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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-25
(45)【発行日】2025-04-02
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20250326BHJP
   C08L 55/02 20060101ALI20250326BHJP
   C08L 25/08 20060101ALI20250326BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L55/02
C08L25/08
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021042299
(22)【出願日】2021-03-16
(65)【公開番号】P2022142207
(43)【公開日】2022-09-30
【審査請求日】2023-11-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沈 遒
(72)【発明者】
【氏名】江坂 英記
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/217687(WO,A1)
【文献】特開平09-067512(JP,A)
【文献】特開平09-316317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08L 55/02
C08L 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂と、
ABS樹脂と、
スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸-アクリロニトリル共重合体と、
アクリロニトリル-アクリル酸エステル-スチレン共重合体と、
を含み、
前記スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸-アクリロニトリル共重合体の構成単位は、各単量体単位の合計を100重量%としたときに、スチレン単量体単位30重量%以上70重量%以下、N-フェニルマレイミド単量体単位25重量%以上50重量%以下、無水マレイン酸単量体単位0.1重量%以上25重量%以下、アクリロニトリル単量体単位0.1重量%以上40重量%以下であり、
前記ポリカーボネート樹脂の含有量は、40質量部以上70質量部以下であり、
前記ABS樹脂の含有量は、25質量部以上40質量部以下であり、
前記スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸-アクリロニトリル共重合体の含有量は、3質量部以上20質量部以下であり、
前記アクリロニトリル-アクリル酸エステル-スチレン共重合体の含有量は、1質量部以上10質量部以下である、樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂組成物及びその樹脂組成物を成形した成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)とスチレン-アクリロニトリル-ブタジエン樹脂(ABS樹脂)のアロイ樹脂(PC/ABS樹脂)は、耐衝撃性、耐熱性、及び成形加工性に優れることから、車両用部品、家庭電化製品、及び事務機器部品等に広く利用されている。
【0003】
特許文献1には、PC樹脂と、ABS樹脂と、スチレン-無水マレイン酸系共重合体と、を含む樹脂組成物が開示されている。特許文献2には、ゴム強化ビニル系樹脂と、ポリオレフィン樹脂と、PC樹脂と、を含む樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-131867号公報
【文献】特開2019-19238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PC/ABS樹脂において、耐熱性の更なる向上が求められている。
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、耐熱性に優れる樹脂組成物及びその樹脂組成物を成形した成形品を提供することを目的とする。
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔1〕ポリカーボネート樹脂と、
ABS樹脂と、
スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸-アクリロニトリル共重合体と、
を含む、樹脂組成物。
【発明の効果】
【0007】
本開示の樹脂組成物は、耐熱性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここで、本開示の望ましい例を示す。
〔2〕前記ポリカーボネート樹脂の含有量は、5質量部以上95質量部以下であり、
前記ABS樹脂の含有量は、5質量部以上95質量部以下であり、
前記スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸-アクリロニトリル共重合体の含有量は、1質量部以上40質量部以下である、樹脂組成物。
〔3〕アクリロニトリル-アクリル酸エステル-スチレン共重合体を含む、樹脂組成物。
〔4〕前記アクリロニトリル-アクリル酸エステル-スチレン共重合体の含有量は、1質量部以上10質量部以下である、樹脂組成物。
〔5〕樹脂組成物を成形した成形品。
【0009】
以下、本開示を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0010】
1.樹脂組成物
本開示の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂と、ABS樹脂と、スチレン-N-フェニルマレイミド-無水マレイン酸-アクリロニトリル共重合体(以下、「PMI共重合体」ともいう)と、を含む。
【0011】
ポリカーボネート樹脂の含有量は、樹脂組成物の耐熱性及び成形性の向上の観点から、5質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましく、40質量部以上が更に好ましい。ポリカーボネート樹脂の含有量は、樹脂組成物の耐熱性及び成形性の向上の観点から、95質量部以下が好ましく、85質量部以下がより好ましく、70質量部以下が更に好ましい。これらの観点から、ポリカーボネート樹脂の含有量は、5質量部以上95質量部以下が好ましく、20質量部以上85質量部以下がより好ましく、40質量部以上70質量部以下が更に好ましい。
【0012】
ABS樹脂の含有量は、樹脂組成物の耐熱性及び成形性の向上の観点から、5質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましく、25質量部以上が更に好ましい。ABS樹脂の含有量は、樹脂組成物の耐熱性及び成形性の向上の観点から、95質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましく、40質量部以下が更に好ましい。これらの観点から、ABS樹脂の含有量は、5質量部以上95質量部以下が好ましく、15質量部以上70質量部以下がより好ましく、25質量部以上40質量部以下が更に好ましい。
【0013】
PMI共重合体の含有量は、樹脂組成物の耐熱性及び成形性の向上の観点から、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上が更に好ましい。PMI共重合体の含有量は、樹脂組成物の耐熱性及び成形性の向上の観点から、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下が更に好ましい。これらの観点から、ABS樹脂の含有量は、1質量部以上40質量部以下が好ましく、2質量部以上30質量部以下がより好ましく、3質量部以上20質量部以下が更に好ましい。
【0014】
樹脂組成物は、アクリロニトリル-アクリル酸エステル-スチレン共重合体(以下、AAS共重合体ともいう)を含むことが好ましい。
【0015】
2.ポリカーボネート樹脂
ポリカーボネート樹脂は、特に限定されない。ポリカーボネート樹脂は、一般式-〔-O-R-O-C(=O)-〕-で表される炭酸エステル結合を有する重合体である。Rは、一般的に炭化水素であり、原料となる2価ヒドロキシ化合物の種類により、例えば、芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、脂環族ポリカーボネートがある。また、1種の繰り返し単位からなる単独重合体であってもよく、2種以上の繰り返し単位からなる共重合体でもよい。2価ヒドロキシ化合物としてビスフェノールAを原料とするポリカーボネートは広く工業的に生産されており、好適に用いることができる。
【0016】
2価ヒドロキシ化合物としては、分子内にヒドロキシル基を2つ有する化合物であればよく、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、ヒドロキノン、レゾルシノール等のジヒドロキシベンゼン、4 ,4´-ビフェノール、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)-4-イソプロピルシクロヘキサン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、9,9-ビス(p-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(p-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、4,4´-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、4,4´-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、ビス(p-ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(p-ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(p-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(p-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、ビス(p-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p-ヒドロキシフェニル)スルホキシド等が挙げられる。これらは、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
ポリカーボネート樹脂の製造方法としては、公知の手法が採用できる。例えば、ビスフェノールAとジフェニルカーボネートを高温で溶融し、減圧下で生成するフェノールを除去しながらエステル交換反応させるエステル交換法(溶融法、溶融重合法とも呼ばれる)、塩化メチレンの存在下ビスフェノールAのカセイソーダ水溶液あるいは懸濁水溶液にホスゲンを作用させて合成するホスゲン法(界面重合法とも呼ばれる)、ビスフェノールAにピリジン、塩化メチレン存在下ホスゲンを反応させて合成するピリジン法などが挙げられる。
【0018】
ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量は、10,000~200,000が好ましく、より好ましくは10,000~100,000である。ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定されるポリスチレン換算の値である。
【0019】
3.ABS樹脂
ABS樹脂は、特に限定されない。ABS樹脂は、アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの三成分を含んだ樹脂である。ABS樹脂は、共重合体、グラフト共重合体、これらが混合したポリマーブレンドであってもよい。ABS樹脂の製造方法については特に制限はなく、例えば連続塊状重合、乳化重合、溶液重合、及び懸濁重合等のいずれの方法であってもよい。
【0020】
4.PMI共重合体
PMI共重合体は、特に限定されない。PMI共重合体は、スチレン単量体単位と、N-フェニルマレイミド単量体単位と、無水マレイン酸単量体単位と、アクリロニトリル単量体単位と、を構成単位とする共重合体である。PMI共重合体の重量平均分子量及び分子量分布(重量平均分子量/ 数平均分子量の比)は100,000~180,000及び2.0~3.5であって、重量平均分子量が100,000未満の場合、得られる樹脂組成物の機械特性が十分でなくなり、分子量分布が3.5を越えると、機械特性及び耐熱性が十分でなくなる。重量平均分子量が180,000を越える場合、または分子量分布が2.0未満であると、その樹脂組成物の衝撃強度が低くなり、成形品にシルバー等の不良現象が発生する。
【0021】
PMI共重合体は、例えば、温度280℃、剪断速度1,000s-1のときの溶融粘度が50Pa・S~600Pa・Sであることが好ましい。溶融粘度が50Pa・S未満の場合、耐熱付与効果が低くなる。また、溶融粘度が600Pa・Sを越えると、その樹脂組成物の衝撃強度が低くなり、成形品にシルバー等の不良現象が発生する。
【0022】
PMI共重合体のTg(ガラス転移温度)は、140℃~190℃が好ましく、150℃~190℃がより好ましい。Tgが140℃未満であると、耐熱付与効果が低くなる。また、Tgが190℃を越えると、得られる樹脂組成物の衝撃強度が低くなり、成形品にシルバー等の不良現象が発生する。
【0023】
PMI共重合体の構成単位は、各単量体単位の合計を100重量%としたときに、樹脂組成物の耐熱性及び成形性の向上の観点から、スチレン単量体単位30重量%以上70重量%以下、N-フェニルマレイミド単量体単位25重量%以上50重量%以下、無水マレイン酸単量体単位0.1重量%以上25重量%以下、アクリロニトリル単量体単位0.1重量%以上40重量%以下が好ましい。PMI共重合体の構成単位は、樹脂組成物の耐熱性及び成形性の向上の観点から、スチレン単量体単位40重量%以上65重量%以下、N-フェニルマレイミド単量体単位30重量%以上50重量%以下、無水マレイン酸単量体単位0.2重量%以上10重量%以下、アクリロニトリル単量体単位0.5重量%以上20重量%以下がより好ましい。PMI共重合体の構成単位は、樹脂組成物の耐熱性及び成形性の向上の観点から、スチレン単量体単位40重量%以上50重量%以下、N-フェニルマレイミド単量体単位45重量%以上55重量%以下、無水マレイン酸単量体単位0.5重量%以上2重量%以下、アクリロニトリル単量体単位2重量%以上10重量%以下が更に好ましい。
【0024】
PMI共重合体の製造方法としては、スチレン、N-フェニルマレイミド、及び必要に応じて用いる無水マレイン酸、これら単量体と共重合可能なアクリロニトリルを公知の方法で直接共重合してもよいし、無水マレイン酸をスチレン、及びこれら単量体と共重合可能なアクリロニトリルと共重合させた後、アンモニア及び/又は第1級アミンと反応させて不飽和ジカルボン酸イミド誘導体にしてもよい。しかしながら、これら共重合体を製造する方法としては後者、すなわち不飽和ジカルボン酸無水物単量体を芳香族ビニル単量体、及びこれら単量体と共重合可能なビニル単量体と共重合させた後にイミド化する方法が、共重合性及び経済性の点でより好ましい。なお、イミド化反応に用いる第1級アミンとしてはメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、シクロへキシルアミン、デシルアミン、アニリン、トルイジン、ナフチルアミン、クロロフェニルアミン、ジクロロフェニルアミン、ブロモフェニルアミン、ジブロモフェニルアミン等が挙げられ、これらの中でアニリンが特に好ましい。

【0025】
イミド化反応は、オートクレーブを用いて溶液状態、塊状状態あるいは懸濁状態で反応を行うことができる。また、スクリュー押出機等の溶融混練装置を用いて、溶融状態で反応を行うことも可能である。イミド化における溶液反応に用いられる溶媒は任意であり、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン等が例示される。イミド化の反応温度は50℃~350℃の範囲が好ましく、100℃~300℃の範囲が特に好ましい。
【0026】
イミド化反応は触媒の存在を必ずしも必要としないが、用いるならばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン等の第3級アミンが好適である。PMI共重合体は、従来より知られている連続塊状重合、乳化重合、溶液重合、及び懸濁重合等のいずれの方法によって得られたものであっても良いし、またこれらの重合法の複合化した技術によるものでも良いが、溶液重合法によるものが好ましい。
【0027】
5.AAS共重合体
AAS共重合体は、特に限定されない。AAS共重合体は、シアン化ビニル単量体単位、アクリル系ゴム単量体単位、および芳香族ビニル単量体単位と、を構成単位とする共重合体である。AAS共重合体は、必要に応じて任意の他の共重合し得る単量体を構成単位としてもよい。AAS共重合体は、例えば、アクリル系ゴムの存在下、単量体成分をグラフト重合させる方法などで得られる。重合の方法としては、例えば、連続塊状重合、乳化重合、溶液重合、及び懸濁重合等が挙げられる。AAS共重合体は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0028】
シアン化ビニル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられ、これらの中でも、アクリロニトリルが好適である。シアン化ビニル単量体は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0029】
アクリル系ゴムとしては、例えば、α,β-不飽和カルボン酸エステルを構成単位に有するものが好ましい。α,β-不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルが挙げられ、アクリル酸エステルが好適である。アクリル酸エステルとしては、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸オクチル等が挙げられる。アクリル系ゴムは、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0030】
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、о-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレンなどが挙げられ、これらの中でもスチレン、α-メチルスチレンが好適である。芳香族ビニル単量体は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0031】
AAS共重合体は、ASAとも表記し,アクリロニトリル単量体単位と、アクリル酸エステル単量体単位と、スチレン単量体単位と、を構成単位とする共重合体であることが好ましい。
【0032】
AAS共重合体の含有量は、樹脂組成物の耐熱性及び成形性の向上の観点から、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上が更に好ましい。AAS共重合体の含有量は、樹脂組成物の耐熱性及び成形性の向上の観点から、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましく、6質量部以下が更に好ましい。これらの観点から、AAS共重合体の含有量は、1質量部以上10質量部以下が好ましく、2質量部以上8質量部以下がより好ましく、3質量部以上6質量部以下が更に好ましい。
【0033】
AAS共重合体の粘度は、温度240℃、剪断速度1,000s-1のときの溶融粘度が200Pa・S~500Pa・Sであることが好ましい。
【0034】
AAS共重合体の構成単位は、各単量体単位の合計を100重量%としたときに、樹脂組成物の耐熱性及び成形性の向上の観点から、アクリロニトリル単量体単位5重量%以上35重量%以下、アクリル酸エステル単量体単位3重量%以上35重量%以下、スチレン単量体単位50重量%以上85重量%以下が好ましい。AAS共重合体の構成単位は、樹脂組成物の耐熱性及び成形性の向上の観点から、アクリロニトリル単量体単位10重量%以上30重量%以下、アクリル酸エステル単量体単位10重量%以上30重量%以下、スチレン単量体単位55重量%以上70重量%以下がより好ましい。AAS共重合体の構成単位は、樹脂組成物の耐熱性及び成形性の向上の観点から、アクリロニトリル単量体単位15重量%以上25重量%以下、アクリル酸エステル単量体単位15重量%以上25重量%以下、スチレン単量体単位60重量%以上65重量%以下が更に好ましい。
【0035】
6.成形品
樹脂組成物の成形方法は、公知の方法が採用できる。例えば、射出成形、シート押出成形、真空成形、ブロー成形、発泡成形、異型押出成形等が挙げられる。成形品は、自動車部品、家庭電化製品、事務機器部品等に用いることができる。
【実施例
【0036】
以下、実施例により更に具体的に説明する。
【0037】
1.樹脂組成物の作製
表1-2に示す配合割合で、各種樹脂組成物を作製した。表1-2において、主要な原料の詳細を以下に示す。
・ポリカーボネート樹脂(1):三菱エンジニアリングプラスチックス(株)社製 Lupilon(登録商標)S-1000 重量平均分子量Mw:25,000~26,000 ISO1183に準拠して測定したMVR:7.1
・ポリカーボネート樹脂(2):三菱エンジニアリングプラスチックス(株)社製 Lupilon(登録商標)S-2000 重量平均分子量Mw:23,000~24,000 ISO1183に準拠して測定したMVR:9.0
・ポリカーボネート樹脂(3):三菱エンジニアリングプラスチックス(株)社製 Lupilon(登録商標)H-3000 重量平均分子量Mw:18,000~19,000 ISO1183に準拠して測定したMVR: 28
・ABS樹脂(1):日本A&L(株)社製 クララスチック(登録商標)SRE、ISO1133に準拠して測定したMVR:7.0(220℃、10kg)、製造方法:乳化重合法
・ABS樹脂(2):日本A&L(株)社製 クララスチック(登録商標)ET-70、ISO1133に準拠して測定したMVR:9.0(220℃、10kg)、製造方法:連続塊状重合法
・PMI共重合体:デンカ(株)社製 デンカIP(登録商標)IPX-74、ISO1133に準拠して測定したMVR:7.0(240℃、10kg)、ガラス転移温度(Tg):177℃(DSC法)
・AAS共重合体:日本A&L(株)社製 ユニブライト(登録商標)UA-1500、ISO1133に準拠して測定したMVR:11.0
具体的には、以下のように実施例1-12及び比較例1の樹脂組成物の原料を決定した。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
<実施例1-3>
実施例1-3は、原料としてポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、PMI共重合体、及びAAS共重合体を用いた。実施例1-3は、ポリカーボネート樹脂としてポリカーボネート樹脂(1)~(3)を表1に示す配合割合で用いた。実施例1-3は、ABS樹脂として連続塊状重合法によって製造されたABS樹脂(2)を用いた。
【0041】
<実施例4-12>
実施例4-12は、原料としてポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、及びPMI共重合体を用いた。実施例4-12は、ポリカーボネート樹脂としてポリカーボネート樹脂(1)~(3)を表1に示す配合割合で用いた。実施例4-11は、ABS樹脂として連続塊状重合法によって製造されたABS樹脂(2)を用いた。実施例12は、ABS樹脂として乳化重合法によって製造されたABS樹脂(1)を用いた。
【0042】
<比較例1>
比較例1は、原料としてポリカーボネート樹脂、及びABS樹脂を用いた。比較例1は、ポリカーボネート樹脂としてポリカーボネート樹脂(2)(3)を表1に示す配合割合で用いた。比較例1は、ABS樹脂として連続塊状重合法によって製造されたABS樹脂(2)を用いた。
【0043】
2.評価方法
(1)耐熱性評価
耐熱性評価として、ISO75-1に準じて荷重撓み温度を測定した。フラットワイズA法(荷重1.80MPa)で、4mm×10mm×80mmの試験片に対して、開始温度を23.0℃とし、昇温速度120.0℃/hで昇温し、撓み量が標準撓み量(0.34mm)に達したときの温度(熱変形温度)を測定した。
【0044】
(2)成形性評価
実施例1-12及び比較例1の各樹脂組成物を成形した成形品(試験片)において、外観を評価した。実施例1-12及び比較例1の各樹脂組成物に対して、射出成形機(FANUC社製S-2000i100A)を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度60℃、射出速度80mm/sの成形条件で、1点ゲート注入により、長さ12cm、幅10cm、厚み3mmで30°斜面形状の先端を有する成形品各20枚を作製した。成形品におけるゲート周り及びゲート直下5cmまでの範囲内に、表面剥離、フローマーク等の外観不良が発生したサンプル数を統計して、外観評価を行った。
表1-2において、成形外観性の欄のA,B,Cは以下の通りである。

<成形外観性(成形体の状態)>
A:外観不良(表面剥離、フローマーク等が観察される状態)のサンプル数が0個
B:外観不良(表面剥離、フローマーク等が観察される状態)のサンプル数が1個~2個
C:外観不良(表面剥離、フローマーク等が観察される状態)のサンプル数が3個以上
【0045】
(3)塗装性評価
実施例1-12及び比較例1の各樹脂組成物を成形した成形品において、塗装性を評価した。上記(2)成形性評価と同様に、実施例1-12及び比較例1の各樹脂組成物を成形した成形品(試験片)を作製した。各成形品を、室温23℃、相対湿度50%雰囲気下の恒温室内に24時間放置して状態調整を行った。各成形品の正面に対して、アクリル系主剤のカラーベース塗料を用いて、塗膜厚みが20μm~30μmとなるように吹き付け塗装を行い、室温で10分間放置した。次に、アクリル系ポリオール主剤、イソシアネート系硬化剤、及びシンナーからなる塗料を用いて、塗膜厚みが30μm~40μmとなるように吹き付け塗装を行い、80℃で30分間乾燥し、塗装試験片を得た。
表1-2において、塗装性の欄のA,B,Cは以下の通りである。

<塗装性(塗装試験片の状態)>
A:塗装試験片の注入ゲート付近にクレージングの発生がなく、先端(斜面)角にワキがない
B:塗装試験片の注入ゲート付近に5mm角以下の薄いクレージングが発生し、先端(斜面)角にワキがない
C:塗装試験片の注入ゲート付近に5mm角以上の薄いクレージングが発生し、又は先端(斜面)角にワキが発生
【0046】
3.評価結果
(1)実施例1-12の各要件の充足状況
実施例1-3の樹脂組成物は、下記要件(a)-(d)を全て満たしている。実施例4-12の樹脂組成物は、下記要件(a)-(c)を全て満たしている。
・要件(a):ポリカーボネート樹脂を含む。
・要件(b):ABS樹脂を含む。
・要件(c):PMI共重合体を含む。
・要件(d):AAS共重合体を含む。
(2)比較例1の各要件の充足状況
比較例1の樹脂組成物は、上記要件(c)(d)を満たしていない。
【0047】
(3)結果及び考察
実施例1-12の樹脂組成物は、熱変形温度(撓み量が標準撓み量(0.34mm)に達したときの温度)が103℃~110℃であった。比較例1の樹脂組成物は、熱変形温度が98℃であった。実施例1-12の樹脂組成物は、上記要件(c)を満たす(PMI共重合体を含む)ことで、耐熱性が向上したことが考えられる。
実施例1-12の樹脂組成物は、成形外観性の評価がA又はBであった。比較例1の樹脂組成物は、成形外観性の評価がCであった。実施例1-12の樹脂組成物は、上記要件(c)を満たす(PMI共重合体を含む)ことで、成形性が向上したことが考えられる。
実施例1-12の樹脂組成物は、塗装性の評価がA又はBであった。比較例1の樹脂組成物は、塗装性の評価がCであった。実施例1-12の樹脂組成物は、上記要件(c)を満たす(PMI共重合体を含む)ことで、塗装性が向上したことが考えられる。
実施例1-3の樹脂組成物は、成形外観性及び塗装性の評価がAであった。実施例4-12の樹脂組成物は、成形外観性及び塗装性の評価がBであった。実施例1-3の樹脂組成物は、上記要件(d)を満たす(AAS共重合体を含む)ことで、成形性及び塗装性がより一層向上したことが考えられる。
連続塊状重合法によって製造されたABS樹脂を用いた実施例1-11の樹脂組成物と、乳化重合法によって製造されたABS樹脂を用いた実施例12の樹脂組成物は、ともに、比較例1の樹脂組成物に比べ、耐熱性、成形性及び塗装性が向上した。
【0048】
4.実施例の効果
以上の実施例によれば、樹脂組成物は、耐熱性、成形性及び塗装性を向上できた。実施例によれば、残留歪みが発生する傾向にある射出成型法により成形品を作製した後、成形品に塗装を施しても、クレージング及びワキ等の塗装不良の発生が抑制され、良好な外観を有する塗装済み成形品を提供することができる。
【0049】
本開示は上記で詳述した実施形態に限定されず、様々な変形又は変更が可能である。