(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-25
(45)【発行日】2025-04-02
(54)【発明の名称】神経変性障害を治療するための腸内微生物叢の制御
(51)【国際特許分類】
A61K 35/741 20150101AFI20250326BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20250326BHJP
A61K 35/742 20150101ALI20250326BHJP
A61K 35/744 20150101ALI20250326BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20250326BHJP
A61P 1/10 20060101ALI20250326BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20250326BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20250326BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20250326BHJP
【FI】
A61K35/741
A23L33/135
A61K35/742
A61K35/744
A61P1/00
A61P1/10
A61P25/08
A61P25/16
A61P25/28
(21)【出願番号】P 2018561529
(86)(22)【出願日】2017-05-22
(86)【国際出願番号】 US2017033881
(87)【国際公開番号】W WO2017205302
(87)【国際公開日】2017-11-30
【審査請求日】2020-04-23
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-04
(32)【優先日】2016-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508032284
【氏名又は名称】カリフォルニア インスティチュート オブ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100188499
【氏名又は名称】勝又 政徳
(74)【代理人】
【識別番号】100127568
【氏名又は名称】酒井 善典
(74)【代理人】
【識別番号】100171402
【氏名又は名称】上田 ▲茂▼
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】マズマニアン,サーキス,ケー.
(72)【発明者】
【氏名】サンプソン,ティモシー,アール.
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】齋藤 恵
【審判官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】The Journal of Neuroscience, 2002, Vol.22, No.5, pp.1763-1771
【文献】Behavioural Brain Research, 2009, Vol.196, pp.168-179
【文献】Lancet Neurol, 2004, Vol.3, pp.744-751
【文献】Parkinsonism and Related Disorders, 2015, Vol.21, pp.389-393
【文献】Movement Disorders, 2015, Vol.30, No.10, pp.1351-1360
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
MEDLINE/CAplus/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする対象のシヌクレイノパチーの
進行の遅延用または
α-シヌクレインを介した運動障害の
進行の遅延用組成物であって、
前記組成物が、前記対象において1種以上の細菌種の量を増加させることを特徴とし、
前記1種以上の細菌種のうち少なくとも1種が、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、リケネラ科(Rikenellaceae)、ペプトストレプトコッカス科(Peptostreptococcaceae)、クロストリジウム科(Clostridiaceae)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、クロストリジウム属(Clostridium)、バクテロイデス属(Bacteroides)またはブチリシコッカス属(Butyricicoccus)に属する細菌種であり、
短鎖脂肪酸(SCFA
)である酢酸塩
の合成に関与する酵素の阻害剤、
SCFAであるプロピオン酸塩
の合成に関与する酵素の阻害剤およびSCFAである酪酸塩
の合成に関与する酵素の阻害剤を含み、かつ健常な対象から得た腸内微生物叢を含む、組成物。
【請求項2】
前記対象がα-シヌクレイン(αSyn)の凝集異常を示す、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記対象の1つ以上の身体障害を改善することができる、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記対象の1つ以上の消化管機能を改善することができる、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
前記対象の便秘を緩和することができる、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項6】
前記運動障害が、振戦、筋強剛、運動緩慢、歩行障害またはこれらの任意の組み合わせである、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記対象のミクログリアの活性化を低下させる、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記対象のα-シヌクレイン(αSyn)凝集体を減少させる、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
不溶性αSynタンパク質凝集体の除去を促進することができるか、αSynタンパク質の凝集を減少させることができるか、またはこれらの両方を行うことができる、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記対象の神経炎症を緩和する、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記シヌクレイノパチーが、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症またはこれらの任意の組み合わせである、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記シヌクレイノパチーがパーキンソン病である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記シヌクレイノパチーが、原発性もしくは特発性のパーキンソニズム、二次性もしくは後天性のパーキンソニズム、遺伝性パーキンソニズム、パーキンソンプラス症候群もしくは多系統変性症、またはこれらの任意の組み合わせである、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
1種以上の抗生物質をさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記1種以上の抗生物質が、アンピシリン、バンコマイシン、ネオマイシン、ゲンタマイシン、エリスロマイシンまたはこれらの任意の組み合わせを含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記1種以上の抗生物質が、リファンピシンおよび/またはミノサイクリンを含まない、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
プロバイオティクス組成物、栄養機能組成物、医薬組成物またはこれらの任意の組み合わせである、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記対象において、パーキンソン病(PD)を増悪させる1種以上の細菌種の量を減少させる、請求項1~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記PDを増悪させる1種以上の細菌種のうち少なくとも1種が、プロテウス属(Proteus)、ビロフィラ属(Bilophila)、ロゼブリア属(Roseburia)、シュードラミバクター属(Pseudoramibacter)、ユーバクテリウム属(Eubacterium)またはベイヨネラ科(Veillonellaceae)に属する細菌種である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記PDを増悪させる1種以上の細菌種のうち少なくとも1種が、短鎖脂肪酸(SCFA)産生細菌である、請求項18に記載の組成物。
【請求項21】
前記SCFA産生細菌が、KEGGのK00929ファミリー、K01034ファミリーまたはK01035ファミリーに属する細菌である、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記対象が抗生物質による処置を受けていない、請求項1~13および請求項17~21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
抗生物質を含まない、請求項1~13および請求項17~21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
リファンピシンおよび/またはミノサイクリンを含まない、請求項1~13および請求項17~21のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、米国特許法第119条(e)の下、2016年5月23日に出願された米国仮出願第62/340408号、2016年8月3日に出願された米国仮出願第62/370578号および2017年1月9日に出願された米国仮出願第62/443952号に基づく優先権を主張するものである。これらの関連出願の内容は、参照によりその全体が明示的に本明細書に援用される。
【0002】
連邦政府の助成による研究開発に関する陳述
本発明は、米国国立衛生研究所によって供与された助成金(No.NS085910)に基づく政府支援を得てなされたものである。米国政府は本発明に関し一定の権利を保有する。
【0003】
本開示は、概して、神経変性疾患(たとえばパーキンソン病)の診断分野および治療分野に関する。
【背景技術】
【0004】
神経機能障害は様々なヒト疾患の基礎疾患である。行動障害、精神障害および神経変性障害では、中枢神経系(CNS)に特徴的な神経病変が見られることが多い。神経病変の一つであるアミロイドーシスは、特定の神経タンパク質の異常な凝集から生じ、様々な細胞機能を破壊する。罹患組織では、構造変化を起こした不溶性タンパク質凝集体がしばしば見られ、このような凝集体の構造変化は推定で50種のヒト疾患の要因となっていると考えられている(SacchettiniおよびKelly,2002)。アミロイドによる神経変性障害(アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病(PD)など)は、種々のアミロイドタンパク質と関連している(Brettschneiderら,2015)。これらの疾患の中でもPDは、米国で2番目に罹患率の高い神経変性疾患であり、推定で100万人あるいは60歳以上の米国人口の1%が罹患している(Nallsら,2014)。世界中で約300万人のPD患者およびその介護者が、消耗性症状をきたすことが多いPDに苦しんでおり、その症状としては、振戦、筋強剛、運動緩慢、歩行障害などの運動障害が見られる。PDは、環境要因の影響が強く見られる多因子疾患であり、遺伝的要因により発症する症例は10%未満に留まっている(Nallsら,2014)。また、α-シヌクレイン(αSyn)の凝集は、シヌクレイノパチーと総称される疾患群(PD、多系統萎縮症、レビー小体疾患などを含む)において病原性であると考えられている(Brettschneiderら,2015;Lukら,2012;Prusinerら,2015)。αSynの凝集は段階的に進み、オリゴマーと非一過性線維が神経細胞内に蓄積する。黒質緻密部(SNpc)のドーパミン作動性ニューロンは、αSyn凝集体の作用による傷害を特に受けやすいと見られている。ドーパミン調節薬は、PDの第一線治療薬であるが、重大な副作用を起こすことがあり、効力が失われることが多い(Jenner,2008)。高齢化し続ける社会において、寿命の延長が達成されたことと一見矛盾してますます増大するPDの負担に対処するため、安全で効果的な治療薬を見出すことが必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は、運動障害および神経炎症の改善を必要とする対象、たとえば神経変性障害(たとえばパーキンソン病)に罹患している対象の運動障害および神経炎症の改善に使用することができる方法および組成物を開示する。さらに、パーキンソン病などの神経変性障害の診断に使用することができる方法および組成物を開示する。
【0006】
いくつかの実施形態において、対象の神経変性障害を治療する方法であって、神経変性障害に罹患しており、該神経変性障害の治療を必要とする対象の腸内微生物叢の組成を調節することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、対象における神経変性障害の発症を遅延させるか、またはその発症の可能性を低下させる方法であって、神経変性障害を発症するリスクがあり、該神経変性障害の発症の遅延またはその発症の可能性の低下を必要とする対象の腸内微生物叢の組成を調節することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、前記神経変性障害は、シヌクレイノパチーであり、たとえば、パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症、多系統萎縮症またはこれらの任意の組み合わせである。
【0007】
いくつかの実施形態において、運動障害の改善を必要とする対象(たとえばシヌクレイノパチー(パーキンソン病を含む)を有する対象)の運動障害を改善する方法であって、該対象の腸内微生物叢の組成を調節することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、ミクログリアの活性化の低下を必要とする対象においてミクログリアの活性化を低下させる方法であって、該対象の腸内微生物叢の組成を調節することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、α-シヌクレイン(αSyn)凝集体の減少を必要とする対象においてαSyn凝集体を減少させる方法であって、該対象の腸内微生物叢の組成を調節することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、前記方法は、不溶性αSynタンパク質凝集体の除去を促進することができるか、αSynタンパク質の凝集を減少させることができるか、またはこれらの両方を行うことができる。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記対象におけるαSynの凝集率および/もしくは凝集度を測定すること、前記対象における不溶性αSynタンパク質凝集体の除去率および/もしくは除去度を測定すること、またはこれらの組み合わせを測定することを含む。いくつかの実施形態において、前記対象の脳におけるαSynの凝集率および/もしくは凝集度、前記対象の脳における不溶性αSynタンパク質凝集体の除去率および/もしくは除去度、またはこれらの組み合わせが測定される。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記対象の腸内微生物叢の組成を調節した後に、該対象におけるαSynの凝集率および/もしくは凝集度を測定すること、該対象における不溶性αSynタンパク質凝集体の除去率および/もしくは除去度を測定すること、またはこれらの組み合わせを測定することをさらに含む。
【0008】
いくつかの実施形態において、神経炎症の緩和を必要とする対象において神経炎症を緩和する方法であって、該対象の腸内微生物叢の組成を調節することを含む方法が提供される。
【0009】
本明細書に開示される方法において、該方法を必要とする対象は、たとえば、アミロイドによる神経変性障害(たとえばシヌクレイノパチー)に罹患している対象であってもよい。シヌクレイノパチーとしては、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症およびこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、前記方法を必要とする対象は、パーキンソン病に罹患している対象である。いくつかの実施形態において、本明細書に開示される方法は、該方法を必要とする対象を特定することをさらに含み、該方法を必要とする該対象はα-シヌクレイン(αSyn)の凝集異常を示す。いくつかの実施形態において、前記方法を必要とする対象を特定することは、該対象におけるαSynの凝集率および/もしくは凝集度を測定すること、該対象における不溶性αSynタンパク質凝集体の除去率および/もしくは除去度を測定すること、またはこれらの組み合わせを測定することを含む。いくつかの実施形態において、前記対象の脳におけるαSynの凝集率および/もしくは凝集度、前記対象の脳における不溶性αSynタンパク質凝集体の除去率および/もしくは除去度、またはこれらの組み合わせが測定される。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記対象の腸内微生物叢の組成を調節した後に、該対象におけるαSynの凝集率および/もしくは凝集度を測定すること、該対象における不溶性αSynタンパク質凝集体の除去率および/もしくは除去度を測定すること、またはこれらの組み合わせを測定することをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記対象の1つ以上の身体障害を改善することができる。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記対象の1つ以上の消化管機能を改善することができる。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記対象の便秘を緩和することができる。いくつかの実施形態において、前記運動障害は、振戦、筋強剛、運動緩慢、歩行障害またはこれらの任意の組み合わせである。
【0010】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される方法は、前記対象の腸内微生物叢の組成を正常レベルに回復させることができる。いくつかの実施形態において、前記対象の腸内微生物叢の組成を調節することは、該対象に1種以上の抗生物質を投与することを含む。前記抗生物質は、天然抗生物質、合成抗生物質、半合成抗生物質のいずれであってもよい。前記1種以上の抗生物質は、たとえば、アンピシリン、バンコマイシン、ネオマイシン、ゲンタマイシン、エリスロマイシン、テイコプラニン、ドキシサイクリン、テトラサイクリン、ノルフロキサシン、シプロフロキサシン、オーグメンチン、セファレキシン(たとえばケフレックス)、ペニシリン、アンピシリン、カナマイシン、リフォマイシン、リファキシミン、ネオマイシン、メトロニダゾールまたはこれらの任意の組み合わせを含んでいてもよい。前記抗生物質は、経口投与してもよく、静脈内投与してもよく、直腸内投与してもよく、またはこれらの組み合わせで投与してもよい。いくつかの実施形態において、前記1種以上の抗生物質は、リファンピシンおよび/またはミノサイクリンを含まない。いくつかの実施形態において、前記対象の腸内微生物叢の組成を調節することは、パーキンソン病(PD)を増悪させる1種以上の微生物代謝産物に対する阻害剤を、該対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、前記対象の腸内微生物叢の組成を調節することは、PDを増悪させる1種以上の微生物代謝産物に対する抗体、PDを増悪させる1種以上の微生物代謝産物のインビボ合成中間体に対する抗体、またはPDを増悪させる1種以上の微生物代謝産物のインビボ合成基質に対する抗体を、該対象に投与することを含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記対象の腸内微生物叢の組成を調節することは、パーキンソン病(PD)を増悪させる1種以上の微生物代謝産物のインビボ合成に関与する酵素に対する阻害剤を、該対象に投与することを含む。前記PDを増悪させる1種以上の微生物代謝産物は、たとえば、1種以上の脂肪酸、その塩もしくはエステル、またはこれらの任意の組み合わせを含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、前記PDを増悪させる1種以上の微生物代謝産物は、1種以上の短鎖脂肪酸(SCFA)、その塩もしくはエステル、またはこれらの任意の組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、前記PDを増悪させる1種以上の微生物代謝産物は、1種以上の中鎖脂肪酸、1種以上の長鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸の塩もしくはエステル、長鎖脂肪酸の塩もしくはエステル、またはこれらの任意の組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、前記PDを増悪させる1種以上の微生物代謝産物は、短鎖脂肪酸(SCFA)である酢酸塩、短鎖脂肪酸(SCFA)であるプロピオン酸塩、短鎖脂肪酸(SCFA)である酪酸塩、またはこれらの任意の組み合わせを含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記対象の腸内微生物叢の組成を調節することは、該対象において、パーキンソン病(PD)に対して保護作用を有する1種以上の細菌種の量を増加させることを含む。いくつかの実施形態において、前記対象の腸内微生物叢の組成を調節することは、PDに対して保護作用を有する1種以上の細菌種を含む組成物を、該対象に投与することを含む。前記PDに対して保護作用を有する1種以上の細菌種のうち少なくとも1種は、たとえば、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、リケネラ科(Rikenellaceae)、ペプトストレプトコッカス科(Peptostreptococcaceae)、クロストリジウム科(Clostridiaceae)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、クロストリジウム属(Clostridium)、バクテロイデス属(Bacteroides)またはブチリシコッカス属(Butyricicoccus)に属する細菌種であってもよい。いくつかの実施形態において、前記組成物は、プロバイオティクス組成物、栄養機能組成物、医薬組成物またはこれらの任意の組み合わせである。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記対象の腸内微生物叢の組成を調節することは、糞便移植、微生物叢の正常化、微生物の定着、腸内微生物叢の再構築、プロバイオティクス処置またはこれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、前記対象の腸内微生物叢の組成を調節することは、該対象において、パーキンソン病(PD)を増悪させる1種以上の細菌種の量を減少させることを含む。前記PDを増悪させる1種以上の細菌種のうち少なくとも1種は、たとえば、プロテウス属(Proteus)、ビロフィラ属(Bilophila)、ロゼブリア属(Roseburia)、シュードラミバクター属(Pseudoramibacter)、ユーバクテリウム属(Eubacterium)またはベイヨネラ科(Veillonellaceae)に属する細菌種であってもよい。いくつかの実施形態において、前記PDを増悪させる1種以上の細菌種のうち少なくとも1種は、短鎖脂肪酸(SCFA)産生細菌である。SCFA産生細菌としては、KEGGのK00929ファミリー、K01034ファミリーおよびK01035ファミリーに属する細菌が挙げられるが、これらに限定されない。
【0014】
いくつかの実施形態において、前記対象の腸内微生物叢の組成を調節することは、処置を受ける該対象に、健常な対象から得た腸内微生物叢を導入することを含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、対象の神経変性障害を治療する方法であって、前記対象に抗生物質を投与すること;およびパーキンソン病(PD)を増悪させる微生物代謝産物に対する阻害剤を前記対象に投与することの1つ以上を含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、対象における神経変性障害の発症を遅延させるか、またはその発症の可能性を低下させる方法であって、前記対象に抗生物質を投与すること;およびパーキンソン病(PD)を増悪させる微生物代謝産物に対する阻害剤を前記対象に投与することの1つ以上を含む方法が提供される。前記神経変性障害は、たとえばシヌクレイノパチー(たとえばパーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症またはこれらの組み合わせ)であってもよい。
【0016】
いくつかの実施形態において、パーキンソン病様症状の改善を必要とする対象のパーキンソン病様症状を改善する方法であって、前記対象に抗生物質を投与すること;前記対象に抗炎症剤を投与すること;およびパーキンソン病(PD)を増悪させる1種以上の微生物代謝産物に対する阻害剤を前記対象に投与することの1つ以上を含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、前記抗炎症剤および前記抗生物質はミノサイクリンではない。いくつかの実施形態において、前記パーキンソン病様症状は、運動機能障害、α-シヌクレイン(αSyn)の凝集の増強、ミクログリアの異常活性化またはこれらの任意の組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、前記パーキンソン病様症状は、振戦、運動緩慢、筋強剛、姿勢異常およびバランス異常、自動運動の消失、発語障害、筆記障害またはこれらの任意の組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、PDを増悪させる微生物代謝産物に対する前記阻害剤は、PDを増悪させる1種以上の微生物代謝産物に対する抗体、PDを増悪させる1種以上の微生物代謝産物のインビボ合成中間体に対する抗体、PDを増悪させる1種以上の微生物代謝産物のインビボ合成基質に対する抗体、PDを増悪させる1種以上の微生物代謝産物のインビボ合成に関与する酵素に対する阻害剤、またはこれらの組み合わせである。いくつかの実施形態において、前記対象または前記方法を必要とする対象は抗生物質による処置を受けていない。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記対象または前記方法を必要とする対象に抗生物質を投与することを含まない。いくつかの実施形態において、前記対象または前記方法を必要とする対象は、リファンピシンおよび/またはミノサイクリンによる処置を受けていない。いくつかの実施形態において、前記対象または前記方法を必要とする対象は、腸内微生物叢の組成の調節またはその他の処置を行う前の少なくとも12時間、1日間、5日間、10日間または20日間に、抗生物質による処置を受けていない。いくつかの実施形態において、前記対象または前記方法を必要とする対象は、腸内微生物叢の組成の調節またはその他の処置を行った後の少なくとも12時間、1日間、5日間、10日間または20日間に、抗生物質による処置を受けない。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記対象において、PDに関連する1種以上の細菌種の存在および/またはその量を測定することによって、前記方法を必要とする対象を特定することをさらに含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、対象のパーキンソニズムを診断する方法であって、該対象において、パーキンソン病(PD)に関連する1種以上の細菌種の存在および/またはその量を測定することを含み、PDに関連する1種以上の細菌種が存在していること、および/またはその量が異常であることから、該対象がパーキンソニズムの症状を発症するリスクがあること、またはパーキンソニズムの症状を患っていることが示される方法が提供される。いくつかの実施形態において、前記PDに関連する1種以上の細菌種のうち少なくとも1種は、プロテウス属(Proteus)、ビロフィラ属(Bilophila)、ロゼブリア属(Roseburia)、シュードラミバクター属(Pseudoramibacter)、ユーバクテリウム属(Eubacterium)またはベイヨネラ科(Veillonellaceae)に属する細菌種である。いくつかの実施形態では、前記対象の腸において、PDに関連する1種以上の細菌種の存在および/またはその量が測定される。いくつかの実施形態において、PDに関連する1種以上の細菌種が存在すること、および/またはその量が異常であることから、前記対象がパーキンソニズムを発症するリスクがあることが示される。いくつかの実施形態において、PDに関連する1種以上の細菌種が存在すること、および/またはその量が異常であることから、前記対象がパーキンソニズムに罹患していることが示される。いくつかの実施形態において、前記パーキンソニズムは、原発性もしくは特発性のパーキンソニズム、二次性もしくは後天性のパーキンソニズム、遺伝性パーキンソニズム、パーキンソンプラス症候群もしくは多系統変性症、またはこれらの任意の組み合わせである。いくつかの実施形態において、前記パーキンソニズムはパーキンソン病である。いくつかの実施形態において、前記対象は成人である。
【0018】
いくつかの実施形態において、パーキンソン病(PD)に対して保護作用を有する1種以上の細菌種を含む組成物が提供される。いくつかの実施形態において、前記組成物は、PDを増悪させる細菌種を含まない。いくつかの実施形態において、前記PDに対して保護作用を有する1種以上の細菌種のうち少なくとも1種は、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、リケネラ科(Rikenellaceae)、ペプトストレプトコッカス科(Peptostreptococcaceae)、クロストリジウム科(Clostridiaceae)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、クロストリジウム属(Clostridium)、バクテロイデス属(Bacteroides)またはブチリシコッカス属(Butyricicoccus)に属する細菌種である。いくつかの実施形態において、前記組成物は、プロテウス属(Proteus)、ビロフィラ属(Bilophila)、ロゼブリア属(Roseburia)、シュードラミバクター属(Pseudoramibacter)、ユーバクテリウム属(Eubacterium)およびベイヨネラ科(Veillonellaceae)の少なくとも1つに属する細菌種を含まない。いくつかの実施形態において、前記組成物は、プロテウス属(Proteus)、ビロフィラ属(Bilophila)、ロゼブリア属(Roseburia)、シュードラミバクター属(Pseudoramibacter)、ユーバクテリウム属(Eubacterium)またはベイヨネラ科(Veillonellaceae)に属する細菌種を含まない。いくつかの実施形態において、前記組成物は、病原性クロストリジウム属細菌を含まない。いくつかの実施形態において、前記PDに対して保護作用を有する1種以上の細菌種のうち少なくとも1種は、生きている細菌である。いくつかの実施形態において、前記PDに対して保護作用を有する1種以上の細菌種は、生きている細菌である。前記組成物は、たとえば、プロバイオティクス組成物、栄養機能組成物、医薬組成物、これらの任意の組み合わせのいずれであってもよい。いくつかの実施形態において、前記組成物は、1種以上の薬学的に許容される担体を含む医薬組成物である。
【0019】
いくつかの実施形態において、パーキンソン病(PD)を増悪させる微生物代謝産物に対する阻害剤と1種以上の薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物が提供される。前記PDを増悪させる微生物代謝産物は、どのような微生物代謝産物であってもよく、たとえば、脂肪酸またはその塩もしくはエステルであってもよい。いくつかの実施形態において、前記PDを増悪させる微生物代謝産物は、短鎖脂肪酸(SCFA)、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸、短鎖脂肪酸の塩もしくはエステル、中鎖脂肪酸の塩もしくはエステル、または長鎖脂肪酸の塩もしくはエステルである。PDを増悪させる微生物代謝産物に対する前記阻害剤は、たとえば、PDを増悪させる微生物代謝産物に対する抗体、PDを増悪させる微生物代謝産物のインビボ合成中間体に対する抗体、PDを増悪させる微生物代謝産物のインビボ合成基質に対する抗体、PDを増悪させる微生物代謝産物のインビボ合成に関与する酵素に対する阻害剤、これらの組み合わせのいずれであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】パーキンソン病(PD)モデルにおいて、腸内微生物からのシグナルが、神経炎症反応と、消化管を介した特徴的なα-シヌクレイン依存性運動障害に必要であることを示す概略図である。腸内微生物によって、α-シヌクレインを介した運動障害と脳疾患が促進され、腸内細菌を除去するとミクログリアの活性化が低下する。短鎖脂肪酸(SCFA)で処置したマウスでは、短鎖脂肪酸によってミクログリアが変化して、それによりPDに伴う病的機能変化が亢進する。また、PD患者由来のヒト腸内微生物叢によってマウスの運動機能障害が増強される。
【0021】
【
図2】
図2A~2Fは、腸内微生物により運動機能障害および消化管機能障害が増悪することを示す。12~13週齢のマウスを試験に使用した。n=4~6。エラーバーは、マウス1匹あたり3回の試行を行ったときの平均値および標準誤差を示す。データは2回の実験の代表値である。*p≦0.05;**p≦0.01;***p≦0.001;****p≦0.0001。略語:SPF:特定病原体不在;GF:無菌;WT:野生型;ASO:Thy1-α-シヌクレイン遺伝子型。
図2Aは、全体的な運動機能を示すビームテストにおいて、複雑な微生物叢を有するASOマウス(SPF-ASO)が、野生型の同腹仔マウス(SPF-WT)よりも有意に長い横断時間を要したことを示す。
図2Bは、全体的な運動機能を示す別の試験であるポールテストにおいて、複雑な微生物叢を有するASOマウスが、野生型の同腹仔マウスよりも降下時間が長かったことを示す。
図2Cは、細かい運動制御を調べるための、鼻梁からの粘着テープの除去テストにおいて、SPF-WTマウスと比較してSPF-ASOマウスに運動制御障害が見られたことを示す。
図2Dは、線条体の機能不全を調べるための後肢抱擁反射テストにおいて、SPF-ASOマウスに異常が見られたことを示す。また、
図2A~2Dは、無菌状態で別に作製した12~13週齢のASOマウス(GF-ASO)および野生型マウス(GF-WT)が、ビームテスト、ポールテスト、粘着テープ除去テストおよび後肢抱擁反射テストにおいて運動障害の改善を示したことも示す。
図2E~2Fは、12~13週齢において、GF-ASOマウスでは排便量に変化が見られなかったのに対して、SPF-ASOマウスでは排泄された総糞粒数に顕著な低下が観察されたことを示す。
図2Eは、新規環境に15分間置いたときの排便量の時間経過を示す。
図2Fは、15分間に排泄された総糞粒数を示す。さらに
図3A~3Kも参照されたい。
【0022】
【
図3】
図3A~3Kは、(
図2A~2Fに関連して)SPFマウスおよび無菌(GF)マウスの体重、ならびにさらに週齢を経たマウスの分析を示す。N=4~6。エラーバーは平均値および標準誤差を示す。運動機能テストは、マウス1匹あたり3回の試行を行った結果を示す。データは2回の実験の代表値である。0.1>p>0.05;*p≦0.05;**p≦0.01;***p≦0.001;****p≦0.0001。SPF=特定病原体不在;GF=無菌;WT=野生型;ASO=Thy1-α-シヌクレイン遺伝子型。
図3Aは、12~13週齢のGF-ASOマウスと12~13週齢のSPF-ASOマウスとの間で体重差がなかったことを示す。
図3Bは、握力を測定するワイヤハングテストにおいて、逆さまにひっくり返した金網から落下するまでの時間を測定したところ、SPF-ASOマウスおよびGF-ASOマウスにおいて運動機能障害が見られたことを示す。
図3C~3Gは、週齢を経ると(24~25週齢)、SPF-ASOマウスは運動機能が進行性に低下したが、このような運動機能の進行性低下はGF-ASOマウスにおいて有意に遅延したことを示す。
図3Cは、24~25週齢のマウスのビーム横断時間を示す。
図3Dは、24~25週齢のマウスのポール降下時間を示す。
図3Eは、24~25週齢のマウスが鼻梁から粘着テープを除去するのに要した時間を示す。
図3Fは、24~25週齢のマウスの後肢抱擁反射スコアを示す。
図3Gは、24~25週齢のマウスの体重を示す。
図3H~3Iは、24~25週齢において、GF-ASOマウスでは排便量に変化が見られなかったのに対して、SPF-ASOマウスでは排泄された総糞粒数に顕著な低下が観察されたことを示す(
図3Hおよび
図3I)。
図3Hは、24~25週齢のマウスを新規環境に15分間置いたときの排便量の時間経過を示す。
図3Iは、24~25週齢のマウスが15分間に排泄した総糞粒数を示す。
図3Jは、12~13週齢のSPF-ASOマウスが排泄した糞粒の含水量が、12~13週齢のGF-ASOマウスのものと比べて少なかったことから、無菌(GF)マウスにおいて消化管障害が改善していることが明らかになったことを示す。
図3Kは、SPF-WT群、SPF-ASO群、GF-WT群およびGF-ASO群から得たすべての運動機能スコアを集約した主成分分析(PCoA)を示す。すべての運動機能の表現型を主成分分析で集約すると、SPF-ASO群のみが著しく逸脱しており、GF-ASOマウス群はWTマウス群とよく似たクラスタを形成した。
【0023】
【
図4】
図4A~4Gは、腸内微生物叢を有するマウスにおいてαSyn病変が増加することを示す。12~13週齢のマウスから組織を採取した。n=3~4。エラーバーは平均値および標準誤差を示す。*p≦0.05;**p≦0.01;***p≦0.001。略語:SPF:特定病原体不在;GF:無菌;WT:野生型;ASO:Thy1-α-シヌクレイン遺伝子型。さらに
図5A~5Hも参照されたい。
図4Aおよび
図4Bは、SPF条件のASOマウスの尾状核被殻(CP)および黒質(SN)においてαSynの顕著な凝集が観察されたことを示す。
図4Aは、SPF-ASOマウスまたはGF-ASOマウスの尾状核被殻(CP)を、αSyn凝集体特異的抗体、リン酸化Ser129-αSyn抗体およびNeurotrace(ニッスル染色)で染色した代表的な写真を示す。
図4Bは、上記と同様に染色を行った、SPF-ASOマウスまたはGF-ASOマウスの黒質(SN)の代表的な写真を示す。
図4Cは、脳ホモジネートのトリトン可溶性画分およびトリトン不溶性画分を抗αSyn抗体で免疫染色し、αSynの凝集を定量した代表的なウエスタンブロットである。
図4Dおよび
図4Eは、GF-ASOマウスの脳では、不溶性αSynの量が有意に少ないことを示す。
図4Dは、抗αSyn抗体で染色したウエスタンブロットをデンシトメーターで濃度測定し、すべてのαSynの濃度を積分した結果を示す。
図4Eは、抗αSyn抗体で染色したウエスタンブロットをデンシトメーターで濃度測定し、可溶性αSyn画分に対する不溶性αSyn画分の比率を求めた結果を示す。
図4Fおよび
図4Gは、中脳下部および尾状核被殻(CP)におけるαSyn転写産物量およびαSynタンパク質量を示し、SPF-ASOマウスとGF-ASOマウスの間でほぼ同程度であったことを示す。
図4Fは、尾状核被殻(CP)または中脳下部(Mid)におけるヒトαSynをqRT-PCR分析した結果を示す。
図4Gは、尾状核被殻(CP)または中脳下部(Mid)から得たホモジネート中の総αSynをELISA分析した結果を示す。
【0024】
【
図5】
図5A~5Hは、(
図4A~2Gおよび
図6A~6Hに関連して)腸内微生物が領域特異的にαSyn病変を促進することを示す。
図5Iは、脳ホモジネートから得たCD11b
+細胞におけるbdnfおよびddit4の発現をqPCR分析した結果を示し、神経細胞保護作用を有するBdnfの発現量と細胞周期マーカーであるDdit4の発現量が無菌(GF)マウスにおいてアップレギュレートされたことを示す。12~13週齢のマウスを試験に使用した。N=3~4。エラーバーは平均値および標準誤差を示す。*p≦0.05。SPF=特定病原体不在;GF=無菌;WT=野生型;ASO=Thy1-α-シヌクレイン遺伝子型。
図5A~5Cは、
図4C~4Eと同様に、GF-ASOマウスにおいてαSynの凝集の減少が観察されたことを示す。
図5Aは、SPF-ASOマウスおよびGF-ASOマウスから得た尾状核被殻(CP)のホモジネートおよび中脳下部(Mid)ホモジネートにおいてαSyn凝集体を特異的に検出したドットブロットを示す。
図5Bおよび
図5Cは、(B)尾状核被殻(CP)ホモジネートまたは(C)中脳下部ホモジネートのドットブロットをデンシトメーターで濃度測定した結果を示す。
図5D~5Hは、領域特異的なαSynの凝集が観察され、前頭皮質(FC)におけるαSynの凝集は、SPFマウスよりもGF-ASOマウスで少なかったが、小脳(CB)におけるαSynの凝集は、SPFマウスとGFマウスの間でほぼ同じ量であったことを示す。
図5Dは、SPF-ASOマウスまたはGF-ASOマウスの前頭皮質(FC)を、αSyn凝集体特異的抗体、リン酸化Ser129-αSyn抗体およびNeurotrace(ニッスル染色)で染色した代表的な写真を示す。
図5Eは、上記と同様に染色を行った、SPF-ASOマウスまたはGF-ASOマウスの小脳(CB)の代表的な写真を示す。
図5Fは、SPF-ASOマウスおよびGF-ASOマウスから得た前頭皮質(FC)ホモジネートまたは小脳(CB)ホモジネートをαSyn凝集体特異的抗体で免疫染色したドットブロット像を示す。
図5Gおよび
図5Hは、(G)前頭皮質(FC)ホモジネートおよび(H)小脳(CB)ホモジネートのドットブロットをデンシトメーターで濃度測定した結果を示す。
【0025】
【
図6】
図6A~6Hは、微生物叢によってαSyn依存性にミクログリアが活性化されることを示す。12~13週齢のマウスから組織を採取した。n=3~4(マウス1匹につき1領域あたり20~60個の細胞を分析)。エラーバーは平均値および標準誤差を示す。*p≦0.05;**p≦0.01;***p≦0.001;****p≦0.0001。略語:SPF:特定病原体不在;GF:無菌;WT:野生型;ASO:Thy1-α-シヌクレイン遺伝子型。さらに
図5A~5Iも参照されたい。
図6A~6Cは、SPF-WTマウスと比較して、GF-WTマウスでは、尾状核被殻(CP)および黒質(SN)に見出されるミクログリアの数が多く、ミクログリアの突起の全長も長かったことを示す。
図6Aは、SPF-WTマウス、SPF-ASOマウス、GF-WTマウスおよびGF-ASOマウスの尾状核被殻(CP)に存在するミクログリアをIba1抗体で染色した代表的な3D再構築像を示す。
図6Bは、尾状核被殻(CP)に存在するミクログリアのパラメータとして直径、分岐数および突起の全長を示す。
図6Cは、黒質(SN)に存在するミクログリアのパラメータとして直径、分岐数および突起の全長を示す。
図6Dおよび
図6Eは、SPF-ASOマウスの尾状核被殻(CP)および中脳下部から得た組織ホモジネートが、GF-ASOマウスのものと比較して、炎症促進性サイトカインである腫瘍壊死因子-α(TNF-α)およびインターロイキン-6(IL-6)の顕著な増加を示したことを示す。
図6Dは、尾状核被殻(CP)から得たホモジネート中のTNF-αおよびIL-6をELISA分析した結果を示す。
図6Eは、中脳下部(Mid)から得たホモジネート中のTNF-αおよびIL-6をELISA分析した結果を示す。
図6Fは、脳ホモジネートから得たCD11b
+細胞におけるtnfaおよびil6のqPCR分析を示し、SPF-ASOマウスにおいてTnfaおよびIl6の発現が増加していたが、無菌(GF)マウスではこれらの発現はほぼ見られなかったことを示す。
図6Gおよび
図6Hは、前頭皮質(FC)においてミクログリアの直径が長くなり、かつTNF-αの産生が増加していたのに対して、小脳(CB)ではこのような変化が見られなかったことから、神経炎症反応は領域特異的であると見られることを示す。
図6Gは、前頭皮質(FC)または小脳(CB)に存在するミクログリアの直径を示す。
図6Hは、前頭皮質(FC)または小脳(CB)から得たホモジネート中のTNF-αをELISA分析した結果を示す。
【0026】
【
図7】
図7A~7Iは、出生後における微生物からのシグナルが運動機能障害および消化管機能障害を増悪させることを示す。12~13週齢のマウスを試験に使用した。n=6~12。エラーバーは、マウス1匹あたり3回の試行を行ったときの平均値および標準誤差を示し、2つの独立した群から得たデータをまとめたもの、または1領域あたり20~60個のミクログリアを分析したデータをまとめたものである。
#0.05<p<0.1;*p≦0.05;**p≦0.01;***p≦0.001;****p≦0.0001。略語:SPF:特定病原体不在;GF:無菌;Abx:抗生物質処置;Ex-GF:微生物を定着させた無菌マウス;WT:野生型;ASO:Thy1-α-シヌクレイン遺伝子型。さらに
図8A~8Oも参照されたい。
図7Aは、マウスへの処置および試験の概要を時間軸で示したものである。
図7B~7Eは、抗生物質で処置した(Abx)マウスが、αSyn依存性の運動機能障害をほとんど示さず、無菌(GF)状態で出生したマウスと非常によく似た結果を示したことを示す。また、
図7B~7Eは、出生後に微生物叢を定着させた無菌マウス(Ex-GF)において、SPFマウスで観察されたような遺伝子型特有の作用が示され、αSynを過剰発現させたマウスでは、顕著な運動機能障害が示されたことも示す。
図7Bは、ビームテスト実験装置の横断時間を示す。
図7Cは、ポール降下時間を示す。
図7Dは、鼻から粘着テープを除去するのに要した時間を示す。
図7Eは、後肢抱擁反射スコアを示す。
図7Fおよび
図7Gは、抗生物質(Abx)で処置したマウスにおいて、糞便の排泄量から評価した消化管機能でも有意な改善が見られたが、Ex-GFマウスでは、総糞便量がαSyn依存性に低下したことを示す。
図7Fは、新規環境に15分間置いたときの排便量の時間経過を示す。
図7Gは、15分間に排泄された総糞粒数を示す。
図7Hおよび
図7Iは、トランスジェニックASO系統のうち、Ex-GFマウスでは、ミクログリア細胞体の直径が大きくなり、SPFマウスのミクログリアと同程度であったことを示す。また、
図7Hおよび
図7Iは、Ex-GFマウスとは異なり、Abx-ASOマウスのミクログリアが、無菌(GF)マウスのミクログリアと同程度の直径を有していたことも示す。
図7Hは、Abx-ASOマウスまたはEx-GF-ASOマウスの尾状核被殻(CP)に存在するミクログリアをIba1抗体で染色した代表的な3D再構築像を示す。
図7Iは、尾状核被殻(CP)または黒質(SN)に存在するミクログリアの直径を示す。
【0027】
【
図8】
図8A~8Oは、(
図7A~7Iおよび
図9A~9Hに関連して)抗生物質(Abx)処置マウス、Ex-GFマウスおよび短鎖脂肪酸(SCFA)処置マウスにおいて、SCFAの投与によりミクログリアの形態が変化し、αSyn病変が増加することを示す。12~13週齢のマウスを試験に使用した。N=3~6。1領域あたり20~60個のミクログリアを分析した。エラーバーは平均値および標準誤差を示す。*p≦0.05;**p≦0.01;***p≦0.001;****p≦0.0001。略語:SPF=特定病原体不在;GF=無菌;Abx=抗生物質処置マウス;Ex-GF=微生物叢を定着させた無菌マウス;SCFA=短鎖脂肪酸処置マウス;WT=野生型;ASO=Thy1-α-シヌクレイン遺伝子型。
図8Aは、無菌(GF)マウスおよび抗生物質(Abx)処置マウスの糞便中のSCFA濃度が、SPFマウスと比べて低いことが観察されたことを示す。
図8Aにおいて、酢酸塩、プロピオン酸塩および酪酸塩の糞便中濃度は、溶解性化学的酸素要求量(sCOD)で正規化した。
図8B~8Cは、脳の罹患領域(すなわち尾状核被殻(CP)および黒質(SN))において、SCFA投与マウスのミクログリアが、非処置マウスのものと比較して活性化の増加を示す形態学的特徴を示し、Ex-GFマウスおよびSPFマウスのミクログリアとよく似た形態学的特徴を示したことを示す。これに対して、抗生物質(Abx)で処置したマウスのミクログリアは、無菌(GF)マウスのものと同様の形態学的特徴を示した。
図8Bは、尾状核被殻(CP)に存在するミクログリアのパラメータとして分岐数および突起の全長を示す。
図8Cは、黒質(SN)に存在するミクログリアのパラメータとして分岐数および突起の全長を示す。
図8Dおよび
図8Eは、ミクログリアの直径の変化が前頭皮質(FC)でも観察されたが、小脳(CB)では観察されず、領域特異的な応答であることが示されたことを示す。
図8Dは、前頭皮質(FC)に存在するミクログリアの直径を示す。
図8Eは、小脳(CB)に存在するミクログリアの直径を示す。
図8F~8Oは、SCFA投与マウスが、非処置マウスおよび抗生物質(Abx)処置マウスと比較してαSynの凝集を示し、凝集の程度がEx-GFマウスと同等であったことを示す。
図8F~8Iは、Abx-ASOマウス、Ex-GF-ASOマウスまたはSCFA-ASOマウスの尾状核被殻(CP)、黒質(SN)、前頭皮質(FC)および小脳(CB)を、αSyn凝集体特異的抗体、リン酸化Ser129-αSyn抗体およびNeurotrace(ニッスル染色)で染色した代表的な写真を示す。
図8Jは、Abx-ASOマウス、Ex-GF-ASOマウスおよびSCFA-ASOマウスから得た尾状核被殻(CP)、中脳下部(Mid)、前頭皮質(FC)および小脳(CB)のホモジネートをαSyn凝集体特異的抗体で免疫染色したドットブロット像を示す。
図8K~8Nは、(K)尾状核被殻(CP)、(L)中脳下部、(M)前頭皮質(FC)および(N)小脳(CB)のホモジネートのドットブロットをデンシトメーターで濃度測定した結果を示す。
図8Oは、Abx-ASOマウスおよびSCFA-ASOマウスから得た尾状核被殻(CP)のホモジネートのトリトン可溶性画分およびトリトン不溶性画分においてαSynをウエスタンブロットで検出した結果を示す。
【0028】
【
図9】
図9A~9Hは、αSynで刺激されたミクログリアの活性化および運動機能障害がSCFAによって促進されることを示す。12~13週齢のマウスを試験に使用した。N=6~12。エラーバーは、マウス1匹あたり3回の試行を行ったときの平均値および標準誤差を示し、2つの独立した群から得たデータをまとめたもの、または1領域あたり20~60個のミクログリアを分析したデータをまとめたものである。理解を容易にするため、
図7A~7Iで使用したコントロールとともにデータをプロットしている。*p≦0.05;**p≦0.01;***p≦0.001;****p≦0.0001。略語:SPF:特定病原体不在;GF:無菌;SCFA:短鎖脂肪酸処置;WT:野生型;ASO:Thy1-α-シヌクレイン遺伝子型。さらに
図8A~8O、
図10A~10Mおよび
図11A~11Hも参照されたい。
図9Aおよび
図9Bは、脳の罹患領域(すなわち尾状核被殻(CP)および黒質(SN))において、SCFA投与マウスのミクログリアが、非処置マウスのものと比較して活性化の増加を示す形態学的特徴を示し、Ex-GFマウスおよびSPFマウスのミクログリアとよく似た形態学的特徴を示したことを示す。これに対して、抗生物質(Abx)で処置したマウスのミクログリアは、無菌(GF)マウスのものと同様の形態学的特徴を示した。
図9Aは、野生型マウスまたはSCFA処置ASOマウスの尾状核被殻(CP)に存在するミクログリアをIba1抗体で染色した代表的な3D再構築像を示す。
図9Bは、尾状核被殻(CP)または黒質(SN)に存在するミクログリアの直径を示す。
図9C~9Fは、いくつかの運動課題においてSCFA-ASOマウスが、非処置GF-ASOマウスと比較して有意な機能低下を示し、具体的には、ビームテスト、ポールテストおよび後肢抱擁反射において障害を示したことを示す(SCFA-ASOマウスとGF-ASOマウスの比較)。
図9Cは、ビームテスト実験装置の横断時間を示す。
図9Dは、ポール降下時間を示す。
図9Eは、鼻から粘着テープを除去するのに要した時間を示す。
図9Fは、後肢抱擁反射スコアを示す。
図9Gおよび
図9Hは、SCFAで処置したトランスジェニックマウスにおいても消化管障害が観察されたことを示す。
図9Gは、新規環境に15分間置いたときの排便量の時間経過を示す。
図9Hは、15分間に排泄された総糞粒数を示す。
【0029】
【
図10】
図10A~10Mは、(
図9A~9Hに関連して)SCFAが直接的にαSynの凝集を変化させないことを示す。12~13週齢のマウスを試験に使用した。N=6~12。エラーバーは、マウス1匹あたり3回の試行を行ったときの平均値および標準誤差を示す。データは、2つの独立した群から得たデータをまとめたものであり、理解を容易にするため、
図7A~7Iで使用したコントロールとともにプロットした。*p≦0.05;**p≦0.01;***p≦0.001;****p≦0.0001。略語:SPF=特定病原体不在;GF=無菌;HK=加熱死菌処置;WT=野生型;ASO=Thy1-α-シヌクレイン遺伝子型。
図10A~10Gは、様々な濃度のSCFAが、単独でも混合物の形態でも、インビトロのヒトαSynの凝集を促進しなかったことを示す。
図10A~10Cは、グラフに記載の濃度の(
図10A)酢酸ナトリウム、(
図10B)プロピオン酸ナトリウムまたは(
図10C)酪酸ナトリウムの存在下において、ThTの蛍光により測定したαSynの凝集動態を示す。
図10Dおよび
図10Eは、各SCFA混合物の存在下においてThTの蛍光により測定したαSynの凝集動態を示す。
図10D:SCFA混合物1-29.6mM酢酸塩、11mMプロピオン酸塩および18.5mM酪酸塩;SCFA混合物2-88.8mM酢酸塩、33mMプロピオン酸塩および55.5mM酪酸塩;
図10E:SCFA混合物3-0.4mM酢酸塩、0.15mMプロピオン酸塩および0.24mM酪酸塩;SCFA混合物4-0.8mM酢酸塩、0.3mMプロピオン酸塩および0.47mM酪酸塩;SCFA混合物5-2.0mM酢酸塩、0.74mMプロピオン酸塩および1.18mM酪酸塩。
図10Fおよび
図10Gは、各SCFA処置または各SCFA混合物処置における最大蛍光強度の半分の値に達するまでの時間を示す。N=3。エラーバーは平均値および標準誤差を示す。
図10Hおよび
図10Iは、様々な濃度のSCFAが、単独でも混合物の形態でも、αSynアミロイド線維の全体構造に変化を及ぼさなかったことを示す。
図10Hおよび
図10Iは、SCFAの非存在下またはSCFA混合物1の存在下において前記αSyn凝集アッセイで得られた最終生成物を観察した代表的な原子間力顕微鏡像を示す。
図10J~10Mは、加熱死菌を経口投与した無菌(GF)マウスにおいて運動障害が誘導されなかったことを示し、この結果から、運動障害の誘導には腸内細菌の活発な代謝が必要であることが示唆された。
図10Jは、ビーム横断時間を示す。
図10Kは、ポール降下時間を示す。
図10Lは、鼻から粘着テープを除去するのに要した時間を示す。
図10Mは、後肢抱擁反射スコアを示す。
【0030】
【
図11】
図11A~11Hは、(
図9A~9Hに関連して)SCFAで誘導されたαSyn介在性の運動障害および病変がミノサイクリンによって緩和することを示す。12~13週齢のマウスを試験に使用した。N=6~12。エラーバーは、マウス1匹あたり3回の試行を行ったときの平均値および標準誤差を示す。2つの独立した群から得たデータをまとめた。0.05<p<0.1;*p≦0.05;**p≦0.01;***p≦0.001;****p≦0.0001。略語:SPF=特定病原体不在;GF=無菌;WT=野生型;ASO=Thy1-α-シヌクレイン遺伝子型。
図11A~11Hは、SCFAを与えたマウスに抗炎症性化合物ミノサイクリンを経口投与するだけで十分にTNF-αの産生を低下させ、αSynの凝集を減少させ、運動機能を改善させることができ、外来遺伝子の発現量は変化しなかったことを示す。
図11Aは、尾状核被殻(CP)または中脳下部(Mid)中のTNF-αをELISA分析した結果を示す。
図11Bは、尾状核被殻(CP)ホモジネートおよび中脳下部(Mid)ホモジネートにおいてαSyn凝集体を特異的に検出したドットブロット像を示す。
図11Cは、尾状核被殻(CP)ホモジネートおよび中脳下部(Mid)ホモジネートのドットブロットをデンシトメーターで濃度測定した結果を示す。
図11Dは、全脳ホモジネートにおいてヒトsncaの発現をqPCR分析した結果を示す。
図11Eは、ビームテスト実験装置の横断時間を示す。
図11Fは、ポール降下時間を示す。
図11Gは、鼻から粘着テープを除去するのに要した時間を示す。
図11Hは、後肢抱擁反射スコアを示す。
【0031】
【
図12】
図12A~12Eは、PD患者試料を無菌マウスに移植した後に観察されたマイクロバイオームの乱れ(ディスバイオシス(dysbiosis))を示す。n=3~6。微生物叢の定着後に3時点で測定した。エラーバーは平均値および標準誤差を示す。***p≦0.001、999回の並べ替え。略語:HC:健常コントロールから得た糞便微生物を定着させた無菌マウス;PD:パーキンソン病患者から得た糞便微生物を定着させた無菌マウス;WT:野生型;ASO:Thy1-α-シヌクレイン遺伝子型。
図13A~13Eも参照されたい。
図12Aおよび
図12Bは、PCoAで視覚化したunweighted UniFrac解析において、レシピエントマウス群が、それぞれに対応するヒトドナーのプロファイルに最も近いプロファイルを示したことを示す。
図12Aは、ヒトドナー(大きな円)の微生物群集とレシピエントマウス(小さな円)の微生物群集の間のunweighted UniFracに基づく主座標分析を示す。各ドナー標本データと各レシピエント標本データのペアはそれぞれ色の濃淡により区別した。
図12Bは、ドナーのIDに基づいたレシピエントマウスの微生物群集のunweighted UniFrac解析およびweighted UniFrac解析を示す。
図12Cおよび
図12Dは、PDドナーから移植を行ったヒト化マウス群内では互いの類似性が有意に高く、健常ドナーから移植を行ったマウス群の微生物群集とPDドナーから移植を行ったヒト化マウス群の微生物群集の間の類似性はこれよりも低いことが示され、遺伝背景に基づいて分類してもこの傾向が見られたことを示す。WTレシピエントマウスと比較して、ASO系統では、健常ドナーから移植を行ったマウスとPDドナーから移植を行ったマウスの間で有意差が見られ、微生物群集組成に対して遺伝子型が影響を及ぼすことが示唆された。
図12Cは、マウスの遺伝子型に基づいたレシピエントマウスの微生物群集のunweighted UniFrac解析およびweighted UniFrac解析を示す。
図12Dは、レシピエントマウスの微生物群集のunweighted UniFrac解析とweighted UniFrac解析の結果の比較を示す。
図12Eは、健常コントロールと比較して、PDドナーから得た微生物叢を定着させたマウスにおいて様々な細菌属の変化が同定されたことを示す。レシピエントマウスの遺伝子型の関数として、PDドナーと健常ドナーの間の各細菌属の変化を分類群レベルで解析した。左の棒グラフは、測定された割合(%)と有意差を示し;右の棒グラフは、PDドナーと健常ドナーの間のfold changeを示す。「*」は統計的有意差がなかったことを示す。
【0032】
【
図13】
図13A~13Eは、(
図12A~12Eに関連して)微生物の代謝経路がヒト化マウスにおいて変化することを示す。N=3~6。微生物叢の定着後に3時点でKEGG解析を行った。SCFAの存在度はN=21~24で試験した。エラーバーは平均値および標準誤差を示す。*p:<0.05;**p:<0.01;***p:<0.001。
図13Aは、ヒト化マウス群間のBray-Curtis距離の比較を示す。
図13Bは、同一ドナー内の平均Bray-Curtis距離と別のドナー間の平均Bray-Curtis距離との比較を示し、
図13Cは、野生(WT)遺伝子型内の平均Bray-Curtis距離とThy1-α-シヌクレイン(ASO)遺伝子型内の平均Bray-Curtis距離との比較を示す。
図13Dは、SCFAの産生に関与する特定のKEGGファミリーのPICRUSt解析を示す(薄い色の円=健常コントロールから得た微生物、濃い色の円=PDから得た微生物)。
図13Eは、溶解性化学的酸素要求量で正規化した、ヒト化マウスにおける酢酸塩、プロピオン酸塩および酪酸塩の糞便中濃度および相対存在度を示す。データは、6組の独立したドナーペアから得た。HC=健常コントロール;PD=パーキンソン病。
【0033】
【
図14】
図14A~14Gは、PD患者由来の微生物叢がαSyn介在性の運動障害を増悪させることを示す。12~13週齢のマウスを試験に使用した。n=3~6。エラーバーは、マウス1匹あたり3回の試行を行ったときの平均値および標準誤差を示す。
#0.05<p<0.1;*p≦0.05;**p≦0.01;***p≦0.001;****p≦0.0001。略語:HC:健常コントロールから得た糞便微生物を定着させた無菌マウス;PD:パーキンソン病患者から得た糞便微生物を定着させた無菌マウス;WT:野生型;ASO:Thy1-α-シヌクレイン遺伝子型。
図15A~15Gおよび表2も参照されたい。
図14A~14Fは、6組のペアのうち4組(ペアNo.1、No.3、No.4およびNo.5)において、各PD患者ドナーから得た微生物叢によって、αSyn介在性の運動機能障害が一貫して増悪したことを示す。
図14A~14Fは、PD患者由来の微生物叢でヒト化したマウスまたはPD患者とマッチさせた健常コントロールの微生物叢でヒト化したマウスの、ビーム横断時間、ポール降下時間、鼻からの粘着テープ除去時間および後肢抱擁反射スコアを示す。
図14Gは、すべての群の機能データを集約したところ、健常コントロール由来の微生物を定着させた場合と比較して、PD患者由来の微生物叢が、この研究で使用した4種のテストのうち3種においてASOマウスの運動障害を増悪させることが明らかになったことを示す。独立したすべての群におけるビームテスト、ポールテスト、粘着テープ除去テストおよび後肢抱擁反射スコアの各運動課題の結果を、糞便ドナーの健康状態に従ってまとめた。
【0034】
【
図15】
図15A~15Gは、(
図14A~14Gに関連して)ヒト化マウスの体重および糞便の排泄量を示す。12~13週齢のマウスを試験に使用した。N=3~6。エラーバーは、マウス1匹あたり3回の試行を行ったときの平均値および標準誤差を示す。0.05<p<0.1;*p≦0.05;**p≦0.01。略語:HC=健常コントロールから得た糞便微生物を定着させた無菌マウス;PD=パーキンソン病患者から得た糞便微生物を定着させた無菌マウス;WT=野生型;ASO=Thy1-α-シヌクレイン遺伝子型。
図15A~15Fは、レシピエントマウスの体重にはほとんど変化が見られず、排便量によって測定した消化管機能にも変化はほとんど認められなかったことを示す。PDヒト化マウスおよび健常コントロール(HC)ヒト化マウスの各ペアを新規環境に15分間置いたときの体重および排便量を示す。(
図15A)ペアNo.1、(
図15B)ペアNo.2、(
図15C)ペアNo.3、(
図15D)ペアNo.4、(
図15E)ペアNo.5、(
図15F)ペアNo.6。
図15Gは、各ヒト化マウス間の運動機能を集約した主成分分析を示す。
図15Gに示すように、すべての運動機能をPCoAにより視覚化すると、PDドナー由来の微生物叢を定着させたマウスと、健常者由来の腸内細菌を定着させたマウスとの間で顕著かつ広範な差異があることが示された。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下の詳細な説明において、添付図面を参照する。当該添付図面は、本明細書の一部をなすものである。別段の指示がない限り、添付図面において類似の記号は、通常、類似の構成要素を示す。詳細な説明、図面および特許請求の範囲に記載される例証的な実施形態は、本発明を限定するものではない。また、本明細書で示される主題の要旨または範囲から逸脱しない限り、その他の実施形態も可能であり、その他の変更も可能である。本明細書で概論的に説明されるとともに図面で例証される本開示の態様は、調整したり、置換したり、組み合わせたり、分離したりして別の様々な構成とすることが可能であることは容易に理解されるであろう。このような構成はすべて、本明細書において明示的に想定されるものである。
【0036】
用語の定義
別段の記載がない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。たとえば、Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 2nd ed., J. Wiley & Sons (New York, NY 1994);Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Springs Harbor Press (Cold Springs Harbor, NY 1989)を参照されたい。本発明の開示を目的として以下の用語を以下のように定義する。
【0037】
本明細書において、「対象」は、脊椎動物などの動物であり、好ましくは哺乳動物である。「哺乳動物」は哺乳綱に属する個体と定義され、ヒト、家畜および農場動物、動物園の飼育動物、競技用動物ならびに愛玩動物、たとえば、ヒツジ、イヌ、ウマ、ネコまたはウシが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、前記対象はマウスまたはラットである。いくつかの実施形態において、前記対象はヒトである。
【0038】
本明細書において、「治療」は、患者、特に神経変性疾患(たとえばパーキンソン病)に罹患している患者によって示される疾患、障害または生理的状態に応じてなされる介入(たとえば臨床的介入)を指す。治療の目的は、症状の緩和または予防;疾患、障害もしくは病態の進行または悪化の遅延または抑止;および疾患、障害または病態の緩解のうち1つ以上を含みうるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、「治療」は、治療的処置と予防的処置の両方を指す。治療を必要とする対象には、疾患、障害または望ましくない生理的状態に既に冒されている対象だけでなく、疾患、障害または望ましくない生理的状態を予防する必要がある対象が包含される。たとえば、いくつかの実施形態において、治療により疾患の症状が軽減、緩和または解消されうる。本明細書において、「予防」は、個体が後にパーキンソン病様症状を発症するという負担を軽減する任意の行為を指す。この予防は、一次、二次および/または三次の段階で行われうる。a)一次予防は、症状/障害/病態の発症を回避する。b)二次予防行為は、病態/障害/症状の治療の初期段階に行われるものであり、早期介入を行うことにより、病態/障害/症状の進行および症状の出現を防ぐ。c)三次予防は、既に発症した病態/障害/症状の負の影響を軽減するものであり、たとえば、機能の回復および/または任意の病態/障害/症状もしくは関連合併症の軽減により達成される。
【0039】
「薬学的に許容される」担体とは、細胞または哺乳動物に使用される用量および濃度で細胞または哺乳動物に対して毒性を示さない担体である。「薬学的に許容される」担体としては、経口適用または注射などの選択した使用方法に適した有機もしくは無機の固体または液体の添加剤が挙げられるが、これらに限定されない。「薬学的に許容される」担体は、慣用の医薬製剤の形態で投与され、慣用の医薬製剤としては、錠剤、粒剤、散剤、カプセル剤などの固体製剤、および液剤、乳剤、懸濁剤などの液体製剤が挙げられる。多くの場合、生理学的に許容される担体は、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液などのpH緩衝水溶液である。また、生理学的に許容される担体は、アスコルビン酸などの酸化防止剤;低分子(残基数約10未満の)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;アミノ酸;グルコース、マンノース、デキストリンなどの糖;EDTAなどのキレート剤;マンニトール、ソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの塩形成対イオン;およびTweenTM、ポリエチレングリコール(PEG)、PluronicTMなどの非イオン性界面活性剤のうち1つ以上を含んでいてもよい。また、助剤、安定化剤、乳化剤、滑沢剤、結合剤、pH調整・制御剤、等張化剤などの慣用の添加剤を前記担体に添加してもよい。
【0040】
前記薬学的に許容される担体または薬学的に適切な担体としては、障害を起こした消化管に有益であることが知られているその他の化合物(たとえばビタミンC、ビタミンE、セレン、亜鉛などの抗酸化剤);または食品組成物が挙げられる。食品組成物としては、ミルク、ヨーグルト、凝乳(カード)、チーズ、発酵乳、ミルクベースの発酵製品、アイスクリーム、発酵させた穀類ベースの製品、粉ミルク、乳児用調合乳、錠剤、細菌懸濁液、乾燥状態の経口補助食品または湿潤状態の経口補助食品が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
治療剤または保護剤は「薬物」を含んでいてもよい。本明細書において「薬物」は治療剤または診断剤を指し、疾患の予防、診断、緩和、治療または治癒に使用される、食物以外の任意の物質を包含する(Stedman’s Medical Dictionary, 25th Edition (1990))。「薬物」は、The Merck Index, 12th Edition (1996);Pei-Show Juo, Concise Dictionary of Biomedicine and Molecular Biology, (1996);U.S. Pharmacopeia Dictionary, 2000 Edition;およびPhysician’s Desk Reference, 2001 Editionの少なくとも1つに開示されている任意の物質も包含しうる。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組成物の実施形態のうちの1つは治療剤である。いくつかの実施形態において、本発明の治療システムにおいて使用される薬物は、送達マトリックスに担持、埋没もしくは封入されているか、または組み込まれている。
【0042】
本明細書において、「栄養機能食品」は、(強化食品または栄養補助食品として)健康に有益な食品を指す。栄養機能性食品の試験および規制は、医薬品のものとは異なる。
【0043】
本明細書において、「プロバイオティクス」は、生きている微生物を指し、適量で投与することによって宿主に健康上の利益がもたらされるものである。プロバイオティクスは、食品および栄養補助食品(たとえば、カプセル剤、錠剤および散剤が挙げられるが、これらに限定されない)の形態で利用可能である。プロバイオティクスを含む食品としては、たとえばヨーグルト、発酵乳および未発酵乳などの乳製品、スムージー、バター、クリーム、ホムス、紅茶キノコ、サラダドレッシング、味噌、テンペ、栄養バー、ならびに一部のジュースおよび大豆飲料が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
本明細書において「代謝産物」は、代謝に関与する任意の分子を指す。代謝産物は、代謝プロセスにおける生成物、基質、中間体のいずれであってもよい。たとえば、代謝産物は、一次代謝産物、二次代謝産物、有機代謝産物、無機代謝産物のいずれであってもよい。代謝産物としては、脂肪酸、アミノ酸、ペプチド、アシルカルニチン、単糖、オリゴ糖、脂質およびリン脂質、プロスタグランジン、ヒドロキシエイコサテトラエン酸、ヒドロキシオクタデカジエン酸、ステロイド、胆汁酸、糖脂質ならびにリン脂質が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、代謝産物は微生物代謝産物であり、たとえば、微生物自体の成長および発達を制御すること、その他の生物との有益な相互作用を促進すること、および微生物に有害な生物を抑制することなどを目的として微生物により産生される代謝産物である。微生物代謝産物は、たとえば低分子化合物(<2,500Da)であってもよい。いくつかの実施形態において、微生物代謝産物は、微生物代謝産物の類似体である。いくつかの実施形態において、微生物代謝産物およびその類似体としては、短鎖脂肪酸(SCFA)、中鎖脂肪酸および長鎖脂肪酸;ならびに短鎖脂肪酸の塩およびエステル、中鎖脂肪酸の塩およびエステル、および長鎖脂肪酸の塩およびエステルが挙げられる。脂肪酸としては、SCFAである酢酸塩、プロピオン酸塩および酪酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
本明細書において「抗体」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(免疫グロブリンのFc領域を有する完全長抗体を含む)、複数のエピトープに対して特異性を有する抗体組成物、多重特異性抗体(たとえば二重特異性抗体、ダイアボディ(diabody)および一本鎖分子)ならびに抗体断片(たとえばFabまたはF(ab’)2およびFv)を包含する。様々な種類の抗体の構造および特性については、たとえば、Basic and Clinical Immunology, 8th Edition, Daniel P. Sties, Abba I. Terr and Tristram G. Parsolw (eds), Appleton & Lange, Norwalk, Conn., 1994の71頁のChapter 6を参照されたい。
【0046】
神経変性障害
神経機能障害は様々なヒト疾患の基礎疾患である。行動障害、精神障害および神経変性障害では、中枢神経系(CNS)に特徴的な神経病変が見られることが多い。神経病変の一つであるアミロイドーシスは、特定の神経タンパク質の異常な凝集から生じ、様々な細胞機能を破壊する。罹患組織では、構造変化を起こした不溶性タンパク質凝集体がしばしば見られ、このような凝集体の構造変化は推定で50種のヒト疾患の要因となっていると考えられている。アミロイドによる神経変性障害(アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病(PD)など)は、アミロイドタンパク質と関連している。これらの疾患の中でもPDは、米国で2番目に罹患率の高い神経変性疾患であり、推定で100万人あるいは60歳以上の米国人口の1%が罹患している。世界中で約300万人のPD患者およびその介護者が、消耗性症状をきたすことが多いPDに苦しんでおり、その症状としては、振戦、筋強剛、運動緩慢、歩行障害などの運動障害が見られる。PDは、環境要因の影響が強く見られる多因子疾患であり、遺伝的要因により発症する症例は10%未満に留まっている。また、α-シヌクレイン(αSyn)の凝集は、シヌクレイノパチーと総称される疾患群(PD、多系統萎縮症、レビー小体疾患などを含む)において病原性であると考えられている。αSynの凝集は段階的に進み、オリゴマーと非一過性線維が神経細胞内に蓄積する。黒質緻密部(SNpc)のドーパミン作動性ニューロンは、αSyn凝集体の作用による傷害を特に受けやすいと見られている。ドーパミン調節薬は、PDの第一線治療薬であるが、重大な副作用を起こすことがあり、効力が失われることが多い。高齢化し続ける社会においてますます増大するPDの負担に対処するため、安全で効果的な治療薬を見出すことが必要とされている。
【0047】
脳に影響を及ぼす疾患の発症および/または進行に末梢での事象が影響を与えていることが報告されている(DinanおよびCryan,2015)。不安、うつ病、侵害受容および自閉スペクトラム症(ASD)において、腸と脳の間で双方向のコミュニケーションが取られていることが示唆されている(Mayerら,2014;SchroederおよびBackhed,2016;Sharonら,2016)。消化管の生理機能および運動は、腸内で局所的に発生するシグナルと中枢神経系(CNS)からのシグナルの影響を受ける。腸内で生じた神経伝達物質、免疫系シグナル伝達、ホルモンおよび神経ペプチドは、続いて脳にも影響を与えうる(Selkrigら,2014;Wallら,2014)。
【0048】
人体において、微生物は、外部環境に曝露されている実質的にあらゆる表面上に恒常的に定着しており、その大部分は消化管内に存在する。腸内微生物叢は、神経の発達と中枢神経系(CNS)に重大な影響を及ぼしうる。無菌(GF)マウスや、抗生物質処置によって特定の病原体を持たない(SPF)マウスでは、海馬における神経新生が変化し、その結果、空間認識および物体認識に異常をきたす。腸内微生物叢は、5-ヒドロキシトリプタミン受容体(5-HT1A)、脳由来神経栄養因子(BDNF)およびNMDA受容体サブユニット2(NR2A)の発現を制御している。無菌(GF)マウスでは大脳皮質の髄鞘化に変化が見られ、血液脳関門の機能に異常が見られた。さらに、マウスの腸内微生物叢は、腸内セロトニンおよび血中セロトニンの産生を促進し、不安、多動および認知に影響を与える。また、PD患者と健常対照の間では、糞便および腸内粘膜に存在する腸内微生物が異なっている。
【0049】
腸内細菌は、腸管、末梢および脳内の免疫細胞の分化および機能を制御しうる。運動障害を起こしたPD患者では、運動障害の発症よりも以前に、便秘などの消化管異常および腸の炎症を何年にもわたって呈していることが多い。Braakによる仮説では、αSynの異常蓄積は腸で始まり、プリオンと同様にして迷走神経を介して脳に伝播するとされている。この概念は、αSyn封入体が、腸神経系(ENS)ならびに舌咽神経および迷走神経において早期に出現し、迷走神経を切断された個体ではPDのリスクが低くなるという病態生理学的証拠によって支持されている。さらに、健常なげっ歯類の腸組織にαSyn線維を注射するだけで、迷走神経および脳幹において疾患を誘導できることが示されている。
【0050】
神経変性障害の治療
本明細書において開示されているように、腸内微生物叢の組成の調節を必要とする対象において、たとえば、腸内微生物叢中のPDを増悪させる微生物を減少させたり除去することによって、または健常者由来の微生物叢を導入することによって、またはこれらの両方を実施することによって、腸内微生物叢の組成を調節することができ、これにより、該対象のPDの進行を遅延させることができるという恩恵が得られる。
【0051】
本明細書はさらに、神経変性障害の治療を必要とする対象(たとえば神経変性障害を有する患者)の神経変性障害を治療する方法、神経変性障害の発症の遅延またはその発症の可能性の低下を必要とする対象(たとえば神経変性障害を有する患者)の神経変性障害の発症を遅延させるか、その発症の可能性を低下させる方法、および運動障害の改善を必要とする対象(たとえば神経変性障害を有する患者)の運動障害を改善する方法を開示する。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記対象の腸内微生物叢の組成を調節することを含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、さらに、前記対象の1つ以上の身体障害を改善することができる。前記方法は、たとえば、前記対象の1つ以上の消化管機能を改善することができ、前記対象の便秘を緩和することができる。前記運動障害としては、振戦、筋強剛、運動緩慢、歩行障害およびこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、前記神経変性障害はシヌクレイノパチーであり、シヌクレイノパチーとしては、原発性もしくは特発性のパーキンソニズム、二次性もしくは後天性のパーキンソニズム、遺伝性パーキンソニズム、パーキンソンプラス症候群もしくは多系統変性症、およびこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
いくつかの実施形態において、前記方法は、前記方法を必要とする対象を特定することを含み、前記方法を必要とする該対象は、α-シヌクレイン(αSyn)の凝集異常、たとえばαSyn凝集体の異常高値を示す対象である。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記対象(たとえば前記対象の脳)におけるαSynの凝集率および/もしくは凝集度を測定すること、前記対象(たとえば前記対象の脳)における不溶性αSynタンパク質凝集体の除去率および/もしくは除去度を測定すること、またはこれらの組み合わせを測定することを含む。前記対象(たとえば前記対象の脳)におけるαSynの凝集率および/もしくは凝集度の測定、前記対象(たとえば前記対象の脳)における不溶性αSynタンパク質凝集体の除去率および/もしくは除去度の測定、またはこれらの組み合わせの測定は、様々な時点で行うことができ、たとえば、前記対象の腸内微生物叢の組成を調節する前、それと同時および/またはその後に行うことができる。
【0053】
本発明は、さらに、ミクログリアの活性化の低下を必要とする対象においてミクログリアの活性化を低下させる方法、α-シヌクレイン(αSyn)凝集体の減少を必要とする対象においてαSyn凝集体を減少させる方法、および神経炎症の緩和を必要とする対象において神経炎症を緩和する方法を提供する。いくつかの実施形態において、これらの方法を必要とする対象は、神経変性疾患に罹患している対象であり、該神経変性疾患はたとえばシヌクレイノパチー(たとえばパーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症またはこれらの任意の組み合わせ)である。いくつかの実施形態において、前記対象はPDに罹患している。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記対象の腸内微生物叢の組成を調節することを含む。前記方法は、たとえば、不溶性αSynタンパク質凝集体の除去を促進することができるか(たとえば不溶性αSynタンパク質凝集体の除去率、除去量またはその両方を増加することができるか)、αSynタンパク質の凝集を減少させることができるか(たとえばαSynタンパク質の凝集率、凝集量またはその両方を減少させることができるか)、またはこれらの両方を行うことができる。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記対象(たとえば前記対象の脳)におけるαSynの凝集率および/もしくは凝集度を測定すること、前記対象(たとえば前記対象の脳)における不溶性αSynタンパク質凝集体の除去率および/もしくは除去度を測定すること、またはこれらの組み合わせを測定することを含む。前記対象(たとえば前記対象の脳)におけるαSynの凝集率および/もしくは凝集度の測定、前記対象(たとえば前記対象の脳)における不溶性αSynタンパク質凝集体の除去率および/もしくは除去度の測定、またはこれらの組み合わせの測定は、様々な時点で行うことができ、たとえば、前記対象の腸内微生物叢の組成を調節する前、それと同時および/またはその後に行うことができる。
【0054】
前記方法を必要とする対象は、神経変性障害に罹患している対象または神経変性障害を発症するリスクがある対象であってもよく、神経変性障害は、たとえば、アミロイドによる神経変性障害であり、アミロイドによる神経変性障害としては、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病またはこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、前記方法を必要とする対象は、シヌクレイノパチーに罹患している対象またはシヌクレイノパチーを発症するリスクがある対象であり、シヌクレイノパチーとしては、たとえば、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症またはこれらの任意の組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態において、前記方法を必要とする対象は、パーキンソン病に罹患している対象またはパーキンソン病を発症するリスクがある対象である。神経変性障害としては、原発性または特発性のパーキンソニズム、二次性または後天性のパーキンソニズム、遺伝性パーキンソニズム、パーキンソンプラス症候群もしくは多系統変性症およびこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
本明細書で述べているように、本明細書に開示された方法の実施形態のいくつかにおいて、前記対象の腸内微生物叢の組成を調節することによって、該対象の腸内微生物叢の組成が正常レベルに回復する。本明細書において、腸内微生物叢の組成の「正常レベル」とは、PDに罹患していない対象(たとえば健常な対象)の腸内微生物叢の組成と同じ状態であることを指す。当業者であれば、PDに罹患していない対象(たとえば健常な対象)の間で腸内微生物叢の組成は様々であってもよいこと、およびPDに罹患していない集団すなわち健常な対象集団の腸内微生物叢の組成を代表するものとして正常レベルを確立し、比較対照として使用できることを十分に理解できるであろう。様々な判定基準を使用して、特定の対象を選定して基準集団に含め、かつ/または特定の対象を基準集団から除外してもよく、判定基準としては、対象の年齢(たとえば、基準となる対象は、処置を必要とする対象と同じ年齢集団に含まれていてもよい)、および対象の性別(たとえば、基準となる対象は、処置を必要とする対象と同じ性別であってもよい)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
本明細書で述べているように、前記対象の腸内微生物叢の組成の調節は、様々な方法によって行うことができ、このような方法としては、糞便移植、微生物叢の正常化、微生物叢の定着、腸内微生物叢の再構築、プロバイオティクス処置、抗生物質処置、またはこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
いくつかの実施形態において、前記対象の腸内微生物叢の組成を調節することは、該対象に1種以上の抗生物質を投与することを含む。前記1種以上の抗生物質は、たとえば、アンピシリン、バンコマイシン、ネオマイシン、ゲンタマイシン、エリスロマイシン、これらの任意の組み合わせのいずれであってもよい。いくつかの実施形態において、前記抗生物質処置は、前記対象にリファンピシンおよび/またはミノサイクリンを投与することを含まない。また、前記対象の腸内微生物叢の組成の調節は、たとえば、PDを増悪させる微生物代謝産物に対する阻害剤を、該対象に投与することによって行うこともできる。PDを増悪させる微生物代謝産物に対する阻害剤としては、PDを増悪させる1種以上の微生物代謝産物に対する抗体、PDを増悪させる1種以上の微生物代謝産物のインビボ合成中間体に対する抗体、PDを増悪させる1種以上の微生物代謝産物のインビボ合成基質に対する抗体、およびPDを増悪させる1種以上の微生物代謝産物のインビボ合成に関与する1種以上の酵素に対する阻害剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
本明細書において「PDを増悪させる微生物代謝産物」は、PDに罹患していない対象または1つ以上のパーキンソン病様症状を伴う病的状態を患っていない対象(たとえば健常な対象)と比較して、PDに罹患している対象または1つ以上のパーキンソン病様症状を伴う病的状態を患っている対象においてその量が増加している微生物代謝産物を指す。たとえば、循環系における微生物代謝産物の量は、PDに罹患している対象とPDに罹患していない対象との間で異なっていてもよい。微生物代謝産物の量は、たとえば、PDに罹患している対象の血液、糞便、血清、血漿、体液(たとえば、脳脊髄液、胸膜液、羊水、精液または唾液)および/または尿において変化していてもよい。PDを増悪させる微生物代謝産物としては、1種以上の脂肪酸、その塩もしくはエステル、またはこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。前記脂肪酸は、たとえば、短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸のいずれであってもよい。いくつかの実施形態において、PDを増悪させる微生物代謝産物は、1種以上の短鎖脂肪酸(SCFA)、その塩もしくはエステル、またはこれらの任意の組み合わせを含む。いくつかの実施形態において、PDを増悪させる微生物代謝産物は、SCFAである酢酸塩、SCFAであるプロピオン酸塩、SCFAである酪酸塩、またはこれらの任意の組み合わせを含む。
【0059】
前記対象の腸内微生物叢の組成を調節することは、たとえば、該対象において、パーキンソン病(PD)に対して保護作用を有する1種以上の細菌種の量を増加させることを含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、前記対象の腸内微生物叢の組成を調節することは、パーキンソン病(PD)に対して保護作用を有する1種以上の細菌種を含む組成物を、該対象に投与することを含む。本明細書において「パーキンソン病(PD)に対して保護作用を有する細菌種」は、対象の腸内微生物叢に存在することによって、パーキンソン病(PD)または1つ以上のパーキンソン病様症状を伴う病的状態の発症から該対象を保護することができるか、PDまたは1つ以上のパーキンソン病様症状を伴う病的状態を患う対象において疾患の進行を遅延させることができるか、PDの病状または1つ以上のパーキンソン病様症状を伴う病的状態を改善することができるか、PDの少なくとも1つの症状を緩和することができるか、またはこれらの組み合わせを達成することができる細菌種を指す。いくつかの実施形態において、PDに対して保護作用を有する細菌種は、PDに罹患していない対象(たとえば該対象の腸)のみに存在し、PDまたは1つ以上のパーキンソン病様症状を伴う病的状態を患う対象には存在しない。いくつかの実施形態において、PDまたは1つ以上のパーキンソン病様症状を伴う病的状態を患う対象(たとえば該対象の腸)に存在し、PDに対して保護作用を有する細菌種の量は、PDに罹患していない対象(たとえば健常な対象)と比較して有意に少ない(たとえば50%以下、25%以下、10%以下または5%以下である)。PDに対して保護作用を有する細菌種としては、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、リケネラ科(Rikenellaceae)、ペプトストレプトコッカス科(Peptostreptococcaceae)、クロストリジウム科(Clostridiaceae)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、クロストリジウム属(Clostridium)、バクテロイデス属(Bacteroides)またはブチリシコッカス属(Butyricicoccus)に属する細菌種が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、前記組成物は、プロバイオティクス組成物、栄養機能組成物、医薬組成物またはこれらの任意の組み合わせである。
【0060】
いくつかの実施形態において、前記対象の腸内微生物叢の組成を調節することは、PDを増悪させる1種以上の細菌種の量を該対象において減少させることを含む。本明細書において「パーキンソン病(PD)を増悪させる細菌種」は、対象の腸内微生物叢に(単独で、または1種以上の別の細菌種とともに)存在することによって、該対象がパーキンソン病(PD)または1つ以上のパーキンソン病様症状を伴う病的状態を発症する可能性を上昇させうるか、PDまたは1つ以上のパーキンソン病様症状を伴う病的状態の発症を促進しうるか、PDの病状の重症度または1つ以上のパーキンソン病様症状を伴う病的状態の重症度を上げうるか、PDの少なくとも1つの症状を悪化させうるか、またはこれらの組み合わせをもたらしうる細菌種を指す。いくつかの実施形態において、PDを増悪させる細菌種は、PDまたは1つ以上のパーキンソン病様症状を伴う病的状態を患う対象(たとえば該対象の腸)のみに存在し、PDに罹患していない対象(たとえば健常な対象)には存在しない。いくつかの実施形態において、PDに罹患していない対象(たとえば該対象の腸)に存在し、PDを増悪させる細菌種の量は、PDまたは1つ以上のパーキンソン病様症状を伴う病的状態を患う対象と比較して有意に少ない(たとえば50%以下、25%以下、10%以下または5%以下である)。いくつかの実施形態において、PDを増悪させる細菌種は、プロテウス属(Proteus)、ビロフィラ属(Bilophila)、ロゼブリア属(Roseburia)、シュードラミバクター属(Pseudoramibacter)、ユーバクテリウム属(Eubacterium)またはベイヨネラ科(Veillonellaceae)に属する細菌種である。いくつかの実施形態において、PDを増悪させる細菌種は短鎖脂肪酸(SCFA)産生細菌であり、たとえば、KEGGのK00929ファミリー、K01034ファミリーまたはK01035ファミリーに属するSCFA産生細菌である。
【0061】
いくつかの実施形態において、前記対象の腸内微生物叢の組成を調節することは、処置を受ける該対象に、健常な対象から得た腸内微生物叢を導入することを含む。
【0062】
いくつかの実施形態において、対象の神経変性障害を治療する方法であって、前記対象に抗生物質を投与すること;およびパーキンソン病(PD)を増悪させる微生物代謝産物に対する阻害剤を前記対象に投与することの1つ以上を含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、対象における神経変性障害の発症を遅延させるか、またはその発症の可能性を低下させる方法であって、前記対象に抗生物質を投与すること;およびパーキンソン病(PD)を増悪させる微生物代謝産物に対する阻害剤を前記対象に投与することの1つ以上を含む方法が提供される。いくつかの実施形態において、パーキンソン病様症状の改善を必要とする対象のパーキンソン病様症状を改善する方法であって、前記対象に抗生物質を投与すること;前記対象に抗炎症剤を投与すること;およびパーキンソン病(PD)を増悪させる1種以上の微生物代謝産物に対する阻害剤を前記対象に投与することの1つ以上を含む方法が提供される。前記抗生物質は、リファンピシンでなくてもよく、ミノサイクリンでなくてもよい。前記神経変性障害は、たとえば、アミロイドによる神経変性障害であってもよく、アミロイドによる神経変性障害としては、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病またはこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、前記神経変性障害は、シヌクレイノパチーであり、たとえば、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症またはこれらの任意の組み合わせである。
【0063】
本明細書で述べているように、いくつかの実施形態において、前記抗炎症剤は、合成非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)であってもよく、たとえば、アセチルサリチル酸、ジクロフェナク、インドメタシン、オキサメタシン、イブプロフェン、インドプロフェン、ナプロキセン、ケトプロフェン、メフェナム酸、メタミゾール、ピロキシカム、セレコキシブなどが挙げられる。いくつかの実施形態において、前記抗炎症剤は、炎症過程を調節するプロホルモンであり、プロホルモン転換酵素1、プロオピオメラノコルチン、プロホルモンであるB型ナトリウム利尿ペプチド、SMR1プロホルモンなどが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、前記抗炎症剤は、抗炎症作用を有する酵素であり、ブロメライン、パパイン、セラペプチダーゼ、タンパク質分解酵素(たとえばパンクレアチン(トリプシン、アミラーゼおよびリパーゼの混合物))などが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、前記抗炎症剤は、抗炎症作用を有するペプチドであり、ホスホリパーゼA2阻害薬が挙げられ、たとえば、アンチフラミン-1(リポコルチンの246~254番目のアミノ酸配列に相当するペプチド);アンチフラミン-2(ウテログロビンの39~47番目のアミノ酸配列に相当するペプチド);S7ペプチド(インターロイキン6とインターロイキン6受容体の間の相互作用を抑制するペプチド);RP1(プレニル化タンパク質阻害薬);およびこれらに類似のペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、前記抗炎症性ペプチドは、cortistatin、ソマトスタチンに関連する環状神経ペプチド、SV-IVタンパク質のN末端断片に相当するペプチド、E-セレクチン、L-セレクチンおよびP-セレクチンの保存領域などである。その他の抗炎症剤としては、コラーゲン加水分解物、牛乳の微量栄養素濃縮物(たとえば、MicroLactin(登録商標);Stolle Milk Biologics社(オハイオ州シンシナティ)から入手可能)、乳タンパク質加水分解物、カゼイン加水分解物、ホエイタンパク質加水分解物および植物タンパク質加水分解物が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、前記抗炎症剤は、抗炎症性を有する植物抽出物であり、ブルーベリー抽出物、ボスウェリア抽出物、アセンヤクノキ抽出物、コガネバナ抽出物、セロリ種子抽出物、カモミール抽出物、チェリー抽出物、ツノゴマ抽出物、ユーカリ抽出物、マツヨイグサ抽出物、ショウガ抽出物、サンザシ果実抽出物、トクサ抽出物、ハリギリ樹皮抽出物、カンゾウ抽出物、ウコン抽出物、セイヨウシロヤナギ抽出物、ヤナギ樹皮抽出物およびユッカ抽出物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
いくつかの実施形態において、前記抗炎症剤および前記抗生物質はミノサイクリンではない。パーキンソン病様症状としては、運動機能障害、αSynの凝集の増強、ミクログリアの異常活性化、振戦、運動緩慢、筋強剛、姿勢異常およびバランス異常、自動運動の消失、発語障害、筆記障害ならびにこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
PDを増悪させる微生物代謝産物に対する前記阻害剤は、たとえば、PDを増悪させる1種以上の微生物代謝産物に対する抗体、PDを増悪させる1種以上の微生物代謝産物のインビボ合成中間体に対する抗体、PDを増悪させる1種以上の微生物代謝産物のインビボ合成基質に対する抗体、PDを増悪させる1種以上の微生物代謝産物のインビボ合成に関与する酵素に対する阻害剤のいずれであってもよい。
【0066】
本明細書に記載の方法において、前記対象の腸内微生物叢の組成の調節および/またはPDを増悪させる微生物代謝産物に対する阻害剤の前記対象への投与は、単独で実施してもよく、あるいは、たとえば抗生物質療法または抗炎症療法などの1つ以上のその他の治療法と組み合わせて実施してもよく;または単独で実施して治療効果を奏してもよい。たとえば、本明細書に開示された方法の実施形態のいくつかにおいて、前記対象または前記方法を必要とする対象は、抗生物質および/または抗炎症剤による処置を受けていない。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記対象または前記方法を必要とする対象に、抗生物質および/または抗炎症剤を投与することを含まない。いくつかの実施形態において、前記対象または前記方法を必要とする対象は、リファンピシンおよび/またはミノサイクリンによる処置を受けていない。いくつかの実施形態において、前記対象または前記方法を必要とする対象は、腸内微生物叢の組成の調節またはその他の処置(たとえば、PDを増悪させる微生物代謝産物に対する1種以上の阻害剤の投与)を行う前の少なくとも1時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間、少なくとも1日間、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも5日間、少なくとも10日間または少なくとも20日間に、抗生物質による処置および/または抗炎症剤による処置を受けていない。いくつかの実施形態において、前記対象または前記方法を必要とする対象は、腸内微生物叢の組成の調節またはその他の処置(たとえば、PDを増悪させる微生物代謝産物に対する1種以上の阻害剤の投与)を行った後の少なくとも1時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間、少なくとも1日間、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも5日間、少なくとも10日間または少なくとも20日間に、抗生物質による処置および/または抗炎症剤による処置を受けない。
【0067】
本明細書に開示された方法の実施形態のいくつかにおいて、該方法は、前記対象において、PDに関連する1種以上の細菌種の存在および/またはその量を測定することによって、前記処置を必要とする対象を特定することをさらに含む。
【0068】
パーキンソン病の診断
本明細書において開示されているように、対象において特定のPD関連腸内微生物を同定することによって、重度の運動症状を発症する前にPDを診断することができ、かつ/またはこのようなPD関連腸内微生物を、疾患の進行重症度のマーカーとして使用することができる。
【0069】
対象のパーキンソニズムを診断する方法が提供される。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記対象において、パーキンソン病(PD)に関連する1種以上の細菌種の存在および/またはその量を測定することを含み、PDに関連する1種以上の細菌種が存在していること、および/またはその量が異常であることから、該対象がパーキンソニズムの症状を発症するリスクがあること、またはパーキンソニズムの症状を患っていることが示される。いくつかの実施形態において、前記対象の腸において、PDに関連する1種以上の細菌種の存在および/またはその量を測定する。
【0070】
本明細書において「パーキンソン病(PD)に関連する細菌種」は、PDに罹患していない対象または1つ以上のパーキンソン病様症状を伴う病的状態を患っていない対象(たとえば健常な対象)と比較して、PDに罹患している対象または1つ以上のパーキンソン病様症状を伴う病的状態を患う対象の腸内微生物叢においてその量が変化している細菌種である。いくつかの実施形態において、「PDに関連する細菌種」は、PDに罹患していない対象または1つ以上のパーキンソン病様症状を伴う病的状態を患っていない対象(たとえば健常な対象)と比較して、PDに罹患している対象または1つ以上のパーキンソン病様症状を伴う病的状態を患う対象の腸内微生物叢においてその量が増加している。いくつかの実施形態において、「PDに関連する細菌種」は、PDに罹患していない対象または1つ以上のパーキンソン病様症状を伴う病的状態を患っていない対象(たとえば健常な対象)と比較して、PDに罹患している対象または1つ以上のパーキンソン病様症状を伴う病的状態を患う対象の腸内微生物叢においてその量が減少している。いくつかの実施形態において、PDに関連する細菌種は、PDまたは1つ以上のパーキンソン病様症状を伴う病的状態を患う対象(たとえば該対象の腸)のみに存在し、PDに罹患していない対象(たとえば健常な対象)には存在しない。いくつかの実施形態において、PDに罹患していない対象(たとえば該対象の腸)における、PDに関連する細菌種の量は、PDまたは1つ以上のパーキンソン病様症状を伴う病的状態を患う対象と比較して有意に少ない(たとえば50%以下、25%以下または10%以下である)。いくつかの実施形態において、PDに関連する細菌種は、プロテウス属(Proteus)、ビロフィラ属(Bilophila)、ロゼブリア属(Roseburia)、シュードラミバクター属(Pseudoramibacter)、ユーバクテリウム属(Eubacterium)またはベイヨネラ科(Veillonellaceae)に属する細菌種である。いくつかの実施形態において、PDに関連する細菌種は短鎖脂肪酸(SCFA)産生細菌であり、たとえば、KEGGのK00929ファミリー、K01034ファミリーまたはK01035ファミリーに属するSCFA産生細菌である。
【0071】
PDに関連する1種以上の細菌種が存在すること、および/またはその量が異常であることから、前記対象がパーキンソニズムを発症するリスクがあること、または前記対象がパーキンソニズムに罹患していることを示すことができる。前記パーキンソニズムは、たとえば、原発性もしくは特発性のパーキンソニズム、二次性もしくは後天性のパーキンソニズム、遺伝性パーキンソニズム、パーキンソンプラス症候群もしくは多系統変性症、これらの任意の組み合わせのいずれであってもよい。いくつかの実施形態において、前記パーキンソニズムはパーキンソン病である。いくつかの実施形態において、前記対象は成人である。
【0072】
組成物
本明細書はさらに、パーキンソン病(PD)に対して保護作用を有する1種以上の細菌種を含む組成物を開示する。PDに対して保護作用を有する細菌種としては、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、リケネラ科(Rikenellaceae)、ペプトストレプトコッカス科(Peptostreptococcaceae)、クロストリジウム科(Clostridiaceae)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、クロストリジウム属(Clostridium)、バクテロイデス属(Bacteroides)またはブチリシコッカス属(Butyricicoccus)に属する細菌種が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、前記組成物は、PDを増悪させる細菌種を含んでいない。たとえば、いくつかの実施形態において、前記組成物は、プロテウス属(Proteus)、ビロフィラ属(Bilophila)、ロゼブリア属(Roseburia)、シュードラミバクター属(Pseudoramibacter)、ユーバクテリウム属(Eubacterium)およびベイヨネラ科(Veillonellaceae)の少なくとも1つに属する細菌種を含んでいない。いくつかの実施形態において、前記組成物は、プロテウス属(Proteus)、ビロフィラ属(Bilophila)、ロゼブリア属(Roseburia)、シュードラミバクター属(Pseudoramibacter)、ユーバクテリウム属(Eubacterium)またはベイヨネラ科(Veillonellaceae)に属する細菌種を含んでいない。
【0073】
前記組成物は、様々な種類の組成物であってもよく、たとえば、プロバイオティクス組成物、栄養機能組成物、医薬組成物、これらの任意の組み合わせのいずれであってもよい。いくつかの実施形態において、前記組成物は、食品、飲料または栄養補助食品である。いくつかの実施形態において、前記組成物は、1種以上の薬学的に許容される担体を含む医薬組成物である。いくつかの実施形態において、前記医薬組成物は、胃酸抑制薬、制酸薬、H2拮抗薬、プロトンポンプ阻害薬またはこれらの組み合わせを含む。前記組成物は様々な形態であってもよく、たとえば、凍結乾燥製剤、微粉砕製剤または粉末製剤;懸濁剤(たとえば前記細菌が懸濁された懸濁剤);液体培養物、またはその凍結乾燥物、微粉砕粉末もしくは粉末;たとえば生理食塩水などに溶解した医薬組成物のいずれの形態であってもよい。
【0074】
前記組成物は、カプセル剤、錠剤、氷スラリー、散剤、これらの組み合わせのいずれの形態であってもよい。前記組成物は、たとえば、ヨーグルト、発酵乳および未発酵乳などの乳製品、スムージー、バター、クリーム、ホムス、紅茶キノコ、サラダドレッシング、味噌、テンペ、栄養バー、ならびに一部のジュースおよび大豆飲料を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、前記組成物は、腸溶カプセル剤、腸溶マイクロカプセル剤、再構築に適した粉末、経鼻十二指腸注入剤、または浣腸剤もしくは大腸内視鏡用注入剤の形態で送達するための剤形;または食品、食品添加物、乳製品ベースの製品、大豆ベースの製品もしくはこれらの派生製品、またはゼリーもしくはヨーグルトに添加する医薬組成物として製剤化される。
【0075】
本明細書はさらに、PDを増悪させる微生物代謝産物に対する阻害剤を含む医薬組成物を開示する。前記PDを増悪させる微生物代謝産物は、たとえば、脂肪酸またはその塩もしくはエステルであってもよい。いくつかの実施形態において、前記PDを増悪させる微生物代謝産物は、短鎖脂肪酸(SCFA)、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸、短鎖脂肪酸の塩もしくはエステル、中鎖脂肪酸の塩もしくはエステル、または長鎖脂肪酸の塩もしくはエステルである。前記阻害剤は、たとえば、PDを増悪させる微生物代謝産物に対する抗体、PDを増悪させる微生物代謝産物のインビボ合成中間体に対する抗体、PDを増悪させる微生物代謝産物のインビボ合成基質に対する抗体、PDを増悪させる微生物代謝産物のインビボ合成に関与する酵素に対する阻害剤のいずれであってもよい。前記医薬組成物は、たとえば、1種以上の薬学的に許容される添加剤を含んでいてもよい。前記医薬組成物は、様々な障害/疾患の治療に使用することができ、該障害/疾患としては、神経変性障害(パーキンソン病など)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
さらに、前記医薬組成物の薬学的に許容されるプロドラッグ、およびこのような薬学的に許容されるプロドラッグを使用した治療方法が提供される。「プロドラッグ」は、所定の化合物の前駆体を指し、対象に投与された後、インビボにおいて加溶媒分解や酵素分解などの化学的プロセスまたは生理学的プロセスを受けることによって該所定の化合物を生成するもの、あるいは生理学的条件に曝露されることによって該所定の化合物を生成するもの(たとえば、生理学的なpHに曝露されて所定の薬剤に変換されるプロドラッグ)を意味する。「薬学的に許容されるプロドラッグ」は、無毒かつ生物学的に許容できるプロドラッグ、あるいは対象への投与に生物学的に適したプロドラッグである。適切なプロドラッグ誘導体の選択方法および調製方法は、たとえばBundgaard, Design of Prodrugs(Elsevier Press,1985)に例示されている。
【0077】
さらに、前記医薬組成物の薬学的に活性な代謝産物、および本発明の方法におけるこのような代謝産物の使用が提供される。「薬学的に活性な代謝産物」は、化合物またはその塩の薬理学的に活性な生体内代謝産物を意味する。化合物のプロドラッグおよび活性な代謝産物は、当技術分野で公知または利用可能な慣用の技術を使用して特定してもよい。たとえば、Bertolini et al., J. Med. Chem. 1997, 40, 2011-2016;Shan et al., J. Pharm. Sci. 1997, 86 (7), 765-767;Bagshawe, Drug Dev. Res. 1995, 34, 220-230;Bodor, Adv. Drug Res. 1984, 13, 255-331;Bundgaard, Design of Prodrugs (Elsevier Press, 1985);およびLarsen, Design and Application of Prodrugs, Drug Design and Development (Krogsgaard-Larsen et al., eds., Harwood Academic Publishers, 1991)を参照されたい。
【0078】
本明細書に記載の化合物は、任意の適切な製剤に調製することができる。概要については、Remington’s Pharmaceutical Sciences, (2000) Hoover, J. E. editor, 20th edition, Lippincott Williams and Wilkins Publishing Company, Easton, Pa.の780~857頁を参照されたい。適当な投与経路に適した製剤が選択される。投与経路としては、経口経路、非経口経路、吸入投与経路、局所投与経路、直腸内投与経路、経鼻投与経路、頬側投与経路、膣内投与経路、埋め込みリザーバーを用いた投与経路、またはその他の投薬方法を利用した投与経路が挙げられる。化合物が安定した無毒な酸性塩または塩基性塩を形成するのに十分な酸性または塩基性を持つ場合、化合物を塩の形態で投与することが適切な場合がある。薬学的に許容される塩としては、生理学的に許容されるアニオンを生成する酸により形成された有機酸付加塩が挙げられ、たとえば、トシル酸塩、メタンスルホン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、マロン酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、安息香酸塩、アスコビル酸塩、α-ケトグルタル酸塩およびα-グリセロリン酸塩が挙げられる。適切な無機塩を形成させてもよく、無機塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、重炭酸塩および炭酸塩が挙げられる。薬学的に許容される塩は、当技術分野で公知の標準的な方法を使用して得られ、たとえば、アミンなどの十分な塩基性を持つ化合物と、生理学的に許容されるアニオンを生成する適切な酸とを反応させることによって薬学的に許容される塩を生成することができる。アルカリ金属(たとえばナトリウム、カリウムまたはリチウム)のカルボン酸塩、またはアルカリ土類金属(たとえばカルシウム)のカルボン酸塩を生成することもできる。
【0079】
本明細書に記載の化合物を医薬組成物の形態で投与する場合、該化合物を、薬学的に許容される添加剤および/または担体と混合して製剤化することができる。たとえば、本明細書に記載の化合物は、中性化合物または薬学的に許容される塩として経口投与することができ、生理食塩水に入れて静脈内投与することもできる。この目的で、リン酸塩緩衝液、重炭酸塩緩衝液、クエン酸塩緩衝液などの従来の緩衝液を使用することができる。当業者であれば、本明細書の教示の範囲内で製剤に変更を加えて、特定の投与経路に適した様々な製剤を提供することができるであろう。具体的には、水またはその他の基剤に対する溶解性が向上するように本明細書に記載の化合物を改変してもよく、このような改変は、たとえば、わずかな修飾(塩の形成、エステル化など)によって容易に達成することができ、このような方法は当業者によく知られている。さらに、特定の化合物の投与経路および投与計画を変更することによって、本発明の化合物の薬物動態を制御し、患者に対する有益な効果を最大限に高めることができることも当業者にはよく知られている。
【0080】
本明細書に記載の医薬組成物は、有機溶媒に可溶性であってもよく、該有機溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、グリセリン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドまたはこれらの任意の組み合わせなどが挙げられる。いくつかの実施形態において、薬剤と薬学的に許容される担体とを混合することによって製剤を調製する。いくつかの実施形態において、前記製剤は、a)本明細書に記載の薬剤を、水溶性有機溶媒、非イオン性溶媒、水溶性脂質、シクロデキストリン、ビタミン(トコフェロールなど)、脂肪酸、脂肪酸エステル、リン脂質またはこれらの組み合わせに溶解して、溶液を提供すること;およびb)生理食塩水または1~10%の糖液を含む緩衝液を加えることを含む方法を使用して調製することができる。前記糖質は、たとえばデキストロースを含んでいてもよい。本発明の方法を使用して得られる医薬組成物は、動物への適用および臨床適用において安定であり、かつ有用である。
【0081】
本発明の方法で使用される水溶性有機溶媒としては、ポリエチレングリコール(PEG)、アルコール類、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドまたはこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、グリセリンまたはプロピレングリコールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
本発明の方法で使用される水溶性非イオン性界面活性剤としては、CREMOPHOR(登録商標)EL、ポリエチレングリコール修飾CREMOPHOR(登録商標)(ポリオキシエチレングリセリントリリシノレアート35)、水添CREMOPHOR(登録商標)RH40、水添CREMOPHOR(登録商標)RH60、コハク酸PEG、ポリソルベート20、ポリソルベート80、SOLUTOL(登録商標)HS(12-ヒドロキシステアリン酸ポリエチレングリコール660)、モノオレイン酸ソルビタン、ポロキサマー、LABRAFIL(登録商標)(エトキシ化パーシック油)、LABRASOL(登録商標)(カプリルカプロイルマクロゴール-8-グリセリド)、GELUCIRE(登録商標)(グリセリンエステル)、SOFTIGEN(登録商標)(PEG-6カプリル酸グリセリド)、グリセリン、グリコール-ポリソルベート、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
本発明の方法で使用される水溶性脂質としては、植物油、トリグリセリド、植物由来油、またはこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。脂質油としては、ヒマシ油、ポリオキシルヒマシ油、トウモロコシ油、オリーブ油、綿実油、ラッカセイ油、ハッカ油、ベニバナ油、ゴマ油、ダイズ油、硬化植物油、水添ダイズ油、ココナッツ油のトリグリセリド、パーム核油のトリグリセリド、およびこれらの水添型、またはこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0084】
本発明の方法で使用される脂肪酸および脂肪酸エステルとしては、オレイン酸、モノグリセリド、ジグリセリド、PEGのモノ脂肪酸エステル、PEGのジ脂肪酸エステル、またはこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
本発明の方法で使用されるシクロデキストリンとしては、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、またはスルホブチルエーテル-β-シクロデキストリンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
本発明の方法で使用されるリン脂質としては、大豆ホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、およびこれらの水添型、またはこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
当業者であれば、本明細書の教示の範囲内で製剤に変更を加えて、特定の投与経路に適した様々な製剤を提供することができるであろう。たとえば、水またはその他の基剤に対する溶解性が向上するように本明細書に記載の化合物を改変してもよい。さらに、特定の化合物の投与経路および投与計画を変更することによって、本発明の化合物の薬物動態を制御し、患者に対する有益な効果を最大限に高めることができることも当業者にはよく知られている。
【0088】
本明細書に開示された医薬組成物は、経口経路、非経口経路、吸入投与経路、局所投与経路、直腸内投与経路、経鼻投与経路、頬側投与経路、膣内投与経路、埋め込みリザーバーを用いた投与経路、その他の投薬方法を利用した投与経路のいずれによって投与してもよい。本明細書において「非経口」は、皮下注射、皮内注射、静脈内注射、筋肉内注射、関節内注射、動脈内注射、滑液包内注射、胸骨内注射、髄腔内注射、病巣内注射、頭蓋内注射または輸注を包含する。
【0089】
滅菌注射組成物(たとえば水性または油性の滅菌注射用懸濁剤)は、適切な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を使用して、当技術分野で公知の技術に従って調製してもよい。滅菌注射用製剤は、非経口的に許容される無毒の希釈剤または溶媒中の滅菌注射用液剤または滅菌注射用懸濁剤としてもよい。非経口的に許容される基剤および溶媒として使用可能なものとしては、マンニトール、水、リンゲル液および等張生理食塩水が挙げられる。適切な担体およびその他の医薬組成物成分は通常、滅菌されたものである。
【0090】
さらに、溶媒または懸濁媒体として滅菌固定油(たとえば合成のモノグリセリドまたはジグリセリド)も従来使用されている。薬学的に許容される油として、オレイン酸およびそのグリセリド誘導体などの脂肪酸も注射剤の調製に有用であり、該脂肪酸としては、たとえば、オリーブ油またはヒマシ油、特にポリオキシエチル化オリーブ油またはポリオキシエチル化ヒマシ油が挙げられる。調製される油剤または懸濁剤は、長鎖アルコール希釈剤、長鎖アルコール分散剤、カルボキシメチルセルロース、または類似の分散剤をさらに含んでいてもよい。さらに、薬学的に許容される固形剤、液剤またはその他の剤形の製造においてよく使用される様々な乳化剤またはバイオアベイラビリティ向上剤も、製剤の調製に使用することができる。
【0091】
経口投与用組成物は、経口的に許容される任意の剤形としてもよく、このような剤形として、錠剤、カプセル剤、乳剤、水性懸濁剤、水性分散液および水性液剤が挙げられるが、これらに限定されない。経口投与用錠剤の場合、ラクトースやトウモロコシデンプンなどの担体が一般によく使用される。また、ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤を加えることもできる。カプセル剤での経口投与では、ラクトースや乾燥トウモロコシデンプンなどの希釈剤が有用である。水性懸濁剤または乳剤を経口投与する場合、乳化剤または懸濁化剤を添加した油相に有効成分を懸濁または溶解することができる。特定の甘味料、香味料または着色料を必要に応じて加えることもできる。経鼻エアロゾル組成物または吸入組成物は、医薬製剤分野でよく知られている技術に従って調製することができ、適切な保存剤(たとえばベンジルアルコール)、バイオアベイラビリティを向上させる吸収促進剤、および/または当技術分野で公知のその他の溶解剤もしくは分散剤を使用して、たとえば生理食塩水などに溶解した溶液として調製することができる。
【0092】
以下の実施例において、前述の実施形態のいくつかの態様をさらに詳細に開示するが、以下の実施例は本発明の開示の範囲を何ら制限するものではない。
【実施例】
【0093】
実験材料および実験方法
後述の実施例1~8において以下の実験材料および実験方法を使用した。
【表1】
【0094】
マウス
X染色体上にヘテロ接合型のThy1-α-シヌクレイン外来遺伝子を導入したBDF1系統雌性Thy1-αSynマウスを、野生型雄性BDF1マウスと交配させて、雄性ASOマウスおよび雄性WTマウスを同腹仔として得て研究に使用した。雄性BDF1マウスは、雌性C57BL/6マウスと雄性DBA/2マウスを交配することによって得た(チャールス・リバー、カリフォルニア州ホリスター)。交配ペアは、雌性トランスジェニックマウスと新たに作製した雄性BDF1マウスを6ヶ月ごとに補充した。6ヶ月ごとに新たに作製した雄性マウスを使用して、無菌(GF)Thy1-αSyn交配ペアを帝王切開により得た。外科手術によって子宮を取り出し、胎仔を娩出させ、微生物学的に無菌状態で得られたマウスを無菌(GF)Swiss-Webster里親マウスにより哺育させた。SPF(抗生物質処置)マウスおよびEx-GFマウスは、オートクレーブ滅菌され、換気されたマイクロアイソレーターケージ内で飼育した。GFマウスおよび短鎖脂肪酸(SCFA)処置マウスは、軟質フィルム製のアイソレーター内に設置したオープンケージで飼育し、微生物学的に無菌状態で維持した。糞便由来DNAから16s rRNAをPCRにより解析するとともに、嫌気条件下のブルセラ血液寒天培地および好気条件下のトリプチックソイ血液寒天培地に糞粒を播種することによって、2週に1回無菌状態の確認を行った。
【0095】
微生物叢の定着の有無に関わらず、マウスはいずれも、オートクレーブ滅菌した食餌(LabDiet Laboratory Autoclavable Diet 5010、ミズーリ州セントルイス)と水を自由に摂取させ、同一の12時間の明暗サイクルで維持し、同じ施設内に収容した。抗生物質で処置したマウスには、アンピシリン(1g/L;シグマ アルドリッチ、ミズーリ州セントルイス)、バンコマイシン(0.5g/L;Sagent Pharmaceuticals、イリノイ州シャンバーグ)、ネオマイシン(0.5g/L;フィッシャー・サイエンティフィック)、ゲンタマイシン(100mg/L;シグマ アルドリッチ)およびエリスロマイシン(10mg/L;シグマ アルドリッチ)を含む飲料水を5~6週齢から与え始め、12~13週齢まで継続した。Ex-GFマウスは、3匹の野生型雄性BDF1マウスから得た盲腸内容物を炭酸水素ナトリウム緩衝液に再懸濁し、得られた懸濁液を5~6週齢の無菌(GF)マウスに強制経口投与して微生物叢を定着させることによって作製した。SCFA処置マウスには、酢酸ナトリウム(67.5mM;シグマ アルドリッチ)、プロピオン酸ナトリウム(25mM;シグマ アルドリッチ)および酪酸ナトリウム(40mM;シグマ アルドリッチ)を含む飲料水を5~6週齢から与え始め、12~13週齢まで継続した。ミノサイクリン(Arcos Organics)での処置は、SCFAの投与と同時に、5~6週齢から12~13週齢まで2g/Lのミノサイクリンを含む飲料水を自由に摂取させることによって行った。加熱死菌で処置した無菌マウスは、LB液体培地(溶原培地)で増殖させた大腸菌MC4100(ミシガン大学のMatthew Chapmanから供与)約5×108cfu/mLを、リン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄し、45分間沸騰したものを飲料水に加え、これを自由に摂取させることによって作製した。
【0096】
ヒトドナーおよびドナー基準
ヒトドナーは、ラッシュ大学のMovement Disorder Clinicで診察した患者から選択した。パーキンソン病(PD)はUK Brain Bank Criteriaに従って診断した。PD患者の除外基準は、非定型パーキンソニズムまたは二次性パーキンソニズムであること;試料採取の3ヶ月前からプロバイオティクスまたは抗生物質を使用していること;NSAIDを使用していること;原発性消化管疾患を有していること;慢性消化管疾患(IBDおよびセリアック病を含む)の既往歴があること;不安定な内科疾患、神経疾患、精神疾患のいずれかを有していること;血小板数が少ないこと(<8万);治療不能なPT時間の延長(9~15秒)があること;または生検不能な出血の既往歴があることとした。S状結腸鏡検査およびH&E組織染色で患者の直腸粘膜およびS字結腸粘膜を検査したところ、いずれも正常であった。健常コントロールは、可能な限りPD患者群とマッチさせた。健常者の選択基準は、健康診断および血液検査の結果が正常であること;消化器系に関する愁訴、症状、既往歴がいずれもないこと;神経変性疾患がないこと;試料採取の少なくとも3ヶ月前からプロバイオティクス、抗生物質、NSAID、処方薬をいずれも使用していないこととした。
【0097】
運動機能試験および消化管機能試験
ヒト化マウスを除き、運動機能評価はいずれも、同一のノトバイオート動物施設において行った。ヒト化マウスの実験は、同一施設内のラミナーフローバイオセイフティーキャビネット内で行った。運動機能試験はいずれのマウスにおいても、明期の7時間目~9時間目に行った。試験はすべて、Fleming et al., 2004, Early and progressive sensorimotor anomalies in mice overexpressing wild-type human alpha-synuclein. J. Neurosci. 24, 9434-9440(この文献はその内容全体が本明細書に援用される)に記載の研究と同様にして行った。ビームテスト(ビーム横断)を最初に実施し、マウスを約1時間休ませた後、ポールテスト(ポール降下)を行った。翌日に粘着テープ除去テストおよび後肢スコアリングを行った。排泄された糞粒数のカウントは3日以内に行い、その直後に組織を採取した。
【0098】
ビームテスト
長さ0.25mの部材を4つ組み合わせて、長さ1mのプレキシガラス製ビーム(Stark’s Plastics、オハイオ州フォレストパーク)を作製した。各部材の幅をそれぞれ3.5cm、2.5cm、1.5cmおよび0.5cmと段階的に狭め、ビームの上面から1cm下に1cmの張出しを設けた。最も幅の広い部材を、マウスを乗せるためのプラットホームとして使用し、最も幅の狭い端部にホームケージを設置した。試験を実施する前に、ビームの全長を横断できるように2日間マウスを訓練した。1日目の訓練では、ホームケージをプラットホームに近づけて配置し、段階的に幅を狭めたビーム上を前進するようにマウスを前方に誘導して、1回目の試行を行った。次いで、補助を減らして、あるいは全く補助を行わずに、ビーム上でマウスが安定して前進するように促して、さらに2回の試行を行った。2日目の訓練では、ビームの横断試行を3回行った。訓練後のマウスは、ほとんど補助を必要とせずに前進することができた。3日目に、マウスがビームを横断してプラットホームからホームケージに到達するまでの時間を3回の試行で測定した。到達するまでの時間は、マウスが幅2.5cmの部材の上に前肢を乗せてから計測を開始し、前肢の片方がホームケージに到達した時点で計測を終了した。
【0099】
ポールテスト
マウスが掴まりやすいように、長さ0.5m、直径1cmのポールに非粘着性の棚敷きシートを巻き付け、ホームケージに配置した。ポールの最上部からホームケージまで降りるようにマウスを2日間訓練した。1日目の訓練では3回の試行を行った。1回目の試行では、床から1/3の高さにマウスを下向きに掴まらせ、2回目の試行では床から2/3の高さに掴まらせ、3回目の試行では最上部に掴まらせた。2日目の訓練では、ポールの最上部にマウスを下向きに掴まらせ、ホームゲージまで降りるように試行を3回行った。試験当日に、ポールの最上部にマウスを下向きに掴まらせ、ホームケージに降りるまでの時間を計測した。ポールを降りるまでの時間は、実験者がマウスから手を離した瞬間から計測を開始し、マウスの後肢の片方がホームケージの床に到達した時点で計測を終了した。
【0100】
粘着テープ除去テスト
直径1/4インチの円形粘着ラベル(Avery、カリフォルニア州グレンデール)を鼻孔と前頭の間の鼻梁に貼り付けた。(他のマウスを移動させた)ホームケージにマウスを入れ、粘着ステッカーを完全に剥がすまでの時間を計測した。テストを3回行い、結果を記録した。
【0101】
後肢抱擁反射スコアリング
Zhang et al., 2014, Motor impairments, striatal degeneration, and altered dopamine-glutamate interplay in mice lacking PSD-95. J. Neurogenet. 28, 98-111(この文献はその内容全体が本明細書に援用される)に記載されている方法と同様にして実験を行った。マウスの尾の中央部をつまんでゆっくりと上に持ち上げ、約5~10秒間観察した。後肢を内側に屈曲させた程度に基づいて、スコア0、スコア1、スコア2、スコア3のいずれかでマウスを評価した。四肢を自由に動かして四肢を外側に伸ばしたマウスは、抱擁反射を示さなかったものとしてスコア0と評価した。持ち上げられている間に後肢の一方が内側に屈曲したか、あるいは四肢の一部が内側に屈曲した場合はスコア1と評価した。観察時間の大部分において四肢を内側に屈曲させたが、それでもある程度の柔軟性を示していた場合はスコア2と評価した。マウスが直ちに後肢を内側に屈曲させ完全に麻痺した状態になり、柔軟性を全く示さなかった場合はスコア3と評価した。
【0102】
ワイヤハングテスト
1cm幅の網目を有する30cm×30cmの金網の中心にマウスを乗せた。金網を逆さまにひっくり返して、床敷きを深くしたオープンケージから約40cmの高さに設置した支持台に置いた。マウスが金網から落ちるまでの時間を計測し、落ちずにしがみついたままの場合は60秒を測定値とした。
【0103】
糞便の排泄
マウスをホームケージから取り出し、12cm×25cmの半透明の円筒形容器に入れた。糞粒を5分毎にカウントし、15分間の累積数をカウントした。また、少なくとも3種の課題を実施した対象から収集した行動データを使用して、MATLABソフトウェア(MathWorks)上ですべての運動機能について主成分分析を行った。データをセンタリングし、正規化(s=1)してから、PCA関数を実行した。各対象に対応する因子負荷量を使用して、分散の70.5%を占めるPC1とPC2のみをプロットした。
【0104】
免疫染色およびミクログリア像の再構築
ペントバルビタールを投与してマウスを鎮静させ、リン酸緩衝生理食塩水を十分に灌流させた後、脳を切断して、脳半球を4%(w/v)パラホルムアルデヒドで固定した。ビブラトームを使用して50mmの矢状断面切片を作製した。浮遊切片を、抗凝集化/線維化αSyn抗体MJFR1(1:1000;ウサギ;AbCam、英国ケンブリッジ)、抗リン酸化Ser129 αSyn抗体(1:1000;マウス;Biolegend、カリフォルニア州サンディエゴ)およびNeurotrace(ライフテクノロジーズ、カリフォルニア州カールスバッド)、または抗Iba1抗体(1:1000;ウサギ;和光純薬、バージニア州リッチモンド)で染色し、次いで抗マウスIgG-AF488抗体および抗ウサギIgG-AF546抗体(1:1000;ライフテクノロジーズ)で染色した。染色した切片をProFade Diamond(ライフテクノロジーズ)で封入し、10倍の対物レンズを備えたツァイス社製LSM800共焦点顕微鏡で撮影した。マウス1匹につき1領域あたり2~3視野を撮影し、ImageJソフトウェアを使用して画像を1つにまとめ、分析を行った。ミクログリア像を再構築するため、Erny et al., 2015, Host microbiota constantly control maturation and function of microglia in the CNS. Nat. Neurosci. 18, 965-977(この文献はその内容全体が本明細書に援用される)に記載されている方法と同様にして、Imarisソフトウェアを使用してzスタックデータを1mmごとに画像化し、分析を行った。ミクログリアの細胞体および細胞突起を半自動で再構築し、個々の細胞体に名称を振り、Imarisソフトウェアを使用して各細胞体の直径、突起長および分岐数を測定した。マウス1匹につき1領域あたり20~60個の細胞を分析した。
【0105】
CD11b細胞の濃縮およびqPCR分析
灌流後に摘出した全脳を、100mmのメッシュフィルタを通してPBS中でホモジナイズし、メーカーの説明書に従ってMyelin Removal Beads(ミルテニーバイオテク、カリフォルニア州サンディエゴ)を使用してミエリン断片を磁気分離により除去した。同様に、メーカーの説明書に従ってMicroglia Microbeads(ミルテニーバイオテク、カリフォルニア州サンディエゴ)を使用した磁気濃縮によりCD11b細胞を濃縮した。免疫蛍光顕微鏡法で濃縮細胞を確認したところ、概して、CD11b陽性に染色された細胞は90%を超えていた。RNA分析を行うため、切断した組織(前頭皮質、尾状核被殻、中脳下部および小脳)またはCD11b細胞を濃縮した細胞ペレットをTrizolで溶解し、DirectZol RNAキット(Zymo Research、カリフォルニア州アーヴィン)を使用してRNAを抽出した。続いて、iScript cDNΑ Synthesis kit(バイオ・ラッド、カリフォルニア州ハーキュリーズ)を使用してcDNAを作製した。前記標的遺伝子に対するプライマーをPrimerBankから入手し、SYBR Greenマスターミックス(アプライドバイオシステムズ、カリフォルニア州フォスターシティー)を使用して、アプライドバイオシステムズ社製7900HT装置でqRT-PCRを行い、DDCT法で定量し、gapdhで補正した(使用したプライマーを前記表1に示す)。
【0106】
サイトカインおよびαSynのELISA分析およびウエスタンブロット分析
プロテアーゼ阻害剤カクテル(サーモフィッシャー、ペンシルベニア州ピッツバーグ)を含むRIPAバッファー中で組織ホモジネートを調製し、PBSで希釈した。メーカーの説明書に従って、TNF-α ELISAおよびIL-6 ELISA(eBioscience、カリフォルニア州サンディエゴ)ならびにαSyn ELISA(サーモフィッシャー)を行った。ドットブロット分析によるαSyn線維の定量を行うため、前記組織領域から得た1mgの組織ホモジネートから調製した試料1mLを、0.45mmのニトロセルロース膜上にスポットした。トリトンX可溶性画分とトリトンX不溶性画分をウエスタンブロットで比較するため、1%トリトンX-100を含むRIPAバッファー中で脳半球をホモジナイズし、4℃、15,000×gで60分間遠心分離して不溶性タンパク質を沈殿させ、トリトン可溶性上清から分離した。Kluckenら(2006, Clinical and biochemical correlates of insoluble alpha-synuclein in dementia with Lewy bodies. Acta Neuropathol. 111, 101-108(この文献はその内容全体が本明細書に援用される))による過去の報告に従って、不溶性画分を10%ドデシル硫酸ナトリウムに溶解させた。各画分5mgを4%~20%SDS-PAGE(サーモフィッシャー)で分離し、PVDF膜にブロットした。膜はすべて0.1%Tween-20を含むトリス緩衝食塩水中に溶解した5%ドライスキムミルクでブロッキングした。抗凝集化αSyn抗体(1:2000;ウサギ;Abcam)または抗αSyn抗体(1:1000;ウス;BD)をスキムミルクで希釈し、膜に添加して4℃で一晩インキュベートした。抗ウサギIgG HRPまたは抗マウスIgG HRP(1:1000;Cell Signaling Technology)を膜に添加してタンパク質を検出した。ブロットはすべてバイオ・ラッド社製のGelDoc XR上でClarity化学発光基質(バイオ・ラッド)により検出した。ブロットの濃度測定はImageJソフトウェアを使用して行った。
【0107】
αSyn凝集アッセイ
インビトロにおける凝集動態を調べるため、Chorell et al., 2015, Bacterial chaperones CsgE and CsgC differentially modulate human α-synuclein amyloid formation via transient contacts. PLoS ONE 10, e0140194(この文献はその内容全体が本明細書に援用される)に記載されている方法と同様にして、70mMのαSynを精製した。12mMチオフラビンT(ThT;シグマ アルドリッチ)の存在下において、SCFAの濃度を段階的に上昇させながら、リン酸緩衝生理食塩水(0.01Mリン酸緩衝液、0.0027M塩化カリウム、0.137M塩化ナトリウム、pH7.4)中で70mM精製αSynをインキュベートした。ノンバインディング96ウェルハーフエリアプレート(コーニング#3881)を各実験に使用し、凝集を促すため各ウェルに直径2mmのガラスビーズを加えた。マイクロプレートリーダー(Fluostar OPTIMAマイクロプレートリーダー、BMG Labtech)を使用し、励起フィルタを440±10nmとし、発光フィルタを490±10nmとして、37℃で断続的に振盪しながらThTの蛍光シグナルを記録した。動態曲線は最大蛍光強度で正規化し、最大強度の半分の値に達するまでの時間を求めた。さらに、原子間力顕微鏡(AFM)を用いたイメージングを行うため、試料を超純水で希釈して総タンパク質濃度が約3mMになるように調整し、新たに劈開したマイカ上に希釈試料50mlをピペットで乗せ、そのまま乾燥させた。共振周波数が約150kHzの金コーティング単結晶シリコンカンチレバー(ばね定数:約5.1N/m)を備えたモジュール型走査プローブ顕微鏡NTEGRA Prima(NT-MDT)を使用して、断続的コンタクトモードで試料のイメージングを空気中で行った。AFM像は、オープンソースのGwyddionソフトウェアで加工した。
【0108】
SCFAの抽出および分析
糞便試料は12週齢のマウスから採取した。各糞粒を18Ωの滅菌脱イオン水1mLと混合した。ペレットと水の混合物を、3200rpmで5分間振盪することによりホモジナイズし、4℃、13,000rpmで15分間遠心分離した。0.2mmのPVDF膜を備えた直径13mmのAcrodisc LC滅菌シリンジフィルタ(Pall Life Sciences)を使用して上清を濾過した。この濾液を使用して高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析を行った。糖分析カラム(アミネックスHPX-87Hカラム、バイオ・ラッド)とフォトダイオードアレイ検出器(PDA、島津製作所)を備えたHPLC(LC-20AT、島津製作所)を使用して短鎖脂肪酸(SCFA)を分析した。溶離液として5mM H2SO4を使用し、0.6mL/分の流速で通液した。カラム温度は50℃とし、分析時間は60分とした。標準曲線は、10mM揮発性脂肪酸標準溶液(酢酸、酪酸、ギ酸、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸、イソカプロン酸およびヘプタン酸)を50nM~5000nMに希釈することによって作製した。SCFAの濃度は溶解性化学的酸素要求量で正規化した。糞便上清中のsCOD値は、メーカーの推奨に従って高域(20~1500mg/L)Hach COD digestionチューブ(Hach Company、ラブランド)を使用して測定した。Hach社製分光光度計を使用して波長620nmでCODを測定した。
【0109】
マイクロバイオームのプロファイリング
遺伝子型およびドナー別に1~3匹の群に分けて収容したマウスから、糞便移植後7日目、14日目、21日目および49日目に糞粒を回収した。Gilbert et al., 2014, The Earth Microbiome project: successes and aspirations. BMC Biol. 12, 69(この文献はその内容全体が本明細書に援用される)に記載の、Earth Microbiome Projectで使用されたプロトコルに従って試料のシーケンシングを行った。簡潔に説明すると、MoBio Power soilキット(カリフォルニア州カールスバッド)を使用してDNAを抽出し、Waltersら(2015)に記載のバーコードプライマーを使用して16S rRNA遺伝子のV4領域を増幅した。シーケンシングはイルミナ社製のMiSeqを使用して行った。OTU(operational taxonomic unit)のクラスタリングは、QIIME1.9(Caporasoら(2010)に記載)においてSortMeRNA2.0(Kopylovaら(2012)に記載)を使用して、2013年8月に更新されたGreengenesデータベース(McDonaldら(2012)に記載)と照合したclosed reference pickingにより行った。レアファクション解析によって1試料あたり7500リードを再サンプリングしたOTU tableを作製し、α多様性およびβ多様性を算出した。群間の存在度の比較は、リード数が7500個未満の試料を除外したOTU tableを使用して行った。weighted UniFrac距離およびunweighted UniFrac距離(LozuponeおよびKnight(2005)に記載)はQIIME1.9で算出した。Emperor0.9.4(Vazquez-Baezaら(2013)に記載)を使用して、UniFrac距離を主座標分析(PCoA)で視覚化した。機能予測は、PICRUSt1.0(Langilleら(2013)に記載)を使用して行い、予測された機能のレパートリーはBray Curtis距離を使用して比較した。有意差検定は、scikit-bio0.4.2を使用してpermanovaを実施するとともに、QIIME1.9を使用して並べ替えt試験を実施することによって行い、いずれの検定でも1検定あたりの並べ替えは999回とした。群間の存在度の比較の算出は、属レベルでの分類群およびKEGGデータベースに基づく相対存在度を使用して行い、この際、合計が1となるようにカウントの微調整を行った。この試験は、scikit-bio0.4.2においてANCOM(Mandalら(2015)に記載)を使用して行い、ボンフェローニ法で補正したα=0.1を棄却閾値とした一元配置分散分析で評価した。健常ドナーまたはPDドナーから得た試料の定着は、BDF1系統マウスまたはThy1-αSyn遺伝子型マウスにおいて比較した。各群間で有意に異なる分類群を比較し、BDF1系統とThy1-αSyn系統の両方に有意、Thy1-αSyn系統のみに有意、またはBDF1系統に有意に分類した。グラフのプロットはSeaborn0.7.0を使用して行った。
【0110】
定量および統計分析
マイクロバイオーム集団の統計分析は上記で詳述したとおりである。これ以外のデータセットはGraphPad Prism 6ソフトウェアで分析した。一対比較は両側t検定で実施した。群間比較は一元配置分散分析で実施した。p値、n値、分布の中心の定義および分散の測定は、各図面の凡例に示した。
【0111】
データおよび利用可能なソフトウェア
16sの配列データおよびメタデータはオンラインで入手可能であり、QIITAウェブサイト(https://qiita.ucsd.edu/)のstudy accession No.10483や、EMBL ENAデータベース(http://www.ebi.ac.uk/ena)のstudy accession No.ERP019564から入手することができる。
【0112】
実施例1
腸内微生物による運動機能障害および消化管機能障害の増悪
本実施例では、複雑な微生物叢を有するASOマウスと野生型マウスとを使用して、腸内微生物により運動機能障害および消化管機能障害が増悪することを示す。
【0113】
Thy1-αSyn(α-シヌクレインを過剰発現する[ASO])マウスは、細かい運動機能および全体的な運動機能における障害が進行性に起こり、消化管運動障害も呈する。ヒトにおいてαSynが無秩序に発現すると、PDのリスクが高くなるという証拠が得られており、これがThy1-αSynマウスモデルの疫学的根拠となっている。12週齢において協調運動課題にはっきりとした障害が見られる。運動機能は、このモデルにおいて過去に検証されているビームテスト(ビーム横断)、ポールテスト(ポール降下)、鼻部の粘着テープ除去テストおよび後肢抱擁反射からなる4つの試験によって測定した。(Fleming et al., 2004, Early and progressive sensorimotor anomalies in mice overexpressing wild-type human alpha-synuclein. J. Neurosci. 24, 9434-9440(この文献はその内容全体が本明細書に援用される)に記載の方法と同様にして行った)。
【0114】
複雑な微生物叢を有する12~13週齢のASOマウス(SPF-ASO)は、野生型の同腹仔マウス(SPF-WT)と比較して、ビームテストにおいて有意に長い横断時間を要し、さらにポール降下時間も延長した(
図2Aおよび
図2B)。これらの2種の試験は全体的な運動機能を示す。細かい運動制御を調べるための、鼻梁からの粘着テープの除去テストでは、SPF-ASOマウスは、SPF-WTマウスと比較して運動制御障害が見られた(
図2C)。線条体の機能不全を調べるための後肢抱擁反射テストでは、SPF-ASOマウスに異常が見られた(
図2D)。
【0115】
運動障害に対する腸内細菌の寄与を評価するため、無菌状態のASOマウス(GF-ASO)および野生型マウス(GF-WT)を別に作製した。予想外にも、12~13週齢のGF-ASOマウスは、ビームテスト、ポールテスト、粘着テープ除去テストおよび後肢抱擁反射テストにおいて運動障害の改善を示した(
図2A~2D)。実際に、GF-ASOマウスによる運動機能課題の達成度は、多くの場合でWTマウスの達成度と類似していた。GF-ASOマウスとSPF-ASOマウスの間に体重差はなかったが(
図3A)、握力を測定するワイヤハングテストでは、SPF-ASOマウスでもGF-ASOマウスでも運動機能の低下が見られた(
図3B)。したがって、運動機能テストの結果は体重または体力によるものではなかった。
【0116】
さらに週齢を経ると(24~25週齢)、SPF-ASOマウスは運動機能が進行性に低下したが(
図3C~3G)、このような運動機能の進行性低下はGF-ASOマウスにおいて有意に遅延した(
図3C~3G)。GF-WTマウスとSPF-WTマウスの運動課題において一貫した差異は見られなかったことから、遺伝子とマイクロバイオームが相互作用していることが実証された。PD患者で観察されるのと同様に、SPF-ASOマウスモデルにおいても運動機能障害と同時に、消化管機能の低下と便秘が見られた。
【0117】
GF-ASOマウスでは排便量に変化が見られなかったのに対して、SPF-ASOマウスでは、12~13週齢でも24~25週齢でも、排泄された総糞粒数に顕著な低下が観察された(
図2E、
図2F、
図3Hおよび
図3I)。さらに、SPF-ASOマウスが排泄した糞粒は、GF-ASOマウスのものと比べて含水量が少なかった(
図3J)。これらの結果から、無菌(GF)マウスにおいて消化管障害が改善していることが明らかになった。これを裏付けるように、すべての運動機能の表現型を主成分分析(PCoA)で集約すると、SPF-ASO群のみが著しく逸脱しており、GF-ASOマウス群はWTマウス群とよく似たクラスタを形成した(
図3K)。
【0118】
実施例1において示されたデータから、PDの前臨床モデルにおいて、PDに特徴的な運動機能障害および消化管機能障害が腸内微生物によって増悪することが実証された。
【0119】
実施例2
αSyn病変における腸内微生物叢の必要性
本実施例は、腸内微生物叢を有するマウスにおいてαSyn病変が増加することを示す。
【0120】
PDにおける運動障害に一致してαSynの凝集が見られる。αSyn凝集体とαSyn線維とを構造特異的に認識する抗体を使用して、免疫蛍光顕微鏡法を実施し、マウスの脳内のαSyn封入体を視覚化した。SPF条件のASOマウスにおいて、マウスモデルでもヒトPD患者でもPDの影響を受ける脳領域である黒質-線条体路の尾状核被殻(CP)と黒質(SN)にαSynの顕著な凝集が観察された(
図4Aおよび
図4B)。驚くべきことに、GF-ASOマウスでは、αSyn凝集体の量が大幅に少なかった(
図4Aおよび
図4B)。αSyn凝集の定量は、脳抽出物のウエスタンブロットにより行った(
図4C)。驚くべきことに、GF-ASOマウスの脳ではわずかな量の不溶性αSynしか観察されなかった(
図4C~4E)。さらにこの結果を裏付けるため、黒質(SN)の存在部位である尾状核被殻(CP)および中脳下部におけるαSynの凝集をドットブロット分析により調べた。先の実験と同様に、GF-ASOマウスにおいてαSyn凝集の減少が観察された(
図5A~5C)。
【0121】
領域特異的なαSynの凝集が観察され、前頭皮質(FC)におけるαSynの凝集は、SPFマウスよりもGF-ASOマウスで少なかったが、小脳(CB)におけるαSynの凝集は、SPFマウスとGFマウスの間でほぼ同じ量であった(
図5D~5H)。これらの知見が外来遺伝子の発現の差異によるものではなかったことを確認するため、中脳下部および尾状核被殻(CP)におけるαSyn転写産物量およびαSynタンパク質量を測定したところ、SPF-ASOマウスとGF-ASOマウスの間でほぼ同程度であることが示された(
図4Fおよび
図4G)。
【0122】
以上のデータから、微生物叢は、αSynの凝集を促進する経路を制御しており、かつ/または不溶性タンパク質凝集体の除去を阻害していることが示された。
【0123】
実施例3
微生物叢によるαSyn依存性ミクログリア活性化
本実施例では、微生物叢によってαSyn依存性にミクログリアが活性化されることを示す。
【0124】
微生物叢は中枢神経系(CNS)において免疫発達を調節し、αSyn凝集体は、脳内に存在するミクログリアを含む免疫細胞を活性化させる。ミクログリアは活性化すると顕著な形態学的変化を起こし、多数の枝分かれした突起を持つ薄い細胞体から、突起の数を減らした円形のアメーバ状細胞へと移行する。共焦点蛍光顕微鏡法を使用して個々のミクログリア細胞のインサイチュー3D再構築を行ったところ、SPFマウスに見られるミクログリアは、野生型の無菌(GF)マウスのものとは異なることが明らかとなった。SPF-WTマウスと比較して、GF-WTマウスでは、尾状核被殻(CP)および黒質(SN)に見出されるミクログリアの数が多く、ミクログリアの突起の全長も長かった(
図6A~6C)。このような形態学的特徴から、無菌(GF)マウスでは、ミクログリアの成熟が止まっており、かつ/または活性化状態が低下していることが示され、この結果は、腸内細菌が脳内の免疫細胞に影響を与えるという最近の報告を裏付けるものであった。
【0125】
疾患モデルにおけるこれらの観察結果をさらに裏付けるように、SPF-ASOマウスから得たミクログリアは、GF-ASOマウスのものと比較して、細胞体の直径が有意に長く、突起の数が少なく、その長さも短かったことが示された(
図6A~6C)。SPF-ASOマウスの尾状核被殻(CP)および中脳下部から得た組織ホモジネートは、GF-ASOマウスのものと比較して、炎症促進性サイトカインである腫瘍壊死因子-α(TNF-α)およびインターロイキン-6(IL-6)の顕著な増加を示した(
図6Dおよび
図6E)。これらのサイトカインはいずれもPD患者の脳内で濃度が上昇する。濃縮したCD11b
+細胞(ミクログリアが大部分を占める)から抽出したRNAの遺伝子発現解析を行ったところ、SPF-ASOマウスにおいてTnfaおよびIl6の発現が増加していたが、無菌(GF)マウスではこれらの発現はほぼ見られなかった(
図6F)。また、過去の研究、たとえば、Erny et al., 2015;およびMatcovitch-Natan et al., 2016で観察されているように、神経細胞保護作用を有するBdnfの発現と細胞周期マーカーであるDdit4の発現が無菌(GF)マウスにおいてアップレギュレートされていた(
図5I)。前頭皮質(FC)においてミクログリアの直径が長くなり、かつTNF-αの産生が増加していたのに対して、小脳(CB)ではこのような変化は見られなかったことから、神経炎症反応は領域特異的であることが示された(
図6Gおよび
図6H)。
【0126】
これらの知見から、腸内微生物は、疾患に関与する特定の脳領域においてαSyn依存性にミクログリアの活性化を促進するという仮説が裏付けられた。
【0127】
実施例4
出生後における微生物からのシグナルによるαSyn依存性の病的機能変化の調節
本実施例は、出生後における微生物からのシグナルが、αSyn依存性の病的機能変化を調節することを示す。
【0128】
微生物叢は、妊娠期間中における神経発達に影響を与えるだけでなく、腸から脳への活性なシグナル伝達を介して成体の神経機能にも影響を与える。これらの機構を識別するため、出生後のSPFマウスを抗生物質カクテルで処置して微生物叢を除去した(
図7A)。一方、5~6週齢の無菌(GF)マウス群には、SPF-WTマウスから得た複雑な微生物叢を定着させた(
図7A)。驚くべきことに、抗生物質で処置した(Abx)マウスは、αSyn依存性の運動機能障害をほとんど示さず、無菌(GF)状態で出生したマウスと非常によく似た結果を示した(
図7B~7E)。出生後に微生物叢を定着させた無菌マウス(Ex-GF)では、SPFマウスで観察されたような遺伝子型特有の作用が示され、αSynを過剰発現させたマウスでは、顕著な運動機能障害が示された(
図7B~7E)。
【0129】
抗生物質(Abx)で処置したマウスは、糞便の排泄量から評価した消化管機能でも有意な改善が見られたが、Ex-GFマウスでは、総糞便量がαSyn依存性に低下したことが示された(
図7Fおよび
図7G)。さらに、トランスジェニックASO系統のうち、Ex-GFマウスでは、ミクログリア細胞体の直径が大きくなり、SPFマウスのミクログリアと同程度であった(
図7Hおよび
図7I)。しかし、Abx-ASOマウスのミクログリアは、無菌(GF)マウスのミクログリアと同程度の直径を有していた(
図7Hおよび
図7I)。
【0130】
微生物叢が出生前の神経発達に対して一定の役割を果たしている可能性を排除するものではないが、これらのデータから、成体におけるミクログリアの活性化の調節は、αSynを介した運動機能障害および神経炎症に寄与することが示され、このことから、微生物叢を介して腸と脳の間で活発なシグナル伝達が行われていることが示唆された。
【0131】
実施例5
短鎖脂肪酸(SCFA)のみによるαSyn介在性神経炎症の促進
本実施例では、αSynを介した神経炎症が短鎖脂肪酸(SCFA)のみで促進されることを示す。
【0132】
腸内細菌は、ウイルス感染時に、微生物代謝産物である短鎖脂肪酸(SCFA)の産生を介してミクログリアの活性化を調節していると考えられる。
図8Aに示したように、無菌(GF)マウスおよび抗生物質(Abx)処置マウスの糞便中のSCFA濃度は、SPFマウスと比べて低いことが観察された。PDマウスモデルにおいてSCFAが神経炎症反応に影響を及ぼすかどうかを確かめるため、GF-ASOマウスおよびGF-WTマウスを、酢酸塩、プロピオン酸塩および酪酸塩からなるSCFA混合物で処置したところ(この際、マウスは微生物学的に無菌状態のまま維持した)、糞便中のSCFA濃度の有意な回復が見られた(
図8A)。脳の罹患領域(すなわち尾状核被殻(CP)および黒質(SN))において、SCFA投与マウスのミクログリアは、非処置マウスのものと比較して活性化の増加を示す形態学的特徴を示し、Ex-GFマウスおよびSPFマウスのミクログリアとよく似た形態学的特徴を示した(
図9A、
図9B、
図8Bおよび
図8C;ならびに
図6A~6Hおよび
図7A~7Iを参照されたい)。SCFAを与えたGF-ASOマウス(SCFA-ASO)のミクログリアは、SCFA処置GF-WTマウス(SCFA-WT)のミクログリアよりも直径が有意に大きくなり、突起の長さが短くなり、総突起数が減少した。これに対して、抗生物質(Abx)で処置したマウスのミクログリアは、無菌(GF)マウスのものと同様の形態学的特徴を示した(
図9B、
図8Bおよび
図8C;ならびに
図6A~6Hおよび
図7A~7Iを参照されたい)。ミクログリアの直径の変化は、前頭皮質(FC)でも観察されたが、小脳(CB)では観察されず、領域特異的な応答であることが示された(
図8Dおよび
図8E)。
【0133】
ミクログリアの形態学的特徴と一致して、SCFA投与マウスは、非処置マウスおよび抗生物質(Abx)処置マウスと比較してαSynの凝集を示し、凝集の程度はEx-GFマウスと同等であった(
図8F~8I)。驚くべきことに、出生後における微生物からのシグナル伝達によって、尾状核被殻(CP)および黒質(SN)におけるαSynの凝集が増加したことが観察されたが(
図8Fおよび
図8G)、前頭皮質(FC)および小脳(CB)では変化は観察されず(
図8Hおよび
図8I)、これはさらに定量およびウエスタンブロットでも確認された(
図8J~8O)。様々な濃度のSCFAは、単独でも混合物の形態でも、インビトロのヒトαSynの凝集を促進せず(
図10A~10G)、αSynアミロイド線維の全体構造にも変化を及ぼさなかった(
図10Hおよび
図10I)。
【0134】
これらのデータから、SCFAは、直接的な分子間相互作用は伴わないものの、インビボにおいてαSynの凝集を促進させることが示された。
【0135】
実施例6
SCFAのみによる運動障害の増悪
本実施例では、αSynで刺激されたミクログリアの活性化および運動機能障害がSCFAによって促進されることを示す。
【0136】
Thy1-αSynモデルにおいて微生物代謝産物と運動症状の関連性を調べるため、5~6週齢の無菌(GF)マウスをSCFA混合物で処置し、12~13週齢において運動機能を評価した。SCFA-ASOマウスは、いくつかの運動課題において非処置GF-ASOマウスと比較して有意な機能低下を示し(
図9C~9F)、具体的には、ビームテスト、ポールテストおよび後肢抱擁反射において障害を示した(SCFA-ASOマウスとGF-ASOマウスの比較)。SCFAの作用はいずれもThy1-αSynマウスの遺伝子型に特異的であった。SCFAで処置したトランスジェニックマウスにおいても消化管障害が観察された(
図9Gおよび
図9H)。加熱死菌を経口投与した無菌(GF)マウスでは運動障害が誘導されず(
図10J~10M)、このことから、運動障害の誘導には腸内細菌の活発な代謝が必要であることが示唆された。SCFAを与えたマウスに抗炎症性化合物ミノサイクリンを経口投与するだけで十分にTNF-αの産生を低下させ、αSynの凝集を減少させ、運動機能を改善させることができ、外来遺伝子の発現量は変化しなかった(
図11A~11H)。
【0137】
これらのデータから、微生物叢によって活発に産生されるSCFAなどの代謝産物は、ミクログリアの活性化とαSynの凝集に必要とされ、PDの前臨床モデルの運動機能障害に寄与していることが示された。
【0138】
実施例7
PDにおけるマイクロバイオームの乱れ(ディスバイオシス(dysbiosis))
本実施例では、PDにおけるマイクロバイオームの乱れ(ディスバイオシス(dysbiosis))を示す。
【0139】
PD患者のマイクロバイオームに変化が見られることがわかっている。本実施例では、PDと診断された6人のヒト対象およびPD患者とマッチさせた6人の健常コントロールから糞便試料を採取して(表2)無菌(GF)マウスに移植した際に、ヒト腸内微生物が疾患の帰結に影響を与えるかどうかを評価した。交絡因子による影響を最小限にするため、関連する選択基準および除外基準に加え、組織学的検査において腸が健康であることが判明しており、新たに発症したPDを有し、まだ治療を受けていない患者のみを選択した(表2)。
【表2】
【0140】
PD患者またはコントロールから得た糞便中微生物叢を、強制経口投与により各レシピエント無菌(GF)マウス群に移植した。これらの「ヒト化」マウスから糞粒を回収し、細菌DNAを抽出し、16S rRNAのシーケンシングを行った。closed reference pickingを使用して、配列をGreengenesデータベースと照合してOTU(operational taxonomic unit)に分類し、PICRUStを用いてメタゲノム機能を予測した。PCoAで視覚化したunweighted UniFrac解析(LozuponeおよびKnight,2005)において、各レシピエントマウス群は、それぞれに対応するヒトドナーのプロファイルに最も近いプロファイルを示した(
図12Aおよび
図12B)。驚くべきことに、ドナーの疾患の状態が、レシピエントマウスの微生物群集に強い影響を及ぼした。PDドナーから移植を行ったヒト化マウス群内では互いの類似性が有意に高く、健常ドナーから移植を行ったマウス群の微生物群集とPDドナーから移植を行ったヒト化マウス群の微生物群集の間の類似性はこれよりも低いことが示され、遺伝背景に基づいて分類してもこの傾向が見られた(
図12Cおよび
図12D)。さらに、野生型(WT)レシピエントマウスと比較して、ASO系統では、健常ドナーから移植を行ったマウスとPDドナーから移植を行ったマウスの間で有意差が見られ、微生物群集の組成に対して遺伝子型が影響を及ぼすことが示唆された(
図12Cおよび
図12D)。
【0141】
健常ドナーから得た微生物叢を定着させたコントロールと比較して、PDドナーから得た微生物叢を定着させたマウスでは、多くの細菌属に変化が見られること(
図12E)、およびBray-Curtis距離を算出して比較したKEGGパスウェイでも、PDドナー群とコントロール群の間で変化が見られること(
図13A~13C)がわかった。PD患者のマイクロバイオームを移植したマウスでは、プロテウス属(Proteus)、ビロフィラ属(Bilophila)およびロゼブリア属(Roseburia)のOTUの存在度が増加し、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、リケネラ科(Rikenellaceae)およびペプトストレプトコッカス科(Peptostreptococcaceae)ならびにブチリシコッカス属(Butyricicoccus)の細菌のOTUの存在度が低くなっていた(
図13E)。興味深いことに、いくつかの分類群(たとえばプロテウス属、ビロフィラ属およびラクノスピラ科)は、ASOマウスのみにおいて変化が見られ、他のいくつかの分類群(たとえばロゼブリア属、リケネラ科およびエンテロコッカス属)はマウス遺伝子型とは無関係に有意に変化した(
図13E)。さらに興味深いことに、SCFAを産生する3つのKEGGファミリー(K00929:酪酸キナーゼ;K01034:酢酸CoAトランスフェラーゼ/アセト酢酸CoAトランスフェラーゼαサブユニット;およびK01035:酢酸CoAトランスフェラーゼ/アセト酢酸CoAトランスフェラーゼβサブユニット)の存在度が、PDドナーから得た糞便微生物を移植したマウスにおいて増加していた(
図13D)。さらに、健常コントロールから得た微生物を定着させたマウスと比較して、PDドナーから得た微生物叢を移植したマウスでは、SCFAプロファイルの有意な変化が見られ、酢酸塩が低濃度となり、プロピオン酸塩および酪酸塩の相対存在度が高くなった(
図13E)。
【0142】
これらのデータから、PD患者とコントロールとの間の糞便中微生物群集における差異は、マウスに移植後もそのまま維持されることが示された。さらに、αSynの過剰発現によって、移植後の腸マイクロバイオームのプロファイルが特徴的に変化することも示された。
【0143】
実施例8
PD患者から得られた腸内微生物叢による運動機能障害の促進
本実施例では、PD患者から得られた腸内微生物叢が運動機能障害を促進することを示す。
【0144】
微生物叢の機能を評価するため、各組のドナーペアから作製したヒト化マウス群の運動機能を試験した。6組のペアのうち4組(ペアNo.1、No.3、No.4およびNo.5)において、各PD患者ドナーから得た微生物叢によって、αSyn介在性の運動機能障害が一貫して増悪したことが示された(
図14A~14F)。遺伝子型をマッチさせ、健常コントロール由来の腸内細菌を定着させたレシピエントマウスと比較して、PD患者由来の微生物叢を定着させたASOマウスでは、ビームテスト、ポールテストおよび鼻からの粘着テープ除去テストにおいて有意な運動障害が認められた。一方、後肢反射スコアは、各ドナー間で全体的に差異は認められなかった。興味深いことに、1組のドナーから得た微生物叢は、ビームテスト課題およびポールテスト課題において、遺伝子型による有意な影響は誘導されなかった(ペアNo.2、
図14B)。これは、集団中に異質性が存在する可能性を示しており、より強力なコホート研究によって検証する必要があると考えられる。ドナー群から得た微生物叢を定着させたレシピエントWTマウスでは、いずれのドナー由来であっても運動機能に対する顕著な効果は観察されなかった(
図14A~14F)。前臨床マウスモデルにおいて得られたこの知見から、PD患者由来の微生物叢は、遺伝的に感受性のある宿主において疾患の症状に寄与することが示された。さらに、レシピエントマウスの体重にはほとんど変化は見られず、排便量によって測定した消化管機能にも変化はほとんど認められなかった(
図15A~15F)。すべての群の機能データを集約すると、健常コントロール由来の微生物を定着させた場合と比較して、PD患者由来の微生物叢は、この研究で使用した4種のテストのうち3種においてASOマウスの運動障害を増悪させることが明らかになった(
図14G)。実際に、すべての運動機能をPCoAにより視覚化すると、PDドナー由来の微生物叢を定着させたマウスと、健常者由来の腸内細菌を定着させたマウスとの間で顕著かつ広範な差異があることが示された(
図15G)。
【0145】
これらのデータから、PD患者由来の腸内細菌は、健常コントロールと比較してマウスモデルの運動障害を増悪することが示されたことから、微生物叢がシヌクレイノパチーに機能的に寄与しているという証拠が得られた。
【0146】
本明細書で述べたように、腸内微生物叢は、神経発達に影響を与え、行動を調節し、神経障害に寄与する。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、腸内細菌と神経変性疾患の間には、未だ見出されていない機能的関連性が存在すると考えられる。シヌクレイノパチーは、タンパク質の一種であるα-シヌクレイン(αSyn)の凝集を特徴とし、パーキンソン病(PD)などの運動機能障害に陥ることがしばしばある。αSynを過剰発現するマウスを使用した実施例1~8で示されたように、運動障害、ミクログリアの活性化およびαSyn病変を引き起こすには腸内微生物叢が必要であることが判明した。成体動物における病的機能変化は、抗生物質処置によって改善し、微生物の再定着によって増悪することから、出生後に腸と脳の間でシグナル伝達が起こることによって疾患が調節されることが示唆された。無菌マウスに特定の微生物代謝産物を経口投与すると、神経炎症および運動症状が増悪する。さらに、αSynを過剰発現するマウスにPD罹患患者由来の微生物叢を定着させると、健常人ドナー由来の微生物叢を移植した場合と比較して身体障害が悪化する。これらの知見から、腸内細菌がマウスの運動障害を制御しており、ヒトマイクロバイオームの変化はPDの危険因子であることが示された。
【0147】
実施例9
パーキンソン病(PD)の治療
本実施例はPD患者の治療について示す。
【0148】
α-Synの凝集率もしくはα-Synの凝集度(たとえばα-Syn凝集体の量)またはこれらの両方を対象において測定する。前記対象において、α-Synの凝集率もしくはα-Synの凝集度(たとえばα-Syn凝集体の量)またはこれらの両方に異常が見られる場合、前記対象がPDに罹患していることが示される。前記対象の腸内微生物叢の組成を調節する。前記対象における腸内微生物叢の組成を調節することによって、前記対象の1つ以上のPDの症状が緩和する(たとえば1つ以上の運動障害が改善する)と予想される。
【0149】
前述の実施形態の少なくともいくつかにおいて、これらの実施形態において使用された1つ以上の構成要素は、技術的に不可能な場合を除き、別の実施形態の構成要素と入れ替えて使用することができる。請求項に記載された主題の範囲から逸脱することなく、前記の方法および構造に前述以外の様々な省略、付加および改変を行ってもよいことは、当業者であれば容易に理解できるであろう。このような改変や変更はいずれも、添付の請求項で定義されている本発明の主題の範囲内にあると見なされる。
【0150】
本明細書で使用されている実質的に複数形および/または単数形の用語は、当業者であれば、本明細書の記載および/または用途に適するように、複数形の用語を単数のものとして、かつ/または単数形の用語を複数のものとして解釈することができる。本発明を明確なものとするために、様々な単数形/複数形の用語が意図的に使い分けられている。
【0151】
当業者であれば、本明細書に記載の用語、特に添付の請求項(たとえば添付の請求項の本体部)に記載の用語は、通常、「オープンエンドな」用語であることを理解できるであろう(たとえば、「含んでいる(including)」という用語は、「含んでいるが、これらに限定されない」と解釈されるべきであり、「有する(having)」という用語は、「少なくとも有する」と解釈されるべきであり、「含む(include)」という用語は「含むが、これらに限定されない」と解釈されるべきである)。さらに、特定の数が請求項に記載されている場合、前述のような意図も請求項に明確に記載されており、特定の数が記載されていない場合はそのような意図も存在しないことも、当業者であれば理解できるであろう。具体的に説明をすれば、たとえば、後述の特許請求の範囲では、請求項を定義するために、「少なくとも1つ」や「1つ以上」といった前置きが記載されている場合がある。しかしながら、このような前置きが記載されているからといって、不定冠詞「1つ(aまたはan)」を使用して構成要素が記載された請求項を、1つのみの構成要素を含む実施形態に限定すべきではなく、たとえ同じ請求項内に「1つ以上」または「少なくとも1つ」といった前置きと「1つ(aまたはan)」といった不定冠詞とが含まれていたとしても、1つのみの構成要素を含む実施形態に限定すべきではない(たとえば、「1つ(aおよび/またはan)」は、「少なくとも1つ」または「1つ以上」を意味すると解釈されるべきである)。これは、定冠詞を使用して記載された請求項でも同じである。また、請求項に特定の数が明確に記載されていたとしても、「少なくとも」記載されたその数であるということを当業者であれば理解できるであろう(たとえば、修飾語を伴わない「2つ」という記載は、「少なくとも2つ」または「2つ以上」を意味する)。さらに、「A、BおよびCのうちの少なくとも1つ」といった慣用語句が使用されている場合、通常、そのような語句は、当業者がその語句を通常理解する意味で記載されている(たとえば「A、BおよびCのうちの少なくとも1つを有するシステム」は、Aのみを有するシステム、Bのみを有するシステム、Cのみを有するシステム、AとBを有するシステム、AとCを有するシステム、BとCを有するシステム、ならびに/またはA、BおよびCを有するシステムなどを包含するが、これらに限定されない)。また、「A、BまたはCのうちの少なくとも1つ」といった慣用語句が使用されている場合、通常、そのような語句は、当業者がその語句を通常理解する意味で記載されている(たとえば「A、BまたはCのうちの少なくとも1つを有するシステム」は、Aのみを有するシステム、Bのみを有するシステム、Cのみを有するシステム、AとBを有するシステム、AとCを有するシステム、BとCを有するシステム、ならびに/またはA、BおよびCを有するシステムなどを包含するが、これらに限定されない)。さらに、2つ以上の選択肢を表すための選言的用語および/または選言的語句は、明細書、特許請求の範囲または図面のいずれにおいても、記載された用語のうちの1つ、記載された用語のいずれか、または記載された用語の両方を含む場合があると当業者であれば理解できるであろう。たとえば「AまたはB」という表現は、「Aのみ」または「Bのみ」または「AおよびB」を含む場合がある。
【0152】
さらに、本開示の特徴または態様がマーカッシュ形式で記載されている場合、当業者であれば、マーカッシュ形式で記載された各メンバーまたはそれらからなるサブグループについても記載されていると理解できるであろう。
【0153】
詳細な説明の提供などの何らかの目的で本明細書に記載された範囲はいずれも、あらゆる可能な部分範囲およびその組み合わせも包含することを、当業者であれば理解できるであろう。前記範囲はいずれも、同じ範囲を少なくとも等分、3等分、4等分、5等分、10等分などに分割したものも十分に記載されており、このような分割された範囲で本発明を実施可能であることを容易に理解できるであろう。たとえば、本明細書に記載の範囲はいずれも、容易に、低域、中域、高域といった3等分などにすることができるが、これに限定されない。また、「以下」、「少なくとも」、「よりも大きい」、「未満」といった用語はいずれも、記載された数値を含むとともに、前述したように、部分範囲に分割可能な範囲も指すことを当業者であれば理解できるであろう。さらに、当業者であれば、本明細書に記載の範囲は各メンバーを含むことを理解できるであろう。したがって、たとえば、1~3つのメンバーを有する群は、1つのメンバーを有する群、2つのメンバーを有する群または3つのメンバーを有する群を指す。同様に、1~5つのメンバーを有する群は、1つのメンバーを有する群、2つのメンバーを有する群、3つのメンバーを有する群、4つのメンバーを有する群、または5つのメンバーを有する群などを指す。
【0154】
本明細書において様々な態様および実施形態を述べてきたが、当業者であればその他の態様および実施形態も容易に理解できるであろう。本明細書において開示された様々な態様および実施形態は本発明を説明することを目的としたものであり、本発明をなんら限定するものではなく、本発明の範囲および要旨は以下の請求項によって示される。
【配列表】