(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-26
(45)【発行日】2025-04-03
(54)【発明の名称】転造加工装置
(51)【国際特許分類】
B21H 5/00 20060101AFI20250327BHJP
【FI】
B21H5/00 B
(21)【出願番号】P 2021110384
(22)【出願日】2021-07-01
【審査請求日】2024-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】林 真宣
(72)【発明者】
【氏名】秋月 啓作
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】実開昭49-029136(JP,U)
【文献】特開2010-149128(JP,A)
【文献】中国実用新案第205967239(CN,U)
【文献】特開2008-78330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21H 3/00 - 5/00
B23Q 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車を創成する転造工具と、
前記転造工具を保持するホルダと、
前記転造工具の先端側に配置されるカラーと、
前記ホルダの内部に形成されたクーラント通路と、
前記ホルダに形成され前記クーラント通路に連通し前記転造工具の後方側に開口
し、後方から前記転造工具に向かって傾斜した第1吐出口と、
前記カラーに形成され前記クーラント通路に連通し前記転造工具の先端側に開口
し、前方から前記転造工具に向かって傾斜した第2吐出口と、
を備えたことを特徴とする転造加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クーラントを吐出しながら転造加工を行う転造加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転造加工は、ワーク(材料)に力を加えて塑性変形することにより、工具の形状を転写して所望の形状に成型する加工方法である。転造加工によって歯車やねじを加工する場合は、工具とワークの間に冷却および潤滑を行うためのクーラントが供給される。
【0003】
例えば特許文献1は、転造工具ではなく切削工具(スカイビング加工)であるが、加工用工具の端面のうち中心側に、流体を工具刃に向かう方向へ吐出可能な吐出孔が設けられた歯車加工装置が開示されている。この加工用工具の吐出孔は、流体を工具刃のすくい面と平行に吐出可能に設けられている。切削加工におけるクーラントは、切削加工の切屑の噛み込みを防止し、ワークの加工精度向上、工具の欠損を防止する効果がある。
【0004】
例えば特許文献2に記載のオイル噴孔付転造タップは、軸心部に軸方向に延びる主噴孔1を有し、この主憤孔からタップ刃部に開口する分噴孔を有している。分噴孔はタップ刃部の中間位置に開口している。これにより、工具寿命と作業能率を向上させることができると述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6427897号公報
【文献】実開昭49-29136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術においては、切削工具であり、工具の刃先に切屑が噛み込まないようにすることが主目的であるため、工具先端にしかクーラントを吐出していない。しかしながら、転造加工においては、転造工具の歯幅全長に亘って加工が行われる。特にスラスト送りの転造加工においては、最初に当たる部分は工具の先端側(テーパのガイド部)であり、歯車を仕上げるのは後方側(仕上げ部)である。すると、特許文献1と同様にクーラントを供給すると、先端側ではクーラントが供給されるが、後方側ではクーラントが不足するという問題がある。
【0007】
特許文献2に記載の転造タップにおいては、タップ刃部の中間位置に分噴孔が開口していることから、先端側と後方側の両方にクーラントを供給できる可能性がある。しかしスラスト送りを行う場合には、先端側にクーラントが不足する。また、タップ刃部に分噴孔が開口していると、ワークに分噴孔の形状が転写されてしまうおそれがある。
【0008】
そこで本発明は、スラスト送りを行う転造加工において先端側と後方側の両方に効率よくクーラントを供給し、工具の長寿命化を図ることが可能な転造加工装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる転造加工装置の代表的な構成は、歯車を創成する転造工具と、転造工具を保持するホルダと、転造工具の先端側に配置されるカラーと、ホルダの内部に形成されたクーラント通路と、ホルダに形成されクーラント通路に連通し転造工具の後方側に開口する第1吐出口と、カラーに形成されクーラント通路に連通し転造工具の先端側に開口する第2吐出口と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、転造工具の先端側と後方側の両方から歯幅全体に効率よくクーラントを供給することができる。これにより、加工位置を万遍なく冷却・潤滑することができ、工具の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】転造加工装置の構成を説明する部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
図1は転造加工装置100の構成を説明する図であって、
図1(a)は部分断面図、
図1(b)は転造工具120とワーク200の右側面図である。本実施形態において転造加工装置100は、円環状のワーク200に内歯210を創成する例を用いて説明する。転造加工装置100は、
図1(b)に示すように転造工具120とワーク200を同期回転させた状態で、
図1(a)に示すように転造工具120をスラスト送りして転造を行う。
【0014】
転造加工装置100は、ホルダ110に転造工具120を嵌入して取り付けたものである。転造工具120より先端側には、第1カラー130と、第2カラー140と、第2カラー140をホルダ110に締結するボルト150を有している。
【0015】
ホルダ110は、後方側端部にテーパ部112を有し、不図示の加工機にチャックされる。ホルダ110の先端側には径の細いシャンク部114が形成されていて、転造工具120を嵌入して取り付けることができる。以下の説明において、転造加工装置100のテーパ部112側を「後方側」、シャンク部114側を「先端側」と称する。
【0016】
そしてテーパ部112からシャンク部114まで貫通するように、内部にクーラント通路116が形成されている。クーラント通路116の先端部には、ボルト150を螺合するための雌ネジ116aが切られている。
【0017】
そしてホルダ110には、クーラント通路116に連通し転造工具120の後方側に開口する第1吐出口118が形成されている。第1吐出口118は、クーラントを転造工具の歯122に向かって吐出するように、先端側に向かって傾斜している。また第1吐出口118は、図では1つしか記載していないが、円周方向に複数(例えば2~4個)配置することが好ましい。
【0018】
転造工具120は着脱可能であり、加工条件に応じて任意の転造工具に交換可能である。転造工具120としては、歯車を創成するための転造ダイスを例示することができる。このような転造工具120において歯122は先端側から後方側に向かって歯が大きくなるテーパになっている。そこで、先端側をテーパのガイド部、後方側を仕上げ部と呼ぶこともある。
【0019】
第1カラー130と第2カラー140は本実施形態では別体として説明しているが、一体で構成してもよい。本実施形態において第1カラー130は円環状の部材であって、シャンク部114に嵌入される。第2カラー140も円環状の部材であるが、ボルト150に対するワッシャの役割を有している。そしてボルト150をシャンク部114の雌ネジ116aに締結することにより、先端側から転造工具120に向かって第2カラー140が第1カラー130を付勢し、第1カラー130が転造工具120を付勢して固定する。
【0020】
そして第1カラー130には、クーラント通路116に連通し転造工具120の先端側に開口する第2吐出口132が形成されている。第2吐出口132は、クーラントを転造工具の歯122に向かって吐出するように、後方側に向かって傾斜している。また第2吐出口132は、図では1つしか記載していないが、円周方向に複数(例えば2~4個)配置することが好ましい。
【0021】
図2は加工の様子を説明する図である。
図2(a)に示すように加工開始位置にあるときは、後方側の第1吐出口118から吐出されるクーラントは、転造工具の歯122の先端側(テーパのガイド部)には届かない。しかしながら先端側の第2吐出口132から吐出されるクーラントが転造工具の歯122の先端側に潤沢に供給される。
【0022】
一方、
図2(b)に示すように転造工具120が加工完了位置にあるときは、先端側の第2吐出口132から吐出されるクーラントは転造工具の歯122の後方側には届かない。しかしながら後方側の第1吐出口118から吐出されるクーラントが転造工具の歯122の後方側(仕上げ部)に潤沢に供給される。
【0023】
上記説明したように、転造工具120の前後からクーラントを供給することにより、加工の開始から完了まで工具の歯122に効率よくクーラントを供給することができる。これにより冷却と潤滑を効果的に行うことができ、工具の長寿命化を図ることができる。
【0024】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は斯かる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、クーラントを吐出しながら転造加工を行う転造加工装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0026】
100…転造加工装置、110…ホルダ、112…テーパ部、114…シャンク部、116…クーラント通路、116a…雌ネジ、118…第1吐出口、120…転造工具、122…歯、130…第1カラー、132…第2吐出口、140…第2カラー、150…ボルト、200…ワーク