(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-03-26
(45)【発行日】2025-04-03
(54)【発明の名称】放射線硬化型インクジェット組成物及びインクジェット方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20250327BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20250327BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20250327BHJP
【FI】
C09D11/322
B41J2/01 501
B41M5/00 100
B41M5/00 120
(21)【出願番号】P 2019111787
(22)【出願日】2019-06-17
【審査請求日】2022-05-31
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100127247
【氏名又は名称】赤堀 龍吾
(72)【発明者】
【氏名】関根 翠
(72)【発明者】
【氏名】田中 恭平
(72)【発明者】
【氏名】中野 景多▲郎▼
【合議体】
【審判長】神谷 健一
【審判官】川村 大輔
【審判官】河原 正
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-185186(JP,A)
【文献】特開2013-240978(JP,A)
【文献】特開2013-240980(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0083604(US,A1)
【文献】特開2018-141101(JP,A)
【文献】特開2018-9142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00
B41M 5/00- 5/52
B41J 2/01- 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単官能モノマーと、多官能モノマーとを含む重合性化合物と、
光重合開始剤と、
白色色材として酸化チタンと、を含有し、
前記単官能モノマーの含有量が、前記重合性化合物の総量に対して、90質量%以上であり、
前記各重合性化合物の含有質量比を重みとする、前記各重合性化合物のホモポリマーのガラス転移温度の加重平均が、48℃以上であり、
前記多官能モノマーが、下記式(1)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートを含み、
CH
2=CR
1-COOR
2-O-CH=CH-R
3 ・・・ (1)
(式中、R
1は水素原子又はメチル基であり、R
2は炭素数2~20の2価の有機残基であり、R
3は水素原子又は炭素数1~11の1価の有機残基である。)
前記多官能モノマーの含有量が、前記重合性化合物の総量に対して、1~8質量%であ
り、
前記酸化チタンの含有量が、放射線硬化型インクジェット組成物の総量に対して、15質量%以上30質量%以下であり、
前記単官能モノマーが、含窒素複素環構造を有するモノマーを含む窒素含有単官能モノマーと、架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートと、を含む、
放射線硬化型インクジェット組成物。
【請求項2】
前記架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートが、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートを含む、
請求項
1に記載の放射線硬化型インクジェット組成物。
【請求項3】
請求項
1又は2に記載の放射線硬化型インクジェット組成物を吐出するノズルと、前記放射線硬化型インクジェット組成物が供給される圧力室と、前記圧力室の前記放射線硬化型インクジェット組成物を循環可能とする循環流路と、を備える液体噴射ヘッドを用いるインクジェット方法であって、
加熱した前記放射線硬化型インクジェット組成物を前記液体噴射ヘッドで吐出して記録媒体に付着させる吐出工程と、
前記記録媒体に付着した前記放射線硬化型インクジェット組成物に対して、放射線を照射する照射工程と、を有する、
インクジェット方法。
【請求項4】
前記液体噴射ヘッド内の前記放射線硬化型インクジェット組成物を40℃以上に加熱する加熱工程を有する、
請求項
3に記載のインクジェット方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線硬化型インクジェット組成物及びインクジェット方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1に記載されているように、色材を2~3質量%含み、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類と、アクリロイルモルフォリン等と、ビニルカプロラクタム等と、を含有することで、臭気が少なく、良好な硬化性、硬化後の柔軟性を示す放射線硬化型インクジェット組成物が得られることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、白色インク組成物には遮蔽性が要求されるため、顔料の含有量を他の色よりも多くする場合があるが、顔料の含有量を多くするほどインク塗膜の密着性が低下するという課題がある。また、比重が大きい白色色材を多く含む白色インクは、従来のインクジェットヘッドを用いた場合に目詰まり等を起こしやすく、吐出安定性に劣るという課題も生じる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の放射線硬化型インクジェット組成物は、単官能モノマーと、多官能モノマーとを含む重合性化合物と、光重合開始剤と、白色色材として酸化チタンと、を含有し、前記単官能モノマーの含有量が、前記重合性化合物の総量に対して、90質量%以上であり、前記各重合性化合物の含有質量比を重みとする、前記各重合性化合物のホモポリマーのガラス転移温度の加重平均が、48℃以上である。
【0006】
上記放射線硬化型インクジェット組成物は、前記酸化チタンの含有量が、前記放射線硬化型インクジェット組成物の総量に対して、15質量%以上であることが好ましい。
【0007】
上記放射線硬化型インクジェット組成物は、前記多官能モノマーが、下記式(1)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。
CH2=CR1-COOR2-O-CH=CH-R3 ・・・ (1)
(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数2~20の2価の有機残基であり、R3は水素原子又は炭素数1~11の1価の有機残基である。)
【0008】
上記放射線硬化型インクジェット組成物は、前記多官能モノマーの含有量が、前記放射線硬化型インクジェット組成物の総量に対して、0.10~10質量%であることが好ましい。
【0009】
上記放射線硬化型インクジェット組成物は、前記単官能モノマーが、窒素含有単官能モノマーを含むことが好ましい。
【0010】
上記放射線硬化型インクジェット組成物は、前記窒素含有単官能モノマーが、含窒素複素環構造を有するモノマーを含むことが好ましい。
【0011】
上記放射線硬化型インクジェット組成物は、前記単官能モノマーが、架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。
【0012】
上記放射線硬化型インクジェット組成物は、前記架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートが、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。
【0013】
また、本発明のインクジェット方法は、上記放射線硬化型インクジェット組成物を吐出するノズルと、前記放射線硬化型インクジェット組成物が供給される圧力室と、前記圧力室の前記放射線硬化型インクジェット組成物を循環可能とする循環流路と、を備える液体噴射ヘッドを用いるインクジェット方法であって、加熱した前記放射線硬化型インクジェット組成物を前記液体噴射ヘッドで吐出して記録媒体に付着させる吐出工程と、前記記録媒体に付着した前記放射線硬化型インクジェット組成物に対して、放射線を照射する照射工程と、を有する。
【0014】
上記インクジェット方法は、前記液体噴射ヘッド内の前記放射線硬化型インクジェット組成物を40℃以上に加熱する加熱工程を有することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に用い得る液体噴射ヘッドの構成を説明するための概略図である。
【
図2】本実施形態のシリアル方式のインクジェット装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。又上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0017】
本明細書において、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル及びそれに対応するメタクリロイルのうち少なくともいずれかを意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びそれに対応するメタクリレートのうち少なくともいずれかを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びそれに対応するメタクリルのうち少なくともいずれかを意味する。
【0018】
1.放射線硬化型インクジェット組成物
本実施形態に係る放射線硬化型インクジェット組成物(以下、単に「組成物」ともいう。)は、単官能モノマーと、多官能モノマーとを含む重合性化合物と、光重合開始剤と、白色色材として酸化チタンと、を含有し、単官能モノマーの含有量が、重合性化合物の総量に対して、90質量%以上であり、各重合性化合物の含有質量比を重みとする、各重合性化合物のホモポリマーのガラス転移温度の加重平均が、48℃以上である。
【0019】
サイン用途等に用いる白色インク組成物には遮蔽性が要求されるが、顔料の含有量を多くするほどインク塗膜の密着性や柔軟性が低下するという問題がある。これに対して、本実施形態においては、単官能モノマーの含有量を所定の範囲とすることで、塗膜の密着性や柔軟性を良好とすることができる。他方、単官能モノマーの含有量が上記範囲である場合には、塗膜の耐擦過性が低下するところ、各重合性化合物のホモポリマーのガラス転移温度の加重平均が所定の範囲となるような重合性化合物の構成とすることにより、塗膜の耐擦過性の向上をも図ることが可能となる。これにより、本実施形態においては、遮蔽性を確保しつつ、メディアとの密着性に劣る酸化チタンを用いた場合であっても塗膜の密着性、柔軟性及び耐擦過性を確保することができる。
【0020】
本実施形態に係る放射線硬化型インクジェット組成物は、インクジェット法によりインクジェットヘッドから吐出して用いる組成物である。以下、放射線硬化型インクジェット組成物の一実施形態として放射線硬化型インク組成物について説明するが、本実施形態に係る組成物はインク組成物以外の組成物、例えば3D造形用に用いられる組成物であってもよい。
【0021】
本実施形態の放射線硬化型インクジェット組成物は、放射線を照射することにより硬化する。放射線としては、紫外線、電子線、赤外線、可視光線、エックス線等が挙げられる。放射線としては、放射線源が入手しやすく広く用いられている点、及び紫外線の放射による硬化に適した材料が入手しやすく広く用いられている点から、紫外線が好ましい。
【0022】
以下、本実施形態に係る放射線硬化型インクジェット組成物において、含まれ得る成分、物性及び製造方法について説明する。
【0023】
1.1.重合性化合物
重合性化合物は、重合性官能基を1つもつ単官能モノマーと、重合性官能基を複数持つ多官能モノマーとを含み、必要に応じて重合性官能基を1又は複数もつオリゴマーを含んでもよい。各重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
本実施形態において、各重合性化合物の含有質量比を重みとする、各重合性化合物のホモポリマーのガラス転移温度の加重平均は、48℃以上であり、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは52℃以上である。ガラス転移温度の加重平均が48℃以上であることにより、室温における塗膜の耐擦過性を高めることができる。また、ガラス転移温度の加重平均の上限は、特に制限されないが、好ましくは65℃以下であり、より好ましくは60℃以下であり、さらに好ましくは55℃以下である。
【0025】
ガラス転移温度の加重平均の計算方法について説明する。ガラス転移温度の加重平均の値をTgAll、各重合性化合物のホモポリマーのガラス転移温度をTgN、その重合性化合物の含有質量比をXN(質量%)とする。Nは放射線硬化型インクジェット組成物に含まれる重合性化合物の種類に応じ、1から順に数字が入る。例えば3種類の重合性化合物を用いた場合、Tg1、Tg2、Tg3が生じる。なお各重合性化合物のホモポリマーのガラス転移温度は、その重合性化合物の安全データシート(SDS)やカタログ情報により入手することができる。ガラス転移温度の加重平均TgAllは、各重合性化合物によって計算されたガラス転移温度TgNと、含有質量比XNとの積の総和である。したがって下記式(2)が成り立つ。
TgAll=ΣTgN×XN・・・(2)
【0026】
なお、ガラス転移温度の加重平均は、用いる重合性化合物のガラス転移温度、及び、用いる重合性化合物の含有質量比により、調整することができる。
【0027】
1.1.1.単官能モノマー
本実施形態の単官能モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、窒素含有単官能モノマー、架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレート、芳香族基含有単官能モノマー、飽和脂肪族基含有単官能モノマーが挙げられる。また、これらに代えて又は加えて、必要に応じてその他の単官能モノマーを含んでもよい。なお、その他の単官能モノマーとしては、特に限定されないが、従来公知の、重合性官能基、特に炭素間の不飽和二重結合を有する重合性官能基を有する単官能モノマーが使用可能である。
【0028】
単官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、90質量%以上であり、好ましくは92質量%以上であり、より好ましくは94質量%以上である。単官能モノマーの含有量が重合性化合物の総量に対して90質量%以上であることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する。また、単官能モノマーの含有量の上限は、特に制限されないが、重合性化合物の総量に対して、好ましくは99質量%以下であり、より好ましくは98質量%以下であり、さらに好ましくは97質量%以下である。単官能モノマーの含有量が重合性化合物の総量に対して99質量%以下であることにより、塗膜の耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0029】
また、単官能モノマーの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは65質量%以上であり、さらに好ましくは67質量%以上である。単官能モノマーの含有量が組成物の総量に対して60質量%以上であることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にある。また、単官能モノマーの含有量の上限は、組成物の総量に対して、好ましくは80質量%以下であり、より好ましくは75質量%以下であり、さらに好ましくは73質量%以下である。単官能モノマーの含有量が組成物の総量に対して80質量%以下であることにより、塗膜の耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0030】
以下、単官能モノマーについて例示するが、本実施形態における単官能モノマーは以下に限定されるものではない。
【0031】
1.1.1.1. 窒素含有単官能モノマー
窒素含有単官能モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルフォルムアミド、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルアセトアミド及びN-ビニルピロリドン等の窒素含有単官能ビニルモノマー;アクリロイルモルフォリン等の窒素含有単官能アクリレートモノマー;(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリレートベンジルクロライド4級塩等の(メタ)アクリルアミド等の窒素含有単官能アクリルアミドモノマーが挙げられる。
【0032】
このなかでも、窒素含有単官能ビニルモノマー又は窒素含有単官能アクリレートモノマーの何れかを含むことが好ましく、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルピロリドン、又はアクリロイルモルフォリンなどの含窒素複素環構造を有するモノマーがより好ましく、N-ビニルカプロラクタム又はアクリロイルモルフォリンの何れかを含むことがさらに好ましい。
【0033】
このような窒素含有単官能モノマーを用いることにより、塗膜の耐擦過性がより向上する傾向にある。さらに、N-ビニルカプロラクタム等の含窒素複素環構造を有する窒素含有単官能ビニルモノマー及びアクリロイルモルフォリン等の含窒素複素環構造を有する窒素含有単官能アクリレートモノマーは塗膜の柔軟性及び密着性をより向上させる傾向にある。
【0034】
窒素含有単官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは8~25質量%であり、より好ましくは10~20質量%であり、さらに好ましくは、12~18質量%である。窒素含有単官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0035】
窒素含有単官能モノマーの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは5~20質量%であり、より好ましくは8~16質量%であり、さらに好ましくは10~14質量%である。窒素含有単官能モノマーの含有量が組成物の総量に対して20質量%以下であることにより、密着性がより向上する傾向にある。また、窒素含有単官能モノマーの含有量が組成物の総量に対して5質量%以上であることにより、塗膜の耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0036】
1.1.1.2. 架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレート
その他の単官能モノマーの一つとして、架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、本発明において、架橋縮合環構造とは、2以上の環状構造が1対1で辺を共有し、かつ、同じ環状構造または異なる環状構造の、互いに隣接しない2個以上の原資を連結した構造を意味する。架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートジシクロペンタニル(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、架橋縮合環構造としては、上記以外に以下のものを例示することができる。
【化1】
【0037】
このなかでも、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートを含むことがより好ましい。このような架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートを用いることにより、塗膜の耐擦過性と塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0038】
架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは1~25質量%であり、より好ましくは3~20質量%であり、さらに好ましくは5~15質量%である。重合性化合物の総量に対する架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の密着性及び耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0039】
架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは15~45質量%であり、より好ましくは20~40質量%であり、さらに好ましくは25~35質量%である。組成物の総量に対する架橋縮合環構造を有する単官能(メタ)アクリレートの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の密着性及び耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0040】
1.1.1.3. 芳香族基含有単官能モノマー
芳香族基含有単官能モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、アルコキシ化2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシ化ノニルフェニル(メタ)アクリレート、アルコキシ化ノニルフェニル(メタ)アクリレート、p-クミルフェノールEO変性(メタ)アクリレート、及び2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0041】
このなかでも、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましく、フェノキシエチルアクリレート(PEA)がさらに好ましい。このような芳香族基含有単官能モノマーを用いることにより、光重合開始剤の溶解性がより向上し、組成物の硬化性がより向上する傾向にある。特に、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤やチオキサントン系光重合開始剤を用いる場合にその溶解性が良好となる傾向にある。
【0042】
芳香族基含有単官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは25~55質量%であり、より好ましくは30~50質量%であり、さらに好ましくは、35~45質量%である。重合性化合物の総量に対する芳香族基含有単官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の密着性や耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0043】
芳香族基含有単官能モノマーの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは15~45質量%であり、より好ましくは20~40質量%であり、さらに好ましくは、25~35質量%である。組成物の総量に対する芳香族基含有単官能モノマーの含有量が上記範囲内であることにより、塗膜の密着性や耐擦過性がより向上する傾向にある。
【0044】
1.1.1.4. 飽和脂肪族基含有単官能モノマー
飽和脂肪族基含有単官能モノマーとしては、特に制限されないが、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート(IBXA)、tertブチルシクロヘキサノールアクリレート(TBCHA)、2-(メタ)アクリル酸-1,4-ジオキサスピロ[4,5]デシ-2-イルメチル等の脂環属基含有単官能モノマー;イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐鎖の脂肪属基含有単官能モノマー;ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレートが挙げられる。このなかでも、脂環属基含有単官能モノマーが好ましい。このような飽和脂肪族基含有単官能モノマーを用いることにより、組成物の硬化性がより向上する傾向にある。なお、本実施形態において、飽和脂肪族基含有単官能モノマーは、架橋縮合環構造を有する化合物でないものとする。
【0045】
飽和脂肪族基含有単官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは1~6質量%であり、より好ましくは2~5質量%であり、さらに好ましくは3~4質量%である。
【0046】
飽和脂肪族基含有単官能モノマーの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは2~8質量%であり、より好ましくは3~7質量%であり、さらに好ましくは、4~6質量%である。
【0047】
1.1.1.5. その他
その他の単官能モノマーとしては、上記の他に、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸及びマレイン酸等の不飽和カルボン酸;該不飽和カルボン酸の塩;不飽和カルボン酸のエステル、ウレタン、アミド及び無水物;アクリロニトリル、スチレン、種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、不飽和ウレタンを用いてもよい。
【0048】
1.1.2. 多官能モノマー
本実施形態の多官能モノマーとしては、例えば、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、多官能モノマーは、上記に限定されるものではない。
【0049】
多官能モノマーの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは1~10質量%以上であり、より好ましくは2~8質量%であり、さらに好ましくは3~6質量%である。重合性化合物の総量に対する多官能モノマーの含有量が1質量%以上であることにより、耐擦過性がより向上する傾向にある。また、重合性化合物の総量に対する多官能モノマーの含有量が10質量%以下であることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0050】
また、多官能モノマーの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは0.1~10質量%以上であり、より好ましくは1~8質量%であり、さらに好ましくは2~6質量%である。組成物の総量に対する多官能モノマーの含有量が0.1質量%以上であることにより、耐擦過性がより向上する傾向にある。また、組成物の総量に対する多官能モノマーの含有量が10質量%以下であることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0051】
以下、多官能モノマーについて例示するが、本実施形態における多官能モノマーは以下に限定されるものではない。
【0052】
1.1.2.1 ビニルエーテル基含有(メタ)アクリレート
ビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートとしては、特に制限されないが、例えば、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。このようなビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートを含むことにより、組成物の粘度が低下し、吐出安定性がより向上する傾向にある。また、組成物の硬化性がより向上するとともに、硬化性の向上に伴って記録速度をより高速化することが可能となる。
CH2=CR1-COOR2-O-CH=CH-R3 ・・・ (1)
(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数2~20の2価の有機残基であり、R3は水素原子又は炭素数1~11の1価の有機残基である。)
【0053】
上記式(1)において、R2で表される炭素数2~20の2価の有機残基としては、炭素数2~20の直鎖状、分枝状又は環状の、置換されていてもよいアルキレン基、構造中にエーテル結合及び/又はエステル結合による酸素原子を有する、置換されていてもよい炭素数2~20のアルキレン基、炭素数6~11の、置換されていてもよい2価の芳香族基が挙げられる。これらの中でも、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、及びブチレン基などの炭素数2~6のアルキレン基、オキシエチレン基、オキシn-プロピレン基、オキシイソプロピレン基、及びオキシブチレン基などの構造中にエーテル結合による酸素原子を有する炭素数2~9のアルキレン基が好ましい。さらに、組成物をより低粘度化でき、かつ、組成物の硬化性をさらに良好にする観点から、R2が、オキシエチレン基、オキシn-プロピレン基、オキシイソプロピレン基、及びオキシブチレン基などの構造中にエーテル結合による酸素原子を有する炭素数2~9のアルキレン基となっている、グリコールエーテル鎖を有する化合物がより好ましい。
【0054】
上記式(1)において、R3で表される炭素数1~11の1価の有機残基としては、炭素数1~10の直鎖状、分枝状又は環状の、置換されていてもよいアルキル基、炭素数6~11の、置換されていてもよい芳香族基が好適である。これらの中でも、メチル基又はエチル基である炭素数1~2のアルキル基、フェニル基及びベンジル基などの炭素数6~8の芳香族基が好適に用いられる。
【0055】
上記の各有機残基が置換されていてもよい基である場合、その置換基は、炭素原子を含む基及び炭素原子を含まない基に分けられる。まず、上記置換基が炭素原子を含む基である場合、当該炭素原子は有機残基の炭素数にカウントされる。炭素原子を含む基として、以下に限定されないが、例えばカルボキシル基、アルコキシ基が挙げられる。次に、炭素原子を含まない基として、以下に限定されないが、例えば水酸基、ハロ基が挙げられる。
【0056】
式(1)の化合物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1-メチル-2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1-メチル-3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1-ビニロキシメチルプロピル、(メタ)アクリル酸2-メチル-3-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1,1-ジメチル-2-ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1-メチル-2-ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸6-ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4-ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3-ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p-ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸m-ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸o-ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、及び(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノビニルエーテルが挙げられる。これらの具体例のうち、組成物の硬化性、粘度のバランスがとりやすい点で、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチルが特に好ましい。なお、本実施形態において、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチルは、VEEAということもある。
【0057】
ビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは1~10質量%以上であり、より好ましくは2~8質量%であり、さらに好ましくは3~6質量%である。重合性化合物の総量に対するビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートの含有量が上記範囲内であることにより、組成物の粘度が低下し、吐出安定性がより向上する傾向にある。
【0058】
ビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは0.1~10質量%以上であり、より好ましくは1~8質量%であり、さらに好ましくは2~6質量%である。組成物の総量に対するビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートの含有量が上記範囲内であることにより、組成物の粘度が低下し、吐出安定性がより向上する傾向にある。
【0059】
1.1.2.2 多官能(メタ)アクリレート
多官能(メタ)アクリレートとしては、特に制限されないが、例えば、ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジメタアクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO(エチレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、及びカプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上の多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0060】
多官能(メタ)アクリレートの含有量は、重合性化合物の総量に対して、好ましくは1~10質量%以上であり、より好ましくは2~8質量%であり、さらに好ましくは3~6質量%である。重合性化合物の総量に対する多官能(メタ)アクリレートの含有量が1質量%以上であることにより、耐擦過性がより向上する傾向にある。また、重合性化合物の総量に対する多官能(メタ)アクリレートの含有量が10質量%以下であることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0061】
また、多官能(メタ)アクリレートの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは0.1~10質量%以上であり、より好ましくは1~8質量%であり、さらに好ましくは2~6質量%である。組成物の総量に対する多官能(メタ)アクリレートの含有量が0.1質量%以上であることにより、耐擦過性がより向上する傾向にある。また、組成物の総量に対する多官能(メタ)アクリレートの含有量が10質量%以下であることにより、塗膜の柔軟性及び密着性がより向上する傾向にある。
【0062】
1.2. 光重合開始剤
光重合開始剤としては、放射線を照射することにより活性種を生じるものであれば特に限定されないが、例えば、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、アルキルフェノン系重合開始剤、チタノセン系重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤等の公知の光重合開始剤が挙げられる。これらの中でも、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤が好ましい。このような光重合開始剤を用いることにより、組成物の硬化性がより向上し、特にUV-LEDの光による硬化プロセスによる硬化性がより向上する傾向にある。光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、特に制限されないが、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0064】
このようなアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 819(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド)、IRGACURE 1800(ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドと、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニルケトンの質量比25:75の混合物)、IRGACURE TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)(以上全てBASF社製)等が挙げられる。
【0065】
光重合開始剤の含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは3~12質量%であり、より好ましくは5~10質量%であり、さらに好ましくは7~9質量%である。光重合開始剤の含有量が上記範囲内であることにより、組成物の硬化性及び光重合開始剤の溶解性がより向上する傾向にある。
【0066】
1.3.白色色材
本実施形態の放射線硬化型インクジェット組成物は、白色色材として酸化チタンを含有する。酸化チタンは塗膜の密着性を低下させる傾向にある一方で、シリカなどの他の白色色材に比べて、白色度が高く屈折率が高い、そのため、高い遮蔽性を有する。
【0067】
酸化チタンの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは15質量%以上である。酸化チタンの含有量が5質量%以上であることにより、遮蔽性がより向上する傾向にある。また、酸化チタンの含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。酸化チタンの含有量が30質量%以下であることにより、塗膜の密着性、耐擦過性、及び柔軟性がより向上する傾向にある。
【0068】
1.4.その他の添加剤
本実施形態に係る放射線硬化型インクジェット組成物は、必要に応じて、分散剤、重合禁止剤、スリップ剤等の添加剤をさらに含んでもよい。
【0069】
1.4.1.分散剤
本実施形態の放射線硬化型インクジェット組成物は、白色色材の分散性をより良好なものとするため、分散剤をさらに含んでもよい。分散剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
分散剤としては、特に限定されないが、例えば、高分子分散剤などの顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤が挙げられる。その具体例として、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン、ビニル系ポリマー及びコポリマー、アクリル系ポリマー及びコポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、アミノ系ポリマー、含珪素ポリマー、含硫黄ポリマー、含フッ素ポリマー、及びエポキシ樹脂のうち1種以上を主成分とするものが挙げられる。
【0071】
高分子分散剤の市販品として、味の素ファインテクノ社製のアジスパーシリーズ、アベシア(Avecia)社やノベオン(Noveon)社から入手可能なソルスパーズシリーズ(Solsperse36000等)、BYK Additives&Instruments社製のディスパービックシリーズ、楠本化成社製のディスパロンシリーズが挙げられる。
【0072】
分散剤の含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは0.1~2質量%であり、より好ましくは0.1~1質量%であり、さらに好ましくは0.1~0.5質量%である。
【0073】
1.4.2.重合禁止剤
本実施形態に係る放射線硬化型インクジェット組成物は、重合禁止剤をさらに含んでもよい。重合禁止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
重合禁止剤としては、以下に限定されないが、例えば、p-メトキシフェノール、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、ヒドロキノン、クレゾール、t-ブチルカテコール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-ブチルフェノール)、及び4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ヒンダードアミン化合物などが挙げられる。
【0075】
重合禁止剤の含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは0.05~1質量%であり、より好ましくは0.05~0.5質量%である。
【0076】
1.4.3.スリップ剤
本実施形態に係る放射線硬化型インクジェット組成物は、スリップ剤をさらに含んでもよい。スリップ剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
スリップ剤としては、シリコーン系界面活性剤が好ましく、ポリエステル変性シリコーンまたはポリエーテル変性シリコーンであることがより好ましい。ポリエステル変性シリコーンとしては、BYK-347、348、BYK-UV3500、3510、3530(以上、BYK Additives&Instruments社製)等が挙げられ、ポリエーテル変性シリコーンとしては、BYK-3570(BYK Additives&Instruments社製)等が挙げられる。
【0078】
スリップ剤の含有量は、組成物の総量に対して、好ましくは0.01~2質量%であり、より好ましくは0.05~1質量%である。
【0079】
1.5.物性
本実施形態に係る放射線硬化型インクジェット組成物の40℃における粘度は、10mPa・s以上であり、好ましくは10~15mPa・sであり、より好ましくは10~14mPa・sである。組成物の40℃における粘度が上記範囲内であることにより、吐出安定性がより向上する。なお、粘度の測定は、粘弾性試験機MCR-300(Pysica社製)を用いて、40℃の環境下で、Shear Rateを10~1000に上げていき、Shear Rate200時の粘度を読み取ることにより測定することができる。また、35℃及び45℃の環境下で測定した粘度から、40℃の粘度を推計してもよい。
【0080】
1.6.組成物の製造方法
放射線硬化型インクジェット組成物の製造(調製)は、組成物に含有する各成分を混合し、成分が充分均一に混合するよう撹拌することにより行う。本実施形態において、放射線硬化型インクジェット組成物の調製は、調製の過程において、重合開始剤とモノマーの少なくとも一部とを混合した混合物に対して、超音波処理と加温処理の少なくとも何れかを施す工程を有することが好ましい。これにより、調製後の組成物の溶存酸素量を低減することができ、吐出安定性や保存安定性に優れた放射線硬化型インクジェット組成物とすることができる。上記混合物は、少なくとも上記の成分を含むものであればよく、放射線硬化型インクジェット組成物に含む他の成分を更に含むものでも良いし、放射線硬化型インクジェット組成物に含む全ての成分を含むものでもよい。混合物に含むモノマーは、放射線硬化型インクジェット組成物に含むモノマーの少なくとも一部であればよい。
【0081】
2.インクジェット方法
本実施形態に係るインクジェット方法は、所定の液体噴射ヘッドを用いて、所定の放射線硬化型インクジェット組成物(以下、単に「組成物」ともいう。)を、吐出して記録媒体に付着させる吐出工程と、記録媒体に付着した放射線硬化型インクジェット組成物に対して、放射線を照射する照射工程と、を有する。
【0082】
本実施形態に係るインクジェット方法においては、上記のとおり、白色色材として酸化チタンを含むインク組成物を用いることにより、遮蔽性を良好とすることができる。しかしながら、酸化チタンは比重が大きいため、従来の非循環タイプの液体噴射ヘッドを用いると目詰まり等を起こしやすく、吐出安定性に劣る傾向にある。
【0083】
これに対して、本実施形態に係るインクジェット方法においては、循環タイプの液体噴射ヘッドを用いることにより、酸化チタンを含むインク組成物をヘッド内で循環させ、吐出安定性を維持することができる。
【0084】
また、本実施形態に係るインクジェット方法においては、単官能モノマー比率が高く、かつ、重合性化合物のガラス転移温度の加重平均が高い組成物を用いることにより、柔軟性、密着性、耐擦過性を良好とすることができる。しかしながら、このような組成物は、比較的に高粘度化する傾向にある。そのため、液体噴射ヘッドで吐出ができるようにする観点から、組成物を従来よりも高温に加熱して粘度を所定値以下に低下させることが求められる。しかし、加熱温度が大きくなるほど、液体噴射ヘッド付近の温度と環境温度との温度差が大きくなる。このときに非循環タイプの液体噴射ヘッドを用いた場合には、組成物を吐出するノズル毎の使用率(吐出Duty)の違いや、ヘッド内におけるノズルの位置(中央部、端部などの違い)により、ノズル毎に放熱条件が異なるため、吐出する組成物の温度変動が大きくなり、結果として吐出安定性が低下するという問題が生じる。
【0085】
これに対して、本実施形態に係るインクジェット方法においては、循環タイプの液体噴射ヘッドを用いることにより、上記した温度変動を安定化させて吐出安定性を維持しつつ、組成物本来の特性である、柔軟性、密着性、及び耐擦過性を両立することができる。以下、各工程に詳細について記載する。
【0086】
2.1.吐出工程
吐出工程では、加熱した組成物を液体噴射ヘッドから吐出して記録媒体に付着させる。より具体的には、圧力発生手段を駆動させて、液体噴射ヘッドの圧力発生室内に充填された組成物をノズルから吐出させる。このような吐出方法をインクジェット法ともいう。
【0087】
本実施形態で用いる液体噴射ヘッドについて説明する。
図1に、液体噴射ヘッド10の構成を説明するための概略図を示す。
図1には、組成物を吐出する一つのノズル1と、組成物が供給される圧力室2と、圧力室2の組成物を循環可能とする循環流路3の概略を示す。
図1の例においては、ノズル1と圧力室2は、連通路4で連通している。
【0088】
ノズル1は、組成物を吐出する貫通孔である。より具体的には、ノズル1は、ノズルプレートに形成された貫通孔である。ノズルプレートには、複数のノズルが形成されており、それらノズルごとに圧力室2が設けられる。圧力室2は、ノズル1毎に個別に形成される。圧力室2には、組成物が供給される。圧力発生手段(図示せず)により圧力室2内の圧力が変動すると、連通路4内を流動する組成物のうちの一部がノズル1から外部に噴射され、残りの一部が循環流路3へと流入する。循環流路3の経路は特に制限されないが、循環流路3へと流入した組成物は、圧力室2に供給されるように流路を構成することができる。なお、循環流路3へと流入した組成物は、必ずしも同一の圧力室に再供給される必要はなく、他のノズルに対応する圧力室に供給されてもよい。また、循環流路3はすべての流路が液体噴射ヘッド10の内部にある必要はなく、圧力室2から流出した組成物が再び圧力室2に供給されるように構成されていれば、一部の流路は液体噴射ヘッド10外にあってもよい。
【0089】
このように、本実施形態の液体噴射ヘッド10によれば、圧力室2内の組成物、より具体的には、ノズル1の近傍の組成物をヘッド内で効率的に循環させることができる。これにより、ノズル毎の使用率やノズル位置に違いがあっても、ノズル毎の組成物の温度変動を抑制することができる。
【0090】
吐出工程において用いる液体噴射ヘッド10としては、ライン方式により記録を行うラインヘッドと、シリアル方式により記録を行うシリアルヘッドが挙げられる。
【0091】
ラインヘッドを用いたライン方式では、例えば、記録媒体の記録幅以上の幅を有する液体噴射ヘッドをインクジェット装置に固定する。そして、記録媒体を副走査方向(記録媒体の縦方向、搬送方向)に沿って移動させ、この移動に連動して液体噴射ヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録する。
【0092】
シリアルヘッドを用いたシリアル方式では、例えば、記録媒体の幅方向に移動可能なキャリッジに液体噴射ヘッドを搭載する。そして、キャリッジを主走査方向(記録媒体の横方向、幅方向)に沿って移動させ、この移動に連動してヘッドのノズル開口からインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録することができる。
【0093】
2.2.加熱工程
本実施形態のインクジェット法は、液体噴射ヘッド内の組成物を加熱する加熱工程を有してもよい。より具体的には、圧力室2、循環流路3、連通路4により構成される循環流路内の組成物を加熱する加熱工程を有していてもよい。加熱手段は、特に制限されないが、例えば、圧力室2、循環流路3、又は連通路4に設けることができる。また、そのほかに、ノズルプレートを加熱する加熱手段を設けてもよいし、循環流路3が液体噴射ヘッド10外を経由する場合には、液体噴射ヘッド10外に存在する循環流路3に加熱手段を設けてもよい。さらに、圧力室よりも上流のインク流路に加熱手段を設けてもよい。ここで、インク流路とは、インクを流通させるための流路をいう。インク流路としては、例えば、インクを貯留するインク収容容器からインクジェット式記録ヘッドにインクを供給するためのインク供給路なども含まれる。
【0094】
組成物の加熱温度は、下限としては35℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、45℃以上がさらに好ましい。また、上限としては70℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましく、50℃以下がさらに好ましい。このような加熱工程と組成物を循環させる液体噴射ヘッドを組み合わせることにより、組成物の温度変動を抑制することができる。
【0095】
2.3.照射工程
照射工程では、記録媒体に付着した放射線硬化型インクジェット組成物に対して、放射線を照射する。放射線が照射されると、モノマーの重合反応が開始することで組成物が硬化し、塗膜が形成される。このとき、重合開始剤が存在すると、ラジカル、酸、及び塩基などの活性種(開始種)を発生し、モノマーの重合反応が、その開始種の機能によって促進される。また、光増感剤が存在すると、放射線を吸収して励起状態となり、重合開始剤と接触することによって重合開始剤の分解を促進し、より硬化反応を達成させることができる。
【0096】
ここで、放射線としては、紫外線、赤外線、可視光線、エックス線等が挙げられる。放射線源は、液体噴射ヘッドの下流に設けられた放射線源によって、組成物に対して照射する。放射線源としては、特に制限されないが、例えば、紫外線発光ダイオードが挙げられる。このような放射線源を使用することで、装置の小型化やコストの低下を実現できる。紫外線源としての紫外線発光ダイオードは、小型であるため、インクジェット装置内に取り付けることができる。
【0097】
例えば、紫外線発光ダイオードは、放射線硬化型インクジェット組成物を吐出する液体噴射ヘッドが搭載されているキャリッジ(媒体幅方向に沿った両端及び/又は媒体搬送方向側)に取り付けることができる。さらに、上述の放射線硬化型インクジェット組成物の組成に起因して低エネルギーかつ高速での硬化を実現できる。照射エネルギーは、照射時間に照射強度を乗じて算出される。そのため、照射時間を短縮することができ、印刷速度が増大する。一方、照射強度を減少させることもできる。これにより、印刷物の温度上昇を低減できるので、硬化膜の低臭気化にも繋がる。
【0098】
3.インクジェット装置
本実施形態のインクジェット装置は、組成物を吐出するノズルと、組成物が供給される圧力室と、圧力室の組成物を循環可能とする循環流路と、を備える液体噴射ヘッドと、組成物を加熱可能とする加熱部と、組成物に対して放射線を照射する放射線源と、を備え、組成物として上記放射線硬化型インクジェット組成物を用いる。
【0099】
液体噴射ヘッドは、
図1に示すように、ノズル1と、組成物が供給される圧力室2と、圧力室2の組成物を循環可能とする循環流路3とを有する。また、加熱部は、圧力室2、循環流路3を含む循環流路中の組成物の加熱が可能であればその設置位置は特に制限されないが、例えば、液体噴射ヘッドやインク流路に設けることができる。また、液体噴射ヘッドに加熱部を設ける場合、加熱部は圧力室及び循環流路のいずれに設けてもよい。また、本実施形態のインクジェット装置は、放射線硬化型インクジェット組成物がインク流路あるいはインクタンクに充填されたものであることが好ましい。
【0100】
インクジェット装置の一例として、
図2に、シリアルプリンタの斜視図を示す。
図2に示すように、シリアルプリンタ20は、搬送部220と、記録部230とを備えている。搬送部220は、シリアルプリンタに給送された記録媒体Fを記録部230へと搬送し、記録後の記録媒体をシリアルプリンタの外に排出する。具体的には、搬送部220は、各送りローラを有し、送られた記録媒体Fを副走査方向T1へ搬送する。
【0101】
また、記録部230は、搬送部220から送られた記録媒体Fに対して組成物を吐出するインクジェットヘッド231と、付着した組成物に対して放射線を照射する放射線源232と、これらを搭載するキャリッジ234と、キャリッジ234を記録媒体Fの主走査方向S1、S2に移動させるキャリッジ移動機構235を備える。
【0102】
シリアルプリンタの場合には、インクジェットヘッド131として記録媒体の幅より小さい長さであるヘッドを備え、ヘッドが移動し、複数パス(マルチパス)で記録が行われる。また、シリアルプリンタでは、所定の方向に移動するキャリッジ234にヘッド231と放射線源232が搭載されており、キャリッジの移動に伴ってヘッドが移動することにより記録媒体上に組成物を吐出する。これにより、2パス以上(マルチパス)で記録が行われる。なお、パスを主走査ともいう。パスとパスの間には記録媒体を搬送する副走査を行う。つまり主走査と副走査を交互に行う。
【0103】
なお、
図2においては放射線源がキャリッジに搭載される態様が示されているが、これに限らず、キャリッジに搭載されない放射線源を有していてもよい。
【0104】
また、本実施形態のインクジェット装置は、上記シリアル方式のプリンタに限定されず、上述したライン方式のプリンタであってもよい。
【0105】
4. 記録物
本実施形態の記録物は、記録媒体上に上記放射線硬化型インクジェット組成物が付着し、硬化したものである。上記組成物が良好な柔軟性と密着性を有することにより、切り出しや折り曲げ等の後加工を施した際に塗膜のひび割れや欠けを抑制することができる。そのため、本実施形態の記録物は、サイン用途などに好適に用いることができる。
【0106】
記録媒体の素材としては、特に限定されないが、例えばポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール等のプラスチック類及びこれらの表面が加工処理されているもの、ガラス、紙、金属、木材等が挙げられる。
【0107】
またその記録媒体の形態も、特に限定されるものではない。例えばフィルム、ボード、布等が挙げられる。
【実施例】
【0108】
以下、本発明を、実施例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0109】
1.インクジェット組成物の調製
まず、色材、分散剤、各モノマーの一部を秤量して顔料分散用のタンクに入れ、タンクに直径1mmのセラミック製ビーズミルを入れて攪拌することにより、色材をモノマー中に分散させた顔料分散液を得た。次いで、表1に記載の組成となるように、ステンレス製容器である混合物用タンクに、残りのモノマー、重合開始剤及び重合禁止剤を入れ、混合攪拌して完全に溶解させた後、上記で得られた顔料分散液を投入して、さらに常温で1時間混合撹拌し、さらに5μmのメンブランフィルターでろ過することにより各例の放射線硬化型インクジェット組成物を得た。なお、表中の各例に示す各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。
【0110】
【0111】
表1中で使用した略号や製品の成分は、以下の通りである。
【0112】
<単官能モノマー>
・PEA(商品名「ビスコート#192、大阪有機化学工業株式会社製、フェノキシエチルアクリレート」)
・NVC(ISPジャパン株式会社製、N-ビニルカプロラクタム)
・ACMO(KJケミカルズ株式会社製、アクリロイルモルフォリン)
・TBCHA(商品名「SR217」、サートマー株式会社製、tertブチルシクロヘキサノールアクリレート)
・IBXA(大阪有機化学工業株式会社製、イソボルニルアクリレート)
・DCPA(日立化成株式会社製社製、ジシクロペンテニルアクリレート)
<多官能モノマー>
・VEEA(株式会社日本触媒製、アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル)
・DPGDA(商品名「SR508」、サートマー株式会社製、ジプロピレングリコールジアクリレート)
<重合開始剤>
・Irg.819(商品名「IRGACURE 819」BASF社製、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド)
・TPO(商品名「IRGACURE TPO」、BASF社製、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)
<重合禁止剤>
・MEHQ(商品名「p-メトキシフェノール」、関東化学株式会社製、ヒドロキノンモノメチルエーテル)
<スリップ剤>
・BYK-UV3500(BYK Additives&Instruments社製、アクリロイル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)
<色材(顔料)>
・酸化チタン(商品名「C.I.ピグメントホワイト6」、ティカ社製)
・シリカ粒子(コロイダルシリカ)は、市販のコロイダルシリカを入手して必要に応じてこれを分級し、体積平均粒子径が90nmとなるように調製して用いた。
<分散剤>
・Solsperse36000(Lubrizol社製、高分子分散剤)。
【0113】
表1中、物性欄の「単官能モノマー割合」は、重合性化合物の総量に対する、単官能モノマーの含有量を表す。重合性化合物として、具体的には、表1中の単官能モノマー、多官能モノマーを指す。
【0114】
表1中、物性欄の「ガラス転移温度の加重平均温度」は、重合性化合物の含有質量比を重みとする、各重合性化合物のホモポリマーのガラス転移温度の加重平均を表す。
【0115】
表1中、物性欄の「40℃における粘度」は、粘弾性試験機MCR-300(Pysica社製)を用いて、40℃の環境下で、Shear Rateを10~1000に上げていき、Shear Rate200時の粘度を読み取ることにより測定した。
【0116】
2.評価方法
2.1.硬化性の評価
綿棒加重タック性評価を行った。具体的にはPVCメディアにバーコーターでインクジェット組成物の塗布厚が10μmになるように各放射線硬化型インクジェット組成物を塗布し、所定の照射強度で0.04sec/cmの速度で、紫外線を照射した。その際、光源としては、395nmにピーク波長を有するLEDを用いた。そして、塗膜表面を綿棒で擦り、綿棒が着色しない照射強度を基準に硬化性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
A:照射強度が0.5W/cm2未満
B:照射強度が0.5W/cm2以上1.1W/cm2未満
C:照射強度が1.1W/cm2以上2.5W/cm2未満
D:照射強度が2.5W/cm2以上
【0117】
2.2.遮蔽性の評価
上記のようにして得られたインク組成物を、インクジェットプリンタ(商品名「PX-G930」、セイコーエプソン株式会社製)に充填した。そして、フィルム(商品名「クリアプルーフフィルム」、セイコーエプソン株式会社製、A4サイズにカット)上に該インク組成物からなる画像を形成した。画像の印刷パターンとしては、横720dpi、縦720dpiの解像度で、100%のdutyで印刷できる塗り潰しパターンを形成した。
【0118】
上記のようにして得られた画像について、偏角測色機(製品名「ARM-500V」、JASCO社製)にて波長380~800nmまでの透過光を積算して求めた。評価基準は以下の通りである。
A:300未満
B:300以上350未満
C:350以上500未満
D:400以上500未満
E:500以上
【0119】
2.3.柔軟性の評価
バーコーターで、各放射線硬化型インクジェット組成物を塩ビフィルム(JT5829R、MACtac社製)上に、厚さ10μmになるよう塗布した。次いで、メタルハライドランプ(アイグラフィックス社製)を用いて、400mJ/cm2のエネルギーで硬化させて塗膜を形成した。上記塗膜を形成した塩ビフィルムの剥離紙を剥がし、幅1cm、長さ8cmの短冊状に切り出して試験片を作製した。各試験片について、引張試験機(TENSILON、ORIENTEC社製)を用いて柔軟性としての伸び率を測定した。伸び率は、5mm/minで引っ張った時、クラックが発生した時点での数値とした。その数値は{(クラック時の長さ-延伸前の長さ)/延伸前の長さ×100}より算出した。
評価基準を以下に示す。
(評価基準)
A:300%以上
B:250%以上300%未満
C:200%以上250%未満
D:100%以上200%未満
E:100%未満
【0120】
2.4.密着性の評価
記録媒体としてポリプロピレンボード(Coroplast社製及びポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製)をそれぞれ用いたこと以外は、上記柔軟性の評価と同様にして、それぞれのフィルム上に硬化後の塗膜を作製した。得られた塗膜に対して、JIS K5600-5-6に準じてクロスカット試験の評価を行った。
【0121】
より具体的には、カッターで、塗膜に対して垂直になるように切込み工具の刃を当てて、切込み間の距離が1mmのマス目を入れて、10×10マスの格子を作った。格子に、約75mmの長さの透明付着テープ(幅25mm)を貼り付け、硬化膜が透けて見えるように十分指でテープを擦った。次に、テープを貼り付けて5分以内に、60°に近い角度で、0.5~1.0秒で確実にテープを硬化膜から引き剥がして、格子の状態を目視にて観察した。評価基準は下記のとおりである。
(評価基準)
A:ポリプロピレンフィルム及びポリエチレンテレフタレートフィルムともに、格子に硬化膜の剥離は認められなかった。
B:ポリプロピレンフィルム又はポリエチレンテレフタレートフィルムの一方において、格子の50%未満に硬化膜の剥離が認められた。
C:ポリプロピレンフィルム及びポリエチレンテレフタレートフィルムともに、格子の50%未満に硬化膜の剥離が認められた。
D:ポリプロピレンフィルム又はポリエチレンテレフタレートフィルムの一方において、格子の50%以上に硬化膜の剥離が認められた。
E:ポリプロピレンフィルム及びポリエチレンテレフタレートフィルムともに、格子の50%以上に硬化膜の剥離が認められた。
【0122】
2.5.耐擦過性の評価
上記柔軟性の評価において作製した、硬化後の塗膜に対して、JIS R3255に準じてマイクロスクラッチ試験の評価を行った。測定には超薄膜スクラッチ試験機(CSR-5000、ナノテック社製)を用いて耐擦過性としての耐荷重を測定した。耐荷重は荷重をかけながらマイクロスクラッチを行い、触針がメディア面に達した時の荷重とした。耐荷重が大きいほど、耐擦過性に優れる。測定は触針スタイラス径:15μm、振幅:100μm、スクラッチ速度:10μm/secで行った。評価基準は下記のとおりである。
(評価基準)
A:30mN/cm2以上
B:25mN/cm2以上30mN/cm2未満
C:20mN/cm2以上25mN/cm2未満
D:20mN/cm2未満
【0123】
2.6.吐出安定性
実施例および比較例のインク組成物について、インクジェット装置(プリンタ)の信頼性としての吐出安定性を評価した。まず、循環ヘッドを搭載したインクジェットプリンタPX-G930(セイコーエプソン社)と、循環流路を有しない非循環ヘッドを搭載したインクジェットプリンタPX-G930(セイコーエプソン社)を用意した。より具体的には、循環ヘッドとして、特開2018-103602号公報の
図2及び
図5で表される、循環ヘッドを用いた。
【0124】
各インク組成物を、それぞれのインクジェットプリンタに充填し、上記プリンタにセットした。次いで、ヘッドの温度を45℃とするとともに、25℃の外部環境温度下にて、複数種のテストパターンを連続的に1時間印刷させて、ヘッドのノズルに発生した不吐出などの吐出不良の発生を確認した。吐出させた全ノズル数に対する、吐出不良が発生したノズル数の割合について、以下の基準に従って評価した。
(評価基準)
A:吐出不良が発生したノズルが1%未満。
B:吐出不良が発生したノズルが1%以上、3%未満。
C:吐出不良が発生したノズルが3%以上、5%未満。
D:吐出不良が発生したノズルが5%以上
【0125】
3.評価結果
表1に、各例で用いた放射線硬化型インクジェット組成物の組成、並びに評価結果を示した。表1から、白色色材として酸化チタンを含有し、単官能モノマーを重合性化合物の総量に対して、90質量%以上含み、各重合性化合物の含有質量比を重みとする、各重合性化合物のホモポリマーのガラス転移温度の加重平均が、48℃以上である実施例1から実施例11の放射線硬化型インクジェット組成物は、遮蔽性と、柔軟性と、密着性と、耐擦過性がいずれも良好なレベルの評価結果であった。
【0126】
詳しくは各実施例と比較例1とを比較すると、モノマー全体に対しての単官能モノマーの割合がモノマー全体に対して90質量%以上であることにより、柔軟性と密着性とが向上することがわかる。また、各実施例と比較例2とを比較すると、ガラス転移温度の加重平均が48℃以上である場合には、耐擦過性がより向上することが示された。さらに、各実施例と比較例3とを比較すると、白色色材を含まない場合には、柔軟性及び密着性が低下するという問題は生じないことが分かった。また、比較例3は、遮蔽性を有するものではなかった。さらに、各実施例と比較例4とを比較すると、酸化チタン以外の白色色材であるシリカを用いた場合には、十分な遮蔽性が得られないことが分かった。
【0127】
また、各実施例の吐出安定性の評価より、循環ヘッドを用いることにより、柔軟性と、密着性と、耐擦過性を有する本実施形態の組成物の吐出安定性は、非循環ヘッドを用いた場合に比べてより向上することが示された。
【0128】
本発明の実施例で用いた循環ヘッドは、連通路4があり、組成物を噴出させる圧力によって循環流を発生するものを用いたが、循環流路3の経路内で水頭圧差等による圧力差によって循環流を発生せせるタイプあってもよい。また、連通路4がなく、圧力室2とノズル1が直結しているタイプの循環ヘッドであってもよく、それらのタイプの循環ヘッドを用いても本実施例と同様の効果を奏する。
【0129】
本発明の実施例では液体噴射ヘッド自体を加熱することで組成物を加熱していたが、循環流路中の組成物を加熱できればよく、例えば循環流路がヘッド外を経由する場合においては、ヘッド加熱しなくてもヘッド外の循環流路を加熱することで同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0130】
1…ノズル、2…圧力室、3…循環流路、4…連通路、10…液体噴射ヘッド、20…シリアルプリンタ、220…搬送部、230…記録部、231…インクジェットヘッド、232、233…光源、234…キャリッジ、235…キャリッジ移動機構、F…記録媒体、S1,S2…主走査方向、T1…副走査方向