドープされたリチウム遷移金属酸化物は、前記化学式1で表され、結晶粒のサイズが160nm以下であり、一次粒子の平均粒径が0.6μm以上であるリチウム遷移金属酸化物である。前記リチウム遷移金属酸化物は、上述のとおりであるため、具体的な説明は省略する。
【0048】
以下、本発明による正極活物質の製造方法についてより具体的に説明する。
【0049】
先ず、遷移金属水酸化物前駆体を準備する(第1ステップ)。
【0050】
この際、前記遷移金属水酸化物前駆体は、ニッケル、コバルトおよび金属元素M1(この際、M1は、MnまたはAlのうち少なくともいずれか一つを含むものである)を含む遷移金属水酸化物であることができ、好ましくは、遷移金属水酸化物内の遷移金属の総モル数に対するニッケルのモル比が50モル%以上、好ましくは60モル%以上である遷移金属水酸化物であることができる。
【0051】
前記遷移金属水酸化物前駆体は、市販の正極活物質用前駆体を購入して使用するか、または当該技術分野において周知の正極活物質用前駆体の製造方法により製造されることができる。
【0052】
好ましくは、前記遷移金属水酸化物前駆体は、下記化学式2で表されることができる。
【0053】
[化学式2]
Nix1Coy1M1
z1(OH)2
【0054】
前記化学式2中、M1は、MnまたはAlのうち少なくともいずれか一つを含むことができる。
【0055】
一方、前記x1は、0.5≦x1<1.0、好ましくは0.6≦x1≦0.98、より好ましくは0.6≦x1≦0.95であることができる。
【0056】
前記y1は、0<y1≦0.4、好ましくは0<y1≦0.3、より好ましくは0.05≦y1≦0.3であることができる。
【0057】
前記z1は、0<z1≦0.4、好ましくは0<z1≦0.3、より好ましくは0.01≦z1≦0.3であることができる。
【0058】
この際、x1+y1+z1=1であることができる。
【0059】
次いで、前記遷移金属水酸化物前駆体、リチウム原料物質およびホウ素(B)-含有原料物質を混合し、760℃~840℃で焼成して、ホウ素(B)-ドープされたリチウム遷移金属酸化物を製造する(第2ステップ)。
【0060】
前記ホウ素(B)含有原料物質は、ホウ素(B)を含む硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、ハライド、水酸化物またはオキシ水酸化物などを使用することができ、水などの溶媒に溶解可能なものであれば、特に制限なく使用可能である。具体的には、前記ホウ素含有原料物質は、H3BO3、B2O3、B4C、BF3、(C3H7O)3B、(C6H5O)3B、[CH3(CH2)3O]3B、C13H19O3、C6H5B(OH)2、B2F4またはこれらの組み合わせであることができるが、これに限定されるものではない。
【0061】
また、前記リチウム原料物質は、リチウムソースを含む化合物であれば、特に制限なく使用可能であり、好ましくは、炭酸リチウム(Li2CO3)、水酸化リチウム(LiOH・H2O)、LiNO3、CH3COOLiおよびLi2(COO)2からなる群から選択される少なくとも一つを使用することができる。
【0062】
一方、前記遷移金属水酸化物前駆体とホウ素(B)含有原料物質は、遷移金属の総モル数:ホウ素のモル数が0.97:0.03~0.998:0.002、好ましくは0.975:0.025~0.995:0.005になるようにする量で混合されることができる。
【0063】
また、前記リチウム原料物質は、遷移金属とホウ素の総モル数に対するリチウムのモル数の比、すなわち(Liのモル数/(遷移金属のモル数+ホウ素のモル数))が1.0~1.2、好ましくは1.0~1.1、より好ましくは1.01~1.08になるようにする量で混合されることができる。
【0064】
遷移金属水酸化物、ホウ素含有原料物質およびリチウム原料物質の配合比が前記範囲を満たす時に、一次粒子のサイズおよび結晶粒のサイズを所望の範囲に制御することができる。
【0065】
次に、前記遷移金属前駆体、リチウム原料物質およびホウ素含有原料物質の混合物を焼成する。
【0066】
この際、焼成温度は、760℃~840℃、好ましくは760℃~800℃であることができる。
【0067】
上述の温度範囲で焼成工程を行う場合、相対的に低い焼成温度によって結晶成長が抑制され、160nm以下、好ましくは100nm~160nmの結晶粒のサイズを有する正極活物質が合成されることができる。さらに、低い焼成温度によって正極活物質の粒子の内部が緻密に成長することから、粒子の強度が改善し、電極の製造時または電池の充放電時に、正極活物質の粒子の割れを抑制することができる。
【0068】
一方、840℃を超える温度で焼成工程を行う場合、粒子がアンバランスに大きくなる過焼成によって正極活物質の結晶粒のサイズが本発明範囲を超えて大きくなり得る。この場合、本発明の結晶粒のサイズを満たす正極活物質に比べて充電および放電過程の間に発生する単位格子内の体積の変化が大きく、そのため、サイクル進行による正極活物質内のクラック(crack)の発生が多くなるため、高温寿命特性が低下し得る。
【0069】
一方、前記焼成は、15時間~30時間、好ましくは17時間~25時間行われることができる。焼成時間が前記範囲を満たす時に、所望の一次粒子の平均粒径および結晶粒のサイズを有するリチウム遷移金属酸化物を製造することができる。焼成時間が過剰に短いと、一次粒子が充分に成長することができず、焼成時間が過剰に長いと、結晶粒が過剰に大きく成長し得る。
【0070】
本発明の製造方法によると、ホウ素(B)含有原料物質に含まれる前記ホウ素(B)によって正極活物質の製造時に焼成温度を下げても、前記Bによって正極活物質一次粒子の成長が促進されることから、相対的に低い焼成温度で焼成を行っても一次粒子の平均粒径が0.6μm以上であるリチウム遷移金属酸化物を製造することができる。
【0071】
一般的に、遷移金属の総モル数に対してNiの含量が50モル%以上である高含量のNi含有遷移金属水酸化物前駆体と、リチウム原料物質(例えば、LiOH・H2O)を混合し、焼成する時に、リチウムが溶ける時点から遷移金属水酸化物前駆体と反応が始まるが、この際、前記LiOH・H2Oの融点は、約400℃であるため、400℃以上では、遷移金属水酸化物前駆体とリチウムが反応する。しかし、前記Bは、Liと約150℃で反応することができるため、150℃ではBとLiが反応をするようになり、450℃以上でLiと遷移金属水酸化物前駆体の反応時に、前記Bが触媒剤の役割も果たすことができる。これによって、Liと遷移金属水酸化物前駆体の反応温度を下げて、前記Bを適用する場合、従来の高含量ニッケルを含む遷移金属水酸化物前駆体とリチウム原料物質との混合物の焼成温度より低い温度で焼成を行っても、前記Bによって正極活物質の一次粒子の成長が促進され、相対的に一次粒子の平均粒径が大きいリチウム遷移金属酸化物を得ることができる。
【0072】
したがって、焼成時にホウ素含有原料物質を添加し、特定の温度で焼成を行う本発明の製造方法によると、一次粒子の平均粒径が0.6μm以上であり、結晶のサイズが160nm以下であるリチウム遷移金属酸化物を製造することができる。
【0073】
正極
また、本発明は、上述の正極活物質を含むリチウム二次電池用正極を提供する。
【0074】
具体的には、前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも一面に位置し、上述の正極活物質を含む正極活物質層とを含む。
【0075】
前記正極集電体は、電池に化学的変化を引き起こさず、導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素またはアルミニウムやステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したものなどが使用されることができる。また、前記正極集電体は、通常、3~500μmの厚さを有することができ、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成して正極活物質の接着力を高めることもできる。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体などの様々な形態で使用されることができる。
【0076】
前記正極活物質層は、正極活物質とともに、導電材およびバインダーを含むことができる。
【0077】
この際、前記正極活物質は、正極活物質層の全重量に対して、80~99重量%、より具体的には85~98重量%の含量で含まれることができる。上述の含量範囲で含まれる時に、優れた容量特性を示すことができる。
【0078】
この際、前記導電材は、電極に導電性を与えるために使用されるものであり、構成される電池において、化学変化を引き起こさず、電子伝導性を有するものであれば、特に制限なく使用可能である。具体的な例としては、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの伝導性高分子などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記導電材は、正極活物質層の全重量に対して1~30重量%含まれることができる。
【0079】
前記バインダーは、正極活物質粒子間の付着および正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割を果たす。具体的な例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ビニリデンフルオライド‐ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF‐co‐HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐プロピレン‐ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの様々な共重合体などが挙げられ、これらのうち1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記バインダーは、正極活物質層の全重量に対して1~30重量%含まれることができる。
【0080】
前記正極は、上記の正極活物質を用いる以外は、通常の正極の製造方法により製造されることができる。具体的には、上記の正極活物質、および、選択的に、バインダーおよび導電材を溶媒の中に溶解または分散させて製造した正極合材を正極集全体上に塗布した後、乾燥および圧延することで製造されることができる。この際、前記正極活物質、バインダー、導電材の種類および含量は、上述のとおりである。
【0081】
前記溶媒としては、当該技術分野において一般的に使用される溶媒であることができ、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N‐メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)または水などが挙げられ、これらのうち、1種単独または2種以上の混合物が使用されることができる。前記溶媒の使用量は、正極合材の塗布厚さ、製造歩留まりを考慮して、前記正極活物質、導電材およびバインダーを溶解または分散させ、以降、正極の製造のための塗布時に、優れた厚さ均一度を示すことができる粘度を有するようにする程度であれば十分である。
【0082】
また、他の方法として、前記正極は、前記正極合材を別の支持体上にキャストした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを正極集電体上にラミネートすることで製造されることもできる。
【0083】
リチウム二次電池
また、本発明は、前記正極を含む電気化学素子を製造することができる。前記電気化学素子は、具体的には、電池、キャパシタなどであることができ、より具体的には、リチウム二次電池であることができる。
【0084】
前記リチウム二次電池は、具体的には、正極と、前記正極と対向して位置する負極と、前記正極と負極との間に介在されるセパレータおよび電解質とを含み、前記正極は、上述のとおりであるため、具体的な説明を省略し、以下、残りの構成についてのみ具体的に説明する。
【0085】
また、前記リチウム二次電池は、前記正極、負極、セパレータの電極組立体を収納する電池容器、および前記電池容器を密封する密封部材を選択的にさらに含むことができる。
【0086】
前記リチウム二次電池において、前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に位置する負極活物質層とを含む。
【0087】
前記負極集電体は、電池に化学的変化を引き起こさず、高い導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したもの、アルミニウム‐カドミウム合金などが使用されることができる。また、前記負極集電体は、通常、3μm~500μmの厚さを有することができ、正極集電体と同様、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成して負極活物質の結合力を強化することもできる。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体などの様々な形態で使用されることができる。
【0088】
前記負極活物質層は、負極活物質とともに、選択的にバインダーおよび導電材を含む。
【0089】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーションおよびデインターカレーションが可能な化合物が使用されることができる。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金またはAl合金など、リチウムとの合金化が可能な金属質化合物;SiOβ(0<β<2)、SnO2、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のようにリチウムをドープおよび脱ドープすることができる金属酸化物;またはSi‐C複合体またはSn‐C複合体のように前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物などが挙げられ、これらのいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用されることができる。また、前記負極活物質として金属リチウム薄膜が使用されることもできる。また、炭素材料は、低結晶性炭素および高結晶性炭素などがいずれも使用可能である。低結晶性炭素としては、ソフトカーボン(soft carbon)およびハードカーボン(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、鱗片状、球状または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、液晶ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、炭素微小球体(meso‐carbon microbeads)、液晶ピッチ(Mesophase pitches)および石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0090】
前記負極活物質は、負極活物質層の全重量に対して80重量%~99重量%含まれることができる。
【0091】
前記バインダーは、導電材、活物質および集電体の間の結合を容易にする成分であり、通常、負極活物質層の全重量に対して0.1重量%~10重量%添加される。このようなバインダーの例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐プロピレン‐ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレン‐ブタジエンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、フッ素ゴム、これらの様々な共重合体などが挙げられる。
【0092】
前記導電材は、負極活物質の導電性をより向上させるための成分であり、負極活物質層の全重量に対して10重量%以下、好ましくは5重量%以下で添加されることができる。このような導電材は、当該電池に化学変化を引き起こさず、導電性を有するものであれば、特に制限されるものではなく、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン;アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの導電性素材などが使用されることができる。
【0093】
例えば、前記負極活物質層は、負極集電体上に、負極活物質、および選択的にバインダーおよび導電材を溶媒の中に溶解または分散させて製造した負極合材を塗布し乾燥することで製造されるか、または前記負極合材を別の支持体上にキャストした後、この支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネートすることで製造されることができる。
【0094】
一方、前記リチウム二次電池において、セパレータは、負極と正極を分離し、リチウムイオンの移動通路を提供するものであり、通常、リチウム二次電池においてセパレータとして使用されるものであれば、特に制限なく使用可能であり、特に、電解質のイオン移動に対して低抵抗であり、且つ電解液の含湿能に優れるものが好ましい。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体およびエチレン/メタクリレート共重合体などのポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムまたはこれらの2層以上の積層構造体が使用されることができる。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布が使用されることもできる。また、耐熱性または機械的強度の確保のために、セラミック成分または高分子物質が含まれたコーティングされたセパレータが使用されることもでき、選択的に、単層または多層構造で使用されることができる。
【0095】
また、本発明で使用される電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル状高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などが挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0096】
具体的には、前記電解質は、有機溶媒およびリチウム塩を含むことができる。
【0097】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関わるイオンが移動することができる媒質の役割が可能なものであれば、特に制限なく使用可能である。具体的には、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ‐ブチロラクトン(γ‐butyrolactone)、ε‐カプロラクトン(ε‐caprolactone)などのエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)などのカーボネート系溶媒;エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R‐CN(Rは、炭素数2~20の直鎖状、分岐状または環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含むことができる)などのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;1,3‐ジオキソランなどのジオキソラン類;またはスルホラン(sulfolane)類などが使用されることができる。中でも、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度および高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、底粘度の直鎖状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはジエチルカーボネートなど)の混合物がより好ましい。
【0098】
前記リチウム塩は、リチウム二次電池で使用されるリチウムイオンを提供することができる化合物であれば、特に制限なく使用可能である。具体的には、前記リチウム塩は、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAl04、LiAlCl4、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(C2F5SO3)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiCl、LiI、またはLiB(C2O4)2などが使用されることができる。前記リチウム塩の濃度は、0.1~2.0Mの範囲内で使用することが好ましい。リチウム塩の濃度が前記範囲に含まれると、電解質が適切な伝導度および粘度を有することから優れた電解質の性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0099】
前記電解質には、前記電解質の構成成分の他にも、電池の寿命特性の向上、電池の容量減少の抑制、電池の放電容量の向上などを目的として、例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n‐グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N‐置換オキサゾリジノン、N,N‐置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2‐メトキシエタノールまたは三塩化アルミニウムなどの添加剤が1種以上さらに含まれることもできる。この際、前記添加剤は、電解質の全重量100重量部に対して0.1~5重量部含まれることができる。
【0100】
前記のように、本発明による正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性および寿命特性を安定的に示すことから、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルカメラなどのポータブル機器、およびハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)などの電気自動車分野などにおいて有用である。
【0101】
これにより、本発明の他の一具現例によると、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュールおよびこれを含む電池パックが提供される。
【0102】
前記電池モジュールまたは電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、およびプラグインハイブリッド電気自動車(Plug‐in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車;または電力貯蔵用システムのいずれか一つ以上の中大型デバイス電源として用いられることができる。
【0103】
本発明のリチウム二次電池の外形は、特に制限されないが、缶を使用した円筒型、角型、パウチ(pouch)型またはコイン(coin)型などになり得る。
【0104】
本発明によるリチウム二次電池は、小型デバイスの電源として使用される電池セルに使用されるだけでなく、多数の電池セルを含む中大型電池モジュールにおいて単位電池としても好ましく使用されることができる。
【0105】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例をあげて詳細に説明する。しかし、本発明による実施例は、様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲が以下で詳述する実施例に限定されるものと解釈してはならない。本発明の実施例は、当業界において平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0106】
実施例1
Ni0.6Co0.2Mn0.2(OH)2で表される前駆体、LiOH・H2OおよびH3BO3を、遷移金属(Me):Li:Bのモル比が0.97:1.02:0.03になるように混合し、780℃で23時間熱処理を行って、Bドープされた正極活物質を製造した。
【0107】
実施例2
790℃で熱処理する以外は、前記実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。
【0108】
比較例1
750℃で熱処理する以外は、前記実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。
【0109】
比較例2
850℃で熱処理する以外は、前記実施例1と同じ方法で正極活物質を製造した。
【0110】
比較例3
Ni0.6Co0.2Mn0.2(OH)2で表される前駆体およびLiOH・H2Oを、遷移金属(Me):Liのモル比が1:1.02になるように混合し、740℃で23時間熱処理を行って、正極活物質を製造した。
【0111】
比較例4
Ni0.6Co0.2Mn0.2(OH)2で表される前駆体およびLiOH・H2Oを、遷移金属(Me):Liのモル比が1:1.02になるように混合し、850℃で23時間熱処理を行って、正極活物質を製造した。
【0112】
比較例5
Ni0.6Co0.2Mn0.2(OH)2で表される前駆体、LiOH・H2OおよびH3BO3を、遷移金属(Me):Li:Bのモル比が0.92:1.02:0.08になるように混合し、780℃で23時間熱処理を行って、Bドープされた正極活物質を製造した。
【0113】
実験例1:正極活物質粒子の特性の確認
(1)正極活物質の一次粒子の平均粒径
前記実施例1~2および比較例1~5で製造した正極活物質の一次粒子の平均粒径を測定した。
【0114】
具体的には、走査型電子顕微鏡を用いて、実施例1~2および比較例1~5で製造した正極活物質の断面イメージを観察し、正極活物質断面のうち100個の一次粒子のサイズを測定した後、これらの算術平均値を一次粒子の平均粒径として測定した。測定結果は、下記[表1]に示した。
【0115】
(2)正極活物質結晶粒のサイズ
前記実施例1~2および比較例1~2で製造した正極活物質の一次粒子の結晶粒のサイズを測定した。
【0116】
具体的には、LynxEye XE‐T位置敏感型検出器(position sensitive detector)が装着されたBruker D8 Endeavor(Cu‐Kα、λ=1.54Å)を用いて、X線回折分析を実施し、得られたXRDデータを分析して結晶粒のサイズを測定した。この際、X線回折分析条件およびデータ処理方法は、上述のとおりである。測定結果は、下記表1に示した。
【0117】
【0118】
前記表1により、ホウ素ドーピングを行い、760~840℃で焼成を行った実施例1~2により製造された正極活物質の場合、一次粒子の平均粒径が0.6μm以上であり、結晶粒のサイズが160nm以下であることを確認することができる。一方、ホウ素ドーピングを行っても焼成温度が本発明の範囲から逸脱した比較例1および2の場合、一次粒子の平均粒径および結晶粒のサイズが本発明の範囲を満たしていないことが認められる。また、ホウ素ドーピングを行っていないとともに低い温度で焼成を行った比較例3の場合、正極活物質の一次粒子の平均粒径と結晶粒のサイズがいずれも本発明の範囲未満と低いことを確認することができた。比較例4の場合、ホウ素ドーピングを行っていないとともに高い温度で熱処理を行った比較例4の場合、正極活物質の結晶粒のサイズが実施例1~2に比べて大きく形成されたのに対し、一次粒子のサイズは小さく形成されたことを確認することができる。
【0119】
一方、比較例5の場合、過量のホウ素を含むことによって前駆体とリチウム原料物質との反応性がより低くなって過焼成し、一次粒子および結晶のサイズがいずれも本発明範囲を超えることを確認することができた。
【0120】
実験例2:高温寿命特性
実施例1~2および比較例1~5で製造した正極活物質を用いて、二次電池を製造し、前記実施例1~2および比較例1~5の正極活物質を含む二次電池それぞれに対して、高温特性を評価した。
【0121】
先ず、実施例1~2および比較例1~5でそれぞれ製造した正極活物質、導電材およびバインダーを、92:3:4の重量比でN‐メチルピロリドン(NMP)溶媒の中で混合して正極スラリーを製造した。前記正極スラリーを厚さが20μmであるアルミニウム箔上に塗布してから130℃で乾燥した後、圧延して正極を製造した。
【0122】
一方、負極活物質、導電材、およびバインダーを96:1.1:2.9の重量比で混合し、溶媒である蒸留水に添加して負極活物質スラリーを製造した。これを厚さが10μmである銅箔上に塗布し乾燥した後、ロールプレス(roll press)を実施して負極を製造した。
【0123】
前記で製造した正極と負極との間にセパレータを介在して電極組立体を製造した後、これを電池ケースの内部に位置させてから前記ケース内部に電解液を注入してリチウム二次電池を製造した。この際、電解液として、エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC):ジエチルカーボネート(DEC)を1:2:1の割合で混合した有機溶媒に1MのLiPF6を溶解させた電解液の全重量100重量部に対してビニレンカーボネート(VC)が2重量%になるように注入し、実施例1~2および比較例1~5によるリチウム二次電池を製造した。
【0124】
前記実施例1~2および比較例1~5の正極活物質を含むリチウム二次電池に対して、45℃で、0.5Cの定電流で4.2Vまで0.05Cカットオフで充電を実施し、以降、0.5Cの定電流で3.0Vまで放電を実施した。
【0125】
前記充電および放電挙動を1サイクルとし、このようなサイクルを400回繰り返して実施した後、実施例1~2および比較例1~5のリチウム二次電池の45℃での容量維持率を導き出し、その結果を下記表2に示した。
【0126】
【0127】
前記表2に示されているように、実施例1~2で製造した正極活物質を適用した二次電池が比較例1~5の二次電池に比べて、高温サイクルによる容量維持率がより改善したことを確認することができた。
【0128】
実験例3:高温貯蔵特性
前記実験例2により製造した実施例1~2および比較例1~5の二次電池の高温での貯蔵特性を測定した。
【0129】
具体的には、前記実施例1~2および比較例1~5の二次電池をそれぞれ4.2Vまで満充電した後、60℃で4週間保存した。
【0130】
保存する前に、満充電した二次電池の放電容量および体積を測定した。
【0131】
4週間後、保存した二次電池を0.5Cの定電流で4.2Vまで充電し、0.5Cの定電流で3.0Vまで放電した後、この時の放電容量および体積を測定し、保存する前に測定した二次電池の放電容量および体積と比較して、容量維持率および体積変化率を計算によって導き出した。その結果は、下記表3に示した。
【0132】
【0133】
前記表3に示されているように、実施例1~2の二次電池が、比較例1~5の二次電池に比べて高温貯蔵後容量特性に優れ、体積変化が少なくて高温でガスの発生が少ないことを確認することができた。