(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-25
(45)【発行日】2025-04-02
(54)【発明の名称】変状抑制構造の構築方法及び凍土融解方法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/115 20060101AFI20250326BHJP
【FI】
E02D3/115
(21)【出願番号】P 2021184561
(22)【出願日】2021-11-12
【審査請求日】2024-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】江崎 太一
(72)【発明者】
【氏名】柴田 慶一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 輝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一成
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-041511(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112030938(CN,A)
【文献】特開平08-338015(JP,A)
【文献】特開2001-181633(JP,A)
【文献】特開昭54-132313(JP,A)
【文献】特開平08-199553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/115
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結工法により地盤中の凍結管の周囲に形成された凍土の融解時における周辺地盤の変状を抑制する変状抑制構造の構築方法であって、
前記凍結管への冷媒の流通が継続中であり前記凍土が凍結している状態で、前記
凍土内を通過するボーリング孔を形成するボーリング工程と、
前記凍結管への冷媒の流通が継続中であり前記凍土が凍結している状態で、前記ボーリング孔を所定の充填材料で充填し前記充填材料からなる地中構造体を形成する地中構造体形成工程と、を備える、変状抑制構造の構築方法。
【請求項2】
前記凍土は、複数の平行に延びる前記凍結管の周囲に形成され前記凍結管の配列方向に延びる鉛直な凍土壁をなしており、
前記ボーリング工程では、
前記凍土壁内において前記凍結管の延在方向に延び前記凍結管の配列方向に並ぶ複数の前記ボーリング孔、及び/又は、前記凍土壁内において前記凍結管の配列方向に延び前記凍結管の延在方向に並ぶ複数の前記ボーリング孔が形成される、請求項1に記載の変状抑制構造の構築方法。
【請求項3】
地中構造体形成工程では、
セメント系材料が前記充填材料として前記ボーリング孔に導入され硬化して前記地中構造体を形成する、請求項1
又は2に記載の変状抑制構造の構築方法。
【請求項4】
地中構造体形成工程では、
吸水膨潤性の土質系材料が前記充填材料として前記ボーリング孔に導入され前記地中構造体を形成する、請求項1
又は2に記載の変状抑制構造の構築方法。
【請求項5】
複数の前記凍結管が平行に延在しており、
前記地中構造体は、前記凍結管に平行に延在する棒状の部分及び/又は前記凍結管に直交する方向に延在する棒状の部分を有する、請求項1~
4の何れか1項に記載の変状抑制構造の構築方法。
【請求項6】
前記凍土には低透水層の一部が凍結した部分が含まれており、
前記ボーリング工程では前記低透水層内を通過する前記ボーリング孔が形成される、請求項1~
5の何れか1項に記載の変状抑制構造の構築方法。
【請求項7】
凍結工法により地盤中の凍結管の周囲に形成された凍土を融解させる融解方法であって、
請求項1~6の何れか1項に記載の変状抑制構造の構築方法によって前記地中構造体を形成した後、前記凍土の冷却を停止して前記凍土を融解させる、凍土融解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変状抑制構造の構築方法及び凍土融解方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、工事に関わる地盤を一時的に改良する方法として、下記の特許文献1に開示されているような凍結工法が知られている。凍結工法は、冷媒を流通させる凍結管を地盤中に埋設し、地下水を含む地盤を凍結させて凍土を造成するものである。凍土として固まった地盤は強度と止水性とを備えており、工事中の地盤掘削に伴う地盤の崩壊や地下水の流入を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
凍結工法において凍結する地盤は、地下水の凍結膨張によって数パーセント体積膨張する。工事完了後等に凍土を融解させる際には逆に地盤の体積が収縮するところ、凍結前の地盤の状態に完全に戻るとは限らない。その結果。融解時に周辺地盤に変状(例えば、地盤沈下)が生じる虞がある。周辺地盤の変状を抑えるための手法として、薬液注入などによって地盤改良を行うことも考えられるが、凍結した地盤中に薬液注入を行うことは難しい。また、融解後の地盤中に薬液注入等を行う場合であってもその実施のタイミングは難しく、もはや融解時に発生する地盤の変状を抑えられない場合もある。このような課題に鑑み、本発明は、凍土の融解時における周辺地盤の変状を抑制する変状抑制構造の構築方法及び凍土融解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の変状抑制構造の構築方法は、凍結工法により地盤中の凍結管の周囲に形成された凍土の融解時における周辺地盤の変状を抑制する変状抑制構造の構築方法であって、凍土が凍結している状態で、凍結管の近傍を通過するボーリング孔を形成するボーリング工程と、凍土が凍結している状態で、ボーリング孔を所定の充填材料で充填し充填材料からなる地中構造体を形成する地中構造体形成工程と、を備える。
【0006】
地中構造体形成工程では、セメント系材料が充填材料としてボーリング孔に導入され硬化して地中構造体を形成する、こととしてもよい。また、地中構造体形成工程では、吸水膨潤性の土質系材料が充填材料としてボーリング孔に導入され地中構造体を形成する、こととしてもよい。
【0007】
本発明の変状抑制構造の構築方法では、複数の凍結管が平行に延在しており、地中構造体は、凍結管に平行に延在する棒状の部分及び/又は凍結管に直交する方向に延在する棒状の部分を有する、こととしてもよい。また、凍土には低透水層の一部が凍結した部分が含まれており、ボーリング工程では低透水層内を通過するボーリング孔が形成される、こととしてもよい。また、ボーリング工程では凍土内を通過するボーリング孔が形成される、こととしてもよい。
【0008】
本発明の凍土融解方法は、凍結工法により地盤中の凍結管の周囲に形成された凍土を融解させる融解方法であって、上記の何れかの変状抑制構造の構築方法によって地中構造体を形成した後、凍土の冷却を停止して凍土を融解させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、凍土の融解時における周辺地盤の変状を抑制する変状抑制構造の構築方法及び凍土融解方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)は、変状抑制構造の構築方法及び凍土融解方法が適用される地盤中の状態を模式的に示す斜視図であり、(b)はその要部の水平断面図である。
【
図2】(a)は第1及び第4実施形態における地盤を模式的に示す鉛直断面図であり、(b)はその要部の水平断面図である。
【
図3】(a)は第2及び第5実施形態における地盤を模式的に示す鉛直断面図であり、(b)はその要部の水平断面図である。
【
図4】(a)は第3及び第6実施形態における地盤を模式的に示す鉛直断面図であり、(b)はその要部の水平断面図である。
【
図5】(a),(b)は、挿入具を用いてボーリング孔内にベントナイトペレットを充填する方法を順次示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明に係る変状抑制構造の構築方法及び凍土融解方法の実施形態について詳細に説明する。
図1(a)は、この変状抑制構造の構築方法及び凍土融解方法が適用される地盤1中の状態を模式的に示す斜視図であり、
図1(b)はその要部の水平断面図である。なお、
図1(a)では、図の煩雑化を避けるために地盤1を除去した状態が図示されている。本実施形態における凍結工法では、地中に凍土の鉛直壁(後述の凍土壁11)が形成される。
【0012】
地盤1中には、水平な地表面から鉛直下方に向けて棒状に延びる複数の凍結管5が埋設されている。複数の凍結管5は、平面視でおよそ一直線上に等間隔で配列されている。例えば、凍結管5の配列ピッチは約4mであり、凍結管5の長さは約30mである。地上において各凍結管5の上端には冷媒を流通させる冷媒管7が接続されており、冷媒管7を通じて各凍結管5内に冷媒が導入及び排出される。各凍結管5に極低温の冷媒が流通することで、各凍結管5の周囲の地盤が冷却される。冷媒としては、例えば不凍液や液体窒素等が用いられる。
【0013】
各凍結管5の周囲の地盤が冷却され凍結することで、各凍結管5を中心とする円柱状の凍土9が形成される。例えば、凍結管5の配列ピッチが前述の通り約4mであり、各凍結管5は半径約2.5mの範囲の地盤を凍結させる能力があるものとすれば、隣接する円柱状の凍土9同士が凍結管5の配列方向に互いに繋がることにより、地中には凍結管5の配列方向に延びる凍土壁11が形成される。形成された凍土壁11は、強度と止水性とを備えており、周辺の工事の地盤掘削に伴う地盤崩壊や地下水の流入を防止することができる。その後、例えば工事完了後に凍土壁11が不要になったときには、凍結管5への冷媒の流通が停止され、凍土壁11の冷却が停止されることで、凍土壁11は融解される。
【0014】
ここで、凍土壁11が形成される際には、凍結する地盤は、地下水の凍結膨張によって数パーセント体積膨張する。逆に、凍土壁11を融解させる際には地盤の体積は収縮するところ、凍結前の状態に完全に戻るとは限らない。その結果、融解時に周辺地盤に変状(例えば地盤沈下等)が生じる虞がある。そこで、本実施形態における凍土融解方法では、凍土壁11の冷却の停止に先立って、周辺地盤の変状を抑制するための変状抑制構造が地中に構築される。以下、このような変状抑制構造の構築方法の第1~第6実施形態についてそれぞれ説明する。第1~第6実施形態における変状抑制構造の構築方法は、それぞれ説明する、ボーリング工程と、地中構造体形成工程と、を備えている。ボーリング工程及び地中構造体形成工程は、凍結管5への冷媒の流通が継続中で凍土壁11が凍結している状態で実行される。
【0015】
〔第1実施形態〕
変状抑制構造の構築方法の第1実施形態について説明する。
図2(a)は本実施形態における地盤1を模式的に示す鉛直断面図であり、
図2(b)はその要部の水平断面図である。
(ボーリング工程)
本実施形態のボーリング工程では、凍土壁11内を通過するように地上から複数の鉛直のボーリング孔13が形成される。具体例として、
図2に示されるように、各凍結管5同士の中間の位置が凍結管5に平行に地上からボーリングされ、複数の鉛直のボーリング孔13が形成される。なお、
図2の例では凍結管5と同じピッチでボーリング孔13が形成されているが、このボーリング孔13は適宜間引かれてもよい。ボーリング孔13は凍土壁11の下端よりもやや下方の深さまで到達し、ボーリング孔13の直径は例えば約20cmである。このボーリング工程では、公知の鉛直ボーリング工法が用いられ、凍土壁11に含まれる凍結した地盤が穿孔され、ボーリング孔13は凍土壁11内を通過する。
【0016】
(地中構造体形成工程)
本実施形態の地中構造体形成工程では、ボーリング孔13内にセメント系材料が注入され、ボーリング孔13はセメント系材料で充填される。上記セメント系材料としては、例えば、コンクリート、モルタル、セメントペースト、セメントミルク等を用いることができる。また、上記セメント系材料には、添加剤が適宜含まれてもよい。その後、注入したセメント系材料が硬化すると、セメント系材料からなる複数のセメント系地中構造体15が形成される。セメント系地中構造体15は凍土壁11内で鉛直に棒状に存在する。このようにして、凍土壁11内には複数のセメント系地中構造体15で構成される変状抑制構造17が構築される。なお、上述のように変状抑制構造17が複数のセメント系地中構造体15で構成されることは必須ではなく、変状抑制構造17が1つのセメント系地中構造体15で構成されてもよい。
【0017】
上記変状抑制構造17が構築された後、凍結管5への冷媒の流通が停止され、凍土壁11の冷却が停止されることで、凍土壁11は融解する。このとき、凍土壁11の融解によって凍結管5の周辺地盤は体積が縮小し強度も低下するところ、変状抑制構造17の剛性によって周辺地盤が支持され地盤の変状(例えば地盤沈下等)が抑制される。また、セメント系地中構造体15の表面はボーリング孔13の内壁面の粗さに倣って粗くなっているので、この表面の粗さによってセメント系地中構造体15と周囲地盤との付着力が期待でき、地盤の変状が効率的に抑制される。
【0018】
凍土壁11の融解による周辺地盤の変状を抑制するためには、凍土壁11を囲む広い範囲の地盤に対して変状抑制の対策を施すことも考えられるが、これは、労力、コスト、及び廃棄物発生量等の観点から現実的ではない。これに対し、本実施形態の変状抑制構造の構築方法は、凍土壁11の一部分をセメント系地中構造体15に置換するといった現実的な対策であり、変状抑制対策のための労力、コスト及び廃棄物発生量を抑えることができる。
【0019】
〔第2実施形態〕
変状抑制構造の構築方法の第2実施形態について説明する。
図3(a)は本実施形態における地盤1を模式的に示す鉛直断面図であり、
図3(b)はその要部の水平断面図である。
(ボーリング工程)
本実施形態のボーリング工程では、各凍結管5の近傍の位置で凍土壁11内を通過するように水平なボーリング孔23が複数形成される。ボーリング孔23は、凍土壁11の水平幅一杯に達する長さで凍結管5の配列方向に延び、複数のボーリング孔23が上下方向に複数並ぶように形成される。ボーリング孔23の直径は例えば約20cmである。このようなボーリング孔23は、例えば、公知の曲がりボーリング工法を用いて形成される。
【0020】
(地中構造体形成工程)
本実施形態の地中構造体形成工程では、ボーリング孔23内に第1実施形態と同様にセメント系材料が注入され、ボーリング孔23はセメント系材料で充填される。その後、注入したセメント系材料が硬化すると、セメント系材料からなる複数のセメント系地中構造体25が形成される。セメント系地中構造体25は凍土壁11内で水平に棒状に存在する。このようにして、凍土壁11内には複数のセメント系地中構造体25で構成される変状抑制構造27が構築される。なお、上述のように変状抑制構造27が複数のセメント系地中構造体25で構成されることは必須ではなく、変状抑制構造27が1つのセメント系地中構造体25で構成されてもよい。
【0021】
このような変状抑制構造27によっても、第1実施形態と同様の効果が得られ、凍土壁11の融解時における地盤の変状が抑制される。なお、第1実施形態の変状抑制構造17と本実施形態の変状抑制構造27とが両方とも構築されてもよい。この場合には、セメント系材料からなる柱梁構造物が地盤1中に存在することになり、地盤の変状が更に抑制される。
【0022】
〔第3実施形態〕
変状抑制構造の構築方法の第3実施形態について説明する。
図4(a)は本実施形態における地盤1を模式的に示す鉛直断面図であり、
図4(b)はその要部の水平断面図である。
図4(a)に示されるように、本実施形態では、地盤1中には水平な低透水層2(例えば粘性土の層)が存在している。各凍結管5は例えば低透水層2に達する深さまで延びており、凍結管5による地盤1の凍結範囲内に低透水層2の一部が存在している。各凍結管5が低透水層2を上下に貫通して低透水層2よりも深い位置まで延びていてもよい。凍土壁11は低透水層2を一部含んでおり、すなわち、凍土壁11と低透水層2とが重複する領域では、低透水層2が凍結した状態となっている。このように、凍土壁11のうち低透水層2が凍結してなる部分を「低透水凍結部12」と呼ぶ。ここで低透水層2とは透水係数が小さい層を言う。専門書(例えば、土質工学ハンドブック)によれば、地盤の透水係数が1.0×10
-5~1.0×10
-7cm/sec以下であれば、透水性が非常に低い層または工学的に不透水層とされる。これに従って、本実施形態における低透水層2は、地盤の透水係数が1.0×10
-5~1.0×10
-7cm/sec以下の層である、と定義されてもよい。
【0023】
(ボーリング工程)
本実施形態のボーリング工程では、各凍結管5の近傍の位置で凍土壁11の低透水凍結部12内を通過するように、水平なボーリング孔33が複数形成される。ボーリング孔33の形成方法は、第2実施形態のボーリング孔23と同様である。
【0024】
(地中構造体形成工程)
本実施形態の地中構造体形成工程では、ボーリング孔33内に第2実施形態と同様にセメント系材料が注入され充填され硬化されて、セメント系材料からなる複数のセメント系地中構造体35が形成される。セメント系地中構造体35は凍土壁11の低透水凍結部12内で水平に棒状に存在する。このようにして、凍土壁11の低透水凍結部12内には複数のセメント系地中構造体35で構成される変状抑制構造37が構築される。なお、上述のように変状抑制構造37が複数のセメント系地中構造体35で構成されることは必須ではなく、変状抑制構造37が1つのセメント系地中構造体35で構成されてもよい。
【0025】
このような変状抑制構造37によっても、第1実施形態と同様の効果が得られ、凍土壁11の融解時における地盤の変状が抑制される。
【0026】
またここで、一般的に低透水層は保持している水分を排出し難い性質がある。従って低透水層が凍結/融解するときには、保持された水分が層内から排出されずに膨張/収縮し、その結果低透水層自体が大きく膨張/収縮する。この知見に基づけば、凍土壁11の中でも低透水凍結部12は特に、融解時における収縮が大きく、地盤の変状の要因になりやすい。従って、本実施形態では、変状抑制構造37を低透水凍結部12内に構築することにより、凍土壁11の融解時における地盤の変状が効率的に抑制される。また、本実施形態では、低透水層2内を上下方向に横切らずに水平にボーリング孔33が形成されるので、ボーリング孔33が水みちとなって低透水層2の低透水機能が劣化するといったことを避けることができる。
【0027】
〔第4実施形態〕
変状抑制構造の構築方法の第4実施形態について説明する。本実施形態の構築方法は、セメント系材料に代えて、吸水膨潤性の土質系材料(例えば、ベントナイト)がボーリング孔13に充填される点において第1実施形態の構築方法と異なっている。本実施形態で構築される変状抑制構造47の外観は第1実施形態における変状抑制構造17(
図2)と同様であるので、主に
図2を参照しながら本実施形態の構築方法について説明する。
【0028】
(ボーリング工程)
本実施形態のボーリング工程は、第1実施形態のボーリング工程と同様に実行され、
図2(a),
図2(b)に示されるように、凍土壁11内に、複数のボーリング孔13が形成される。
【0029】
(地中構造体形成工程)
本実施形態の地中構造体形成工程では、ボーリング孔13内に吸水膨潤性の土質系材料が導入され充填される。吸水膨潤性の土質系材料は、水を吸収することで膨潤し体積が増加する性質をもつものである。本実施形態では、締め固められたベントナイトが上記の吸水膨潤性の土質系材料として採用される。ここでは、例えば粒径約5mmのベントナイトペレット41がボーリング孔13内に連続的に挿入されボーリング孔13内に充填される。ボーリング孔13内へのベントナイトペレット41の挿入・設置は、
図5に示される挿入具81を用いて実行される。
【0030】
図5(a)に示されるように、挿入具81は、ボーリング孔13よりもやや小径な円筒状をなす収納部83を備えている。収納部83は、ベントナイトペレット41を収納可能で且つボーリング孔13内に挿入可能である。収納部83の先端には蓋83aが取付けられる。更に、挿入具81はパイプ材85を備え、収納部83はパイプ材85の先端に設けられている。地上からボーリング孔13内にパイプ材85を押し入れることで、収納部83がボーリング孔13内を奥に向かって移動する。パイプ材85の中空部には、収納部83からベントナイトペレット41を押出すための押出しロッド87が挿入されている。押出しロッド87はパイプ材85の中空部内で軸方向に往復動可能である。地上からの操作によって押出しロッド87がパイプ材85内に押し入れられると、押出しロッド87の先端に設けられた押出し板89が収納部83内に突き出すようになっている。
【0031】
上記のような挿入具81の収納部83にベントナイトペレット41が収納され蓋83aが取付けられる。そして、収納部83が地上からボーリング孔13内に挿入され押し進められて、
図5(a)に示されるように、先に充填済みのベントナイトペレット41’の直前まで収納部83が到達する。この状態から、地上の操作によって、押出しロッド87を押さえつけたままパイプ材85が引き戻されると、
図5(b)に示されるように、蓋83aが収納部83から脱落し、ベントナイトペレット41がベントナイトペレット41’上に残置された状態となる。その後、地上の操作により、パイプ材85及び押出しロッド87が引き戻されて挿入具81が回収される。なお、
図5の例の場合には蓋83aはベントナイトペレット41と一緒にボーリング孔13内に残置されるが、蓋83aが収納部83に伴って回収されるような構造にしてもよい。この場合、例えば、蓋83aが収納部83に対してヒンジを介して開閉可能に接続されてもよい。
【0032】
上記の挿入具81を用いてベントナイトペレット41の挿入・設置が繰り返されることで、ボーリング孔13内がベントナイトペレット41により充填される。その結果、
図2に示されるように、ベントナイトペレット41の粒の集合体からなる複数のベントナイト系地中構造体45が形成される。ベントナイト系地中構造体45は凍土壁11内で鉛直に棒状に存在する。このようにして、凍土壁11内には複数のベントナイト系地中構造体45で構成される変状抑制構造47が構築される。なお、上述のように変状抑制構造47が複数のベントナイト系地中構造体45で構成されることは必須ではなく、変状抑制構造47が1つのベントナイト系地中構造体45で構成されてもよい。
【0033】
上記変状抑制構造47が構築された後、凍結管5への冷媒の流通が停止され、凍土壁11の冷却が停止されることで、凍土壁11は融解する。そして、凍土壁11に含まれる地下水が液体に戻り、ボーリング孔13内のベントナイトペレット41が地下水に接触して膨潤する。このとき、このとき、凍土壁11の融解によって凍結管5の周辺地盤は体積が縮小し強度も低下するところ、変状抑制構造47の剛性によって周辺地盤が支持され地盤の変状(例えば地盤沈下等)が抑制される。また、凍土壁11の融解によって凍結管5の周辺地盤の体積が縮小するところ、ベントナイト系地中構造体45が膨張することにより周辺地盤の体積縮小分のうちの少なくとも一部が補われるので、地盤の変状が更に抑制される。
【0034】
〔第5実施形態〕
変状抑制構造の構築方法の第5実施形態について説明する。本実施形態の構築方法は、セメント系材料に代えて、吸水膨潤性の土質系材料(例えば、ベントナイト)がボーリング孔23に充填される点において第2実施形態の構築方法と異なっている。本実施形態で構築される変状抑制構造57の外観は第2実施形態における変状抑制構造27(
図3)と同様であるので、主に
図3を参照しながら本実施形態の構築方法について説明する。
【0035】
(ボーリング工程)
本実施形態のボーリング工程は、第2実施形態のボーリング工程と同様に実行され、
図3(a),
図3(b)に示されるように、凍土壁11内に、複数のボーリング孔23が形成される。
【0036】
(地中構造体形成工程)
本実施形態の地中構造体形成工程では、第4実施形態と同様に挿入具81(
図5)が用いられて、ボーリング孔23内がベントナイトペレット41により充填される。これにより、
図3に示されるように、ベントナイトペレット41の粒の集合体からなる複数のベントナイト系地中構造体55が形成される。ベントナイト系地中構造体55は凍土壁11内で水平に棒状に存在する。このようにして、凍土壁11内には複数のベントナイト系地中構造体55で構成される変状抑制構造57が構築される。なお、上述のように変状抑制構造57が複数のベントナイト系地中構造体55で構成されることは必須ではなく、変状抑制構造57が1つのベントナイト系地中構造体55で構成されてもよい。
【0037】
このような変状抑制構造57によっても、第4実施形態と同様の効果が得られ、凍土壁11の融解時における地盤の変状が抑制される。なお、第4実施形態の変状抑制構造47と本実施形態の変状抑制構造57とが両方とも構築されてもよい。この場合には、ベントナイト系材料からなる柱梁構造物が地盤1中に存在することになり、地盤の変状が更に抑制される。
【0038】
〔第6実施形態〕
変状抑制構造の構築方法の第6実施形態について説明する。本実施形態の構築方法は、セメント系材料に代えて、吸水膨潤性の土質系材料(例えば、ベントナイト)がボーリング孔33に充填される点において第2実施形態の構築方法と異なっている。本実施形態で構築される変状抑制構造67の外観は第3実施形態における変状抑制構造37(
図4)と同様であるので、主に
図4を参照しながら本実施形態の構築方法について説明する。
【0039】
(ボーリング工程)
本実施形態のボーリング工程は、第3実施形態のボーリング工程と同様に実行され、
図4(a),
図4(b)に示されるように、凍土壁11の低透水凍結部12内に、複数のボーリング孔33が形成される。
【0040】
(地中構造体形成工程)
本実施形態の地中構造体形成工程では、第4実施形態と同様に挿入具81(
図5)が用いられて、ボーリング孔33内がベントナイトペレット41により充填される。これにより、
図4に示されるように、ベントナイトペレット41の粒の集合体からなる複数のベントナイト系地中構造体65が形成される。ベントナイト系地中構造体65は凍土壁11の低透水凍結部12内で水平に棒状に存在する。このようにして、凍土壁11の低透水凍結部12内には複数のベントナイト系地中構造体65で構成される変状抑制構造67が構築される。なお、上述のように変状抑制構造67が複数のベントナイト系地中構造体65で構成されることは必須ではなく、変状抑制構造67が1つのベントナイト系地中構造体65で構成されてもよい。
【0041】
このような変状抑制構造67によっても、第4実施形態と同様の効果が得られ、凍土壁11の融解時における地盤の変状が抑制される。また、第3実施形態と同様に、変状抑制構造67を低透水凍結部12内に構築することにより、凍土壁11の融解時における地盤の変状が効率的に抑制される。また、本実施形態では、低透水層2内を上下方向に横切らずに水平にボーリング孔33が形成されるので、ボーリング孔33が水みちとなって低透水層2の低透水機能が劣化するといったことを避けることができる。また、低透水層2に形成されたボーリング孔33は、低透水性をもつベントナイト系地中構造体65で埋められるので、低透水層2の低透水機能の劣化は更に抑制される。
【0042】
ここで、第1~第3実施形態と第4~第6実施形態と比較すると、第1~3実施形態では凍土壁11の融解完了後にはセメント系地中構造体15,25,35が地盤1中に残留する。これに対し、第4~第6実施形態では、凍土壁11の融解完了後に地盤1中に残留するのは、土質系材料であり元の地盤1により近いベントナイト系地中構造体45,55,65である。従って、第4~第6実施形態は、第1~第3実施形態に比較して地盤1の環境に与える負荷を小さく抑えることができる。
【0043】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して、下記の変形例を構成することも可能である。各実施形態等の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0044】
例えば、第1実施形態における変状抑制構造17(
図2)、第2実施形態における変状抑制構造27(
図3)、及び第3実施形態における変状抑制構造37(
図4)は、それぞれ単独で構築されてもよいが、3つのうち何れか2つの変状抑制構造が合わせて構築されてもよいし、3つすべての変状抑制構造が合わせて構築されてもよい。同様に、第4実施形態における変状抑制構造47(
図2)、第5実施形態における変状抑制構造57(
図3)、及び第6実施形態における変状抑制構造67(
図4)は、それぞれ単独で構築されてもよいが、3つのうち何れか2つの変状抑制構造が合わせて構築されてもよいし、3つすべての変状抑制構造が合わせて構築されてもよい。更には、変状抑制構造17,27,37,47,57,67のうち、何れか2つ以上の変状抑制構造が合わせて構築されてもよい。
【0045】
また、第4~第6実施形態において、ボーリング孔13,23,33に挿入されるベントナイトとして、ベントナイトペレット41が採用されているが、これに代えて締固められたベントナイト塊が採用されてもよい。例えば、このベントナイト塊は、ボーリング孔13,23,33の径(例えば直径20cm)よりもやや小径で、長さ50cm程度の円柱状をなすものである。このようなベントナイト塊が、ボーリング孔13,23,33内で円柱軸方向に連続して並ぶように充填されてもよい。また、ベントナイト塊が円柱軸方向に並び易いように、ベントナイト塊の円柱下面及び円柱上面に、互いに係合する係合部が形成されてもよい。例えば上記係合部として、円柱下面に同軸で円錐形状の部位が突出するように形成され、円柱上面には上記の円錐形状の部位が嵌り込む円錐穴が形成されてもよい。
【0046】
上記のようなベントナイト塊が前述の挿入具81(
図5)を用いてボーリング孔13,23,33内に挿入されてもよい。この場合、ベントナイト塊は、収納部83の内径よりもやや小径であり収納部83に収納される。また、円柱状のベントナイト塊とベントナイトペレット41とが混合して用いられてもよい。この場合、挿入具81の収納部83内にベントナイト塊とベントナイトペレット41とが一緒に収納されてもよい。
【0047】
また、挿入具81を用いることは必須ではない。例えば、上記のような円柱状のベントナイト塊が用いられる場合、ベントナイト塊がボーリング孔13,23,33内に地上から順々に挿入されるようにしてボーリング孔13,23,33内に充填されてもよい。また、ベントナイトペレット41が用いられる場合、ボーリング孔13,23,33内にベントナイトペレット41の粒体が流し込まれるようにして充填されてもよい。また、地中構造体をなす吸水膨潤性の土質系材料としては、ベントナイトに代えて、ベントナイト混合土等が採用されてもよい。
【0048】
第1~第6実施形態においては、ボーリング工程の後、ボーリング孔13,23,33内に光ファイバセンサを設置し、変状抑制構造に埋込まれる光ファイバセンサで地盤のひずみを計測するなどして、凍土壁11の融解時における周辺地盤の挙動をモニタリングするようにしてもよい。
【0049】
第1~第6実施形態においては、ボーリング孔13,23,33は凍土壁11内を通過しているが、この構成は必須ではない。ボーリング孔13,23,33は、凍結管5の近傍における凍土壁11外の領域を通過するようにしてもよい。凍土壁11に比較的近い領域であれば、凍土壁11外の領域に変状抑制構造17,27,37,47,57,67が構築された場合であっても、凍土壁11の融解による地盤の変状を抑制することができる。
【0050】
なおこの場合、凍結管5の周辺地盤において、例えば、地盤の温度が0℃未満である領域を凍土壁11内とし、地盤の温度が0℃以上の領域を凍土壁11外と判断することができる。この種の凍結工法においては、凍結管5の周辺地盤中に、地盤の温度をモニタするための温度センサが各箇所に埋設されるので、これらの温度センサで計測される温度に基づいて上記のような凍土壁11内の領域と凍土壁11外の領域とが区別されてもよい。
【0051】
ボーリング孔13,23,33が凍土壁11外を通過する場合において、地盤の変状を抑制する効果を十分に得るためには、変状抑制構造17,27,37,47,57,67が構築される位置が凍土壁11に近いことが好ましい。この観点から、ボーリング孔13,23,33が凍土壁11外を通過する場合においては、ボーリング孔13,23,33は、地盤の温度が+3℃未満である位置を通過することが好ましく、地盤の温度が+1℃未満である位置を通過することが更に好ましい。
【0052】
また、ボーリング孔13,23,33は、凍土壁11内(すなわち、地盤の温度が0℃未満である位置)を通過することが好ましく、その中でも地盤の温度が-2℃未満である位置を通過することが更に好ましい。
【0053】
上記のようにボーリング孔13,23,33が凍土壁11外を通過する場合には、形成後のボーリング孔13,23,33内に地下水が液体で存在する可能性がある。この場合、第4~第6実施形態における地中構造体形成工程では、挿入具81(
図5)の収納部83の蓋83aが開いた直後に収納部83のベントナイトペレット41が地下水に接触する場合がある。そうすると、ベントナイトペレット41が収納部83から完全に排出される前に膨潤し、収納部83の出口が閉塞することで、ボーリング孔13,23,33内に円滑にベントナイトペレット41が充填されなくなる虞がある。このような収納部83の出口閉塞を抑制するために、第4~第6実施形態においては、以下に説明するような方法が用いられてもよい。
【0054】
挿入具81の収納部83の出口閉塞を抑制するための方法として、地中構造体形成工程では、収納部83内にベントナイトペレット41を収納した後、ボーリング孔13,23,33内への挿入に先立ち、収納部83内に予めエタノールが注液される。この方法によれば、ボーリング孔13,23,33内の地下水中で収納部83の蓋83aが開いた場合に、収納部83内のエタノールが地下水に十分に置換される間だけベントナイトペレット41の膨潤が遅延する。そうすると、ベントナイトペレット41は膨潤する前に収納部83外に円滑に排出されボーリング孔13内に円滑に充填される可能性が高くなる。なお、エタノールは水に混合し易い性質をもつので周囲の地下水によって十分に希釈され、エタノールがボーリング孔13,23,33内に留まることによる周囲への悪影響もほとんどない。
【0055】
挿入具81の収納部83の出口閉塞を抑制するための他の方法として、ベントナイトペレット41の粒表面に予め氷膜が形成される。そして、地中構造体形成工程では、氷膜に覆われたベントナイトペレット41が収納部83内に収納され、挿入具81によってボーリング孔13,23,33内に充填される。この方法によれば、ボーリング孔13,23,33内の地下水中で収納部83の蓋83aが開いた場合に、氷膜が解ける時間だけベントナイトペレット41の膨潤が遅延する。そうすると、ベントナイトペレット41は膨潤する前に収納部83外に円滑に排出されボーリング孔13,23,33内に円滑に充填される可能性が高くなる。なお、ベントナイトペレット41の粒表面に氷膜を形成するために、例えば、ベントナイトペレット41を液体窒素に浸漬し冷却した後、水に浸漬することで、ベントナイトペレット41の粒表面に付着した水を粒表面上で凍結させる、といった方法が用いられてもよい。
【0056】
挿入具81の収納部83の出口閉塞を抑制するための更に他の方法として、ベントナイトの層間陽イオンと同一のアルカリ金属イオンの塩をベントナイトに混合して、ベントナイトペレット41を成型する。具体的な一例として、ナトリウム型ベントナイトに、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムの少なくとも一つを混合してベントナイトペレット41を成型する。他の例として、カルシウム型ベントナイトに塩化カルシウムを混合してベントナイトペレット41を成型する。そして、地中構造体形成工程では、このベントナイトペレット41が収納部83内に収納され、挿入具81によってボーリング孔13,23,33内に円滑に充填される。
【0057】
通常であれば、ベントナイトに水が接触すると、層間陽イオンに水分子が水和し、単位層間の距離が増加していくことによって膨潤が生じる。これに対して上記のベントナイトペレット41では、ベントナイトの層間陽イオンと同一のアルカリ金属イオンが存在するため、層間陽イオンに水分子が水和するのが抑制される結果、地下水に接触したベントナイトペレット41の膨潤が遅延する。そうすると、ベントナイトペレット41は膨潤する前に収納部83外に円滑に排出されボーリング孔13,23,33内に円滑に充填される可能性が高くなる。
【符号の説明】
【0058】
1…地盤、2…低透水層、5…凍結管、9…凍土、11…凍土壁、12…低透水凍結部、13,23,33…ボーリング孔、15,25,35…セメント系地中構造体、45,55,65…ベントナイト系地中構造体、17,27,37,47,57,67…変状抑制構造。