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特許7655652巻上機ブレーキの動トルク診断装置および動トルク診断方法
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  • 特許-巻上機ブレーキの動トルク診断装置および動トルク診断方法 図1
  • 特許-巻上機ブレーキの動トルク診断装置および動トルク診断方法 図2
  • 特許-巻上機ブレーキの動トルク診断装置および動トルク診断方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-25
(45)【発行日】2025-04-02
(54)【発明の名称】巻上機ブレーキの動トルク診断装置および動トルク診断方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/00 20060101AFI20250326BHJP
   B66B 5/02 20060101ALI20250326BHJP
【FI】
B66B5/00 D
B66B5/02 W
B66B5/00 G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023109754
(22)【出願日】2023-07-04
(65)【公開番号】P2025007976
(43)【公開日】2025-01-20
【審査請求日】2023-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】大塲 健翔
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/145725(WO,A1)
【文献】特開2016-183048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00
B66B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗りかごと吊り合いおもりとが主ロープにより懸架され、巻上機の回転駆動により前記乗りかごを走行させるエレベータにおいて、
乗りかご内に利用者が居ないとき、巻上機ブレーキで前記乗りかごを保持させるブレーキ制御部と、
巻上機ブレーキで前記乗りかごを保持させた状態で吊り合いおもり方向に巻上機トルクを印加して微速走行制御を実施するモータ制御部と、
ブレーキの静保持トルクを超えて巻上機が回転した際の巻上機トルクを検出し、検出された巻上機トルクに荷重アンバランスを補償する吊り合いトルクを加算して巻上機の動トルクを算出し、算出された動トルクが基準値を超えたか否かによって巻上機ブレーキの制動力を診断するブレーキ動トルク判定部と、を備え
前記巻上機ブレーキが第1ブレーキおよび第2ブレーキの2系統ある場合、前記ブレーキ制御部は、前記2系統のブレーキを個別に開閉制御させ、
前記ブレーキ動トルク判定部は、
第1ブレーキの動トルクの検出では、第2ブレーキを開放した状態で吊り合いおもり方向に微速走行制御を行ったときの巻上機トルクを検出し、検出された第1ブレーキの巻上機トルクと荷重アンバランスを補償する吊り合いトルクとを加算して第1ブレーキの動トルクを算出し、
第2ブレーキの動トルクの検出では、第1ブレーキを開放した状態で吊り合いおもり方向に微速走行制御を行ったときの巻上機トルクを検出し、検出された第2ブレーキの巻上機トルクと前記吊り合いトルクとを加算して第2ブレーキの動トルクを算出し、
算出された第1ブレーキおよび第2ブレーキの各動トルクと所定の基準値とを比較することで第1ブレーキおよび第2ブレーキの制動力を診断する、巻上機ブレーキの動トルク診断装置。
【請求項2】
前記巻上機ブレーキの動トルクが基準値を下回る場合には、動トルクの判定処理を複数回、繰り返し実施し、
複数回の判定処理の実施後にあっても、前記動トルクが前記基準値を下回る場合には監視センタへ警報を出力する、請求項1に記載の巻上機ブレーキの動トルク診断装置。
【請求項3】
乗りかご内に利用者が居ないとき、ブレーキで乗りかごを保持し、
この状態で吊り合いおもり方向に巻上機トルクを印加して微速走行制御を実施し、
ブレーキの静保持トルクを超えて巻上機が回転した際の巻上機トルクを検出し、
検出された巻上機トルクに荷重アンバランスを補償する吊り合いトルクを加算して巻上機の動トルクを算出し、
算出された動トルクが基準値を超えたか否かにより巻上機ブレーキの制動力を診断する、巻上機ブレーキの動トルク診断方法であって、
前記巻上機ブレーキが第1ブレーキおよび第2ブレーキの2系統ある場合、前記2系統のブレーキを個別に開閉制御し、
第1ブレーキの動トルクの検出では、第2ブレーキを開放した状態で吊り合いおもり方向に微速走行制御を行ったときの巻上機トルクを検出し、検出された第1ブレーキの巻上機トルクと荷重アンバランスを補償する吊り合いトルクとを加算して第1ブレーキの動トルクを算出し、
第2ブレーキの動トルクの検出では、第1ブレーキを開放した状態で吊り合いおもり方向に微速走行制御を行ったときの巻上機トルクを検出し、検出された第2ブレーキの巻上機トルクと前記吊り合いトルクとを加算して第2ブレーキの動トルクを算出し、
算出された第1ブレーキおよび第2ブレーキの各動トルクと所定の基準値とを比較することで第1ブレーキおよび第2ブレーキの制動力を診断する、巻上機ブレーキの動トルク診断方法。
【請求項4】
前記巻上機ブレーキの動トルクが基準値を下回る場合には、動トルクの判定処理を複数回、繰り返し実施し、
複数回の判定処理の実施後にあっても、前記動トルクが前記基準値を下回る場合には監視センタへ警報を出力する、請求項3に記載の巻上機ブレーキの動トルク診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、巻上機ブレーキの動トルク診断装置および動トルク診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータが走行中に停電や異常検知により非常停止すると、エレベータを駆動する巻上機への電力が遮断されブレーキを閉じて非常制動がかかる。このとき、ブレーキ制動力が強いとかご内の利用者に強い衝撃がかかってしまうため、法上、減速度は1G(G:重力加速度)以下と定められている。一方、ブレーキ制動力が弱すぎるとかごが停止せずにピットや昇降路頂部に衝突してしまう可能性があるため、適切なブレーキの動トルクを維持しなければならない。
【0003】
従来、動トルクの検出は、作業員が手動で行うことが多い。また、磁気検出器によってシーブの回転を検出し、加速度検出器によってシーブの振動を検出することで、非常制動をかけた時のブレーキ摩耗とシーブの摩耗を判断する方法がある。さらに、乗りかごが無人の時に、自動で高速UP運転し非常停止させて減速度からブレーキ制動力を算出する方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-116148号公報
【文献】特開2011-42480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来例では、動トルクを監視するための新たな装置が必要である。また、高速UP走行時に意図的に非常制動させる従来例では、ロープ等のエレベータ機器への負荷が大きく、日常的に行うと様々な機器の寿命を早めてしまうという不具合がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、動トルク監視用の新たな機器を付加することなくソフトウェアで動トルクを検出でき、エレベータ機器に負荷をかけずに定期的に自動測定可能な巻上機ブレーキの動トルク診断装置および動トルク診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための実施形態は、乗りかごと吊り合いおもりとが主ロープにより懸架され、巻上機の回転駆動により前記乗りかご走行させるエレベータにおいて、ブレーキ制御部と、モータ制御部と、ブレーキ動トルク判定部と、を備える。
【0008】
ブレーキ制御部は、乗りかご内に利用者が居ないとき、巻上機ブレーキで前記乗りかごを保持させる。モータ制御部は、巻上機ブレーキで前記乗りかごを保持させた状態で吊り合いおもり方向に巻上機トルクを印加して微速走行制御を実施する。ブレーキ動トルク判定部は、ブレーキの静保持トルクを超えて巻上機が回転した際の巻上機トルクを検出し、検出された巻上機トルクに荷重アンバランスを補償する吊り合いトルクを加算して巻上機の動トルクを算出し、算出された動トルクが基準値を超えたか否かによって巻上機ブレーキの制動力を診断する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態の構成を示すブロック図。
図2】本発明の実施形態の処理手順を示すフローチャート。
図3】本発明の他の実施形態の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施形態の構成>
図1は本発明の実施形態におけるシステム構成を示すブロック図である。
【0011】
同図に示すように、乗りかご1は、主ロープ2によって吊り合いおもり3と接続され、巻上機4によって上昇(UP走行)または下降(DN走行)される。巻上機4には第1ブレーキ5と第2ブレーキ6の2系統のブレーキ(ダブルブレーキ)が設置されている。また、巻上機4を駆動するモータの回転数を検出する回転検出器7と、巻上機4のモータを流れる電流を検出する電流検出器8が設けられ、検出された回転数および電流検出値はエレベータ制御装置10に出力されている。
【0012】
実施形態のエレベータ制御装置10は巻上機ブレーキの動トルク診断装置を構成し、モータ制御部11と、ブレーキ制御部12と、ブレーキ動トルク判定部13と、動トルク診断指令出力部14と、判定結果出力部15とを備える。
【0013】
モータ制御部11は、巻上機4の回転数を検出する回転検出器7からの回転数を入力するとともに、巻上機4からフィードバックされる電流検出値に基いて巻上機4のモータを駆動制御する。
【0014】
ブレーキ制御部12は、第1ブレーキ5および第2ブレーキ6の制動を制御する。
【0015】
ブレーキ動トルク判定部13は、動トルク診断指令を入力した場合に、モータ制御部11およびブレーキ制御部12に対して判定指令を出力して、ブレーキ動トルクの判定処理を実施する。
【0016】
動トルク診断指令出力部14は、乗客有無情報、呼び登録情報を加味して動トルク診断指令をブレーキ動トルク判定部13へ出力する。
【0017】
判定結果出力部15は、算出された巻上機4の動トルクに対する判定結果を監視センタ等へ出力する。
【0018】
<実施形態の処理手順>
《測定処理》
図2は実施形態における「測定処理」の手順を示し、図3は実施形態における「判定処理」の手順を示している。
【0019】
図2に示す測定処理では、前回測定から一定時間経過したか否かが判定され、例えば、前回測定から3日経過すると、測定時期到来と判定する(ステップS1)。一定時間としての「3日」は、日常的に監視したい場合の一例であり、任意に設定可能である。また、巻上機ブレーキの制動力は、周囲温度や季節によって変化するため、周囲温度や季節によって測定周期を変更してもよい。
【0020】
次いで、乗りかご1の停止状態が、一定時間、例えば「3分」続いたら(ステップS2)、荷重信号や監視カメラ等でかご内に利用者が居ないことを確認する(ステップS3)。ここで、一定時間としての「3分」も一例に過ぎず、例えば、深夜や早朝等の利用者の居ない時間帯であってもよい。利用者が居ない時間であると想定されると、エレベータ制御装置10は、荷重信号や監視カメラ等からの画像情報に基づき、乗りかご1内に利用者がいないことを確認する。また、呼び登録情報が無いことも確認する。確認がされると、動トルク診断指令出力部14は、ブレーキ動トルク判定部13に対して動トルク診断指令を出力する。ブレーキ動トルク判定部13は、ブレーキ制御部12に対してブレーキ制御指令を出力する。そして、荷重アンバランスを補償するために吊り合いおもりのトルク(吊り合いトルク)を算出する処理(1)を実行する(ステップS4)。吊り合いトルクの算出は、乗りかご1を一定速度で走行させたときの吊り合いおもりのトルクを測定の都度、計測することで算出される。
【0021】
ブレーキ制御部12は、ダブルブレーキとなっている一系統のブレーキについて、個別に開閉制御が可能である。ブレーキ制御部12は、例えば第2ブレーキ6を開放し、もう一系統の第1ブレーキ5のみで乗りかご1を保持する(ステップS5)。この状態で吊り合いおもり(C/W)3の方向(UP方向)に巻上機トルクを印加し、微速走行制御を行う(ステップS6)。ブレーキの静保持トルクを超えると巻上機4のシーブはブレーキを引き摺りながら回転して、一定速度を検出したか判定する(ステップS7)。この微速走行時の巻上機トルクを検出して記録する処理(2)を実行する(ステップS8)。
【0022】
検出した巻上機トルクと吊り合いトルク(荷重アンバランスを補償するトルク)とを加算((1)+(2))することでブレーキの動トルクを算出する(ステップS9)。これをもう一系統である第2ブレーキ6においても同様に実施する。
【0023】
《判定処理》
図3は、測定された動トルクの判定処理を示している。
【0024】
測定された動トルクが基準値以下である場合には(ステップS11)、図2に示した動トルク測定処理を所定回数、例えば3回繰り返し実施する(ステップS12)。ここで、「基準値」は、予め定められた基準値を指す場合、または基準値以内であるが、前回の測定値からの低下量が所定の低下量を超えている場合の2通りを指す。
【0025】
動トルク測定処理を所定回数繰り返すと、ブレーキを引き摺ることで、シーブからズレていたブレーキが元の位置に戻り擦り合わせ状態となってブレーキトルクの回復が見込める。動トルクが基準値以上に復帰すると(ステップS13YES)、判定処理は終了する。
【0026】
動トルク測定処理を所定回数繰り返した後であっても動トルクが基準値を下回る場合(ステップS13NO)には、判定結果出力部15から監視センタ等へ警報が出力される(ステップS14)。
【0027】
このように、本発明の実施形態によれば、エレベータ機器に負担をかけずに自動で定期的に動トルク測定が可能となる。
【0028】
また、定期的に巻上機トルクを監視することでトルク低下の予兆診断が可能で、ブレーキ調整、交換といった保守の計画を事前に立てることができる。
【0029】
従来、年次単位で定期点検を手動で実施している場合は、1年後の低下量を見込んだ基準で良否判定しているが、点検頻度を上げることで、基準値を緩和することが可能となる。
【0030】
<変化例>
以上の実施形態において、動トルクの低下を検知した場合、エレベータを停止させるとサービス性が低下するため、定格速度を落として運転を継続するようにしてもよい。これにより、動トルクが低下した状態で急制動がかかっても制動力の低下に起因して停止位置がずれこんで乗りかご1が終端まで行くのを防止できる。また、一律速度を落とすのではなく、荷重と運転方向の条件によって速度低下を変動させたり、終端付近のみで速度を低下させたりするようにすることもできる。これにより利用者に対するサービス性を損なうことが無く安全な運行を維持することができる。
【0031】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0032】
1…乗りかご、2…主ロープ、3…吊り合いおもり、4…巻上機、5…第1ブレーキ、6…第2ブレーキ、7…回転検出器、8…電流検出器、10…エレベータ制御装置、11…モータ制御部、12…ブレーキ制御部、13…ブレーキ動トルク判定部、14…動トルク診断指令出力部、15…判定結果出力部
図1
図2
図3