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特許7655938セルロースアセテート及びセルロースアセテート組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-25
(45)【発行日】2025-04-02
(54)【発明の名称】セルロースアセテート及びセルロースアセテート組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/12 20060101AFI20250326BHJP
   C08B 3/06 20060101ALI20250326BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20250326BHJP
   C08K 3/20 20060101ALI20250326BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20250326BHJP
【FI】
C08L1/12
C08B3/06
C08K3/22
C08K3/20
C08K5/10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022556298
(86)(22)【出願日】2020-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2020039573
(87)【国際公開番号】W WO2022085119
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-08-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松村 裕之
(72)【発明者】
【氏名】谷口 寛樹
(72)【発明者】
【氏名】樋口 暁浩
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 知弘
(72)【発明者】
【氏名】楠本 匡章
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-515682(JP,A)
【文献】特開2002-030182(JP,A)
【文献】国際公開第20/035964(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102585297(CN,A)
【文献】特表2018-500416(JP,A)
【文献】特開2018-024803(JP,A)
【文献】国際公開第19/198307(WO,A1)
【文献】池田功夫,非水系有機溶剤中におけるセルロースの均一系誘導体化反応,繊維と工業,2004年,Vol.60, No.12,pp.570-573
【文献】XU, D. et al.,Regioselective Synthesis of Cellulose Ester Homopolymers,BioMACROMOLECULES,2012年,Vol.13,pp.2195-2201
【文献】HASKE-CORNELIUS,O. et al.,Enzymatic systems for cellulose acetate degradation,Catalysts,2017年,Vol.7, No.10, 287,pp.1-15
【文献】QUINTANA,R. et al.,Compatibilization of co-plasticized cellulose acetate/water soluble polymers blends by reactive extr,Polymer Degradation and Stability,2016年,Vol.126,pp.31-38
【文献】上高原浩,セルロース誘導体の置換位置制御と機能,木材学会誌,2014年,Vol.60, No.3,pp.144-168
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 3/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチル総置換度が1.75以上2.55以下であり、かつ、2位のアセチル置換度又は3位のアセチル置換度の少なくとも一方が0.7以下であるセルロースアセテートと、添加剤と、を含有し、
前記添加剤が、(a)1重量%水溶液の20℃におけるpHが8以上の物質、及び(b)20℃の水に2重量%以上溶解する物質からなる群から選択され、
前記1重量%水溶液の20℃におけるpHが8以上の物質(a)が、
(a1)Na、K、Ca又はMgのいずれかの金属元素と結合する酸素原子を含む無機化合物
及び
(a2)Na、K、Ca2+又はMg2+から選択される1種以上の金属イオンと、炭酸イオン、炭酸水素イオン、ケイ酸イオン又はアルミン酸イオンから選択される1種以上の陰イオンとを含んでなる金属塩
からなる群から選択され、
前記Na、K、Ca又はMgのいずれかの金属元素と結合する酸素原子を含む無機化合物(a1)が、Na、K、Ca又はMgのいずれかの金属元素の酸化物、水酸化物及び複合酸化物からなる群から選択され、
前記20℃の水に2重量%以上溶解する物質(b)が、
(b1)グリセリンエステル
(b2)クエン酸エステル
及び
(b3)数平均重合度が20以下であるポリエチレングリコール
からなる群から選択される、セルロースアセテート組成物。
【請求項2】
前記セルロースアセテートの含有量が、50重量%以上である、請求項1に記載のセルロースアセテート組成物。
【請求項3】
前記添加剤の総含有量が、3重量%以上40重量%以下である、請求項1又は2に記載のセルロースアセテート組成物。
【請求項4】
前記添加剤が、酸化マグネシウム及びトリアセチンの組み合わせからなる、請求項1からのいずれかに記載のセルロースアセテート組成物。
【請求項5】
前記セルロースアセテートの、2位のアセチル置換度及び3位のアセチル置換度が0.7以下である、請求項1からのいずれかに記載のセルロースアセテート組成物。
【請求項6】
前記セルロースアセテートのアセチル総置換度が2.00以上である、請求項1からのいずれかに記載のセルロースアセテート組成物。
【請求項7】
前記セルロースアセテートのアセチル総置換度が2.20以下である、請求項1からのいずれかに記載のセルロースアセテート組成物。
【請求項8】
前記添加剤が、酸化マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム及びトリアセチンからなる群から選択される、請求項1からのいずれかに記載のセルロースアセテート組成物。
【請求項9】
前記添加剤が、酸化マグネシウム及びメタケイ酸アルミン酸マグネシウムから選択される少なくとも1つと、トリアセチンと、を含む、請求項1からのいずれかに記載のセルロースアセテート組成物。
【請求項10】
前記セルロースアセテート及び前記添加剤の合計含有量が85重量%以上100重量%以下である、請求項1からのいずれかに記載のセルロースアセテート組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セルロースアセテート及びセルロースアセテートを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境への関心の高まりから、生分解可能な成形品が要望されている。代表的な生分解性樹脂として、セルロースアセテートが挙げられる。
【0003】
例えば、電子たばこを含むシガレットで用いられるシガレットフィルターの材料や、衛生用品の吸収体の材料等として、置換度が2.5程度であるセルロースアセテートが用いられる。置換度が2.5程度であるセルロースアセテートは、土壌中又は活性汚泥中で分解することが知られている。しかし、その生分解性は、セルロース又は置換度1.8のセルロースアセテートには及ばない。
【0004】
生分解性向上の観点から、セルロースアセテートの置換度は、低い方が好ましいが、熱成形等による加工の容易性から、ある程度のアセチル置換度を必要とする。生分解性及び成形性を改善する目的で、種々の検討がなされている。
【0005】
特許文献1には、セルロースエステルのようなポリマーに、1%水溶液(20℃)のpHが13以下及び7以上である塩基性添加物を添加して、その生分解性を向上する技術が開示されている。
【0006】
特許文献2には、2位、3位及び6位のアシル置換度の合計が2.67以上であり、かつ2位及び3位のアシル置換度の合計が1.97以上であるセルロースアシレートにおいて、-0.1≦(3位のアシル置換度-2位のアシル置換度)≦0.3とすることにより、ソルベントキャスト法に用いるセルロースアシレート溶液の粘度を低下させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2018-500416号公報
【文献】特開2002-265501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した通り、セルロースアセテートは、土壌中又は活性汚泥中で分解されることが知られている。しかし、活性汚泥よりも菌数が少ない水系、例えば海水中では、満足すべき分解速度が得られないという問題があった。
【0009】
本開示の目的は、海洋生分解性に優れたセルロースアセテート及び組成物の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、グルコース環の2、3及び6位の炭素原子に、アセチル基を不均一に導入することにより、アセチル総置換度が比較的高いセルロースアセテートにおいても、海洋中の生分解性が顕著に向上することを見出し、本開示を完成した。
【0011】
即ち、本開示に係るセルロースアセテートは、アセチル総置換度が1.75以上2.55以下であり、かつ、2位のアセチル置換度又は3位のアセチル置換度の少なくとも一方が0.7以下である。
【0012】
好ましくは、このセルロースアセテートは、2位のアセチル置換度及び3位のアセチル置換度が0.7以下である。
【0013】
好ましくは、このセルロースアセテートのアセチル総置換度は、2.00以上である。好ましくは、このセルロースアセテートのアセチル総置換度は、2.20以下である。
【0014】
本開示に係るセルロースアセテートは、前述したいずれかのセルロースアセテートと、添加剤と、を含有する。この添加剤は、(a)1重量%水溶液の20℃におけるpHが8以上の物質、(b)20℃の水に2重量%以上溶解する物質、及び、(c)海水中で生分解性を示す物質からなる群から選択される。
【0015】
好ましくは、組成物全体におけるセルロースアセテートの含有量は、50重量%以上である。好ましくは、組成物全体における添加剤の総含有量は、3重量%以上40重量%以下である。
【0016】
好ましくは、1重量%水溶液の20℃におけるpHが8以上の物質(a)は、下記(a1)-(a3)からなる群から選択される。
(a1)Na、K、Ca又はMgのいずれかの金属元素と結合する酸素原子を含む無機化合物
(a2)Na、K、Ca2+又はMg2+から選択される1種以上の金属イオンと、炭酸イオン、炭酸水素イオン、ケイ酸イオン又はアルミン酸イオンから選択される1種以上の陰イオンとを含んでなる金属塩
及び
(a3)マグネシウムを含む無機化合物
【0017】
好ましくは、マグネシウムを含む無機化合物(a3)の主成分は酸化マグネシウムである。
【0018】
好ましくは、20℃の水に2重量%以上溶解する物質(b)は、下記(b1)-(b3)からなる群から選択される。
(b1)グリセリンエステル
(b2)クエン酸エステル
及び
(b3)数平均重合度が20以下であるポリエチレングリコール
【0019】
好ましくは、海水中で生分解性を示す物質(c)は重量平均分子量5万以下のポリエステルである。
【0020】
好ましくは、セルロースアセテート組成物は、酸化マグネシウム及びトリアセチンの組み合わせからなる添加剤を含む。
【発明の効果】
【0021】
本開示に係るセルロースアセテート及びセルロースアセテート組成物は、生分解性、特に、海水中での生分解性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、好ましい実施形態に基づいて本開示が詳細に説明される。本開示の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下に例示する以外にも、本開示の趣旨を損なわない範囲内で適宜変更して、実施することが可能である。また、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。複数の実施形態についてそれぞれ開示された技術的手段を、適宜組み合わせて得られる他の実施形態についても、本開示の技術的範囲に含まれる。
【0023】
なお、本願明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特に注釈のない限り、「ppm」は「重量ppm」を意味する。
【0024】
[セルロースアセテート]
本開示のセルロースアセテートは、アセチル総置換度(DS)が1.75以上2.55以下であり、かつ2位のアセチル置換度(DS2)又は3位のアセチル置換度(DS3)の少なくとも一方が0.7以下である。このセルロースアセテートは、生分解性、特に海水中での生分解性に優れている。
【0025】
以下に、セルロースアセテートの生分解のメカニズムを説明する。セルロースアセテートの生分解は、セルロースアセテートの各アセチル基が加水分解されて置換度が低下した後、セルロースを分解する酵素(例えばβ-グルコシダーゼ(β-glucosidase; EC 3.2.1.21)等の作用により進行すると考えられている。β-グルコシダーゼは、糖のβ-グリコシド結合を加水分解する反応を触媒する酵素である。β-グルコシダーゼは、β‐D‐グルコシドグルコヒドロラーゼ、アミグダーゼとも呼ばれる。セルロースアセテートの高分子鎖を構成するβ-グリコシド結合が加水分解されると、単糖や低分子の多糖となる。単糖や低分子の多糖は、通常の微生物の代謝により分解される。従って、セルロースアセテートの生分解を促進するためには、アセチル基の脱離を促進することが有効である。
【0026】
従来はこの考え方から、アセチル基の置換度が低いセルロースアセテートほど生分解性が優れると考えられていた。この考えは間違いではない。しかし、置換度が低いと溶融粘度が高くなり、また熱分解し易くなる。その結果として、置換度の低いセルロースアセテートの熱成形は、困難であった。
【0027】
ところで、木材を構成するヘミセルロ-スには一部にアセチル基がふくまれている。このアセチル基は広葉樹ではキシランに結合しておりアセチルキシランとなっていることが知られている。このアセチルキシランも生分解性がある。アセチルキシランなどを分解するために、アセチルキシランエステラーゼ(Acetylxylan esterase、EC 3.1.1.72)が存在することが知られている。アセチルキシランエステラーゼは、キシラン及びキシロオリゴ糖の脱アセチル化を触媒する酵素である。この酵素は加水分解酵素に分類され、特にエステル結合に作用する。
【0028】
海洋には、陸上と対比して数パーセントの細菌しか存在していないことが知られている。アセチルキシランエステラーゼは海洋細菌が有している酵素でもある。例えば、海洋細菌Ochrovirga pacificaはアセチルキシランエステラーゼを産出する。このアセチルキシランエステラーゼは、45℃の温度下で120分間活性を維持することが知られている(Microbial cell factories 2019Jul08 Vol. 18 issue(1))。
【0029】
本発明者らはこのアセチルキシランエステラーゼを、セルロースアセテートの生分解への利用を検討した。その検討において、アセチルキシランエステラーゼがエステル分解酵素であり、特に、2、3位の置換基が低いセルロースアセテートが、アセチルキシランエステラーゼにより分解されやすいことを見出した。さらには、総置換度が同じセルロースアセテートであれば、2、3位の置換基の置換度がより低い方が、生分解性、特に海洋中での生分解性に有利であることを見出し、本開示に想到した。
【0030】
他の観点から、海洋は、弱塩基性であり、この塩基性によってセルロースアセテートの脱アセチルが進行することが知られている。本発明者らは、検討の結果、グルコース環の2、3及び6位の炭素原子に、アセチル基が不均一に導入されたセルロースアセテートにおいて、塩基性条件下における脱アセチル化(加水分解)が促進されることを見出した。さらに、2、3位の置換基が加水分解されたグルコース環が連続する場合に、β-グルコシダーゼが作用し易くなることを見出し本開示に想到した。
【0031】
本開示のセルロースアセテートは、1.75以上2.55以下のアセチル総置換度において、2位のアセチル置換度又は3位のアセチル置換度の少なくとも一方が0.7以下である。このセルロースアセテートでは、2位、3位及び6位における置換度は、均一ではない。2位又は3位の少なくとも一方の置換度が低い本開示のセルロースアセテートによれば、塩基性条件下における脱アセチル化が促進される。この促進効果により、セルロースアセテートの総置換度が低下し、海水中での大きな生分解速度が達成されたものと考えられる。
【0032】
2位及び3位のアセチル置換度は、いずれか一方が0.7以下であればよく、特に限定されない。例えば、2位のアセチル置換度が0.7以下の場合、3位のアセチル置換度は1.0以下であってよく、0.9以下であってよく、0.8以下であってよい。同様に、3位のアセチル置換度が0.7以下の場合、2位のアセチル置換度は1.0以下であってよく、0.9以下であってよく、0.8以下であってよい。製造が容易であるとの観点から、2位又は3位のアセチル置換度は0.1以下が好ましい。
【0033】
海水中での生分解性が向上することから、2位のアセチル置換度又は3位のアセチル置換度の少なくとも一方が0.6以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましい。2位のアセチル置換度及び3位のアセチル置換度が、ともに0.7以下であることが好ましく、0.6以下であることがより好ましく、0.5以下であることが特に好ましい。
【0034】
6位のアセチル置換度には特に制限はなく、後述するアセチル総置換度の範囲を満たすように調整される。
【0035】
セルロースアセテートのグルコース環の2位、3位及び6位の各アセチル置換度は、手塚(Tezuka, Carbonydr. Res. 273, 83(1995))の方法に従いNMR法で測定できる。即ち、セルロースアセテート試料の遊離水酸基をピリジン中で無水プロピオン酸によりプロピオニル化する。得られた試料を重クロロホルムに溶解し、13C-NMRスペクトルを測定する。アセチル基の炭素シグナルは169ppmから171ppmの領域に高磁場から2位、3位、6位の順序で、そして、プロピオニル基のカルボニル炭素のシグナルは、172ppmから174ppmの領域に同じ順序で現れる。それぞれ対応する位置でのアセチル基とプロピオニル基の存在比(言い換えれば、各シグナルの面積比)から、元のセルロースアセテートにおけるグルコース環の2位、3位及び6位の各アセチル置換度を求めることができる。アセチル置換度は、13C-NMRのほか、H-NMRで分析することもできる。
【0036】
生分解性向上の観点から、セルロースアセテートのアセチル総置換度は、2.40以下が好ましく、2.20以下がより好ましい。成形しやすいとの観点から、セルロースアセテートのアセチル総置換度は、1.85以上が好ましく、2.00以上がより好ましい。セルロースアセテートのアセチル総置換度は、1.75~2.40であってよく、1.75~2.20であってよく、1.85~2.55であってよく、1.85~2.40であってよく、1.85~2.20であってよく、2.00~2.55であってよく、2.00~2.40であってよく、2.00~2.20であってよい。
【0037】
本開示におけるアセチル総置換度は、前述の測定方法で求められるセルロースアセテートのグルコース環の2位、3位及び6位の各アセチル置換度の和である。
【0038】
[セルロースアセテートの粘度平均重合度(DPv)]
本開示のセルロースアセテートの粘度平均重合度(DPv)は特に限定されないが、分解性向上の観点から400以下が好ましく、300以下がより好ましく、200以下がさらに好ましい。成形容易との観点から、粘度平均重合度は10以上が好ましく、15以上がより好ましく、20以上が特に好ましい。粘度平均重合度(DPv)は、10~400であってよく、10~300であってよく、10~200であってよく、15~40であってよく、15~300であってよく、15~200であってよく、20~400であってよく、20~300であってよく、20~200であってよい。
【0039】
粘度平均重合度(DPv)は、セルロースアセテートの極限粘度数([η]、単位:cm/g)に基づいて求められる。
【0040】
極限粘度数([η]、単位:cm/g)は、JIS-K-7367-1及びISO1628-1に準じて求められる。具体的には、ジメチルスルホキシド(DMSO)を溶媒とする試料溶液を準備し、サイズ番号1Cのウベローデ型粘度計を用いて測定した25℃の対数相対粘度を、試料溶液の濃度で除すことにより求められる。
【0041】
得られた極限粘度数[η]を用いて、Kamideらの文献(Polymer Journal、13、421-431(1981))に従って、次式により、粘度平均分子量を算出した。
粘度平均分子量=(極限粘度数[η]/0.171)(1/0.61)
【0042】
算出した粘度平均分子量を用いて、次式により粘度平均重合度(DPv)を求めた。
粘度平均重合度(DPv)=粘度平均分子量/(162.14+42.037×DS)
なお、式中、DSは、前述したアセチル総置換度である。
【0043】
[セルロースアセテートの硫酸量]
海水中での生分解性が向上するとの観点から、本開示のセルロースアセテートの硫酸量は、10ppm以上が好ましく、20ppm以上がより好ましい。製造しやすいとの観点から、硫酸量は、100ppm以下が好ましく、80ppm以下がより好ましく、50ppm以下が特に好ましい。硫酸量は、36ppmを中央値として、10ppm以上100ppm以下が好ましく、20ppm以上80ppm以下がより好ましく、20ppm以上50ppm以下が特に好ましい。セルロースアセテート中の硫酸量は、10~80ppmであってよく、10~50ppmであってよく、20~100ppmであってよい。
【0044】
セルロースアセテートの硫酸量は、以下の方法にて測定される。はじめに、乾燥させたセルロースアセテートを秤量した後、1300℃の電気炉で焼き、生成した亜硫酸ガスを10%過酸化水素水にトラップする。このトラップ液を規定水酸化ナトリウム水溶液で滴定する。得られた滴定値から、絶乾セルロースアセテート当たりのHSO換算の量として求め、ppm単位(重量基準)でセルロースアセテート中の硫酸量を表示する。
【0045】
[セルロースアセテートの製造方法]
得られるセルロースアセテートのアセチル総置換度が1.75以上2.55以下であり、かつ、2位のアセチル置換度又は3位のアセチル置換度の少なくとも一方が0.7以下である限り、その製造方法は特に限定されない。通常の製造方法で製造された適当な置換度のセルロースアセテートを出発原料として、加水分解することにより製造してもよい。
【0046】
例えば、本開示のセルロースアセテートは、セルロースアセテートを、ジメチルスルホキシド(DMSO)/水/α-アミン(例えばジメチレンアミンやヘキサメチレンアミン)に溶解して加水分解することにより得られる。使用するα-アミンの種類により、2、3位における加水分解の程度が異なる。例えば、ヘキサメチレンジアミン(NH(CHNH)であれば、3位のアセチル基が優先して加水分解される。また、ジメチレンアミン(HN(CH3)であれば2位のアセチル基が優先して加水分解される。
また、0.1N程度の水酸化ナトリウム/アセトン/水溶液を添加して、40℃~80℃に加熱することにより、2、3位が優先して加水分解される。加水分解の温度は高い方が好ましく、80℃以上であってよく、100℃以下が好ましい。
【0047】
また、2位の炭素又は3位の炭素の少なくとも一方に既知の保護基を結合させた状態でアセチル化し、その後脱保護するという既知の手法により、本開示のセルロースアセテートが得られてもよい。代表的には、木材学会誌,vol60,p144-168(2014年)、Biomacromolecules,13,2195-2201(2012年)、Carbohydrate Polymer,170,23(2017年)等に開示された技術が参照される。
【0048】
[セルロースアセテート組成物]
本開示に係るセルロースアセテート組成物は、前述したセルロースアセテートと、添加剤とを含む。この添加剤は、下記(a)-(c)からなる群から選択される。
(a)1重量%水溶液の20℃におけるpHが8以上の物質
(b)20℃の水に2重量%以上溶解する物質
及び
(c)海水中で生分解性を示す物質
【0049】
1重量%水溶液の20℃におけるpHが8以上の物質(a)は、弱塩基性の海水中においてセルロースアセテートの加水分解(脱アセチル化)を促進する。これにより、セルロースアセテート組成物の生分解性向上に寄与すると考えられる。
【0050】
また、20℃の水に2重量%以上溶解する物質(b)は、セルロースアセテート組成物が海水中に投入された場合に溶解して、セルロースアセテート組成物から溶出する。海水中で生分解性を示す物質(c)は、セルロースアセテート組成物が海水中に投入された時点から生分解することにより、セルロースアセテート組成物から徐々に溶出する。これらの溶出により、セルロースアセテート組成物が構成した成形品の中に構造上の空隙が形成され、成形品の実質的な表面積が増大する。表面積の増大により、海水中でのセルロースアセテートの加水分解(脱アセチル化)が促進され、また、空隙部から微生物が侵入しやすくなることから、セルロースアセテート組成物の生分解性が向上すると考えられる。
【0051】
セルロースアセテート組成物における添加剤の作用は、製品として使用している際には発現せず、海水と接した後に速やかに発現されることが好ましい。よって、添加剤が固体であれば、粒子状としてセルロースアセテート組成物中に分散されていることが好ましく、その粒子径はできる限り小さいことが好ましく、その比表面積が大きいものが好ましい。
【0052】
[セルロースアセテートの含有量]
海水中で高い生分解性が発揮されるとの観点から、セルロースアセテート組成物における、本開示のセルロースアセテートの含有量は、組成物全体に対して、50重量%以上が好ましく、55重量%以上がより好ましい。添加剤による分解促進効果が有効に発揮されるとの観点から、セルロースアセテートの含有量は、90重量%以下が好ましく、85重量%以下がより好ましい。本開示の組成物におけるセルロースアセテートの含有量は、50~90重量%であってよく、50~85重量%であってよく、55~90重量%であってよく、55~85重量%であってよい。物性の異なる2種以上のセルロースアセテートを併用する場合、その合計量が前述の数値範囲に調整される。
【0053】
[添加剤の添加量]
生分解性の向上に寄与しうるとの観点から、本開示に係るセルロースアセテート組成物における添加剤の総添加量は、組成物全体に対して、3重量%以上が好ましく、5重量%以上がより好ましい。成形容易との観点から、添加剤の総添加量は、40重量%以下が好ましく、35重量%以下がより好ましい。本開示の組成物における添加剤の総添加量は、3~40重量%であってよく、3~35重量%であってよく、5~40重量%であってよく、5~35重量%であってよい。複数の添加剤を併用する場合、その合計量が前述の数値範囲に調整される。
【0054】
[セルロースアセテート及び添加剤の含有量]
優れた生分解性が得られるとの観点から、本開示に係るセルロースアセテート組成物中における、セルロースアセテート及び添加剤の合計含有量は、85重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、95重量%以上が特に好ましい。この合計含有量の上限値は特に限定されず、100重量%であってもよい。
【0055】
[1重量%水溶液の20℃におけるpHが8以上の物質(a)]
1重量%水溶液の20℃におけるpHが8以上の物質は、塩基性添加物とも称される。この塩基性添加物としては、1重量%水溶液の20℃におけるpHが8.5以上であることが好ましく、8.5~11であることがより好ましい。1重量%水溶液のpHは、既知の手順に従って、例えばガラスpH電極で測定される。
【0056】
なお、本開示において「水溶液」は、溶質がすべて水に溶解している状態のみを意味するものではなく、縣濁液(suspension)を含む概念である。この「懸濁液」は、固体粒子が液体中に分散した分散系であるスラリー(slurry)及びコロイド溶液(colloidal solution)を含む。さらに、本開示において「1重量%水溶液」は、塩基性添加物を1重量%の濃度となるように、水に添加した際に、塩基性添加物の一部が溶解して水溶液となり、残り塩基性添加物の部分が、縣濁液となっているものも含む。
【0057】
好ましくは、1重量%水溶液の20℃におけるpHが8以上の物質(a)は、下記(a1)-(a3)からなる群から選択される。
(a1)Na、K、Ca又はMgのいずれかの金属元素と結合する酸素原子を含む無機化合物
(a2)Na、K、Ca2+又はMg2+から選択される1種以上の金属イオンと、炭酸イオン、炭酸水素イオン、ケイ酸イオン又はアルミン酸イオンから選択される1種以上の陰イオンとを含んでなる金属塩
及び
(a3)マグネシウムを含む無機化合物
【0058】
特に、無機化合物(a1)及び金属塩(a2)から選択された添加剤を含むセルロースアセテート組成物では、その海水生分解性が顕著に向上する。これは、無機化合物(a1)及び金属塩(a2)が、海水中で塩基性を示すことにより、セルロースアセテートの加水分解を顕著に促進するためと考えられる。この観点から、(a1)及び(a2)から選択される少なくとも1種を添加剤として含む組成物が好ましい。本開示のセルロースアセテート組成物が、他の塩基性物質として、塩基性のポリマー及びオリゴマー;塩基性のアミノ酸及びタンパク質;並びに塩基性の糖類を含んでもよい。
【0059】
Na、K、Ca又はMgのいずれかの金属元素と結合する酸素原子を含む無機化合物(a1)としては、Na、K、Ca又はMgのいずれかの金属元素の酸化物、水酸化物及び複合酸化物が例示される。生分解性向上及び取扱性容易との観点から、好ましい無機化合物(a1)は、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、タルク、ハイドロタルサイト、ベントナイト、酸化カルシウム、水酸化カルシウムである。
【0060】
Na、K、Ca2+又はMg2+から選択される1種以上の金属イオンと、炭酸イオン、炭酸水素イオン、ケイ酸イオン又はアルミン酸イオンから選択される1種以上の陰イオンとを含んでなる金属塩(a2)としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0061】
アルミン酸ナトリウムには、複酸化物である二酸化ナトリウムアルミニウム:NaAlO、及びヒドロキシ錯体であるテトラヒドロキシドアルミン酸ナトリウム:Na[Al(OH)]等が含まれる。メタケイ酸アルミン酸マグネシウムは、一般式Al・MgO・2SiO・xHO(但し、xは結晶水の数を示し、1≦x≦10である)で示される物質である。メタケイ酸アルミン酸マグネシウムとしては、例えば、日本薬局方外医薬品規格のメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを好適に用いることができる。また、ケイ酸(silicic acid)とは、一般式[SiO(OH)4-2xで示されるケイ素、酸素、及び水素の化合物の総称である。
【0062】
高い生分解性及び良好な成形性が得られるとの観点から、好ましい金属塩(a2)は、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムである。
【0063】
マグネシウムを含む無機化合物(a3)としては、酸化マグネシウムが例示される。マグネシウムを含む無機化合物(a3)の主成分が、酸化マグネシウムであることが好ましい。
【0064】
酸化マグネシウム(magnesium oxide)は、化学式MgOで示されるマグネシウムの酸化物であり、マグネシア乳とも称される。酸化マグネシウムは、Al、Si、P,Mn、Fe、Ni、Cu、Znの各元素を微量含んでいてもよい。ここでいう微量とは、1000ppm未満、好ましくは100ppm未満であることを意味する。
【0065】
本開示において、酸化マグネシウムの製造方法としては特に限定されない。ドロマイト(CaCO・MgCO)中の天然炭酸マグネシウム鉱石(MgCO)を焼成・粉砕して製造する方法であってもよく、海水中のマグネシウムイオンを水酸化物(Mg(OH))として沈殿させ、これを高温下で脱水して製造する方法であってもよい。
【0066】
[20℃の水に2重量%以上溶解する物質(b)]
20℃の水に2重量%以上溶解する物質(b)としては、水溶性である限り高分子物質であっても、低分子物質であってもよい。好ましくは、20℃の水に2重量%以上溶解する物質(b)は、下記(b1)-(b3)からなる群から選択される。
(b1)グリセリンエステル
(b2)クエン酸エステル
及び
(b3)数平均重合度が20以下であるポリエチレングリコール
【0067】
グリセリンエステル(b1)、クエン酸エステル(b2)及び数平均重合度が20以下のポリエチレングリコール(b3)は、セルロースアセテートの可塑剤としても作用する。従って、これらを添加剤として含むセルロースアセテート組成物は、溶融成形が容易である。
【0068】
グリセリンエステル(b1)は、グリセリンの少なくとも1つの水酸基がエステル化されている化合物であり、好ましくは、分子量150以下、より好ましくは分子量130以下のカルボン酸によりエステル化されている化合物である。グリセリンエステル(b1)は、グリセリンの3個の水酸基すべてが同じカルボン酸によってエステル化されているものでもよく、2個の水酸基が同じカルボン酸によってエステル化されているものでもよく、グリセリンの3個の水酸基すべてが異なるカルボン酸によってエステル化されているものでもよい。
【0069】
カルボン酸としては、脂肪族カルボン酸(脂肪酸)であってもよく、芳香族カルボン酸であってもよい。環境への負荷低減の観点から、脂肪酸が好ましい。飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。好ましくは、飽和脂肪酸でエステル化されたグリセリンエステル(b1)である。飽和脂肪酸の具体例として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等が挙げられる。より好ましいグリセリンエステル(b1)は、アセチル置換度0以上3以下のグリセリンアセテートであり、グリセリンの3個の水酸基すべてが酢酸によってエステル化(言い換えればアセチル化)されたトリアセチン(グリセロールトリスアセタート)が特に好ましい。
【0070】
トリアセチンは、人が摂取しても安全と認められる成分であり、容易に生分解されるため環境への負荷が小さい。また、トリアセチンをセルロースアセテートに添加することにより得られるセルロースアセテート組成物は、セルロースアセテートを単体で用いた場合よりも生分解性が向上する。さらに、トリアセチンをセルロースアセテートに添加することにより、セルロースアセテートのガラス転移温度を効率よく低下させることができる。このため、原料に対して優れた熱成形性を付与することができる。
【0071】
クエン酸エステル(b2)は、クエン酸の少なくとも1つのカルボキシル基がエステル化されている化合物である。クエン酸エステル(b2)は、クエン酸の3個のカルボキシル基すべてが同じ炭化水素基によってエステル化されているものでもよく、2個のカルボキシル基が同じ炭化水素基によってエステル化されているものでもよく、グリセリンの3個のカルボキシル基すべてが異なる炭化水素基によってエステル化されているものでもよい。
【0072】
炭化水素基としては、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、環状であってもよい。脂肪族炭化水素基が好ましく、飽和脂肪族炭化水素基(アルキル基)がより好ましい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。好ましいクエン酸エステル(b2)として、クエン酸トリエチル、クエン酸アセチルトリエチル等が例示される。
【0073】
数平均重合度が20以下であるポリエチレングリコール(b3)は、繰り返し単位としてエチレンオキシ基を有している。重合度とは、繰り返し単位の数である。数平均重合度が20以下であるポリエチレングリコール(b)は、海水に溶解しやすく、生分解性の向上に寄与しうる。この観点から、ポリエチレングリコールの数平均重合度は18以下がより好ましく、15以下が特に好ましい。成形品とした場合のブリードアウトを抑制する観点から、ポリエチレングリコールの数平均重合度は2以上が好ましく、3以上がより好ましい。数平均重合度は、ポリスチレンを標準物質として用いたサイズ排除クロマトグラフィ(GPC)で測定された数平均分子量から算出される。
【0074】
[海水中で生分解性を示す物質(c)]
海水中で生分解性を示す物質(c)としては、例えば、ASTM D6691で規定された方法で、120日経過後に、比較対象となるセルロースに対し、50重量%以上分解する物質、好ましくは70重量%以上分解する物質、更に好ましくは90重量%以上分解する物質が挙げられる。
【0075】
前記海水中で生分解性を示す物質(c)として、例えば、重量平均分子量5万以下のポリエステルが例示される。ポリヒドロキシブチレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸からなる群から選択されるポリエステルが好ましい。
【0076】
[好ましい添加剤の組み合わせ]
生分解性向上の観点から、本開示のセルロースアセテート組成物は、酸化マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム及びトリアセチンから選択される添加剤を含むことが好ましい。生分解性向上及び成形容易との観点から、本開示のセルロースアセテート組成物は、酸化マグネシウム及びメタケイ酸アルミン酸マグネシウムから選択される少なくとも1つと、トリアセチンと、を含むことが好ましい。酸化マグネシウム及びトリアセチンの組み合わせからなる添加剤がより好ましい。
【0077】
[セルロースアセテート組成物の製造方法]
本開示のセルロースアセテート組成物は、アセチル総置換度が1.75以上2.55以下であり、かつ、2位のアセチル置換度又は3位のアセチル置換度の少なくとも一方が0.7以下であるセルロースアセテートと、前述した添加剤と、をアセトン等の溶媒中で混合した後、溶媒を除去することにより得られる。本開示のセルロースアセテート組成物が、溶融混練することにより得られてもよい。好ましくは、この組成物は、セルロースアセテート及び添加剤を混合した後、溶融混練することにより得られる。溶融混練前の混合により、添加剤とセルロースアセテートとがより均一に、また短時間で馴染むことで、得られる混練物が均質化するため、溶融流動性及び加工精度が向上した組成物が得られる。
【0078】
セルロースアセテート及び添加剤の混合には、ヘンシェルミキサー等の既知の混合機が用いられうる。乾式混合でもよく、湿式混合でもよい。ヘンシェルミキサー等の混合機を用いる場合、混合機内の温度は、セルロースアセテートが溶融しない温度、例えば、20℃以上200℃未満が好ましい。
【0079】
セルロースアセテート及び添加剤の溶融混練、又は、セルロースアセテート及び添加剤の混合後の溶融混練には、二軸押出機等の押出機等が用いられうる。混練物の均一性及び加熱劣化抑制の観点から、押出機による混練温度(シリンダー温度)は170℃以上230℃以下が好ましい。例えば、二軸押出機を用いて溶融混練する場合には、混練温度(シリンダー温度とも称する)は200℃であってもよい。二軸押出機の先端に取り付けたダイスから混練物をストランド状に押出した後、ホットカットしてペレットにしてもよい。このときダイス温度は、220℃程度であってよい。
【0080】
得られるセルロースアセテート組成物全体に対する添加剤の添加量は、3重量%以上40重量%以下が好ましい。2種以上の添加剤を配合する場合、その合計量が3重量%以上40重量%以下となるように調整する。
【0081】
得られるセルロースアセテート組成物全体に対するセルロースアセテートの配合量は、50重量%以上が好ましく、50重量%以上90重量%以下がより好ましい。2種以上のセルロースアセテートを配合する場合、その合計量が、好ましくは50重量%以上、より好ましくは50重量%以上90重量%以下となるように調整する。
【0082】
セルロースアセテート組成物の生分解性を阻害しない範囲で、この組成物に、前述した添加剤とは異なる他の添加剤を配合してもよい。他の添加剤として、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、熱安定剤、光学特性調整剤、蛍光増白剤及び難燃剤等が例示される。この場合、セルロースアセテート組成物中における、セルロースアセテート及び添加剤の合計含有量が、85重量%以上となるように配合することが好ましい。
【0083】
本開示のセルロースアセテートは、溶融成形性に優れるため、溶融成形用としても好適である。本開示のセルロースアセテート組成物を成形してなる成形体の形状としては、特に限定されず、例えば、繊維等の一次元的成形体;フィルム等の二次元的成形体;並びにペレットを含む粒子状、チューブ及び中空円柱状等の三次元的成形体が挙げられる。
【0084】
本開示のセルロースアセテート又はセルロースアセテート組成物は、海水中で優れた生分解性を有するため、ストロー、コップ等の容器、包装材、バインダー、及びタバコフィルター等の使い捨てにされ易い製品;衣料用繊維;不織布;化粧品ビーズ・スクラブ等使用時に部分的にでも水と共に自然界に流れてしまう製品;並びに衛生材(オムツ、生理用品)等トイレに流せることが期待される製品等に好適である。
【実施例
【0085】
以下、実施例によって本開示の効果が明らかにされる。各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。なお、特に言及しない限り、試験温度は全て室温(20℃±5℃)である。
【0086】
[実施例1]
木材学会誌、vol60、p144-168(2014年)及びBiomacromolecules,13,2195-2201(2012年)を参照して、実施例1のセルロースアセテートを合成した。
【0087】
初めに、セルロース(リンター原料)100.4gを、濃度18重量%のNaOH水溶液3Lに添加して、室温で1時間攪拌した。その後、ろ過をおこなってセルロースを採取し、洗浄液が中性になるまで水で洗浄した。次に、ジメチルアセトアミド500mlにこのセルロースを加えて室温で12時間攪拌した後、ろ過して取り出したセルロースをジメチルアセトアミド500mLで2回洗浄した。
【0088】
続いて、このセルロースをジメチルアセトアミド4Lに加え、150℃で1時間加熱した後、液温が100℃になるまで冷却した。その後、無水塩化リチウム350gを添加して100℃で1時間攪拌し、25℃まで冷却することにより、セルロースを、塩化リチウム/ジメチルアセトアミド(DMAC)系溶媒に溶解した。
【0089】
得られたセルロース溶液に、イミダゾール200gと、thexyldimethylsilyl chloride(1,1,2-trimethylpropyl dimethyl silyl chloride)450gを添加して反応させることにより、2位及び6位がシリルエーテル化されたセルロースを得た。この粗生成物をメタノール1.5Lで3回洗浄することにより、2,6シリルエーテル化セルロース268.0gを得た。
【0090】
得られた2,6シリルエーテル化セルロース265.5gを、ジメチルアセトアミド2000gとピリジン165.9gに溶解した後、塩化アリル142.2gと反応させた。得られた反応液をメタノールに加えて沈殿させ、沈殿物(粗生成物)をメタノール1.0Lで3回洗浄することにより、生成物265.5gを得た。この生成物を、ジメチルアセトアミド4000gに溶解し、380gのテトラブチルアンモニウムフルオリドと反応させて、3位がアリルエーテル化されたセルロース77.7gを得た。
【0091】
得られた3アリルセルロース77.7gを、ジメチルアセトアミド800gに溶解して、無水酢酸167g及びピリジン136gを添加して反応させることにより、2,6-アセチル-3アリルセルロースとした。その後、さらにテトラキストリストリフェニルホスフィンパラジウム4.9gを添加してアリルエーテル基を異性化し、KCOと反応させてアリル基を脱保護することにより、2位及び6位が選択的に置換された、実施例1のセルロースアセテート73.2gを得た。前述した方法により、セルロースアセテートの遊離水酸基をプロピオニル化して重クロロホルム中で13C-NMRスペクトルを測定することにより、2位、3位及び6位の置換度を確認した。得られた結果が、それぞれDS2、DS3及びDS6として、下表1に示されている。アセチル総置換度は、2,3,6位の各アセチル置換度の和である。実施例1のセルロースアセテートは、DS2=0.98、DS3=0.47、DS6=1.00であり、アセチル総置換度は2.45であった。
【0092】
得られた実施例1のセルロースアセテート10重量部を110℃で2時間加熱して乾燥したのち、アセトン90重量部に投入し、25℃で6hr攪拌してセルロースアセテートを溶解させることにより、フィルム作成用のドープを調製した。このドープをガラス板上に流し、バーコーターで流延し、40℃で30分乾燥させたのちフィルムをガラス板からはがし、80℃でさらに30分乾燥させることにより、実施例1のセルロースアセテートフィルム(厚さ30μm)を得た。
【0093】
[実施例2]
特開2015-224256号公報を参照して、実施例2のセルロースアセテートを合成した。
【0094】
初めに、セルロースアセテート(アセチル置換度2.87)50gを、N-メチルピロリドン500gに溶解した。次に、炭酸セシウム57gを添加して、室温で10時間撹拌して反応させた。得られた反応液に適量の水を添加して沈殿させ、析出物をメタノールで洗浄し、乾燥することにより、実施例2のセルロースアセテート37.8gを得た。実施例1と同様にしてH-NMRスペクトルを測定することにより、2位、3位及び6位の置換度を確認した。得られた結果が下表1に示されている。実施例2のセルロースアセテートは、DS2=0.65、DS3=0.75、DS6=0.83でり、アセチル総置換度は2.23であった。
【0095】
得られたセルロースアセテートを用いて、実施例1と同様にして、実施例2のセルロースアセテートフィルム(厚さ30μm)を得た。
【0096】
[実施例3]
【0097】
初めに、リンターパルプをからなるセルロース4.5gを、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド75gに溶解した。次に、無水酢酸を、セルロース骨格に対して4.9モル倍(13.8g)添加して、80℃で1時間反応させた。その後、得られた反応液に適量のメタノールを加えて沈殿させ、析出物をメタノールで洗浄し、乾燥することにより、実施例3のセルロースアセテート5.44gを得た。実施例1と同様にしてH-NMRスペクトルを測定することにより、2位、3位及び6位の置換度を確認した。得られた結果が下表1に示されている。実施例3のセルロースアセテートは、DS2=0.49、DS3=0.66、DS6=0.95であり、アセチル総置換度は2.10であった。
【0098】
得られたセルロースアセテートを用いて、実施例1と同様にして、実施例3のセルロースアセテートフィルム(厚さ30μm)を得た。
【0099】
[実施例4]
木材学会誌、vol60、p144-168(2014年)及びBiomacromolecules,13,2195-2201(2012年)を参照して、実施例1のセルロースアセテートを合成した。
【0100】
初めに、実施例1-3で前述したセルロース100.4gを、濃度18重量%のNaOH水溶液3Lに添加して、室温で1時間攪拌した。その後、ろ過をおこなって固形分(アルカリセルロース)を採取し、洗浄液が中性になるまで水で洗浄した。次に、ジメチルアセトアミド500mlにこのセルロースを加えて室温で12時間攪拌した後、ろ過して取り出したセルロースをジメチルアセトアミド500mLで2回洗浄した。
【0101】
続いて、このセルロースをジメチルアセトアミド4Lに加え、150℃で1時間加熱した後、液温が100℃になるまで冷却した。その後、無水塩化リチウム350gを添加して100℃で1時間攪拌し、25℃まで冷却することにより、セルロースを、塩化リチウム/ジメチルアセトアミド(DMAC)系溶媒に溶解した。
【0102】
得られたセルロース溶液に、イミダゾール200gと、thexyldimethylsilyl chloride(1,1,2-trimethylpropyl dimethyl silyl chloride)237.2gを添加して反応させることにより、2位及び6位がシリルエーテル化されたセルロースを得た。この粗生成物をメタノール1.5Lで3回洗浄することにより、2,6シリルエーテル化セルロース168.0gを得た。
【0103】
得られた2,6シリルエーテル化セルロースの全量を、ジメチルアセトアミド800gに溶解し、無水酢酸387.6g及びピリジン316.gを添加して反応させることにより、残存する水酸基をアセチル化した。得られた反応液にメタノール1.5Lを加えることにより析出物を得た。この析出物をろ過して採取した後、メタノール500mLで3回洗浄して、生成物203gを得た。
【0104】
得られた生成物をジメチルスルホキシド4Lに溶解し、テトラブチルアンモニウムフルオリド469gと反応させてシリルエーテル基を脱保護することにより、実施例4のセルロースアセテート82.4gを得た。実施例1と同様にしてH-NMRスペクトルを測定することにより、2位、3位及び6位の置換度を確認した。得られた結果が下表1に示されている。実施例4のセルロースアセテートは、DS2=0.42、DS3=1.00、DS6=0.46であり、アセチル総置換度は1.88であった。
【0105】
得られたセルロースアセテートを用いて、実施例1と同様にして、実施例4のセルロースアセテートフィルム(厚さ30μm)を得た。
【0106】
[比較例1]
αセルロース含量98.4wt%の広葉樹前加水分解クラフトパルプをディスクリファイナーで綿状に解砕した。100重量部の解砕パルプ(含水率8%)に26.8重量部の酢酸を噴霧し、良くかき混ぜた後、前処理として60時間静置し活性化した。活性化したパルプを、323重量部の酢酸、245重量部の無水酢酸、13.1重量部の硫酸からなる混合物に加え、40分を要して5℃から40℃の最高温度に調整し、90分間酢化した。中和剤(24%酢酸マグネシウム水溶液)を、硫酸量(熟成硫酸量)が2.5重量部に調整されるように3分間かけて添加した。さらに、反応浴を75℃に昇温した後、水を添加し、反応浴水分(熟成水分)を52mol%濃度とした。なお、熟成水分濃度は、反応浴水分の酢酸に対する割合をモル比で表わしたものに100を乗じてmol%で示した。その後、85℃で100分間熟成を行ない、酢酸マグネシウムで硫酸を中和することで熟成を停止し、セルロースアセテートを含む反応混合物を得た。得られた反応混合物に希酢酸水溶液を加え、セルロースアセテートを分離した後、水洗・乾燥・水酸化カルシウムによる安定化をして、比較例1のセルロースアセテートを得た。
【0107】
実施例1と同様にして13C-NMRスペクトルを測定することにより、2位、3位及び6位の置換度を確認した。得られた結果が下表1に示されている。比較例1のセルロースアセテートは、DS2=0.86、DS3=0.85、DS6=0.75であり、アセチル総置換度は2.46であった。
【0108】
得られたセルロースアセテートを用いて、実施例1と同様にして、比較例1のセルロースアセテートフィルム(厚さ30μm)を得た。
【0109】
[実施例5、10、15及び20]
実施例1-4のセルロースアセテート9.5重量部を、それぞれ、110℃で2時間加熱して乾燥したのち、アセトン90重量部に投入し、25℃で6hr攪拌してセルロースアセテートを溶解させた。ここに、添加剤としてメタケイ酸アルミン酸マグネシウムの粉末0.5重量部を加え、さらに25℃で6hr攪拌して、フィルム作成用のドープを調製した。このドープをガラス板上に流し、バーコーターで流延し、40℃で30分乾燥させたのちフィルムをガラス板からはがし、80℃でさらに30分乾燥させることにより、実施例5、10、15及び20のセルロースアセテート組成物フィルム(厚さ30μm)を得た。
【0110】
[実施例6、11、16及び21]
添加剤として酸化マグネシウムを用い、各セルロースアセテート9.6重量部に対して、添加剤を0.4重量部添加した以外は実施例5、10、15及び20と同様にして、実施例6、11、16及び21のセルロースアセテート組成物フィルム(厚さ30μm)を得た。
【0111】
[実施例7、12、17、及び22]
添加剤として、添加剤としてトリアセチンを用い、各セルロースアセテート8.0重量部に対して、添加剤を2.0重量部添加した以外は実施例5、10、15及び20と同様にして、実施例7、12、17、及び22のセルロースアセテート組成物フィルム(厚さ30μm)を得た。
【0112】
[実施例8、13、18及び23]
添加剤として、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム及びトリアセチンを用い、各セルロースアセテート7.5重量部に対し、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム0.5重量部及びトリアセチン2.0重量部を添加した以外は実施例5、10、15及び20と同様にして実施例8、13、18及び23のセルロースアセテート組成物フィルム(厚さ30μm)を得た。
【0113】
[実施例9、14、19及び24]
添加剤として、酸化マグネシウム及びトリアセチンを用い、各セルロースアセテート7.6重量部に対し、酸化マグネシウム0.4重量部及びトリアセチン2.0重量部を添加した以外は実施例5、10、15及び20と同様にして実施例9、14、19及び24のセルロースアセテート組成物フィルム(厚さ30μm)を得た。
【0114】
[海水生分解度の評価]
以下の手順に従って、実施例1-4及び比較例1のセルロースアセテートフィルム並びに実施例5-24のセルロースアセテート組成物フィルムを、それぞれ、平均粒子径20μm程度に粉砕後、下記生分解試験に供した。
【0115】
各試料60mgを、海水250gに投入し、温度30℃にて撹拌した。試料投入時から90日後及び120日後の二酸化炭素発生量を測定した。試験に供した各試料について測定した全有機炭素量(TOC)から理論的二酸化炭素発生量を算出し、この理論的二酸化炭素発生量に対する、測定値からブランク(海水のみ)の測定値を差し引いた値の比を、生分解度(%)とした。得られた結果が下表1及び2に示されている。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
表1及び2に示される通り、実施例のセルロースアセテートは、比較例のセルロースアセテートと比較して、海水中での分解速度が高い。また、実施例のセルロースアセテート組成物は、添加剤を含むことにより、対応するセルロースアセテートと比較して、海水中での分解速度が向上した。この評価結果から、本開示の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0119】
以上説明されたセルロースアセテート及び組成物は、フィルム形状に限定されず、種々の形状の生分解性成形品として適用されうる。