(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-25
(45)【発行日】2025-04-02
(54)【発明の名称】フレキシブル超音波アレイ
(51)【国際特許分類】
H04R 1/00 20060101AFI20250326BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20250326BHJP
【FI】
H04R1/00 330A
H04R17/00 332B
H04R17/00 330J
(21)【出願番号】P 2021547736
(86)(22)【出願日】2020-03-12
(86)【国際出願番号】 EP2020056587
(87)【国際公開番号】W WO2020182926
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-01-16
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514156563
【氏名又は名称】アイメック・ヴェーゼットウェー
【氏名又は名称原語表記】IMEC VZW
(73)【特許権者】
【識別番号】599098493
【氏名又は名称】カトリーケ・ユニフェルシテイト・ルーヴァン
【氏名又は名称原語表記】Katholieke Universiteit Leuven
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】シェインス,ダフィット
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ヨンビン
(72)【発明者】
【氏名】ロッテンベルク,グザヴィエ
【審査官】鈴木 圭一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-503095(JP,A)
【文献】特開2012-015680(JP,A)
【文献】特表2017-500804(JP,A)
【文献】特開2014-000122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00
H04R 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湾曲した物体を検査するための超音波モニタリングシステム用のフレキシブル超音波トランスデューサ(1)であって、前記超音波トランスデューサ(1)は、集積回路構造(7)と多層構造(2)とを含み、前記多層構造(2)は、
フレキシブル超音波トランスデューサのフロントプレーンを構成する第1層構造(4)であって、第1層構造(4)に配置され、主振動子軸Z
の正方向に沿って伝搬する超音波エネルギーを生成するように構成された超音波変換素子(3a)のアレイ(3)と、
フロントプレーンフレキシブル層(9)と、を含む第1層構造(4);
フレキシブル超音波トランスデューサのバックプレーンを構成し、第2層構造(6)に配置された制御回路(5a)のアレイ(5)を含む
第2層構造(6)であって、前記制御回路(5a)のアレイ(5)および集積回路構造(7)は、前記第1層構造(4)の超音波変換素子のアレイ(3)を動作させるように構成される
第2層構造(6);および、
前記第2層構造(6)よりも主振動子軸Zの負方向に沿ってさらに遠い位置に配置されていることをバックプレーンフレキシブル層(8);
を含み、
前記集積回路構造(7)は、複数のASICを含み、少なくとも1つのASICは、個々の制御回路(5a)の複数をサポートし、
前記複数のASICは、前記バックプレーンフレキシブル層(8)よりも主振動軸Zの負方向に沿ってさらに遠い位置に個別の素子(7a)として実装されており、
前記集積回路構造(7)と前記多層構造(2)を含む前記超音波トランスデューサ(1)全体がフレキシブルであり、これにより、前記超音波トランスデューサ(1)が動作中に前記湾曲した物体との連続的な接触を形成することを可能とし、
前記第1層構造(4)は、前記第2層構造よりも前記主振動子軸Zの正方向
に沿ってさらに遠い位置に配置される、
フレキシブル超音波トランスデューサ(1)。
【請求項2】
前記第1層構造(4)のアレイ(3)の各超音波変換素子(3a)は、前記第2層構造(6)のアレイ(5)の個々の制御回路(5a)に接続されていることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル超音波トランスデューサ(1)。
【請求項3】
前記第1層構造(4)
のフロントプレーンフレキシブル層(9)は、圧電素子(16)のアレイとバルク層との間に配置され、
前記バルク層(10)は、バルク層(10)内にキャビティ(10b)のアレイを規定するように内壁(10a)を含み、
前記アレイ(3)内の超音波変換素子(3a)は、前記圧電素子(16)の1つと、前記キャビティのアレイのキャビティ(10b)と、前記圧電素子(16)と前記キャビティ(10b)との間に配置されたフロントプレーンフレキシブル層(9)の一部とによって規定されていることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル超音波トランスデューサ(1)。
【請求項4】
前記制御回路(5a)のアレイ(5)は、薄膜トランジスタ(TFT)のアレイを含むことを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル超音波トランスデューサ(1)。
【請求項5】
前記多層構造(2)は、動作中に前記湾曲した物体から遠ざかるように向けられた音響透過を低減するために、前記第1層構造(4)の軸方向下方に配置された音響バッキング層(11)をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル超音波トランスデューサ(1)。
【請求項6】
前記音響バッキング層(11)は、
前記第2層構造(6)よりも主振動軸Zの負方向に沿ってさらに遠い位置に配置されていることを特徴とする請求項
5に記載のフレキシブル超音波トランスデューサ(1)。
【請求項7】
前記音響バッキング層(11)は、ブラッグスタック(12)の形状の音響ダンピング層または音響反射層であり、
前記ブラッグスタック(12)は、高(12a)および低(12b)の音響インピーダンス材料を交互に並べた複数の層を含むことを特徴とする請求項
5に記載のフレキシブル超音波トランスデューサ(1)。
【請求項8】
前記第1層構造(4)
よりも主振動軸Zの正方向に沿ってさらに遠い位置に最外層として配置された上部フレキシブル層(13)をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル超音波トランスデューサ(1)。
【請求項9】
多層構造(2)は、フレキシブル超音波トランスデューサ(1)を5cm未満の曲率半径で曲げることができるような曲げ可撓性を有することを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル超音波トランスデューサ(1)。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれかに記載のフレキシブル超音波トランスデューサ(1)を製造するための方法(100)であって、
a)第1の剛性基板(14)に一時的に接着されたバックプレーンフレキシブル層(8)
よりも、主振動軸Zの正方向に沿ってさらに遠い位置に、制御回路(5a)のアレイ(5)を含む前記第2層構造(6)を配置するステップ(101)と、
前記第2層構造(6)よりも主振動軸Zの正方向に沿ってさらに遠い位置に超音波変換素子(3a)のアレイ(3)を含む前記第1層構造(4)を配置するステップ(102)と、
c)フレキシブル超音波トランスデューサの多層構造(2)を形成するステップ(103)と、
d)前記第1の剛性基板(14)を除去するステップ(104)
と、
e)複数のASICを配置するステップであって、少なくとも1つのASICは、前記バックプレーンフレキシブル層(8)よりも主振動軸Zの負方向に沿ってさらに遠くにある位置に、個別の素子(7a)として、個々の制御回路(5a)の複数をサポートするステップと、
を含む方法。
【請求項11】
前記第1層構造(4)は、前記第2層構造(6)の上に構築されることを特徴とする請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1層構造(4)は、第2の剛性基板(15)に一時的に接着され、
前記方法は、フレキシブル超音波トランスデューサ(1)の多層構造(2)を形成する前に、前記第2の剛性基板(15)を除去するステップ(105)を含むことを特徴とする請求項
10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明のコンセプトは、超音波イメージングの分野に関するものである。より詳細には、超音波変換素子のアレイを構成するフレキシブル超音波トランスデューサに関する。
【背景技術】
【0002】
大規模な2次元アレイの超音波アレイは、医療市場や民生用電子機器にいくつかの応用がある。例えば、医療用イメージング、行動認識、指向性サウンド、指紋検出、空中ハプティクスなどである。
【0003】
微細加工された超音波変換素子(MUT)の標準的な構造は、この技術分野で知られている。小さなドラムを作り、その上に吊り下げ式の膜を載せて小さなキャビティを作る。このキャビティの寸法と膜の剛性の組み合わせによって、特定のMUTの共振周波数が決まる。一例として、MUTは圧電効果で駆動することができる(pMUT)。圧電材料に共振周波数の交流電界を印加すると、圧電材料と膜の間に応力差が発生し、これにより振動と音響波の放出が誘発される。代表的な周波数は、50kHz~20MHzである。これは、空気中の波の場合、1cmから100μm未満の波長に相当する。発信時に焦点を合わせたり、受信時に小さなスポットを画像化したりするためにビームフォーミングを使用するアプリケーションでは、より大きなアレイの超音波変換素子が必要となる。
【0004】
理想的なビーム形成技術を実現するためには、アレイ内の後続の素子間の最適なピッチは波長/2となる。使用するスタックにもよるが、このことは、素子間のピッチが個別の変換素子の寸法に近いことを意味する。この結果、高密度のpMUT素子では、素子間のスペースがほとんどなくなる。
【0005】
さらに、個々のpMUTの隣には、正しい位相を設定したり、位相/振幅を読み取ったりするための小さな回路が必要になるかもしれない。この回路は比較的複雑で、pMUTと同じ平面上にはスペースがないかもしれない。
【0006】
このため、この技術分野では、大規模アレイで製造可能な超音波変換素子の改良されたデザインが必要とされている。さらに、平坦で剛性の高い基板上に製造された超音波変換素子は、曲がった物体のスキャンには適していない場合がある。オペレーターは、検査対象の湾曲した物体に対して平らな変換素子を移動させたり押し付けたりしなければならず、画像の再生などが困難になる。このように、この技術分野では、湾曲した物体の改良された検査ができる超音波変換素子が必要とされる。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、従来技術の1つまたは複数の制限を少なくとも部分的に克服することである。特に、湾曲した物体を検査するために使用することができるフレキシブル超音波トランスデューサを提供することを目的とする。
【0008】
本発明の第1の形態として、湾曲した物体を検査するための超音波モニタリングシステム用のフレキシブル超音波トランスデューサであって、
超音波トランスデューサは、集積回路構造と多層構造とを含み、多層構造は、
第1層構造に配置され、主変換軸(Z)に沿って伝播する超音波エネルギーを生成するように構成された超音波変換素子のアレイと、
第2層構造に配置された制御回路のアレイとを含み、
制御回路のアレイおよび集積回路構造は、第1層構造の超音波変換素子のアレイを動作させるように構成され、
多層構造は、多層構造の曲げ可撓性により、前記超音波トランスデューサが動作中に湾曲した物体と連続的な接触を形成することを可能にするように配置された少なくとも1つのフレキシブルな層をさらに含む。
【0009】
本発明のフレキシブル超音波トランスデューサは、超音波を対象物に伝達するためのものであり、超音波モニタリングシステムに使用することができる。
【0010】
また、そのようなシステムは、検査対象物から得られた結果のエコー信号を処理するための分離された処理手段と、超音波トランスデューサによって得られた画像を表示するための表示手段と、処理手段から表示手段に情報を転送するための分離された通信手段とを含んでもよい。
【0011】
超音波トランスデューサの多層構造は、異なる層または層構造の積み重ねである。各層構造は、異なるサブ層を含んでも良い。集積回路構造は、多層構造の一部でもよく、すなわち、多層構造の層の1つを形成してもよく、または最下層などの多層構造に取り付けられた個別要素として配置されてもよい。最下層は、バックプレーンフレキシブル層でもよい。
【0012】
集積回路構造の機能は、超音波変換素子を励起するための信号を提供すること、超音波変換素子の信号を読み出すことなど、複数であってもよい。従って、集積回路構造体は、検査対象物から得られた結果のエコー信号を処理するように構成されてもよい。さらに、集積回路構造は、超音波モニタリングシステムのディスプレイシステムなどの他のユニットとの無線通信を提供しても良い。
【0013】
超音波変換素子のアレイは、第1層構造に配置されている。アレイは、2次元アレイでもよい。アレイの表面積は、少なくとも100cm2、例えば少なくとも400cm2でもよい。
【0014】
フレキシブル超音波トランスデューサは、シートの形態であってもよい。シートは、互いに対向して配置された、すなわち2つの異なる平行な方向を向く法線ベクトルを有する第1の外面および第2の外面を有していてもよい。多層構造の外側の層は、それぞれ、第1および第2の外側シートを形成してもよい。シートの表面積、例えば、第1または第2の外面の表面積は、少なくとも100cm2、例えば、少なくとも400cm2であってもよい。
【0015】
第1の層構造は、フレキシブル超音波トランスデューサの「フロントプレーン」の一部を形成するか、または構成してもよい。
【0016】
1つの超音波変換素子は、圧電マイクロマシン化超音波変換素子(pMUT)でもよい。pMUTは、小さなキャビティの上にフレキシブルな膜を配置したものである。キャビティの寸法と膜の剛性の組み合わせにより、pMUTの共振周波数が決定されても良い。一例として、pMUTは圧電効果によって駆動される。すなわち、圧電材料と膜との間の応力差は、圧電材料に共鳴周波数の交流電界を印加することによって生成される。
【0017】
他の方法として、1つの超音波変換素子は、容量性MUT(cMUT)であってもよく、この場合、MUT内のエアギャップと、エアギャップの両側の電極によって動作が行われる。
【0018】
超音波変換素子の共振周波数は、50kHz~20MHzの範囲内でも良い。これは、1cmから100μm未満までの波長に相当する。
【0019】
超音波変換素子のアレイは、主方向、すなわち変換軸Zに沿って伝搬する超音波エネルギーを生成するようにさらに構成されている。多層の異なる層および層構造の位置は、本開示では、他の層および層構造の「軸方向上」または「軸方向下」にあると定義され得る。「軸方向」は、変換軸Zを指し、他の層および層構造の軸方向上に配置されている層および層構造は、従って正のZ方向にさらに沿った位置に配置されている。従って、変換軸Zが鉛直上方を向いている場合、「軸方向上」は「鉛直上」に対応し、「軸方向下」は「鉛直下」に対応する。
【0020】
制御回路のアレイは、第2層構造で配置されている。なお、第2層構造は単層であってもよい。このように、制御回路および集積回路構造は、超音波変換素子を動作させるために使用される。
【0021】
第2の層構造は、第1の層構造の軸方向下に配置されてもよい。従って、第2の層構造は、フレキシブル超音波トランスデューサの「バックプレーン」またはその一部を形成してもよい。
【0022】
第2層構造は、IGZO(Indium Gallium Zinc Oxide)および/またはLTPS(Low Temperature Poly Silicon)などの薄膜半導体材料で構成されていてもよい。従って、第2層構造は、IGZOおよび/またはLTPSを用いた制御回路で構成されていてもよい。
【0023】
さらに、多層構造は、少なくとも1つのフレキシブル層を含む。フレキシブル層は、多層構造および超音波変換素子全体が柔軟になり、検査中に超音波トランスデューサが曲がった物体に連続的に接触することを可能にするように構造内に配置される。従って、フレキシブルな層により、超音波変換素子は、検査中に湾曲した物体に適合することができる。
【0024】
少なくとも1つのフレキシブル層は、バックプレーンフレキシブル層およびフロントプレーンフレキシブル層の少なくとも1つでもよい。
【0025】
pMUT内のフレキシブルな膜は、フレキシブル層の1つを形成してもよい。しかし、超音波変換素子は、超音波を発生させるための超音波変換素子に関連する又はその一部であるフレキシブル層以外の、少なくとも1つのフレキシブル層、例えば、上述したpMUTの一部であるフレキシブル層又は膜以外の少なくとも1つのフレキシブル層を含んでもよい。
【0026】
フレキシブル超音波トランスデューサは、湾曲した物体を検査するためのものである。好適な湾曲物体は、20cm未満、例えば10cm未満の曲げ半径を有する湾曲を有する物体であってもよい。多層構造内に少なくとも1つのフレキシブル層を有することで、フレキシブル超音波トランスデューサがそのような湾曲した物体に曲げて適合することが可能になり、多層構造の外側の層は、従って、湾曲した物体との連続的な接触を形成することができる。一例として、多層構造のすべての層は、湾曲した対象物との接触時に屈曲してもよい。
【0027】
本発明の第1の態様は、超音波変換素子のアレイと制御回路のアレイとが別々の平面に配置された多層構造にフレキシブル層を組み込むことによって、フレキシブル超音波トランスデューサを作製することができるという洞察に基づいている。本発明者らは、制御回路が超音波変換素子と一緒に振動していると不利になる場合があることを見出した。そこで、超音波変換素子のアレイをフロントプレーンに設け、一方、制御回路のアレイをフレキシブル超音波トランスデューサのバックプレーンに設けた。これは、フロントプレーンとバックプレーンを別々に処理することができるという点で、さらに有利である。すなわち、多層構造の異なる層または層構造は、異なる供給者に由来する可能性がある。
【0028】
フロントプレーンとバックプレーンを互いに独立して処理する場合、製造上の制約を回避することができる。従って、バックプレーンの処理のための温度制約は、フロントプレーンの熱特性によって制限されることはない。
【0029】
また、超音波変換素子のアレイと制御回路のアレイが別々の面に配置されているため、圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ(pMUT)などの超音波変換素子を高密度にアレイ化し、超音波変換素子の下に複雑な制御回路をアレイ化することが可能です。
【0030】
また、このフレキシブル超音波トランスデューサの設計により、100cm2以上、例えば400cm2以上の大面積のフレキシブル超音波トランスデューサを製造することができる。
【0031】
超音波トランスデューサの全体がフレキシブルであるため、超音波イメージングの際に、湾曲した物体の周りに適合させることができる。従って、本開示のフレキシブル超音波トランスデューサは、医療用イメージング、湾曲した基板上の動作認識、および湾曲した基板周辺の非破壊検査に使用することができる。検査対象となる湾曲した物体や基板は、腕や脚などの人体の一部だけでなく、ドアハンドルや自動車のダッシュボードなどの他の物体であってもよい。
【0032】
フレキシブル超音波トランスデューサは、動いている人体の一部など、動いている物体に使用することができる。従って、フレキシブル超音波トランスデューサは、人体に接着または固定されてもよい。
【0033】
第1の態様の実施形態では、第1層構造のアレイの各超音波変換素子は、第2層構造のアレイの個別制御回路と接続されている。
【0034】
従って、個々の制御回路は、1つの超音波変換素子を制御するために構成されてもよい。
【0035】
代わりに、個々の制御回路は、少なくとも2つ、例えば少なくとも4つの超音波変換素子など、複数の超音波変換素子を制御するために配置されてもよい。一例として、個々の制御回路は、超音波変換素子の2x2サブアレイを制御するために配置されてもよい。
【0036】
第1の態様の実施形態では、第2の層構造は、少なくとも1つのフレキシブル層のバックプレーンフレキシブル層の軸方向の上に配置されている。
【0037】
従って、制御回路は、バックプレーン柔軟層上、例えばフレキシブルなポリマー層上で直接処理されてもよい。
【0038】
集積構造または回路は、特定の機能性、例えば、ワイヤレスASICまたはデジタルシグナルプロセッサ(DSP)をサポートするために、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)デバイスなどの任意の標準またはカスタムデバイスを含んでもよい。
【0039】
第1の態様の実施形態では、集積回路構造は、複数のASIC(Application Specific Integrated Circuits)で構成されている。一例として、少なくとも1つのASICは、複数の個別の制御回路をサポートしてもよい。
【0040】
従って、制御回路は、複数の専用ASICによって駆動されてもよく、従って、1つのASICが、複数の個別制御回路をサポートまたは駆動するように構成されてもよい。
【0041】
ASICは、特定の機能または特定のタスクを実行するために特別に構築されてもよく、超音波変換素子を励起するだけでなく、超音波変換素子のアレイから出力信号を読み取るように構成されてもよい。また、複数のASICは、超音波モニタリングシステムの他の部分と無線通信するように構成されてもよい。
【0042】
一例として、複数のASICは、バックプレーンフレキシブル層の軸方向下に個々の素子として実装されてもよい。
【0043】
この結果、ASICは、例えばチップオンフレックス技術を用いて、バックプレーンフレキシブル層に直接実装されてもよい。
【0044】
しかしながら、他の方法として、ASICを多層構造のいずれかの層に組み込んでもよい。
【0045】
第1の態様の実施形態では、第1の層構造は、フロントプレーンフレキシブル層上に配置された圧電素子のアレイと、バルク層内にキャビティのアレイを規定するように内壁を含むバルク層とを含み、アレイ内の超音波変換素子は、圧電素子の1つと、キャビティのアレイのキャビティと、圧電素子とキャビティとの間に配置されたフロントプレーンフレキシブル層の一部とによって規定される。
【0046】
フロントフレキシブル層は、多層構造の曲げ可撓性が、動作中に超音波トランスデューサが湾曲した物体との連続的な接触を形成することを可能にするように配置された柔軟層の1つであってもよい。
【0047】
また、フロントプレーンフレキシブル層は、バルク層の上に直接配置されていてもよい。さらに、キャビティのアレイおよび圧電素子のアレイは、各圧電素子に関連する1つの単一キャビティが存在するように配置されてもよい。一例として、キャビティは、圧電素子の下に配置されてもよい。
【0048】
超音波変換素子は、電子的に作動するように構成されたMUTであってもよいし、MUTを含んでもよい。
【0049】
このように、超音波変換素子は、圧電効果によって駆動することができる。圧電素子の共振周波数付近または共振周波数で交流磁界を印加することにより、フロントプレーンのフレキシブル層の振動が発生し、それにより音響波が放出される。キャビティの寸法は、異なる共振周波数を達成するために調整することができる。このように、フロントフレキシブル層は、超音波変換素子の膜として機能してもよい。
【0050】
超音波変換素子は、圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ(pMUT)であってもよいし、圧電マイクロマシン超音波トランスデューサを含んでもよい。
【0051】
さらに例を挙げると、超音波変換素子は、容量性超音波トランスデューサ(cMUT)であってもよいし、容量性超音波トランスデューサを含んでもよい。
【0052】
第1の態様の実施形態では、制御回路のアレイは、TFT(Thin Film Transistor)のアレイを含む。
【0053】
TFTは、IGZO(Indium Gallium Zinc Oxide)および/またはLTPS(Low Temperature Poly Silicon)などの半導体と、誘電体層および金属コンタクトを含んでもよい。これらは、ガラスウエハ上のポリマーのように、基板上に蒸着されてもよい。
【0054】
また、1つの超音波変換素子に1つのTFTが搭載されていてもよい。このように、フレキシブル超音波トランスデューサは、TFTバックプレーンと分離したpMUTフロントプレーンを含んでも良い。
【0055】
第1の態様の実施形態では、多層構造は、第1層構造の軸方向下に配置された、または動作中に湾曲した物体から離れる方向に向けられた音響透過を低減する音響バッキング層をさらに含む。
【0056】
このように、音響バッキング層は、検査対象物から遠ざかる方向に向けられる波動を管理するために、スタックに追加することができる。このようにして、音響バッキング層は、誤った方向への音響放射に起因する問題を軽減することができる。
【0057】
一例として、音響バッキング層は、第2層構造の軸方向下に配置されていてもよい。このように、音響的バッキング層は、制御回路のアレイの軸方向下に配置されてもよい。
【0058】
さらに、音響バッキング層は、ブラッグスタック(Bragg stack)の形態の音響ダンピング層または音響反射層であってもよい。ブラッグスタックは、高音響インピーダンス材料と低音響インピーダンス材料を交互に並べた複数の層を含んでもよい。
【0059】
この結果、音響バッキング層は、音響波が実質的に減衰または吸収される吸収性の性質を有してよいし、音響波が反射される反射性の性質を有してもよい。
【0060】
音響ダンピング層は、放出された超音波がそのパワーを失うような材料を使用することによって得ても良い。
【0061】
音響反射層は、高音響インピーダンス材料と低音響インピーダンス材料を交互に並べた複数の層を含む、音響ブラッグスタック(ブラッグリフレクタ)を使用することで得られても良い。これにより、超音波の反射を助けることができる。ブラッグスタックは、1/4波長ルールを用いて設計されてもよい。従って、ブラッグスタックの複数の層のそれぞれは、ブラッグスタックが設計された波長の1/4に対応する厚さを有してもよい。
【0062】
高音響インピーダンス材料と低音響インピーダンス材料を交互に配置した複数の層は、ターゲットとなる音響アプリケーション周波数においてバンドギャップ反射を提供しながら、可撓性を持たせることができます。バンドギャップエンジニアリングは、さらに広帯域機能を可能にするために使用することができる。
【0063】
第1の態様の実施形態では、フレキシブル超音波変換素子は、第1の層構造の軸方向上の最外層として配置されたトップフレキシブル層をさらに含む。
【0064】
トップフレキシブル層は、多層構造の曲げ可撓性が、動作中に超音波トランスデューサが湾曲した物体との連続的な接触を形成することを可能にするように配置されてもよい。
【0065】
フレキシブル層を、多層構造の他の層の軸方向の上に配置するなど、軸方向の最外層とすることは、そのような材料が超音波トランスデューサの動作中により容易に曲がる可能性があるため、有利であると考えられる。最外層は、最も高い屈曲または曲げ応力を経験することになり、超音波変換素子および制御回路を最外層とすることは避けることが有用である場合がある。これらが屈曲に対してより敏感であるためである。
【0066】
少なくとも1つのフレキシブル層の1つまたはすべてが、ポリイミドなどのポリマーを含んでもよい。
【0067】
第1の態様の実施形態では、多層構造は、フレキシブル超音波トランスデューサが5cm未満の曲率半径で曲げられる曲げ可撓性を有する。
【0068】
曲率半径は、正または負のZ方向、すなわち、主変換軸に沿った方向に曲げるときに定義されてもよい。最小曲率半径は、1~4cmなど、5cm未満であってもよい。
【0069】
本発明の概念の別の態様では、以下のステップを含む、先のいずれかの請求項に記載のフレキシブル超音波トランスデューサを製造するための方法が提供される。
a)制御回路のアレイを含む第2層構造を、第1剛性基板に一時的に接着されたバックプレーンフレキシブル層の上に軸方向に配置するステップ。
b)超音波変換素子のアレイを含む第1層構造を配置するステップ。
c)フレキシブル超音波トランスデューサの多層構造を形成するステップ。
d)第1剛性基板を除去するステップ。
この態様は、一般的に、先の態様と同じまたは対応する利点を提示することができる。
【0070】
ステップa)は、制御回路のアレイを含む第2の層構造を、バックプレーンフレキシブル層に直接配置するステップを含んでもよい。
【0071】
ステップb)は、バルク層を提供し、例えばフォトリソパターニング可能な接着剤を用いてバルク層にキャビティを形成し、バルク層上にフレキシブル層を積層し、前面フレキシブル層の上に圧電素子のアレイを配置するステップを含んでもよい。
【0072】
ステップd)は、第1の剛性基板からバックプレーンフレキシブル層を剥離するステップであってもよい。
【0073】
第2の態様の実施形態では、第1の層構造は、第2の層構造の上に形成される。その結果、第1の層構造を配置するステップb)は、ステップa)で配置された第2の層構造の上で実行されてもよい。従って、ステップc)は、ステップb)の一部であってもよい。
【0074】
従って、バルク層、フロントフレキシブル層、およびピエゾ素子などの第1の層構造のサブレイヤーは、第2の層構造の上にサブレイヤーごとに配置されてもよい。
【0075】
第2の態様の実施形態では、第1の層構造は、第2の剛性基板に一時的に接着されており、この方法は、フレキシブル超音波トランスデューサの多層構造を形成する前に、第2の剛性基板を除去するステップを含む。
【0076】
このように、第1の層構造は、別の剛性基板上に形成されてもよい。これは、第1の層構造および第2の層構造が、それぞれ第1の層構造および第2の層構造に最適化された異なる製造プロセスで製造されてもよいという点で有利である。従って、第1および第2の層構造は、異なる提供者から供給されてもよく、その後、本方法は、剛性基板から剥離した後に、予め製造された第1の層構造を予め製造された第2の層構造の上に配置することによって、多層構造を形成することを含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0077】
上述および追加の本発明の概念の目的、特徴、および利点は、添付の図面を参照した、以下の例示的かつ非限定的な詳細な説明によって、より良く理解されるであろう。図面では、特に明記しない限り、同様の要素には同様の参照数字を使用する。
【0078】
【
図1b】超音波トランスデューサにおける第1および第2の層構造を示す説明図である。
【
図2a】フレキシブル超音波トランスデューサにおける層構造の例示的な実施形態を示す。
【
図2b】フレキシブル超音波トランスデューサにおける層構造の例示的な実施形態を示す。
【
図2c】フレキシブル超音波トランスデューサにおける層構造の例示的な実施形態を示す。
【
図2d】フレキシブル超音波トランスデューサにおける層構造の例示的な実施形態を示す。
【
図3a】フレキシブル超音波トランスデューサの製造方法の例示的な実施形態を示す。
【
図3b】フレキシブル超音波トランスデューサの製造方法の例示的な実施形態を示す。
【
図3c】フレキシブル超音波トランスデューサの製造方法の例示的な実施形態を示す。
【
図3d】フレキシブル超音波トランスデューサの製造方法の例示的な実施形態を示す。
【
図3e】フレキシブル超音波トランスデューサの製造方法の例示的な実施形態を示す。
【
図3f】フレキシブル超音波トランスデューサの製造方法の例示的な実施形態を示す。
【
図4a】フレキシブル超音波トランスデューサの製造方法の例示的な実施形態を示す。
【
図4b】フレキシブル超音波トランスデューサの製造方法の例示的な実施形態を示す。
【
図4c】フレキシブル超音波トランスデューサの製造方法の例示的な実施形態を示す。
【
図4d】フレキシブル超音波トランスデューサの製造方法の例示的な実施形態を示す。
【
図4e】フレキシブル超音波トランスデューサの製造方法の例示的な実施形態を示す。
【
図4f】フレキシブル超音波トランスデューサの製造方法の例示的な実施形態を示す。
【
図5a】フレキシブル超音波トランスデューサの製造方法の例示的な実施形態を示す。
【
図5b】フレキシブル超音波トランスデューサの製造方法の例示的な実施形態を示す。
【
図5c】フレキシブル超音波トランスデューサの製造方法の例示的な実施形態を示す。
【
図5d】フレキシブル超音波トランスデューサの製造方法の例示的な実施形態を示す。
【
図5e】フレキシブル超音波トランスデューサの製造方法の例示的な実施形態を示す。
【
図5f】フレキシブル超音波トランスデューサの製造方法の例示的な実施形態を示す。
【
図6】フレキシブル超音波トランスデューサの製造方法におけるプロセスステップの一般的な概要を示す。
【
図7】湾曲した物体の検査中におけるフレキシブル超音波トランスデューサを模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0079】
本発明は、湾曲した物体を検査するための超音波モニタリングシステム用のフレキシブル超音波トランスデューサ1に関する。このトランスデューサは、集積回路構造7と多層構造2とを有し、多層構造の第1層構造に超音波変換素子のアレイ3が配置されている。
図1aには、超音波変換素子3aの5×5アレイ3の上面図が模式的に示されている。超音波変換素子3aは、この例ではpMUT素子である。アレイ3の素子3a間の最適なピッチは、超音波トランスデューサのエミッタンス波長の半分であってもよい。超音波変換素子3aのアレイ3は、主振動子軸(Z)に沿って伝搬する超音波エネルギーを生成するようにさらに構成されており、この軸は、
図1aではアレイが配置されている平面に垂直である。
【0080】
第1の層構造4の超音波変換素子3aのアレイ3は、制御回路5aのアレイ5と集積回路構造7を用いて動作する。
図1bに示されるように、制御回路5aのアレイ5は、第1層構造4ではなく第2の層構造6に配置されている。制御回路5aのアレイ5は、例えば、正しい位相を設定したり、検査対象物からのエコー信号の位相および/または振幅を読み出したりするために使用される。
【0081】
この例では、第1の層構造4が多層のフロントプレーンを形成し、第2の層構造6がバックプレーンを形成しており、フロントプレーンがバックプレーンの上に軸方向に配置されている。バックプレーンまたは第2の層構造6は、この例では薄膜トランジスタ(TFT)バックプレーンであり、個々の変換素子3aが個々の制御回路5a、またはTFT回路に接続されるように配置されている。
【0082】
制御回路5aは、集積回路構造7に接続されており、この集積回路構造7は、この例では、複数のASIC(Application Specific Integrated Circuits)7aとして実現されている。ASIC7aは、この場合、第2の層構造6の下方の軸方向に別の平面に配置されており、個々のASICは、複数の制御回路5a、例えば20個以上、例えば100個以上の制御回路5aを支持するように構成されている。ASIC7aの機能は、超音波変換素子3aを励起するための信号を生成すること、検査対象物からのエコー信号の位相及び/又は振幅を読み出すこと、及び/又は超音波トランスデューサの他の部分との無線通信のための信号を生成することなど、複数であってもよい。
【0083】
さらに、超音波トランスデューサは、多層構造2の曲げ可撓性により、超音波トランスデューサ1が、動作中に、腕や脚のような曲がった物体と連続的に接触することができるように配置された少なくとも1つのフレキシブルな層を含む。これについては、以下の
図2~7に関連してさらに説明する。
【0084】
図2aは、フレキシブル超音波トランスデューサ1の多層構造2の層構造の実施形態を示す。多層構造2は、第2の層構造6の上に軸方向に配置された第1の層構造4を含む。第2の層構造6は、バックプレーンフレキシブル層8の上に軸方向に加工された、TFT回路のアレイの形をした制御回路5aのアレイ5を含む。このバックプレーンフレキシブル層は、所望の可撓性を有するポリマー層であり、例えば、ポリイミドを含む又はポリイミドからなるポリマー層である。
【0085】
超音波変換素子3aは、第1の層構造4内に配置され、主振動子軸Zに沿って伝搬する超音波エネルギーを発生させるように構成されている。第1の層構造4はフロントプレーンフレキシブル層9を含み、この層は個々の超音波変換素子3aにおいて膜として機能する。フロントプレーンフレキシブル層9は、超音波変換素子のアレイ3における全ての個別の超音波変換素子3aに対して同一の層であってもよい。フロントプレーンフレキシブル層は、バルク層10と圧電素子16のアレイとの間に配置されている。バルク層10は、バルク層10内にキャビティ10bのアレイを規定するように内壁10aを含み、圧電素子16は、上部金属層16bと下部金属層16cとの間に配置された圧電材料16aを含む。さらに、制御回路5aと下部金属層16cとの間には、電気接続16dが設けられている。電気接続16dは、バックプレーンフレキシブル層9とバルク層10を通って配置され、制御回路5aと集積回路7によって、圧電材料16a上に交流電界を印加するために使用される。
図2aでは、下部金属層16cとTFT5aとの間の下部接続16dのみが示されているが、上部金属層16bもTFT5aに接続されてもよい。別の方法として、下部金属層16cまたは上部金属層16bのいずれかが、超音波変換素子のフルアレイの共通接点であってもよい。その場合、上部金属層16bは、グランド信号に接続されてよい。
【0086】
その結果、アレイ3内の個々の超音波変換素子3aは、圧電素子16の1つ、キャビティのアレイのキャビティ10b、および圧電素子16とキャビティ10bとの間に配置されたフロントプレーンフレキシブル層9の一部によって規定される。圧電材料16aを挟んで共振周波数の交流電界を印加することで、圧電体とフロントプレーンフレキシブル層9との間に応力差が生じ、これにより振動が誘発されて音響波が放出される。典型的な周波数は、50kHzから20MHzの範囲である。これは、1cmから100μm未満までの波長に相当する。
【0087】
集積回路7は、複数のASIC7aを含む。この実施形態では、個々のASIC7aは、チップオンフレックス技術を用いて第2の層構造6がその上に加工されたバックプレーンフレキシブル層8の側と対向する側に実装されている。このように、ASIC7aは、バックプレーンフレキシブル層9の軸方向下方に配置されている。一つの実施形態では、ASIC7aとそれをサポートする制御回路5aとの間の接続は、バックプレーンフレキシブル層8を通って行われる。他の実施形態では、接続は、バックプレーンフレキシブル層9の周りを回るフレキシブルPCBコネクタを用いて実現される。
【0088】
また、第2の層構造6が、上部金属層16bの上のような、第1の層構造4の上に、軸方向に配置されていることも可能である。このような解決策は、第2のフレキシブルな層6が、超音波変換素子によって放出される超音波のための貫通孔を有することを必要とする。
【0089】
図2bは、フレキシブル超音波トランスデューサ1の実施形態のさらなる概略図である。
図2bのフレキシブル超音波トランスデューサ1は、
図2aに関連して説明したトランスデューサと同様の層構造および機能を有するが、第1の層構造4の上に軸方向に最外層として配置された追加の上部フレキシブル層13を有する。これにより、多層構造2を曲げた時に、超音波変換素子3aおよびTFT5aを保護することができる。なぜならば、最外層、この場合は最上部のフレキシブル層13が曲げた時に最も大きな曲げ応力を受ける可能性があるためである。最上部のフレキシブル層は、バックプレーンフレキシブル層8と同じ厚さを有してもよく、および/または同じ材料から構成されてもよい。
【0090】
図2cは、フレキシブル超音波トランスデューサ1の実施形態のさらなる概略図である。
図2cのフレキシブル超音波トランスデューサ1は、
図2aに関連して説明したトランスデューサと同じ方法で同じ層構造および機能を有するが、第1の層構造4および第2の層構造6の軸方向下に配置された音響バッキング層11を有する。音響バッキング層11は、超音波トランスデューサ1の動作中に対象物から遠ざかる方向に向けられる音響透過を低減するものである。音響バッキング層は、
図2cに示す実施形態では、高12aと低12bの音響インピーダンス材料を交互に配置した複数の層を含むブラッグスタック12の形をしている。ブラッグスタック12は、「1/4波ミラー」、すなわち、ブラッグスタック12が設計された波長の1/4に対応する透過層の厚さを有する交互の音響インピーダンス材料12a、12bで設計されている。ブラッグスタック12を使用すると、負のZ方向に向けられた音響パワーは、建設的干渉により正しい方向、すなわち正のZ方向への放出に再利用することができる。ブラッグスタック12は、可撓性を持たせることもできる。すなわち、高音響インピーダンス12aと低音響インピーダンス12bを交互に配置する層の一方または両方の層を、可撓性のある材料で構成することができる。
【0091】
他の方法として、音響バッキング層11は、放出される超音波のパワーが低減される音響ダンピング層であってもよい。
【0092】
図2dは、フレキシブル超音波トランスデューサ1の実施形態をさらに模式的に示す図である。
図2dのフレキシブル超音波トランスデューサ1は、
図2dに関連して説明したトランスデューサと同様の層構造および機能を有するが、ブラッグスタック12の形態の音響バッキング層11が代わりに第1の層構造4と第2の層構造6の間に軸方向に配置されている。さらに、
図2bに示したものと同様に、多層スタック2内の他のすべての層よりも軸方向に上に、最外層として配置された最上部のフレキシブル層13がある。最上部のフレキシブル層は、上記の
図2bに関連して説明したようなものであってもよい。
【0093】
多層構造2にバックプレーンフレキシブル層8、フロントプレーンフレキシブル層9および/または最上部のフレキシブル層13を組み込むなど、少なくとも1つのフレキシブル層を使用することにより、多層構造2およびフレキシブル超音波トランスデューサ1の全体に、フレキシブル超音波トランスデューサ1を5cm未満の曲率半径で曲げることができるような曲げ可撓性が与えられ、これにより、例えば、湾曲した身体部位を検査する際に使用することができる。このように、フレキシブル超音波トランスデューサ1は、腕や脚に巻き付けることができ、さらに、検査対象物の動き(例えば、検査対象者の腕や脚の動き)に合わせて超音波イメージングを行うことができる。
【0094】
図3~
図5は、本開示にかかるフレキシブル超音波トランスデューサ1を製造するための異なる方法100を示す。この方法は、
図6にさらに示されている以下の一般的な方法ステップa)~d)を含む。
a)第1の剛性基板14に一時的に接着されているバックプレーンフレキシブル層8の軸方向の上に、制御回路5aのアレイ5を含む第2の層構造6を配置するステップ101。
b)超音波変換素子3aのアレイ3を含む第1の層構造体4を配置するステップ102。
c)フレキシブル超音波トランスデューサの多層構造2を形成するステップ103。
d)第1の剛性基板4を除去するステップ104。
【0095】
また、第2の層構造を配置するステップ101であるステップa)は、第2の層構造6とバックプレーンフレキシブル層8との間に、または第2の層構造6とバックプレーンフレキシブル層8の両方の上に、本明細書で説明したような音響バッキング層11を配置するステップを含んでもよい。
【0096】
第1の層構造4は、第2の剛性基板15に一時的に接着されていてもよく、また、方法100は、フレキシブル超音波トランスデューサ1の多層構造2を形成する前に、第2の剛性基板15を除去するステップを含んでもよい。
【0097】
図3a~3fは、第1の層構造4が第2の層構造6の上に構築されるフレキシブル超音波トランスデューサ1を製造するための方法100の実施形態を模式的に示している。まず、
図3aに見られるように、第2の層構造6のTFT回路バックプレーンが、第1の剛性基板14に一時的に接着されたバックプレーンフレキシブル層8上で処理される。バックプレーンフレキシブル層8は、ポリイミドで構成されてもよいし、ポリイミドを含んでもよい。TFT回路のバックプレーンは、IGZO(Indium Gallium Zinc Oxide)および/またはLTPS(Low temperature polysilicon)のTFTで構成されてもよい。このように、制御回路(5a)のアレイ5は、フレキシブル層8の軸方向の上に配置されている。
【0098】
図3bに示すように、第2の層構造6の上に、フォトリソパターン可能な接着剤の形態のバルク層10を堆積させ、フォトリソグラフィを用いてバルク層内のキャビティ10bを形成する。
【0099】
その後、
図3cに示すように、バルク層10の上にフロントプレーンフレキシブル層9が軸方向に積層され、本明細書で上述したように、フロントプレーンフレキシブル層は、超音波変換素子における膜として機能する。
【0100】
図3dに示すように、圧電素子16は、フロントプレーンフレキシブル層9の上に軸方向に製造され、それによって、フレキシブル超音波トランスデューサ1のpMUTの形で個々の超音波変換素子3aを形成する。
【0101】
さらに、圧電素子16からの接続16dが、フロントプレーンフレキシブル層9およびバルク層10を通って第2の層構造6に作製され、これにより、TFTとpMUTとの間の接続が行われる。これは、
図3eに示される。
【0102】
最後のステップとして、バックプレーンフレキシブル層8を第1の剛性基板14から剥離し、これにより、
図3fに図示されているように、フレキシブル超音波トランスデューサ1を提供する。
【0103】
図4a~4fは、第1の層構造4および第2の層構造6が異なる剛性基板上で独立して処理される、フレキシブル超音波トランスデューサ1を製造するための方法100の他の実施形態を概略的に示す。
【0104】
TFT制御回路バックプレーンの形状の第2の層構造6は、
図4aのように、第1の剛性キャリア基板14上に一時的に接着されたバックプレーンフレキシブル層8上で処理される。さらに、pMUTの形状の超音波変換素子3aを含む第1の層構造4は、第2の層構造6とは独立して、超音波変換素子3aの膜として機能するフロントプレーンフレキシブル層9上で処理される。
図4bに見られるように、フロントプレーンフレキシブル層9は、第2の剛性キャリア基板15に一時的に接着されている。
【0105】
図4cに示されるように、第2の層構造6の上にキャビティ10bを有するバルク層10が形成され、その後、フロントプレーンフレキシブル層9が第2の剛性基板15から剥離され、キャビティ10bを有するバルク層10の上に軸方向に接着される。圧電素子からの接続16dは、フロントプレーンフレキシブル層およびバルク層を通って第2の層構造6に作製され、これにより、
図4eに図示されているように、TFTとpMUTとの間の接続が形成される。その後、バックプレーンフレキシブル層8を第1の剛性キャリア基板14から剥離し、これにより、フレキシブル超音波トランスデューサ1を形成する。
【0106】
図3および
図4に例示されている両方の例示的な方法について、本明細書で議論されているような音響バッキング層11が、フレキシブル超音波トランスデューサ1において追加されてもよい。一例は、
図5a~5fに示されている。この方法は、上述の
図4a~4fに関連して説明した方法と類似しているが、
図5aに図示されているように、このブラッグスタック12の上に第2の層構造6を処理する前に、ブラッグスタック12の形をした音響バッキング層11がバックプレーンフレキシブル層8の上に処理される。このブラッグスタックは、上述のように、高12aと低12bの音響インピーダンス材料を交互に配置した複数の層からなる。その後、このプロセスは、
図5b~5fに図示されているように、上述の
図4に関連して説明した例と同じルートで行われる。
【0107】
図7は、例えば患者の腕や脚のような湾曲した対象物17を検査する際のフレキシブル超音波トランスデューサ1を模式的に示す。少なくとも1つのフレキシブル層8が組み込まれているため、多層構造2全体が可撓性を有し、これにより、超音波トランスデューサ1が湾曲した対象物17に適合することができる。この例では、多層構造2全体が湾曲した対象物17に適合するのに対し、検査される湾曲した対象物17から軸方向に最も離れた個々の物体として配置された集積回路構造7の個々のASIC7aは、曲げる必要がない。
【実施例】
【0108】
基板-キャビティ-フレキシブル基板-pMUTスタックを作製し、剛性基板から剥離した後、曲面プラスチック基板に再度積層した。その結果、pMUT素子の測定されたピークたわみにわずかな変化が見られたものの、剥離と曲面プラスチック基板への貼り付けのステップを経ても、pMUT素子が動作することがわかった。その結果を以下の表1にまとめた。
【0109】
表1:剥離および再積層の前後におけるpMUT素子のピーク撓みの測定値
【0110】
以上のように、本発明の概念が、限られた数の例を参照して説明された。しかしながら、当業者には容易に理解されるように、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の概念の範囲内で、上述のように開示された例以外の他の例も同様に可能である。