(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-25
(45)【発行日】2025-04-02
(54)【発明の名称】掘削孔埋戻し方法、地中構造物処理方法、及び既設杭撤去方法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20250326BHJP
E02D 9/02 20060101ALI20250326BHJP
【FI】
E02D3/12 102
E02D9/02
(21)【出願番号】P 2022005613
(22)【出願日】2022-01-18
【審査請求日】2024-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】井原 啓知
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-112522(JP,A)
【文献】特開2002-038475(JP,A)
【文献】特開平08-120913(JP,A)
【文献】特開2004-218378(JP,A)
【文献】特開2006-263557(JP,A)
【文献】特開2000-336649(JP,A)
【文献】特開平11-343627(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0015619(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第113668585(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
E02D 9/02
E02D 27/00 - 27/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土留壁で囲まれた掘削孔を埋戻し材で埋め戻す掘削孔埋戻し方法であって、
前記掘削孔内に溜まった流動性をもつ前記埋戻し材の液面上に台船を浮かべた状態で、前記台船を作業足場として作業者が前記土留壁の少なくとも一部を除去する土留壁除去工程を備え
、
前記埋戻し材は流動化処理土である、掘削孔埋戻し方法。
【請求項2】
前記掘削孔内に前記埋戻し材を注入し、前記掘削孔内に残存する前記土留壁の下端部の近傍まで前記液面を上昇させる埋戻材注入工程を更に備え、
前記埋戻材注入工程と、前記土留壁の前記下端部を除去する前記土留壁除去工程と、が交互に繰り返される、請求項1に記載の掘削孔埋戻し方法。
【請求項3】
前記土留壁除去工程により除去された前記土留壁の材料部材が前記台船上に積載された状態で、前記台船を前記掘削孔から地上に引上げる台船引上げ工程を更に備える、請求項1又は2に記載の掘削孔埋戻し方法。
【請求項4】
地盤を掘削し土留壁を構築しながら前記地盤中の地中構造物の処理を行なう地中構造物処理工程と、
前記地中構造物処理工程で構築された前記土留壁で囲まれた掘削孔を、請求項1~
3の何れか1項に記載の掘削孔埋戻し方法により埋戻し材で埋め戻す掘削孔埋戻し工程と、を備える、地中構造物処理方法。
【請求項5】
地盤中に埋設された既設杭を撤去する既設杭撤去方法であって、
前記既設杭の周囲の地盤を掘り下げるとともに掘り下げられた掘削空間に前記既設杭を囲む土留壁を構築する地盤掘削工程と、前記地盤掘削工程で掘り下げられた前記掘削空間に突出する前記既設杭の上端部を解体撤去する解体撤去工程と、が繰り返されて前記既設杭が除去される既設杭除去工程と、
前記既設杭除去工程で構築された前記土留壁で囲まれた掘削孔を、請求項1~
3の何れか1項に記載の掘削孔埋戻し方法により埋戻し材で埋め戻す掘削孔埋戻し工程と、を備える、既設杭撤去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削孔埋戻し方法、地中構造物処理方法、及び既設杭撤去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の既設杭撤去方法では、既設杭の周囲において人力により深礎用ライナープレートにより山留めを行いながら掘削および杭壊しを杭頭から順次深さ方向に沿って行い、全ての既設杭を撤去した後、埋め戻ししながら深礎用ライナープレートを撤去するといった手順で杭の撤去が行われる旨が下記特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような既設杭撤去後の埋戻しでは、埋戻し材として砂等が用いられる場合もあるが、地盤沈下等が懸念される場合には流動化処理土等が埋戻し材として使用される必要がある。例えば、掘削孔の底部を流動化処理土で埋め戻し、埋め戻された部分を作業足場としながら掘削孔の土留壁を底部から解体し、流動化処理土を追加して更に高い位置の土留壁を解体する、といったことを繰り返す方法が考えられる。しかしながら、上記の作業足場が形成されるまでには流動化処理土を硬化させる必要があるので、上記繰返し作業の1サイクル毎に流動化処理土の硬化を待つ時間として約2~3日が必要であり、工期の短縮が難しい。この課題に鑑み、本発明は、工期の短縮を図ることができる掘削孔埋戻し方法、地中構造物処理方法、及び既設杭撤去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の掘削孔埋戻し方法は、土留壁で囲まれた掘削孔を埋戻し材で埋め戻す掘削孔埋戻し方法であって、掘削孔内に溜まった流動性をもつ埋戻し材の液面上に台船を浮かべた状態で、台船を作業足場として作業者が土留壁の少なくとも一部を除去する土留壁除去工程を備える。
【0006】
本発明の掘削孔埋戻し方法は、掘削孔内に埋戻し材を注入し、掘削孔内に残存する土留壁の下端部の近傍まで液面を上昇させる埋戻材注入工程を更に備え、埋戻材注入工程と、土留壁の下端部を除去する土留壁除去工程と、が交互に繰り返される、こととしてもよい。また、本発明の掘削孔埋戻し方法は、土留壁除去工程により除去された土留壁の材料部材が台船上に積載された状態で、台船を掘削孔から地上に引上げる台船引上げ工程を更に備える、こととしてもよい。埋戻し材は流動化処理土である、こととしてもよい。
【0007】
本発明の地中構造物処理方法は、地盤を掘削し土留壁を構築しながら地盤中の地中構造物の処理を行なう地中構造物処理工程と、地中構造物処理工程で構築された土留壁で囲まれた掘削孔を、上記の何れかの掘削孔埋戻し方法により埋戻し材で埋め戻す掘削孔埋戻し工程と、を備える。
【0008】
本発明の既設杭撤去方法は、地盤中に埋設された既設杭を撤去する既設杭撤去方法であって、既設杭の周囲の地盤を掘り下げるとともに掘り下げられた掘削空間に既設杭を囲む土留壁を構築する地盤掘削工程と、地盤掘削工程で掘り下げられた掘削空間に突出する既設杭の上端部を解体撤去する解体撤去工程と、が繰り返されて既設杭が除去される既設杭除去工程と、既設杭除去工程で構築された土留壁で囲まれた掘削孔を、上記の何れかの掘削孔埋戻し方法により埋戻し材で埋め戻す掘削孔埋戻し工程と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、工期の短縮を図ることができる掘削孔埋戻し方法、地中構造物処理方法、及び既設杭撤去方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)~(f)は、本実施形態に係る既設杭撤去方法の既設杭除去工程を順次示す断面図である。
【
図2】(a),(b)は、本実施形態に係る既設杭撤去方法の掘削孔埋戻し工程を順次示す断面図である。
【
図3】(a),(b)は、
図2に続いて掘削孔埋戻し工程を順次示す断面図である。
【
図4】(a),(b)は、
図3に更に続いて掘削孔埋戻し工程を順次示す断面図である。
【
図5】(a)は、掘削孔埋戻し工程における掘削孔の平面図であり、(b)は、その鉛直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る既設杭撤去方法(地中構造物処理方法)について詳細に説明する。この既設杭撤去方法は、
図1(a)に示されるように、地盤100に埋設された既設杭1(地中構造物)を撤去するものである。本実施形態の既設杭撤去方法は、種々のタイプの既設杭に適用することができ、上記既設杭1の例としては、例えば、コンクリート製の杭、鋼管杭、H鋼杭などが挙げられる。
【0012】
本実施形態の既設杭撤去方法は、既設杭1の周囲に掘削孔3を形成しながら既設杭1を解体していく既設杭除去工程(地中構造物処理工程)と、既設杭1の除去後に残った掘削孔3を埋め戻す掘削孔埋戻し工程と、を備えている。以下では、本実施形態の既設杭1が、直径約1.5m、長さ約10mのコンクリート製の杭である場合を例として説明するとともに、上記寸法の既設杭1に対応する掘削孔3等の各部位の寸法を例示するが、本発明はこれらの寸法に限定されるものではない。
【0013】
〔既設杭除去工程〕
図1を参照しながら上記既設杭除去工程について説明する。既設杭除去工程は、以下で説明する地盤掘削工程と、解体撤去工程と、を有し、これらの工程が交互に繰返し実行される。
【0014】
(地盤掘削工程)
地盤掘削工程では、既設杭1の周囲の地盤100を掘り下げるとともに掘り下げた部分に既設杭1を囲む土留壁5を構築する。具体的には、初回の地盤掘削工程では、
図1(b)に示されるように、既設杭1の周囲の地盤100が深さ約2m分掘削され掘り下げられて掘削孔3が形成される。掘削孔3は、既設杭1と同心の円形をなし、掘削孔3の直径は例えば約2.5mである。また、2回目以降の地盤掘削工程であれば、既に存在する上記掘削孔3が更に深さ約2m分掘り下げられる。
【0015】
上記のように掘り下げられた掘削孔3(掘削空間)の底部からは、残存する既設杭1の上端部が突出した状態となるので、作業者は、既設杭1の外周面と掘削孔3の内壁面との間の作業スペースに入る。そして、初回の地盤掘削工程では、作業者は、掘削孔3の内壁面に沿って土留壁5の材料部品を組立て、約2m分の高さの円筒状の土留壁5を構築する。また、2回目以降の地盤掘削工程であれば、作業者は、掘削孔3の内壁面に沿って上記土留壁5の更に下方に材料部品を接続し、土留壁5を約2m分下方に延長する。
【0016】
本実施形態の土留壁5は、波形の円筒壁を有するライナープレートで構成される。ここでは、円筒周方向に複数に分割されたライナープレート部品7(
図5参照)が上記作業スペースに持ち込まれ、掘削孔3の内壁面に沿ってライナープレート部品7が配置され互いに周方向に連結されることで、円筒状のライナープレートが土留壁5として構築される。ライナープレートの円筒軸方向の寸法は例えば50cmである。ここでは、市販の汎用のライナープレートが採用されてもよい。また、ライナープレートの内壁面には、掘削孔3内で作業者が昇降するためのタラップ9(
図5参照)が取付けられる。
【0017】
(解体撤去工程)
解体撤去工程では、上記地盤掘削工程で掘り下げられた掘削空間に突出する既設杭1の上端部を解体撤去する。前述の通り、地盤掘削工程で掘り下げられた掘削孔3(掘削空間)の底部からは、残存する既設杭1の上端部が突出しているので、作業者は、この既設杭1の外周面と掘削孔3の内壁面との間の作業スペースに入る。そして作業者は、
図1(c)に示されるように、突出した既設杭1の上端部を斫り取って除去する。
【0018】
(工程の繰返し)
上記解体撤去工程の後、再び前述の地盤掘削工程が実行され、
図1(d)に示されるように、掘削孔3が更に深さ約2m分掘り下げられるとともに、土留壁5が下方に約2m分延長される。そして、再び解体撤去工程が実行され、
図1(e)に示されるように、突出した既設杭1の上端部が斫り取られる。その後も同様にして、地盤掘削工程及び解体撤去工程が繰り返される。このように地盤掘削工程と解体撤去工程とが交互に繰返し実行されることで、既設杭1は上部から下方に向けて徐々に解体除去されていき、最終的には、
図1(f)に示されるように、既設杭1の全部が除去されて、既設杭除去工程が完了する。そして、既設杭除去工程の完了後には、土留壁5で囲まれた掘削孔3が地盤100中に残留する。
【0019】
〔掘削孔埋戻し工程〕
続いて、
図2~
図4を参照しながら上記掘削孔埋戻し工程について説明する。掘削孔埋戻し工程は、本発明の実施形態に係る掘削孔埋戻し方法によって実行される。前述の通り、既設杭除去工程の完了後には、
図1(f)に示されるように土留壁5で囲まれた掘削孔3が地盤100に残留するので、掘削孔埋戻し工程は、この掘削孔3を埋戻し材で埋め戻すものである。埋戻し材としては、砂等を使用することも考えられるが、ここでは、埋戻し後の地盤100の沈下等を適切に抑制するために、流動性をもつ硬化性の材料が埋戻し材として採用される。本実施形態では、埋戻し材として流動化処理土が採用される。流動化処理土は、現地で発生した土とセメント(または更に固化剤等)が混合されたものであり、当初は液状(流動体)であるが、セメントの水和反応によって硬化する。掘削孔埋戻し工程は、以下で説明する埋戻材注入工程と、台船吊下し工程、土留壁除去工程と、台船引上げ工程と、を有し、これらの工程が順に繰返し実行される。
【0020】
(前処理)
まず、掘削孔埋戻し工程の前処理として、
図1(f)に示される掘削孔3の底部に作業員が降りて土留壁5の最下部が約2m分程度解体除去される。更に、掘削孔3内に、埋戻し材を搬送するための搬送管11(
図2(a)、
図5参照)と、搬送管11の上端に接続されたホッパ13(
図2(a)参照)と、が設置される。搬送管11は、タラップ9の近傍で土留壁5の壁面に沿って地表近傍から掘削孔3底面近傍まで鉛直に延びている。ホッパ13は、地表面に設置され、アジテータ車15から投入される流動化処理土Sを受けるものである。
【0021】
(埋戻材注入工程)
埋戻材注入工程では、
図2(a)に示されるように、アジテータ車15からホッパ13に流動化処理土Sが投入される。流動化処理土Sは自重によりホッパ13から搬送管11を通じて掘削孔3の底部に搬送される。そして、初回の埋戻材注入工程であれば、流動化処理土Sは掘削孔3の底部に溜まり、掘削孔3内に残存する土留壁5の下端5aの近傍(例えば下端5aよりもやや低い位置)まで流動化処理土Sの液面が上昇した状態となる。2回目以降の埋戻材注入工程であれば、流動化処理土Sの液面が約1m上昇し、掘削孔3内に残存する土留壁5の下端5aの近傍(例えば下端5aよりもやや低い位置)まで流動化処理土Sの液面が上昇した状態となる。
【0022】
(台船吊下し工程)
台船吊下し工程では、
図2(b)に示されるように、鋼鉄製の台船17がクレーン21によって掘削孔3内に吊り降ろされる。台船17は掘削孔3に溜まった流動化処理土Sの液面上に浮かんだ状態となる。
図5(a)は、台船17が導入された掘削孔3の状態を示す平面図であり、
図5(b)は、その鉛直断面図である。台船17は、平面視において掘削孔3よりもやや小径の(例えば直径約2.2mの)円の一部が直線的に切り欠かれた形状をなしている。この切欠きは台船17とタラップ9及び搬送管11との干渉を回避するためのものである。台船17は有底の器状をなし流動化処理土S上で浮力を得る。台船17は、必要な人数の作業者や器具等を載せた状態で十分な浮力が得られるとともに、台船17底部の沈み込みが適切な深さになるように設計されている。具体的には、台船17は、例えば、必要な人数の作業者や器具等を載せて沈み込んだ状態で、土留壁5の下端5aが台船17の上端よりもやや高い位置に位置するように、設計されている。
【0023】
なお、台船17には、掘削孔3の直径に沿って延びる棒状の掛止部材19が設けられている。掛止部材19は、台船17の上端に固定されるとともに、掛止部材19の両端を掘削孔3の内壁面に内側から押し当てるようにして、台船17を掘削孔3に対して掛止することができる。この掛止部材19により流動化処理土S上での台船17の揺動を抑えることができ、台船17上における作業者の作業が容易になる。掛止部材19は、上記のような台船17の固定と固定解除との切替え操作を容易にするために、長手方向へ伸縮する機能を有していてもよい。台船17及び作業者等の重量は流動化処理土Sからの浮力によって支持されるので、掛止部材19による掛止力は台船17の揺動を抑えられる程度で十分である。
【0024】
(土留壁除去工程)
土留壁除去工程では、上記のように流動化処理土S上に浮かべられた台船17まで、地上から作業者がタラップ9を用いて移動する。そして、
図3(a)に示されるように、台船17に載った作業者Pは、上記掛止部材19(
図5)で台船17を掘削孔3の内壁面に掛止する。そして作業者Pは、この台船17を作業足場として作業を行ない、残存する土留壁5の下端部5bを解体除去する。ここでは、例えば、ライナープレート2段分に相当する上下幅約1m分の下端部5bが解体除去される。前述のように台船17底部の沈み込みが適切な深さになるように設計されていることで、解体除去に係る土留壁5の下端部5bが作業者Pにとって作業し易い高さに位置するので、作業性がよい。この解体除去で発生したライナープレート部品7(
図5)等の資材は、台船17上に載置すればよい。その後、作業者Pは掛止部材19による台船17の掛止を解除しタラップ9を用いて地上に戻る。
【0025】
(台船引上げ工程)
台船引上げ工程では、
図3(b)に示されるように、流動化処理土S上の台船17がクレーン21によって掘削孔3から地上に吊り上げられる。このとき、台船17上に載置されていたライナープレート部品7等の資材は、台船17上に積載された状態で一緒に引上げられ、地上で回収される。この方法によれば、土留壁5の解体除去で発生する上記資材を掘削孔3内から搬出するための作業を軽減することができる。
【0026】
(工程の繰返し)
台船引上げ工程で台船17が地上に引上げられた後、
図4(a)に示されるように、再び前述の埋戻材注入工程が実行されて流動化処理土Sの液面が約1m上昇し、掘削孔3内に残存する土留壁5の下端5aよりもやや下方の位置まで液面が達する。その後、
図4(b)に示されるように、台船吊下し工程及び土留壁除去工程が実行されて残存する土留壁5の下端部5bが上下幅約1m分だけ解体除去される。その後、台船引上げ工程により台船17が地上に引上げられライナープレート部品7等の資材が回収される。このように埋戻材注入工程と、土留壁除去工程と、台船引上げ工程と、台船吊下し工程と、が順に繰返し実行される。
【0027】
上記のような工程の繰返しにより、土留壁5は底部から地上側に向けて徐々に解体されていき、掘削孔3は底部から地上側に向けて徐々に埋め戻されていく。そして最終的には、土留壁5がすべて除去され掘削孔3はすべて流動化処理土Sで埋め戻された状態となり、掘削孔埋戻し工程が完了する。その後、掘削孔3内の流動化処理土Sが硬化することで、地盤100が復元される。
【0028】
続いて、上述の既設杭撤去方法及び掘削孔埋戻し方法による作用効果について説明する。この既設杭撤去方法によれば、既設杭1が撤去された後の掘削孔3を埋め戻す際に、埋戻し材として流動化処理土Sが用いられるので、埋戻し後の地盤沈下等が抑制される。また、埋戻し材として掘削孔3に導入される流動化処理土Sに台船17を浮かべることで、この流動化処理土Sが硬化しなくても、流動化処理土S上の台船17を作業足場として土留壁5の解体除去の作業を進行することができる。一般的な流動化処理土Sは強度発現まで約2~3日必要であるところ、上述の既設杭撤去方法及び掘削孔埋戻し方法によれば、作業足場の形成のために流動化処理土Sの硬化を待つといったことは不要であるので、硬化した流動化処理土Sを作業足場とする場合に比べて、工期を短縮することができる。また、埋戻材注入工程と土留壁除去工程とが繰り返されることで作業足場が段階的に上方に移動し、下端から上方に向かって徐々に土留壁5を解体除去することができる。この場合、作業足場を上方に移動させる毎に流動化処理土Sの硬化を待つといったことが不要であるので、工期をより顕著に短縮することができる。
【0029】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して、下記の実施例の変形例を構成することも可能である。各実施形態等の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0030】
例えば、上述した実施形態では、流動化処理土Sを埋戻し材としているが、これには限定されず、埋戻し材は、流動性を有するとともに最終的に硬化可能なものであればよい。このような埋戻し材の例としては、流動化処理土の他に、コンクリート、モルタル等が挙げられる。また、掘削孔埋戻し工程においては、台船吊下し工程(但し初回を除く)と、台船引上げ工程と、を省略してもよい。すなわち、台船17が流動化処理土S上に浮かんだままの状態で埋戻材注入工程を実行し流動化処理土Sの液面を上昇させてもよい。またこの場合、土留壁除去工程で発生したライナープレート部品7等の資材は、例えばクレーン21を用いるなど、他の手段で地上に引上げればよい。
【0031】
また、上述した実施形態では掘削孔3を囲む土留壁が円形のライナープレートであるが、ライナープレートの代わりに土留壁が親杭横矢板であっても同様に実行することができる。すなわち、親杭横矢板を土留壁として前述の既設杭除去工程が実行されてもよい。そして掘削孔埋戻し工程では、親杭横矢板で囲まれた例えば矩形の掘削孔内で、流動化処理土Sの液面上に台船を浮かべ、当該台船を作業足場として親杭横矢板の下端部の横矢板を解体除去するようにしてもよい。なお、この場合、最後に残される親杭(H鋼)は、流動化処理土Sの硬化前に地上からの作業により抜去される。このように、本発明の掘削孔埋戻し方法は、親杭横矢板で構成される土留壁で囲まれた掘削孔の埋戻しにも適用することができる。
【0032】
また、上述した実施形態においては、埋戻しの対象である掘削孔3は、既設杭1の撤去により構築されたものであったが、これには限定されず、掘削孔が他の地中構造物処理により構築されたものであっても、本発明を適用することが可能である。このような掘削孔を生じさせる地中構造物処理の例としては、例えば、実施形態で示した既設杭1の撤去の他にも、古井戸の撤去、人孔の撤去等が挙げられる。
【符号の説明】
【0033】
1…既設杭(地中構造物)、3…掘削孔、5…土留壁、5b…下端部、7…ライナープレート部品(材料部材)、17…台船、P…作業者、S…流動化処理土(埋戻し材)。